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世 界 の 製 造 業 に IT 主 導 の 変 革 の 波 日 本 企 業 は 先 頭 に 立 てるか 日 本 経 済 新 聞 編 集 委 員 後 藤 康 浩 世 界 の 製 造 業 は 明 らかな 大 変 革 期 に 入 った 今 後 10 年 で 企 業 はもちろん 工 場 やさまざまな 設

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【 P r e f a c e 】 米国の未来学者レイ・カーツワイル氏は、一 つの重要な技術が次の重要な技術の登場の時期 を早め、技術の進化が指数関数的に加速すると いう「収穫加速の法則」を提唱した。これを裏 づけるように、昨今のIT等の技術革新のスピー ドは目覚ましく、世界は「第4次産業革命」と 呼ばれる大変革に直面しようとしている。 われわれ企業経営者としては、この潮流を的 確に読み取る感性を磨き、大胆な経営革新に挑 戦していく必要がある。それができなければ、 ある日突然、全く新しい競争相手の出現によっ て市場からの退場を迫られ、企業の存続も危う くなるとの危機意識をもたなければならない。 このように、第4次産業革命は既存の産業・ 社会構造に破壊的なインパクトを与えるといわ れている。悲観的な見方に立てば、人間が従事 する多くの仕事がITや機械に置き換えられてし まうとの懸念もある。しかし、過去の産業革命 の例をみてもそれは同じであり、むしろ新しい ビジネスや仕事も生み出されるという新しい機 会も生まれる。 ただし、今回の産業革命が過去のものと大き く異なるのは、技術の進歩があまりに急速なた め、それがもたらす激変に社会がすぐに対応で きず、社会問題が生じる可能性が高いというこ とである。 たとえば、どのような産業においても、付加 価値の創出において、ランダムに発生するデー タを解析し有益なアルゴリズムを引き出す技術 をもつ者が圧倒的優位に立つことになるだろう。 その結果、技術の進化により社会全体の富は飛 躍的に増加するが、富の配分においては、技術 や情報(データ)を「もつ者」と「もたざる者」 との間に格差が生じることになる。したがって、 われわれはこうした技術の進化を「別の世界の 出来事」として傍観するのではなく、新しい技 術がもたらす可能性を理解するリテラシーを常 に高め続けていく必要がある。 第4次産業革命の原動力となるのは、ITや遺 伝子解析などのバイオケミストリー、ナノテクノ ロジー、3Dプリンターなどの技術の飛躍的な進 展である。こうした技術が産業や社会に革命的 なインパクトをもたらすには、ハードウェアの進 化を待たなければならない。具体的には、半導 体の微細化が5nm以下の領域に入り、並列処理 ができる人間の脳の構造を模倣したニューラル チップや量子コンピューターが実用化され、通 信においては5Gの高速通信が実現するなどの進 化が必要である。 こうした革新的なハードウェアは2020年代前 半にも出揃うものと考えられ、われわれはそこ に至る約5~10年の間を準備期間とし、産業・ 社会の大変革への備えを万全にしていく必要が ある。経済同友会では、こうした問題意識のも と、2020年からの新しい日本を「Japan 2.0」と 称し、その実現に向けて、今後起こり得る技術 革新や産業・社会構造の変化を見通しながら、 企業や政府に対する提言をとりまとめていく予 定である。 公益社団法人 経済同友会 先進技術による経営革新委員会[委員長] JSR株式会社[代表取締役社長]

小柴 満信

Mitsunobu Koshiba

企業経営者として

「第4次産業革命」を

考える

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特 集 1 : 新 ・ 日 本 の モ ノ づ く り

世界の製造業は明らかな大変革期に入った。今後10 年で、企業はもちろん工場やさまざまな設備までが ネットワーク化され、モノづくりを新しい形に変える だろう。1990年代にインターネットを通じてオフィス や家庭のパソコンがつながったことで、ビジネスや生 活が一変したように、今度は生産現場やモノづくりが 一新される。それはコスト削減や納期短縮といったミ クロの利益にとどまらず、資源の有限性や環境問題の 緩和など地球全体に価値をもたらす可能性がある。人 と機械が仕事を奪い合うといった問題の指摘もすでに 出ているが、まずはこの変革をよい方向に導き、加速 させることが重要だろう。日本企業は人材、技術、経 験からこの変革を主導する力をもっている。

生活とビジネスを変えたインターネット

「群盲、象をなでる」というインド発祥の寓話は視 力の不自由な方への配慮から今では避けるべき表現か もしれないが、今、製造業で起きつつある変化に対す る私たちの認識はまさにそうとしか表現できない。あ まりに多くの要素が包含された大変化であり、ドイツ が発信している「第4次産業革命」という言葉も何か 本質や実態に迫りきれていない印象をもつからだ。 1980年代に現在のパソコンが急激に普及したとき、 パソコンは1台ずつが孤立した存在で、パソコンの中 で表計算やワードプロセッサー、ゲームなどさまざま なソフトが走るだけだった。「スタンド・アローン」の 時代である。もちろん当時の代表的な記録メディアで あるフロッピーディスクを介すれば、情報、データの 交換は可能だったが、即時性にも機能性にも欠けてい た。ただ、パソコンを使い始めた人類にとってはそれ だけでも大きな進歩に感じられていた。 その後のインターネットの普及はパソコンのもつ意 味をまったく変えたことは言うまでもない。パソコン 同士がつながるだけでなく、政府組織や企業のコン ピューターにつながることで、パソコンは情報への ゲートになったからだ。パソコン上で処理されるさま ざまなことは、外につながることでより大きな意味や 価値をもつようになった。その延長線上に今のクラウ ドコンピューティングがあり、そこにパソコンに匹敵 する機能をもつスマートフォンもつながることで、さ らに利便性とネットワークの意義は高まった。 ただ、これらは個人や企業が主体となり、金融や ネットショッピング、情報検索、予約、顧客対応など 大半がサービス分野で進んだ変革だった。インター ネットを利用することで個人も企業も低コストで、迅 速に幅広い仕事を成し遂げられたからだ。結果として、 広範囲の業種で業務の効率、サービス品質が劇的に高 まり、ネットにつながる限りは地理的制約も受けなく なった。多様な新規事業が立ち上がり、従来は起業に は不向きと思われた場所でもビジネスが創出されるよ うになった。 こうした基盤を行政機構が交通システム、上下水 道、災害時の住民避難など都市運営の多くの分野に活 用する動きが「スマートシティ化」と位置づけられる。 いずれにせよ、80年代のパソコン、90年代のインター ネットの普及の波は20~30年間で世界のビジネス、社 会システム、人々の生活を大きく変えた。

日本のファクトリー・オートメーション

(FA)と生産改革

今、製造業で起きている変革は第一義的にはこの大 潮流の延長線上にある。企業にとってオフィスで先行 した外部とのネットワーク化が、工場、生産ラインに も波及するからだ。もちろん製造現場では1970年代か らさまざまな設備の自動化の動きが起きている。人手 を使わずにできるだけ機械設備に自律的に作業をさせ ようという取り組みだ。それは日本ではことさら大き な意味をもった。85年9月のプラザ合意以降の急激な 円高によって、国内工場のコスト競争力が急低下した 際に、生き残りのための道は海外移転か、国内工場の

世界の製造業に

IT主導の変革の波

日本経済新聞 編集委員

後藤 康浩

—— 日本企業は先頭に立てるか ——

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特集1:新・日本のモノづくり 「FA(ファクトリー・オートメーション)」化しかなかっ たからだ。 当時、自動で商品、部品を搬入、搬出できる自動倉 庫、溶接などのアームロボット、工場内を走り回る自 動搬送機(AGV)などが国内の工場に次々導入され、 FAで日本は世界の最先端を快走した。FAは日本のお 家芸となり、FA関連機器、システムで日本企業が世 界をリードした。 FAはその後も着実な進化を遂げたとはいえ、製造 業の経営にとってはある面で重しにもなった。巨額の FA投資をしたにもかかわらず、利益につながらず生 産品種の切り替え、生産数量の変動にFAが追いつく ためにソフトウエアの更新、設備の改良に多数のマン パワーが必要になったり、導入済み設備の償却が終わ らないうちに追加の設備投資が必要になったりする ケースが多発したからだ。当時のFA設備の汎用性、 柔軟性には、モノづくりの現実に追いつく技術的な力 がまだ弱かったといえるだろう。 その後、90年代半ばに中国という人件費が安く、莫 大な若年労働力をもつ国が外に大きく門戸を開いたこ とで、製造業はFA投資よりも中国投資に大きく傾き、 その流れで中国は「世界の工場」にのし上がった。90 年代末に中国・広東省に進出した日本企業の現地トッ プが語った「オートメーションより『乙女(オトメ)ー ション(若い女性の人海戦術による手作業)』の方が 利益が出る」という感想はそのころのFAの問題点を 端 はし 無なくも突いていた。 その後も日本国内の工場では「トヨタ生産方式」の 導入による生産の平準化、在庫削減、ライン作業者の 自主性重視など生産改革が進み、投資を絞りながら、 現場改善によって、生産効率が高まった。

モ ノ づ くり の グ ロ ー バ ル・プ ラット

フォーム競争が始まった

筆者は「トヨタ生産方式」の生みの親である故大野 耐一トヨタ自動車工業副社長の薫くん陶とうを受けた生産コン サルタントの山田日登志氏(PEC協会会長)が工場指 導をされる現場に度々、同行させていただき、こうし た日本の独自性ある生産改革、現場改善を目の当たり にした。セル生産の導入、進化や「カラクリ(コスト を抑えた現場ニーズにあった設備の自主制作)」など がもつ劇的な効果には目を見張らされた。一言で言え ば、生産現場の人が意欲と改革意識をもてるようにす れば、日本の国内工場は今なお進化を続け、競争力を 高められるという確信を得た。 こうした改革は製造業各社が切磋琢磨するようにそ れぞれ「○○○プロダクション・システム」「○○○ウ エイ」といったネーミングで独自の方式を編み出し、 成果を出していった。日本の国内工場は円高や中国の 台頭、韓国、台湾の進化にも対抗して、衰退せずに踏 みとどまったのだ。 そして今、製造業にはインターネットを本格的にモ ノづくりに活用するという大きな潮流が押し寄せてい る。かつてのFAが工場内の加工設備や搬送機を結び、 その状況を生産管理部門の端末に伝えるといった一社 内に閉ざされた仕組みにとどまっていたものをほかの 企業の工場、ほかの企業の設備、倉庫や販売店とも結 んだ外とつながったオープンなシステムに転換すると いう流れである。これはもちろん第一段階にすぎない が、それでも決して簡単なことではない。 パソコンには世界の大半のメーカーのパソコンで動 くマイクロソフトのオペレーション・システム(OS) の「ウィンドウズ」やアップル製品を括る「iOS」な どがあり、マウスからプリンター、スキャナーまで多 様な周辺機器も動かすが、工場内の機器にはグローバ ルに統一されたOSも多様な機器を一本に束ねデータ のやりとりや指示を可能にするプラットフォームのよう な十全なシステムはまだないからだ。個々のFA機器 メーカーが陣地取りのように、他メーカーを呼び込み、 自陣営を構築し、そこに別々のプラットフォームをつ くろうとしている段階にすぎない。

日本の選択は “協奏” かガラパゴス化か

ドイツの官民学がスタートした「インダストリー4.0」 やアメリカの「インダストリー・インターネット」はま さにグローバルなプラットフォームづくりを目指す 狼の ろ し煙であり、21世紀のモノづくり改革の主導権を握ろ うという意思表示でもある。もちろんドイツにも米国 にもFAをリードする有力なメーカーや業務用のソフト ウエア会社もあるが、単に企業だけでなく、国家レベ ルで動いていることに注目すべきだろう。 「インダストリー4.0」の現状を毎年、世界にアピー ルする舞台となった観のあるドイツのハノーバー・ メッセ(今年は4月25~29日に開催)は2016年のパー トナー国家に米国を選び、メルケル独首相が送った招 待状に応え、オバマ米大統領がメッセに参加する。ド イツと米国の産業界は激しい競争のなかで、共通利益 を見出し、 “協奏” に移行しつつある。「バスに乗り遅

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特 集 1 : 新 ・ 日 本 の モ ノ づ く り

れるな」といった古くさい主張をするつもりはないが、 日本が個々の機器メーカーでは最先端を行きながら、 国家としてこのモノづくりの大改革の流れに乗り切れ ていない印象は強い。第1に「インダストリー4.0」に 当たるような日本発の強いキャッチフレーズがまだ世 界に向けて打ち出されていない。 日本の企業や組織には、自らの技術的優位性を過信 し、独自性にこだわるあまり、世界の潮流を軽視し、 乗り遅れる、という癖がある。「天上天下唯ゆい我が独どく尊そん」 であるが、今回の潮流を生み出しているインターネッ トは「網上網下彼我接続」(網はインターネット)が特 徴であり、「唯我独尊」とは対極にある。結びつける 動き、すなわちコンソーシアムづくりに乗り遅れるの は決定的に不利になる。しかもこの流れは何が優勢に なるかを傍観し、勝ち馬に乗ろうという「洞ほらヶが峠とうげ」的 姿勢も許さない。早期に主体的に参画しなければ、 ネットワークの隅に追いやられるだけだ。日本企業の 正念場といえるだろう。

大変革の波の先にみえるもの

では、冒頭で指摘したようにまだ誰にも全体像がみ えていないこの大改革はどこに向かうのか、独断的に 分析してみたい。みるべき点は5つある。 第1は、単一の企業や工場という枠組みの溶解だ。 もちろんこれまでも下請け、協力工場といった位置づ けで、モノづくりの一部を外に出すことはあったが、 その関係は「発注」と「納入」であり、つなぐのは情 報を示す「カンバン」とモノが入る「通い函ばこ」だった。 今後は発注する企業の工場と受注する協力工場がネッ トワークで一体化され、加工の一部が外部のラインで 進むといった位置づけになるだろう。情報はバーコー ド管理などを超え、RFIDや個体認証など、より情報 ネットワークに乗りやすく、個を管理しやすい形に進 化する。工程の一部が別の企業、工場に任されること は「受発注」よりも「フラグメンテーション(工程分 業)」という用語で語られるようになるかもしれない。 大きな流れの一部になるというイメージで、いわゆる 2社間の取引に伴うさまざまなトランザクション・コ ストも大幅に低下する。 第2は、整流化による生産リードタイムの短縮、そ れに伴う在庫削減の効果だ。限られた加工設備で加工 順序を工夫しながら能力をフルに活用し、完成までの 時間を短縮することは従来から工場で行っていたが、 それをより精緻にしかも、外部の工場の装置の空き時 間も視野に入れて組めるようになる。工程間の滞留が 減れば、在庫削減にもつながる。生産管理板などで、 「見える化」することで、すでに生産リードタイム削減 に大きな効果を上げている工場も多いが、それを外の 工場にまで広げるのは人の力では限界がある。そこに ネットワークや人工知能(AI)の力を活用できる大き な可能性がある。 第3は、中小製造業の “魚群効果” である。鯨や大 型魚のエサになるイワシやサンマは巨大な群れをつく り、一糸乱れぬ集団行動を取ることで、鯨のエサにな ることを防ぐことがある。個々の魚ではできないこと を統率の取れた集団になることで達成する姿は中小企 業がネットワーク化され、まとまることで、大企業に も匹敵する受注力をもてる可能性を示しているだろう。 世界に通用する「オンリーワン」「ナンバーワン」の技 術をもつ中小企業がそれぞれ得意な加工工程を担当 し、複数の会社でひとつの完成品に仕上げる「垂直一 貫型」、ほぼ同じ加工工程を分業し、生産ロット数を 拡大する「能力拡大型」などが考えられるだろう。垂 直一貫型には当然、複数の企業の工程を同期化し、中 間の滞留を減らす必要があり、企業間だけでなく、装 置間のネットワークが不可欠。能力拡大型にしても加 工の方式、品質、納期を合わせるのに装置レベルでの 情報共有が必要になる。 中小企業が新しい取引先、製品分野を開拓していく 際の壁の多くは自社設備で対応できない工程や生産能 力のミスマッチにある。それを乗り越える仕組みとし て、ネットワーク化は大きな武器になるはずだ。多く の新規分野を開拓できれば、設備稼働率を高め、コス ト競争力を向上できる。日本の中小企業がネットワー ク化され、「バーチャルEMS(エレクトロニクス製品 の受託専門メーカー)化」することも可能だろう。最 近、「デザイン家電」といった色、形状、機能で個性 を持たせた小ロット生産の家電が人気を呼んでいる。 市場で売れる期間が短いため、タイミングに合わせて 迅速に生産できる工場が必要だが、それを中小企業が 10~20社集まり、バーチャルEMSとして受託すれば、 新たな突破口になる可能性がある。 第4は、「多品種少量生産」をさらに顧客向けにカ スタマイズした「個品種単品生産」への発展である。 洋服のオーダーメードと同じレベルで顧客の好み、

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特集1:新・日本のモノづくり ニーズに合わせた製品を白物家電、AV製品、電子機 器、家具、建材、日用雑貨、オフィス用品などでも低 コストで実現できる可能性がある。生産工程における 装置の段取り変えの無人化、短時間化、工程間の生産 順序の調整の自動化、搬送の効率化をITの利用で最 適化できるからだ。そこではAIも大きな効果をもつ可 能性がある。 第5は、やはり人手不足、特に熟練技術者の減少 への対応だ。単純な人手不足の解消、人件費コストの 削減ならアジアの低賃金国への工場シフトでも可能か もしれないが、高品質で、納期遵守となれば、国内工 場をIT化、ネットワーク化していく手がある。特に、 加工難度の高いものは国内が適しているだろう。パナ ソニックが目線と同じ画像をとらえる小型カメラで、 熟練技術者の作業手順、視線の動かし方、コツともい える手法を動画に記録し、新人の作業者の訓練に役立 てたり、ウエアラブルのディスプレイをつけ、現場で の作業指示に活用したりする試みに取り組んでいる。 これを日本から海外生産拠点にIT利用で展開すれば、 どこの拠点でも高い水準でのモノづくりが可能になる だろう。IT利用、ネットワーク化は場所の不利益を消 す効果をもつ。

「最高解」を得るために

モノづくりの大変革の潮流はこれ以外にも多くのメ リットをもたらすだろう。企業、業界、国によって目 指すもの、得られるものは異なってくるはずだ。一方 で、この潮流がすべての問題を解決するわけではない ことも自明だ。注意すべき点もいくつかある。 最も懸念されるのは、現場から生まれるイノベー ションの衰退だ。モノづくりをネットワーク化、IT化 すればするほど人は現場から遠ざかる。生産ラインで 何らかの問題に直面し、それを解決する過程で得られ た認識、発想はこれまで多くの企業で新技術、新商品 の開発に役立ってきた。単に現場改善だけでなく、商 品の設計変更、機能の見直しにまでつながり、場合に よっては生産ライン発の新技術も誕生した。人が現場 から遠ざかるリスクを認識し、量産試作など何らかの 形で技術者が現場に立つ機会、人とモノづくりの関係 性はしっかりと残すべきだろう。 ITや通信ネットワークだけではモノは動かないとい う認識も不可欠だ。ITが算出した最適なサプライ チェーンや生産順序に対し、現実の材料、部品や中間 製品などモノの動きが追いつかないことが必ず発生す る。道路も工場の搬入口も構内搬送にも常時、問題は 発生する。しかもそれはセンサーでは認識も原因解明 もできないことが多い。リアルなモノの動きの不合理 性、予測不能性を全体のシステムにどう織り込んでい くか、問題の解決、復旧には単純なリダンダンシー(余 裕)を入れ込むだけでは解決できないだろう。そこに は人の知恵こそ必要だ。ITの算出する「最適解」と人 の経験が裏打ちした「最高解」には違いがある。 マット・ディモンが主演した2015年公開の米映画 「オデッセイ」は、事故によって火星にひとり取り残さ れた宇宙飛行士が食糧や水の制約から理論的な「最 適解」では生き残れないとされた環境を知恵を使って 見事に救出まで生き延びるというストーリーだが、こ れは人間の知恵こそが「最高解」を生み出せることを 示している。 もうひとつ指摘したいのは、少品種大量生産はこれ からも残るということだ。人口増加が続き、若年労働 力も多いアジア、アフリカでは今後も衣料、日用品、 家電製品などで画一的な大量生産品が必要であり、従 来型のモノづくりが消費だけでなく、雇用の面でも残 る必要がある。雇用による収入こそ、消費を生み、生 産を拡大するからだ。経済成長を始めたばかりの途上 国に設備やITを多用したモノづくりをもち込むことは 成長の阻害要因にもなりかねない。 モノづくりの大変革はまだ始まったばかりであり、 どう進むかは誰にもはっきりとはみえていない。手探 りをしながら進むしかないが、参加しないことには ゴールにはたどり着かない。日本の設備機器メーカー、 中小企業、ITソリューション企業は実はこの手探りの 道を進むための多くの知識と技術基盤をもっている。 深い霧のなかに足を進める勇気と転んでも立ち上がる 気力こそが今、必要だ。 (2016年3月13日記。4月からは亜細亜大学都市創造学部教授) モノづくりの進化

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日 本 企 業 の 取 り 組 み

当社における航空機事業は、防衛分野と民間分野に 大きく区分されるが、本稿においては、今後大きな伸 長が期待される民間航空機の分野において、将来の柱 として期待されるボーイング社(以下「ボーイング」) との事業を、787開発事業を中心に紹介する。

民間航空機産業とは

2011年のボーイング787の就航、そして最近のMRJ の初飛行と、近年、民間航空機産業に対する関心が急 速に高まっている。また航空宇宙産業が集積する中部 地区が、アジアNo.1航空宇宙産業クラスター形成特区 として国から指定を受けるなど、将来の成長産業とし ても大きな期待を寄せられている。実際、民間航空機 販売は活況を呈しており、ボーイング、エアバスの両 社ともに5%成長が続くとみている。日本航空機開発 協会の市場予測によれば、今後20年間の世界のジェッ ト旅客機の市場は、約2倍になり、その間の納入は3 万機を、販売価格にして4兆米ドルを大きく超えると のことである。 大きな市場が見込めるものの、民間航空機の開発は、 市場・技術リスクを抱えながら膨大な開発コストとき わめて長期にわたる投資回収期間が必要であり、特に 中大型機の開発の場合は、ボーイングのような規模の 会社でもそのリスクを単独で担うことが困難となって いる。その結果、いわばTier1と呼ばれる会社(当社 含む日本各社など)がリスクシェアリングパートナー として参画する国際共同開発が世界の趨すう勢せいとなってお り、相応のリスクを負担できる会社でないと参画は難 しい。またこの産業は、ボーイング、エアバスといっ たOEMメーカーを筆頭に、Tier1と呼ばれるリスクシェ アリングパートナーの階層があり、その下に部品・素 材メーカーの階層がぶら下がる構造になっている。航 空機産業に参入するには、高い技術力に加えて、厳格 な認証プロセスをクリアする必要がある。

当社とボーイング

当社とボーイングとの関係は長く、民間機分野では、 1973年の747 SPフラップの下請け生産から始まり、 1970年代後半には、三菱重工業、富士重工業などとと もにオールジャパンの一員として設計作業も含めて 767プログラムに参画。767における日本の製造分担比 率は約15%であったが、その後、ボーイングの信頼を 獲得するとともに設計・開発における責任所掌を拡大 し、777では21%、787においては35%にまで分担比率 を高めている。

ボーイング787開発

787プログラムは、主要構造への複合材の適用(777 では構造重量の約11%であった比率を50%以上)、複 合材による胴体構造の一体成形、新プロセス/ツール の導入、システムの大幅電動化など777プログラムま でにはない多くの初物を盛り込んだ開発であった。 加えて、パートナーの責任分担の範囲が大きく拡大 されたことは、当社の民間機開発の能力向上において 特筆されるべきことのひとつであろう。それまでのプ ログラムでは自社が担当する部位の製造責任を負うの は当然として、基本的に設計責任はボーイングが保有 し て い た。これ に 対し て787で は 担 当 す るWork Packageに関して基本設計段階からプログラムライフ 写真1 ボーイングおよび当社の前部胴体共同開発チーム

川崎重工、ボーイング社との

民間航空機事業

川崎重工業株式会社 航空宇宙カンパニー 生産本部 民間航空機業務部長

田村 勝巳

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特集1:新・日本のモノづくり で設計責任を分担することになった。その結果、参画 時期についていえば、これまでは詳細設計以降の参画 であったが、787では基本設計段階からボーイング・ エバレット工場に技術者を派遣して、各種Trade Studyをボーイングと共同で実施した。また技術試験 作業の一部もその実施責任をもつことになった。 技術的にも、世界初となる直径・長さの胴体構造の 一体成形を中心に、高度な複合材構造設計・解析技 術、成形治工具を含む複雑形状・高精度の積層/成 形(含、成形しわの防止)/硬化等製造技術、NDI(非 破壊検査)など検査技術、自動積層機/オートクレー ブなどの製造インフラの開発など、多くの開発課題が あった。当社には複合材による胴体構造の一体成形の 成立性に懐疑的な人が少なくなかったが、ボーイング は複合材生産技術者を多数投入して、各パートナーも 巻き込んでの共同開発を推進し、基本的なプロセスや コンセプトを確立した。このボーイングの決断力と実 行力はやはりさすがであった。 787プログラムは多数の初物を盛り込んだにもかか わらず、777の開発期間と比べても1年以上短い野心 的な開発日程が組まれた。結果的に、初号機の納入日 までに製品を完成させることは不可能な状況となる。 ボーイングは納期通りに製品を出荷し、未完了作業に ついては、後工程のサウスカロライナ工場(当時は伊 アレニア/米ボートの合弁GA社)において当社がト ラベルワーク(後工程送りされた未完作業)として実 施することを求めてきた。トラベルワークは787で初め て経験する作業であったが、ボーイングと念入りに事 前調整を行って臨んだ結果、大きな問題を起こすこと なくミッションを果たすことができた。 当社の担当部位は、機体全体の製造工程上、上流 で必要となる部位であったため、他の部位よりも早く 作業に着手する必要があった。そのため、他の主要 パートナーに常に先行して新設計、新プロセスを経験 することとなり、計画段階では見えなかった多くの問 題点は当社でまず顕在化し、先頭を切ってそれらの問 題を解決していく先駆的な立場に置かれた。予期せぬ 未経験の問題に直面するたびに、原因と対策、あるい はプロセスの妥当性についてボーイングとともに我慢 強く問題をつぶしていった。後になって同様の問題が 他のパートナーでも発生することが度々あったことを 考えると、当社はプログラム共通の問題解決と全体の 推進に大きく貢献することができたのではないかと 思っている。 当社が初号機を出荷した後もトラベルワークは継続 せざるを得ない状況がしばらく続いた。その後、他の パートナー、さらにはボーイング自身も同様な状況に 陥った。プログラム全体の混乱が続くなか、当社は 徐々に機体の完成度を向上させ、プログラムの先頭を 切って、量産初号機において、設計変更プロセスで定 義・ 合 意 され た 責 任 範 囲 のSOW(Statement of Work)を100%完成させ、その後比較的早い段階で すべての設計変更を取り込んだ100%の完成度を達成 し、継続していくことになる。この業績が増産体制の 整備や品質とともにボーイングに評価され、2010年、 当社は主要構造部位部門における「Supplier of the year」を受賞することとなるのである。

終わりに

現在、787における3番目のモデルとなる787-10の 開発が2017年の初飛行に向けて作業継続中である。 初期のころがうそのように、開発は順調に進み、詳細 設計は予定より早く完了した。787に続く開発となる 777 Xは、2015年7月に正式契約が締結され、開発作 業が本格化している。777 X開発により、ボーイング との歴史にまた新たな1ページが加わる。今後もボー イング事業をはじめとし、世界に雄飛する航空機メー カーとして、揺るぎない地位を築いていきたいと考え ている。

写真3 2010年Supplier of the Year授賞式 写真2 初号機出荷(ドリームリフターへの積み込み)

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日 本 企 業 の 取 り 組 み

1.はじめに

コマツは2015年2月1日より新しいサービス「スマー トコンストラクション」を開始した。スマートコンスト ラクションとは、その名のとおり「スマート」な建設 現場を実現するためのサービスである。 これまでコマツはICT建機により現場の効率化に努 めてきたが、作業工程の分析から、建機だけを効率化 してもボトルネックが残り、結局工程全体を俯ふ瞰かんした 対応が必要なことがわかった。加えて、現在の日本の 建設業は、東日本大震災からの復興や東京オリンピッ クに向けた準備、インフラ等老朽化への対応などを背 景として多くの需要が見込まれるなか、建設業就業者 における50歳以上の比率は30%を超えており、これは 全産業平均より5%ポイントほど高く、2030年には建 設業の現場での労働力不足は30%近くになると予想さ れている。スマートコンストラクションは、こうした問 題を解決するために、ICTを駆使して建設現場をサ ポートするソリューションサービスであり、とりわけ土 木工事において、施工の高度化・効率化を図り、生産 性・安全性を向上することを通じて、未来の建設現場 を現実のものとする。

2.スマートコンストラクションで提供す

るサービス

コマツが提供するのは、大きく分けて以下の6コン テンツである。 ①高精度の現況測量:施工前の現況をドローン(無人 ヘリ)や3Dレーザースキャナを利用することで正確 に把握する(写真1)。 ②施工完成図面の3次元データ化:施工図面からICT 建機で使用する3次元データを作成する。また、現 況測量の結果と比較することで正確な施工土量を算 出する(図1)。 ③変動要因の調査・解析:土質や埋設物など、施工に 影響する要因を事前に調査・解析をすることで、施 工への影響を最小限にとどめる。 ④施工計画シミュレーション:さまざまな施工パター ンをシミュレーションすることにより、現場に応じ た複数の施工計画を比較・評価し、最適なものを選 択する。 ⑤高度に知能化された施工:コマツのICT建機により 高精度・高効率な施工を実現する。 ⑥日々の施工の見える化:ICT建機の日々の施工実績 をリアルタイムに管理し、施工の出来高・出来形を 見える化する。

3.スマートコンストラクションによる施

工プロセスの革新

では、これにより建設現場では何が変わるのだろう

コマツのスマートコンストラクション

コマツ 執行役員 スマートコンストラクション推進本部長

四家 千佳史

—— 土木工事におけるドローンの活用 ——

図1 土量計算(イメージ) 写真1 ドローンによる測量風景

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特集1:新・日本のモノづくり か。図2は、現況測量と施工準備・施工における従来 の方法とスマートコンストラクションの違いを示して いる。まず現況測量だが、従来は人間が何日もかけて 1カ所ごとに測量を行ってきた。これが、ドローンを 活用することで飛行時間に限れば数十分でできるよう になる。また施工に関しても、従来はまず準備段階と して目印のための丁張りを人の力で行い、施工段階で も建機の作業確認は人の目で行っていた。これを建機 のモニターで施工面を確認しながら行うことで、丁張 りも人の目による確認も不要となり、省力化と高度化 が同時に実現できるようになる。言い換えれば、次の ような施工プロセスの革新が実現するのである。 ①施工現場のIoT化:工事に関わる、すべての人、建 機、土までをもICTで有機的につなげ、現場の施工 の始まりから終わりまでの全データの一元管理がで きるようになる。 ②作業の自動制御:現場では次のような作業があり、 従来の建機では熟練の技術が必要だった。これが、 高度に知能化されたコマツのICT建機を使用するこ とで自動的にコントロールできるようになる。 ・斜面を一直線にならす作業:ICT油圧ショベル(写 真2) ・起伏のある地面を水平にならす作業:ICTブルドー ザ(写真3)

4.スマートコンストラクションの効果

こうした革新による効果は、以下のとおりである。 ①安全性の向上:機械の周辺に補助作業員がいなくな るために、事故防止につながるだけでなく、夕方や 夜間でも安全な作業ができるようになる。 ②人手不足への対応:これには2つのポイントがある。 第一に作業員の省力化、そして第二にICT建機によ り非熟練オペレータでも熟練者並の作業を行うこと ができるようになるので作業者確保の容易化(もち ろん熟練オペレータの場合なら、作業効率がさらに いっそう向上することになる)。 ③工期およびコストの削減:現場によっては3分の1 になる例もあった。

5.おわりに

コマツのスマートコンストラクションは、近年急速 に利用が拡大・普及するドローンの利用やICTの先進 的な技術を積極的に取り入れることで、施工現場つま りお客様のニーズに対応した例である。コマツは今後 も日々進化させ、これまでにない現場環境をお客様と ともに目指すとともに、日本で蓄積したノウハウをもと に海外展開を行っていきたいと考えている。また関係 省庁はドローンの使用方法のルールや施工図面の3D 化等々について、基準の変更に向け動きだしている。 こうした新技術については、今後も新たな課題が発生 すると思われるが、そうしたビジネス環境の整備につ いては政府の同様な対応を期待している。 写真3 ICTブルドーザ 図2 スマートコンストラクションによる施工プロセスの革新 写真2 ICT油圧ショベル

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日 本 企 業 の 取 り 組 み

「日本発、世界に通用する部品メーカー」を目指す 株式会社ミズキ(本社 神奈川県綾瀬市、以下「ミズ キ」)は、カメラ、ハードディスクドライブ(HDD)な どに用いられるネジ、シャフトなどの精密締結部品 メーカーである。国内の主要取引先には、オリンパス、 日本電産、パナソニックグループなど、そうそうたる 企業の名前が並ぶ。これまで、取引先の進出先である 中国、さらにはASEAN向けの営業、販売に注力して きたものの、ミズキ代表取締役の水木氏の中には、こ れまで主流であった「家電」、「日系企業」に依存し続 ける経営に対する危機感があった。

シリコンバレーとの取引

ミズキも会員企業に名を連ねる一般社団法人首都圏 産 業 活 性 化 協 会( 通 称TAMA協 会、TAMAは Technology Advanced Metropolitan Areaの 略、 事務局は東京都八王子市)では、会員企業の海外展 開にも注力している。同協会専務理事の岡崎氏に「世 界の先を見る」ことの重要性を説かれ、助言と支援を 得たことが、同社がシリコンバレーとの取引を本格検 討する契機となった。 当時ちょうど、水木氏のもとには、米国スマホ大手 よりサンプルが送られており、もっとよくできるか?と の問いを投げかけられ、この商談を進めたいと思って いた。そこで、TAMA協会が韓国、中国、台湾、ベ トナム、フィリピンといった地域に続き、2015年に新 たに拠点を設けたシリコンバレーにおけるマッチング 支援サービスを活用するかたちで、まずは米国企業と の接触を開始した。 コンタクトを開始してわかったのは、シリコンバレー ではソフトに加えてハードの重要性が認識され、高品 質の材料・部品を供給できる企業にとっては大きな チャンスがあるということだ。現状、シリコンバレー においては、中国、韓国、ベトナムといった国の人々 が、米国留学中に築いた人的ネットワークなどを活用 するかたちで多数起業し、アップル、グーグルなど、 ハードにも注力するシリコンバレーの代表企業に対し て、試作開発の分野での売り込みを精力的に行ってい る。そうした企業の数はざっと3000社にのぼるともい われ、大量発注となれば本国のアライアンスを活用し た対応を行っているようだ。また、アジアなどの新興 国においては常にコストダウンが求められる製品づく りが主流なるも、ハイエンド市場であるシリコンバレー ではよいものを正当に評価する環境もある。 水木氏は、TAMA協会シリコンバレー事務所スタッ フと、シリコンバレーでの展示会の視察・商談会に参 加、自社製品、技術をアピールした。ミズキのパフォー マンス評価の結果、サンプルを通じてコンタクトして きた米国スマホ大手より、昨年夏から最大月1500万本 の特殊シャフトの量産を求められ、日本の通信機器部 品大手を介して納品に至った。 米スマホ大手からのミズキへの接触は、ミズキの取 引先が「それなら、ミズキが対応できるかもしれない」 と口利きを行ってくれたのではないかというのが水木 氏の推察だ。量産を求められるころには、米企業から 同社に直接のコンタクトが行われ、デイリーベースで の品質管理データの直接の提供が求められている。そ の一方、現在では、次の製品に向けた協議を行うに 至っている。

技術だけに頼らないものづくり

ミズキはこれまで、HDD、カメラ、自動車、そして、 スマートフォンと時流に乗ったかたちでの取引先の拡 大を達成してきた。だが、いずれHDD、カメラの需要 ミズキの手がける精密ネジ、シャフト、その他精密締結部品 中国、ブラジルといった新興国の景気低迷、資源価格の下落――わが国の企業の経営環境は厳しさを増しているが、中小企業の中には、海 外における販路拡大を本格化させようという企業も存在する。そのような中小企業と支える支援団体の取り組みを伺った。(聞き手・構成・ 文責:JOI総務部長 佐々木永市)

シリコンバレーにみる可能性

ミズキ、TAMA協会の取り組み

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特集1:新・日本のモノづくり も減少していくだろうとの見込みのもと、今後ますま す取引の拡大が予想されるスマートフォン、周辺機器 という、いわば、流行りモノをしっかりと対象にしつ つも、その先には、航空・宇宙、医療、ロボット、と いった世界を見据えた展開を志向するという。 今後3年程度はスマホ大手との取引はミズキにとっ ても売上確保といった点から重要であるが、米スマホ 大手と直接協議を行っているなかで、試作部隊、大量 発注をかける部隊が異なっていること、そして、目の 前のモデルの成功という短期的なゴールを追い求める あまり、先々を考えたサプライチェーンの構築、取引 先との信頼醸成といったことは考えられていないので はないかと思われたことから、長期的視野に立った場 合、流行りモノだけを頼みにしていては限界が来ると 気付かされたという。 今後、注目しているロボット分野については、動き が複雑になればなるほど、シャフトの活用の場が広が る。材料の変化も想定しなくてはいけない。自動車同 様、ロボットが鉄の塊ではなくなり、軽量化が進めば、 シャフトには強度に加え、軽量さが求められる可能性 もある。今は、ロボット研究会的なものへの参画を通 じ、いかなる開発が求められているのかといったニー ズの把握に努め、さらにはニーズの把握にとどまらず、 トップサプライヤーになるための方策を練っていくこ とを目標としている。4番手、5番手のサプライヤー は市場の縮小とともに捨てられ、2番手、3番手のサ プライヤーは値段があえば購入、という関係であり、 結局のところ、コスト低減の煽あおりを受け、疲弊してい くことになる。でも、1番手、トップサプライヤーは 違う。納品先が困難に直面したとき、相談が寄せられ るのがトップサプライヤーである。「そんなことができ るのか!?」と感動される高い技術力だけではない、 「そんな手があったか!?」と感動させる対応力、諦め ないという企業姿勢を磨いていくことが企業の存続の 可能性を高める――と水木氏は考えている。 氏はシリコンバレーを見ていると、日本と米国のも のづくりの差を感じるという。日本では、この性能の いいシャフトを使って何をつくろうか、と考え、一方、 米国ではつくりたいものが先にあり、そのためには、 何が必要なのか、と考え、必要な技術については見つ け出し、買ってくればいいと考えている。この発想の 違いには驚かされた、と水木氏は言う。 技術に安住することなく、また、技術に逃げ込むこ となく、とことん五感をフル活用する、「断らない、諦 めない」ことが重要だ、という水木氏のひたむきさは、 同じTAMA協会の別の会員企業のケースにも通じる ようだ。ハーバード大学へのシステム販売に際して、 その企業はすでに商談が先行していた米国ライバル企 業に、時差、迅速な対応という「武器」で対抗、逆転 勝利で受注を果たしたという。

取材を終えて

水木氏は先月ドイツのフラウンホーファー研究機構 の拠点を往訪したという。このフラウンホーファー研 究機構は、欧州最大の応用研究機関、いわば、先端設 備が揃ったアウトソーシング実験室であり、ドイツ国 内に67の研究所を構え、および24000名のスタッフを 擁する。年間研究費総額は約21億ユーロ(2604億円  @124円/ユーロ)であり、研究費総額の70%以上が民 間企業からの委託契約、残り約30%が連邦政府、州政 府により経営維持費として資金提供がなされている。 単純平均ではあるが、研究所1カ所当たり約39億円の 研究費規模だ。ビジネスの成功の重要な鍵を握るの は、アイディア、そしてアイディアを市場ニーズに合 わせた製品へすばやく変換する能力である、とフラウ ンホーファーでは考えるようだ。わが国でみられる、 似通った、地域ごとに存在する数億円規模の支援水準 とは大きく異なる。意識の高い中小企業に支援を集中 させる、それが欧米流の企業支援方法だ。わが国の支 援体制の多くは、より成果を求めるかたちで、再考さ れる余地があるのではないだろうか、というのが筆者 の考えだ。 帰り際、「これ見てよ」と岡崎氏からある中小企業 の技術、取り組みを紹介いただいた。「こんなことでき るのですか?」これまで考えてもいなかったことが起 きる準備が、納入実績より品質を重視するシリコンバ レーで着々と進められている。また、八王子を訪問さ せていただくことになるだろう。 インタビューにご対応いただいた ミズキ 水木代表取締役(左)、TAMA協会 岡崎専務理事

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日 本 企 業 の 取 り 組 み

はじめに

世界のICT関連のデータは日々増加し続けており、 膨大なデータが流通することが見込まれている。これ まで制御の対象としていなかったさまざまなモノから 大量のデータを集めることが可能となり、それらのデ ジタルデータに高度な分析・解析を介することで付加 価値を見出すことができるようになる。 来るべきIoT(Internet of Things)時代では、デ ジタルの世界で見出されたデータの付加価値を、現実 の社会・産業・生活に対して高速かつリアルタイムに 反映させることで、新たな社会価値創造の機会、産業 構造の変革、知識創造プロセスの変化などが生み出さ れていく。 この潮流は、製造業においても例外ではない。現在、 ドイツ(「Industrie4.0」、第4次産業革命)や米国 (「Industrial Internet Consortium」) を 中 心 に、

IoTを活用した自社の製品、ビジネスモデル、プロセ スなどの変革に取り組む動きが活発化している。この 動きに対しては、世界の新興国、とりわけ、中国、イ ンド、韓国、台湾がそれに続こうとしている。また、 日本の製造業においても、競争力強化や取引先の要求 への対応などの観点から、IoT活用の機運が高まりつ つある状況にある。2015年6月には、わが国において も、IVI(Industrial Valuechain Initiative)が設立 された。IVIでは、IoT時代を見据え、特に協調領域(各 企業で共通の/共通にすべきやりかた)をリファレン スモデルとして整理し共有することで、各企業の固有 の技術が相互につながる仕組みを構築することを可能 とすることを目指している。さらに15年7月には、ロ ボット革命イニシアティブ評議会内に「IoTによる製 造ビジネス変革ワーキンググループ」が設立され、こ れら世界の潮流に続こうとしている。 NECは、これら世界のIoTに対する動向を踏まえ、 製造業でのIoT活用について、設備機器のリアルタイ ムでの最適制御などにより変化に対する柔軟性を高め る「プロセス・イノベーション(つながる工場)」と、 新たな製品の使い方やサービスの提供により付加価値 を高める「プロダクト・イノベーション(つながる製 品)」の2つの視点が重要と捉えており、2015年6月、 これらの視点の実現を支えるソリューション群を 「NEC Industrial IoT」というコンセプトにまとめた。

以下、そのコンセプトを、NECの技術およびNEC自 身の社内実証実験の内容を交えながら解説する。

NECの考える「IoTがもたらす2つのイ

ノベーション」

IoTの概念の出現・伝播とともに、グローバルで産 業のパラダイム・チェンジが始まっている。グローバ ル競争は激化し、それに打ち勝つためには、限られた 資源での生産性を高め、製品の製造・物流・販売の各 プロセスを高度化・効率化することが重要となる。こ の、造る(製造業)・運ぶ(物流業)・売る(流通業・ サービス業)を結ぶサプライチェーンの中で、ヒト・ モノ・プロセスをつなぐことによって新たな価値を生 み出す「バリューチェーン・イノベーション」に、製 造業は取り組む必要がある。 世界に目を向けると現在、先述のとおりドイツや米 国が先導するかたちで、IoTを活用したバリューチェー ン・イノベーションを推進しており、それらの影響を 受けた新興国も動きを活発化し始め、世界の潮流から 取り残されてしまうという意味においても、日本企業 の脅威となりつつある。 ドイツ「インダストリー4.0」、米国「インダストリアル・インターネット・コンソーシアム(IIC)」などの動きにおいて、つながる工場、つ ながる製品といった概念がうたわれているが、実のところ、現状に比べ、何が、どのように変わっていくのか、また、どのような影響が生じ てくるのか、イメージしづらい部分がある。そこで、財団会員企業である日本電気様に、自社での取り組みを含め、解説いただいた(JOI)。

つながる工場、つながる製品とは

――「NEC Industrial IoT」

—— お客さまと共に創る ——

日本電気株式会社  第一製造業ソリューション事業部 販売促進部 部長

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特集1:新・日本のモノづくり 脅威の1つは、日本国内市場の成熟化、および競争 力の相対的低下による、「競争の激化」である。勝ち 残るには、革新的な技術で、より付加価値の高い製品 を創出しなければならない。 もう1つの脅威は「規格化」である。特に企業や業 種の枠を超えた連携を成し遂げるには、規格化が必要 であり、たとえば企業間のデータ連携を考えた場合、 規格化に対応しなければ仲間づくりが困難になったり、 顧客からの要求である場合、機会損失を生む可能性も 孕 はら む。これらのグローバルな動きに呼応するように、 IoTを活用したバリューチェーン・イノベーションに取 り組む日本企業が徐々に増えてきており、機運が高 まってきている。 では、IoTの導入は製造業に対して、どのような影 響を及ぼすのか。 NECではつながる技術であるIoTを中核に、先進の ICTによりバリューチェーン・イノベーションを実現 するために、2つの要素があると捉えている(図表1)。 1つは製造工程へのイノベーション「プロセス・イ ノベーション」である。ものづくりのプロセスをスマー ト化・ネットワーク化するという意味で「つながる工 場」ともいえる。もう1つは提供する製品・サービス そのもののイノベーション「プロダクト・イノベーショ ン」である。 プロセス・イノベーションでは、工場内の設備同士 や製造される製品・部品、働く人が連携し、自律的な 制御が行われる。さらに、工場間での連携、サプライ ヤーや外部パートナーとの連携による迅速な情報伝 達、最適分散生産など、変化に対して柔軟な対応が見 込める。この自動・自律化により、マスカスタマイゼー ションをコストアップなしに実現することが可能とな る。また、経営と現場をCPS(Cyber Physical System)

でつなぐことで、迅速な経営判断が可能となる。 たとえば、人・設備・モノに関する情報について、 この技術を活用することによって、リアルタイムかつ 一元的に見える化することができるようになると考え ている。 プロダクト・イノベーションでは、製品にIoT技術 を埋め込み、ネットワークでつなぐことで、クラウドと 連携した新たな顧客体験の提供や機能強化、ユーザー の利用状況などのデータを収集・分析することによる 製品の改善、新商品の企画への反映が可能となる。市 場に出た後も新たな価値を生み続ける製品・サービス の創造を実現する。 たとえば、市場に出荷された製品の故障予兆監視、 ライフサイクルの把握、保守部品の需要予測などの見 える化がこの技術により可能となり、CSの維持および 顧客ロイヤルティの向上に寄与することができるよう になると考えている。

「NEC Industrial IoT」とは

前項における2つのイノベーションにおける視点を 踏まえ、2015年6月、NECでは製造業向けにIoTを活 用した次世代ものづくりを推進する「NEC Industiral IoT」というコンセプトを発表した。

NEC Industiral IoTの特長は4点ある。

1点目は、NECが提供する先端IoT技術の活用であ る。ビッグデータ分析技術、画像解析技術、ネットワー ク技術をはじめとする、NECの豊富な諸技術により、 従来は容易にはできなかったことをものづくりの革新 に生かす。バリューチェーン全体の状況を把握、的確 に分析・判断し、人・モノ・機器を正しくコントロー ルすることにより価値創造を実現する。 2点目は、NEC自身での実証である。お 客様に提供していくNEC Industrial IoTの 考えは、NECグループ自身でも自ら適用し、 有効性を確認し改良し続ける。 3点目は、パートナー連携による提供価値 拡大である。NECが保有するシステムイン テグレーション、ネットワーク技術などに、 パートナー様が保有する設備機器・ロボティ クスなどの製品・技術を組み合わせて、お客 様に最適なソリューションとして提供できる ようにしていく。 最後は、「お客様との共創」である。お客 様とともに創りあげていく、これがNEC 図表1 IoT活用による2つのイノベーション

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Industrial IoTの最大の特長ともいえる。NECでは、 2012年10月から「日本の製造業を強くする!」をスロー ガンに、「ものづくり共創プログラム」を立ち上げ、 NECが行ってきた生産革新やサプライチェーン改革の ノウハウを、以下4つのコンセプトでお客様にご提供 している。

①匠(たくみ)…SCM(Supply Chain Management) 改革を実現した匠が現場での改革を支援する。 ②繋ぐ(つなぐ)…現場改善や業務プロセス革新とIT をつなぐ一体改革を推進する。 ③活(いかす)…NECグループのアセットを活かしコ ア業務に注力できる環境を整備する。 ④共(ともに)…共に考え、共に創る場としてものづく り研究グループを立ち上げている。 この活動をさらに拡充して、IoT活用に関するお客 様の課題・工夫を共有し、実証を進めるとともに、関 連省庁・団体とも協調し、日本製造業のものづくり強 化に貢献する。 ものづくり研究グループは、2015年12月末時点で、 1018社・3010名の会員によって活動をすすめており、 NEC Industrial IoTは、ものづくり研究グループの 基盤を活用して、日々進化する最新技術やお客様から の声を取り込みながら創出している。

NEC Industrial IoTにおける「先端IoT

技術の活用」

本項では、NEC Industrial IoTにおける「先端 IoT技術の活用」について詳述する。 IoT技術を活用した次世代ものづくりは、データを 収集・分析・判断し、機器を自動制御し、製品による 価値創造を実現する流れであるといえよう(図表2)。 まず、現場・現物・現状をデータにするデジタル化 を実施する。そこで収集したデータを、ビッグデータ 分析技術を使って分析して見えない、隠れた世界を見 える化 する。分 析に 基 づき、製 造 実 行システム (Manufacturing Execution System:MES) や、

柔 軟 なネットワーク構 築 技 術・SDN(Software-Defined Networking)を介してITと設備機器、OT (Operational Technology)を直接連携させ、リア ルタイムに機器を自動制御・最適化する。製造する製 品にもセンサーを組み込むことで、挙動をデータ化し、 そのデータを吸い上げ、セキュアに送信、分析して、 保守や次の製品の企画・研究に生かす。 以下、IoT活用の流れに沿って、先端IoT技術の活 用のポイントを説明する。

(1)現場・現物・現状のデジタル化

製造現場におけるデジタル化の状況は業種や企業に よる相違があるが、全般的にみるとまだ十分でない工 程が多数あると考える。現場のデータをデジタル化す るために高額な設備改修をするのは、お客様にとって 大きな負担になる。また、人の動きやモノの状態など、 自動化設備からだけだと収集できない情報も重要であ る。各種センサーやスマートデバイスの活用といった 手段に加えて、NECが得意とする高い精度を誇る画 像技術を活用したシステムは、既存設備を活かしたま ま、また新たに大規模な追加・回収をすることなく、 現場・現物のデータ化が行える。以下に、高度な画像 活用技術を用いて現場のデジタル化を行う観点で、4 つの例を示す。 ①物体指紋認証技術 世界で初めて注1の技術である。従来は、製品や部品 を1つひとつ区別・管理するためには、RFIDなどの タグを1つひとつにつけるか、マーキングの ような工程・設備を追加しなければならな かった。しかし、この「物体指紋認証技術」 を使えば、物体の表面の微妙な凹凸をもとに 個体差を区別することができる。カメラも特 殊・高額なカメラでなく、安価な普及カメラ でも実現可能な技術であるため、導入が容易 である注2 図表2 ものづくり革新におけるIoT活用の流れ

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特集1:新・日本のモノづくり ②計器文字読み取りシステム 計測表示板の文字をカメラで読み取る技術である。 機器接続が不要であり、かつリアルタイムで実績管理 が可能となる。 ③ウェアラブ ル 端 末を利 用したAR(Augmented Reality)活用作業支援システム 現実の環境にデジタル情報を付加する。AR技術や ウェアラブル端末を用いることで、作業性の向上や未 熟練者を支援する環境を実現する。 ④動線把握システム 工場での作業員の動きをカメラで読み取り、データ で把握して動線改善を行う。高度な画像活用技術を用 いて現場のデジタル化を行う。 注1:NEC調べ 注2:2014年11月10日付 NECプレスリリース 『NEC、工業製品・部品の個体を識別する世界初の「物体指紋認証 技術」を開発 ~ トレーサビリティ・真贋判定・品質管理などに適 用 ~』 http://jpn.nec.com/press/201411/20141110_01.html

(2)見えない・隠れた世界を見通す

デジタル化し収集したデータから、見えない世界を 見通すためのビッグデータ分析技術である。ものづく りにおけるビッグデータ活用テーマは多数あるが、特 にニーズと効果が大きいテーマは品質問題と設備故障 検知のテーマである。品質不良の発生はロスコストを 発生させるだけでなく、場合によってライン停止によ る問題対処が必要となり、設備故障もライン停止に直 結する。歩ふ留どまり率の改善と稼働率の向上はスループッ トを高め、生産コストを削減することに直結する。 まずは、ものづくりに関するあらゆる現場データ (4M(Man、Machine、Material、Method)データ) を収集し、緻密に関係性を把握することで、多面的な 見方や気付きを得られやすくなる。 次に、ビッグデータ技術を活用することで、従来気 付かなかった品質不良の要因を特定したり、より品質 が向上するための最適な加工条件を導いて適用するこ とが可能になる。さらに、ある工程や部品の加工精度 実績データに基づいて品質を予測したり、次工程での 加工条件を動的に変更することで最適品質を実現する などの最適化制御にも応用できるようになる。 また、設備の挙動から「いつもと違う」挙動を発見 し、故障の予兆を捉えて未然に対応することにより、 計画外停止を最小化することで “止めない工場” の実 現に貢献する。 これらについて、NECは、以下4つに代表される 世界トップレベルのビッグデータ解析技術やエンジン を活用し、今まで気付かなかった知見を提供できるよ うにする(図表3)。 ①異種混合学習 多種多様なデータに混在するデータ同士の関連性か ら、特定の規則性を自動で発見するとともに、分析す るデータに応じて参照する規則を切り替える技術であ る。これにより、 “単一の規則性のみを発見して、そ れを参照するような従来の機械学習” では分析が困難 であった「規則性が変化するデータ」でも高精度な予 測や異常検出が可能になる。 ②インバリアント技術 多数のセンサーから大量の時系列データを 収集・分析し、平常時に成り立つセンサー間 の不変関係(インバリアント:invariant) を関係式として自動でモデル化する技術であ る。このモデルの予測値とリアルタイムデー タを比較することで、「いつもと違う」動きを 検出することが可能になる。 ③RAPID機械学習 膨大な映像・音・テキストなどのデータを 人手による複雑な加工なく学習・認識する ディープラーニング(深層学習)であり、人 の判断や推論が必要な業務を支援する。ルー ルの設定が不要で、高速かつ高精度なマッ 図表3 NEC独自のビッグデータ解析技術

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チングを行う。 ④テキスト含意認識 文中における単語の重要性や、主語や述語などの文 の構造を考慮することで、2つの文が同じ意味を含む かどうかを高精度に判定する技術である。従来の技術 では、2つの文に含まれる単語の一致・不一致を中心 に分析していたため、異なる単語で同じ意味が表現さ れていたり、同じ単語を用いて異なる意味が表現され ている場合に正しい分析結果が得られないという課題 があった。 本技術を活用することによって、顧客ニーズの的確 な把握/精度向上が可能となる。さらに、これらの高 精度化された情報を新商品・サービスの開発にフィー ドバックすることで、よりよい製品のものづくり実現に 寄与することができるようになると考えている。

(3)ITとOTのシームレスな連携

OTとは、Operational Technologyの略で、いわ ゆる制御系システムを指す。Factory Automationや Process Automationとも呼ぶ。これらのOTシステ ムと生産管理システムなどのITシステムは、必ずしも 連携されているわけではない。その間は、実態は “人 がつないでいる” というラインが多数見かけられる。 OTの世界はITに比べると多数の通信規格や形式が存 在しており、相互接続が困難であったり、ITとOTの 両方に詳しい人材が少ないという事情がある。 NECは、国内シェアNo.1のファクトリーPC(イン ダストリアルPC)を介して、製造実行システム(MES) と連携し、業界標準的なインタフェースを活用するこ とで、さまざまなメーカーやプロトコルの端末・機器 をトータルにインテグレーションする。ここで、インダ ストリアルPCは、MESなど業務システムなど上位シ ステム連携を制御し、画像解析など高負荷処理を実行 し、通信規格の相違を吸収しながら、工場内の設備を 自律的に判断・リアルタイムに制御する役割を担う。 また、工場内のネットワークにSDNを活用すること により、ライン変更などに容易に対応可能とし、かつ 一元的なセキュリティ設定などの管理レベルを高める ことができる。厳しい事業変化に柔軟に対応する必要 があり、大量のデータを扱うことになる次世代ものづく りを支えるネットワークとして、大きな役割を果たす。

(4)つながる製品のプラットフォーム

お客様が提供する製品そのもののIoT活用を助ける ソリューションである。NECが保有する組込みシステ ムのアセットをお客様の製品にインテグレーションし、 それらの製品機器がネットワークを介して、市場に出 た後も新たな価値を生み続けられるようにするための IoTプラットフォームをワンストップ型で提供する。 そのユースケースとして、以下が想定される。 ・製品の稼働状況をリモートで把握するスケーラブル なIoT基盤 ・さまざまな通信機能やセンサーを製品に実装する組 込みソフトとSI ・スマートな保守・保全を実現するための故障予兆監 視システム ・ユーザデータを収集・蓄積・活用する為のセキュア な環境 NECは、新製品/サービスの創出力強化をすること により、進化し続ける製品のセキュアなプラットフォー ムの実現を目指す。

NEC Industrial IoTにおける「NEC自

身での実証」

本項では、NEC Industrial IoTにおける「NEC自 身での実証」について詳しく説明する。 NECは、無線通信機器や放送機器などを生産する NECネットワークプロダクツ株式会社の本社工場(所 在地:福島県福島市)において、IoTを活用した実証 実験を2015年10月から開始した。また、NECプラット フォームズ株式会社でホームルータや組込み機器など を生産する掛川事業所(所在地:静岡県掛川市)にお いても、IoTを活用した実証実験を15年度に開始した。 実証内容としては、経営者・工場管理者・現場の各 階層でのタイムリーかつ適切な意思決定を支援するた め、複数工場の生産ラインにおける品質や稼働状況な ど人・設備・モノに関する情報のリアルタイムかつ一 元的な見える化に取り組む。また、先述の「物体指紋 認証技術」を用いたプリント基板の個体識別、カメラ 映像からの異常作業の自動検出など、収集データの分 析・活用にも取り組む。 NECでは今回の実証実験の結果を踏まえ、2016年 度以降にIoT活用標準システムの構築および各生産拠 点への展開を推進することで、生産効率の従来比30% 向上を実現し、グローバルでのQCD競争力強化を図る。

参照

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