▲ 要 旨
アジア調査部 主任研究員 苅込 俊二*
アジア調査部 研究員 宮嶋 貴之**
1.ASEAN は980年代半ば以後、貿易額を拡大させるとともに、ASEAN 域内の貿易割合を高めてきた。また、
量的な側面だけでなく、域内が経済的緊密度を高めたことは、貿易結合度、貿易補完係数、グラビティモ デルによる実証分析によって確認された。域内一体化の高まりは、ASEAN 域内のサプライチェーン構築・
進展と軌を一にするが、ASEAN 自由貿易地域(AFTA)形成に向けた域内関税撤廃の動きがそれを後押 ししたと考えられる。ただし、これら検証結果からは2000年代後半以後、域内の一体化が以前ほど進捗し ていないことも示唆される。
2.ASEAN は現在、域内の貿易、投資をより自由化する ASEAN 経済共同体(AEC)の創設に向けた取り 組みを行っている。先行加盟6カ国間で域内関税の削減・撤廃が大きく進展する一方で、非関税障壁の撤廃、
サービス分野の自由化などの取り組みでは進捗が遅れている。AEC 創設の目標年限である205年中に ASEAN が掲げた行動計画を全て達成することは難しい状況だが、ASEAN は206年以後も目標達成に向 けて取り組みを続け、制度的な統合度を高めていくだろう。
3.日本企業は、AFTA 形成に伴う域内関税撤廃に向けた動きの中で、特恵関税を活用した域内調達を促進 させるとともに、中期的な観点から生産拠点の再編を実施した。自動車などの業種では、既存拠点は残し つつ域内拠点間で生産品目を相互供給する体制を整備、電子・電機などの業種では、生産品目の集約を図 るため生産拠点を統廃合、といった対応が採られた。
4.後発加盟4カ国では、遅くとも208年には域内関税が撤廃される。こうした変化に対し、4カ国に拠点を設 置する企業は今後、拠点を残存させるのか、拠点を撤廃し他の域内国からの輸入に切り替えるか判断を迫 られよう。また、制度的な統合のみならず、道路などインフラ整備を通じた物理的な連結性(Connectivity)
が域内で強まっていくと予想される。こうした状況下、今後は点(国レベル)ではなく、面(ASEAN 全 域)を意識した経営戦略の立案がより一層重要性を増すだろう。
2
《目 次》
1.はじめに……… 3
2.ASEAN における経済統合はどこまで進んだか:制度面からの考察……… 4
⑴ AFTA 形成に向けて1993年に域内関税削減を開始……… 4
⑵ 先行加盟6カ国は2010年に域内関税をほぼ撤廃し、AFTA が完成……… 4
3.ASEAN における経済統合はどこまで進んだか:実態面からの考察……… 5
⑴ ASEAN の域内貿易は中間財を中心に拡大……… 5
⑵ ASEAN 域内の貿易結合度は強まる……… 6
4.ASEAN 経済共同体創設に向けた取り組み……… 10
⑴ ASEAN 経済共同体の性格と創設に向けた行動計画(AEC ブループリント)……… 10
⑵ 域内関税の更なる削減・撤廃と特恵関税利用拡大に向けた取り組み……… 11
⑶ 非関税障壁の撤廃に向けた取り組み……… 14
⑷ サービス貿易の自由化に対する取り組み……… 14
⑸ スコアカードによる AEC ブループリントの評価……… 15
5.経済統合の進展に伴う日本企業の対応……… 17
⑴ 域内特恵関税の利用促進……… 17
⑵ 域内経済統合の進展を見据えた生産体制の再編……… 18
6.終わりに……… 21
1.はじめに
東アジアでは、欧州連合(EU)や北米自由貿易 協定(NAFTA)のような確固とした制度上の枠組 みが確立されていないにもかかわらず、実態的に経 済統合が進展している。実際、日本企業を中心とし て東アジア地域全体で生産分業体制が形成され、そ れが域内の貿易活発化を促している。こうした現状 を評して、東アジアは実態面での経済関係の緊密化 が進展した一方、制度面での統合は遅れた地域とさ れてきた。
制度的な統合の進展は経済的緊密度を一層高める ものとなる。東アジアの中で、ASEAN はこうした 制度的な統合に比較的早い時期から取り組んできた 地 域 で あ る。99年 に は ASEAN 自 由 貿 易 地 域
(AFTA)形成に向けた取り組みを開始し、200年 には先行加盟6カ国(シンガポール、ブルネイ、イ ンドネシア、タイ、マレーシア、フィリピン)で域 内関税が撤廃された。また、205年には関税のみな らず、非関税障壁の撤廃やサービス分野への投資自 由化なども進めて、ASEAN 経済共同体(AEC)
の発足を目指している。
本稿では、ASEAN における経済統合の進展度合 いを、実態面、制度面の両面から把握すると共に、
経済統合進展に伴い現地日本企業がどのような対応 を図ったのか、また今後はどのように対応すべきか について検討した。
本稿の構成は以下の通りである。第2節は、9年 に開始した AFTA 形成に向けた取り組み状況を サーベイする。第3節は、こうした取り組みを踏ま えて、ASEAN 各国間の経済的結びつきについて、
貿易統計を通じて考察する。第4節は、205年の AEC 発足に向けた ASEAN の取り組み状況を見る ことで、現時点の制度的な統合度合いを把握し、今
後を展望する。第5節は、ASEAN における経済統 合の進展に対し、日本企業はどのような対応を採っ たのかをサーベイする。第6節は、第5節までの議 論をまとめるとともに、AEC の進展をにらんだ日 本企業の事業展開について検討する。
4
2.ASEAN における経済統合はどこま で進んだか:制度面からの考察
⑴ AFTA 形成に向けて1993年に域内関税削減を 開始
ASEAN は、もともとインドシナ半島の共産主義 勢力への対抗を目的とする、安全保障の枠組みとし て976年に発足した。しかし、75年の米国のベトナ ム撤退、76年のベトナム統一を契機に、その位置づ けは変化した。76年の ASEAN 首脳会議で出された
「ASEAN 協和宣言」以後、次第に経済的な協力機構 としての性格を強めていく。ASEAN 産業補完計画 や ASEAN 合弁事業計画といった産業協力プロジェ クトは、その具体的な取り組み事例である。
90年代初頭、ウルグアイ・ラウンド交渉の停滞が 顕著となる一方、欧州市場統合や NAFTA 形成に 向けた交渉が進展、世界的に地域統合の動きが活発 化した。こうした動きを受けて、経済規模の小さい 国の連合体である ASEAN は、他の地域に対抗し うる自由貿易市場創設に着手した。それが、AFTA である。
AFTA は92年、 シ ン ガ ポ ー ル で 開 催 さ れ た ASEAN 首脳会議において正式に決定され、9年か ら2008年 ま で の5年 で 実 現 す る こ と と さ れ た。
AFTA への取り組み開始時、ASEAN に加盟して いたのは6カ国(ブルネイ、インドネシア、マレー シア、フィリピン、シンガポール、タイ)であった が、その後、ベトナム、ラオス、ミャンマー、カン ボジアの4カ国(以下、後発加盟4カ国)が加盟した ことに伴い、ASEAN0カ国による自由貿易地域の 形成が目指された。
AFTA 形成にあたり、域内関税の引き下げを行 う 具 体 的 な プ ロ グ ラ ム が、 共 通 実 効 特 恵 関 税
(CEPT)スキームである。これは、次のようなも のである。
AFTA では、ASEAN で生産された工業製品・
農産品のほぼ全てが関税引き下げ対象とされたが、
発展途上地域である ASEAN にとって、全ての品 目の関税を一度に削減することは困難である。そこ で、ASEAN は、各国が当面、保護しておきたい品 目を一時的除外品目(TEL))として認め、それ以 外の品目を自由化対象品目(IL)とした。これら自 由化対象品目には域内で適用される低率の共通特恵 関税が設定されるが 、 これを一定期間内に0〜5%へ と引き下げていくよう加盟国に求めた 。 また、一時 的除外品目も、一定期間内に自由化対象品目に編入 し、当初の最終期限とされた2008年までに0〜5%内 に引き下げることを求めた2)。
⑵ 先行加盟6カ国は2010年に域内関税をほぼ撤廃 し、AFTA が完成
AFTA 形成に向けた取り組みを開始した当初、
各国とも自国産業を厳しい環境にさらす関税削減に 積極的とはいえなかった。
しかし、97年のアジア通貨危機、投資誘致競合国 として中国が台頭するなど外部環境が大きく変化し たことで、ASEAN 諸国は成長に必要な投資が他の 地域に奪われることへの危機感を強めた。ASEAN への外国投資の求心力維持の観点から貿易の自由化 について積極姿勢に転じた。
ASEAN 先行加盟6カ国は IL の関税率を0〜5%に する目標を当初の2008年から5年前倒しして200年 までにほぼ達成した)。そして、ASEAN は更なる
) 武器、麻薬など安全保障、公序良俗や健康保護などのために各国に認められた除外品目として一般的除外品(GEL)がある。
2) 後発加盟4カ国は、関税引き下げ対象とする品目、期限目標などが、先行加盟6カ国よりも緩く設定された。これら4カ国は、先行加 盟6カ国に比べて経済発展が遅れているためである。ベトナムは200年、ラオス、ミャンマーは2005年、カンボジアは2007年までに、
できる限り多くの品目を適用品目へ編入し、それらの品目の域内関税を0〜5%以下にすることとした。
) マレーシアは自動車関連28品目を200年以後も TEL にとどめ、関税を残存させたが、2005年に IL に移行させて、2006年月、自 動車の域内関税を全て5%以下に引き下げた。
貿易自由化を志向し(図表1)、2007年までに優先 分野で域内関税を撤廃した後、200年には、先行 6カ国においてほぼすべての品目で域内関税が撤廃 された。こうして、事実上 AFTA が完成した。
2000年代以後、東アジアでは自由貿易協定(FTA)
への取り組みが活発化したが、それらに先駆けて ASEAN は関税削減に取り組んだ。また、日本はこ れまでにカ国・地域と FTA 及び経済連携協定
(EPA)を締結しているが、そこでの自由化率はい ずれも9割に満たない。これと比較すれば、途上国 の FTA である AFTA の自由化率は高い水準にあ ると評価してよかろう。
3.ASEAN における経済統合はどこま で進んだか:実態面からの考察
本節では、前節で見た AFTA への取り組みなど を通じて、ASEAN 域内の経済的結びつきがどう なったのか、その実態について確認したい。
⑴ ASEAN の域内貿易は中間財を中心に拡大 ASEAN の輸出動向をみると、80年以後、アジア 通貨危機や世界金融危機などの時期を除けば拡大傾 向で推移した(図表2)。ここで、用途別内訳を見 ると、90年代半ば以後、部品や半加工品といった中 間財の増加が全体の輸出を押し上げていることがわ かる。
ASEAN が中間財を中心に輸出を拡大させた背景 には、東アジア広域でサプライチェーンが形成され、
発展したことが挙げられる。
ASEAN を含む東アジアでは、日本、韓国、台湾 のように技術に優位性を持つ国や、中国や ASEAN など低コストの労働力の豊富な国など、多彩な国が
(注)優先統合分野は自動車、エレクトロニクス、IT(情報技術)、航空、木材、農業、漁業、観光、ゴム、繊維・アパレル、ヘルスケアなど計11分野。
(資料)経済産業省『通商白書2010』
図表1:AFTAにおける関税削減スケジュール ASEAN先行加盟国
ベトナム ラオス・ミャンマー カンボジア
(ASEAN後発加盟国)
(ブルネイ、
インドネシア、
マレーシア、
フィリピン、
シンガポール、タイ)
関税0〜5%へ
(一部除く)
2002 2003
2004 2005 2006 2007 2008
2010 2011 2015
関税0〜5%とする 対象品目を最大化
関税0〜5%とする対象品目を最大化 関税0〜5%とする対象品目を最大化
関税0〜5%へ
関税0〜5%へ 関税0〜5%へ 2010年までに関税0%へ
優先統合分野(注)
については、
2007年までに 関税撤廃
優先統合分野 については、
2012年までに 関税撤廃 2015年までに関税0%へ
2015年までに関税0%へ 2015年までに関税0%へ
6
4) 80年代初頭は、第2次オイルショックをきっかけとする世界不況により、ASEAN 域外国向けの輸出割合は一時的に急減したものの、
8年ごろからは米国経済の回復とともに ASEAN 域外輸出が持ち直し、域内輸出割合は低下した。
5) 2000年代後半以降は、域内貿易比率が大きく高まらず、おおむね横ばいとの見方もできる。この点については後述する(第3節第 2項c)。
存在している。その国の特性を生かす形で電子・電 機など製造分野では生産工程が分割化され、各地に 分散した製造拠点間で部品がやり取りされるように なった。こうして、東アジア全域にわたるサプライ チェーンが形成され、生産拠点間で中間財貿易が大 きく拡大した。
こうした動きの中で、ASEAN は域内貿易の割合 を高めた。図表3は域内貿易比率(ASEAN 輸出額
÷対世界輸出)の推移をみたものである。域内貿易 比率は80年代後半以降4)、上昇傾向となり、アジア 通貨危機の影響から落ち込んだ時期もあるが、2004 年以降は約26%前後まで比率を高めた5)。
このように ASEAN 域内の貿易比率が高まった 背景には、AFTA 形成に向けた関税削減によって、
域内での部品や半加工品といった中間財貿易がより 活発に行われたことがあると考えられる。実際、財 別に見た域内貿易比率をみると、部品・半加工品の シェアは上昇傾向で推移し、2000年代半ば以後、特 にその比率を高めている(図表4)。
⑵ ASEAN 域内の貿易結合度は強まる
ASEAN 地域では中間財を中心に AFTA による 関税削減の動きなどを受けて、域内各国の経済的結 びつきが中長期的に強まっていると推察される。こ の点について、①貿易結合度、②貿易補完係数、③ グラビティモデルによる実証分析の点から検証し たい。
1980 84 88 92 96 2000 04 08 12
(年)
(注)域内貿易比率=ASEAN輸出額÷対世界輸出
(資料)IMF, Direction of Trade Statistics
図表3:ASEANの域内貿易比率
15 27
(%)
17 19 21 23 25
1980 85 90 95 2000 05 10
(年)
(資料)RIETI-TID 2012
図表2:ASEANの輸出額(用途別内訳)
0 12,000
(億ドル)
2,000 4,000 6,000 8,000 10,000
消費財資本財 部品・半加工品 素材
1985 90 95 2000 05 11
(年)
(資料)RIETI-TID 2012
図表4:財別域内貿易比率
0 30
(%)
10
5 15 20
25 資本財素材消費財部品・半加工品
a.貿易結合度
はじめに、2国間の貿易の結びつきの強さを表す 貿易結合度の変化をみよう(図表5)。2000年から 2005年の変化を見ると、ASEAN 諸国間の多くで貿 易結合度が高まっており、域内貿易の結びつきが強 まっていることが示されている。また、同時に ASEAN と中国や日本の結びつきも強まっており、
ASEAN を含む東アジアの広大なサプライチェーン 構築によって、東アジア域内貿易が活発化している ことを示唆している。
ところが、2005年〜200年、200年〜202年のそれ ぞれの2時点比較をみると、国によって濃淡はあるも のの、総じてみれば ASEAN 域内での貿易結合度が はっきりと強まっているという結果にはならなかっ た。特に世界金融危機以後の200年と202年時点の 変化を見ると、中国、日本、米国といった ASEAN 域外国との結びつきが強まっていることがわかる。
b.貿易補完係数
次に、自国の輸出品目構成と相手国の輸入品目が 図表5:貿易結合度の推移
【2000年】
インドネシア マレーシア フィリピン シンガポール タイ ベトナム 中国 米国 日本
インドネシア 2.46 2.44 5.00 1.70 2.37 126.00 0.70 3.90
マレーシア 2.48 3.25 8.71 3.73 1.98 0.87 1.06 2.19
フィリピン 0.91 2.80 3.87 3.25 0.80 0.49 1.54 2.47
シンガポール 15.51 14.07 4.54 4.38 6.18 1.10 0.89 1.27
タイ 3.69 3.17 2.90 4.12 4.95 1.15 1.10 2.48
ベトナム 3.27 2.22 6.11 2.90 2.65 3.00 0.26 2.79
ASEAN 1.58 5.84 6.25 3.91 2.95 3.73 1.09 0.82 2.24
【2005年】
インドネシア マレーシア フィリピン シンガポール タイ ベトナム 中国 米国 日本
インドネシア 3.83 3.27 5.45 2.63 2.39 1.37 0.75 4.70
マレーシア 3.07 2.77 9.31 5.40 2.48 1.16 1.28 2.09
フィリピン 1.50 5.70 3.91 2.85 2.28 1.75 1.17 3.90
シンガポール 12.55 12.66 3.60 4.13 5.81 1.52 0.68 1.22
タイ 4.67 5.01 3.66 4.13 6.43 1.46 1.00 3.04
ベトナム 1.88 3.03 5.05 3.52 2.67 1.76 1.18 2.99
ASEAN 6.25 6.33 3.16 3.87 3.59 4.20 1.42 0.93 2.48
【2010年】
インドネシア マレーシア フィリピン シンガポール タイ ベトナム 中国 米国 日本
インドネシア 5.37 5.49 4.17 2.33 2.21 1.06 0.69 3.51
マレーシア 3.11 4.26 6.41 4.29 3.19 1.34 0.72 2.25
フィリピン 0.96 2.46 6.84 2.80 1.99 1.19 1.12 3.27
シンガポール 10.33 10.77 5.55 2.90 3.75 1.11 0.49 1.00
タイ 4.18 4.95 6.89 2.23 5.05 1.18 0.79 2.26
ベトナム 2.26 2.71 6.66 1.46 1.36 1.12 1.55 2.38
ASEAN 5.15 5.78 5.77 2.75 2.43 3.37 1.17 0.69 2.08
【2012年】
インドネシア マレーシア フィリピン シンガポール タイ ベトナム 中国 米国 日本
インドネシア 4.99 3.61 4.76 2.86 1.69 1.35 0.67 3.61
マレーシア 3.90 2.68 7.28 4.31 2.57 1.56 0.73 2.54
フィリピン 1.42 1.65 4.94 3.85 1.61 1.41 1.21 4.33
シンガポール 9.30 10.36 2.86 3.12 3.57 1.28 0.47 1.05
タイ 4.30 4.56 3.92 2.49 3.99 1.39 0.84 2.33
ベトナム 1.87 3.41 3.12 1.13 2.09 1.33 1.50 2.69
ASEAN 4.73 5.29 2.97 2.92 2.95 2.85 1.36 0.74 2.32
(注)1. 貿易結合度(輸出ベース)は、(i国からj国への輸出額÷i国の総輸出額)÷(世界からj国への輸出額÷世界の総輸出額)で計算。
2. 網掛けは1時点前から増加している項目。
(資料)IMF, Direction of Trade Statistics
8
どの程度類似しているか、その度合いを示す指標で ある貿易補完係数をみよう(図表6)。ここでは品 目別の詳細データを使用するため、ASEAN6カ国
(タイ、マレーシア、シンガポール、フィリピン、
インドネシア、ベトナム)に絞って計算した。
貿易補完係数をみると、990年から2005年にかけ ては係数の値が高まっており、ASEAN 域内での貿 易の補完度が高まっていることがわかる。
ただし、2005年から足元にかけては補完係数の値 は高くなっておらず、近年は貿易の補完性が必ずし も高まっていない可能性がある。
c.グラビティモデルによる実証分析
ASEAN 地域が、他の貿易圏以上に域内貿易を創 出しているかどうかを検証するために、グラビティ モデルによる推計6)を行った。グラビティモデルと は、2国間貿易の決定要因を考察する際に多用され る推計モデルであり、経済規模や所得水準、2国間 の距離が主な説明変数として用いられる。理論上、
経済規模および所得水準が大きいほど、2国間の距 離が近いほど、2国間の貿易は活発になると考えら れる。本稿では、上記の変数に加えて、ASEAN ダ ミー変数(貿易を行う2国双方が ASEAN 加盟国で あった場合にの値をとり、そうでない場合を0とす る ダ ミ ー 変 数 ) を 説 明 変 数 に 加 え る こ と で、
ASEAN という地域性が貿易量に与える効果を測定 する。これを通じて、ASEAN 域内の経済統合に向 けた動きが、貿易創出にどの程度影響を及ぼしてい るのか、検証する。
グラビティモデルの推計式は下記の通りである。
( )
( ) ( )
ij ij ij
ij ij
ij
ij j
i
j i ij
NAFTA EU
ASEAN Language
Border
Dist GDPPC
GDPPC
GDP GDP T
ε β
β
β β
β
β β
α β
+ +
+
+ +
+
+ +
+
=
8 7
6 5
4
3 2
1
ln ln
ln ln
各変数は下記の通りである。
Tij:2国間の貿易額 GDPiGDPj:GDP の積
GDPPCiGDPPCj:人当たり GDP の積 Distij:2国間の距離
Borderij:2国間の国境の共有の有無のダミー Languageij:共通言語の有無のダミー ASEANij:ASEAN ダミー
EUij:EU ダミー
NAFTAij:NAFTA ダミー
対象国は貿易データが入手可能な約200カ国であ るが、年によっては欠損している国がある。また、
2国間で貿易が行われていない場合はサンプルから 除 外 さ れ て い る7)。 推 計 期 間 は990年、2000年、
2005年、200年、202年の5カ年のクロスセクショ
6) グラビティモデルの理論的背景については遠藤(2005)、Feenstra(200)などを参照。
7) 各年のサンプル数は約4,000〜20,000程度。
図表6:貿易補完係数の推移
1990年 1995年 2000年 2005年 2010年 2012年 HS1992 48.6 53.0 59.1 62.6 61.4 61.5
HS1996 58.1 62.5 61.7 61.3
HS2002 65.8 62.0 61.8
(注)1. 貿易補完係数は以下の式から算出した。
Cij=100−Σ(|mik―Xij|/2)
mik:k国のi品目の輸入シェア(対世界)
Xij:j国におけるi品目の輸出シェア(対世界)
2. 「HSコード」とは、“Harmonized Commodity Description and Coding System”(「商品の名称および分類についての統一システム」(以下、
HS))として、国際貿易商品の名称および分類を統一する目的のために 作られたコード番号。HS の分類は定期的に見直しをしており、過去 1992年、96年、2002年、2007年、2012年に実施されている。表の
「HS1992」、「HS1996」、「HS2002」はそれぞれ92年、96年、2002年基 準での分類による計算を表す。
(資料)UN Comtrade
ンである8)。
推計の結果、ASEAN ダミー係数は80年以降、一 貫して統計的に正で有意であり、距離の近さと絶対 値でみてほぼ同程度となる(図表7)。この結果は、
AFTA をはじめとする ASEAN 地域の経済統合に 向けた取り組みが域内貿易を促進させていることを 示唆するものである。
ただし、2005年以降の ASEAN ダミー係数の推 移をみると、ASEAN の地域効果は時間の経過とと もに高まっていない。
以上のように、貿易結合度、貿易補完係数、グラ ビティモデルによる実証分析の点からは、いずれ も990年から2005年前後までは ASEAN 域内経済 の結びつきが着実に強まっていることを示してい る。一方で、2000年代後半以後、ASEAN 域内の一
体化が以前ほど進捗していないことも示唆される。
また、域内貿易比率をみても、2000年代前半に26%
程度まで高まった後、おおむね横ばいで推移してい る(前掲図表3)。
この背景には、①米国を中心とする世界経済全体 が好景気だったこともあり、先進国向け輸出の増勢 も強まっていたこと、②世界貿易機関(WTO)加 盟後の中国が最終輸出拠点として本格的に台頭した ことで対中輸出の増勢が強まったといった要因が考 えられる。
しかしながら、これまでは AFTA による関税削 減を核として、ASEAN 先行加盟6カ国を中心に域 内貿易の結びつきが強まってきたが、関税削減が大 部分で完了したことにより、貿易創出効果が限界的 に逓減し始めている可能性がある。ASEAN が今後、
8) 本稿のグラビティモデルは、CEPII(Centre d'Etudes Prospectives et d'Informations Internationales)から利用可能な「The CEPII gravity dataset」を用いて推計を行った。2006年まで統計が収録されており、それ以降については同じデータ出典を用いて202年 までデータセットを延伸して推計を行った。貿易統計は IMF の“Direction of Trade”の輸入額を用いた。データが存在しない国 については輸出額で代替した。GDP と人口は世界銀行の“World Development Indicators”を用いた。2国間の距離と国境ダミー、
図表7:グラビティモデルによる推計結果
1990年 2000年 2005年
係数 標準誤差 係数 標準誤差 係数 標準誤差
GDPの積 0.93 *** 0.01 1.03 *** 0.01 1.06 *** 0.01 1人当たりGDPの積 0.15 *** 0.01 0.07 *** 0.01 0.05 *** 0.01 2国間の距離 −1.22 *** 0.03 −1.32 *** 0.02 −1.32 *** 0.03 2国間の国境の共有の有無のダミー 0.73 *** 0.13 1.16 *** 0.12 1.15 *** 0.12 共通言語の有無のダミー 0.77 *** 0.05 0.85 *** 0.05 1.19 *** 0.05 ASEANダミー 1.08 *** 0.28 1.37 *** 0.29 1.51 *** 0.31 NAFTAダミー −0.32 *** 0.11 −0.29 *** 0.11 −0.25 ** 0.12
EUダミー −0.52 *** 0.13 0.06 0.10 −0.00 0.12
定数項 −9.69 *** 0.29 −9.99 *** 0.24 −10.95 *** 0.26
2010年 2012年
係数 標準誤差 係数 標準誤差
GDPの積 1.04 *** 0.01 1.03 *** 0.01
1人当たりGDPの積 0.05 *** 0.00 0.07 *** 0.01 2国間の距離 −1.24 *** 0.02 −1.29 *** 0.03 2国間の国境の共有の有無のダミー 1.13 *** 0.12 1.15 *** 0.13 共通言語の有無のダミー 1.11 *** 0.05 1.14 *** 0.05 ASEANダミー 1.12 *** 0.28 1.10 *** 0.29
NAFTAダミー 0.11 0.12 0.12 0.12
EUダミー 0.51 *** 0.11 0.50 *** 0.11
定数項 −11.7 *** 0.26 −11.79 *** 0.27
(注)1. ***は1%水準で有意、**は5%水準で有意、*は10%水準で有意を意味する。
2. “CEPII gravity dataset”を基にデータを延伸。
(資料)CEPIIなどよりみずほ総合研究所推計
0
より一体化していくためには、まず、後発加盟4カ 国の域内関税を撤廃し、ASEAN 全域を自由貿易圏 にする必要があろう。また、関税面だけにとどまら ず、非関税障壁の撤廃といった制度面の統合を更に 進めると共に ASEAN 全域を横断的に結びつける インフラ整備などに取り組むことも重要と思われ る。
では、ASEAN が地域の一体化を進めるため、ど のような取り組みを行っているか、次節で見ること にしよう。
4.ASEAN 経済共同体創設に向けた取 り組み
⑴ ASEAN 経済共同体の性格と創設に向けた行動 計画(AEC ブループリント)
第2節で見たように、ASEAN は AFTA 形成に取 り組み、先行加盟6カ国による域内関税0〜5%とい う目標を200年に達成した。当面の目標をクリアし た ASEAN は、200年0月、「第2 ASEAN 協和宣言」
により共同体の形成を志向した。「第2 ASEAN 協 和宣言」では、ASEAN 安全保障共同体、ASEAN 経済共同体(AEC)、ASEAN 社会文化共同体から 成る ASEAN 共同体の創設がうたわれた。
このうち、AEC は AFTA を中核としつつも、自 由貿易地域にとどまらず、貿易円滑化、サービス貿 易の自由化、投資の自由化・円滑化、基準適合、相 互認証などを含む経済統合を目指すものである。
AEC は、2020年までに発足させることが当初目 標であった。しかし、グローバル化の進展、中国、
インドなど周辺新興国の台頭といった情勢を踏ま え、2007年月、ASEAN 首脳会議において、当初 目標よりも5年前倒しし、205年に発足することで 合意した9)。そして、2007年月の ASEAN 首脳会 議では、AEC 設立に向けた行動計画である AEC ブループリントが採択された。
AEC ブループリントには4つの戦略目標がある
(図表8)。具体的には、①単一の市場と生産基地、
②競争力ある経済地域、③公平な経済発展、④グロー バル経済への統合である。そして、戦略目標ごとに 7の中核要素と76の優先事業からなる包括的な行 動計画が作成されている。これらの実施スケジュー ルは2008年から205年を対象とし、2年ごと4つの フェーズで区分されている。
9) 「205年までに」と表現されたことから、205年月日時点で発足する目標だったが、202年の ASEAN 首脳会議で「205年中」と 表記されたことで、実質的に年後ろ倒しされて、205年2月日までとなった。
なお、AEC では域内関税は原則撤廃するが、関 税同盟0)ではないため、域外関税については各国に その裁量が委ねられる。また、サービス貿易や投資 は全てを自由化するのではなく、一定程度の制限が 残る。さらに、人の移動円滑化は熟練労働者に限定 された。このように、AEC が目指している経済統 合は EU のような強固な共同体形成を志向するもの ではなく、日本などが締結している EPA に類似し た水準といえる(図表9)。
以下では、AEC 形成にあたり中核となる物品の 自由化・円滑化、サービス分野への投資自由化がど の程度進んでいるのか、見ていくことにしよう。
⑵ 域内関税の更なる削減・撤廃と特恵関税利用拡 大に向けた取り組み
ASEAN は200年までに先行加盟6カ国で域内関 税をほぼ撤廃したが、後発加盟4カ国については、
205年中に原則、域内関税の撤廃を図ろうとしてい る。
また、2009年に ASEAN 物品貿易協定(ATIGA)
が 締 結 さ れ た。 こ の 協 定 は、AFTA に お け る CEPT を改定したものであり、99年以後に追加さ れた措置を統合した協定である。具体的には、原産 地規則、非関税障壁撤廃、貿易円滑化、税関、基準 と適合性評価など広範な分野を含む包括的な協定で あり、物品貿易の自由化・円滑化をより促進させる 法的枠組みがこれにより整備されたといえる。
a.域内関税の削減・撤廃状況
図表10は、ASEAN 加盟国の関税削減・撤廃状況 を示したものである。先行加盟6カ国では、20年2 月時点で全6,202品目のうち60,72品目、すなわち 99.2%の品目で関税が撤廃されている。
関税が0〜5%の品目をみると(図表11)、マレー シアはバナナ、パイナップルなどの果物、フィリピ ンは豚など肉類、とうもろこしである。さらに、タ イは切り花及び花芽、ばれいしょ、コーヒーなどで ある。一方、5%超の品目はコメ(インドネシア、
図表8:ASEAN経済共同体ブループリントの … 戦略目標
戦略目標 コア・エレメンツ
①単一の市場と生産基地 ・物品の自由な移動(10項)
・サービスの自由な移動(3項)
・投資の自由な移動(8項)
・資本のより自由な移動(2項)
・熟練労働者の自由な移動(2項)
・優先統合分野(3項)
・食料・農業・林業(3項)
②競争力ある経済地域 ・競争政策(1項)
・消費者保護(1項)
・知的所有権(3項)
・インフラ開発(12項)
・税制(1項)
・電子商取引(1項)
③公平な経済発展 ・中小企業(1項)
・ASEAN統合イニシアチブ(3項)
④グローバル経済への統合 ・対外経済関係(1項)
・ グローバル・サプライネットワークへの参 加(1項)
(資料)ASEAN事務局「AEC Blueprint」
図表9:ASEAN経済共同体とEU、EPAとの比較
AEC EU EPA
関税撤廃 ○ ○ ○
非関税障壁撤廃 ○ ○ △
貿易円滑化 ○ ○ ○
域外共通関税 × ○ ×
規格相互承認 △ ○ ○
サービス貿易自由化 ○ ○ ○
投資自由化 ○ ○ ○
ヒトの移動 △ ○ △
知的所有権保護 ○ ○ ○
政府調達開放 × ○ △
競争政策 △ ○ △
域内協力 ○ ○ ○
共通通貨 × ○ ×
(注) ○:対象としている。△:対象としているが範囲が限定、あるいは100%実 現は困難。×:対象としていない。
(資料)石川・清水・助川(2013)などよりみずほ総合研究所作成
2
図表10:ASEAN諸国のAFTAの下での域内関税削減・撤廃状況(2013年2月)
総品目数 関税率0% シェア(%) 関税率0%超 5%以下 5%超 その他
ブルネイ 9,916 9,844 99.3 72 0 ― 72
インドネシア 10,012 9,899 98.9 113 0 17 96
マレーシア 12,337 12,182 98.7 155 60 13 82
フィリピン 9,821 9,685 98.6 136 74 35 27
シンガポール 9,558 9,558 100 0 0 ― ―
タイ 9,558 9,544 99.9 14 14 ― ―
ASEAN6 61,202 60,712 99.2 490 148 65 277
カンボジア 8,300 3,327 40.1 4,973 4,833 140 ―
ラオス 9,558 7,525 78.7 2,033 1,585 361 87
ミャンマー 9,558 7,614 79.7 1,944 1,884 ― 60
ベトナム 9,558 6,905 72.2 2,663 2,365 98 190
CLMV 36,974 25,371 68.6 11,603 10,667 599 337
ASEAN10 98,176 86,083 87.7 12,093 10,815 664 614
(注)1.「その他」はAFTA特恵関税が示されていないもの。5%以上の品目は、一般的除外品目(GEL)、センシティブ品目(SL)、高度センシティブ品 目(HSL)から関税削減・撤廃品目(IL)に組み込まれたもの。
2.AHTN2012バージョン。カンボジアのみAHTN2007。ここでAHTNはASEAN統一関税コード。
(資料)ASEAN事務局資料(2013年2月)
図表11:ASEAN先行加盟国のAFTAにおける関税残存品目
HSコード 品目名 ブルネイ インドネシア マレーシア フィリピン タイ
品目数 関税率 品目数 関税率 品目数 関税率 品目数 関税率 品目数 関税率
0103 豚 4 5%
0105 家禽類 6 5%
0203 豚肉 20 5%
0207 家禽類肉及び食用くず肉 36 5%
0603 切り花及び花芽 6 5%
0701 ばれいしょ 2 5%
0714 キャッサバ、かんしょ芋 6 5%
0803 バナナ 6 5%
0804 パイナップル、アボカド、マンゴー及びマンゴスチン 4 5%
0807 パパイヤ及びメロン 4 5%
0810 その他の果実 9 5%
0901 コーヒー 5 5%
1005 とうもろこし 2 5%
1006 コメ 10 30% 12 20% 19 40%
1203 コブラ 1 5%
1302 植物性液汁・エキス 2 MFN
1701 甘しや糖、てん菜糖、しょ糖 5 25% 16 18%
2106 調整食料品 7 MFN
2203 ビール 2 MFN 2 MFN 4 GE
2204 ワイン 13 MFN 13 MFN 13 GE
2205 ベルモット、その他ワイン 4 MFN 4 MFN 4 GE
2206 その他の発酵酒 6 MFN 6 MFN 10 GE
2207 エチルアルコール(アルコール分80%以上) 1 MFN
2208 エチルアルコール(アルコール分80%未満) 16 MFN
2401 たばこ 2402 葉巻タバコ
2403 その他の製造タバコ、製造タバコ代用品
2639 植物アルカロイド 4 MFN
3006 医療用品等 2 MFN
3302 食品・飲料工業用アルコール 2 MFN
3601 火薬 1 MFN
3602 爆薬 1 MFN
3604 花火 1 MFN
3825 化学工業残留物、都市廃棄物等 10 MFN
8710 戦車その他の装甲車両 1 MFN
9301 軍用の武器 3 MFN 3 MFN 3 GE 3 GE
9302 拳銃 1 MFN 1 MFN 1 GE 1 GE
9303 その他の火器及びこれに類する器具で発射火薬により作動するもの 4 MFN 4 MFN 4 GE 4 GE
9304 その他の武器 2 MFN 2 MFN 2 GE 2 GE
9305 武器、火薬等の部部品及び付属品 8 MFN 8 MFN 8 GE 8 GE
9306 爆弾、手りゅう弾、魚雷、機雷、ミサイル及び部分品 8 MFN 8 MFN 10 GE 8 GE
9307 刀、剣、やりその他の部部品 1 MFN 1 MFN 1 GE
品目数 72 113 115 135 14
(注)GEは一般的除外(General Exceptions)品目、MFNは最恵国待遇(Most Favoured Nation)税率。
(資料)石川・清水・助川(2013)
マレーシア、フィリピン)、砂糖類(インドネシア、
フィリピン)に限られる。このように、先行加盟6 カ国では、農産品の一部で関税が残存するが、工業 製 品 に つ い て は ほ ぼ 関 税 が 撤 廃 さ れ て い る。
ASEAN 域内では部品・半加工品などをやりとりし やすい環境となっているといえるだろう。
他方、後発加盟4カ国では、全6,974品目のうち 25,7品目、すなわち68.6%の品目で関税が撤廃さ れている(前掲図表10)。また、関税が0〜5%の品 目数は0,667であり、全体の28.9%である。更に、
関税率5%超の品目は全体の2.5%となっている。
国別に関税撤廃の割合を見ると、ラオスが総品目 数の78.7%、ミャンマーが同様に79.7%、ベトナム が72.2%と、これらカ国は7割を超えている。しか し、カンボジアは現時点で40.%にとどまっている。
カンボジアは、200年までに IL 品目全ての関税を 0〜5%化、そのうちの60%で関税撤廃を約束してい たが、進捗が遅れている。
なお、後発加盟4カ国は205年中に IL 品目の関税 を原則、撤廃する計画だが、総品目数の7%以下の 範囲であれば、208年まで撤廃が猶予されることと なっている。各国ともに、対象となる品目及び削減 スケジュールは204年中に確定することになってい るが、204年2月時点で、どの品目で柔軟措置が適 用されるかはわかっていない。もっとも、ベトナム の場合、猶予対象品目にほぼすべての自動車、二輪 車及び同製品が含まれるとされる(石川・清水・助 川(20))。
b.特恵関税利用拡大に向けた取り組み
ところで、ASEAN 域内の取引において、域内特 恵 関 税 の 適 用 を 受 け る た め に は、 当 該 製 品 が
AFTA の下での「ASEAN 原産品」であることが 必要である。ASEAN 原産品かどうかを判定する規 則が原産地規則である)。
AFTA における原産地規則は、発足当初から「累 積現地調達率2)が40%以上」とされてきた。企業に とって、この累積基準は為替相場や原材料費の変動 によって、クリアできないリスクがある。このため、
多くの企業はこれらの変動を考慮して5〜0%程度 のバッファーを確保することで、リスクを回避して いると言われる(石川・清水・助川(20))。また、
企業は製品モデルごとに原産地比率を管理しなけれ ばならず、モデル数が多いとその管理だけで相当な 負担を強いられるという。こうした管理コストは、
AFTA における特恵関税利用上の障害となってき た。
こうした状況を受けて、ASEAN は原産地規則に おいて、2008年8月から関税番号変更基準の採用も 認めた)。これは、原産地証明書の発給を受ける産 品の部品表等に関税分類番号を振り、「産品」と使 用した「材料・部品」との間で関税分類番号が変更 されているか否かによって原産性を判断するもので ある。これを適用すれば、累積現地調達率基準を採 用した場合の価格変動リスクは回避できる。
実際、原産地規則の柔軟適用が認められた2008年 当時、液晶テレビは、日本や韓国など域外から調達 するパネルの付加価値が全体の6〜7割を占めたた め、累積基準では特恵税率を享受できなかった。し かし、関税番号変更基準を採用すれば、部材の一部 を域内から輸入した関税番号(主として部品・材料)
と、最終製品として輸出する関税番号(完成品)が 異なるため、原産地条件をクリアできる。こうして、
液晶テレビはマレーシアで最終製品に組み立てられ
) 以下の説明は、石川・清水・助川(20)p.52〜56を参考にした。
2) 製造工程において、複数の場所で複数の者により行われる場合、それをひとまとまりのものとみなした上で、付加価値の累積水準 が一定の原産地基準を満たしているか判断するもの。
) 2008年8月以前も、木製品、アルミニウム製品など一部品目では適用が認められていた。
4
て、ASEAN 製品として域内で輸出できるように なった。
なお、「累積現地調達基準」あるいは「関税番号 変更基準」の選択制は、ASEAN が域外国・地域と 締結する FTA・EPA でも採用されており、域内の 企業は特恵関税による調達・輸出の幅が ASEAN 域内から域外へも広がりをみせている(石川・清水・
助川(20))。
⑶ 非関税障壁の撤廃に向けた取り組み
上述の通り、ASEAN 域内の関税削減・撤廃は着 実に進展している。しかし、関税を撤廃するだけで はなく、貿易を円滑に行うために非関税措置も削減・
撤廃していく必要がある。どれほど関税削減を実現 しても、それに代わる別の方法が貿易の促進を妨げ るのであれば、関税削減の意味はなくなってしまう ためである。
ASEAN 事務局は、ASEAN 各国に貿易制限措置 を自主的に報告するよう求めている。そして、それ ら報告された措置に対して、存続が妥当かを評価し、
「妥当」と判断できないものに関しては、できる限 り削減・撤廃していくよう求めることとした。
また、前述の ATIGA では、貿易制限措置を新た に導入しない、既存の貿易制限措置を段階的に削減・
撤廃するという原則の下、フィリピンを除く先行加 盟5カ国は200年、フィリピンは202年、後発加盟4 カ国は遅くとも208年までに非関税障壁を撤廃する 計画であった。
しかし、非関税措置は輸入割当や非自動輸入許可 など明示的な輸入制限措置がある一方、安全規格、
工業標準、保健衛生規則、品質規格など技術的措置 が課されているものもある。また、非関税障壁の撤 廃は国内法の改正が必要なものが多く、概して時間
を要する。そのため、ATIGA で合意されたスケ ジュールで非関税措置を削減・撤廃することは容易 ではない(石川・清水・助川(20))。
例えば、ATIGA「非関税措置」の項目では「新た な措置の導入または既存措置を改定する場合、通告 手続きに沿って通報すること」が明記されている。
これに従えば、新たな措置を導入した国は ASEAN 事務局に対し、発効60日以前に通報することが求め られている4)。しかし、実際には ASEAN 事務局に 通報せずにこれら措置を導入するケースが頻出して いる。例えば、インドネシアは200年、自動車部品、
化粧品、陶器、鉄鋼、省エネ電球、携帯電話、自転 車の7品目について輸入検査を義務化する措置を導 入した5)。これは、200年の ASEAN 域内関税撤廃 や ASEAN 中国 FTA で国内に輸入品が増加するこ とを懸念し、導入されたと言われているが、上述の 通報手続きを経ていない。
こうした状況下、20年8月の ASEAN 経済大臣 会議では、非関税措置の削減・撤廃に関し、各国の 取り組みが遅れていることへの懸念を表明してい る。そして、非関税障壁撤廃の重要性と ATIGA で 要求される通り、透明性、適切な通知、評価義務を 遵守することの必要性を確認した。
⑷ サービス貿易の自由化に対する取り組み ASEAN は95年に締結された「ASEAN のサービ ス貿易に関する枠組み協定(AFAS)」の下で、パッ ケージと呼ばれる新規の約束表を重ねる形でサービ ス貿易の自由化を進めている。
サービス貿易はその形態によって4つに分類され る。第モード(越境取引)、第2モード(国外消費)、
第モード(サービス分野拠点設置)、第4モード(労 働移動)である6)。第、第2モードについては自由
4) ATIGA では、以下項目について ASEAN 事務局に通報することになっている。すなわち、①関税、②数量割当、③追加費用、
④数量制限、⑤その他の非関税措置、⑥関税評価、⑦原産地規則、⑧基準・認証制度、⑨衛生植物検疫制度(SPS)、⑩輸出税、⑪ 貿易ライセンス手続き、⑫輸出入関連外国為替管理、⑬8桁以後の ASEAN 統一関税コード(AHTN)の設定である。
5) これは脚注4で示した⑤その他の非関税措置に当たり、通報義務がある。
化を実施済みで、現在、第モードのサービス分野 の投資自由化に取り組んでいる。
AEC ブループリントでは、5つの優先統合分野を 挙げて、サービス分野の自由化を図ろうとしている
(図表12)。具体的には、航空、e-ASEAN(電子政府)、
ヘルスケア、観光の4つは200年までに、もうつの 物流サービスは20年までに、ASEAN 企業が参入 する場合の出資制限を70%まで容認する。そして、
その他サービス分野についても205年中に出資比率 制限を70%まで引き上げることを求めている。
しかし、現在、シンガポール以外の加盟国は、サー ビス分野の投資自由化については慎重である。当初、
第8パッケージの取り組みでは、ASEAN 企業の出 資比率5%以上の容認は優先統合分野で2008年、物 流サービス、その他すべてのサービスは200年まで に実現する目標だった。しかし、第8パッケージが 合意されたのは当初の予定から2年遅れた202年で あった。こうした遅延を受け、ASEAN は当初目標 を205年中に達成することは困難と判断、達成年限 を2年後ろ倒しにした。
そして、修正した自由化スケジュールも既に遅延 している。第9パッケージでは、物流サービス分野 で出資比率70%以上、その他のサービス分野も少な くとも4分野で5%以上の出資比率を容認するもの だったが、20年8月の ASEAN 経済大臣会議では 第9パッケージに署名することはできなかった。
⑸ スコアカードによる AEC ブループリントの評価 先述したように、AEC 創設に向けた行動計画は 2007年に発表されたブループリントである。そして、
ブループリントの実施状況はスコアカードで評価さ れている。
ブループリントの前半期間(2008〜年)のスコ アカードが公表されており、その内容を見ると、「単 一の市場と生産基地」が65.9%、「競争力のある経 済地域」が67.9%、「公平な経済発展」が66.7%、「グ ローバル経済への統合」については85.7%で、全体 で67.5% の目標が達成されたと評価されている(図 表13)。全体の進捗状況は、経済大臣会合の場で確 認 さ れ て い る が、 そ れ に よ れ ば202年0月 は 74.5%、20年8月は79.4%と発表されている(詳細 については非公表)。
これらを見る限り、AEC 形成に向けた取り組み は着実に進展しているように見える。しかし、既に 見たように、域内の関税削減・撤廃は進捗している ものの、非関税障壁、サービス貿易自由化への取り 組みは遅れている。
ここで、「単一の市場と生産基地」の取り組み状 況を見ると、フェーズⅡに入ってから、進捗が遅れ ていることがわかる(図表14)。こうした背景には、
図表13:ASEAN経済共同体スコアカード全体評価
(単位:%)
フェーズⅠ
及びⅡ フェーズⅠ
(2008~09年) フェーズⅡ
(2010~11年)
単一の市場と生産基地 65.9 93.8 49.1
競争力のある経済地域 67.9 68.7 67.4
公平な経済発展 66.7 100.0 55.5
グローバル経済への統合 85.7 100.0 77.8
合計 67.5 86.7 55.8
(注)フェーズⅢ(2012~13年)の詳細は未公表。
(資料) ASEAN Economic Community Scorecard -Charting Progress Toward Regional Economic Integration Phase Ⅰ (2008-2009) and Phase Ⅱ (2010-2011)
図表12:サービス分野における外資出資比率制限
(分野別目標)
(単位:%)
2008年まで 2010年まで 2013年まで 2015年まで 航空、e-ASEAN、
ヘルスケア、観光 51 70 70 70
物流サービス 49 51 70 70
その他 49 51 51 70
(資料)ASEAN事務局「AEC Blueprint」