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沖縄におけるひとり親家庭の生活構造に関する試論

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沖縄におけるひとり親家庭の生活構造に関する試論

~島嶼性の観点から~

An essay about life structure of single-parent families in Okinawa

~ from viewpoint of insularity ~

宮平 隆央

Takao Miyahira

【要旨】

 沖縄は他都道府県に比べ離婚率が高く、ひとり親家庭が多い。ひとり親家庭が抱える生活上の問 題や「生きにくさ」、その困窮状況も注視されている。しかし、沖縄のひとり親家庭に関する研究 の蓄積は意外に限られており、ひとり親家庭の抱える課題は歴史的経緯による制度整備の遅れ等を 原因として理解されることが多い。

 本稿では、そうした歴史的特殊性を踏まえつつも、沖縄の島嶼性を主眼におき、島嶼であること がひとり親家庭の生活構造をどう規定し、影響しているかを考察する試みを行いたい。

【目次】

1.研究の背景

  1)沖縄のひとり親世帯の概況

  2)沖縄のひとり親世帯に関する研究動向   3)本稿の問題関心

2.「ひとり親」「生活構造」「シマ」とは何か?

  1)「ひとり親」とは誰か   2)「生活構造」とは何か   3)「シマ」とは何か

3.まとめ ~沖縄というシマでひとり親家庭であることとは~

1.はじめに

 1)沖縄のひとり親世帯の概況   ア)高いひとり親家庭の割合

 これまで、沖縄はひとり家庭1の割合が高いといわれてきた。実際、平成

22

年の国勢調査にお ける総世帯に占める母子世帯の割合は、全国が

1.46%

であるのに対し、沖縄県は

2.72

%となってお り、全国

1

位である。

(2)

 沖縄県においては、おおむね

5

年おきにひとり親世帯の実態調査を行っているが、直近の平成

25

年の調査時点では、母子世帯数が

29,894

世帯、父子世帯数が

4,912

世帯、寡婦世帯が

6,817

世 帯となっており、ひとり親世帯の大半を占める母子世帯は世帯数・出現率ともに上昇傾向にある。

 上述の『沖縄県ひとり親世帯等実態調査(平成

25

年)』によれば、母子世帯の母の就労収入は約

7

割が「

200

万円未満」となっており、現在の暮らし対する主観的な評価では「大変苦しい」「苦し い」「やや苦しい」を合わせると約

8

割となり、大半の対象者が生活上の困難を訴えている 2。  

2008

年の

OECD

による子どもの貧困率の公表や

2014

年の厚生労働省による子どもの貧困率の 発表、また

2013

年の「子どもの貧困対策の推進に関する法律」成立などを受けて、子どもの貧困 に対する関心の高まりとともに、沖縄県においても「沖縄県子どもの貧困対策計画」が

2016

年に 策定されたが、生活困窮のリスクが高いと考えられるひとり親家庭に限った施策及び調査研究につ いては、存外少ないように感じられる。次項では、沖縄のひとり親世帯に関する研究動向を概観し て、本稿が取り扱う課題につなげたい。

表1 母子世帯割合が高い都道府県(上位5道県)

都道府県名 母子世帯の割合 順位

全国 1.46  

沖縄県 2.72 1

宮崎県 2.12 2

北海道 2.07 3

青森県 2.07 3

高知県 2.00 5

(資料出所)総務省統計局(2010)『平成22年国 勢調査』、掲載図表は沖縄県(2016)『100の指 標からみた沖縄県のすがた』掲載図表を、筆者 が加工したものである。

(注)母子世帯の割合=母子世帯数/総世帯数、

単位:%

表2 ひとり親世帯数及び出現率の推移

調査年度 世帯総数 母子世帯 父子世帯 寡婦世帯

世帯数 出現率(%) 世帯数 出現率(%) 世帯数 出現率(%)

昭和51 1976 279,469 9,384 3.36 - - - -

昭和56 1981 306,938 13,008 4.24 - - - -

昭和60 1985 339,255 - - 3,180 0.94 - -

昭和61 1986 354,565 15,454 4.36 - - - -

平成5 1993 403,350 20,798 5.16 3,919 0.97 - -

平成10 1998 429,799 20,262 4.71 4,069 0.95 5,867 1.37

平成15 2003 474,797 25,604 5.39 4,265 0.90 16,160 3.40

平成20 2008 516,727 26,846 5.20 4,508 0.87 6,194 1.20

平成25 2013 547,288 29,894 5.46 4,912 0.90 6,817 1.25

(資料出所)沖縄県(2013)『沖縄県ひとり親世帯等実態調査』(概要版)より引用

(注)総世帯数・平成20年以前の値については、原典の注釈を参照。

(3)

 2)沖縄のひとり親世帯に関する研究動向

 まず、沖縄のひとり親家庭に関する論文等がどの程度存在するか概観するために、国立研究開 発法人科学技術振興機構の論文検索ポータル「J-stage」と国立情報学研究所の論文検索ポータル

CiNii

」を使って、論文等の数を数えてみた。

 「沖縄」「ひとり親」で検索した場合、J-stage:

17

件、CiNii:1件であった。「沖縄」「母子家 庭」で検索した場合でも

J-stage

35

件、

CiNii

3

件である。「沖縄」「児童福祉」:

J-stage

97

CiNii:15

件となり、やや検索数が多くなるが、いずれの場合でも保育や母子保健・小児医療な

どに関する論文等も含まれており、必ずしも沖縄のひとり親に関する研究が多いわけではないとみ られる。

 このほか、沖縄県立図書館所蔵の資料についてもフリーワード検索で資料数をカウントした場合、

「沖縄」「母子家庭」では

10

件、「沖縄」「ひとり親」では

13

件、「沖縄」「児童福祉」では

68

件となっ ており、行政資料などが多く含まれている。

 「子どもの貧困」が社会的課題として注目される中、沖縄における子どもの貧困や子育てに関す る社会的課題を取り上げた書籍として注目を浴びた『沖縄子ども白書』(

2010

)や『沖縄子ども貧 困白書』(2017)においても、ひとり親家庭について一項を割いて言及されているが、ひとり親支 援に関わる当事者の実践記録や児童福祉行政の中でのひとり親家庭(母子家庭)施策の経緯などが 主であり、ひとり親家庭の生活状況そのものについて細かな検討がなされているものは少ないよう に見受けられる。

 これらの沖縄のひとり親家庭に関する論考においてとりあげられるのは、「米軍統治の影響によ る制度整備の遅れ」「低賃金・高失業による保護者の不安定な生活」などの諸点がある。実際、沖 縄におけるひとり親支援の制度的裏付けとなる「母子福祉法」が制定されたのは

1968

年であり、

日本本土に遅れること

4

年、児童福祉の基本法である児童福祉法の制定は

1953

年(本土は

1947

年)

6

年遅れであり、琉球政府で児童福祉行政にあたって渡真利源吉は当時を回顧して「制度機構や 人的資源もさることながら、特に財政の面においては極めて貧しく(当時、行政府の力で作り得た 施設はほとんどなかった)。従って、沖縄の戦後児童福祉対策はまことに乏しいものであった。」と 述べている3

 また、「低賃金・高失業による保護者の不安定な生活」という点に関しては、先述の『沖縄子ど も白書』中の「沖縄は子育てしやすいのか」という一節において、吉葉研二・金城智代が、近代化 の過程で沖縄が日本に統治されるようになった歴史的経緯を踏まえたうえで、「沖縄は全国一所得 が低いことに現れるような経済状況を温存したまま、貧困は自己の責任、という新自由主義経済に 巻き込まれた。このことが沖縄の子育てと保育・幼児教育の営みを貧困化し、子どもが最善の利益 を守られながら成長・発達することを侵害している。」4と述べ、社会経済的な構造が子育てや子ど もの福祉に影響を与えてることを指弾している。

 これらの視点は広く人口に膾炙し、また概ね首肯できる側面をもっているが、子どもの貧困、と りわけそのリスクが高まりやすいひとり親家庭の抱える課題について、その課題を生み出す構造そ

(4)

のものを逆に見えにくくすることを懸念させる。

 例えば、子どもの貧困を語る際によく用いられる「貧困の連鎖」という表現があるが、雑駁に言 えば「子どもの貧困は社会の仕組みが生み出す」という風にとらえられる。しかし、「どのような 社会の仕組みが、どのように子どもや保護者の生活に影響し、親子の生活の仕組みをゆがめるのか」

という点に踏み込むことが必要ではないかと筆者は考える5。次項においては、ひとり親家庭の先 行研究を踏まえながら、本稿の問題関心について言及する。

 3)本稿の問題関心

 昨今のひとり親世帯に関する研究では、ひとり親世帯の生活時間や住居等、当事者の生活を規定 する要因を探り、当事者が抱える困難をより構造的に明らかにしようとする研究がみられる。

 例えば、王瑋は、従来の貧困研究が所得を中心とした指標に基づいていたのに対し、金銭と同様 に有限である時間の不足(時間の貧困)に着目し、所得と時間の同時貧困についての研究を行って いる6。王によれば、分析対象となった回答者のうち、時間と所得の同時貧困に陥っている人の割 合は

1.9%

であったのに対し、ひとり親世帯では

18%

となったとしている。また、生活時間を労働 時間に振り分けることで、所得の貧困から脱出できる可能性がある人の割合がひとり親世帯では約

14%

となったという知見を示している。こうした視点に基づけば、では、ひとり親等の所得と時間 の貧困を招くメカニズムは何に由来するのか、それを明らかにすることが肝要であろう。

 また、住居など生活空間の確保に関しては、葛西リサが『母子世帯の居住貧困』において、日本 における母子世帯施策の始まりを第二次大戦後の戦争未亡人の貧困対策が始まりとしたうえで、し かしながら「時代の流れとともに、女性の意識やライフスタイルの変化などから、母子世帯の発生 要因が死別から離婚を原因とする性別へ移行しても、相変わらず彼女らは貧困問題をひきずったま まである」と述べ、日本社会全体としてひとり親世帯施策がおざなりのままである状況を指摘して いる。

 加えて、「現行の母子世帯施策には<居住>という視点は一切出てこない。しかし、この<居 住>こそは、あらゆる生活の基盤であり、すべての生活行為が重なるプラットフォームである。む しろ、この<居住>に、就労等、上記の要素は規定されるといっても過言ではない。」と述べ、1)

母子世帯の居住実態の把握、2)母子世帯への居住施策の不在がもたらす生活困窮のメカニズムの 証明、3)住生活を軸とした母子世帯施策の再構築の可能性の示唆、などについての考察を行って いる7

 葛西が指摘するように、住居という「いま、ここ」にいるべき場所が生活行為を規定するとする ならば、先述の王が指摘した「所得の貧困・時間の貧困」もまた、ひとり親家庭の「いま、ここ」

の居場所の在り様を踏まえて考慮する必要があるのではないか。本稿の問題関心に照らして言うな らば、沖縄のひとり親家庭が暮らす、沖縄という土地の「いま、ここ」の特性、そしてその土地に 規定されるひとり親家庭の生活構造を明らかにすることが必要ではないかと考える。

 次節以降においては、こうした沖縄のひとり親家庭の抱える課題を考えるにあたり、まず、迂遠

(5)

ではあるが、ひとり親家庭についての整理を行い、次に、生活構造について言及する。そして、三 番目に、生活構造を規定するシマの特性・島嶼性について触れたい。

2.「ひとり親」「生活構造」「シマ」とは何か?

 1)「ひとり親」とは誰か

 本稿では、改めて「ひとり親」という概念について考え、その特性の整理を行いたい8 。   まず、行政等の実務上、すなわち公権力によりひとり親家庭の生活に影響を与える考え方として は「母子父子寡婦福祉法」による定義がベースとなるであろう。

 「母子父子寡婦福祉法」においては、第

6

条でひとり親家庭の親・児童等について定義されている。

同法の定義によれば、例えば母子家庭の母である「配偶者のいない女子」については、「配偶者(中略)

と死別した女子であって、現に婚姻(中略)をしていないもの及びこれに準ずる次に掲げる女子を いう」とされており、今日では一般的な離別や、配偶者の生死不明・配偶者による扶養遺棄・配偶 者の身体または精神疾患による労働能力の喪失などは、死別に準じるものとして位置づけられてい る9。こうした法律条文にも先に葛西が指摘した「死別」を前提としたひとり親施策の考え方がい まだに残っていることがうかがえる。そして、「母子家庭等」とはこれら配偶者を欠いた男女に扶 養される児童(

20

歳未満)からなる家庭ということができよう。では、配偶者を欠いたひとり親 家庭においては、一般的な家庭とどのような相違があるのか、改めて考えてみる。

 まず、家庭に類似した語として「家族」があるが、その定義をもとに、家庭の機能や構造・変動 について概観する10

 まず、「家族」は「配偶関係や血縁関係によって結ばれた小集団」であり、「夫婦とその子どもか ら構成される結合体を基礎単位として成立する独自な社会関係」として示され、「自己同一性と境 界を維持する安定的な親族集団」として、「性的・経済的・生殖的・教育的機能を重視する」もの として定義づけられる11。やや乱暴に換言するなら、複雑な社会に対し、配偶関係(夫婦)や血縁 関係(親子)というつながりをもとに半ば閉じられたまとまりをもち、その中で夫婦の性愛や世代 の継承、生計の維持、子の養育を行う機能を有するといえよう。

 一方で、家族は社会から金銭・教育・政治的な資源を受け取る見返りに様々な役割を期待される ことなる。そして、家族は社会の影響を受けつつ、家族というつながりを維持するために、一般的 には夫婦間の分業が行われる。こうした分業は、性別役割分業など社会規範の影響と合わせて、家 族を存続させるための夫婦間の資源(体力・技術・知識・経験・愛情など)のバランスの多様化も 指摘されるようになっている12

 これらの諸点を踏まえるならば、「ひとり親家庭」とは、まず「配偶者の不在」により、社会と の関わりを分担する家族員が少ない、すなわち家庭が社会全体から期待される様々な役割を担う人 数が少なくなることから、その家族員(母と子または父と子)は、否応なく社会全体へのつながり を強めてしまうことが考えられる。言い換えれば、家庭を維持するため、家族間の関係が相対的に 弱まるという逆説が生じるともいえよう。そのため、家庭が本来持つ機能として期待される経済的

(6)

機能や教育的機能を社会に依存せざるを得ない傾向を強めることが考えられる。

 言い換えれば、ひとり親家庭の家庭生活は家庭外の社会の在り様によって規定される度合いが、

相対的に大きいと考えられるのではないか。もし、ひとり親家庭の生活が社会状況に大きく規定さ れるのであれば、その「生活」というのはどういう「仕組み」をもって営まれているのかが検討さ れなければならないのではないか。次項においては、その「生活」の「仕組み」について、生活構 造論の先行研究を手掛かりにして検討してみたい。

 2)「生活構造」とは何か

 「生活構造」とは、「人々が営む生活を基本的に構成したり、そこにさまざまな条件として作用し たりする諸要素と、それらの間の関連的構造をいう」とされているが、「理論としては多義的であり、

必ずしも定着していない」のが現状といえる13。また、この定義も抽象的であり、検討を加えがたい。

 そこで先述の葛西の「<居住>こそがあらゆる生活の基盤」という言を手掛かりにして、人々の 生活が構造として存立しうる場として、「生活空間」という語を援用して考えてみたい。

 レヴィンは、「人間の行動(

Behavior

)を規定する心理的な場を生活空間として、それを人(

Person

) と環境(Environment)の関数としてとらえ、B=f(P・E)の関係が成り立つとした」14。そ のような視点を顧慮した場合、生活構造を構成する要素としては、その人(本稿の問題関心で言えば、

ひとり親の状況)と属する環境(本稿で言えば、沖縄という生活環境)が与える影響により、その 行動を規定する状況が生まれると考えられる。

 ひとり親のおかれた生活上の家族内外の人間関係(社会関係など)と環境(住居や生活圏の状況 など)から生み出される生活の仕組みをここではひとまず「生活構造」としておきたい。本来であ れば、生活構造論に関しては多様な先行研究の蓄積があり、これらを詳細に整理したうえで論ずる べきであるが、これは今後の課題としたい。

 3)「シマ」とは何か

 前項までで、雑駁ではあるが、「ひとり親とは、配偶者の不在により、家族の存立が社会の在り 様に大きく規定される」もの、「生活構造とは、個人の社会関係と環境から生み出される生活の仕 組み」という整理を行った。ここでは、沖縄のひとり親が生活する環境を構成する根本的なものと して、「シマ」について考えてみたい。

 前述したように、沖縄のひとり親家庭に関する論考では、歴史的経緯や保護者の就労状況など社 会経済的要因が取り上げられることが多いが、そもそも沖縄でひとり親になるということはどうい うことなのであろうか。

 いうまでもなく、沖縄は島嶼県である。沖縄本島を除く

39

の有人離島に約

13

1

千人が住み、

その割合は沖縄県の総人口の約9%にあたる15。住民基本台帳ベース(H28.4.1時点)で言えば、

人口

4

8

千人余の宮古島・石垣島から、人口

1

人の新城島(下島)まで、人口だけをみてもさま ざまな規模のシマが所在している。そして、その島々ごとに自然はもとより、産業・交通・土地利

(7)

用などの在り方も様々であり、またその島それぞれの社会関係も多様であることが想像される。こ うした多様なシマでの生活は、最大公約数的にどのような特徴をもっていると考えられるだろうか。

 嘉数啓は『島嶼学への誘い』において、島嶼の様々な側面からの定義を整理した上で、経済社会 的視点から主要特性を抽出し、1)資源の狭小性、2)市場の狭小性、3)規模の不経済などの点 を挙げている16

 1)資源の狭小性とは、島嶼は、天然あるいは人的資源の質・量が限られているために、経済活 動が多様性を欠き、①第

1

次産業に依拠した自給自足経済か、②少数の特有の輸出資源に特化する か、③観光など島の特性を生かしたサービス産業に特化して外貨を稼ぐか、そのいずれかにならざ るを得ないことを指す17

 この指摘を踏まえれば、沖縄の島々においても、少なくとも

3

区分に分類してイメージすること ができよう。現時点では、具体的な数値データを整理できていないが、例えば①自給自足的経済型 であれば、粟国島や渡名喜島などの人口が県内離島のうち相対的に小さい島々、②の輸出特化型で あれば、製糖業を中心に特化した南北大東島、③のサービス特化型であれば観光が好調といわれる 石垣島などがイメージされよう。こうした産業特性が島民の雇用吸収量や雇用形態・労働時間など を一定程度規定することは類推されよう。

 本稿の議論に関連付けるならば、島民の雇用の在り方が離島であることにより一定程度水路づけ られ、先述のひとり親家庭の「所得の貧困」「時間の貧困」にも関連している可能性が考えられる。

 次に、2)市場の狭小性とは、嘉数は「市場の大きさ」を図るには「種々の議論がある」と前置 きしたうえで、一応「人口×所得水準」としてとらえている。この考え方に従えば、島嶼地域にお いては人口の少なさゆえ、島嶼の市場規模は小さくならざるを得ない。小島嶼地域では島内市場の 狭小さゆえに、分業による経済活動の「深化」と「多様化」が進展せず、経済発展のオプションが 限られたものになっていることを指す18

 この点を勘案すれば、離島における経済活動において、その活動に従事する労働者の職種もまた

「深化」「多様化」しにくいことが考えられる。換言すれば、島の労働市場において一般的に求めら れる職種が限られ、高度な技能者や多様な人材を吸収する余地が広がりにくく、職業選択の幅が限 定されることが考えられる。本稿の関心に照らせば、ひとり親家庭の最大の生活課題である就労や 所得確保に関して、選択肢が限られる可能性が示唆される。

 そして、3)規模の不経済とは、嘉数によれば「<生産規模が小さくなればなるほど生産物単位 あたりのコストは高くなる>ことが規模の不経済の含意だが、生産活動のみならず、投資、消費、

交通、輸送、教育、研究開発、行政サービス等あらゆる分野で観察されている」ことを指す19。  これについては、沖縄においても医療・福祉・介護などの分野においても広く認識されている事 象である。とりわけ、サービスの供給者と需要者が一定数必要、すなわち対面でなければサービス が成立しがたいこれらの業種では、サービスの需給がつりあわないことが考えられる。特に島民向 けサービスなど島内に固定された人口を対象とするサービスであれば、島外からの赤字補填(行政 サービスであれば補助金等の財政移転、民間サービスであれば島外事業所からの資金移動など)が

(8)

なければサービス提供がなりたたないことが考えられる。

 この点を考慮すると、公的セクターにせよ民間セクターにせよ、島民が日常生活に必要な財やサー ビスを享受するためには、人口という根本的なハードルがあると思慮される。これもまた、島民の 生活の在り様を規定する要因と考えられよう。本稿の問題関心からすれば、ひとり親家庭が必要と する福祉・教育などのサービスにも、離島の規模によって一定の制約がかかることが考えられる。 

 次節では、こうした島嶼地域の特性や、前述のひとり親家庭の特性、生活構造の視点等を踏まえ て、筆者なりの整理を加えていきたい。

3.まとめ ~沖縄というシマでひとり親家庭であるということとは~

 本稿では、はじめに沖縄県の離婚率の高さ・ひとり親家庭の割合の高さに言及した。一方で、ひ とり親家庭に関する研究の蓄積がそれほど多くなく、先行研究や関連書籍において言及される内容 として「米軍統治の影響による制度整備の遅れ」「低賃金・高失業による保護者の不安定な生活」

などが多く、ひとり親家庭の生活実態やその構造について検討したものが少ないと指摘した。そし て本稿においては、ひとり親家庭が抱える「生きにくさ」を生み出す社会的構造や、ひとり親家庭 がまさにいま過ごしている「生きにくい」日々の生活構造に着目することを提起した。

 ひとり親家庭を取り巻く社会的構造・ひとり親家庭の親子がもつ生活構造を考察する視点として、

まず、「ひとり親」という概念を再考した。そこでは、複雑な社会に対しゆるやか境界をもち、愛 情関係や経済的機能や教育的機能により一種のアジール(避難所・保護所)としての役割を持つは ずの家庭が、ひとり親家庭となることにより、少ない家族員で社会とのつながりを維持せざるを得 ず、家族間の関係が相対的に弱まり、家庭を維持することが社会に依存するという状況が生じるの ではないかと述べた。それゆえ、ひとり親家庭の生活の仕組み、生活構造の在り様がどのようになっ ているのか、そして、その生活を規定する環境はどうなっているのかを明らかにすることが必要で はないかと指摘した。

 そこで、生活構造に関して、筆者は「居住」や「生活空間」の概念に言及し、ひとり親家庭が生 活する「場」についての議論の必要性について触れた。ただし、本稿では、筆者の不勉強により十 分な記述ができず、課題を残すこととなったが、ひとまずひとり親家庭の親子が生活する「いま、

ここ」への視線が重要であると考えていることを示しておきたい。

 そして、沖縄のひとり親家庭の親子が暮らす「シマ」という「場」の特性について言及した。そ こでは、島嶼の経済的特性(①資源の狭小性、②市場の競争性、③規模の不経済など)をヒントに、

離島住民雇用や就労の在り様の特性について考察した。

 一般に、ひとり親家庭の抱える課題としては「所得」が最重要課題としてとらえられている。そ のこと自体は誤りではないが、所得向上施策として現在実施されているひとり親家庭の能力開発や 就労支援策については、こうしたひとり親家庭が暮らす場=シマの特性への配慮が欠けているので はないかと感じている。なぜなら、離島それぞれの経済的特性が異なるなら、それに影響される雇 用や就労の在り方も異なると考えられる。しかしながら、法定の枠内での支援では一定程度画一化

(9)

されることとなる。それが既存制度と支援ニーズとのミスマッチにもつながるといえよう。

 また、離島は一般的に物価が高い。沖縄県『離島関係資料』によれば、例えば「野菜類」の物 価指標は那覇市を

100

とした場合、分析対象となっている

14

離島平均は

136.2

であり、4割近く も高い20。物価高の離島で必要な生活費を稼ぎだすためには、公的扶助や親族等の支援があっても、

それが不足であれば、生活時間を削って労働時間をひねり出すほか手だてがない。こうした側面は、

各種マスメディアにおいて取り上げられ、目にすることは多かったであろう。しかし、そうした現 状は目にすることは多くとも、「なぜ」そうなっているのか、原因の把握は十分に行われていない のではないか。これまでは、ひとり親家庭の親の就労の厳しさは、サービス業主体の沖縄の産業構 造や雇用主の意識の低さで説明されることが多かった。その側面も大きいと筆者も考える。しかし ながら、より広い範囲でシマの仕事の仕方と個人の生活の仕方のリンクの在り様、換言すれば島の 経済構造と生活構造のリンクの在り様を検討することも顧慮されてよいのではないか。

 叶堂隆三は、『五島列島の高齢者と地域社会の戦略』において、長崎・五島列島の高齢者福祉の 状況を社会学的視点から検討するにあたり、EUの地域政策等を参照し、自然環境と社会環境の制 約を「居住条件性」という概念を用いて分析している。生活上の不利性を、島嶼という地理的・自 然的制約だけでなく、社会サービスの提供状況など社会環境の制約を考慮することにより、地域住 民の「生活ミニマム」の把握を図ろうとする。その過程において、島嶼性により一定程度の制約が 生じる人口や経済といったマクロな視点と社会サービスの維持・創出に関わる離島住民の生活とい うミクロな視点のリンクを図っている21。この叶堂の視点は、今後の沖縄の高齢者福祉はもとより、

本稿の主題であるひとり親家庭の福祉や地域の社会開発にも示唆を含むものと筆者が考える。この 点については、別稿にて検討を深めたい。

 以下は、本稿を通じて、ひとり親家庭の問題に対する研究アプローチの視点を筆者なりに整理し たものである。従来の研究や書籍等では、図の縦軸の経時的影響が重視されてきたと認識している。

また、縦軸と横軸が交差するひとり親の生活構造に関しては、行政による実態調査や当事者の実践 報告などに止まり、その体系的・構造的把握が十分ではなかったのではないかと考えている22。  本稿では、歴史的経緯など経時的影響の検討をいったん保留し、「沖縄のひとり親はシマで生活 している」という単純な事実に着目し、そのシマの特性を考慮に入れたうえで、ひとり親の生活構 造との関連を検討することを提案している。それにより、経時的な事象の検討と合わせて、多面的 な理解が可能になるのではないかと考える。

(10)

 以上、まとまりなく書き述べたが、筆者としては沖縄のひとり親家庭の課題を研究するにあたり、

歴史的特殊性だけでなく、「シマであること」そのものの特殊性への着目を改めて促したことに、

いささかの意義があるのではないかと考えている。

 先述の叶堂も言及しているが、沖縄本島に住む者は、あるいは日本に住む者は、「離島」に暮ら していることを忘れがちではないだろうか。そして、その生活が離島であることによって多かれ少 なかれ制約を受けていることを見逃しがちではないだろうか。

 筆者もまた、そうした一種の「勘違い」をもっていた。離島で仕事に行くと、元気な高齢者を見 ることが多い。そしてまた、いきいきと働く島の人々が印象に残った。しかし、後に失業率や要介 護度等、種々の離島に関するデータを検討するにつれ、その考えが変わった。元気な高齢者が島に いるのではなく、元気でなければ高齢で島に暮らすことはできず、いきいき仕事をする人が島にい るのではなく、こまめに働く人でなければ島にいられないのだと感じるようになった。

 実際、筆者が関りのあった島の人々は忙しかった。仕事で、通院で、子の通学・進学で、冠婚葬 祭で、さまざまな理由で島の内外を行き来していた。「のんびりと暮らす沖縄の離島の人々」とい うステレオタイプなイメージは、沖縄在住でも本島に居住している筆者自身にも根付いていたのだ なと実感させられた。こうした感慨が、島そのもの特性やそこに暮らす人々の生活の在り様に関心 を抱かせる原点であり、また、本稿の問題関心の源泉の一つである。

 たびたび、本稿においてもひとり親の最大の課題の一つとして経済的な問題を取り上げた。そし て、それが島という生活の場による制約が関連しているのであれば、島の経済・社会の在り方の見 直しが、沖縄のひとり親の生活の在り様を変える契機となるかもしれない。

 ひとり親家庭の親子は、さまざまな社会的困難や社会的矛盾を担わされている。見方によっては、

沖縄社会の写し鏡である。ひとり親家庭が「普通」の生活を営めるとき、沖縄社会も「普通」の社 会になったといえるかもしれない。

図 1 ひとり親家庭研究のアプローチの視点のイメージ 経時的影響

歴史的経緯

・制度的影響

・社会・経済的影響 など

ひとり親の生活構造

・生活時間

・生活空間

・生活関係

・生活水準 

・生活史  など 島嶼性

・資源の狭小性

・労働市場の狭隘さ

・規模の不経済など 共

時 的 影 響

(11)

 研究の側面でいえば、ひとり親家庭の福祉的課題を、島嶼としての沖縄の経済的・社会的な視点 からも考えていく、あるいはそれらをリンクさせることにより、ひとり親家庭の抱える課題のみな らず、シマの抱える福祉的課題を包括的に解決していくヒントが得られるのではないかと考える。

【注】

1 ひとり親家庭とは、母子及び父子並びに寡婦福祉法(母子父子寡婦福祉法)の定義によれば、主 として配偶者のいない女子または男子で現に児童を扶養している者を指し、厳密には父子家庭も 考察の対象とすべきであるが、ひとり親世帯の

9

割近くを母子家庭が占めることにかんがみ、本 稿では母子家庭を中心に記述する。父子家庭の考察については、今後の課題としたい。

2 沖縄県(2013)、

17

18P

3 沖縄子ども白書編集委員会(2010)、25P

4 沖縄子ども白書編集委員会(2010)、

68P

5 もちろん、筆者も歴史的経緯を軽視するものではない。こうしたマクロな社会的変化を踏まえた うえで、当事者の生活の在り様との関連に力点を置いて考察を進めたいというのが本旨である。

また、当事者や福祉関係者による実践記録等についても、重要な意義があると考えるが、これら を踏まえたうえで、モデル化・定式化を図ることが、課題の把握に資すると考えている。

6 王(2017)、29P~

46P

7 葛西(2017)はじめに、ⅴ~ⅶ 

8 なぜなら、「ひとり親」はもとより、「母子家庭」「父子家庭」などという語は日常的に新聞・テ レビなどのマスメディアや日常会話の中でも聞きなれており、それらによる固定観念をある程度 切り離して、論じたいと思うからである。

9 当該条文の全文は以下の通り。条文出典は、総務省行政情報ポータル「e-Gov」(

www.e-gov.

go.jp)の法令検索サービスによる。

「第六条 この法律において「配偶者のない女子」とは、配偶者(婚姻の届出をしていないが、

事実上婚姻関係と同様の事情にある者を含む。以下同じ。)と死別した女子であつて、現に婚姻

(婚姻の届出をしていないが、事実上婚姻関係と同様の事情にある場合を含む。以下同じ。)をし ていないもの及びこれに準ずる次に掲げる女子をいう。

一 離婚した女子であつて現に婚姻をしていないもの 二 配偶者の生死が明らかでない女子

三 配偶者から遺棄されている女子

四 配偶者が海外にあるためその扶養を受けることができない女子

五 配偶者が精神又は身体の障害により長期にわたつて労働能力を失つている女子 六 前各号に掲げる者に準ずる女子であつて政令で定めるもの

 2 この法律において「配偶者のない男子」とは、配偶者と死別した男子であつて、現に婚姻を していないもの及びこれに準ずる次に掲げる男子をいう。

(12)

一 離婚した男子であつて現に婚姻をしていないもの 二 配偶者の生死が明らかでない男子

三 配偶者から遺棄されている男子

四 配偶者が海外にあるためその扶養を受けることができない男子

五 配偶者が精神又は身体の障害により長期にわたつて労働能力を失つている男子 六 前各号に掲げる者に準ずる男子であつて政令で定めるもの

3 この法律において「児童」とは、二十歳に満たない者をいう。

 4 この法律において「寡婦」とは、配偶者のない女子であつて、かつて配偶者のない女子とし て民法(明治二十九年法律第八十九号)第八百七十七条の規定により児童を扶養していたこと のあるものをいう。

 5 この法律において「母子家庭等」とは、母子家庭及び父子家庭をいう。」

10 厳密には、「家庭」「家族」「世帯」には定義上の違いが存在するが、本稿ではひとます、婚姻・

血縁により生計・生活を一にするものとして扱う。より厳密な概念整理に基づく論考は今後の 課題としたい。

11 見田・栗原・田中ほか編

1994)P138

12 見田・栗原・田中ほか編(

1994

P139

13 見田・栗原・田中ほか編(1994)P517

14 見田・栗原・田中ほか編(

1994

P517

15 沖縄県(2017)、130P

16 その他、嘉数は

15

の特性を挙げているが、本稿では、筆者の問題関心に照らして主要と考えた 3つの特性を取り上げるにとどめた。詳細は原典を参照されたい。

17 嘉数(

2017

)、

35P

18 嘉数(2017)、36・37P

19 嘉数(

2017

)、

37P

20 沖縄県(2017)、130P

21 叶堂隆三『五島列島の高齢者と地域社会の戦略』(

2004

)、

19

23P

、九州大学出版会 

22 もっとも、福祉的ニーズが切実であり、福祉的実践や行政的実務が社会的に優先されてきたとい う事情があると思われため、やむをえないと考えられることはある。また、待機児童問題や障 がい児福祉、児童虐待等、児童家庭福祉に関連する課題が並列的に存在する中、研究者の関心 が分散したことも考えられよう。ここでは単に、「沖縄のひとり親に関する直接的な研究が少な いのではないか」という意見を提示したいというのが筆者の本意である。

(13)

【引用・参考文献】

.

王瑋(2017)「所得と生活時間の貧困分析 CES 型 well-being 関数の推計によるアプローチ」『経 済論究』158、九州大学大学院経済学会

.

沖縄県(2013)『『沖縄県ひとり親世帯等実態調査』(概要版)

3.沖縄県(2016)『100 の指標からみた沖縄県のすがた』

.

沖縄県(2017)『離島関係資料』

5.沖縄県子ども総合研究所(2017)『沖縄子どもの貧困白書』かもがわ出版 6

.

沖縄子ども白書編集委員会(2010)『沖縄子ども白書』ボーダーインク 7.嘉数啓(2017)『島嶼学への誘い』岩波書店

.

葛西リサ(2017)『母子世帯の居住貧困』日本経済評論社

9.見叶堂隆三(2004)『五島列島の高齢者と地域社会の戦略』九州大学出版会 

10.

総務省統計局(

2010

)『平成

22

年国勢調査』

11.

見田・栗原・田中ほか編(1994)『社会学辞典』弘文堂

(14)

参照

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