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厚生労働科学研究費補助金(障害者対策総合研究事業)
(総合) 分担研究報告書
行動制限最小化のためのモニタリング等を用いた 有効手法の検証と普及手段の確立
研究分担者 杉山直也 公益財団法人復康会 沼津中央病院 院長
研究要旨:近年行動制限の実施量は徐々に増加する傾向を示しており、早急な適正化が求められ ている。行動制限の最小化は世界的な課題で、その中核を成す考え方は確立されつつある。また、
行動制限を評価する代表的な臨床指標も定着し、モニタリングによる管理も可能となっている。
本研究の目的は、精神科医療における行動制限について、臨床医学的な研究デザインを用いて、
その使用に影響する要因を解き明かした上、抜本的でわが国の風土に適した実践可能な最小化法 を検証し、わが国の治療環境に適した行動制限最小化手法の確立を目指すことである。本研究で は、①隔離室入室期間の人的資源投入量に関する調査 (H23-24年度) 、②米国で成果を挙げてい る行動制限最小化のための「コア戦略」を基本とした、行動制限最小化研修プログラム(パイロ ット版)の開発とその研修効果の検証 (H23年度) 、③「コア戦略」を用いた、行動制限最小化 認定看護師等による介入研究 (H23-25年度) 、④フィンランドで開発されたe-Learningを用いた 看護師教育手法であるePsychoNurse.Netの国内紹介 (H23年度) 、⑤米国の全米州精神保健局長協 議会 (NASMHPD) が行う研修へ参加し、介入方法の原案であるコア戦略に関する詳細を学び得た (H24年度) 。
研究方法:対象は精神科救急および急性期治療を行う医療施設ならびにその職員とした。パート
①では、国内11施設の急性期病棟医療チーム(医師・看護師・PSW)を対象とし、想定事例を提 示したインタビュー形式でケアの内容や時間の聞き取りを行うことにより、人的資源投入量と隔 離期間に関する調査を行った。パート②では、「コア戦略」を基本とし、その内容に沿った研修パ ッケージおよびプログラムを考案、研修会を実施し、アンケート調査により研修効果を検証した。
パート③では、日本精神科看護技術協会行動制限最小化認定看護師を対象とした説明会を行い、
コア戦略に基づく14の具体的介入手法の試行に賛同した全国23施設36病棟を対象とした。「コ ア戦略」に含まれる計14の具体的な介入方法を提示し、その認定看護師の所属する病院において 可能な方法を実践した上介入中および前後の行動制限量やスタッフの意識の調査を行い、各介入 法の有効性を検証する方法とした。パート④では、ePsychoNurse.Netの開発者であるフィンラン ド・トゥルク大学のスタッフと会合し、説明と資料提供を受けた。パート⑤では、2012年10月 上旬にコア戦略に基づく行動制限最小化に関する研修開催の情報を得て参加した。
結果:パート①では、全国11病院で調査を実施した。非都市部の5病院において、人的資源投入 量と隔離日数の逆相関がみられ、ケア密度が行動制限最小化に関連することが示唆され、このた め適切なケアを行うためには合理的な診療報酬の設定が必要と考えられた。パート②では、試行 的に第5回精神科医療評価・均てん化研修において研修会を実践し、研修の前後で受講者の認識 が適切な方向へ変化する効果を認めた。パート③は、隔離・身体拘束施行量の変化および認定看 護師への電話調査から、15病棟において最終的に介入が有効とされ、「施行数の数値目標」、「タ イムアウト」、「個別の行動制限最小化計画の立案」、「師長会でデータを定期的に見直す」、「開始 直後のデブリーフィング」の5つの介入手法で有効率が高かった。パート④は、ePsychoNurse.Net が、わが国には見られない教育プログラムであることから、今後の精神科看護の卒後教育を検討 する上での一助になると考えられた。パート⑤では、コア戦略の具体的な実践に触れ、米国とは 異なる文化的・歴史的背景を持つわが国における導入の検討に向け、より多くの病院で実践でき る形に転換させていくことが今後の課題と考えられる。
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まとめ:行動制限最小化に必要で有効な方法について、臨床医学的な検証方法を用いて包括的に 研究を行った。各研究パートの進捗には差異があるが、一部の成果は適切な精神科医療の実現に とって有益な知見となった。人的資源の投入が効果的で現行のケア体制が合理的に設定される必 要があることを示した他、行動制限最小化手法の検証では研究の参加者に有益な意識変化を生じ ている。また、行動制限最小化に対するコア戦略を基調とした介入手法の有効性が認められた病 棟があったことから、米国とは異なるわが国特有の医療体制の中においても、一定の可能性と有 用性が期待される。
研究協力者氏名 所属施設名及び職名 (五十音順)
足立健一、大友伸子 宮城県立精神医療セン ター
石井美緒 横浜市立大学精神医学教室 泉田信行 国立社会保障・人口問題研究所
社会保障応用分析研究部第1室 室長 板橋ひろみ 一般財団法人竹田綜合病院こ
ころの医療センター
伊藤幸治 医療法人十全会十全第二病院 伊藤弘人 国立精神・神経医療研究センター
精神保健研究所 社会精神保健研究部 部長
大屋真奈美 医療法人根岸会足利富士見台 病院 看護師長
大谷須美子 一般財団法人信貴山病院 ハ ートランドしぎさん 看護部副部長 奥村 清 高知県立あき総合病院 副看護
長心得
小野寺健治 八戸赤十字病院精神科
賀山道広 山口県立こころの医療センター 主任
川久保憲一郎 長崎県精神医療センター 看護師長
小林貴子 静岡県立こころの医療センター 管理看護師長
佐藤真希子 国立精神・神経医療研究センタ ー 精神保健研究所 社会精神保健研究部 佐藤雅美 一般財団法人精神医学研究所付
属東京武蔵野病院
佐藤 亮 山形県立鶴岡病院
末安民生 日本精神科看護技術協会 会長、
天理医療大学医療学部看護学科 教授 杉田百合子 医療法人好生会三方原病院
看護部長
杉本正一 医療法人財団北林厚生会五条山 病院
富田敦 公益財団法人復康会沼津中央病院 病棟課長
中西清晃 石川県立高松病院 中山 聡 岩手県立南光病院 主任 新田恵美子 社会医療法人加納岩日下部記
念病院 看護課長
野田寿恵 公益財団法人復康会沼津中央病 院、国立精神・神経医療研究センター 精 神保健研究所 社会精神保健研究部 則村 良 医療法人財団青渓会駒木野病院
看護科長
早川幸男 日本精神科看護技術協会 専務 理事
服部朝代 岡山県精神科医療センター 平田豊明 千葉県精神科医療センター 院長
伏田善祐 滋賀県立精神医療センター 副 看護師長
藤原直隆 医療法人同仁会谷口病院 主任 松浦好徳 山梨県立北病院 看護師長 三宅美智 天理医療大学医療学部看護学科
助教
安田みえ子 医療法人積愛会横浜舞岡病院 師長
山口しげ子 国立病院機構横浜医療センタ ー
山野真弓 国立精神・神経医療研究センター 病院
鎗内希美子 医療法人以和貴会金岡中央病 院 主任
湯田文彦 医療法人昨雲会飯塚病院 看護 師長
吉浜文洋 日本精神科看護技術協会 常任 理事、佛教大学保健医療技術学部看護学科 教授
渡部 晃 財団法人創精会松山記念病院 看護師長
- 41 - A. 研究目的
精神科医療において、行動制限はこれまで の永きに亘りその最小化が強調され、精神保 健福祉法や診療報酬における政策的対応、研 究的な取り組み等が盛んに行われているもの の、現在までに明らかな効果がみられていな い大きな課題である。その理由の一つに、行 動制限の有効性が主に経験則によって示され、
最小化の議論もその延長として行われている ことがあげられる。このため、本研究では臨 床医学的な研究デザインを用いて、行動制限 に影響する要因を科学的に解き明かした上、
抜本的でわが国の風土に適した実践可能な最 小化法を検証し、それを普及させる方法を確 立することを基本的な目的とした。
B. 研究方法
本研究では、主に5つのパートからなる研 究を実施した。
対象は、精神科救急および急性期治療を行 う医療施設ならびにその職員とした。方法は、
行動制限に影響する要因を検討することを目 的としたパート①と、わが国で実践可能な行 動制限最小化法を検証し、それを普及させる 方法を確立することを目的としたパート②〜
⑤で構成した。
パート①:隔離室入室期間の人的資源投入量 に関する調査 (H23-24年度)
本パートでは、報告者らが以前に公表した
「精神科急性期治療導入時の資源投入量に関 する調査・検討」(泉田ら,2010) 1) で開発し た方法を用いた。同研究では国内3病院の精 神科急性期病棟医療チーム(医師・看護師・
PSW)を対象とし、想定事例を提示したイン タビュー形式でケアの内容や時間の聞き取り を行うことにより、職種毎の人的資源投入量 と隔離期間をシミュレーションしていく方法 とした。今回の研究では、対象を11病院にま で拡大して同法を用いた調査を行った。前回 の調査結果を踏まえ、対象病院を3次救急事 例の受入件数によって都市型と非都市型に分 類し、人的資源の投入量と隔離期間の関連に ついて分析した。また、今回あらたに調査を 行った8病院では、本来のケアのあり方を探 求する目的で、実際のケア投入量と理想的な
場合のケア投入量の聞き取りを行い、その場 合の行動制限の短縮化の可能性についても調 査を行った。得られたデータに対して、医療 経済学的観点から考察を加え、病院経営上の 収支試算を行って、診療報酬のあり方につい ても考察した。
パート②:行動制限最小化研修プログラム
(パイロット版)の開発とその研修効果の検 証 (H23年度)
「コア戦略」を基本とし、その内容に沿っ て、研修の教材や手順書をまとめた研修パッ ケージを作成の上、基礎講義・グループワー ク・各戦略の実践報告の3セッションを柱と した研修プログラムを開発し、研修を実施し て受講前後アンケートと全般アンケートによ って研修効果の調査を行った。
パート③:「コア戦略」を用いた、行動制限 最小化認定看護師等による介入研究 (H23-25 年度)
日本精神科看護技術協会の協力を得て、同 協会が定める行動制限最小化認定看護師に対 し、「コア戦略」に示される14の介入方法を 提示した。認定看護師らが所属する共同研究 機関において、実施可能な介入を各病棟 (以 下、介入病棟) で実践した上、介入中および 介入前後における隔離・身体拘束施行量やス タッフおよび退棟患者の認識調査を行い、各 介入方法の有効性を検証する。また電話調査 を実施し、隔離・身体拘束施行量から介入手 法の有効性を判断する方法とした。
介入方法の定義は、「コア戦略」に示され る方策のうち、わが国の実情を考慮して実施 可能と思われる14の介入方法を抽出した。調 査内容は基本情報である施設と介入病棟の特 性、主結果としての隔離・身体拘束施行量お よび患者の攻撃的行動の発生数、副結果とし ての退棟患者および介入病棟看護師・准看護 師の認識の変化を設定し、調査票 (計7つ:
1) 全病棟の隔離・身体的拘束施行量調査票、
2) 施設特性調査票、3) 介入病棟特性調査票、
4) 介入対象病棟のSOAS-R調査票、5) 退棟 患者認識調査票、6) 介入病棟看護師認識調査 票、7) 遂行報告書) を準備し、調査期間を9 ヶ月間とし、うち介入実施を6ヶ月間とした。
手順として、まず認定看護師が集まる日本
- 42 - 精神科看護技術協会の学術集会の機会に概略 説明を実施した上、認定看護師が所属する医 療機関に対して書面で研究依頼を行い、研究 の具体的内容を詳解する説明会を開催、その 後各医療機関で内容を吟味し、本登録によっ て参加を確定した上で介入・調査を実施した。
パート④:ePsychoNurse.Netの紹介 (H23年 度)
EU加盟国が共同で取り組む初期から専門 家レベルの職業訓練であるLeonardo da Vinci
Projectの一環として、フィンランドのトゥル
ク大学においてePsychoNurse.Netの開発が行 われている。ePsychoNurse.Netは、精神科病 院での不穏な患者に、質が高く、十分に倫理 的で治療効果のある介入を、看護師が実践可 能になることで、隔離・身体拘束が最小化さ れることを目的とした教育システムである。
ePsychoNurse.Netの開発者であるフィンラン ド・トゥルク大学のMaritta Välimäki教授およ び開発・運営スタッフと会合する機会を設け、
説明と資料提供を受けて、わが国への紹介を 行った。
パート⑤:米国における行動制限最小化研 修および病院見学報告 (H24年度)
コア戦略を提唱したHuckshorn氏へ連絡を 取り、2012年に米国においてコア戦略の研修 開催の問い合わせをした。同氏より、2012年 10月上旬に研修開催の情報を得て、主催者で あるマサチューセッツ州精神保健局の担当者 へ研修を申し込み、承諾を得て、研究者3名 が参加した。また、コア戦略を用いた取り組 みがどのように実際の医療現場において実施 されているのかを把握するため精神科病院へ の見学を依頼した。
(倫理面への配慮)
以上の研究方法は、国立精神・神経医療研 究センターの倫理委員会の承認を得て実施し た。なお、介入研究に参加する医療施設につ いては、各機関の倫理委員会の承認を得るか、
または国立精神・神経医療研究センターにて 倫理審査を行い、承認を得て実施した。
C. 研究結果(各パートの報告書参照)
パート①
対象となった11の病院は、都市型が6病院、
非都市型が5病院に分類された。全ての病院 で入室1-2日目に直接ケア時間(人的資源投 入量)が最大となり、3日目以降は横ばいと なった。人的資源の投入は非都市型病院で明 らかに多く、1日目の直接ケア時間に着目す ると、都市型病院がほぼ一定であったのに対 し、非都市型では全ての病院が都市型を大き く上回り、しかも直接ケア時間に応じて隔離 期間が短縮される逆相関を認めた。都市型で はそのような相関は認められなかった。隔離 期間では、都市型の中央値 (11.5日) のほう が非都市型のそれ (9日) よりも長かった。
理想的なケアを尋ねた質問では、全ての病 院が直接ケア時間を増やすと回答し、そのう ちの5病院がそれによって隔離期間を短縮で きると答えた。しかし、この理想的な人的資 源の投入は、隔離期間を短縮できるものの、
最終的な病院の収支を悪化させる結果となっ た。
パート②
平成23年6月13日から2日間にかけて国立 精神・神経医療研究センターで開催された「第 5回精神科医療評価・均てん化研修」の一日 目に本研修プログラムを設定した。基礎講義 については、行動制限の実態と臨床指標に関 する講義、Huckshornのコア戦略に挙げられ ている4つの理論的基礎と6つの戦略に関す る講義、そして精神科急性期治療における人 的資源に関する講義を行った。実践報告の講 義では、6つのコア戦略に取り組んでいる専 門家が講義を行った。グループワークでは、
受講者がアイスブレーク、実習(「一覧性台 帳から主要CIを算出しよう」「コア戦略 グ ループディスカッション:すぐにできる対策 を探そう」)、グループ発表を行った。アン ケート調査に関して、33名の受講者のうち31 名から回答を得た。受講前後アンケートにお いて、「わが国の行動制限は多い」と「行動 制限は経験的知識に基づいて確立された有効 な方法である」に5%水準で有意な差が見ら れた。全般アンケートでは、受講者の87%が 研修プログラムを大変満足ないし満足と回答 し、受講者の97%が行動制限最小化に向けた 取り組み方法を理解できた並びにやや理解で きたと回答した。
- 43 - パート③
23施設、36病棟が本研究に参加した。
14介入手法から各病棟が選択した介入は、
以下の通りである. (n:病棟数を示し、共同 研究機関によっては複数の介入を実施してい る) 。
戦略1 組織改革のためのリーダーシップ:
A. 管理者(院長)が隔離・身体拘束の場 に出向く (n = 0)
B. 隔離・身体拘束施行数の数値目標を立 てる (n = 7)
戦略2 データ利用:
C. 隔離・身体拘束のデータを病棟内に貼 りだす (n = 15)
D. 隔離・身体拘束データを師長会で定期 的(月1回)に見直す (n = 10) 戦略3 院内スタッフ力の強化:
E. 認定看護師による定期的研修会の開催 (n = 23)
F. ディエスカレーション研修の開催 (n = 15)
戦略4 隔離・身体拘束使用防止ツールの利 用:
G. 個々のケースで「行動制限最小化計画」
を立案 (n = 16)
H. タイムアウトの実施 (n = 3) I. コンフォートルームの使用 (n = 0) J. セイフティプランの使用 (n = 5) K. 心的外傷体験歴のアセスメントツール
の使用 (保留のため介入方法より除 外)
戦略5 入院施設での患者 (医療消費者) の役 割
L. 利用者 (患者) の行動制限最小化委員 会への参加 (n = 0)
戦略6 デブリーフィング
M. 開始直後、その場に居合わせたスタッ フ間で隔離・身体拘束の振り返りを行 う (n = 8)
N. 数日後以降、利用者(患者)を含め、
隔離・身体拘束の振り返りを行う (n = 9)
上記のうち、多く選択された介入手法は、
「E. 認定看護師による定期的研修会の開催」、
「G. 個々のケースで「行動制限最小化計画」
を立案」、一方選択されなかった介入手法は、
「A. 管理者(院長)が隔離・身体拘束の場に 出向く」、「I. コンフォートルームの使用」、
「L. 利用者 (患者) の行動制限最小化委員 会への参加」であった。
ハードアウトカム分析について、隔離・身 体拘束施行量の変化および認定看護師への聞 き取り調査から、介入の有効性に関して総合 的に判断した。結果、参加した36病棟のうち 15病棟において最終的に介入が有効と評価 された。
介入手法のうち有効率が高かった手法は、
施行数の数値目標 (83.3%) 、タイムアウト
(66.7%) 、個別の「行動制限最小化計画」
(56.3%) 、師長会で定期的に見直す (50.0%) 、 開始直後の振り返り (50.0%) の順であった。
15の有効病棟において多く選択された介 入は、認定看護師による定期的研修会の開催
(9/15病棟) 、個々のケースで「行動制限最小
化計画」を立案 (9/15病棟) 、隔離・身体拘 束のデータを病棟内に貼りだす (7/15病棟) であった。
SOAS-R を用いて患者の攻撃的行動の特性、
スタッフの攻撃的行動に対する制止法の特性 を調査したところ、攻撃性インシデント発生 率は1,000のべ病床あたり1.47件 (0.54/
bed/year) であった。攻撃的行動を起こした入
院患者の特性は、男性が60.3%、平均年齢は 50.3才 (SD = 18.2) 、ICD-10に基づく主診断
ではF2 (統合失調症圏) が58.3%と最も多か
った。攻撃的行動の傾向としては、了解でき る誘因なく、手を用いた手段において、スタ ッフが攻撃対象となる傾向が見てとれた。
認識調査から得られた「エッセン精神科病 棟風土評価スキーマ日本語版を用いた検討」
および「精神科看護師がいだく入院患者の攻 撃性と抑制手法への臨床的認識」について検 討した。「エッセン精神科病棟風土評価スキ ーマ日本語版を用いた検討」では、看護師は
「安全性への実感」の評価が患者に比べ有意 に低く、欧州の先行研究と比べても著しく低 いことが示された。また「患者間の仲間意識・
相互サポート」は患者が有意に高評価し、「治 療的な関心」の患者・看護師間の不一致は欧 州に比べて少ないことが示された。
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「精神科看護師がいだく入院患者の攻撃性 と抑制手法への臨床的認識」では、攻撃に対 する態度尺度」(ATAS) および「抑制手法へ の臨床姿勢質問票」(ACMQ)を用いて調査し たところ、ATASの因子分析において攻撃性 をよくないものと捉えるネガティブ因子と治 療の契機など前向きに捉えるポジティブ因子 の2つに構成され、ACMQの精神科集中治療、
身体拘束等の制限性の強い手法がネガティブ 因子と、タイムアウト等の制限性の低い手法 がポジティブ因子と正の相関を示した。
パート④
提供資料をもとに、ePsychoNurse.Netの概 要として6つのユニット構造(1:法的側面、
2:倫理的側面、3:内的外的要因、4:自 己洞察と対人関係の役割、5:チームワーク の意味、6:知識と実践の統合)、基礎とな る概念としてGibbsの提唱するリフレクティ ブサイクル(①What happened?(記述・描写)、
②What were you feeling?(感情)、③What for you was good and bad about the experience?(評 価)、④What sense can you make of the situation?(分析)、⑤What else could you have done in the situation?(総合)、⑥If the situation arose again what would you do?(行動計画)の 6つのステージ、これらをもとにした運用の 詳細、今後の可能性について紹介を行った。
パート⑤
2012年10月9−10日の2日間で研修が開 催され、コア戦略を基にモジュール (Module) に沿った形で、講義、コア戦略の導入によっ て行動制限使用削減に成功した事例の紹介、
パネルディスカッションなどを含む研修が行 われた。また、2012年10月12日にWorcester Recovery Center & HospitalおよびBrigham and Women’s Faulkner Hospitalへの病院見学が実 施された。
D. 考察
行動制限の使用に影響する要因は多岐にわ たる。人員や設備といった構造的要因、年齢 や疾患などの患者特性、スタッフの認識、治 療文化などがあげられ、報告者らはこれまで に医療圏人口や措置入院数2)、病棟の建築学 的な空間構造3) などが影響することを示し
た。本研究パート①では、行動制限使用に最 も影響すると一般的に考えられている人的資 源投入量(いわゆるヒューマンパワー)につ いて調査を行った。その結果、非都市型病院 において、1日目の直接ケア時間に応じて隔 離期間が優位に短縮され、最小化効果が観察 された。これまで、人的資源の投入量が隔離 の最小化にどれほど効果的であるかを検証し た報告はみられず、その意味で、本報告はシ ミュレーションという方法的な限界があるも のの、初めてその効果を示すものとなった。
一方の都市型の病院ではそのような相関は認 められていないが、隔離期間に施設間差異が みられており、短期に隔離を終了できるとし た病院では別の最小化方策が有効に実施され ている可能性等も考えられる。精神科救急入 院料病棟における隔離・身体拘束量を検討し た研究2)によれば、医療圏人口が大きく措置 入院者数の多い病棟、すなわち都市部にその 使用量が多いという相関関係があり、ここで も地域性が反映されているため、措置患者等 の3次救急事例を多く扱い重症者のウエイト が大きい都市部の病院では、1人当たりの隔 離患者に投入できる直接ケア量が不足してい ることが想定され、こうした人的資源の不足 が隔離期間に関与した可能性は否定できない。
また、今回調査を行った対象病院では理想的 なケア時間の質問を新たに設けたが、理想的 なケア、つまりはさらに多くの人的資源の投 入を実現できれば、より以上の最小化が得ら れることも示唆され、ここでも人的資源の投 入による最小化効果の可能性が示された。
急性期医療へのリソースの集中投下による 入院期間の短縮や早期社会復帰の考え方は、
治療導入期の早い段階での手厚いケアが重要 で、最終的には適切な医療に結びつくことを 示すものであり、今回の結果と合致する。し かしながら、今回の調査において理想的な直 接ケア時間の達成はほぼ全ての病院の収支を 悪化させるという結果であったことから、今 後は合理的な診療報酬の設定などの対策が必 要と考えられる。
パート②の行動制限最小化研修プログラム
(パイロット版)の受講者による満足度と理 解度は高く、行動制限最小化についての見解
- 45 - は妥当な方向へ変化がみられ、本研修プログ ラムが行動制限に対する正しい認識を持つた めに有効であることが示された。本研修は受 講者が研修パッケージを用いて各地で二次研 修を行うことが可能であり、同様の効果が得 られるかどうかを検証しながら受講者を増や し、重要な認識を広く普及できる可能性があ る。なお現在までに、本研修パッケージおよ び配布教材を利用した二次研修会の実践報告 が2件寄せられたが、いずれにおいても、同 様の研修効果を認めており、今後に期待でき る結果であった。
パート③の行動制限最小化認定看護師等に よる介入研究では、米国で提唱された6つの コア戦略を参考に認定看護師らが所属する共 同研究機関において実施可能な方法を介入病 棟で実践し、行動制限施行量、退棟患者およ びスタッフの認識調査を行い、各介入法の有 効性を検証することを目的として実施した。
当初の計画より想定数を超える共同研究機関 数が参加したことは、本研究への関心の高さ が伺えた。
本研究にて多く選択された介入方法は、認 定看護師による定期的研修会の開催、続いて 隔離・身体拘束データの病棟内掲示であった。
一方、選択されなかった介入方法は、管理者
(院長)が隔離・身体拘束の場に出向く、コ ンフォートルームの使用、利用者(患者)の 行動制限最小化委員会への参加の3つであっ た。介入方法のエントリー状況から、一定の 最小化方法がすでに行われていることのほか、
わが国の医療環境ではまだ実施の難しい介入 があることが示唆された。
本研究の介入実施により一部の現場で効果 が確認されたことから、コア戦略に基づく介 入手法の実践がわが国でも一定程度実施可能 で有効であることが示唆されたほか、どのよ うな介入方法が本邦では効果的であるのか、
あるいはどのような要素が不足しており、今 後より充実が求められるかについても具体的 に理解を深めることができた。特に、ストレ ングスの活用は推進が望まれる。わが国にお いて初めて行動制限最小化への具体的手法を 提示・実施したことは、確かな論拠に基づく 行動制限最小化手法の開発および実践に向け
て一定の成果を示すことができたと考えられ る。米国とは異なるわが国特有の医療体制の 中にあっても一定の可能性が示されたことで 今後の臨床実践における有用性が期待される。
SOAS-Rを用いた患者の攻撃的行動の検討
において、スタッフが攻撃対象となることが 多く、被害状況として脅威を感じていたとい う点は先行研究4) と共通していた。精神科病 棟風土の調査では、看護師の安全性評価は低 く、一方で患者はスタッフからの関心を高く 評価するなどわが国の特徴が描出された。客 観的な認識が得られた本調査は、精神科病棟 風土に関する議論が可能となり今後検討して いく上でも意義あるものと考えられる。加え て、精神科看護師がいだく入院患者の攻撃性 と抑制手法への臨床的認識の調査では、否定 的な感情がもたらされる攻撃性に対し、定式 化された一定の有効な研修手法に加え、スタ ッフがデブリーフィングなど治療として実施 する臨床経験を積み重ねることによって、攻 撃性インシデントの認識に影響を与え得るこ とが示唆される。
パート④は、ePsychoNurse.NetのWEBを活 用した利便性、問題提起型で個々の看護師の ニーズに対応した特徴などをふまえ、単に受 講生の介入技術の質の向上のみならず、学習 に伴う対応方法の蓄積とその内容分析から得 られるさらなる対応方法の向上が得られ、常 に発展し続けるシステムであり、わが国には 見られない教育プログラムであることから、
国の違いによる文化的・環境的相違があって も、今後の精神科看護の卒後教育を検討する 上での一助になると考えられた。
パート⑤は、自施設において取り組みやす いコア戦略からはじめることが行動制限最小 化への第一歩であると考えられる。トラウマ インフォームドケア、隔離・身体拘束削減の ためのツール利用、精神科医療における当事 者の積極的関与について、わが国ではまだ馴 染みの薄い取り組みである。しかし、これら は先進的かつ印象的な行動制限最小化の取り 組みであり、今後のわが国の精神科医療にお いて必要な取り組みになることが示唆される。
- 46 - E. 結論
隔離室入室期間の人的資源投入量の調査で は、隔離室入室初期に手厚い直接ケアを行う ことにより、隔離室入室期間が短縮化される こと、医療従事者が考える理想的な直接ケア 時間の実行は隔離日数を短縮化すると考えら れたが、現行の診療報酬では収支が悪化する ため、特に隔離室入室初期について、合理的 な診療報酬の設定などの現実的な対策が必要 と考えられた。
わが国で実践可能な行動制限最小化方策を 検証・確立し普及させるために、これまでに 海外で有効とされ成果を挙げている行動制限 最小化手法を基に、わが国の実情を考慮しな がら臨床医学的な研究デザインによって方策 を検討した。救急病棟、急性期病棟、精神15 対1など多種にわたる共同研究機関の介入病 棟の参加は、施行量の変化から入院料病棟ご との特徴を認めることができた。このことは、
今後わが国の精神科医療の行動制限に関する 方策を検討する上で、一資料として示すこと ができると考えられる。また、確かな論拠に 基づく行動制限最小化手法の開発および実践 に向けて一定の成果を示すことができたと考 えられるが、今後も引き続き調査を行う必要 がある。特筆すべきことは、本研究はわが国 において初めて行動制限最小化への具体的手 法を提示し、実施した点であり、高く評価が できると考えられる。米国とは異なるわが国 特有の医療体制の中にあっても一定の可能性 と有用性が期待される。
F. 健康危険情報 特になし
G. 研究発表 1. 論文発表
1) 泉田信行, 他: 隔離室入室期間の人的資 源投入量の検討.コストおよび行動制限最小 化の視点から.精神医学 (2012).
2) 野田寿恵: 精神保健福祉資料 (630調査) を用いた隔離・身体拘束施行者数の分布.精 神医学 (2012).
3) 野田寿恵, 佐藤真希子, 杉山直也, 他:
患者および看護師が評価する精神科病棟の風 土.エッセン精神科病棟風土評価スキーマ日 本語版(EssenCES-JPN)を用いた検討(投稿準 備中).
4) 野田寿恵, 佐藤真希子, 杉山直也, 他:
精神科看護師がいだく入院患者の攻撃性への 態度と対処手法への臨床姿勢の関連(投稿中).
5) 石井美緒: 米国の隔離・身体拘束最小化 方策=「コア戦略」とは(1)トラウマインフ ォームドケア.精神看護, 17 (1): 92-93, 2014.
6) 佐藤真希子: 米国の隔離・身体拘束最小 化方策=「コア戦略」とは (2) セイフティプ ラン.精神看護, 17 (2): 65-67, 2014.
7) 三宅美智: 米国の隔離・身体拘束最小化 方策=「コア戦略」とは (3) コンシューマー.
精神看護, 17 (3): 70-71, 2014.
2. 学会発表
1) 杉山直也, 吉浜文洋,野田寿恵, 他:「行 動制限最小化に関する研究」報告会. 第20回 日本精神科看護学術集会専門I 特別企画, 群 馬, 2013.08.31.
2) 杉山直也, 吉浜文洋,野田寿恵, 他:「行 動制限最小化に関する研究」中間報告会. 第 19回日本精神科看護学術集会専門I 特別企 画, 秋田, 2012.09.01.
3) 佐藤真希子, 他: 急性期医療における隔 離・身体拘束施行時間と患者特性の関連.第 19回日本精神科救急学会宮崎大会,
2011.10.21
4) 泉田信行, 他: 隔離室入室期間の人的資 源投入とそのコストの調査及びその短縮化の ための検討.第19回日本精神科救急学会宮崎 大会,2011.10.21
H. 知的財産権の出願・登録状況 特になし
I. 参考文献
- 47 - 1) 泉田信行,野田寿恵,杉山直也,伊藤弘人;
精神科急性期治療導入時の資源投入量に関す る調査・検討.精神医学52, 773-782, 2010.
2) 杉山直也, 野田寿恵, 川畑俊貴, 他: 精神 科救急病棟における行動制限一覧性台帳の活 用. 精神医学. 52: 661-669, 2010.
3) 横田美根, 筧淳夫, 野田寿恵, 他: 精神科 救急病棟の空間構成と隔離・身体拘束との関 連. 精神医学. 53: 239-246, 2011.
4) Foster C, Bowers L, Nijman H: Aggressive Behaviour on Acute Psychiatric Wards:
Prevalence, Severity and Management. Journal of advanced nursing 58: 140-149, 2007.