九州大学学術情報リポジトリ
Kyushu University Institutional Repository
韓国語大邱方言における名詞のアクセント体系
辻野, 裕紀
東京大学大学院 : 博士課程
http://hdl.handle.net/2324/1687701
出版情報:Journal of the Academic Association of Koreanology in Japan. 209, pp.47-84, 2008-10.
朝鮮学会 バージョン:
権利関係:
韓国語大郎方言における 名詞のアクセント体系
辻 野 裕
(47)
京 己
【要旨】本稿の目的は 韓国語大郎方言の名詞のアクセント体系を明らか にするところにある。
本稿では,従前の研究で十分に取り入れられていなかった,語形成論的 な観点,計量的な観点などといった新たな視座から,大郎方言の名詞のア クセントを詳細に照射した。
語形成論的な観点では 単純語/複合語を分離し,その結果,大郎方言 の名詞のアクセント体系は,単純語という範囲では5型アクセント,複合 語(名詞結合)まで含めると n+2個(nは音節数)の対立がある多型ア
クセントであるということを闇明した。
計量的な観点では,各アクセント型の生起頻度を調べ,単純名詞では,
次末音節(penultimatesyllable)にアクセントが置かれる<−2系列〉の生 起頻度が最も高いこと(つまり,<−2系列〉がdefaultであること)を明 らかにした。また,<−2系列〉が多いという傾向は,音節数の増加に従 ってより顕著になり,音節数nの値が大きくなればなるほど,次末音節に アクセントが置かれる固定アクセント体系に収束していくことも指摘し た。一方,複合名詞の場合は,特にそのような傾向は見られない。
また,世代による差についても簡単に言及し,長母音の崩壊, defaultの
< ‑
2系列〉への合流による固定アクセント化など,筆者が気づきえた点 をいくつか指自商した。1 . は じ め に
1.1. 研 究 の 目 的
(1)
本稿の目的は,韓国語大郎方言における名詞のアクセント体系を明ら かにするところにある。
大郎方言は,慶尚道方言の下位方言であり,弁別的なピッチアクセン ト(distinctivepitch accent)を持つ方言として知られている。韓国語が
(3)
もともと弁別的なアクセントを有していたかどうかは別として,少なく
(4) (5)
とも中期朝鮮語には見られた弁別的なピッチアクセントは,現在多くの 方言で失われており ピッチアクセントを持つ方言は 慶尚道方言や威 鏡道方言,全羅道方言の一部,江原道方言の一部に限られる。また,現 在,標準語やソウル方言の影響で、各地のアクセント体系が変化しつつあ
(7)
り,近い将来,朝鮮半島全体が無アクセント化する可能性もある。そう いった意味で,ピッチアクセントを持つ韓国語の諸方言は,一種の〈危 機言語) (endangered language)であり,その綿密な調査と分析は,韓国 語学における喫緊の課題である。
(8)
こうした状況の中で,大郎方言を合む東部慶尚道方言のアクセントに ついては,夙に様々な研究が行われ,菅野(1972), Hayata (1974)な どを始めとする多くの論考で,東部慶尚道方言は,次の表 lのように,
(9)
音節数nの語に対して, n十2個の対立を持つ多型アクセント方言とさ れてきた:
(10)
【表1]n
+
2個の対立を認めた場合の東部慶尚道方言のアクセント体系R H(H) H(L)
間一間一匹一日 日一皿一肌一肌一山
しかし,一部の研究には, n+2に収まらない型を挙げるものも見ら れ,同じ東部慶尚道方言を対象としていながら,論考によって結論が異 なるという,矛盾した研究状況となっている。そこで,本稿では,なぜ そういった状況になっているのかを検討しながら,大郎方言の名詞のア クセント体系を新たに構築することにする。
また, これまでの研究では十分に行われていなかった,計量的な分析
韓国語大郎方言における名詞のアクセント体系(辻野) (49) や,世代差に関する考察も加え,いくつかの新たな言語事実を提示する
ことにしfこい。
1ユ 研 究 の 方 法
研 究 の 方 法 と し て は , 既 存 の デ ー タ に 依 拠 す る の で は な く , 筆 者 が 2007年8月下旬に大郎広域市において調査して得られたデータをもと
にし,それに音韻論的な観点、および形態論的な観点から分析を加えると いう形をとる。
コンサルタント(consultant)は, 20代から60代 の 大 郎 方 言 の 生 え 抜
(11)
きの話者5名 に 協 力 を 仰 ぎ , 筆 者 が あ ら か じ め 用 意 し た 調 査 票 の 名 詞 2200語(うち,単純名詞1710語,複合名詞490語)の音調について調査 した。 20代から60代という比較的幅広い世代の話者を調査したのは,
世代差による言語的差異についても考察するためである。ただし,分析 にあたっては,伝統的な大郎方言を最も保っていると考えられる60代 のコンサルタントのデータに主に基づくことにする。
コンサルタントの選定にあたっては 佐藤(2003)
0 1
分汗・せ升せ (2007)などを参考に,①大郎で生まれ育ったこと,②長期間,大郎以 外の土地で過ごしたことがないこと,③両親および配偶者が大郎あるい は慶尚北道で生まれ育ったこと という 3つの原則に基づいた。(13)
調査方法としては いわゆるく読み上げ方式〉を採り,基本的には,
コンサルタントに単独形を発音してもらい,必要に応じて,助詞をつけ た形の音調などについても確認した。
1.3. 大郎方言の音韻体系と表記法
大郎方言の母音音素は,/i,e, ~. a, uラo/〜/i,e,耽a,uラo,'J/であり,/ru/ と/つ/は主に外来語に現れる。固有語の場合,標準語の/十/,/一/は共
(14)
にfa/で現れるのが普通である。子音音素は,標準語とほぼ同じである。
以下,語例の表記では,母音は,上に示した音素表記で,子音は,平 音Ip,t, k, c, s/,激音/ph,th, kh, ch, hi,濃音Ip',t,k,cヲラS/,その他Im,n, IJ, r, y, w/で表記する。
朝 鮮 学 報 ( 第209輯)
2.先 行 研 究
本稿が対象とする大郎方言を含む東部慶尚道方言の論考は, 1章でも 述べたように,音節数nの語に対して,「n+2個の対立を認めるもの」
(n十2説)と,「n十2個に収まらない型も挙げるもの」(非n+2説) とに二分しうる。
(n十2説〉の先行研究としては,菅野(1972), Hayata (1974),羅 聖淑(1974),Ramsey (1978; 1989),橋本(1978)などがある。これらは,
(15)
それぞれ音韻論的解釈の差異はあっても,音節数nの語に対して, n十
2個の対立を認めるという点では共通している。
一方,〈非n+2説〉の先行研究としては,大江(1976),李連珠(2000)' 孫在賢(2005)などがある。
大江(1976)は,大郎方言のアクセントを扱ったもので,短母音音節 のみからなる音調連続の型について, 1モーラにはL, Hの2つ, 2モ ー ラ に はHH, HL, LHの3つ, 3モ ー ラ に はHHL, LHH, HLL, LHL, LLHの 5つ, 4モ ー ラ に はHHLL, LHHL, LLHH, HLLL,
(16)
LHLL, LLHL, LLLHの7つの型があるとしている。このうち,下線の 型(下線は筆者による)がn+2に収まらない型である。
(17)
李連珠(2000)は,若年層の大郎方言を対象にした研究で,若年層を 対象としているため,長母音の系列は見られず,名詞のアクセント体系 を次の3つに分けている:
A系 列 : 高 い 音 調 で 始 ま る (H, HL, HH, HLL, HHL, HHH, HLLL, HHLL, HHHL, HHHH。)
B系列:低い音調で始まる。高い音調は一音節だけで,高くなるま で は 低 い 音 調 が 続 く (H, LH, LHL, LLH, LHLL, LLHL, LLLH。)
C系列:低い音調で始まるが,途中高い音調が 2音節以上続く点が B系列アクセント型との違いである。複合名詞だけで現れ る(
l l i ! l l i
。)このうち,下線の型(下線は筆者による)がn+2に収まらない型で
韓国語大郎方言における名詞のアクセント体系(辻野) (51) ある。
孫在賢(2005)は,大郎方言について, 4音節名詞には7個, 5音 節 名詞には9個もの型を挙げている。次の表で,網掛けの部分がn十2に 収まらない型である:
H(H)
町iar
(語) H(L)
ロiar
(馬)
(18)
【表2]孫在賢(2005)による大郎方言の音調型と語例
HH(L) HHL(L) HHLL(L) HHLLL(L) kurnm mucike y;:icachinku kukpi戸ihakseIJ
(雲) (虹) (彼女) (国費留学生)
HL(L) HLL(L) HLLL(L) HLLLL(L) uri my;:in;:iri namcachinku soncamy;m;:iri
(櫨) (嫁) (彼氏) (孫の妻)
LH(L) LHL(L) LHLL(L) LHLLL(L) uri 口iinari sinhony;:iheIJ caIJbriy;:iheIJ
(私達) (芹) (新婚旅行) (長距離旅行)
LLH(L) LLHL(L) LLHLL(L) otumak kims;:inseIJnim akhasiakot
(小屋) (金先生) (アカシアの花)
LLLH(L) LLLHL(L) ka;:i中aram ;:imcisonkarak
(秋風) (親指)
LLLLH(L) piheIJkiy;:i汀yo
(飛行機燃料)
では,一体なぜこれほど多くの型が出てきてしまうのだろうか。 n + 2という式から導き出されるアクセント型は, 1音節語ならば3個, 2 音節語ならば4個, 3音節語ならば5個, 4音節語ならば6個, 5音節
語ならば7個のはずである。次章でこの問題について検討することにす る。
3.先行研究の検討
ま ず , 注 目 し た い の は , 単 純 語 / 複 合 語 と い う 語 形 成 (word formation)上の問題である。例えば,表2の孫在賢(2005)の大郎方言 の デ ー タ の n
+
2に 収 ま ら な いHHH, HHHH, HHHL, HHHHH, HHHHL, HHHLLといった型の語例はすべて複合語であるという,語(19)
形成論的な著しい特徴がある:
【表3】孫在賢(2005)に見られる大郎方言のn+2に収まらない型
HHH anmatal) 中庭 an+ matal) H(H)十LH HHHH I k'urinsamぬ |蜂蜜の人参茶 kur + insam H(H) + HH
十cha +H(L) HHHL I pak山 朴先生 pak + S;}llSelJnim H(H) + LHL HHHHH I C;}l)Satarik'or I 等脚台形 C;}l] + satari H(H) + LLH
+ kor +H(L) HHHHL I ansarrimsari 家計の an+ sarrim H(H) + LH
切り盛り +sari +HL
HHHLL I murC;}l)hwauntol) I水質改善運動 mur十C;}l)hWa H(H)十HH
十untol] 十HH このうち, HHHHで現れるk'urinsamchaは,各構成要素の音調が複合 語になってもそのまま現れている。 HHHで現れる anmatal)は, H (an)
(20)
+
LH (matal))→HHH (anmatal))においてL→H という音調の交替 が起きてはいるものの,構成要素のそれぞれのアクセントが生かされた(21)
音調で実現している。 HHHLで現れるpaks:}IlSel)nimやHHHHLで現れ るans'arrimsariも 同 様 に , お の お のH(H) (pak)
+
LHL (s:}nSel)nim)→HHHL (paksgnseJJnim), H(H) (an)
+
LH (sarrim)→HHH (a郎 、 立im) のように,一部で L→ H という音調の交替が起きているが,構成要素 の そ れ ぞ れ の ア ク セ ン ト は 生 か さ れ て い る 。 HHHLLで 現 れ る murcgJJhwauntol)は, 2つ目と 3つ目の要素はアクセント上結合して,韓国語大郎方言における名詞のアクセント体系(辻野) (53) HH (C;:)IJhwa)十HH (untol))→HHLL ( cgl)hwauntoIJ)となっているが,
1つ目の要素murは単独形と同じ音調Hで現れ,全体として, n+2 に収まらない型になっている。 HHHHHで現れる cgIJsatarikorは,少し 複雑であるが,次のように考えることができる。まず, LLH (satari)
+
H(L) (kor)がアクセント上結合して, LLLH(L)となる。次に,これ(22)
のヴアリアントである LHHH(L)と交替する。さらに, H(H) (cgIJ)十 LHHH(L) (satarikor)という語の連続において,LHHH(L)の最初のL (sa) が,音調の同化によって H と交替する。
このように考えていくと, n+2に収まらない音調で実現するこれら の名詞はすべて,複数のアクセントが表層に現れており,単一のアクセ
(23)
ント句にまとまった形ではないことが分かる。つまり, HHH, HHHH, HHHL, HHHHH, HHHHL, HHHLLのような音調で実現する語は,ア
(24)
クセント論的な観点からは1単位とは言えないのである。したがって,
これらの型は,アクセント体系を考える上で,単一のアクセント句から なる他の型とは区別しておくのがよさそうである。そして,従来の一部 の研究において,こういった区別を行わず,単一のアクセント句からな るものと,複数のアクセント句からなるものを同列に扱ってきたことが,
研究者によって挙げるアクセント型の個数が異なるという,研究状況の 混乱の大きな要因だと言いうる:
語形成論上,区別されうる単純語/複合語は,アクセント論的 にも異なった振る舞いをする場合がある。そして,それにも拘 らず;単純語と複合語を同列に扱ってきたことが,先行研究に おける混乱の大きな要因である。
(25)
このようなことから,本稿では,複合名詞は一旦除外し,まずは対象
(26)
を単純名詞のみに限定して,単純名詞にどのようなアクセント型が存在 するのかを次章で見てみることにする。複合名詞を事前に対象から取り 除いておくことで アクセント上 2単位以上の構成になっている語を 排除することができ,アクセント体系を構築していく上での混乱を避け
朝 鮮 学 報 ( 第 輯)
ることができるはずである。そして,複合名詞のアクセントに関しては,
その後の5章で,単純名詞のそれとも対照しながら,詳細に見ていくこ とにする。
4.単純名詞のアクセント
本章では,単純名詞のアクセントについて考察する。筆者のデータで は, l音節から 5音節の単純名詞において それぞれ以下のようなアク セント型が見られる:
R H(H) H(L)
ロia:r
(ことば)
ロ1ar
(升) mar
(馬)
(27)
【表4]大郎方言における単純名詞のアクセント体系(1)
H:H H:HL
HH HHL HHLL HHLLL
HL HLL HLLL HLLLL
LH LHL LHLL
LLH LLHL LLHLL
LLLH LLLHL LLLLH
【表5】表4の語例と日本語訳
sa:ram k;i:m;in
(人) (蛭)
kur;im iyaki khonkhwrithw c:m古町iswthw
(雲) (話) (コンクリート) (ジ、ャーナリスト)
no re my;in;iri wmtousrn miniswkh:)thw
(歌) (嫁) (ウインドウズ) (ミニスカート)
namu minari kwraIJphwri
(木) (芹) (グランプリ)
putumak kos;imtochi epereswthw
(竃) (針鼠) (エベレスト)
a汀umin戸Jill eswpherantho
(アルミニウム) (エスペラント)
khorreswtheror
(コレステロール)
韓国語大部方言における名詞のアクセント体系(辻野) (55) このように見ると,存在しうるアクセント型の個数は, 1音節名詞,
2音節名詞, 3音節名詞については,それぞれ3個, 4個, 5個の対立 する型が確実に存在し, n十2が当てはまる。しかし, 4音節名詞と 5 音節名詞については,検討が必要である。
まず, 4音節名詞は,大部分の語がLLHLという音調で現れ,その 他の型の音調で実現する語は少数派である。しかも,その他の型で実現 する語のほとんどが外来語である。例外としては, n~pc’~kt'ari (腿)が
(28)
あるが,これは広義の複合語と見ることもできる。また, LHLLという 音調で現れる語は, krnraIJphwri(グランプリ) , kharisrnma (カリスマ),
khaiswthrn (KAIST:韓国科学技術院)の 3語しかなく,これらは,す べて次末音節(penultimatesyllable)が弱母音/田/の開音節であるという
(29)
共通した分節音の特徴を持っているという点で特殊である。また, 50 代以下の話者の発音では,すべてLLHLという音調であった。このよ
うなことから,ここでは, LHLLという型を積極的に認めず, LHLLと いう音調は, LLHLのヴアリアントと見ることにする。
5音節名詞については,ほとんどの語がLLLHLという音調で現れる。
例外的にごく少数の語において, HHLLL, HLLLL, LLHLL, LLLLHと いった型も現れるが,このうち, LLHLLは, LHLLと同様に分節音(弱
(30)
母音)の影響によって生じたと考えられるものであり, LLLHLのヴア リアントと見る。 LHLLLという型は現れない。
以上のことから,大郎方言における単純名詞のアクセント体系を再度 まとめると,次の表のようになる:
【表 6】大郎方言における単純名詞のアクセント体系(2)
R H(H) H(L)
町一間一旦
m
一肌一肌HHLL HLLL
HHLLL HLLLL LH I LHL
I LLH I LLHL
I L比 H I LL日L
LLLLH
そして,表6は, n十2という式から想定されるH:HLL, LHLL, H:HLLL, LHLLL, LLHLLの部分が空き間になっていることから,さ
らに整理された形で,次の表のように書き直すことができる:
(31)
【表7】大郎方言における単純名調のアクセント体系(3)
01系列 R H:H H:HL
Os系列 H(H) HH HHL HHLL HHLLL
+ 1系列 H(L) HLL HLLL HLLLL
‑ 2系列 HL LHL LLHL LLLHL
1系列 LH LLH LLLH LLLLH
このように書き直すと,大郎方言では, 3音節語における5個のアク セント型が対立数の最大であることが一目瞭然に分かる。つまり,大郎 方言は,単純名詞という範囲内(単純名詞を仮に〈基底形〉と呼ぶこと にしよう)においては,音節数が増えても 5個以上アクセント型の対 立が増えることのない<5型アクセント体系〉をなしているのである):
大邸方言の名詞のアクセント体系は,基底形においては,多型 アクセントではなく 5型アクセントである。
そして,このアクセント体系は,次のように音論論的解釈をすること ができる。まず,<
+
1系列),< ‑
2系列),< ‑
1系列〉のように 1つの音節のみが高いタイプ(1音節卓立型)については,その高い音節を マークし,そこに「アクセントがある」と見倣す。一方,第1音節から 第2音節まで高い音調が続く<01系列〉と(Os系列〉は, lつのアク
(33)
セント句内で高調が2つ連続するという点で特徴的であり,アクセント のある 1音節卓立型に対して,「無アクセント型」と見倣す。以下,本 稿で「アクセント」という術語を用いる場合には,そのような意味で用 いることにする。
韓国語大郎方言における名詞のアクセント体系(辻野) (57)
5.複合名詞のアクセント
次に,本章では,複合名詞のアクセントについて考察する。
5.1. 〈名詞結合〉と〈名詞連続〉の峻別
語は,一般に, lつのアクセントしか持たない(あるいは1つも持た ない)。これが,アクセントが〈頂点表示機能) (culminative白nction) を持っと言われる所以でもある。そして それぞれ単一のアクセントを 持つ(あるいはlつも持たない)名詞が結合した複合名詞も,全体で1
(34)
つの語をなしている以上 その例外ではなく,普通単一のアクセント を有する(あるいは1つも有さない)。やや大胆な言い方をするならば,
複合名詞は,形態構造や意味構造はともかくとして,音韻的基準では,
lつのアクセント句にまとまることによってはじめて,複合名詞になる
(35)
のだと言ってもよい。しかし,既に見たように,一方では, anmatal)(中 庭), kurinsamcha (蜂蜜の人参茶) , paks};llSeIJnim (朴先生)など,構 成要素固有のアクセントがそのまま現れ 2つ以上のアクセントを持つ 複合名詞も存在する。そこで本稿では 以下 1つのアクセントのみ を有する(あるいは無アクセントの)複合名詞 すなわち 1つのアクセ ント句にまとまっている複合名詞を アクセント上名詞が結合してい るという意味で,〈名詞結合〉,各構成要素のアクセントがすべて表層に 現れ, 2つ以上のアクセント句からなる複合名詞を 名詞が単に連続し ているという意味で,〈名詞連続〉と呼び,両者を用語の上でもはっき りと区別しておくことにする。そして,〈名詞結合〉と〈名詞連続〉の 総称として,〈複合名詞〉という用語を用いる):
大邸方言の複合名詞は,アクセント論的な観点から,〈名詞結合〉
と〈名詞連続〉の2つに大きく下位分類しうる。
(37)
なお,複合名詞の中には, hankaunte(真ん中)のように,同じ語で あっても,場合によって, 1つのアクセント句でも 2つのアクセント句
でも発音されうるものがあるため,語形のみで以って,〈名詞結合〉と〈名 詞連続〉を裁然と二分できない点に注意したい。どこまでもアクセント 論的に 1単位で発音された複合名詞を〈名詞結合〉, 2単位以上で発音
された複合名詞を〈名詞連続〉と呼ぶのであって, どちらのカテゴリー に分類されるかは,その時その時によって変わることもありうる。
では,以下,名詞結合と名詞連続について,詳細に見ていくことにす る。
5.2. 1つのアクセント句からなる複合名詞:名詞結合
本節では,名詞結合のアクセントについて考察する。以下,筆者のデ ータの2音節から 5音節の名詞結合において それぞれどのような型が 現れるか,そして,各型がどのように生じるか(すなわち,前部要素の アクセントが生かされるか(X型),後部要素のアクセントが生かされ るか(Y型),新しいアクセントが生じるか(Z型))を見ていくことに する。
5
ユ
1. 2音節の名詞結合2音節の名詞結合には, H:H, HH, HL, LHという 4つの型が現れた:
R十R→H:H ( 1個), R十H(H)→H:H(2個), R+H(L)→H:H (4個),
H(H) + R→HH ( 2個) H(H) + H(H)→HH (14個), H(H)十H(L)→HH(4個),
H(L) + R→HL ( 2個) H(L) + H(H)→HL ( 4個) H(L) + H(L)→LH ( 5個)
H(H) + H(H)→HL (1個)
このように見ると,前部要素のアクセントが生かされる場合が圧倒的 に多く,後部要素のアクセントが生かされるのはH(L)
+
H(L)という組 み合わせの場合のみだということが分かる。 H(H)+
H(H)の場合には,H Hとなるものと HLとなるものがあるが, HLとなるのは1語(papthOIJ
(飯び、つ))のみで,それ以外はH Hとなる。
韓国語大郎方言における名詞のアクセント体系(辻野) (59) 5.2.2. 3音節の名詞結合
3音節の名詞結合には, 1音節名詞+2音節名詞という構造のものと,
2音節名詞十 l音節名詞という構造のものの2種類がある。
5.2.2.1. 1音節名詞+ 2音節名詞の名詞結合
1音節名詞+ 2音節名詞という構造の名詞結合には, H:HL, HHL, HLL, LHL, LLHという 5つの型が現れた:
R十H:H→H:HL ( 6個), R + HH→H:HL ( 1個), R十HL→H:HL ( 6個),
R+LH→H:HL ( 7個), H(H) + H:H→HHL ( 2個), H(H) + HH→HHL (4個),
H(H) + HL→HHL (21個), H(H) + LH→HHL (6個), H(L) + H:H→HLL (2個),
H(L) + HH→HLL ( 4個)
H(H) + HL→LHL (4個), H(L) + HL→LHL ( 9個), H(L) + LH→LLH ( 6個)
H(H) + H:H→LHL ( 1個), H(H) + LH→LHL ( 2個), H(L)十H:H→LHL ( 2個),
H(L) + HH→LHL ( 1個), H(L)十LH→LHL(2個)
多くの場合,前部要素のアクセントが生かされている。後部要素のア ク セ ン ト が 生 か さ れ て い る の は , H(H)
+
HL→LHL, H(L)十 HL→
LHL, H(L)+
LH→
LLHという 3種類の場合のみである。この うち, H(H)+
HLは , 前 部 要 素 の ア ク セ ン ト が 生 か さ れ たH(H)十 HL→
HHLというパターンもあり そちらのほうが語例としては圧倒 的に多い。また,新しいアクセントが生じるものとしては, 5種類の組 み合わせがあるが,これらはすべてLHLという型で現れるという点で 特徴的である。5.2
ユ
2. 2音節名詞十 1音節名詞の名詞結合2音節名詞+ 1音節名詞という構造の名詞結合には, 1音節名詞+2 音節名詞の場合と同様, H:HL, HHL, HLL, LHL, LLHという 5つの 型が現れた:
朝 鮮 学 報 ( 第209輯) H:H十R→H:HL ( 2個), H:H + H(H)→H:HL ( 5個),
H:H+H仏)→H:HL ( 3個),
HH+R→HHL (4個), HH + H(H)→HHL ( 3個), HH + H(L)→HHL ( 3個),
HL十R→HLL ( 5個), HL + H(H)→HLL (18個), HL + H(L)→HLL ( 8個),
LH+R→LHL ( 3個), LH + H(H)→LHL (10個) HL十H(L)→LLH ( 1個), LH + H(L)→LLH (9個) HH + H(H)→LHL ( 1個), HL + H(H)→LHL ( 2個)
これらも多くの場合,前部要素のアクセントが生かされている。後部 要 素 の ア ク セ ン ト が 生 か さ れ る の は , HL
+
H(L)→LLH, LH十 H(L)→LLHという 2種類の場合のみであるが, HL十H(L)は,前部要 素のアクセントが生かされたHL+
H(L)→HLLというパターンもあり,こちらのほうが語例が多い。HL十H(L)→LLHとなるのは, 1語(norepaIJ
(カラオケ))のみである。新しいアクセントが生じるものには, 2種類 の組み合わせがあるが,これらは共にLHLという型で現れる。
5.2.3. 4音節の名詞結合
4音節の名詞結合には, 1音節名詞+ 3音節名調という構造のもの,
2音節名詞+2音節名詞という構造のもの, 3音節名詞+ 1音節名詞と いう構造のものの3種類がある。
5
ユ
3.1. 1音節名詞+ 3音節名調の名詞結合1音節名詞+3音節名詞という構造の名詞結合には, H:HLL, HHLL, LHLL, LLHLの4つの型が現れた:
韓国語大郎方言における名詞のアクセント体系(辻野) (61) R+HLL→H:HLL ( 1個), R + LHL→H:HLL ( 2個),
H(H) + H:HL→HHLL ( 1個),
H(H) + HHL→HHLL ( 2個), H(H) + HLL→HHLL ( 3個), H(H) + LHL→HHLL ( 1個)
R十LHL→LLHL ( 1個), H(H) + LHL→LLHL ( 1個), H(L) + HLL→LHLL ( 1個),
H(L) + LHL→LLHL ( 8個) なし
基本的に前部要素のアクセントが生かされている。後部要素のアクセ ン ト が 生 か さ れ る も の と し て は , R十 LHL
→
LLHL, H(H) + LHL→
LLHL, H(L)十 HLL→
LHLL, H(L)十LHL→
LLHLの4パタ ーンがあるが,このうち, R + LHL, H(H) + LHLは,それぞれR + LHL→H:HLL, H(H) + LHL→HHLLというパターンもある。5
ユ
3ユ
2音節名調+ 2音節名詞の名詞結合2音節名詞+2音節名詞という構造の名詞結合には, H:HLL, HHLL, HLLL, LHLL, LLHL, LLLHの6つの型が現れた:
H:H + H:H→H:HLL ( 9個), H:H + HH→H:HLL ( 6個), H:H十HL→H:HLL ( 3個),
H:H + LH→H:HLL ( 5個), HH + H:H→HHLL ( 9個), HH+HH→HHLL ( 8個),
HH+HL→HHLL ( 4個), HH + LH→HHLL ( 4個), HL + H:H→HLLL ( 9個),
HL+HH→HLLL ( 6個), HL + HL→HLLL (12個), HL十LH→HLLL (12個),
LH + H:H→LHLL ( 5個), LH十HH→LHLL ( 6個) H:H + HL→LLHL ( 2個), HL十HL→LL且 (4個),
HL +LH→LLLH ( 1個),
LH +HL→LLHL (23個), LH + LH→LLLH (10個) LH+LH→LLHL ( 1個)
これらも基本的に前部要素のアクセントが生かされている。後部要素 のアクセントが生かされているものとしては, H:H+ HL→LLHL, HL 十 HL
→
LLHL, HL + LH→
LLLH, LH + HL→
LLHL, LH +LH→LLLHの5つのパターンがあるが, このうち, H:H十HL, HL + HL, HL + LHは,それぞれH:H+ HL→H:HLL, HL + HL→HLLL, HL + LH→HLLLと前部要素が生かされるパターンもあり,こちらの ほうがそれぞれ語例が多い。また, L H +LHは, LH+LH→LLHLと 新しいアクセントが生じるパターンも 1語(namuy:mne(木の実))ある。
5.2.3.3. 3音節名詞+ 1音節名詞の名調結合
3音節名詞+ 1音節名詞という構造の名詞結合には, 2音節名詞+2 音節名詞の場合と同様, H:HLL, HHLL, HLLL, LHLL, LLHL, LLLH の6つの型が現れた:
H:HL + H(H)→H:HLL ( 1個) , H:HL + H(L)→H:HLL ( 1個), HHL十R→HHLL ( 1個),
HHL + H(H)→HHLL ( 1個), HHL十H(L)→HHLL ( 1個), HLL+R→HLLL (1個),
HLL + H(H)→HLLL ( 2個), HLL + H(L)→HLLL ( 1個), LHL + R→LHLL ( 2個),
LHL + H(H)→LHLL ( 5個), LHL + H(L)→LHLL (1個), LLH+R→LLHL ( 1個),
LLH + H(H)→LLHL (1個), LLH + H(L)→LLHL (1個) LHL + H(L)→LLLH ( 1個), LLH + H(L)→LLLH ( 2個) なし
これらも基本的に前部要素のアクセントが生かされている。後部要素 の ア ク セ ン ト が 生 か さ れ る の は , LHL+ H(L)→LLLHとLLH+
H(L)→LLLHの 2パターンである。このうち, LHL+ H(L)は,前部要 素が生かされる LHL+ H(L)→LHLLというパターンもある。また,
LLH + H(L)弘前部要素が生かされる LLH+ H(L)→LLHLというパ ターンもある。
5
ユ
4. 5音節の名詞結合5音節の名詞結合には, 2音節名詞+ 3音節名詞という構造のもの,
(38)
3音節名詞+2音節名詞という構造のものの2種類がある。
韓国語大郎方言における名詞のアクセント体系(辻野) (63) 5.2.4.1. 2音節名詞+ 3音節名詞の名詞結合
2音 節 名 詞 + 3音 節 名 詞 と い う 構 造 の 名 詞 結 合 に は , H:HLLL, HHLLL, HLLLL, LLHLL, LLLHLの5つの型が現れた:
H:H
+
H:HL→H:HLLL ( 1個), H:H + 田IL→H:HLLL ( 1個), H:H+
HLL→H:HLLL ( 1個), H:H十LHL→H:HLLL ( 1個), HH十H:HL→HHLLL ( 1個), HH+
LHL→HHLLL ( 1個), HH+
LLH→HHLLL ( 1個), HL+
H:HL→HLLLL ( 1個), HL+
HHL→HLLLL (1個), HL+
HLL→HLLLL (1個), HL+
LHL→HLLLL ( 5個)LH十HLL→LLHLL (1個), LH
+
LHL→LLLHL ( 3個) なし基本的に前部要素のアクセントが生かされている。後部要素のアクセ ントが生かされるのは, LH
+
HLL→
LLHLLとLH+
LHL→
LLLHL の 2パターンのみである。5
ユ
4.2. 3音節名詞十2音節名詞の名詞結合3音 節 名 詞 + 2音 節 名 詞 と い う 構 造 の 名 詞 結 合 に は , H:HLLL, HHLLL, HLLLL, LHLLL, LLHLL, LLLHL, LLLLHの 7つ の 型 が 現 れた:
H:HL十HH→H:HLLL ( 1個), H:HL
+
HL→H:HLLL ( 1個), H:HL十LH→H:HLLL ( 1個), HHL+
H:H→HHLLL ( 1個), HHL+
HL→ 皿LLL(2個), HLL+
H:H→HLLLL (1個), HLL+
HH→HLLLL (1個), LHL十H:H→LHLLL (1個), LHL+
HH→LHLLL ( 1個), LHL+
HL→LHLLL ( 2個), LHL+
LH→LHLLL (4個), LLH+
H:H→LLHLL ( 1個), LLH+
HH→LLHLL ( 1個)LLH
+
HL→LLLHL ( 1個), LLH+
LH→LLLLH ( 2個) なしこれらも基本的に前部要素のアクセントが生かされている。後部要素 の ア ク セ ン ト が 生 か さ れ る の は LLH
+
HL→
LLLHLとLLH+
LH
→
LLLLHの 2パターンのみである。朝 鮮 学 報 ( 第 輯) 5
ユ
5. 名詞結合のアクセント体系と複合語アクセント規則以
k
のことをまとめると,名詞結合には次のようなアクセント型があ ることになる:(39)
【表8】大郎方言における名詞結合のアクセント体系
名詞結合では,単純名詞に現れた型に加えて,単純名詞には現れなか った新たなアクセント型が現れている。この体系は,従来の多くの(n
+2
説〉の研究で示されたアクセント体系と一致するものである。この ように見ると,大郎方言は 単純名詞という範囲,すなわち基底形にあ っては<5型アクセント〉である一方 単一のアクセント句からなる複 合名詞,すなわち名詞結合までをも含めると,音節数nに対して, n十2個の対立がある〈多型アクセント〉であることが分かる:
大邸方言の名詞のアクセント体系は 単純名詞と名詞結合とい う範囲では,音節数
n
に対してn+2
個の対立がある多型ア クセントである。つまり,従来の<n
+
2説〉の先行研究は, どの研究も明言はしてい ないけれども,単純名調と名調結合という範囲でアクセント体系を考え ていたのである。この事実は極めて重要である。 6章でも述べるように,アクセント体系は くどのレベル〉あるいはくどの範囲〉で考察するか によって,大きく異なりうるからである。どのレベル, どの範囲を対象
韓国語大郎方言における名詞のアクセント体系(辻野) (65) としているのかも明確にしないまま記述しでも それはアクセント体系 を正確に記述したことにはならないというのが筆者の考えである。
また, 5
ユ
1.から5ユ
4.の結果から分かるように,名詞結合では,基 本的に前部要素のアクセントが表層に現れ,後部要素のアクセントは消 去される。つまり,〈前部要素のアクセントが生きる〉というのが,名 詞結合のアクセントの大原則なのである。一方で,前部要素のアクセン トが消去されて,後部要素のアクセントが現れるのは,主に,前部要素 がH(L), LH, LLHのように語末音節にアクセントがあり,かっ後部要 素がH(L), HL, LH, HLL, LHL, LLHのような有アクセントの語の場 合である。こういった場合は基本的に後部要素のアクセントが生きる。そして,こうした原則に当てはまらないものは, norepaIJ (LLH)など,
ごく少数の語を除き, HL, LHL, LLHLのように,すべて次末音節に アクセントがある型になっている。この型は6章で述べるように,大郎 方言において最も生起頻度の高いdefaultであり,一種の類推(analogy) のような現象で、以って,数的に優勢なアクセント型に引き付けられて生 じた型である可能性がある。よって,本稿では,そのような例はとりあ えず対象からはずし,以下のような複合語アクセント規則(Compound Accent Rule : CAR)を提案する:
(40)
大邸方言の複合語アクセント規則(CAR):
次の場合を除いて,前部要素のアクセントが複合名詞全体のアクセン トになる:
前部要素が語末音節にアクセントがありかつ後部要素が有アクセントの場合。
この場合のみ,後部要素のアクセントが複合名詞全体のアクセントになる。
大部分の名詞結合のアクセントは,この規則によって,決定される。
複合語アクセント規則は,連続した複数の名詞を1つのアクセント句に まとめ上げ,名詞結合を作り出すための重要なデイヴアイスである。
5.3. 2つ以上のアクセント句からなる複合名詞:名詞連続
本節では,名詞連続について見る。名詞連続とは,既に述べたように,
複数のアクセント句からなっている複合名詞を指す。具体的には,例え ば,以下のような例である:
・ kochucaIJ (LHL)
+
t’~k (H(H))→kochuca明、k (LHLH) (唐辛子 味噌の餅)・ neir (HL)十more (HH)→neirmore (HLHH) (あさって)
・ ma:r (R)十 t~t~mi (LHL)→ ma:巾t~mi (H:HHL) (吃音の人)
・ mur (H(H))
+
ociIJ~ (LHL)→murociIJg (HHHL) (生烏賊)そして,これらを含め,語例をよく観察すると,名詞連続には,音声 レベルで2種類の異なったものが混在していることが分かる。 lつは,
kochucaIJt
。
k, neirmoreのように,複合語でも構成要素の音調がそのま ま現れているもの,もう 1つは, ma:rtgfami, murociIJgのように,複合 語でも構成要素のアクセントはそのまま維持されていながらも,一部で 音調の交替が起きているものである(ma:巾famiもmurociIJgも第2音節 が Lから Hに変わっている)。そこで,本稿では,前者のように音調の交替が起きないタイプの名詞 連続を〈並列型〉,後者のように音調の交替が起きるタイプの名詞連続 を〈連結型〉と呼んで,両者を区別することにする:
名詞連続は,さらに,音調の交替が起きない〈並列型〉と,音 調の交替が起きる〈連結型〉の2種類に分けうる。
そして,連結型の語例に注目すると,連結型で音調の交替(L→H) が起きるのは,必ず前部要素が無アクセントの語であり,かつ,音調の 交替が起きる音節の腹背が共に高調であるという大きな特徴があること
(41)
に気づく。つまり,連結型の音調の交替は,前部要素が無アクセントの 語である場合の複合語形成にあたって,低調の音節が高調の音節に挟ま れることによって生じる,いわば一種の音調の同化(assimilation)なの で、ある:
韓国語大郎方言における名詞のアクセント体系(辻野) (67) 連結型における音調の交替は 前部要素が無アクセントの語で ある場合の複合語形成にあたって 低調の音節が高調の音節に 挟まれることによって生じる一種の同化である。
アクセントはそれぞれ保ちながらも,非弁別的な音声的交替を伴う連 結型は,音韻レベルで、は明らかに名詞連続に属するものでありながらも,
音声レベルで、は名詞結合と類似した点を持っている。そういった点から して,連結型は,名詞結合と並列型の中間に位置するものであり,連結 型は並立型に比べると,相対的に構成要素聞の結合が強いのではないか
と考えられる。
6. アクセント型の生起頻度
次に,「アクセント型の生起頻度」の問題を考えてみたい。従来の研 究にあっては,「個々の語がそれぞれどのような音調で実現するのか」,
「当該の方言がどのようなアクセント体系をなすのか」という, この2 つの点に主に関心が向けられ, どのアクセント型が多く現れるのか,す
(42)
なわち,その方言にとって,どのアクセント型が最も「普通」なのかと
(43)
いった問題はあまり議論されてこなかった。しかしながら,すべてのア
(44)
クセント型が同じ頻度で現れるとは限らない。そこで,筆者は,それぞ れのアクセント型の所属語葉の個数と比率を単純名詞の場合と複合名詞 の場合とに分けて調べた。
6.1. 単純名詞のアクセント型の生起頻度
(45)
単純名詞の場合のアクセント型の所属語嚢数と比率は,以下の通りで
(46)
ある:
【表9]大郎方言の単純名詞のアクセント型の所属語嚢数および比率
表9から分かる通り 大郎方言の単純名詞は 同比率で各アクセント 型に分布しているわけではなく,所属語嚢がある特定の型に大きく偏っ
(47)
ている。 l音節名詞では(Os系列〉, 2音節名詞, 3音節名調, 4音節 名詞, 5音節名詞では<−2系列〉に属する語がそれぞれ最も多い。つ
(48)
まり, 1音節名調を除けば, 2音節名詞から 5音節名詞のいずれにおい ても,<−2系列〉の生起頻度が最も高いのである。これは,換言すれば,
大郎方言の単純名詞のアクセント型は, 1音節名詞を除き,次末音節に アクセントが置かれる型(次末アクセント型)が最も一般的な型(default) であるということに他ならない。そして,この事実は,既に述べた,〈単 純名詞という範囲内では5つ以上対立するアクセント型は増えない〉と いう事実と並んで,大郎方言がn+2の多型アクセント体系をなすとい う従来の考え方に一石を投ずるものである。大郎方言は,少なくとも統 計的には,多型アクセントやN型アクセントと言うよりも,ポーランド 語やスワヒリ語などのように,次末音節にアクセントが置かれる,いわ
(49)
ば〈固定アクセント的〉な体系をなしているのである。この傾向は,音 節数が増えるに従ってより顕著になり,音節数nの値が大きくなればな
(50)
るほど,固定アクセント体系に収束していくと言いうる:
大邸方言の単純名詞のアクセント型は, 1音節名調を除き,次 末アクセント型がdefaultであり 音節数 nの値の増加に従っ て,次末音節にアクセントが置かれる固定アクセント体系に収 束する。
韓国語大郎方言における名詞のアクセント体系(辻野) (69) 以上のようなことを踏まえると,従来の研究で,〈多型アクセント〉
ゃく N型アクセント〉というカテゴリーでまとめて扱われてきた諸言語・
方言は,〈アクセント型の生起頻度〉という観点で以って,さらに下位 分類することが可能となる。すなわち 大郎方言や日本語標準語のよう
に特定の型が突出しているタイプと,各アクセント型がバランスよく分 布しているタイプの 2つである。そこで,すべてのアクセント型が平均 的に生起する多型アクセントを〈均衡多型アクセント〉,すべてのアク セント型が平均的に生起する N型アクセントを〈均衡N型アクセント〉,
ある特定のアクセント型が計量的に突出している多型アクセントを〈非 均衡多型アクセント〉,ある特定のアクセント型が計量的に突出してい るN型アクセントを〈非均衡N型アクセント〉と呼んで,これらを区別
(51)
することを提案したい。そして,非均衡アクセントを,均衡アクセント や固定アクセントの聞の中間的な存在として位置づけることで,これま で〈多型アクセント), (N型アクセント〉,〈固定アクセント> (
=
1型 アクセント)という名で、以って,あたかも裁然と区別できるかのように 記述されてきた 3つのタイプのアクセントが,その実,帯状になだらか に連なった 1つの連続体であることを示すことができる。この〈アクセント体系の連続性〉は, 5章で述べた「大郎方言は,単 純名詞という範囲,すなわち基底形にあってはく5型アクセント〉であ る一方,単一のアクセント句からなる複合名詞,すなわち名詞結合まで をも含めると,音節数nに対して, n十2個の対立がある〈多型アクセ ント〉である」という結論を積極的に支持しうるものである。大郎方言 は,基底形においては N型アクセント,表層レベルでは多型アクセント,
生起頻度の面では固定アクセントに収束していく体系をなしており,一 言でアクセント体系と言っても, どのレベルの議論なのかによって,そ の答えは大きく変わるのである。これは,まさに多型アクセント, N型 アクセント,固定アクセントという 3つのアクセント体系の関係がそれ ぞれ独立した切り離された存在ではなく, 1つの連続した存在であると いうことに他ならない。そして,このことは,従前のアクセント論の在
り方に大きな疑問を呈する:
朝 鮮 学 報 ( 第209輯)
多型アクセント, N型アクセント 固定アクセントはそれぞれ 連続した存在であり これらのすべての性質を同時に併せ持っ た大邸方言のアクセント体系は これら
3
つの体系があたかも 載然と区別できるかのように論じてきた従前のアクセント論に 大きな疑問を呈するものである。さらに,<−2系列〉の所属語嚢が多く,音節数の増加に従って,次 末音節にアクセントが置かれる固定アクセント体系に収束していくとい う現象は,言語類型論的にも注目に値する。何となれば,世界のアクセ ント言語の中で,次末音節にアクセントを置く言語は数が多く,アクセ
(52)
ント規則として一般性が高いからである。例えば,ラテン語は,次末音 節にアクセントを置くのが原則であり,次末音節が軽音節でアクセント
を 置 き に く い 場 合 は , そ の 1つ 前 の 音 節 , す な わ ち 前 次 末 音 節
(53)
( antepenultimate syllable)にアクセントが移動する。
このようなアクセント規則を持つ言語は,イタリア語やスペイン語,
(54)
ポルトガル語,ルーマニア語などのいわゆるロマンス諸語の言語や,言 語接触によってラテン語の影響を受けた英語, ドイツ語,オランダ語と いったゲ、ルマン語派の言語は勿論のこと,ラテン語とは系統的にも歴史 的にも全く関係のない言語にも観察されることが知られている。例えば,
柴田(1992:79)によれば,アッサム語,アリュート語,ウイルタ語,
イラヌン語,アイマラ語などでも次末音節にアクセントを置くのが原則 である。また, Hayes (1995)によれば,非西洋語である,アラビア語 のレバノン方言,ベドウイン方言,ハワイ語, トンガ語,インガ語,マ ム
5
苦,マナム3
, フィジ一言苦などといった言語;がラテン言苦と同じかそれ苦 と類似したアクセント規則を持っている。さらに, 日本語(標準語)の(55)
外来語アクセント規則もこれらの言語のアクセント規則と類似してい る。
このように見ていくと,次末音節にアクセントが置かれる固定アクセ ント体系に収束していくということは,言語類型論的により普遍的なア クセント言語のタイプに収束していくということでもあると言いうる:
韓国語大郎方言における名詞のアクセント体系(辻野) (71)
「音節数 nの値の増加に従って 次末音節にアクセントが置か れる固定アクセント体系に収束していく」ということは,「言 語類型論的により普遍的なアクセント言語のタイプに限りなく 近づいていく」ということでもある。
6.2. 複合名詞のアクセント型の生起頻度
次に,複合名詞のアクセント型の生起頻度を見ることにする。複合名 詞といっても,名詞連続は単に各要素のアクセントがそのまま現れるだ けなので,ここでは名詞結合のみを扱う。複合名詞(名詞結合)のアク
(56)
セント型の所属語葉数および比率をまとめると,以下の通りである:
【表10】大郎方言の複合名詞(名詞結合)のアクセント型の所属語葉数および比率
5個(12.8%)
16個 (9.8%) 3個 (7.5%) 4個(10.0%) 2個 (5.0%) 39個(100.0%)I 163個(100.0%)I 183個(100.0%)I 40個(100.0%)
このように,複合名詞のアクセント型の生起頻度は,次末アクセント
(57)
型をdefaultとする単純名詞と異なった様相を呈している。これは,複 合名詞にあっても,後ろから3つ目のモーラを含む音節,あるいはそれ に近い音節にアクセントを置こうとする日本語(標準語)の複合語のア クセントの在り方と対照的である。
この事実は,視点、を変えると,大郎方言では,アクセント型から当該 の名詞が単純名詞なのか複合名詞なのかをある程度予想しうる場合があ
(58)
るということを意味する。例えば,単純名詞ではほとんど現れない H:HLL, HHLL LHLL, H:HLLL HHLLL, HLLLL, LHLLL, LLHLL
朝 鮮 学 報 ( 第209輯)
などといったアクセント型であれば,複合名詞の可能性が非常に高く,
逆に,複合名詞ではそれほど頻度の高くない<−2系列〉のLLLHLで
(59)
あれば,単純名詞の可能性が高いといった具合である。また, H:HLH, HHHH, HHHLなどといった音調であれば明らかに名詞連続であり,こ れらも音調から複合名調であることが容易に分かる。こうした事実は,
アクセント論と形態論のインターフェースとなる可能性を秘めたもの で,注目すべきものである:
複合名詞のアクセント型の生起頻度は 単純名詞のそれと異な った様相を呈しているため,大邸方言の名詞は,アクセント型 から単純名詞か複合名詞かをある程度予想しうる場合がある。
7.世代による差について
本章では,世代による差について簡単に言及しておく。基本的には,
どの世代にあっても,同じ語は同じアクセント型で現れるが,一部の語 にあっては,違いが見られる。
まず,最も顕著な点は, 50代以下の話者では, 60代の話者には見ら
(60)
れる長母音が崩壊している点である。これは,既に福井(2000b),李連 珠(2000)など,いくつもの先行研究で指摘されている現象であり,ピ ッチアクセントを持つ持たないを問わず,全国的に起きている中期朝鮮 語の上声に対応する第l音節の長音節の短音節化と軌をーにするもので ある。しかし,ここで注目すべきは,単に長母音がそのまま短母音化し ているだけではなく,一部の語にあっては,高低までが変化し,この方 言のアクセント型のdefaultである<− 2系列〉の型に合流していると
(61)
いう点である。例えば, w~ :nsuJJi (猿)などといった語は, 60代の話者 ではH:HLというアクセント型で現れるが, 50代以下の話者ではHHL ではなく, LHLというアクセント型で現れる。ある言語形式が数的に 優位な群ヘ引き付けられていくというのは言語変化の常であり,そうい った意味では自然な現象とも言えるが,長母音の崩壊と同時に,音の高 低の変化まで見られるというのは,非常に興味深い。
韓国語大郎方言における名詞のアクセント体系(辻野) (73) また,もともと長母音である語のみならず, 40代以上の話者では,
HLL で現れる nak~ne (旅人)やygtgrgm(面胞)などといった語も, 20 代の話者ではく−2系列〉のLHLで現れる。このような変化がさらに 起こっていくと,ますます<−2系列〉の語が増加していくこととなり,
大郎方言のいわば〈固定アクセント化〉がさらに進むことになる。
また,40代以上の話者ではLHLというアクセント型で現れるk'akt'uki
(カクテギ) , khokiri (象) , theturi (枠)などといった一部の語が, 20 代の話者ではHHLというアクセント型で現れる点も特筆に値する。こ
ういった現象は,主に語頭子音が激音や濃音である場合に見られ,これ らの子音の特徴によって生じたものと考えられる。こういった分節音の 影響によるアクセントの変化は,もしかすると,大郎方言におけるアク セントの弁別性の崩壊の始まりと解釈することができるかも知れない。
8.お わ り に
蕊で,重複を厭わずに,本稿で述べてきた重要な点を再度確認しよう。
本稿では,先行研究を概観したのち,従前の研究で十分に取り入れら れていなかった,語形成論的な観点,計量的な観点などといった視座か
ら,大郎方言の名詞のアクセントを詳細に照射した。
語形成論的な観点では,単純語/複合語を分離し,アクセント句とい う観点から,複合名詞を〈名詞結合〉と〈名詞連続〉の2つに下位分類 した。さらに音調の交替という観点から 名詞連続を〈連結型〉と〈並 列型〉に分けた。そして 大郎方言の名詞のアクセント体系は,単純語 という範囲では5型アクセント 複合語(名詞結合)まで含めると
n+
2個(nは音節数)の対立がある多型アクセントであるということを闇 明した。また,複合語アクセント規則も提案した。
計量的な観点では各アクセント型の生起頻度を調べ,単純名詞では,
1音節名詞を除き,次末音節にアクセントが置かれる<−2系列〉の生 起頻度が最も高いこと(つまり,<−2系列〉がdefaultであること)
を明らかにした。また,<− 2系列〉の語が多いという傾向は,音節数 の増加に従ってより顕著になり,音節数nの値が大きくなればなるほど,
朝 鮮 学 報 ( 第209輯)
次末音節にアクセントが置かれる固定アクセント体系に収束していくこ とも指摘した。さらに,次末音節にアクセントが置かれるという現象は,
ラテン語を始め,世界の多くの言語に見られるものであり,音節数の増 加に従って,次末音節にアクセントが置かれる固定アクセント体系に収 束するということは,言語類型論的により普遍的なアクセント言語のタ イプに限りなく近づいていくということでもあるということも述べた。
一方,複合名詞の場合は,特にそのような傾向は見られず,単純名詞 の場合と全く異なった様相を呈していることを述べた。この事実は,視 点を変えると,大郎方言では,アクセント型から当該の名詞が単純名調 なのか複合名詞なのかをある程度予測しうる場合があるということを意 味する。
また,世代による差についても簡単に言及し,長母音の崩壊, default の<−2系列〉への合流による固定アクセント化など,筆者が気づきえ た点をいくつか指摘した。
このように,本稿では,従来の方言研究とは異なった新たなアプロー チで以って,大郎方言のアクセントに深く肉迫してきた。そういった意 味で,本稿は,大郎方言の共時的アクセント研究であると同時に,既存 の韓国語アクセント研究の牧歌的な方法論を根底から問い直すものでも ある。今後は,本稿で示したこういった方法論に再び立脚し,用言や他 の品調も研究の姐上に載せて,あらゆる品詞を包括しうる,大郎方言の アクセント体系の構築を試みるつもりである。
{謝辞】本稿の執筆にあたっては,東京大学の福井玲先生,韓国ソウル大学 校の金星杢先生からご指導を受け 米国コーネル大学のJohnWhitman先生 からもご助言を頂戴しました。また,本稿は, 2008年3月22日に東京大学 本郷キャンパスで開かれた第222回朝鮮語研究会での発表原稿をもとにし ており,同研究会では,東京外国語大学の野間秀樹先生,伊藤英人先生を はじめ,多くの方々から貴重なご指摘を頂きました。この場を借りて,感 謝申し上げます。
韓国語大郎方言における名詞のアクセント体系(辻野) (75) 註
( 1) ここでの名詞とは,代名詞や数詞も含まれる。
(2) なお,先行研究の中には,許雄(1955,1963),文孝根(1962)などのよう に,慶尚道方言を,アクセント論ではなく,声調論の立場から論じたものもあ るが,本稿では,慶尚道方言をアクセント言語と見る。当然のことながら,〈声 調〉と呼ぶか,〈アクセント〉と呼ぶかは,単なる名づけの問題ではない。体 系の捉え方の根幹に関わる重要な問題である。端的に言って,声調は当該単位 のくどれなのか〉,アクセントは当該単位のくどこにあるのか〉が問題になる もので,両者は大きく異なる。もし,慶尚道方言が中国語などのような声調言 語であり,許雄(1955,1963)などのように,高・中・低の3段階の声調を認 めるならば,少なくとも理論的には, 2音節語ならば9個, 3音節語ならば 27個の対立(すなわち〈声調の数〉の〈音節数〉乗の対立)がありうるはず である(尤も声調言語であっても,例えば中国語(北京官話)の場合,いわゆ るtonesandhi (第3声+第3声→第2声+第3声)や軽声の問題があるので,
実際にはそれほど単純ではないが)。しかし,実際の言語事実はそうではなく,
例えば,大郎方言では,後に本稿で見るように, 2音節語ならば4個, 3音節 語ならば5個の対立しか存在しない。そのように考えると 語を構成するそれ ぞれの音節に声調が1つ1つ付与されていると見るよりも,日本の多くの研究 者の立場のように,抽象的な音韻レベルのアクセント(核)の位置を指定して,
語全体としてのピッチパターンがどのようになっているかを問題とするアクセ ント言語と見る方が妥当であり その方が遥かに言語事実に即していると言い うる。したがって,筆者は,慶尚道方言を声調言語ではなく,アクセント言語 と見る。
(3) 韓国語のアクセントの起源については, Ramsey (1991),福井(2003)な どを参照。
(4) 本稿では,河野(1955)に従い, 1443年(諺文発明)から1592年(壬辰 の役)までの朝鮮語を「中期朝鮮語」と呼ぶ。
(5) なお,中期朝鮮語のアクセントを「声調」とする立場もあるが,アクセン トと解釈するのが適切だと思われる(ただし,慶尚道方言や日本語の多くの方 言と異なり,中期朝鮮語は,古典ギリシア語やサンスクリット語,カザン・タ
タール語,アイヌ語などと同様に,昇りアクセント核を持つ言語である。
Hayata (1974)参照)。ただ,伊藤(1997)などのように,中期朝鮮語を声調 言語ではなくアクセント言語としながらも 中国音韻学の影響を強く受けた朝 鮮の伝統的な〈声調〉という呼称を踏襲してそのままく声調〉と呼んでいる場 合もあるので,注意が必要である。中期朝鮮語では,『訓民正音』解例本の「合 字解」に「凡字之左加ー貼矯去聾二貼矯上撃無貼矯平聾市文之入撃輿去聾相似 諺之上聾無定」とある知く,音の高低が傍点によってlつlつ示された。中期