3GPP LTE における効率的なスモールセル活用技術とその適用効果
原田 浩樹
†a)武田 和晃
†永田 聡
†石井 啓之
†中村 武宏
†Technologies for Efficient Small Cell Operation in 3GPP LTE
Hiroki HARADA
†a), Kazuaki TAKEDA
†, Satoshi NAGATA
†, Hiroyuki ISHII
†, and Takehiro NAKAMURA
†あらまし 近年,スマートフォンやタブレット端末の普及により移動通信のトラヒックは年率約2倍のペース で爆発的に増大している.今後も増加し続ける移動通信トラヒックに対応するため,従来の高送信電力マクロセ ルエリア内にピコセルやフェムトセルといった小送信電力スモールセル基地局を重畳配置するヘテロジーニアス セルラネットワーク(HetNet)の検討が活発に行われている.将来予想されるトラヒックを収容するためには,
HetNetにおいて従来のマクロセルに対し異周波数を利用するスモールセルを高密度に重畳配置し,周波数帯域
の拡張とネットワークの高密度化によってネットワーク容量を向上することが特に有効とされている.しかしな がら,スモールセルの高密度設置を進めた場合,セル間干渉の増加などの問題により,スモールセル導入による 利得が減少してしまう.また,高密度スモールセル環境における干渉要因の一つである下りリンクの参照信号送 信は,従来標準仕様において周辺スモールセル発見及び測定に用いられるため,この干渉を低減するためには新 たなスモールセル発見及び測定のための信号や手順の導入が必要となる.3GPP LTE Release 12では,これら の問題に対応するための技術についてSmall Cell Enhancement (SCE)と呼ばれるStudy/Work Itemにおい て検討及び仕様化が行わなれた.本論文では3GPP LTE Release10及び11において検討されたスモールセル 技術及びその拡張技術であるRelease 12 SCE技術,特にSmall cell on/off制御及びSmall cell discovery技術 等の概要について解説するとともに,スモールセルの導入効果及びRelease 12 SCE技術の適用効果を計算機シ ミュレーションにより明らかにする.
キーワード スモールセル,ヘテロジーニアスセルラネットワーク,Small Cell Enhancement, Small cell on/off, Small cell discovery
1.
ま え が き近年,スマートフォンやタブレット端末といった高 機能端末が普及するとともに,高精細動画ストリー ミングやビデオ通話など情報量の多いリッチコンテン ツやクラウドサービスなどが広がっており,移動通信 におけるトラヒックは飛躍的に増大している.実際に
2011
年12
月から2014
年12
月までの3
年間で,国内 の移動通信の総トラヒックが約6.4
倍(年当り1.86
倍 程度の成長率)に増加したことが報告されている[1]
. このようなトラヒックの増加が続くと仮定した場合,2020
年代の移動通信のトラヒック量は2010
年比で†(株)NTTドコモ,横須賀市
NTT DOCOMO, INC., 3–6 Hikarinooka, Yokosuka-shi, 239–
8536 Japan
a) E-mail: hiroki.harada.sv@nttdocomo.com
1000
倍以上に達することになる.移動通信事業者に とって,このようなトラヒック増に対抗するための移 動通信ネットワークの大容量化は喫緊の課題である.3rd Generation Partnership Project (3GPP)
では,大容量化への要求を背景として
Long Term Evolution (LTE)
及びその高度化であるLTE-Advanced (LTE- A)
がそれぞれRelease 8
,Release 10
として仕様化さ れ,現在は,Release 13
の標準仕様化作業が行われて いる[2]
.ところで,無線ネットワークの大容量化を達成する ための手段としては,図
1
に示すような主に三つのア プローチが存在する[3]
.具体的には周波数利用効率の 改善,周波数帯域の拡張,ネットワークの高密度化で ある.現実のトラヒックは地理的に偏って発生してお り,大容量のトラヒックが集中して発生するローカル エリア環境が特に重要である.そのようなトラヒック図1 無線ネットワーク大容量化へのアプローチ Fig. 1 Approaches for network capacity expansion.
の偏りに柔軟に対応し,無線ネットワークの容量を増 大させることが可能となるよう,スモールセルを活用 したネットワークの高密度化技術が近年特に注目を集 めている.
3GPP
におけるRelease 10
以降の検討にお いても,無線ネットワークの大容量化を実現するため,ヘテロジーニアスネットワーク
(HetNet)
と呼ばれる,高送信電力のマクロセルのカバレッジ上に多数の低送 信電力のスモールセルをオーバレイしたネットワーク 構成に関する技術検討が盛んに行われている
[4]
〜[6]
. このようなHetNet
構成では,既に展開しているマク ロセルネットワークのカバレッジを変更せずにネット ワークを高密度化し,無線ネットワーク容量を増大さ せることが可能である.2012
年6
月に開催された3GPP Workshop
では,Release 12
以降のLTE
標準化で注力すべき主要技 術をとりまとめ,その中でもHetNet
及びスモール セルに関する拡張は最も多くの注目を集めた.特に 複数のキャリアを束ねて広帯域化を実現するCarrier Aggregation (CA)
の概念をHetNet
に発展させ,マ クロセルとスモールセルに別周波数を適用し,マク ロセル基地局がカバレッジやモビリティ,スモールセ ル基地局が高速なデータ伝送を提供するネットワーク 構成の概念がファントムセル,ソフトセルなどの異な る名称で複数社から提案された[7], [8]
.この結果を受 け,3GPP
ではRelease 12 LTE
においてSmall Cell Enhancements (SCE)
という議論を立ち上げ,2012
年8
月よりシナリオ・要求条件の検討を,2013
年1
月より物理レイヤと上位レイヤの技術検討をStudy Item (SI)
として行ってきた[9]
〜[11]
.2013
年12
月 からは,無線インタフェース仕様の策定を行うWork Item (WI)
の議論が開始された.本論文では
3GPP
におけるRelease 10
以降で検討 されたHetNet
向けのスモールセル技術について概観 し,各技術の特徴と適用効果を解説する.はじめにLTE Release 10/11
において仕様化された,マクロ セルとスモールセルが同周波数を利用する場合の技術 として,スモールセルへのオフロードを促進する技術 や高送信電力マクロセルからの干渉を制御するセル間 干渉制御及び協調技術について解説する.更に,LTE Release 12 SCE
において仕様化された,特にマクロ セルとスモールセルが異なる周波数を利用する場合の スモールセル技術について解説する.効率的にスモー ルセルを活用するためのSmall cell on/off
技術及びSmall cell discovery
技術については技術の詳細を述べ るとともに,その適用効果について計算機シミュレー ションを用いて明らかにする.以下,本論文の構成を述べる.
2.
では,セルラ移動 通信におけるスモールセル技術の概要とHetNet
構成 における課題を説明し,3GPP LTE
において仕様化 されたHetNet
向けのスモールセル技術について概説 する.3.
では,LTE Release 12 SCE
において仕様 化された,効率的にスモールセルを活用するための技 術の詳細について説明する.4.
では,スモールセルの 導入効果及び3GPP Release 12 LTE
で仕様化された スモールセル拡張技術の適用効果を計算機シミュレー ションによって明らかにし,5.
にて本論文の結論を述 べる.2.
スモールセル技術の課題とLTE
におけ る標準化動向本章では,セルラ移動通信におけるスモールセル技 術の概要とその課題を解説するとともに,各課題に対 する
3GPP LTE
標準化での取り組みを紹介する.2. 1
セルラ移動通信におけるスモールセル技術と その課題システム全体の容量(キャパシティ)を増大するに は,セル当りの無線インターフェースのキャパシティ の増大とともに,小セル化が有効である.また,現 実のトラヒックは地理的に偏っており,大容量のトラ ヒックが集中して発生するローカルエリアを効率的に カバーする観点においても,小セル化は有効である.
以上を背景として,
3GPP
におけるLTE Release 10
以降の検討では,高送信電力のマクロセル基地局のカ バレッジ上に比較的送信電力の低いスモールセル基地 局を重畳配置するHetNet
構成を想定した技術検討が盛んに行われている.
3GPP
において検討されてい るHetNet
構成としては,図2
に示すように大別して 二種類のシナリオが存在する.図2 (a)
に示す同周波HetNet
は,マクロセルとスモールセルが同一の周波数を適用するシナリオであり,セルラオペレータのも つ周波数が限られている場合や既にマクロセルによる エリア展開を行った周波数の更なる容量改善を目指す 場合などを想定した置局シナリオである.一方,図
2 (b)
に示す異周波HetNet
は,マクロセルとスモール セルが異なる周波数を適用するシナリオであり,セル ラオペレータが複数の周波数バンド,特に既にマクロ セルによるエリア展開を行った周波数とは異なる周波 数をもっている場合を想定した置局シナリオである.前述のとおり
HetNet
構成はシステム容量を増大さ せるのに有効であるが,実際にセルラネットワークへ 導入する上では様々な課題が存在する.同周波HetNet
では,マクロセルとスモールセル間の送信電力差に起 因して,スモールセルへのオフロード効果が限定的 になる,大きなセル間干渉が生じるといった課題が存 在する[12]
.ユーザ端末(UE
:User Equipment)
に とっての接続セルは,下りリンクの参照信号受信電力(RSRP
:Reference Signal Received Power)
が最大 となるセルとすることが一般的であるが,その場合低 送信電力のスモールセルの近傍に位置するUE
が高 送信出力のマクロセルを接続セルとしてしまうケース が生じ,スモールセルへのオフロード効果が限定的と なる.更に,そのようなUE
はスモールセルの近傍に 位置しているにもかかわらずマクロセルに接続してい るため,上りリンクではマクロセルへ向けて高送信電 力での送信が必要となり,スモールセルに接続してい る別のUE
の上りリンク通信へ大きな干渉を与えて しまう.異周波HetNet
では,UE
が複数の周波数を 継続的にモニタリングする必要があり,周辺セルの認図2 HetNet構成例 Fig. 2 HetNet deployment scenarios.
識や品質測定といった
Radio Resource Management (RRM)
測定の負担増加に伴うUE
バッテリー消費増 が課題となる[13]
.更にスモールセル共通の課題とし ては,基地局やアンテナのサイズ等による設置位置や 収容帯域の制約,移動時にハンドオーバが頻発するこ とによるコアネットワークへのシグナリング負担増,マクロセルと比べ基地局の絶対数が多くなることによ るセルプランニング負担増と緻密なセルプランニング を行わない場合のセル間干渉増加とのトレードオフ,
などが挙げられる
[14]
.2. 2 LTE Release 10/11
における従来スモー ルセル技術3GPP
におけるLTE Release 10
及びRelease 11
では,主に同周波HetNet
を想定し,前述の課題を解 決するための技術が検討,仕様化された.以下で各技 術の特徴と適用効果を解説する.なお,本論文で解 説するスモールセル関連の3GPP
標準機能について は,各機能の概要[15]
,物理信号の構成[16]
,端末の 動作[17]
,上位レイヤのプロトコルやシグナリング構 成[18]
,要求性能[19]
〜[21]
,などに分けて仕様書に記 載されている.(1) Cell Range Expansion (CRE)
同周波
HetNet
では,UE
がRSRP
の最も高いセル に接続するとした場合,マクロセルとスモールセル間 の送信電力差に起因し,スモールセルへ接続するUE
数がマクロセルへ接続するUE
数に比較して非常に 小さくなる.この問題を解決するため,LTE-A
では スモールセルのRSRP
にオフセット値を加えること によってスモールセルの等価的なセル半径を拡張するCRE
がサポートされている.図3
にCRE
の適用効 果の概念を示す.CRE
を適用することにより,より 多くのUE
をスモールセルへ接続し,オフロード効果 を増大させることができる.また,スモールセル近傍 のUE
がマクロセルに接続することで生じる上りリ ンクでのセル間干渉増大の問題を回避することができ図3 同周波HetNetにおけるCRE適用効果 Fig. 3 Effect of CRE in co-channel HetNet.
る.しかしながら下りリンクでは,
CRE
オフセット 値が増大するにつれ,スモールセルにオフロードされ たUE
がマクロセルから受ける干渉レベルが増大して しまう問題が生じる[22]
.(2) enhanced Inter-Cell Interference Cor- dination (eICIC)
前述の
CRE
適用時における下りリンク干渉を低減 するため,LTE Release 10
のOptional
機能の一つ として,セル間干渉制御技術であるeICIC
技術が規 定された.図4
にeICIC
の概要を示す.eICIC
では,時間領域における特定のリソースにおいてマクロセル がデータや
Layer 1/Layer 2 (L1/L2)
制御信号の送信 を停止することにより,当該リソースにおけるスモー ルセルの下りリンク信号への干渉を回避する.データ や制御信号を無送信とするマクロセルのサブフレー ムをAlmost Blank Subframe (ABS)
,ABS
により 保護されるスモールセルの時間リソースをProtected subframe
,それ以外の保護されない時間リソースをNon-protected subframe
と呼ぶ.eICIC
を適用する 際,マクロセル基地局及びスモールセル基地局に接続 されるUE
の割合などに応じて,適切にABS
の位置 や割合を設定する必要があり,セル間での協調制御に よりこれを実現する[23]
.eICIC
技術によってスモー ルセルにオフロードされたUE
がマクロセルから受け る干渉の問題を緩和できるため,LTE Release 10
で は6 dB
までのCRE
オフセット値がサポートされた.(3) Further enhanced ICIC (FeICIC) LTE Release 11
ではCRE
適用によるオフロード 効果を増大するために,9 dB
までのCRE
オフセッ ト値がサポートされた.図4
に示すようにeICIC
に おけるABS
ではデータやL1/L2
制御信号の送信は停 止されるがCell-specific Reference Signal (CRS)
は図4 同周波HetNetにおけるeICIC Fig. 4 eICIC in co-channel HetNet.
セルの受信品質測定等のために常に送信されるため,
CRE
オフセット値を増大した場合にはこのCRS
送 信によるマクロセルからスモールセル接続UE
への 下りリンク干渉が相対的に大きくなることが問題とな る[24]
.そこで,セル間協調干渉制御の拡張として,LTE Release 11
では,UE
側でのCRS
干渉キャンセ ラ及びCRS
干渉キャンセルのために必要となるアシ スト情報のシグナリングが規定された.具体的には,UE
において干渉電力の大きい周辺2
セルからのCRS
をキャンセルするため,周辺セルそれぞれのセルID
,CRS
送信ポート数,サブフレーム情報等が接続セル からシグナリングされる.なお本機能はLTE Release 11
のMandatory
機能の一つである.(4) Coordinated Multi-point Transmis- sion/Reception (CoMP)
前述の
eICIC/FeICIC
技術は,マクロセル基地局と スモールセル基地局とがある程度の遅延を有する一般 的な有線伝送路で接続されているような置局シナリオ における,準静的なセル間協調干渉制御技術である.一 方,スモールセルの別の置局シナリオとして,マクロ セル基地局から光ファイバ等を介して張り出すリモー ト基地局(RRE
:Remote Radio Equipment)
によっ てスモールセルを形成する場合がある.LTE Release 11
では,このように光ファイバ等を介して接続され る地理的に離れた複数セル間の動的な協調技術としてCoMP
送受信が仕様化された.下りリンクCoMP
送信 法の一つであるDynamic Point Selection/Dynamic Point Blanking (DPS/DPB)
では,UE
から報告さ れる瞬時のチャネル品質情報に基づき,複数の送信ポ イント間でデータ送信に用いる送信ポイントの選択及 び干渉となる周辺送信ポイントでの送信停止を高速に 行うことで,セル境界に位置するUE
の受信品質を改 善しユーザスループットを向上することができる.下 りリンクCoMP
に対応するため複数の送信ポイント に対するチャネル品質の測定機能は,LTE Release 11
のOptional
機能の一つである.また,HetNet
構成で のCoMP
適用シナリオとして,マクロセルとスモー ルセルがそれぞれ異なるセルID
を用いる一般的な個 別セルID
運用に加え,送信ポイント間でセルID
を 共通化することによりハンドオーバ頻度を減らすこと のできる共用セルID
運用も想定された[5]
.2. 3 LTE Release 12
におけるスモールセル技 術の高度化検討LTE Release 12
においては,Release 10/Release
11
でのHetNet
検討を踏まえ,同周波HetNet
だけで なく異周波HetNet
も考慮したSCE
技術が検討,仕 様化された.以下でRelease 12 SCE
検討の狙いや技 術概要を説明する.(1) SCE
の適用シナリオ技術検討に先立ち,
3GPP
ではまずSCE
検討のシ ナリオ及び要求条件の議論が行われた[9]
.図5
にSCE
において想定された置局シナリオを示す.SCE
シナ リオの特徴の一つは,トラヒックが集中的に発生する ローカルエリアを想定してスモールセルがクラスタ 状に集中配置される点である.また,マクロセルとス モールセル間の同周波/
異周波利用,スモールセルの屋 外/
屋内設置,スモールセルエリアに重畳するマクロ セルエリアの有無によって分類されたシナリオとして,図
5
に示すSCE scenario 1/2a/2b/3
が定義され,そ れぞれのシナリオにおいてはスモールセルの設置密度 が低い場合と高い場合が考慮された.(2)
スモールセル環境に適した周波数利用効率向上 技術スモールセル環境では,セル当りのユーザ数が少な い,見通し環境により受信品質が非常に高い,低モビ リティの
UE
のみを収容する,といったマクロセル環 境とは異なる特徴がある.Release 12 SCE
検討では,上記のようなスモールセル環境特有の特徴を活かし,
周波数利用効率を向上させる技術についての検討が行 われた.具体的には,下りリンク通信への更なる高次
図5 Release 12 SCE置局シナリオ Fig. 5 Release 12 SCE deployment scenario.
多値変調方式の導入や,
L1/L2
制御信号や参照信号の 削減によるオーバーヘッド低減についての検討が行わ れ,Release 12
では下りリンク通信での256QAM
が 新たに仕様化された[10]
.256QAM
の導入はセル間 干渉の少ない屋内への低密度スモールセル設置時など に特に効果的であり,ピークレートの向上及び容量改 善効果が得られることが確認された[25]
.(3)
スモールセルの効率的な運用技術Release 12 SCE
では,Release 10/11
におけるHet- Net
検討よりも高密度にスモールセルを集中配置する シナリオが想定された.そのような高密度スモールセ ル設置環境での効率的な運用を促進する技術として,高密度に設置されたスモールセル間の干渉回避
/
協調技 術や,スモールセルの効率的な発見(Discovery)
技術,無線インターフェースを用いたスモールセル間同期技 術などが検討された
[10]
.スモールセル間干渉回避/
協 調技術としては,具体的には,データを送信しないス モールセルのCRS
送信を停止し周囲のスモールセル への与干渉を低減するSmall cell on/off
技術,下りリ ンク及び上りリンク双方での送信電力制御技術の拡張,時間周波数領域でのリソース制御による干渉コーディ ネーションの拡張,セル間トラヒックロードのバラン シングや一部のセルへのトラヒックロード集約などが 検討され,中でも
Small cell on/off
技術については定 量評価によってOFF
状態からON
状態への遷移時間(Transition time)
が十分短い場合,大きなスループッ トゲインが得られることが確認された[26]
.そのためRelease 12
では,OFF
状態のスモールセルをUE
が 効率的に発見,測定可能とし,短時間でのON
状態 への遷移を実現するため,スモールセル発見用信号(Discovery signal)
及びその検出手順が検討,仕様化 された.なお,256QAM
機能はLTE Release 12
で新 規に規定されたUE
カテゴリのうち,一部のUE
カテ ゴリ(Category 13-15)
においてはMandatory
機能で あり,他のUE
カテゴリ(Category 11, 12)
において はOptional
機能である.また,Small cell on/off
及 びDiscovery
機能については,LTE Release 12
にお けるOptional
機能である.3. LTE Release 12 SCE
における効率 的なスモールセル活用技術本章では,前章にて紹介した
Release 12 SCE
技術 のうち,効率的なスモールセル活用の観点から特に重 要である,Small cell on/off
及びDiscovery
技術について詳細を説明する.
3. 1 Small Cell On
・Off
技術高トラヒックエリアに対し容量対策としてスモール セルの高密度設置を進めていった場合,設置数の増大 や設置位置の制約等により,十分なセルプランニング を行うことが困難となり,セル間干渉が問題となる.
Release 10/11
にて仕様化されたeICIC
やCoMP
と いったセル間干渉制御技術は,データ送信を止めるこ とにより干渉を低減する技術であるため,各セルに ある程度データトラヒックが存在するような状況で 有効である.実際のトラヒックは時間的かつ空間的に 偏って発生するため,一部のスモールセルはデータト ラヒックをもたない状況が発生する.データ送信を行 わないサブフレームにおいても,UE
によるセルの検 出や測定のために通常のセルはCRS
を常に送信する ため,図6 (a)
に示すように高密度スモールセル環境 では周辺の多数のスモールセルからのCRS
干渉が問 題となる.そこで図6 (b)
に示すように,データを送 信していないセルのCRS
送信を停止するSmall cell on/off
を適用することにより,OFF
状態となったス モールセルが周囲へ与えていたCRS
干渉を低減し,ON
状態のスモールセルと接続中のUE
のスループッ トを改善することが可能となる.スモールセルの
ON/OFF
状態を切り替える契機 としては,周辺エリアでのトラヒック増減,該当ス モールセルへの接続UE
の有無,接続中UE
のデータ パケットの送信開始/
完了などが考えられる.いった んOFF
状態となったスモールセルが同期信号(SS
:Synchronization Signal)
やCRS
の送信を完全に停止 してしまうと,UE
はOFF
状態のセルを発見,測定 することができない.通常,UE
が異周波のセルを発 見,測定し接続中の基地局へ報告をするまでには数 秒程度の時間がかかるため,OFF
状態スモールセル 近傍のUE
が通信を開始したいタイミングですぐに図6 Small cell on/offの適用効果 Fig. 6 Purpose of small cell on/off.
そのスモールセルを
ON
にすべきかをネットワーク は判断できず,実際にそのUE
とスモールセルが通信 を開始するまでには長い接続遅延時間が生じてしま う[21]
.周辺エリアでのトラヒック増減に合わせるよ うな長周期でのon/off
では,このような接続遅延時間 の影響は相対的に小さくなるが,スモールセル間での トラヒックの偏りは各スモールセルへの接続UE
数や データパケットの有無に応じてダイナミックに変動す るため,そのようなトラヒックの変動に適切に追従す るにはより短周期でのon/off
が必要である.このと き,接続遅延時間,すなわちTransition time
が十分 短くないと,on/off
を行ったことによる干渉低減に基 づくスループット改善効果よりも,接続遅延時間増加 によるスループット劣化の影響の方が大きくなってし まい,Small cell on/off
の適用効果が得られなくなっ てしまう.そこで
Release 12 SCE
におけるSmall cell on/off
では,OFF
状態のスモールセルを効率的に発見,測 定可能とするため,Discovery signal
及びその測定手 順が仕様化された.図7
にDiscovery signal
を用い るSmall cell on/off
の概要を示す.Small cell on/off
を適用するスモールセルは,近傍のスモールセルと同 期し,40 ms
以上の長周期でDiscovery signal
を送 信する.Discovery signal
はOFF
状態でも送信され るため,OFF
状態のスモールセルをUE
が発見,測 定できないという前述の問題は解消され,ON
状態へ の適切なタイミングでの移行が可能となる上,ON
状 態に移行してから実際にデータ通信を開始するまでのTransition time
を最小限に抑えることができる.ま たDiscovery signal
を長周期送信とすることで,OFF
状態のスモールセルによるDiscovery signal
送信が周図7 Discovery signalを用いるSmall cell on/offの 概要
Fig. 7 Overview of small cell on/off by using discov- ery signal.
囲に与える干渉も抑えられる.
Discovery signal
構成 の詳細は次節にて説明する.Small cell on/off
技術の 適用効果については,4. 3
にて計算機シミュレーショ ンによる定量評価結果とともに示す.なお,OFF
状 態のセルを適切なタイミングでON
状態へ移行させ るには通常外部からの制御が必要であり,ON/OFF
制御を行うスモールセルが単独で基地局装置に収容さ れている場合には,Release 9 LTE
にて仕様化された 機能により,別の周辺基地局との間で基地局間の有線 インターフェースを通じ,OFF
状態へ移行すること の通知やON
状態へ移行を制御することが可能であ る[15]
.一方,ON/OFF
制御を行うスモールセルが キャリアアグリゲーションにおけるセカンダリセルの 場合には,同一の基地局内に常にON
状態のプライマ リセルが収容されており,基地局内の処理でスモール セルのON/OFF
を行うことができる.3. 2 Small Cell Discovery
技術前述のとおり,
Release 12 SCE
では高密度スモー ルセル設置環境が想定され,効率的なスモールセル 運用実現のために必要な技術の一つとしてSmall cell discovery
技術が検討された.図8 (a)
に従来のセル 発見及び測定用信号構成を示す.LTE Release 11
以 前のUE
は,各セルが非同期で運用されていることも 想定し,5 ms
周期で送信されるプライマリ同期信号(PSS
:Primary SS)
及びセカンダリ同期信号(SSS
:Secondary SS)
を任意のタイミングにおける観測窓内図8 セル発見及び測定用信号構成 Fig. 8 Signals for cell discovery and measurement.
にて検出し,各セルのセル
ID
及びフレームタイミング 等を認識する[27]
.検出したセルのセルID
及びタイミ ングに基づいて各セルのCRS
送信パターンも認識で きるため,UE
は毎サブフレーム送信されているCRS
から各セルのRSRP
及び参照信号受信品質(RSRQ
:Reference Signal Received Quality)
を測定し,セルID
とともに接続中の基地局へ報告する.Release 12 SCE
におけるSmall cell on/off
技術では,このセル 発見及び測定のための参照信号送信によって生じる 干渉を低減することを目的としており,周囲の通信中UE
への干渉とならないような新たなセル発見用信号,すなわち
Discovery signal
の構成が必要となる.そこで
Release 12 SCE
におけるSmall cell discov- ery
では,Discovery signal
に基づく測定として,ス モールセル間が同期し40 ms
以上の長周期でPSS
,SSS
及びCRS
を送信し,UE
がDiscovery signal
を 用いてセル発見及び測定を行うことが仕様化された.図
8 (b)
にSmall cell on/off
適用時のDiscovery sig- nal
構成例を示す.ON
状態のスモールセルはRelease 11
以前と同様に5 ms
周期のPSS
及びSSS
と1 ms
周期のCRS
を送信しており,OFF
状態ではその送 信周期を40 ms
以上に広げる.更にUE
に対しては,Discovery signal
の送信周期及び基準サブフレームと 送信サブフレームとのオフセットが接続中のセル(例 えばマクロセル)から通知されるため,UE
は設定さ れたとおり長周期での観測を行うことで,測定対象セルの
ON/OFF
状態を意識せずに,周辺のスモールセルを発見,測定することができる.
ところで,
Release 12 SCE
においてはスモールセ ル間のCRS
干渉低減手法として,Small cell on/off
技術に加え,共用セルID
運用の適用が着目された.図9
に通常の個別セルID
運用と共用セルID
運用との違 いを示す.通常の個別セルID
運用では,各スモール セルに異なるセルID
を設定し,セルID
に応じた異な るCRS
パターンを送信させることで,UE
が各スモー ルセルを識別し測定することができるようにする.こ のとき,周辺のスモールセルがCRS
を送信している リソースにおいて接続スモールセルではデータ信号やL1/L2
制御信号を送信するため,CRS
はこれらの信 号に対する干渉となる.一方,共用セルID
運用では,複数のスモールセルに同一のセル
ID
を設定し,周辺 のスモールセルに同一のCRS
パターンを送信させる ため,周辺スモールセルのCRS
が接続スモールセル のデータ信号等への干渉にならない.また,データ復図9 個別セルID運用と共用セルID運用の違い Fig. 9 Difference between individual cell ID opera-
tion and shared cell ID operation.
調用の参照信号として,
CRS
ではなくDemodulation Reference Signal (DMRS)
を用いる送信モードを適 用することにより,複数の周辺スモールセルとCRS
が同一パターンで衝突してしまうことによる伝送路 推定特性劣化の影響を避けることができる.しかしな がらRelease 11
以前のLTE
では各セルの識別,測定 をSS
及びCRS
を用いて行うため,共用セルID
運 用ではSS
及びCRS
がスモールセル間で同一パター ンとなってしまい,UE
はこれらの信号を用いて各ス モールセルを識別,測定することができない.そこで,Release 12 SCE
では,Discovery signal
の追加構成 として,PSS
,SSS
及びCRS
に加え,Channel State Information-Reference Signal (CSI-RS)
を長周期で 送信することが仕様化された(注1)[16]
.図10
にCRS
及びCSI-RS
を用いたスモールセル測定時の干渉状況 を示す.CSI-RS
はセルID
とは独立した送信パター ンを設定可能な参照信号である上,スモールセル群 に個別のCSI-RS
送信パターンを設定するとき,各ス モールセルのCSI-RS
送信リソースとデータ信号の 送信リソースが衝突しないよう,周辺スモールセルがCSI-RS
送信に用いているリソースでのデータ送信を停止することが可能であるため,高密度スモールセル の測定に適した参照信号である
[28]
.ネットワークか らUE
に対してDiscovery signal
を用いたセル発見及 び測定を行うことを設定する際に,前述のDiscovery
(注1):LTE Release 8ではCRSを復調用チャネル推定,CSI測定 及びRSRP測定の全てに使用するが,LTE Release 10においてCSI 測定用に使用できるCSI-RS及び復調用チャネル推定に使用できる下 りリンクDMRSが導入され,LTE Release 12においてCSI-RSが RSRP測定にも使用できるようになった.
図10 CRS及びCSI-RSを用いたスモールセル測定時の 干渉状況
Fig. 10 Interference condition of CRS-based and CSI-RS-based small cell measurements.
signal
送信周期や送信タイミングオフセットの情報に 加え,Discovery signal
の構成がPSS
,SSS
及びCRS
のみからなるのか,更にCSI-RS
を含むのかをUE
に 通知する.UE
はCSI-RS
を含むDiscovery signal
で の測定が設定された場合,PSS
,SSS
及びCRS
を用 いて通常のセルID
単位でのセル発見及び測定を行っ た後,検出したセルID
を共用している各スモールセ ルのRSRP
をCSI-RS
を用いて測定する.これによ り,図9 (b)
に示す共用セルID
運用においてもUE
は各スモールセルを識別,測定することが可能となり,CRS
干渉を受けずに最適なスモールセルとの通信を 行うことが可能となる.Discovery signal
に基づく共 用セルID
運用の適用効果については,4. 4
にて計算 機シミュレーションによる定量評価結果とともに示す.4. LTE
で検討されたスモールセル技術の 性能評価本章では,計算機シミュレーションを用いて一般的 なスモールセルの導入効果及び
Release 12 SCE
にて 導入されたSmall Cell On
・Off
技術及びSmall Cell Discovery
技術の適用効果を解説する.4. 1
性能評価モデルここでは,本章で紹介するスモールセル技術の性能 評価に用いる共通のシミュレーション評価モデルを説 明する.シミュレーション評価では,
3GPP Release
12 LTE
におけるSCE
の検討にて用いられた評価モデ ルの一つであるScenario 2a
を使用する[10]
.このモ デルでは,マクロセルがカバーするエリアの一部においてトラヒックが多く発生するようなシナリオを想定 し,そのような高トラヒックエリアにマクロセルとは 異なる周波数を適用する屋外スモールセルを導入した 場合の特性を評価する.またチャネルモデルとしては,
基地局及び端末の高さも考慮し,三次元距離に基づい てパスロスを計算する.表
1
に主なシミュレーション 諸元を示す.マクロセルは3
セクタ構成の7
セルサイ トがサイト間距離500 m
で正6
角形状に正則配置す るものとし,スモールセルは各マクロセルセクタ内に 一つ存在する高トラヒックエリア(半径50 m
の円状 エリア,クラスタと呼ぶ)内に最大10
スモールセル をセル間最小距離20 m
以上となるようランダムに配表1 シミュレーション諸元
Table 1 Simulation assumptions and parameters.
Parameters Values / Assumptions Macro cell layer Small cell layer Hexagonal layout, Random and uniform Cell 3 sectors per site, within cluster, deployment 7 macro cell sites 0-10 small cells per
cluster, 1 cluster per macro cell area
Inter-site 500 m Minimum of 20 m
distance
Carrier 2.0 GHz 3.5 GHz
frequency
System 10 MHz 10 MHz
bandwidth
Base station 46 dBm 30 dBm
TX power
Channel ITU UMa ITU UMi
model with 3D distance with 3D distance Base station 3D pattern, 2D Omni-directional, antenna model 25 m height, 10 m height,
17 dBi gain 5 dBi gain 2/3 UEs randomly and uniformly dropped within cluster, 1/3 UEs UE dropping randomly and uniformly dropped
throughout macro geographical area, 80% UEs are indoor
Cluster 50 m for small cell dropping, radius 70 m for UE dropping UE receiver Minimum Mean Square Error- model Interference Rejection Combining
(MMSE-IRC) [29], 0 dBi antenna gain, 9 dB noise figure, 3 km/h velocity Traffic model FTP model 1, 0.5 Mbyte packet size Packet {2, 6, 10, 14}packets per macro arrival rate geographical area per second Cell selection RSRP for intra-frequency, RSRQ with criteria cell common bias for inter-frequency Antenna 2 by 2, cross-polar antenna, configuration Single-user MIMO, up to rank 2 Transmission TM9 (Demodulation RS(DMRS)-based mode realistic channel estimation [30]) CSI CSI-RS-based realistic estimation [31], feedback 10 ms periodicity and 6 ms delay
置するものとする.トラヒックモデルとしては,
0.5
Mbyte
のサイズをもつパケットがポワソン分布に従ってマクロセルエリア内に生起する
FTP model 1
を用 いる[4]
.パケットはそれぞれ異なるUE
に対して生起 するものとし,各UE
は2/3
の確率で高トラヒックエ リア(半径70 m
の円状エリア)内のランダムな場所,1/3
の確率でマクロセルエリア全体の中のランダムな 場所に発生するものとする.各UE
はRSRP
が最も 高いセルを各周波数における接続セル候補として選択 するものとし,マクロセル周波数における接続セル候 補のRSRQ
とスモールセル周波数における接続セル 候補のRSRQ
にオフセットを加えたものとを比較し,値の大きい方のセルに接続するものとする.なお,ス モールセルの
RSRQ
に加えるオフセットの値は,マ クロセル周波数とスモールセル周波数それぞれにおけ るセル当りの無線リソース利用率が同等となるように 設定する.4. 2
スモールセルの導入効果マクロセルエリア内の高トラヒックエリアに異周波 スモールセルを重畳設置することによるユーザスルー プットの改善効果をシステムレベルシミュレーション を用いて解説する.図
11
,12
,13
に,スモールセル図11 異周波HetNet環境における無線リソース利用率
特性
Fig. 11 Resource utilization performances in sepa- rate frequency HetNet deployment.
図12 異周波HetNet環境におけるユーザスループット
下位5%値特性
Fig. 12 5 percentile user throughput performances in separate frequency HetNet deployment.
図13 異周波HetNet環境におけるユーザスループット 中央値特性
Fig. 13 50 percentile user throughput performances in separate frequency HetNet deployment.
設置数及び単位時間当りのマクロセルエリア内パケッ ト発生数
(Load)
をパラメータとした,無線リソース 利用率特性,ユーザスループットの下位5%
値及び中 央値の特性をそれぞれ示す.結果より,評価を行った 環境では,スモールセルを設置せずマクロセルのみで トラヒックを収容しようとすると,単位時間当りのマ クロセルエリア内パケット発生数が6
以上の場合にリ ソース利用率がほぼ100%
となり,ユーザスループッ トがほぼゼロとなってしまうことが確認できる.これ はシステムとしての容量が発生するトラヒック量に対 して足りておらず,前に発生したパケットの通信が完 了する前に次々とパケットが発生してしまい,パケッ ト発生から通信完了までの遅延が非常に長くなってし まうユーザが多く発生してしまうために生じる状態で ある.そこで,異周波スモールセルを高トラヒックエ リアに設置すると,スモールセル周波数へトラヒック がオフロードされ,マクロセルのみの環境と比べ,リ ソース利用率が下がるとともにユーザスループット特 性が改善することが分かる.一方,単位時間当りのマ クロセルエリア内パケット発生数が14
の場合には,ク ラスタ内に設置するスモールセル数を増やすほどユー ザスループット特性が改善しているが,単位時間当り のマクロセルエリア内パケット発生数が10
以下の場 合には,クラスタ内スモールセル数を増やした際の ユーザスループット改善効果が一定数以上からは飽和 あるいは劣化することが確認できる.これはスモール セルの高密度化によって相互干渉が増加しているため であり,特に低トラヒック時には3. 1
などで解説した ように送信データをもたないスモールセルも毎サブフ レームCRS
送信を行っていることが,ユーザスルー プット改善効果が飽和あるいは劣化してしまう要因と なっていると考えられる.4. 3 Small Cell On
・Off
技術の適用効果 前節にて評価を行った異周波HetNet
環境における,Small cell on/off
技術の適用効果を確認する.本評価 では,Small cell on/off
適用時にOFF
状態のスモー ルセルへ接続する際に生じるTransition time
として,UE
がスモールセルのチャネル状態を測定し報告する ための遅延や接続セル切り替えのための処理遅延を含 め,40 ms
を想定する.また,本評価ではDiscovery signal
送信によるOFF
状態のスモールセルからの干 渉は無視できるものとする.図
14
,15
に,異周波HetNet
環境においてSmall cell on/off
技術を適用した場合の,スモールセル設置 数及び単位時間当りのマクロセルエリア内パケット発 生数(Load)
をパラメータとした,ユーザスループッ トの下位5%
値,中央値の特性をそれぞれ示す.結果 より,Small cell on/off
の適用によってユーザスルー プットの5%
値及び中央値特性がクラスタ内スモール セル数を増やしても飽和することなく改善するように なり,特に低トラヒックかつ高密度スモールセル設置 環境では最大で約70%
の利得が得られていることが確 認できる.これは,低トラヒック時には多くのスモー ルセルがOFF
状態となることができ,CRS
干渉を低 減できる上,高密度にスモールセルを設置しているこ とでトラヒックが生じたUE
それぞれにとっての近傍 のスモールセルを利用可能となるためである.また,スモールセルの設置密度がそれほど高くない場合やト ラヒックロードが高い場合にも,
Small cell on/off
適 用によりある程度のスループット改善効果が得られて おり,Small cell on/off
の適用シナリオが低トラヒッ ク・高密度スモールセル環境に限定されないことも確 認できる.4. 4 Small Cell Discovery
技術の適用効果 続いて,Small cell discovery
技術に基づき,共用 セルID
運用を適用した場合のスループット特性を確 認する.クラスタ内の全スモールセルが同一のセルID
を共用し,各UE
はDiscovery signal
に含まれるCSI-RS
を用いて,自身にとっての最大RSRP
となる スモールセルを発見し,そこに接続できるものとする.また,共用セル
ID
運用を適用した場合及び通常の個 別セルID
運用を適用した場合において,本評価ではSmall cell on/off
技術は適用しないものとする.図
16
,17
に,異周波HetNet
環境において共用セ ルID
運用を適用した場合の,スモールセル設置数及 び単位時間当りのマクロセルエリア内パケット発生数図14 Small cell on/off適用時のユーザスループット下 位5%値特性
Fig. 14 5 percentile user throughput performances of small cell on/off operation.
図15 Small cell on/off適用時のユーザスループット中 央値特性
Fig. 15 50 percentile user throughput performances of small cell on/off operation.
(Load)
をパラメータとした,ユーザスループットの下位
5%
値,中央値の特性をそれぞれ示す.結果より,共用セル
ID
運用の適用により,Small cell on/off
適 用時と同様にユーザスループット特性が大きく改善し ていることが確認できる.これは,セルID
の共用に 加え,下りリンクのTransmission Mode
として復調 用のチャネル推定にCRS
ではなく下りリンクDMRS
を用いるTransmission Mode (TM9) [17]
の適用によ りクラスタ内スモールセルからのCRS
干渉が完全に なくなった効果によるものである.一方で,異なるセ ルID
を使用している他クラスタのスモールセルから図16 共用セルID適用時のユーザスループット下位 5%値特性
Fig. 16 5 percentile user throughput performances of shared cell ID operation.
図17 共用セルID適用時のユーザスループット中央値 特性
Fig. 17 50 percentile user throughput performances of shared cell ID operation.
は
CRS
干渉を受けている.このため,前節に示すよう な,クラスタ内外の全てのOFF
状態セルからのCRS
干渉を回避できるSmall cell on/off
と比較して,大き な利得の差がない結果となっている.しかしながら,共用セル
ID
運用には,ハンドオーバ頻度を減らすこ とができる点や,CoMP
技術と併用可能である点など の利点もあり,効率的なスモールセル運用のために有 効であるといえる.最後に,
Release 12 SCE
にて仕様化されたDiscov-
ery signal
によるスモールセル発見及び測定性能に ついて,計算機シミュレーション結果を用いて解説する.
3. 2
にて解説したとおり,Small cell discovery
で は,長周期に送信されるSS
及びCRS
を用いて通常 のセルID
単位のセル発見及び測定を行うことに加え,CSI-RS
を用いて異なるスモールセルを測定することができる.また効率的なスモールセル活用のため,
UE
は接続先スモールセルの候補として十分な受信信号強 度をもつ周辺スモールセルを発見・測定しておくこと が求められる.そこで,高トラヒックエリア内のUE
それぞれにおいて,RSRP
が最大となるスモールセル 及びそのセルと大差ないRSRP
(6 dB
差以内)が得 られる二番目,三番目にRSRP
の高いスモールセルを 発見・測定対象のスモールセルと想定し,そのような 対象スモールセルを発見・測定するためのCRS
及びCSI-RS
の要求動作領域を確認する.図18
に高密度 スモールセル環境におけるCRS
及びCSI-RS
の受信 信号対干渉雑音電力比(SINR
:Signal to Interference and Noise Ratio)
特性を示す.本評価においては,ク ラスタ内のスモールセル数を10
とし,各スモールセ ルでは50%
のリソースでデータ送信が行われているよ うな高トラヒック環境を想定する.結果より,高密度 スモールセル環境においてUE
が自身の周辺スモール セルを発見・測定するためには,CRS
では受信SINR
が− 6 dB
程度まで動作しなければならないのに対し,CSI-RS
では受信SINR
が0 dB
程度まで動作すれば,約
95%
の確率で前述の対象スモールセルの発見・測定 が行えることが確認できる.これは図10
に示すとお り,CSI-RS
では同一クラスタ内スモールセルからの図18 高密度スモールセル環境におけるCRS及びCSI- RSの受信SINR特性
Fig. 18 SINR performances for CRS and CSI-RS in dense small cell deployment.
干渉を直交化できるためである.また,本動作条件に おける
CRS
及びCSI-RS
を用いた場合のRSRP
測定 精度について,リンクレベルシミュレーションを用い て確認する.表2
にRSRP
測定精度の評価諸元を示す.図
19
にCRS
及びCSI-RS
を用いた場合のRSRP
測 定誤差特性を示す.結果より,CSI-RS
はCRS
より もリソース密度が低いが,前述のとおりクラスタ内干 渉の直交化によりSINR
が良い条件で測定を行えるた め,CSI-RS
を用いた場合のRSRP
測定精度はCRS
を用いた場合と比べ同等以上であることが確認できる.また,
CRS
及びCSI-RS
を用いた場合のいずれにお いても,狭帯域での測定を行う場合には精度を向上さ せるために複数サンプルを受信し平均化する必要があ るが,広帯域での測定を行う場合には1
サンプルでの 測定でも非常に高い精度が得られることが確認できる.表2 RSRP測定精度の評価諸元
Table 2 Evaluation assumptions for RSRP measure- ment accuracy.
Parameters Values
SINR −6 dB for CRS
0 dB for CSI-RS
Measurement {6, 25, 50}resource blocks (RB) bandwidth
Resource element 8 REs/RB for CRS (RE) density 2 REs/RB for CSI-RS Number of antennas 1 Tx and 2 Rx Discovery signal 160 ms periodicity, configuration 1 ms duration Propagation condition EPA, 5 Hz
図19 CRS及びCSI-RSを用いた場合のRSRP測定誤 差特性
Fig. 19 RSRP measurement accuracy performances of CRS-based and CSI-RS based measure- ment.
このように,
Discovery signal
は長周期送信であるが,広帯域での測定を行うことでスモールセル測定遅延を 短く抑えることが可能である.
5.
む す び本論文では,
3GPP
におけるLTE Release 10
以降 で検討及び仕様化されたスモールセル関連技術につ いて概説した.特にRelease 12 LTE
においては,マ クロセルとスモールセルが異なる周波数を適用し,更 にスモールセルが高トラヒックエリアへ集中的に設置 されるシナリオが想定され,周波数利用効率の改善や 効率的なスモールセル運用のために様々な技術が検討 されたことを解説した.スモールセルを効率的に活 用するためのSmall cell on/off
技術及びSmall cell discovery
技術については,筆者らがファントムセル のコンセプトに基づき提案・検討を行ってきた技術で あることから,その狙いや詳細技術を解説し,更に計 算機シミュレーションを用いてスモールセルの導入効 果及びこれらの技術の適用効果を示した.今後ますま す増加するモバイルデータトラヒックへの対策として,スモールセル技術の重要性が高まることは明らかであ り,本論文にて解説したスモールセル技術は実サービ ス環境におけるユーザ体感品質やネットワーク容量の 改善に貢献することが期待される.
文 献
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[29] 3GPP, R1-111562, Renesas Mobile Europe Ltd., “In- terference aware receiver modeling at system level,”
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[31] 3GPP, R1-111640, NTT DOCOMO, INC., “Model for CSI-RS channel estimation error,” May 2011.
(平成27年3月13日受付,6月10日再受付)
原田 浩樹 (正員)
平成20年3月横浜国立大学大学院・工 学府・博士後期課程修了.同年株式会社 NTTドコモ入社.以来,3GPP LTE Ad-
vanced標準化やコグニティブ無線技術の
研究開発等に従事.現在,株式会社NTT ドコモ・先進技術研究所・研究主任.平成 23年IEICE学術奨励賞受賞.
武田 和晃 (正員)
平成19年3月東北大学大学院工学研 究科博士後期課程修了.平成19年4月日 本学術振興会特別研究員.平成20年4月 株式会社NTTドコモ入社.以来,LTE-
Advanced標準化の研究開発に従事.現在,
株式会社NTTドコモ・先進技術研究所・
研究主任.平成16年IEICE無線通信システム研究会活動奨 励賞受賞.平成23年IEICE学術奨励賞受賞.
永田 聡 (正員)
平成15年3月東京工業大学大学院理 工学研究科博士前期課程修了.同年株式会 社NTTドコモ入社.以来,LTE, LTE-
Advanced標準化の研究開発に従事.現在,
株式会社NTTドコモ・先進技術研究所・
主任研究員.平成20年IEICE学術奨励 賞受賞.平成20年IEICE無線通信システム研究会活動奨励 賞受賞.平成23年〜平成25年3GPP TSG-RAN WG1副 議長,平成25年より,3GPP TSG-RAN WG1議長.
石井 啓之
平成13年3月東京大学大学院理学系研 究科修士課程修了.同年株式会社NTTド コモ入社.以来,WCDMA/ HSDPAや LTEの商用システム開発,及び,3GPP 標準化に従事.現在,株式会社NTTドコ モ・サービスイノベーション部・担当課長.
中村 武宏 (正員)
平成2年3月横浜国立大学工学部修士課 程修了.同年NTT入社.平成4年より,
NTTドコモにて移動通信方式の研究開発 及び標準化に従事.平成9年より,ARIB での移動通信システム標準化に参加.平成 25年より,高度無線通信研究委員会2020 and Beyond AdHocリーダー.平成11年より,3GPPでの 標準化に参加.平成17年〜平成21年3GPP TSG-RAN副 議長,平成21年〜平成25年3GPP TSG-RAN議長.