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― ― ソーシャル・エネルギー・ビジネスの社会影響の報告の現状と誘因

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ソーシャル・エネルギー・ビジネスの社会影響の 報告の現状と誘因

―地域新電力3社のインタビューからの分析―

川 原 尚 子 ・ 入 江 賀 子

要旨 自治体が出資して地域新電力事業を行う事例がわが国で近年徐々に増えつつある。本 稿では,地域新電力へのインタビュー調査を通じて,現状,地域新電力がいかなる持続性に 関する情報開示を行っているのか,情報開示あるいは非開示の誘因がいかなる理論で説明で きるかを分析している。今回調査した地域新電力事業の3事例では,現在,持続可能性報告 を殆ど行っていないが,今後,何らかの形式での情報開示が必要との認識もあった。ステー クホルダー理論が事例の持続可能性報告を説明する最も重要な理論の一つであったが,制度 理論や正当性理論も,誘因を説明するための有力な理論の一つであることが示唆された。結 果として,いずれか特定の情報開示理論のみでは,情報開示の誘因は説明できないことが示 唆された。

Abstract Recently, there are gradually increasing local power producers and sup- pliers that municipalities invested and managed in the whole country in Japan. 

This paper addresses a few cases with regard to local power producers and suppliers in Japan, analyses what sustainability information they disclose, and what theories can be applicable to explain their disclosure incentives or non-disclosure one. At this moment, they little disclosed, but in the future, there was also recognition that it is necessary to disclose information in some form. In addition, stakeholder theory can be the most predominant theory to explain the sustainability reporting practices on the three cases, and institutional theory and legitimacy theory are suggested to be one of the most important theories as well. In conclusion, it was suggested that the incentives for disclosure cannot be explained by any specific information disclosure theory alone.

Key words ソーシャル・ビジネス(social business),社会影響(social impact),イン パクト・レポーティング(impact reporting),持続可能性(sustainability), 新電力(power producer and supplier)

原稿受理日 2018年11月10日

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Ⅰ は じ め に

最近,気候変動問題を背景に,世界の様々な都市における低炭素社会に向けた環境政策 が加速しつつある中で,電力需要に占める再生可能エネルギーの利用率を向上させる動向 が見られる。日本では。1995年の改正電気事業法により電力自由化の流れが始まり,1999 年に成立した改正電気事業法により小売部分自由化となり,一般電気事業者以外の一般企 業が特定規模電気事業者(Power Producer and Supplier: PPS)として電気事業に参入で きるようになり,その事業者は「新電力」と呼ばれるようになった。2004年と2005年に自 由化領域が拡大し,さらに2016年改正電気事業法で小売全面自由化となり,特定規模電気 事業者の名称はなくなり, 一般電気事業者と合わせて小売電力事業者と呼ばれることと なった。

新電力の中で,「地域新電力」と呼ばれる,ある特定地域に焦点を絞った小売電力事業 者の中には,自治体が出資を一部負担する事例も見られる。この場合,自治体は地域新電 力に資金を提供し,通常の基本な事業運営は地域新電力の経営者に任されるものの,地域 新電力は自治体の政策に沿って活動する関係が見られる。既に(2017年7月末時点)30自 治体が設立しており,85自治体で検討中であり(山下他 2018),今後の広がりが期待され ている(朝日新聞 2018)。このような地域新電力は,地域にある再生可能エネルギーを活 用した地産地消や,地域のための電力供給事業による地域還元を通じて,人口減少・高齢 化・地域活力の減退という地域課題解決に取組むという特徴を強くもつ場合には,地域社 会の発展や地域の人々の厚生向上を目的とするソーシャル・ビジネスとしての性質がより 強いものといえる。

このような地域新電力の事業が及ぼす社会影響についての情報開示を持続可能性報告ま たはインパクト・レポーティングの一つとして捉えるならば,そのような情報開示は現状 少ない。これまで都道府県レベルの自治体の環境白書などの持続可能性報告の事例は見ら れるが,今回のように所定の事業レベルでの持続可能性報告については,東京都水道局や 下水道局の環境会計のような,一部の自治体における事業を対象とした環境会計の公表以 外に,これまであまり例がない。一方,事業の影響の広がりや程度が相当程度になる場合 には,何らかの情報開示の必要性は今後議論されていく可能性があるといえる。また,地 域新電力事業の社会や環境への影響を市民が知ることで,新電力の事業戦略,事業への市 民の支援,ひいては健全なまちづくりに結びつく可能性があるならば,経営上においても,

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情報開示を検討することは非常に重要である。このため,今後,地域新電力は,情報開示 についてどのように対応していけば良いかを検討する必要があろう。

本研究では,地域新電力事業へのインタビュー調査から,現状として,地域新電力がい かなる持続性に関する情報開示を行っているのか,いかなる誘因で当該情報開示を行って いるか,あるいは情報開示を行っていないかを分析する。

本調査では,地域新電力の持続可能性報告の現状や誘因を実証的に説明するために,ス テークホルダー理論,正当性理論,制度化理論の3つの理論を用いて分析していく。これ までの持続可能性報告に関する研究分野においては,ほとんどの文献が理論に言及さえし ていない(Hahn および Ku hnen 2¨ 013)との批判さえある中で,複数の理論に対する包括 的な分析を行った研究は知る限りない。従って,一つの理論に固執した分析手法が取られ がちであったといえる。もし様々な理論が,情報開示を説明するのであれば,一つの理論 に固執するより,複数理論から得られる含意を分析することには意義があると考えられる。

そこで,本研究では,試行的に,持続可能性報告の分野の研究でこれまで使われがちなス テークホルダー理論,正当性理論,制度化理論の3つの理論についての当てはまりを検討 していく。当該分析により,いずれか特定の情報開示理論のみでは,開示の誘因は説明で きないことを明らかにしていく。このような検討は,筆者の知る限り日本では未だ見らな い。また,本研究は,地域新電力が今後の情報開示の方針を立案するための根拠資料とな ることが期待される。

本稿の構成は,次章で先行研究を検討し,第3章で調査方法を示し,第4章で結果を吟 味し,第5章で考察し,最後の第6章で結論を述べたい。

Ⅱ 先 行 研 究

1 持続可能性報告と社会影響の概念

持続可能性報告は, 組織の活動が及ぼす影響についての報告とされる(Van Der Ploeg および Vanclay 2013)。社会影響とは,介入により生じる変化により,個人,社会単位(一 族・家族・共同体),地域共同体・社会レベルで,経験したか感じた何かをいう(Vanclay 2003; Vanclay et al. 2015 p. 2)。社会影響は環境,社会,経済の3つの側面が含まれると

いえる。

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2 持続可能性報告の開示に関する既存の理論

持続可能性報告の開示に関しては,主に4つの理論(ステークホルダー理論,正当性理 論,制度理論,説明責任の理論)が論じられてきた。この中で,情報開示の要因を説明す る理論の候補として,実証研究により適しているとされる(Gray et al. 1995a; Gray et al. 2014)初めの3つの理論について本研究では検討する。これら3つの理論は相互に重な り合うところがあるものの(Gray et al. 1995a; Fernando および Lawrence 2014; 川原 2016),これらの理論が持続可能性報告の分野の先行文献においてよく用いられてきてお

り,一定の正当性を得ている。以下,当該3つの理論について概要を示す。

 ステークホルダー理論

組織の持続可能性報告や社会影響の情報開示の誘因や機構を説明する理論には様々ある が,とりわけステークホルダー理論(Ansoff 1965; Ullmann 1985; Roberts 1992; Deegan 2002)は,正当性理論(Hogner 1982; Patten 1992; Gray et al. 1995a; Deegan et al. 2002)

とともに,持続可能性報告の学術研究分野の文献において,最も広く利用されてきた理論 の1つである(Gray et al. 1995a; Gray et al. 2014; Adams et al. 2016)。

ステークホルダーとは,組織が目的を達成しようとして行う活動により影響を受ける可 能性がある団体や個人と定義される(Freeman 1984)。一般企業の場合,ステークホルダー には従業員,経営者,地域,社会,国家,将来世代があげられる。また,人間以外の自然 環境もステークホルダーに挙げられる場合がある(Gray et al. 2014)。ソーシャル・ビジ ネスの場合,まず,当該地域社会の住民,ビジネスの契約者,その他,当該地域社会内の 労働者や企業等の組織が挙げられよう。ステークホルダー理論は,組織とその組織環境を システム的にとらえ,また,組織とステークホルダーの相互作用における複雑な特徴を分 析する(Gray et al. 2014)。ステークホルダー理論では,株主を多種多様なドライバーの 一つであるとみなし(Balmer et al. 2007), 株主を含む全てのステークホルダーとの関係 性を考慮する考え方をとる(Holder-Webb et al. 2008)。

ステークホルダー理論は,倫理的・規範的なアプローチの理論と,経営的・経験的なア プローチの理論の2つに分かれる。倫理的・規範的なアプローチの理論では,組織は全て のステークホルダーに対して説明責任を負うと考え,ステークホルダーの組織にとっての 関係性によって,説明責任の性質が決定される(Gray et al. 2014)。例えば,株主であれ ば,配当の原資を生む事業活動や経営成績に関する説明,工場の近隣の地域住民であれば,

工場操業の安全性や環境汚染の有無に関する説明,顧客であれば,製品の安全性や品質管

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理に関する説明を要求し, 組織はその説明の責任を負う。一方,経営的・経験的なアプ ローチの理論では,ステークホルダーは組織の戦略,懸念事項によって特定され,より重 要なステークホルダーとの関係の管理により努力を払い,権力のあるステークホルダーの 要求により強く反応し,それ以外のステークホルダーの関心を無視しがちとなる(Deegan 2014)。

経営的・経験的なアプローチでのステークホルダー理論では,組織の持続可能性報告の 誘因を経営戦略と関連させて説明できる。特定のタイプの情報開示が特定のステークホル ダーから支持や承認を得る,あるいは反対や不承認のステークホルダーの気を逸らすこと を狙いとして,ステークホルダーを管理または操作するために用いられる(Ullmann 1985;

Gray et al. 1996; Deegan 2014)。

また,持続可能性報告は組織の様々なステークホルダーの対立のバランスをとるために 行われ,情報開示の程度は,ステークホルダーの権力,戦略的状態,経済的パフォーマン スと関係する(Robert 1992)。

経営的・経験的なアプローチでのステークホルダー理論では,組織活動と釣り合う程度 の情報開示量を解釈できる(Gray et al. 2014)。例えば,顧客から製品のクレームがある 場合は,それに対処するための情報開示量を増やすことがその例といえる。

自主的な情報開示の誘因は,この,経営的・経験的なアプローチでのステークホルダー 理論によりよく説明できるといえる(Gray et al. 2014)。例えば,企業が良いイメージを 作ろうとするときに,顧客に対して良い内容の情報を自主的に多く提供するといえる。一 方,ステークホルダー理論の倫理的・規範的なアプローチの場合,人の倫理的・規範的な 観点からの叙述的説明に留まるため,情報開示の理由を分析するための実証研究において は,エビデンスに欠けがちであり,実証的説明力に欠ける(Gray et al. 2014)。

 正当性理論

正当性理論は,組織は,幅広い社会システムの一部でしかなく,いかなる資源に対して も本来的な権利をもたないがゆえに,当該組織が属する社会の中で正当性を認められる必 要があるとし,その上で, 経営的な行動や予測を説明する実証的理論である( Deegan 2014)。ステークホルダー理論では,社会システムの中での組織とステークホルダーとの

相互関係に基づく行動を分析するが,正当性理論では,組織を含む社会システムにおける 組織の行動を分析するアプローチであるといえよう。

ここでいう正当性とは,ある主体を部分とするより広い社会システムが有する価値に,

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その主体の価値システムが一致するときに存在する条件または状態をいう(Deegan(2014)

による Lindblom(1993)の引用)。 正当性とは, また, 社会システムにおける規範, 価 値,信条,定義の面で,ある主体の行動が望ましく,適当で,妥当であるという,一般化 した認識や仮定をさす(Suchman 1995)。組織が正当であるという場合,組織によって行 われた正当化プロセスに成果がもたらされたということである。正当性理論でいう正当性 の概念は,特定の時間や場所において,ある主体が活動し存在する社会システムに依拠す る相対的な概念である(Deegan 2014)。 ある社会システムにおいて正当性が認められる と,他の組織も正当性を担保するために,その規範や価値観を変化させなければいけない ということも,示唆されるといえる(Dowling および Pfeffer 1975)。

正当性理論は,組織,国家,個人,団体の間の関係における情報開示の文脈でも適用で きる(Gray et al. 1996)。

正当性理論においては,組織がどのように行動すべきかに関する社会の期待が,組織と 社会の間で交渉された「社会契約」となる(Deegan 2014)。このような社会契約は必ずし も成文化されたものでないが,法制化もされていない。すなわち,社会的期待は暗示的な 契約となる(Gray et al. 1996)。もし,組織が地域社会の支持を得ていなければ,組織へ の継続的支援や,組織の生き残りに影響がある,すなわち,事業活動を維持できないこと が示唆される(Deegan 2014)。

正当性理論で言う正当性ギャップとは,組織の正当性が脅威に曝されている状態をいう。

これは,社会の期待の変化よりも組織の変化が遅い場合など,組織のパフォーマンスが社 会やステークホルダーの期待と一致しておらず,社会契約に違反した状態が生じている状 態をさす。ギャップは,組織と社会の溝が大きければ大きいほど,また組織に対する社会 からの支持が減少するにつれて大きくなる(Deegan 2014)。

社会の期待が時代と共に変化しているにもかかわらず,組織が変化に対応した情報開示 をしていない時にはその正当性が脅かされる可能性もある。

正当性理論は,組織経営者が,特定の情報項目を開示するような,特定の行動の理由を 説明できる(Deegan 2014)。例えば,正当であることを認めてもらえるよう,組織がいか に地域貢献をしているかについて過度な情報を発信するなどの行動理由の説明となる。ま た,情報開示の短期的な要因を説明するのに適している(Higgins および Larrinaga-Gon- za lez 2´ 014)。例えば,悪い情報が流れた後に,良いイメージを回復すべく,タイムリーに スポットのコマーシャルを流すなどの行動の説明となる。

正当性理論による情報開示の説明の課題(Guthrie および Parker 1989; Wilmshurst お

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よび Frost 2000; O’Dwyer 2002; van der Laan 2009)は,正当性が脅かされる状況や社会 の期待とのギャップに直面した際に,経営者がどう行動するかを説明するが,それ以外の ケースについて説明していない点や(Deegan 2014),社会の一部や関係者が組織のあり方 に疑問をもたない限り,開示の要求はされないことになるので,開示の動機の説明として 不十分な点である(van der Laan 2009)。なお,正当性理論による情報開示の説明は,理 論面でも実証面でも,他の理論に比較して研究がそれほど多くない(Deegan 2014)。

 制度理論

制度理論(DiMaggio および Powell 1983)は,ある制度的環境の中における,社会的 行動をどう選択するかを考察する(Hoffman 1999)。 制度理論の中心概念に,「制度」と

「組織フィールド」がある。「制度」とは,特定の状況における,社会に永続している,概 念,理解,文化的枠組み,規則,規制をさす(Higgins および Larrinaga-Gonza lez 2´ 014)。

「制度化」とは,概念や慣習が組織に影響を及ぼす状態に達している状態をさす(DiMaggio および Powell 1983; Higgins および Larrinaga-Gonza lez 2´ 014)。「制度化」のプロセスは 組織が制度的期待に対応する過程で生じ,特定の環境において組織の生き残りを保証し,

成功の可能性を高める(Higgins および Larrinaga-Gonza lez 201´ 4)。

一方,「組織フィールド」とは, 多様で相互依存する組織が,各々に特別の役割を果た し,社会的に構成される領域を生み出す,文化的でネットワークのあるシステムをいう。

また,「組織フィールド」は,そのフィールドの中で制度的な力が強い影響を及ぼしている ことを非常に容易に検証できるもの(Scott 2004)であり,制度が組織に影響する特殊な 状況の境界を定めるものをいう(Higgins および Larrinaga-Gonza lez 2´ 014)。組織フィー ルドは,共通の技術,規則,組織的戦略において形成されるものとされる(Higgins およ び Larrinaga-Gonza lez 2014)。「組織フィールド」の境界は,正当性理論でいう「社会シ´ ステム」より明確な境界であるといえる。

高度に構造化された組織フィールドにおいては,不確実な状況や強制的に与えられた使 命をうまく処理するために,組織フィールドの当事者それぞれが努力することで,全体と して,構造,文化,成果における同質化がしばしばもたらされる(DiMaggio および Powell 1983)。このような同質化のプロセスを「同型化」と呼ぶ。「同型化」は,ある母集団にお

いてある個体が同じ環境状況に直面する他の個体に類似するように強制するプロセスであ るとも説明される。この「同型化」を起こすメカニズムは,強制的,規範的,模倣的(Di- Maggio および Powell 1983)の3つがある。 3つの同型化のメカニズムは明確に区別さ

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れるものではなく,それぞれ重なり合って説明される。まず,強制的メカニズムとは,法 律や市場の規制,専門的要求事項のような,全ての組織行動を非常に類似させるやり方で,

組織に要求事項を遵守させ,同一歩調を取らせるメカニズムをいうもので,政府機関,規 制,裁判所の決定の影響のような,規制的要素でも説明される(Scott 2004)。規範的メカ ニズムとは,職業専門家,公式な教育,専門ネットワークを通じて推進され,個人を価値,

規範,社会の期待に沿って行動させるメカニズムをいう(DiMaggio および Powell 1983)。 また組織の様式やプロセスを形成する際の専門家団体による圧力のような規範的要素でも 説明される(Scott 2004)。最後の模倣的メカニズムとは,仲間の組織が成功しているよう に見える場合に,その正当性を支えるシンボル,意味,役割を当然のことと認識して,組 織がまねるメカニズムをいう(DiMaggio および Powell 1983)。

制度理論は,なぜ持続可能性報告が世の中に取り入れられ広まっているのかを,制度的 環境の中で理解する方法として使われる(Higgins および Larrinaga-Gonza lez, 20´ 14)。 制度理論によれば,持続可能性報告は,必ずしも組織が独立して意思決定した論理的なプ ロセスの結果ではないことが示唆される(Higgins および Larrinaga-Gonza lez 2´ 014)。 組織が報告書を発行するか,またどのように発行するかを決定し,それがフィールドの中 で制度化されることを説明する(Higgins および Larrinaga-Gonza lez 2´ 014)。制度理論 の特長として,組織が事業を行っている社会の価値,組織の正当性の維持の必要性に結び つけて情報開示や報告実務を説明できる点や,報告システムを含む組織の構造が様々な組 織で採用され,社会が普通と考えることに沿って実務が類似していくことをうまく説明で きる(Deegan 2014)点もある。 特に, はっきりとした合理性をもたない場合でも情報開 示が広がる理由をうまく説明できる(Higgins および Larrinaga-Gonza lez 2´ 014)。

情報開示の行動は,先述した3つの同型化のメカニズムにより以下の通りに説明される。

まず,強制的メカニズムにおける情報開示は,規制,投資家,顧客からの圧力への対応と して説明される(Higgins および Larrinaga-Gonza lez 2´ 014)。例えば,会社法や証券市 場の規則による情報開示や,不良品を出したときの説明のための情報開示がこの理論で説 明されよう。また,規範的メカニズムにおける情報開示は, 社会責任をベースとした,

GRI(グローバル・レポーティング・イニシアティブ)の持続可能性報告ガイドラインや,

国連グローバルコンパクトのような,国際的イニシアティブに対応した自主的な情報開示 行動であると説明されよう(Higgins および Larrinaga-Gonza lez 2´ 014)。模倣的メカニ ズムにおいては,組織フィールドにおける正当性に従うために組織がとる情報開示行動に ついて説明される(Higgins および Larrinaga-Gonza lez 2´ 014)。例えば,同業他社が環

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境報告を CSR(企業の社会的責任)レポートへ移行する行動を見て,それを模倣するなど の行動が説明されよう。

制度理論は,正当性理論に置き換わる理論として認識されている(Gray et al. 2010)。 このため,正当性理論は,制度理論と重なる点が多いと考えられるが,制度理論では,組 織フィールドの境界が正当性理論の社会的システムより明確であるとともに,制度化のメ カニズムを3種類に分けて分析する点などで,正当性理論をより発展させた理論であると 考えられる(Gray et al. 2010)。一方,制度理論においても,実証面の課題は残る。例え ば,ステークホルダー理論でいうところのステークホルダーとの相互作用におけるダイナ ミズムや,組織の内部的な行動理論を説明する理論ではないため,組織の変化への対応,

あるいは制度化プロセスにおける経営者の役割について説明ができない点が課題である

(Higgins および Larrinaga-Gonza lez 2´ 014)。

Ⅲ 調査目的および手法

1 調査目的

本調査の目的は,地域新電力事業の概要を分析した上で,地域新電力が,現状として,

いかなる持続性に関する情報開示を行っているのか,いかなる誘因で当該情報開示を行っ ているか,あるいは情報開示を行っていないかを分析することである。

本調査では,地域新電力の持続可能性報告の現状や誘因を実証的に説明するために,ス テークホルダー理論,正当性理論,制度化理論の3つの理論を用いて分析した。これまで の持続可能性報告に関する研究において,いくつかの理論が並存してきたが,ほとんどの 文献が理論に言及さえしていない(Hahn および Ku hnen 20¨ 13)との批判さえある中で,

複数の理論に対する包括的な分析を行った研究は知る限りない。従って,一つの理論に固 執した分析手法が取られがちであったといえる。もし様々な理論が,情報開示を説明する のであれば,一つの理論に固執するより,複数理論から得られる含意を分析することには 意義があると考えられ,この点は今後の課題であるといえる。なお,理論に言及した文献 においては,様々な理論の中でステークホルダー理論がもっとも多く利用されていると分 析されており(Spence et al. 2010; Kawahara 2017),また,Hahn および Ku hnen(2¨ 013)

による1999年から2011年までの持続可能性報告に関する178の研究論文を対象とした研究 でも,ステークホルダー理論(例 Parsa および Kouhy 2008; Reynolds および Yuthas 2008; Belal および Roberts 2010),正当性理論(例 Haniffa および Cooke 2005; De Villiers

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および Van Staden 2006; Criado-Jime´ nez et al. 2008),制度理論(例 Chen および Bou- vain 2009; Fortanier et al. 2011; Rahaman et al. 2004)がよく使われる理論であること が分析されている。そこで,本調査では,試行的に,これらステークホルダー理論,正当 性理論,制度化理論の3つの理論についての当てはまりを検討することとした。

2 調査手法

調査方法は,日本国内の地域新電力事業を対象とした事例研究とし, デプス・インタ ビューを行った(Yin 2013)。 また,文書,公開資料なども参考にした。 インタビュー調 査の手法は,持続可能性報告の分野の研究において,文書分析(コンテンツ分析)の手法 の次に利用されている(Hahn および Ku hnen 20¨ 13),一般的な手法である。インタビュー 調査は,数少ない文献において,持続可能性報告に関する動機,態度,意思決定,報告プ ロセス,報告が組織の変化に及ぼす影響を分析するのに利用されている(Adams 1999, 2002; Larrinaga-Gonza lez et al. 20´ 01; O’Dwyer 2002, 2003: Farneti および Guthrie 2009)。 また否定的な情報開示や,その情報開示がもたらす企業の評判や正当性や情報の

質への影響を調査する場合に用いられている(Hahn および Ku hnen 20¨ 13)。インタビュー 調査はコンテンツ分析に比べ,より探索的な手法と考えられるため(Hahn および Ku hnen ¨ 2013),本研究の目的に合致しているといえる。

調査対象企業は,自治体の出資割合が過半数を超えて設立された地域新電力会社3社で ある。このような会社を選定した理由として,このような出資の形態において自治体が新 電力会社を実質的に支配しているので,経営の透明性のあり方や情報開示の考え方におい て,通常の一般企業とは異なる特徴が見られ,自治体のそれらの特徴と共通部分があるの ではないか,言い換えると社会的厚生の向上により配慮するような考え方があるのではな いかと予想したためである。このような予想に基づいて,自治体が出資する地域新電力の 情報開示における仮説を今後構築する際に,適切な事例であると考えたので,出資比率に 焦点を当てている。

インタビュー相手は,3 

社のうち2社については地域新電力会社を所管する自治体の関 係部署の責任者とその地域新電力企業の経営責任者,または経営責任者が自治体の首長で ある場合には実際の執行を担当する従業員と所管する自治体の関係部署の責任者とした。

残る1社については,事業設立の段階から携わり,現在も営業活動の面でも事業運営を直 接支援している所管の自治体の関係部署の責任者のみを対象とした。

調査は2017年8月から2018年11月の間に実施した。3 

社のうち2社については1回,残

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る1社については会社設立前と事業開始後の2回行った。インタビュー調査は半構造化イ ンタビュー(Larrinaga-Gonza lez et al. 20´ 01: Farneti および Guthrie 2009)を参考に,

直接対面による2時間半のデプス・インタビューをそれぞれ実施した。インタビュー相手 の了承のもと,インタビュー内容を録音し,後日,文章化した。後日,電子メイルや電話 にて追加情報を入手した。

3 半構造化インタビューの質問内容

半構造化インタビューの質問は,地域新電力の概要,地域新電力が,現状いかなる持続 可能性報告を行っているのかを明らかにすること,いかなる誘因で当該情報開示を行って いるか,あるいは情報開示を行っていないかを,先述の3つの理論との関連において多様 な側面で抽出することを目的に作成した。各理論は相互が重なり合う部分が多いことや,

明確な定義がないと考えられる点を踏まえ,質問内容は,筆者らの判断による試行的な形 式で作成された。

Ⅳ 結     果

1 地域新電力の持続可能性報告の現状

地域新電力の主なステークホルダーである地域住民への情報開示は,自治体の出資割合 が多い企業の場合には, 議会制民主主義のもとで, 議会を通して行われている。 その場 合,財務情報が主であり,非財務情報,とりわけ事業の社会影響に関する情報開示につい ては,日本では未だ制度化されていないこともあり,一般に,市民はそのような情報にア クセスすることは少ないことが予想される。行政機関がその年度の環境保全施策の内容や 次年度の実施内容を取り纏めて公表する形式の,例えば都道府県による環境白書のような,

環境報告はこれまでも見られる。しかし,このような環境報告においても,一般の事業会 社が,ステークホルダーとのコミュニケーションのツールとして利用する持続可能性報告 において,情報開示が推奨されているような持続可能性に関する報告内容を必ずしも含ん でいるとは限らない。よって,直接的な影響を被りがちな当事者である地域住民が,地域 新電力事業が及ぼす社会影響の内容をよりよく理解し,経営の透明性を高め,その結果,

地域新電力が社会で認められるには,地域新電力側の情報開示の工夫の余地が残されてい

 地方自治法第243条の3第2項の規定に基づく議会報告。

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ると考えられる。

インタビューより,自治体出資の新電力の情報開示については,自治体が出資したり,

自治体からの補助金を得たりしている会社であれば,その自治体に経営状況を開示報告す ることになる,また,現状を知りたい住民からの情報開示請求の可能性もあるし,その理 由として監査対象であるとの認識が得られた。

一方で,新電力の会社は一般的な株式会社であり,広く住民に対して説明をすることは 制度的にないとの認識もあった。すなわち,情報開示はあくまでも株主である自治体向け であり,市の広報物のような媒体を使って,一般住民向けに直接的に経営状況を報告する 制度はないとの認識であった。

ただし, インタビューから, 地域新電力の事業内容や契約を説明するパンフレットや ホーム・ページでの情報開示だけでなく,自治体の広報誌や環境計画の中で,自治体と一 体となって,持続可能性に関する一部の情報を報告する実務が若干存在していることが明 らかとなった。ある事例では,新電力の事業活動の意味を,自治体の広報物を通して継続 的に住民向けに訴えていこうとする自治体の首長レベルによる提案をもとに,自治体の広 報誌の中で,毎回テーマを決めて,広報活動をしていた。この場合,このような広報活動 を繰り返し行うことや,当該活動も一つの考えとしてよいと思うとの認識であった。同様 に,他事例でも,最近,住民向けの広報誌で,毎回のシリーズ記事を編集し,地域電力を 利用する顧客の声を掲載していた。

また,ある事例では,自治体の環境計画の中で,自治体の管理施設の契約を新電力に切 り替えた結果,二酸化炭素排出量の削減効果が生まれたとして,そのような環境便益につ いて自治体の環境担当部署が住民向けに報告したり,住民が観るテレビ番組でも二酸化炭 素の削減効果の程度を放映したりしていた。

戦略的な情報開示については,インタビューでは,今後すべきとの認識が示されたもの の,実際,新電力会社を住民に向けて宣伝広告活動することと契約獲得活動で手が一杯で あり,なかなか持続可能性情報の戦略的な情報開示の優先順位を疑問視するコメントも得 られた。他の事例でも,今後の人口自然減に伴う社会的な変動から,戦略的な情報開示の 必要性を疑問視するコメントも得られた。また,情報の受け手である住民の情報要求も変 わるとの見方をした新電力があった。

一方,情報開示の地域社会への効果について,市民の意識や関心,地元の信頼や地域の つながりが増加する効果が期待できるならば, 情報開示は非常に重要であるとの見方が あった。ただし,情報開示の対象となる内容をどのように認識し,測定していくかが課題

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であるとする見方があった。現状,新電力事業を通して自治体住民向けのサービス提供や 地域生活の支援をしている新電力において,どのようにそのようなサービス提供の効果や 支援の便益を定量的に測定できるか,測定できないのではないかとする見方があった。

2 地域新電力の持続可能性報告の誘因

インタビューより, ステークホルダー理論(経営的・経験的アプローチ),ステークホ ルダー理論(倫理的・規範的アプローチ),正当性理論,制度理論(強制的),および制度 理論(模倣的)により,報告の有無を説明できることが示唆された。以下,持続可能性報 告の誘因を示すインタビュー時の発言内容を,できるだけ当該発言内容の説明に最もよく 合致すると考えられる理論ごとに分類してみたい。なお,分類が明確でない発言内容は,

掲載しなかった。また,先述の通り,各理論は内容的な重複があることから,インタビュー 対象者の発言内容の分類が,必ずしも筆者らによる下記分類に限らない点に留意が必要で ある。またこの分類作業は複数の筆者で担当し相互確認しできるだけ客観性を担保するよ うに実施しているが,文脈をどのように解釈するかにおいて主観的な側面を完全に排除で きない点に留意が必要である。

 ステークホルダー理論(経営的・経験的アプローチ)

地域新電力は,自治体との共同出資であることから,組織マネジメントは,事業の運営 という観点と,自治体の運営という観点の両方から捉えることができる。新電力事業の経 営戦略が情報開示の誘因であることが示唆される発言として,市民を電力の消費者,出資 者,潜在的な雇用者とみなしているケース,自治体職員の意識の高揚をもたらすと考えら れているケースがあった。また,補助政策などを提供する国や県を,経営戦略上の重要な ステークホルダーと考えているケースもあった。一方,情報開示が市民をひき付けること や,市民への環境教育の場とすることで,自治体運営に好影響を与えるという点で,自治 体の差別化のための運営上の戦略が情報開示の誘因であることが示唆される発言もあった。

新電力事業の経営戦略のためのステークホルダー・マネジメント

・ 契約者は新電力事業の協力者になりうる。そのための社会影響の説明が課題である。

・ 付加サービス増加,契約数増加,電源構成の変化,再生可能エネルギー利用状況が情 報戦略になりうる。

・ 顧客の契約の決定要因,理由,条件を知りたい。

(14)

・ 持続可能性情報開示が雇用面での他社との差別化に繋がる。

・ 持続可能性情報開示が,通常業務の意識付けに影響する。

・ 国の政策や国からの支援に影響するならば情報開示の誘因となる。

・ 重要なステークホルダーに,国,国の全省庁,県を含める。

自治体の差別化による運営戦略のためのステークホルダー・マネジメント

・ 市民生活の質的向上の面での情報開示が他地域との差別化に繋がる。

 ステークホルダー理論(倫理的・規範的アプローチ)

情報開示の制度化が,必ずしも,倫理的・規範的な観点からの事業の説明責任の程度の 向上にはつながらないという以下の発言内容は,倫理的・規範的アプローチのステークホ ルダー理論で説明される可能性があると考えられた。以下がそのような発言例である。

・ 情報開示による透明性と説明責任が必ずしも結びつかない。

 正当性理論

地域新電力は非常に新しい取組みであるため,その存在の正当性を得ることが不可欠で ある。市民の認知,反応,理解,承認,応援や市民に安心感を与えることなどが不可欠で あり,そのために情報開示を行うという以下の発言は,正当性理論により説明できるとい える。以下がそのような発言例である。

・ 事業理解を求め,支援を得たい。

・ 国の政策や国からの支援に影響するならば情報開示の誘因となる。

・ 情報開示によりまず関心を高め,反応,提言,共感を得ていきたい。

・ 住民の考え方を調査したい。

・ 住民の周知・理解を得るためのイベント・講演会を実施し,意見を入手したい。

・ 住民のニーズを聞き,賛否両論を聞き,それに対する説明が必要である。

・ 地域新電力は住民の承認を得ている。

・ 情報開示は会社存続や経営のために行う。

・ 情報開示の効果は,安心感,参画意識など心理面にある。

・ まったく報告をしない状態は正常ではない。成果を積極的に発信する必要がある。

(15)

 制度理論(強制的)

現状として,情報開示の強制的な制度がないため,情報開示の必要性を感じていないこ とや,情報開示が単なるコスト負担にしか感じられていないこと,主幹外の省庁へ協力し たが,自主的なインセンティブは感じなかったことなどは,情報開示に関する強制的な制 度が,情報開示の中心的な誘因であることを示唆しており,制度理論(強制的)に該当す るものと考えられる。一方,市民からの強制的な情報開示要求が情報開示の誘因であるこ とを示唆する発言もあった。すなわち,市民からの情報要求に従って,一般事業会社では 絶対しないような情報公開をしなければいけない可能性があるという考え方である。これ らの発言は,いずれも,新電力事業に出資する自治体としての立場に多かったといえる。

以下がそのような発言例である。

制度の存在が情報開示の誘因

・ 情報開示の必要性に迫られてない。

・ 情報開示する場合,事務量やコストの負担が増える。

・ 自治体出資会社は広告宣伝費を積極的に使うことが憚られる。

・ 国に対する情報開示は自主的というよりも要請のもとで行っている。

・ 現在,持続可能性情報開示のフレームワークがないのは国の考え方による。

・ 地域電力会社や自治体で持続可能性情報を指標化して開示している例はほとんどない であろう。

・ 情報開示は法的レベルであれば遵守するが,社会的合意レベルであればそう普及しな い。

・ 二酸化炭素排出量の場合,国から自治体に要請があり対応している。

市民からの強制的な情報開示要求が情報開示の誘因

・ 社会的状況変化に自治体が影響を受けやすい,安心・安全に対する社会の期待が大き い。

・ 行政は情報要求によって情報公開する立場にあるが,自治体が出資する地域新電力の 場合も,情報公開しなければならない立場にあり,一般の会社であればそのようなや り方はしない。

(16)

 制度理論(模倣的)

他の新電力事業の情報開示を模倣するか,という点について,模倣していることを最も 示唆された発言としては,情報開示に関する先例が無いと難しいという意見だった。また,

持続可能性報告において,広い意味での情報発信や,他の施策の遂行時と同じ原則が適用 されるのであれば,地域新電力は,他の地域新電力の広義の情報発信や施策を模倣してい るのかどうかについても,判断材料の一つになるだろう。以下,模倣していることが示唆 される発言例について列挙する。

・ 先例のない形式での情報開示は実施が非常に難しい。

・ ホーム・ページ作成にあたり他の地域新電力の情報開示のレベルに考慮した。

・ 他の自治体から情報提供が求められた場合にすべて直接開示している。

Ⅴ 考     察

近年,地域新電力の設立が急増しており,地域新電力の社会環境に与える大きさを考慮 すると,今後,地域新電力がいかに持続性可能性情報の開示に対応していけば良いかを検 討する必要性が生じるかもしれない。その際,持続可能性報告の将来的な方向性を予測す ること,そのために,持続可能性報告の有無や内容を決定付ける要因,あるいは誘因が何 であるかを知ることが重要である。しかし,地域新電力の持続可能性報告の誘因を分析す る研究は,筆者の知る限り日本では未だ見られない。 このため, 本研究は, 既存研究の ギャップを埋める点で重要である。

今回調査した地域新電力事業の3事例では,現状として持続可能性報告を殆ど行ってい ないが,今後,何らかの形での情報開示が必要との認識が一部に示されていた。全体にや や発言数が多いのは,「ステークホルダー理論(経営的・経験的アプローチ)」に分類され た発言だった。このことは,当該理論が地域新電力の本3事例の持続可能性報告を説明す る,最も重要な理論の一つであることを示唆していた。例えば,事業の影響に関して,顧 客や便益の還元先となる,市民への影響に関する発言が多かった。

一方,制度理論(強制的)や,正当性理論で説明できるケースもかなり多く見られたと いえる。このような,関係者の発言の分類は,本来,グランデッド・セオリー・アプロー チ(GTA)(Glaser および Strauss 1967)などの手法を用いた,より厳密な分析が必要で あり,発言数だけでは,真に重要な誘因であるとは言えないだろう。しかし,少なくとも,

(17)

開示の有無や内容に関する多様な誘因を説明するためには,いずれか特定の情報開示理論 のみでは不足していることは示唆されたといえる。すなわち,地域新電力による持続可能 性報告の誘因については,ステークホルダー理論,正当性理論,制度理論(強制的,およ び模倣的)などの多様な理論で説明され得るということである。筆者らは,いずれか特定 の情報開示理論のみでは,開示の有無や内容に関する多様な誘因は説明できないと主張し ていたが(Gray et al. 1995b; Deegan および Rankin 1996; Gray et al. 2014; Adams et al. 2016),当該主張の正しさが示唆されたといえる。

新電力事業の経営戦略のためのステークホルダー・マネジメントとして,持続可能性報 告が重要だと考えられている。このことは,将来,地域新電力がより経済的に成功するた めに,持続可能性報告が戦略的に活用されていく可能性があることを示唆している。一般 の企業による典型的な持続可能性報告の誘因と,3事例における地域新電力の持続可能性 報告の誘因が類似しているといえる。一方,一般企業との比較で若干特徴的と考えられる のが,事業の正当性の確保・維持に関する必要性である。非常に新しい取組みである地域 新電力は,当面,その存在の正当性を得るために,市民の認知,反応,理解,承認,応援 や市民に安心感を与えるための持続可能性報告による情報戦略が必要と示唆された。また,

今後,情報開示に関する強制的な制度ができれば,持続可能性報告は横並び的に飛躍的に 増加することが予想される。市民からの強制的な情報開示要求も,地域新電力の持続可能 性報告の増加に直結することも示唆された。これらの結果は,地域新電力が今後の情報開 示の方針を立案するために有用であろう。

世界では,広範な情報開示主体の情報開示の誘因をより定量的に分析する研究が多数あ るが,わが国ではそのような研究の数は非常に限られている(Kawahara 2017)。 今後の 研究として,そのような定量研究が期待されるだろう。持続可能性報告はその重要性が認 識されながらも,どのように報告したら良いか分からないという場合がある。このような,

事業の社会影響の測定手法の検討,その結果,いかなる社会影響の報告,インパクト・レ ポートの発行が望ましいか,などについての研究は非常に有効であると認識されていた。

これらについては,今後の研究課題であろう。

Ⅵ 結     論

自治体が出資して地域新電力の経営を行う事例が全国で徐々に増えつつある中で,本稿 では,複数の地域新電力を取り上げ,現状として,地域新電力がいかなる持続性に関する

(18)

情報開示を行っているのか,情報開示,あるいは非開示の誘因がいかなる理論で説明でき るかについて分析した。このような検討は,筆者の知る限り日本では未だ見らないため,

先駆的な研究といえる。

今回インタビュー調査した地域新電力事業の事例では,現状として,持続可能性報告を 殆ど行っていないが,今後,何らかの形での情報開示が必要との認識もあった。ステーク ホルダー理論(経営的・経験的アプローチ)が3事例の持続可能性報告を説明する,最も 重要な理論の一つであったが,制度理論(強制的)や正当性理論も,誘因を説明するため の有力な理論の一つであることが示唆された。結果として,いずれか特定の情報開示理論 のみでは,開示の誘因は説明できないことが示唆された。

本研究における限界として,事例研究をもとに質的調査の方法論を取っており,仮説の 構築を試みているものの,その一般化には十分至っていない点である。今後の検討課題と して,広範な情報開示主体の情報開示の誘因のより定量的な分析が期待される。また,持 続可能性報告における事業の社会影響の測定手法や社会影響の報告,インパクト・レポー トの発行のあり方の研究も,今後,有用だろう。

謝     辞

本研究は,独立行政法人日本学術振興会の科研費 18K11767 の助成を受けたものです。

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