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9 西八木層出土木材の樹種

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(1)

9 西八木層出土木材の樹種

鈴木 三男・能城 修一・

1.試 料 2. 材化石の示す古植物相

1.試 料

 明石市西八木海岸の西八木層から1985年に出土した木材について樹種の同定をおこ なった。これと合わせて,1948年に長谷部言人を委員長とする「明石西郊含化石層研 究特別委員会」によって発掘され,亘野俊次により同定されたものの印刷公表になっ ていなかった分についても,改めて同定し直し,ここに掲載した。

 1985年の発掘で出土した木材は146点と樹皮1点で,うち,145点が自然木,残り1 点(NY−147)が板状の木器とされるもので,これはクワ科のハリグワであった。

146点のうち,この木器を含む95点が西八木層の最下部層である河成のV層から出土 したものであり,残りの19点がその直上の海成のIV層からのものである。一方,1948 年の発掘は今回の調査地より西に約80mの所でおこなわれ,西八木層からの出土材と

して276点が,またその発掘地周辺から集められた材が150点あり,亘理により調査さ れている。この報告では,発掘地周辺からの採集物150点は地層が特定できないので 省き,西八木層からの出土材である276点(No.60151〜60426)についてのみ同定をお こなった。もっともこの中には崩土中の標本も含まれているのですべての標本が西八 木層由来のものであるかどうかは分からない。

 出土材はカミソリ刃を用いたハンドセクションをガムクロラールで封入して永久プ レパラートとした。材は一般に変形,変質が激しく,良好な切片が得られるのはむし ろ稀であった。その結果として十分に同定できないものが少なからずある。また亘理 の1948年のプレパラートも我々と同じ方法で作られているが,長年の間に封入材の収 縮により変形したのか,あるいは元々保存がきわめて悪かったのか分からないが,き わめて観察しにくい標本がほとんどであった。その結果,ここに発表するのは亘理が 1948年の時点で同定した結果よりかなり後退したものとなっている。

 今回の発掘で得られた標本についての同定結果は表9に掲げ,その集計したものと

125

(2)

 第皿部 古環境の復元

1948年の標本の同定結果のまとめを表8に示す。以下に同定された樹種の同定上の問 題点について簡単に触れ,同定された樹種の顕微鏡写真を図版43〜53に示す。なお,

今回調査された全標本は,1948年の亘理の分も含めて金沢大学教養部生物学教室に保 管されている。

 表8 西八木層樹種別出土点数       Tab.8

樹種名 Botanic name

モミ属 トウヒ属A トウヒ属B トウヒ属 マツ属 スギ類 メタセコイア類 ヒノキ属 オニグルミ ヤナギ属 ハンノキ節 カバノキ属 ハシバミ属 アサタ コナラ節 エノキ属 ハリグワ ヤマグワ マタタビ属 ヤマブキ サクラ属 ナシ亜科 ナナカマド属 サイカチ センタン ヤマウルシ サルスベリ属 エゴノキ属

ヒトツバタゴ トネリコ属 イボタ属 ヒイラギ ヒョウタンボク類

、4βiθs

P τεαsp. A P cεαsp. B P 6θαsp.

P仇μs

C磁Zo彿θrゴαgroup MεZαぷε9μoiα group cんα沈αθc抄α万∫

」μgzαηsατ1αη肪∫プb吻 5αzら

・4らμ∫sect. Gy励0疏yr5μ5

.Bθ劾zα

Corツ九s O5Zrツα

Qμεπμ5S㏄t. Pr仇μS

Cθ↓彦∠s

Cμ4rα痘α彦τiεμ5μ4αZα Mow∫ゐo仇みツ6 5

∠4cガηi4辺 Kεrrどα」φoη比α Prμ微ぷ

Pomoideae sorψ5

αε4髭siαゴψoη εα バグε↓ ααzθ雇αrαoん

R勧5励cんocαrカα Lα9εrぷ〃oε励α ぷzツτ砿

C万o旭η仇μ∫グε九5μs Fグα刀ημs

Ligμsぴμ沈

0凱αη彦肋5んε彦θr妙妙〃μs Loη Cεrα

Specimens excavated

in 1985

12ワ臼11 1142131123

w⇒・層

・・1・ ・ksl・1 uk

11650     1 1334513

  nδ−

3 1

合計** 109  13 0

1

4ーエ

112

1

1

22

1

2

2

1

・1・6 1

2

1

02 21

1

37

1

1

11 121111 11 49

−qU

511

37

Specimens excavated

in 1948

11

  1  1 1 1

乙42 410﹂1 5419

23

197

*S:幹,枝材,stem wood;R:根材, root wood;uk:未判別, mknown.

** 樹皮,保存不良はこの表から除いてある。Poorly preserved sp㏄imens are excluded.

126

(3)

表9 明石市西八木層出土木材の樹種 Specimen  樹種名

number  Botanic name NY− 1 保存不良 NY− 2 イボタ属 NY− 3 ヒトツバタゴ NY− 4 ヒトツバタゴ NY− 5 ヒイラギ NY− 6 ヒトツバタゴ NY− 7 保存不良 NY− 8 イボタ属 NY− 9 アサタ NY−10 ナナカマド属 NY−11 トネリコ属 NY−12 保存不良 NY−13 オニグルミ NY−14イボタ属 NY−15 ナナカマド属 NY−16 コナラ節 NY−17 ハンノキ節 NY−18 エゴノキ属 NY−19 ヒトツバタゴ NY−20 ヤナギ属 NY−21 ヒトツバタゴ NY−22 ハリグワ NY−23 トウヒ属A NY−24 トネリコ属 NY−25 カバノキ属 NY−26 ナナカマド属 NY−27 ハリグワ NY−28 ヒトツバタゴ NY−29 ナシ亜科 NY−30 エゴノキ属 NY−31 ナナカマド属 NY−32保存不良 NY−33 ヒトツバタゴ NY−34 エノキ属 NY−35 ヒトツバタゴ NY−36 ナナカマド属 NY−37 ナシ亜科 NY−38 ナシ亜科 NY−39 ナナカマド属 lNY−40 トネリコ属

l

NY−41エノキ属 NY−42保存不良 NY−43 ナナカマド属

Tree 1 Sample

・… 1・・m』・

RR

R

R

S  RRRSSR

R

R

R

35     8704 067443 28 81 7  675   8 4592 05       1119045        7316967047  577743 503214001208        106       54● 二三ニゴ↓二二二↓二三ゴニヨ三二ニゴご竺ゴゴニゴヨ PPPPPPPPPPPPPPPPPPPPPPPPPPPPPPPPNNPPPPPPNPP

Diameter

  cm   1  

5500050505500500500005555000 551132129122193442113242233233 23 0550500050031752174632

1

9 西八木層出土木材の樹種         Tab.9

Excavation Iayer or level     cm

w層 IV層下部

389853491882276332102333461252712202011010020111229068100471122222322223322222221311223212

32〜 2

14〜 2

 〜〜

7  74

6 

31

ー ワ一2

77〜 1

232 33 2

5FD1813 858798 ーウ一1111

   

  60  98   11

8 8 1

127

(4)

第1部 古環境の復元 表9(っづき)

i

 Specimen

 number  樹種名

Botanic name

l

Tree part

NY−44 ヒトツバタゴ

NY−45・・ウ〃ボ・⇒

NY−46 ナナカ1マド属

NY−47ハシバミ属 NY−48 ヒトツバタゴ

NY−49樹皮

NY−50 トネリコ属 NY−51 トネリコ属 NY−52 トネリコ属 NY−53 トネリコ属 NY−54 トネリコ属 NY−55 トネリコ属 NY−56 トネリコ属 NY−57 ヒトツバタゴ NY−58 |・ネリコ属

NY−59保存不良 NY−60 ヤナギ属 NY−61 ハンノキ類 NY−62保存不良 NY−63 ヒトッバタゴ NY−64 ヒトツバタゴ NY−65 ナシ亜科 NY−66 ヒョウタンボク類 NY−67 保存不良 NY−68 ヒトッバタゴ NY−69 保存不良 NY−70ハシバミ属 NY−71 トウヒ属B NY−72 トネリコ属 NY−73 保存不良 NY−74 ナナカマド属 NY−75 ヤナギ属 NY−76 ナシ亜科 NY−77 保存不良 NY−78 保存不良 NY−79保存不良 NY−80 トネリコ属 NY−81イボタ属 NY−82保存不良 NY−83 保存不良 NY−84 ヒトツバタゴ NY−85 ヒトツバタゴ NY−86 ヒトツバタゴ NY−87 保存不良

RS R RRRRSRRRR SSRRR RR RRRR

S

RRR

128

Sample number

 3280000000000991 28 05 13665 888888888887486124446 81111 111111111111199116811

                           

  一一一  

一 一

PPPPP PPPPPPPPPPPPPPPPPPPPP   1    85   3  4占96 870 98616963866761 33116819111

5

一 一 一 一                 一  

PPPMPPPPPPPPPPP

Tab.9(cont.)

Diameter

  cm

Excavation layer or level     cm

土 粘 層V 壁 南 函口

W

500﹇DO ウ・8372 0000050050500555500000000000000050050554436213211212132121222111583422112140        2 4ρ0560 186にU8 21311

〜372

333333333388888888888811111111111 290232321812192285122213211

23〜 2

24〜 3

8﹇06 011

00 00 2

〜   18

 3 15124093605 33811350885 33123212111

   

   88   11    23

(5)

表9(つづき)

Specimen  樹種名 number  Botanic name

Tree part

Sample number

8901234567890123456789012345678901234567890188999999999900000000001111111111222222222233       ユ 

ユ ユ ユ ユ ユ ユ ユ ユ ユ ユ ユ ユ ユ ユ ユ ユ ユ ユ ユ ユ ユ ユ ユ ユ  よ ユ ユ ユ ユ ユ ユ

一 一 一 一

一 一 一 一

一 一 一 一 一 一 一 一 一 一 一 一

Y Y YYYYYYYYYYYYYYYYYYYYYYYYYYYYYYYYYYYYYYYYYY

N N N N N N N N N N N N N N N N N N N N N N N N N N N N N N N N N N N N N N N N N N N N

ナナカマド属 トネリコ属 ハシバミ属 マタタビ属 イボタ属 保存不良 保存不良 ヤマブキ トウヒ属B 保存不良

ヒョウタンボク類 ヒトツノくタゴ 保存不良 保存不良 保存不良 ヤナギ属 トウヒ属 エゴノキ属 マツ属 サクラ属

ヒノキ属 保存不良 保存不良

ヒトツバタゴ ヒトツバタゴ サクラ属

ヒトツノミタゴ ヒトツバタゴ ヒトツバタゴ ヒトツバタゴ サクラ属

ヒトツバタゴ 保存不良 サクラ属

ヒトツバタゴ 保存不良 サクラ属 保存不良 保存不良

ヒトツノミタゴ ヒトツバタゴ 保存不良 保存不良

保存不良

1

  P−136 R  P−186 S  P−161   P−109   P−65 R  P−74

S

RR SS RSR RRRRSSS

S

S

SS

P−171 P−172 P−1 P−135 P−177 P−164 P−138 P−78 P−137 P−58 P−79

ウ﹈   3   1 1 1

41091855

エ ヨ ユ ユ ユ ユ ユ 

P P P ←

P ←

F P

眠 眠 眠 眠 眠 眠 眠 眠 眠 眠 眠 眠 胴 眠

眠 眠

lN・3

9 西八木層出土木材の樹種 Tab.9(cont.)

Diameter l

  ・ml Excavation layer or level     cm

   1.o!囎

1.O W層 1.O W層

層礫 部砂 下

最層

V

 層  土

 下

層 層

 V

層層層層層層層層層層層層層層 WWWWWWWWWWWWWW

O

O O

』 ほ

O O O

5

0 0

2 5 0 0

ほ ほ

5 7

5

』 ほ

O

21111011161101102021311130133232322121111

  1891

184〜153   163   301 232〜229 235〜231

  162   160   337   186   169   158   192 233〜232   176   266 230〜226 181 340 218 3461 2121

  1   11791

223「

129

(6)

第H部古環境の復元

表9(つづき) Tab.9(cont.)

Specimen  樹種名 number  Botanic name NY−132保存不良 NY−133保存不良 NY−134 保存不良 NY−135サクラ属 NY−136 ヒトツバタゴ NY−137 ヒトツバタコ NY−138 ヒトツバタゴ NY−139 ヒトツバタゴ NY−140 ヒトツバタゴ NY−141保存不良 NY−142 スギ類 NY−143 保存不良 NY−144保存不良 NY−145 トウヒ属 NY−146 保存不良 NY−147 ハリグワ

Tree part

SSSSS

S

S

S

1劉D垣m割

Nぴ3 Nα3 P−43 N仏2 N仏2 N乱2 Nぴ2 N仏2 Nα2 N肱2 P−13 P−59 P−3 P−32 P−34 P−44

505005500855555013531212012232

Excavation Iayer or王evel     cm

層層

WW 層層層層層層層層 wwwwwww砂

粘土層

板状木器

312

315 249 337 302 338 313

* S=幹,枝材,stem wood;R=根材, root wood;無記入(blanck)=未判別, unknown.

2. 材化石の示す古植物相

 第四紀における日本の材化石の研究は,後氷期,特に縄文時代から古墳時代にかけ ての時期のものは最近良く研究されるようになってきており,最終氷期のものも散見 するが,それ以前のものは下北半島(山内 1957),西条湖成層など(山内 1965),

塩原湖成層(鈴木 1973)などとほんの僅かしかない。含材化石層の時代がかなり詳 しく研究され,しかも材化石のみならず大型植物遣体,花粉化石共々総合的に調査さ れ,検討されたのはこの西八木層が初めてといえる。

 今回発掘された材の同定結果が表9に,またこれと1948年発掘分の再同定結果の一 覧が表8に示されている。1985年発掘分の試料146点の内,114点が同定され,残り32 点は保存が不良であることなどより同定できなかった。また1948年度分も276点の 内,197点が同定されたにとどまった。これら試料は18科にわたる33の分類群(便宜 上,これを樹種と呼ぶ)に同定され,1985年発掘分で27の樹種が,1948年発掘分では 14樹種が見いだされている。この調査結果で気付くことは,先ず第一に,1985年発掘 分が146点と決して多い標本数ではないにもかかわらず,27もの樹種があり,極めて 多様であることである。第二はメタセコイア類,ハリグワ,サルスベリ属,ヒトツバ タゴと現在の明石市付近ばかりか本州,果ては日本には現生していない樹種を含んで

130

(7)

      9 西八木層出土木材の樹種 いること,第三には幹や枝の材と共に,根材と考えられるものがかなり多いことであ

る。ここではこれらの点について検討する。

 出土した樹種を見ると冷温帯,暖温帯に中心がある樹種が多い一方,冷温帯から亜 寒帯に分布の中心があるトウヒ属などからサルスベリ属のように亜熱帯から熱帯に分 布するものまである。この多様さは試料の大部分を産出したV層が河成層であること を考え合わせると,西八木層の材化石層が単一の植生を反映したものではなく,垂直 分布的及び水平分布的に同時代の異なった複数の植生帯の由来物であるか,或は時間 的に異なった気候下に成立していた植生の反映である可能性が考えられる。試料点数 でみると1985年分で最も多いのはヒトツバタゴ(33点)で,これにトネリコ属(14 点),ナナカマド属(10点),サクラ属(6点)とつづき,現在の我々が普通に目にす

ることができるブナ帯の森林,暖温帯落葉広葉樹林,照葉樹林などとは全く違った組 成であることが分かる。この結果は前の間氷期には現在の日本にみられる森林とはか なりかけ離れたタイプの森林があった事を示していると見なせる。

 現在の明石市付近ではメタセコイア類は勿論の事,朝鮮半島,中国に現存するハリ グワ,琉球列島以南の亜熱帯から熱帯に分布するサルスベリ属,日本では愛知岐阜両 県と対馬にだけあり,朝鮮半島から中国に分布するヒトツバタゴの4樹種は,自生は

もちろんなく,栽培されたものしか見ることができない。メタセコイアに関しては三 木茂を初めとした多くの研究から,第三紀から第四紀の前半にかけてはむしろ普通の 植物であったものがその後の度重なる寒冷温暖の波の中で日本列島から絶滅して行っ たことが明らかにされている。今回見つかったメタセコイア類の材は前期更新統に由 来すると思われるのでちょっと事情は違うが,このように第四紀になって日本列島か らは絶滅したか,あるいはごく一部の地域に残存しているが,現在の朝鮮半島,中国 大陸には分布している植物はかなりある。これらのうち,古い時代に日本から絶滅し たものと,最近になって絶滅を迎えたものでは現在の大陸での分布程度が,前者の方 が後者より限られているようである。さらに最近になって絶滅を迎えたものは,暖地 性の植物では最終間氷期に,寒地性の植物では最終氷期に集中している。このように 考えると今回の結果は下末吉期に暖地性の植物があって,それが最終氷期を迎えて絶 滅して行ったことを材化石からも示しているといえる。

 表8にはIV層とV層の出土材について幹材と根材の区別がついたものに関しては各 々を区別して表示してある。1948年発掘分については保存が良くないこともあって全 体的に示すことが難しいので,あえて区別することはしなかった。幹や枝の材と根の 材は構造上,多かれ少なかれ違いが認められるが,その違いは樹種によってほんのわ

131

(8)

 第H部 古環境の復元

ずかしか無いものから,かなり違うもの,全く違うものなど様々である。日本での木 材による樹種識別は主に木材利用上の要請によって発達してきたことから,その識別 に用いうる知識や木材コレクションはほとんどが有用樹の,しかも幹の材に限られる と言って良い。従って,ほとんど利用されることのない低木や蔓の材の知i識は極めて 貧弱で,ましてや根の材についてはほとんど無いとも言える。この西八木層の材化石 を同定するのが極めて難しかった理由に,保存の悪さと上に述べた絶滅種の存在もあ るが,最も大きいのは根材が多く含まれていることにあるといえる。根材の材構造が 針葉樹類など幹材とあまり違わないものや,ハンノキ属,ナラ類などの放射組織のよ うに特徴的な材構造を持つものでは根材の同定は容易であるが,多くの広葉樹材では 道管の配列のパターンが最も大きな同定上の形質であるのにかかわらず,根材ではし ばしば幹材とは全く違った配列を示し,類縁性の検討が極めて困難になる。この様な 典型として写真30aとCにヒトツバタゴの幹材と根材を,写真32aと33aにトネリコ 属の根材と幹材を示した。これらは現生樹木の根材の収集と組織プレパラートの作 成,観察を通して同定が可能となったもので,これ以外にも保存が十分でないことも あって根材と推定されるが同定に至らなかったものもいくつかある。したがって表8 が全ての根材と幹材の比率を表しているわけではないが,この表を見ると海成のIV層 には全く根材と言えるものが出ていないことと河成のV層からは根材,幹材双方が出 るが,根材の方が多くしかも最も多いヒトツバタゴがすべて根材であることに気付く。

今のところこのように幹材と根材の違った出現,特に根材が集積するような状態が植 生のどういう状態とどのような堆積環境を反映しているのかの検討はできてないが,

それを明らかにするには今後とも根材を識別する努力を重ねる必要があろう。さらに 表には示さなかったが1948年発掘分のヒトツバタゴはすべて幹材で,ハリグワが極め て多いこともあって1985年発掘分とは多少とも違った植生の反映とも考えられる。

 この研究遂行にあたって種々の便宜とアドバイスを与えられた大阪市立大学理学 部の粉川昭平教授,辻誠一郎博士,南木睦彦博士に感謝します。また,貴重な標本 の再調査を快諾し暖かく励まして下さった亘理俊次先生に深く感謝します。

文 献

NosHIRo S. and SuzuKI M.1987 Fossil root−and stem−wood of C励ηα励μsグ6彦μ∫μs Lindl.

 et Pax. from the late Pleist㏄ene of Akashi, central Japan, with reference to the root−wood  of the extant indiduals. 1AW∠4」Bμ〃εガη,8 (in press).

鈴木三男 1973「栃木県塩原産埋れ木」r植物研究雑誌』48,ユ73〜182.

132

(9)

       9 西八木層出土木材の樹種

辻誠一郎・南木睦彦・鈴木三男 1984 「栃木県南部,二宮町における立川期の植物遺体群集」

 r第四紀研究』23−1,21〜29.

山内文1957「下北半島の第四紀層より得られた材片について」r資源研彙報』43〜44,21

  〜25.

       1965「中国地方西部の洪積層より得られた木材」r資源研彙報』64,61〜64.

      (鈴木:金沢大学教養部生物学教室,能城:大阪市立大学理学部生物学教室)

Fossil wood Flora of the Nishiyagi Formation(Late Pleistocene)

      SuzuKI Mitsuo and NosHIRo Shuichi

  The Nishiyagi Formation is distributed at Akashi district of Hyogo Prefec・

ture, and it is regarded as deposits of the last interglacial epoch, the Shimo.

sueyoshi age. 146 specimens of fossil wood were excavated from a cliff of the lower two皿embers of the Nishiyagi Formation in 1985, and were identified in the present paper. Furthermore, specimens which has been excavated from the comparable strata with the Nishiyagi Formation Ilear the cliff in 1948 and preliminary identified by WATARI Shunli aTe also reidentified here. Some of the sp㏄imens excavated in 1948, however, are someti皿es regarded as those were not derived from the Nishiyagi Formation but from an older stratum of the Lower Pleistocene.

  Totally 306 specimens were idelltified into 33 taxa of 18 families as shown in Table 8. Ecological habitats of those taxa are quite wide in range from the subarctic to the subtropical climate, and it is considered the fossil wood does not indicate a single vegetation but indicates several vegetations of a single age or of several ages. Although most of the identified taxa are still now distributed in Japan, some trees which has been already extinct from Japan or Honshu Island, for example,ハ必α∫εqμo口, C碗rα励αand L49汐∫〃oβ勿εα,

are included. The extinction of the latter two taxa in the Iast glacial age is presumed here, while it is generally considered that 1脆zαsθ4μo切has been already extincted in Japan I)efore the Iast interglacial age.

      List of tables alld plates

Tab.8 Fossil wood flora from the Nishiyagi Formation, excaveted in 1985

       133

(10)

  第H部古環境の復元

      and 1948.

Tab.9 List of identified fossil wood from the Nishiyagi

      in 1985.

Formation excavated

P1.43 1 Aろiθs(No.60158),2Picθαsp.A(NY−23),3Pi6斑sp. B(NY−71),

     a:cross ×32, b:tangential ×80, c:radial ×320.

P1.44 4 P幼筑 (NY−106),5Crックzo勿εア扱group (NY−142), 6 Mθ如5θσμo扱      group(Np.60404), a:cross×32, b:tangential×80, c:radial×320.

PI.45 7 C輪ア微66鎚θr£∫(NY−108), a:cross×32, b:tangentia1×80, c:radia1      ×320.8」μgZαη5α∠1耽 万ノb1 α(NY−13),9ぷα》泣(NY−20), a:cross×32,

     b:tangential ×80, c:radial ×160.

Pl.46 10 AZημs sect. Gy彿ηo肪yr5μs(NY−61),11&砲/α(NY−25),12 Cbr〆μs      (NY−70), a:cross×32, b:tangential×80, c:radial×160.

PL 47 1305〃ッαゴψoπicα(NY−9),149μθrαzs sect. P万ημぷ(NY−16),15α伍∫

     (NY−41), a:cross×32, b:tangential×80, c:radial×160.

PI.48 16−18 C掘rαη拓彦ηαs餌ぬ拓, stem wood,16(NY−22),17(NY−147),18      (No.60249)19 Morμ∫50勿ろッcゴ∫(No.60346),20 Ac彦仇ば辺(NY−91), a:

     cross ×32, b:tangential ×80, c:radial ×160.

P1.49 21 K♂riα元ψo々6α (NY−95), 22 Pwημs (NY−121), 23 Po勿oゴ4εαθ      (NY−29), a:cross×32, b:tangential×80, c:radial×160.

P1.50 2480r施s(NY−43),25αε4琵s扱元ψo痂oα(No.60288),26ル翻辺汲θη・

    4α舵み(No.60407), a:cross×32, b l ta㎎ential×80, c l radial×160.

Pl.51 27 R肋s方:cんoεαゆα(No.60380),28 Lαgθτ∫方06痂α(No.60153),298彦y%£

     (NY−30), a:cross×32, b:tangential×80, c:radial×160.

PL 52 30−31 Cゐゴoηαη功俗rθzμsμs,30(stem wood, NY−115),31(root wood, NY−

    112),32−331聯⑳仇μ∫,32(root wood, NY−53),33(stem wood, NY41),

    a:cross ×32, b:tangential ×80, c:radial ×160,

P1.53 34五gκ5〃祝勿(NY−14),350耽2〃 ゐμ3力εzεプoクゐ夕11%3(NY−5),36 Lo〃i66斑     (NY−45), a:cross×32, b:tangential×80, c:radial×160.

  (SuzuKI:Department of Biology, College of Liberal Arts, Kanazawa Universi・

ty, NosHIRo:Department of Biology, Faculty of Science, Osaka City University)

134

(11)

図版解説

(12)

(1)モミ属A6琉 Pinaceae

 1,No.60158. a:cross×32, b:tangential×80, c:radial×320.

 年輪幅が狭く,直径の大きい春材仮道管と狭い夏材部を持つ針葉樹材で,樹脂道を 欠き,放射組織には放射仮道管はなく,放射柔組織の垂直,水平壁には多数の単壁孔 があることからモミ属の材である。仮道管が太いこと,年輪幅が同一年輪でも変化す

るなどから根材であることが分かる。

(2・3) トウヒ属A,トウヒ属B,トウヒ属Pゴ66αsp.A, sp.B, sp. Pinaceae  2,Picθαsp. A(NY−23).  3,Pゴ6θαsp. B(NY−71). a:cross×32, b:

tangential ×80, c:radial ×320.

 垂直,水平の両樹脂道を持ち,分野壁孔はトウヒ型,放射仮道管の有縁壁孔もトウ ヒ属のそれであること,春材,夏材の仮道管にらせん肥厚は認められないことから筆 者らはこれをトウヒ属Aとして,トウヒ,エゾマツ,アカエゾマツがこれに当たると 考えている(辻ほか 1984)。同様に次のトウヒ属Bはらせん肥厚が夏材部にのみ認 められるものでハリモミ,バラモミなどであり,トウヒ属としたものはそのいずれと も判別できないものである。

(13)

⑳蒸 雛護

⊇.︽鍵蓑

難参

       

鱗彩

 ︑<︑Z

i灘灘

ベ   モ 

工e

☆織ぺ ※燃溺※

該§鯵

﹀・紅︑難ーξ

鏡﹂〆捻㌘灘蘂

z裟e s護シ 頴︒ミ彩ノ

一纏鎌

0

3⁝

蓑波ー彩 棄妻萎

影蓑彩轟︾〃︑∨︑

籏〃斑彩彩ま

4︐X 二撤尻柵

3a

PL43 西八木層出土木材の顕微鏡写真(1)

図版43

(14)

(4)マツ属Piημ∫ Pinaceae

 4,NY−106. a:cross×32, b:tangential×80, c:radial×320.

 垂直,水平の両樹脂道を持ち,分野壁孔は大きいことからマツ属の材であることは 分かるが,保存が極めて悪いため放射仮道管の内壁の肥厚により単維管束亜属と複維 管束亜属を区別できなかった。

(5) スギi類 Cτッ扱o〃τετ扱group  Taxodiaceae

 5,NY−142. a:cross×32, b:tangential×80, c:radial×320.

 樹脂道を欠く針葉樹材で,樹脂細胞は接線方向につながる傾向を持って分布し,樹 脂細胞の水平壁はおおむね平滑,放射組織は柔細胞よりなり分野壁孔はスギ型で2個 位であることから,スギ科のスギに良くにていることが分かる。これについては亘理 俊次が1948年の発掘のガリ版刷りの中間報告の中で検討をしている。当時は三木茂が 発表したメタセコイアの現生のものが中国で見つかったばかりで,その材構造などは まだ分かっていなかった時であったので,亘理はこの材がメタセコイアではないかと 考えた。その後,メタセコイアの現生のものにも傷害樹脂道が出ることが分かったの で,ここでスギ類としたものは傷害樹脂道の出るメタセコイア,セコイア,セコイア デンドロン属(これらを合わせてメタセコイア類と呼ぶことにする)ではなく,ス ギ,コウヨウザン,スイショウ属の何れかであると考えられる。この3属の材は互い に良くにており条件の良いときに分野壁孔の開孔部の大きさでなんとか区別できるに すぎない。ここでは保存が十分でないこともあり,詳細な同定は困難であるのでこれ をスギ類としておく。

(6) メタセコイア類Mεzα∫¢qμoiαgroup Taxodiaceae

 6,No.60404. a:cross×32, b:tangential×80, c:radia1×320.

 上述のスギ類に近似するが傷害樹脂道を持つことで区別される。このグループに属 する材化石としては日本では古第三紀から第四紀更新世まで知られている。亘理の中 間報告によるとこの標本は崩土中から出土しており,また大型植物遺体での西八木層 からのメタセコイアの出土も見られないことから,これは西八木層由来のものではな

く,下部にある前期更新統の屏風ケ浦粘土層に由来した可能性が高い。

(15)

鷲溺

叢⁝灘

… 難霧叉 隷

↑蓉凛嚇︐ 該漁鷲

PL44

 ∵∴今・・ や ハト

叉○

繕矯灘︑  ぷ甜をζ澱讐㌘

蕊護寮︐う  ふタ ふピコぱペタぱヌパぱぷの

灘鵜

羅耀

ぷ14

ρ

 モ

念︑ヒx謬・

皇竃

﹂丁・至S

蟻bき民U

西八木層出土木材の顕微鏡写真② 図版44

(16)

(7) ヒノキ属 C力α〃2αεcッ♪αriぶ  Cupressaceae

 7, NY−108. a:cross×32, b:tangential×80, c:radial×320.

 スギ類に似るが樹脂細胞の水平壁は結節状になり,分野壁孔はヒノキ型で1ないし 2個であることからヒノキ属の材であることが分かる。春材部がことごとく潰れてお りヒノキとサワラの区別は不可能である。

(8) オニグルミ 」μgZαμ∫α∂αη仇 プbZiαCARR. Juglandaceae  8, NY−13. a:cross×32, b:tang飽tial×80, c:radial×160.

 中型の管孔が少数散在して,多少放射方向につながる傾向を持つ広葉樹材で,放射 組織はほぼ同性で4列くらい,木部柔組織は単列で接線状に並ぶ,などからオニグル

ミと同定した。

(9)ヤナギ属SαZ紘  Salicaceae

 9, NY−20. a:cross×32, b:tangential×80, c:radia1×160.

 中ないし小型の管孔が,単独あるいは数個,主に放射方向に複合する散孔材で,道 管の穿孔は単一,放射組織は異性またはやや同性の傾向を持つ異性,単列で道管と の壁孔は大型で密に蜂の巣状に分布する,等からヤナギ属と同定した。写真の標本

(NY−20)は管孔がより大型で密に分布する,繊維細胞も直径が大きく薄壁である,

放射組織は同性に近い,等から根材であると考えた。

(17)

図版45 西八木層出土木材の顕微鏡写真(3) PL45

(18)

σ9 ハンノキ属ハンノキ節 .4Z脇5 sect. Gy〃2ηozλッτ5μ5 Betulaceae  10, NY−61. a:cross×32, b:tangentia1×80, c:radial×160.

 集合放射組織を持つ散孔材で,道管の穿孔は多数の横棒からなる階段状,通常の放 射組織は単列で同性,道管相互の壁孔は小さくて密に分布する,等からハンノキ属の うち集合放射組織を持つハンノキ,ヤマハンノキ等のハンノキ節であると同定した。

ω カバノキ属 BθWα Betulaceae

 11, NY−25. a:cross×32, b:tangential×80, c:radial×160.

 中型の管孔が単独,或は数個複合する散孔材で,木部柔組織は単列の接線状に並 び,道管の穿孔は10本以下の横棒からなる階段状,放射組織は同性に近い異性で4細 胞幅くらいである,等からカバノキ属と同定した。

⑫・・シバミ属Corパμ5 Betulaceae

 12, NY−70. a:cross×32, b:tangential×80, c:radial×160.

 小型の管孔が放射方向に分布する散孔材で,管孔が存在する部分とそれが全くな く,繊維細胞と柔細胞のみからなる部分とが交互に現れ,木部柔組織は単列で接線 状,道管の穿孔は横棒の数の少ない階段状,放射組織は異性で2列くらい,等からハ

シバミ属と同定した。

(19)

警惑

ー購鑛

麸x︑ 簗ぶ蓑

ミ︑ぷsさ轄×︑ζさ蕊

ぶご難

10c

彩遥

︐勢 .鱒弐難灘

鑛撫

PL46

1臓懇蕊

⁝灘灘灘

咋萎

1

蒸きぷ溺顔ぴ彩

湯影

叢嚢︑

︑.裟蟹

西八木層出土木材の顕微鏡写真(4)

図版46

(20)

⑬ アサダ05zrツα」αρo痂 4 SARG. Betulaceae

 13, NY−9. a:cross×32, b:tangential×80, c:radial×160.

 中小型の管孔が放射方向につながる傾向を持って分布する散孔材で,管孔は特に高 密度で,道管の穿孔は単一,道管内壁にはらせん肥厚がみられ,放射組織は異性で3 列くらい,等からアサダの根材であると考えた。

(1φ ナラ類 (〕μεrcμ5 sect. P〃ημ5 Fagaceae

 14, NY−16. a:cross×32, b:tangential×80, c:radial×160.

 大きな複合放射組織と明瞭な環孔性,小さくて角張った晩材の管孔から,コナラ属 のうちコナラ節のコナラ,ミズナラ,カシワ,ナラガシワの何れかであると考えた。

⇔ エノキ属 CθZz 5  Ulmaceae

 15, NY−41. a:cross×32, b:tangential×80, c:radial×160.

 年輪の初めの大管孔から中型の管孔を中心とする管孔の塊が斜上して晩材部に分布 する環孔材で,道管の穿孔は単・一,小道管の内壁にはらせん肥厚があり,放射組織は 異性で多列,時にとても大きくなり,鞘状である,等からエノキ属と同定した。この 標本(NY−41)では層階状配列の傾向が強い。

(21)

i14b

図版47 西八木層出土木材の顕微鏡写真(5) P1.47

(22)

(16・17・18)ハリグワ Cμ4斑η桓〃勧5ガ4α拓(CARR.)BuR. Moraceae  16,stem wood(NY−22).17, stem wood(NY−147).18, stem wood

(No.60249). a:cross×32, b:tangential×80, c:radial×160.

 年輪の初めに大管孔があり,晩材部には中小型の管孔を中心とした管孔の集合体が 明瞭な連合翼状の木部柔組織と共に分布する環孔材で,道管には高密度にチローシス があり,道管の穿孔は単一,小道管にはらせん肥厚がある,放射組織は5細胞幅或は

より広くほぼ同性,木部柔細胞にはしばしば結晶がある,等からハリグワと同定し た。樹齢を経た年輪の狭い部分(17,18)では早材部の大管孔と晩材部の小管孔の集 合体が極めて明瞭なコントラストを示す。17aは薄板状木製品(NY−147)である。

⑲ ヤマグワ Mbτμs 60m6yci∫KolDz. Moraceae  19a. No.60346. cross×32.

 プレパラートが横断面しかないが,年輪初めの大きな管孔が単独或は2個ぐらい複 合する環孔材で,管孔は順次径を減じてゆき,晩材部の小管孔は数個複合して斜めに 配列する,放射組織は数細胞幅であることなどからヤマグワの材と同定した。幹材で あるか根材であるかの区別はできていない。

⑳ マタタビ属 .4cz仇硫α Actinidiaceae

 20,NY−91. a:cross×32, b:tangential×80, c:radial×160.

 薄壁の大型の管孔が年輪の初めにやや間隔をおいて分布し,晩材部では中型の管孔 が散在する環孔材で,道管の穿孔は単一,道管の側壁には開孔部が水平方向に長い壁 孔が密に分布し,放射組織はほぼ同性で単列のものとかなり広くなるものがある,等 からマタタビ属と同定した。

(23)

蕩︑:⁝

s

ぷ︑力・≧券.︐ふ頴梁︑︑獣︑.︑心︑﹂ぷ

灘鰻

PL48

17乱

懇ぶ ︑§渓

20b

西八木層出土木材の顕微鏡写真(6)

図版48

(24)

鋤 ヤマブキ Kε αゴαρo励6α(L)DC. Rosaceae

 21,NY−95. a:cross×32, b:tangential×80, c:radial×160.

 放射方向に突き出る大きな放射組織の間に小さな管孔が少数分布する散孔材で,道 管の穿孔は単一,放射組織は異性で単列と幅広いものとがあることからヤマブキと同 定した。ヤマブキは一一般に地上茎は2年目の秋に枯れてしまい木材の蓄積は起こらな いが,地ぎわ付近の茎の部分は数年は生きる。この標本は茎で半径約8ミリの間に年 輪は15を数えた。手元にある栽培品の根元の茎の対照標本では半径6ミリ余りで6年

である。

⑳サクラ属Pw批5 Rosaceae

 22,NY−121. a:cross×32, b:tangential×80, c:radial×160.

 中小型の管孔が均・一・に分布する散孔材で,道管の穿孔は単一,内壁にらせん肥厚を 持ち,放射組織はやや同性的な異性で幅は3列くらい,道管内がしばしば樹脂様物質 で充墳されていることなどからサクラ属の材と同定した。管孔がやや太めで密度が高 いこと,放射組織が同性的になることから根材ではないかと考えたが確証は得られて

いない。

⑳ ナシ亜科 Pomoideae Rosaceae

 23,NY−29. a:cross×32, b:tangential×80, c:radial×160.

 小管孔が年輪の前半にやや多めに分布する散孔材で,管孔は単独あるいは多少複合 し,壁は薄く丸みを帯びた多角形,道管の穿孔は単一で内壁には微かならせん肥厚が 見えることがある,木部柔組織は散在状で多少接線方向に集まる傾向を持ち,放射組 織はほぼ同性で2ないし3列であることから,バラ科のナシ亜科のうち放射組織が異 性になるカナメモチ属等を除いたものの何れかであると考えられるが,リンゴ,ナシ,

カマツカ等の各属の材は良くにており,区別できてないのでナシ亜科としておく。

(25)

22b

図版49 西八木層出土木材の顕微鏡写真(7)

22e

灘灘

PL49

(26)

㈱ ナナカマド属 So肪μ∫ Rosaceae

 24,NY−43. a:cross×32, b:tangential×80, c:radial×160.

 前者に良く似るが,管孔が丸くやや大きく,しかも極めて均一に分布すること,全 くと言ってよいほど管孔が複合しないことなどからナシ亜科の中から特にナナカマド 属を識別した。

⑳ サイカチ GZθ4izsiα」αρoη56αMIQ. Leguminosae

 25,No.60288. a:cross×32, b:tangential×80, c:radial×160.

 年輪の初めの大管孔から順次小さくなり,晩材部では小管孔の塊が連合翼状の柔組 織と共に厚壁で直径の小さい繊維組織の塊と交互に配列する環孔材で,道管の穿孔は 単一,小道管の内壁にはらせん肥厚があり,放射組織は同性で5細胞幅くらい,きれ いな層階状を示す,等からサィカチと同定した。

⑳ センダン ル観祖α2εη4αrα6んL. Meliaceae

 26,No.60407. a:cro6s×32, b:tangential×80, c:radial×160.

 年輪初めに大型の管孔が並び,晩材部では小管孔が数個集まって周囲状柔組織と共 に文様を作っている環孔材で,道管はしばしば樹脂様物質で充填され,またしばしば 傷害樹脂道を持つ,道管の穿孔は単一で小道管の内壁にはらせん肥厚がある,放射組 織は太った紡錘形で5から8列くらい,同性に近い異性であるなどからセンダンと同

定した。

(27)

図版50 西八木層出土木材の顕微鏡写真(8) PL50

(28)

⑳ ヤマウルシ Rゐμszr励ocαr加MIQ. Anacardiaceae

 27,No.60380. a:cross×32, b:tangential×80, c:radial×160.

 年輪の初めに大管孔があり,そこから順次径を減じ晩材部では周囲状柔組織に取り 囲まれたやや厚壁の小管孔が放射方向に数個複合したものが散在する環孔材で,道管 の穿孔は単一,内壁にはらせん肥厚があり,放射組織は異性で2ないし3列,などか らヤマウルシと同定した。

⑳ サルスベリ属 Lαgεrs〃oθ硫α  Lythraceae

 28,No.60153. a:cross×32, b:tangential×80, c:radial×160.

 中型で,単独あるいは2ないし数個放射方向に複合したやや厚壁の管孔が均一に散 在する散孔材で,年輪はあり,道管の穿孔は単一,道管相互の壁孔は小型で密に交互 状に配列し,木部柔組織は量は多くなく周囲状,放射組織は単列で異性,などからサ ルスベリ属と同定した。これに良く似た材にクロウメモドキ科のナツメ,トウダイグ サ科のシラキ属等がある。何れも中型の管孔と単列の放射組織で特徴づけられている が,前者はやや同性的な放射組織で,後者は単細胞幅の独立帯状柔組織の存在でなん とか区別できる。1985年の調査の中間報告でサルスベリ属の花粉の目だった出土が辻 誠一郎により報告されているが,材は1点にかぎられ,大部分は1948年発掘分である。

⑳ エゴノキ属8zツτ砿  Styracaceae

 29,NY−30. a:cross×32, b:tangential×80, c:radial×160.

 小型の管孔が放射方向に複合しながら放射方向に配列し,晩材部では管孔は更に小 さく,単列で帯状の柔組織が目だつ散孔材で,道管の穿孔は階段状,放射組織は3細 胞幅くらいのはっきりとした異性である,などからエゴノキ属と同定した。

(29)

PL51

麟朧鰹灘灘腰

1版51 西八木層出土木材の顕微鏡写真(9)

(30)

(30・31) ヒトツバタゴ C万oπαη疏μsre似sμ5 LINDL. et PAx.  Oleaceae  30,stem wood(NY−115).31, root wood(NY−112). a:cross×32, b:tan−

gential ×80, c:radial ×160.

 年輪初めに大管孔が一列に並び,晩材部では薄壁多角形の小管孔が多数集合して火 災状の配列を示す環孔材で,道管の穿孔は単一,内壁にはらせん肥厚があり,放射組 織は2列で同性,等からヒトツバタゴの幹材と同定した。根材と同定したものは年輪 幅が狭く,時には年輪初めの大管孔のみからなり,やや広いところでも晩材部の管孔 は中型で丸く幹材とは際だった配列を示すが,放射組織や道管の他の形態は幹材と良 く一致する。また,出土した幹材,根材とも大管孔の直径が対馬から得られた現生種 のそれより100ミクロンも大きいことがあり,現生種とは違うタクソンあるいは系統 のものであった可能性があり,これらのことは別報(NosHIRo and SuzuKI 1987)で 詳しく検討されている。

(32・33) トネリコ属Fプα亘%∫ Oleaceae

 32,root wood(NY−53).33, stem wood(NY−11). a:cross×32, b:tan・

gential ×80, c:radial ×160.

 年輪の初めに大管孔があり,晩材部では単独あるいは数個放射方向に複合した小管 孔が周囲状,あるいは翼状の柔組織と共に散在する環孔材で,管孔の壁は厚く,穿孔 は単一,放射組織は同性で2細胞幅,などからトネリコ属と同定した。根材としたも のは中型から大型の管孔が散在して散孔材的になり,管孔壁は薄くヒトツバタゴ同様 幹材とは際だった顔を持っているが,その他の形質は幹材に良く…致する。

(31)

PL52

彌改∀㌍.恒㌻ぷ

   

  嚥 撒鰍き

         

.織︑醸ゼ︑︑ζ織懸灘

             

輻㌶ぶ

西八木層出土木材の顕微鏡写真(10 図版52

(32)

e4イボタ属Ligμ3Zr物  Oleaceae

 34,NY−14. a:cross×32, b:tangential×80, c:radial×160.

 年輪の初めに僅かに大きい小管孔があり,晩材部では小管孔が均一に分布する散孔 材で,道管の穿孔は単一,放射組織は異性で形の整った紡錘形をしており2列,など からイボタ属と同定した。

飼 ヒイラギ05mαη功⑳んzεγoヵんッ〃μ∫(G.DoN)P. S. GREEN OIeaceae  35,NY−5. a:cross×32, b:tangential×80, c:radial×160.

 角張った小管孔が多数集まって柔組織と共に火炎状に配列する散孔材で,道管の穿 孔は単一,内壁にはらせん肥厚があり,放射組織は2列で異性,などからヒイラギと 同定した。

e() ヒョウタンボク類 Loηicετα  Caprifoliaceae

 36,NY−45. a:cross×32, b:tangential×80, c:radia1×16α

 年輪の初めに僅かに直径の大きい小管孔が並び,晩材部では繊維細胞とたいして大 きさの違わない小管孔が均一に散在する散孔材で,道管の穿孔は単一,放射組織はほ とんど極めて背の高い直立細胞からなる単列放射組織で,2ないし3細胞幅の平伏細 胞の中心部分と単細胞幅の高い翼部を持つ多列放射組織が混じる,などからヒョウタ

ンボク属のうち蔓性のスイカズラなどを除いたものと考えた。

(33)

図版53 西八木層出土木材の顕微鏡写真⑪ PL53

参照

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