はじめに
本邦においては,Canadian Triage and Acuity Scale (以下 CTAS)をもとに開発された Japanese Triage and
Acuity Scale(以下 JTAS)に基づいたトリアージが, 多くの救急外来で行われている 1-3)。現在,発熱を主
訴に Systemic Inflammatory Response Syndrome(以 下 SIRS)診断基準の 2 項目以上を満たす場合,敗血 症が疑われるため JTAS レベル 2(緊急)としての対 応を求められる 3)。しかし,このレベルに判定された 若年の発熱患者が,結果的に上気道感染症などの軽症 と判断されて帰宅することが少なくない。また冬季に は発熱を主訴とする患者が急増することで救急外来は 混雑し,施設によっては上記の JTAS レベル 2 の対 応を順守することが困難である。さらには同じ JTAS レベル 2 のバイタルサインに異常のある症例や脳卒 中,虚血性心疾患といった心血管系疾患等の診療が遅 れかねない。
目 的
発熱を主訴に来院し,SIRS 診断基準 2 項目に該当 する 65 歳未満の症例における,適切な JTAS レベル を検討した。方 法
1)研究のデザインと設定 診療録を用いた単施設の後ろ向き観察研究。当院は 横浜市の北東部に位置し,周辺住民約 50 万人を医療 圏とする救命救急センターである。また病床数は 650 床で,年間の Emergency Room(以下 ER)受診患者 数は約 27,000 人(うち救急車による搬送は約 7,000 人)である。ER での診療は,来院方法によらず,す 【要旨】 目的:JTAS による緊急度判定では,発熱を主訴に SIRS 診断基準の 2 項目以上を満 たす場合は JTAS レベル 2(緊急)に分類されるが,このトリアージレベルが若年者において 適切かどうかを検討する。方法:2014 年 10 月から 2015 年 3 月の 6 カ月間に,当センターに 独歩来院した成人を対象に,65 歳未満の若年群と 65 歳以上の高齢群の 2 群に分けて検討した。 なお JTAS の定める意識,呼吸,循環等が要因でレベル 2 となった症例は除外した。結果: 対象は 236 例で,上気道感染症とインフルエンザウイルス感染症が約半数を占めていた。入院 率は高齢群で 45.3%,若年群で 12.2% と,それぞれ CTAS レベル 2 とレベル 4 の予測入院率 に該当した。また多変量解析による高齢群に対する若年群の入院のオッズ比は 0.18(95%CI: 0.08-0.43)であった。結論:当センターへ冬季に発熱を主訴に来院し,SIRS 2 項目以上を満た す 65 歳以上は従来どおり JTAS レベル 2,また同様の症例で 65 歳未満は JTAS レベル 3 で対 応することが妥当である。 索引用語:トリアージ,JTAS,発熱,SIRS,年齢発熱患者の年齢による
適切な JTAS レベルについての検討
― 65歳未満のSIRS診断基準2項目該当は緊急か?準緊急か?―
大屋 聖郎 柏 健一郎 新庄 貴文 三田 直人 中森 知毅 木下 弘壽 原 著Optimal JTAS level by age for patients with fever; Emergency or Urgency in patients younger than 65 years who have two SIRS Criteria
Seiro OYA, Kenichiro KASHIWA, Takafumi SHINJO, Naoto MITA, Tomoki NAKAMORI, Hirohisa KINOSHITA Department of Emergency and Critical Care Medicine,
Yokohama Rosai Hospital 横浜労災病院救命救急センター
結 果
対象となった症例は 236 例であった。患者基本特性 を表 2 に示す。対象症例全体の年齢(中央値)は 42 歳,男性 121 例(51.3%)であった。SIRS 項目に関す るそれぞれの中央値は,体温は 38.8℃,呼吸数は 18 回 / 分,心拍数は 110 回 / 分であった。診察開始時間 の中央値は 12 分であった。上気道感染症とインフル エンザウイルス感染症の診断が全体の約半数を占めて おり,敗血症はわずか 4 例(1.7%)であった。また入 院率は 21.2%で,CTAS レベル 2 の予測入院率(40 〜 70%)と比較して明らかに低く,CTAS レベル 3 の予 測入院率(20 〜 40%)に該当していた。また入院中 に死亡したのは 236 例中わずか 1 例であった。 次に若年群 172 例と高齢群 64 例の比較を表 3 に示 す。SIRS 項目を含むバイタルサインについては,統計 学的有意差はあるものの,2 群間の数値の差は日常診 療においては誤差としても扱われる範囲であることか ら,それぞれの臨床的な意義は低いと考えられた。診 察開始時間の中央値については,65 歳未満の若年群は 12 分,65 歳以上の高齢群は 11 分と,いずれも CTAS 導入当時に定められた 15 分以内の基準を順守されて いた。敗血症であった 4 例(1.7%)に関しては,3 例 べての患者(独歩来院患者を含む)の初療を救急医が 担当する北米型 ER 方式で,ER からの入院患者数は 全入院患者数の約 30% を占める。救急専従医は約 15 人で,そのうち約 10 人が救急専門医の資格を有する。 また救急所属の看護師は約 40 人で,トリアージナー スの条件は ER での臨床経験 3 年以上を必須としてい るが,多くのトリアージナースが JTAS プロバイダー コースを受講している。 2)対 象 2014 年 10 月から 2015 年 3 月(6 カ月間)に,発熱 を主訴に当センターを独歩来院した成人(15 歳以上) で,SIRS 診断基準の 2 項目以上に該当するために JTAS レベル 2 となった症例。 3)除 外 JTAS の定める,意識障害(中等度),中程度呼吸 障害,循環動態不安定,点状出血斑,免疫不全および 疼痛が要因で 3),JTAS レベル 2 となった症例。 4)調査項目 年齢,性別,バイタルサイン,診療開始時間,最終 診断,抗菌薬投与の有無。 5)アウトカム 入院 6)統計の手法 CTAS 導入当時に定められていた,表 1 に示すトリ アージレベルごとの診察開始時間と予測入院率をもと に 1, 2),65 歳未満(若年群)と 65 歳以上(高齢群)の 2 群を比較検討した。単変量解析においては,連続変 数 は Student's t test と Mann-Whitney U test を, ま た 2 値変数はχ 2 test と Fisher's exact test を適切に用いた。また多変量解析においては,ロジスティック 回帰分析を用い,解析には EZR(Easy R,自治医科 大学附属さいたま医療センター)を使用し,p<0.05 を 統計学的有意とした。 表 1 CTAS レベルによる診察開始時間と予測入院率の関係 CTAS 診察開始時間 予測入院率 レベル 1(蘇生) 直ちに 70 〜 90% レベル 2(緊急) 15 分以内 40 〜 70% レベル 3(準緊急) 30 分以内 20 〜 40% レベル 4(低緊急) 60 分以内 10 〜 20% レベル 5(非緊急) 120 分以内 0 〜 10% CTAS:Canadian Triage and Acuity Scale
表 2 患者基本特性 発熱あり,SIRS 2 項目に該当し,JTAS レベル 2 となった症例 n=236 年齢,中央値(IQR),歳 42(30-66) 男性(%) 121(51.3) バイタルサイン 体温,中央値(IQR),度 38.8(38.3-39.3) 呼吸数,中央値(IQR),回 / 分 18(16-20) SpO2,中央値(IQR),% 97(96-98) 心拍数,中央値(IQR),回 / 分 110(103-120) SBP,中央値(IQR),mmHg 129(115-142) 意識障害(%) 4(1.7) 診察開始 , 中央値(IQR),分 12(5-22) 診断 上気道感染症(%) 59(25.0) 肺炎(%) 18(7.6) 尿路感染症(%) 19(8.1) 胃腸炎(%) 29(12.3) 敗血症(重症敗血症)(%) 4(1.7) インフルエンザウイルス(%) 61(25.8) その他(%) 46(19.5) 抗菌薬の使用(%) 74(31.4) 入院(%) 50(21.2) 死亡(%) 1(0.4)
が若年群で 1 例が高齢群であったが,すべての症例で 15 分以内に診察が開始され,死亡例はなかった。また 236 例中 1 例の死亡例は高齢群であった。入院率に関 しては,若年群は 12.2% と低値であったのに対し,高 齢群は 45.3% と高値で,これらはそれぞれ CTAS レベ ル 4 の予測入院率(10 〜 20%)と CTAS レベル 2 の 予測入院率(40 〜 70%)に該当していた。 さらに年齢,性別,バイタルサイン,診察開始時間 を説明変数として行ったロジスティック回帰分析で は,表 4 に示すとおり高齢群に対する若年群の入院の オッズ比は 0.18(95%CI:0.08-0.43)と低値であった。
考 察
JTAS は, カ ナ ダ の ト リ ア ー ジ シ ス テ ム で あ る CTAS をもとに,2012 年に日本臨床救急医学会,日 本救急看護学会,日本救急医学会,日本小児救急医学 会の 4 学会により考案された 3)。これにより,多くの 救急対応を行う病院において,JTAS による緊急度判 定が導入され,多数の患者を効率よく診療することが 可能となった。CTAS をもととするトリアージをカ ナダ国外で最初に導入した国は台湾で,日本は台湾に 続いて 2 番目となったが,現在では世界の多数の国で 用いられ,一定の評価を得ている。 JTAS による緊急度判定の手順は,まず 15 歳を境 に小児と成人に区分し,次に 17 のカテゴリー(神経, 呼吸器など)に分類された 165 の症状(頭痛,息切れ など)から,5 段階の緊急度が選択される。さらにそ の判定は,意識や呼吸などの補足因子によって修正さ れ,最終的に決定された JTAS レベルによって,異 なる対応が求められる 3, 4)。 敗血症を疑う症例は,トリアージナースが全身状態 良好と判断してトリアージレベルを下げることも可能 とはされるが,客観性に乏しいことから,一般には JTAS レベル 2 に分類され,脳卒中や虚血性心疾患な どの循環障害も同じレベルでの対応が求められる。ま た多数の患者が同じレベルに振り分けられた際の JTAS の考え方は,より緊急度の高い症例から優先し て診療を開始することとされ,もし救急外来が混雑す るのであれば,JTAS によるトリアージレベルではな く,病院のシステムを改善する必要があるとしてい る3)。 しかしながら,ある JTAS レベルのなかに,緊急 度や重症度がそのレベルに不適切な疾患群が存在する のであれば,適切なレベルに置換することでより円滑 な救急医療体制を構築することが可能となる。とく に,発熱を主訴に来院される症例では,上気道感染症 やインフルエンザウイルス感染症などの軽症例でも SIRS 診断基準の 2 項目を満たすために,敗血症でな いにもかかわらず同様の対応が求められることが指摘 されていた 5-7)。今回の結果でも,上気道感染症とイ ンフルエンザウイルス感染症の診断が全体の約半数を 占めており,敗血症はわずか 4 例(1.7%)であった。 また全体の入院率は 21.2% と,CTAS の定める予測 入院率(40% から 70%)と比較して明らかに低いこ 表 3 若年群と高齢群の比較 若年群 (65 歳未満) n=172 高齢群 (65 歳以上) n=64 p-value 年齢,中央値(IQR),歳 35(27-46) 76(69-83) <0.001 男性(%) 88(51.2) 33(51.6) 1 バイタルサイン 体温,中央値(IQR),度 38.9(38.4-39.4) 38.6(38.2-38.9) 0.004 呼吸数,中央値(IQR),回 / 分 18(16-20) 19(18-22) 0.003 SpO2,中央値(IQR),% 97(96-98) 96(95-97) <0.001 心拍数,中央値(IQR),回 / 分 112(105-122) 107(100-115) 0.002 SBP,中央値(IQR),mmHg 129(114-140) 133(120-153) 0.02 意識障害(%) 1(0.6) 3(4.7) − 診察開始,中央値(IQR),分 12(5-26) 11(6-20) 0.84 入院(%) 21(12.2) 29(45.3) <0.001 IQR:interquartile range,SBP:systolic blood pressure表 4 年齢(65 歳未満 vs 65 歳以上) と入院の関係 入院のオッズ比(95% 信頼区間) p-value 年齢
65 歳以上 1(Reference)
とと,現行の CTAS における発熱患者のレベル分け では,SIRS 3 項目該当例はレベル 2 であるが,SIRS 2 項目該当のみではレベル 3 もしくはレベル 4 に分類 されていることを加味すると,この群におけるトリ アージレベルは再考する余地があると考えられた。 そこで今回,65 歳という年齢を境に 2 群に分類し て行った研究では,高齢群の入院率は 45.3% と高値で あった。65 歳以上の高齢者に対しては,CTAS によ るトリアージが救命処置の必要性を判断する際にも有 用との報告があり 8),現行のトリアージ方式を継続す る場合,SIRS 2 項目に該当する高齢群は,従来どお り JTAS レベル 2 として対応することが妥当と考え られた。一方で若年群 172 例においては,多変量解析 で得られた高齢群に対する入院のオッズ比は 0.18 と 低く,また入院率も 12.2% と CTAS の予測入院率と 比較して明らかに低いことから,入院率すなわち重症 度の観点からは,JTAS レベル 2 ではなく JTAS レベ ル 3,もしくは 4 として対応するのが妥当とも考えら れた。 一方,緊急度という観点からは,JTAS レベル 2 か らレベル 3 となれば,診察開始時間が遅れ,病状が進 行して重篤化する症例が存在することが懸念される。 今回対象となった 236 例のなかで結果的に敗血症で あった 4 例(1.7%)に関しては,すべての症例で 15 分以内に診察が開始され,死亡例はなかった。これら の症例で仮に診察開始時間が遅延した場合,不幸な転 帰をたどる症例が存在することを否定はできない。 しかし,そもそも救急の現場において,常に最良の 医療を提供することは困難で,現実的な範囲で最善の 医療を提供するためにトリアージが導入されている。 回転性めまいを主訴に独歩で来院された場合,理想的 には直ちに診察を開始することが望まれるが,JTAS によるトリアージではバイタルサインや神経症状を認 めない限り,JTAS レベル 3 での対応となり,また結 果的に脳梗塞の診断に至る症例も少なからず存在す る。同様に,今回の結果から 1.7% の敗血症患者は存 在したが,残り 98.3% の敗血症でない発熱患者を JTAS レベル 2 として対応することは,ほかにもバイ タルサインの異常がある心血管系疾患が同じ JTAS レ ベル 2 に分類されることを鑑みると 3),最善とは言い 難い。以上より,発熱を主訴に来院され,SIRS 診断 基準の 2 項目に該当する 65 歳未満の若年群では,意 識, 呼 吸, 循 環 な ど の 要 因 に 影 響 さ れ な い 限 り, JTAS レベル 2 ではなく JTAS レベル 3 として対応す る,すなわち「65 歳未満」を一つの新しいトリアージ レベルを下げる補足因子とする,もしくは SIRS 診断 基準に関しては,2 項目に該当する 65 歳以上はレベル 2,また 3 項目に該当するものは年齢によらず,すべ てレベル 2 とする方式へ変更することが妥当と考えら れる。 敗血症における SIRS 基準に関して,Kaukonen ら による研究 9)では,SIRS 項目の該当が 1 項目ずつ上 昇するのに比例して死亡率が上昇しており,それぞれ の項目数の間に明らかな隔たりが存在しないことか ら,SIRS2 項目に該当するか否かを敗血症の目安とす ることに疑問が投げかけられた。また最近では,米国 集中治療医学会,欧州集中治療学会の専門家による The Sepsis Definitions Task Force により,敗血症の 定義自体が変更され,quick Sequential Organ Failure Assessment(以下 qSOFA)や Sequential Organ Failure Assessment(以下 SOFA)スコアを用いた基準に変更 された 10-12)。これにより SIRS 項目は今後の敗血症診 療において意義が低くなることが予想され,JTAS に よる緊急度判定システムも見直される可能性がある。 しかしながら,今回の結果で得られた発熱患者の緊急 度判定に 65 歳という条件を一つの補足因子として使 用する考え方は,今後新たな緊急度判定システムが導 入された際にも一翼を担うと考えられる。 本研究においてはいくつかの限界がある。まず診療 録を用いた後方視的検討で,欠損値等のある症例等は 除外されたことから,対象群にバイアスがある可能性 がある。また単施設研究としての偏りも否定はできな い。次に,多変量解析を用いて算出した結果について も,偶然の交絡の調整が十分ではない可能性が残る。 このため,今後は多施設共同での前向き研究が望まれ る。
結 論
当院のような ER 型救命救急センターにおいて,冬 季に発熱を主訴に独歩来院され,SIRS 診断基準の 2 項 目以上を満たす 65 歳以上の症例は,従来どおり JTAS レベル 2(緊急)として,また同様の症例で 65 歳未満は, JTAS レベル 2 の定める意識,呼吸,循環等のバイタ ルサインの異常が要因とならない限り,JTAS レベル 3(準緊急)として対応することが妥当と考えられる。 なお,本研究における利益相反はない。Sepsis Occurrence in Acutely Ill Patients (SOAP) study. Intensive Care Med 2006; 32: 421-7.
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12) Seymour CW, Coopersmith CM, Deutschman CS, et al: Application of a framework to assess the usefulness of alternative sepsis criteria. Crit Care Med 2016 ; 44 : e122-e30.
文 献
1) Beveridge R, Clark B, Janes L, et al: Canadian Emergency Department Triage and Acuity Scale: implementation guidelines. CJEM 1999; 1(suppl): S2-28.
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3) 日本救急医学会, 日本救急看護学会, 日本小児救急医学会, 日本臨床救急医学会: 緊急度判定支援システム JTAS2012 ガイドブック. へるす出版, 東京, 2012. 4) 日本救急医学会, 日本救急看護学会, 日本臨床救急医学会: 緊急度判定支援システム CTAS2008 日本語版/JTASプロ トタイプ. へるす出版, 東京, 2010.
5) Vincent JL, Opal SM, Marshall JC, et al: Sepsis definitions: time for change. Lancet 2013; 381: 774-5.
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