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第3回 情報化社会と経済学 その3

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Academic year: 2021

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第 11 回

AI(人工知能)と産業・雇用

1、2010 年代の IT=AI 投資と産業

(1) 2010 年代の IT:IoT、ビッグデータ、AI コンピュータだけでなく多数の端末がネットワークに接続することによって、 モノがつながったネットワーク(IoT:Internet of Things)を通じて集積され る膨大な情報=ビッグデータを、リアルタイムで集積・解析し、判断の高度化 や自動制御することが求められており、AI(Artificial Intelligence:人工知 能)が欠かせない技術となって いる。 特に2010 年代になって、コン ピュータ自身が学習することに よって抽出していくディープラ ーニング(深層学習)の手法に よって、機械=コンピュータが さらに自律的に処理を行える可 能性が高まり、現在の第3 次 AI ブームにつながっている1(補論 参照)

1 例えば Google 傘下の企業が開発した「アルファ碁」(AlphaGo、Google DeepMind 社によっ

て開発された囲碁プログラム)は過去の膨大な対局の記録のデータを学習するだけでなく、自ら も対局を繰り返すことによって勝敗を分ける要素を見つけ出すことを学習していったと言われ ている。またヒューマノイドロボットのPepper も人間の表情・音声から感情を認識する学習す るだけでなく、Pepper たちがネットワークを通じて AI に接続されており(クラウド・コンピ ューティング)、それぞれのPepper 個体が収集したデータをアップロードして学習して、それ らを集合知として利用する事で加速度的に成長・進化していくという仕組みを持っている。

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(2)各産業での AI の活用(AI 投資)の進展 インターネット(Web1.0)から Web2.0 やクラウド・コンピューティングへ のネットワークの進化によって情報通信産業のビジネスの中心はハードウェア やソフトウェア、そしてネットワークそのものではなく、これらを活用してど のようなサービス(広告や販売)を消費者に提供するのかに比重が移ってきた。 さらに IoT(モノのインターネット)によって膨大な情報=ビッグデータを集 積・解析し、これらのサービスに提供するために情報通信産業だけでなく、あ らゆる産業にとって AI の活用が欠かせなくなっている。 例えば政府や日本銀行からは経済統計以外にも連日のように膨大なテキスト 情報が公表されているが、これらのテキスト情報を AI が解読して定量化してエ コノミストが景況判断を行う際のサポートに使うことが可能になる。また医療 分野においても画像認識の精度が飛躍的に向上したことで、膨大な画像情報を ディープラーニングに読み込ませることによって患者の様態を診断することが 可能になっている2。スマートフォンからのユーザ情報をもとに AI がファッショ ンセンスを学習し、電子商取引のサイトを通じてコーディネートを提案するよ うなサービスも始まっている3 2 米サンフランシスコ発の Enlitic 社は CT スキャンや MRI、顕微鏡写真、レントゲン写真など あらゆる画像をディープラーニングに読み込ませ、ガン腫瘍の特性を解析。解析結果と遺伝子情 報とを組み合わせることで、人間よりも精度が高く短時間に診断をすることができるようになっ た。 3 東京のベンチャー企業カラフル・ボード社はスマホアプリ SENSY を通じて集められた情報か らユーザがどんな服を選んでいるたかのデータを蓄積、AI がユーザの服のセンスを学習して国 内外の電子商取引サイトからユーザの好みに合うアイテムを紹介する仕組みを構築している。

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AI を中心としたIT 技術の導入が急速に進んでいるのが金融分野である。既に 大手銀行では前述のワトソンを導入して業務効率化などを図っている4。また、 AI が力を発揮するのはインターネットに代表される開放的なネットワークであ る。スマートフォンなどの端末からネットワークを通じて収集される企業や顧 客の膨大なデータ(企業情報、売上情報、顧客の決済情報や嗜好、市場の変化 やインフレ進行時の対応方法)を AI で分析することによって融資の判断や資産 運用、保険などのサービスを利用者(企業や顧客)に提供するがフィンテック (Fintech)がIT 企業中心に世界的規模で進んでおり5、銀行を中心とした金融 サービスのビジネスモデルが大きな変革を迫られている。 そして、AI の産業化を象徴しているのが自動運転車であろう。Google はレー ダー、LIDAR(レーザー画像検出と測距)、GPS(衛星測位システム)、カメラ などで道路状況など周囲の環境を認識しながら、行き先を指定するだけで自律 的に運転を学習するAI を搭載した「自動運転車」が人間に代わって走行する「グ ーグルカー」を開発中である。もちろんトヨタ自動車(2020 年をめどに高速道 路で車線変更が可能な自動運転車を市場投入)、日産自動車(2016 年に高速道 路での同一車線自動走行、2020 年に市街地走行を目指す)、ドイツの VW グル ープやスウェーデンのボルボ社など既存の自動車産業も自動運転車の開発に取 り組んでいる。この自動運転車の登場はIT 企業がものづくり産業の象徴とも言 える自動車産業に進出しているだけでなく、自動車産業のビジネスモデルを大 きく変革するものである。 4 みずほ銀行や三井住友銀行がワトソンを導入してコールセンターに利用者からかかってきた 電話を音声認識技術によって解析、相談や問い合わせ内容をテキスト化し、データを解析するこ とによってオペレータに回答候補を示している。また野村証券は、ディープラーニング(深層学 習)を活用し「売り上げが戻っている」など、約20万件に及ぶ企業の景況感に関するテキスト 情報をコンピュータに読み込ませ文章と景気認識の関係を覚えさせた。内閣府が毎月発表する月 例経済報告や日銀の金融経済月報などを解析。資料に込められた政府や日銀の景況感を独自に数 値で示している。 5 米国の IT 企業スクエアは、スマホやタブレットのイヤホンジャックに小型機器を装着するこ とで、クレジットカード決済を可能にするだけでなく、端末から収集される顧客データを分析し て融資や資産運用の提案を顧客に対して行っている。資産運用に関しては利用者の運用目的やリ スク許容度に合ったポートフォリオを組んで運用をアドバイスする「ロボ・アドバイザー」のサ ービスの導入が大手金融機関でも進んでいる。

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2、AI と雇用、労働市場の「二極化」とベーシックインカム

(1)AI による労働の代替 AI の産業分野への導入・活用は産業構造自体にも大きな変革をもたらすもの であるが、直接的には雇用に大きな影響を与える。特にホワイトカラー層=中 間層が行っていた仕事を代替するものである。 1990 年代に入ってアメリカではコンピュータやインターネットなどの IT 投 資=情報化投資が増え、その結果アメリカ経済は2000 年に至るまで長期の景気 拡張を、低い失業率とインフレ率で達成した。また日本でも1990 年代交換から IT 投資が増加した。特に IT 投資=情報化投資を中心とした設備投資が、需要の 側面から景気拡大に貢献しただけでなく、供給の面(サプライサイド)を活性 化させ、労働の生産性を高め長期的な景気拡大を生み出したと言われる。サー ビス部門の中でも情報産業の分野、IT=コンピュータとインターネットが他の 生産活動に与える影響=労働生産性の上昇が注目された。(第 4 回~第 6 回参照) 一方で1990 年代以降の IT 化は従来の工場における機械の導入によるブルー カラーが行っていた労働の代替ではなく、オフィスにコンピュータやインター ネットが導入されることによってホワイトカラー層の主に単純労働を代替して きた。AI はさらにホワイトカラー層の知識や熟練、さらに判断を代替すること によってホワイトカラー層全体の代替=リストラを進めるものである。オックス フォード大学の研究によると莫大な量のデータをコンピュータが処理できるよ うになった結果、非ルーチン作業だと思われていた仕事をルーチン化すること が可能になり、銀行や保険・不動産の業務や医療診断、法律分野6の仕事などが コンピュータに代わられ る確率は 90%以上という 数字が弾きだされている7 6 法律の分野でも、裁判前のリサーチのために数千件の弁論趣意書や判例を精査するコンピュー タがすでに活用されており、(中略)弁護士アシスタントであるパラリーガルや、契約書専門、 特許専門の弁護士の仕事は、すでに高度なコンピュータによって行われるようになっているとい う(http://gendai.ismedia.jp/articles/-/40925 参照)。 7 株式会社野村総合研究所オックスフォード大学のとの共同研究により、国内 601 種類の職業 について、それぞれ人工知能やロボット等で代替される確率を試算し、10~20 年後に、日本の 労働人口の約49%が就いている職業において、それらに代替することが可能との推計結果が発 表している(https://www.nri.com/jp/news/2015/151202_1.aspx 参照)。また経済産業省は 2016 年4 月 27 日、人工知能(AI)やロボットなど技術革新をうまく取り込まなければ、2030 年 度には日本で働く人が15 年度より 735 万人減るとの試算を発表している

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米国経済の成長が続いた1990 年代にマサチュー セッツ工科大学のエリック・ブリニョルフソン教授 (Erik Brynjolfsson, 1962-)とロリン・ヒット (Lorin Hitt)が 1996 年に発表した論文では、米 国大企業370 社の IT 投資と財務データの分析の結 果、IT 投資が生産性を上昇させ、高い収益率をも たらしていることが明らかにした。 ブリニョルフソンに代表されるニュー・エコノミー論の考え方によればIT 投 資(情報化投資)の拡大が労働生産性(一人当たり労働者の生産高)を高める ので、生産量の拡大ほどには雇用量を増大させないことになる。そこで景気拡 大が賃金上昇圧力やインフレ率の増加に結びつかず、企業の収益は増加する。 企業はその収益の中からまた設備投資=IT 投資を拡大し、景気拡大は長期的に 持続することになる。ニュー・エコノミー論は景気循環(景気拡大)に技術進 歩=IT(情報通信技術)の革新という要因を組み込み、経済成長の理論(一方 で雇用と失業の理論)へと発展させた意義は大きい。そして1990 年代のアメリ カの景気拡大の現象を一定の側面で説明しうるものであった。 米国経済は2000 年代以降、IT バブルの崩壊やリーマンショック(2008 年 9 月)を経て以降、景気が回復基調にあるにもかかわらず、失業率は依然として 高い数値のままである。またリーマンショック以降での米国での不定期・非正 規労働者の比率が増加している。特にリーマンショック以降、広義の失業率 (U-6:周辺労働力と非正規労働力を追加)と教義の失業率(U-3:通常の失業 率)の乖離が拡大している。

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ニュー・エコノミー論の論客でもあるブリニョルフソン教 授 も 現 在 で は ア ン ド リ ュ ー ・ マ カ フ ィ ー 教 授 (Andrew MaCfee1967-)との共著『機械との競争』8で「技術進歩が速 すぎる」ことが失業問題を引き起こしているとして、テクノ ロジーが人間のスキルや賃金や雇用に与えるインパクトにも っと注意を払わなければならない」と主張している。 また、マカフィー教授は飛躍的に向上するコンピュータなどの機械が知力をも ち、それを飛躍的に向上させることによって、生きた 人間の肉体労働だけでなく、知力を使う仕事も次第に 機械が担うようになっており、米国で長引く不況の背 景には、景気循環やグローバル化以外に、IT 革命の影 響によってコンピュータの発達が中間層の仕事を奪 っていることを主張している9 一方、当然ながら AI 開発を中心とした情報通信産業の成長と併せてこの分野 の雇用は拡大する。また、AI が処理した判断を決定し実行するのは人間の役割 であるが、そのためには一定の AI に関する知識が求められる。また AI による 生産性の上昇が経済成長につながれば雇用全体が拡大する可能性はある。

8 Erik Brynjolfsson and Andrew McAfee, (2011) “Race Against The Machine: How the

Digital Revolution is Accelerating Innovation, Driving Productivity, and Irreversibly Transforming Employment and the Economy” (邦訳、村井章子訳『機械との競争』、日 経BP 社)

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(2)AI による「定型業務」の解体と労働市場の「二極化」 米マサチューセッツ工科大学(MIT)のデービッド・ オーター教授(David Autor,1967-)は AI も含めた現代 のIT 技術による自動化の主な効果は、ブルーカラーの 仕事を破滅させることではなく、定型化が可能なすべ ての仕事を台無しにすることだと指摘している10。その 結果、労働市場の「二局化(Polarization)」が生じ、 世界中で高学歴の人や未熟練労働者に対する需要は高 まったが、中間レベルの教育やスキルの人への需要が低下したことが明らかに した11。中間スキル層の職が減るに伴い、この層の労働者が未熟練向けの職に流 れ込んだことを指摘。その結果、未熟練向けの職は買い手市場となり、賃金に 低下圧力がかかったとしている。 日本においても、数値のみを扱っている職種はAI による代替性が高く、今後、 「特化型AI」普及により経理関係者(会計士等)、金融業(トレイダー、証券ア ナリスト等)は技術的失業が加速する可能性がある。金融業に関しては顧客が 直接AI を導入すれば、業種としての存在意義も問われることにもなる。

10 Autor, David, Frank Levy and Richard J. Murnane (2003) “The Skill Content of Recent

Technological Change: An Empirical Exploration“ Quarterly Journal of Economics, 118(4), 1279-1333. 参照。

11 「高スキル」「低スキル」の二分法ではなく、業務の内容を定型的(Routine)か非定型的

(Non-routine)か、知的業務か身体的業務かなどの観点から 5 タイプに分類した。5 タイプと

は、非定型分析業務(Non-routine Analytic tasks)、非定型相互業務(Non-routine Interactive

tasks)、定型認識業務(Routine Cognitive tasks)、定型手仕事業務(Routine Manual tasks)、 非定型手仕事業務(Non-routine Manual tasks)である。

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(3)AI による技術的失業、ベーシックインカムの可能性 日本においても今後 AI 投資が進んでいけば(特に現在、人手不足と言われな がらもデフレ基調から完全に脱却していない状況において、人口減少のスピー ドを AI による効率化のスピードが上回れば)、労働の供給過剰、深刻な技術的 失業の増大に直面することが予想される。 そこで考えられる経済政策として、AI の普及に伴う労働者の所得を保証する 制度としてベーシックインカム(Basic Income)の導入が考えられる。ベーシ ックインカム(は収入水準に拠らずに全ての人に無条件に、最低限の生活費を 一律に給付することものであり、「(普遍主義的)社会保障的制度としての側面」 の他に「国民配当としての側面」も持つ。 AI 発達により多くの労働者が雇用を喪失し収入源を絶たれる人が増加すれば、 現状の制度では生活保護の適用対象を拡大しなければならなくなるが、生活保 護からベーシックインカムへの転換も一つの方策であろう。ただし、これは用 AI の普及による生産性の向上、税収の増加も前提としたものでもあり、議論必 要とされる。

参照

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