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第7章 PFI をめぐる公共領域の形成と深化

本 章 で は 、 行 政 と 民 間 企 業 と の パ ー ト ナ ー シ ッ プ の 代 表 例 と し て PFI(Private Finance Initiative)をとりあげ、公共領域の形成と深化の過程について論じること とする。

第1節 本研究の問題意識と仮説設定

第1項 PPPおよび PFIに関するこれまでの研究アプローチ

PPP(Public Private Partnership)は、多義的な概念である。一般的には、国や 自治体などの公共(public)と民間(private)、とくに企業が役割分担をしながら、

社会資本の整備や公共サービスの充実を図ることを実現する概念であり、実現にむ けた手法をも含む用語である。国内では、「PPP」という用語のまま使用される例も 多い一方で175、「公民連携」176 と訳されることも一般的である177

国内におけるPPPに関する文献(著書)をサーベイすると、内容的には、公共サ ービスの提供主体が、「市場のなかで競争」していく仕組みへと転換を図り、コスト が安くて最も効率よく、質の高い公共サービスを提供するという点を強調すること が多い。基本的な論調としては、「公共サービスの民間開放」による経済の活性化、

ならびに「官から民へ」および「民間でできるものは民間へ」という行政部門のリ ストラクチャリングの強調である。行財政改革が国と地方を通じて行われてきてお

り、NPM論の効率性重視の概念が改革路線に整合的であると解されたことが底流に

ある。NPM論は、民間における経営理念と手法を行政に導入することで、行政部門 の効率化と活性化を図ることをめざし、行政実務を基礎に形成されてきた178。 執筆者は、実務家、シンクタンクや業界紙(建設業界の新聞社など)が主流とな っている。執筆アプローチは、「プロジェクトを実務的にどのように進めていくか」

という観点から、体系的に整理され、技術的側面を重視して記述されることが多い ように思われる179 , 180

175 た とえば、杉 田(他)(2002)、日本政策 投資銀行地 域企画チー ム(2004)、野田 由美子 (2004)、 宮 脇(他) (2005)、 日 本 都 市 セ ン タ ー(2005)、 東 北 産 業 活 性 化 セ ン タ ー(2005)。

176 た とえば 、出井(2002)、斎藤(2005)、根本(2006a)、東洋大学 経済学 研究科編著(2006)、

中井(2007)。

177 「 公民パート ナーシップ 」(立 岡(編), 2006)と訳 している文 献もみられ る。

178 な お、NPM自体について も確定した 定義はない 。大住によ れば、英国 やニュージ ーラ ンドの改革 を素材にし て、①業績 と成果によ る統制、②市場メカニ ズムの活用 、③ 顧客 主義、④組 織のフラッ ト化、が共 通項として 抽出された とする(大住, 2003, p.iv)。

179 な お、本論文 では基本的 に経済学か らの考察は 行わないが 、たとえば 中井(2007)

は、 財政学の立 場より、地 方財政シス テムの類似 化を試みて 、NPOやコ ミュニティ な ど私 的プロバイ ダーの役割 を考察する 。

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本 章 で と り あ げ るPPPの 一 部 に 位 置 づ け ら れ るPFIを 例 に 、 国 内 の 著 書 文 献 を み ると、ほとんどが実務的な概説書である181。具体的な内容は、①PFIプロジェクト の手続に注目し、事業としての選定や事業者審査の実施プロセスを解説したもの、

② 資 金 調 達 や 法 務 な ど の 、PFI特 有 の 専 門 的 で 技 術 的 な 側 面 に 注 目 し て ノ ウ ハ ウ を 中心に詳述したもの、③通信事業や水道事業などの個別政策分野への導入方法を示 し た も の 、 に 大 別 で き る 。PFIが 特 に 英 国 の 制 度 を 日 本 国 内 に 導 入 し た も の で あ る ことから、海外の事例紹介も多い182。このほか、PFIを導入することに対して警鐘 を発し、第 3セクター方式などの従来型の事業手法との比較などを通じて、客観的 に論じようとする文献もみられる183。ただこれらも、基本的には、実務書の延長上 に位置づけられる内容をもっている。

一方、上記のような国内におけるPPPについての研究展開は、国外、特に欧米と は方向性が微妙に異なっている184。国外では、かならずしも公共部門の運営あるい は経営の効率化を図るというNPM論的基礎、すなわち①公共部門のスリム化、なら びに、②公共サービスの効率化と質の追求、の2つの柱のみからPPPを構成し ているわけではないからである185

180 な お、直接PPPに ついて 論じたわけ ではないも のの、「そも そも自治体 行政は市民 から のアウトソ ーシングで ある」とい う大前提か ら、近時議 論されてい る、PFIを 含め たさ まざまな手 法を再構成 するものと して今井(2006)があ る。今井に よれば、自 治 体行 政のアウト ソーシング の構図とし ては、①廃 止、②民営 化、③法人 化、④包括 的委 託 、⑤業務委託 、⑥直営(職員制度の 多様化)がある。PFIに つ いては 、エージェ ンシ ー化 とともに、 ③に含まれ るとする( 今井, 2006, p.27-28, p31-33)。

181 た とえば、石黒(他)(1998)、日本開発銀 行PFI研究 会(1998)、井熊(1999b, 2003, 2005)、

大内(1999)、山 内(1999)、有岡(他)(2001)、日刊建設 工業新聞社(2003)、野 田(2003)、

山内(他)(2003)、柏木(他)(2004)、PFI事 業 研究会(2004)、内藤(他)(2006)、植田(2006)。

182 た とえば英国 の事例につ き、英国建 設産業協議 会編(翻訳書)(1998)、福 島(1999)、

森下(他)(2001)、森下(2005)。

183 た とえば、建 設政策研究 所(2002)、宮木(2002)、山口(2006)。山口は、運 営におい ての 意思決定が 公的機関の 政策運営に 与える影響 を重視し、PFIの意義 と限界につ いて 論じ ている。

184 以 上の分析は 公刊された 著書をもと に整理した ものである 。国内の論 者のなかに は、

PPPを 競 争的原 理に加え「協働 」概念 とからめて 把握する者 もいる。山本清は、ガバナ ンス 概念を考察 するに当た って、欧米 のNPM論の 動向をもと に、伝統的 行政管理を 出 発点 として、市場原理や企 業経営的発 想に加え 、政府と市民 との「協働 」に配慮し た「 ネ ット ワーク的経 営」の視点 を取り入れ た独自の考 え方を整理 している( 山本, 2002a, p.117-120; この ほか後述す るNew Public Service概念との関係 を整理した ものとして 2002b, 2002c, 2002d, 2002eを参照 )。た だ、山本の ように、国 内で協働概 念を理論的 に精 緻に整理しPPPへ 導入 した文献は 、比較的少 数ではない かと思われ る。

185 稲 沢によれば 、英国の行 財政改革手 法としては 、①公共部 門のスリム 化には、中 央 政府 では、民営 化とエージ ェンシー化 、地方政府 では、強制 競争入札(CCT: Compulsory Competitive Tendering)、中央 と地方共 通の仕組み としてはPFIが ある。 ②公共サー ビ スの 効率化と質 の追求には 、中央政府 では、CSR(Comprehensive Spending Review, 包 括 的 歳 出 見 直 し)、OPA(Output and Performance Analysis, ア ウ ト プ ッ ト 業 績 分 析)、

PSA(Public Service Agreements, 公共 サービス合 意)、地方政 府では、強 制競争入札 と ベス トバリュー、中央と地 方共通の仕 組みとして は市民憲章 がある(稲沢, 2002, p.235)。

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まず実務面をみると、英国の前首相ブレア政権時代の経験にみられるように、行 政サービスの提供を受ける民間セクターの側に一定の責務を求めている。1998年に ブレア前首相が発表した「第 3 の道-新しい世紀の新しい政治(The Third Way:

New Politics for the New Century)」(Blair, 1998=1999)では、繁栄する市民社 会と、家族や市民機構を構成要素として強調している。とくに、強固な市民社会の 基礎として、権利だけでなく「責任」をあげ、「自覚的」な市民による「自律的」な 社会づくりを求めている。また、政府との間ではパートナーシップと分権化の重視 を打ち出している。この点は、政府と民主主義との関係に焦点をあてたものであり、

議会制民主主義を基礎に市民が政策の意思決定過程に参加することなどを内容とし て含んでいる(松井, 2002, p.277)。

こうした現実の政治的状況も踏まえ、海外の公共政策学ないし行政学界では PPP を把握するさまざまな方向性が出ている。一方では、PPPの多義性を認め(前者)、

他方では再構成を試みる(後者)。

前者 の例と して リンダ ーは 、PPP の 用語 の意 義を 、6 種 類に 整理す る(Linder,

2000, p.26-32)。リンダーは、①行政経営改革としての PPP、②政策課題の転換

としての PPP(行政単独の問題としてではなく「公共」の問題として双方協力して

取り組む姿勢に転換)、③モラル再生としての PPP、④リスク移転としての PPP、

⑤公共サービスの再構築としての PPP、⑥権力共有としての PPP、をあげる。

後 者 の 例 と し て デ ン ハ ー ト = デ ン ハ ー ト は 、 新 公 共 サ ー ビ ス (The New Public

Service)の概念を提唱し、NPM論を再構成したうえで PPPをとらえなおす。すな

わち、公共的利益は、個々の私的利益の集合したものではなく、共有された価値に も と づ い た 対 話 の 成 果 物 で あ る 。 こ の た め 、 行 政 は 住 民 を 顧 客 (customers) と し てとらえるよりも、市民と共に協働し、信頼関係の構築を図ることに注力しなけれ ばならない(Denhardt and Denhardt, 2003, p.45)。

このように、PPPの意義自体が多様性に富んでおり、一要素である PFIのとらえ 方についても区々でありうる。

また、国内では、両者を組織現象として把握する先行研究が乏しいように思われ る。すなわち行政学における官僚制ないし公務員制度分析の視座、官僚制ないし公 務員組織の職員の行動様式、政策形成と政策立案ならびに意思決定方式の視点との 関連性や、経営学の組織論ないし組織間関係論の立場から研究されてきたとはいい がたい。PPPないし PFIをとらえなおす意義はあるのではないだろうか。

ここで内外の研究動向をふまえて注目したいのは、「民間でできるものは民間で」

という能力の側面と、民間が「自己にできるものは自己責任で」という責任の自覚 と行動の側面である。行政と民間とが、お互いの有する資源を交換しながら、最大 限能力を発揮し、互いに適切にリスクを分担し、責任を果たしていく。そのような プロセスを、規範的にではなく、実際の事例にそって内実を明らかにすることは意 義があると思われる。

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こうしてみると、国内のPPPは、技術的側面だけではなく、公共と民間とがどの ような背景でパートナーシップを組むのかという「公共領域の形成」の側面、つづ いて、「公共領域の深化」する契機を確認することが求められるだろう。

そこで、国内の PPPのなかで PFIをとりあげ、分析することとしたい。

第2項 PFIと公共領域-仮説1および仮説2の検討

以下、第5章の 3つの仮説のうち、仮説 1の公共領域の形成仮説および仮説2の 公共領域の深化仮説を実証的に検討する186。第 6 章と同様に、各仮説に含まれる 概念の抽象度を下げて作業仮説とし、作業仮説を検証するかたちをとる。

事例としては、PFIの 2つの事例をとりあげて、上記仮説の検討を行う。第 1に 墨田区教育委員会がすすめている「墨田区総合体育館建設等事業」、および、②東京 都病院経営本部(経営企画部)が主体となってすすめている「がん・感染症医療セン ター(仮称)整備運営事業」、である187

2つの事例を選択した理由は以下のとおりである。

第 1に、いずれの事業も、難易度が高く、かつ、民間の創意工夫が発揮されやす い分野であることである。体育館事業については、収益性の問題より民間では手が けにくい、武道などの特殊な範疇のスポーツと、プールやイベント開催などの民間 の体育施設でも一般的な事業とを両立させつつ、経営効率を向上させるというバラ ンスが必要である。当事者は多様であり、難易度が高い事業とされる。

また、病院事業については、一般的な医療分野では民間の事業に近い。一方で、

先端的技術を要する医療分野については、民間では対応がむずかしい。このほか、

組織については、マネジメントする知事部局の他、高度専門職としての医師や看護 師等がかかわり当事者は多様である。組織のリストラクチャリングが関わるケース では、コンフリクトの存在も認めやすい。政策遂行における難易度は高い。しかし、

医療周辺部分については、民間のノウハウや創意工夫を適切に活用することによる 効率化も期待できる。

即ち、2 つのケースのいずれも、施設を建て替えてリースするといった、公共工 事的な性格の事業である「施設整備中心型 PFI」ではない。多様な当事者の存在と 事業の難易度の高さから、2 つの事業を観察することにより、公共領域の形成と深 化の構造や組織過程を掘り下げることには意味があると考える。

第 2に、2つの事例がほぼ同時期に進められているという点である。「社会/政治

186 仮 説 3につい ては、社会 ネットワー ク分析を必 要とする。PFIで は競 争的な手続 の 性格 から、行為 者ないし組 織に対して アンケート を実施して コミュニケ ーション構 造を 把握 することは 困難である 。したがっ て、仮説 3については とりあげな い。

187 な お、自治体組 織のうち 、都道府県レ ベルと市町 村レベルと で比較可能 かどうかに つい ては、公共 領域は行政 組織を核に 協働がおこ なわれれば 足りるので あり、基本 的に 分析 結果には齟 齬をきたす ことはない 。

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/経済的流れ」については、マクロ的環境については類似した部分が多いものと思 われる。一方で、都と区の行政組織の位置づけや、事業の性格の相違などは、基礎 がまったく異なるので比較できないというよりも、むしろ、どのように公共領域の 形成と深化に影響を及ぼしているか、比較の視点をもちつつ検討を行うことには意 味があるだろう。

第 3に、筆者がいずれの事業にも、事業者選定の委員として参画する機会を得た ことである。たしかに、客観的に観察すべき立場の筆者が、なかば当事者に近い立 場の審査委員として関与してきたことは、中立的な立場で記述できるのかという懸 念も想起される。しかしながら、守秘義務の関係から全てを記述できないとしても、

行政の担当者と応募事業者の双方との接触を通じて議論の「雰囲気」を知っている ことは、公共領域の内実を観察するうえできわめて有益であった。また、審査委員 は行政内部、および、行政と企業間の交渉そのものには関与しない。そこで、十分 留意することで、記述の客観性を確保可能と考えたからである。

仮説については、次の作業仮説(以下、単に「仮説」という)について検討する。

仮説1 公共領域の形成仮説

第 1に、政策的課題としては、当該自治体単独では充足することが困難な、公共 施設等の設計・建設(あるいは改修)・維持管理・運営および金融等にかかる専門 的技術、ならびに、資金、情報およびノウハウ等のさまざまな資源、の安定的な調 達がある。

第 2に、政策的代替案としては、PFI手法の活用を通じて、利害関係者や専門家 との協働、および、さまざまな技術の適切な導入による、新しい資源依存関係の構 築がある。

第 3に、組織および行為者の状況としては、当該自治体は、その属する組織フィ ールドに対する制度的圧力を認知しつつ、模範的パターンに倣う。一方、民間の創 意工夫を適切に発揮できるように条件整備をおこなうなど、内部の行為者による戦 略的選択、および/または、創案を行う。

第 4に、社会/政治/経済的流れとしては、多様な主体の協働にもとづく PPP が普及しつつあり、PFIについても、国内の自治体で導入する機運が高まっている。

以上の 4つの流れを構成する要素が、ある時期に合流することによって窓が開き、

当プロジェクトにおける PFIの公共領域が形成される。

仮説2 公共領域の深化仮説

当プロジェクトの公共領域は、多様な主体が関与するフォーマル組織的形態を通

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じて深化し、これをインフォーマルなコミュニケーション経路が下支えする。

調 査 手 法 は 、 各PFI事 業 に 当 事 者 と し て 関 係 し て い る 、 行 政 の 担 当 者 、SPC

(Special Purpose Company; 特別目的会社。特定の事業を行うことを目的として 設立される会社であり、PFI事業以外の投資は行わず、PFIの契約期間が過ぎれば解 散される。野田(2003, p.72))を構成する民間事業者のうち代表企業、ならびに、事 業全般をサポートしているアドバイザーである民間シンクタンクにインタビューを 行って事実を把握し、公共領域の分析パースペクティブにしたがって分析を行った

188

考察対象の期間は、2 つのケースに関係する事象の表出した時期より始めること とし、終了時点については、PFIの事業者選定手続が終了した時点、すなわち、墨 田区については優先交渉権者の決定と基本協定の締結をみた平成 18 年 12 月 まで、

東京都については落札者の決定と基本協定の締結をみた平成19年3月までとする。

以下、2 つのケースの分析を行う。事業契約を先に締結している墨田区から先に 論じる。

2つの事例の概要は次頁の表 7-1のとおりである。

188 審 査委員とし て受領した 資料は多い が、守秘義 務から利用 できない。そこで、各 自 治体 のホームペ ージの情報 や、不足し ている場合 は別途自治 体から入手 した公表資 料に もと づいてケー スの整理を 行っている 。

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表 7-1 PFI のケーススタディ対象事例の概要

墨田区総合体育館 東京都がん・感染症医療センター

①事業名称 (仮 称)墨 田 区 総 合 体 育 館 建 設 等 事業

がん・感染症医療センター(仮称)

整備運営事業

②立地条件 墨田区錦糸 錦糸公園内 文京区本駒込

③担当部局 教育委員会スポーツ振興課 病院経営本部経営企画部総務課

④選定方式

189

公募型プロポーザル方式 総合評価一般競争入札

⑤事業方式

* 民 間 資 金 等 の 活 用 に よ る 公 共 施 設 等 の 整 備 等 の 促 進 に 関 す る 法 律

PFI法*にもとづき、総合体育館

を設計・建設後に区に施設を引 渡し、事業期間中に係る維持管 理・運営業務を実施する

BTO(Build Transfer Operate) 方式

PFI法にもとづき、現在の駒込病 院を、診療を継続しながら全面改 修して病院機能を向上し、事業期 間中に係る維持管理・運営業務を 実施する RO(Rehabilitate- Operate)方式

⑥事業内容 ・建築面積 5,608㎡

・延床面積 16,000㎡以上

・メインアリーナ、サブアリー ナ、武道場、屋内プール、多目 的競技場、トレーニング室、カ フェ・レストラン、自由提案施 設、駐車場

・病床規模 病床 801床

・外来規模 1,200 人程度/1日

・手術室の増設、内視鏡検査室の 充実・整備、放射線部門の充実、

外来治療センターの整備、感染 症に対する施設設備の充実、災 害拠点病院としての整備 等

⑦PFI 事業の 経緯・予定

平成 17.12 実施方針等の公表 18.3(~11) 審査委員会(全5回) 18.3 特定事業の選定・公表 18.5 募集要項等の公表 18.8 参加表明書等の受付 18.9 提案書の受付

18.12 優 先 交 渉 権 者 決 定 、 基 本 協定の締結

19.1 すみ だスポーツ サポー ト PFI(株)(SPC)設立

19.3 墨 田 区 議 会 定 例 会 で 議 決、事業契約締結

20.4~22.3 建設工事

22.4 総合体育館供用開始予定 (平成42年3月まで20年間)

平成 17.11 整備計画を発表 17.12 実施方針等の公表 18.3 特定事業の選定・公表 18.5 入札公告

18.7 申請時必要書類の受付 18.8 一般 競争入札参 加資格 確

認結果の通知

19.1 入札時必要書類の受付 19.3 開札 及び落札者 の決定 、

基本協定の締結 19.6 (株)駒込 SPC設立 19.12 事業契約の締結

19.12~23.9 設計・工事(予定) 23.9 病院施設供用開始予定 (平成38年3月まで15年間)

⑧契約額 147億円 1,862億円

⑨ 財 政 負 担削 減額

(現在価値 ベース)

直接実施する場合 138億円 PFI方式の場合 94億円 財政負担削減額 44億円 削減率 32.0%

直接実施する場合 1,411 億円 PFI方式の場合 1,350億円 財政負担削減額 61億円 削減率 4.3%

189 「 総合 評価一 般競争入札 」とは、価 格を重視し ながらも価 格以外の要 素をも加味 し て事 業者を選定 する方法で ある(地方自 治法施行令第167条の 10の 2)。一 方、「公募 型 プロ ポーザル方 式」は法律 上は随意契 約である 。ただ、透明 性と公平性 を貫徹する こと から 実体面では 競争手順を 経ながら事 業者を選別 する(美原, 2006, p.35-36)。

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第2節 墨田区体育館 PFIにおける公共領域の組織過程

墨田区では、JR 錦糸町駅から北東に徒歩 3 分と近い錦糸公園に、PFI を活用し て、老朽化した体育館の改築事業をすすめている。本節では、墨田区体育館 PFIの 公共領域の形成と深化について、順次論じることとする。

第1項 墨田区体育館PFIの公共領域の形成

本項では、「公共領域の窓モデル」にしたがって、墨田区教育委員会スポーツ振興 課が主体となって進めている墨田区体育館 PFIでは、どのような内容の 4つの流れ が存在し、どのような時点に合流して公共領域の形成をみたのか、あるいは、形成 をみていないのか、について論じていく。結論的には、平成 17年12 月2日に PFI 法第 5 条に基づく特定事業の実施に関する方針(以下「実施方針」という。)を公 表した時点をもって「公共領域の窓」が開かれたことを明らかにする。

(1)政策的課題-財政的制約と提供サービスの質の充実

昭和 59 年に墨田区では、誰もが生涯にわたって心身の健康を保つことと、明る い家庭と活気のある町の実現を目指して「すみだ健康区宣言」を行った。この宣言 の趣旨を踏まえ、「健康な生活習慣を身につけ、自分の健康は自分で守り、自分でつ くる」ことを目標に掲げ、各種健康スポーツ事業を推進している。

施設整備においては、これまで主な施設として昭和 42 年 3 月に墨田区体育館、

昭和49年に屋内プール体育館、平成11年8月に両国屋内プール(中学校施設併設)、

平成 12 年 4月にスポーツプラザ梅若、同年 7 月にすみだスポーツ健康センターを 整備してきた。

本件の総合体育館計画はこれらの整備事業につづくものである。平成 13 年 3 月 に策定した「墨田区基本計画」(計画期間は平成 13~22年度)において、スポーツ 関連施設の計画として、体育館の改築、第二体育館の建設、陸上競技場の建設及び 郊外区民施設の建設を位置づけており、第1番目の「体育館の改築」が本件の総合 体育館の計画に該当する。

特に現在の体育館は、昭和42 年に開館してから約40年が経過し、老朽化が著し く、多様化・増大化する区民のスポーツ等の新たなニーズに応えることが困難な状 況になっていた。そのため、「墨田区基本計画」の事業では、「区民スポーツの振興 を図るため、区体育館を総合体育館として改築する」として位置づけていた190

190 な お、墨田区 では新しい「墨田区基 本構想」(平成 17年 11月)の策定 に伴い、基 本

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整備をすすめるうえでの政策的課題には 2つあったと考えられる。

第 1の政策的課題は、資金調達であった。

墨田区では昭和 52年度の組織機構の改革を始めとし、昭和 56 年度には全庁的な 事務事業の見直し、昭和 60 年度には庁内に行政改革推進本部を設置し「行政改革 大綱」を策定するなど、行財政運営の効率化等に取り組んできた191

その後、平成 7 年 11 月の、区民を主体とした委員による「墨田区行政改革推進 委員会」からの答申を受け、同 7 年 12 月に「墨田区行政改革大綱」を、平成 8年 11月に「墨田区行政改革実施計画」を策定し、区民も関与した行政改革を推進した

(計画期間は平成 12年度までの 5年間)。

一方、墨田区行政改革実施計画で定めた行政改革の取り組みを着実に行ってきた ものの、長期にわたる構造的経済不況の影響を受け、特別区民税を中心に歳入の落 ち込みが顕著となった一方、バブル期に拡大した歳出との収支バランスが大きく崩 れ、財政状況は深刻な危機に直面するに至った192。そのため、さらに徹底した行財 政改革の推進が必要となったことから、将来にわたり、墨田区の財政基盤を強化す るための道筋を示すことを目的として、平成 12 年 2 月に「墨田区財政健全化プラ ン」を策定し、平成16年度を目途に財政収支の均衡を図ることを目指した。

その後、平成 12 年度からは、さらなる改革を進めるために「墨田区行財政改革 推進条例」を制定した。この条例により、区民を主体として、「墨田区行財政改革推 進委員会」を設置し、行財政改革に関する「第 1次答申」(平成 12 年 11 月)を受 けた。この答申に基づき、平成 13年1月には「墨田区行財政改革大綱」、同年 3月 には「墨田区行財政改革実施計画」を策定した。このほか、増加していた公共施設 の管理運営費負担の削減も懸案事項であり、既存施設の統廃合も検討されていた193。 このような状況のなか、庁内全体の意識としては、新たな公共施設の建設につい ては否定的であり、原則的には凍結するべきであるというムードが強かった。

計画 についても 平成 18年 12月に改定 作業を行っ た(「 墨田区 基本計画 」。計画期間は 平 成 18~27年度)。本 件の総 合体育館に ついては、計 画のうち 施策 522「区民 による生 涯 スポ ーツの取り 組みを支援 する」に 、「体育 館改築 事業」の項 目を設け 、「多様 化・増 大 化す るスポーツ 需要に応え る総合体育 館として 、PFI手法を 活用しなが ら、現在の 体育 館を 改築し整備 し」ていく として掲げ られている (墨田区, 2006b)。

191 墨 田区の行政 改革に関す る記述につ いては、墨田区の資料 及びホーム ページによ る (http://www.city.sumida.lg.jp/sumida_info/suisin/kaikakunotorikumi/gyoukaku_tori kumi_mokutekitou/index.html). 2007.10.24取 得.

192 経 常収支比率 は、平成 6年度 85.0% →平成7年度 82.8%→ 平成8年度 84.7%→平 成 9年度 91.9% →平成10年度 96.3%と 悪化してい た。ま た、平成12~16年度の 間に、

毎年度 50億円 から90億円程度の財 源不足が見 込まれ、平成 16 年度ま での5年間 の累 計額 で、384 億円程度の財 源不足が見 込まれてい た。

193 「 墨田 区財政健 全化プラン 」の具体的 方策には公 共施設の見 直しが盛り 込まれてい る。 そのなかで 、「増 大する 施設の管理 運営費が区 財政の新た な負担要因 の一つとな っ てお り、既存施 設の統合・廃止 を含め た積極的な 見直しによ る管理運営 費の削減を 図る 必要 がある 。」と いった記述 がみられる 。(出 所)前 々注に同じ.

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第 2の政策的課題としては、体育館構想をすすめていくにあたっての「行政サー ビスの質の向上」がある。行財政改革大綱策定と同時期に、基本計画の策定がすす められていたため、基本計画も上記行革の流れを汲むこととなる(墨田区, 2001)。

公共施設整備については、新たな整備基準を定めて、量的充足から質的充実へと転 換を図り、既存施設や遊休施設の活用を重視するに至っている。

すなわち、公共施設を整備する際には施設の機能や提供サービスの内容等の「行 政サービスの質」を追求することが庁内のコンセンサスとなっていた。この点は、

前 述 し た 基 本 計 画 の う ち 、「2/ 今 後 の 公 共 施 設 整 備 の あ り 方 」 の 「 施 策 の 方 向 1 基 本 的 考 え 方 (1) 今 後 の 施 設 整 備 は 、 量 的 な 充 足 で は な く 質 的 充 実 に 重 点 を 置 き、・・(以下略)」に記述されている。

以上から、本件総合体育館の改築が、計画上も明確に位置づけられたのは平成 13 年3月の「墨田区基本計画」である。

一方、以後、計画を実施するにあたっては、効率的な資金調達とサービスの質の 向上という2つの要請に応えなければ、住民や議会からの正当性を調達することは 難しい。また、公的な体育館の建設と運営は難易度も高い施設である。たとえば、

体育館の備える施設は、多様な競技等が実施可能で、多数の来場者が期待されるア リーナのような、収益力のある施設だけではない。たとえば本件では、アーチェリ ー場や柔道場等の武道に関する施設の設置も検討対象となっている。これらは収益 性に乏しく、利用者層も特殊と考えられる。さまざまな要請をバランスさせながら 財政支出の削減を目指すためには、行政と民間企業等との協働にもとづく、高度な ノウハウの活用が必要であった。

こうして、政策的課題としては、墨田区教育委員会単独では、充足することが困 難な資源として、良質な資金ならびに行政サービスの質を向上する手段の安定的調 達があった。

(2)課題解決の政策的代替案

政策的課題解決のための政策的代替案としては、当初から PFIによる事業推進が 一応想定されていたといえる。これは前述の、行政改革の流れや、サービスの質の 向上のために、民間の創意工夫の発揮を期待したためである。

こうして、平成 13 年 3 月に策定された基本計画では、今後の公共施設整備のあ り方として施策の方向を打ち出している。そのなかで、施設整備における視点とし て 、 収 益 性 の 見 込 ま れ る 施 設 の 建 設 、 維 持 管 理 お よ び 運 営 に つ い て はPFI手 法 を 積 極的に導入するとし、本件体育館の改築も対象としている194

194 「 公共 施設等 の建設や維 持管理・運 営等を、民 間の資金や 経営能力及 び技術能力 を 活用 して行う新 しい手法と してPFI方 式が普及しつ つある。そこ で今後は 、・・(中略)・・、

収益 性の見込ま れる公共施 設等の建設 や維持管理・運営等に ついては 、PFI手法の 積極

(11)

一方で、墨田区では、平成15年に「PFI導入可能性調査」を行っている。これは、

いわゆるPFIのフィージビリティ・スタディであり、実際のVFM(Value For Money)

を 含 め て 、PFIを 利 用 し た 場 合 の メ リ ッ ト と デ メ リ ッ ト を シ ミ ュ レ ー シ ョ ン し た も の で あ る 。 こ の 段 階 で は 、PFIに よ る 場 合 と 公 共 が 事 業 を 行 っ た 場 合 と の 比 較 も 行 わ れ て い る 。 も っ と も 、 こ の 比 較 は 、PFI事 業 を 導 入 す る 際 の 手 続 と し て 行 わ れ る 性格のものであり、政策的代替案として墨田区が「直接」体育館の改築事業を行う 可能性については、積極的な検討が行われたわけではないものと考えられる195。 こうして、政策的代替案としては、基本的には PFIが前提とされており、利害関 係者や専門家との協働、および、さまざまな金融・法務・技術の適切な導入による、

新しい資源依存関係の構築がある。墨田区体育館PFIでは、政策的課題と政策的代 替案とが一体化しているといえる。

(3)組織および行為者の状況

①模倣的同型化と認知

平成 11 年 7月にPFI法ができ、その後平成 12年 3月にPFI法で規定する基本方 針が定められ、この基本方針を補完する位置づけの 5つのガイドラインも公表され た 。 こ の た め 、 民 間 の ノ ウ ハ ウ や 資 金 を よ り 積 極 的 に 活 用 し て い くPFIを 活 用 な い し検討することは制度的圧力となり、自治体に大きな影響を及ぼしていたと考えら れる196。墨田区がPFIにより体育館の改築を行うことも、模倣的同型化としてとら えることができる。

一方で、墨田区の認知的側面の発揮もみられたことも指摘できる。このことは、

サービスの質の向上における民間の活用に関わる。具体的には、給食事業における 経験をふまえている。教育委員会は、平成元年4月に給食改善事業として民間への 委託を開始した。基本的な目的は経費削減にあったものの、一方で、提供する給食 的な 導入を図る。特 に本計 画のなかで、財 政状況 が好転した 場合に事業 に着手する こと とし ている 4つの事業( 第二体 育館の 建設 、・・中略・・) 等 に ついては 、財政状況 の 判断 とともにPFI手 法導入 についても 検討してい く」(墨田区, 2001, p.132-133. 下線 部 は筆 者が付加 )。

195 こ の点は、平成 15 年12 月4日に開催 された企画 総務委員会 における、山 崎昇墨田 区長 による以下 の答弁にも 現れている 。「基 本計画 の中でも錦 糸町の総合 体育館の改 築 につ いて、基本 計画事業と して実施す ることにし ているので、そ の手法 として区が 直営 でや るか、ある いはPFIを 導入するかと いうことで、今の財政 状況から言 って、直接 建 設す ることが極 めて困難 であるという ことから 、この錦糸町 の体育館に ついてPFIの 導 入の 可能性につ いて検討さ せていただ いた 」(下線 部は筆者が 付加)。(出所)墨田区議 会 会議 録検索シス テム. 2007.10.25取得.

196 実 施方針が公 表されたベ ースでは、累積件数で、1999年3 件→2000年 16件→2001 年 48件、2002年98件→2003年 146件→2004年 197件→2005年 244件→2006年 292件と増加し てきている 。(出 所)古 澤(2007, p.51).

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の質を向上することを意識していた。結果的に、民間事業者に委託することで、従 来と比較して、食材の改善、使用する食器の向上、あるいは、ランチルームの設置 など、給食を取り巻く環境を向上させることが可能となった。このような成功体験 にもとづいて、教育委員会は、契約をつうじて民間事業者に委託する意義を正しく 認知し、PFIの導入へと進むことができたと考えられる。

こうして、(2)で論じたように、墨田区教育委員会では、基本計画にしたがって 平成 15年度に PFI手法の導入可能性調査を行い、本格的に PFIの採用について検 討を開始した。すなわち、①区の厳しい財政状況の中で、民間資本を活用した PFI 事 業 に よ り 総 合 体 育 館 が で き な い か 、 ② 区 や 事 業 者 に メ リ ッ ト が あ る の か 、 ③PFI を導入した場合に、従来方式より区の財政負担額を軽減でき、財政支出の平準化が 図れるのかどうか、という点が主要な検討事項である。この結果、これらの事項を クリアできるとの結果がでている。

これを受けて、平成 16年7月から平成 17年 2月にかけて「総合体育館建設基本 計画検討委員会」を 5回にわたり開催し、平成 17年 10月に「総合体育館建設基本 計画」を策定している。委員は全体で 11 名であり、基本的には内部の関係者が多 い197。内容的には、総合体育館の基本的な考え方、規模と施設構成および利用促進 方策を含めた管理運営のあり方、等である。

②戦略的選択

それでは、墨田区体育館PFIでは、戦略的選択あるいは創案に向けた行動はみら れなかったのだろうか。本件では、墨田区独自の創案に向けた行動はみられなかっ たものの、戦略的選択については以下の点が観察された。

一般に行政組織は、都道府県レベルよりも、区や市町村レベルのほうが住民に近 い存在であることから、より外部環境にさらされやすいものと考えられる。このた めに、とくに財政支出を伴う事業を実施する際には、議会あるいは住民からの制度 的影響を強く受けるものと思われる。

議会あるいは住民との関係を意識して行われた墨田区による戦略的選択は、3 点 である。第 1に検討委員会の議事録が公開されており、計画の進め方の透明度が高 いこと198、第 2 にパブリックコメント手続の採用と丁寧な運用がおこなわれてい

197 外 部有識者 2名、体育協会 4名、体育指 導委員2名、公募等区民 3名の構成 である 。 また 、事務局は 、教育委員 会から事務 局次長およ びスポーツ 振興課長 、区長部局か ら企 画・行政改革担 当課長およ び都市整備 課長、なら びに、コン サルタント 職員の 5名から なる 。教育委員 会のスポー ツ振興課長 が実質的な プロジェク ト・リーダ ーであり 、対境 担当 者である。

198 墨 田区ホーム ページ「検 討委員会議 事録」

(http://www.city.sumida.lg.jp/kyouiku/sports/kihon_keikaku/files/14kentouigijiroku .pdf). 2007.10.25取 得.

(13)

ること、第 3に地域経済への配慮より、事業者を選定するにあたって、地元の企業 に対する一定の配慮がなされていること、である。

第 1 の議事録の公開については、必ずしも珍しいものではない。しかしながら、

一般に行政の委員会の議事録については要約版の公表にとどまることも多いなか、

本件検討委員会の議事録については、詳細に発言内容が再現されている点が注目さ れる。また、通常は、検討委員会などの諮問機関の作成した案と、最終的に行政の つくる案との関係、ないしは、連続性が、外部にはわかりにくいものの、本件では 会議のなかで明らかにされている。

事務局は、平成16年10月8日の第3回検討委員会で以下のように発言している。

「 こ の 検 討 委 員 会 で 決 ま っ た こ と が そ の ま ま 教 育 委 員 会 や 区 長 の 考 え 方 に なって、施設建設、PFIが進むというダイレクトな線にはなっておりません。

ただこの検討会で出された見解は最大限尊重されると思います。一方、この 検討会の検討事項については区議会や区民の方々にも諮っていきますの で 、 その中で色々な意見が取り入れられていくと思います」199

検討委員会は、墨田区内部の委員会としての色彩が強い。しかしながら、事務局、

すなわち墨田区は、公共領域形成の前提としての、住民や議会といった外部環境と の協働への意欲を示している。事務局は、検討委員会も、墨田区と同じ制度的環境 にあるものと認知し、墨田区と同様の「組織フィールド」に位置することを意識し ている。

第 2 点については、墨田区では、平成 14 年 4 月からパブリックコメント手続を 導入している200。パブリックコメント手続は、区の長期構想、各分野の施策の基本 方針等の策定や重要な改定等を対象に、区民等から意見を聴取し、墨田区が説明す る仕組みである。墨田区体育館PFIもコメント手続を要する案件に該当する。

検討委員会が基本計画案を作成する過程で、平成 16 年 12 月 10 日から平成 17 年1月 7日までの間、区のホームページ等により「総合体育館建設基本計画検討委 員会の中間報告」についてパブリックコメントを求めている。この結果、34件、合 計40項目の意見を得ており、平成 17年 2月 8日の第 5回検討委員会でパブリック コメントについての検討を行い、議事録でも明らかにされている。

たとえば、委員長は以下のように発言し、パブリックコメントに対する対応につ

199 出 所は、前注 に同じ。

200 「 墨田区のパ ブリック・コ メント手 続に係る基 準」による と、第 1条に目的が定 め られ ており 、「墨 田区が積極 的に情報を 公表し、区 民の行財政 運営への参 画の促進を 図 り 、もって公正 で民主的な 一層開かれ た区政の推 進と透明性 の高い行財 政運営に寄 与す るこ とを目的と する」とし ている 。(出 所)墨田区 ホームペー ジ

(http://www.city.sumida.lg.jp/public_comment/public_comment_tetuzuki/index.htm l). 2007.10.25取得.

(14)

いて提案を行っている。

「1つ目は体育館のメインアリーナについての意見です。簡単に言うと体 育 館の立地条件が良いので、スポーツイベントをやれるようにしたらどうか と いうことです。非常に注目を集めている立地ですので当然こういう意見は 尊 重していいかと思います。この意見に対しては、『副都心錦糸町の魅力が高め られ地域の活性化が期待できる多彩なスポーツイベントに対応できるよう に 検討していきます。』という考え方が答えになるかと思います。」201

実際、この答えが墨田区のホームページ上に掲載されている202。このほか、スポ ーツイベントにふさわしい観客席数の確保、フットサル競技への対応、施設利用に あたってのキャッシュレス対応などのコメントが出された。これらに対しては、対 応可能なもの、対応できないもの、ならびに、委員会の検討範囲を超えるものに整 理され、丁寧な回答が行われている。最終的に、寄せられたコメントや意見のなか で対応可能なものについては平成 17年3月の「総合体育館基本計画(案)報告書」

に反映されている。

第 3 点については、全国的に見ると、かならずしもPFIの導入がそれほど多いと は い え な い と 評 さ れ る 点 と 関 連 す る 。 す な わ ち 、PFIで は 、 ゼ ネ コ ン や 商 社 な ど の 大手企業がコンソーシアムを組んで応募することが多いために、地元企業の参加の 余地が小さくなることが指摘されている(たとえば、根本, 2006b, p.17)203。 地元企業の参加については、墨田区議会でもなんどか指摘されてきたところであ る204。このような指摘に対しては、PFI導入による経済性の発揮が確保されるかぎ

201 ( 出所)前出 「検討委員 会議事録」

202(出 所)墨田区 ホームペー ジ

(http://www.city.sumida.lg.jp/public_comment/public_comment_result/sougoutaiku kan_pubcomme/index.html). 2007.10.25取 得。

203 な お、PFIの導 入が必ずし もスムーズ でない理由 について、 このほかに 根本は、① 民間 に委ねるこ との必要性 の意識が低 く不安感が あること、②PFIの複 雑かつ厳密 な制 度へ の不慣れや 抵抗感があ ること、③手続 の期間 が長く費用 がかかるこ と、④補助 金や 金利 など公共事 業のほうが 有利な要素 があること 、をあげる (根本, 2006b, p.16)。

204 た とえば、平成 16 年12 月2日に開催 された区民 文教委員会 で、総合体 育館の基本 計 画 の 中 間 報 告 が お こ な わ れ た 際 、 片 倉 洋 委 員(共 産 党)は 以 下 の よ う に 発 言 し て い る 。

「PFIの 方式(では)・・(中略 )・・(地元 の)中小 企業の業者 が契約期間 の問題だと か、

それ から一体発 注という点 で参入しに くい問題・・(中略)・・(を)指摘し てきた」(括弧 内は 筆者が付加)。

また、 平成 17年 9月 21日に開催 された区民 文教委員会 で、「 総合体 育館建設基 本 計画(案)」の説 明が行われ た際、瀧澤 良仁委員(自民 党)は以 下のように 発言してい る。

「PFI事業は商 売でやるわ けだから 、・・(中略)・・ ペイしな いようなこ とはしない 。 だか ら、うちの 会派でも、 区内業者が 下請業者と して使って もらえない のではない か と心 配している 。企業だと か区民の雇 用にはつな がらないの ではないか 、何とかそ れ をつ なげるよう な方法にな らないもの かというこ とは、・・(中略)・・正直心配して い

(15)

り、今後PFIを進めるに際して地元経済への配慮を行うこととした205

以上から、組織および行為者の状況としては、墨田区教育委員会は、その属する 組織フィールドに対する制度的圧力を認知しつつ、模範的パターンに倣っている。

一方で、墨田区教育委員会の行為者による戦略的選択を行っていた。

(4)社会/政治/経済的流れ

社会/政治/経済的流れについては、「官から民へ」「民間でできるものは民間で」

というスローガンのもとで、NPM(New Public Management)による公共部門の 効率的マネジメントに注目が集まっていた。なかでも、PFIには、国や自治体の財 政再建により削減されている公共事業の新しいかたちとして、官民をあげて期待感 が高まっていた。

このほか、社会的流れには健康志向の高まりを追加することができる。すなわち、

現在、高齢化社会の進展やライフスタイルの変化等により、スポーツに対する需要 は多様化している。また、家庭や地域でのコミュニケーションの醸成、青少年の健 全育成、さらには、生活習慣病予防のための日常的な健康・体力づくりとして、ス ポーツの果たす役割は大きく注目されている。こうしたことから、子どもから高齢 者まで年齢や体力にあったスポーツを楽しみ、生きがいのある健康な生活を支援す るためのスポーツ施設の整備と充実が、求められている(墨田区, 2005a)。

(5)墨田区体育館PFIの公共領域の窓

墨田区体育館 PFIについては、平成 17年12 月1日に墨田区議会の区民文教委員 会に諮られ、承認された。翌12 月2日に PFI法第 5条に基づく特定事業の実施に 関する方針(以下「実施方針」という)を公表した。

こ の 段 階 に 至 っ て 、 住 民 等 か ら の 意 見 も ふ ま え た 整 備 内 容 の 整 理 が 行 わ れ 、PFI による総合体育館事業の推進が、区議会等の支持をふまえて事実上オーソライズさ れることになった。協働に向けた準備が整ったということができる。

ここに、公共領域の窓が開いたと考えられる。

る 」。 (出所)墨田 区議会会 議録検索シ ステム. 2007.10.25取得.

205 そ の後、平成 17年 12月に公表され た「( 仮称) 墨田区総合 体育館建設 等事業実施 方針 」に、応募 者の参加要 件として 、「選定 事業者 は、区内企 業の育成や 地域経済の 振 興に も配慮しつ つ、本事業 の実施に努 めることと する」との 一文が挿入 された(墨 田区, 2005b, p.14)。さらに 、平成 18年 5月のPFIの審査 基準にも盛 り込まれて おり、事業 に反 映されてい る。事業全 体の審査項 目のうち「地域経済社 会への貢献 」のなかに 、① 地域 企業等との 協力体制に 優れた提案 がなされて いるか、②地域の人材 活用につい て優 れた 提案がなさ れているか 、③区民を はじめとし た地域社会 への貢献策 について優 れた 提案 がなされて いるか、と いう評価項 目が設けら れている( 墨田区, 2006a)。

(16)

第2項 墨田区体育館PFIの公共領域の深化

本 項 で は 、 実 施 方 針 の 公 表 に よ り 動 き 出 し た 墨 田 区 体 育 館PFIに お い て 、 公 共 領 域の深化がみられたのかについて検討する206

なお、本論文では PFI の専門的ノウハウを記述することは目的ではないために、

事業者の審査の具体的内容や経緯についてはあらましを示すにとどめる。

(1)フォーマル組織としての審査委員会の設置と審査

①審査プロセス

墨田区体育館 PFIでは、提案の自由度と競争性の担保に配慮して「公募型プロポ ーザル方式」によっている。応募者は、4グループであった。

本件では、事業者に長期にわたって安定的かつ効率的な事業遂行を求めることに 加え、広範かつ多岐にわたる業務を包括することから、サービス購入費をはじめ、

設計能力、建設能力、維持管理能力、運営能力、事業経営能力および資金調達能力 等を総合的に評価する必要がある。また、公平性および透明性を確保するとともに 専門的見地からの意見を参考にすることも求められる。

そこで、学識経験者等の外部委員および墨田区の職員で構成する「(仮称)墨田区 総合体育館建設等事業者審査委員会」(以下「審査委員会」という)を設置し、審査 体制の構築を行っている207。すなわち、フォーマル組織化がみられ、プロセスも明 確に規定され公表されている。

審査方法は、応募する事業者の資格の有無を判断する「資格審査」と、事業者の 提案内容等を審査する「提案審査」の2段階である。

第 1 段階の資格審査では、①応募者の構成等の確認208、②応募者の参加資格要 件の確認、③応募者の制限の確認209、が行われる。ここで失格にならなかった応募 者は、第 2段階の提案審査に進む。

第 2段階の提案審査では、「基礎審査」と「加点審査」に分けて行われる。

206 な お、実施方 針を公表し て以降の経 緯と今後の 予定につい ては、表 7-1を参照 。

207 審 査 委 員 会 の 構 成 は 、 有 識 者 と し て 、 体 育 施 設 の 専 門 家1名 、 建 築 ・ 土 木 系 3 名 、 金融 1名、なら びに、墨田 区からは、地域振興部 新タワー・観光推進担 当部長およ び教 育委 員会事務局 次長 2名の 合計7名で ある。

208 応 募企業が複 数となるの が通常のた め、業務分 担等を確認 する。また 、最終的に 墨 田区 と契約する ことになるSPCへの出 資企業につ いても、責任体制の観 点からチェ ック を行 う。( 出所) 墨田区ホー ムページ

209 工 事請負業者 の指名停止 期間中にな いか、等の 確認を行う 。なお、本 件では、応 募 した 4グループ のうち 1グループが後 に指名停止 となり、最 終審査の段 階で失格と な って いる。(出所 )墨田区ホ ームページ

(17)

基礎審査では、①施設設計・建設、維持管理および運営の業務内容の確認210、② 事業シミュレーション内容の確認、③事業遂行能力の確認211、が行われる。ここで 失格にならなかった応募者は、次の加点審査に進む。

加点審査では、①加点評価Ⅰ212、②加点評価Ⅱ213、③提案価格審査、が行われ る。

②審査過程での「組織フィールド」における協働

墨田区体育館 PFI の審査では、行政が必要とするさまざまな資源が、「組織フィ ールド」上でアクターにより注入されている。資源注入には 3つの経路があり、行 為者ないし組織間の協働に相当するため、以下「協働類型」として捉え論じる。

まず、応募者からの提案である(後掲表 7-2の協働類型Ⅰ)。このほか 2つのプ ラットフォームが存在した。第 1に、審査委員会における審査委員の技術やノウハ ウの交換過程である(同、協働類型Ⅱ)。第2に、「質問-回答」プロセスである(同、

協働類型Ⅲ)。

ここでは、協働類型Ⅲ部分に注目したい。これは、外部からの質問や意見の聴取 と行政からの回答、さらに、回答や意見の事業への反映プロセスである。例えば、

平成 18年 6月 12 日 から 14 日にかけて「募集要項」への質問の受付が行われ、最 終的に 7 月 14日に回答を行いホームページ上に公開している。項目は 871項目に わたり、全ての質問に対して墨田区から回答が行われた。また、PFI事業の場合、

長期の契約関係に入るため、行政側と応募者側との間でのリスク分担が懸案事項と なる。そこで本件では、リスク分担の質問への回答ならびに意見の一覧も別途作成 し公表した。質問への回答は23 項目であり、墨田区に寄せられた意見も24 項目に 及ぶ。

同時に、これらの回答と共に、「募集要項」、「業務要求水準書」および「審査基準」

等の修正版についても作成し公表されている。こうして、墨田区が民間セクターに

210 各 業務提案内 容に関して 、墨田区が 求める「性 能」として 、求める業 務を詳細に 定 めた 「業務要求 水準書」と 齟齬が無く 記載されて いるかチェ ックを行う 。なお 、「業 務 要求 水準書」は 、平成 18年 5月 25日に「募集要 項」が公表 された際に 、付属資料 と して あわせて公 表された 。(出所 )墨田 区ホームペ ージ

211 応 募者の資力 、信用力 、債務返済能 力および代 替信用補完 措置につい てチェック を 行う 。(出 所)墨 田区ホーム ページ

212 加 点審査Ⅰで は、各応募 者の施設設 計・建設、維持管理、運営にかか る提案内容 が 区の 要求する相 応の性能・水準を満た しているか 否かについ て「業務要 求水準書 」等を 踏ま え確認する 。(出 所)墨 田区ホーム ページ

213 加 点審査Ⅱで は、区が特 に本事業に 期待する事 項を審査項 目として設 定し、これ ら に関 して、優れ た工夫や配 慮がなされ ている提案 、その他 、独自性およ び革新性の 高い 提案 については 、提案内容 の具体性や 実現可能性 の観点から 評価する 。(出所 )墨田 区 ホー ムページ

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提供を求めるサービスの「性能」がより具体的かつ高度化していき、審査方法と審 査内容にも影響を及ぼしていった。

応募者からの提案のほか、これら 2つのプラットフォームにおける社会的交換プ ロセスにより、この事業の内容、応募者である民間企業の業務の範囲が明らかにさ れ、同時に、民間事業者のノウハウも吸収することが可能になる。もちろん、最終 的に事業者として選定されているわけではないため、当事者間の社会的交換には限 界があるものの、新たな資源依存関係による協働プロセスを経ることで、プロジェ クトが充実していったものと考えられる。

以上の結果、平成 18年 11 月 27 日の第 5回審査委員会で、加点審査における① から③までの点数を合計して総合点を出し、順位を決めた。そして、点数が最も高 かったグループの提案を優秀提案とし(NSグループ)、次いで点数が高かったグル ープの提案を次点提案として選定することとし、同年 12 月 4 日に優先交渉権者が 公表された。

墨田区は、優先交渉権者 NSグループとの間で、事業契約の準備を進め、契約価 格の交渉等を行っている。一方、NSグループ側は、翌平成 19 年 1月に SPC であ る「すみだスポーツサポート PFI(株)」を設立した。その後、墨田区議会での議決 を経て、平成 19 年 3 月に墨田区は SPC との間で事業契約を結んでおり、平成 20 年4月着工に向けて作業をすすめている。

(19)

表 7-2 審査の経過と協働類型

協働 選定スケジュール 内 容

Ⅰ・Ⅱ

平成 17年 12月2日 12月 14日

12月 16日~20日 平成 18年 1月 20日

1月24 日 3月3日

3月20 日 5月12 日

5月25 日 5月26 日 6月12~14日 7月14 日 7月19~20日 7月24~26日 8月11 日 8月18 日 8月28~29日 9月4日 9月15 日

9月27~29日 11月 6日

11月 27日

12月 4日

実施方針等の公表

実施方針等に関する説明会

実施方針等に関する質問・意見受付 審査委員会(準備会)

・墨田区総合体育館基本計画について

・業務要求水準書(案)について 実施方針等に関する質問回答等公表 第1回審査委員会

・特定事業の選定について

・審査基準について(公表資料の検討)

特定事業の選定・公表 第2回審査委員会

・募集要項等の公表資料について

・審査基準について(公表資料の検討)

募集要項等の公表

募集要項等に関する説明会 募集要項等への質問の受付 募集要項等への質問の回答

募集要項等への質問の回答への質問の受付 提案範囲の受付

提案範囲の確認通知

募集要項等への質問の回答への質問の回答 参加表明書及び参加資格確認申請書の受付 資格確認通知の発送

第3回審査委員会

・参加資格確認の結果について

・ 審 査 基 準 ( 加 点 評 価 Ⅰ 及 び 加 点 評 価 Ⅱ の 具 体的審査方法)

提案書の受付 第4回審査委員会

・事業者ヒアリング

・提案審査(基礎審査、加点評価Ⅰ)

第5回審査委員会

・ 提 案 審 査 ( 基 礎 審 査 、 加 点 評 価 Ⅰ 及 び 加 点 評価Ⅱ)

・優秀提案及び次点提案の決定 優先交渉権者の公表

(出所)墨田区(2007)をもとに作成

(20)

(2)公共領域の深化仮説

以上みてきたように、墨田区体育館PFIでは、公平かつ公正で透明性の高い競争 が求められる性格上、フォーマル組織による手続が重視されている。そして、本件 においては、制度的な手続に沿っているとはいえ、PFI の目的である VFM 達成に 向けて、可能な限り「組織フィールド」のアクターからの情報資源を吸収している 事実が確認された。

では、前表の協働類型Ⅲの「質問-回答」プロセスについては、公共領域の深化 仮説との関係ではどのようにとらえることができるだろうか。

この点について、サッカーは、(a)協働形態自体のタスクの存在、(b)役割の確定、

(c)協働目的についてのコンセンサス、(d)特有の制度的環境について結びついている

こと、がみられる場合に「未完の階層制(inchoate hierarchies)」であるとして「進 化する組織(organizational in development)」であるという(Thacher, 2004)214。 このうち、(a)および(c)については、肯定可能である。なぜなら、すでに「実施方 針 」 が 公 表さ れ て い るこ と か ら タス ク が 存 在し ( →(a))、 協 働 目 的に つ い て の コ ン センサス もある(→(c))。 しかしながら、(b)について は、まだ質 問者は相互 に競争 状況にあり、役割が確定しておらず、(d)についても、まだ密接に結びついていると 認められるほどの関係には入っていない。

一方で、「質問-回答」プロセスは PFI 一般に観察され制度化をみているもので あり、フォーマル組織としての審査委員会と一体的に運用されている。そこで少な くとも、「フォーマル組織的形態」の発現であるといえるものと考えられる。そして、

競争の公平性と公正性を確保する見地から、あえて、フォーマルなコミュニケーシ ョン経路を形成しているものと考えられる。

以上の検討から、墨田区体育館 PFIの公共領域は、フォーマル組織あるいはフォ ーマル組織的形態を通じて深化しているものと考えられる。インフォーマルなコミ ュニケーション経路については、競争的な審査手続の段階ではなじみにくいために 観察されていない。

214 詳 細は、第 4章 3節 4項(2)②および第 5章を参 照。

(21)

第3節 東京都がん・感染症医療センターPFI における公共領域の組織過程 東京都では、JR山手線田端駅から南方に 15分ほどの場所に位置する現・駒込病 院について、PFI を活用して、老朽化した病院施設を使用しながら、最先端の医療 施設整備を伴う改修事業をすすめている。本節では、がん・感染症医療センターPFI の公共領域の形成と深化について、順次論じることとする。

第1項 がん・感染症医療センターPFIの公共領域の形成

本項では、「公共領域の窓モデル」にしたがって、東京都病院経営本部が主体とな って進める「がん・感染症医療センター(仮称)」(以下、「(仮称)」を省略する)にかか るPFIでは、どのような内容の 4つの流れが存在し、どのような時点に合流して公 共領域の形成をみたのか、あるいは、形成をみていないのかについて論じていく。

が ん ・ 感 染 症 医 療 セ ン タ ーPFIに つ い て は 、 病 院 経 営 本 部 が す す め る 病 院 経 営 改 革の一部を成している。そこで、以下の記述も経営改革全体の経緯についての記述 を 中 心 と し 、 改 革 の な か で が ん ・ 感 染 症 医 療 セ ン タ ー のPFIの 位 置 づ け を 明 ら か に していく215。また、病院経営本部のマネジメントを行う本庁職員側、なかでも都立 病院の経営企画機能を強化し、再編整備を推進する経営企画部からの考察を核とし たい。

結論的には、平成 15 年 1 月の「都立病院改革実行プログラム」の策定をもって がん・感染症医療センターPFIの「公共領域の窓」が開かれたことを明らかにする。

(1)政策的課題

がん・感染症医療センター(旧:駒込病院)の概要216 を素描した後、東京都の 病院経営改革の経緯について論じる。

①駒込病院の概要

駒込病院は、改築を経て昭和 50 年に新駒込病院として開設された。都内全域を

215 た だし、本論 文では、病 院経営改革 のなかでPFIに 関連す る部分、特 に財務・財 政 的部分を中心に記述を行う。東京都が提供する医療サービス 自体の内容 等について は、

PFIに 関 係して いる部分に 限ってとり あげること としたい 。また、一部 、現在の福 祉保 健局 が所管する 病院(「老人 医療センタ ー」)もある ものの、本論文では病 院経営本部 が 所管 する病院と 改革につい て考察を行 う。

216 東 京都病院経 営本部ホー ムページ(http://www.cick.jp/docs/juuteniryo.html). 2007.10.23取得.

表  7-2  審査の経過と協働類型  協働 選定スケジュール  内  容 Ⅲ  Ⅱ  Ⅲ  Ⅱ  Ⅱ  Ⅲ  Ⅲ  Ⅲ  Ⅲ  Ⅲ  Ⅲ  Ⅰ  Ⅱ  Ⅰ  Ⅰ・Ⅱ  Ⅱ  平成 17 年 12 月 2 日 12月14日 12月16日~20日 平成18年1月20日 1月24日 3月3日 3月20日 5月12日 5月25日 5月26日 6月12~14日 7月14日 7月19~20日 7月24~26日 8月11日 8月18日 8月28~29日 9月4日 9月15日 9月27~29日 11月6日 11月27日

参照

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