早稲田大学大学院 環境・エネルギー研究科
博 士 論 文 概 要 書
論 文 題 目
企 業 に お け る 環 境 経 営 戦 略 の 動 向 分 析 に 関 す る 研 究
Research on trend analysis of the corporate eco-management strategy
申 請 者
伊 藤 由 宣
ITO Yoshinori
環境・エネルギー研究科 環境配慮デザイン研究
2013 年 2 月 氏 名
研究科・研究指導 (課程内のみ)
2
企業はさまざまなステークホルダーからの要請や期待に応えつつ継続的な利益の確保や 企業価値向上が求められるが、環境経営戦略の立案にあたり意思決定に必要となる情報は、
現状においては経営者に対して必ずしも十分提供されているとはいえない状況である。こ れまで企業の評価は主に財務的観点である売上や利益などが共通の指標として利用されて きたが、近年は環境会計をはじめとして様々な観点で環境負荷や環境配慮を測定する新た な視点が定着し始めている。しかしながら、持続可能性を志向する企業としてどのように これらの情報を積極的に活用しうるのかについては検討の余地が残されていると思われる。
本研究では、個々の企業における環境規制や環境配慮などの対策に関する指向に対して、
企業の過去データを使用して実証分析の結果に基づいた適切なモデル化や定量化のための 手法を開発し、これらを統合することで環境経営戦略立案の支援システムとして必要とな る要件を整理し、それぞれのメカニズムを明らかにしていくことを目的としている。
本論文は6章から構成されている。
第1章では主に本研究の背景・目的を明確にする。世界規模でみれば新興国を中心とし た人口増加、や都市化などの社会問題が起きると同時に資源枯渇や環境汚染、地球温暖化 などの環境問題に直面している時代である。現在の企業が直面するこのような経営環境の 中で、社会との関わりなどについてその推移を振り返り、どのようなステークホルダーか らいかなる要請が求められているのか、また、将来の持続可能社会における企業の役割と いう観点での要請など、本研究の必要性についてまとめている。
第2章では、企業活動の成果としての環境パフォーマンスと財務パフォーマンスがどの ように影響し合うのかの関係性を明らかにする。国内の製造業約400社の過去6年間の 実績データを用い、様々な視点から分析をすることで従来モデルの追試をはじめ、新たな 分析の中から各企業の環境経営に関する特性や位置づけを明らかにすることを試みている。
分析の結果から想定される仮説を確認するとともに、新たに個々の企業が環境配慮指向と 企業価値向上の関係において大きく4つのパタンで分類されることなどを検証し、高パフ ォーマンス企業の特性についての解析を行った。
第3章では、企業の環境に関する要求事項を確認し、関係する要素を抽出することで相 互の影響状況を明らかにしている。環境対策には規制に対する汚染対策や資源循環対策や、
それを製品レベルにまで組み込むというような具体的なものの他に、企業として環境配慮 を指向していることをステークホルダーに対して主張する為の情報発信的施策も考えられ る。これらの解析に向けてのモデルの構築にあたっては潜在変数を扱うべく共分散構造分 析手法を適用した。結果として企業の財務指標に対して環境規制対応要因がマイナスの影 響を与え、環境情報開示要因がプラスの影響をもたらすことを確認した。また、環境要件 や企業の対応方法は業種毎で異なり、それぞれの特徴を明らかにすると同時に、企業価値 向上に向けての施策の検討に有用な情報や考え方を解析により明らかにした。
第4章では、環境経営戦略の立案にあたり、どのような投資行動が企業価値に対して高 パフォーマンスをもたらすのかについて、その要因をモデル化し、企業属性毎に検証する ことでその特性を明らかにすることを目的とした。これらの投資行動や環境対策がどのよ うにイノベーション効果として影響しているかについて着目し、モデルの潜在変数として ここでは環境対策、投資行動、イノベーション効果および財務パフォーマンスの4つを設 定し、双方の影響度合いの組み合わせとして19通りの基本パタンについて企業属性毎の シミュレーションを行うことで特性を明らかにした。このなかで、企業規模においては、
大企業が環境対策に注力する一方で中堅企業は投資行動がマイナスの財務影響を及ぼして
3
いることが確認された。また、業種分類において基礎素材型業種は大規模企業とモデルが 類似しており、双方ともにマイナス影響をだしつつも環境対策を施しており、組立加工型 業種と中堅企業は双方共に投資行動が財務パフォーマンスに対してマイナスの影響をもた らしているなどの類似した特性を観察することができた。
第5章では、環境経営戦略策定において検討しておくべきより有利な外部資金調達に関 する方針についての実態を、企業が社会的責任投資に選定されているか否かという観点で 明らかにすることを目的とした。まず、財務・環境評価項目での比較と同時に企業価値の 時系列での推移についてSRI選定企業がパフォーマンスを上回っていることを確認した。
また、企業価値を従属変数として双方について各評価項目での回帰分析を行ったところS RI選定企業は製品配慮や温暖化対策により影響を及ぼしているのに対して、SRI非選 定企業は利益率や研究開発費売上比率が影響を及ぼしていることが解った。このことはS RI選定企業が感興対策などの長期的視点での施策が影響していることと一方で、SRI 非選定企業は利益などの短期的視点での対策が中心になる傾向にあることを示している。
さらに、どのような企業がSRIファンドとして選定される要因があるかを決定木での分 析をした。結果からみられる実態としては比較的投資資金に余力のあると思われる大規模 企業を中心として選定される割合が高いが、一方で小規模であっても割合は低いものの環 境要因を含めた要因においても選定されるケースがみられるなどの特性を検証した。しか しながら、社会的責任投資に関して国内では十分に成熟しているとはいえない現状が明ら かになった。
第6章では、本研究の結論と今後の展開を述べる。
今後の展開としては、本研究にて扱ってきたモデルや手法などを統合的に整理し、現状 のデーターベースを使用するなかでツールとして積極的に活用していくことが重要と考え ており、実務においてデータやさらなる知見を蓄積し、検証を重ねるなかで適用範囲を広 げていきたいと考えている。また、本研究の実用化後のさらなる展開として、企業や自治 体向けの活動を促進するためにもコンサルティング・ファームへは手法やデータを提供し、
企業に対しては具体的な環境をはじめとしたESG関連の評価手法や、イノベーション施策 に関するナレッジを提案する。また、金融機関や各付け機関に対しては現実的かつ効果的 な SRI 組成に向けての提案、一般投資家に対しては企業の社会的責任の重要性とその実績 により啓蒙活動をはかることで意識改革を促す。また、グローバルスタンダード確立の一 環として政府や国連機関へは政策提言につながるような規格起案に繋げるべく大学や学 会・研究機関とは解析データを共有することで継続的な分析手法の改善を目指していきた いと考えている。