経済統計Ⅱ
第1回:イントロダクション
─経済統計の利活用の概観
2016年9月19日
元山斉
石田和彦・吉野克文・美添泰人
本講義の概要、目標等(シラバスより)
(講義の概要)
・ 現実の経済活動の分析や経済理論の実証的な検証を的確に行うためには、統
計学・計量経済学と並んで、経済に関する様々な統計データについての知識・理解
が不可欠です。本講義では、経済統計制度、各種経済統計データの作成方法、そ
れらの特徴点や利用上の留意点等、経済統計に関する基礎的な事項を体系的に
解説すると同時に、経済統計データを用いて現実の経済を分析する様々な方法を
学びます。その際、数回の課題を通じて、受講者自身が実際に統計データに触れ、
自分の手で分析作業等をしながら、データの性質や分析手法についての知識を、
実際に使える形で身につけることを重視します。あわせて、講義期間中に重要な統
計データが公表された際には、その意味、解釈等について簡単な解説を行い、経
済統計からみた最新の日本経済動向について、理解を深めていきます。
(達成目標)
①基本的な経済統計資料の読み方を修得すること
②その分析方法の基礎を実際に使える形で身につけること
③経済統計からみた最新の日本経済動向について理解を深めること
(復習) 経済統計の種類(1):作成者による区分
① 公的統計: 政府、地方公共団体、独立行政法人、日銀等が作成・公表する統計 ── 公的統計に関する法律: 統計法(平成21年4月改正・全面施行) ── 基本理念(中立性、信頼性、利用の容易さ等)、作成手続き、統計基準(分類基準等)、 等が定められている ⇒ 「統計法」に基づき、一定の品質管理が行われている ② その他の統計(民間統計): 上記の公的統計作成主体以外が作成・公表する統計 ── 実際に、作成・公表主体となっているのは、政府等の外郭団体(独立行政法人等に含 まれないもの)、業界団体等が多い ── 業界統計の例:『百貨店売上高』(日本百貨店協会)、『新車登録台数』(自販連)等 ── 民間調査機関、企業等が作成・公表しているケースもある(有料のデータとして、購入 者に限定的に提供されるもの等もある) ⇒ 玉石混交状態(品質管理がない)であり、利用には十分な注意が必要 3(復習) 経済統計の種類(2):作成方法による区分
① 1次統計: 調査対象から直接収集したデータを集計したもの
①-1 調査統計: 統計を作成するために調査を行う(統計調査という)
・全数調査(センサス): 対象を全て調べる(悉皆調査)
── 『国勢調査』、『経済センサス』が代表例
・標本調査: 一部の対象(標本)を調べて、全体(母集団)を推計する
(→標本調査理論)
── 『家計調査』、『労働力調査』、『短観』、等
①-2: 業務統計: 行政記録等から得たデータを集計して統計にする
── 『通関統計』、各種税務統計、多くの金融統計、等
② 加工統計: 1次統計を加工することで作成される統計
── 代表例は、『国民経済計算』、『産業連関表』、『資金循環表』
(復習) 経済統計の種類(3):統計法上の区分
① 「基幹統計」: 政府が作成・公表する統計のうち、重要なもの ── 『国勢統計』、『国民経済計算』:統計法に基幹統計と定められている ── それ以外の基幹統計は、統計委員会への諮問を経て、総務大臣が指定 → 「基幹統計」の要件: ⅰ) 全国的な政策の企画立案・実施上重要な統計 ⅱ) 民間の意思決定・研究活動に広く用いられる統計 ⅲ) 国際比較を行う上で重要な統計 ── 基幹統計を作成するための統計調査には、回答義務がある(統計法の定め) ② 政府が作成する、「基幹統計」以外の統計(通称「一般統計」) ── 統計調査により作成する場合は、総務大臣の承認が必要 ── 調査対象に明示的な回答義務はない ③ 地方公共団体、日銀が作成・公表する統計 ── 統計調査により作成する場合は、総務大臣への届出が必要 ── 調査対象に明示的な回答義務はない 5(復習) 経済統計の種類(4):統計体系
① 構造統計(5年毎、「ベンチマーク」統計)
── 基本的には、『国勢調査』、『経済センサス』等の全数調査がベンチマーク
となる(⇒母集団情報を得る)
── 詳細な調査項目(詳細なデータを収集し、以後5年間の調査の基礎とする)
② 構造統計(毎年、年次統計)
── 多くの場合、標本調査(ベンチマーク統計に基づき標本設計)
── 経済の構造変化を端的に捉える調査項目
③ 動態統計(四半期、月次)
── 通常、標本調査(ベンチマーク統計、ないし年次統計に基づき標本設計)
── 売上高、生産高、従業者数等、短期的な経済活動水準や景気の判断に重
要な項目を訊く
QUIZ(1): 2014年の統計調査士検定問題例
(復習) 時系列データのグラフ:
実質GDPと実質個人消費
9 データ出所:「国民経済計算」内閣府経済社会総合研究所
(復習) 時系列データの散布図
(復習) 時系列でないデータ(クロスセクションデータ)の例
── 勤労者世帯の実収入と消費支出の関係(都道府県庁所在市別)
11 データ出所:「平成25年家計調査年報」総務省統計局
QUIZ(3)
• 前頁の散布図で、都道府県別ではなく、県庁所在地別のデータであ
る理由を家計調査の標本設計をもとに答えよ。
(復習) 時系列データの散布図(続き)
時間の順序と間隔に依存していて、その情報を無視できない
13 データ出所:「国民経済計算」内閣府経済社会総合研究所
(復習) 時系列データの観察:実質GDPを例に・・・(続き)
・ 実質GDPのグラフを観察すると:
① 長期にわたる傾向的な変動 ⇒ 「長期変動」(トレンド)
T
② トレンドに沿った周期的な変動 ⇒ 「循環変動」(サイクル)
C
観察期間が短いときは長期変動 T と区別できないことが多い
⇒ トレンド・サイクル
TC
と呼ぶ (長期変動+景気循環)
③ 季節性のある周期的な変動 ⇒ 「季節性」(季節変動)
S
④ 一般に規則性を持たない変動も少なくないように見える・・・
⇒ 不規則変動(偶然変動)
I
時系列データの分解:
y
t= (T
t+ C
t) + S
t+ I
t⇒ 通常、最も知りたいのは
(T
t+ C
t)
(長期変動+景気循環)
15(復習) 時系列データのトレンド:移動平均
── 当期を挟んで2n+1個の観測値の平均をとる
17 データ出所:「国民経済計算」内閣府経済社会総合研究所