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異文化圏からの人々の出産に対する助産ケアの現状

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Academic year: 2021

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原  著

異文化圏からの人々の出産に対する助産ケアの現状

─文化を考慮したケアの実現に向けて─

Midwifery care for people from diverse cultures at childbirth

─Aiming for actualization of culturally congruent care─

藤 原 ゆかり(Yukari FUJIWARA)

* 抄  録 目 的  近年,増加傾向にある異文化圏からの人々の出産に対して,出産は文化的な要素を強く反映する事象 であることを踏まえ,文化を考慮したケアを模索するため,今回は臨床でのケアの現状と課題を明らか にすることを目的とした。 対象と方法  研究デザインは質的記述的研究である。方法は研究者が作成したインタビューガイドを用いた半構成 的面接法によりデータを収集し,内容分析を行った。調査対象は都内の産婦人科病棟で異文化圏からの 人々のケア経験のある臨床助産師16名である。 結 果  助産師は異文化圏からの人々に対して,気持ちがわからないその場限りの関係で,お互いにストレス がたまる,また,ストレートな表現や意外な反応・自分の意見を貫く態度に戸惑うとしながらも共通の 言語だけがケアに重要ではない,相手を知ろうとする態度が関係性を変えることも認知していた。さら に特殊なバックグラウンドや病院のシステム・役割の違いという社会的側面も認知に影響していた。出 産にかかわる文化については出産に対する認識の違いや助産師の役割の違いによる戸惑い,希望への配 慮とルールを越える慣習への対処の難しさを感じながら,今後のケアについてはよいお産をしてほしい と願い,多職種との連携やサポートシステム構築の必要性も認知し,ケアの向上を目指していた。 結 論  臨床の助産師は,コミュニケーションの難しさや出産文化の違いを認知しながらも異文化圏からの 人々を尊重しようと努力し,よいお産をめざしてケアを提供していることが明らかになった。しかし, 多職種との連携やサポートシステム構築が,ケアの向上には不可欠であることも示唆された。 キーワード:文化を考慮したケア,多文化,異文化圏からの人々,出産,助産ケア *

聖路加看護大学大学院博士後期課程 母性看護・助産学専攻(St. Luke’s College of Nursing Graduate School, Maternal Infant Nursing & Midwifery) 2005年9月29日受付 2006年3月23日採用 日本助産学会誌 J. Jpn. Acad. Midwif., Vol. 20, No. 1, 48-59, 2006

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Abstract Purpose

The purpose of this study is to identify actual situations and problems at childbirth in clinical settings, when midwives provide care for people from culturally and linguistically different backgrounds who have settled in Japan, considering cultural issues in childbirth.

Method

In this descriptive study, data were collected using semi-structured interviews, following initial interviews, both of which were conducted by the researcher. The subjects of the study were sixteen midwives who were working at maternity wards in hospitals in Tokyo, and who had experience of caring for people from diverse cultures. Context analysis was conducted to develop a coding system, and the data was then revised into meaningful categories. Result

Midwives recognized that they often didn't understand the feelings of people from diverse cultures, and often felt uncomfortable when interacting with them. They found relationships with people from diverse cultures to be stressful, but believed that having the same language is not important in communication. They also had the attitude that it is important to get to know people from diverse cultures in order to develop a positive relationship. As[m1] for childbirth culture, the midwives felt confusion in relation to different attitudes towards childbirth, and a dif-ficulty in providing care that was in accordance with cultural practices, as this would sometimes deviate from the hospital rules. However, the midwives wished to provide culturally appropriate care at childbirth for people from diverse cultures, just as much as they would wish this for Japanese people. They aimed to do this by collaborating with other healthcare practitioners.

Conclusion

It was noted that midwives recognize difficulties in communication and differences in childbirth culture, and that they make an effort to provide care that respects cultural practices so that the mothers have wonderful child-birth experiences. However, the establishment of systems in which there is collaboration with other healthcare practitioners is essential to improving care for people from diverse cultures.

Key Words: culturally congruent care, cultural diversity, minority group, childbirth, midwifery

.緒   言

 近年,日本においてもグローバル化が進み,異文 化圏からの人々との共生は特別のことではなくなって きている。2004年の日本への外国人入国者数は675万 6,830人で,前年に比べ102万9,590人(18.0%)の増加 が見られる(法務省入国管理局, 2005)。また外国人登 録者数は191万人を超え,これは過去最高を更新して おり,我が国総人口の1.50%を占めている(法務省入 国管理局, 2005)。この人口動態に伴って,日本にお ける異文化圏からの人々の出生数も年々増加しており, 2003年の日本における異文化圏からの人々の出生数は, 21,522(父母の一方が外国人)であった(厚生労働省大 臣官房統計情報部人口動態・保健統計課, 2003)。こ れは近い将来,52人に1人は異文化圏からの人々の出 産が予想される状況にあることを示している。出産は どの文化でも普遍的に存在しているが,文化によって 特にその認識やケア方法は多様である。その多様な出 産が日本で増加している現状であるといえる。  Leininger(1992/1995)は,文化の中で確立している ケアに従うことは,その人にとって大きな意味があり 精神的安寧につながると述べている。文化的な儀礼や 習慣が大きく反映される出産においても,その人の文 化に従った妊娠・分娩・産褥を過ごすことが,女性や 子供,家族にとって大きな意味をもつといえる。また Rubin(1984/1997)は,妊娠・分娩・産褥はアイデン ティティを感じさせる体験であることからも,出産は 人生の中で大きな位置を占め,その経験をどのように 受け入れたかがその後の生活をも左右する可能性があ ると述べている。そのため出産へのケアは,文化を尊 重しながら提供する必要があるといえる。  日本において,文化を考慮したケアを考える前提と して,Fujiwara(2003)と藤原(2004)は,日本の特徴 について文献的考察を行っている。それによると,日 本人が異文化からの人々との関係を持つことの難しさ を説明している。例えば,歴史上異文化との接触に不 慣れなため,不快な感情を持つことが多く,メディア 等のつくる印象に左右されやすく,異文化に対してス テレオタイプな見方をする傾向にあることや,他の国 より貧富の差が少なく経済力があることから自国が優

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れていると感じやすいことや,教育水準の低い国に対 しての差別的な感情を持ちやすいことなどが指摘され ており,共存には多くの課題が在るといえる。臨床に おいても,異文化圏からの人々と出会う機会が増えて いるにもかかわらず,関わりの中での難しさがあり, ケアへの注目はまだまだ低いと報告されている(井上, 2000;岩本, 2000;小野, 2000)。これらの日本人の特 徴と異文化圏からの人々の出産件数の増加状況をふま え,出産における異文化圏からの人々に対しての文化 を考慮したケアを探求していくことが必要であると考 える。  本研究は,今後,ますます人口増加が予測される異 文化圏からの人々に対するケアを含めた将来の助産ケ アを模索していく上で,まずは現在の状況と課題を明 らかにすることを目的とした。実際に臨床の助産師は 異文化圏からの人々に対して何を感じたり思ったりし ているのか,またどのようなケアを提供しているのか, その課題は何かを知るために調査を行った。

.研 究 方 法

1.研究デザイン  本研究は,帰納的な質的記述的研究である。 2.調査期間  2004年7月∼11月 3.研究対象  対象者は首都圏の6ヵ所の総合病院(A∼F)の産婦 人科病棟勤務の助産師で異文化圏からの人々に直接ケ アを提供した経験のある16名である。 4.調査方法および分析方法  調査方法は,研究者が作成したインタビューガイ ドを用い半構成的面接法で行い,同意を得て内容を録 音した。面接は,文献検討を踏まえて作成したインタ ビューガイドに沿って質問した。主な内容は1)異文 化圏の人々に対する認知について2)出産にかかわる 文化に対する認知について3)今後のケアへの展望と した。  データの分析は,面接項目に沿ってデータをわけ, 各質問項目への答えを表していると考えられる内容の コード化を行って抽象的な名前をつけ,同じような内 容を示しているものをグループにして集めた。その後 カテゴリー化して内容を表す名前をつけた。データの 信頼性を得るために,面接終了後直ちに逐語録を作成 して対象者に郵送し,対象者が面接内容の確認を行い, その後研究者に返送してもらった。また,内容に対し て,理解の相違がないか直接確認も行った。結果の信 頼性を保つため,助産学の研究者とともに分析を行い, カテゴリーの検討を重ねた。 5.倫理的配慮  対象者には,研究者が研究の目的,方法,対象者の 権利と研究者の守秘義務,本研究の結果は公表する可 能性があることについて口頭と書面で説明し,研究承 諾書への署名により同意を得られた対象者のみに調査 を行った。面接は,プライバシーを厳守するために個 室で行った。また面接時間は,対象者の希望を尊重し 勤務に支障のない時間帯に行った。なお,本研究は, 神奈川県立保健福祉大学の倫理審査委員会の審査を受 け承認を得ている。

.用語の操作的定義

文化:ある特定の集団の思考や意思決定やパターン化 された行為様式を支配する学習され共有された価値 観・信念・規範・生活様式を意味する。(Leininger, 1992/1995) 妊娠・出産・産褥に関する文化:ある特定の文化の中 で形成され,共有され,伝承された妊娠・出産・産 褥に対する価値観・信念・規範あるいは価値観・信 念・規範に基づく行動様式,伝統儀式,慣習をいう。 文化を考慮したケア:有意義で有益で満足感をもたら すようなケアまたは安寧のためのサービスを提供も しくは支持するために,個人,集団,組織の文化的 価値観,信念,生活様式に合わせて行われる援助的 かつ支持的で能力を与えるような行為または意思決 定を意味する。(Leininger, 1992/1995) 異文化圏からの人々:人為的・政治的な枠組みや意味 を深く持つ国・国境という捉え方ではなく,長い間 の生活・習慣・自然環境などに基づいて,価値観・ 信念・規範・生活様式が確立し,それに生活が影響 されている人々。独自の文化とは異なった文化に移 動してきた人々で,自文化とは異なる文化集団や 人々と共存している人々。本研究では特に現在日本 で生活している人々を指す。

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.結   果

 全対象者16名の経験年数の平均は7.5年(0.3∼23年) であった。A病院で出産する異文化圏の人々は韓国・ 中国・フィリピンなどのアジア圏からが多く,1ヶ月 の分娩件数の約30%を占めており,不法に滞在して いる人々の分娩が多かった。B病院は,異文化圏の 人々の分娩が月の出産数の約10%を占めており,ア メリカ・カナダ・オーストラリアなどの英語圏からの 人々やヨーロッパからの人々と,また中国・韓国・イ ンド・フィリピンなどのアジア圏からの人々が多かっ た。アジア圏からのほとんどは低所得であった。C病 院は,異文化圏の人々のほとんどが高所得のヨーロッ パ圏からの人々が多く,アジア圏からの人々は少数で あった。1ヶ月の分娩件数の約15%であったが,院内 には通訳のボランティアサービスもあったが利用は少 なかった。D病院も,アジア圏からの人々がほとんど であり通訳のボランティアサービスがあったが,1ヶ 月の分娩件数は5%であった。E病院では,異文化圏 の人々の来院が少なく,1ヶ月の分娩件数の約0∼3% であった。国籍は中国がほとんどであった。F病院は 国籍が多岐にわたるが,その中でもスペイン,アメリ カ,中国が多かった。院内に通訳のボランティアサー ビスがあったが,1ヶ月の分娩件数の約3%のみであっ たためほとんど利用されていなかった(表1)。  面接内容の結果は,インタビューガイドに沿ってそ れぞれ分類した。1. 異文化圏の人々に対する認識とし ては,1)コミュニケーション成立か否かに影響される こと,2)社会的側面に影響されること,3)文化や特有 なものに影響されること,の大きく3つに分けられた。 さらにその中でカテゴリーが抽出された。 1.異文化圏の人々に対する認知 1)コミュニケーション成立か否かに影響されること  コミュニケーション成立か否かに影響されること では,5つのカテゴリーが抽出された。言語の違いは ケア提供には壁であるという内容が多かったが,出産 においては完璧な言語能力は必要なく,特に分娩時は ジェスチャーで乗り切ることも可能であるし,また言 語がわからなくても,相手を知ろうとする姿勢が,お 互いに歩み寄り理解しようというコミュニケーション につながるという意見もあった。 〈気持ちがわからない人々〉  言語の問題で難しさを感じると答えた人が大半を占 めた。医療現場では,言語そのものがわからないと正 確に情報が伝わらない上に異文化圏の人々のニーズが 把握しきれず,ケアに満足しているか否かがわからな いと答えていた。 ・無理してあわせてもらっているかもしれないし,すべ てがうまくいっているのかもしれない。そう思ってい るのは私たちだけで彼女たちがどういう風に思ってい るか分からない。 ・伝えてあげられないっていうか,理解してもらってな いっていうか。聞き流しているなぁ,っていう人もい ます。 ・言葉が通じないことによって症状の把握ができなかっ たり,しにくかったり。私たちが韓国語や中国語を話 せれば受け入れに全く問題がなかったでしょう。相手 を理解するには,話さないと分からない部分があるか ら。やっぱり言葉の壁は非常に大きいです。 〈行きにくいし,足が遠のく,あるいは,その場限り の関係の人々〉  言語的コミュニケーションという手段がないと,ど のように意思疎通をはかればよいかわからなくなり, また時間や手間がかかることもあり,深くかかわりた 表1 各病院における異文化圏の人々の分娩状況 病院 異文化圏の人々の分娩数の割合 国     籍 備     考 A 30% 韓国・中国・フィリピンなど B 10% アメリカ・カナダ・イタリア・ドイツ・オーリトラリア・中国・韓国・インド・フィリピンなど オープンシステムあり C 15% ドイツ・フランス・アメリカ・スペイン・インド・中国 院内に通訳のボランティアサービス D 5% 韓国・フィリピン・タイ・カンボジア・スペイン・マレーシア・スペイン 登録ボランティアの通訳サービスあり E 0∼3% 中国・アメリカ F 3% 中国・アメリカ・フランス・スペイン・インド 登録ボランティアの通訳サービスあり

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くない人々であるという印象が強かった。 ・外国人だから特別なケアをしているわけではないです けど,説明や観察に時間がかかるので,一度に済ませ るとあまりお部屋に行かなくなります。 ・特に問題なく経過されると,ほとんどお話をしないま ま退院になって。でも(スタッフ同士で)それで「よかっ たね」。っていう感じになります。 ・人手がとられてしまいますから。 ・英語とか聞きなれた言語だとまだいいですけど,フラ ンス語やスペイン語だとぜんぜんわからないので,そ の場にいる時間がすごく短くなってしまいます。会話 なし,という感じになります。 ・必要な言葉を家族やお友達の方に訳してもらって,説 明に使ったりしますが,メモに書いたり,紙に書いた りして,次に生かすために(メモなどを)とっておいた り,(対訳表など)何か新しく作ったりということは無 いです。そんなに頻繁に来ないので。 〈お互いにストレスがたまる人々〉  ケアは説明をして理解や同意の上で行うが,その 根本が成立しないために関係を築きにくく,ケアがス ムーズに行かないことに苛立ちをお互いに感じている 様子が多く見られた。 ・挨拶程度ならいいのですが,具体的な話になるとその 場で辞書などを使用して話をするのでお互いにストレ スがたまる感じでした。 ・コミュニケーションについて実際にストレスフルと (本人から)いわれたことがあります。 ・日本語と英語で特に問題なくコミュニケーションを とっていて,いつも笑顔で「大丈夫。」といっていた方 が,実は寂しくて,夜にいつも泣いていたことがわか り,後になってストレスがたまっていたことがわかっ たこともありました。 ・日本語じゃだめなんだ……,なんかめんどくさい……。 と感じる。 〈共通の言語だけがケアに重要ではない〉  コミュニケーションを図る上で,言語がわからない ことだけを問題視する人は少なかった。身振りや手振 り,片言の言語で分かり合えると指摘していた。 ・基本的にはあまり言葉は問題にしていないです。日本 語を話せなくてもなんとかコミュニケーションをとろ うとします。絵を描いたりジャスチャーで。 ・ボディランゲージや表情である程度伝わっていると思 います。だから言葉が分からないというのは壁ではな い。 ・お産は言葉以外のコミュニケーション,例えば目で訴 えたり,ジェスチャーでできたりしちゃうんだなって いうのが,経験上あります。 〈相手を知ろうとする態度が関係性を変える〉  言語がわからないので関わりを避けたいという人も いた。その一方で,どうにかして意図を伝えようとい う姿勢からコミュニケーションが成立したかもしれな いという経験があると,次回からまた関わりをもつ意 欲につながり,関係性の変化を実感として感じていた 人もいた。 ・日本語のわからない方に対してケア自体も気持ちよ かったのかもしれませんが,言葉が通じなくとも触れ たり,マッサージするケアのあとは雰囲気や表情など の返ってくる反応が違う。体に触れるような機会あれ ば,それがきっかけで仲良くなれるような気がします。 ・挨拶だけでもその言語で話すと,全然反応が違ったり するので,コミュニケーションのきっかけになると思 います。 ・通りすがりのスタッフではなく,あなたを見ているの は私ですというアピールが必要だと思います。 2)社会的側面に影響されること  カテゴリーは2つ抽出された。インタビューの対象 者の病院施設により,異文化圏の人々の印象が大きく 影響されていた。それは,病院の理念や役割,あるい は地域環境によって病院としての対応や受診する人々 のバックグラウンドの違いによるものであった。 〈特殊なバックグラウンドによる決めつけ〉  いくつかの病院における異文化圏からの妊産婦の多 くは,社会的背景が特殊で,不法滞在者や低所得者が 多く,分娩費用を未納のまま退院,あるいは失踪して しまうケースもあった。そのため,懸命にケアに臨ん でいる助産師の士気が低下している現状が存在してい た。 ・不法滞在とか,日本人と婚姻関係になっていないけど 妊娠した人とか。未納の人はほとんど外国人。だから (外国人に会うと)支払いできるかなあ?ていう気持 ちが出てしまいます。結局払わないと「あーまた裏切 られた」っていう感情が残るし,次の人にもすぐそう 思っちゃう。 ・外国人が来ると払えるのかなってまず思ってしまう。 〈病院のシステムや役割による違い〉  その病院の理念や設立の意図,例えば宗教に関連す る施設や国際的な病院であったり,あるいは立地して

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いる地区周辺の環境に大きく影響され,印象が違って いた。またオープンシステムという方法を使用する妊 産婦は,出産に対しての関心が高く医療者への欲求も 強かった。 ・日本で考えられないことだからといって否定するつも りはない。 ・オープンシステムの方はバースプランがはっきりして います。 3)文化や特有なものに影響されること  カテゴリーは1つ抽出された。 〈ストレートな表現や意外な反応・自分の意見を貫く 態度に戸惑う〉  日本人だと多少予測できる反応も,異文化圏からの 人々の場合は全く解釈が違い予測できない答えに対処 できず,戸惑う場面が多いと話していた。また助産師 としての判断を伝えても,自分の考えや方法を変えず 貫き通す態度が戸惑いの要因となることもあった。 ・日本人だとあいまいに表現したり,ニュアンスで伝え たり,そのほうが良い場合がありますが,外国人の方 ははっきりした答えを求めるので戸惑うことがありま す。 ・コミュニケーションがうまくいかないので,その人を 理解するまではなかなかいかないです。そのため,そ の人の個別性を理解するまではいかないので,話して いるときの反応に驚くことがあります。 ・そんなつもりでいったわけじゃないのに,(話した内 容が文化的に違ったのか)ご本人を悲しませるような ことだったということもありました。 2.出産にかかわる文化に対する認知  3つのカテゴリーが抽出された。 〈出産に対する認識の違いによる戸惑い〉  特に分娩において,日本人には少ない大声を出した りパニック状態になったりする妊産婦に対し,その文 化での表現方法として理解を示す人と,ケア後の脱力 感が強く,できれば関りたくないという人もいた。 ・日本で考えられないことだからといって否定するつも りはない。 ・騒いだり大声を出して痛みを表現するが,だんだん疲 れてきて……。できれば避けたい。習慣を知らなけれ ばその人を責めてしまうときがある。 〈かなえられる希望への配慮とルールを越える慣習へ の対処の難しさ〉  健康に害を及ぼしたり,他の患者さんに迷惑をかけ たりすること以外の伝統的な儀礼や慣習は,できるだ けかなえられるように配慮していた。これは何度も同 じようなケースに遭遇し,異文化に対して違和感を感 じなくなったことや経験からの学びによるものであっ た。しかし,それ以上の特殊な習慣を遂行したいので あれば,出産場所の選択が重要であり,病院施設では 限界があると答えた人もいた。 ・(韓国人に)「わかめスープを温めてほしい」といわれ, これが毎日続くのか……と思いました。でも伝統や習 慣だとノーとはいえない。 ・スペインのシエスタ(昼寝)が授乳時間と重なるとき は,そのつど授乳をするのかミルクにしていいのか確 認しながら行いました。スタッフ全員で協力してやり ました。 ・込み入ったことやスタッフの手のかかることは,伝統 であってもやめてほしいことを伝えたり,お断りする こともあります。 〈助産師の役割の違いによる困惑〉  国や文化の違いによって助産師の役割が違うためか, 異文化圏からの人々から依頼される内容に戸惑い,ま た怒りを覚える人さえもいた。 ・ヨーロッパ人とかアメリカからのお金持ちの人は,個 室に入ることが多いです。だからメイドさんと思われ ている部分があるとすごく感じる。1回のナースコー ルですませてくれればいいのに……と感じる。時間の ロスをすごく感じる。 ・インドの人で,国にメイドさんがいるんでしょうか ……カーテンを開けてほしいとか,お茶を入れてほし いとか,看護ではないようなことを頼まれることが多 い。 3.今後のケアへの展望  4つのカテゴリーが抽出された。 〈よいお産をしてほしいという願いとわけへだてない ケア〉  異文化圏からの人々の受け入れに対して消極的な答 えをした人はなく,反対に言語がわからなくとも積極 的に個別指導を行って,日本人へのケアよりも時間を 多く費やす努力をしている人もいた。これは不安が少 しでも軽減するようにという思いと,日本人と同じよ うによいお産をしてほしいという願いからであった。

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また基本的には,日本人と同じようにケアを提供して おり,今後も特別視したりあえて特殊なことをするつ もりもないと答えていた。 ・きっとよその国でうむってすごく不安だろうからその 人のやりたいように少しでもしてあげられたらいいと 思う。 ・産婦さんがどうお産をしたいかって思ってほしいから (日本の方式を)押しつけない。「そうしたい」ってい うのを大事にしたい。 ・不法(滞在)ということは,ケアには関係ない。 〈多職種との連携によるケアの向上を目指す〉  言語の習得や医療通訳の依頼,さらに多文化の情報 を得ることに興味を持っていた。医療現場では,言語 による正確な情報交換が必要であることから,特に医 療通訳に注目していた。出産は予測が難しいため24 時間体制の通訳が望ましいという意見もあった。看護 者ではケアが行き届かない面の補填として,通訳のほ かに話し相手のボランティアというシステムをとり, ときどき訪室してもらうことが精神的な安定につなが るかもしれないという意見もあった。 ・言葉がわからなくても,できるだけそばにいたいって いう思いはあります。 ・お産が終ってから,「国のお産はどうですか」とかを聞 いてみて,スタッフで話し合ってみたい。 ・通訳の人が間に入ってコミュニケーションをとる機会 があればいいと思う。助産師も知ろうとする姿勢を示 さなければむこうは近寄ってこないでしょうね。 〈日本人へのケアに反映していく〉  日常的に行っていたケアも,異文化圏からの人々と の関りによって,より具体的な説明や丁寧な対応が求 められ,日本人へ行っている通常のケアの見直しにつ ながった。そのため,その姿勢を今後のケアに生かし ていきたいという前向きな意見もあった。 ・丁寧に説明することは,日本人にも必要なことだと改 めて感じました。 ・帝王切開のあと早く赤ちゃんに会いたいのは日本人で も同じではないかということをカンファレンスで話し 合い,状態が落ち着いていれば,(だれでも)コットの 状態でお部屋に連れて行くことになった。 〈システム構築の必要性〉  医療通訳者やボランティアの人々を有効に活用す るために,どこに連絡すればよいかというルートを 明確にすることや多言語のパンフレットを作成し,い つでも対応できる体制が必要であるという意見もあっ た。また異文化圏の人々の受診が増えている施設では, サービスを提供する側としての体制作りとして,最低 限の語学習得の準備は必要かもしれないという考えを 述べる人もいた。 ・外国人の方には担当者をつけたほうがいいと思う。言 葉は話せなくとも,とりあえずこの人に伝えれば,伝 わるというルートをはっきりさせておくのは必要だと 思う。 ・とりあえず,英語は話せるといいかなって思います。 ・通訳サービスなどを頼めるルートを教えてあげられた らいいかな……って思います。

.考   察

 本研究で明らかとなった現状は,「言葉」と「文化」 による課題が主であった。これは異文化圏の人々との かかわりやケア提供を考える際に予測される点であり, 本結果もこれらの課題が多くみられた。しかし今回, 更に明らかになったのは,ケアの現状と助産師がケア を提供するときに感じている正直な気持ちや率直な思 いである。重要な点は,この研究結果をどのように生 かすか具体策を考えて,今後に役立つ道筋を立てるこ とである。このテーマに関連するこれまでの調査にお いて「言葉」と「文化」による課題は挙げられてきたが, その解決のための具体策が明らかではなかった。今後 のケア向上実現のため,今回は中村(2003)の視点を 参考に3つのポイントに絞って本結果を考察し,提言 につなげる。  中村(2003)は,外国人医療に関する課題は,大き く「言語・コミュニケーション」「保険・経済的側面」 「保健医療システムの違い」「異文化理解」の4つに集約 されると述べている。この課題を参考に今回の考察の 焦点を,言語・コミュニケーションの問題を含む 1. 日本人の特徴,保険・経済的側面や保健医療システム の違いを含む 2. 医療側の問題,最後に異文化理解 の内容を含む 3. 出産文化の違いとする。 1.日本人の特徴  すべての助産師に共通していたことは,助産師と して異文化圏からの人々を尊重しようと努力し,よい お産を目指してケアを提供していることであった。特 に「よいお産をしてほしいという願い」と「わけへだて ないケア」というカテゴリーからもわかるように,助 産師としてケアに差をつけることなく,すべての人が

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よいお産ができるようにという願いが強かった。しか しそう思いながらも,コミュニケーションの壁によっ て,ケアを受ける人々がどのように受け止めている かわからずに困惑して「気持ちがわからない人々」と 感じ,「行きにくいし,足が遠のく」というように,実 際のケア提供の行動に移るにはハードルがあった。こ れは,共通の言語を持たないことが問題というより は,他の国や文化からの人々に対して「異質の人々」 あるいは「ヨソのヒト」という印象が強いために,コ ミュニケーションを成立させるというよりも,どのよ うに向き合ったらいいのかという戸惑いのほうが強い かもしれないといえる(井上, 1990)。「ストレートな表 現や意外な反応・自分の意見を貫く態度に戸惑う」こ とや「出産に対する認識の違いによる戸惑い」は異文 化についての知識の少なさからくるものといえる。ま た歴史的にも,日本には他国からの移住が少なかっ たために国内に異文化集団が少なく,他の文化に対 してステレオタイプな見方をする傾向にあるといわ れている(Clammer, 1995;Macdonald, 1995 ; Kreinr & Olschleger, 1996 ; Yoshino, 1996 ; Maher & Sugimoto, 1997)。その上,看護者の同僚として他の国からの人々 はほとんどなく,日常の中で異文化について学ぶ機会 は非常に少ない。そのため共存という認識よりは「そ の場限りの関係の人々」と感じている部分もあるとい える。しかしながら経験の中で「共通の言語だけがケ アに重要ではない」とも感じている。社交性が低いと いわれる日本人にとって,コミュニケーション成立に は複雑な課題が存在しているといえる。  異文化圏からの人々のケアを考えるにあたり,常 に言語の問題がクローズアップされてきたが,本研 究結果や佐藤ら(2003)の研究でもわかるように,看 護者も言語の問題は壁であると感じているものの, 大きな問題としてはとらえていなかった。Vargas (1987/1987)は,同じ言語でも,伝えたい内容は言語 そのものよりも周辺言語,つまり表情などの非言語的 コミュニケーションによって左右されると述べている。 つまり同じ言語を持っていても,伝えたいことは言語 だけで伝えるわけではないし,同じ言語をもつことが, 相互理解を深める最善の解決策ではないともいえる。 コミュニケーション成立への課題は,言語よりもコ ミュニケーションパターンの文化的差異,あるいはコ ミュニケーション成立への消極的な態度である。した がって,共通の言語を話すことだけがケアの向上に関 与するというわけではなく,お互いがお互いを理解す るために「わかりあおう」「近づこう」する姿勢が重要 なのである(篠田ら, 2000)。そのため,本結果の中の「相 手を知ろうとする態度が関係性を変える」という認識 が助産師に存在することは,ケア改善への大きなポイ ントであるといえる。  医療者は,外国人を見るとまずは英語で話しかけ ようとするが実際には英語を話す人は少ないと小林 (2002)は述べている。そして,まずはゆっくりとし た日本語で話しかけてみることを勧めている。つま り,「外国人イコール苦手な言葉を話す人」というイ メージを持つのではなく,まずは日本語でゆっくりと 話しかけてみて,笑みとともに受け入れていますとい う雰囲気をつくるコミュニケーションをとれるような 積極性が,コミュニケーションを成立させる第一歩で あるといえる。この点は簡単なようであるが,一般的 な認識としては「気持ちのわからない人々」のカテゴ リーにある同じ言語を話すことができれば全く問題が なかった,という内容のような感覚を持つ人がほとん どであるのかもしれない。そのため医療者は,日本人 の特徴をふまえ,さらに自分のコミュニケーションパ ターンやスタイルも見直し,コミュニケーションの本 質を学ぶ機会をもつことも必要であると考える。 2.医療側の問題  出産はどの文化でも普遍で自然なことでもあり,そ のケアは,疾患へのケアほど重要視されていないのが 現状である。また妊娠期間や入院期間がほぼ一定なた めに,その期間が過ぎてしまえば関りもなくなるとい う「その場限りの関係の人々」という考えや,正常な 妊娠・分娩・産褥ならば特にケアを提供しなくとも 退院していく人々という意見もあり,異文化圏からの 人々へのケアの向上に対して消極的な態度が多く見受 けられた。また病院施設の理念や立地している環境に よって,異文化圏からの人々に対するケアの姿勢も提 供も異なっているのが現状であり,これは分娩費用の 支払いや入院助産制度の使用,オープンシステムの活 用との関りが深いと考える。その結果「特殊なバック グラウンドによる決めつけ」による偏見がケア提供に ハードルをつくっている場合もある。  保険適用のない日本の妊娠・分娩は,諸外国に比べ 費用が高額であるため,異文化圏の人々にとっては大 きな負担である場合が多い(中村, 2003;西村, 2003)。 そのため支払能力が無いために,出産費未納のままで 姿を消してしまう人も少なくない現状である。どんな

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に努力してケアを提供しても,結果,逃避されたとい う現実があれば,助産師のケアへの士気が低下するの も当然である。すべての人がこのような状況ではない が,「よいお産をしてほしいと願ってわけへだてない ケア」の提供に努力しても,この状況が繰り返されれ ば,「気持ちがわからないし,ストレスのたまる人々」 という印象になってしまうのだろう。  しかし,小林(2002)が述べているように,費用を 安くすることや外国人だからといって,日本人にも提 供しないような特別なケアを行うことは,逆に日本人 への差別でもあるし,日本でこの先生活していく彼ら にとって,本当の意味でのサポートではない。日本の 最低限のルールを伝えていくこともサポートである。 だからこそ「かなえられる希望への配慮とルールを越 える慣習への対処は必要」である。さらに彼らへのサ ポートは,特に出産後も継続的に必要である。病院施 設の中でどんなに関りをもっても,その後のケアが断 片的になってしまうのが現実である。それは妊娠期か ら産後約1週間までの関りがあるといっても,慌しい 病院の限られたスタッフ中で継続的に関ることは難し く限界がある。その上退院後の産褥期の生活には,「医 療」や「看護」としての介入が難しい。そのため地域に 帰ってから子育てのできる環境づくりのサポートなど も必要となる。特に退院時に多職種と連携してネット ワークをつくり,サポートの依頼のできるルートを明 らかにしておくことが必要になるといえる。しかしそ のケア実現は看護の力だけでは難しい。結果でも示さ れている看護を含めた多職種の連携がケア向上につな がり,異文化圏からの人々と看護者との間におけるケ アの課題をも解く鍵になるのではないかと考える。さ らに,異文化圏からの人々の来院が多い病院では,人 材の確保も大切であると考える。小林(2002)は,外 国人患者を迎えるにあたって,接遇だけでなく様々な トラブルを回避することを目的とした職員全体の教育 を行うべきであると述べている。多職種との連携だけ でなく,院内における外国人患者への対応の準備,例 えば多言語による情報の提示なども,トラブル回避の 解決策となりうるといえる。  さらに連携という視点から,医療通訳との連携も 考慮する必要がある。医療現場では正確な情報の伝 達が不可欠であるため,通訳を介しての正しい情報の 伝達が重要である。例えば,神奈川県では2002年か らNPOと県との協働で「医療通訳派遣システム構築事 業」に取り組んでいる。これは依頼があった病院に医 療通訳者を派遣するシステムであり,現在,県下16 病院が協力している。年々通訳の依頼が急増し,なか でも産科に関する依頼は,この事業全体の中でも多く を占めているといわれている。課題の多い異文化圏の 人々のケアにおいて,言語の問題を解決し,正確な情 報伝達の手段としての医療通訳システムの有用性は高 く,この連携は今後より必要になるといえる。このよ うにシステム構築をすることも助産師は必要と感じて いる。そのため,まずは現時点で稼動しているシステ ムを把握し,今後の連携・システム構築に役立てるよ うな準備も必要かもしれない。  さらに,オープンシステムなどを活用する経済力の ある人々は選択肢がもてるため,その人々が自分自身 で出産場所を選択できるような情報提供が必要である。 すべての病院施設は独自の役割や組織,そしてルール がありそれが当然である。そのため,例えば多言語に よるインターネットなどを介しての病院紹介や情報公 開などをしていくのも,異文化圏の人々が自分のスタ イルで出産できる場所を探すことができ,トラブルを 回避する1つの解決となると思われる。病院にあわせ てもらうのではなく,異文化圏の人々が自分にあった 場所を選択し,病院のシステムとニーズが合致するこ とも重要なポイントになると考える。 3.出産文化の違い  日本では,出産は自然のものと考えられており,静 かに行うことがよいとされている傾向にある(Priya, 1992 ; Rice & Mangerson, 1996 ; Schott & Henley, 2000; St. Hill et al, 2003 ; Galanti, 2004)。そのため「出産に対 する認識の違いによる戸惑い」でも示されている通り, 痛みの表現が日本人と違うことや出産そのものに対 する意識が異なることに対しての戸惑いが強かった。 また出産における「助産師の役割の違いによる困惑」 もあった。日本人の特徴とも関連して,根底に「気持 ちがわからない人々」や「ストレートな表現や意外な 反応・自分の意見を貫く態度に戸惑う」という印象が あったり,他国との接触が少なかったため異文化に対 する情報や理解が乏しいために,文化による儀礼や風 習の多様さに不快や嫌悪を感じたりしていた。そのた め臨機応変な対応ができなかったり,あるいは助産師 の意思とは関係なく,病院の規則上叶えられないもの もあった。異文化に対する感じ方は,自分の帰属する 文化の中で培われた価値観,信念,慣習などを相手の 文化との間でどのように受け止めるかということに関

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与するものである(池田ら, 2002)。異文化に慣れてい ない日本人は,日本の出産に対する価値観だけをもと にして,異文化圏の人々の出産を判断する傾向がある。 その上,日本における異文化圏からの人々の人口が増 えているといっても,ケースの件数は各病院において まだまだ少数であり,日常的に出会うケースではない。 「その場しのぎのケアや関り」になってしまい,その 人の出産というよりは,「異文化の出産」に注目してし まいケアを見失いがちである。そのためケアを提供し た経験が次のケースへつながらない状況であるといえ る。  Yamada(1997/2003)は,異なる文化について理解 を深める最大のメリットは,みずから属する文化を掘 り下げて理解することであると述べている。相手の文 化を理解しようとすることは,すなわち自分の文化を 振り返る機会ともなりうる。そして相手が大切にして いることがあるように,自分も文化の中で大切にして いるものがあることをわかり,それがお互いに歩み寄 る一歩になるのではないかと考える。小林(2002)は, 「外国人にやさしい」ということは,すなわち「患者全 体にやさしい」ということであり,患者にやさしい医 療機関を目指せば,その精神は自然に外国人にやさし い医療機関にたどり着くはずである,と述べている。 マイノリティに注目することは,一見大筋から外れて いるように思われがちである。しかし実際は,その視 点がもととなって,小林(2002)のいうようにケア全 体を見直すきっかけとなりうるのである。  よいお産をする権利は誰でも平等にもち,それをサ ポートする役割をもつのが助産師である。同じように, 異文化圏からの人々もよいお産をする権利があり,そ れをサポートしていく必要がある。そのためにはまず 文化を考慮したケアを提供する第一歩として,どのよ うに対応するかという姿勢をスタッフで確認できるよ うなマニュアルを持つことが,ケア向上につながるの ではないかと考える。もちろん文化や民族によって出 産に対する考えが多様なため,それに対応する画一的 なマニュアルをつくるのは困難である。そのため,逆 にこちらから特に配慮しなければならない点を質問 できるように,その項目や様式を用意し,その人の 文化の中で大切にしていることを尊重しながらケアを 提供していくことが必要であると考える(Luckmann, 1999)。異文化圏の人々へのケアは,時間を要し詳細 な説明と対応が必要な場面が多いだろう。しかし,そ の人を大切にするケアの姿勢を持つことが小林(2002) の言う「患者全体にやさしい」ケアにたどり着くので はないかと考える。これは「日本人のケアへ反映して いく」というカテゴリーのなかに表現されていること そのものだろう。この意識をもってこそすべてのケア の底上げにつながるのではないだろうかと考える。

.結   論

 本研究において明らかになったことは,助産師は異 文化圏からの人々とのコミュニケーション成立につい て壁を感じ,出産に対する文化的な考え方の違いに戸 惑うこともあるが,基本的には日本人と同じケアを提 供する努力をし,よいお産をしてほしいと願っている ことであった。しかし,ケア提供の方法や方向に対し てわからないことや迷う場面が多かった。特に入院期 間の短い産科領域においては,ケアに対する事前の準 備が重要であり,準備がなければその場限りの断片的 なケアとなり,ケアの継続や発展が難しくなる。つま り助産師に異文化圏の人々へのケアの方向性を示す支 援をすることや助産師以外の医療者が協働する道筋を 明らかにすることが,文化を考慮したよいお産をめざ すケアの提供につながると示唆された。

.提   言

 本研究の結果を受けて具体的なケア実現に向け,6 つの提言を以下に示す。 1.日本人の特徴を振り返り,コミュニケーションパ ターンを変える努力をする  まずは,日本語で話しかけ積極的にコミュニケー ションを図る努力をする。また最低限の挨拶やお礼 などの言葉を準備してその人の言語で伝え,コミュニ ケーション成立のきっかけとする。あなたを受け入れ ています,という態度で接する。 2.他の国々の情報を知る機会を意識的に持つ  文化的な習慣や伝統などを意識的に知る機会をもつ。 例えば,他国でボランティア活動をしている人の話を 聞いたり,文献から知識を得るなどの積極性をもつ。 また,異文化圏からの人々の日本における保険,在留 資格などの福祉,法律などの状況も意識的に知る努力 をする。 3.インターネットなどを介しての多言語による病院 施設の情報の公開を推進する  異文化圏からの人々自身が病院施設を選択し,自分

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のニーズにあった場所で出産できるよう,多言語で情 報を公開する。 4.多職種,サポートグループやNPOなどとの連携 をもつ  臨床の看護者だけではカバーできない手続きなどの 問題や,地域に帰ってからの子育てなどのサポートを 充実させるために,ソーシャルワーカーなどの他の医 療者,あるいはボランティアグループなどとのネット ワークを構築し,お互いに情報を交換しサポート体制 を確立する。また外国人コミュニティーなどと連携し, 医療者にその文化における慣習や儀礼の伝達をしても らったり,あるいは当事者とのコミュニケーションを 図り不安などの表出のサポートを受けるなど協働する。 5.医療通訳のサービスやボランティア通訳のリソー スの確保をする  医療通訳が必要なときに,看護者からも当事者か らも依頼が可能なルートを確保する。また院内に通訳 サービスがある場合は,有効に活用できるような体制 を整える。 6.多言語のリーフレットや書類の準備をする  説明が必要なものに関しては,あらかじめ多言語で の準備を行う。また可能であれば,院内の表示なども 多言語で対応することが望ましい。 謝 辞  本論文をまとめるにあたり,調査にご協力いただいた 16名の助産師のみなさんに深く感謝いたします。

  な お, 本 研 究 は,2003年 度The University of Sydney,

Master of Nursingにおける修士論文,2004年・2005年日本

助産学会学術集会にて発表した内容に加筆・修正したもの である。

文 献

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参照

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