糖尿病に対する運動療法の最前線
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(2) 糖尿病に対する運動療法の最前線. 509. 図 1 身体活動・運動・生活活動(文献 1 より引用). 図 2 骨格筋細胞における糖取りこみのメカニズム. 加した群」, 「増加した群」の 4 群に分類し,対象者(4,187. を測定している。その結果,レジスタンス運動を先行さ. 人)を 14 年間追跡している。その結果,最大酸素摂取. せたほうが血糖変動は少なく,運動後や夜間にも低血糖. 量が「低下した群」と比較して,他のいずれの群も 2 型. が少なくなる可能性があることを報告している。. 6). 糖尿病の罹患は低いハザード比を示していた 。これら. 別の観点では,動脈の硬さは動脈壁の構造(器質的因. のことから,運動療法によって運動耐容能を増大させる. 子)だけでなく,血管平滑筋の緊張状態(機能的因子). ことは,糖尿病の発症予防,血糖コントロールの改善に. によっても変化し,動脈の硬さの進展は心血管疾患の発. つながるものであると考えられる。. 症と関連することが知られている。そして,血管平滑筋. 有酸素運動とレジスタンス運動の実施順序. の緊張状態は有酸素運動では和らぎ,レジスタンス運動 では増加することが明らかにされている. 8). 。動脈の硬さ. 多くの研究で有酸素運動とレジスタンス運動の併用が. を和らげる観点でも,レジスタンス運動−有酸素運動の. 有効であると報告されている。有酸素運動とレジスタン. 順番が適している。. ス運動を同日に行う場合,どちらを先に行ったほうが安 全であるかを検証した研究がある。以前より,先にレジ. 運動強度の選択. スタンス運動をしておいたほうが,先に有酸素運動をす. 近年,高強度運動による内臓脂肪の減少効果 9)や血. るよりも脂肪燃焼が生じやすい(糖質燃焼が生じにく. 糖改善効果. い)と考えられていた。1 型糖尿病患者 12 人を対象に. の長期的な治療効果は明らかではなく,糖尿病診療ガ. した研究. 7). では,運動中および運動後の血糖値の変化. 10). が報告されている。しかし,高強度運動. イドライン 2016. 11). では,定期的な運動習慣がある患者.
(3) 510. 理学療法学 第 43 巻第 6 号. 図 3 運動量,運動強度と HbA1c の相関(Diabetologia, Volume of supervised exercise training impacts glycaemic control in patients with type 2 diabetes: a systematic review with meta-regression analysis, 2013; 56: 242‒251, Umpierre D, Ribeiro PA, et 13) al. (c) ~ With permission of Springer ). においてのみ考慮されるべき方法であると述べられてい る。糖尿病患者に高強度運動を適応させる場合,十分な 循環器系,運動器系,糖尿病合併症のメディカルチェッ クが必要であることはいうまでもなく,患者の限界,リ スクを知り得たうえでの実施で価値ある方法となる。 一方で低強度運動については,Manders ら. 12). は,心. 肺運動負荷試験から得られた最大負荷値の 35%強度で 60 分(低強度)と 70%強度で 30 分(高強度)の運動を 行わせ,CGM を用いてその後の血糖値の変化を比較し ている。その結果,運動後 24 時間の血糖値は,運動を 実施しないときと比べて,低強度運動でのみ有意な減 少を認めている。このほか,Umpierre ら. 13). のメタア. ナリシスによれば,HbA1c 値の低下は,運動量(頻度). 図 4 総エネルギー消費量の内訳. の増加と相関があり,運動強度とは相関がなかったこと を示している(図 3) 。すなわち,運動量は強度と時間 の積で表わされることから,強度が低くても時間を長く. してのエネルギー消費であり,姿勢の保持や家事,買い. することで運動の効果が期待できると考えられる。. 物,通勤などの移動,仕事,余暇活動など,低∼中等度. 総エネルギー消費量の内訳 1 日あたりのエネルギー消費量=総エネルギー消費. 強度を中心に様々な活動が含まれる。. 身体不活動による悪影響. 量(total energy expenditure:以下,TEE)は,基礎. 前述したように身体活動によるエネルギー消費は,計. 代謝量,食事誘発性体熱産生,運動,運動以外の身体活. 画的に実施された運動よりもそれ以外の生活活動によ. 動に分けられる(図 4)。運動選手のように運動量の多. るものが大きく,運動療法ではその人の生活全体を考. い一部の人を除けば,運動が TEE に占める割合は小さ. 慮した介入が必要になってくる。近年,運動不足のみ. い。たとえば体重 60 kg の人が 30 分間の速歩をすれば. ならず身体活動そのものの低下,いわゆる身体不活動. 120 kcal 程度の消費であり,また,計画的,継続的に. (physical inactivity)や座位行動(sedentary behavior). 運動を行っている人の割合は少ない(平成 25 年国民健. の研究が進展している。座位行動とは「座位および臥位. 康・栄養調査では,1 回 30 分以上の運動を週 2 日以上. におけるエネルギー消費量が 1.5 メッツ以下のすべての. 実施している人は男性 33.8%,女性 27.2%)。したがっ. 覚醒行動」と定義されている。1 日の総座位時間の多寡. て TEE に占める運動の割合は,3 ∼ 5%程度と考えら. による運動(中高強度身体活動),低強度身体活動,座. れている。一方,運動以外の身体活動は,non-exercise. 位行動の時間分布を検討した報告がある. activity thermogenesis(以下,NEAT)とよばれ,TEE. の分散は中高強度身体活動ではなく,低強度身体活動の. に占める割合は 25 ∼ 30%である。NEAT は生活活動と. 分散により規定されることが明らかにされた。すなわ. 14). 。座位時間.
(4) 糖尿病に対する運動療法の最前線. 511. 図 5 細切れ運動でも血糖値は低下する(文献 17 より引用). ち,座位時間を減らすためには,低強度身体活動を増や. 示されるようになった。必ずしも持続的な運動でなくて. すこと(NEAT の増加)が重要であるとされる。. も,1 日の総運動時間が同じであれば,細切れ運動でも. 先進国においてテレビの視聴時間が長い傾向にあるこ. 十分な血糖降下作用が得られる。以下に,断片的に行わ. とが指摘されているが,海外ではテレビの視聴時間と各. れる生活活動でも血糖コントロールの改善に有用である. 疾患の罹患リスク,死亡リスクとの関係が報告されるよ. ことを示唆する研究を紹介する。Peddie ら. 15). 17). は,健常. の研究によると,1 日のテ. 成人を対象に 9 時間のデスクワーク中,1 日 1 回 30 分. レビ視聴時間が 2 時間増えると,2 型糖尿病の発症リス. 間の歩行をした場合と,30 分毎に 1 分 40 秒間の歩行を. クは 20%,致死性および非致死性の心疾患のリスクが. した場合とで血糖値とインスリン値の変化に違いがある. 15%,なんらかの原因による早死のリスクが 13%,そ. かどうかを検討している。その結果,30 分毎に 1 分 40. れぞれ高くなっていた。したがって,テレビの視聴時間. 秒間の歩行をした場合では,1 日 1 回 30 分間の歩行を. を有効に使えば,効果的な運動療法を取り入れることが. した場合と比べて曲線下面積が血糖値では 37%減少し. うになった。Grøntved ら. できると考えられる。. (図 5),インスリン値も 18%減少していた。. さらに,週あたりの歩行時間に加えて座位時間の短. Henson らは,閉経後の 2 型糖尿病高リスクの女性. 縮が重要であるという興味深い研究がある。van der. (BMI が 25 kg/m 以 上 で 経 口 糖 負 荷 試 験 2 時 間 値 が. 16). 2. は,心疾患既往者・糖尿病患者を対象に 1. 140 ∼ 200 mg/dL 未満であるか,HbA1c が 5.7 ∼ 6.4%. 週間の歩行時間別にグループ化し,さらに 1 日の座位時. 以下)を対象に 7.5 時間の連続座位(座位),30 分毎に. 間別(0 ∼ 4 時間,4 ∼ 8 時間,8 ∼ 11 時間,11 時間以. 5 分ずつの立位保持(座位+立位) ,30 分毎に 5 分ずつ. 上)に分けて年間 1,000 人あたりの死亡数について検討. の歩行(座位+歩行)の 3 つのパターンで血糖値等の変. している。その結果,週あたりの歩行時間が長くなるに. 化を調べている。その結果,血糖の曲線下面積は座位と. したがって死亡数は減少していたが,座位時間が非常に. 比べて座位+立位では 34%,座位+歩行では 28%の減. 長いと(1 日 11 時間以上),歩行時間が長くとも死亡数. 少が認められた。インスリンも座位と比べて座位+立位. は多かった。したがって,いくら十分な運動療法を実施. で 20%,座位+歩行で 37%の曲線下面積の減少が認め. しても,それ以外の時間での活動量が低ければ死亡リス. られた. クが高くなるといえる。我々は,「運動を増やす」とい. 様の血糖降下作用が期待できることを示唆している。. う考えだけでなく,「安静を減らす」という観点からも. さらに Honda を筆頭とした我々の研究では,2 型糖. 運動療法を検討していく必要がある。. 尿病患者が短時間(1 回あたり約 3 分間)の階段昇降を. Ploeg ら. NEAT と血糖降下. 18). 。このことは,立位をとるだけでも歩行と同. 食後 60 分および 120 分の 2 回行うだけで食後の血糖降 下を促進するかを検証した。その結果,階段昇降によっ. これまで,有酸素運動やレジスタンス運動が血糖コン. て血糖値は安静日と比べて有意に低下し,血糖曲線下面. トロールを改善させる効果については多くの報告があ. 積も減少した。階段昇降は主観的運動強度を低く保ちつ. る。その中で運動療法の時間は糖の利用および脂肪の燃. つ高強度負荷となっており,3 分間という短時間の階段. 焼が起こる 20 分以上が推奨されてきたが,近年,短時. 昇降を 2 回行うだけで血糖コントロールの改善に寄与で. 間の運動を数回繰り返す,いわゆる細切れ運動の効用が. きることが示唆された. 19). 。.
(5) 512. 理学療法学 第 43 巻第 6 号. 図 6 フレイルサイクル(文献 20 より引用). 図 7 2 型糖尿病におけるサルコペニアの頻度(文献 21 より引用). フレイル・サルコペニアと糖尿病 近年,患者の高齢化は著しく,加齢に伴う生理機能の. に,増悪因子である可能性が示唆されている。糖尿病が サルコペニアを引き起こす要因としては,血糖コント ロール不良の状態における筋蛋白の異化や腫瘍壊死因. 低下としてのフレイルが取り上げられることが多くなっ. 子(tumor necrosis factor-α :TNF-α )などの炎症性サ. た。フレイルは,体重減少・易疲労感・筋力低下・歩行. イトカインが筋機能に有害な影響を与えること. 23). 速度低下・活動性低下と定義されており,低栄養とサル. 尿病神経障害による筋力低下が報告されている. 24). コペニアを含んだ悪循環(フレイルサイクル)を形成. ルコペニアに対する運動療法としては,レジスタンス運. 20). ,糖 。サ. (図 6)。図 7 は年齢と骨格筋. 動,バランス運動を取り入れたプログラムを立案するこ. 指数(skeletal muscle index:SMI)の関連を示したも. とが望ましく,訪問リハビリテーションや通所リハビリ. のである。60 歳以上における男性のサルコペニアの頻. テーションなど介護保険施設での継続も重要となる。. するという概念である. 度について,非糖尿病:糖尿病は 5.1%:19.0%,女性 では 14.0%:27.0%であり,糖尿病において有意に高値. ま と め. を示していた。年齢,性,BMI などで補正した糖尿病. 糖尿病に対する運動療法について,方法論の動向や. におけるサルコペニアのリスクは,オッズ比 3.06(95%. NEAT の重要性,フレイル・サルコペニアへの配慮に. CI 1.42 ‒ 6.62)とかなり高かった. 21). 。. ついて述べた。理学療法士は糖尿病患者の身体活動を促. 高齢糖尿病患者に高頻度に認められるサルコペニア. すために,様々なエビデンスを基にした介入方法を考案. が,糖尿病の原因なのか結果なのかは明確ではない。サ. する必要がある。一方,本稿で述べることはできなかっ. ルコペニアの程度は,糖尿病の罹患期間が長いほど,ま. たが,糖尿病患者の運動器障害に対する理学療法の体系. た血糖コントロールが悪いほど増悪することが示され. 化は急務である。特に,糖尿病神経障害や末梢動脈疾患. ており. 22). ,糖尿病がサルコペニアの成因であるととも. に起因する足病変をもつ患者は多く,下肢切断に至る症.
(6) 糖尿病に対する運動療法の最前線. 例は後を絶たない。理学療法士からみた切断予防として の取り組みについては,成書を参照されたい. 25). 。. 文 献 1)厚生労働省ホームページ 健康づくりのための運動指針 2006 ∼生活習慣病予防のために∼<エクササイズガイド 2006 >.http://www.mhlw.go.jp/bunya/kenkou/undou01/ pdf/data.pdf(2016 年 9 月 1 日引用) 2)佐藤祐造:リハビリテーションと運動療法,内科学.矢崎 義雄(編),朝倉書店,東京,2013,pp. 141‒144. 3)Pedersen BK, Febbraio MA: Muscles, exercise and obesity: skeletal muscle as a secretory organ. Nat Rev Endocrinol. 2012; 8: 457‒465. 4)Ellingsgaard H, Hauselmann I, et al.: Interleukin-6 enhances insulin secretion by increasing glucagon-like peptide-1 secretion from L cells and alpha cells. Nat Med. 2011; 17: 1481‒1489. 5)Sawada SS, Lee IM, et al.: Cardiorespiratory fitness and the incidence of type 2 diabetes: prospective study of Japanese men. Diabetes Care. 2003; 26: 2918‒2922. 6)Sawada SS, Lee IM, et al.: Long-term trends in cardiorespiratory fitness and the incidence of type 2 diabetes. Diabetes Care. 2010; 33: 1353‒1357. 7)Yardley JE, Kenny GP, et al.: Effects of performing resistance exercise before versus after aerobic exercise on glycemia in type 1 diabetes. Diabetes Care. 2012; 35: 669‒675. 8)Okamoto T, Masuhara M, et al.: Combined aerobic and resistance training and vascular function: effect of aerobic exercise before and after resistance training. J Appl Physiol. 2007; 103: 1655‒1661. 9)Slentz CA, Aiken LB, et al.: Inactivity, exercise, and visceral fat. STRRIDE: a randomized, controlled study of exercise intensity and amount. J Appl Physiol. 2005; 99: 1613‒1618. 10)Little JP, Gillen JB, et al.: Low-volume high-intensity interval training reduces hyperglycemia and increases muscle mitochondrial capacity in patients with type 2 diabetes. J Appl Physiol. 2011; 111: 1554‒1560. 11)日本糖尿病学会(編):糖尿病診療ガイドライン 2016.南 江堂,東京,2016,pp. 67‒81. 12)Manders RJ, Van Dijk JW, et al.: Low-intensity exercise reduces the prevalence of hyperglycemia in type 2 diabetes. Med Sci Sports Exerc. 2010; 42: 219‒225.. 513. 13)Umpierre D, Ribeiro PA, et al.: Volume of supervised exercise training impacts glycaemic control in patients with type 2 diabetes: a systematic review with metaregression analysis. Diabetologia. 2013; 56: 242‒251. 14)Owen N, Sparling PB, et al.: Sedentary behavior: emerging evidence for a new health risk. Mayo Clin Proc. 2010; 85: 1138‒1141. 15)Grøntved A, Hu FB: Television viewing and risk of type 2 diabetes, cardiovascular disease, and all-cause mortality: a meta-analysis. JAMA. 2011; 305: 2448‒2455. 16)van der Ploeg HP, Chey T, et al.: Sitting time and allcause mortality risk in 222 497 Australian adults. Arch Intern Med. 2012; 172: 494‒500. 17)Peddie MC, Bone JL, et al.: Breaking prolonged sitting reduces postprandial glycemia in healthy, normal-weight adults: a randomized crossover trial. Am J Clin Nutr. 2013; 98: 358‒366. 18)Henson J, Davies MJ, et al.: Breaking Up Prolonged Sitting With Standing or Walking Attenuates the Postprandial Metabolic Response in Postmenopausal Women: A Randomized Acute Study. Diabetes Care. 2016; 39: 130‒138. 19)Honda H, Igaki M, et al.: Stair climbing/descending exercise for a short time decreases blood glucose levels after a meal in participants with type 2 diabetes. BMJ Open Diabetes Res Care. 2016; 25: e000232. 20)荒木 厚:フレイルをふまえた高齢者糖尿病の診療.プラ クティス.2015; 32: 34‒39. 21)Kim TN, Park MS, et al.: Prevalence and determinant factors of sarcopenia in patients with type 2 diabetes: the Korean Sarcopenic Obesity Study (KSOS). Diabetes Care. 2010; 33: 1497‒1499. 22)Park SW, Goodpaster BH, et al.: Decreased muscle strength and quality in older adults with type 2 diabetes: the health, aging, and body composition study. Diabetes. 2006; 55: 1813‒1818. 23)Visser M, Pahor M, et al.: Relationship of interleukin-6 and tumor necrosis factor-alpha with muscle mass and muscle strength in elderly men and women: the Health ABC Study. J Gerontol A Biol Sci Med Sci. 2002; 57: M326‒M332. 24)Andersen H, Nielsen S, et al.: Muscle strength in type 2 diabetes. Diabetes. 2004; 53: 1543‒1548. 25)野村卓生,河辺信秀(編) :身体機能・歩行動作からみた フットケア.文光堂,東京,2016..
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