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基礎心理学者のキャリアパスVI

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Academic year: 2021

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DOI: http://doi.org/10.14947/psychono.39.22

132 基礎心理学研究 第39巻 第1号

基礎心理学者のキャリアパスVI

大 塚 拓 朗

兵庫県警察本部刑事部科学捜査研究所

Series of Interviews on the career path of Psychonomic Scientist VI

Takuro Otsuka

Hyogo Prefectural Police H.Q. Forensic Science Laboratory

In this article, I introduce the career path as a psychonomic scientists for Takuro Otsuka, a staff of psychologi-cal evidence section at the Forensic Science Laboratory, Hyogo Prefectural Police H.Q. I left the graduate school of Kwansei Gakuin University on the way and got a degree (psychology) after getting a job at my current workplace. I am in charge of polygraph examination, which is a kind of memory detection test in criminal investigations. At work, I use the knowledge and skills I learned in experimental psychology, which means the ability to make and ver-ify hypothesis. I also have a fulfilling life as a basic psychological researcher.

Keywords: psychonomic scientists, career path, experimental psychology, forensic science laboratory, polygraph test 著者の経歴 大塚拓朗(Takuro Otsuka) 兵庫県警察本部刑事部科学捜査研究所心理科主任研究員(2020年7月時点)。2017年,関西学院大学大学院文学研究科 博士課程後期課程修了。博士(心理学)。2004年4月より現所属。主な研究テーマは,隠匿情報検査時おける欺瞞に関連 する心的過程の検討・同検査における生理的覚醒水準低下時の影響についての検討・新たな記憶検出検査の開発など。 主な業績:

Otsuka, T., Mizutani, M., & Yamada, F. (2019). Selective attention, not cognitive load, elicited fewer eyeblinks in a concealed information test. Biological Psychology, 142, 70–79.

は じ め に 私は,関西学院大学・大学院在学中,八木昭宏先生の 研究室で事象関連脳電位の1つであるエラー関連電位の 研究を行っていました。博士後期課程1年の時に中途退 学し,現在の職場に就職しましたが,引き続きいくつか の大学で研究員を続けた後,関西学院大学に社会人学生 として再入学し,片山順一先生のもとで博士学位を取得 しました。博士前期課程に進学したときから心理学を活 かした非アカデミアで働きたいと思っていましたが,実 験研究が好きだったため今でも研究を続けています (Figure 1)。

The Japanese Journal of Psychonomic Science

2020, Vol. 39, No. 1, 132–134

Copyright 2020. The Japanese Psychonomic Society. All rights reserved. Corresponding address: Forensic Science Laboratory,

Hyo-go Prefectural Police H.Q., 5–4–1 Shimoyamate-Dori

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133 大塚: 基礎心理学者のキャリアパスVI 科学捜査研究所とは 科学捜査研究所(以下,科捜研)は,全国都道府県警 察本部にあり,さまざまな科学の専門分野の知識・技術 を活かして犯罪捜査を支援する鑑定・研究部門です。科 捜研にはDNA型鑑定や顔画像鑑定をする法医科,薬毒 物や微物の鑑定を行う化学科,火災・事故の原因究明や 画像解析を行う物理科,筆跡や偽造通貨の鑑定を行う文 書鑑定科のほか,私が所属する心理科があります。各科 捜研によって異なりますが,心理科はポリグラフ検査, プロファイリングによる捜査支援,取調べ技術の教育支 援等を行っています(岩見,2017)。 実験心理学で養ったスキルを活かして 私は,犯罪捜査場面で容疑者や参考人が犯人しか知り 得ない事件の詳しい内容を知っているか否かを調べるポ リグラフ検査を担当しています(Figure 2)。ひき逃げな どの交通事件から殺人など刑事事件まで幅広く担当しま す。ポリグラフ検査の詳しい内容は割愛しますが(松 田,2019; 大塚,2020などを参照して下さい),検査の中 で私が行っているのは自律神経系生理反応を指標とした 再認記憶課題です。ただし,私はそれを実験研究として ではなく,鑑定として行っています。すなわち,司法の 現場で検査対象者個人の心的過程(事件事実に対する記 憶・認識)を推定しています。当然,鑑定結果に対する 責任は重いですが,私はこの仕事に魅せられています。 それは,実験研究とは違った形で,実験心理学で養った スキルを活かせるからです。実験心理学では,問題の提 起(リサーチクエッションの提起)→関連知見の収集を 基にした作業仮説の生成→演繹的推論を経た実験の計画 (予測の生成)→実験→結論(あるいは仮説の修正)とい う循環がありますが,実は犯罪捜査でも類似した営みが あります(瀬田・井上,1998)。捜査員は,事件発生直 後から真相解明に向けた仮説の生成(筋読み)を行い, さまざまな証拠や情報が収集されるたびに,仮説を更新 し,最終的な結論(事件解決)を導き出します。同様の 流れはポリグラフ検査でも経験します。検査では,捜査 資料の閲覧や捜査員との打ち合せを通して事件を把握し (知見を整理し),尋ねる質問を準備し(作業仮説と実験 計画を立て),検査(実験)を行います。また,検査対 象者の供述が変われば,検査の途中でも焦点となる事柄 を再整理し,新たな質問を作成し,尋ねます(即座に仮 説の修正と検証を行います)。犯罪捜査という緊迫した 検査場面で必要とされる問題を整理し,仮説や検証方法 を考え出す力を,私は実験心理学を通して身につけたと 自負しています。そして,その面白さと奥深さに未だに 飽きていません。もちろん,実験研究と異なり,実際の 検査場面では検査対象者の心身の状態や検査環境など統 制が難しい要因もあります。しかし,経験を積むにつ れ,それらの克服や改善も検査者(実験者)としてのス キルアップに繋がると捉えることができるようになりま した。 捜査の中の心理学の専門家として 犯罪捜査は,捜査部門の警察官を中心に,現場に残さ れた指紋や血痕の採取などを行う鑑識部門,そして科捜 研が協働して行われます。事件解決や真相解明という1 つの目的に向けて,さまざまな分野のプロフェッショナ ルが関わりますが,心理学の専門家は限られています。 そのため仕事では工夫も必要とします。すなわち,心理 学の専門知識を他のプロフェッショナルにわかりやすく 伝えながら,相手の知識・経験と重なる点や相違点を探 していく姿勢も必要です。そして,その中で心理学の強 みを伝えることを忘れてはいけません。ポリグラフ検査 は,検査対象者(人)と現場に残された証拠(物や状況) を記憶で結びつけることができる鑑定です(小林・吉 本・藤原,2009)。犯罪捜査では,「心の指紋」として役 立ちます。この意義は一般の人を含めて多くの人に理解 して欲しい点であり,日々の仕事の中でも意識して伝え ています。心理学の専門性を理解してもらったうえで, 検査を活用してもらい,事件解決に貢献できた時はやは り嬉しいものです。 心理学の研究者として 科捜研では,鑑定業務が第一とされますが,研究活動 も自由にできます。大学のサバティカル制度と同じく, 国内や海外の大学や研究機関で研究活動に専念できる研 修制度もあります。また,鑑識課や大学,企業と共同研 究する人もいます。全国のポリグラフ検査の担当者に Figure 2. Polygraph test.

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134 基礎心理学研究 第39巻 第1号 も,生理心理学のほかに,知覚心理学,認知心理学,感 情心理学,社会心理学などさまざまなバックグランドを 持つ人々がいて,それぞれの専門を活かして研究を進め ています。私は,ポリグラフ検査の反応生起機序を探る 基礎的な研究と実務検査に直結する研究の2つのテーマ を持って研究を進めています。どちらも実務検査の改善 や向上にとって必要な視点だと考えています。 お わ り に 科捜研(ポリグラフ検査)の仕事の魅力は,純粋な実 験研究も行えると同時に,実験心理学のスキルを活かし て,その実用的価値も実感できることだと思います。基 礎心理学を専攻している若い人にも就職先の 1つとし て,あるいは研究テーマとして是非興味を持っていただ きたいです。 引用文献 岩見広一(2017).現場の声4 科学捜査研究所の仕事  太田信夫(監修)大坊郁夫(編集) 社会心理学(シ リーズ心理学と仕事10)(pp. 58–59).北大路書房 小林孝寛・吉本かおり・藤原修治(2009).実務ポリグ ラフ検査の現状 生理心理学と精神生理学,27, 5–15. 松田いづみ(2019).ポリグラフ検査 太田信夫(監修) 片山順一(編集) 神経・生理心理学(シリーズ心理 学と仕事2)(pp. 99–115).北大路書房 大塚拓朗(2020).ポリグラフ検査と虚偽検出 河野荘 子・岡本英生(編者)コンパクト司法・犯罪心理学 ―初歩から卒論・修論のヒントまで― (印刷中) 北大路書房 瀬田季茂・井上堯子(編)(1998).犯罪と科学捜査 東 京化学同人

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