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社会的養護施設従事者の養育行動と職務満足感およびバーンアウトの関連の検討

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Academic year: 2021

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日本認知・行動療法学会 第44回大会 一般演題 P2-29 354

-社会的養護施設従事者の養育行動と職務満足感およびバーンアウトの関連の検討

○瀧井 綾子、伊藤 大輔 兵庫教育大学大学院学校教育研究科 【目的】 社会的養護とは,厚生労働省によって「保護者のな い児童や,保護者に看護させることが適当でない児童 を,公的責任で社会的に養育し,保護するとともに, 養育に大きな困難を抱える家庭への支援を行うこと」 と定義されている。社会的養護の種類として,家庭環 境で行われるものと,児童養護施設などの施設で行わ れるものの 2 つに大別でき,日本では,施設養育の占 める割合は 8 割を超えていることが特徴である。しか しながら,施設環境における児の養育を想定した実証 研究はほとんど行われていない現状がある。そこで, 瀧井・伊藤(2018)は,社会的養護施設従事者による 養育に関する研究を推進するため,養育行動に関する 評価尺度の作成を行い,その信頼性および妥当性が示 されている。 また,ほとんどの社会的養護施設種において,入所 児の半数以上に被虐待経験があるとの報告がある(厚 生労働省,2015)。被虐待児は反応性愛着障害,脱抑 制型対人交流障害,複雑性PTSDなど,非常に複雑な症 状を呈するとされている。そのため,児への支援は困 難を極め,被虐待児に関わる臨床現場では支援者の 「バーンアウト以上の状況」がみられるという(増沢, 2009)。入所児に対応する支援者のサポートを行うた めにチームによる被虐待児支援が重要であると指摘さ れているが,その一方で,関わる児の状態が複雑で支 援の困難さが増すほど,チームにひずみが生じやすい ことも指摘されている。この悪循環により,支援者に 必要なサポートが十分に機能せず,「バーンアウト以 上の状況」が生み出されているとされている。また, 子どもの養育に関して,養育者(両親)の精神的健康 面が子どもの行動および情緒に影響を与えることが報 告されている(Kahn, et.al , 2004)。特に,主な養 育者である母親の精神健康状態が子どもの健康状態に 与えるネガティブな影響は,父親の精神健康状態が良 好であることにより低減するとされている。つまり, この事象を施設養育に適用させた場合,支援者を支援 するチームの精神健康状態が,入所児の健康状態に影 響を与えることが考えられる。さらに,社会的養護施 設職員の, 0 〜 3 年での離職率の高さが報告されてい る(増沢ら,2016)。早期に職員が離職することの問 題点として,養育者の頻繁な変化が被養育児の愛着形 成などの点において悪影響を及ぼすことが報告されて おり(Tizard,et.al ,1978),入所児の状態改善を阻 害する要因となることが挙げられる。 そこで本研究では,社会的養護施設の職員の養育行 動と,子どもの状態改善に影響を与えると考えられる 職員自身の心理的状態との関連性を検討することを目 的とする。本研究にて得られる知見は,社会的養護施 設における円滑な職務遂行および子どもに対する効果 的な関わり方を明らかにし,今後の社会的養護施設職 員研修プログラム開発のための一助となることが期待 される。 【方法】 調査協力者および調査手続き 全国の社会的養護施 設25施設に従事する職員477名に対して,郵送による 質問紙調査を行った。調査材料 ( 1 )社会的養護施 設従事者の養育行動尺度(瀧井・伊藤,2018)。「子ど もの状態観察とそれに基づく支持的関わり」「将来を 見越した問題解決への協同経験主義的関わり」「支援 者の状況依存的関わりと一方的叱責」「日常的な時間 と体験の共有」「生活態度と社会的規則の指導」の 5 因子構成。31項目, 4 件法。( 2 )職務満足測定尺度 (撫養ら,2014)の下位因子「仕事に対する肯定的感 情」の改変版(「患者」→「子ども」など,社会的養 護施設にあてはまる形に改変。)。11項目, 5 件法。 ( 3 )バーンアウト尺度(久保ら,1992)。「情緒的消 耗感」「脱人格化」「個人的達成感」の 3 因子構成。17 項目, 5 件法。( 4 )職場ストレッサー尺度(小杉ら, 2004)。「質的負荷によるストレッサー」「量的負荷に よるストレッサー」「部下に対する責任によるスト レッサー」の 3 因子構成。23項目, 5 件法。倫理的配 慮 質問紙のフェイスシートに,( 1 )無記名調査で あること,( 2 )自由意思による回答であり,回答し ないことによる不利益は生じないこと,( 3 )個人が 特定される形での情報公開はなされないこと,( 4 ) アンケート用紙の提出をもって,研究参加への同意と みなすことを記載し,質問紙の提出にあたっては,ア ンケート用紙封入用封筒に入れ,回答者自身で厳封 し,施設の担当者に提出するよう依頼した。 【結果と考察】 協力施設の施設種の内訳は,児童養護施設 7 施設, 児童心理治療施設15施設,乳児院 1 施設,自立援助 ホーム 1 施設,福祉型障害児入所施設 1 施設であっ た。調査協力者477名のうち,回答に不備のなかった 456名を分析対象とした。分析対象者は,平均年齢 35.39±11.19歳であり,性別は男性173名,女性280名,

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日本認知・行動療法学会 第44回大会 一般演題 P2-29 355 -不明 3 名であった。 各尺度下位因子の記述統計量を算出後(Table 1), 社会的養護施設従事者の養育行動,職務に対する肯定 的感情,バーンアウトおよび職場ストレッサー間の関 連を検討するため,各尺度の下位因子間の相関係数を 算出した(Table 2)。その結果,養育行動の下位因子 である「子どもの状況観察とそれに基づく支持的関わ り」「将来を見据えた問題解決への協同経験主義的関 わり」「日常的な時間と体験の共有」に関して,職務 に対する肯定的感情および個人的達成感と正の相関を 示していた。また,すべての養育行動因子と質的負荷 によるストレッサーが正の相関を示し,量的負荷によ るストレッサーに関しても一部の養育行動下位因子と の正の相関がみられたことから,養育行動を行うこと は質的および量的ストレッサーとなりうることが示唆 された。さらに,質的負荷によるストレッサーは職務 に対する肯定的感情およびバーンアウトのすべての下 位因子と正の相関があり,量的負荷によるストレッ サーに関しても,脱人格化以外の心理状態と正の相関 を示していることから,社会的養護施設においては, 職場ストレッサーがネガティブな心理状態だけでな く,ポジティブな心理状態とも正の関連性を示すこと が明らかとなった。すなわち,施設従事者が入所児に 対して養育を行うことはストレスフルでありながら も,適切な養育行動を行うことで,職務に対する満足 感や個人的達成感を保つことは可能であることが示唆 された。 本研究の限界点としては,本研究で協力の得られた 施設種および施設数は,全国の社会的養護施設の施設 種の割合を反映できていないことが挙げられる。今後 施設割合による層化抽出等を行い,社会的養護の実情 をより正確に把握できるデザインによる研究が求めら れるであろう。 以上のことから,社会的養護施設従事者の養育行動 と,支援者自身の心理状態との関連性が一部明らかと なった。今後,支援者が,職務満足感や達成感を保ち つつ円滑に職務を遂行し,さらに,支援者がより効果 的に入所児と関わる手法に関する実証研究への発展が 期待される。

参照

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