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幼生研究のための小テクニック集(6) : その他のFAQ

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C A N C E R 14 (2005), p.35-38

幼生研究のための小テクニック集 (6) その他の F A Q

小 西 光 一

当初は幼生研究での実務的な観点から ,簡単な コツを提供するつもりでこのメモ的な文を書いて みたが,気が付けばそれから5 年 が 経 過 し た こ れまで実際によく聞かれた質問について,中には ぼやきに近いものもあるが,いくつかを取り上げ てみたい. Q 1 ゾ工アの解剖で大顎がうまく外せません どうしたら出来る様になりますか?

A1 .

大型 の幼生標本を練習台として,コツを会 得する様に努力して下さい. 体長が1 ミリに満たないゾエアの解剖は,そも そも難しいものであるし,その一部である付属肢 をきれいに取り外すのはさらに難しく,さらにそ の中の極めつきが大顎である. かつて筆者も論文 の図を見て,よくこんなことが出来るものだと感 心 し て い た し か し , 多 くの文献で大顎の図を見 ていると,やはりこれの解剖だけは苦手な人がい る様で,いかにもおざなりの感じのものや,なぜ か省いている例も見られる. 解剖時に感じること であるが,頭胸部付属肢の中で第2 小顎 顎脚 ま では,例えてみれば太い幹から延びている小枝の 様なもので,“折り取る" あるいは“めくり取る" 感じで体から外せるが,触角と大顎については幹 に埋まり込んだ突起の様で,無理をすると,他の 部分と共に崩れた状態となってしまう. そこではどうすれば良いかで、あるが,まず解剖 の前に,大顎というものがどの様なっくりになっ ているかそのイメージを頭の中に入れておくこと が大切である (図

1

参照) . 大顎も付属肢の 一つ であるので,初期のノープリウスでは二叉型の構 造であるが,発生が進むにつれて変化して行き, 先端の門歯状部と根元の臼歯状部に分かれる. ソー Kooichi KONISHI: Miscalleneous techniques for studies of decapod larvae (6). Miscalleneous F A Q s

エア期における基本構造は十脚目内でも変異があ るが,短尾下回すなわちカニ類での大顎が分かり やすいかと思う. 他の付属肢が平面的に描けるの に対し,大顎は特に立体彫刻 的で, 表現するのが 難しい. さらに岐合面は厳密には左右対称ではな く,両側共にペアで観察・記載しなければならな い. 論文の中でしばしば大顎が

I

mandiblesJ と 複数形で示されるのは ,こんな所からであると思 われる. したがって記載におけるポイントは,門 歯・臼歯状部の発達状態と触髭 (palp) 原基の出 現時期となる. さらに付属肢ではないが,大顎を 上下にはさんでいる突起物である上唇と下唇も見 ておく必要のあるグループもある. 次にどうやって解剖技術をマスターするかで あるが,これは指先の技術と感覚の問題であるの で,文章で表現するのはほとんど不可能で、あり, 練習あるのみ である . ただ,小さな標本でいくら やっても上手くいかない時には焦燥感が増すばか りなので,考え方を「初期→後期」ではなく「後 期→初期」と逆にして, 比較的大きなサンプル, 具体的には体長で数ミリ以上のもので何度も練習

外側 , , + 腹 倶

l

+ 背 側 一惨 肉倶JI 図1 短尾下目のソエアにおける大顎の模式図

(2)

36

幼生研究のための小テクニック集 (6) その他の F AQ しつつ,より初期の小型標本にチャレンジすると 良い. また ,ゾエアの透明な脱皮殻で観察すると, 特にカニ類では他の付属肢との識別が容易で,か つ構造自体も分かりやすいと思う. 不思議なもの で,一度そのっくりが分かつてしまうと,次から は頭の中に立体イメージがあるためか,作業が楽 にな って来る. なお,立体彫刻的な大顎の形態観察については, 走査型電顕が最適なツールとなるが,実際の試料 作製の段階では,やはり口部の微細解剖, しか も 臨界点 ・凍結乾燥により極めて脆くなった物体相 手となるので,どちらにしても「米粒に字を書く」 程度の技術は必要であろう. Q 2. タラバガ二の幼生について,ある論文では「グ ラウコトエ

J.

男りなものでは 「メガ口/

'J

¥

'

とな っ ていま した どちらが正しいの でしょ うか? A 2. どちらも間違いではありませんが,現在で は後者の方が適切でし ょう. 甲殻類の幼生の形態は変化に 富んで おり ,成 体とはかなり異なっている. そのために甲殻類 研究の著書明期には,プランクトンとして見られ る幼生に対して独自の学名が付けられていた. ゾエア

(zoea)

という名もその一つであり,

,V.

J

Thompson

が今から一世紀半以上前にこれが実は カニ類の幼生であることを証明するまでは独立し た種として認識されていた. それ以来幾多の幼生 研究が行われ,様々な名称の プランク トンが様々 なグループあるいは齢期の幼生であることが示さ れて来た. これまでに用いられてきた様々な幼生 期の名称を主なグループ別に表

1

で示した . グラウコトエ

(glaucothoe)

というのは本来は 貝殻に寄居するヤドカリやホンヤドカリ類の, ゾエア期の次の,つまり第1 ポストラーパに対し てのものであり,またメガローパ

(m ega!opa)

はカニ類のそれに対して付けられた名称である. その後,カニ型のタラバガニが異尾類の中のホン ヤドカリ科に近いものであることが分かり,これ との関連でこの名称がしばしば使われたと思われ る. 幼生期については,国際命名規約の様な統一 基準はないが,前世紀に比して格段に知見が増え つつある現在,出 来るだけ発生段階の名称は ,機 能と形態のコンビネーションによ って合理的かっ 統一的に扱うべきであるとの考え方が出てきて, 少なくとも十脚甲殻目内では「ノープリウス → ゾエア → メガロパ」とすべきとの意見が多くなり つつある. さらにゾエア期以降においては基本的 に成体型までつながるポストラーパ期と捉え,メ ガロパやプエルルス等とい った第1 ポストラーバ に対しては,全十脚目共通ということで「デカボ ディッド

(decapodid)

J

にしてはどうかとの提案 もある. 表1 .+ 脚目等の主要クループで用いられてき た幼生期の名称 分類群 オキアミ目 アンプ イオニデス目 十脚目 クjレ7 エピ上科 サクラエピ科 ユメエピ科 コエピ下回 七ンジュエピ科 イセエピ科 ヨロンエピ科 セミエピ科 7-jジャコ下目 ヤドカリ科 オカヤドカリ手ヰ ホンヤドカリ手ヰ カニダマシ科 その他の異尾下目 短尾下目 口脚目 浮遊幼生 頭部付属肢のみ機能化 頭・胸部付属肢まで機能化 変態( 着底) 直後の幼形( 第lポストラーノ¥ ) 腹部付属肢まで機能化 ノープリウス(naupi!us) カリプトピス (calyptopis)

アン7イオン (amphion) ノープリウス(nauplius) プロトゾヱア (protozoea) ノープリウス(nauplius) エラフォカリス (elaphocaris) ノ プリウス(naupl旧s) プロトゾエ7 (proto回ea)

ゾエ ア(zoea) エリオネイカス(eryoneicus) 7イロソーマ (phyllosoma) 7 イラン 7 イオン (phyllamphion) 7イロソーマ (phyllosoma) ゾエア (zoea) ゾエア (w回) ゾエ7 (zo回) ゾエア (zo回) ゾエア (zoea) ゾエア(zo回) ゾエ7 (zoea) フルキリア (furcilia) クリプトピ7 (cryptopia) 特に名称なし ミシス (mysis) ポストラーパ (postl町 四) アカンソソーマ(acan由。田m a) マステ イゴプス (m田tigopus) ゾエア (w剖) メガロパ(megalo凹) ポストラーパ又はパルパ(postlarva.凹rva) エリオネイカス (eryoneicus) プエルルス (puerulus) プエルルス (puerulus) ニスト (nisto) ポストラーパ又はずカボディ ッド(postlarva. d配a凹did) グラウコトエ又はメガロパ(glaucothoo,m egalopa) グラウコトエ又はメガロパ(glaucothoo. m egalopa) グラウコトエ又はメガロパ(glauco山00.m egalopa) グリモテ7 又は メガロパ (grimo山田,megalopa) メガロパ(megalopa) メガロパ(megalo凹) トラフシャコ科 ー アンチゾエ7 (antiz田a) シンゾエア (s卯Z関心 エリクサス (erichthus) 7 トユピシャコ科 プソイドゾエ7 (p田udo四 回) シンゾエ7 (synz澗a) エリクサス (erichthus)

ンヤコ科 プソイドゾエア (pseudo回ea) シンゾエア (synz明a) 7 リマ (alima)

(3)

小 西 光 一 37 0 3. 今飼育中の種類は短縮化された発生をする 様 なのですが,この場合のステージ分けはど うするのですか? A3. 形態的あるいは機能的に区切りを自分でつ けて「ステージ 1 ,ステージ 2 ,.... .

J

とす るのが現実的な方法です. 前のQ & A と関連するが,多くの標準的な幼 生期の他に,同じグルーフ。においても環境等への 適応からか,短縮化 された発生を示す種類が少な からず出現する. この場合,通常で齢期を区別す るのに用いられる形態形質もは っきりせず,また 付属肢では剛毛等が未分化で原基的な状態のまま で進むことが多い. さらにふ化時に卵黄を多く持 ち無摂餌でしばらく発生が進行するものでは口器 も退化している. そうなると,標準的な変化を想 定した名称は使う意味が薄れてしまい,無理に使 えばかえ って混乱を招くと思われる. よ って,そ の種の幼生に限定した意味で「ステージ

1

,ステー ジ

2

,…

.J

と的確に発生段階の定義をしていく 方が現実的な記述方法であると恩われる. 大切な のは,他の研究者に分かる様に定義をは っきりと しておくことである.

0 4.

幼生の形を見ただけで本当に種類が分かる ものですか? A 4. どの場合でも 1 0 0 % はあり得ないカi',デーl' タの蓄積が多いグループほど信頼性は高いと 言えます. 理屈から 言 えば,その海域に生息するすべて の種類の, しかもすべての発生段階が分かつてい ることが必要条件で、あるが,現実にはわが国の例 では各グループにおける平均的な幼生記載率は十 数% であり,またふ化から最小成体型までのもの となれば,この十分のーにも満たないであろう. しかしながら,エピ ・カニ類に限らず,その種の 分布域や個体数,繁殖時期等の形態以外のデータ を参照することにより ,ある程度までは判別する ことが可能となっている . 最近では

D N A

による 種判別が一般的になっているが,例えばプランク トン試料でこれを行うとすると,そこまでに至 る

D N A

解析等の作業や現場での手間に関わるコス トの問題が生じてくる. 数千種はいる相手の中で, 産業重要種であればまだしも,それ以外の,学名 以外にはほとんど情報のない様な超マイナーな種 については,これが期待出来ない. 形態的な判別 方法も基本的には変わらないが,より研究コスト は低いと思われる. よって当分の間,形態による 判別が不必要とされることはないであろう. 0 5. 幼生の記述では,なぜ写真ではなくて線画 がイ吏われるのですか? A 5. 対象を特定するための視覚情報としては, 写真よりもむしろ絵の方が有効だからです. これは専門家以外の目から見れば,当然の疑問 と思われる. 以前にも述べたが,記載論文におけ る図とは,研究者がどの様に対象の特徴を「観た のかj も含んだ一種のメモである . 犯罪捜査にお いて写真 よりも似顔絵の方がしばしば有効で、ある のも,図の方がより対象の特徴を簡明に捉えてい るためである. これに加 えてゾエアの様に微小な 物体は,顕微鏡で見ても焦点深度の限界があ って, すべてを撮ることは不可能で あり,描画 に頼らざ るを得ない. 最近はデジタ ル画像技術が発達し, 微小な対象物でもすべての面で焦点の合った画像 をコンピュータ処理によって得ることが出来る. しかしながら,これも“理想化された合成像" で あって本質的に描画図と変わりはないと思う. 現 実にプランクトンを観察する場合には,やはり接 眼レンズを通して一部のみに焦点のあ った像を見 ることになるのである . 06. 論文に使う線画は手書きと,パソコンと で はどちらが良いですか? A6. 一時的 (一過性) な研究ならば,手書きで, 長期にわた って続けるのならばパソコンが妥 当でし ょう. 一つの図を完成させるには,かなりの時間と手 間を要する . 鉛筆で下絵を描き ,次に製図ベン等 で上質紙にトレースし,さら に台紙に貼 って印刷 用の原図を完成するというのが, これまでの主な やり方であった. これに対して トレー スから先の 作業をすべてコンピュータ上で電子的に行う方法 があるが,この場合は描画ソフトへの習熟度が要 求される. 一回の作業時間で考えれば,前者の方

(4)

38

幼生研究のための小テクニック集 (6) その他のF A Q が短いが,同じ記載作業を何度もくり返すならば, 後者の方が効率的であると 言 える. よって, 研究 ・ 調査業務に おいて ,幼生記載での作図作業が,自 らの研究全体でどれ位の比重( エフオー ト) を占 めるかで,どちらを採るかを決めれば良い.

0 7.

論文を投稿しますが, どれも受理されませ ん. 何が問題なの で しょうか? A 7. 一度,投稿する側とされる側との状況を冷 静に検討してみる べ きです. 投稿論文の 却下

(reject)

はほとんどの研究者 が経験することである. しかしほぼ返却率100 % ならば,どこかに大きな問題があると考えて,そ れこそ科学的に分析してみた方が良い. 人のこと を言えた義理で はないが,あえて考えてみると, 要は論文出版も売り手と買い手の関係にあり ,双 方の要求 レベル あるいはポリ シーが異なればうま く行く筈がないのが当然である . 参考までに以下 の点を思い起こし,投稿前 のチェックしてみては どうだろう か ? 1) 論文原稿が,図表の不備等,内容以前の段 階で問題はな いか? 筆者も時々査読を引き受け ることがあるが,実際,図表の欠落や引用忘れ等, そもそも投稿以前に問題があって文章を読む気に なれないものがある. 2) 原稿の英文 は基本的な文法 ・ミススペル等 の最低限のチェックはしているかつ 冒頭の英文 摘要

(Abstract)

のほんの数行を 眺めただけで, 中学1 年レベ ルのミスが連発する場合も, この先 の時間の浪費を考えると止めざるを得ない. この 場合,大抵は元の日本語自体が文章になってい な いことがほとんどである. 3) 論文の中身と投稿誌のポ リシーに大きな食 い違いがないか? もっとは っきり言えば,自 らの論文 レベルと雑誌の レベルが合っているかど うかである . 自分の研究成果が, その研究分野の 中でどの位に位置するかを自覚することは,なか なか難しいとはいえ,プロの研究者としての努力 目標の一つであ ろう .

08.

論文が出版されましたが ,高額の請求書が 来て 驚いています.何かの間違い で しょうか? A 8. 間違いではありません. 論文作成時 には必 要 な経費についても気を配る べ きです 神聖なる研究活動と いえども タダではないのは 当然であるが, この厳粛な事実がいつの間にか頭 の中から消えているこ とが多 い. 以前はどの学会 誌でも余裕があって十数ペ ージまで掲載料フリー といったものもあったが,昨今の経済事情からか, 著者すなわち投稿者に対する印刷経費の負担割合 は増加傾向にある. これでは貧乏な研究者は,研 究活動の唯一の証で ある論文への道までも断たれ かねないが, しかし現実も また 直視せざるを得な い. 特に幼生の全発育段階の記載となるとページ 数もかなりなものとなる. 論文投稿の時点でペー ジチャージや割り増し料金はないか等についてき ちんと点検した後,図表のレイアウトを工夫して ページ数を減らしてみるとか,無駄な写真を入れ ていないか( 特にカラーの場合は非常に高額) と か,同 レベルで より安価 な雑誌を探すとか,理解 あるパトロンを探すとか,最善の道を選んで行う べきであろう. 0 9. 幼生の研究をや っていて食べて行けますか? A9. それはあ なたの努力と運次第 であり ,幼生の 分野に限ったことではありません. ただ一つは っ きりしているのは,幼生記載の研究は当人の人 生とは関係 な く後世に残 って行く ことです. 現在 yjJ生発生の記載研究だけで職を得てい る人は 一人もいないし,これからもいないのでは ないだろうか? も っとも これは幼生記載の分野に 限った話ではなく,最先端の生物学をや って いて も,タイミングを誤れば基本的には似た様なもの と思われる. 一般に ,事物を記述する記載的研究 は,残すこと自体が目的のーっとなっている . よっ て,一度世に出た論文は,余程のことがない限り は必ず引用され続けて行くしくみである. その人 の研究者人生が成功していようと, 悲惨なもので あろうとも,結果としての論文は後世に残る訳で ある. 逆に 言 えば,この視点に 立って論文やモノ グラフを作るべきであろう ( (独) 水産総合研究センター養殖研究所)

参照

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