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3-3-2 理研ビームライン 大型放射光施設の現状と高度化 理研放射光科学総合研究センターではSPring-8のビームライン利用技術高度化やSACLAの新規利用技術開拓に向けた様々なR&Dに対応し また理研内の物質科学や生命科学での放射光利用研究を推進するために 現在立上げ調整中のビームラインを含め

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 理研放射光科学総合研究センターではSPring-8のビー ムライン利用技術高度化や SACLA の新規利用技術開拓 に向けた様々なR&Dに対応し、また理研内の物質科学や 生命科学での放射光利用研究を推進するために、現在立 上げ調整中のビームラインを含め 9 本の理研ビームライ ンを設置している。稼働中の理研ビームラインには、膜 タンパク質の微小結晶構造解析で成果を挙げているター ゲットタンパクビームライン(BL32XU)や、コヒーレ ントX線による走査型回折顕微法(タイコグラフィー法) で奥行き方向の情報を得る新しい手法を開発した物理科 学ビームラインⅠ(BL29XU)など、それぞれ独自の特徴 を持った構造生物学関連 4 本、物理科学関連 4 本の理研 ビームラインが順調に技術開発と利用実験を進めている。 また、X線非弾性散乱研究用の量子ナノダイナミクスビー ムライン(BL43LXU)は利用実験に向けた立上げ調整・ 測定技術開発も最終段階を迎えている。  以下では、ビームライン基盤研究部のユニット毎 に 運 用 中 の ビ ー ム ラ イ ン(BL26B1&B2、BL32XU、 BL45XU、BL19LXU、BL44B2、BL17SU、BL29XU) 及び立上げ調整中のビームライン(BL43LXU)の現状に ついて報告する。 (山本 雅貴) 1.構造ゲノムビームラインⅠ&Ⅱ(BL26B1、BL26B2)  BL26B1 及び BL26B2 は構造ゲノム研究や基質複合体 解析など、膨大な数のタンパク質結晶に対する迅速かつ 簡便なX線回折強度測定を目的として、結晶スクリーニ ングの効率化及び連続自動データ収集システムの開発を 行い、ユーザー利用に供している。ビームラインには SPring-8 標準の偏向電磁石ビームライン光学系を採用 し、光学系・実験ステーションを含めたビームライン全 体の統合的な制御を実現するため、ネットワークを介し たクライアント/サーバ型の実験スケジュール管理ソフ トウェアBSS(Beamline Scheduling Software)を開発

導入した[1]。さらにサンプル自動チェンジャー SPACE

(SPring-8 Precise Automatic Cryo-sample Exchanger) 及 び Web イ ン タ ー フ ェ ー ス を 備 え た デ ー タ ベ ー ス D-Cha(Database for Crystallography with Home-lab. Arrangement)を開発してビームライン自動運転システ ムを構築し、それらを活用したメールイン・データ収集 を行ってきた[2, 3]。さらに2011年度から、結晶センタ リング等の条件設定においてより柔軟な利用方法を提供 するため、以前よりJASRI制御・情報部門及び構造生物 グループと共同で開発を進めてきた遠隔実験システムの 利用を開始した。  2014 年度は効率的な結晶スクリーニングやデータ収 集に向けたビームライン制御ソフトウェアの高度化を行 うと共に、実験ステーション機器の高度化の一環として BL26B1 において従来開発を行ってきた、サンプルチェ ンジャー SPACE の大容量試料ストレージをユーザー利 用に供し運用を開始した(図 1)。二つの並進軸で試料 容器の位置制御を行っていた構成を、一並進軸と一回転 軸に変更するとともにストレージ容器形状の設計変更 により周辺機器との干渉を最小限に抑えて大容量化を 行った。これにより改造前の 4 倍にサンプル容量が拡大 され、SPACE トレイの場合最大 6 個(結晶数 306 個)、 Universal V1-Puck の場合最大 8 個(結晶数 128 個)収 納可能となった[4]。遠隔実験やメールイン・データ収 集においてビームタイム中の試料容器の交換作業が大幅 に削減され、効率的なビームライン運用及び実験が可能 となった。 参考文献

[1]G. Ueno, H. Kanda, T. Kumasaka and M. Yamamoto: J. Synchrotron Rad. 12, (2005) 380-384.

[2]H. Murakami, G. Ueno, N. Shimizu, T. Kumasaka

3-3-2 理研ビームライン

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and M. Yamamoto: J. App. Cryst. 45, (2012) 234-238.

[3]N. Okazaki, K. Hasegawa, G. Ueno, H. Murakami, T. Kumasaka and M. Yamamoto: J. Synchrotron Rad. 15, (2008) 288-291. [4]http://www.crystalpositioningsystems.com/ (上野 剛、村上 博則) 2.ターゲットタンパクビームライン(BL32XU)  近年の医学・生命科学研究では、構造解析がより困難 な疾病や重要な生命現象に関わるタンパク質群の研究に 重点が置かれており、それに伴い超高輝度マイクロビー ムを用いた高難度構造解析サンプルに対応したX線結晶 構造解析が望まれている。そこで、理研ターゲットタン パクビームラインBL32XUを文部科学省『ターゲットタ ンパク研究プログラム』解析課題により 2010 年に建設 して、2012年度からは文科省『創薬等支援技術基盤プラッ トフォーム』の解析拠点として高難度構造解析に貢献し ている。2014 年度は 2013 年度に継続して、より効率良 くタンパク質の結晶構造決定を行うための装置開発・測 定技術開発を重点的に行った。また、創薬等支援技術基 盤プラットフォームのポータルサイトを通じビームタイ ム配分及びユーザー実験の利用支援を行い、インパクト の高い成果が着実に得られている[5, 6]  本ビームラインでは特に10 〜 50 µm程度のLCP(脂 質メソフェーズ)法で結晶化された試料結晶(以下、 LCP結晶)からデータ収集を行うことが多い。LCP結晶 のデータ収集では不透明な脂質に埋もれた微小結晶を探 索する必要があるが、通常の光学顕微鏡での探索は困難 である。そのため、X 線により試料ループ内部を走査し て回折の得られる位置を特定しなければならない(ラス タースキャン)。2014 年度は 2013 年度に開発した自動 結晶検出ソフトウェア及び測定スケジュール作成の機能 向上を行った。まずラスタースキャンで得られる大量の 回折イメージそれぞれに観測される回折スポットの数や 積分回折強度などでスコアリングする。それらのスコア に閾値を設定することにより、対応する高スコアな回折 像が得られた結晶の位置情報を自動的にゴニオメータの XYZ Φ座標リストとすることを可能にした(図 2)。こ れにより微小結晶探索をほぼ自動的に行うことが可能に なった。さらにこれらの座標リストをネットワークコマ ンドとして測定スケジュール作成システムであるKUMA システムに転送することを可能にした。KUMAシステム では受け取ったXYZΦ座標にもとづいて放射線損傷を考 慮した測定条件を各結晶に設定した測定条件リストを生 成し、ビームライン制御ソフトであるBSSへそのリスト を簡便に受け渡すことを実現した。この二つの高度化に よりGPCRなどLCP微小結晶を多数用いた高分解能構造 解析の実現に大きく前進した。  また、2011 年度より微小結晶からの高精度データ収 集を目的として、結晶周辺のLCPや不凍液溶媒領域など のノイズ源の除去や結晶の整形によるデータ精度向上・ 複数結晶からの単一結晶の切り出しなどを可能とする、 「深紫外レーザーを用いたタンパク質結晶加工機(Pulsed UV Laser Soft Ablation: PULSA)」の開発を行ってい る。2014年度は、4月より供用を開始し、ユーザーによ る利用が開始されている。その他、タンパク結晶のラマ ン分光を目的として顕微分光装置の開発を行い、タンパ ク結晶からのラマン測定が実行可能であることを確認し た(図3)。レーザー光ピンセットを用いた微小結晶マニ 図2 ラスタースキャンを効率化するGUIプログラム(SHIKAシステム) (左)回折像上、自動検出された回折点が赤い四角で表示されている (右)回折点の数や強度などのスコアの高い位置が一目できるプロット。閾値よりもスコアの高い位置(結晶)の結晶は自動的に選択 される(図中緑の◯で囲まれている点)

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ピュレータの開発も行っており、微小結晶を半自動的に 拾い上げ、凍結するシステム(測定準備)の開発も行っ ている[8]

参考文献

[5]K. Kumazaki et al.: “Structural basis of Sec-independent membrane protein insertion by YidC”, Nature 509, (2014) 516-520.

[6]Y. Lee et al.: “Structural basis for the facilitative diffusion mechanism by SemiSWEET transporter” Nature Communications 6, (2015) 6112.

(平田 邦生、河野 能顕)

3.構造生物学ビームラインⅠ(BL45XU)

 BL45XUは、タンパク質の溶液中の構造やその動的変 化、高分子材料の構造と機能・物性などのナノスケール の構造解析を X 線小角散乱(SAXS: Small-Angle X-ray Scattering)測定により進めている。ビームラインの構 成は垂直偏光のタンデムアンジュレータを光源とし、合 成ダイヤモンド結晶を分光素子としたビーム分岐・単色 化機構を備え、SAXSステーション及びSWAXS(Small- and Wide-Angle X-ray Scattering)ステーションにて 同時に実験が可能な特徴を持つ。SAXS ステーションの 全ビームタイムの 20% を JASRI 共同利用課題に供出し、 80% を理研として利用している。また、2014 年度より 創薬等支援技術基盤プラットフォーム事業にて SAXS ス テーションでの解析支援を進めている。 図3 顕微ラマン分光装置 (左)装置全景:ゴニオメータ上に低温N2ガスによって凍結した結晶をマウントできる。紫外可視吸収分光測定とラマン分光測定を レーバー一本の操作で切り替え可能 (右)本装置によって測定した酸化型qNOR結晶のラマン測定結果。励起用レーザー光サイズCd-He(λ= 455 nm)はφ70 µmに集 光。枠内は溶液と結晶の酸化型のラマン測定の比較 図4 (左)BL45XUのSAXSステージョンに導入したPILATUS3X- 2M検出器    (右)SAXSプロファイルの比較、PILATUS3X- 2Mの導入により広いq領域で高速(250 Hz)に高S/N測定のデータ収集を達成した。

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 2014 年度は、創薬等支援技術基盤プラットフォーム 事業によって SAXS ステーションの検出器を高精度・大 型・高速の DECTRIS 社製 PILATUS3X 2M に更新した。 PILATUS3X 2M は 253.7 × 288.8 mm の受光面積をも ち、読み取り時間0.95 ms、最大フレームレート250 Hz での散乱測定が可能である。本検出器の導入によって、 既存の RAXIS VI++ 検出器と比較して、1 測定当たり 5 分程度かかった測定時間が 10 秒程度に短縮され、検出 器由来のバックグラウンドノイズのない高精度、大面積 測定が短時間で可能となった。検出器の更新に合わせて 測定プログラムを改良し、PILATUS検出器特有の個別モ ジュール間のブラインド領域を解消するために、自動的 に連続オフセット撮影をしてブラインド領域を画像補完 する機能を開発した。また、測定時間の短縮に対応すべく、 測定から2次元画像データの表示、2次元データの1次元 化の自動データ処理も実装し、ユーザー利用に向けた調 整を進めている。  検出器の更新に合わせてさらなる微弱散乱信号からの 高S/Nデータ収集を目指して、光学系に由来する寄生散 乱等からのノイズを低減するために、試料部以外のX線 経路の全真空化を行った。従来、大気中に設置していた、 X 線シャッター及びビーム位置モニターを真空層内に設 置し、透過強度測定用のイオンチャンバーをビームストッ プ内臓型の小型Siピンフォトダイオード検出器に変更し た。これらの光学系の変更により希薄溶液からの微弱散 乱信号の分離能を向上することが可能となった。また、 さまざまな試料環境での測定を目指して、測定試料の湿 度環境をコントロールする湿度調整装置を導入し、温度・ 湿度変化に伴う散乱・回折像測定を可能とした。 (引間 孝明) 4.物理科学ビームラインⅡ(BL19LXU)  BL19LXUは、27 m長真空封止アンジュレータを光源 とする X 線ビームラインである。2000 年度に実験ハッ チ1 〜 3の供用を開始し、2001年度に実験ハッチ4が拡 張された。これまで光学ハッチでは、MOSTAB(分光器 安定化システム)や縦集光ミラーの設置(2004年度)と その直下流位置での4象限スリット設置(2010年度)な どの高度化を進めてきた。一方で 2012 年度頃には分光 器全体に老朽化によると思われる機械的、熱的な不安定 要素が目立つようになってきた。このため 2013 年度末 に分光器のオーバーホールを行い、チャンバーの内部の ほぼ全ての部品を新規格のものに更新した。その他維持 管理の一環として2010年度と2014年度にフロントエン ドの可動マスク位置の再調整を行った。実験ハッチの高 度化・維持管理に関してはシングルパルス利用のための 高速回転シャッターの導入(実験ハッチ2、2009年度)、 K-Bミラーによる100 nm集光(実験ハッチ4、2010年度)、 フェムト秒パルスレーザーシステムのQスイッチパルス レーザーの更新(実験ハッチ2、2011年度)が行われて きた。  2014年度は主に実験ハッチ3の整備を行った。まず実 験ハッチ 2 に設置されたフェムト秒レーザーを実験ハッ チ 3 で簡便に使えるように隔壁に貫通孔を設けレーザー 専用のダクトを設置した。同時に実験ハッチ 3 内での安 定したレーザーの取回しのためにポストを設置した。ま た、実験ハッチ 3 の上流側に長焦点距離の K-B ミラーシ ステムを常設した(図 5)。これにより 20 ミクロン程度 の安定した集光を容易に利用できるようになった。上記 以外に振動・熱源になっていた実験ハッチ 2 の常設スク ロールポンプを天井に移設した。また、ハッチ内に設置 する真空パイプをNW25からNW40にサイズアップした。 これと新たに整備した可動式ポストによりハッチ切替に 要する時間が短縮された。周辺では実験ホール内のラッ クや棚のアンカー固定、ユーザー居室の整備を行った。  各実験ステーションでは高輝度光源を有効利用した実 験の他、X線自由電子レーザー(SACLA)利用のための 新手法の開発が進められている。以下に 2014 年度に行 われた主な研究項目を実験ステーションごとに示す。実 験ハッチ 1 では、X 線パラメトリック変換過程の基礎実 験、X 線光子相関分光法によるソフト界面のダイナミク ス研究、核共鳴散乱による酵素反応の研究が行われた。 大型機器が持込できる実験ハッチ 3 では硬 X 線光電子分 光(HAXPES)実験、X 線磁気回折実験、X 線励起下で の走査型トンネル顕微鏡による表面物性研究が行われた。 特に最初の 2 テーマではフェムト秒レーザーによる時分 割測定も行われた。実験ハッチ 4 では 100 nm ビームを 用いた X 線磁気散乱マッピング、強磁場下での X 線回折 実験が行われた。SACLA利用課題の予備実験として時分 図5 BL19LXUの実験ハッチ3に常設されたKB集光装置。簡便 に20ミクロン程度の安定した集光ビームを利用できる。

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割HAXPES、時分割X線磁気回折、気体からのX線散乱、 光子 - 光子散乱実験、アクシオン探索実験が行われ、本 実験のスムーズな遂行に貢献している。 (玉作 賢治) 5.物質科学ビームライン(BL44B2)   理 研 物 質 科 学 ビ ー ム ラ イ ン BL44B2 で は、 全 散 乱 (Bragg 回折 + 散漫散乱)PDF(Atomic Pair Distribution

Function)解析から得られる短距離・中距離秩序構造と、 Bragg 回折構造解析から得られる長距離秩序構造をシー ムレスにつなぐことで、物質・材料に内在する構造不均 一性や階層性を原子レベルで明らかにすることを目指し ている。  全 散 乱 PDF 解 析 で は 一 般 的 に 高 エ ネ ル ギ ー(〜 90 keV)が用いられるが、その最大の理由は、結晶性 物質で十分な実空間分解能をもつ PDF を得るには高い Q (4πsinθ/λ > 20 Å-1)のデータが必要とされるた めである。しかし、このような条件で測定されたデータ では、Bragg 反射の低Q 側への圧縮によりBragg回折構 造解析の精度は著しく減少する。そこで、BL44B2では、 20 〜 30 keV 程度の X 線を使った全散乱 PDF 解析の可 能性を検討してきた。その結果、既存のイメージングプ レート、CCDやフラットパネルセンサーといった積分型 検出器ではダイナミックレンジやノイズ、また一度にカ バーできるQ領域の点で難しいことがわかった。そのた め、1D 光子計数型の DECTRIS 製 MYTHEN モジュール の拡張性に着目し、SPring-8でのシングルモジュール実 験、Australian Synchrotron でのマルチモジュール実験 を経て、その導入を決定した。MYTHEN のような光子 計数型検出器は、ダイナミックレンジやノイズ、時間分 解能の観点からはIn Situ 全散乱実験にとって有望である ものの、シングルモジュールではPDF解析に必要なQ領 域を一度にカバーすることはできないため、アレイ化が 必須である。MYTHENの開発拠点となった Swiss Light SourceのMaterials Science BLを始めとする海外のほと んどの粉末回折 BL では、複数のモジュールを子午線方 向に最短間隔で配置する直列配置が一般的である。だが、 それにより発生する数mmのモジュール間ギャップを埋 めるために最低 2 回の測定が必要であり、データマージ により解析精度が悪化するだけでなく、基本的に不可逆 な反応を対象とするIn Situ やOperando 実験は不可能で ある。  BL44B2では、8個のモジュールを子午線に沿うように ジグザグに配置することで、PDF解析に必要なQを有す る全散乱データがシングルショットで測定できるように なっている。このような配置では、少なからずシャープ な Bragg 反射プロファイルへ悪影響を及ぼすものの、プ ロファイルパラメーターに依存しないPDF解析ではその 影響を無視して良いことを確認している。むしろ、PDF 解析で律速となっていたのは、モジュールの環境に依存 したエネルギー閾値の系統的なばらつきと、実験条件に 合わせて行うべきFlat Field補正の難しさである。2014 年度は、上記のデータ補正に関わる問題を、適切な温度 管理と独自のFlat Field補正法により解決し、90 keV近 くの高エネルギー X線を使わなくても、フーリエ変換の 打ち切り誤算によるリップルがほとんど見られない高い 空間分解能を有するPDFが得られるようになった。 (加藤 健一) 6.物理科学ビームラインⅢ(BL17SU)  軟 X 線ビームラインである BL17SU は、軟 X 線領域の 各種分光法や各種計測技術、ビームライン要素技術等の 高度化を図ること、先端的な物質科学研究や光科学研究 を推進することなどを主な目的として運営されている。 2003 年度に運転を開始し、各種調整運転の後、2004 年 度の秋から理研ユーザーによる利用研究が開始されて いる。2005 年度の秋からは全ビームタイムの 20%を JASRI共同利用課題にも供出している。  研究を多角的且つ効率的に推進するため、ビームライ ンは排他的利用形態のブランチ a、ブランチ b に分岐し た構成となっている。それぞれのブランチには恒温ブー スによって精密に温度調節された超高分解能回折格子分 光器を整備して、エネルギー的に安定した高輝度軟X線 ビームを各ブランチに配備された実験ステーションに供 給している。ブランチ a では、主要実験ステーションの 一つである高分解能光電子分光ステーションにおいて先 端物質科学の実験的研究が行われ、そしてもう一つの主 要装置である高効率軟X線発光ステーションにおいては、 各種液体・溶液を観察対象とし、液体の水の電子状態や 溶液中の分子の電子状態を観察するための発光分光実験 が 2013 年度に引き続いて進められた。また、固液界面 でおきる不均一な現象を観察するための軟X線発光顕微 鏡の開発を継続して進めている。2014年度には、予備的 な実験として、電気化学セルの窓材に塗布された燃料電 池電極材料の銅錯体を観察対象として、溶液中において Cu 2p励起による元素マッピング観察などを行った。ユー ザー持ち込みエリアではJASRI共同利用課題として、分 光型光電子・低エネルギー電子顕微鏡(SPELEEM)を 用いた高空間分解能の光電子顕微鏡(PEEM)実験が行 われている。2014年度もレアメタルフリー磁石の磁区解 析やグラフェン材料の局所電子状態解析を中心に利用研 究が展開された。また、試料準備槽にパルスレーザー成 膜装置(PLD)が導入され、作製した磁性膜を真空中搬 送することによる“その場磁区観測”が試みられた。出射

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スリット直下流のフリーポートでは、水、アルコール、 アセトンなどを気相標的分子として光電子分光実験装置 のガスセルに導入し、極低エネルギー光電子が関与する 標的分子解離ダイナミクスの電子分光法による観察が兵 庫県立大学との共同研究として行われた。  ブランチ b では、常設の実験ステーションの一つであ る軟X線回折実験装置による長周期秩序物質の電子状態 の直接観測などが 2013 年度に引き続いて行われ、2014 年度は円偏光レーザーを用いたヘキサフェライト物質の 磁気カイラリティの制御を目指した実験が行われた。ま た 2013 年度より、XFEL 施設での研究の展開を想定し、 東北大学多元物質科学研究所・産業技術総合研究所・ 京都大学などとの共同研究として、分子イメージングの 開発研究を推進している。2014年度は、XFEL施設での 研究のための R&D の一環として、ヨウ化メタンを気相 標的として測定用真空装置に導入し、C 1s光イオン化に よって放出される電子とイオン対の 3 次元運動量を多重 同時計測する実験を行った。この他、2010年度末に導入 された後置鏡システムにより、持ち込み装置用フリース テーションの集光位置に〜 22(H)× 8(V)µm2程度のス ポットサイズの集光ビームが安定供給されるようになり、 2014年度も2013年度に引き続いて、各種液体分子線を 標的とした光電子分光実験などが行われた。  a、b両ブランチとも、挿入光源のヘリカルアンジュレー タモードを用いた左右円偏光、擬似水平・擬似垂直の各 アンジュレータモードによる水平・垂直の各直線偏光が 利用されており、偏光特性を積極的に利用した先端的研 究が鋭意進められている。 (大浦 正樹) 7.物理科学ビームラインⅠ(BL29XU)  BL29XU は全長が約 1km の長尺ビームラインである。 アンジュレータを光源とする硬X線ビームラインで、タ ンデムに配置された4つの実験ハッチを有する。1998年 に実験ハッチ1(光源から52 m)までの部分が完成し利 用が開始された。2011年度末に凍結生体試料の回折顕微 鏡実験のための実験ハッチ2(光源から58 m)が完成し た。これに伴って、これ以前に下流に建設されていた長 尺棟内の実験ハッチ4(2000年に完成、光源から987 m)、 蓄積リング棟内最下流部の実験ハッチ3(2004年度末に 完成、2005年から利用開始、光源から98 m)は名称が 変更された。  2012年度にTCセクションの分光器内部の駆動ステー ジや液体窒素配管類を低振動型に刷新した。2013年度に は、分光器の性能評価が行われ、従来型から劇的に振動が 低減されている事が確認された。その後も、最新の低振動 化技術を、逐次、導入している。TCセクションには、原子 レベルで研磨されロジウム蒸着された JTEC 社製の X 線 ミラーを、2012年度に導入し、性能評価を行った。第2 ミラーのミラー表面は、焦点距離48 mに合わせ、ミラー 下流で究極的に平行度の高いビームを出射する放物面領 域を有する。低エネルギー用と高エネルギー用の二通り の入射角での放物面形状と平面形状の領域の三通りを併 進運動によって切り替える。放物面で平行度を上げたビー ムの評価を行い、理論値(0.06秒角)に近い0.08秒角が 達成された。長尺ビームライン実験施設でも平行度が高 く、リング棟に匹敵する輝度を有するX線を利用可能と したユニークなビームラインの整備を進めている。  本ビームラインでは、可干渉性X線(コヒーレントX線) を用いた利用研究が主に行われている。2014 年度には、 多数の照射で広い視野観察を可能にする走査型回折顕微 法(タイコグラフィー法)で、試料内の X線の伝搬プロ セスを考慮に入れた解析により、奥行き方向の情報を得 る新しい手法が開発された。続いて、高精度 K-B ミラー による X 線結像顕微鏡で 50 nm の解像度が達成された。 色収差のない顕微実験への展開が期待される。さらに、 大気環境で100 Kのヘリウムジェット吹き付けを行うク ライオ冷却システムが開発され、X 線回折顕微鏡による 生体試料観察に向け新たな展開が拓かれた。K-B ミラー を用いた走査型蛍光 X 線顕微鏡、X 線を用いたベリー位 相光学などでは、幅広い応用に向けた進展が見られ、多 岐にわたる研究が進められた。X 線自由電子レーザー利 用研究に向け、薄膜結晶を用いたX線遅延回路の評価実 験など光学素子や検出器の評価・開発も精力的に行われ た。 (香村 芳樹、玉作 賢治) 8.量子ナノダイナミックスビームライン / Quantum NanoDynamics Beamline(BL43LXU)

Commissioning of BL43LXU continued through this period. In-house work at the experimental stations has largely been done by members of the Materials Dynamics Laboratory with assistance on some projects by members of JASRI, and RIKEN, and, occasionally, members of the RIKEN beamline support group. In an effort to preserve a record of issues encountered, the following tends to emphasize the problems occurring at the beamline. However, first a very brief summary: the most important point was finally attaining full power operation for energies of 15.8 keV and above in April of 2015. This included improvements to the storage ring orbit, the insertion devices, and the mirrors (M1 and M2) - all related to the operation of multiple IDs in series. As these issues are new, but are also being discussed for other facilities, some of this is described in an article submitted to the proceedings of

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SRI [1]. The high resolution setup has reached a reasonably

stable plateau, with up to 30 analyzers in operation. The microfocus for the HR setup was found to provide 12 × 17 µm2

beam, but is still being optimized. The medium resolution setup underwent (and continues to undergo) many changes and, with the first good analyzer crystal tested, begins to approach an operational capability. The largest outstanding issue at the beamline is probably the temporal and thermal stability M1 in its bender. This is under investigation.

Electron Orbit: The situation was dramatically improved in May of 2015 when finally all 6 electron BPMs were added to the global feedback loop. Previously, only two BPMs, located upstream and downstream of ID2 had been included because the other BPMs, with a different electronics, were noisy. The noise was reduced by integration of the signal (Fujita) and this allowed inclusion all BPMs in the feedback, and significant improvement of stabilization of the electron orbit - now, mostly at the level of 2 µrad, or better, between each ID. However, there remains some discrepancy between the orbit as estimated at the center of the IDs using the BPMs and the orbit as measured using a trajectory check of the photon beam axis - with the photon beam axis occasionally showing larger shifts than the BPMs indicate. This may be due to the location of lattice and steering magnets between the BPMs and the IDs. However, over-all, the situation has been significantly improved with a lot of aid from Soutome and Takao, and the updated positions for feedback have been put into the XBPM system (Aoyagi) for default tuning. The present setup has the beams well aligned through the front-end slit, but some additional tuning is needed to align the source points well.

Insertion Devices: The problem of the radiation from upstream IDs heating the covering of the downstream IDs was finally solved, if imperfectly, by the addition of an intra-ID absorber for ID3 (by T. Tanaka). The removal of 3 sets of two periods of magnets and replacement by copper absorbers that extend slightly below the magnets shadows the downstream magnet cover, preventing heating by the beam from upstream IDs. This combined with a changed cover of the second ID now allows all IDs to operate down to 15.8 keV. However, on ID3, the 14.4 keV operation point probably was lost due to the reduced gap resulting from the copper absorbers extending below the magnets, and the spectral response (Brilliance) was reduced by the

lack of phasing from removing the periods though the effect on flux was smaller. There also remain some stability issues when the buch current gets to 5 mA. We also note that tests (Nakamura) were done without a cover on ID3. The results were surprisingly good from the point of view of beam stability, but high bunch currents (>1.5 A) were not possible, so the absorber solution was adopted.

High-Heat Load Mirrors (M1, M2): These were re-polished, with the slope error of M1 improved to better then 0.17 µrad rms over the central 800 × 4 mm by Winlight X and M2 to < 0.1 µrad rms over the central 800 × 60 mm2 by J-Tec. The beam quality (profile) was significantly improved, with now only relatively small (~30%) non-uniformity in the backscattering hutch as opposed to >100% previously. The stability of M1 in Toyama's bender, however, now is probably the largest source of BL instability, with both the mirror angle and the bend not being stable, showing temporal and thermal shifts on several time scales. This is under investigation, with the system largely taken apart in August of 2015. (Ishikawa, Baron)

Backscattering Monoshcromator: The resolution of the backscattering crystal became worse under the heat load of full power operation - increasing from ~1.3 to ~1.6 meV at the (11 11 11). This was improved by changing the silicon design and the 1.3 meV operation was recovered. (Ishikawa, Baron)

Microfocus: The full micro-focus system with a combined prism lens in the horizontal and elliptical mirror in the vertical generated a spot size of about 12 × 17 µm2 in the

FWHM. The detailed operation, including alignment, tails, and overshoot, and stability, is now being investigated and improved. (Fukui, Nakajima, Ishikawa, Baron)

Medium-Resolution In-Line Monochromator: This was tested extensively with, eventually, ~22 meV resolution and 1.5 THz on the sample achieved with 2 IDs. However, thermal stability and monochromator throughput are extremely sensitive to heat load, and require additional fine-tuning. This is in progress. (Ishikawa, Baron)

Medium-Resolution Analyzer Crystals: The first relatively good analyzer was made by D. Ishikawa after some years of R&D. A new method of fabrication was

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needed because diffusion bond used for high-resolution (9.8 m radius) crystals does not work for the smaller, 1.9 m radius, medium resolution crystals. The new analyzer crystal had about 32 meV over-all resolution, and a reasonable focal spot size. More analyzers are now being fabricated, though some time was lost when a contracting company (Sarton Works) changed a step without consultation.

Medium-Resolution Detector: The detectors for the MR setup, and in operation of the PILATUS 100M is now under improvement, especially as regards software. A system of readout using a remote disk was found to be too slow, so, with the help of Certified Scientific, a Python based server is being set up. (Uchiyama, Baron)

High-Resolution Analyzer Crystals: Several additional high-resolution crystals installed, allowing up to 9 analyzers in one horizontal line. (Ishikawa)

Sample Environment: A high field magnet for the high resolution spectrometer was delivered by Oxford and tested off line. It seems to perform as expected with a vertical field from a split coils setup with up to 7 T. (Chuang, Baron) First tests were also done of 2K combined closed-cycle/Joule-Thompson system for mountinf int he Eulerianc cradle This seems to perform nicely, though the cool-down time (~5 hours) is a bit long.

Reference

[1]A. Q.R. Baron, T. Tanaka, K. Soutome, M. Takao, T. Nakamura, K. Kobayashi, T. Fujita, S. Takahashi, H. Aoyagi, Y. Shimosaki, T. Seike, H. Uchiyama, D. Ishikawa, T.-H. Chuang, H. Kimura, H. Tanaka, H. Kitamura, and T. Ishikawa: submitted to the proceedings of SRI2015.

参照

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