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(1)

インフラストラクチャー整備が

貧困削減に与える効果の定量的評価

*1

―スリランカにおける灌漑事業のケース―

要 旨

国際協力銀行は、今まで円借款の供与によるインフラ開発への援助を重点的に実施してきた。イン フラ整備が投資や経済成長に与えるマクロ的な貢献については、様々な調査研究がなされてきたもの の、貧困削減の観点での直接的ミクロ効果についてはいまだ十分に解明されているとは言い難い。こ のような現状を踏まえ、開発金融研究所は、インフラ開発の直接的な貧困緩和効果を測ることを目的 として、2001年より「インフラストラクチャー整備が貧困削減に与える影響」という調査プロジェク トを実施している。本報告は、当調査プロジェクトの第一フェーズ(PhaseⅠ−2001年5月∼2002年 3月)の最終レポートをもとにまとめたものである。本調査では、特に地方の貧困層が農業従事者で あることを考慮し、インフラプロジェクトとして灌漑案件に関する調査研究を実施した。対象国はス リランカ、パキスタンの2カ国であるが、このうち今回はスリランカのケースについての分析結果を とりあげる。 本調査においては、当該国対象地域での家計調査を複数時点において実施し、家計のパネルデータ を収集した。調査手法はWith-Withoutアプローチを使用して分析した本調査の結果、所得・消費貧困 指標あるいは質的な貧困指標の計測を通じて、灌漑設備整備の貧困緩和効果が無視できないものであ ることがわかった。

Abstract

Japan Bank for International Cooperation has engaged in ODA loan activities, particularly emphasizing infrastructure development. The macroeconomic contribution of infrastructure improvement such as increasing economic growth rates through building an appropriate investment environment has been extensively studied. On the other hand, there has not yet been enough investigation of the direct micro-level impact of infrastructure development on poverty reduction.

This report is a summary of the final report from the Phase I (May, 2001 through March, 2002) of the research project,“Impact Assessment of Infrastructure Development on Poverty Alleviation”, which was initiated in 2001 by the JBICI for the purpose of measuring the direct impact of infrastructure development on poverty reduction. As an infrastructure project for study, irrigation projects were selected since most of the poor in rural areas work in the agriculture sector. While projects in two countries, Sri Lanka and Pakistan, were studied, we present in this article the

東京大学大学院経済学研究科助教授 

澤田康幸

開発金融研究所専門調査員 

新海尚子

*1 本論文は、JBICI Research Paper No.19, November 2002, “Impact Assessment of Irrigation Infrastructure Development on Poverty Alleviation:A Case Study From Sri Lanka”by IWMI Team: Intizar Hussain, Fuard Marikar, and Sunil Thrikawala, and JBICI Team:Naoko Shinkai, Yasuyuki Sawada, and Masahito Aokiを要約し、部分的に加筆したものである。

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これまでの国際協力銀行(JBIC)による円借款 援助は、インフラ整備を重点対象に行われており、 とりわけ南アジアにおいては灌漑インフラ整備が 比較的大きな割合を占めてきた。2国間・国際機 関による援助の有効性、特に貧困削減に対する効 果への国際的論調の高まりや、日本における最近 のODA予算削減など国内的事情の中、インフラ 整備の効果、とりわけ従来の評価では分析対象と されてこなかった貧困層へのミクロ的影響を明確 にする、という目的で、2001年から開発金融研究 所において「インフラストラクチャー整備が貧困 削減に与える影響」についての調査プロジェクト を開始した。本報告は当プロジェクトの一次分析 結果をまとめたものである。 具体的には、本研究は南アジアにおける2国、 スリランカとパキスタンにおけるJBICの円借款 資金による灌漑インフラ施設の整備及び改善が行 われた地域をとりあげ、それらの地域における貧 困層の生活水準を多方面より計測し、灌漑施設整 備状況との結びつきを明らかにするものである。 本報告では、そのうちスリランカでの調査を中心 にとりあげ、1年目の調査が終了した時点での結 果をレビューする。 本調査が対象としたスリランカのウダワラウェ 左岸灌漑地域(図表1参照)では、1997年から 2000年にかけて、ワラウェ川左岸灌漑改修拡張事 業(第1次)がJBICの支援を受けて行われた。本事 業は、農業生産の向上、およびWID(Women in Development)配慮を含めた営農指導、雇用機会 の創出や所得向上による地域活性化を図ったもの である。本事業を受け、ワラウェ地域は、改善され た灌漑施設へのアクセスがある地域、その他の(改 修されていない)灌漑設備へのアクセスがある地 域、灌漑アクセスがない天水依存地域、の3つに大 きく区分される。本調査においては、IWMI(Inter-national Water Management Institute)と共同で、 対象地域全人口の5%にあたる(多層化)無作為 抽出サンプルの858世帯を対象に家計調査が実施さ れた。とりわけ、灌漑施設を通じた貧困削減効果 の主なものとして、所得および消費の安定化への 寄与の可能性があげられる点を考慮すると、年間 を通じた所得および支出のダイナミクスを捕らえ る必要がある。このことを明示的に分析するため、 本調査においては、乾季・雨季の後に同一家計を 対象とした家計レベルのパネル調査が行われた。 ウダワラウェ地域は、スリランカで5番目に大 き い ワ ラ ウ ェ 川 の 流 域 で あ り 、 1 9 6 0 年 代 に 、 32,000haに及ぶ南部乾燥地帯の灌漑施設を整備す る目的で作られた貯水池(Reservoir)を水源と している。同地域には、全長42kmの右岸灌漑水 路と全長31km左岸灌漑水路があり、当初は灌漑 地域を20,000 haに広げることが試案された。1997 年に右岸において8,500ha、左岸において4,400ha であった灌漑地域は、現在では11,000 ha、6,400 haまで拡張された。雨量からみると、南西モンス ーンよりも北東モンスーンの影響を強くうけてお り、10月から1月の雨量が年間を通し最も多い*2

2.プロジェクトおよび調査地域概要

1.はじめに

evaluation results from a project in Sri Lanka.

Household surveys were conducted multiple times in designated areas in those two countries so that we could construct a panel data set. We analyzed survey data sets using the with-and-without approach. Empirical findings suggest that the poverty reduction effect of irrigation infrastructure is not at all negligible not only by income/expenditure measures but also by qualitative indicators of poverty.

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過去数年の灌漑地域における作物生産の内訳は、 52%の地域が米、24%がバナナ、12%が砂糖きび、 12%が他の食物の生産に利用されている。ウダワ ラウェ地域全体においては、38,000世帯、170,000 人が生活を営んでおり、そのうち40%の世帯、約 75,000人が左岸灌漑地域に暮らしている。 この左岸地域を調査するに当たり、まず、灌漑 設備状態に従って流域全体を分割し、5つの調査 地域、Sevanagala, Kiri-ibbanwewa, Sooriyawewa, Mayurapura, Ridiyagamaを選択した。これら調 査地域全体の18,767世帯のうち、13,187世帯(約 70%)が農業に従事している。次に、各地域の特 性について述べる。 Sevanagala−Sevanagalaは、ワラウェ川左岸上 流に位置し、さらに天水灌漑地域と、灌漑地域の 両方にわかれる。灌漑農業地域は、2,600haにあ たり、約2,300家計がその75%をサトウキビ栽培に、 残りの25%を米栽培にあてている。一方、約2,100 家計が1,200haの天水灌漑地域に在住し、サトウ キビ栽培に従事している。この地域では1980年代 と1990年代の前半にかけてコンクリートライニン グによる灌漑設備の整備が行われたが、1990年代 後半のワラウェ川左岸灌漑改修拡張事業(第1次) による改修の対象とはなっていない。

Kiri-ibbanwewa and Sooriyawewa−Kiri-ibban-wewaは、ワラウェ川左岸中流地域に属し、この 地域では、約2,000家計が1,700haの灌漑地域で主 に米作に従事している。Sooriyawewaは、ワラウ ェ川左岸下流地域に属し、約3,800家計が2,300ha の灌漑地域で米作に従事している。両地域におい て、ワラウェ川左岸灌漑改修拡張事業による改修 が行われた。ただし、すべての改修が満足のいく ものであったわけではなく、住民に対するインタ ビュー結果によると、水路に十分な水が平素、保 全されているわけではないため、各耕作地域に水 がいきわたらないことがある、という問題点など が指摘されている。 Mayurapura(Extension Area)−Mayurapura は、ワラウェ川左岸下流地域に属し、灌漑施設は 存在せず、約1,800家計が8つの村に分かれて、乾 季には貯水タンクに依存した耕作、雨季には天水 による耕作に従事している。 Ridiyagama−Ridiyagamaは、Ridiyagama貯水 池周辺地域を指し、1,800家計が3,000haにおよぶ 地域を、ワラウェ川下流のLiyanagastota anicut を通して、未改善の水路より灌漑水を得ている。 標本調査の方法であるが、調査対象地域から、 まず多段階の標本抽出によって、各末端灌漑水路 におけるクラスターが選択され、その後、各クラ スター内の全家計リストを作成し、その上で全家 計リストの中から無作為抽出サンプリングにより 調査対象家計が抽出された。灌漑水路が整備され ていないMayurapura地域においても無作為抽出 によって調査対象家計が決定された。 実際に収集されたデータは、まず1.灌漑設備 の有無、2.改修灌漑設備の有無、3.耕作物パ ターン、4.2000年雨季の灌漑水の利用可能性を 基準に、次の6つ、Sevanagala Irrigated, Sevana-gala Rainfed, Kiri-ibbanwewa, Sooriyawewa, Extension Area, Ridiyagama の調査地域に分割さ れた。調査対象家計の全戸数と、農家・非農家の 内訳は、(図表2)の通りである。 これらの6つのグループの詳細は次のとおりで ある。 以下、各グループにおいて抽出された灌漑水路 の具体名称を含む。 ①C2およびC8が、末端灌漑水路として、抽 出された。C2は、1995年に完成された水路 で上、中流域に、C8は、1983から1984年に かけて築工されたものであり、中・下流域に 位置している。 ②またD1およびD3が天水灌漑地域として抽 出された。D1に在住の家計は、1990年にま た、D3については、1993/1994年に定住した。 ③2000−2001年雨季に米作がおこなわれたの は 、 K R B 、 K L B 、 M D 1 1 か ら M D 1 4 、 Mahagama灌漑水路流域である。上・中流域 に位置するMD3と中・下流域に位置する MD10が混合作物耕作地帯から選ばれた。こ れらの灌漑設備の改修は、1998年5月までに 終了した。米作地域からは、上・中流域に位 置するMD11とMBD2及び中・下流域に位置 するMD14とMBD11が抽出された。これらの 地域の灌漑設備の改修は、1999年5月までに 終了した。 ④この地域における灌漑設備は、1999年5月に

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改修が終了した部分と2001年5月に改修が終 了した部分にわかれる1,400haと、最新設備 を所持する灌漑システムとして新たに建設さ れた1025haからなる。耕作作物パターンは、 Kiri-ibbanwewaとほぼ同じだが、バナナの育 成がより多くなされている。灌漑水路から直 接灌漑水を取得しているMD15、MD18と、 末端灌漑水路であるBBD2、BBD5、BBD7、 BBSB2/D2が選定された。 ⑤この地域には、灌漑設備は存在せず、各家計 は天水灌漑による耕作に従事している。一部、 村で貯水タンクを所有する地域があり、そこ では米作も行われている。ここからは、An- darawewa、Maha-ara、Wediwewa、Bolh-inda、Bellagaswewaの5つの村/集落が選定 され、Maha-ara以外の4つの村では貯水タン クによる米作もおこなわれている。 ⑥R i d i y a g a m a は 、 大 き く 分 け て 7 6 0 h a の Ridiyagama Unitと1800haのBolana Unitの二 つに分かれる。左岸水路の上流に位置する RB1と、左岸水路より分岐された右南部水路 の中流域に位置するLB1、LB2、LB3、右 南部水路の下流に位置するRB5、Basnawa、 Mahawewa、同様に左岸水路より分岐された 右中部水路からの末端水路である水路No.19、 水路No.18、水路No.11、SCB2、SCB3が選定 された。主に米作がこの地域ではおこなわれ ている。 この調査の主な目的は、貧困に対する灌漑イン フラ改善による効果を、社会プログラム(social programs)を統計的に評価する手法、すなわち治 療効果(treatment effects)やプログラム効果 (program effects)の評価についてのミクロ計量 経済学(micro-econometrics)手法を用いて、測 定・評価することである。まず、ここでは計量分 析に入るまえに、調査対象地域の貧困状態を概観 してみることにする。 所得・消費貧困指標に基づいた分析 まず、所得・消費指標に基づいた貧困計測法に したがって検討することにしよう(図表3)(こ こ で 利 用 さ れ て い る 貧 困 ラ イ ン に つ い て は 、 Nanayakkara and Premaratne(1987)参照)。ま ず、食費についての貧困ラインは1985/6年度価 格で一人当たり月額Rs202であり、これは20−39 歳男性一人あたり一日に必要な2,500カロリーの摂 取を可能にする支出である。加えて国レベルのエ ンゲル係数より推計された基本的な非食物支出を まかなうとされるRs40/月が加算され、耐久消費 財支出をのぞくRs242/月が消費についての貧困ラ インとされている。この貧困ラインは、1990/1 年度価格においては、Rs471に更新された。この 数値を2000年度の価格に直すことにより、一人当 たりRs952/月の貧困ライン、またより高めのもの

3.貧困

農業家計 非農業家計 Study site 全戸数 調査戸数 サンプル割合(%) 全戸数 調査戸数 サンプル割合(%) Sevanagala (a)灌漑地域 (b)天水灌漑地域 Kiri-ibbanwewa Sooriyawewa Extension Area Ridiyagama Total 2,392 1,128 2,084 3,983 1,800 1,800 13,187 120 54 104 140 100 126 646 5.0 5.0 5.0 3.7 5.0 7.0 5.0 810 90 1,420 2,860 400 5,580 40 6 50 100 28 224 5.0 6.6 3.5 3.4 7.0 4.0 図表2 調査層の内訳(農業/非農業従事家計)

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として一人当たりRs1142/月を貧困ラインとして、 本調査では用いている。一方、世界銀行を中心と して、国際比較において幅広く用いられている一 日あたりUS1ドルという貧困ラインは、1985年 の購買力平価を用いてスリランカ・ルピーに変換 し、さらに2000年度価格に直すと、一人当たり毎 月Rs991となる。こちらの数値も比較目的で使用 した。以下、一人当たりRs952の貧困ラインに従 った記述的統計に準ず。 貧困者比率でみると、サンプル全体の12%が慢 性的貧困者、69%が一時的貧困者であり、残りの 19%が非貧困者である。地域別にみると、全体的 貧困者数が多いのは、Sevanagala天水灌漑地域 (Sevanagala Rainfed)の88%であり、また、慢性 的貧困者数でみると、天水灌漑地域(Extension Area)において25%と最も多くなっている。こ の天水灌漑地域においては、4家計につき1家計 が慢性的貧困状態にあるといえる。Sevanagala灌 漑地域では、貧困者比率が最も低いが、これは上 流に位置するという地理的利点により比較的灌漑 水にめぐまれていることによるものと考えられ る。この地域では、ほとんどの農業家計が砂糖き びと米の両方を耕作しており、季節的収入を米作 から取得し、さらに一年を通した定期的な貨幣収 入をさとうきびから得ることができるのである。 灌漑施設の有無でみると、全体的にみて貧困者 数が多いのは、天水灌漑地域であり、85%である。 また、慢性的貧困者比率は、天水灌漑地域で19% であり、灌漑地域における比率を9%上回ってい る。一方、農業・非農業の家計区分で見てみると、 非農業従事家計においては、農業従事家計に比べ 慢性的貧困者比率が高いものの、興味深いことに 一時的貧困者の割合は低くなっている。このこと は、非農業所得が全家計所得の保険的役割を果た していることの反映であるのかもしれない。 貧困ギャップ比率でみると、慢性的貧困ギャッ プ比率は、一時的貧困ギャップ比率より大きく、 また比較的各地域で同じ値をとっていることがわ かる。平均して、慢性的貧困家計が貧困ラインを 超えるには、58%の所得増を要する。一時的貧困 ギャップ比率は、慢性的貧困ギャップ比率の半分 であり、一時的貧困家計が貧困ラインを超えるに は、31%の所得増を要する。また、慢性的、一時 的貧困ギャップ比率は、非農業従事家計において、 農業従事家計より低い。二乗貧困ギャップ比率に おいても同様のパターンがみられ、Sevanagala天 水灌漑地域を除くすべての地域で、二乗慢性的貧 困ギャップが二乗一時的貧困ギャップの約2倍に 近い。以上より、極貧層(ultra poor)の存在に 対してより大きなウェイトをおいた場合の貧困の 「深刻度」は、一時的貧困に比べ、慢性的貧困に おいて2倍もの大きさになっているといえる。 調査数 全貧困者比率 ‐慢性的貧困者比率 ‐一時的貧困者比率 ‐非貧困者比率 貧困ギャップ比率 ‐慢性的貧困ギャップ比率 ‐一時的貧困ギャップ比率 二乗貧困ギャップ比率 ‐二乗慢性的貧困ギャップ比率 ‐二乗一時的貧困ギャップ比率 167 0.71 0.09 0.62 0.29 0.58 0.26 0.45 0.19 60 0.88 0.10 0.78 0.12 0.58 0.35 0.40 0.47 151 0.85 0.13 0.72 0.15 0.67 0.36 0.54 0.29 229 0.87 0.11 0.76 0.13 0.51 0.30 0.36 0.21 105 0.84 0.25 0.59 0.16 0.59 0.29 0.42 0.18 146 0.75 0.06 0.69 0.25 0.50 0.29 0.40 0.22 693 0.80 0.10 0.70 0.20 0.57 0.30 0.44 0.23 165 0.85 0.19 0.66 0.15 0.59 0.32 0.41 0.31 724 0.82 0.11 0.71 0.18 0.61 0.31 0.47 0.25 134 0.77 0.16 0.61 0.23 0.45 0.25 0.30 0.17 858 0.81 0.12 0.69 0.19 0.58 0.31 0.43 0.24

Sevanagala, Irrigated Sevanagala, Rainfed Kiri-ibbanwewa Sooriyawewa Extension Area Ridiyagama Irrigated All Rainfed All Farm Non farm All

図表3 貧困指標ー所得

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次に、平均所得別に家計を区分し、以上の貧困 指数をより詳細にみてみよう(図表4)。慢性的 貧困家計は、分類Ⅰ(1)に該当し、分類Ⅰ(3) は、年平均所得が貧困ラインを上回っている点で 比較的軽度の一時的貧困家計を指す。分類I(4) は、非貧困家計である。分類I(1)については、 説明済みであるので、分類I(3)についてみる ことにする。灌漑設備の存在する地域と灌漑設備 へのアクセスがない地域とでは、軽度の一時的貧 困比率でみるとあまり差がない。したがって、灌 漑・非灌漑地域における貧困状況の差は、分類I (1)の比較から把握できる慢性的貧困比率と、 以下に詳しく述べるような、分類II(1)から観 察される重度の一時的貧困比率の差から生じてい ることがわかる(図表4参照)。 さらに、毎月の平均所得と50%低い貧困ライン との比較により慢性的貧困家計を細分化すると (分類II(1))、Kiri-ibbanwewaにおいて平均所得 が貧困ラインの半分以下である家計の比率は、 18%と天水灌漑地域を2%ほど上回り、一番高く なっている。ただし、灌漑地域全体でみると、こ のような極貧の慢性的貧困家計の比率は、天水灌 漑地域におけるその比率の約1/3となっている。 次に、平均所得が貧困ラインの75%を超えている もののそれが貧困ライン以下である家計の比率 は、灌漑地域および天水灌漑地域において差がみ られず、平均所得が貧困ラインを上回る家計の比 率は、灌漑地域においてより大きい。さらに、各 細分化された分類ごとに計算した貧困ギャップ比 率と二乗貧困ギャップ比率も合わせて比較する と、Extension Areaとそれを含むより広い天水灌 漑地域で貧困の度合い、とりわけ「深刻度」が大 きいということがわかる。 次に季節ごとに貧困指数の推移をみてみること にしよう(季節ごとの具体的な数値については、 JBICI Research Paper No.19, November 2002, 第ⅠX 章参照)。Extension Areaを除いて、すべての地 域において、8月から9月の乾季の収穫期にかけ て、貧困者比率が一番低くなっている。一方、 Extension Areaにおいては、3月から5月にかけ ての雨季の収穫期に貧困者比率が最も低くなって いる。特にRidiyagamaにおいては、3月から5月 と8月から9月にかけて、年に2度、貧困者比率 が低くなっているが、これは、米の二期作による 貧困者比率 ‐分類Ⅰ(1) ‐分類Ⅰ(3) ‐分類Ⅰ(4) ‐分類Ⅱ(1) ‐分類Ⅱ(2) ‐分類Ⅱ(3) ‐分類Ⅱ(4) ‐分類Ⅱ(5) 167 0.09 0.52 0.29 0.05 0.08 0.06 0.12 0.68 60 0.10 0.63 0.12 0.12 0.05 0.08 0.03 0.72 151 0.13 0.37 0.15 0.18 0.18 0.13 0.09 0.43 229 0.11 0.44 0.13 0.08 0.18 0.18 0.12 0.45 105 0.25 0.35 0.16 0.16 0.19 0.13 0.11 0.41 146 0.06 0.56 0.25 0.06 0.07 0.07 0.12 0.69 693 0.10 0.47 0.20 0.09 0.13 0.12 0.11 0.55 165 0.19 0.46 0.15 0.15 0.14 0.12 0.08 0.52 724 0.11 0.48 0.18 0.11 0.13 0.11 0.10 0.56 134 0.16 0.38 0.23 0.07 0.16 0.16 0.13 0.48 858 0.12 0.46 0.19 0.10 0.13 0.12 0.11 0.54

Sevanagala, Irrigated Sevanagala, Rainfed Kiri-ibbanwewa Sooriyawewa Extension Area Ridiyagama Irrigated All Rainfed All Farm Non farm All

Item 注)各分類の定義は以下のとおりである 分類Ⅰ(1)‐平均月額所得も最大月額所得の貧困ラインを下回る 分類Ⅰ(3)‐平均月額所得は貧困ラインを上回るが、最低月額所得は、貧困ラインを下回る 分類Ⅰ(4)‐平均月額所得も最低月額所得の貧困ラインを上回る 分類Ⅱ(1)‐平均月額所得が貧困ラインの50%以下である 分類Ⅱ(2)‐平均月額所得は貧困ラインの50%を上回るが貧困ラインの75%以下である 分類Ⅱ(3)‐平均月額所得は貧困ラインの75%を上回るが貧困ライン以下である 分類Ⅱ(4)‐平均月額所得は貧困ラインを上回るが、貧困ラインの125%以下である 分類Ⅱ(5)‐平均月額所得は、貧困ラインの125%を上回る 図表4 貧困者比率ー所得細分化

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ものと思われる。Sevanagala灌漑地域とSevanagala 天水灌漑地域を比較しても同様の傾向がみられ、 灌漑地域では3月から5月にかけてと8月から9 月にかけての2度貧困者比率が低くなっているの に対し、天水灌漑地域では、8月から9月にかけ てのみ貧困者比率が低い*3。ただし、灌漑地域で あり二期作が可能であると思われる、Kiri-ibbanwewa とSooriyawewaにおいては、8月と9月のみに貧 困者比率が低くなっているが、これは、調査実施 年が一年を通じて雨量の特に少ない年であったた め、灌漑地域においてさえ場所によっては雨季に 一回収穫期があったのみであり、乾季には部分的 な耕作しか行われなかったことによるものであろ う。しかしながら、灌漑地域全体と天水灌漑地域 を比較すると、一貫して灌漑地域全体で見たほう が、貧困者比率が低く、また貧困者比率が収穫期 を除き安定していることがわかる。非農業従事家 計の貧困者比率は、農業従事家計よりも一年を通 じて低いが、収穫期である8月から9月には、農 業従事家計の貧困者比率のほうが低くなっている。 四半期ごとの所得を基にした貧困指数も、月別 所得を基にした場合と同様のパターンを示してい る。慢性的貧困者比率は、Extension Areaにお いて一番高く、灌漑地域における一時的貧困者比 率と非貧困者比率は、天水灌漑地域におけるそれ よりも高くなっている。非農業従事家計において は、慢性的貧困者比率と非貧困者比率の割合が、 農業従事家計よりも高い。年間所得を基準にする と、所得でみると35%の家計が、また支出でみる と41%の家計が慢性的貧困に陥っている。貧困ギ ャップ比率より、おのおの38%の所得増また24% の支出増により慢性的貧困から脱出することが可 能であるとわかる。また、天水灌漑地域において、 灌漑地域に比べ、貧困者比率も大きく、また貧困 の度合いが著しいといえる。作物パターンによっ て生じる差異があるとはいえ、灌漑設備へのアク セスが存在しないところで、慢性的貧困者率が大 きく、また貧困の「深刻度」も大きい。 質的な貧困指標に基づいた分析 以上の分析からわかることは、所得・消費貧困 指標に基づいた場合には、灌漑設備の貧困削減効 果が広く見られるということであろう。このよう な灌漑設備の貧困削減効果に関する分析結果につ いて、その頑健性を調べるために、ここでは、所 得や消費に依存しない、さまざまな質的な貧困指 標を用いて分析を行うことにしよう。 まず、依存人口比率、すなわち被扶養世帯員と 扶養世帯員との比率は、調査地域全体の平均値で 見てみると60%である。一方、Sevanagala天水灌 漑地域とExtension Areaでは、それぞれ91.2%と 72.2%と高い値になっている。灌漑地域全体では、 56.4%であることを考慮すると非灌漑地域におけ る依存人口利率はかなり高いということができ る。このような、高い依存人口比率が、天水灌漑 地域における貧困者比率を上昇させる原因の一つ になっている可能性がある。 一方、5歳以下の幼児死亡率をみると、全体の 平均で0.85%であり、同様の所得水準である他の 発展途上国と比較すると全体的に低くなってい る。これは、地方においてもさまざまな医療施設 へのアクセスが整っており、また幼児および妊婦 を対象とした栄養補助プログラムがあるからだと 考えられる。地区別に見てみると、比較的5歳以 下幼児死亡率が高いのは、サトウキビ耕作地帯で あるSevanagala(天水灌漑地域と灌漑地域の両方) であり、特にSevanagala天水灌漑地域では1.62% となっている。これは、Sevanagala地域において は、他の地域に比較して、病院へのアクセスが悪 くなっているということと関連していると考えら れる。このことは、道路・公共交通システムやさ らには、医療施設そのものへのアクセスの改善と いうことの重要性を示唆しているといえよう。 次に、5歳以上20歳未満人口の未就学率につい ては、Sevanagala天水灌漑地域においては64%と、 平均値である29.4%の倍以上の値となっている。 一方、Extension Area天水灌漑地域においては、 *3 これは、Sevanagala灌漑地域では、サトウキビと米の両方が耕作されているのに対し、天水灌漑地域では、サトウキビのみが 育成されているためであると考えられる。

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18%と低い値になっている*4。Sevanagalaにおい て、未就学率が高い原因の一つは、サトウキビの 収穫期には、児童労働に対する需要が増加するこ とがあげられる。児童労働の需要増加は、サトウ キビの砂糖含有量の低下を防ぐため、収穫から砂 糖精製工場までの運送を限られた期間内に集約的 に行わなければならない事から生じる。また、サ トウキビ畑に不意に引火するような事故が生じた 際にも、生じうるロスを最低限におさえるために、 一時的な労働需要増加が生じる。灌漑地域全体と 天水灌漑地域全体を比較すると、天水灌漑地域全 体の方が、また農業従事家計と非農業従事家計で みると非農業従事家計の方が高い未就学率を示し ている。 戸主の教育期間でみると、Extension Areaにお ける平均値が調査地域で一番低く5.50年である。 また、平均値で見た場合に、初等教育が未修了と なっているのは、Extension Areaのみである。そ の他の区分法で比較した場合には、天水灌漑地域 に比べて灌漑地域において、また農業従事家計に 比べて非農業従事家計において平均教育期間がや や長いといえる。

住宅設備指標(Housing index)*5も、Extension

Areaにおいて最も低い。この地域においては、 暫定的居住者が多く、彼らは、自分たちの不法開 拓地に対する所有権を獲得する前に常住できる住 居を建てようとはせず、粗悪な素材で建てられた 暫定的な住居に居住している。一方、最も高い住 宅設備指標の値を示したのは、長い灌漑の歴史を もつRidiyagamaである。一方、農業/非農業の区 分で見ると、非農業従事家計は、農業従事家計よ りも、平均して粗末な素材で建設された住居に居 住している。 家計資産額についても、以上の諸指標と同様の 地域間格差が存在しており、Extension Areaにお いて最も低くRidiyagamaにおいて最も高くなっ ている。穀物の備蓄など、農産物の資産額で比較 してみると、Sevanagala, rainfedにおいて最も低 く、Ridiyagamaにおいて最も高くなっている。 さらに特筆すべきは、灌漑地域における農産物資 産額の平均値は、非灌漑地域に比べ、3倍近くに も上っている。 作付け集約度*6は、Extension Areaにおいて最 も低く、Sevanagalaにおいて比較的高くなってい る。Sevanagalaは、季節農産物ではないサトウキ ビの耕作地帯であり、作付け集約度が高いのは当 然の結果といえよう。灌漑地域の中では、乾季、 雨季両時期において安定した農業用水が供給され ているRidiyagamaにおいて、最も作付け集約度 が高くなっている。灌漑地域の内で作付け集約度 が低いのは、Kiri-ibbanwewa、Sooriyawewaであ り、その理由の一つには、調査年が旱魃に当たる 年であったため、またもう一つにはこれらの地域 において灌漑設備の整備事業が実施されていたた め耕作可能地域がかぎられていたため、と考えら れ る 。 総 農 業 生 産 物 額 が 最 も 大 き い の は 、 Ridiyagamaであり、最も低いのはExtension Area である。また、調査地域内で比較すると、最も農 業生産コストが低い地域は、Extension Areaであ り、次に低いのはSevanagala天水灌漑地域となっ ている。 電力へのアクセスという観点からみると、一概 に灌漑地域における状況が良い、とはいえない。 RidiyagamaやExtension Areaにおいてより電力普 及率が低いが、これはそもそもそれら地域におい て配電設備が整っていないためであると考えられ る。一方、Extension Areaには幹線道路が通って お り 、 電 力 も 道 路 に 沿 っ て 供 給 さ れ て い る 。 Sevanagala,rainfedやSooriyawewaについても同 様の幹線道路整備に伴う電力供給という利点の享 受がみられる。 パイプ用水へのアクセス率は、Sooriyawewa以 *4 この点については、Extension地域においては、学校へのアクセスが改善されていることの反映であるかもしれない。 *5 住宅設備指標、壁(ヤシ ―1、土 ―2,レンガ ―3、その他 ―2)、屋根(ヤシの葉 ―1、錫 ―2,タイル ―3、その他 ―2)、 床(土 ―1、セメント―2、タイル ―3,その他 ―2)の材質、部屋数(最大4つ)、お手洗い(水封状態 よし―2)をもとに 最大15ポイント:100%で構築されている。 *6 ここでの作付け集約度は、全所有地における作付け面積の割合である。2回耕作されている場合(サトウキビ、バナナ等)は、 2回分計上されている。

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外は、20%未満となっており、井戸を通じた生活 用水等の確保が未だに主流となっていることがわ かる。また、貧困と密接な関係にある資金借り入 れへのアクセス率は、どの地域においても同様の 値を示しており、Extension Areaにおいてその率 が特に低くなってはいないということがわかる。 以上、生活水準を把握するためのさまざまな質 的情報に基づいた貧困指標は、総じて見てみると、 インフラへのアクセス度と深い関連性があると思 われる。 今までみてきた指標によると、灌漑設備の発展 が、他のインフラ整備より貧困削減に貢献してい る可能性があるといえよう。灌漑設備と貧困の関 係については、所得・消費的にみても質的にみて も、ほぼ同様な結論が導かれている。 この調査の主な目的は、貧困に対する灌漑イン フラ改善による効果を、With-Withoutアプローチ と呼ばれる、最も基本的なプログラム効果の計量 分析手法を利用して、測定することである。 社会プログラム(social programs)を統計的に 評価する手法は、しばしば、治療効果(treatment effects)やプログラム効果(program effects) の評 価手法と呼ばれるものである。この分野は、2000 年度ノーベル経済学賞を受賞したChicago 大学の James Heckman 教授によるデータ計算手法での 貢献や、Stanford 大学雨宮健教授の理論的精緻化 などを通じて1970年代以降、著しい進展を見せ、 ミクロ計量経済学(micro-econometrics)の中核を

4.分析

調査数 家族規模 扶養家族員数1 被扶養家族員数2 依存人口比率3 幼児死亡者数<5歳 幼児死亡率<5歳(%)4 死亡率>5歳(%) 全死亡率(%) 教育期間(戸主) 戸主の平均年齢 世帯員数(5-20歳) 未就学世帯員数 未就学率(5-20歳) 住居設備指標 土地所有-灌漑地域ha 土地所有-天水灌漑地域ha 作付け集約度(%) 電力アクセス率(%) パイプ水アクセス率(%) 資金借り入れへのアクセス率(%) 総農業生産物学 per ha (GVP/ha)(Rs/ha) 家計資産額(Rs) 農産物資産額(Rs) 167 5.17 3.73 1.44 53.6 0.06 1.20 1.61 2.80 6.13 47.7 1.86 0.84 39.0 74.4 0.76 0.18 137 47.9 7.8 41.1 59480 18232 17415 60 4.78 2.75 2.03 91.2 0.07 1.62 0.89 2.51 7.10 42.4 2.02 1.45 64.0 73.6 0.02 1.52 152 66.7 11.7 48.9 44049 13694 1752 151 5.01 3.54 1.46 51.5 0.04 0.69 0.94 1.62 6.86 52.6 1.89 0.58 28.6 78.9 0.65 0.44 89 39.1 11.3 45.9 45213 17240 21731 229 5.18 3.51 1.67 62.3 0.03 0.78 0.62 1.40 6.53 48.8 2.15 0.54 25.2 73.3 0.55 0.21 90 52.0 27.5 49.3 54593 19517 18837 105 4.98 3.17 1.81 72.2 0.04 0.69 0.53 1.23 5.50 43.3 2.05 0.35 17.8 69.2 0.18 1.19 77 34.3 15.2 51.4 34713 8532 10484 146 5.25 3.73 1.51 55.1 0.03 0.54 1.31 1.85 7.58 53.3 1.42 0.43 20.2 84.6 0.77 0.33 148 24.0 17.1 46.8 60304 32394 27749 693 5.16 3.62 1.54 56.4 0.04 0.81 1.07 1.88 6.73 50.3 1.87 0.60 28.2 77.2 0.67 0.28 113 42.3 17.0 46.1 55078 21418 21002 165 4.91 3.01 1.89 79.1 0.05 1.03 0.66 1.69 6.08 42.9 2.04 0.75 34.6 70.8 0.12 1.31 104 46.1 13.9 50.5 38184 10436 7309 134 5.24 3.62 1.62 60.3 0.05 0.88 1.07 1.95 6.44 50.6 1.95 0.64 29.0 77.5 0.64 0.51 116 43.4 17.5 46.8 51770 20165 19811 724 4.44 2.88 1.53 63.5 0.02 0.69 0.57 1.26 7.48 39.6 1.63 0.57 31.6 67.8 0.17 0.28 88 41.0 10.4 47.2 50029 14795 10575 858 5.11 3.50 1.60 60.8 0.04 0.85 0.99 1.84 6.60 48.9 1.90 0.63 29.4 76.0 0.56 0.48 134 43.0 16.4 46.9 51573 19339 18369

Sevanagala, Irrigated Sevanagala, Rainfed Kiri-ibbanwewa Sooriyawewa Extension Area Ridiyagama Irrigated All Rainfed All Farm Non farm All

1:世帯員5歳以上65歳未満 2:世帯員5歳以上65歳未満

3:被扶養世帯員/扶養世帯員 4:5歳以下死亡者数/全生誕数

図表5 貧困指標−質的計測ベース

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構成する分野となっている*7 まず、プログラム効果の評価基準がyという連 続変数で表されるものとする。Xをyに影響を与 える個人・家計・コミュニティ・地域などの変数 の行列であるとして、我々が統計的に推計すべき モデルは以下のように定式化することが出来る。 (1) y=δd+Xβ+u

ここでdは、d=1if belong to group1, d=0if belong to group2として定義されるダミー変数で ある。そうすると、(1)式は、いわゆる治療効 果(treatment effect)の評価式となり、様々な政 策 プ ロ グ ラ ム の 評 価 に 用 い る こ と が で き る [Deaton(1995,1832);Deaton(1997,103), Maddala(1983,260-267) ,Greene(2000,931-934)]。ここで、d=1となる group1はtreatment group(治療グループ),d=0となるgroup2は control group(制御グループ)とよばれており、 dがプログラム効果を示している*8。我々は、こ の様な社会プログラム効果の分析手法を灌漑イン フラの貧困削減効果の評価に応用する。 ここで、我々はさらに貧困問題の季節性を明示 的に考慮する。農業地域においては、農業労働者 の所得が季節変動を見せており、さらに労働者以 外の農業所得そのものも収穫期に集中し、農作物 の耕作パターンに依存しながらも季節的に変動す る。ここで問題になるのは、これらの所得変動が、 はたして消費変動と連動しているかどうか、とい う点である。消費連動と100%連動しているとい う極端な場合には、所得の低下は直接的に消費の 低下へとつながってしまう。その結果、天水灌漑 地域のように安定した収入が見込めない地域にお いては、雨季の収穫期において貧困ラインをこえ る収入・消費が可能となったとしても、その他の 季節においては、所得・消費の面で貧困に陥る可 能性が高いといえる。 ここでは、望ましい消費変動のベンチマークと して、生涯・恒常所得仮説(Life Cycle-Permane-nt Income Hypothesis; LC-PIH)を満たす消費支 出水準を用いる。その上で、Paxon(1993)のモ デルに従い、LC-PIH が成立せずに、消費変動が 季節性を持つ可能性として借入れ制約の存在を導 入する。ここでは、このようなモデルを応用し、 消費連動が、職業、すなわち農業従事者か非農業 従事者か、また灌漑設備、すなわち雨季(Maha) と乾季(Yala)の灌漑用水へのアクセスの有無に よる区分、に関連しているのかどうか、の2点に ついてプログラム効果の計量的評価という形で検 討することにする。 ここで、Ejiをj月におけるi家計の消費支出 額、Yiを一年間のデータから得られる平均の月当 たり所得、Mjを月別ダミー変数(9月をデフォ ルトとする)、とおいてみよう。一月当たりの平 均所得を恒常所得の代理変数とみなせば、LC− PIHは ln(Eji)= ln(Yi)として表わすことがで きる*9。従って、借入れ制約の存在や、季節的な 価格変動・消費者の選好の変動を取り入れ、さら に確率的な誤差項を導入すれば、推計可能な消費 支出の「誘導型」の決定式は以下のようになる: (2) ln(Eji)=

α

0+

α

1ln(Yi)+βj Mj+εji ここで、借入れ制約の存在・季節的な価格や消 費選好の変動を集約する、消費支出の月別効果に ついて、検証可能な帰無仮説は「消費支出におい て月別効果はない」、すなわちβj=0, jというも のである。 この月別効果の推計について、まず、調査地域 全体での結果をみてみることにしよう(図表6)。 βj=0, jという帰無仮説は、1 %有意水準にも とづき棄却された。すなわち、調査対象地域にお A A

*7 Ravallion(2001)が簡潔にその手法を解説しているように、世界銀行Development Research Group(DECRG)を中心として これらの社会プログラム評価法は、実際の開発プログラムやプロジェクトの評価に幅広く用いられている。

*8 実際には、プログラム参加の内生性などを制御するため、例えば(1)式をAmemiya(1995)の言う、タイプ5トービットモデル で推計する方法などが行われている[澤田(2002)].

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ける家計の消費支出には、基本的なLC−PIHから の有意な乖離が発見されたことになる。この月別 効果の推計結果より明らかになったパターンは、 4月・5月・7月における有意な正の効果、8月 から12月の有意な負の効果、である。前者の正の 効果については、4月が、雨季の収穫期に当たっ ており、また、新年のお祝いの時期が4、5月に 該当することとも関連すると思われる。一方、7 月の有意な正の効果は、やや解釈が困難である。 というのも、6・7月は所得減が予想される乾季 の最中であり、消費もある程度減少するはずであ るからである。この点については、さらなる検討 が必要であろう。後者の8月から12月にかけての 負の効果については、乾季に続く雨季の耕作期に 対応しており、雨季収穫によって蓄積された資産 が大幅に減少していると考えられることから、消 費が低下せざるを得ないものと見られる。以上を まとめると、結論としては、4月と9月に消費が 増加し、その後は雨季の収穫期まで減少している という大まかな消費パターンがみられるが、これ は所得フローの増減パターンとも整合的であると いえる。 次に灌漑設備へのアクセスの違いによって月別 の消費パターンに差異があるかどうかを見る。こ のため、社会プログラム効果の評価式(2)式を 応用し、灌漑設備へのアクセスダミー変数Z(灌 漑設備にアクセスがある場合にZ=1とし、アク セスがない場合にZ=0とする)を導入すること によって、以下のような回帰式を推計する: (3) ln(Eji)=

α

0+

α

1ln(Yi)+βjΜj+ θj ΜjZ+

εji

ここで、月別ダミー変数と灌漑ダミー変数との 積の係数θjが灌漑へのアクセスが月別消費支出 に与えるプログラム効果を示していることにな る。この月別のプログラム効果を統計的に検証す るため、以下のような二つの仮説の検定を行った。 <検定A> 帰無仮説:家計支出の月別効果が、灌漑のある なしにかかわらず、0に等しい。 対立仮説:少なくとも一つの月別効果が、0に 等しくない。 <検定B> 帰無仮説:灌漑の有無から生じる月別効果の差 異は、年間を通して一定である。 対立仮説:少なくとも一つの月別効果において 差異が一定ではない。 (3)式の推計結果は、図表7にまとめられて いる。図表7からまず確認できることは、検定A、 検定Bともに、帰無仮説が強く棄却されることで ある。この検定結果は、消費変動に月別効果があ り、LC−PIHを棄却するという図表6にまとめら れている(2)式の推計結果を再確認するととも に、そのような月別消費変動のパターンが灌漑へ のアクセスによって有意に異なるということを示 している。この点をさらに深く検証するため、月 別ダミー変数の係数推計結果を灌漑へのアクセス 別にグラフにしてみたのが図表8である。 図表8にまとめられている月別効果の推計結果 によれば、まず、両者の変動パターンには類似性 があるものの、全体として灌漑地域での月別変動 幅の方が天水灌漑地域でのそれよりも小さいこと Variable Oct. Nov. Dec. Jan. Feb. Mar. Apr. May Jun. Jul. Aug. Sep. Constant term Ln(Yi) -0.149 -0.124 -0.080 0.018 -0.050 -0.019 0.534 0.095 0.032 0.123 -0.102 -6.091 0.280 0.026 0.026 0.026 0.026 0.026 0.026 0.026 0.026 0.026 0.026 0.026 -0.059 0.006 -5.69** -4.74** -3.08** 0.68 -1.92 -0.72 20.48** 3.63** 1.20 4.67** -3.90** -103.69** 43.49** 係数 標準偏差 t値 N=10065 R2=0.227 df=12 F=246.4 **1%有意水準による有意性 図表6 推計結果ー全体

出所)JBICI Research Paper No. 19, November 2002, Table 10.2に 基づく。

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が分かる。この事は、灌漑へのアクセスがより平 準な消費パターンを可能としていることを示唆し ている。とりわけ、8月・9月、すなわち乾季の 収穫期において天水地域においては負の消費支出 効果がみられる一方、灌漑地域においてはそのよ うな低下が見られないことは、乾季において灌漑 へのアクセス欠如がもたらす貧困の深刻化を示す 象徴的な観測結果であると言えよう。このように Variable Oct. Nov. Dec. Jan. Feb. Mar. Apr. May Jun. Jul. Aug. Sep. Constant term Ln(Yi) 0.102 0.097 0.154 0.334 0.203 0.192 0.827 0.346 0.307 0.339 -0.001 0.000 5.769 0.270 0.059 0.059 0.059 0.059 0.059 0.059 0.059 0.059 0.060 0.060 0.059 0.068 0.006 0.198 0.235 0.218 0.118 0.195 0.247 0.147 0.198 0.167 0.240 0.383 0.508 0.046 0.046 0.046 0.046 0.046 0.046 0.046 0.046 0.047 0.047 0.047 0.047 4.275** 5.054** 4.693** 2.552** 4.204** 5.335** 3.166** 4.291** 3.513** 5.062** 8.238** 10.926** 1.730 1.650 2.610** 5.660** 3.440** 3.250** 14.020** 5.860** 5.120** 5.650** -0.010 84.393 42.431 係数 標準偏差 t値 係数 標準偏差 t値 天水地域(Z=0) 灌漑地域(Z=1) 検定A 検定B F=31.45 F=35.01 P=.0001 P=.0001 N=10065 df=24 R2=0.255 F=143.015%有意水準による有意性を示す **1%有意水準による有意性を示す 図表7 推計結果−灌漑地域と天水灌漑地域との比較

出所)JBICI Research Paper No. 19, November 2002, Table 10.8に基づく。

1.400 1.200 1.000 0.800 0.600 0.400 0.200 0.000 -0.200 -0.400

Oct Nov Dec Jan Feb Mar Apr May Jun Jul Aug Sep

Rainfed Irrigated

Month Effects Expenditures (Irrigated Verses Rainfed)

図表8 消費支出の月別効果(灌漑地域vs.天水灌漑地域)

(14)

して、灌漑地域と天水灌漑地域では、月別効果に 差があり、またその差は年間を通して一定ではな いことは、前記の「検定A」と「検定B」におけ る帰無仮説の棄却という結果からも支持されるも のである。消費支出のピークについては、両地域 において雨季収穫後の4月となっているが、より 詳細には、天水灌漑地域において支出の上昇幅が 大きい事が分かる。 次に、農業従事家計と非農業従事家計とを比べ てみることにしよう。すなわち、ここでは、(3) 式において、ダミー変数Zが農業家計の場合には Z=1となり、非農業家計の場合にはZ=0を取る ものとする。従って、ここでは月別ダミー変数と 農業家計ダミー変数との積の係数θjが農業に従 事することのプログラム効果を示していることに なる。このようなプログラム効果を統計的に検証 するため、灌漑のケースと同様にして、前述の二 つの仮説の検定を行った。 家計のタイプ別推計結果は、図表9にまとめら れている。この表によると、農業従事家計におい ては、10月から12月、4・7・8月において有意 な正の効果がみられるものの、非農業従事家計に おいては、4月から7月に有意な正の効果がみら れるのみである。この事は、非農業に従事する家 計の多くが非灌漑地域に居住し、乾季において非 農業部門で雇用される労働者であり、雨季に蓄積 された資産が乾季を通じて減少してゆくことを反 映しているように思われる。月別効果に関する図 表10を見てみると、両タイプの家計において消費 支出変動の類似性が見られるが、厳密な検定の結 果においては、灌漑のケースと同様にして、「検定 A」・「検定B」の帰無仮説が棄却されており、農 業従事家計と非農業従事家計は有意に異なる消費 パターンを持っていると結論づけることができる。 最後に、灌漑設備改修地域と灌漑設備未改修地 域を比べてみる事にしよう。ただし、我々のサン プルによっては、厳密に灌漑の改修に関するプロ グラム効果をBeforeとAfterで検証することはで きない。そこで、灌漑設備改修地域であるKiri- ibbanwewaと灌漑設備未改修地域であるRidiya-gamaの家計支出を比較することによって、限定 的ではあるが、若干の灌漑改修効果の検証を試み Variable Oct. Nov. Dec. Jan. Feb. Mar. Apr. May Jun. Jul. Aug. Sep. Constant term Ln(Yi) -0.113 -0.084 -0.053 0.121 0.063 0.091 0.611 0.197 0.139 0.177 -0.094 0.000 5.989 0.273 0.065 0.065 0.065 0.065 0.065 0.065 0.065 0.065 0.066 0.066 0.066 0.071 0.006 0.153 0.148 0.163 0.072 0.061 0.065 0.104 0.074 0.068 0.132 0.186 0.196 0.050 0.050 0.050 0.050 0.050 0.050 0.050 0.050 0.051 0.051 0.051 0.051 3.033** 2.940** 3.247** 1.433 1.208 1.302 2.077* 1.467 1.337 2.588** 3.672** 3.874** -1.721 -1.282 -0.817 1.858 0.973 1.390 9.359** 3.023** 2.111* 2.685** -1.428 83.872 42.11 係数 標準偏差 t値 係数 標準偏差 t値 非農業 農業 検定A 検定B F=16.47 F=11.87 P=.0001 P=.0001 N=10065 df=24 R2=0.233 F=127.17 図表9 推計結果−農業従事家計と非農業従事家計

(15)

ることにしよう。したがって、(3)式を用いた 推計式は、改修が行われた地域であるKiri-ibban-wewaの家計についてはZ=1をとり、灌漑設備 が未改修であるRidiyagamaに居住する家計につ いては、Z=0とおいて推計を行った。推計結果 は、図表11にまとめられている。 これらの地域においては、所得フローの変動に ついては、類似していると思われるが、消費変動 1.400 1.200 1.000 0.800 0.600 0.400 0.200 0.000 -0.200 -0.400

Oct Nov Dec Jan Feb Mar Apr May Jun Jul Aug Sep

Non-farm Farm

Month Effects Expenditures (Farmer Verses Non-famer)

図表10 消費支出の月別効果(農業従事家計vs.非農業従事家計)

出所)JBICI Research Paper No. 19, November 2002, Figure 10.7に基づく。

Variable Oct. Nov. Dec. Jan. Feb. Mar. Apr. May Jun. Jul. Aug. Sep. Constant term Ln(Yi) 0.019 0.041 0.033 0.111 0.119 0.171 0.624 0.187 0.045 0.109 -0.143 0.000 6.378 0.261 0.061 0.061 0.061 0.061 0.061 0.061 0.061 0.061 0.061 0.061 0.061 0.114 0.012 -0.233 -0.221 -0.114 -0.154 -0.209 -0.192 -0.120 -0.130 -0.085 -0.007 0.012 0.011 0.061 0.061 0.061 0.061 0.061 0.061 0.061 0.061 0.062 0.062 0.062 0.062 -3.812** -3.609** -1.859 -2.517** -3.421** -3.140** -1.968* -2.134* -1.380 -0.115 0.201 0.183 0.316 0.665 0.539 1.815 1.954 2.801** 10.229** 3.068** 0.724 1.773 -2.332 55.879 22.426 係数 標準偏差 t値 係数 標準偏差 t値 Ridiyagama (未改修) Kiri-ibbanwewa; (改修) 検定A 検定B F=5.09 F=6.96 P=.0001 P=.0001 N=3513 df=24 R2=0.257 F=50.28 図表11 推計結果−Kiri-ibbanwewa(灌漑設備改修地域)とRidiyagama(灌漑設備未改修地域)

(16)

の月別効果についてはどうであろうか。図表11・ 図表12にまとめられている推計結果によると両地 域の消費支出パターンは類似しており、灌漑設備 未改修地域において、10月から3月にかけての月 別効果がやや大きいといえる。さらに、この様な 効果は統計的に有意となっている。これは、調査 実施年において、Ridiyagama地域での灌漑用水 の供給量が比較的豊富となっており安定的であっ たことに帰来するといえる。 以上での分析結果から特に重要と思われる点に ついてまとめてみると次のようになるであろう。 まず、各家計における消費支出は、年間を通して 大きく変動し、またそのパターンは所得変動の季 節変動と強い相関を持っていると見られることで ある。この事は、単純なLC−PIHが貧困地域には 当てはまらないという見解を支持していると同時 に、流動性制約の存在や価格・消費選好の季節性 を示すものであり、最適な貧困層への介入を考え る上で、貧困の動学的側面が重要であることを示 唆するものであろう。 さらに、灌漑インフラストラクチャーの重要性 については、灌漑用水へのアクセスの有無が、よ り平準な消費パターンを可能とするかどうかとい う点において重要な要素となっており、とりわけ 灌漑アクセスの欠如は、乾季における消費支出の 落ち込みというリスクを生じさせる深刻なもので ある可能性が高い。一方、灌漑設備が改修された ものであるか未改修であるかによる影響について は、消費支出変動でみた場合の明確な差異はあま り見出すことができず、逆に改修がない地域での 消費支出が有意に高いという結果を得た。ただし、 この結果は、灌漑改修についてのプログラム効果 を適切に評価するためのサンプルの問題があるた めかもしれない。 以上のような計量的分析による灌漑のプログラ ム評価を補完するため、本調査研究では、参加型 貧困アセスメントとして、グループ討論・参加型 マッピング・資産や福利による序列と嗜好による 序列がなされた(本調査における参加型貧困アセ スメントはJinapala K.氏によって実施された。内 容の詳細については、JBICI Research Paper No. 19, November 2002, 第XⅠ章参照)。

以下図表13は、当該地域の灌漑インフラの状況 について、現在の水路システムおよび耕作への水 の供給にしたがって、4つの地域(Sooriyawewa, Kiri-ibbanwewa, Sevanagala, Extension Area)を 序列し、まとめたものである。 また、図表14は、当該地域における貧困の状況 について、様々な関連機関の職員を含むコミュニ ティグループが、その状況についてのランク付け とそのように考える主観的理由とを分析したまと

5.参加型貧困アセスメントについて

1.400 1.200 1.000 0.800 0.600 0.400 0.200 0.000 -0.200 -0.400

Oct Nov Dec Jan Feb Mar Apr May Jun Jul Aug Sep

Ridiyagama Kiriibbanwewa Month Effects Expenditures (Strata 3 verses Strata 6)

図表12 消費支出の月別効果

(Kiri-ibbanwewa(灌漑設備改修地域)とRidiyagama(灌漑設備未改修地域)

(17)

灌漑インフラの状況 Sooriyawewa Kiri-ibbanwewa Sevanagala ランク:01優,02=良,03=可,04=劣 Extension Area (Maurapura) 灌漑インフラのほとんどが、最近開発されたもので、農業従事者の 灌漑水へのアクセスがある。 灌漑インフラは、地域全体において利用可能であるが、一部の地域において、 農業従事者の灌漑水へのアクセスがない。 灌漑インフラは、地域全体において利用可能で、以前改修されてはいるが、 状況は粗末である。多くの地域の農業従事者は、灌漑水を利用するのに困難 をきたしている。 灌漑インフラは、まだ開発されていない。 ランク 01 03 02 04 図表13 灌漑インフラ開発の現在の状況

出所)JBICI Research Paper No. 19, November 2002, Table 11. 1に基づく。

貧困状況と原因: 各種機関の職員による 貧困状況と原因: 農業従事者による ランク 01 02 03 04 Extension Area Kiri-ibbanwewa Sooriyawewa Sevanagala 安定した灌漑水の供給は、入手可能で はない。農業従事者のほとんどは、耕 作のほとんどを天水に頼っている。耕 作は、雨季のみに可能で、生計は雨季 中の所得に依存するより他はない。 農業従事者のほとんどが、灌漑水への アクセスを所持しない。各自の耕作地 に対して何の法的権利ももたない。ま た、野生動物がしばしば耕作地を荒ら す。必要なサービスを供給すべき政府 機関が、周辺に位置しない。 一部の地域では、耕作水へのアクセス がない。一部の農業従事者には、農業 生産性を改善しようという意欲がみら れない。 灌漑設備改修後であっても、ある地域 においては灌漑水が耕作地に入ってこ ない。約20%の地域において、灌漑イ ンフラが存在しない。この地域におい て、サービスを供給する機関がないの も問題である。 いくつかの水路の下流地域では、耕作 に十分なだけの水の供給がない。灌漑 農業用の水を受領していない地域が、 まだ無視できないほどある。 多くの農業従事者が、まだ利用法が明 確な土地を受領していない。多くの家 計が、自作農業用の高地(highland)を 受領していない。かなりの地域におい て、灌漑農業のための水が受領されて いない。ある水路の下流地域に在住し ている農業従事者は、耕作に十分なだ けの水を受領していない。 一部の地域では、更なる開発が可能。 灌漑設備は、15年間あまり改修されて いない。 ランク:01=最も貧しい 02=貧しい 03=やや貧しい 04=貧しくない 図表14 貧困状況とその原因: コミュニティによる認識

(18)

めである。このような評価結果は、おおむね貧困 削減における灌漑インフラの重要性を前提にして いると言ってよいと考えられる。 さらに重要なことは、この参加型貧困アセスメ ントセッションにおいて、ほとんどのコミュニテ ィグループより貧困緩和効果を高める形での灌漑 インフラ開発に対して提案があったということで ある。これらの提案は以下の図表15にまとめられ ている。 農業従事者は、灌漑設備改修は便益をもたらす ものと捉えている。灌漑設備改修は、水路からの 灌漑用水の漏れを軽減することで灌漑の効率性を 高め、さらに灌漑の維持管理に必要な労働投入量 を減少する等の効果もある。また、同時により精 緻な用水管理を可能とすることを通じて農業生産 額の増加ももたらすと考えられる。 本論文では、スリランカのウダワラウェ左岸灌 漑地域における灌漑インフラストラクチャーを分 析対象として、インフラと貧困との関係を、所 得・消費貧困指標、質的な貧困指標などの記述統 計を用いた検証方法・社会プログラムのミクロ計 量経済学を用いた評価方法・参加型貧困アセスメ ントの手法を用いて検証した。本研究から得られ た結論は以下の3つにまとめることができる。 まず第1に、所得・消費の貧困指標を用いると、 灌漑設備の貧困緩和効果は無視できないものであ る、ということが分かる。とりわけ所得・消費的 指標から計測された慢性的貧困の深刻さは、非灌 漑地域において最も著しく、一年を通じて比較的 安定した灌漑用水が得られる灌漑地域において は、慢性的貧困の問題は比較的小さい。加えて、 質的な貧困指標は、灌漑設備へのアクセスが様々 な側面から貧困削減に貢献し、社会的厚生を上昇 させたことを示している。 第2に、消費変動のベンチマークとして、生 涯・恒常所得仮説(Life Cycle-Permanent Income Hypothesis; LC-PIH)を用い、社会プログラムの 評価手法を用いて所得と消費支出動向の月別効果 を推計した結果、単純なLC−PIHが本研究の調査 地域には当てはまらず、流動性制約の存在や価 格・消費選好の季節性の重要性が支持されてい る。さらに、灌漑インフラストラクチャーの効果 については、灌漑用水へのアクセスが、より平準 な消費パターンを可能とする一方、灌漑アクセス への欠如は、乾季における消費支出の落ち込みと いうリスクを生じさせる深刻なものである可能性 が高い。このような分析結果は、最適な貧困層へ

6.おわりに

BLOCK 提案事項 Extension Area Kiri-ibbanwewa Sooriyawewa Sevanagala ◆灌漑水を全域において入手可能にし、当該地域の小規模貯水タンクの貯水能力をあげること ◆農業従事者による耕作地に対する認可証を発行すること ◆農業従事者への農業関連物の投入サービス供給のアレンジをすること ◆道路、学校、医療施設、電力などのインフラ設備を改善すること ◆灌漑インフラ設備がいまだに供給されていない一部の地域において、灌漑設備を供給すること ◆改修後であっても農業従事者が水の取得が困難だとする水路の再構築または改修をすること ◆電力、教育、医療などのサービスを提供するインフラ設備を整備すること ◆耕作用水がいまだ供給されていない地域において水の供給ができるように配慮すること ◆一部の灌漑水路は、改修必要である。このような問題に、適切に取り組むこと ◆自作農業地の分配をすること ◆運輸、通信、銀行、医療、教育などのサービスを供給するインフラ設備を改善すること ◆灌漑によるサトウキビ耕作に対する灌漑水を受領していない地域において、灌漑インフラ設備の  開発をすること ◆既に構築された灌漑インフラ設備の改修をできるだけ早く行うこと 図表15 貧困緩和に対するコミュニティの提案

(19)

の介入を考える上で、貧困の動学的側面が重要で あることを示唆すると同時に、そのような動学的 貧困の問題を緩和する点での灌漑設備の重要性を 示していると言えよう。 最後に、計量的分析による灌漑のプログラム評 価を補完するため、参加型貧困アセスメントを同 時に行った。そのような分析の結果は、コミュニ ティグループが、主観的に灌漑インフラが貧困削 減に果たす役割の重要性を認知していることを示 している。 [参考文献] [和文文献] 黒崎卓(2001)『開発のミクロ経済学: 理論と応用』 岩波書店. 絵所秀紀・山崎幸治編(1998)『開発と貧困−貧 困の経済分析に向けて』アジア経済研究所 研究双書No.487, アジア経済研究所. 澤田康幸(2002)『プログラム効果の計量的評価 方法に関するサーベイ』未刊行論文. [英文文献]

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