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2 251 Barrera, 1986; Barrera, e.g., Gottlieb, 1985 Wethington & Kessler 1986 r Cohen & Wills,

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高校受験期における母親からのソーシャル・サポートが子どもに与える影響

外山 美樹

口 健

宮本 幸子

(筑波大学人間系) (ベネッセ教育総合研究所) (ベネッセ教育総合研究所)  高校受験が終わった半年後に,高校 1 年生とその母親 3,085 組を対象に,高校受験に関する振り返り 調査をインターネット上で実施し,高校受験期における悩みやストレス,高校受験を振り返っての認知 (高校受験の経験がどのような意味をもつのか)についての実態を把握することを目的とした。また, こうした高校受験期における悩みやストレス,高校受験を振り返っての認知において,母親からのソー シャル・サポートがどのように影響を及ぼすのかを検討した。本研究の結果から,進学率が 100% に近 い高校への受験においても,子どもは様々な悩みやストレスを抱いていることが示された。また,多く の者が受験を通して自己への成長感を獲得するとともに,学業への充実感を感じており,高校受験をプ ラスの経験と捉えていることが明らかになった。母親からのソーシャル・サポートにおいては,高校受 験の悩みやストレスを促進するソーシャル・サポートのネガティブな影響が見られた一方で,母親から のソーシャル・サポートが高い者は,受験を通して自己の成長感や学業の充実感をより強く感じている といったソーシャル・サポートのポジティブな影響も見られることが示された。 【キーワード】 高校受験,ソーシャル・サポート,ストレス,成長感

問   題

 青年期の学業ストレッサーの 1 つとして,入学試験, すなわち受験が挙げられる(三川,1988)。受験は,“受 験戦争”や“受験地獄”と言われていることからも明ら かなように,青年期における最もネガティブなライフイ ベントであると考えられ,受験期においては種々のスト レス反応を表出することが示されている(e.g., 川原, 2000)。  ところで,大学受験に比して高校受験に関する研究の 数は非常に少ない。学校ストレスの観点から,高校受験 生(つまり,中学校 3 年生)を対象にして,ストレスを 検討する研究はいくつか見られるが(e.g., 石毛・無藤, 2005; 三浦・上里,1999),高校受験そのものに焦点を当 てた研究はほぼ皆無である。それは大学進学率に比べて 高校進学率の割合が高いことが一因であるのかもしれな い。教育を受けたいと希望するすべての中学生に門戸を 広げるために,進学希望者の高校進学率を 100% にしよ うとする機運が 1960 年代に高まった。その声を受けて, 推薦入学の活用や受験機会の複数化,そして内申書(調 査書)の活用といった高校入学者の選抜方法が改善さ れ,さらに少子化の影響も相まって,現在の高校進学率 はほぼ 100% になっている。文部科学省が 2012 年 2 月 6日に発表した「平成 23 年度学校基本調査」の結果に よると,高校進学率 1)は,98.2% と過去最高の値となっ た。このように高校進学率が高くなり,“本人が希望さ えすれば誰でも高校に進学できる”という考えが,高校 受験期における問題を過小評価していることが考えられ る。  その一方で,学科間・学校間の序列が大きく,過酷な 受験競争を中学生に強いている日本の高校入試制度は, 他の国に例を見ない特殊なシステムである(佐藤, 1999)とも指摘されている。また,内申書(調査書)の 支配が中学教育の権威主義と管理主義を生み出し,中学 生の無力感を醸成し窒息状況へと追い込んでいるとの批 判の声も挙がっている(佐藤,1999)。事実,中学校 3 年生の 65.3% が高校受験を通してストレスがたまった と答えている(深谷・伊藤・深谷・亀沢,1999)。また, 地嵜ほか(1996)は,1 年間に小児科を受診した中学生 の約 21% が受験の問題を主訴としていることを報告し ている。高校進学率が高まったことで,高校受験は中学 生の誰もが経験するストレスフルなイベントとなってい ると考えられる。  ところで,様々なストレス反応の軽減にソーシャル・ サポートが有効であるとして注目を浴びている(e.g., 三浦・上里,1999)。ソーシャル・サポートの定義や重 視する側面は研究者間で一致していないのが現状である が,以下の 3 つの次元に分類して考えることが多い 1) 高等学校等進学率は,“高等学校,中等教育学校後期課程,特別 支援学校高等部本科・別科及び高等専門学校に進学した者”の数 を“中学校卒業者及び中等教育学校前期課程修了者”の数で除し たものである。

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(Barrera, 1986; 岡安・嶋田・坂野,1993)。すなわち, (1)社会的包絡:個人の持つ社会的ネットワークの大き さやネットワークを構成する人間関係の構造,(2)知覚 されたサポート:他者から与えられると期待・予測でき るサポートへの認知的評価(坂本・島津・深田,2001), (3)実行されたサポート:送り手から実際に供与された サポート(坂本ほか,2001),である。  これまでのソーシャル・サポートに関する研究を概観 すると,“社会的包絡”とストレス反応との間には一貫 した関連性が認められておらず(Barrera, 1981),社会 的ネットワークの大きさや人間関係の構造そのものが, 有効なサポートとなりうるわけではないことが指摘され ている(岡安ほか,1993)。近年では,社会的包絡のみ を取りあげた研究はほとんど見られない。  “知覚されたサポート”を扱った研究は非常に数が多 く,ソーシャル・サポートの研究のほとんどが,この知 覚されたサポートを取りあげている。そして,知覚され たサポートには,ストレス状態時におけるストレス反応 を低減させる効果(ストレス低減効果)があることが示 されている。たとえば,石毛・無藤(2005)は中学校 3 年生を対象にした研究で,知覚されたサポートの観点か らソーシャル・サポートをとらえ,男女ともに母親サ ポートと先生サポートがストレス反応を低減させること を示している 2)  一方で,知覚されたサポートには,現実に経験された サポート(“実行されたサポート”)を必ずしも測定して いないという批判が常につきまとっている(e.g., Gottli-eb, 1985)。Wethington & Kessler(1986)は,知覚され たサポートと実行されたサポートを測定し,両者の相関 関係は低いこと(r<.20)を述べている。さらに,知覚 されたサポートは,回答者のパーソナリティ特性や状況 に大きく依存されるとの問題が指摘されている(稲葉・ 浦・南,1987)。実際,知覚されたサポートと孤独感や 自尊心,社会的風土との関連性が示されている(Cohen & Wills, 1985)。つまり,知覚されたサポートがストレ ス反応の軽減に有効であることが示されても,それがあ る対象との相互作用において現実に供与されたサポート による効果なのか,それとも,パーソナリティ傾向や自 己認知などを反映した何か特性的なものが交絡した結果 なのかがわからないということになる。  “実行されたサポート”の観点からソーシャル・サ ポートを検討した研究では,サポートが高いほど,心身 のストレス反応が高まるという逆の効果(ストレス増幅 効果)が示されている(Barrera, 1981)。しかし,この 実行されたサポートの測定においては,サポートとして 意図されたと認知(受容)された44 44 4 44行動を扱っている研究 がほとんどである(浦,1992)。Barrera(1981)の研究 では,過去 1 ヶ月以内に認知(受容)された実行サポー トとその期間内のストレス反応との間に正の関連性を報 告しているが,認知(受容)された行動を扱っている以 上,上で述べた知覚されたサポートの問題がそのまま当 てはまることになる。また,認知(受容)された実行サ ポートは,送り手が意図してサポートを行ったかどうか が明らかではないという問題点(浦,1992)も指摘され る。送り手が意図して実際に供与したサポートの研究は 極端に数が少ないが,実験的にサポートを供与した研究 からは,ソーシャル・サポートのストレス増幅効果の存 在を示す結果が報告されている(坂本ほか,2001; Tana-ka, Kojo, & Matsuzaki, 1990)。しかし,実行されたサ ポートのストレス増幅効果を示した実験的研究の多く は,サポートの送り手が受け手にとっては初対面の実験 者となっており,日常場面における,重要な他者からの “実行されたサポート”と受け手のストレス反応の関連 を扱った研究は,ほとんど見られない。  そこで,本研究では,これまであまり取りあげられて こなかった,送り手から実際に供与された“実行された サポート”に焦点を当て,重要な他者(本研究では,母 親)からのソーシャル・サポートが,受験期における子 どもの悩みやストレスに対して低減させる効果(ストレ ス低減効果)をもつのか,それとも逆の効果(ストレス 増幅効果)をもつのかを検討することを第 1 の目的とす る。実行されたサポートは,坂本ほか(2001)に倣い, サポートの送り手の意図に焦点を当て,特定の効果には 言及せずに,“受け手の福祉(well-being)が増すことを 意図して与えられる,有形・無形の援助である”と定義 する。  さて,高校受験は子どもたちにとって,必ずしもマイ ナスな影響をもたらすだけのものであろうか。先述した 通り,高校受験は青年期における最もネガティブなライ フイベントであると考えられているが,生涯発達の観点 から見るならば,高校受験が子どもたちにとって成長を 促す契機になっているとも考えられる。神藤(1998,研 究 2)は,中学 1,2 年生を対象にした調査で,学業ス トレッサーに対して問題解決的な対処方略をとること で,自己成長感へとつながることを示した。このよう に,ストレッサー(本研究では高校受験)を乗り越えた 経験は,自己成長感を獲得するなど,個人にポジティブ な影響をもたらす側面があることも大いに考えられる。 近年,臨床心理学の領域においても,ストレスを伴う経 験が人に及ぼすポジティブな影響について,成長の観点 から検討が行われはじめている(e.g., 東村・坂口・柏 2) 中学 3 年生(すなわち受験生)を対象にした研究であるが,この 研究で扱っているサポート内容は,“あなたの気持ちをわかって くれる”“あなたが何かを失敗をしてもそっと助けてくれる”な どといったように,高校受験に特化したサポート内容とはなって いない。

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木・恒藤,2001)。  高校受験(入学試験)は,入学者選抜のためのシステ ムではあるが,子どもたちに希望を与え,勉学の努力を 喚起し,成長を促す契機として働いていることも考えら れる。しかし,受験(研究されているのは,大学受験で ある)においては,ストレスを生じさせるネガティブな 側面にのみ焦点が当てられ(津野,1997),ポジティブ な側面に焦点を当てたものはほとんどない(小山, 2003)。心の健康を考える上においては,ストレス事態 でのネガティブな症状の緩和について調べる視点だけで はなく,ストレスフルな出来事を経験した後に,それら の出来事をどのように捉え,どのような意味づけを行っ ているのかといった視点も必要である。そこで本研究で は,高校受験のポジティブな側面にも焦点を当てること にした。具体的には,高校受験を経験した高校 1 年生を 対象にして,高校受験を振り返ってもらうことで,高校 受験の経験がどのような意味をもつのかの実態を明らか にするとともに,そうした高校受験を振り返っての認知 (以下,“高校受験に対する認知 3)”と示す)において も,母親からのソーシャル・サポートが関連しているの かどうかを探索的に検討することを本研究の第 2 の目的 とする。

方   法

調査対象者と手続き  本研究では,インターネットによる調査を行った。 2011年 9 月,インターネット調査会社の約 191 万人の モニター母集団 4)のうち,子どもをもつ 35∼39 歳の母 親約 10 万人に対して予備調査を実施した。この結果に 基づき,高校受験(中高一貫校の内部進学は除く)を経 験した高校 1 年生の子どもがいる母親 5,378 人に調査の 協力を依頼した。母子 3,085 組のサンプルが集まった時 点で調査を終了した。 質問項目  質問項目は,調査対象者(母親と子ども)のデモグラ フィックを含む問 1 から問 84 で構成された。問 1 から 問 37 までが母親が回答する質問項目であり,問 38 から 問 84 までが子どもが回答する項目であった。本論文で は,本研究の分析で使用した質問項目のみを以下に記載 することにする 5)。下記の 2.の尺度は母親に,3.から 5. の尺度は子どもに回答を求めた。そして,1.は母親ある いは子どもに回答を求めた。 1.母親ならびに子どものデモグラフィック  母親の年齢,最終学歴,就業形態について多肢選択肢 の中から選んでもらった。また,子どもの性別,出身中 学校,現在通っている高校(卒業後の進路),受験した 入試方法について多肢選択肢の中から選んでもらった。 2.母親のソーシャル・サポート尺度  先行研究(川原,2000)や過去に実施した実態調査 (深谷ほか,1999)を参考に,15 項目から成る母親の ソーシャル・サポート尺度を作成した。勉強に対するサ ポート(e.g., “子どもが勉強していてわからないところ を教えてあげた”)や心身のケア(e.g., “子どもの体調 管理に気を配った”),環境づくり(e.g., “勉強する場所 の片づけをした”)といった内容から構成された。子ど もの高校受験に関して,質問項目に示すことをしていた かどうかを「全くそうでない(1 点)」「あまりそうでな い(2 点)」「まあそう(3 点)」「とてもそう(4 点)」の 4段階で評定してもらった。 3.高校受験の悩み・ストレス尺度  ス ト レ ス に 関 す る 先 行 研 究( 三 浦・ 福 田・ 坂 野, 1995)や過去に実施した実態調査(深谷ほか,1999)を 参考に,14 項目から成る尺度を作成した。項目の例と しては,“合格できるか不安だった”“よく眠れなかっ た”などが挙げられる。高校受験の悩みやストレスに関 する質問項目に対して,あてはまっていたかどうかを 「全くあてはまらない(1 点)」「あまりあてはまらない (2 点)」「まああてはまる(3 点)」「とてもあてはまる (4 点)」の 4 段階で回答を求めた。 4.高校受験に対する認知尺度  石毛・無藤(2005)の成長感尺度や過去に実施した実 態調査(深谷ほか,1999)を参考に 15 項目から成る尺 度を作成した。項目内容は“精神的に強くなった”“や ればできると自信がついた”などである。高校受験を振 り返ってみて,質問項目に示すようなことがどれくらい あてはまるのかを「全くあてはまらない(1 点)」「あま りあてはまらない(2 点)」「まああてはまる(3 点)」 「とてもあてはまる(4 点)」の 4 段階で回答を求めた。 5.学業成績  中学校 3 年生の冬休み前における学校内での成績につ いて,「1(下のほう)」から「7(上のほう)」までの 7 段階で評定を求めた。

結   果

母親ならびに子どものデモグラフィック  母親の年齢は,40∼44 歳(42.2%)が最も多く,次い で 45∼49 歳(38.1%),35∼39 歳(10.6%),50 歳 以 上 (9.1%)だった。母親の最終学歴は,高等学校(36.8%) 3) “高校受験に対する認知”は,高校受験を振り返ってもらうこと で,自身が経験した高校受験をどのように捉えているのか,と いった“自身が経験した高校受験に対する評価”と定義する。 4) アンケートに協力した際には,ポイントが付与されるシステムに なっている。 5) その他のデータにつきましては,Benesse 教育研究開発センター (2012)あるいは WEB サイト(http://benesse.jp/berd/)を参照 してください。

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が最も多く,次いで短期大学(27.1%),専門学校・各 種 学 校(16.2%), 大 学・ 大 学 院(18.3%), 中 学 校 (1.0%),その他(0.6%)であった。また,就業形態は, 割合の多い順に,パート・アルバイト(41.0%),無職 ( 専 業 主 婦 な ど )(37.3%), 正 規 の 社 員・ 従 業 員 (10.0%),自営業・自由業・家族従業員(5.8%),派遣・ 契約社員(4.4%),その他(1.5%)だった。  子どもの性別は,男子が 48.9%,女子が 51.1% であっ た。子どもの卒業した中学校は,公立中学校が 97.2%, 国立中学校が 1.7%,私立中学校が 1.2% で,現在通って いる高校(卒業後の進路先)は,国立大学や難関私立大 学への進学者が多い高校が 27.4%,中堅レベルの大学へ の進学者が多い高校が 44.7%,短大や専修・専門学校へ の進学者が多い高校が 14.7%,就職や就職希望者が多い 高校が 13.3% であった。また,現在通っている高校の 受験した入試方法(いずれも,私立,国・公立を合わせ て)は,一般入試が 72.2%,推薦入試が 27.2%,二次募 集が 0.6% であった。 「母親のソーシャル・サポート」尺度の因子分析  まず,15 項目の偏向状況を算出したところ,1 つの選 択肢に 60% 以上の調査対象者が回答した項目はなかっ た。そこで 15 項目に対して最尤法による因子分析を 行った結果,因子の解釈可能性から 3 因子構造が妥当で あると判断した。そこで再度 3 因子を仮定して,最尤 法,Promax 回転による因子分析を行った。その結果, 因子負荷量が .30 未満の項目(1 項目)を分析から除外 し,再度,最尤法,Promax 回転による因子分析を行っ た。その結果,14 項目すべてにおいて各因子に高い負 荷量(.35 以上)を示した(Table 1 参照)。回転前の 3 因子 14 項目の全分散を説明する割合は,60.00% であっ た。  第 1 因子は,“子どもの体調管理に気を配った”など, 子どもの生活全般における心身面へのサポートの内容の 項目が高い負荷量を示していたので「心身面に対するサ ポート」と命名した。第 2 因子は,“子どもが勉強して いてわからないところを教えてあげた”など,勉強に対 する直接的なサポートに関する内容の項目が高い負荷量 を示していた。そこで「勉強に対する直接サポート」と 命名した。最後に,第 3 因子は“子どもがきちんと勉強 しているか,様子を確認した”など,勉強に対する間接 的なサポートに関する内容の項目が高い負荷量を示して いた。そこで「勉強に対する間接サポート」と命名し た。  次に,因子分析の結果に基づき,各因子に高い負荷量 Table 1 「母親のソーシャル・サポート」尺度の因子分析結果ならびに基礎統計量 因子 Ⅰ Ⅱ Ⅲ h2 M SD Ⅰ 心身面に対するサポート(α=.84)  子どもの生活リズムが崩れないように気をつけた .93 −.09 .03 .81 3.16 .72  子どもの体調管理に気を配った .91 −.13 .03 .75 3.29 .68  子どもが適度な息抜きをできるように心がけた .65 .13 −.09 .46 2.96 .71  子どもがスランプに陥ったときにサポートするよう心がけた .54 .28 −.06 .46 2.78 .74  家族が勉強の邪魔をしないように気を配った .35 .19 .16 .32 2.68 .81 Ⅱ 勉強に対する直接サポート(α=.79)  勉強の計画を一緒に立てた −.12 .78 .08 .63 2.05 .85  子どもが自分にあった勉強法に気づけるようにサポートした .10 .76 −.02 .64 2.45 .81  子どもが勉強していてわからないところを教えてあげた −.03 .68 −.14 .35 2.28 .94  子どもが学校の授業をおろそかにしないように気をつけさせた .12 .45 .19 .43 2.62 .79  勉強する場所の片づけをした .11 .39 .08 .26 2.31 .86 Ⅲ 勉強に対する間接サポート(α=.73)  子どもがきちんと勉強しているか,様子を確認した −.02 −.02 .87 .73 2.95 .72  模試や定期テストの点数を確認した .15 −.17 .64 .39 3.27 .68  「勉強しなさい」と声をかけた −.22 .16 .62 .42 2.83 .86  受験対策に関する情報を積極的に収集した .18 .10 .39 .33 2.76 .79

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を示す項目で下位尺度を構成した。尺度の内的一貫性を 検討するため,それぞれ Cronbach の α 係数を算出した ところ,「心身面に対するサポート」が .84,「勉強に対 する直接サポート」が .79,「勉強に対する間接サポー ト」が .73 であり,満足し得る内的一貫性が認められ た。 「高校受験の悩み・ストレス」尺度ならびに「高校受験 に対する認知」尺度の因子分析  「高校受験の悩み・ストレス」尺度の 14 項目に対し て,最尤法による因子分析を行った結果,因子の解釈可 能性から 3 因子構造が妥当であると判断した。そこで再 度 3 因子を仮定して,最尤法,Promax 回転による因子 分析を行った。その結果,因子負荷量が .30 未満の項目 (2 項目)を分析から除外し,再度,最尤法,Promax 回 転による因子分析を行い,「学業面の不安」「ストレス」 「両親との衝突」の 3 下位尺度を設定した。因子分析の 結果ならびに各項目の平均値,標準偏差,肯定率(“と てもあてはまる”と“まああてはまる”と答えた者の割 合)を Table 2 に示した。肯定率の結果から,多くの受 験生が様々な悩みやストレスを経験していることが示さ れた。  「高校受験に対する認知」尺度の 15 項目に対しても, 上記と同様の最尤法による因子分析を行った結果,因子 の解釈可能性から 3 因子構造が妥当であると判断した。 そこで再度 3 因子を仮定して,最尤法,Promax 回転に よる因子分析を行った。その結果,因子負荷量が .30 未 満の項目(2 項目)を分析から除外し,再度,最尤法, Promax回転による因子分析を行い,「成長感」「学業の 充実感」「受験校への後悔」の 3 下位尺度を設定した。 因子分析の結果ならびに各項目の基礎統計量(平均値, 標準偏差,肯定率)を Table 3 に示した。肯定率の結果 より,多くの生徒が受験を通して自己の成長を感じると ともに,学業への充実感を感じており,高校受験をプラ スの経験と捉えていることが明らかになった。 母親のサポートのあり方の類型化  「母親のソーシャル・サポート」下位尺度得点の組み 合わせによって,調査対象者をいくつかの群に分けるた めに,「母親のソーシャル・サポート」下位尺度(心身 面に対するサポート,勉強に対する直接サポート,勉強 に対する間接サポート)の標準得点に基づいてクラス ター分析(ward 法)を行った。その結果,4 つの解釈 可能なクラスターを採用した(Figure 1)。 Table 2 「高校受験の悩み・ストレス」尺度の因子分析結果ならびに基礎統計量 因子 Ⅰ Ⅱ Ⅲ h2 M SD 肯定率(%) Ⅰ 学業面の不安(α=.79)  思うように成績が伸びなくて悩んだ .81 −.02 −.02 .63 2.68 .86 59.9  何を勉強すればよいのかわからなかった .76 −.07 .02 .53 2.79 .86 64.5  合格できるか不安だった .69 .01 −.12 .42 3.16 .84 80.6  内申点が足りなくて悩んだ .53 .05 .01 .32 2.42 .97 43.6  学校選びの不安や悩みがあった .53 −.02 .17 .37 2.69 .85 60.7 Ⅱ ストレス(α=.81)  よく眠れなかった −.05 .76 −.01 .54 2.12 .83 26.5  受験や受験勉強が原因で体調を崩した(お腹が痛くなるなど) −.10 .75 −.02 .46 2.09 .88 26.8  友だちとの関係に気をつかうようになった −.03 .57 .02 .32 2.11 .78 27.9  家族に口答えしたりしてあたった .14 .55 .11 .49 2.55 .91 51.9  なんだかイライラした .30 .54 −.04 .56 2.82 .89 65.5 Ⅲ 両親との衝突(r=.67)  親と進路のことで意見が食い違った .00 −.05 1.02 1.00 1.96 .87 23.7  親に進路を決めつけられた −.03 .09 .64 .46 1.66 .75 11.6 因子間相関 因子Ⅱ .63 因子Ⅲ .40 .44 注.肯定率は,“とてもあてはまる”か“まああてはまる”と回答した者の割合である。

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Table 3 「高校受験に対する認知」尺度の因子分析結果ならびに基礎統計量 因子 Ⅰ Ⅱ Ⅲ h2 M SD 肯定率(%) Ⅰ 成長感(α=.89)  進路についてよく考えることができた .82 −.08 −.05 .58 2.81 .75 71.3  将来の目標ができた .80 −.16 −.04 .48 2.60 .84 53.6  精神的に強くなった .78 .06 .00 .69 2.71 .80 62.1  おとなになった感じがした .66 .08 .08 .52 2.48 .80 48.0  親とのきずなが深まった .64 .01 .00 .42 2.46 .74 48.1  やればできると自信がついた .62 .28 −.07 .69 2.84 .82 70.5  長い期間勉強をやりとげた達成感があった .57 .28 .01 .63 2.73 .88 61.9  今後の進路決定(大学受験など)にむけてがんばろうと思った .56 −.01 .07 .32 2.81 .87 67.4 Ⅱ 学業の充実感(α=.81)  成績が伸びるのがおもしろかった −.12 .92 −.03 .71 2.54 .83 52.1  勉強のコツがつかめた .03 .85 −.01 .76 2.48 .78 49.5  切磋琢磨できる友だちができた .22 .44 .09 .41 2.33 .83 39.5 Ⅲ 受験校への後悔(r=.56)  実力相応の高校を受験すればよかった .01 .00 .75 .57 1.93 .72 16.4  自分の考えで受験する高校を決めればよかった −.01 −.01 .75 .56 1.77 .74 13.4 因子間相関 因子Ⅱ .72 因子Ⅲ .08 .09 注.肯定率は,“とてもあてはまる”か“まああてはまる”と回答した者の割合である。 心身面サポート 勉強に対する直接サポート 勉強に対する間接サポート 2.00 1.50 1.00 .50 .00 ―.50 ―1.00 標 準 得 点 1. サポート平均群 2. サポート低群3. 心身面サポート高群4. サポート高群 注.「心身面サポート」は,2<1<3=4,「勉強に対する直接サポート」ならびに「勉強に対する 間接サポート」はいずれも,2<3<1<4 となった。なお,数字はクラスターを,“<”は多 重比較の結果,有意な差が見られたことを,“=”は差が見られなかったことを意味する。 Figure 1 「母親のソーシャル・サポート」によるクラスター分析

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 次に,得られた 4 つのクラスターを独立変数,母親の ソーシャル・サポートの各下位尺度の標準得点を従属変 数とした 1 要因分散分析をそれぞれ行った結果,すべて の下位尺度において 1% 水準で有意な差が示された(心 身面に対するサポート:F(3, 3084)=1466.52,勉強に対 する直接サポート:F(3, 3084)=1239.82,勉強に対する 間接サポート:F(3, 3084)=771.04)。そこで多重比較 (Tukey 法)を行ったところ,心身面に対するサポート においては,第 3,第 4 クラスターが第 1,2 クラス ターよりも得点が高く,さらに,第 1 クラスターは第 2 クラスターよりも有意に得点が高かった。勉強に対する 直接サポートならびに勉強に対する間接サポートにおい ては,クラスター間すべてにおいて有意な差が認めら れ,いずれも第 4,第 1,第 2,第 3 クラスターの順に 得点が高いことが示された。  これらの結果を踏まえて,第 1 クラスターは,3 つの サポート尺度の標準得点が平均に近いことから,“サ ポート平均群”とした(n=878)。第 2 クラスターは, 3つのサポート尺度のすべての得点が低いことから“サ ポート低群”とした(n=1,178)。そして,第 3 クラス ターは,心身面に対するサポートの標準得点のみ高いこ とから“心身面サポート高群”とした(n=727)。最後 に,第 4 クラスターは,3 つのサポート尺度のすべての 標準得点が高いことから,“サポート高群”とした(n =302)。 「高校受験の悩み・ストレス」と「高校受験に対する認 知」の関連について  「高校受験の悩み・ストレス」と「高校受験に対する 認知」の関連性を検討するために,各下位尺度ごとに相 関係数を求めた。まずは,母親のサポートのあり方の 4 群別に相関係数を求めたが,群間で相関係数に差が見ら れなかったため,調査対象者全体( N=3,085)で相関 係数を求めた。その結果,「学業面の不安」ならびに 「ストレス」においては「成長感」(r=.12, 16, p<.01), 「学業の充実感」(r=.04, .08, p<.05),「受験校への後 悔」(r=.26, .28, p<.01)とそれぞれ正の相関が見られ た。「両親との衝突」においては「成長感」(r=−.09, p <.01),「学業の充実感」(r=−.07, p<.01)とは負の相 関が,「受験校への後悔」(r=.44, p<.01)とは正の相関 が見られた。 母親からのソーシャル・サポートが高校受験の悩み・ス トレスに与える影響について  母親サポートのあり方(4 水準)と性別(2 水準)を 独立変数,「高校受験の悩み・ストレス」下位尺度(学 業面の不安,ストレス,両親との衝突)を従属変数とす る 2 要因分散分析を行った(Table 4)。ソーシャル・サ ポートの知覚やその影響には性差が見られることが示さ れている(Acitelli & Antonucci, 1994; Northouse, Mood, Templin, Mellon, & George, 2000)ため,性別も要因と して取りあげることにした。なお,本研究の多重比較に はすべて Tukey 法を用いた。  まず,「学業面の不安」は,群の主効果のみが有意で (F(3, 3077)=44.83, p<.01),サポート低群が他の 3 群 よりも得点が低く,また,サポート高群のほうが心身面 サポート高群よりも得点が高かった。  「ストレス」は,群の主効果(F(3, 3077)=44.61, p Table 4 群,性別による各尺度得点の平均値および標準偏差 男   子 女   子 尺   度 得点の範囲 サポート平均群(n=443) サポート低群(n=572) 心身面サポート高群(n=350) サポート高群(n=145) サポート平均群(n=435) サポート低群(n=606) 心身面サポート高群(n=377) サポート高群(n=157) 高校受験の悩み・ストレス  学業面の不安 5∼20 14.03(3.03) 12.82(3.15) 14.18(3.29) 14.43(3.29) 14.38(2.89) 13.02(3.32) 14.01(3.10) 14.98(3.60)  ストレス 5∼20 11.82(2.99) 10.71(3.13) 12.08(3.28) 11.88(3.45) 12.22(2.89) 11.04(3.06) 12.26(3.27) 13.41(3.68)  両親との衝突 2∼8 3.96(1.48) 3.53(1.37) 3.53(1.54) 4.00(1.82) 3.90(1.42) 3.36(1.40) 3.28(1.37) 3.85(1.69) 高校受験に対する認知  成長感 8∼32 20.71(4.56) 19.69(4.72) 23.11(4.94) 23.01(5.55) 21.54(4.14) 20.17(4.98) 23.72(4.23) 24.08(4.76)  学業の充実感 3∼12 7.10(1.91) 6.92(2.14) 7.88(2.28) 7.75(2.28) 7.31(1.89) 7.07(2.01) 7.95(1.95) 7.89(2.09)  受験校への後悔 2∼8 3.81(1.24) 3.66(1.21) 3.66(1.37) 3.75(1.53) 4.03(1.23) 3.53(1.20) 3.58(1.32) 3.80(1.45) 学業成績  中 3 の冬休み前 の成績 1∼7 4.58(1.79) 4.66(1.89) 5.02(1.75) 4.84(1.68) 4.60(1.66) 4.82(1.75) 5.12(1.65) 5.01(1.70) 注.( )内は標準偏差を示す。

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<.01)と性別の主効果(F(1, 3077)=22.69, p<.01)に 加え,交互作用(F(3, 3077)=3.60, p<.05)が有意と なった。群の単純主効果の検定では,男子(F(3, 3077) =18.21, p<.01) な ら び に 女 子(F(3, 3077)=30.47, p <.01)において有意で,男子においてはサポート低群 が他の 3 群よりも得点が低かった。女子においてはサ ポート高群が他の 3 群よりも得点が高く,心身面サポー ト高群とサポート平均群がサポート低群よりも得点が高 かった。性別の単純主効果の検定では,サポート高群 (F(1, 3077)=18.02, p<.01)においてのみ有意で,女子 のほうが男子よりも得点が高かった。  「 両 親 と の 衝 突 」 に お い て は, 群 の 主 効 果(F(3, 3077)=60.57, p<.01) と 性 別 の 主 効 果(F(1, 3077)= 15.01, p<.01)が見られ,サポート高群とサポート平均 群が心身面サポート高群とサポート低群よりも得点が有 意に高く,男子が女子よりも得点が有意に高かった。 母親からのソーシャル・サポートが高校受験に対する認 知に与える影響について  母親サポートのあり方(4 水準)と性別(2 水準)を 独立変数,「高校受験に対する認知」下位尺度(成長感, 学業の充実感,受験校への後悔)を従属変数とする 2 要 因分散分析を行った(Table 4 参照)。その結果,「成長 感 」 に お い て, 群 の 主 効 果(F(3, 3077)=105.29, p <.01)と性別の主効果(F(1, 3077)=15.40, p<.01)が 見られた。群の主効果においては,サポートが高い 2 群 (サポート高群と心身面サポート高群)が残り 2 群より も得点が高く,また,サポート平均群がサポート低群よ りも得点が高かった。性別の主効果においては,女子が 男子よりも得点が高かった。  「学業の充実感」においては,群の主効果のみ有意で (F(3, 3077)=37.17, p<.01),サポートが高い 2 群(サ ポート高群と心身面サポート高群)が残り 2 群よりも得 点が高かった。  最後に,「受験校への後悔」においては,群の主効果 (F(3, 3077)=12.58, p<.01) に 加 え て 交 互 作 用(F(3, 3077)=3.37, p<.05)が有意となった。群の単純主効果 は,女子(F(3, 3077)=14.54, p<.01)においてのみ有 意で,サポート平均群が心身面サポート高群とサポート 低群よりも得点が高かった。性別の単純主効果の検定で は,サポート平均群(F(1, 3077)=5.95, p<.01)におい てのみ有意であり,女子のほうが男子よりも得点が有意 に高かった。 母親からのソーシャル・サポートが学業成績に与える影 響について  「学業成績」に関しては,群の主効果のみ有意で(F (3, 3077)=10.85, p<.01),サポートが高い 2 群(サポー ト高群と心身面サポート高群)が残り 2 群よりも得点が 高かった。

考   察

 本研究の結果から,進学率が 100% に近い高校への受 験においても,子どもは相当の心理的あるいは身体的ス トレスを抱いていることが示された。このように,受験 期には,様々な悩みやストレスを生じがちであるが,本 研究では,母親からのソーシャル・サポートが,こうし た悩みやストレスを低減させるストレス低減効果をもつ のか,それとも逆に悩みやストレスを増幅させるストレ ス増幅効果をもつのかを検討した。  その結果,母親からのソーシャル・サポートが高い者 (“サポート高群”と“心身面サポート高群”)は低い者 よりも,受験期における学業面への不安やストレスが高 いことが示された。特に,心身面に対するサポートに加 えて,勉強に対する直接的,間接的サポートも高い“サ ポート高群”は,“心身面サポート高群”よりも学業面 の不安をより強く感じていた。また,女子に限ってでは あるが,受験期におけるストレスは,“サポート高群” のほうが“心身面サポート高群”よりもより強かった。 母親からの受験(特に勉強面)に関するサポートを受け とることで,それに応えなくてはいけないというプレッ シャーがかかり,その結果,受験に対する不安が強まっ たり,女子においては,精神的・身体的ストレスが生じ やすくなるのであろう。ソーシャル・サポートの影響の 受けやすさや強度は,性別によって異なり(Northouse et al., 2000),女性のほうが男性よりもサポートがある かどうかによって心理的適応に影響を受けやすいことが 知られている。本研究の結果より,ソーシャル・サポー トのネガティブな影響もまた,女子において大きい場合 があることが示された。  両親との衝突においては,“サポート低群”と“心身 面サポート高群”よりも“サポート平均群”と“サポー ト高群”が高いという結果になった。“サポート平均群” は,“心身面サポート高群”よりも勉強に対する直接的, 間接的サポートの得点が有意に高く,“サポート高群” はいずれの群よりもこれらのサポートの得点が高かった が,こうした受験勉強自体に対するサポートが多くなる ことが,親への衝突につながる場合もあることが示唆さ れた。ここでも“心身面サポート高群”よりも“サポー ト高群”のほうが“両親との衝突”が高いことが示さ れ,心身面に対するサポートではなく,勉強に対する過 剰すぎるサポートが両親との衝突や時には両親への反発 につながる可能性も考えられる。  知覚されたサポートの観点からソーシャル・サポート の効果を検討した研究では,ストレス状態にある時に ソーシャル・サポートが高いほど,ストレス反応は低減 されることが一貫して示されている(e.g., 石毛・無藤, 2005)。一方,送り手から実際に供与された実行された

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サポートの観点から検討した研究は数が少ないが,実験 的にサポートを供与した研究からは,見知らぬ他者(実 験者)からの実行されたサポートが多いほど,ストレス 反応が高まるというストレス増幅効果の存在を示す結果 が 報 告 さ れ て い る( 坂 本 ほ か,2001; Tanaka et al., 1990)。本研究では,重要な他者である母親から実際に 供与された実行されたサポートに焦点を当て,そうした サポートが受験期における子どもの悩みやストレスに対 してどのような影響を及ぼすのかを検討したが,概ね ソーシャル・サポートのストレス増幅効果が見られるこ とが明らかになった。  このように,知覚されたサポートと実行されたサポー トでは,ストレス反応に対して異なった影響が見られる ことが確認された。知覚されたサポートは,受け手側の 主観的な感覚であり,送り手に提供してもらえそうな有 益な資源(物質,情報,指導など)に対する知覚である のに対して,本研究で扱った実行されたサポートは,送 り手(本研究では母親)の行動の事実となる。つまり, 受け手(本研究では子ども)がサポートを必要としてい るかどうかにかかわらず,また,必要としているサポー ト内容かどうかにかかわらず受け取る資源である。ドイ ツと日本の親子を対象にした研究 (McClelland, 1961) で は,母親の達成動機づけが高すぎると,子どもの達成動 機づけは逆に低くなることが示されているが,本研究に おいても,送り手が意図したサポートが,受け手にとっ ては必ずしも“サポート”とはならず,“過度な期待” あるいは“過干渉”なものとなりうることが示された。  サポートが供与されても,それが頻度や程度といった 量的側面において過剰であったり,また内容や種類と いった質的側面において受け手にとって必要でないサ ポートを受け取るといった,サポートの送り手と受け手 のサポートに対する認識の不一致がソーシャル・サポー トのネガティブな影響を生み出すものと考えられる。こ れらのことをより明確にするためには,送り手の意図と 受け手によるサポートの知覚との一致の程度を考慮に入 れた検討(e.g., 菅沼ほか,1996)が必要になってくる であろう。  本研究のもう 1 つの目的は,受験のポジティブな側面 に焦点を当て,受験を振り返ってみることで受験をどの ように捉えているのかの実態を把握すること,ならび に,そうした受験を振り返っての認知に母親からのソー シャル・サポートが関連しているのかどうかを探ること であった。その結果,多くの者が受験を通して自己の成 長感や学業への充実感を感じており,高校受験をプラス の経験と捉えていた。これまで,受験においてはストレ スを生じさせるネガティブな側面に焦点が当てられがち であったが,本研究から,ポジティブな側面が見られる ことがわかった。高校受験といったストレスフルな出来 事を根気強く切り抜けようとする心性は,その後の自己 の成長へとつながる。受験を迎える子どもたちには,粘 り強く取り組むことの大切さを伝えていくことが重要で あると考えられる。  また,母親からのソーシャル・サポートが高い者 (“サポート高群”と“心身面サポート高群”)はその他 の者たちよりも,受験前の学業成績が良く,受験を通し て自己の成長感や学業の充実感をより強く感じていた。 このように,ソーシャル・サポートには,成長感や充実 感といったポジティブな心理状態を高揚させる機能もあ ることが示された。近年,ポジティブ心理学が隆盛であ るが,そこでは,今現在のネガティブな心理状態を緩和 させることだけではなく,長い人生をより充実したもの にするための研究が精力的に行われている。ソーシャ ル・サポートの研究においても,ネガティブな心理状態 を改善させるといった側面だけではなく,ポジティブな 心理状態(e.g., 成長感,充実感,well-being)を高揚さ せるといった側面を視野に入れた検討が今後必要になっ てくるのかもしれない。  なお,受験に対するネガティブな認知(「受験校への 後悔」)については,男子においては群間で差が見られ なかったが,女子においては“サポート平均群”が残り の 3 群よりも高いという結果が得られた。ソーシャル・ サポートのネガティブな影響は女子において大きい場合 があることを先に述べたが,ここでも同様の結果となっ た。サポート平均群というのは,3 つのサポート尺度の 標準得点が平均に近かったものの群間で比較するなら ば,心身面のサポートがサポートの高い者(“サポート 高群”と“心身面サポート高群”)より低い一方で,勉 強に対する間接的,直接的サポートは“心身面サポート 高群”よりも高かった。すなわち,心身面のサポートな くして受験勉強自体に関するサポートのみが高かった女 子は,受験校(おそらくは入学した高校)に対する後悔 が強かった。両親との衝突においても“サポート平均 群”は“サポート高群”と同様に高かったが(ここで は,男女ともに),受験勉強自体に関するサポートのみ が高いと,進路選択の過程や結果において不満を抱き, 自分ではなく親に決められたという気持ちを強く抱くも のと考えられる。  本研究の結果から,母親からのソーシャル・サポート には,ポジティブな影響だけでなくネガティブな影響も 見られることが明らかになった。親しい他者との社会的 結びつきは,まさに“サポート”となりうるばかりでは なく,同時に 藤を含むものでもある。受験期を乗り切 るアドバイスとして“親(特に母親)のサポートが大事 である”という文句を耳にすることが多いが,親が意図 したサポートがかえって子どもの不安やストレスを増幅 させることにもつながりかねないことを肝に銘じておく

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必要があろう。そして,ソーシャル・サポートの影響を 検討する際には,ポジティブな側面だけではなく,ネガ ティブな側面も常に考慮に入れる必要があると言える。 今後,ソーシャル・サポートがどのような文脈でポジ ティブ,あるいはネガティブに働くのかといった文脈を 特定化する必要がある。  また,本研究の結果から,母親からのソーシャル・サ ポートのポジティブな影響(すなわち「成長感」と「学 業の充実感」)とネガティブな影響(すなわち「受験校 への後悔」,「学業面の不安」,「ストレス」,「両親との衝 突」)との間には特に関連が見られず 6),さらに両者の関 連性は母親のサポートのあり方によって異なるものでは ないことが示された。ポジティブな影響とネガティブな 影響の関連性は,たとえば,受験結果や合格した高校の レベルによっても異なることが考えられ,今後は,ポジ ティブな影響とネガティブな影響がいかに相互に関連し あっているのかを詳細に検討していくことが望まれる。  最後に本研究の問題点を挙げる。本研究はインター ネット調査であったため,地域を超えた大規模な調査が 可能となった。一方で,サンプリングの偏りの問題点が 指摘できよう。近年,インターネットの利用は増加して いるものの,万人が利用しているわけではない。イン ターネット利用者と非利用者のデモグラフィックの違い や,本調査に回答した調査対象者の心理的特性(子ども の教育に熱心な親が回答していたなど)が関連し,本研 究のサンプルにやや偏りが生じた可能性が考えられる。 また,本研究ではパソコン上で母親と子どもが回答する という形式を採用したため,調査対象者は親子関係があ る程度良好であることが予想される。本研究の結果を読 み解く上では,この点に留意しなければならない。  さらに,本研究では,受験期における悩み・ストレス や受験を振り返っての認知などを,受験が終わった半年 後(9 月)に回想的に評定させるという形式をとってい る。ライフイベント研究においては,ある出来事につい て現在から過去を振り返る形で評定を求める形式をとっ ているが,たとえば,高校入学後の学校体験などによる 現在の状態が,評定に影響している可能性が否定できな い。したがって,今後は受験が終わった直後(合否が出 る直前)に調査を行う必要があると考えられる。また, 本研究では,いわゆる不本意入学者と言われる本人が希 望していた学校に入学できなかった生徒を捉えきれてい ないという問題がある。不本意入学者は学校適応が良く ないと指摘されている(太田,2002)が,今後は本意入 学者と不本意入学者において,受験期における悩み・ス トレスや受験を振り返っての認知にどのような違いが見 られるのかを検討する必要がある。  最後に,本研究で用いた尺度の妥当性の問題が挙げら れる。本研究では調査対象者の回答の負担を考え,信頼 性と妥当性が検討されている既存の尺度項目すべてを使 用せず,いくつかの項目を選択して用いた。また,高校 受験に関連する研究がほとんどなかったため,独自に作 成した項目もあった。今後は,使用した尺度の妥当性検 討が必要となるだろう。  問題のところでも述べたように,高校受験に関する心 理学的研究はほとんど見られない。本研究で得られた知 見を一つの布石として捉え,今後さらなる検討が望まれ る。

文   献

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Toyama, Miki (Faculty of Human Science, University of Tsukuba), Higuchi, Ken (Benesse Educational Research and Development Institute) & Miyamoto, Sachiko (Benesse Educational Research and Development Institute). Mothers’

Social Support of Students Preparing for High School Entrance Examinations. THE JAPANESE JOURNALOF DEVELOPMENTAL PSY -CHOLOGY 2014, Vol.25, No.1, 1─11.

This study investigated the worry and stress associated with high school entrance examinations, mothers and children s later recall about the entrance exams, and the influence of mothers social support on their children. Mothers (N= 3,085) and their children completed an Internet-based questionnaire. The results indicated that children experienced various worries and stresses connected with the entrance examinations, and that many children also had feelings of self-growth as a result of the examinations. Children gained a sense of fulfillment by studying and felt that the entrance examinations were overall a positive experience. Social support from the mothers had both positive and negative effects on children. This support promoted a sense of self-fulfillment through self-development as a result of studying, but also contributed to children s worry and stress.

【Keywords】 High school entrance examination, Social support, Adolescents, Stress, Self-growth

Table 3  「高校受験に対する認知」尺度の因子分析結果ならびに基礎統計量 因子 Ⅰ Ⅱ Ⅲ h 2 M SD 肯定率(%) Ⅰ 成長感(α=.89)  進路についてよく考えることができた .82 −.08 −.05 .58 2.81 .75 71.3  将来の目標ができた .80 − .16 − .04 .48 2.60 .84 53.6  精神的に強くなった .78 .06 .00 .69 2.71 .80 62.1  おとなになった感じがした .66 .08 .08 .52 2.48 .80 48

参照

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