平成17年3月30日判決言渡 同日原本領収 裁判所書記官 平成16年(ワ)第12793号 損害賠償請求事件 口頭弁論終結日 平成17年1月26日 判 決 原 告 株式会社ヤングファツション研究所 訴訟代理人弁護士 佐野洋二 妹尾佳明 引田紀之 被 告 株式会社ヴェント・インターナショナル 訴訟代理人弁護士 窪田英一郎 柿内瑞絵 乾裕介 主 文 1 原告の請求を棄却する。 2 訴訟費用は原告の負担とする。 事実及び理由 第1 請求 被告は,原告に対し,金380万円及びこれに対する平成16年6月24日 から支払済みまで年5分の割合による金員を支払え。 第2 当事者の主張 1 原告の主張 (1) 当事者 ア 原告は,婦人服の製造,企画,卸,販売等を目的とする株式会社であ り,「abc une face(アーベーセー・アン・フェイス)」のブランド で,10代の女性を主たる顧客層として衣服を販売している。 イ 被告は,衣料品の販売等を目的とする株式会社であり,「LIZ LI SA」,「TRALALA de LIZ LISA」等のブランドで,10代の 女性を主たる顧客層として衣服やアクセサリー等を販売している。 (2) 原告商品 ア 原告は,別紙商品目録(1)記載の商品(以下「原告商品」という。)を, 平成16年1月14日に発注(加工出し)し,同月22日から1枚2900円で販 売した。 イ 原告商品の形態は,以下のとおりである(以下では,単に「A」, 「B」等と表記することがある。)。 A 襟ぐりを,後襟ぐりより前襟ぐりが開いている丸首ネックとして, B 襟ぐり,袖ぐり,ヒモはニットサテン生地を使用し,襟ぐりの中央 に複数のギャザーを入れ, C そのヒモは,前襟ぐりの中央の位置より首の後方で結ぶ様にして取 り外しが可能にし, D 着丈をヒップラインが隠れる程度の長さとし,前身頃には4段のフ リルを配し,裾は両脇が中央よりなだらかな曲線で下がっており, E そのフリルの先は,メローロックが施してあり, F フリルをギャザーを寄せて縫いつけた, G ノースリーブ型の薄手のやや光沢感がある天竺の生地からなるカッ トソー (3) 被告商品 ア 被告は,平成16年3月ころから,別紙商品目録(2)記載の商品(以下 「被告商品」という。)を1枚3900円で販売した。 イ 被告商品の形態は,以下のとおりである(以下では,単に「A'」, 「B'」等と表記することがある。)。 A' 襟ぐりを,後襟ぐりより前襟ぐりが開いている丸首ネックとして, B' 襟ぐり,袖ぐり,ヒモはニットサテン生地を使用し,襟ぐりの中央 に複数のギャザーを入れ, C' そのヒモは,前襟ぐりの中央の位置より首の後方で結ぶ様にして取 り外しが可能にし, D' 着丈をヒップラインが隠れる程度の長さとし,前身頃には4段のフ リルを配し,裾は両脇が中央よりなだらかな曲線で下がっており,
E' そのフリルの先は,メローロックが施してあり, F' フリルをギャザーを寄せて縫いつけた, G' ノースリーブ型の薄手のやや光沢感がある天竺の生地からなるカッ トソー (4) 被告による模倣 原告商品と被告商品は,特徴的形状のほとんどが共通し,全体の形態もほ ぼ同一であるから,両者の形態は実質的に同一である。 また,原告商品と被告商品とは,前記のとおり,発売時期の間が2か月と 極めて近接しており,主たる顧客層も10代の女性と共通していて,販売する店舗 も同一又は近接している。 さらに,原告商品の特徴である「襟ぐりが丸首ネックとなっていて,取り 外し自由なヒモを前襟ぐりの中央に配し,かつ下地に4枚の布をギャザーで留めた 4段のフリルとその最下段についてその両脇が中央よりなだらかな曲線で下ってい る」という形態は,原告商品以前には市場に存在しなかった。 以上のことからすれば,原告商品と被告商品の形態が実質的に同一になる ということが偶然に生じたと考える余地はなく,被告が,原告商品を模倣して,被 告商品を製造販売したことは明らかである。 したがって,被告による被告商品の販売行為は,不正競争防止法2条1項 3号所定の不正競争行為に該当する。 (5) 損害 ア 被告は,被告商品を少なくとも1000枚販売した。 原告は,原告商品1枚につき2000円以上の利益を得る。 したがって,不正競争防止法5条1項により,被告の行為による原告の 損害は,金200万円を下らない。 イ 原告は,弁護士費用として180万円を負担する予定である。 ウ 合計 380万円 (6) よって,原告は,被告に対し,不正競争防止法2条1項3号,4条に基づ いて,損害賠償金380万円及びこれに対する訴状送達の日の翌日から支払済みま で民法所定の年5分の割合による遅延損害金の支払を求める。 2 被告の主張 (1) 原告の主張に対する認否 ア 原告の主張(1)について 認める。 イ 原告の主張(2)について 原告の主張(2)アは知らないが,イは認める。 ウ 原告の主張(3)について 原告の主張(3)アは認める。 原告の主張(3)イのうちB'及びD'は否認し,その余は認める。 B'について,被告商品は,ニットサテンではなく,サテンテープを使用 している。また,D'について,被告商品の着丈は,ヒップラインが隠れる程度の長 さではなく,長くとも腰骨部分に届く程度の長さである。 エ 原告の主張(4)について (ア) 否認する。 (イ) 原告商品及び被告商品は,フリルキャミ,フリルキャミソール,テ ィアードキャミ等と呼ばれる商品であり,特に平成16年に流行した。 被告の販売している商品は,すべてオリジナルであり,被告商品は, 被告の社内デザイナーが「TRALALA de LIZ LISA」ブランドの ためにデザインしたものであって,被告が原告商品にアクセスした事実もない。 オ 原告の主張(5)について 争う。 被告商品の販売数は98枚である。 (2) 実質的同一性の有無について ア 原告商品の形態 原告商品は,AないしGのほか,以下の形態を有する。 B1 襟ぐり及び袖ぐりがやや深めに形成されている C1 ヒモが長く,背中で大きな結び目を作りやすい D1 前身頃の下地が最下段のフリル生地よりも長く,下地が裾から突 出する形となっている
D2 フリルの最下段が他の段に比べて全体に大きい F1 前身頃の垂直方向の長さが約60cmである F2 後身頃には特に模様が形成されていない イ 被告商品との対比 (ア) B1について 原告商品は,襟ぐり及び袖ぐりがやや深めに形成されているのに対し て,被告商品の襟ぐり及び袖ぐりは,やや浅めに作られており,肩・胸・脇等が露 出する度合いが少ない。 (イ) C1について 原告商品のヒモは,長く,背中で大きな結び目を作りやすくなってい るのに対して,被告商品のヒモは,原告商品よりも短くなっており,必要以上に背 中の結び目が大きくならず,ヒモが必要以上に背中に垂れないようにデザインされ ている。 (ウ) Dについて 原告商品では,両脇が強調されるのに対し,被告商品では,原告商品 と比較して,裾の両脇への曲率が少ないため,裾部分が全体としてフラットな印象 を与える。 また,被告商品のフリルの端は,縮れたように構成されており,直線 的に仕上げられている原告商品よりも女性的な印象を与える。 (エ) D1について 原告商品の前身頃の下地は,最下段のフリル生地よりも長く,下地が 裾から突出する形となっているのに対して,被告商品は,下地がフリルよりも下に 突出しておらず,フリルがそのまま裾部分を形成するため,華やかで女性的な印象 を与える。 (オ) D2について 原告商品のフリルは,他の段に比べて最下段が全体に大きく作られて いるため,下側に重心が置かれているのに対して,被告商品は,最下段のフリルを 格別大きくしていないため,その重心はより上側にある。 (カ) F1について 原告商品の前身頃の垂直方向の長さは,約60cmであるのに対し て,被告商品の前身頃の垂直方向の長さは,約55cmであり,全体として小振り でキュートな印象を与える。 (キ) F2について 原告商品の後身頃には,特に模様が形成されていないのに対して,被 告商品の背中部分には,大きなハートと「T/L」の文字が描かれており,与える 印象が異なる。 (ク) 色について 原告商品は,濃いピンク色であるのに対して,被告商品は,淡いピン ク色である。 ウ このように,原告商品が,全体として大ぶりで野暮ったい印象を与える のに対して,被告商品は,縦の長さが短く,キュートな印象を与える点でデザイン が相違するし,被告商品には,背中部分に大きなハートと「T/L」の文字が描か れている点でも原告商品と相違しており,原告商品と被告商品とは実質的に異な る。 (3) 同種商品が通常有する形態であること ア 原告の主張する原告商品の形態について (ア) Aについて いわゆるランニングシャツと同じであり,没個性的な形態であって, 新しいものではない。 (イ) Bについて 襟ぐり,袖ぐり及びヒモをバイアステープ又はバイアス生地で処理す ることや,襟ぐり中央にギャザーを入れて円形をきれいに出すことは,洋裁の初歩 的事項であり,没個性的形態である。 (ウ) Cについて 数年前からの流行であり,没個性的形態である。 (エ) Dについて フリルの段を何段にするかは感覚的なものであるが,3段から5段が 一般的である。
また,裾の両脇をわずかに下げて全体を美しく見せるテクニックも一 般的であるし,着丈の長いカットソーも原告商品だけの特徴ではない。 したがって,いずれも没個性的形態である。 (オ) Eについて フリルにより空気感を持たせるために,フリルの端を折り返して末端 処理するのではなく,先端処理をメローロックにすることは当然である。この点は 没個性的かつ技術的形態である。 (カ) Fについて フリルをギャザーを寄せて縫いつけることは,フリルを作る場合に必 然的なものであり,技術的形態である。 (キ) Gについて ノースリーブのカットソー生地として,軽くて薄く適度な伸縮性を有 することを特徴とする平編である天竺を用いることは,一般的であるから,没個性 的形態である。 イ 各特徴の組み合わせについて ランニングシャツ様のフリルキャミソールは,多数見られ,「定番ブラ ウス」として紹介されるほどであるから,それ自体没個性的形態である。 また,襟ぐりから出ているヒモは,一般的に用いられているものであ り,フリルキャミソールにおいても使用されている。 したがって,原告の主張する原告商品の特徴を組み合わせても,格別特 徴的な形態は生じないから,原告商品は,全体として見ても没個性的なものであ る。 ウ 小括 以上より,原告商品の形態は,同種商品が通常有する形態である。 3 原告の反論 (1) 被告の主張(2)について ア B1について 被告商品は,原告商品とほぼ同一であり,むしろ原告商品の襟ぐり及び 袖ぐりの方が浅い。 イ C1について 原告商品のヒモが長く,被告商品と相違することは認めるが,この程度 のヒモの長短は,実質的な違いをもたらすものではない。 ウ Dについて 原告商品と被告商品は,その曲率はほとんど同じであり,両商品が異な る印象を与えるものではない。 エ D1について 原告商品の前身頃の下地と最下段のフリル生地は,ほぼ同寸法である。 なお,原告商品と被告商品の寸法がほぼ同一であることは,別紙商品実 寸比較表のとおりである。 オ D2について 原告商品のフリルの最下段が大きいことは認めるが,他の段との差は 0.5cmにすぎないし,被告商品もフリルの最下段が他の段より大きい。 カ F1について 原告商品の前身頃は,57cmであり,被告商品の前身頃は,56.5 cmであるから,0.5cmの差があるにすぎない。 キ F2について 被告商品に付されている大きなハートと「T/L」の文字は,自社ブラ ンド(「TRALALA de LIZ LISA」)の略称にすぎず,模様では ない。また,この略称は,被告の他の製品にも付されており,被告商品に特有の形 態ではないから,同一性を判断するための基準にはならない。 仮に,このようなマークが存することにより,非同一性を認めることに なれば,他人が苦心して創作したオリジナル商品に該マークを付することによっ て,極めて容易にそのすべてを非同一とできることになり,不合理である。 ク 色について 色の相違は同一性の判断に影響しない。 (2) 被告の主張(3)について ア A及びCについて 原告商品は,キャミソール型では一般的なフリルを丸首ネックと組み合
わせたものであり,丸首ネックを採用したために胸元が開くことから,襟ぐりに取 り外し可能なヒモを設けた。 また,胸の中央にヒモを付け,これを首の後方で結ぶようにした形状 (ホルターネック)が,従来からよく見られるものであることは認めるが,ヒモ自 体が,襟ぐり及び袖ぐりと一体的に形成されている点が特徴的であるし,取り外し 可能であるためコーディネートの幅が広がるから,独創的かつ個性的である。 イ Bについて 襟ぐり,袖ぐり,ヒモに同じニットサテン生地を使用することにより, この部分の一体性及び統一性を表現した形態となっており,しかも,サテン生地を 使用して光沢感を出し,襟ぐりの中央にギャザーを入れて胸元に華やかさ及び重量 感を表現しており,いずれも独特な形状,模様,質量感を有するから,個性的であ る。 ウ Dについて 裾の両脇が中央からなだらかな曲線で下がった形態は,同種商品には全 く見られなかった。 また,原告商品は,パンツと合わせて着用した時に,曲線であるヒップ ラインと裾の曲線をマッチさせ,ヒップラインがより美しく映えるように,意図的 に総丈前中心を長めに設定しており,このような形態も同種商品にはなかった。 エ Eについて 裾の先端処理の方法として従前から存在するメローロックと,他の部分 との組み合わせが,個性的である。 オ Fについて 技術的形態とは,特有の機能及び効用を発揮するために不可欠な形態を いうところ,フリルをギャザーを寄せずに縫いつけている商品も多数存在するか ら,通常有する形態ではない。 カ Gについて 薄手で光沢感のある天竺の生地を使用したことは,独創的であり,色彩 や質量感において特徴的である。 第3 当裁判所の判断 1 原告商品の形態 原告商品の形態が以下のとおりであることは,当事者間に争いがない(以下 では,単に「A”」,「B”」等と表記することがある。)。 A” 前襟ぐりよりも後襟ぐりの方が開いている丸首ネックであり, B” 前襟ぐりの中央に取り外し可能なヒモが付いており,当該ヒモを首の 後方で結ぶようになっていて, C” 前襟ぐりの中央に複数のギャザーが入っており, D” 襟ぐり,袖ぐり及び上記ヒモにニットサテン生地を使用し, E” 前身頃に4段のフリルが配され, F” 上記フリルは,その先端にメローロックが施され,ギャザーを寄せて 縫いつけられており, G” 着丈はヒップラインが隠れる程度の長さであり, H” 裾は中央部分から両脇部分にかけて曲線を描いて下降し, I” 薄手のやや光沢感がある天竺の生地からなる, J” ノースリーブ型のカットソー 2 同種商品が通常有する形態か否かについて (1) まず,原告商品の形態が,同種商品が通常有する形態であるか否かを判断 するところ,不正競争防止法2条1項3号で保護される商品形態は,必ずしも独創 的な形態であることは必要ないが,同号の立法趣旨が資金及び労力を投下した商品 形態の開発者の市場への先行利益を保護するものであることからすれば,同種の先 行商品に全く同一の形態のものが存在しない場合であっても,既に市場で広く見ら れるいくつかの商品形態を単に組み合わせただけであって,しかも,その組み合わ せること自体も容易であるような商品形態については,同法2条1項3号にいう 「同種の商品が通常有する形態」に当たるものと解するのが相当である。 (2) そこで検討するに,証拠(乙10ないし13,15ないし17, 19ないし24,26,29,30,32,36ないし40,42ないし50,5 4(いずれも枝番を含む。))及び弁論の全趣旨によれば,以下の事実が認められ る。 原告商品と同様の,前身頃にフリルの配されたノースリーブ型のカットソ
ーは,平成14年夏ころから既に市場にて販売されており,同年及び平成15年に かけて,若い女性向けファッション雑誌にも多数回取り上げられていた商品であ る。 また,原告商品の上記A”ないしI”の形態を個別に見ると,いずれの形 態についても,同様の形態を有し前身頃にフリルの配されたノースリーブ型のカッ トソーが,原告商品の販売以前から市場にて販売されていた。すなわち,原告商品 の販売以前から市場にて販売されていたフリルの配されたノースリーブ型のカット ソーの中には,丸首ネック(A”)の商品(乙19の3,20の3,23の2,2 4の2),ホルターネック(B”)の商品(乙15の2,47の2),前襟ぐりの 中央に複数のギャザーが入っている(C”)商品(乙13の2,19の2,22の 2,49の2),前身頃に配されたフリルが4段である(E”)商品(乙10の 4,11の2・3,12の2,17の2,22の2,26の2,29の7,30の 2,32の2,38の3・4,43の4,45の3,48の2,49の2,50の 2,54の2・3),着丈をヒップラインが隠れる程度の長さとする(G”)商品 (乙11の3,24の2,37の2),裾が中央部分から両脇部分にかけて曲線を 描いて下降している(H”)商品(乙11の3)が含まれていた。さらに,ニット サテン生地の使用,フリルの先端におけるメローロック処理,薄手の天竺の生地の 使用が,いずれも一般的な服飾技術であること(弁論の全趣旨)を考慮すると, D”,F”及びI”の形態を有する商品も,従前から販売されていたものと推認さ れる。 (3) そして,A”ないしJ”の形態は,いずれもそれ自体では独創性の乏しい 特徴のない形態である上,前示のとおり,フリルの配されたノースリーブ型のカッ トソーとホルターネック又は丸首ネックとを組み合わせた商品が一般的であるのみ ならず,Vネック等とホルターネックとを組み合わせた商品(乙10の2,13の 2,27の3・4,33の2・3,34の2)も原告商品の販売以前から市場にて 販売されていたことを考慮すると,原告商品のように丸首ネックとホルターネック とを組み合わせることは容易に想到することができたといえ,A”ないしJ”を組 み合わせることも容易であったと認められる。 そうすると,既に市場に存在するありふれた形態であるA”ないしJ”を 単に組み合わせたにすぎない原告商品は,前身頃にフリルの配されたノースリーブ 型のカットソーとしてありふれた形態であって,原告商品の形態は,同種商品が通 常有する形態であるといわなければならない。 (4) したがって,被告商品が原告商品と実質的に同一であるか否かを検討する までもなく,被告による被告商品の販売行為は,不正競争防止法2条1項3号所定 の不正競争行為に該当するものではない。 3 結論 以上より,その余の点について判断するまでもなく,原告の請求には理由が ないから,これを棄却することとして,主文のとおり判決する。 東京地方裁判所民事第29部 裁判長裁判官 清 水 節 裁判官 榎 戸 道 也 裁判官 髙 田 公 輝 (別 紙) 商品目録(1)
(別 紙)
商品目録(2)
平成17年(ネ)第10083号 損害賠償請求控訴事件(原審・東京地方裁判所平成 16年(ワ)第12793号) 平成17年10月24日 口頭弁論終結 判 決 控訴人 株式会社ヤングファツション研究所 訴訟代理人弁護士 佐野洋二 同 妹尾佳明 同 引田紀之 被控訴人 株式会社ヴェント・インターナショナル 訴訟代理人弁護士 窪田英一郎 同 柿内瑞絵 同 乾裕介 主 文 1 原判決を次のとおり変更する。 被控訴人は,控訴人に対し,33万4750円及びこれに対する平成1 6年6月24日から支払済みまで年5分の割合による金員を支払え。 控訴人のその余の請求を棄却する。 2 訴訟費用は,第1,2審を通じてこれを5分し,その3を控訴人の, その余を被控訴人の各負担とする。 事実及び理由 第1 当事者の求めた裁判 1 控訴人 (1) 原判決を取り消す。 (2) 被控訴人は,控訴人に対し,380万円及びこれに対する平成16年6月 24日から支払済みまで年5分の割合による金員を支払え。 (3) 訴訟費用は第1,2審とも被控訴人の負担とする。 2 被控訴人 (1) 控訴人の控訴を棄却する。 (2) 控訴費用は控訴人の負担とする。 第2 事案の概要 1 本件は,衣料品の製造,販売等を行う控訴人が,被控訴人の販売した商品 (原判決末尾添付「商品目録(2)」記載の商品。以下「被告商品」という。)は,控 訴人の商品(原判決末尾添付「商品目録(1)」記載の商品。以下「原告商品」とい う。)の形態を模倣したものであると主張し,被控訴人が被告商品を販売した行為 は不正競争防止法2条1項3号(平成17年法律第75号による改正前のもの。以 下,同号について同じ。)所定の不正競争行為に該当するとして,被控訴人に対し て,同法4条に基づき同法5条1項所定の損害額等の支払を請求している事案であ る。 原判決は,控訴人の主張を理由がないとして,控訴人の上記請求を棄却した ため,控訴人が,これを不服として,控訴を提起したものである。 2 当事者の主張は,次の3,4のとおり付加訂正するほか,原判決「事実及び 理由」欄の「第2 当事者の主張」記載のとおりであるから,これを引用する。 以下,当裁判所も,上記の「原告商品」「被告商品」のほか,原告商品の形 態における「A」「B」,被告商品の形態における「A'」「B'」などの語を,原 判決の用法に従って用いる。 3 原判決の訂正 (1) 原判決4頁5行目から6行目にかけて及び14行目の各「不正競争防止法 2条1項3号」を,いずれも「不正競争防止法2条1項3号(平成17年法律第7 5号による改正前のもの)」に改める。 (2) 同4頁7行目から13行目までを,次のとおり改める。 「(5) 損害 ア 被控訴人は,被告商品を150枚販売した。 控訴人は,原告商品1枚につき1565円(販売額2900円か ら,仕入価額900円及び経費435円を控除した額)の利益を得る。 したがって,不正競争防止法5条1項に基づく控訴人の損害額 は,23万4750円である。 イ 控訴人は,弁護士費用として180万円を負担する予定である。 ウ 合計 203万4750円」
(3) 同5頁11行目から13行目までを,次のとおり改める。 「オ 控訴人の主張(5)について アの事実は認め,その余は争う。」 4 当事者の当審における主張の要点 (1) 控訴人 (ア) 原判決は,まず,不正競争防止法2条1項3号にいう「同種の商品が通 常有する形態」につき,「同種の先行商品に全く同一の形態のものが存在しない場 合であっても,既に市場で広く見られるいくつかの商品形態を単に組み合わせただ けであって,しかも,その組み合わせること自体も容易であるような商品形態」 は,「同種の商品が通常有する形態」に当たるものと判示した上で,原告商品が次 のA”ないしJ”の形態を有すると認定した。 A” 後襟ぐりよりも前襟ぐりの方が開いている丸首ネックであり, B” 前襟ぐりの中央に取り外し可能なヒモが付いており,当該ヒモを 首の後方で結ぶようになっていて, C” 前襟ぐりの中央に複数のギャザーが入っており, D” 襟ぐり,袖ぐり及び上記ヒモにニットサテン生地を使用し, E” 前身頃に4段のフリルが配され, F” 上記フリルは,その先端にメローロックが施され,ギャザーを寄 せて縫いつけられており, G” 着丈はヒップラインが隠れる程度の長さであり, H” 裾は中央部分から両脇部分にかけて曲線を描いて下降し, I” 薄手のやや光沢感がある天竺の生地からなる, J” ノースリーブ型のカットソー そして,原判決は,A”ないしJ”の形態を個別にみると,いずれの形 態についても,当該形態を有した商品が原告商品販売時以前から市場で販売されて いたもので,いずれもそれ自体では独創性の乏しい特徴のない形態であり,かつ, A”ないしJ”を組み合わせることは容易であったとし,「そうすると,既に市場 に存在するありふれた形態であるA”ないしJ”を単に組み合わせたにすぎない原 告商品は,前身頃にフリルの配されたノースリーブ型のカットソーとしてありふれ た形態であって,原告商品の形態は,同種商品が通常有する形態であるといわなけ ればならない。」と判断している。 しかしながら,そもそも,同種の製品が通常有する形態かどうかは,商 品の形態を全体的に観察して判断すべきものであり,原判決の上記判断は誤りとい うべきである。 (イ) 上記のとおり,原判決は,原告商品の上記A”ないしJ”の形態は,い ずれの形態についても,当該形態を有した商品が原告商品販売時以前から市場で販 売されていたと認定しているが,G”の形態を有する商品が販売されていたこと も,H”の形態を有する商品が販売されていたことも,証拠上認められない。 (ウ) また,原判決は,原告商品の上記A”ないしJ”の形態を組み合わせる ことは容易であったとしているが,原告商品のようなノースリーブ型(J”)の丸 首ネック(A”。いわゆるランニング型)のカットソーにホルターネック(B”。 紐吊り)を組み合わせた先行商品は存在しない。ノースリーブ型のカットソー (J”)でありながら,襟ぐりを丸首ネック(A”)とし,さらにホルターネック (B”)を組み合わせることによって,ランニングシャツ・下着感を払拭した点 は,原告商品における特徴的かつ固有のデザイン上の工夫である。原判決は,ノー スリーブ型(J”)とホルターネック(B”)の組合せ,ノースリーブ型(J”) と丸首ネック(A”)の組合せは一般的で,Vネック等とホルターネック(B”) を組み合わせた商品も以前から市場にあったことから見れば,丸首ネック(A”) とホルターネック(B”)の組合せは容易に想到できるとしているが,誤りという べきである。 (エ) 原判決は,A”ないしJ”のその他の各形態の組合せについて,その組 合せの容易性に具体的に言及することなく,A”ないしJ”の形態を組み合わせる ことは容易であるとしているが,これは原告商品の特徴を見落としたものである。 (オ) なお,原告商品の形態として,原審で主張したAないしGに加え, 「(その)フリルは1枚の台布(下地布)に4枚の別個のフリル布をたたき付けて 縫い上げたものであること」及び「両脇の裾がV字型ラインとなっていること」を 追加する。そして,被告商品も,これと全く同一の形態を有する。 (2) 被控訴人
(ア) 原判決の認定する原告商品のA”ないしJ”の特徴については,A”な いしI”のそれぞれについて,これを備えたノースリーブ型のカットソー(J”) が存在するものであり,A”ないしJ”のいずれも極めてありふれたものである。 これらのうち,「A”とE”」,「B”とE”」,「C”とE”」, 「G”とE”」,「H”とE”」の組合せをそれぞれ備える商品も存在する。ま た,「A”,C”,E”,F”,G”,H”,J”」の組合せを備えたもの(甲1 1の3),「A”,E”,F”,G”,J”」の組合せを備えたもの(甲43の 3),「A”,E”,G”,J”」の組合せを備えたもの(甲50)も存在する。 したがって,A”からJ”のすべてを組み合わせることは極めて容易に 想到することができるから,原告商品は,全体としてもありふれた形態であり, 「同種の製品が通常有する形態」に該当する。 (イ) 控訴人は,原告商品の形態として,「(その)フリルは1枚の台布(下 地布)に4枚の別個のフリル布をたたき付けて縫い上げたものであること」及び 「両脇の裾がV字型ラインとなっていること」を追加するとし,被告商品もこれと 全く同一の形態を有すると主張するが,同主張は争う。「(その)フリルは1枚の 台布(下地布)に4枚の別個のフリル布をたたき付けて縫い上げ」ることは,極め て一般的な服飾技術にすぎず,これをありふれた形態である原告商品のA”ないし J”と組み合わせたとしても,原告商品の形態が「同種の製品が通常有する形態」 であることに変わりがあるわけではない。また,原告商品も被告商品も,いずれ も,「両脇の裾がV字型ライン」とはなっていない。 第3 当裁判所の判断 1 控訴人が,婦人服の製造,企画,卸,販売等を目的とする株式会社であり, 10代の女性を主たる顧客層として衣服を販売していること,被控訴人が,衣料品 の販売等を目的とする株式会社であり,10代の女性を主たる顧客層として衣服や アクセサリー等を販売していることについては,当事者間に争いがない。 2 原告商品及び被告商品の形態 (1) 被控訴人の販売に係る原告商品の形態は,次のとおりである(争いがな い。以下,単に「A”」「B”」などと表記することがある。)。 A” 後襟ぐりよりも前襟ぐりの方が開いている丸首ネックであり, B” 前襟ぐりの中央に取り外し可能なヒモが付いており,当該ヒモを首 の後方で結ぶようになっていて, C” 前襟ぐりの中央に複数のギャザーが入っており, D” 襟ぐり,袖ぐり及び上記ヒモにニットサテン生地を使用し, E” 前身頃に4段のフリルが配され, F” 上記フリルは,その先端にメローロックが施され,ギャザーを寄せ て縫いつけられており, G” 着丈はヒップラインが隠れる程度の長さであり, H” 裾は中央部分から両脇部分にかけて曲線を描いて下降し, I” 薄手のやや光沢感がある天竺の生地からなる, J” ノースリーブ型のカットソー (2) 被告商品の形態は,次のとおりである(争いのない事実,甲8,11ない し17,19(枝番号は省略する。以下,同じ。),検甲2,弁論の全趣旨。以 下,単に「a”」「b”」などと表記することがある。)。 a” 後襟ぐりよりも前襟ぐりの方が開いている丸首ネックであり, b” 前襟ぐりの中央に取り外し可能なヒモが付いており,当該ヒモを首 の後方で結ぶようになっていて, c” 前襟ぐりの中央に複数のギャザーが入っており, d” 襟ぐり,袖ぐり及び上記ヒモにニットテープを使用し, e” 前身頃に4段のフリルが配され, f” 上記フリルは,その先端にメローロックが施され,ギャザーを寄せ て縫いつけられており, g” 着丈は腰骨部分に届く程度の長さであり, h” 裾は中央部分から両脇部分にかけて曲線を描いて下降し, i” 薄手のやや光沢感がある天竺の生地からなる, j” ノースリーブ型のカットソー 3 原告商品と被告商品の形態の同一性の有無 (1) 上記2において認定した原告商品の形態と被告商品の形態を比較すると, 両者は,① 後襟ぐりよりも前襟ぐりの方が開いている丸首ネックであり(A”,
a”),前襟ぐりの中央に取り外し可能なヒモが付いており,当該ヒモを首の後方 で結ぶようになっていて(B”,b”),前身頃に4段のフリルが配され(E”, e”),着丈は腰骨ないしヒップラインに達する程度の長さであり(G”, g”),裾は中央部分から両脇部分にかけて曲線を描いて下降する(H”, h”),ノースリーブ型のカットソー(J”,j”)という基本的な構成において 共通するほか,② 個々の具体的形状の多くが共通しており(C”,F”,H”, c”,f”,h”),また,③ 全体の形状もほとんど同一である(甲8,11ない し19,検甲1,2)。 そうすると,原告商品と被告商品は,基本的構成を共通にするほか,個々 の特徴的形状の多くを共通にし,全体の形状もほとんど同一であるから,両者の形 態は,実質的に同一というべきである。 (2) 確かに,被告商品は,襟ぐり,袖ぐり及び前襟ぐりの中央のヒモにニット サテン生地ではなく,ニットテープを用い(d”),着丈がやや短く(g”),ヒ モの長さがやや短いなどの点において,原告商品と異なるが,いずれも些細な相違 点であって,両者の形態を実質的に同一と判断する妨げとなるものではない。ま た,被告商品の背中部分にハートと「T/L」の文字が描かれていることや,色調 が若干異なること(原告商品が濃いピンクであるのに対して,被告商品は淡いピン クである。)は,いずれも同一性の判断に影響しない。 4 模倣の有無 被告商品が上記3のとおり細部の特徴まで原告商品と酷似していることに加 えて,原告商品が平成16年1月22日から販売されたものであるところ(甲2な いし6,24),被告商品は同年3月10日に被控訴人により形態を指定して製造 の発注がされ,同月22日ころから販売されたこと(甲8,乙1,61),原告商 品と被告商品は,いずれも10代の若い女性を主たる顧客層として,市場を共通に することなどの諸事情を総合考慮すれば,被告商品は原告商品を模倣して製造され たものと認めざるを得ない(同認定を覆すに足りる証拠はない。)。 5 原告商品の形態が「同種の商品が通常有する形態」かどうか。 (1) 上記2記載のA”ないしJ”の形状からなる原告商品の形態は,ノースリ ーブ型のカットソーであることから必然的に導かれる形態ということはできない し,何らかの特定の効果を奏するために必須の技術的形態ということもできない。 そして,原告商品と同様の,前身頃にフリルの配されたノースリーブ型の カットソーで,原告商品の販売以前において市場で販売されていたものについて見 ても,丸首ネック(A”)とホルターネック(B”)を組み合わせた商品は見当た らないのであって,この点からも,A”ないしJ”の形状からなる原告商品の形態 が個性を有しないものということはできない。 したがって,原告商品の形態は,「同種の商品が通常有する形態」である とは認められない。 なお,被控訴人は,丸首ネック(A”)とホルターネック(B”)を配し たフリル付きのノースリーブ型カットソーの他社商品(乙58,検乙1)を提出す るが,当該商品は,原告商品販売後の平成17年8月18日に東京都渋谷区内で販 売されたものであることは認められるものの,販売開始時期,販売数量,広告掲載 の有無等の事情が明らかでなく,また,その形態も原告商品と同一とはいえない形 状を含むものであるから,これによっては,上記認定判断は左右されない。 (2) この点に関して,被控訴人は,原告商品の形態中のA”ないしJ”の各形 状は,その一つ又はいくつかの形状を備えたノースリーブ型のカットソーが原告商 品販売以前から存在するのであって,いずれも極めてありふれたものであり,A” ないしJ”のすべてを組み合わせることは極めて容易に想到することができるか ら,原告商品の形態は,全体としてもありふれたものであり,「同種の商品が通常 有する形態」に該当すると主張する。 しかし,不正競争防止法2条1項3号は,商品形態についての先行者の開 発利益を模倣者から保護することを目的とする規定であるところ,同号の規定によ って保護される商品の形態とは,商品全体の形態であり,また,必ずしも独創的な 形態である必要はない。そうすると,商品の形態が同号の規定にいう「同種の商品 が通常有する形態」に該当するかどうかは,商品を全体として観察して判断すべき であって,被控訴人の主張するように,全体としての形態を構成する個々の部分的 形状を取り出して個別にそれがありふれたものかどうかを判断した上で,各形状を 組み合わせることが容易かどうかを問題にするというような手法により判断すべき ものではない。
したがって,本件において,原告商品の形態中のA”ないしJ”の各形状 につき,これを個別に見た場合に,これらのうち一つ又はいくつかの形状を備えた ノースリーブ型のカットソーが原告商品販売以前から存在したとしても,そのこと から,原告商品の形態が「同種の商品が通常有する形態」に該当するということは できず,被控訴人の上記主張は,採用することができない。 6 被控訴人の行為の不正競争行為該当性 以上によれば,被控訴人が被告商品を販売した行為は,不正競争防止法2条 1項3号所定の不正競争行為に該当する。そして,前記1ないし4の事情に照らせ ば,上記不正競争行為について,被控訴人に故意又は過失があったと認められるか ら,被控訴人は,上記不正競争行為によって生じた控訴人の損害を賠償する責任が ある。 7 損害額 控訴人は,原告商品1枚につき1565円(販売額2900円から,仕入価 額900円及び経費435円を控除した額)の利益を得ること,被控訴人が被告商 品を150枚販売したことは,いずれも当事者間に争いがない。そうすると,不正 競争防止法5条1項に基づく控訴人の損害額は,23万4750円である。 また,本件訴訟の事案の内容,訴訟進行の経緯等の一切の事情を総合考慮す れば,被控訴人の不正競争行為と相当因果関係にある損害に該当する弁護士費用と しては,10万円をもって相当と認める。 したがって,控訴人の損害額の合計は,33万4750円となる。 8 結論 以上によれば,控訴人の本訴請求は,33万4750円及びこれに対する平 成16年6月24日(訴状送達の日の翌日)から支払済みまで民法所定の年5分の 割合による遅延損害金の支払を求める限度において理由があるが,その余は理由が ない。 よって,これと異なる原判決を,上記のとおり変更することとし,主文のと おり判決する。 知的財産高等裁判所第3部 裁判長裁判官 佐 藤 久 夫 裁判官 三 村 量 一 裁判官 古 閑 裕 二