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2010; 16: portal hypertensive gastropathy: PHG narrow band imaging 1985 McCormack H. pylori β I. portal hypertensive gas

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 門脈圧亢進症性胃症(portal hypertensive gastropathy: PHG)は上昇した門脈圧を基礎として発生する胃粘膜の うっ血性病変で,時に急性または慢性の難治性出血を発 生する.内視鏡検査によってのみ診断され,組織学的に 炎症を伴わず,粘膜内の毛細血管と集合細静脈の拡張と 粘膜の浮腫性変化をその主徴とする.近年内視鏡的に用 いられている narrow band imaging は血管の視認性が高く 診断に有用と考えられる.1985 年に McCormack らによっ て発表された内視鏡分類が現在も広く用いられており,5 つの所見を軽症,重症の二段階に分けて考えるものであ る.門脈圧亢進症患者の約 50 ∼ 90%に陽性とされるが,H. pylori 感染胃では類似する内視鏡所見を呈する場合がある ため除外が必要となる.急性出血時に治療適応となり,β ブロッカーなど門脈圧降下がその中心となるが,背景疾 患の把握と改善なくして止血は達成され難い.近年アル ゴンプラズマ凝固装置の有効性が確認されている. I. は じ め に  門脈圧亢進時の消化管粘膜には静脈瘤以外の変化が 高 頻 度 に 発 生 す る. こ れ ら は 門 脈 圧 亢 進 症 性 胃 腸 症 (portal hypertensive gastroenteropathy: PHGE)と呼ば れ,門脈圧亢進症性胃症,門脈圧亢進症性腸症(portal hypertensive colonopathy: PHC)門脈圧亢進症性小腸症 (portal hypertensive enteropathy: PHE)が含まれ,いず れもうっ血を主体とした変化である1).なかでも,肝硬 変の 3 大死因が肝不全,肝臓癌,消化管出血であること から,上部消化管内視鏡は経過観察上不可欠な検査であ り,PHG は最も頻繁に観察される所見と言える.本論文 ではこの門脈圧亢進症性胃症について,病態生理から治療 に至る全般を解説する. II. 門脈圧亢進症性胃症の病態  門脈圧亢進症性胃症とは,門脈圧の上昇を基礎として 発生する胃粘膜のうっ血性変化で,組織学的に粘膜ない し粘膜下層の血管拡張で特徴づけられる2)(図 1A, B). 内視鏡検査によってのみ診断され,基本的に炎症を伴わ ないため Gastritis =胃炎ではなく Gastropathy =胃症と 呼ばれる.慢性出血や貧血の原因になると考えられ3), 時に難治で致死的な急性出血を発生し4, 5)(図 2A, B),さ らに上腹部症状の源となることが知られている.また, 後述する生理調節機構の障害から,二次的な胃炎や胃潰 瘍の素地となりえるため注意が必要である5, 7).一方,H. pylori 感染は PHG に近い所見を呈することがあるため, 除外診断が不可欠である.  内視鏡分類と病態生理  PHG の内視鏡分類は 1975 年 Taor らにより始めて報告 された8).しかし,当時はうっ血性病変との概念が背景 になく gastritis として記載されている.現在広く用いら れているのは McCormack らにより 1985 年に発表され た分類で,5 つの所見を軽症と重症に分類している.軽 症とは,fine pink speckling, superficial reddening (SR), snake skin appearance (SSA)であり,cherr y red spot (CRS),diffuse hemorrhage (DH)が重症に区分されて いる2)(表 1).しかし,最も軽症と位置付けられる fine pink speckling は実際に門脈圧亢進を反映した所見である か懐疑的との見方もある.  内視鏡下に認める所見は,胃粘膜微小循環系と胃粘膜 組織について知ることでさらに理解しやすくなる.動脈 (arter y)を介して胃壁内に入った血流は,その枝である 日門亢会誌 2010; 16: 58─68

門 亢 症 と

門脈圧亢進症性胃症

西 崎 泰 弘

1

,塩 沢 宏 和

1

,茂出木成幸

1

,峯   徹 哉

2

,渡 辺 勲 史

3 1

東海大学医学部付属東京病院・消化器肝臓センター

2

東海大学医学部内科学系消化器内科学

3

東海大学医学部付属八王子病院消化器内科

胃粘膜病変

Mild Fine pink speckling (scarlatiniform rash) Superficial reddening

Snake skin appearance (Mosaic pattern) severe Cherry red spot (Direct red spots)

Diffuse hemorrhagic lesion 表 1 McCormack 分類

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AA

図 1 A:PHG の組織像(垂直断).Drainage vein である集合細静脈が特徴的に拡張し,内部に 多くの赤血球が認められる.間質は浮腫により明色調を呈するが,炎症性細胞の浸潤は認められ ない.B:PHG の組織像(水平断).間質は浮腫により明色調となり細静脈と毛細血管内には多数 の赤血球が見られる.炎症性細胞の浸潤は認められない. BB 図 2 PHG からの出血.A:胃体中部∼前庭部.B:胃体中部前壁拡大.粘膜面の損傷が目立た ない湧出性出血であり,貧血と浮腫により白色部分が目立つが,拡大すると胃小区に一致した出 血であることが分かる(矢印). A B

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図 3 胃粘膜組織と微小循環(土屋雅春, 織田正也, 中村正彦, 他:胃潰瘍と自律神経.胃潰瘍と 防御因子.松尾 裕, 土屋雅春監修.メデイカルリサーチセンター,東京,1986, 27 ─ 51 より一部 改変) 胃小区 Gastric area 胃小窩 Gastric pit 集合細静脈 Collectiong venule 毛細血管 capillary 細静脈 venule 細動脈 arteriole metarteriole 粘膜固有層

lamina propria mucosae

粘膜筋板

lamina muscularis mucosae

粘膜下層

lamina propria submucosae

静脈 vein 動脈 artery

図 4 PHG の内視鏡所見.胃体中∼上部での比較.A:super ficial reddening.B:snake skin appearance.C:cherry red spot.D:diffuse hemorrhage.

C D

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metarteriole となって粘膜筋板を貫き固有粘膜層に入る. その後細かく分岐して毛細血管(capillary)となり組織に 酸素を供給する.その後この毛細血管は,drainage vein である集合細静脈(collecting venule)へと注がれ,複数 の血流を統合して粘膜基底部では細静脈(venule)となり, 再び粘膜筋板を貫き静脈(vein)を通して胃から運び出 されることとなる9).PHG では,拡張した毛細血管と集 合細静脈または粘膜内の出血と胃小区内の浮腫によって 様々な所見が呈されると考えられる(図 3).  Superficial reddening は,浮腫は軽度で毛細血管と集 合細静脈が拡張して表面が赤色に見える状態(図 4A). snake skin appearance は毛細血管と集合細静脈の拡張に 加え胃小区の外側が浮腫によって白色調を呈しヘビのウ ロコ様に観察される状態(図 4B).Cherr y red spot は, 浮腫の進行によって白色部分が増して毛細血管が目立た なくなり,集合細静脈のみが目立つ状態(図 4C),そし て diffuse hemorrhage は粘膜内で破綻出血が発生した状 態と考えられる(図 4D).これらの中で臨床的に最も頻 繁に遭遇する代表的な所見は snake skin appearance で あり,他の報告でみられる mosaic pattern と同義であ る10, 11).

 欧州では,独自の診断基準による認識の差異をなく す目的で,New Italian Endoscopic Club for the Study and Treatment of Oesophageal Varices (NIEC)による診断指 針が 1992 年に発表されている12).この報告では,得ら れた内視鏡所見を PHG と評価する妥当性について言及し ており,Mosaic-like pattern すなわち McCormack 基準の SSA は,軽度の PHG を反影する最も特異性の高い所見で あり,胃底部から胃体部かけて多くみられ,出血のリス クは低いとしている.また Red Marks(同 CRS)をびま ん性に認める場合は,高度の PHG を反影して出血のリス クは高いが,限局して認める場合は PHG とは考え難いと している.  また,本邦では Toyonaga らが,PHG におけるうっ血 の程度を臓器反射スペクトル法で検討し,Grade 1 軽症 : 点状・斑状発赤(erythematous fleck or mucula),Grade 2 中等度:びまん性発赤(red spot or diffuse redness), Grade 3 高度:出血を伴うもの(intramucosal or luminal hemorrhage)の 3 段階に分類している13, 14)

 2004 年 に 改 訂 さ れ た 門 脈 圧 亢 進 症 取 り 扱 い 規 約 (general rules for study of portal hypertenson)の第二版 では,門脈圧亢進症性胃症を「門脈圧亢進を背景として 発生する胃病変」として掲載している.幽門部より体上 部に好発し,高酸や炎症の関与はなく,非炎症性浮腫と 血管拡張が特徴的で,発生には門脈圧亢進に伴ううっ血 のみならず,下部食道─胃噴門部領域の局所循環亢進状態 に伴って発生する胃粘膜血流異常が関与するとしている. そして,内皮細胞などに由来する複数の液性因子・血管 拡張物質の関与についても触れ,うっ血を重視しつつも 直接原因との確証が現段階で得られていないと添えてい る.内視鏡分類は先述の Toyonaga 分類となっている15).  内視鏡的光デジタル法を用いた画像強調観察の有用性  近年,生体組織の光学特性を利用して,特定波長領 域の光を内視鏡の照明光として用いる,いわゆる光デジ タル法を用いた画像強調観察機能を備えた内視鏡機器が 臨床的に用いられている.青色の狭帯域照明光を用いる narrow band imaging(NBI)と近赤外光を用いる Infra red imaging(IRI)がそれであるが,NBI は,粘膜表層の 毛細血管像と粘膜表面の微細構造(ピットパターン)の 強調表示を行うことから,PHG の観察に優れると考え られる16).林らは,血管拡張を主徴とし時に出血をきた す gastric antral vascular ectasia (GAVE)17)と PHG につい て拡大内視鏡と NBI を用いた分析を行った.その結果, PHG では大型集合細静脈の出現,集合細静脈の不明瞭 化,胃小窩の腫大,胃小窩周囲の毛細血管の拡張,毛細 血管周囲の粘膜内出血,毛細血管の部分的かつ著しい拡 張などの変化が生じ,その組み合わせや発生部位によっ て PHG と GAVE の診断が可能であると述べている18)(図 5A─D).  PHG の発生頻度  PHG の発生頻度は報告者によるばらつきがあり, 門脈 圧亢 進症 患者の約 50 ∼ 90%に陽 性とされるが2, 19 ─ 23) 観察者の主観に加え H. pylori 感染を完全に排除できた か否かに左右される.筆者らは H. pylori 感染を除外し た 肝 硬 変 71 例(Child A 27, Child B 13 例 , Child C 31 例)と HCC や血栓により門脈閉塞が見られた 20 例で PHG 陽性率を検討した.その結果肝硬変患者では Child A で 84%,Child C で 93%,そして門脈閉塞では全例 に SR か ら DH に 至 る い ず れ か の PHG が 陽 性 で あ っ た24, 25)(図 6).  確かに H. pylori 感 染胃はうっ血や浮 腫など PHG に 類似した粘膜所見を呈することがあり,陽性率に影 響す る19).門脈圧亢進症例における H. pylori 感染率は,非 PHG 群との間に差がなく,また重 症 度との関連も否定 的26 ─ 28),あるいは低いと報告されている29, 30).実際 H. pylori の感染率自体,各国間で異なり更に本邦でも年令や 地域による差が見られることから,感染率の多少の差を論 じる意味合いは薄いと考えられ,おおまかな傾向を把握し て除外診断の一助にできれば良いと考えられる.その意味 で,北野らは 50 ∼ 70 歳代で約 50%と報告しており31),我々 の解析でも 50%程度であり肝硬変あるいは門脈圧亢進の 状態が感染率に与える影響はないと考えられる.  PHG 発生に関わる諸因子  肝障害重症度との関係 PHG の発生やその重症化を規

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A

B

図 5 各種 PHG の NBI 所見.A:superficial reddening でやや拡張した毛細血管と集合細静脈が 認められる.B:snake skin appearance は胃小区境界が浮腫により強調される.C:cherr y red spot では浮腫が胃小区内に強くなり,集合細静脈が目立つ.D:diffuse hemorrhage では,粘膜 内出血により胃小区が部分的または全体に均一な黒色となる.

C

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定する因子として, 肝障害と線維化の程度は最も重要で あり, 関連を指摘する多くの報告が見られる20, 22, 23, 32). 我々の検討でも,Child C で PHG が最も高率に観察さ れ,慢性肝炎 12 例,肝硬変 71 例を PHG 所見によって PHG (−) から SR, SSA, CRS, DH で再構成し,各種肝機 能との関係を検討すると,CRS 陽性例では SSA 例と比 較してプロトロンビン時間(PT%), コリンエステラー ゼ(Ch─E), 血小板数(plt)の低下と脾腫の増悪(超音 波上 spleen index(SI)上昇)が有意であった.そして DH 例では,Ch─E 低下と k─ICG 遅延 , SI 上昇が SSA 例 との間で有意差を認めたが,CRS と DH の間に差を認め ず,SR < SSA < CR ≒ DH の順に肝機能の悪化を反映す ると考えられた(図 7).さらに PHG は胃内で一様でな く,むしろ部位により所見が異なることが多い点に着目 し,胃内を胃癌取扱い規約に準じて上,中,下の 3 区域 に区分して評価し,Child 分類と対比することで,いず 図 6 肝障害の進展度と PHG の陽性率 図 7 各種 PHG と肝機能

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れの所見がどこに発生した場合に肝障害の進展度を反映 するか検討した.その結果,SR は慢性肝炎から Child C にいたるいずれの病期においても下部で高い陽性率を示 したが,病期による差異は見られなかった.肝障害の進 展と無関係に存在したことより,SR は必ずしも PHG を 反映する所見ではない可能性が考えられる.一方 SSA は,中部,上部で下部より出現頻度が高い事が示された が,中∼上部での陽性率と肝障害の進展度の間に一定の 傾向はなく,下部での出現が肝疾患の進展に平行して上 昇していた.CRS も同様に下部より中上部で出現頻度 が高いことが示されたが,SSA と異なり慢性肝炎では殆 ど見られず,肝硬変への移行を示唆する所見と考えられ た.DH を認める症例は少なく,主に上部で認められた. logistic 多変量解析では,慢性肝炎から Child A ∼ C の進 展により,下部での SSA,上部での CRS 発生が,odds 比 上 2.06, 2.19 で 肝 障 害 の 進 展 を 反 映 す る と 考 え ら れ た24, 25).  門脈血行動態との関係 門脈血行動態と PHG の関係 については,食道胃静脈瘤との関係や内視鏡的硬化療法 (EIS) 2, 10, 20, 22, 23, 33),内視鏡的結紮療法(EVL) 22, 34, 35),肝 癌に対する経動脈的腫瘍塞栓術(TAE) 37)など門脈圧亢 進に影響を与えうる各種処置後の悪化に関する数多くの 報告が認められ,食道静脈瘤のグレードと PHG の重症化 は相関するとの報告が多い.我々は前述の患者群を食道 胃静脈瘤のグレードにより再分類して,併存する PHG の 所見別に比較検討した.その結果 F1, F2の食道静脈瘤陽 性者では SSA や CRS が 30 ∼ 40%の例で認められ,CRS が F2で F1より多い傾向にあったが統計学的有意差はな かった.F3において CRS が約 50%に認められ SSA より も明らかに高頻度で,食道静脈瘤の悪化と PHG の進行が 平行することを支持する結果であった25).  一方胃静脈瘤の発達と PHG は逆相関するとされる が22),その理由として胃静脈瘤の排血路たる胃腎短絡路 の発達が,供血路である後胃または短胃静脈系の内圧上 昇に抑制的に作用し結果的に胃粘膜へのうっ血が回避さ れるためと説明されている.  EIS, EVL に伴う悪化は臨床上しばしば経験され,血行 動態的に主に左胃静脈系を供血路として傍食道静脈から 奇静脈に注ぐ側副血行路が遮断され,胃上部を中心とし たうっ血が増悪するためと説明されている.しかし,こ の変化は可逆性で PHG の長期予後には影響しない23).  TAE 後の胃粘膜病変の変化については,人為的にいわ ゆる sinusiodal block を発生させているにほかならず,ま た TAE 後は局所に炎症や浮腫が発生して循環障害を悪化 させると考えられることから,PHG の増悪に関与する可 能性は高い.しかし,肝動脈からの血行遮断であること や薬剤や塞栓物質の直接作用も否定できないなどの理由 から,PHG の悪化とはいえないとの意見もみられ,さら に門脈圧亢進状態にも関わらず PHG を全く発生しない例 もあることから,PHG の発生・増悪と門脈血行動態は関 連が薄いとする報告も少数認められる32, 37─41).

 Endothelin と nitroc oxide の関与について Endo-thelin (ET)は 1988 年 Yanagisawa らによって発見され た血管内皮細胞で産生される強力な血管収縮ペプチド で42),門脈圧亢進や PHG の発生に深く関与することが 明らかになっている.Withrington らは,経門脈的に投与 した ET が門脈灌流圧の上昇を惹起したことから,門脈 血管抵抗を高める作用があることを指摘した43).Oshita らはエタノール投与時の肝血管収縮と門脈圧上昇に ET-1 が関与するとともに,血管拡張性に作用する nitric oxide (NO)との相互作用により肝血管抵抗の調節を行うこ とを報告し,我々はこの肝血管抵抗の上昇に肝類洞内 皮小孔の変化が関与することを明らかにした44).さら に ET の作用部位について Gondou らは,オートラジオ グラフィーを用いて類洞,門脈,中心静脈の内皮細胞と 伊東細胞であることを指摘した45).また臨床研究では, Ohara らは肝硬変患者の肝静脈において ET-1 と nitrite/ nitrate が上昇していることが明らかにしている46).一方, 側副血行や PHG に対する作用として Migoh らは,ET が NO を介して PHG 発生に関わる可能性を指摘し47), Chan らは ET-1 が ET(A)レセプターを介した作用により, 側副血行の血流調節を行うことを報告している48).他に も数多くの研究により門脈肝循環系調節への関与が明ら かにされており,これら知見が治療学的に応用される日 が待ち望まれる.  PHG における胃粘膜生理機能の変化  日常の臨床において単なる物理的な門脈圧亢進症患者 に出会うことはむしろまれであり,多くは肝硬変をはじ めとする肝障害が併存する.肝硬変による門脈圧亢進時 には PHG 以外の胃粘膜障害も発生しやすく,背景病態を 総合的に理解することが重要と考えられる.肝硬変時に おいて攻撃因子の筆頭である胃酸分泌は低酸または正酸 である49, 50).ゆえに防御機構の障害が二次的病変発生に 関わると考え,我々はラット肝硬変モデルを用いた各種 の検討を行った.その結果,胃粘膜血管透過性の亢進と ECL 細胞の活性亢進51),ulcer score の上昇と胃粘膜血流 量の低下52),電顕的に後毛細血管細静脈の拡張と透過性 亢進を示唆する pinocytotic vesicle の増加ならびに内皮細 胞間隙の開大53, 54),生体顕微鏡下に粘液層の菲薄化と酸 暴露時における上皮細胞 acidificasion rate の増大55),酸 暴露時に発生する hyperemic response の欠如56, 57),胃粘 膜上皮細胞間における tight junction, gap junction 構成分 子の減少58)などの知見を報告した.これら PHG におけ る胃粘膜生理機能の負の変化は,二次的な胃粘膜病変の

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発生に関与すると考えられる. III. PHG の治療  PHG の治療とは,急性または慢性出血への対処を意味 するが予防についてのエビデンスは報告されていない.  β 遮断剤 非選択的 β 遮断剤である propranolol が現 在最も広く用いられている.その作用機序は,β 受容体 遮断による心拍出量と肝動脈血流量の減少,門脈へと環 流する器官の血管抵抗性上昇により,結果的に肝臓へ流 入する血流量が低下するためと考えられている3, 59─61). PHG 出血例に対する propranolol の長期間投与は明らか に再出血を抑制することから生命予後を改善すると考え られ62),さらに短期間の経静脈投与によっても,門脈, 肝静脈,奇静脈の圧を有意に下げ,同時に胃粘膜血流量 も有意に低下せしめることから,PHG 出血を予防する可 能性が示されている63).投与量は,経静脈的に 0.15 mg/ kg,経口では安静時心拍数を 25%または 55 bpm 低下す る 20─160 mg とされているが,上部消化管出血の保険適 応にはなっていない.  経皮的肝内門脈静脈短絡術(transjuglar intrahepatic portosystemic shunt: TIPS) 血管造影の手技を応用し て門脈と肝静脈を肝臓内で短絡せしめ,上昇した門脈圧 を逃がす手法であり,治療抵抗性の腹水や食道胃静脈瘤 の治療法として開発された,PHG からの出血に対する有 効性も明らかにされている3, 64─66).しかしながら,術後 の肝性脳症悪化や肝組織血流低下に伴う肝機能の低下, さらに造設したシャントが閉塞する場合もあり注意を要 する.

 門脈大循環吻合手術(portosystemic shunt surger y)  文字通り外科的に門脈と大循環をつなぐ手術であり, 薬物療法,内視鏡治療,interventional radoiology の進歩 とともに割合として減少傾向にあると考えられる.門 脈圧亢進症患者の多くは凝固異常を伴い,腹腔内には 広範な collateral が発達していることが多いため開腹に よるリスクは大きいが明らかな有効性が認められてい る3, 66, 67).Child A─B の静脈瘤出血を伴う肝硬変患者にお

いて portacaval distal spleno-renal shunt 手術と TIPS を行っ た各 20 例を比較した結果,死亡率には差はないものの手 術が TIPS よりも効果的かつ持続的で経済面でも優れると 報告されている68).しかし術後の肝性脳症悪化や肝組織 血流低下に伴う肝機能の低下は TIPS 同様,得るべき主作 用と避けるべき副作用が表裏一体の問題であり厳格な予 測は不可能と言える.  Vasopressin 下垂体後葉から分泌される抗利尿ホル モンで, 血管 (vaso) を圧縮 (press) するホルモンとの意 味で vasopressin と名付けられている.生理的には腎集合 管における水再吸収を促進するが,約 50 年前に Sherlock らによって門脈圧を下げ食道静脈瘤からの出血への対処 法として有用であることが紹介された69).内視鏡が全く 未発達であった時代から現在に至るまで長年に渡って内 科的治療の中心的な位置を占めている.PHG に対する効 果も明らかで,胃粘膜血流を中央値で 30%以上低下せし め急性出血時にも有効である70).一方副作用の多く,心 筋梗塞や腎障害がある患者では禁忌となっている.  Somatostatin analog Somatostatin は内分泌ホルモン として最も早期に発見,分離され,脳腸ホルモン(brain-gut hormone)として視床下部,膵臓,消化管に広く分 布し,下垂体における成長ホルモン(GH),甲状腺刺 激ホルモン(TSH),消化管でのガストリン,セクレチ ン,コレシストキニン(CCK),VIP (vasoactive intestinal polypeptide),膵臓でのグルカゴン,インスリンの分泌 抑制や消化管運動抑制を主な生理的役割とする.門脈圧 亢進時の低下作用が明らかであり,保険適応外ではある が PHG による出血に対する効果が報告されている71, 72). Vasopressin が時に全身の循環動態に大きな影響を呈する のに対し,somatostatin は消化器系臓器への選択性が高く, その心配が少ない.一方,血中半減期が 2 ∼ 3 分と短い ことが難点であったが,生物学的活性を示す 4 つのアミ ノ酸(Phe-Trp-Lys-Thr)を disulfide(S-S)結合で挟み環 状ペプチドを形成せしめたのがソマトスタチンアナログ のオクトレオチドである.これにより作用の持続性が得 られ,保険適応外であるが PHG に対する有効性が数々報 告されている3).また消化管ホルモン産生腫瘍(VIP 産 生腫瘍,カルチノイド腫瘍,ガストリン産生腫瘍),先端 巨大症・下垂体性巨人症,進行・再発癌の消化管閉塞に 伴う消化器症状の改善などに保険適応となっている.  アルゴンプラズマ凝固装置(argon plasma coagu-lator: APC) 1990 年代半ばごろより,消化管粘膜面の主 に毛細血管,細静脈レベルを出血源とするケースへの内 視鏡治療として有用性が報告され,同じく熱の作用によっ て止血を達成するヒータープロブと比較して,早く持続 的な止血が可能とされている73).PHG と gastric antral vascular ectasia (GAVE)に対する効果が数多く証明され

ている3, 74, 75).ちなみに我々の施設で経験された PHG 出

血例は,下記に記す背景への配慮を行いつつ propranolol と APC により全例止血を達成している.

  そ の 他  急 性 出 血 に 対 す る 効 果 で は な い が, angiotensin II receptor antagonist である losartan が門脈血 行動態の改変により門脈圧を下げ PHG の内視鏡所見を改 善するとの報告が日本のグループよりなされており興味 深い75)  PHG の出血に対し門脈圧降下が最優先の治療手段とな ることは万人異論がないであろうが,「出血」に関しては 門脈圧だけが唯一無二とするにはいまだ議論が残る.筆

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者は,あくまで上部消化管出血や肝硬変・肝不全治療の 基本に添って胃や肝の庇護を最大限に行いつつ,その他 の治療が行われるべきと考えている.そのため,背景条 件として出血傾向がある場合はビタミン K や新鮮凍結血 漿を投与し,さらにドラッグデリバリーと創傷治癒の観 点からアルブミンを適正レベルに保つよう先ず心掛けて いる.これに平行してトロンビン製剤を経口または内視 鏡下に使用,リスクとなる胃酸はプロトンポンプ阻害剤 やアルミゲルで抑制,中和している.防御因子製剤はア ルロイド G とその粉末製剤を必要に応じて用い,さらに 細胞間接合を強化するイルソグラジンの経口投与や毛細 血管強化剤であるスルホン酸ナトリウム(Adona)の点 滴静注を行うこともある.これらを行う上で,副作用は もちろんであるが保険診療の適応と限界を知り,例え緊 急時であっても血液製剤使用時にはインフォームドコン セントを得ることを忘れてはならない. 文   献 1) 小原勝敏:門脈圧亢進症性胃腸症.Gastroenterological Endoscopy 2007; 49: 305 ─ 313

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参照

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