生島湾の水産環境について
井 上 裕 堆,田 中 啓 陽
ま え が き 瀬戸内海沿岸の水産環境が次第に変貌し,増養殖漁場として利用し得る水域も減少の−・途をたどっている.総体的 を生産畠を維持して行くためには,まずこれ以上漁場の表失・荒廃を防ぐのはもちろんのこと,未だ水産増殖に高度 利用されていない水域は計画的に管理し,生産性を高めなければならない.このような内湾の高度利用計画作成のた めに,まず水産環境についての基礎資料を得る必要がある.本研究は香川県沿岸の内湾を対象とした水産環境の現況 把捉に関する一・連の研究の−・部である. 調査した生島湾は,高松港より約8km西にあり,水面積は約12×105m2で,湾口が広く開口している.水深は比 較的浅い.湾奥部の一部は既に埋立てが完了し,今後さらに変貌する可能性は充分含まれている. 生島湾を水産業の観点からみると,湾奥部には,くる1まえび養殖場があり,ポンプ・サイホン等によって揚水し, くるまえ.びの養殖を行なっている.湾内ではのり養殖が盛んで,そLの水面積も47u8×104m2に達している.湾口部に は桝網が5統あり,聞き込み調査によれば,一・年間−・統当り,ボラ,チヌ,コノシロ等の魚類が約2500∼3000kg水 揚げされるという(Fig.1). Fig”1lFishcriesintheIkushimaBay 方 法 海水流動調査には潮流板(1.5m屑を対象)と水域に適宜浮遊させ,その移動軌跡を追った。 湾内海水の濁りを知るために,1.Om屑での減衰係数の平面的分布の模様を調べた.このために内水研C型濁度計 を使用し,曳航連続記録法(1)をとった. 表層から1∼2L採水し,出来る限り迅速に分級処理し,懸濁物丑(SS)を押立した‖用いたmillipore61teトは0..65FL (DA),1…2FL(RA),8p(SC)である.懸濁物の強熱損失蒐(IL)は,mi11ipore別terで得られた感濁物をfilterとと もに磁製相違中にてガスバーナで約4時強熟し,冷却彼杵蓋して求めた.使用したmillipoIe飢teIの灰分は無視でき る. 海水のCODは過マンガン酸カリーアルカリ法によった。BODは5日間20◇Cでの値である. 底土のCODm,BOD皿(5日間200C)は水質汚濁調査指針(2)によった.硫化物史(S)は富山・神崎法(8),有磯炭 素蓋(OC)はWAXmL−RILEY法(4)によったぃpH,酸化還元電位差(Eh,)は東芝ペックマン製ZeromaticpHmeteIで 測定した.底土の表層0∼4cm屈を対象とした.201 第23巻第2号(1972) 海水流動調査は1970年4月22日に実施した.大潮期にあたる.濁度調査は3月27日,採泥は3月27日と4月22 日,採水は2月26日∼3月15日の間は岸壁から,3月27Elには湾奥部水域で行なった・ 結 果 と 考 察 (1)梅 水 流 動 海水流動調査を行なった昭和45年4月22日の高潮時は10:52,23:58,低潮時は05‥39,17:18(高松港)である・ a).上げ潮期 上げ潮期の海水流動調査は上げ潮末期の約2時間について実施し,その結果はFig小2に描いた・ Fig2から明らかなように埋立地西角(A点)と生島湾西側の碇防先端(B点)を結ぶ線より湾口部にかけては左旋 流の様相を呈し,流速は15∼26cm/SeCで,比牧的速い.AwB線より湾奥部では全体的に右旋流の傾向を見る・こ の流速は2∼9cm/SeCと緩慢である.生島湾外の潮流は上げ潮期には北西流で2ノット以上の最高流速を示すとい われている. Fig”3.Featuresoftidalcurrentatebb tideintheIkushimaBay(22Aprl’70)
Fig2.Fcaturesoftidalcurrentatnood
tideintheIkushimaBay(22Apr」’70) 以上の結果を総合すると上げ潮期湾外の北西流の一部が紅峰鼻に当り,この東岸に沿って南下し,湾中央部で流向 を徐々に束に叔じ神在舟に向い再び主潮流と合する.・そ・のため湾口中央部に環流域が形成される.湾奥部では紅峰鼻 東岸を南下したものの一・部がA−B線上附近から分岐して生島港に向う陸岸沿いの緩慢な流れにをり右旋流を示す・ b).下 げ潮期 下げ潮期の流動調査は下げ潮中期の結果として整理し,Fig3に措いた.A−B線より湾口寄 りでは上げ潮期と全く逆で右旋流をしめす.流速は上げ潮期より遅く2∼12cm/secである.他方,A−B線より奥部 においてもほほ同様の右旋流であるが,流速は著じるしく落らている.湾外の流れはFig3に見るごとく,速い南東 流で22。8cm/secに達している.以上の結果から下げ潮期には,湾外の南東流の一部が神在鼻にあたり陸岸に沿い湾内に入り次第に流向を北に叔じ
て,紅峰鼻の東岸を北上し湾外流に合する.つまり湾口寄りの中央部は環流域とをるのである・湾奥部においても流 動方向は同様に右旋回であるが,流速は著じるしく遅い. (2)減衰係数値の分布 Fig.4に示すCourseに沿って1いOm屑の濁りの模様を連続記録した.3月27日10:19∼11:50の上げ潮中期に実 施した.結果をFig5に示す. CourseAではくるまえび養殖場岸壁付近の減衰係数(α)は0い6∼0い7m ̄1と高い.これは生島捲からの影響であろ う.約0一.08kg北上するとαは0..40m ̄1に低下する.それより離岸距離0.5kmまでαは0い30∼0、45m ̄1の範馴こ あるが,0‖5km以遠では0‖48∼0い55m ̄1と娩分高くなる. 埋立地西壁に沿って沖約0.、6kmに至るCouISeBでは,埋立地西岸壁に沿うところでαは0,.6m ̄1と高く,0.20∼ 0。25km付近は035m−1と低い.04km以遠では0。4m−1前後の値を持続する.このような増減の傾向はCourseA と似ている. CourseCでは埋立地西の凹部付近で0.50∼0.60m−1と高いが, 0。10km以遠では0.30∼0い40m−1の範剛こおさまOLIVE 香川大学学術情報リポジトリ
7∈二三 書聖0叫ヒ心OU l岩−霊5雲こ︼く
Course E
… ● ○
Fig4い Courses of the survcy−boatfbr
measuTlngturbidityandsampling
stations of sea watcr(○)and bottommud(○) 02 04 06 08 ○ ● ● ●○ ● ● ● ● ● ● ●●●●● N ●●‥●●●● 10 12 1“4 ユ。6 18 DjstallCe,Km
Fig 5. Results of continuous recording of turbidity
生島港よりくるまえび養殖場の岸に沿っての CourseD では,港内で0..68m ̄1と高いが順次 低下し,0‖5km付近(くるまえび養殖場東端) で0,.49m ̄1と減じ,それより再び増加して埋 立地までの約0…2kmは0..56∼0.60m ̄1になる. Cour5eEはくるまえび養殖場東端から押出し のCouISeである.岸壁のごく近くで0…65m ̄1 を呈し,局所的に高いが,そ・の後0い7kmまで のα値は0。32∼0.40m ̄lの範囲にとどまる. 0¶7∼1.5km間ではOl40∼0.50m ̄1になり, 1.5km以遠では0.30{ノ0..40m−1と再び低下を 見る. 以上の測定はそれぞれ幾分の時間ずれはある が,一応上げ潮中期に実施された.生島湾中央 Fig‖6.Distributionofattenuationcoe侃cient(α)atthe surfacelayerintheIkushimaBay(27Mar”’70) 部から湾奥部のα分布の概況を見るために減衰 係数αの等線図を措いたのがFig6である. Figり6から理解されるように(1)港付近,(2)埋立地とくるまえび養殖場の間の四部,および(3)B掟防南付近に
203 第23巻第2号(1972) 高いα借が見られる.港付近で高いのは港内か非常に汚濁しているからであり,埋立地とくるまえび養殖場の間の凹 部の濁りは埋立護岸疑が崩壊していたことによるものである.B堤防付近の濁りは小川からの下水流出による.湾中 央部に0り40m−1と幾分高い水域がある.本水域の海水流動の主流は上げ潮時湾西岸に沿って南下し,B堤防付近より 埋立地西角に向いそのまま神在奥まで陸岸に沿って進み,また下げ潮時にはこれと全く逆の様相を呈して,いずれの 場合も湾口中央部に流速の緩偵を環流域を形成する.α偲の幾分高いのはそのためと推定される. (3)底 質 生島港内St.1を基点とした湾の中央縦断線に沿って,底土の性状がどのように変るかを見てみよう.採泥点はFig巾 ︵芯且ぞ餌∈ 卓霊u8uO宅dOO︳㌘○ ︵芯ヱ餌\ぎ二占OU Sおps.︵芯主軸\餌∈;qO00 4 7 g i F 言阜忘\如∈S Ju讐u8むp望nS罵言ト
Changcsofchemicalproperties
ofthemud(0〝4cmlayer)in Ikushima Bay(27Mar・− ワ0) 2 (St.1)Distance,Km
8 Juハニu00 2 1 ︵忘ヱ如\幹u古口OU 6 ︵ぷ土地\如≡ t6宅80≡亀h0 8 4 4 0 Fig.8。Changes ofchemicalproperties Ofthemud(0∼4cmlayer)with distancefiomSt・1(22Apr.’70) 言阜芯\如∈S l〓讐t−00むづ⊆nS一票○ト ︵盲ヱ餌\餌∈古口○田 4 つレ 0 0 1 2 0 0.2 0.4 0.6 0.8Distance,Km
0 (St.1)OLIVE 香川大学学術情報リポジトリ
4に与える. Fig.7は3月27日のCODmOC,S,BODmの結果を用い,各測点から中央縦断線に垂線を下して,その交点におけ る倍としてプロットしている.Fig.8は同様に4月22日のCODm,OC,BODmのデータによる.この日はほぼ中央縦 断線上でのみ採泥している. 港内基点から0.1∼0.5kmの間と0り5∼0.9kmの間とでかなり顕著な差異を認める.前者をⅡ領域,後者をⅢ領 域,港内をⅠ領域として大別し,そ・れぞれの領域における平均値としてTablelにまとめた. TablcIChemicalpropertiesofbottommud(0∼4cmlayer,
orithebasisofwetweight)intheIkushimaBay
Date lRegionlCODmlOC L COD/OC E S
mg/g E mg/g・5days mg佃Img/g 2 6 2 9 0 1▲ 0 0 0 2 ︻hJ 3 9 2 5 27 Mar. 9 6 1 4 L 3 4 1L 8 ■1 6 ■1 このようにCODm,OC,S,BODmのいずれについてもⅡ領域は小さく,Ⅲ領域で大きい傾向がある.Ⅰ領域では例 外的にいずれも大きいのは当然である.CODm,OC,S,BODmについて湾中央部より湾奥部で小さいという傾向は瀬 戸内海の通常の内湾で経験しないことがらである. 湾奥部の南側に位際するくるまえび養殖場では,サイフォンやポンプを使用して取水している.この水孟はかなり 多い.生島湾奥部はきわめて浅く,基準水面下1い5mないしはそ・れより浅い.このため,波の作用ヤ船により底堆積 物は巻き上げられ易く,浮上腰濁し,サイフオ・ン・ポンプにより吸い込まれることになり,再沈積しをい.これがす でに長期に渡っているために,通常の内湾に見るとは異をった様相を呈し,浅い湾奥部の有機堆積物が少ないという 結果をもたらしたと考えられる.養殖場が−・種の沈澱池の役目をしているので,毎年かなりの泥が,養殖場内の水路 にたまっていたことから理解される. ︵芯ヱ如\ぎ⊥占OU 2
6 8100
24 6 8100
2 0rganic carboncontent,mg/g(wet) Fig9.,Relationshipbetweenorganiccarboncontentand CODofbottom mud(04cmlayer) Fig‖9はCODm対OCの関係である.3月27日では平均としてCODm/OCの比は0.60程度で,湾中央部と湾奥 部で余り差はない.しかし,4月22日ではやや様相を異にし,湾奥部でCODm/OCが1。0,湾中央診ではかなりバ ラツキを示すが幾分小さい.205 第23巻第2号(1972) o 2i Mar.. ●22Apr. 0 0 0 0 4 2 + All二選l空Od宕Pβ︸ ¢ ● 0● ㌔0 ’U OOU ● ()い2 0‖4 0..6 0.8 1.0 1.2 Totalsulfide coIlte11t,mg/g(wet) Fig・10,RelationshipbetweentotalsulAdecontentand Iedoxpotentialofbottommud(0∼4cmlayer) しかしいずれにせよ,湾奥部域は有機堆積物がきわめて少なく,湾中央部域においても底土はさほど汚染されてい ない. Fig10は全硫化物盈(S)と酸化還元電位(Eh7)との関係である.底土中の全硫化物量が02mg佃(温)を越える と汚染している心配があり,06mg/g(湿)になると生物がみられなくなるといわれている.生島湾においては,港 内の底土はひどく汚染されているが,これを除けば汚染の染心配は現時点でまずないものと考えられる. (4)水 質 海水流動,底質の結果より湾口部に比べて湾奥部(A−Bより奥部)の水質はかなり変化に富むようである.そこ
で3月27日の上げ潮末期に湾奥部水域に限定して20点より採水した((Fig4)−CODは全測点,應濁物意(SS)に関し
ては,そ・のうち8点について測定した. CODの測定結果より,湾奥部の 分布の概況を見るために等COD線図を描いたのがFig・11■である.これから解 かるように,CODが2ppmを越えるのは生島港人口付近,および埋立地西角付近水域に見られる.前者は生島港か らの影響であるが,後者は埋立地護岸工の崩壊点で風波による洗掘作用によって生じた濁りなのか,港内からの汚濁 2dd ゴOU 0 1 2 3Ignitionloss of suspended matter,ppm
Fig.11DistributionofCODvalucat
Figh12lRelationshipbetweenCODand
thesurfacelaterlgnltionlossofsuspendedmatter
水の水塊的に隔離されたものかよくわからない.なぜをらば埋立地護岸工の崩壊地点での風波による洗掘作用に伴う 凍りと推定するには,懸濁物の視角から明瞭な支持が得られない.A立地西角付近水域のSSは4.5∼4。9ppm港口 部水域では5..0∼6.7ppmである.A−B(Fig・1)においてCODlppm以下の所が見られるが,これは湾外の主 濁流の−・部が湾口で分岐し湾内を流通している結果である.本別定日における湾口部のCODは1ppm以下である ことが推定される. Fig。12はCOD(ppm)と懸濁物中の有機物還IL(ppm)との関係である.有機物是は懸濁物の強熟減盈より算出し たものである.2月26日より3月15日までの試水は,湾奥部くるまえびはまち養殖場の護岸より採取したものである.OLIVE 香川大学学術情報リポジトリ
香川大学農学部学術報告 206 Fig.12からわかるように2月26日∼3月15日は [COD]=080+030[IL] 3月27日は [COD]=1.55+0け30[IL] の関係式に整理される.両者を比較すると懸濁物中の有機物盈ILには差はないが,ベースとしての溶解有機物盈が 3月27日に多く.これが結果としてCODを大きくしているのである. ま と め 海水流動,水質,底質等の環境条件の結果から生島湾は埋立地西角(A)と生島湾西側堤防先端(B)とを結ぶ線を境 として湾口部および湾奥部に大きく2介される. 湾奥部は海水流動も10cm/sec以下と緩慢であり港口付近の水域には生島湾からの汚濁水の影響が見られる.今後 の埋立やエ場進出などを考え合わせると,湾奥部水域は漁場としての開発には期待を持でず,港口寄りの北水域にあ る現在ののり漁場を維持するのに留まりそうである.他方,湾口部水域では,流速は速く(15cm/SeC以上),流動状 況ほ良好である.これは湾口が非常に広く開いている地形的特質によるものである.そのため湾口部の水質,底質は, 内湾としての汚れは殆んど見られず,備讃瀬瀬戸水域の主潮流の支配水域の状態に近いと考えられ,水産環境は比牧 的良好であると診断される.しかし生島全体の水深が5m以下という地形的制約は,増養殖漁場開発上の難点として 横たわるのであろう.以上のことから現在湾全体が主にのり養殖を主体として利用していることは適切な方法と考え られるし,今後もこの方向を推進L高度開発するのがよいと思われる. 文 献 (1)田中韓陽,井上裕堆:本誌,23(1),112∼117 (3)富山簡夫,神崎濱瑞夫:日水誌,1■7(5),115∼ (1971). 121(1951). (2)松江吉行編:水質汚濁調査指針,槍屋社厚生閣 (4)WAKEE工SIKい&PRトRIIAY:J・Con5」−Internい (1961). ExploI∴Mes・,22,180∼183(1953).
FisheriesenvironmentintheIkushimaBay
HirooINOUE and YoshiakiTANAKA