香川県仲多度郡まんのう町満濃池周辺の4随道における
洞窟棲コウモリ類の冬季の生息状況
吉 川 武 憲
〒76卜0311高松市元山町88番地2 高松市立協和中学校藤 田 正 芳
〒768−0101三豊市山本町辻876番地 三豊市観音寺市学校組合立三豊中学校Thenumberofindividualsandphysicalcharactersoffourtunnelsinwinterofcave
batsneartheMannouikePond,Kagawa,Shikoku,Japan TakenoriYoshibwa,勒ol棚1ん戚b′〃なぁ5cゐ00ろ乃肋椚α叫ぬgαWα,乃ノー¢タブん′呼α紹 MasayoshiFu感ta,几幻rqyo・九〝わ′・〃∼g力∫cん∂0ん〟fJワァo,励gα叩,乃ノーOJ吼J呼α〃Abstract:Habitats of cave bats were studiedin
winteratfburtunnelsnearlheMannouikepond,
MannouTown,NakatadoDistrict,KagawaPrefbc−
ture,Shikoku,Japan,1996−2002“Four tunnelsWhichar・etyplCalinKagawaprefbcturewereclas−
SifiedintotwotypeSbythestructure;onewas
madebyconcretewithbothsideentrances;andthe otherIOne WaS madebyr∝kswithonlyone
Side entranCe・In the fblmeltunnels,Only坤oJよ5
macrodaco′lusinhabited,Whereasinthelattertun− nels,月ゐ∼乃OJ甲ム〟5 β′′・〟肌e曾〟よ乃〟肌,只co川〟J恥 〟肋毎舶用り誠卸元∼〟r∼and砂クJま∫椚αC′・0ゐc・少J〟5 inhabited・Itwasconsideredthattheprefbrencefor
tunnelsinwinter,SuggeStlnga hibernateseason,
CaVebatsselectthetunnelwherethereareoptlmal airtemper・atureandstreamOfthewindlInKagawa pr−efbctu一e,R”.声rrumequinun7,Rcomutu5 and 〟fniqpteru5JuiginoLSuSWer・edifficulttohiberTlate,because these species chcx)Se tunnels that have
largeroo氏withoptlmalairlemperatureinwinter
However’,Myotis macrodactylus can hibernatein
the tunnels that have many cracks on the walls
Separately は じ め に 香川県における洞窟棲コウモリとしてはキ クガシラコウモリ臓〃OJ甲血s.β′・′・〝肌e曾〟血椚, コキクガシラコウモリ朗∼乃OJ甲力〟5CO′乃〝J牲 ユビナガコウモリ漉〝よ呼re川∫ルノな‘〃05〟5,およ びモモジロコウモリ叫oJヱ5沼αC′・0血少血∼の4 種が知られている(森井,1992)。山口県の秋 − 37 一述べている。このように,香川県という大洞
窟のない地域での生息状況が徐々に解明され てきているが,香川県ではコウモリ輯の特徴 のひとつである冬日民期に10個体以上でのコウ モリ類の確認がされた報告は森井(1983),藤 田・吉川(1997)および藤田(1998)以外に はない。その理由として−森井(2005)は,本 県の人工的な洞窟や随道の特に温度環境がコ ウモリ類の冬眠に適さないと述べている。 今回の報告は,香川県にある典型的な随道 における冬季の洞窟棲コウモリ燥の生息状況 を把握す−るものであるとともに,人工的な随 道や洞穴しかない地域でのコウモリ輯の生括 様式の一・端を考察した。 稿を始めるに当たり,論文作成において適切 なご指導を頂いた香川大学教育学部生物学教 室金子之史教授に心からお礼を申し上げる。 吉台では,同一・地域に複数の自然洞窟が発達 しており,洞窟棲コウモリ類は括動の時期ご とにねぐらの場所を移動して路用することが知られて−いる(庫本はか,1967,1973,
1975)。しかし,香川県には一度に多数のコウ モリ類がねぐらとして活用でき得る自然につ くられた大洞窟が知られておらず,洞窟棲コ ウモリ類は人工的に作られた随道や洞穴をね ぐらとしている。 現在までの香川県における洞窟棲コウモリ 類の生態調査では,洞窟棲コウモリ類の分布をまとめた森井(1992)や藤田・吉川
(1998)の報告がある。また,吉川(1997) および藤田・吉川(1997)はコウモリ輯の季 節的な個体数の変動を調べた。吉川(1997) は,香川県のモモジロコウモリは,それぞれ の小さな人工的な随道が秋吉台などの大洞窟 の中の−・部の空間と同様に括用されていると Fig−・1・kation由一・aStudyar・ea・1.Sakotunnel;2。Tabatatunnel;3。.Sionoiketunnel;4Sioiritunnel.
一 38 −調査内容はコウモリ頬の種と生息数の確
認,および気温の測定である。コウモリ類の
種の確認は目視によって行われた。生息数の 確認は随道を進みながら1頭ごとにかぞえた が,数10頭以上の群塊の場合は写真にとって 後で確認した.。気温は,両方のロが開いてい る随道(佐古随道と田端陸送)では入り口付近と中央部の底から1mはどの高さの気温
を,片方の口が閉じている随道(塩野池随道 と塩入随道)でほ入り口付近と最深部の底か ら1mはどの高さの気温を測定した.。加えて 田畑随道の1997年∼2002年の調査では,東側 入り口からコウモリ類が生息して−いた場所までの距離を計測した。また,1997年の2月7
日,2月13日,2月20日と1998年の1月25
日,2月28日は田端随道の束側入り口から100 汀1ごとに気温を測定した。 結 果 Table 2は各調査地における調査日,入り口付近の気温,中央部もしくは最深部の気
温,生息していたコウモリ煤の種と数を表し た。 各隊道の気温とその他の状況についてみる と,両方の口が開いている佐古隠退と田畑随 道では時折強い風が吹き抜けており,入り口 付近の気温と中央部の気温の差は0∼3.5℃と ほとんどみられなかった。片方の口が閉じて いる塩野池随道と塩入随道は,空気の入れ代 わりがほとんどなく,最深部の気温がはぼ−・ 定で15一∼17℃を示した。 各随道ごとに全調査で確認されたコウモリ 調査地域,調査内容および方法 1996年から2002年にかけて香川県仲多度郡 まんのう町にある満濃池周辺の4つの随道を 調査した(Fig1)。4つの随道のうち,佐古 随道と田畑随道は土器川の水を満濃他に引く ための満濃導水路につくられて−いる。それぞれ100mと640mほどの長さをもち,すべての
壁面はコンクリー・トで覆われているが,田端 魔道の一灘にコンクリー・トが劣化して−割れ目 が集中している部分がある。佐古随道と田端 随道ともに右まぼ水平で一・直線に掘られており 両方の口が開いているため,風が通り抜けや すい構造になって−いる。いっぽう,塩野池随 道は満濃池の東側の山に人工的にほぼ水平で −・直線に掘られており,岩肌がむきだしで割 れ目が多い。長さは250mはどであるが片方の 口が閉じて−いるので風は通り抜けることがない。また,塩入随道は野口ダムの水を満濃池
に引くためにつくられたもので,ほぼ水平で −・直線に掘られている。入り口付近と最深部 の−卜部はコンクリー・トで覆われているが,は とんどは岩肌がむきだしで割れ目が多い。長 さは100m以上あり,片方の口が閉じて−いるので風は通り抜けることがない。4つのいずれ
の随道も高さ,幅ともに2m以上あり,立っ たままでも十分に進めるほどの大きさである (Tablel)。 なお,佐古随道,田畑随道は冬季にははと んど水は流れていなかったが,塩野池随道は 入り口付近数mにかけて水溜りがあり,塩入 随道は常に底に水が流れて−いた。TablellSummaryofthephysicalcharacterineachtunnel
TunneI
Length(m)structure Numberofcrack
wind
Sako
lOO
Tabata
640
Sionoike
250
Sioiri
over 100
COnCrete Veryf占w COnCrete f占w rock many thrりUghthrough
StOP
rock
man 一 39 −Table2。Airtemperatureofeachtunnelandnumberofbatsineachspeciesl
Air Air temperature temperature of outside of inside (℃) (℃) Numberofbats Tunnel Date RG︵U O O O O O O〓U■U O O︵U O O O O 0000▲U▲U O
摘”削銅朋銅迫川61・2∽川×∽銅× ∩︶000 000■0000 ︵U O O O l 2 111 203 Feb..28,1996 臥O F−eb..13,1997 7..O Feb…28.1997 16..9 Sako Janh25,1998 Febい28.1998 Jan..28,2001 Jan.27,2M Feb.28.1996 Feb..07,1997 Feb..13,1997 Feb.20,199‘7 Feb‖28,1997
︵U O O▲U▲U O▲U O O 1 1 1 1 1 3 092157
餌謂震㍊拍⋮l肌冊而⋮ Tabata Jan…25,1998 Feb‖28.1998 Jan=28,2001 Jan.27.2002
Sio血e :
8.5 0 3 1 2 6 5 16り0 1 74 15.0 0 *100 7 5 Jan小28,2001 Jan,27.2002 Sioiri I11、〃/血りJり血ハ/J〃∫〃〃‥/∫‘血刷:】lし・・J〟…′り/・イイ…、…′J=川、 Mf,〟ヱ〃言甲Je川5ルJ∼gj乃05〟5;Mm,物0′∫5肌αCr■0ゐc秒J〟5Note(1):Across(×)indicatesthatnostudywascarriedoutinthisperidandarea
(2):*100indicatesthatthenumberareaboutlOO
Sionoike (84) 0% 10% 20% 30% 40% 50% 60% 70% 80% 90% 100% Theratioofbatshibernated(%) Fig・2・Theratioofbatshibernatedineachtunnel” Rf;月力∼㈲J甲血∼β/・′・〟〝エビヴ〟∼〃〟用;Rc,舶∼〃OJ甲ゐ〟5CO川〟加Mf,Miniq*e,・uSbliginosu5;Mm,坤oEi5maCrOdaco7lu5;(),numberofbats“
ー 40 −られる。反対に片方の口が閉じて■いる塩野池 随道や塩入随道では,空気め入れ替わりがほ とんどなく,15∼17℃に保たれて−いると考え られる。 沢田(1982)によると,モモジロコウモリ を除く3種のコウモリ類の野外における冬眠 時の選択温度は,キクガシラコウモリが3∼ 10℃,コキクガシラコウモリが9・∼15℃,お
よびエビナガコウモリが5∼8℃である。冬
眠期の選択温度でみると,片方の口が開く塩 野池随道と塩入随道で気温ははぼ15℃∼17℃ と一・定しているが,上記のキクガシラコウモ リ, コキクガシラコウモリ,およびエビナガ コウモリ3種が選択す−るねぐらの気温より高 めである。そのため選択温度が高いコキクガ シラコウモリのみがかろうじて利用できてい ると考えられる。 反面,両カの口が開く佐古随道と,田畑随 道は随道内の気温が天候に大きく影響されや すいが,田端随道の中央部付近はある程度安 定しており,キクガシラコウモリ,コキクガ シラコウモリ,エビナガコウモリの選択温度 にほぼ適応していると考えられる。しかしこ の随道をこの3種ははとんど冬季のねぐらとし て利用していない。 その理由のひとつとして風の影響が考えら れる。特にキクガシラコウモリとコキクガシ ラコウモリは明らかに風に弱い懸垂姿勢で冬 眠をしているからである。香川県でキクガシ ラコウモリが冬季に数10頭以上生息していた 随道が2ケ所確認されている(森井,1983; 藤田・吉川,1997)。森井(1983)の報告の詳 細は不明であるが,藤田・吉川(1997)によ ると,その随道は両方の口が開くコンクリ・一 卜製の人工洞であり,中央付近で横に90度近 く折れ曲がり,風が中を通り抜けにくい構造 になっている。この構造が随道内の風の流れ を抑える役割を果たしているのではないかと 推測できる。 類の種ごとの合計の割合(Figい2)と,生息 するコウモリ類の種と数(Tめ1e 2)を見る と,佐古随道と田畑随道ではキクガシラコウ モリ1個体を除いて,すべてモモジロコウモリであった。塩野池随道と塩入随道では,キ
クガシラコウモリ,コキクガシラコウモリ, ユビナガコウモリ,モモジロコウモリの4種 が見られた。ここではコロニー・を形成していたコキクガシラコウモリの個体数が最も多
く,他の3種は単独もしくは数頭で岩の割れ 目に見られた。 田畑随道におけるモモジロコウモリの生息 位置をみると,ほとんどが入り口から601m∼ 640mで確認された(Fig.3)。これらが生息 していた場所は,外部の影響を受けやすい西 側の入り口のす−ぐ近くで,薄明かりが届く範 囲で,気泡も随道の中で最も変動の激しい場 所であった(Fig.4)。これらのほとんどは, コンクリ・−トが劣化して崩れ落ちた深さ幅と もに数センチの割れ目にコンクリー・トに密着 するように単独もしくは数頭で入り込んでい た(Fig.5)。 考 察 今回調査した4随道の構造を比較してみる と,コンクリー・トに囲まれ両方の口が開いた 短い随道である佐古随道,コンクリ・一トで囲 まれ両方のロが開いた長い随道である田畑随 道,岩肌で囲まれ片方の口が閉じている塩野 池随道と塩入随道に分けられる。 冬季のねぐらの活用条件として一重要な要素 のひとつである随道内の気温は,両方の口が 開いている佐古随道や田畑随道と,片方のロ が閉じている塩野池随道や塩入随道では明ら かに異なっている。両方の口が開いている随 道では,空気の入れ替わりが括発で,外の気温に非常に影響を受けやすい。そのため,入
り口付近の気温変化にともなって佐古随道や 田畑随道の内部の気温が変化して−いると考え − 41−Janハ27,2002 ⊇さ0薫QLUqSり竜Qぎ篭S−ヨpt>葛已こOJ¢q∈ゴu山戸 Ja汀.28.200l Feb..28,1998 Jan.25.1998 Feb28.1997 Feb..20.1997 Feb..13.1997 Feb07.199−7 0 50 100 150 200 250 300 350 400 450 500 550 600 640 Distance蝕omtheeastentranceofTbatatunnel(m) Fig・3.Frequencyofthenumberof坤oti5maCY・Odactylusoneach50mdistancefiOm
theeastentranceintheTabatatunnel
Feb−28.1998 Feb.20.1997 5 ︵P︶巴n−巴心d⊆石∵届く F¢b.07.1997 Ftね.13.1997 Jan.25,1998 0 50 100 150 200 250 300 350 400 450 500 550 600 640 Distance丘・OmtheeastentranceofTbatatunnel(m) Figl4Thechangeoftheairtemperatureoneach50mdistancefi・Om theeastentranceintheTabatatunnel 一 42 一Fig・5.物otismac,・Odactylusin acl−aCksintheTabatatunnel・ a,OneA4yotismac,■Odactylu5inacl・aCk;b,Anumberof坤oti5maCrOdactylusinacrack・ 薄明かりが差し込むはどの距離にあるコンク リートが劣化して崩れ落ちた数センチの隙間 に見られた。田端随遺は夏季にはモモジロコ ウモリが数10頭以上の群塊をつくるところで あり(吉川,1997),夏季に比べて冬眠期は非 常に個体数が減少しているが,モモジロコウ モリは気温が外部にたいへん影響されやすく 薄明かりがさすような場所でも,割れ目など の身を隠せる場所があれば冬季のねぐらとし て利月ヨしていることがわかる。 以上のことから、モモジロコウモー」の冬季 のねぐらは従来いわれてきたような洞窟など の岩の割れ目や樹洞(蔵本ほか,1978)以外
にも,ある程度まで気温が抑えられ そし
て,ある程度の暗さと身を隠せるような隙間 があるような場所であれば,単独もしくは少 数で分散して冬眠できると考えられる。 ため池や用水路の多い香川県では,そのよ うな環境はいたるところにある。冬季の生息 状況に関して言えば,香川県などの自然の大洞窟がないようなところでは,ある程度の環
境の変化にも強く,広いねぐらを要求しない モモジロコウモリのこのような生活様式は, 他の3種のコウモリに比べ明らかに優位であ ると考えられる。 さらに藤田(1998)がユビナガコウモリの 冬季のねぐらとして利用されている随道の克 明な記録を残している。この随道は片方の口 のみが開くコンクリート製で風は通り抜けな い構造である。随道の最深部の気温は10℃前 後で,沢田(1982)のいう選択気温だけから 考えるとこの随道は冬季のねぐらとしては不 適であるが,塩野池随道および塩入隊道より 5℃前後は低く,しかも風が通り抜けない構 造になっていることが,エビナガコウモリの 利用を可能にしていると思われる。このよう に考えていくと,キクガシラコウモリ,コキ クガシラコウモリ,およびエビナガコウモリ の3種は香川県において冬季のねぐらはある が,利用できる随道はたいへん限られている と言えるのではないかと考えられる。一方,モモジロコウモリの冬眠について
は,不明なことが多い。秋吉台の洞穴では冬
季には単独個体で岩の割れ目に時折観察され るのみで,詳しい生態についてはよくわかっ ていない(庫本ほか,1978)。本調査で明らか になったことは,すべての随道でモモジロコ ウモリは見られたが,特に注目されるのは, 風が通り抜け,外部の気温の影響を受けやす い両方の口が開いている随道にも複数の個体 が確認されたことである。さらに確認された うちの大多数は,西側入り口から40m以内の − 43 −報告 6:1−26 ・中村 久・内田照章・下泉重吉 1975.秋吉台におけるバンディング法によ るコウモリ類の動態調査Ⅲ1972年4月から 1975年3月までの調査結果.秋吉台科学博 物館報告11:29−47. ・中村 久・内田照章.1978−.モモ ジロコウモリの生息場所,社会,個体群動 態.秋吉台科学博物館報告13:35−54.