更新日:2008/8/15 調査部:古幡 哲也
トルコ:国営石油会社 TPAO の活動状況について
(TPAO ホームページ、セミナー発表資料等) • トルコ国営石油会社の TPAO は、国内でかなりの探鉱・開発に取り組んでいるほか、アゼルバイジ ャンやカザフスタンなど海外でも生産資産、探鉱プロジェクトを抱える上流専業会社である。 • TPAO の生産量は伸びているが、急増するトルコの石油・ガス需要を十分に満たしているわけでは ない。また、新規事業からの生産量が確保できなければ、TPAO の生産量は下落する見込み。 • TPAO の投資額は急増しており、国内では黒海深海部の探鉱に注力するほか、イラン・サウスパー スプロジェクトへの参入、アジアへの展開などを目論む。イラクでの入札に備えて事前審査もパス。 1. トルコのエネルギー需給バランス トルコ経済は2006年後半以降、高金利及び原油価格の高騰により個人消費が落ち込んだ結果、経 済成長は減速している(2007年 GDP 成長率4.7%)。しかし、一次エネルギーの需要は近年大きな 伸びを見せており、2007年は前年比 5%増となっている。 トルコの一次エネルギー需要 (BP統計2008年版) 0.0 20.0 40.0 60.0 80.0 100.0 120.0 1 965 1967 1969 1971 1973 9751 1977 1979 1981 1983 1985 1987 1989 1991 1993 1995 9971 1999 2001 2003 2005 2007 原油 換算 百万 ト ン /年 トルコの一次エネルギー需要の内訳 (BP統計2008年版) 石油 石油 天然ガス 天然ガス 石炭 石炭 水力発電 水力発電 0.0 20.0 40.0 60.0 80.0 100.0 120.0 2006 2007 原油 換算 百 万ト ン /年 石油、石炭、天然ガス、いずれの需要も増加しているが、特に天然ガスは15%もの大きな伸び率を示 している。このような旺盛な需要の伸びに対して、トルコ国内の石油・ガス生産能力は極めて少なく、トル コは日本と同様、石油・ガスを国外からの輸入に頼らざるを得ない状況にある。 石油 ガス 需要量 666 千 b/d 3.4Bcf/d(35.1Bcm/年) (BP 統計 2007) 生産量 43 千 b/d 24Bcf/年(66.6MMcfd) (EIA 、2006) 自給率 6.4% 14.1% 埋蔵量 300 百万 bbl 300Bcf(8.5Bcm) (OGJ 、2006)2. TPAO について
このようなトルコに石油やガスを安定的に供給するべく、法に基づいて1954年に設立されたのが TPAO(Türkiye Petrolleri Anonim Ortaklığı)である。本社は首都アンカラ、100%政府保有の国営企 業である。 (1) 概況 TPAO は設立後、1983年までは一貫操業の国営石油会社であったが、それ以降はリストラにより 上流専業となっており、それ以外の部門は分離された。技術サービス部門やプロジェクト会社など、 いくつかの子会社を抱えているが、グループ全体としては、(a)石油・ガスの探鉱開発、(b)ガス地下 貯蔵、(c)石油のトレーディング・輸送、(d)石油・ガスパイプラインプロジェクトを事業内容としている。 このうち、探鉱・開発分野では、トルコ国内の油・ガス田開発に加え、新たな収益源を海外に求めて おり、中央アジア、北アフリカ、中東にプライオリティを置いている。 ①TPAO の生産量 2007年、TPAO による国内の原油生産量は約2.8万 b/d、これはトルコの原油消費量のおよそ 4%にあたる。一方、2007年の国内ガス生産量は4.2億 cm/年であり、これはガス消費量のわず か1%でしかない。これらの国内生産は漸減傾向を抑えることが出来ず、最近はアゼルバイジャン やカザフスタンでの海外事業からの生産量を伸ばすことでこれを補ってきていた。 2007年末の石油・ガス生産量は原油換算で9.4万boe/d となっているが、TPAO は2008年の生 産量見込みは10.1万boe/d であること、また2010年にはこれを30万boe/d まで増加させる目標で あることをホームページ上で 紹介している。 しかし、TPAOが2008年4 月のセミナーで紹介した左図 のトレンドを見ると、2009年以 降、TPAOの生産量は急速に 減 少 す る 見 込 み で あ り 、 TPAOの苦境がうかがえる。こ れは、現在の生産量の多くを 支えている、アゼルバイジャン - - 2
のACG(Azeri-Chirag-Guneshli)油田1やカザフスタンでの油田からの生産量がピークとなることや、 生産物分与契約に基づいてTPAOの取分原油が減少することなどに起因していると思われる。 ②TPAO の埋蔵量 2005年の TPAO の石油・ガス 可採埋蔵量は原油換算で5.58億 バレルであったが、TPAO は201 0年までにこれを15億バレルまで 増加させる目標を持っている。ま た、2008年4月のセミナーでは、 石油・ガスの確認可採埋蔵量は原 油換算最大10億バレル(Proven+ Probable の 2P では最大90億バ レル)と発表している。 ③TPAO の投資額 野心的な石油・ガス生産量及 び埋蔵量の増加を実現させるた め、TPAO は投資額を近年大幅 に増加させている。2007年の 国内での探鉱開発投資額は30 8百万ドル、国外での投資額は4 16百万ドル、合計724百万ドル となっている。海外への投資額 は特定の事業の進展にあわせ て増減しているものと思われる が、対照的に、国内向けの投資額が毎年同じようなペースで一貫して増加している点が印象的であ 1 執筆時点において、ACG原油をトルコ・ジェイハン港まで輸送するBTCパイプラインは、8月6日に生じたトルコ国内バルブス テーションでの爆発事故発生により、原油輸送を停止中である。既に火災は鎮火しており、現在原因究明調査、改修工事に向 けたチェックが行なわれているところである。早ければ数週間後には原油輸送が再開されるとの見方もある。
る。TPAO が国内への探鉱をかなり重視していることの表れではないかと思われる。 ④財務状況 (単位:千ドル) 2005 2006 売上げ 1,629,520 1,278,081 営業利益 303,264 175,132 税前利益 296,402 441,023 税後利益 170,440 398,712 総資産 3,152,316 3,118,767 2006年の税後利益は2005年に比して2倍以上に増加している。2007年の実績はホームペー ジ上では明らかにされていないが、前頁上段のプレゼンテーション資料によれば、売上げ(Current Turnover)はおよそ20億ドルと示されており、2006年から急増したものと思われる。その理由は明ら かにはされていないが、やはり油価の高騰や、さらには ACG 油田の生産量の増加が影響している ものと思われる。 (2) トルコ国内での TPAO の探鉱・開発活動 伝統的にはトルコ陸上南東部(西アラビア堆積地域の縁辺部)及びボスポラス海峡の西側(欧州 側、Thrace-Galipoli ベースン)で石油・ガスが生産されてきたが、それほど多い数量とはいえない。 トルコにおける鉱区付与形式は国のライセンス(Royalty/Tax)であるが、トルコ国内の探鉱開発事 業は必ずしも TPAO に独占されているわけではない。石油・ガス開発企業はエネルギー・自然資源 省の下部機関、General Directorate of Petroleum Affairs(GDPA)にライセンス申請を行なうが、もしも 政府が入札を行なおうとする場合には GPDA は TPAOに対して当該鉱区に興味があるかどうかを確 認しなければならず、もしも TPAO が興味を持つ場合には、TPAO は鉱区を優先的に取得できると いう特権を持つ。この他、ライセンス料等の支払いも免除されており、このような背景もあってか、トル コ国内の鉱区権益の多くは TPAO が保有している。 データベースで検索すると200以上もの鉱区の権益を TPAO は国内に抱えていることになってい る。しかも、権益比率は100%である。これらの鉱区すべてで積極的な探鉱・開発活動が進められ ているかどうかまでは確認できていない。 前述した国内投資額の増加は、TPAOによる探鉱開発活動の増加につながっている。過去4年で 2次元地震探鉱53,100km、3次元地震探鉱9,771km2を実施、また探鉱井、生産井の掘削数も増加 - - 4
しており、2007年には72本の計画に対して81本を掘削したとされている。ただし、陸上と海上の内 訳は不明である。TPAOはこれらの探鉱活動により、いくつかの鉱区で石油・ガスの発見に至ったと しているが、その規模は明らかではない。 坑井掘削数(2007年) TPAO 単独 他社との JV 合計 探鉱井 40 9 49 生産井 28 4 32 合計 68 13 81 国内での積極的な探鉱の結果、黒海 沿岸で始めて商業生産に至ったのが20 04年に発見された Akçakoca 沖ガス田で ある。生産量1.5~2MMcm/d が期待さ れており、Thrace ガス田(トルコ西部)の 累計生産量をも上回る可能性がある、と TPAO は自信満々である。2007年には 当該ガス田において探鉱井 4 本の掘削 も行なわれている。共同事業者は米独立 系 Toreador 社(36.75%)及びカナダ独 立系 Stratic Energy 社(12.25%)であり、 TPAO はシェア51%を持ってオペレータ ーを務めている。 TPAO はその後、2006年8月にブラジ ル、ペトロブラスと Joint Venture Operating Agreement を締結して、黒海の深海部で探 鉱を開始している。この鉱区で TPAO は、 深海での石油探鉱・開発に経験・技術を持 つペトロブラスにオペレーターを任せてい る。TPAO の資料によれば、今後、黒海の深海部全体では試掘井35坑をさらに計画しているとのこと であり、試掘結果が期待されるところである。
なお、TPAO は地中海側の東部 海域鉱区のファームアウトも2008 年中に行なうとしており、Antalya、 Mersin、 Iskenderun 湾などの沖 合鉱区のファームアウト交渉を外 国企業と開始していると TPAO は 表明している。 (3) 海外での石油・ガス探鉱・開発事業への参加 TPAO はアゼルバイジャン、カザフスタン、リビア、グルジアの探鉱・開発プロジェクトに参加してい る。 アゼルバイジャンでは、2008年中に100万 b/d の通油を目指す ACG 油田開発プロジェクトに6.7 5%のシェアで参加しているほか、2006年末から生産を開始し第一フェーズピーク時には年間87億 cm のガスを生産する Shah Deniz ガス田開発プロジェクトに9%のシェアで参加している。また ACG 原 油を輸送する BTC(Baku-Tblisi-Ceyhan)石油パイプラインには6.5%のシェア、また Shah Deniz の ガスをトルコに輸送する South Caucasus Pipeline(別名(Baku-Tblisi-Erzurum, BTE)ガスパイプライ ンにも9%のシェアで参加している。 また、アゼルバイジャンで は沖合南部に位置する Alov 鉱区の探鉱権益にも10%で 参加しているが、イランとの境 界が定まっていないエリアに 位置しているため、実際の探 鉱作業は棚上げされている。 カザフスタンでは、1993年 から KazakhTurkMunai 社にシ - - 6
ェア49%で参加している(51%はカザフスタン国営 KazMunaiGaz)。KazakhTurkMunai そのものが共 同操業会社となっている。現在、South Karatobe 及び Loktibai 等の5つの油田で約5,000b/d の原油 を生産中、可採埋蔵量はおよそ4,000万 bbl である。生産は2010年にはピークを迎えて、それ以降 は徐々に減少する見込みである。KazakhTurkMunai は一部で追加的な鉱区評価を行なっている鉱区 はあるようだが、既に鉱区放棄を繰り返してきているため、大きな追加ポテンシャルは見込めない。 次にリビアでは NC188、NC18 9、147/3及び147/4鉱区での 探鉱に参加している。いずれも TPAO がオペレーターを務めてい るが、NC188と NC189ではインド の ONGC 社が49%のシェアでパ ートナーとして参加している。 ま た 、 グ ル ジ ア で は 沖 合 の BlockⅡa、Ⅱb 及びⅢにおける探 鉱に TPAO が13.5%のシェアで 参加している。オペレーターは Anadarko(シェア86.5%)である。 TPAO はこれ以外にも多くの新規案件の立ち上げに力を入れている。イランではサウスパースガス 田のフェーズ23/24/25に参加すべく、検討していることがホームページでも紹介されている。また、 シリアとの間ではTPAOとシリア国営石油会社SPCとの間で、シリア国内での探鉱・開発への参加に関 する MOU が2008年1月に締結された。今後JV 会社を設立して石油・ガス開発のライセンスを取得す る予定である。イラクでは1994年以来、TPAO がイラク石油省へのアプローチを継続しているとのこと であるが、先行きが不透明であり、これまでのところ明らかな進展がないことをホームページで認めて いる。ただ、今後行なわれる見込みのイラクにおける入札に向け、その資格審査を通過したことが報じ られている。当初は資格審査を通過しなかったのだが、相当な巻き返しがあった模様で、トルコ・エル ドアン首相が7月10日にバグダッドを訪問した際に資格審査通過の書面を受け取っている。 この他、TPAOはトルクメニスタン、グルジア、エジプト、ロシア、アルジェリアにおいて新規案件発掘 に努めていることがホームページで紹介されている。
3. まとめ
TPAO は積極的に国内外での探鉱・開発投資を進めていることが理解いただけたと思うが、海外の探 鉱開発投資は、その投資対象国がトルコから地理的に近いことから見ても、明らかにトルコ国内への原 油・ガスの「持込み」にプライオリティを置いているものと思われる。特にアゼルバイジャンでの石油・ガス 生産量の増加に伴い、TPAO の生産量は急激に増加したが、今後、ACG 油田からの TPAO 取分は急激 に減少する見込みであり、カザフスタンでの生産量の下落がそれに追い討ちを掛けることになるだろう。 筆者は、2008年4月にイスタンブールで開催されたセミナーで TPAO 関係者と会話した際、「アジアで も良いから新たな事業に参画したい」との 発言を受け、TPAO の焦燥感を肌で直接感 じた。 一方、TPAO がもう一つ力を入れてい る黒海における探鉱は、まだ探鉱密度も 低いようであり、今後の探鉱結果が期待 されるが、その地質的ポテンシャルはど れくらいあるのだろうか。 米国地質調査所の調査結果(2000 年)によれば、トルコの未発見埋蔵量(中 間値)は7.5億バレル、天然ガスは1.5 Tcf と報告されているが、これは驚くべき ことに、すべて陸上エリアでの数値であ った。もちろん、この数値は未発見埋蔵 量としてもあまり大きい数値とはいえない が、トルコ周辺の海上での未発見埋蔵量 ポテンシャルが石油・ガスともに「ゼロ」に なっているのには驚かされた。。 これまで述べたようにトルコの黒海側 では Akçakoca 沖ガス田が見つかったり、黒海東部の試掘井Hopa-1(2005~2006年掘削、水深150 0m)で油徴が見られたりしている。未発見埋蔵量は「ゼロ」とは悲観的過ぎる評価であろう。TPAO はル ーマニアやウクライナ、ロシアの沖合に炭化水素ポテンシャルがあることからも、トルコ側黒海のポテン - - 8
シャルは高いと考えているようだ。黒海では掘削リグの数が少ないといわれており、そのような背景も あってかトルコ側黒海での探鉱は余り進んでいないが、今後の深海部での探鉱の結果が待たれるとこ ろである。 ただ、黒海深海部における探鉱結果があまり芳しくないのであれば、国内にはこだわらず、もっと地 質的ポテンシャルの高い国外の探鉱・開発事業に早めにシフトしていくことも TPAO にとって、一つの 選択肢かもしれない。