甲南大学 マネジメント創造学部 2015 年度 卒業研究プロジェクト 指導教員 佐藤治正
日本独自の進化を遂げた「ガラパゴスカー」
11281077 妹尾俊樹
目次 1.自動車と軽自動車 2.軽自動車はなぜ売れるのか 3.海を越える軽自動車 4. 軽自動車は世界戦略車へ目次 はじめに 1. 自動車と軽自動車 1-1 自動車産業の現状 1-2 世界の中の日本車 1-3 軽自動車の躍進 2. 軽自動車はなぜ売れるのか 2-1 軽自動車誕生と繁栄の歩み 2-2 「トールワゴン」の衝撃 2-3 女性に支持される軽自動車 3. 海を越える軽自動車 3-1. 2 社しかなかったインド自動車市場 3-2 インドの国民車「マルチ・スズキ」 3-3 新興国に挑む軽自動車 4. 軽自動車は世界戦略車へ 4-1. 軽自動車の魅力「税金の安さ」 4-2. 絶滅の危機「ガラ軽」 4-3. 世界的に高まる A セグメント車需要 終わりに
はじめに 近年、街中を歩いていると軽自動車を多く見るようになった。特に地方都市で自動車の 運転をしていると、すれ違う車の大半が軽自動車だ。2014 年度の国内自動車販売台数に占 める軽自動車の販売シェアを見ると約41%1が軽自動車だ。同年度の車名別新車販売台数 ではトップ10 のうち 7 車種が軽自動車だった。軽自動車がこれほど販売台数を伸ばした ことを疑問に感じ、軽自動車をテーマに選んだ。 日本の道路の84%は道路の幅が 3.8 メートルと狭い道路が占めており2、軽自動車は日本 の道路事情にあった自動車として発展を続けてきた。また軽自動車の税金は小型・普通車 と比べても圧倒的に安く、経済的な自動車として人気を博している。しかし軽自動車規格 は日本独自の規格であり、車体サイズと排気量は世界に類を見ない大きさの自動車だ。日 本国内で独自に進化したという点で「ガラケー」と共通であり、軽自動車は「ガラ軽」と 揶揄されることがある。 本論文では1 で成長が続く世界と国内自動車産業と国内市場と軽自動車について、2 で は軽自動車誕生の歴史と繁栄の背景を説明する。3 ではインドに進出し、国民車となった スズキと東南アジアで売れる軽自動車について、4 では軽自動車規格の在り方と軽自動車 の未来について考察していく。 1. 自動車と「軽」自動車 1-1. 自動車産業の現状 世界の自動車産業は先進国で成熟産業と捉えられ、今後大きな成長を見込めないとされ てきた。2008 年にはアメリカを発端とした金融危機の影響により、それまで世界最大の自 動車市場だったアメリカで自動車需要が急激に落ち、欧州や日本など先進諸国でも販売台 数を減らした。世界自動車販売台数は2007 年の 7,159 万台から、2009 年には 6,560 万台 にまで減少した。 しかし金融危機後、先進国では燃料価格の下落、景気回復による自動車需要の拡大、途 上国では人口増加と所得増大による旺盛な需要により、世界自動車販売台数は2010 年か ら再び増加し、2014 年には 8,816 万台(世界 85 カ国計)に達し、過去最高を記録した。経 済状況にもよるが、2018 年には 1 億台を超えると予想されている。再び成長産業として 成長を続ける自動車産業を見てみよう。 図1-1 は主要国の自動車販売台数で過去 3 年間の推移を表している。2014 年度の販売台 数1 位は中国で 2349 万台、2 位アメリカ 1684 万台、3 位日本 556 万台、4 位 349 万台、 1日本経済新聞「新車販売14年度6.9%減、消費増税の影響長引く、「軽」比率4割超す。」 2015 年 4 月 2 日朝刊 13 ページ 2日経産業新聞「軽自動車(1)生活の足、燃費も改善(よくわかる)」 2013 年 4 月 23 日 12 ページ
5 位ドイツ 335 万台となっている。特に中国市場の販売台数の成長は著しく、2007 年の 879 万台から 3 倍近くまで拡大した。アメリカ市場も好調で、中国とアメリカの 2 大市場 が世界販売の伸びを牽引している。 図1-1 主要国の自動車販売台数推移(2013 年度) 出典:日本自動車工業会 世界四輪車販売より引用 中国、アメリカに次ぐ第3 の市場である欧州(EU 圏)は、金融危機後のユーロ債務危機 の影響を大きく受けている。図1-1 を見ると、欧州主要国では販売台数の縮小が続いてい ることが分かる。欧州全体の販売台数は2007 年の 1,730 万台から 6 年連続で縮小した。 特にスペインとイタリアでの販売台数の減少が著しく、2013 年度スペインでは金融危機前 の4 割、イタリアでは 5 割まで縮小した。 自動車メーカー各社は世界最大の自動車販売台数を誇る中国を主戦場として販売に力を 入れてきたが中国の景気減速により、中国の自動車市場は今までのような急激な成長を期 待することはできない。一方で近年、新興国(先進国以外)の存在感が強くなっている。2000 年には世界販売台数で20%強だった新興国市場の比率は、金融危機後の 2010 年には、50%
を超えるに至った。2020 年には新興国のシェアが 6 割に達するという予測もあり、新興 国は大きな市場となりつつある。 ASEAN 諸国では人口増加、所得拡大に伴い自動車販売台数が増加しており、自動車メ ーカー各社はASEAN での販売を拡大しようとしている。2014 年度の販売台数では、フ ィリピンが前年比27.1%、ベトナムでは 42.8%の増加を記録した。第 3 の市場は欧州から、 アジアへとシフトしようとしている。 次にメーカー別販売台数を見てみる。図1-2 は 2014 年の主要メーカー別販売台数を表 している。世界シェアトップはトヨタ自動車(以下、トヨタ)だ。2007 年に世界自動車販売 台数でそれまでトップだったゼネラル・モーターズ(以下、GM)を抜き世界最大の自動車メ ーカーになった。トヨタは2014 年度に全世界販売台数で 1023 万台を記録し、自動車メー カーとして世界で初めて1000 万台を突破、3 年連続世界販売台数のトップに立った。 2014 年の主要メーカー別販売台数は、トヨタ、フォルクスワーゲン(以下、VW)の両グ ループがともに1,000 万台を超え、それぞれ 1 位 1,023 万台、2 位 1,014 万台となった。 これに992 万台のゼネラル・モーターズ、847 万台のルノー・日産、771 万台の現代自動 車と続く。日系メーカーでは8 位ホンダと 10 位スズキとなっている。以下 13 位マツダ、 14 位三菱自動車、15 位富士重工業と続く。日系メーカーだけで世界自動車販売の3割以 上のシェアを占めている。 図1-2 世界 85 ヶ国主要メーカー別販売台数 上位 15 社(2014 年度) 出典:マークラインズ自動車産業ポータル資料 世界的に自動車販売台数が増え、新興国など新たな市場が多く生まれた。その中で自動 車メーカーは環境規制への対応、ニーズに合った車両の開発、生産する必要があり自動車 トヨタ 1023 VW 1014 GM 992 ルノー・ 日産 847 現代 771 フォード 632 FCA 461 ホンダ 435 プジョー・シト ロエン 293 スズキ 287 ダイム ラー 254 BMW 211 マツダ 138 三菱 107 スバル 89 その他 1362 (万台)
業界を取り巻く環境は厳しくなっている。世界規模で生産・販売台数を増やすために、自 動車メーカーの再編が加速している。 1998 年にはダイムラーベンツとクライスラーが合併した。しかし、期待された次世代車 の共同開発はうまく行かず、またクライスラーは財務状態が悪く、対等な関係を維持でき なかったことから2007 年に提携を解消した。金融危機で自動車販売台数が落ち込んだこ とでクライスラーは大幅な赤字となり、2009 年に経営破綻し、伊フィアットの完全子会社 となった。かつてトヨタと共に日本の自動車産業を牽引してきた日産は1990 年代に経営 不振に陥ったが、1999 年に仏ルノーと資本提携を結び、経営の立て直しに成功した。金融 危機後はアメリカビッグスリーである米GM と米クライスラーの 2 社が倒産に追い込まれ るなど、世界の自動車メーカーが厳しい環境にさらされている。しかし日本は乗用車メー カー8 社、トラックメーカー4 社の 12 社があり、これだけ多くの自動車メーカーが存在す るのは日本だけだ。次節では、高い競争力を持つ日本メーカーに注目して考察していく。 1-2. 世界の中の日本車 世界自動車販売台数8,816 万台のうち 2,845 万台を日系自動車メーカーが占めている。 世界で売られる自動車の実に32.2%が日本車だ。国内で 1000 万台近くを生産しており、 自動車関連就業人口3は550 万人で、全就業人口の 8.7%を占めている。自動車 1 台につき、 2 万~3 万点の部品から構成されており、自動車部品を製造する会社は 1 万社以上存在して いる。また国内の自動車出荷額等4は全製造業出荷額の17.8 %を占めている(2013 年実績)。 いまや自動車産業は日本を代表する産業にまで成長した。 なぜ日本車は世界自動車市場で大きなシェアを獲得することができたのか。一般的に日 本車は欧米メーカーよりも価格が安く、故障が少ない信頼性の高い車と言われている。一 例を挙げると、中東の武装ゲリラがトヨタのピックアップトラックを改造し戦闘に使用し ていたことから、一部紛争では「トヨタ戦争」と呼ばれた。紛争地域の過酷な環境下での 走行でも故障しにくく、修理も簡単であり「頑丈で信頼性の高い自動車=日本車」という ことを象徴している。アメリカの雑誌「コンシューマー・リポート」が2015 年 10 月に発 表したブランド信頼調査ランキングによると、1位はレクサス、2位はトヨタ、3位アウ ディ、4位マツダ、5位富士重工業と日本車が上位の多くを占めた。 技術面でも世界をリードしている。中でも環境技術で日本は先進的な取り組みをしてい る。1997 年の地球温暖化防止の京都会議にあわせて、トヨタがエンジンとモーターを組み 合わせて走行する世界初のハイブリッド量販車「プリウス」を発売した。また、2014 年 12 月にはトヨタが世界に先駆けて、水素を燃料とし水しか排出しない水素自動車を発売し 3自動車製造をはじめ、販売・整備・運送などに従事する就業人口のこと 4 製造品出荷額等とは、製造品出荷額、加工賃収入額、修理料収入額、製造工程から出た くずおよび廃物の出荷額及びその他の収入額の合計であり、消費税等内国消費税額を含ん だ額
た。 他日系メーカーの特徴を見ると、日産はハイブリッド技術で出遅れたものの電気自動車 「リーフ」を発売し、世界で走る電気自動車の5 割以上のシェアを獲得している。ホンダ はF1 などモータースポーツで培った技術を市販車にフィードバックし、高い技術力を誇 っている。スズキは小型車を強みとし、新興国に早くから進出し世界10 位の販売台数を 誇っている。富士重工業は利益率で見ると規模では劣るが、富士重工業は売上高営業利益 率が14.4%とトヨタの 10%や日産の 5.1%に比べると圧倒的に高い。四輪駆動や走行性能 の高さからSUV やスポーツカーが強みで「スバリスト」というファンが付くほど根強い 人気がある。マツダも規模は小さいものの利益率は6%と高い。エンジン技術で特徴があ り、世界で唯一量産に成功したロータリーエンジンや環境性能の高いディーゼルエンジン といった技術に定評がある。こうして各社はブランドを確立し、根強いファンを獲得した ことが利益率の高さに繋がっている。 世界各地で高いシェアを誇っている日本車だが、苦戦している地域がある。それが欧州 だ。世界販売台数で世界首位争いをしているトヨタとVW を例に見てみる。両社とも世界 自動車販売台数では差がほとんど無いが、地域別販売台数を見ると大きく異なる。北米の 自動車販売台数ではトヨタ272 万台でシェア 14%に対し、VW は 89 万台でシェアは僅か 4%に過ぎない。他日系メーカーを含むと北米では 4 割以上のシェアを獲得している。 ASEAN ではトヨタの 117 万台に対し VW は 21 万台だ。しかし、欧州や中国では圧倒的 にVW が強く、欧州ではトヨタが 86 万台に対し 429 万台、最大市場の中国ではトヨタの 105 万台、VW が 368 万台となっている。トヨタは北米や中国を除くアジアで強いことが 分かる。これはトヨタ以外の日系メーカーと同じ傾向である。 欧州で日系メーカーが弱い理由として、欧州で主流のエンジンが日本と異なることがあ る。日本ではガソリン車が主流で、ディーゼル車は新車販売で1 割にも満たない。しかし 欧州ではディーゼル車はガソリン車に比べ、CO2 排出量が少なく、エコカーとして認識さ れている。さらに税優遇され、ディーゼル燃料もガソリンに比べ安い為、ディーゼル車の 販売比率は2013 年では 53%となっている。特にフランスやベルギーでは新車販売の 7 割 以上がディーゼルエンジン車だ。 日本でも近年、クリーンディーゼル車が普及してきたが国内販売台数に占める割合は僅 かであり、ガソリン車が主流であることに変わりはない。日本でエコカーと言えば、プリ ウスやリーフのようなハイブリッド車、電気自動車である。クリーンディーゼル車の国内 販売台数に占める割合は僅かである。その為日本メーカーは、ハイブリッド技術では世界 をリードしている一方、ディーゼルエンジンの開発では欧州メーカーに遅れをとっている。 世界販売首位のトヨタは独BMW と提携し、同社が開発した中小型ディーゼルエンジンを 提供してもらっている。日産もルノーやダイムラーからディーゼルエンジンを提供されて いる。ディーゼルエンジンの分野において日本メーカーは、燃費面や性能面で欧州メーカ ーに対抗できず、欧州では販売シェアが低いと考えられる。
1-3. 軽自動車の躍進 先に述べた通り、国内自動車販売はピーク時の半分である 500 万台前後を推移している。 その低迷する日本市場で今、異変が起きている。図1-3 のグラフは国内の種類別自動車販 売台数を表している。2014 年度の小型・普通自動車の販売台数が 329 万台だったのに対 し、軽自動車は227 万 7,000 台だった。新車販売される 40.9%が軽自動車ということにな る。 自動車は車体とエンジンの排気量の大きさにより「軽自動車」、「小型自動車」、「普通自 動車」の3 つに分類される。「軽自動車」とは車体の大きさが全長3.4 メートル以下、全幅 1.48 メートル以下、全高 2.0 メートル以下で、排気量が 660cc 以内の自動車のことを指す。 「小型自動車」は全長4.7 メートル、全幅 1.7 メートル、全高 2.0 メートル以下、排気量 が2000cc 以下、「普通自動車」は小型自動車の基準を1つでも上回る車のことを指す。図 1-3 のグラフを見ると、軽自動車が急激にシェアを取っていることが分かる。 図1-3 種類別国内自動車販売の内訳 出典:日本自動車工業会 図1-4 は軽自動車を含むメーカー別乗用車の販売台数を示している。1 位トヨタで 151 万台、2 位はホンダで 85 万台、3 位スズキで 79 万台、ダイハツ 4 位で 71 万台、5 位は日 産で67 万台と続く。各社メーカーの販売台数に占める軽自動車の割合はホンダが 47.0%、 スズキが90.0%、ダイハツは 99.7%、日産が 36.0%となっている。日産は軽自動車を自社 開発せず三菱自動車やスズキからOEM 供給を受けていたが、2011 年に三菱自動車と日産 の間で合弁会社が設立され、共同開発している。 0% 10% 20% 30% 40% 50% 60% 70% 80% 90% 100% 1975 1980 1985 1990 1995 2000 2005 2010 2014 軽自動車 小型自動車 普通自動車
図1-4 メーカー別国内販売シェア(2014 年度) 出典:マークラインズ自動車産業ポータル資料 (台) 日本国内の軽自動車保有台数は2980 万台で、日本で保有される車の 38.7%が軽自動車 だ。軽自動車に加えて1985 年から 1990 年にかけて普通自動車が大きく増えている。これ は1989 年に税制度が変わったことが影響している。それまで小型車に課せられていた税 金は普通車の半額程度だったが、普通車と同じ税負担になった。そのため小型車、普通車 の垣根がなくなり、海外進出を進めたい日系自動車メーカーの都合もあり、大型化が進ん だ。戦後から長い間、小型自動車が主流であったことから、昭和期に作られた道路や駐車 場などの多くは小型車向けに作られた。その為、現在でも車幅や長さの短い小型車は運転 しやすく、現在でも根強い人気がある。 2. 軽自動車はなぜ売れるのか 2-1. 軽自動車誕生と繁栄の歩み 「軽自動車」という概念は 1949 年に誕生した。戦後、移動手段としては二輪車が主流 であった。自転車にエンジンを付けたようなものまで含めると、二輪車を製造する会社は 1950 年代には 100 社以上存在した。自動車は庶民にとって高嶺の花であり、当時、一番 安い自動車であった日野・ルノー4CV は 750cc で 60 万円台、1000cc を超える自動車は 100 万円を超えていた。自動車の需要は貨物が多く、乗用車としての需要はバスやタクシ ー向けなどがほとんどで、個人が所有するというマイカーへの需要は少なかった。 こうした状況の中 1950 年初頭、通産省は一般庶民でも自動車を所有できることを目指 し、国民車構想を打ち出した。国が一定の基準をつくり、それに合致したメーカーを1 社 選定して、国が補助をする内容だった。しかし、日本の自動車メーカーは、国が定めた基 0 200000 400000 600000 800000 1000000 1200000 1400000 1600000 トヨタ ホンダ スズキ ダイハツ 日産 マツダ スバル 三菱
準が現実的でなかったこと、国民車に選ばれる一社のみが優遇されることに反対し、この 構想は実現されなかった。国民車構想に先駆けて、軽自動車のもととなる規格が 1949 年 に誕生した。制定当時の規格は全長2.8 メートル、幅 1.0 メートル、高さ 2.0 メートルで 排気量は150cc 以下であり、二輪三輪四輪の区別はなかった。1951 年に規格が改定され、 幅1.3 メートル、長さ 3 メートル、エンジンは 360cc にまで拡大された。 軽自動車規格に対応した自動車は、自動車修理を営んでいたような小さな町工場から、 戦時中は飛行機を作っていたメーカーにまで幅広く開発された。いちはやくこの規格に対 応した軽自動車を開発したのは、当時主に二輪車を製造していた鈴木式織機から社名を変 更したばかりの鈴木自動車産業(現スズキ)だ。1955 年に鈴木自動車産業から軽自動車「ス ズライト」が 42 万円で発売された。鈴木自動車産業はこれをきっかけに織機メーカーか ら二輪車・自動車メーカーへと変容した。同じく 1955 年にはトヨタから日本初の本格的 な乗用車クラウンが発売された。さらに、1958 年には中島飛行機が前身の富士自動車工業 (現富士重工業)から「スバル 360」が同じく 42 万円で発売された。当時の大卒の国家公務 員の初任給が9200 円であったことから、現代の価値に換算すると 800 万円相当というこ とになる。それでもなお高いが、40 万円台の軽自動車は一般的なサラリーマンも所有が現 実味を帯びてくる価格だった。 軽規格制定後の1950 年代は、スズキのような大手メーカー以外にも多くの中小メーカ ーが軽自動車を開発したが、どれも技術的に未熟な自動車が多く、最高速度をみても時速 40km~60km 程度で 2 人乗りと実用に耐えうるものではなかった。スズキやスバルが開発 する軽自動車は限られた規格の中で、最高時速80km を超えることができる十分なパワー、 そして大人4名がゆとりを持って乗車することを可能とした。そして当時日本に多く残る 未舗装路を走破することができる完成度の高い自動車であった。1960 年代に入ると、東洋 工業(現マツダ)やホンダ、新三菱重工業(現三菱自動車)も相次いで軽自動車製造に参入し、 競争激化により価格は下落していった。1960 年には 30 万円という低価格で東洋工業から R360 が発売された。 高度経済成長期には日本経済の成長とともに、自動車の販売台数は急速に増加した。大 卒の国家公務員の初任給でみると、1959 年には1万円を超え、1965 年には 2 万 2,000 円 にまで倍増した。所得の拡大により乗用車需要は拡大し国内の自動車保有台数は、1965 年の630 万台、1967 年には 1,000 万台を突破し、全国いたるところで自動車が走るよう になった。 表2-1 は車種別乗用車生産台数を表している。自動車の普及に軽自動車は大きく貢献し た。軽自動車は普通車と比べると4 つの点で大きく優遇されていた。①軽免許(2 輪免許) で乗れる②車検が不要③税金や保険が割安④車庫証明が不要、これら4 点だ。1965 年に は軽自動車に課せられていた速度規制が撤廃され小型・普通車と同等となった。こうした 優遇により、軽自動車は一般庶民でも手軽に乗れるようになった。 表2-1 車種別乗用車生産台数
出典:日本自動車工業会(1988)「日本自動車産業史」 しかし高度経済成長が終盤を迎えた1970 年代になると売れ行きが鈍り始める。1970 年 に75 万台だった軽自動車の生産台数が、1975 年には 58 万台までに落ち込んだ。理由と しては、小型車のラインナップの充実と価格低下が考えられる。1964 年には日産から小型 車サニーが468,000 円、1966 年にはトヨタからカローラが 498,000 円、東洋工業やホン ダ、いすゞなど各社から小型車が発売された。当時軽自動車の排気量は 360cc だったが、 サニーは1000cc、カローラは 1100cc とエンジンが大きくまた車体も軽自動車より大型で ある一方、一般庶民もなんとか手の届く価格だった。当時の日本では所得の拡大により日 本人の生活は豊かになり、自動車はステータス・シンボルとしてより大きな自動車が求め られた背景もあり、小型車が販売シェアを増やした。 また1975 年、1978 年と段階的に改正された排気ガス規制に対応のためのコストがかか り、車両価格の上昇により小型車と価格差が少なくなっていた。軽自動車の魅力であった はずの経済性が失われた。このためホンダは1973 年に、東洋工業は 1977 年に軽自動車製 造を休止し、軽自動車ブームは終焉を迎える。1980 年代半ばまで、新車販売に占める軽自 動車の割合は 5%にも満たなかったが、1990 年にかけて急激に販売台数を増やしている。 軽自動車が再び売れるようになった理由を次節で考察していく。 2-2 「トールワゴン」の衝撃 図1-3 を見ると 1990 年以降、国内自動車販売における軽自動車の比率は増え続け、2014 年は新車販売の40%が軽自動車である。爆発的に軽自動車が増加した理由には「軽自動車 の規格改訂と進化」により、小型車と遜色のない性能と室内空間を実現したことがある。 表 2−2 は軽自動車規格の変遷を表している。1949 年に軽自動車の元となる規格が制定さ れて以来、規格改訂が行われてきた。規格制定当初はエンジン構造の違いにより排気量の 上限が異なっていたが、1954 年には統一された。また、高速道路網の拡張、カーエアコン
普及による馬力荷重による馬力不足を解消するため、排気量は段階的に引き上げられた。 表2-2 軽自動車規格の変遷 施行日 排気量 寸法(mm) (全長 x 全幅 x 全高) 1949 年 7 月 8 日 4 サイクル 150cc 以下 2 サイクル 100cc 以下 2800x1000x2000 1950 年 7 月 26 日 4 サイクル 300cc 以下 2 サイクル 200cc 以下 3000x1300x2000 1951 年 8 月 4 サイクル 360cc 以下 2 サイクル 240cc 以下 3000x1300x2000 1954 年 10 月 360cc 以下に統一 改定なし 1976 年 1 月 1 日 550cc 以下 3200x1400x2000 1990 年 1 月 1 日 660cc 以下 3300x1400x2000 1998 年 10 月 660cc 以下 3400x1480x2000 出典:軽自動車検査協会資料 アメリカで大気浄化法改正法、いわゆるマスキー法が1970 年に成立し、自動車排出ガ ス規制が強化された。自動車が排気する有害物質(一酸化炭素、炭化水素、窒素酸化物)を 10 分の 1 以下にするという厳しい規制だった。この規制は自動車メーカーの都合は一切考 慮されずに制定された。日本でもマスキー法にならい、同等の厳しい排気ガス規制が1975 年に制定され、段階的に排出基準が厳しくなった。しかし軽自動車規格の360cc という低 排気量で排ガス規制に対応させることが難しく、550cc まで排気量は引き上げられた。 排気量のほか、車体寸法でも衝突安全性の確保を目的として、1976 年に全幅・全長が大 きく拡大された。車体の大型化、車両重量の増加に伴い排気量は1990 年に 660cc まで引 き上げられ、高速道路で課せられていた軽自動車の80km/h 制限は 2000 年に廃止された。 排気量の上限引き上げ、車体サイズはいずれも少しずつ拡大され、軽自動車は小型・普通 車に迫る大きさになった。しかし、全幅や全長が100mm や 200mm 拡大されても簡単に 室内空間を広くすることはできない。では軽自動車は限られたサイズの中で、いかにして 車内空間を広げることができたのか。 それには軽自動車の形状の多様化が大きく関係している。1990 年以前は大きく分けて 2 つのタイプの軽自動車が存在していた。1 つはセダン型(ボンネットバンを含む)の軽自動車、 2 つ目は車高が高いワンボックスタイプで、前者は主に乗用車、後者は商用車として使わ れていた。軽乗用車はセダン型が主流で、全高は1400mm 程度であり全幅や全長が短い軽 自動車では車内が狭く我慢を強いられる車だった。1990 年以前はスズキ・アルトやダイハ
ツ・ミラなどボンネットバンの軽商用車が主流であったことは、税制度が大きく影響して いる。 1989 年に消費税が導入されるまで自動車には物品税が課せられていた。物品税とは贅沢 品に課税される税金のことだ。自動車は嗜好性の高いものとされ、1946 年には 100%の物 品税が課されていた。1950 年には普通車が 30%、そして小型車、軽自動車共に 20%が課 せられた。普通車は小型・軽自動車より嗜好性が高いと考えられ、高い税率だった。 1981 年には物品税小型車 18.5%、軽自動車が 15.5%となった。しかし軽商用車5には物 品税が課せられていなかった。そこでスズキは「節税対策車」として、定員は4 人だが実 質2 人乗りという商用車規格の軽自動車アルトを 1979 年に発売した。新車販売価格 47 万 円という低価格は商用車として分類されたことで実現した。荷室が広いボンネットバン型 軽乗用車がブームとなり、ダイハツ・ミラなど他メーカーも追随して発売した。 商用車規格の乗用車が多く発売されたことで、1981 年それまで課されていなかった物品 税が軽商用車に対しても税率5%課されるようになった。しかし 1989 年、消費税が導入さ れたことで物品税は廃止され、商用車と乗用車の税格差は少なくなった。そうして商用車 ベースのボンネットバン型乗用車の軽自動車の人気は下火となった。そこから軽自動車は 安さだけでなく、空間の広さを求められるようになった。こうした背景からボンネットバ ン型の軽商用車が1989 年以前は主流だった。 しかし、それまでの常識を覆すような軽自動車「ミニカ・トッポ」が1990 年に三菱自 動車から発売された。ボンネットバン・セダン型であったミニカをベースに、全高を高く した軽自動車だ。この軽自動車は現在主流のハイトワゴンという新たなジャンルを確立し た。1993 年に「軽自動車は狭い」という従来の常識を覆す革新的な軽自動車が発売された。 それが「スズキ・ワゴンR」だ。この軽自動車はハイトワゴン用に新たに設計されており、 単純に全高を高くするだけでなく、席も高くすることで足元の空間を広くし、同時に広い 視界を得ることを可能にした。この革新的な構造により人気を博し、ダイハツはハイトワ ゴンのムーヴを発売し、ホンダ、三菱自動車、富士重工業からも追随して発売された。 2003 年にはダイハツからハイトワゴンより全高を高くし、極限まで室内空間を広くした タントが発売された。ハイトワゴンを超える高さのスーパーハイトワゴンというジャンル が確立され、スズキからスペーシア、ホンダからはN-BOX が発売された。2013 年度の軽 自動車実態調査によるボディタイプ別販売シェアでは、トールワゴンを含むハイトワゴン タイプが62%を占めており、室内空間の広い軽自動車が求められていることが分かる。こ れは一般的な小型車よりも室内空間が広い。 表2-3 は各社の主要な普通・小型車と軽自動車の大きさを比較している。車体寸法では 圧倒的に大きいクラウンだが、車内空間の広さで見ると軽自動車のN-BOX の方が大きい 5貨物用など商用目的の自動車を指す リアシートより荷室を大きくしなければならない為、リアシートにはヘッドレストなどが なく快適性は低い。
ことが分かる。スズキ・アルトは昔から存在するボンネットバン型で室内容量は少ない代 わり、の車内空間は広い一方、全幅、全長共に普通・小型車に比べ短いため、日本に多く 存在する道路幅の狭い道でも難なく運転できる。軽自動車ユーザーの6割を占める女性は、 運転に苦手意識を持っている人が多く、軽自動車は運転のしやすさで評価されている。全 長、全幅が短い反面、全高を上げたことで普通・小型車並の室内空間、積載を可能にした。 表2-3 主な軽自動車と普通・小型車の車内寸法の比較 種別 メーカー・車種 車体寸法(mm) (全長 x 全幅 x 全高) 車内寸法(mm) (全長 x 全幅 x 全高) 室内容積 (リットル) 価格 燃費 普通車 トヨタ・クラウン 4895x1800x1450 1975x1510x1190 3548 リットル 388 万円~ 13.4km/L 小型車 日産・ノート 4100x1695x1525 2065x1390x1255 3602 リットル 147 万円~ 26.2km/L 小型車 ホンダ・フィット 3995x1695x1525 1825x1415x1290 3331 リットル 129 万円~ 21.8km/L 軽自動車 ダイハツ・タント 3395x1475x1750 2160x1350x1355 3951 リットル 122 万円~ 28.0km/L 軽自動車 ホンダ・N-BOX 3395x1475x1780 2180x1350x1400 4120 リットル 119 万円~ 25.6km/L 軽自動車 スズキ・アルト 3395x1475x1500 2040x1255x1215 3110 リットル 84 万円~ 37.0km/L 出典:各社自動車メーカー仕様表 2-3 女性に支持される軽自動車 日本経済新聞によると軽自動車新車購入の3 人に 2 人が女性6であり、軽自動車ユーザー の6 割は女性である。本節ではなぜ軽自動車は女性に支持を受けているのか考察する。図 2-1 は運転免許保有者の男女別構成比を表している。この表からは女性の免許保有者が増 えていることが分かる。1985 年に男性免許保有者は 3427 万人に対し、女性免許保有者は 1807 万人だった。それが 2014 年には男性免許保有者が 4543 万人で増加率は 175%、女 性免許保有者は3664 万人と増加率は 203%だった。過去 30 年間で女性の免許保有者は 2 倍に増加しており、女性の伸びが大きく、自動車を運転することができる女性が大きく増 えたことが分かる。 6日本経済新聞「軽快走どこまで(中)店づくり女性目線で――子連れ配慮、車内広めに。」 2014 年 4 月 2 日 朝刊 11 ページ
図2-1 運転免許保有者 男女別構成比 出典:警視庁 運転免許統計 平成26 年版 では女性は自動車をどのように使用しているのか。図2-2 は自動車の利用用途を表して いる。男性は日帰り旅行や一泊旅行など長距離の移動手段として自動車を使っている割合 が高い。一方、女性は男性に比べると旅行などで自動車を使用せず、食品・日用品などの 買い物、郵便局や銀行、役所などへの足、病院や介護・福祉施設への通院などに多く使用 されている。この図からは女性は男性ユーザーに比べて、自動車を近所など近距離の移動 手段として使っていることが分かる。近距離移動の用途には燃費が良く小柄な軽自動車が 適しており、軽自動車が女性に支持を受けていると考えられる。 図2-2 自動車の利用用途 0% 10% 20% 30% 40% 50% 60% 70% 80% 90% 100% 1970 1975 1980 1985 1990 1995 2000 2005 2010 2014 女性 男性
単位:% 出典:「軽自動車の使用調査報告書」 日本自動車工業会 (2013 年 9 月 23 日~2013 年 9 月 30 日の期間に WEB 調査実施) 図2−3 は軽自動車の満足ポイントを表している。男性、女性ともに運転のしやすさを最 も評価している。女性は男性に比べて運転に苦手意識を持つ人が多く、小型で小回りがき き運転しやすい軽自動車に満足している。女性はその他にスタイル・外観、車体色など軽 自動車の車体を評価している。しかし男性ユーザーは女性とは異なり税金の経費、保険の 諸経費、車両価格など経済的な部分を評価する傾向がある。女性からの評価が高かった軽 自動車のスタイル・外観、車体色について詳しく見てみる。 2015 年の新車販売ランキング 1 位~10 位7の自動車のカラーバリエーション(ツートンカ ラー含む)の数では、小型・普通車は平均 12 色、軽自動車は平均 12.3 色と若干だが軽自動 車が多いもののそれほど差はなかった。近年では小型・普通車でもカラーバリエーション が増えている傾向にある。小型車であるホンダ・フィットやトヨタ・ヴィッツは単色だけ で17 色展開しており、軽自動車のホンダ・N-BOX の単色 11 色より多い。カラーバリエ ーションの多さが軽自動車の魅力であるとは一概に言うことはできない。しかし、軽自動 車を主力とするスズキやダイハツは女性の取り込みに力を注いでいる。女性をターゲット とした丸みを帯びた可愛らしい軽自動車である、スズキ・ラパンやダイハツ・ミラココア 7 アクア、N-BOX、タント、デイズ、プリウス、ムーヴ、フィット、アルト、カローラ、ワゴン R の小型・普通車 4 車種と軽自動車6 車種
などを発売している(図 2-4)。スズキの発表によるとラパンの前モデルでは購入者の 9 割が 女性だという。スズキは売れ筋の車種でも子育てにかかせない箱ティッシュペーパーを助 手席や天井に収納することができる女性目線の軽自動車開発が進んでいる。 図2-3 軽自動車の満足ポイント 単位:% 出典:「軽自動車使用実態調査」日本自動車工業会 55 ページより引用 図2−4 女性をターゲットとした軽自動車 出典:ダイハツ・ミラココア、スズキ・ラパン メーカーHP より引用 女性ユーザーへのアプローチを強めるために軽自動車各社は取り組みを進めている。日
本経済新聞によると「スズキは国内営業推進部に『女子改』と呼ばれる組織を設置した。 営業強化に向けて販売店の店舗の内装などについて改善点を提案する」8とある。子供が遊 べるスペースや授乳室を設置するなどして、女性客の取り込みに力を入れている。ダイハ ツでは販売店をカフェのように改装し、女性客に気軽に立ち寄ってもらえる販売店を目指 す「カフェプロジェクト」が進んでいる。ホンダは軽自動車に特化した販売店「スモール ストア」を展開しており、窓を大きくすることで外から中が見えるようにして、女性客が 入りやすい店舗を増やしている。軽自動車の一番の特徴である「運転のしやすさ」に加え て、メーカーによる女性目線の軽自動車設計、そして女性が入りやすい販売店の増加によ り、今後ますます軽自動車を選ぶ女性は増えると考えられる。 3. 海を越える軽自動車 3-1. 2 社しかなかったインド自動車市場 「軽自動車」は日本国内でしか通用しない独自規格であることから、国内で独自の進化 を遂げた携帯電話「ガラパゴス携帯」になぞらえ、「ガラ軽」と揶揄されることもある。軽 自動車は本当に国内でしか通用しないガラパゴスカーなのだろうか。実は既に軽自動車が 海外進出に成功した例がある。それが1982 年にインドへ進出したスズキだ。スズキはイ ンドで販売シェアの40%以上を獲得している。インドでスズキはどのようにして成功した のか、本節ではインドの自動車産業の歴史を考察していく。 インドでは日本と同様に古くから自動車産業が発展しており、1930 年代には米 GM や フォードが進出し、年間10 万台程度の生産能力があった。また 1940 年代に入ると、現地 財閥企業が自動車製造に参入し、ヒンドゥスタン・モーターズ、プレミア・オートモービ ルズが相次いで設立された。中国初の自動車メーカーである第一汽車は1953 年に設立さ れているので、インドではいかに早くから自動車産業が発展していたか分かる。 インドは長らく植民地支配されていたが1947 年に独立し、政府は社会主義的な国内産 業保護の政策をとった。多くの産業では政府による許認可制度がとられ、政府から受けた 製造免許に従い生産しなければならなかった。製造免許の内容は生産台数に限らず、製品 の詳細な仕様にまで言及されており、それらを変更するためには政府の承認が必要だった。 会社側からすると非常に煩雑な手続きが必要であり、それがインドの工業発展を妨げた原 因の1 つである。この許認可制度は自動車産業も例外ではなかった。外資メーカーに対し ても国は厳しい政策をとり、1953 年には自動車の部品国産化を推進した。部品の国産化を 推進できない会社に対し、政府は閉鎖勧告という厳しい姿勢をとり、これに対応できなか った米GM と米フォードは 1954 年にインドから撤退した。自動車の輸入も禁止され、イ ンド自動車メーカー2 社による独占が 1980 年代まで続くことになる。 8日本経済新聞「軽自動車販売、女性に照準 スズキ・ダイハツ・ホンダ」2013 年 3 月 19 日電子版 http://www.nikkei.com/article/DGXNZO53000500Z10C13A3TJ3000/
競争のない産業となったインド自動車産業は散々なものであった。自動車のラインナッ プは非常に乏しく、1954 年に発売された自動車が 2014 年まで販売され続けるというよう な状況だった。自動車の販売価格は国によって統制される上に、法人税は非常に高く利益 はほとんど出なかった。技術革新は生まれず、生産台数も限られていたため販売する努力 はほとんどされておらず、自動車メーカー側の売り手市場だった。こうした状況で、マル チが設立される1981 年以前の数年は年間販売台数平均 4 万台程度だった。 インド政府はこうした状況を打破するために国民車構想を打ち出した。こうした経緯か ら1981 年に国営企業としてマルチ・ウドヨグ社(以下マルチ)が設立された。設立にあたり 年間10 万台の自動車生産と国内で製造した部品を使用することが義務付けられた。設立 当初、パートナー企業の第一候補は仏ルノーであった。しかしマルチが行った市場調査で インド国民が求めている自動車は小柄な車体の自動車、低燃費で低価格であることが求め られていると分かった。国民車としてルノーはふさわしくないと判明し、マルチの調査団 は世界の自動車メーカーを視察した。日本を訪問したときインドに適した小型車を強みと していた鈴木自動車工業(現スズキ)が国民車として適切であると考えられた。また当時社 長であった鈴木修(現代表取締役会長)の積極的な対応によりパートナー企業として選ばれ、 1982 年に合弁会社を設立した。 日本で発売されていたスズキ「アルト」をベースとしてインド向けに改良を加え、1983 年には排気量を800cc にまで上げた「マルチ 800」をインドで発売した。低燃費と低価格 を実現し、予約だけで10 万台を超える大人気を博した。それ以来インドでは自動車販売 台数は右肩上がり、さらに1991 年にインド政府が行ってきた輸入代替工業化を転換し、 経済改革が行われた。それにより外資自動車メーカーが多く参入し、より一層インド国内 自動車販売台数は増えていった。図3-1 は 2014 年度インドにおける自動車販売のシェア を表している。インドにおける2014 年度のマルチ・スズキの自動車販売台数は 117 万台 で世界全体の4 割を超えている。マルチ・スズキが 2 位の現代自動車を圧倒的に上回る 45% のシェアを獲得している。次節ではマルチ・スズキの軽自動車がどのようにして、インド 国民の心を掴んだのか考察していく。 図3-1 2014 年度インド国内販売シェア(商用車除く)
出典:インド自動車工業会資料を基に作成 3-2. インドの国民車「マルチ・スズキ」 経済成長を続けるインドの自動車販売台数は日本やブラジルに続く世界5 位だ。インド の2014 年度の自動車販売台数は 2013 年度から 3%増となり、321 万台だった。2014 年 度の人口は2014 年時点で 13 億 1000 万人、2022 年には中国を超え人口で世界一位にな るという予想9もある。しかし、インドの1 人当たりの GDP は 1,608 ドル(2012 年度)で、 日本の36,222 ドルには全く及ばず、中国の 7,500 ドル、タイの 5,900 ドルにも及ばない。 図3−2 はインドの所得別世帯構成比を表している。低所得層や中所得層の多くは 5 万ル ピー程度で購入できる二輪スクーターを所持していた。1983 年以前、30 万ルピーという 高価格であった自動車は、高所得層しか手が届かなかった。インドに進出したスズキが成 功した理由として、スズキが販売した車が経済的であったことが挙げられる。1983 年に発 売された「マルチ800」は 20 万ルピーという低価格だった。1958 年から販売されており、 当時インドの国民車的な存在であったヒンドゥスタン・モーターズ「アンバサダー」の価 格は30 万ルピーであり、一般庶民には手が出なかった。 図3−2 インドの年間所得別世帯構成比の推移 9国連「世界人口予測」2015 年 7 月 29 日 45% 16% 9% 7% 6% 5% 3% 2% 2%2% 2% 1% マルチ・スズキ 現代 マヒンドラ&マヒンド ラ ホンダ タタ トヨタキルロスカ フォード GM 日産 ルノー VW
出典:「通商白書2007」第 1 章世界経済の現状と今後の課題 経済産業省 マルチ800 の登場により自動車が 3 分の 2 の価格で入手することができるようになり高 所得層の乗り物だった自動車が、上位中所得層も自動車を購入できるようになった。また、 マルチ800 は軽自動車をベースとしているため車体重量が軽く、排気量も小さいので燃費 に優れていた。インドではガソリン価格が高く、2014 年 1 月で 1 リットルあたり 120 円 前後と日本と変わらない価格である。日本とインドの所得差を考えると燃料費は大きな負 担であり、インド人にとって燃費は重要な要素だ。低燃費・低価格・コンパクトなマルチ 800 は瞬く間にインドの人気車種となった。インドでマルチ・スズキが成功した理由は経 済的な自動車を販売しただけではない。マルチ・スズキは手厚い販売網の構築、アフター ケアサービス拠点をインド各地に作った。販売店教育にも力を注ぎ、販売店大会を開催す るなどしてサービス向上に力を入れた結果、JD パワーCSI 調査で 2013 年まで 14 年連続 で1 位を獲得した。マルチ・スズキは販売そして販売後の保守という点にも力を入れ、イ ンド自動車販売で大きなシェアを占めてきた。 しかし1991 年に経済開放されて以来、多くの外資メーカーがインドに進出してきた。 1994 年には米ダイムラー・クライスラーと米 GM、1995 年ホンダ、1996 年韓現代、1997 年には伊フィアット、トヨタといった巨大自動車メーカー相次いで進出した。外資メーカ ーの参入による競争の激化で、マルチ・スズキはシェアを落とした。2009 年にはタタ・モ ーターズから10 万ルピー(日本円でおよそ 28 万円)の世界最安小型車「ナノ」が発売され、 世界に衝撃を与えた。マルチ・スズキも世界最安の自動車にシェアを奪われるのではない かと懸念していたが、ナノは当初計画された台数を下回る販売台数だった。タタ・モータ ーズがナノの販売に苦戦した最も大きな原因として、販売網の弱さが挙げられる。なぜな 0% 10% 20% 30% 40% 50% 60% 70% 80% 90% 100% 1985年 1989年 1992年 1995年 1998年 2001年 高所得層(180,001ルピー~) 上位中所得層(135,001~ 180,000ルピー) 中所得層(90,001~135,000 ルピー) 下位中所得層(45,001~ 90,000ルピー) 低所得層(~45,000ル ピー)
らマルチ・スズキの販売店はインド全土に1200 店舗あったが、タタは 500 店舗しかなか った。タタ・モーターズの販売網がターゲットである中所得層の多くが住む農村まで届い ておらず、購入するためには販売店のある都市まで行く必要があった。また、修理を行う ことの出来るサービス拠点も少なかったため、購入してもアフターケアを受けることが難 しかった。加えて、自動車のローン金利がマルチ・スズキに比べ非常に高かった。結果と してナノは二輪ユーザーからの乗り換えは少なく、都市部に住む高所得層のセカンドカー として買われることが多かった。 低価格で小型車を発売する現代、トヨタも40 万ルピーという低価格の自動車を発売し、 マルチ・スズキのシェアは少しずつ下がっている。インド国内自動車販売台数の増加が続 き、欧米メーカーや日系メーカーともに力を注いでいる。欧米メーカー各社も低価格車を 相次いで投入し、マルチ・スズキはシェアの維持・拡大をすることは容易ではない。 3-3. 新興国に挑む軽自動車 自動車は車体の大きさ、価格によってA~E、L セグメント10に分類される。軽自動車は A セグメントに分類される。B、C セグメントは小型車、D、E、L になるにつれて大型で 高級になっていく。セグメントの定義は様々あるがここでは、と定義するインドでは 50~100 万円以下を中心とする低価格の軽自動車を含む小型車である A セグメント車が、 インド自動車販売全体の8 割を占めている。表 3-1 は 2013 年に調査された国別上位 5 車 種平均価格を表している。日本では上位5 車種の車体平均価格が$19,827 だが、インドで は$5,945 と日本に比べると 3 分の 1 以下で、中国やタイ、インドネシアなど他新興国と比 べても低いことがわかる。2015 年現在インドで最も売れているスズキのアルト 800 は 30 万ルピーで、日本円に換算すると55 万円程度だ。一方、中国の最人気車種であるフォー ドの小型車は130 万円程度、インドネシアの人気車種であるトヨタの小型車は 150 万円で あり、いかにインドで人気な車が低価格なのか分かる。 表3-1 国別販売上位 5 車種の平均価格 出典:「自動車産業を巡る構造変化とその対応について」経済産業省 製造産業局 自動車課 http://about.bloomberg.co.jp/content/uploads/sites/5/2015/07/METI.pdf インドではアルト800 のような A セグメント車が自動車販売の主流であることには変わ 10 セグメントの定義は地域によって様々だが、ここでは A セグメント全長 3800mm 以下、 B セグメント全長 3700mm~4200mm、C セグメント全長 4000mm~4500mm、D セグメ ント全長4400mm~4900mm、E セグメント全長 4700mm~5000mm、L セグメント全長 5000mm 以上と定義
りないが、より車体の大きいスズキのワゴンR やスイフトといった B、C セグメントへの 需要が高まっている。スズキの中長期経営計画によるとA セグメントに分類される軽自動 車が中心であることは変わらないが、販売車種が少なかったB、C セグメントのセダンな どに新型車を導入することを決めている。2019 年までにインド市場では A セグメントで 6 モデル、B、C セグメントに 9 車種を投入する。A セグメントを中心に販売してきたスズ キは軽自動車よりも車体、排気量の大きい自動車の開発を進め、B、C セグメントの販売 比率を徐々に増やしている。 図3-3 は国別自動車販売台数におけるセグメント別構成比を表している。中国、インド、 アメリカに次ぐ人口の多さを誇るインドネシアの自動車市場を見ると、最も売れ筋のセグ メントは、アルト800 のような A セグメントではなく、7 人以上が乗車できる MPV11だ。 2013 年度ではインドネシアで販売された自動車の半分近くを MPV が占めている。新興国 では所得の拡大と比例して大きな自動車が求められる傾向があり、タイなどASEAN 諸国 でも多人数が乗ることのできる大型車の需要が増えている。 図3-3 国別自動車販売台数におけるセグメント別構成比 出典:「ASEAN 自動車市場動向とタイ拠点の役割の変化」知的資産創造 2014 年 5 月号 野村総合研究所 http://www.nri.com/~/media/PDF/jp/opinion/teiki/chitekishisan/cs201405/cs20140506.p df より引用 MPV や SUV12が販売台数におけるシェアを増やす一方、A セグメントもシェアは少な いながら堅調に推移している。インドネシアでは2013 年から「ローコスト・グリーンカ ー」政策が始まり、車体の大きさ、価格、部品の現地調達率の規定を満たせば減税される。
11 Multi Purpose Vehicle の略。他人数が乗車できるミニバンなどを指す。
マレーシアでも「エナジー・エフィシエント・ビークル」という低燃費車を減税する政策 が始まり、燃費に優れる軽自動車には有利な政策だ。ダイハツやスズキが軽自動車をイン ドネシアやマレーシア市場に投入している。インドネシアの自動車販売台数におけるメー カー別販売シェアは、ダイハツが15.3%でトヨタに次ぐ 2 位だ。 スズキやダイハツを中心とした軽自動車メーカーが日本国内で熾烈な燃費、価格競争を してきた。今、新興国ではその競争の中で先進的な技術を身につけた軽自動車が求められ ている。新興国市場で成功できるか否かは、市場に適した自動車と販売網をいかに構築す ることができるかにかかっている。 4. 軽自動車は世界戦略車へ 4-1. 軽自動車の魅力「税金の安さ」 2015 年 4 月 1 日以降に新車購入された軽自動車は軽自動車税が 7,200 円から 10,800 円 にまで値上げされた。この増税の影響は大きく、2015 年の国内軽自動車販売台数は 189 万台で2014 年から 16.6%減少し、4 年ぶりに前年を割り込んだ。経済性に敏感な軽自動 車ユーザーにとって、軽自動車の増税は大きな意味を持っている。 日本自動車工業会による2013 年度軽自動車使用実態調査報告書によると、消費者が軽 自動車を購入する理由は「経済性」が72%となっており、経済性の観点で軽自動車が選ば れることが分かる。軽自動車を保有している世帯年収を見ると、400 万円以下が 39%と最 も多い。軽自動車は小型・普通車と比べて車両価格が安いことに加え燃費が良く、年収の 低い世帯が軽自動車を選ぶと考えられる。とりわけ軽自動車は税優遇されており、軽自動 車にかかる年間の税金は小型・普通車に比べて低く、軽自動車は経済的であると呼ばれる 所以である。軽自動車の税優遇について考察する。 日本では自動車(軽自動車含む)の購入・維持に消費税の他、主に 3 つの税金がかかる仕 組みになっている。その3 つとは①自動車取得税②自動車重量税③自動車税・軽自動車税 だ。①の自動車取得税とは自動車を買うときに課される税金だ。普通車は購入額の3%、 軽自動車は2%の自動車取得税がかかる。②の自動車重量税は、新車購入時と車検時に普 通車は0.5 トンあたり年 4,100 円、軽自動車は1台 3,300 円というように車両重量によっ て課税される。③の自動車税・軽自動車税は買った翌年度からは毎年課税される。普通・ 小型車は排気量によって課される自動車税、軽自動車には軽自動車税を課される。自動車 税は国税で、軽自動車税は都道府県税になる。 自動車の購入、維持のためにはこれら3 つの税金がかかる。軽自動車は小型・普通車と 異なり、排気量と車体の大きさを制限される代わりに、税金は安く設定されている。代表 的なコンパクトカーである日産「ノート」やホンダ「フィット」といった自動車の場合、 毎年課せられる自動車税は34,500 円だが軽自動車は軽自動車税 10,800 円と 3 分の1以下
である。排気量の大きい普通車はさらに自動車税は高額になる。また、自動車購入時と車 検時にかかる車両重量税でも車両重量が1トン以下の軽自動車と小型・普通車の間では約 3 倍の開きがある。 近年、軽自動車規格の改訂による軽自動車の大型化に加え、軽自動車の進化により小型・ 普通車と遜色のない走行性能、車内空間の広さを実現している。その一方で、軽自動車に 課せられる税金は小型・普通車に比べると圧倒的に安い。国内新車販売のシェアで軽自動 車は4 割を超え、軽自動車が主役になっている。この現状に小型・普通車を中心に製造す るトヨタなどは、小型・普通車と軽自動車の間で大きな税格差があることは不公平として 軽自動車の税優遇に反発している。そもそも軽自動車規格は、貧しい時代に自動車を普及 させるために作られた規格であり、既に役割を終えているというのが軽自動車規格廃止派 の主張だ。一方で軽自動車メーカー側は、軽自動車は人口10 万人以下の都市で世帯普及 率が半分であり、鳥取県や佐賀県などでは軽自動車の世帯普及率は9 割13を超えている。 軽自動車は地方において、日常生活の足としての役割を担っており軽自動車規格は存続さ せるべきだと主張している。軽自動車に増税が行われると、軽自動車の魅力であった「経 済性」が失われることになる。軽自動車の販売台数に大きな影響を与えることは間違いな い。 4-2. 絶滅の危機「ガラ軽」 しかし、軽自動車は日本の道に適合した大きさで「運転のしやすさ」において男性では 経済性と同等に、女性の場合では経済性よりも評価されている。図2-3 にある通り、とり わけ女性は軽自動車を税金の経費より運転のしやすさを高く評価している。デザインやス ライドドアなどでも評価しており、軽自動車の魅力は経済性だけではないことが分かる。 また、女性向けの軽自動車が多かったが、ここ数年ではホンダから軽自動車規格のオープ ンカー「S660」やダイハツ「コペン」、スズキからはスポーツカー「アルト・ワークス」 など男性に魅力的な自動車もラインナップに加わっている。小柄・軽量な車体そして手頃 な価格でスポーツカーに乗れるということで人気を博している。このように軽自動車に満 足をしている人間が多い一方、不満な点もあるようだ。 軽自動車の主な不満点として「遮音性のなさ」、「馬力のなさ」が挙げられる14。いずれ も車体サイズと排気量の小ささに起因するものである。遮音性のなさという点については、 限られた車体寸法の中で大きな室内空間を実現するためにエンジンルームと室内が近くな ってしまう。馬力のなさという点では、本来であれば660cc でも出力をさらに向上させる ことは可能だ。しかし、軽自動車が小型車と変わらない、或いは凌駕するエンジン出力に なれば軽自動車規格の存在が危うくなってしまうという理由で、1987 年に当時軽自動車で 13日経産業新聞「軽自動車(1)生活の足、燃費も改善(よくわかる)」 2013 年 4 月 23 日 12 ページ 14 日本自動車工業会(2014)「軽自動車使用実態調査」56 ページ
最高出力を誇ったアルト・ワークスの64 馬力を上限に自主規制が設けられている。1998 年にも軽自動車の車幅と全長を拡大する規格改正があったが、軽自動車の車格でこれ以上 馬力を上げると衝突安全性を確保できないとして64 馬力の自主規制は現在まで継続され ている。 確かに軽自動車は規格が限られており、衝突安全性能では小型・普通車に劣る。しかし 2014 年度にホンダの「N-ワゴン」が軽自動車で初めて自動車アセスメント15で5 つ星の評 価を得た自動車に表彰されるJNCAP ファイブスター賞16を獲得した。軽自動車は安全性 能が劣るという欠点を克服しつつある。また安全性能を向上させるために、衝突軽減ブレ ーキなど先進装備の装着が軽自動車でも進んでいる。しかし、安全性能向上のために車重 増加により燃費が悪化し、軽自動車の利点を殺してしまいかねない矛盾をはらんでいる。 軽自動車は日本の道路事情に合った大きさ、企業努力による軽自動車の進化、そして税 優遇により発展を続けてきた。国内の軽自動車販売台数は税制度で大きく影響を受ける可 能性があり、軽自動車メーカーは生き残りをかけて海外進出を進めている。新興国でも軽 自動車が広がりつつある中、欧米では軽自動車が通用するのか次節で考察していく。 4-3. 世界的に高まる A セグメント車需要 日経テクノロジーオンラインによると「世界的にA セグメント B セグメントといった小 型車のシェアも増えるとみる。2000 年時点では両者の合計シェアは 19%程度だったが、 これが2020 年には 22%程度になると予測する」17とある。軽自動車が含まれるA セグメ ント車は小柄、軽量であることから燃費が良く CO2 削減にも貢献することから人気が高 まりつつある。また車体の大きさだけでなく、エンジンの小排気量化が世界的に進んでい る。 現在の世界的な自動車の流行として排気量を小さくしつつ、パワーを維持するためにエ ンジンにターボチャージャー(過給器)を装着する「ダウンサイジングターボ」の車が増え ている。日経ビジネスオンラインによると「『ターボチャージャー』とは圧縮した空気を送 り込み、エンジンパワーを増大する『過給機』と呼ばれる装置だ」18とある。厳しくなる 環境規制に対応するためエンジンを小型化し、ターボチャージャーを搭載することでエン ジンパワーを向上させる仕組みだ。利点としては小排気量にすることで排出ガスを削減す ること、低燃費を実現できることが挙げられる。欧米メーカーでは 1000cc 程度の小排気 量エンジンを搭載する小型車が増えている。一方で日本メーカーは電気モーターとエンジ 15 市販されている自動車の安全性能について試験による評価を行うこと 16 国土交通省と独立行政法人 自動車事故対策機構による自動車安全性能評価 17「世界販売台数に占めるシェアはSUV が伸び、D セグメントは減少傾向」日経テクノロ ジーオンライン2014 年 4 月 25 日 18「ターボチャージャー、エコの悪役が切り札に変身」日経ビジネスオンライン2013 年 3 月18 日
ンを組み合わせて走るハイブリッド技術に注力しており、ダウンサイジングターボでは出 遅れている。 しかし軽自動車はダウンサイジングターボの先端を走っている。出力と燃費向上のため にターボが搭載される軽自動車が多くある。660cc 以下という世界では類を見ない小排気 量の中でスズキ・アルトは燃費で 37.0km/l(JC08 モード)を誇り、トヨタのハイブリッド 車である「アクア」と同等だ。エンジンの進化のみならず、低重量であることが大きく関 係している。軽自動車の車体重量の平均が895kg に対し、小型・普通車は平均が 1484kg と圧倒的に軽自動車が軽い。軽自動車は少ない資源で製造でき、さらに低燃費と、環境に 優しい車なのだ。軽自動車はインドやインドネシアといった新興国のみならず、先進国を 含む世界に進出することができるはずだ。 しかし近年の軽自動車は両側スライドドアや安全性能の向上により、車重は重くなる傾 向で、代表的なスーパーハイトワゴンのN-BOX では 950kg ある。1 トン近い車重では 660cc という小排気量は効率が悪く、1000cc 程度が最も効率が良いと言われている19。実際にイ ンドやインドネシアなど海外に輸出されている軽自動車は660cc ではなく、800cc~1000cc の一回り大きなエンジンに載せ替えられている。また軽自動車規格の車体サイズが小さす ぎることが問題だ。大柄な欧米人には車内が狭く感じられるという点、そして全長が短い ため直進安定性が悪く長距離を高速で走ることの多い欧米では浸透しにくい。今の軽自動 車規格は車体サイズがあまりに小さすぎること、そしてエンジンの排気量が小さすぎるこ とが問題だ。 軽い車体、そして低燃費である軽自動車は省資源、省エネルギーが求められる現在の世 の中にマッチしたエコカーだ。しかし現在の軽自動車規格のままでは車体の大きさ、エン ジン排気量共にごく一部の海外と日本でしか通用しない。軽自動車規格の変更・撤廃を行 わない限り、軽自動車はガラパゴスカーで在り続けるだろう。 おわりに 軽自動車繁栄の歴史を紐解くと、軽自動車は規格や税制度に翻弄されながら進化してき た過程があったことが分かる。節税車として作られた初代スズキ・アルト、居住性を劇的 に拡大したハイトワゴン、スーパーハイトワゴンの登場など限られた規格の中で限界に挑 戦するメーカーの姿勢を感じ取ることができる。メーカーの努力もあり、いまや多くのユ ーザーにとって軽自動車は小型・普通車よりも魅力的な存在になっている。 しかし日本国内では将来的に①軽自動車規格廃止②規格維持+増税③規格拡大+増税の いずれかが実施されるだろう。そのとき、軽自動車は大きく国内販売台数を減らし、軽自 動車メーカーは大打撃を被ることになる。軽自動車メーカーは日本市場に依存し、大きな 影響を受けない為にも海外進出を進めなければならない。スズキはいち早く海外に進出し、 19 オートックワン「軽自動車は本当に燃費が良い?」 http://autoc-one.jp/word/353836/
軽自動車を東南アジアに広げ、ダイハツもマレーシアでは大きなシェアを獲得している。 しかし、いずれの場合も多くは軽自動車をベースとしながらも全幅や排気量を拡大してお り、軽自動車は世界標準から大きく外れたガラパゴスカーであることには違いない。軽自 動車規格の拡大もしくは廃止し、世界に通ずる自動車にするべきだと考える。 最後にはなるが本論文の作成において、添削をしてくださった佐藤治正先生には心から 感謝致します。本当にありがとうございました。 参考文献 1. IT メディアビジネス「スズキが“世界自動車戦争”の鍵を握る理由」 <http://bizmakoto.jp/makoto/articles/1506/29/news011.html> 2016 年 1 月 8 日閲覧 2. 荒川潔(2011 年)「軽自動車の優遇税制と社会厚生」 3. R,C,バルガバ(2006 年)「スズキのインド戦略」(島田卓訳)中経出版。 4. 石川和男(2008 年)「わが国のモータリゼーション発展期における自動車産業の環境と 自動車メーカーによるマーケティング対応」 5. ウォール・ストリート・ジャーナル「インドの国民車「アンバサダー」、生産停止」 <http://jp.wsj.com/articles/SB10001424052702304357604579589020077415290> 2016 年 1 月 5 日閲覧 6. 桂木洋二(2015 年)「スバル 360 開発物語」グランプリ書店。 7. 軽自動車検査協会「軽自動車の歴史」 <http://www.keikenkyo.or.jp/information/information_000155.html> 2015 年 11 月 5 日閲覧 8. サンケイビズ「インドのタタ、乗用車の販売戦略立て直し シェア巻き返しへ店舗数 倍増」 <http://www.sankeibiz.jp/business/news/141225/bsk1412250500001-n1.htm> 2015 年 12 月 1 日閲覧 9. 自動車法務.com「自動車ナンバーの色の違いは!?」 <http://www.jidousha-houmu.com/topics/011/> 2015 年 12 月 2 日閲覧 10. 鈴木修(2009 年)「俺は、中小企業のおやじ」日本経済新聞出版社。 11. 戦後日本のイノベーション 100 選「小型(軽)自動車」 <http://koueki.jiii.or.jp/innovation100/innovation_detail.php?eid=00029&age=hig h-growth&page=keii>
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