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中学校理科における科学的探究可能な「問い」の生成プロセス

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(1)理科教育学研究 Vol.61 No.3(2021) doi: 10.11639/sjst.20029. 原著論文. 中学校理科における科学的探究可能な「問い」の生成プロセス 河原井俊丞 1 宮本 直樹 2 【要   約】 本研究では,中学生を対象とした理科授業において,個人が事象の観察から科学的探究可 能な「問い」を生成するまでのプロセス内で明らかとなっていない思考の有無を検討し,そ れらが「問い」の生成プロセス内のどこに見られるのかを明らかにすることを目的とした。 その結果,生徒にとって,「何かに気付いた→何か疑問に思った→『問い』を生成した」とい う「問い」の生成プロセスを辿りやすい一方で,原因性,規則性,相互関係性,類似性・差 異性といった科学的探究可能性の要素は,生徒の「問い」の生成プロセス内の「問い」への 推移において多く内包されることが明らかとなった。 [キーワード]科学的探究可能な「問い」,生成プロセス,中学校理科. 1.はじめに 科学的探究では,「問い」1) に基づいて探究を進め ていくことが可能か不可能かを判断したり,「問い」 を解決する方法を計画する(OECD, 2016)。よって, 「問い」は科学的探究 2)において必要不可欠なもので ある。その「問い」は,科学的探究において初段階 に位置付けられ,突如として生成されるのではなく, 「気付き」「疑問」を踏まえて生成されるとされてい る(例えば,中央教育審議会,2016 3))。また,生徒 によって生成される「問い」は単なる「問い」では なく,科学的に探究可能な「問い」を生成すること が求められる(例えば,森,2003;中山,2018)。そ こで,「問い」を生成する先行研究 4)を見ると,以下 の 3 つの課題点を挙げることができる。1 点目,小 暮・小倉(2018) ,渡邉(2000)の研究では「問い」 の生成の際に「気付き」「疑問」に着目しているもの の,中央教育審議会(2016)が示すような「気付き」 →「疑問」→「問い」といったプロセスを生徒が 辿っているかについて検討がなされていないこと,2 点目,小暮・小倉(2018),渡邉(2000)の研究では 「問い」を生成するまでのプロセスにおいて「気付 き」 「疑問」以外に明らかとなっていない思考の有無 について検討がなされていないこと,3 点目,渡邉 (2000),小暮・小倉(2018),吉田・川崎(2019)の 1 2. 研究では,理科授業の導入において,生徒が事象の 観察から「問い」を生成するプロセスについては調 査がなされていないことである。こうしたことから, 理科授業における生徒の科学的探究可能な「問い」 の生成プロセスは,不明瞭な点が多くあるため,実 証的な調査が求められる。また,鈴木・藤本・益田 (2019)は中学校理科教員に対して学習指導に関する 意識調査を行った結果,中学校理科教員が「自然の 事物・現象から問題を見いだし,適切に課題づくり ができるようにする指導」について,指導が十分で ないと認識していることや「『生徒が自ら課題をつく る授業をどのように行えばよいか分からない』とい う教員の声が少なくない」ことを指摘していること から,中学校理科教員は「問い」を生成する指導に ついて困難を感じていると言える。こうしたことか ら,「問い」の生成プロセスを明らかにすることによ り,教師に対して生徒の「問い」の生成場面におけ る支援が可能となり,科学的に探究可能な「問い」 を生成する教授方略の検討に対しての一助となり うる。. 茨城町立明光中学校 茨城大学教育学部 403. 2.目的及び方法 本研究では,中学生を対象とした理科授業におい て,個人が事象の観察から科学的探究可能な「問い」 を生成するまでの思考のプロセスを「問い」の生成 プロセスとし,すでに知見として得られている「問 い」の生成プロセス内で明らかとなっていない思考.

(2) 河原井・宮本:中学校理科における科学的探究可能な「問い」の生成プロセス. の有無を検討し,それらが「問い」の生成プロセス 内のどこに見られるのかを明らかにすることを目的 とする。 研究の方法として,まず,本研究における「問い」 の捉え方を先行研究より明確にするとともに,「問 い」の科学的探究可能性について科学史より検討を 行う。次に,「問い」の生成プロセスを調査する質問 紙調査を作成する。さらに,「問い」を生成する授業 実践後にその質問紙調査を実施し,生徒の実態に即 した科学的探究可能な「問い」の生成プロセス内で 明らかとなっていない思考の有無を明らかにし,そ れらが「問い」の生成プロセス内のどこに見られる のかを明らかにする。最後に,科学的探究可能な 「問い」の生成プロセスから科学的に探究可能な「問 い」を生成する教授方略についての示唆を得る。. 3.科学的探究可能な「問い」の捉え方 3.1 先行研究における「問い」の捉え方 これまでの「問い」に関する先行研究において, Cuccio-Schirripa & Steiner(2000)では「調査可能な『問 い』 (Researchable question) 」とし「探究,調査,実験 において,変数を測定,特定,操作することよって 収集されたデータにより未知のことを解決するもの」 , 坂 本 ら(2016) で は「 科 学 的 な『 問 い 』(Scientific question)」とし「観察・実験を通して実証可能な問 い」,廣・内ノ倉(2017)では「科学的探究可能な 『問い』」とし「操作可能な特定の変数に着目して, 観察・実験などの科学的な手法を通じて答えること ができる疑問」 ,吉田・川崎(2019)では単に「問い」 とし「疑問を探究の見通しを含む形にしたもの」と 捉えられている。このように「問い」は,先行研究 によって様々な捉え方がされているが,これらの研 究では変数の抽出がなされ,実験・観察を行うこと が可能であるといったことが特質として挙げられる。 一方,中村(2018)は,「問い」の生成に関する先 行研究の評価方法について検討を行い,「問い」の生 成に関する先行研究において,生成された「問い」 のみを評価し,「問い」の生成プロセスまでを評価対 象としていないことを指摘している。この指摘から, 先述した「問い」の生成に関する先行研究の「問い」 の捉え方では,「問い」がもつ科学的探究可能性につ いて検討が十分であるとは言い難い。「問い」の生成 プロセスについての検討を行い,生成された「問い」 のみからでは不十分であった「問い」がもつ科学的 探究可能性についての検討を試みる必要がある。そ こで,「問い」の生成プロセスまでも含めた科学的探 究可能な「問い」の捉え方を定める。. 3.2 科学的探究可能性の要素の検討 「問い」の生成プロセスまでも含めた科学的探究可 能な「問い」の捉え方を定めるにあたり,科学的探 究を進めていくことを可能とする要素があるのでは ないかと推測する。それは,廣・内ノ倉(2019)に おいて,中学生は比較,パターン探索,予測といっ た「問い」の種類によって科学的な探究可能性につ いての判断しやすさが異なると報告しているためで ある。よって,生徒は「問い」に内包された要素か ら「問い」の科学的な探究可能性について判断して いると捉えることもできる。そこで,本研究では 「問い」には科学的探究を進めていくことを可能とす る要素が内包されていると捉え,さらに,この要素 は生成された「問い」のみならず,「問い」の生成プ ロセスにも内包されると捉え,これを科学的探究可 能性の要素とする。 科学的探究可能性の要素の検討にあたり,科学者 が実際に探究を進めていくことができた事例に着目 する。科学者は「問い」に基づいた科学的探究を遂 行しており,周知の通り,中学校における科学的探 究は科学者における科学的探究を参照している。こ うしたことから,科学史における科学的探究を遂行 した科学者の「問い」の生成プロセス及び生成した 「問い」から,科学的探究可能性の要素について検討 を行う。その方法として,誰が,どのような過程の 中で,どのような「問い」を生成または「仮説」5) を設定し,どのような結論を得たかについて HOSC (History of Science Cases)6)における科学者の事例か ら読み取り整理し,科学的探究可能性の要素の検討 を行った(表 1)。 例えば,クロッパー(1976a)において,表 1 に示 すようにシュライデンは個々の細胞の生命の過程を 理解することが重要であるという過程の中で,「問 い」として細胞の起源が何かということに着目し, そこには小さな細胞から定まった大きさまで成長す るという絶対的な法則があることを結論として得て いる。つまりシュライデンは,細胞の起源という規 則に着目,そして細胞の起源を明らかにする,換言 すれば細胞の起源についての立証を行っている。こ うしたことから,シュライデンの事例からは,規則 性や立証性といった科学的探究可能性の要素が含ま れていることが考えられる。他にも,クロッパー (1976b)において,表 1 に示すようにビビアニ,ト リチェリは揚水ポンプによって 10.3 m 以上に水をあ げることができない,自然は真空を嫌うという説の 広まりという過程の中で,「問い」として水以外の液 体でもある一定の高さまでしか上らないであろうと. 404.

(3) 理科教育学研究 Vol.61 No.3(2021). 表 1 科学的探究可能性の要素の検討 誰が. どのような過程で. シュライデン. ブラウンによる植物細 胞の核の発見。個々の 細胞の生命の過程を理 解することは,植物生 理学の理解(比較生理 学も含めて)にとって 主要で不可欠な基礎で あることは明白である. ビビアニ トリチェリ. フラウンホーファー. どのような「間い」生成し どのような結論を得たか (「仮説」を設定し). 科学的探究 可能性の要素. この独特の有機体,すなわ ち細胞の起源は,いったい 何であるか,という間題が 重要. どの細胞もその起源は非 常に小さな小胞で,それ から徐々にその定まった 大きさにまで成長するこ と は, 絶 対 的 な 法 則 で ある. 立証性・反証性 規則性. 同じような結果は,水銀・ ぶどう酒・油などの他の液 揚水ポンプによって 体についてもおこるだろ 10.3 m 以 上 に 水 を あ う。その際は,液体の切れ げることができない。 る場所は,水の高さと比べ 自然は真空を嫌うとい て,液体の(密度の)大小 う説の広まり により低くなったり,高く なったりするだろう. 水銀では 73.7 cm までし か上がらない。持ち上げ る力は内部に起因するも のではない. 立証性・反証性 類似性・差異性 原因性. 暗線が現れることには変 わりがなかった。線と帯 太陽スペクトルの観察 暗線のあらわれかたが実験 とが太陽光線の持つ性質 によって,無数の黒色 装置の条件によってどんな によるものであり,回折 の縦線を見た 影響を受けるか や幻覚,その他の原因に よっておこるものでは ない. 立証性・反証性 相互関連性 原因性. いうことに着目し,水銀では水とは異なり 73.7 cm ま でしか上がらないこと,一定の高さまで持ち上げる 力は内部に起因するものではないことを結論として 得ている。つまりビビアニ,トリチェリは,水以外 の液体でも水同様にある一定の高さまでしか上がら ないという類似・差異点に着目,さらに一定の高さ までしか上がらない原因にも着目,そして原因を明 らかにする(立証する)ことで,自然は真空を嫌う という説の反証を行なっている。こうしたことから, ビビアニ,トリチェリの事例からは,類似性・差異 性や原因性,立証性・反証性といった科学的探究可 能性の要素が含まれていることが考えられる。また, クロッパー(1976b)において,表 1 に示すようにフ ラウンホーファーは太陽スペクトルの観察によって, 無数の黒色の縦線を見るという過程の中で,「問い」 として「実験装置の条件による暗線の現れ方への影 響」ということに着目し,暗線が現れることには変 わりがないこと,太陽光線の性質が原因となって暗 線が現れることを結論として得ている。つまりフラ ウンホーファーは,実験装置の条件による暗線の現 れ方への影響という相互関係に着目,さらに暗線が. 現れる原因にも着目,そして原因を明らかにする (立証する)ことを行なっている。こうしたことか ら,フラウンホーファーの事例からは,相互関係性 や原因性,立証性といった科学的探究可能性の要素 が含まれていることが考えられる。他にも,ダー ウィン,ケプラー,ラボアジェ,リュサック,パス トゥールといった科学者の科学的探究も分析してい るが紙幅の関係上割愛する。 上記の科学的探究可能性の要素の検討から,科学 的探究可能性の要素として立証性・反証性,原因性, 規則性,相互関係性,類似性・差異性の 5 つを抽出 した。 HOSC を分析した結果,先述した立証性・反証性 は「科学者個人の理論を証明し,証明した理論以外 の理論を否定すること」,原因性は「結果を引き起こ した原因との因果関係を明らかにすること」,規則性 は「事象の決まりきった方式や形態といったパター ンを明らかにすること」,相互関係性は「事象間の関 係性について明らかにすること」,類似性・差異性は 「事象間や事象内に類似点や差異点を明らかにするこ と」となる。. 405.

(4) 河原井・宮本:中学校理科における科学的探究可能な「問い」の生成プロセス. ここで,科学的探究可能性の要素である立証性・ 反証性は,表 1 に示した各事例のように,科学者が 原因性,規則性,相互関係性,類似性・差異性に着 目して探究を進めていくことで達成されるものと捉 えることができる。つまり,立証性・反証性は,原 因性,規則性,相互関係性,類似性・差異性の 4 要 素とは異なり,「問い」の生成プロセスにおいて着目 される要素であるとは言い難い。したがって,本研 究における科学的探究可能な「問い」は,「問い」の 生成プロセスまたは生成された「問い」に原因性, 規則性,相互関係性,類似性・差異性の 4 要素のう ち 1 つ以上の要素を含むものとする(以後,原因性 をⅰ,規則性をⅱ,相互関係性をⅲ,類似性・差異 性をⅳと表記)。. 4.ワークシート・質問紙調査の作成 4.1 ワークシートの作成 本研究では,生徒の「問い」の生成プロセスを広 範に調査したいため,自由記述式のワークシートを 用いる。観察した現象から「思ったこと」「考えたこ と」「感じたこと」を自由に記述させ,その後「問 い」を生成させる。ただし,生成する「問い」の個 数を最大で 4 個とした。. 4.2 質問紙調査の作成 質問紙調査では,生徒がワークシートに生成した 「問い」に対しての生成プロセスを回答させることが 目的である。思考プロセスを調査する先行研究(例 えば,中村・松浦(2018),吉田・川崎(2019))で は発話からの分析を行っている。しかし,理科授業 内では生徒の発話回数に差が生じ,発話回数が多い 生徒の「問い」の生成プロセスに依存した研究とな る可能性がある。つまり,発話からの分析を行うこ とで,個人の「問い」の生成プロセスを分析するこ とが困難となる可能性がある。よって,本研究では, 発話回数のように偏りがさほど生じない質問紙調査 を実施することで生徒個人の「問い」の生成プロセ スの分析を行う。 各「問い」を生成するまでに「思ったこと」「考え たこと」「感じたこと」の具体的内容とそのプロセス を矢印でつなぐことで生成プロセスの回答を行わせ る。注意事項としては,「問い」を記入したワーク シートを見ながら回答してよいこと,ワークシート に記入していなかったことでも,「思ったこと」「考 えたこと」「感じたこと」を思い出した場合は記入し てよいこと,「問い」をつくるまでに思っていたこ と,考えていたこと,感じたことついては可能な限. り文章で回答すること,文章が書けない場合には箇 条書きやキーワードのみでも構わないこと,必ず最 後には「問い」に辿り着くこと,とした。. 5.調査概要 令和元年 11 月,茨城県内の教育学部附属中学校第 1 学 年 2 ク ラ ス(A 組 34 名,B 組 36 名, 計 70 名 ) を対象に,単元「身近な物理現象」1 章「光の性質」 (有馬ら,2016)において授業を実施する。授業は 1 時間(50 分間)である。 提示した事象は,支持台のハサミに B6 版の透明 なプラスチック板を挟み,その下に「こんにちは」 と鏡文字かつ左右反対に書かれた画面を表示したタ ブレットを置き,プラスチック板の角度を変えてい く様子を観察する簡易的なテレプロンプターである (図 1)。プラスチック板の角度を変えていった結果 を比較することで,生徒が多岐にわたる「問い」を 生成することができると考えたため,この事象を提 示する。 授業開始後に研究実施者による口頭の説明を行う。 内容としては,本時では観察した現象に対する科学 的に探究可能な「問い」をつくること,科学的に探 究可能な「問い」とは,つくった「問い」に基づい て今後の授業において実験・観察を行なって調べて いくことができるものであると説明した 7)。また, 説明内容はワークシートのリード文としても記載を した。説明後,生徒に提示された事象を一度のみ観 察して「思ったこと」「考えたこと」「感じたこと」 をワークシートへ自由に記入させた後,個人で「問 い」の生成を行わせる。記述例として資料 1 に示す。 その後,個人でワークシートにおいて生成した各 「問い」に対する生成プロセスについての質問紙調査 へ回答を行わせる。記述例として資料 2 に示す。質. 406. 図 1 提示した事象.

(5) 理科教育学研究 Vol.61 No.3(2021). 問紙調査で得られた「問い」及び「問い」の生成プ ロセスを対象として分析を行う。. 6.分析方法 思考プロセスをカテゴリーごとに分類し,カテゴ リー間の推移から導出する研究がある。中村・松浦 (2018)では仮説設定の思考プロセス,吉田・川崎 (2019)では疑問から「問い」の思考プロセスを明らか にしていることから,本研究においてもカテゴリー 間の推移から,「問い」の生成プロセスを導出する。 まず,科学的に探究可能な「問い」にのみ着目す るために,例外となる「問い」の特定を行う。例外 の「問い」とは,実験器具を使用する意義・性質に ついての「問い」,哲学的な「問い」,提示した事象 に無関係の「問い」とする 8)。例外とならなかった 「問い」を,「問い」の生成プロセスの分析対象と する。 次に,分析対象とした「問い」の生成プロセスに おけるカテゴリーの分類を行う。分類するカテゴ リーは,河原井・宮本(2018)で暫定的に提示され ている科学的探究可能な「問い」の生成プロセスを より具体的な表記に直したものである(表 2)。ただ し,本研究では,A ∼ K までのカテゴリーの内,A (知っていることを再確認した),D(何かに気付い た),E(気付いたことと,知っていることを比べた), G(何か疑問に思った),H(変える条件を考えた), I(調べるものを考えた),J(変える条件を考えた+ 調べるものを考えた) ,K(「問い」を生成した)の みに着目する。 表 2 「問い」の生成プロセスにおけるカテゴリー 「問い」の生成 プロセス 前探究段階 実体験による直観 感性的把握 「気付き」の生起 既有知識への適用 認知的不協和 「疑問」の生起 変数の抽出 因果関係の同定 「問い」の生成. 記号:カテゴリーの具体的な表記 A:知っていることを再確認した B:現象をよく観察した C:「おやっ」「あれっ」のように 感じた D:何かに気付いた E:気付いたことと,知っている ことを比べた F:モヤモヤした G:何か疑問に思った H:変える条件を考えた I:調べるものを考えた J:変える条件を考えた+調べるも のを考えた K:「問い」を生成した. 着目するカテゴリーを限定するのは,まず,B(現 象をよく観察した)のように行動的なカテゴリーや C(「おやっ」「あれっ」のように感じた),F(モヤ モヤした)のように感情的なカテゴリー,A(知っ ていることを再確認した),D(何かに気付いた),E (気付いたことと,知っていることを比べた),G(何 か疑問に思った),H(変える条件を考えた),I(調 べるものを考えた),J(変える条件を考えた+調べ るものを考えた),K(「問い」を生成した)のよう に認知的なカテゴリーといった 3 種類が混在してい るためである。今回は生徒が「問い」を生成するプ ロセスにおいてどのようなことを思考したのかにつ いて調査を行うため,認知的なカテゴリーのみとし た。 こ の 認 知 的 な カ テ ゴ リ ー は, 河 原 井・ 宮 本 (2020)の研究において,生徒の思考に見られるカ テゴリーであるため暫定的ではないことを附言して おく 9)。 そして,カテゴリーの下位概念として,カテゴ リーにⅰ(原因性),ⅱ(規則性),ⅲ(相互関係 性),ⅳ(類似性・差異性)といった科学的探究可能 性の要素が内包されているか否かに関する検討を 行う。 最後に,分析対象とした全ての「問い」の生成プ ロセスにおけるカテゴリーの推移回数,科学的探究 可能性の要素が内包されるカテゴリー間の推移回数 から,科学的探究可能な「問い」の生成プロセスを 導出する。. 7.結果及び考察 7.1 分析対象とする「問い」の特定 生徒が生成した「問い」から例外となる「問い」 を特定した。例外の「問い」は「なぜとうめいなガ ラスで行うのか」といった実験器具を使用する意義 についての「問い」や「なぜ背景がすけてみえるの か」 「テレプロンプターの性質とは何か」といった実 験器具の性質についての「問い」である。生成した 「問い」(計 205 個)の内,例外に該当する「問い」 は 10 個(4.9%)であったことから,分析対象とす る「問い」は 195 個(95.1%)とした。 7.2  「問い」の生成プロセスでのカテゴリー及び科 学的探究可能性の要素の分類 分析対象とした「問い」の生成プロセス(195 個) での A,D,E,G,H,I,J,K のカテゴリーへの分 類後,科学的探究可能性の要素であるⅰ,ⅱ,ⅲ, ⅳがカテゴリーに内包されるか否かへの分類を行 なった。. [河原井・宮本(2018)より一部抜粋・加筆]. 407.

(6) 河原井・宮本:中学校理科における科学的探究可能な「問い」の生成プロセス. 分類の方法は,表 3 に示すように,例えば,「距離 を変えたら,反射して見える向きも変わると思った から→(問い)フィルムと画面の距離を変えたらど うなるのか」という「問い」の生成プロセスの場合 は以下のようになる。まず,「距離を変えたら,反射 して見える向きも変わると思ったから」のプロセス においては,距離という変える条件を考え見える向 きという調べるものについて着目していると捉え, カテゴリーは J に分類した。さらに,このプロセス では距離と見える向きの相互関係に着目していると 捉え,科学的探究可能性の要素はⅲに分類した。次 に,「(問い)フィルムと画面の距離を変えたらどう なるのか」は,生成された「問い」であるため,カ テゴリーは K に分類した。この「問い」は距離を変 えることによる変化という相互関係に着目している. と捉え,科学的探究可能性の要素はⅲに分類した。 つまり,上記の「問い」の生成プロセスは,「J ⅲ → K ⅲ」のように分類される。 なお,分析対象とした「問い」の生成プロセス (195 個)の内,A,D,E,G,H,I,J のカテゴリー のいずれかが該当した「問い」の生成プロセスの個 数及び記述例を表 4 に示す。同様に,分析対象とし た「問い」の生成プロセス(195 個)の内,ⅰ,ⅱ, ⅲ,ⅳの科学的探究可能性の要素が内包されるカテ ゴリーの個数及び記述例を表 5 に示す。 なお,「問い」の生成プロセスまたは生成された 「問い」に科学的探究可能性の要素であるⅰ,ⅱ, ⅲ,ⅳの 4 要素のうち 1 つ以上の要素を含むもの, つまり本研究における科学的探究可能な「問い」は 143 個(73.3%)であった。. 表 3 「問い」の生成プロセスでのカテゴリーと科学的探究可能性の要素の分類 「問い」の生成プロセス (質問紙査における記入例). 科学的探究可能性の 「問い」の生成プロセス 要素ヘの分類 →「 距 離 」 と い う 変 え る 条 →「距離」と「見える向き」J(変える条件を考えた+調 距離を変えたら,反射して見え 件,「見える向き」という調 といった事象間の相互関係性 べるものを考えた)&ⅲ(相 る向きも変わると思ったから べるものに着目 互関係性) ↓ →「距離」と「距離を変えた ↓ (問い)フィルムと画面の距離 →「問い」を生成している ことによる何らかの様子」と K(「 問 い 」 を 生 成 し た )& を変えたらどうなるのか いった事象間の相互関係性 ⅲ(相互関係性) カテゴリーヘの分類. 表 5 科学的探究可能性の要素が内包されるカテゴリー の個数及び記述例. 表 4 カテゴリーの個数及び記述例 個数 (該当数/195 個). 記述例. 14 個 (7.2%). 鏡は物を映すから,鏡でも同 じようなことができるのでは ないかと考えた. D (何かに気付いた). 154 個 (79.0%). ガラスの角度を変えていく と,みえる場所が変わったと 思った. E (気付いたことと, 知っていることを 比べた). 22 個 (11.3%). ガラスを右側にたおした時と 左側にたおした時と文字の順 番がかわっていたのでかがみ みたいになっていると思った. G (何か疑問に思った). 79 個 (40.5%). なぜ向きが逆の文字を見たら 反転して見えるのか. H (変える条件を考 えた). 25 個 (12.8%). 角度は,変えたが高さはどう なるのかと考えた. I (調べるものを考 えた). 24 個 (12.3%). もしかして角度(反射する) は決まっているのか. J (変える条件を考 えた+調べるもの を考えた). 44 個 (22.6%). 距離を変えたら,反射して見 える向きも変わると思った から. カテゴリー A (知っていること を再確認した). 記述例 科学的探究可能性 個数 (上段はカテゴリー A ∼ J, (該当数/195 個) の要素 下段はカテゴリー K) ⅰ (原因性). 41 個 (21.0%). 今,プラスチックの板は何度 かたむいているのか タブレットの文字が見えるテ レプロンプターとタブレット の角度はどれくらいか 実験を見て必ずどの角度でも 見える角度があると思った. ⅱ (規則性). 18 個 (9.2%). ⅲ (相互関係性). 96 個 (49.2%). ⅳ (類似性・差異性). 408. 33 個 (16.9%). 今回の観察では画像がプラス チックの板に反射したが物質 が反射できる角度は決まって いるのか 距離を変えたら,反射して見え る向きも変わると思ったから フィルムと画面の距離を変え たらどうなるのか 鏡は物を映すから,鏡でも同 じようなことができるのでは ないかと考えた これと鏡はどのような違いが あるか.

(7) 理科教育学研究 Vol.61 No.3(2021). 7.3  「問い」の生成プロセスでのカテゴリー及び科 学的探究可能性の要素の推移 まず,分析対象とした全ての「問い」の生成プロ セスにおけるカテゴリーの推移回数の結果を表 6 に 示す。表 6 においては,例えば「A → E」という推 移があったとした場合,列の A から行の E に推移し たと捉える。この場合は,表 6 では 4 回の推移とな る。「 問 い 」 の 生 成 プ ロ セ ス に お け る 総 推 移 回 数 (373 回)をカテゴリー間の推移のパターン(計 49 パターン)で割ることで,平均の推移回数を算出し た。その結果,平均推移 7.6 回となったため,「問い」 の生成プロセスにおけるカテゴリー間の推移のパ ターンのうち,8 回よりも多い推移を,「問い」の生 成プロセスに見られる推移とみなした。 次に,科学的探究可能性の要素が内包されるカテ ゴリー間の推移回数の結果を表 7 に示す。「D ⅲ」と いう表記であれば,「問い」の生成プロセスの具体的 内容において D かつ相互関係性に分類されたことを 表す。そして,「D ⅲ→ E ⅱ」という推移があったと した場合,列の「D ⅲ」から行の「E ⅱ」に推移し たと捉える。この場合は,表 7 では 1 回の推移とな る。また,表 7 から科学的探究可能性の要素が内包 されるカテゴリーの総推移回数は 122 回であった。. め,推移回数が 21 回以上の推移を太い矢印を用いて 表している(図 2)。また,図 2 では「D → G」の推 移を表す矢印に対して吹き出しがあり,その中に「2 回」と記している。これは,表 7 に示したように 「D → G」の推移において,科学的探究可能性の要素 を内包するカテゴリーの総推移回数が 2 回あったこ とを表している。 以下に,図 2 に示す科学的探究可能な「問い」の 生成プロセスについて 2 点考察する。 1 点目は,「問い」の生成プロセスについて考察を する。図 2 における太い矢印(推移回数 28 回以上). 7.4 科学的探究可能な「問い」の生成プロセスの提 示及び考察 表 6,7 から科学的探究可能な「問い」の生成プロ セスを図 2 に示す。表 6 において,8 回よりも多い 推移を細い矢印で,8 回よりも多い推移(11 パター ン)の中での平均推移を求めると 20.9 回となったた. A. D. E. G. H. I. J. K. 0. 4. 1. 2. 0. 0. 4. 13. 34. 10. 10. 24. 20. 5. 0. 3. 1. 13. 2. 3. 2. 41. 3. 4. 16. D. 3. E. 0. 0. G. 3. 2. 0. H. 0. 1. 0. 1. A. D. E. 0. 3. 1. 1. 1. J. 1. 5. 0. 1. 2. 1 2. H. I. J. K. 1 1. A. 1. 1 1. 1. 1. 2 1. D 1. 1. 5. 1. 4. 1. 1 1. 1. 1. 3. 1. 2 1 1. 1. 1. G 1. 2. 7. 2. 1. 2. H 1. 1. 1 1 1. 3. 1. 1. 2. 10 1. 1. 1. 1. 3 1. I. 1 1. 1. 1. 1. 4 J 1. 1 1. I. G. E. 表 6  「問い」の生成プロセスにおけるカテゴリーの推 移回数 A. 表 7 科 学的探究可能性の要素が内包されるカテゴ リーの推移回数. 16. 2. 1 1 22 2. [A(知っていることを再確認した),D(何かに気付いた), E(気付いたことと,知っていることを比べた),G(何か 疑問に思った),H(変える条件を考えた),I(調べるもの を考えた),(変える条件を考えた+調べるものを考えた) J , K(「問い」を生成した)を示す。ⅰは原因性,ⅱは規則 性,ⅲは相互関係性,ⅳは類似性・差異性を示す。また, 表中の空欄は推移回数が 0 回であることを示す]. 33. [A(知っていることを再確認した),D(何かに気付いた), E(気付いたことと,知っていることを比べた),G(何か 疑問に思った),H(変える条件を考えた),I(調べるもの を考えた),(変える条件を考えた+調べるものを考えた) J , K(「問い」を生成した)を示す]. 409.

(8) 河原井・宮本:中学校理科における科学的探究可能な「問い」の生成プロセス. 相互関係 → 規則 :1 回 類似・差異→類似・差異:1 回. 計2回 E. 気付いたことと, 知っていること を比べた. G. 何か疑問に 思った 原因 → 原因:2 回 原因 → 規則:1 回 原因→ 相互関係:1 回 相互関係→ 原因:2 回 相互関係 → 相互関係 :7 回 相互関係 → 類似・差異:2 回 類似・差異 → 相互関係:1 回 類似・差異→類似・差異:2 回. 計 18 回 類似・差異 → 相互関係:3 回 類似・差異 →類似・差異:1 回. 計4回. D. 何かに 気付いた. 科学的探究可能性の要素が内包さ れるカテゴリーの推移回数 原因 → 相互関係:2 回 相互関係→相互関係:5 回. 原因 →相互関係:1 回. 計7回. 計1回. 原因 → 規則:1 回 相互関係 →相互関係:1 回. 類似・差異 →類似・差異:1 回. 計1回. 計2回. J.. 変える条件を考えた. +. 調べるものを考えた. I. 調べるもの を考えた. H. 変える条件 を考えた 規則→規則:1 回 相互関係 →相互関係:4 回. 計5回. 相互関係 →原因:1 回 相互関係 →相互関係:10 回 類似・差異 →相互関係:1 回 類似・差異 →類似・差異:1 回. 計 13 回. 原因 → 原因:4 回 相互関係→ 原因:1 回 相互関係→ 規則:1 回 相互関係→相互関係:22 回. 計 28 回. 原因 → 原因:2 回 規則 → 規則:3 回 規則→ 相互関係:1 回 相互関係→ 規則:1 回 相互関係 → 相互関係 :1 回 相互関係 → 類似・差異:1 回 類似・差異 → 相互関係:1 回 類似・差異→類似・差異:1 回. 計 11 回. K.「問い」を生成した 図 2 科学的探究可能な「問い」の生成プロセス [表 6 において,8 回よりも多いカテゴリーの推移を細い矢印で,推移回数が 21 回以上の推移を太い矢印を用いて表 している。カテゴリーの推移を表す矢印に対する吹き出しの中には,表 7 における科学的探究可能性の要素が内包さ れるカテゴリーの推移回数を記している]. に着目してみると「D → G(何かに気づいた→何か 疑問に思った)」「D → J(何かに気づいた→変える条 件を考えた+調べるものを考えた)」「G → K(何か 疑問に思った→「問い」を生成した)」「J → K(変え る条件を考えた+調べるものを考えた→「問い」を 生成した)」の 4 パターンの推移があった。この 4 パ ターンの内,「D → G → K」「D → J → K」は「問い」 の生成プロセスとしてのつながりが見られると捉え ることができる。また,図 2 の太い矢印(推移回数 21 回以上)以外の矢印(推移回数 8 回以上)にも着 目してみると,「D → E → K(何かに気づいた→気付 いたこと,知っていることを比べた→『問い』を生 成した)」「D → H → K(何かに気づいた→変える条 件を考えた→『問い』を生成した)」「D → I → K(何 かに気づいた→調べるものを考えた→『問い』を生 成した)」も生成プロセスとしてのつながりが見られ. ると捉えることができる。 これらの 5 つの「問い」の生成プロセス内におい て,各「問い」の生成プロセスの該当個数,人数に 対して比率の多重比較(Holm 法)10) を行う。ここ で,該当個数だけでなく,該当人数にも着目するの は,特定の生徒だけが特定の「問い」の生成プロセ スを辿っていた場合,該当個数のみを検討したとし ても,多くの生徒に見られる「問い」の生成プロセ スであるとまでは言及ができないためである。5 つ の「問い」の生成プロセスの該当個数,人数を表 8 に,各「問い」の生成プロセスの該当個数,人数に 対しての比率の多重比較(Holm 法)の結果をそれぞ れ表 9,10 に示す。 各「問い」の生成プロセスの該当個数に対する比 率の多重比較の結果,「D → G → K」は「D → J → K」 「D → E → K」「D → H → K」「D → I → K」との間に. 410.

(9) 理科教育学研究 Vol.61 No.3(2021). 表 8 各「問い」の生成プロセスの該当個数,人数 D→G→K D→J→K D→E→K D→H→K D→I→K 41 個 個数 (該当数/195 個) (21.0%). 17 個 (8.7%). 9個 (4.6%). 6個 (3.1%). 9個 (4.6%). 27 名 12 名 9名 人数 (該当数/70 名) (38.6%) (17.1%) (12.9%). 5名 (7.1%). 7名 (10.0%). 表 9 各「問い」の生成プロセスの該当個数に対する比 率の多重比較の結果 D→G→K D→J→K. D→J→K. D→E→K D→H→K. .007**. D→E→K. .000**. .776. D→H→K. .000**. .189. 1.000. D→I→K. .000**. .776. 1.000. 1.000. [*:p < .05 **:p < .01]. 表 10 各「問い」の生成プロセスの該当人数に対する 比率の多重比較の結果 D→G→K D→J→K. D→J→K. D→E→K D→H→K. .058. D→E→K. .008**. D→H→K. .000**. 1.000 .723. 1.000. D→I→K. .001**. 1.000. 1.000. 1.000. [*:p < .05 **:p < .01]. 有意差(有意水準 1%以下)が認められた(表 9)。 一方,「D → J → K」は「D → E → K」「D → H → K」 「D → I → K」との間に有意差が認められなかった (表 9)。また,各「問い」の生成プロセスの該当人 数に対する比率の多重比較の結果,「D → G → K」は 「D → E → K」「D → H → K」「D → I → K」との間に 有意差(有意水準 1%以下)が認められた(表 10)。 一方,「D → J → K」は「D → E → K」「D → H → K」 「D → I → K」との間に有意差が認められなかった (表 10)。 以上に示した各「問い」の生成プロセスの該当個 数,人数の結果から,「D → G → K」のみのプロセ スは「問い」を生成する際に比較的よく見られるプ ロセスであると捉えることはできるものの,「D → J → K」のみのプロセスは「問い」を生成する際に比 較的よく見られるプロセスであると捉えることはで きない。図 2 において「D → J」「J → K」の各推移は 太い矢印(推移回数 21 回以上)で示され,比較的多 くみられることから,生徒は「D → J」のように推移 したものの,推移した J から「問い」へと直接的な 推移には繋がりにくい。これらのことから,「D → J」 「J → K」の各推移が比較的に多いが,「D → J → K」 のようなつながりがあるプロセスは多くはみられな いと言える。. よって,すでに知見として得られている「問い」 の生成プロセス内で明らかとなっていない思考とし て「E(気付いたことと,知っていることを比べた)」 「H(変える条件を考えた)」「I(調べるものを考えた)」 「J(変える条件を考えた+調べるものを考えた)」が みられたが,多くみられる「問い」の生成プロセス としては「D → G → K(何かに気付いた→何か疑問 に思った→『問い』を生成した)」であった。 2 点目は, 「問い」の生成プロセスまたは生成された 「問い」に原因性,規則性,相互関係性,類似性・ 差異性の 4 要素のうち 1 つ以上の要素を含む科学的探 究可能な「問い」の生成プロセスについて考察する。 「問い」の生成プロセスと同様に,図 2 における太 い矢印(推移回数 21 回以上)に着目してみると科学 的探究可能性の要素を内包するカテゴリー間の推移 は,「D → G」では 2 回,「D → J」では 7 回,「G → K」 では 18 回,「J → K」では 28 回である。このことか ら,太い矢印(推移回数 21 回以上)で示した推移で は,「G → K」「J → K」のように科学的探究可能性の 要素を内包するカテゴリー間の推移が多く見られる 一方で,「D → G」「D → J」のように,科学的探究可 能性の要素を内包するカテゴリー間の推移があまり 見られない場合があることもわかる。つまり,カテ ゴリー間の推移回数の多さに伴って,科学的探究可 能性の要素を内包するカテゴリー間の推移も多くな るとは限らない,換言すれば,生徒が「問い」の生 成プロセスにおいて多く見られるプロセスを辿って いたとしても,科学的探究可能性の要素がプロセス に含まれやすいということではないということがわ かる。これは,「問い」の生成プロセスの中にも科学 的探究可能性の要素が内包されやすいカテゴリー間 の推移と含みにくい推移があるためであると考える。 そこで,どのような推移において科学的探究可能 性の要素が内包されやすいのかについてみていく。 図 2 では,D → E,G,H,I,J の 5 つのカテゴリー 間の推移があり,その後,E,G,H,I,J → K へと 推移するといったプロセスが見られることがわかる (図 2)。D → E,G,H,I,J では,科学的探究可能 性の要素を内包するカテゴリー間の推移が「D → E」 では 2 回, 「D → G」では 2 回, 「D → H」では 1 回, 「D → I」では 1 回, 「D → J」では 7 回である。一方で, E,G,H,I,J → K では,科学的探究可能性の要素を 内包するカテゴリー間の推移が「E → K」では 4 回, 「G → K」では 18 回,「H → K」では 13 回,「I → K」 では 12 回,「J → K」では 28 回である。このことか ら,科学的探究可能性の要素は各カテゴリーから 「K.『問い』を生成した」への推移において内包さ. 411.

(10) 河原井・宮本:中学校理科における科学的探究可能な「問い」の生成プロセス. れやすいことがわかる。生徒が「問い」の生成プロ セスにおいて,最終的な「問い」の生成に関する思 考へと進む程,科学的探究可能性の要素に関して着 目されるためであると考える。 以上をまとめると,生徒にとって,「D → G → K (何かに気付いた→何か疑問に思った→『問い』を生 成した) 」という「問い」の生成プロセスを辿りやす い一方で,原因性,規則性,相互関係性,類似性・ 差異性といった科学的探究可能性の要素は,生徒の 「問い」の生成プロセス内の「K. 『問い』を生成した」 への推移において多く内包されることがわかった。. 8.おわりに. 本研究の課題としては,研究の方法上,質問紙調 査において回答を得た「問い」の生成プロセスの数 及び調査回数の少なさから,一般化が困難であった ことである。より多くの生徒を対象とした調査を行 うことにより,生徒における科学的探究可能な「問 い」の生成プロセスを検討していきたい。また,よ り生徒本来の思考に適合するような分析方法につい ても今後検討していく必要がある。そして,「問い」 の生成プロセスの中にも科学的探究可能性の要素を 含みやすい推移と含みにくい推移があることから, そういったプロセスについても検討してきたい。. 註. 本研究では,中学生を対象とした理科授業におい て,個人が事象の観察から科学的探究可能な「問い」 を生成するまでの思考のプロセスを「問い」の生成 プロセスとし,すでに知見として得られている「問 い」の生成プロセス内で明らかとなっていない思考 の有無を検討し,それらが「問い」の生成プロセス 内のどこに見られるのかを明らかにすることを目的 とした。まず,科学史における科学者の事例に基づ き,科学的探究可能性の要素として立証性・反証性, 原因性,規則性,相互関係性,類似性・差異性の 5 つとした。本研究における「問い」の生成プロセス までも含めた科学的探究可能な「問い」の捉え方と して,「問い」の生成プロセスまたは生成された「問 い」において原因性,規則性,相互関係性,類似 性・差異性の 4 要素のいずれかを含むものを科学的 探究可能な「問い」とみなした。次に,理科授業に おいて生徒が「問い」を生成する授業実践において 「問い」の生成に関する質問紙調査を実施すること で,生徒にとって,「何かに気付いた→何か疑問に 思った→『問い』を生成した」という「問い」の生 成プロセスを辿りやすい一方で,原因性,規則性, 相互関係性,類似性・差異性といった科学的探究可 能性の要素は,生徒の「問い」の生成プロセス内の 「問い」への推移において多く内包されることが明ら かとなった。 これらを踏まえ,科学的に探究可能な「問い」を 生成させる教授方略としては,生徒に対して「気付 き→疑問→問い」のように形式としてプロセスを辿 らせるだけでは不十分であり,「疑問→問い」のよう に「問い」へと推移する際に原因性,規則性,相互 関係性,類似性・差異性といった科学的探究可能性 の要素により着目させることで,生徒が科学的探究 可能性の要素を含む「問い」を生成しやすくなると 推測される。 412. 1) 本研究での「問い」とは,教師からの問いかけとして の「問い」ではなく,生徒自身が生成し科学的探究の 過程を進めていく「問い」として扱っている。 2) 例えば,宮本(2017)は,「科学的探究は,問いの生 成,仮説の設定,観察・実験の計画,観察・実験の遂 行,観察・実験データからの解釈,結論といった要素 で構成される」と述べている。よって,このような過 程を進めていく営みを科学的探究とみなす。 3) 中央教育審議会(2016)では,理科において「問い」 は使用されておらず,「課題」「問題」が使用されてい る。中山(2018)は,「探究(inquiry)は,そもそも 問い(question)を立てて,それに対する答えを見い だすことである」とし,学習指導要領の範囲では小学 校での「問題」や中学校での「課題」は「問い」に該 当すると考えることができると述べている。このこと から,中央教育審議会(2016)での「課題」は「問い」 と捉えることとする。 4) 3)と同様に,先行研究における「課題」「問題」を 「問い」と捉える。 5) ここで,「問い」だけではなく,仮説にも着目する理 由としては,吉田・川崎(2019)では「疑問」から 「問い」への変換過程においては「仮説形成」が含ま れるとされていることによる。また,桜井(1987)は 「偏見や執念に関連して抱かれたアイデアや考えは, 少し拡張されたあと,ひとつの仮説までに展開され, 研究の指針となる」とも述べていることから,科学者 は「問い」を生成せずとも「仮説」を形成することが あると予測されるためである。 6) HOSC(History of Science Cases) と は, ク ロ ッ パ ー (Klopfer, L. E.)によって開発された科学事例史であ る。鶴岡(2013)は HOSC の構成について「HOSC 生 物」の「生物の細胞」を例として取り上げ「この事例 は,細胞の発見から細胞説の確立に至るまでの物語で あり,11 課から成り,15 時間程度の授業時数が想定 されている。主な登場人物は,R. フック,A. レーウェ ンフック,R. ブラウン,M. J. シュライデン,T. シュヴァ.

(11) 理科教育学研究 Vol.61 No.3(2021) ン,R. フィルヒョウである。歴史物語を軸として,そ こに研究者の著書や論文からの抜粋が散りばめられ, また重要な図や写真,主要研究者の肖像画などが配置 されている。歴史物語の随所で,科学と科学者につい て考えるための質問,またそれと同じねらいをもつコ メントや注釈のためのコメントがつけられている」の ように説明している。 7) ここでの科学的探究可能な「問い」の説明では本研究 における科学的探究可能な「問い」の捉え方について は生徒に伝えていない。なぜならば,生徒が科学的 探究可能性の 4 要素を把握することを懸念したためで ある。 8) 実験器具を使用する意義・性質についての「問い」で は,「なぜ,この実験器具を使用するのか」「これはど こで使われるのか」,哲学的な「問い」では「この現 象があることで人々は幸せになるか」などである。 9) 本研究と河原井・宮本(2020)のカテゴリーの具体的 な表記が異なる。本研究での H(変える条件を考えた) は河原井・宮本(2020)での H(変化させる量),本 研究での I(調べるものを考えた)は河原井・宮本 (2020)での I(変化する量),本研究での J(変える条 件を考えた+調べるものを考えた)は河原井・宮本 (2020)での X(変数の抽出+因果関係の同定)と同義 と捉える。また,本研究での K(「問い」を生成した) は河原井・宮本(2020)ではカテゴリーに分類されて いないが「問い」とされ,「問い」の生成プロセスに は必ず含まれている。 10) 比率の多重比較(Holm 法)を行うにあたり,統計ソ フト R(Ver. 3.5.0)を用いた。. 謝辞 授業実践にご協力いただいた,茨城大学教育学部 附属中学校の校長先生及び,理科担当の先生方,第 1 学年の生徒の皆様に感謝いたします。. 付記 本論文は,令和元年度茨城大学大学院教育学研究 科修士論文の内容の一部を加筆・修正をして発展さ せたものである。. 引用文献 有馬朗人ほか 62 名(2016) 『新版 理科の世界 1』大日本図書. 中央教育審議会(2016)『幼稚園,小学校,中学校,高等学 校及び特別支援学校の学習指導要領の改善及び必要な 方 策 等 に つ い て( 答 申 )』.Retrived from http://www. mext.go.jp/b_menu/shingi/chukyo/chukyo0/toushin/__ icsFiles/afieldfile/2017/01/10/1380902_0.pdf(accessed 2018. 9. 14) Cuccio-Schirripa, S., & Steiner, H. E. (2000). Enhancement and. 413. analysis of science question level for middle school students. Journal of Research in Science Teaching, 37, 210–224. 廣直哉・内ノ倉真吾(2017)「中学生による科学的に探究可 能な問いの判断と生成の実際―大学生との比較に基づ いて―」『日本科学教育学会研究会研究報告』第 32 巻, 第 2 号,49–52. 廣直哉・内ノ倉真吾(2019)「中学生による科学的に探究可 能な問いの判断と生成の実際―大学生との比較に基 づいて―」『理科教育学研究』第 60 巻,第 1 号,173– 184. 河原井俊丞・宮本直樹(2018)「理科授業における科学的探 究可能な『問い』の生成モデル構築―児童・生徒の認 知的プロセス及び教師の手立てを手がかりにして―」 『茨城大学教育実践研究』第 37 巻,53–65. 河原井俊丞・宮本直樹(2020)「理科授業における科学的探 究可能な『問い』の生成プロセスの検討―変数の抽出 と因果関係の同定に着目して―」『茨城大学教育学部 紀要(教育科学)』第 69 号,43–54. クロッパー,E. L. 渡辺正雄訳(1976a)『HOSC 生物』講 談社. クロッパー,E. L. 渡辺正雄訳(1976b)『HOSC 物理』講 談社. 小暮建宏・小倉康(2018)「単元の導入で自由な試行活動を 行うことが問題発見・設定する力の育成に及ぼす効 果」『理科教育学研究』第 59 巻,第 1 号,49–57. 宮本直樹(2017)「科学的探究におけるデータ解釈とその指 導法」大髙泉編『理科教育基礎論研究』協同出版, 290–302. 森一夫(2003)『21 世紀の理科教育』学文社. 中村大輝・松浦拓也(2018)「仮説設定における思考過程と その合理性に関する基礎的研究」『理科教育学研究』 第 58 巻,第 3 号,279–292. 中村大輝(2018)「発見の文脈における評価に関する基礎的 研究」『理科教育学研究』第 59 巻,第 2 号,197–204. 中山迅(2018)「理科授業における「問い」とは何か―問 い・疑問・問題・課題―」『理科の教育』第 67 巻,第 10 号,637–641. OECD,国立教育政策研究所監訳(2016)『PISA2015 年調 査 評価の枠組み OECD 生徒の学習到達度調査』明 石書店. 坂本美紀・山口悦司・村山功・中新沙紀子・山本智一・村 津啓太・神山真一・稲垣成哲(2016)「科学的な問い の生成を支援する理科授業―原理・原則に基づく問い の 理 解 に 着 目 し て ―」『 教 育 心 理 学 研 究 』 第 64 巻, 105–117. 桜井邦朋(1987)「研究の現場から」メダヴォー,B. P. &ハ ウストミット,A. S.,桜井邦朋著,桜井邦朋編『発見 から創造へ』地人書館. 鈴木康浩・藤本義博・益田裕充(2019)「中学校理科教員の 意識調査から明らかになった指導上の課題と改善の方.

(12) 河原井・宮本:中学校理科における科学的探究可能な「問い」の生成プロセス 向性」『理科教育学研究』第 59 巻,第 3 号,401–410. 鶴岡義彦(2013)「科学事例史法の授業構成」大髙泉編著 『新しい学びを拓く 理科 授業の理論と実践―中学・ 高等学校編―』ミネルヴァ書房,105–111. 吉田美穂・川崎弘作(2019)「科学的探究における疑問から 問いへの変換する際の思考の順序性の解明に関する研 究」『理科教育学研究』第 60 巻,第 1 号,185–194.. 渡邉重義(2000)「理科授業における主体的な課題設定のプ ロセス」『日本科学教育研究会研究報告』第 15 巻,第 2 号,35–40. (2020 年 3 月 25 日受付,2021 年 1 月 29 日受理). 414.

(13) 理科教育学研究 Vol.61 No.3(2021). Process of Generating Scientifically Explorable “Questions” in Lower Secondary School Science Shunsuke KAWARAI 1, Naoki MIYAMOTO 2 1. Ibaraki Municipal Meiko Junior High School 2 College of Education, Ibaraki University. SUMMARY For this study, we examined the existence of unclear thoughts in the process from the observation of events to the generation of scientifically explorable “questions” in science classes for lower secondary school students The purpose of our research in this area is to clarify where “question” generation can be found in the learning process. Students in lower secondary school science classes were more likely to go through the process of generation using this model: “noticed something→wondered something→generated a question.” On the other hand, many other elements of scientific inquiry such as causality, regularity, interrelationships, and similarities/differences are clearly included in the transition to “generated a question” in the process of generating scientifically explorable “questions”. It is this nuanced learning process that we sought to elaborate in this research. <Key words> Scientifically Explorable “Questions”, Process of Generating, Lower Secondary School Science. 415.

(14) 河原井・宮本:中学校理科における科学的探究可能な「問い」の生成プロセス. 【資料 1】ワークシート記述例. 【資料 2】質問紙記述例. 416.

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