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長期療養高齢者の栄養摂取の方法と療養場所との関係について 住宅型有料老人ホームの事例調査から

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名古屋市立大学人間文化研究科博士後期課程  (受理 2016.9.4)

研究論文

長期療養高齢者の栄養摂取の方法と療養場所との関係について

-住宅型有料老人ホームの事例調査から-

野口 史緒

要約:

現在、長期療養高齢者が、経口摂取以外の方法で栄養を摂取することで療養場所を見つけ づらくなっている現状がある。そこで、高齢者の栄養摂取の方法と退院後の行き先との関係につい て注目し、住宅型有料老人ホームYにおいて、入居者家族から聞き取り調査を行った。その結果、 本人は意思表示が困難なため、家族は本人の意思を確認できず悩みを抱えていることがわかった。 また経口摂取が困難な高齢者であっても受け入れ可能な「住宅型有料老人ホーム」を選択せざるを 得なかったという現状が示された。

英文要旨:

Under the present administration, it is becoming increasingly difficult to find care facilities for  the elderly taking nutrition other than via oral. Given the fact, interviews with resident families  at the “Y” residential private nursing home were conducted focusing on the relation between  nutrition methods for the elderly and care facilities following their discharge from hospital. The  result shows that families are concerned they are unable to confirm care receivers’ thoughts due  to difficulties the elderly face in expressing themselves. Furthermore it was introduced that they  were forced to choose a residential private nursing home for even the elderly who face difficulties  to take nutrition orally. キーワード:住宅型有料老人ホーム、長期療養高齢者、栄養摂取の方法、療養場所 Residentialprivatenursinghome,Elderlyinlong-termcare,Nutritionmethods, Carefacilities

はじめに

 本研究は、長期療養高齢者の医学的管理と療 養場所との関係について考察するものである。 特に、現行制度のもとにおいて、医学的管理の 中でも栄養摂取の方法と療養場所との関係に注 目する。  2015年7月に発表された日本創成会議・首都 圏検討分科会報告(1)によると、東京都区部に

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住む高齢者の中でも、療養病床に入院している 高齢者については、東京都市町村部の医療機関 に14%、埼玉県に10%、千葉県に5%、神奈川 県に4%が入院している現状があった。つま り、都区部の高齢者が周辺地域の介護施設を利 用することにより、首都圏全体のサービス利用 が調整されており、今後75歳以上の高齢者の急 増は、都区部の高齢者の受け入れが困難とな り、大量の「医療介護難民」が発生すると警鐘 を鳴らしている。また、医療介護体制が整って いる地方への移住を提言している。しかし、医 学的な管理が必要な高齢者の受け入れについて は言及されておらず、その提言は人口と施設数 のみからの分散送り出しの推計であることに注 意が必要である。  受け入れ施設との関係を検討する場合、欠か すことのできない条件に、医学的な管理の中で も経管栄養の管理があげられるであろう。経口 摂取が困難な高齢者の施設の受け入れについて の現状を示したものに、「施設入所に対する栄 養マネジメントにおける効果的な経口摂取のあ り方に関する調査研究事業報告書」(2)がある。 その報告によると、胃ろうの受け入れは老人福 祉施設で施設定員70.3人に対して6.0人。老人保 健施設で90.7人に対して6.2人。介護療養型医療 施設で施設定員63.5人に対して16.5人だった。 また、老人福祉施設、老人保健施設の約4割の 施設は受け入れ上限人数を定めていた。介護療 養型医療施設においては受け入れ上限が決まっ ているとした施設は6.0%に過ぎなかった。老人 福祉施設、老人保健施設において胃ろうの受け 入れ人数が少数であるのは、栄養摂取に関する 医学的管理に対応できる職員配置になっていな い現状があると推測される。栄養摂取の方法が 経鼻経管栄養法や、点滴によるものであれば、 その傾向はより顕著となり、病院が受け止めな い現行制度のもとでは、医学的な管理を必要と する高齢者の行先が見つけづらくなっているこ とは明白であろう。  また、一方では近年の傾向として胃ろう造設 を差し控える傾向もみられる。その理由は、 2014年に診療報酬が改定されたことによるとこ ろが大きいであろう。その改定内容のうち、胃 ろう造設に関するものは以下のような診療報酬 の見直しと施設基準の新設である。胃ろうに関 する内容については、胃ろう造設術の診療報酬 は10070点から6070点に引き下げられることと なった。さらに、施設基準として胃ろう造設術 件数は、医療機関ごとに年間50件未満であるこ とが要件とされ、50件以上の場合は、術前に嚥 下機能検査を全例実施するか、胃ろう造設・鼻 腔栄養患者の経口摂取回復率35%以上を満たす こととされた。満たせない場合には、2015年4 月以降点数が2割減算されることとなった。  このような胃ろうを巡る問題は、診療報酬改 定以前より社団法人老年医学会等により胃ろう ガイドラインの作成へ向けた検討が繰り返され てきた(3)。その検討結果が高齢者の摂食嚥下 障害への対応に影響を与えているといえよう。 鈴木は、実際の医療現場において胃ろう栄養の 中 止 と 人 工 的 水 分・ 栄 養 補 充 法(AHN :  artificial hydration and nutrition)の見直しや 差し控えが混同される場合があることの懸念を 指摘している。「消化管が使用できる患者への 末梢点滴や完全静脈栄養法の適用は原則なく、 経鼻経管栄養法も胃ろうに比べて患者の苦痛や 嚥下訓練が行いにくいことから推奨されない。 これらの栄養管理法は胃ろう栄養に比べて管理 が煩雑で、在宅や施設に適さないことから、現 在厚生労働省が進めている在宅医療の推進に 真っ向から反している。」(鈴木2012)と述べて いる。

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 このように、経口摂取が困難となった場合の 栄養摂取の方法の選択は、原因疾患の診断基準 や口腔ケア、リハビリテーション、食事の工 夫、食事介助の工夫などの経過からの評価だけ でなく、診療報酬や退院後の受け入れ施設の条 件とも関係していることが推測される。  このような背景から、本研究においては高齢 者の栄養摂取の方法と退院後の行き先との関係 に注目した。そして、医学的管理が必要なため に施設でも在宅でも対応しきれない高齢者が、 新しい住まいとして増加傾向にある住宅型有料 老人ホーム(以下住宅型)に入居している実態 が認められたため(野口2014)、住宅型の事例 調査を行い、現状分析をすることで、栄養摂取 の方法と高齢者の療養場所との関係を明らかに する。そして、医療依存度の高い高齢者の療養 生活が立ち行かなくなっている実情から、現在 の介護・医療政策の課題を明らかにする。

Ⅰ 高齢者の「医療」

「介護」

「住まい」

に関する政策動向

 ここでは、医療保険制度・措置制度の変更又 は改変や、高齢者が医療保険給付から介護保険 給付へと移し替えられることにより生みだされ た介護問題と、高齢者のみの世帯の増加や、要 介護状態となったときの住宅問題がどのように 結び付けられて政策展開されてきたのかを確認 し、住宅型が新規参入するまでの政策の変遷を 辿る。政策の変遷を辿ることで、現在の政策の 下での長期療養高齢者が療養場所を見つけづら くなっている問題が、政策と関係していること が明らかとなる。 1.医療保険給付から高齢者を切り離すための 医療費抑制政策(1982年~1996年)  老人保健法が1982年に成立、1983年に施行さ れた。1986年には老人保健施設が創設され、病 院での入院治療よりも看護、介護、機能訓練に 重点がおかれた。ケアを必要とする高齢者に対 しては、病院ではなく老人保健施設において、 必要な医療ケアと日常生活サービスを提供する こととなった。さらに、診療報酬に退院継続患 者指導料(1983年)、訪問診査料(1986年)、訪 問看護料(1988年)が設けられ「在宅医療」へ の誘導策が実施された。  また、1989年に「高齢者保健福祉推進10カ年 戦略(ゴールドプラン)」が策定され、在宅介 護の充実が図られることとなった。これは、高 齢者を早期に病院から退院させ、「入院」より 安上がりの、施設サービスと在宅サービス(家 族の私的世話を補完する内容・水準)に移し替 えていく準備であり、介護保険制度導入の基盤 整備となった(髙木2007:12)  1985年には高齢者の「社会的入院」の解消を 企図して医療法が改正された。(第一次医療法 改正)その内容は「都道府県医療計画」(4) 定められ、二次医療圏ごとに必要病床数が設定 され、自由な増床が禁止された。そのうえで、 1992年、病院を急性期医療施設と長期療養施設 とに機能分化させる法改正がおこなわれてい る。(第二次医療法改正)  そして、1995年には社会保障審議会による 「社会保障体制の再構築(勧告)-安心して暮 らせる21世紀の社会を目指して-」(5)が出さ れ、改革の具体策のなかで、介護の不安を解消 するためには「介護保険が、いわゆる措置費で 運営されている社会福祉施設の費用はもちろん のこと、在宅福祉サービスや介護を行ってい る、保健・医療施設の介護費用の部分をも負担 するようになれば、各施策の利用者間の不均衡 が是正されるばかりか、各サービス間の連携が 強められるであろう。その点で特に、在宅介護

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を支援するよう公的介護保険の給付が設計され ることが望ましい」(社会保障制度審議会事務 局2000:240)「これを契機に医療保険制度、老 人保健制度など医療保障制度全体にわたった見 直しを行うべきである」(社会保障制度審議会 事務局2000:241)と介護保険制度の今後の整 備を提唱している。それを受けて、「社会福祉 基礎構造改革について(主要な論点)」におい て、措置制度廃止が意図され、公的責任は後退 の道をたどっている。  一方、高齢者の住宅施策と福祉施策の連携と して1987年からバリアフリーの公営住宅におい て、LSA(ライフサポートアドバイザー:生活 援助員)による緊急時対応や一時的な家事援助 などを提供するシルバーハウジング・プロジェ クト(6)が始まった。  また、1990年シニア住宅供給促進事業(旧建 設省)によって、都市再生機構(住宅公団)や 地方住宅供給公社の建設する高齢者向け賃貸住 宅の建設に対し補助する制度がはじまり、1995 年からは民間事業者の建設する住宅にも対象が 拡大した。1994年には高齢者向け公共賃貸住宅 整備計画により、21世紀初頭までの高齢者向け 賃貸住宅の整備戸数が35万戸に設定された。こ れらの高齢者向けの住宅整備は、建設費補助が 制度化され、民間の活力を期待して戸数の確保 が整備され始めた時期だといえよう。 2.在宅介護を促進するための政策と新しい「住 まい」の考え方が登場(1997年~2002年)  1997年の第3次医療法改正では「地域医療支 援病院」(7)が位置づけられ、2000年の第4次 医療法改正では、精神病床、感染症病床、結核 病床以外の病床について、慢性期の患者が入院 する「療養病床」と「一般病床」に区分され た。こうして、長期療養を必要とする高齢者を 早期に退院することを促し、医療保険制度から 介護保険制度に移行させていく政策が進められ ていった。  そして、2000年には介護保険制度が施行され た。介護保険施設としては、介護老人福祉施設 (特別養護老人ホーム)、介護老人保健施設(老 人保健施設)、介護療養型医療施設(療養病 床)の3施設である。そして、一定の要件(8) を満たした有料老人ホームについては介護保険 の居宅サービスのひとつとして、特定施設入居 者生活介護として位置づけられた。施設への入 所については、それまでの措置制度から保険制 度に移行したことにより、契約方式となった。  介護保険制度施行により、病院から介護保健 施設、及び在宅へと早期退院を促されるように なった。その結果、介護保険導入後は、「施設」 への入居も困難で、「在宅」での生活も困難な高 齢者が大量に生み出されることになった。  住宅政策においては、1998年の高齢者向け優 良賃貸住宅制度(9)により、公団、公社、民間 を対象に高齢者向け優良賃貸住宅の建設費、家 賃等の補助が制度化された。  2001年には高齢者の居住安定確保に関する法 律が制定され、民間による高齢者向けの優良賃 貸住宅の整備や家賃の減額については地域住宅 交付金制度(10)による補助もおこなわれること となった(高齢者向け優良賃貸住宅制度)。ま た、高齢であることを理由に入居を拒まない賃 貸住宅の都道府県への登録が促進された(高齢 者円滑入居賃貸住宅の登録・閲覧制度)。  同年、第8期住宅建設5ヵ年計画が閣議決定 され、2001年から2005年を計画期間とし、高齢 者向け優良賃貸住宅の整備目標は11万戸に設定 された。このように1990年代の高齢者向けの住 宅整備は、建設費補助や家賃補助により住宅戸 数の確保と単身の高齢者でも住みやすい住宅の

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確保が促進された。このことは後の在宅として の「住まい」での不十分な療養環境の整備につ ながったといえるだろう。 3.多様化した「住まい」の整備のため福祉政 策と住宅政策の統合 (2003年~現在)  2003年には、高齢者介護研究会報告書『2015 年の高齢者介護』により、高齢者が安心して住 める「住まい」を用意し、自宅からの住み替え という選択肢を用意することが必要と提言され た。この報告書では、自宅以外の「住まい」と して要介護状態となってから移り住む介護サー ビス付き「住まい」と、早めに住み替えるため の「住まい」として高齢者向けの優良賃貸住宅 や、有料老人ホームなどを示し、「住まい」の 形や介護サービス提供形態の多様化を提言して いる。  2003年、『2015年の高齢者介護』が報告され て以降、「多様化」という文言が散見されるよ うになったが、その意味は施設以外の多様な住 まいを意味するもの、サービス提供形態の多様 化を意味するものなど様々である。その実際 は、2004年には高齢者住宅財団「『介護を受け ながら住み続ける住まい』のあり方に関する研 究会中間報告」で明らかにされているように、 高齢者住宅の種類は介護保険三施設(特養、老 健、療養型病床群)以外に有料老人ホーム、ケ アハウス、グループホーム、高齢者向け優良賃 貸住宅、シルバーハウジング等があり、さらに それぞれの高齢者住宅事業への参入業種も多岐 に渡っている。  2004年には「『介護を受けながら住み続ける 住まい』のあり方に関する研究会中間報告」に より、外部サービス利用型の特定施設の創設と 有料老人ホームの定義の見直しが提言された。 そして、2005年の介護保険制度改正では、高齢 者の住まいの多様な選択肢を確保する視点から 居住系サービスの充実が図られ、外部サービス 利用型の特定施設が創設(11)された。  2006年には老人福祉法が改正され有料老人 ホームの定義が見直された。その内容は、人数 要件を撤廃し,少人数であっても食事等のサー ビスを提供していれば,有料老人ホームに該当 することになったのである。  医療保険制度に関しては、2006年に介護療養 病床の削減が提案されたが、療養病床から介護 保険施設への転換がすすまないという現実を背 景に、2011年、介護療養病床は2017年まで廃止 を延期された。  2008年6月、「社会保障国民会議(12)中間報 告」では、2025年段階の医療・介護一体改革実 施後のケースについてシミュレーションをおこ なった。そして、「今後は、要介護者(特に中 重度の要介護者)の増大に対応した一定量の施 設整備は必要だが、ケア付き住宅など居住系 サービスの充実や在宅サービスの拡充に重点的 に力を入れていくことが必要である。」と指摘 している。  同年7月、「社会保障の機能強化のための緊 急対策~5つの安心プラン~」が厚生労働省と 国土交通省により策定された。その内容は、高 齢者ができる限り住み慣れた地域や家庭で自立 し、安心して暮らし続けることができるよう、 ケア付き住宅の整備を促進するものであった。  同年12月には、持続可能な社会保障構築とその ための安定財源確保に向けた「中期プログラム」 が閣議決定され、在宅介護が行われる場として住 宅の整備を進めるとともに、生活支援・介護サー ビスの提供される住宅を含め、高齢者の生活する 住宅と特別養護老人ホーム等の入所施設等を総合 的かつ一体的にとらえ、高齢者の「住まい」を確 保していくことが求められている。

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 2009年には社会資本整備審議会「高齢者が安 心して暮らし続けることができる住宅政策のあ り方について」において、高齢者のニーズに 叶った「住まい」やサービスを選べるように、 住宅施策と福祉施策が一体となって、高齢者の 状況に応じた適切な住まいの提供をすべきであ る、と高齢者住宅の方向が示された。また、 「高齢者が安心して住まいを選べる市場の整 備」を求めている。  2011年には「高齢者の居住の安定確保に関す る法律」(高齢者住まい法)が一部改正され、 バリアフリー構造の住宅において安否確認や生 活相談サービスを提供する「サービス付き高齢 者向け住宅」が制度化された。  さらに、2013年12月、社会保障審議会介護保 険部会による「介護保険制度の見直しに関する 意見書」がまとまり、高齢者向け住まいの確保 が提示された。その内容は、地域包括ケアシス テムの構築に向け、高齢者の住まいは地域生活 の最も基本的な基盤であり、サービス付き高齢 者向け住宅や有料老人ホームが、適正な運用を 図っていくことを求めている。  このような背景のもと、住宅型有料老人ホー ムは、有料老人ホームの定義の見直しと、多様 化したサービス提供が推進されたことで、「在 宅」における外部サービスを利用するサービス 提供体制として、新規参入が相次いでいる。髙 木は「医療機関、介護施設、在宅サービス提供 事業所を企業が所有・経営し、かつ重い利用者 負担をまかなうため、高齢者は、現役労働者時 代にローンを組んで入手した土地の活用を図っ たり、現役労働者時代からの民間保険商品の購 入で埋め合わせなければ、安心して老後生活が 営めない環境が作りだされている。しかし、自 助で生涯の生活をまかなえる国民はきわめて限 られている。」(髙木2007:14)と公共一般施策 としての住宅保障や住宅手当の整備・拡充と逆 行する政策展開に警鐘を鳴らしている。

Ⅱ 先行研究

 次に、近年の要介護状態にある高齢者と入所 施設に関する先行研究を以下の三つのテーマで 概観する。  ① 特別養護老人ホーム(以下特養)等に関す る実態調査研究  ② 要介護状態と入所施設に関する実態調査研 究  ③ 「住まい」と「ケア」に関する研究  これらの先行研究レビューを通じて、「長期 療養高齢者の医学的管理と療養場所との関係を 明らかにする」という本研究の課題が導かれ る。 1.特別養護老人ホーム等に関する実態調査研究  2014年3月25日付け、厚生労働省老健局の報 道発表資料によると、特養の入所待機者は約 52.4万人であり、そのうち入所の必要性が高い 要介護4及び5で在宅の入所申込者は、約8.7 万人であることを報告した。全体の待機者の割 合では、在宅の待機者は49.6%、在宅外の待機 者は50.4%であった。  岸田、谷垣は特養待機者のうち、約7割が在 宅外の待機者であることに注目し、待機者の入 所希望時期に影響する要因を分析している。入 所希望時期の内訳は「すぐにでも入所したい」 30.2%であり、早期の入所希望と関連していた のは待機場所が老人保健施設(以下老健)また は一般病院であった。家族の介護負担が無い在 宅外で早期の入所を希望する理由としては、病 院、施設からの退所勧告が考えられる。一般の 病院では入院期間が長期化すると診療報酬の減 額が行われるため、長期入院者を退院させる誘

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因がある。退院期限までに特養に入所できない 場合は、要介護者は病院、施設を転々と移動さ せられるいわゆる「老人のたらいまわし」が起 きる可能性がある、としている。  また、待機場所が在宅外の場合は、家族の直 接ケアとしての介護負担は無いが、要介護度の 高い高齢者の家族は、すでに在宅介護を断念し ているケースが多いことも推測している。(岸 田・谷垣2006)  髙木は近畿地方の特養Aの実態調査を行い、 入所者114名の入所に至る経過から「急性期の 入院治療期間が過ぎ、年齢に伴う生理的機能の 低下と複数の疾病に罹患しながら退院を余儀な くされ、 -中略- 自宅で24時間365日、安心 して人たるに値する生活を整えられない状態に 置かれた人々の一部が、特養Aに入居し、 - 中略- 施設→病院→施設→死亡(施設もしく は病院)となっている。」(髙木・芦田・濱島 2012)と、十分とは言い難い日常生活の世話を 受けながら死亡に至っていると指摘する。  早川の老人ホームの入居者調査によると、 「帰る家が無い」と回答した者は全体の66.4%で あった。そして、なぜ帰る家がないのかを (1)心身障害・寝たきり、(2)単身、(3)家 庭事情 a.介護者がいない、介護者が病気、高 齢、他の要介護者を抱えている b.人間関係等 により同居が困難、(4)住宅事情 a.病院、 他施設から老人ホームに入所 b.住み込みで働 いていたため退職後、帰る家が無い c.立ち退 き d.家を売却 e.借家の契約解除、(5)経 済事情、のように5つに分類した。  実際はこれらの理由が複合的に重なって「帰 る家がない」ために老人ホームに入居せざるを えず、在宅介護を取り巻く日本の縮図があると いう(早川1997)。このように、「帰る家がな い」実情に加えて、医療依存度が高まること で、家族がいても自宅では担いきれず、行き場 を見つけられない高齢者が存在するのである。 仮に、担える家族がいたとしても、その家族の 生命・健康・生活の再生産は阻害されてしまう 可能性をはらんでいる。  これらの先行研究からは、特養待機と入所に 至るまでの実態が明らかにされている。 2.要介護状態と入所施設に関する実態調査研究  石附らの長期在宅重度者と施設入所重度者の 比較調査によると、「経管栄養を実施している 場合」は「そうでない場合」よりも、在宅の長 期継続の確率は4.6倍高かった。このことから、 経管栄養の処置を受けていることが、在宅生活 の長期化に強い関連性をもっていたことが示さ れた。その理由としては、「施設間において医 療的ケアの対応能力に違いがあるため、経管栄 養等の医療処置の必要性が施設側の受け入れ困 難につながっている可能性が考えられる。」(石 附・和気・遠藤2009)と述べている。  この結果は、栄養摂取の方法が経管栄養であ るために、病院を退院後の療養の場所が見つか らず、家族が在宅で介護せざるを得ないという 事実を浮き彫りにしたともいえよう。  また、菊池は介護ニーズが在院日数に与える 影響について調査分析を行い、病院を退院する ことが困難で、病院に高齢者がとどまっている ことを明らかにした。その調査結果は「要介護 5に認定された高齢者では、ほかの高齢入院患 者に比して在院日数が長い」「要介護認定者の 中でも、特養から医療機関に入院するケースで は、ほかの要介護認定者に比して在院日数が短 くなる」という内容であった。「特養入所者が 医療機関に入院した際には、少なくとも3か月 はベッドが確保される。このため、治療後の介 護施設への移行が円滑に進み、結果として特養

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入所者の在院日数が短くなっていると考えられ る。逆に言えば、自宅などから入院する要介護 認定者の中には、治療後の入所施設が確保でき ないために医療機関に滞留せざるを得ない入院 患者が存在する」(菊池2010)と言及している。  退院後に高齢者が行き先を見つけづらくなっ ている状況を背景に、2008年の社会保障国民会 議中間報告において「居住系サービスの拡充」 が指摘され、「2015年の高齢者介護」(13)におい て新しい「住まい」:自宅、施設以外の多様な 「住まい方」の実現が提唱された。その結果、 多様な住まいの一つとして住宅型の増設が推進 されるも、住宅型に関する先行研究は未だ少な い現状である。しかし、三宮らが住宅型の管理 者・職員の調査から現状と課題をまとめてい る。三宮らによると、「重度でも居住可」の ホームが86.4%、「医療処置が必要となった場合 に居住継続可」のホームが67.4%、「ターミナル ケアについての同意書を有している」のは 54.7%と示された。(三宮・鈴木・黄2013)住宅 型の事業主体は医療や介護について熟知してい ない事業主の参入も少なくない中で、この結果 は、住宅型のあり方を考える上での基礎的な知 見となる。 3.「住まい」と「ケア」に関する研究  鈴木は、「住まいとケア」の関係について、 住宅の要件を再確認した上で居住継続支援につ いて考察している。住宅には、空間的な排他的 独占的使用と時間的に自由な選択的使用という 特徴がある。前者は居住者の許可なく他者は住 宅内に入れないことを意味し、後者は住宅内で はいつ何をするかは居住者本人の自由というこ とである。つまり、「住まいとケア」の関係で 住宅について議論する際、「住まいの中に他者 のケア(侵襲)をどう入れ込むか、という問題 は本来、両者の相反する要求において、その答 えは実は難解」(鈴木2009)と述べている。  「住宅型」においてこの点を検討するならば、 家族が不在の自宅に、ケアを必要とする高齢者 が生活しているのだから、ケアスタッフと高齢 者の信頼関係が順調であれば問題は表面化しな いが、順調でなくなったとき、「他者のケア (侵襲)」の問題に向き合わなければならないだ ろう。これは、「住まい」と「ケア」が分離し ていることが問題を生み出していると考えられ る。  また、「住まいとケアの分離」理論をデン マークの実践から報告しているのは松岡であ る。「「住まい」の機能と「ケア」の機能を分離 し、高齢者の虚弱化に伴って発生するニーズに 合わせて再統合していくことが重要な課題とな る」(松岡2011)と分離から再統合までの過程 を実践と研究動向から整理している。しかし、 高齢者住宅の中でも「自立型高齢者住宅」を研 究対象としており、医学的管理が必要な高齢者 の療養環境としての「住まい」のあり方には言 及されていない。  「住まい」のあり方と「ケア」を必要とする 高齢者の中でも栄養摂取の方法と関連づけて言 及しているのは望月である。「「在宅」という言 葉でまず思い浮かぶのは「家庭」での療養であ ろう。しかし、国が定める「在宅」の中には 「家庭」の他に特養やグループホーム、有料老 人ホームといった「介護系の場」も含んでお り、「在宅」の中にもさまざまな「場」がある。 それぞれの「場」によって医療職と介護職が関 わる比率が異なり、利用可能な医療資材も異な るために適応可能な栄養療法が異なることに注 意 が 必 要 で あ る。」( 望 月2014) と し、 現 在、 2025年に向けて推進されている地域包括ケアシ ステムの構築において「在宅」として扱われて

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いる「住まい」のあり方に注意を促している。  以上のような研究によって、要介護状態にあ る高齢者が、適切な療養環境を見つけづらく なっている現状が示された。そこで、これらの 先行研究をふまえ、近年増設されている「新し い住まい」という扱いの「住宅型」を調査研究 の対象とし、医学的管理を必要とする高齢者を 受け止めている「新しい住まい」の実態を明ら かにしていくことが必要だと考える。  また、本論文における「在宅介護」は、「家 庭での療養」(望月2014)と定義する。

Ⅲ 研究の内容

1.調査の目的  現行制度の下において、医学的管理が必要で あっても、病院から早期に退院せざるを得ない 高齢者の療養場所として、住宅型が選択されて いる現状について分析する。2011年と2014年の 2回の聞き取り調査を行うことで住宅型の入居 者傾向の変化を捉え、長期療養高齢者の家族の 抱えている困難と、現在の医療・介護政策との 関係を明らかにする。 2.調査対象  東海地域の住宅型有料老人ホームY(定員 120名)(以下、住宅型Y)に入居中高齢者の家 族とした。2011年調査時は、直接声かけして調 査を依頼した47名中36名から聞き取り調査、11 名からは調査票の配布によって回答を得た。 2014年調査時は、同様に52名中31名から聞き取 り調査、21名から調査票の配布によって回答を 得た。住宅型Yを調査施設として選択した理由 は、要介護度4または5の高齢者に入居対象者 を絞っていることが、入居案内により確かめら れ、医療依存度が高まったために住宅型に入居 せざるを得なかった対象群として調査すること が可能であると考えたからである。また、住宅 型Yの看護、介護職員は基本的に正規雇用であ り、現行制度のもとでケアの質を保つ努力が行 われている住宅型であるからである。  また、住宅型Yの入居者の平均入居期間は概 ね6か月であり、2011年調査時47名と2014年調 査時52名は重複していない。2011年より継続し て入居している高齢者は存在していたが、2011 年に既に聞き取り調査の対象であり、重複しな いようにするため、2014年調査時は調査対象と していない。 3.調査期間  第1回調査 2011年5月下旬から7月末まで  第2回調査 2014年5月下旬から11月末まで 4.調査方法  第1回、第2回調査ともに、住宅型Yの面談 室を利用し、調査員と1対1による半構造化面 接を行った。調査時間は概ね1時間とした。聞 き取り調査の日程調整が困難な場合などは、調 査票を配布し、調査票受け取り時に可能な限り 声かけし、調査の感想や設問以外のことについ ても感じていることを尋ね、自由回答欄に調査 員が記入した。 5.倫理的配慮  面接時に、回答の内容は個人を特定できない よう記号化し、統計処理することを説明した。 調査票を配布する場合も同様の説明を行った。 調査票の配布が郵送による場合は、家族の自由 意志で筆者の自宅宛に返送願った。 6.調査結果 (1)基本属性  基本属性として、年齢と介護度を表1、図1

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で示した。2011年では70歳から79歳までに49% の人が集中している。2014年では80歳から89歳 までに60%の人が集中しており、入居者の高齢 化傾向が示された。介護度については、2011年 では要介護5が90%、要介護4が10%。2014年 では要介護5が78%、要介護4が22%となって おり、介護度からみれば重度化傾向は示されな いが、入居者構成としてはいずれの年も重介護 の高齢者が占めている。  また、平均入居期間が概ね6か月であること から推測しても、2回の調査結果の比較から新 規入居者の高齢化傾向が示されたといえる。 (2)入居時の栄養摂取の方法と必要な医行為  表2によると、入居時の疾患については、ひ とりの入居者が複数の疾患を抱えており、中で も脳血管疾患を主疾患にもつ者が多い。2011年 で は、47人 中32人(68%)、2014年 で は52人 中 34人(65%)が脳血管疾患である。また、2011 年では47人中11人(23%)、2014年では52人中 23人(44%)の者が認知症である。主疾患と要 介護度の構成から、入居者の多くは安全を理解 することができず、栄養摂取を安全に行うため には常に見守りが必要であることが推測でき る。  栄養摂取の方法については、表3で示したよ うに、2011年では胃ろう68%、鼻腔栄養19%、 中心静脈栄養11%、経口摂取2%である。2014 年では、胃ろう38%、鼻腔栄養21%、中心静脈 栄養40%である。このように、経口摂取以外の 方法で栄養を摂取していることは、医学的管理 のもとでの療養生活が必要であるといえる。ま た、自宅や特養など、医療スタッフが24時間配 置されない環境での生活が困難になりがちな状 態像であるともいえよう。  栄養摂取に関する医学的管理以外の医行為に ついては、入居時アセスメントにおいて表4の ように示された。さらに、その後の経過の中 で、酸素吸入、抗生剤の点滴治療などの医学的 管理が行われる現状がある。また、必要な医行 為について、2011年は47人中8人(17%)から 2014年は52人中33人(63%)に増加している (ただし、ひとりの入居者が複数の医行為を必 要としている場合も医行為ごとに計算)。この ように、入居時点での必要な医行為に注目する ことで、急性期の病院から退院せざるを得ない 高齢者が重症化していることが伺える。このこ とから、退院後の行先の一つである特養が、終 身入居できるはずの介護保険施設であっても、 医療対応が困難なために、入所困難とならざる を得ないのだろう。 (3)入居に至る経緯  ここでは、入居に至る前の在宅介護の経験の 図1 入居者構成 2011年と2014年の比較 表1 入居者の構成(2011年と2014年比較)

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有無が住宅型への入居に影響を与えるかどうか に注目した。表5より、在宅介護の経験があっ ても住宅型に入居しているのは2011年では47人 中29人(62%)。2014年では52人中30人(58%)。 いずれの年も概ね半数の家族は、介護の経験が あっても住宅型に入居を決めていた。これは、 たとえ在宅介護の経験があっても、医行為が多 く、家族介護では担いきれない身体状況になっ 表2 入居時の主たる病名からみた栄養摂取方法(複数回答)2011年と2014年比較 表3 入居時の栄養摂取方法(複数回答)2011年と2014年比較

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たことが伺える。ここでは、かねてからの在宅 介護の精神的、身体的な負担が積み重なってい たことも念頭におく必要がある。また、表6に よると、在宅介護の経験がある人のうち、病院 と他施設入所後入居している人は2011年では6 人(21%)、2014年 で は12人(40%) に 増 加 し ており、病院や施設を転々としている経過の中 で、医行為が多くなったために在宅へも、以前 入所していた施設にも戻ることが困難な身体状 況になったことが窺える。以上のことから、在 宅介護の経験の有無は住宅型への入居を決める 際に影響しないことがわかった。つまり、住宅 型に入居を決める際に影響を与えるのは、身体 状況の重症化により、医療対応が必要になった ことと、急性期の病院の診療報酬の都合によ り、医療対応が必要であっても退院せざるを得 ない状況におかれていることが関係していると 推測される。 (4)栄養摂取の方法と在宅介護の希望の有無  ここでは、経口摂取が困難であっても在宅介 護を希望している点に注目する。表7による と、2011年 で は47人 中10人(22%)、2014年 で は52人中21人(40%)が栄養摂取の方法が経口 摂取困難であっても在宅介護を希望している。 では、なぜ在宅介護を希望していながら最終的 表4 栄養摂取の方法以外の医行為 表5 在宅介護の経験の有無 2011年と2014年の比較 表6 入居に至る経緯からみた在宅介護の経験の有無 2011年と2014年の比較

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には住宅型への入居を決めたのか、次項で明ら かにしたい。 (5)在宅介護が困難だと判断した理由  表8によると、在宅介護が困難だと判断した 理由で最も多かったのは、「吸引などの医療的 な行為が不安」が71%、以下「急変した時の対 応に不安や恐怖を感じる」55%「入浴をはじめ、 清潔を保てるかどうか不安」52%「発熱や嘔吐 の対応に不安」48%「仕事のために介護に専念 できる人がいなかった」47%であった。この結 果から、在宅介護が困難だと判断した主な理由 は、「医行為に対しての不安」と、「介護者がい ても介護に専念できる人がいない」というもの であった。つまり家族は、医療依存度の高い高 齢者を介護するために、必要な環境を用意でき ないと判断したといえよう。 (6)退院及び退所後の有料老人ホーム以外の 入所施設の検討  表9より、栄養摂取の方法からみた退院及び 退所後の有料老人ホーム以外の入所施設の検討 に つ い て は、2011年 に お い て は46人 中23人、 2014年においては52人中37人が住宅型に入居す る際に、住宅型以外にも入所施設や転院先の検 討をしている。2011年においては、住宅型以外 を探した人のうち、特養を探しているものが 48%おり、次に病院を探しているものが43%で あった。2014年においては68%のものが病院を 探している。これは、特養の場合は入所を希望 表7 栄養摂取の方法からみた在宅介護の希望の有無(2011年と2014年の比較) 表8 在宅介護が困難だと判断した理由(2011年と2014年合計)

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するものの、入所待ちのためにすぐには入所で きず、また医療依存度が高いために、病院への 転院を検討せざるを得ない状況が窺える。2014 年においては、特養を探している人が減少し た。それは、特養の胃ろうによる栄養摂取の者 の受け入れを人員配置の都合によって制限す る、といった背景が影響していることも推測さ れる。また、2014年に病院への転院希望が増加 しているのは、身体状況の重症化も理由の一つ として挙げられるだろう。  これらの結果からいえることは、在宅介護の 経験があっても、高齢期に医療依存度が高く なったために、在宅介護では担いきれず、栄養 摂取の方法や入所待機者が多いために特養にも 入所できず、医療対応が可能な住宅型への入居 を選択せざるを得なかったといえよう。さら に、2011年と2014年の比較からは、病院からの 退院を余儀なくされ、行き場を見つけづらく なっている高齢者は、重症化していることが示 されたといえよう。 (7)経口摂取が困難になったときの栄養の方 法についての相談相手  2011年と2014年の調査結果に差異はなく、経 口摂取が困難になったときの栄養摂取の方法に ついての相談相手は、まず本人の子どもたちで 相談し、次に医師に従っている。経口摂取が困 難になったとき、家族は決断に至るまでに表10 に示されたような悩みや不安を抱えている。 (8)経口摂取以外の方法で栄養を摂取するこ とについての感じ方  表11より、最も多かったのは「きちんと栄養 が取れるようになり病状が安定した」という回 答であり、全体の62%であった。中でも、胃ろ うを造設した場合は69%の家族が「きちんと栄 養が取れるようになり病状が安定した」と回答 している。次に多かったのは、「本人の意思を 確認していないからよかったのかどうかわから ない」という回答で、全体の57%であった。中 でも中心静脈栄養法によって栄養を摂取してい る人の家族は、62%が「本人の意思を確認して いないからよかったのかどうかわからない」と 回答している。また、鼻腔栄養法によって栄養 を摂取している人の家族は、52%が「常時鼻か ら胃まで管を通していることに抵抗を感じる」 と回答している。これらの結果は、病状の安定 は得られたものの、本人の意思を確認できない ために、家族は現在の選択が本人の希望に沿っ たものかどうか、不安を感じていることを示し ている。また、栄養摂取の方法が胃ろう、中心 静脈栄養、鼻腔栄養のいずれの方法であって も、経口摂取以外の方法で栄養を摂取すること で、家族は共通の不安や悩みを抱えていること 表9 栄養摂取の方法からみた退院及び退所後の有料老人ホーム以外の入所施設等の検討(複数回答)(2011年と2014年比較)

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がわかった。選択肢以外の回答として、家族は 表12のような思いを抱えていた。 (9)入居者家族にとっての住宅型有料老人 ホームの環境  表13によると、住宅型の環境が「合ってい る」と回答した人は、99人中84人で85%であっ た。「合っている」理由としては、「最期の看取 りまでおこなってくれるため生活の場所を転々 としなくていいから」が71%であった。このこ とから、「寝たきりの高齢者が制度の都合に よって転々と生活の場所を変え、期間を区切ら れ次の行き場所を探してきた苦労が伺える。」 (2014野口)自由回答を表14にまとめた。  また、「いいえ」に回答した人が3人、「わか らない」に回答した人が15人いた。少数である が看過できない意見として受け止めなければな らないため、以下に示す。  「いいえ」の理由は、「ケアの内容に不満があ る。本人は、元気な頃から自宅で過ごすことを 望んでいた。施設内の設備に不満を感じる。」 「まだ若いのでリハビリをして欲しい」「本人は 知らない場所や知らない人に不安を感じている と思う。」「病院のケースワーカーから住宅型と 病院の違いを教えてもらった。病院では高齢者 ばかり6人が一部屋に寝ていて、みんな経管栄 養のボトルがぶら下がった状態だった。住宅型 は全室個室で清潔である。しかし、そこでケア にあたる職員は全員が看護師ではない。本人の 年齢を考えると、どこで過ごすのが最良なのか 今でも、迷っている」  「わからない」の理由は、「費用、内容には満 足している。胃ろうを造設したことも納得して いる。しかし、一日の多くを寝たきりで過ごす ことが可哀想に思える。」「入居が長引くと経済 的に不安。現在特養の入所待ち。」「最期の看取 りまで行ってくれるので安心だが、入居費用を 本人の年金でまかなえない。本人の夫の年金が 無くなったら支払うことができない。」「家族と しては清潔な環境で過ごすことができ、何か あった場合にはすぐに対応してもらえるので安 心している。しかし、ここでの生活は歩けない し、食べることができない。本人も納得してい ると想像するが、本人にとってよかったのかわ からない。」「24時間家族が付き添っていること は難しい。家族にも生活がある。もし、本人を 表11 栄養摂取の方法からみた経口摂取以外の方法で栄養をとることについての感じ方(複数回答)

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在宅で介護していたら、とっくに亡くなってい ただろう。入居したから生きていられるのだと 思う。」「よかったかどうか、本人に確かめる方 法がない。家族にとっては安心できるがとにか くさみしい。」「家族は本人の体のコンディショ ンでしか、よかったかどうか判断できない。入 居して医療保険を利用して処置されることと、 今まで在宅で家族が行ってきた介護との感覚が 異なる。住宅型で医行為が行われていることに 不自然さを感じる。」「本人を見ていると辛く て、考えても考えてもよかったのかどうかわか らない。結論は出ない。」「本人に聞くことがで きない。本人は寝ているだけの生活で、本当に これでよかったのかどうかと悩む。本人の希望 とは違い、押し付けられた環境なのかもしれな い。」「家族にとっては今の環境は合っている が、本人は景色を眺めることもできず、今の環 境がいいのかどうかわからない。」  「いいえ」や「わからない」の回答にケアの 内容に不満があるというのは、住宅型が病院で はないことを理解していても、医療依存度が高 いにもかかわらず、医療従事者からのケアを十 分受けることができない現状に納得できない様 子が窺える。それは、終身預かってもらえるこ とで家族にとって合っていても、本人にとって は不十分なケアしか受けることができないと想 像されるために、「合っている」と回答できな かったといえるのではないか。この回答は、現 状の住宅型の入居者が、加齢に伴って医療依存 度が高まっていく傾向にあるにもかかわらず、 職員の配置基準がないことに問題があることを 提示しているといえよう。  また、「合っている」と回答した理由のうち 「本人は家族に迷惑をかけたくないと話してい たから」「元気な頃から本人と相談していたか ら」と回答した人が15%存在する。この回答 は、本人との過去の対話から本人の意向を尊重 して、「合っている」と思っているだろう、と 推測して回答しているといえる。「合ってい る」と回答した人のうち、3人が「いいえ」に 表13 入居者家族にとっての住宅型有料老人ホームの環境(複数回答)

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も回答している事実があった。表13においては 「合っている」の回答として集計したが、「合っ ている」と回答しながら納得できていない面も ある、という貴重な回答であったため看過でき ない数字である。  「わからない」と回答している15%の家族は、 過去に本人との対話がなかったため、本人の意 向をくむことができず「わからない」と回答し ていることが推測される。本人は意思表示困難 であるため、家族は本人の意向を確かめること もできず、入居中に笑顔をみることもできず、 「本当にこれでよかったのだろうか。」と、深い 悩みを抱えざるを得ないのだろう。それは「本 人に聞くことができない」「本人は寝ているだ け」「本人を見ているのがつらい」といったコ メントが示している。これらの回答からは、病 院の次の療養場所を探さなければならない現状 の中で、納得できないまま入居を決めた様子も 窺える。このことは、本人や家族が望む場所で それぞれに合った生活スタイルで暮らすことが できない現状を浮き彫りにしているといえる。 (10)どのような条件が整えば在宅介護は可能 であるか  表15によると、最も多かったのは「24時間対 応の医療系訪問サービスの充実」という回答で あった。次に多かったのは「経管栄養でも利用 できる24時間対応の在宅福祉サービスの充実」 「経管栄養でもいざというとき預かってもらえ る施設サービスの充実」であった。しかし、 「地域に信頼できる医師がいること」を在宅介 護の条件に選んだのは17%で最も少なかった。 これは、たとえ信頼できる医師がいたとして も、24時間付き添わなければならない家族の負 担は軽減されないことを表しているといえる。 家族は医行為の必要になった身体状況での在宅 介護にとても慎重である。経管栄養の管理だけ でなく昼夜を問わず吸引が必要で、発熱や嘔吐 のリスクがあるために、常時誰かが家にいなけ れば在宅介護は困難だと判断している。それ は、社会資源が整っても、家族介護者の代わり にはなり得ないということであろう。社会資源 はメニューだけを整えても、利用しやすい条件 でなければ意味をなさないということを意味し ている。事業所の場所が家の近くであり、24時 間365日、呼べばすぐに対応してもらえるなど、 必要時にはいつでも利用できる条件が必要であ る。  本調査では、現状、在宅介護を選択していな い家族に聞き取りを行ったため、表15では「在 宅介護はできない」という選択肢を設けていな い。しかし、表16の自由回答の13、20は、どの 表15 どのような条件が整えば在宅介護が可能となるか(複数回答)

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ような条件が整っても在宅介護は困難だ、と判 断している。これらの回答からも、医学的管理 が必要な高齢者を、在宅で介護することの難し さが示されているといえる。  また、表16の自由回答の中に「24時間対応の サービスは必要だと思うが、そのサービスに従 事する人たちが仕事に没頭できるような収入の 充実がなければ内容が伴わないと思う。働く側 に充実感ややりがいがなければ、いい社会資源 は整わない。世話をする側の環境が大切。」と いうコメントがあった。このコメントは、言い 換えれば、サービスに従事する労働者の労働条 件が整わなければ内容のいいサービスは整わな いという、現状への鋭い指摘であろう。世話を する側に身体的にも精神的にも余裕がなけれ ば、病人を安心して任せることができないとい う家族の気持ちの表れとして看過できないコメ ントである。 (11)調査結果の総括  まず、本調査結果の総括として、住宅型の入 居者の傾向、入居の理由、栄養の経口摂取が困 難となったことによる家族の不安を①から⑥に まとめた。 ①  2011年と2014年の調査結果の比較から、栄 養摂取の方法については胃ろうが減少し、 中心静脈栄養法が増加している。また、栄 養摂取の管理以外の医行為を必要としてい る入居者が増加したことから、重症化傾向 が示された。 ②  入院や施設入所の前に在宅介護の経験が あったとしても、医行為が増えたため、家 族による介護では担いきれないと判断し、 住宅型への入居を決めている。 ③  在宅介護をあきらめた主な理由は、「医行 為への不安」「緊急対応への不安」「介護に 専念できる人がいない」である。 ④  退院後の次の行き場所を探す際の条件とし て、胃ろうが選択されていることがある。 栄養摂取の方法が、胃ろう、中心静脈栄養 法、鼻腔栄養法、いずれの方法であっても 家族は共通の不安や悩みを抱えている。 ⑤  家族は、住宅型は病院ではないことを理解 している。しかし、そこでのケアは、医療 依存度が高いにもかかわらず、医療従事者 からの十分なケアを受けることができない 現状に了解せざるを得ないと感じている。 ⑥  在宅介護に必要な条件は、24時間医学的管 理をサポートしてくれる専門職の存在であ る。  次に、家族のコメントにおいて、栄養摂取の 方法と療養場所との関係について言及されてい る内容を再掲し、調査分析の結果を補強する。 1.胃ろうなら病院から特養に戻れると聞いた ので胃ろうにした。本人も特養に帰りたいと 言っていた。2.胃ろうにすれば退院後施設入 所ができると聞いた。3.入院中も経口摂取の 介助をしていたこともあったが、胃ろうにしな いと退院後の受け入れ先に困った。4.次の場 所へ移るためには経管栄養はやむを得なかっ た。5.胃ろう造設が退院の条件だった。6. 胃ろうの方が、鼻腔栄養より受け入れ施設の幅 が広がった。7.胃ろうは勧めたくはないが、 施設の受け入れがいいと説明された。  これらのコメントからは、栄養摂取の方法の 選択が、本人のためだけでなく、退院後の受け 入れ施設を検討する際に少なからず影響してい ることが示唆される。

Ⅳ 考察

 本調査の結果、家族は多くの悩みを抱えなが ら住宅型Yでの療養生活に了解していたことが

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わかった。その悩みとは、本人が意思表示困難 なために、本人にとって最適な栄養摂取の方法 であったかどうかを確かめることもできず、現 在の住宅型での療養生活が、本人にとって満足 できているかを確かめることもできず、家族は 悩まざるを得ないというものであった。医学的 管理の中でも、経口摂取以外の方法で栄養を摂 取することが、家族にとって次の療養場所を検 討する際の困難のひとつとなっていた。  そこで、栄養摂取の方法と療養場所との関係 を、二つの側面から考察する。そこから、栄養 摂取の方法の選択が、生命維持のために選択さ れているとは限らない現状と、医学的管理と療 養場所との関係が明らかとなる。 1.栄養摂取の方法の意思決定と療養場所との 関係  老年医学会による患者家族対象面接調査(14) における調査報告において、栄養摂取の方法で 「決定の決め手や影響が大きかったもの」を確 認する。ここでは「医師の意見や説明」が最も 多く選択されていた。その「医師の説明の内 容」は「現在の被介護者の状態説明、被介護者 本人の負担軽減、栄養補給法の説明、胃ろうを 造設することで経口摂取の可能性が出る。管理 のしやすさ、転院のため、選択肢も示さず、医 師の言うとおりにするしかなかった。説明はあ まりない。」などが示されていた。  また、同学会による医師対象量的調査(15) お い て、AHN( 人 工 的 水 分・ 栄 養 補 充 法:artificial hydration and nutrition)導入の 意思決定に関わった際にどのような困難を感じ たかの回答が示されていた。「本人意思が不明 であるということ」が73%、経口摂取の継続は 「誤嚥して肺炎を起こし、生命に危険が及ぶ」 「窒息で生命に危険が及ぶ」ことへの心配が 61%、「家族の意思が不統一である」が56%とい う結果が示された。また、「AHNの差し控えに ついては倫理的問題がある」と感じている医師 が51%、「AHNを行うことについても倫理的な 問題がある」と感じている医師が33%存在した ことが示された。そして、「どのような段階で AHNに移行してよいのか、その判断基準がわ からず困っている」という回答も半数近くあっ たと報告されていた。老年医学の専門家の中で もこのような困難感を持ちながら臨床の現場に 立っているという非常に重要な結果である。  会田は「患者によっては医師から提示されな い選択肢に言及したり、要望したりすることが あるが、これは患者にとって心理的負担を伴 う」(会田2012)ため、患者・家族と共同で合 意形成に至るための医師の自覚を促している。  このように、家族だけでなく、医療者側にお いても経口摂取以外の方法で栄養を摂取するこ とについて、最善とは言えないかもしれないが 最良の方法を提案し、選択したにもかかわら ず、病院を退院後の療養の場が見つけづらく なっている現状があるといえるのである。 2.医学的管理と療養場所との関係  なぜ医療依存度の高い高齢者の療養場所が見 つけづらいのか、現在の診療報酬、介護報酬の しくみと高齢者を送り出す側(病院)と受け入 れる側(施設・在宅)の立場から確認する。そ れによって、現在の診療報酬、介護報酬と高齢 者の受け入れ施設の条件が関係していることが 明らかとなる。 (1)高齢者を送り出す側(病院)の事情  まず、診療報酬のしくみによって長期療養が 困難となっている。一般病床の入院基本料は入 院から14日間、15日目から30日、その後90日ま で、90日を超えて180日まで、180日超という期

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間を区切って入院日数が増えるほど一日当たり の入院料が減額される仕組みになっている。ま た、平均在院日数が19日を超えると急性期病院 は入院基本料が減額されるため、早期の退院が 促される。さらに、在宅への復帰率が一定割合 必要とされる基準も新設された。高度急性期病 院からの退院先については、自宅や回復期リハ ビリテーション病院、療養病棟へ、回復期リハ ビリテーション病院や地域包括病棟からは自宅 や居住系の住宅への退院が促進される仕組みと なっている(厚生労働省2014)。療養病床にお いては、医療区分とADL区分で入院基本料は 決められており、その入院費は包括化されてい るため、必要な医療処置を行っても病院は請求 できず、退院を促さざるを得ない状況となって いる。 (2)高齢者を受け入れる側(施設)の事情  特養においては、3か月を超えて病院に入院 すると見込まれた場合、事業者からの契約解除 が可能である。そのため、退院の目途が立って いない場合、除籍を余儀なくされ、家族は退院 後の行き場所を失うことになる。ただし、特養 は利用者の求めに応じて施設紹介等の支援を行 わなければならない(16)。このように、特養は 3か月間にわたって介護報酬のないまま空床を 抱えることになり、さらに家族は居住費のみは 支払わなければならないという事情がある。  また、特養や老人保健施設の看護師の職員配 置基準については、常勤換算方式で入所者数に 対する職員数の定めがあるのみである。夜勤帯 には看護職員が配置されていない事情があり、 医療依存度の高い高齢者の受け入れは困難な現 状である(17) (3)高齢者を受け入れる側(在宅)の事情  医療依存度の高い高齢者を在宅で介護する場 合、サービス提供体制の一つとして24時間定期 巡回・随時対応型訪問サービスがある。第5期 介護保険事業計画(2012年~2014年)におい て、平成24年度は189保険者一日あたり0.6万人 の利用を見込んだが、参入事業所は少なく、平 成24年度の実績は75保険者(計画の40%)。利 用者は、1060人(計画の18%)と低調であった。 また、訪問状況の調査結果(18)によると、地域 提供型の事業所(32事業所)では要介護4で 4.4回/日、要介護5で3.2回/日の訪問であり、 24時間を通して目の離せない医療依存度の高い 高齢者が一日数回の訪問で生活できるとは考え 難く、現状の24時間定期巡回・随時対応型訪問 サービスでは対応しきれないことが推測され る。利用したとしても家族介護者の存在が前提 となっているサービスであるといえよう。

Ⅴ 結論

 本調査結果と政策動向、研究動向から医療依 存度の高い高齢者の病院退院後の療養場所を見 つけづらい現状と、医療依存度の高い高齢者を 抱える家族の困難が浮き彫りとなった。そし て、高齢者本人と家族は、栄養の経口摂取が困 難となってから、現在の医療、介護、住宅政策 の下において、療養場所を求めて「住宅型」に 辿りついたことが示された。  現在厚生労働省では、「団塊の世代が75歳以 上となる2025年を目途に、重度な要介護状態と なっても住み慣れた地域で自分らしい暮らしを 人生の最後まで続けることができるよう、住ま い・医療・介護・予防・生活支援が一体的に提 供される地域包括ケアシステムの構築を実現し ていく」としている。そして、平成25年3月地 域包括ケア研究会報告書において「生活の基盤 として必要な住まいが整備され、本人の希望と 経済力にかなった住まい方が確保されているこ とが地域包括ケアシステムの前提。高齢者のプ

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ライバシーと尊厳が十分に守られた住環境が必 要。」であると、住まいの重要性ついて触れて はいるが、安心して療養できる環境としての住 まいについては言及されていない。また、「経 済力にかなった住まい」とは経済的格差を前提 とした文言であり、全ての高齢者の生活を保障 するための住環境の提供という視点はないとい えよう。地域包括ケアシステムで言及されてい る住まいは、民間資本の活用であり、その住宅 で行われる医療や介護の質は行政が担保するも のではなく、民間事業所の企業努力に委ねられ ていることが問題である。新しい住まいにおい て、時間で区切られた外部サービスを利用した としても、訪問時間以外は、住宅そのものに看 護・介護職員が配置されていなければ、高齢者 は一人で居室に放置されかねない。しかし、現 在、住宅型をはじめとした「新しい住まい」が 医療機関の施設基準に在宅復帰率が設定されて 以来、退院後の高齢者の療養場所としての受け 皿を担っている。  経口摂取が困難で、医学的管理を必要とする 高齢者は、時間の経過とともに医療依存度が高 まっていく傾向にある。そのような身体状況の 高齢者の療養場所のあり方は、現在の政策の下 では議論されていないのではないか。病院を早 期に退院させられ、特養、老健、自宅のいずれ の場所であっても、医療依存度の高い高齢者の 療養環境は保障されていない現状である。  本調査の対象施設は、平均入居期間が概ね6 か月ということと、入居理由や入居時の医療依 存度の高さから考察すれば、家族はそこでの看 取りを前提として入居を決めていることが推測 される。また、いつでも往診可能な医師と看 護・介護職員を正規雇用で配置する条件を満た している施設である。  しかし、このような一部の「住宅型」が企業 努力によって長期療養高齢者の療養環境を提供 するだけでは、高齢者の命は保障されない。今 後も「住宅型」を含む高齢者住宅が、療養環境 のあり方について問われないまま「新しい住ま い」として増設されていくことは問題である。  「住宅型」には看護・介護職員の配置基準が 設けられておらず、そこで暮らす高齢者の医学 的管理は困難である。常時、目を離すことがで きない身体状況であるにもかかわらず、必要な 援助の一部分に介護保険サービスをあてはめた だけでは、「人たるに値する生活を保障する」 (髙木2000)ことはできない。  現在構築が推進されている地域包括ケアシス テムの中でのサービス提供は、サービス事業所 間の連携及び他職種連携が求められているが、 たとえ事業所間の連携体制がとられたとして も、自宅であれ、「住宅型」であれ、居室に高 齢者が一人取り残される体制では命は保障され ないという現実が見過ごされているといえよ う。人たるに値する生活を保障するためには、 「医療」「介護」「住宅」の政策が連携して「療養 環境を保障する」という視点から検討されなけ ればならない。  合わせて、事業所の「囲い込み」防止(19) 指摘されているが、住宅とサービスの一体と なった療養環境の提供と「囲い込み」防止の観 点とは異なるものであることも指摘しておきた い。

おわりに

 本研究は、退院後の行き場を見つけづらく なっている長期療養高齢者の受け皿を「住宅 型」が担っている現状に注目したものである が、栄養摂取の方法と療養場所との関係におい ては、特養や老健における療養環境の実態も明 らかにしていくことが望まれるであろう。また

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本稿において、現在の地域包括ケアシステムの 構築という方向性に「療養環境をどのように保 障していくか」という視点が欠落しているとい う課題を抽出することはできた。しかし政策提 言まで到達することができなかった。  さらに、本研究の限界は、一か所の「住宅 型」の調査に留まったため、一般化した結論を 出すには十分とはいえない。  研究の成果としては、経口摂取が困難となっ てから「住宅型」に辿りつくまでに、家族が抱 えてきた困難を明らかにし、提示することがで きたことであろう。また、本調査結果は聞き取 りをおこなった結果であり、分析結果を生きた 声によって補強することができた。そこから示 唆されることは、今後の実証研究における参考 資料の一つとなったといえよう。 謝辞  最後に、本調査にご快諾いただいた住宅型Y の施設長とご協力いただいたご家族、施設職員 の皆様に厚く御礼申し上げたい。また、人生の 最晩年を過ごす高齢者のための療養環境を整 え、寄り添っている施設長と職員の方々に敬意 を申しあげる。 (1)  「2025年東京圏高齢化危機回避戦略」『中央 公論』2015,7に発表された。 (2)  平成24年度の介護報酬改定において経口 維持・経口移行に関する算定基準が見直 された。実際の取り組みと制度的課題を 明らかにするために調査研究が行われた。 (平成24年度老人保健事業推進費等補助金 老人保健健康増進事業) (3)  日本老年学会によって、日本老年医学会 医師会員を対象とする量的調査、日本老 年看護学会看護師会員を対象とする量的 調査、臨床現場の看護師を対象とする量 的調査、患者家族を対象とする面接調査 が実施された。「認知症末期患者に対する 人工的な栄養・水分補給の導入・差し控 え・中止に関するガイドライン作成へ向 けた検討」(平成22年度厚労省老健局老人 保健健康増進事業) (4)  都道府県それぞれに一次、二次、三次医 療圏を定める。特に、二次医療圏は、一 般入院医療と二次救急医療とが自己完結 的に整備されるべき圏域であって、概ね 「群」または政令指定都市の「区」におい て、人口数、年齢階級別人口構成、入院 受療率、病床利用率等の現状をベースに 「必要病床数」を算定する。 (5)  1995年の社会保障制度審議会による「社 会保障体制の再構築(勧告)」は社会保険 料の拠出や租税の負担を含め、社会保障 を支え、つくり上げていくのは、すべて の国民であるという立場に立ち、社会保 障を自助・相互扶助のシステムであるか のように論じたものであり、1997年には ①消費税が5%に引き上げられ、②健康保 険法改正事項の施行により、被保険者の 窓口負担が2割とされ、③介護保険法が 成立したのである。    髙木和美(2000)「介護問題対策とは何か -介護保険と介護保障との違い」『日本医 療経済学会会報』62 (6)  住宅施策と福祉施策の連携により、高齢 者等の生活特性に配慮したバリアフリー 化された公営住宅等と生活援助員(ライ フサポートアドバイザー)による日常生 活支援サービスの提供を併せて行う、高 齢者世帯向けの公的賃貸住宅の供給事業

参照

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