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数学的方法の活用の契機についての仮説 ― 新しい数学の学力観に対応する数学的問題解決の支援方略の検討を通じて ―

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(1)(135) 全国数学教育学会誌 数学教育学研究 第24巻 第1号 2018 pp.135~145. 数学的方法の活用の契機についての仮説 ― 新しい数学の学力観に対応する数学的問題解決の支援方略の検討を通じて ― 広島大学附属福山中・高等学校 上ヶ谷 友 佑 (2017.11.30受理). 1.序 論. 本稿では,この目的を達成するために, [1]個別の. 近年の数学教育研究においては,新しい学力観を構. 数学的問題解決の場面において,どのような数学的方. 築するキーワードとして「数学的方法」が注目されて. 法が活用され得るのかを把握し, [2]その活用がいか. いる。例えば,岩崎・阿部・山口(2008)は,技術的. なる支援の下で促進されるか,そして, [3]結果的に. 発展によって数学が道具としてブラックボックス化さ. 何が契機となってその数学的方法が活用されているの. れることで,個人にとって数学的技能や数学的知識の. か,を順次明らかにしていくことにしよう。本稿の構. 価値が低下するという視点,すなわち,「社会の数学. 成は以下の通りである。まず,大まかな研究方法とし. 化と個人の脱数学化」 という Jablonka & Gellert (2007). て,教科書に掲載されている数学的問題の分析を実施. の視点を切り口として,数学的方法の強調を基軸とし. することと,その妥当性について述べ(第2章),そ. た大局的なカリキュラムの構成原理を提案している。. の分析を具体的に実施するための理論的前提について. また,阿部(2015)では,この議論を進展させ,方法. 述べる(第3章)。次に,その理論的前提に基づく分. の対象化を通じた方法知の構成という論点を導出して. 析方法を述べ(第4章),分析対象となる原問題につ. いる。一方,清水(2012,2015)のように,学力調査. いて述べる(第5章)。その上で,実際の分析結果と. やカリキュラム編成を検討するにあたって,数学的活. して数学的方法の活用を促進する支援方略を提案し. 動の過程に焦点化することで,岩崎・阿部・山口より. (第6章) ,その支援方略を踏まえながら,数学的方法. も相対的に個別的・具体的な数学的方法を議論する向. の活用の契機を仮説として導き出す (第7章) 。 最後に,. きも見られる。こうした議論の動向を踏まえると,自. 結論と今後の課題を述べる(第8章) 。. らの状況を批判的かつ反省的に吟味しながら,具体的 な数学的知識・技能からモデル化・論証などのより一 般的な数学的方法に至るまで,いずれをも活用してい. 2.研究方法 (1)理論と実践の往還の起点として. く学習者の育成が重要視されていると言えよう。. 本稿では,新しい数学の学力の形成メカニズムに関. このように,新しい数学の学力に関する研究は,徐々. する仮説の構築と,その形成を支援する指導方略の提. にその明確な学力の「捉え方」を提示しつつある。し. 案を同時に行う。すなわち,本稿は,十分に実証され. かしながら,逆に言えば,それは,捉え方を提示した. た仮説に基づいて指導方略を提案するわけではない。. のみであり,そうした学力がどのように形成され得る. なぜなら, これまでと同じ数学教育実践を通じてでは,. のかについてまで直ちに新しい知見をもたらすもので. そもそもの考察対象である新しい数学の学力の形成過. はない。学習者にどのような数学的問題の解決に従事. 程が表出されないと考えられるからである。. させ,その過程において教師が学習者をどのように支. ここには,ある種の循環構造が存在する。つまり,. 援することが,新しい数学の学力の形成に通じるのか. 仮説を実証するためには,新しい数学の学力の形成過. については,これから解明されなければならない。. 程が表出し得る実践が必要であり,そうした実践を設. そこで本稿では,新しい数学の学力の構成要素とし. 計するためには当該の仮説が必要なのである。 そこで,. て数学的方法の活用に着目し,特に次の2点を目的と. 我々はすべての出発点として,先行研究に基づきなが. した理論的考察を行う。. ら実効性のある指導方略を考案し,その上で,その方. [目的1] 学習者の数学的方法の活用を促進する支援 方略の提案 [目的2] 学習者が何を契機として数学的方法を活用 するに至るかについて仮説の構築. 略を前提とした仮説の構築を試みる。 こうすることで, 指導方略の有効性の検証が仮説の妥当性の検証にもつ ながり,経験的検証に開かれた仮説の構築が可能とな る。つまり,構築された仮説の反証可能性を担保する.

(2) (136) ことができる。. かう学習者の育成を要請する。既知の問題状況におい. このアプローチは,Cobb(2002)の観点から見れば,. て既知の解法を実行する力の育成以上に,未知の問題. デザイン・リサーチの往還を始動させる起点を構成す. 場面において既有知識を組み合わせながら,新しい解. ることに相当し,Ruthven & Goodchild(2008)の観. 法を生み出していく態度の育成が要請されているので. 点から見れば,学問知と実践知の相互変換の具体例と. ある。これは,ポリア(1954)以来続く試行錯誤的な. なる。もちろん,理論と実践の往還を通じて構築され. 方法知への注目が,より一般的な形で脚光を浴びてい. た仮説や提案された方略については,修正と更新が必. ると見なすことができよう。しかし,こうした方法知. 要不可欠であるが,本研究のアプローチは,新しい数. への注目を現実的に数学教育において実現することを. 学の学力の形成過程を議論するための,建設的な最初. 考えたとき,教師にとって未知の問題を授業で扱うこ. の一歩として見なすことができよう。. とは難しい。そのため,教師には,学習者があたかも. [方法1] 理論と実践の往還を実現するための起点と. 未知の問題場面に対して自ら新しい解法を発明したか. して,本稿では指導方略の提案を通じて仮. のように感じられるよう指導することが求められてい. 説の構築を行う。 (2)ありふれた原問題の分析. ると言えるであろう。 [前提1] 数学的方法を活用する態度の形成には, 「自. 新しい数学の学力は,学校教育の最終目標に位置付. らの判断で試行錯誤的に新しい方法知を発. き得るものであるから,長期的な指導なくしては形成. 明すること」の疑似体験が必要である。. され得ない。そのため,そうした学力は,効果が高い と目される単発の教材をいくつか導入することで形成. (2)仮説的学習軌道論との接続 [前提1]は,構成主義,特にラディカル構成主義 . されるというよりは,数学という教科のほとんど至る. (以下,RC;von Glasersfeld, 1995)の必要性を示唆. ところで,新しい学力の形成に通じる指導が展開され,. する。RC は,あらゆる認識の主観性を主張する哲学. その累積によって形成されると捉えるべきであろう。. であり,とりわけ,問題場面における解決方法の選択. すなわち,数学教育には,ありふれた数学的問題の解. の試行錯誤が,主観的合理性に依拠している点を強調. 決場面でさえも,新しい学力形成の一助となるような. する哲学である(Confrey, 1991;上ヶ谷,2014) 。RC. 工夫が求められている。そこで本稿では,ありふれた. は,観察された学習者の振る舞いの事後的な解釈を. 数学的問題として,高等学校の数学の教科書に掲載さ. 通じて, 「方法知」 (ライル,1987参照)の構成の本性. れている問題を原問題として1題選び,その問題の解. に 迫 る 枠 組 で あ り(Uegatani & Koyama, 2015) ,. 決をどのように支援することが数学的方法の活用の契. 研究および実践の双方で応用されている(Steffe &. 機となり得るか,という視点で,その原問題の分析を. Thompson, 2000;Steffe & Ulrich, 2014;Ulrich,. 実施する。この分析を通じて,本稿は,教師による支. Tillema, Hackenberg, & Norton, 2014) 。. 援の存在を前提として,何が数学的方法の活用の契機. 構成主義的な実践においては, 「仮説的学習軌道」. となり得るかについての仮説を構築するものである。. (Simon, 1995, 2014) ,すなわち,ある手立てに対して. [方法2] 教科書に掲載されている問題の解決場面を. 学習者がどのような反応を示し得るかを予測しなが. 具体例として,その場面で数学的方法の活. ら, 次の手立てを検討することが重要であるとされる。. 用を支援する指導的介入を提案する。. Simon & Tzur(2004)は,仮説的学習軌道論の1つ. [方法3]  [方法2]の結果を踏まえて,何が数学的. の応用として,教えたい数学的知識が,与えられた問. 方法の活用の契機となり得るかについて仮. 題場面における最適解となるように数学的課題の系列. 説を構築する。. を設計することの必要性を提案する。学習者は,試行 錯誤しながらも,そうした課題の系列を合理的に解決. 3.理論的前提. するために,新しいアイディアの発明を自然と経験す. 本章では, [方法2]の「原問題の分析」を進める. ることができるのである。 これは, まさに学習者にとっ. にあたって必要な理論的前提を示す。. ては,未知の問題場面における新しい方法知の発明の. (1)新しい学力観からの要請. 疑似体験であり, [前提1]の要請を充足する1つの. 新しい数学の学力は,本質的に,自分自身の置かれ. 学習観を提供している。. ている状況を反省する力を要請する(阿部,2015;. ただし,仮説的学習軌道論の役割が,ある場面がど. 岩崎ら,2008;清水,2012)。目まぐるしく変化する. んな方法知の発明場面になり得るかを明らかにするこ. 現代社会における数学的方法の活用に着目する新しい. とにあるという点には注意が必要である。例えば,先. 学力観の理念は,必然的に,未知の問題状況に立ち向. 行研究では,既存の数学的課題が誤った学習を引き起.

(3) (137) こす可能性が示唆されてきた(Thompson, 2008;上ヶ 谷,2015a,2015b)。端的に言えば,仮説的学習軌道. みることには価値がある。 [前提3] IDC モデルに基づいて「具体化」と「記述」 の2種類で数学的問題の解決過程を記述す. 論は, 新しい教材を生み出す基盤になるというよりは,. る。. 設計された数学的課題の理論的妥当性を評価する基盤 となるのである。つまり,仮説的学習軌道論は,本稿. (4)具体化の促進. の[目的1]の達成を評価するために有用である。. IDC モデルにおける「具体化」と「記述」は,そ. [前提2] ある指導的介入案の理論的妥当性が,仮説. れぞれ主たる役割が異なる。 既知の条件を捨象する 「記. 的学習軌道論の考え方を援用することで評. 述」は,抽象化という形で主として概念形成と密接に. 価し得る。. 関連する(Mason, 1989) 。一方,与えられた条件の含. (3)IDC モデルの活用. 意を読み解く「具体化」は,「記述」とは逆で,主と. [前提2]より,仮説構築それ自体は仮説的学習軌. して形成された概念を活用していく過程であり,問題. 道論ではなし得ず,異なる方法が必要である。そこで. 解決の原動力となる。. 本稿では,仮説構築のための補助理論として,「注意. このように考えると,問題解決の場面で数学的方法. の移行」論(Mason, 1989)と,その一般化である IDC. を活用する態度とは,まさに主体的に具体化を試みる. モデル(Uegatani, 2014;上ヶ谷,2016,2017)を活用. 態度である。RC の用語を用いれば,こうした態度は,. する。これは,数学的問題解決を試みる学習者の推論. 具体化することが方法知として生存可能1)であるとい. が,学習者が注意を向けている数学的条件の集合で記. うことであり,具体化することが繰り返し何らかの成. 述できるとするモデルである。IDC モデルでは,注意. 功経験を生み出している状態である。したがって,教. を向ける条件が増えることを「具体化」 (Instantiation),. 師の支援の下,主体的な具体化によって問題解決に成. 注意を向ける条件が減ることを「記述」 (Description). 功する経験を積むことが,教師の支援がなくなった後. と呼び,これらの連鎖(Chain)によって推論が記述. も,主体的な具体化を試みる学習者として育つことに. される。. 繋がると考えられる。我々は,そのための支援方略を. 本稿において IDC モデルを用いる利点は3つある。 第一の利点は, [前提1]で指摘した「試行錯誤」が. 考案する必要がある。 [前提4] 数学的方法の活用を促進するためには,学 習者が自らの判断で主体的に具体化するこ. 説明に織り込まれ得る点である。もしある学習者が,. とを促す支援が必要である。. 未知の問題場面において,その問題を解けるだけの既 有知識を持ち合わせていながら,その問題が解けずに. (5)方法論的基礎:何が明らかになるか?. いるとすれば,それは,注目すべき条件に注意が移行. 本章の最後に,上述の[前提1] ~  [前提4]に基. できていないということの証左である。逆に言えば,. づく数学的問題の分析を通じて,結果として何が明ら. 様々な条件へ試行錯誤的に注意を移行させることで,. かになるのかについて明確化しておこう。この分析を. 問題解決の突破口は開かれ得る。そのため,IDC モ. 通じて明らかになることは,その問題の解決場面にお. デルの特性は,問題解決の突破口を記述するのに最適. ける数学的方法の活用の促進に関して相対的に有力な. である。. 指導的介入と,それに基づく数学的方法の活用の契機. 第二の利点は, [前提1]で指摘した「新しい方法. である。. 知の発明」が要請される場面が分析しやすくなる点で. まず,[前提1]より,学力形成はある種の指導的. ある。IDC モデルに基づいて「具体化」の場面と判. 介入の結果ではない。常に,教師のその指導的介入を. 定された場面は,問題文に明示的に書かれていない条. 学習者がどのように受け止めたかという主観的な認識. 件へ注意を移行する場面である可能性がある。それは,. に依存している(この点は,構成主義の前提と整合す. つまり,明示的に要請されていないことを実行する場. る)。しかし,教師の指導的介入を学習者が任意に受. 面であり,新しい方法知の発明に関与し得る場面であ. け止め得るからと言って,教師の指導的介入が学力形. る。. 成に一切影響を与えないというわけではない。 確かに,. 第三の利点は,「具体化」または「記述」のどちら. ある指導的介入がある一個人にどのように受け止めら. かで推論が記述されるので,IDC モデルによって考. れるかを正確に予測することは難しいが,学習者の集. 察対象が一気に制限され,仮説構築が容易になる点で. 団を考察の対象とした場合,相対的に意図通りに受け. ある。もちろん,この制限は過剰な制限であり得るが,. 止められやすい指導的介入が存在すると仮定すること. [方法1]で指摘した往還の起点を構成するという意. ができる(この点は,仮説的学習軌道論の考え方と整. 味では,取り急ぎ,この制限に基づいて仮説構築を試. 合する)。そこで本稿では,この相対的に有力な指導.

(4) (138) 的介入を探究する。 本稿において,この受け止められやすさは, [前提2]. 論的かつ定性的に妥当な仮説が1つ以上存在するとい うことであり,本稿はこの点に寄与する。. に基づいて定性的に評価される。学習者の思考過程を. [前提5] 本稿は,理論的前提から客観的手続きを経. 無視して「受け止められやすかったかどうか」を何ら. て一意な結論を導出するものではなく,創. かの手法で定量的に評価できたとしても,そうしたア. 造的に導出された結論の,理論的かつ定性. プローチは,どのような状態の学習者に対して本稿の. 的な妥当性を評価するものである。そうす. 同定した指導的介入が有効であるかについての示唆に. ることで,数学的問題解決の場面において. 乏しい。本稿は,無作為に選ばれた学習者に対して相. 数学的方法の活用を促進するための相対的. 対的に有効性の高い指導的介入を探究するのではな. に有力な指導的介入と,それに基づく数学. く,実際に実践的な検証を行う際に,本稿の同定した. 的方法の活用の契機に関して,経験的に検. 指導的介入が有効であるような学習者を見定めやすく. 証する価値のある1つの仮説を得る。. するために,積極的に[前提2]で示した定性的評価 を採用する。こうした手法は,仮説的学習軌道論とし. 4.分析方法. ては標準的に採用される手法である(例えば,Simon. 本章では,前章で述べた理論的前提に基づいて,具. & Tzur, 2004)。 この手法によって得られる結果の妥当性は,前提と. 体的な「原問題の分析方法」を詳述する。 (1)ステップ1:解決過程の直線的記述. して採用した学習者の思考過程のモデルの妥当性に依. 第一に,原問題のあり得る1つの解決過程を直線的. 存する。しかしながら,構成主義において, 「モデル構. に記述する。ただし, [前提5]より,この記述の結. 築は研究者の創造性に関係しており,その構築過程そ. 果は,一意に定まるわけではない。実際,原問題の妥. れ自体が検証に開かれている」(Steffe & Thompson,. 当な解決過程が1つとは限らない。また,同じような. 2000, p.297)と述べられているように,学習者の思考. 解決過程であっても,詳細に記述したり大雑把に記述. 過程のモデルは,何らかの客観的な手続きによって一. したりすることが可能である。このように,記述の結. 意的に構築できるわけではない。したがって,論証可. 果には自由度があるけれど,仮に直線的に解決が進む. 能なことは,本稿の結論が理論的に妥当な手続きに基. とすればどのようになり得るか,その1つのパターン. づいて導出されている,ということではなくて,(筆. を把握しておくことは重要である。なぜなら,学習者. 者の創造性に基づいて構築された)本稿の結論が,仮. の問題解決を支援するためには,どういう方向へ支援. 説的学習軌道論に基づいて評価すると定性的に妥当で. するかについての基準として,少なくとも1つ以上の. あった,ということのみである。数学において定理の. 解決過程を念頭に置いておかなければならないからで. 発見と定理の証明が別々の過程であるのと同じよう. ある。ステップ1では,その基準の構成を行う。. に,本稿においても結論の発見と結論の証明は別々の. なお,どの程度詳細に記述するか,あるいは,どの. 過程であり,その発見の過程は,必ずしも客観的な手. 程度大雑把に記述するかは,本来的には,指導する学. 続きによって説明され得るものではない。そのため,. 習者の実態に即す形で,実践的な要請を踏まえて検討. 次章で述べる分析方法と,上で述べた[前提3]およ. すべき問題である。しかし,本稿の目的は,特定の数. び[前提4]は,結論を発見するための1つの拠り所. 学的問題に対する完璧な支援方略を提案することでは. として理解されるべきものであり,一意的な結論を導. ないから, この点の仔細には立ち入らないこととする。. くための手続きを示したものではない点に注意が必要. すなわち,本稿がステップ1を通じて示す基準は,あ. である。. くまでも, [目的1]および[目的2]を達成するた. 当然,このような事情から,本稿が述べた理論的前. めの,あり得る1つの便宜上の基準である。. 提を充足する結論が,本稿が示した結論以外にも存在. (2)ステップ2: 「具体化」と「記述」による分類. する可能性がある。しかし,学習者が多様であること. 第二に, [前提3]より,ステップ1の結果を「具. を考えると,理論的前提を充足する結論が多様である. 体化」と「記述」に分類する。注目する条件が増えて. こともまた当然のことであり,他の結論が存在するこ. いる場合は「具体化」,注目する条件が減っている場. と,つまり,相対的に有力な指導的介入が複数存在す. 合は「記述」と分類する。その際,新たに注目するよ. ることは理論的にも実践的にも歓迎されるべきことで. うになった条件や,注目をやめた条件を明記する。. ある。また,このことは同時に,他の結論の存在が,. (3)ステップ3:先行条件の同定. 本稿の結論の妥当性を損ねるものではないことも意味. 第三に,ステップ2で同定された個々の「具体化」. する。重要なことは,経験的に検証する価値のある理. および「記述」のステップをいくつかの群にまとめ,.

(5) (139) 各群への注目に至るための先行条件を同定する。ス. 題Aは, 「任意の実数 k について, 『P(k) ⇔任意の実数. テップ2の結果には,注目し始めた条件や注目をやめ. x について kx2 + x + k < 0 である』」という言明が真と. た条件についての情報は含まれているが,なぜそこに. なるように,条件 P(k) を定める問題である。解法そ. 注目したのかや,なぜそこからの注目をやめたのかに. れ自体は単純だが,そこに行き着くまでの過程は初学. ついての情報は必ずしも含まれていない。そのため,. 者にとって複雑であり得,仮説構築を試みる際の原問. ステップ3では,その理由の考察を行う。もちろん,. 題として,必要最小限ながら十分な役割を果たすこと. 学習者の視点から見た試行錯誤の過程としては,特に. が期待される。. 意図せず,たまたまある特定の条件に注目しており, そのことが結果的に突破口を切り開く,ということが. 6.分 析. あり得る。しかし,我々の問題は,教師の視点から見. 本章では,第4章で示したステップに沿って第5章. て,注目すべき条件に学習者が自然と注目できるよう. で示した原問題の分析を行う。. に支援することである。この場合,どういう理由でそ. (1)ステップ1:解決過程の直線的記述. の条件に注目すべきなのかが明確化されていなけれ. 問題Aの解決は,2次関数の分類が決め手となる。. ば,支援方略の検討も覚束ないものとなるから,その. あり得る1つの解決過程を直線的に記述すると, [A1]. 意味で,ステップ3は重要である。. ~  [A14]の14ステップで表わすことができた(表1. なお,ステップ3における群化についても,ステッ. の左欄)。なお,[A5]  ~  [A8]のように具体化と記述. プ1と同様,一意的に定まるものではない。そのため,. 化が頻繁に切り替わる部分は細かく分けて記述した一. 本稿では,ステップ1と同様,[目的1]および[目. 方で,後の分析での便宜を考え,[A12]のように大. 的2]を達成するための,便宜上の群を示すものとす. きくひとまとめにしたところもある。 (2)ステップ2: 「具体化」と「記述」による分類. る。 (4)ステップ4:具体化を促進する介入案の検討. ステップ1の結果を「具体化」また「記述」で分類. 第四に,[前提4]を踏まえながら,指導的介入の. し,判断理由と合わせて示した(表1の中央欄) 。 [前. 一案を示す。ここでの介入案は,[前提2]に基づき,. 提5]より,この判断理由が,表1のステップ1およ. 学習者にとって新しい方法知の発明の疑似体験となり. びステップ2の結果が仮説的学習軌道論に基づいて理. 得るか,その理論的妥当性を検討する。. 論的かつ定性的に妥当である根拠となっている。 なお, 視認性を高めるため,表1では,「具体化」の欄の背. 5.原問題 本稿では,高校数学 I の教科書に掲載されている次 の問題を原問題とする。 [問題A] 2 次関数 y = kx2 + x + k に対して,y の値. 景色を灰色で示した。 (3)ステップ3:先行条件の同定 ステップ2の結果を3群に分け,各群に注目するに 至る先行条件について検討した(表1の右欄) 。以下,. がつねに負となるように,定数 k の値の範. 各群について述べる。. 囲を定めよ。(高橋他,2011,p.120). 第一群は,2次関数の分類への着目である。この分. この問題を選定した理由は,主に2つである。第一. 類へ着目する理由は,この分類に着目することで,2. に,問題Aは,数学Iの内容であるため,多くの高校. 次関数全体から,「上に凸」かつ「交わらない」とい. 生が触れ得るありふれた応用問題であるという点であ. う2次関数のみに探索範囲を絞り込めるという見通し. る。特に, [方法2]より,新しい数学の学力を培う. が立つからである。しかし,この見通しは, [A8]で. のに相応しい特筆すべき特徴を備えた問題というより. の認識を[A1]の段階で要請していることを意味し,. は,ありふれた応用問題であるということが重要であ. 論点を先取りしている。もし円滑にこの分類に着目で. る。実際,微積分が現代の科学技術を支えているとい. きない学習者がいるとすれば,それは,この論点先取. う現実を踏まえると,今後,どんなに学習指導要領が. の構造に起因するものと考えられる。. 改訂されたとしても,2次関数の応用問題が教科書か. 第二群は,逆の確認への着目である。他の5つの場. ら消えるということは考え難い。その意味で,問題A. 合があり得ないことに気付き,消去法で「上に凸」か. は,今も昔も,そしてこれからも,ありふれた問題で. つ「交わらない」に最後に着目する,という順番でも. あり続けることができるであろう。. よいが,表1では,一例として,「上に凸」かつ「交. 第二の理由は,問題Aが,ありふれてはいるものの,. わらない」に先に着目する順番を想定した。いずれに. 述語論理的観点から見て全称量化子が複数混在した問. せよ,他の5つの場合に目を向けるためには,すべて. 題であり,応用問題らしさを備えている点にある。問. の場合を尽くすという態度が必要である。.

(6) (140) 表1 問題Aに対するステップ1, 2, 3の結果 過程. ステップ2の結果. ステップ1の結果. 分類. 判断理由 新たに凸性に着目している。. 上に凸であれ下に凸であれ,2次関数 は,x 軸との位置関係について「異な [A2] る2点で交わる」, 「1点で接する」, 「交 具体化 わらない」のいずれかに排他的に分類 でき,合計6種類に排他的に分類できる。. 新たに x 軸との位置関係にも着目 している。. 6種類それぞれについてグラフの概形 を描く。. グラフの視覚的な側面に注目して いる。. [A3] [A4]. 「上に凸」かつ「交わらない」のとき, 「上に凸」かつ「交わらない」場 具体化 y の値が常に負であることに気付く。 合にのみ注目している。 逆に,y の値が常に負である場合を考 える。. 「『上に凸』かつ『交わらない』」以外 [A6] のとき,y の値が常に負だというわけ ではない。. 記述. 「上に凸」かつ「交わらない」場 合への注目をやめている。. 具体化. 「 『上に凸』かつ『交わらない』」 以外の場合に注目している。. [A7]. 「『上に凸』かつ『交わらない』」以外 のときは考えないことにする。. 記述. 「 『上に凸』かつ『交わらない』」 以外の場合への注目をやめている。. [A8]. 「上に凸」かつ「交わらない」場合の みを考える。. 具体化. 「上に凸」かつ「交わらない」場 合にのみ注目している。. [A9]. まず,「上に凸」を k についての条件 で言い換えることを試みる。. 記述. 「交わらない」への注目をやめて いる。. [A10] 「上に凸」⇔ k < 0. 具体化. 「交わらない」についても言い換えを [A11] 試みる。. 具体化 「交わらない」 へ再び注目している。. 1. 1. − または < k k < 2 2. (. 1. 1. ). − または < k  [A13] k < 0 かつ  k < 2 2 1. − < k。 [A14] 求める k の範囲は k< 2. 1. 1. 具体化. − または < k へも注目し k < 2 2 ている。. 記述. 「上に凸」等への注目をやめ,注 目する条件を整理している。. 第三群. [A12]. 先行条件 凸性と x 軸との位置 関係を考えれば,探 索範囲を狭められる 可能性が認識できて いる。. 「『上に凸』かつ『交 わらない』⇒ y の値 が常に負」は,発見 法的に探索範囲を狭 めているだけなの で,逆の確認が必要 だと認識できている。. k < 0 へも注目している。. 2. 「交わらない」⇔2次方程式 kx + x + k = 0 の 判 別 式 D = 1 - 4k2 < 0 ⇔ . 第二群. [A5]. 具体化. 群. 第一群. 2次関数は, 「上に凸」または「下に凸」 [A1] 具体化 の2種類に排他的に分類できる。. ステップ3の結果. 「AかつB」は,A とBをそれぞれ別々 に考察して,後で「か つ」で結びつけ直し てよいと認識できて いる。. 1. 記述. < k への注目をやめ,注目する 2 条件を整理している。. 第三群は, 「かつ」で結ばれた条件を別々に考察す. ①第一群への着目の支援. る場面である。この群は,問題Aに固有の状況ではな. 第一群への着目を支援するには,論点先取の構造を. く,2次方程式の判別式に関連する方法知を適切に使. 乗り越える術を考えなければならない。例えば,「与. いこなせるかどうかが問われている状況である。つま. えられた2次関数のグラフはどんな形になるだろう. り,第三群への着目は,問題Aを既知の問題場面に置. か?」という発問について考えよう。この場合,確か. き換えられるという見通しに基づいている。. に第一群への着目を促すかもしれない。しかし,この. (4)ステップ4:具体化を促進する介入案の検討. 発問が,第一群への着目によって探索範囲を狭められ. ステップ3の群分けに基づいて,各群での具体化を. る可能性に対する見通しまでを学習者に与えるとは考. 促進するための指導的介入の一案を表2に整理した。. え難い。. 以下,各案について補足する。. そこで,この論点先取の構造を乗り越える1つのア.

(7) (141) 表2 問題Aに対するステップ4の結果 介入案 「いきなり完全な答えを出すのが難しかったら, 第一群 『例えば,k の値が○○だったら y の値が常に負 になる』って言えるかな?」 第二群. 「y の値が常に負になるのは, 『上に凸』かつ『交 わらない』場合だけなのかな?」. 第三群 なし. 合のみに注目しているのかは,学習者が,きちんと他 の5つの場合も考慮した旨を,解答として答案に記述 していなければ判定できない。 そこで,この観点については,解答の記述の仕方の 問題として介入することが重要であると考えられる。 学習者が,頭の中では他の5つの場合も考慮している 可能性があったとしても,そのことが十分確認できな い場合,「y の値が常に負になるのは,『上に凸』かつ 『交わらない』場合だけなのかな?」という発問が有. プローチとして,条件を満たす k を試しに具体的に探. 効であると考えられる。. すということを考える。このことは,例えば,「いき. [前提2]に基づき,この問いを契機として学習者. なり完全な答えを出すのが難しかったら,『例えば,k. が辿り得る学習軌道と,それに続く支援アプローチを. の値が○○だったら y の値が常に負になる』って言え. 検討しよう。まず,先の問いに学習者が Yes と答え. るかな?」という発問で促し得ると考えられる。. るなら,「なぜそう言えるのか?」と続けることがで. [前提2]に基づき,この発問がどのような方法知. きる。また,No と答えるなら,他にも条件を満たす. の発明の疑似体験に通じているか評価しよう。例えば,. k が存在する可能性を探究させればよい。こうした一. k = -1 のときに着目し,y が常に負になることを確認. 連の介入は,もし学習者が他の5つの場合を考慮して. しようとするならば,適切に既習事項を身に着けてい. いなかったならば,凸性と x 軸との位置関係という観. る学習者であれば,グラフの概形をかき,凸性と x 軸. 点からすべての場合を尽くすという新しいアイディア. との位置関係を考えざるを得なくなる。そのため,こ. の発明を促進していると考えられる。また,もし学習. のことは,問題Aを考察する文脈において凸性と x 軸. 者が既に他の5つの場合を考慮していたとしたら,凸. との位置関係に着目する1つの契機となる。これは,. 性と x 軸との位置関係という観点を利用することで,. 教師の発問が契機で注意を移行したものではあるが,. すべての場合を尽くしたことを論証するという新しい. 決して教師に直接,凸性と x 軸との位置関係に着目す. アイディアを既に発明していたことになるから,教師. るよう求められたものではない。そういう意味で,こ. は,そのことを承認し,貴重な発明を答案にきちんと. の発問は,問題Aという未知の問題場面において,凸. 記述するよう促せば良い。. 性と x 軸との位置関係に着目するという新しいアイ. なお,先の発問は,決して他の場合が5つあること. ディアの発明を促進していると考えられる。. を示唆するものではない。実際,下に凸の場合は,y. なお,この発問は,ポリア(1954)風に言えば,よ. の値がいくらでも大きくなり得ることを根拠に,それ. り特殊な類題の検討を促しているとも言えるが,細か. 以上細かく場合分けする必要がない,という判断もあ. いアプローチについては,学習者にその決定を委ねて. り得る。どのように具体化するかは,学習者自身の判. いる。k がどんな値である場合を調べるかや,仮に. 断に委ねられている。そういう意味で,自ら主体的に. k = -1 と具体化することを決めた後,どのようなア. 具体化することを促進する発問となっている。. プローチでそれが問題の条件を満たすかを確認するか. ③第三群への着目の支援. などは,学習者が自分で判断することである。実際,. 第三群は,未知の問題が既知の問題へ帰着された場. 例えば,計算量は多少増えるが,判別式を用いる代わ. 面であるから,新しい数学の学力との関係で,取り立. りに,頂点の y 座標の値が関数の最大値になることを. てて検討する点はない。もちろん,現実にはこの段階. 利用して確認することもできる。いずれにせよ,先の. で困難を示す学習者も多数存在するであろうけれど,. 発問は,凸性と x 軸との位置関係に,自らの判断で注. この点については,本稿の射程を逸脱してしまう。そ. 意を移行していくことを支援することができると期待. のため,稿を改めた議論が必要である。. される。 ②第二群への着目の支援. 7.考 察. 第二群への着目については,そもそも学習者がそこ. 本章では,[方法3]に基づき,前章での分析結果. へ着目できているかどうかを判定すること自体が難し. を一般化し,数学的方法の活用の契機に関する仮説を. い場合がある。「上に凸」かつ「交わらない」の場合. 構築しよう。本章では,まず,前章にて具体的な支援. のみに注目している学習者がいたとき,他の5つの場. 方略を論じた第一群と第二群への注目を支援すること. 合も考慮した上でそうしているのか,ただ単にその場. から仮説を構築する。その上で,全体を総括する考察.

(8) (142) ことは,数学の文化の問題だからである。例えば,こ. を行う。 (1)第一群に関連する仮説. れが数学の問題ではなく,工学的な問題だとして,実. 第一群への注目の支援がそうであったように,問題. 用上,必要十分条件が不要ならば,「k の値に関する. 解決の見通しが立った状態とは,しばしば論点先取的. 十分条件を求めよ」という意味で解釈することも可能. な認識を伴う。そのため,数学的方法の活用とは,闇. である。. 雲に学んだ知識の適用を試みること場合ばかりではな. このように考えると,こうした問題文の解釈の作法. く,この論点先取的な認識を確立することによって生. に関する理解は, 「社会数学的規範」 (Cobb, Stephan,. じるものも少なくないと考えられる。そして,この論. McClain, & Gravemeijer, 2001; Yackel & Cobb, 1996). 点先取的な認識を確立させるために教師が取り得る1. と呼ばれる教室文化とともに発達するものと考えられ. つのアプローチとして,前章では,条件を満たす具体. る。すなわち,それは,人間が合理的に思考すれば到. 例を探すように促すアプローチを提案した。一般化す. 達し得る真理にあらず,必要十分性を希求する教室文. ると,このアプローチは,条件 Q(x) を所与として, 「『任. 化の影響によって獲得されると考えられる。. 意の x について,P(x) ⇔ Q(x)』という言明が真となる. このアプローチに基づいて,逆の確認という数学的. ように,条件 P(x) を定めよ」という型の問題であれば,. 方法の活用の契機を抽出するならば,「数学という営. 幅広く適用し得るアプローチである 。問題Aのよう. みの理解」であろう。 「y の値が常に負になるのは, 『上. に範囲を求める問題だけでなく,数値を求める問題も. に凸』かつ『交わらない』場合だけなのかな?」と問. 広くこの型に属すると言えるから,その適用範囲は広. うことは,暗に,「他の場合を確認せよ」ということ. い。. を要求している。先の工学的な問題文解釈の例が示す. このアプローチに基づいて,数学的方法の活用の契. ように,単に合理的に考えるだけでは,数学的な問題. 機を抽出するならば,「問題の特殊化」であろう。問. 文解釈の習慣が確立されるとは言えない。もちろん,. 題解決における論点先取的な認識は,この「問題の特. 数学的な問題文解釈が,ある意味で合理的であること. 殊化」を通じて確立され得ると考えられる。問題の特. もまた伝わるような工夫は必要であるが,いずれにせ. 殊化は,IDC モデルの観点から述べれば,代表的な「具. よ,逆の確認とは数学という営みだからこそ要求され. 体化」の一種である。具体化は,問題文に表現されて. る行為である。したがって,そうした行為が習慣化し. いない情報を仮説的に自ら付加する思考であるから,. ていない学習者に対して数学という営みにおける慣習. この思考が数学的方法の活用の原動力に,ひいては,. を伝承するためには,先に挙げたような教師からの要. 問題解決の原動力になっている,と考えることは,仮. 求が, 間接的であれ直接的であれ, 必要不可欠である。. 2). 説として自然であろう。. (3)総合的考察. 問題を特殊化する利点は,解法を検討する上で参照. ここまでの考察から,問題Aは,今回のアプローチ. 可能な情報が増えるという点にある。特殊な状況で発. を通じて少なくとも次の3つの数学的方法の活用場面. 見した見通しが,一般的な状況に援用できるという期. となり得ることが明らかとなった。すなわち,(Ⅰ). 待感を生むのである。もちろん,上手く特殊化しなけ. 2次関数に関する知識の活用場面,(Ⅱ)問題を特殊. れば,問題解決の突破口は得られないし,1つや2つ. 化するという発見法の活用場面,(Ⅲ)逆の確認とい. 特殊化した問題を解いたくらいでは,その解法のパ. う方法の活用場面,である。ここで,これらを比較す. ターンに気付かない学習者も大勢いるであろう。しか. ることで, 改めて指摘できることがある。それは, (Ⅰ). し,だからこそ,上手い特殊化に行き着くまでの試行. のような特定の数学的内容の応用に関する方法知につ. 錯誤が,その問題について「考える」ということの具. いては,その問題文にその活用を示唆する情報が埋め. 体的な意味であり,それは,多少その試行錯誤に時間. 込まれているのに対して,(Ⅱ)や(Ⅲ)のような特. がかかってでも,学習者に経験させねばならないこと. 定の数学的内容に依存しない方法知については,数学. であると言えよう。. の文化や数学の熟達者の知恵という,より大局的な見. (2)第二群に関連する仮説. 地から見て初めてその活用が示唆されるということで. 問題の特殊化のように,具体化を通じた探索は,発. ある。このことを[前提1]と照らし合わせながら考. 見法的であり,しばしば逆の確認が必要となる。しか. えると,(Ⅰ)の方法知は,教師の間接的な言葉かけ. し,この点については,前章でも指摘したように,答. を通じて,比較的,学習者が自力でその場で短期的に. 案の書き方として支援することが必要であろう。なぜ. 発明しやすいものである一方, (Ⅱ) ・ (Ⅲ) の方法知は,. なら, 「k の値の範囲を定めよ」という問いが,「k の. 教師による直接的な言葉かけによって長期的に繰り返. 値に関する必要十分条件を求めよ」を意味するという. し実行を促進される中で,あとになってから初めて,.

(9) (143) それが有効な方法知であると発明するに至るものであ. 的にどのような属性の学習者に対してよりよく当ては. る,と区別することができよう。. まるのかを経験的に精査する必要がある。 また同時に,. 実際,方法知の有効性に対する見通しという観点で,. 本稿が示した以外にも仮説を構築し得るとすれば,ど. これらの方法知の間には明確な区別が必要である。こ. のような属性の学習者にどのような仮説を想定するこ. こまで論じてきたように,問題Aの場合,初学者であっ. とが適切であるかも,合わせて見極める必要がある。. ても第一群への着目の際に,2次関数の知識の有効性. これらを実現するためには,まずは,本稿の仮説を検. については見通しを持ち得る。それに対して,問題を. 証するために,実際にどういったデータをどのように. 特殊化したり逆を確認したりすることの有効性につい. 収集することが必要であるかを含め,新しい議論が必. ては, 解決前の段階では原理的に見通しが立ち得ない。. 要になるであろう。. なぜなら,それらが問題Aの内容と直接結びついてい. 第二に,本稿は,数学的方法の活用の契機を追究す. ないからである。こうした内容に依存しない方法知は,. ることを目的としたため,数学的方法を活用する力が. 自分自身の過去の経験や,熟達者からの示唆に基づい. 実際にどのようにして形成されるかについては,踏み. て,いまひとつ見通しが立たないまま探索的に採用せ. 込んだ議論を行わなかった。この点については,方法. ざるを得ない。我々は,当該の方法知の性格を吟味し. 知それ自体を考察の対象とし,それがどんな場面で有. た上で,数学的方法を活用する学習者の育成を議論し ていかなければならないと言えよう。. 効であるのかを検討させる必要性が指摘されている (上ヶ谷・早田・袴田,2017)ので,そうした知見を 踏まえた考察が必要である。例えば,本稿が示した仮. 8.結 論. 説に基づいて,学習者にまずは当該の方法知の実行を. 本稿では,新しい数学の学力の一側面として,数学. 経験させることができれば,方法知を考察の対象とす. 的方法を活用する力に注目し,数学的方法の活用の契. るような数学の授業を設計することもまた,可能とな. 機に関する仮説構築を目的とした考察を展開した。結. るであろう。考察の範囲を広げ,より実際的な授業設. 果として,次の2つの仮説を得た。第一に,想定され. 計やより長期的視野に立った学力形成のメカニズムに. る学習者の思考過程に基づけば,数学的内容に依存し. ついては, 今後, 一層の議論が望まれるところである。. た数学的方法の活用は,論点先取的な認識の確立が契 機となっており,そうした認識を促進するために,条. 付記 本稿は,全国数学教育学会第43回研究発表会で. 件を満たす具体例を探すように促すことが有効であ. の発表内容を,JSPS 科研費17H00147(奨励研究)の. る。特に,こうした具体化を通じた探究は,その問題. 助成を受けて発展させ,加筆修正したものである。. について「考える」ということの具体的な意味の1つ であると考えられ,時間をかけてでも学習者に経験さ. 註. せるべき過程である。第二に,想定される学習者の思. 1)ある方法知 K がある主体 S にとって生存可能で. 考過程に基づけば,数学的内容に依存しない数学的方. あるとは,K が S にとって「目的的文脈や記述的文. 法の活用については,単一の数学的問題解決の過程で. 脈に当てはまる〔fit〕 」 (von Glasersfeld, 1995, p.14). 学習者が自力で実施することは容易ではなく,数学と. 場合のことをいう。. いう営みにおける慣習を,教師による明示的な指導を. 2)第5章で述べたように,問題Aは全称量化子を二. 通じて伝承することが有効である。この種の方法知は,. 重に含む問題であったから, 1つ目の全称量化子 「任. 数学的内容に依存した方法知とは異なり,内容に対す. 意の実数 k について」を具体化した後も,なお,行. る合理的な思考にのみ依拠して発見できるものではな. き詰まる学習者がいたとすれば,このアプローチを. いから,熟達者による先導が効果的である。したがっ. 二重に適用することが,つまり,「任意の実数 x に. て,数学的方法の活用を指導するにあたっては,当該. ついて」をさらに具体化するよう促すことが有効で. の方法が数学的内容へ依存しているか否かを吟味した. あると考えられる。例えば「k = ◯のとき,どんな. 上でアプローチを検討する必要性が示唆された。. x だったら y を負の値にすることができるだろう. 今後の課題は,主に2つある。第一に,本稿が提起. か?」といった具合である。. した仮説を経験的に検証することである。 [前提5] より,本稿が提起した仮説以外にも,同様の理論的前. 引用および参考文献. 提を充足する仮説が存在し得る。これは,暗黙的に想. 阿部好貴(2015) . 「数学的モデル化と論証の接続に関. 定されている特定の学習者像に仮説構築が影響されて. する一考察:数学的リテラシーの視点から」.日本. いるからであると考えられるから,本稿の仮説が具体. 数学教育学会誌『数学教育学論究』 (第48回秋期研.

(10) (144) 究大会特集号),第97巻,pp.1-8. 岩崎秀樹・阿部好貴・山口武志(2008).「知識基盤社 会における数学的リテラシーの課題と展望」.日本 科学教育学会『科学教育研究』,第32巻,第4号, pp.366-377. 上ヶ谷友佑(2014).「数学的問題に内在する学習の阻 害要因 ― 関数の意味理解に焦点を当てて ― 」. 日本数学教育学会誌『数学教育学論究』(第47回秋 期研究大会特集号),第96巻,pp.9-16.. (2001). Participating in Classroom Mathematical Practices. Journal of the Learning Sciences, vol.10, no.1-2, pp.113-163. Confrey, J. (1991). Learning to Listen: A Student’s Understanding of Powers of Ten. In von Glasersfeld, E. (Ed.), Radical Constructivism in Mathematics Education (pp.111-138). Springer Netherlands. Jablonka, E., & Gellert, U. (2007). Mathematisation and demathematisation. In U. Gellert & E. Jablonka. 上ヶ谷友佑(2015a) . 「数学的コンセプション形成の. (Eds.), Mathematisation and Demathematisation:. 理 論 的 予 測 方 略 の 開 発 ― 関 数 概 念 を 中 心 と し. Social, Philosophical and Educational Ramifications. て ― 」.全国数学教育学会誌『数学教育学研究』, 第21巻,第1号,pp.39-51. 上ヶ谷友佑(2015b).「数学的問題解決への移行を促 す数学的課題の設計方略の開発 ― 高校数学 I にお ける 「軸に文字を含む場合の二次関数の最小値問題」. (pp.1-18). Rotterdam: Sense Publishers. Mason, J. (1989). Mathematical abstraction as the result of a delicate shift of attention. For the Learning of Mathematics, vol.9, no.2, pp.2-8. Ruthven, K., & Goodchild, S. (2008). Linking research-. を題材として ― 」.全国数学教育学会誌『数学教. ing with teaching: Towards synergy of scholarly. 育学研究』,第21巻,第2号,pp.133-145.. and craft knowledge [revised and extended version].. 上ヶ谷友佑(2016).「数学的な方法知の育成へ向けた. In English, L. D. (Ed.), Handbook of International. 発問行為を設計するための理論的枠組の開発 ― 高. Research in Mathematics Education (Second Edition,. 校数学 I における2次関数の応用場面を題材とし て ― 」.全国数学教育学会誌『数学教育学研究』, 第22巻,第2号,pp.175-196. 上ヶ谷友佑(2017).『真正な数学的活動を実現するた めの哲学に関する研究』(未公刊,学位論文).広島 大学.. pp.561-588). New York: Routledge. Simon, M. A. (1995). Reconstructing Mathematics Pedagogy from a Constructivist Perspective. Journal for Research in Mathematics Education, vol.26, no.2, pp.114-145. Simon, M. (2014). Hypothetical Learning Trajectories. 上ヶ谷友佑・早田透・袴田綾斗(2017).「数学的な方. in Mathematics Education. In S. Lerman (Ed.),. 法知の構成に必要な活動に関する規範的枠組 ― 間. Encyclopedia of Mathematics Education (pp.272-. 接証明法を具体例とした理論的検討 ― 」.全国数 学教育学会誌『数学教育学研究』,第23巻,第2号, pp.159-168.. 275). Springer Netherlands. Simon, M. A., & Tzur, R. (2004). Explicating the Role of Mathematical Tasks in Conceptual Learning: An. 清水美憲(2012).「評価問題作成における数学的なプ. Elaboration of the Hypothetical Learning Trajectory.. ロセスへの焦点化:全国学力・学習状況調査(中学. Mathematical Thinking and Learning, vol.6, no.2,. 校数学)の動向と課題」.日本数学教育学会誌『数 学教育』,第94巻,第9号,pp.30-33.. pp.91-104. Steffe, L. P., & Thompson, P. W. (2000). Teaching. 清水美憲(2015).「数学教育カリキュラムにおける「数. experiment methodology: Underlying principles. 学的方法」の位置」.日本数学教育学会『第3回春. and essential elements. In Lesh, R. & Kelly, A. E.. 期研究大会論文集』(pp.173-178).. (Eds.), Handbook of Research Design in Mathematics. 高橋陽一郎他(2011).『数学Ⅰ』.啓林館. ポリア,G.(1954).柿内賢信(訳).『いかにして問 題をとくか』.丸善出版. ライル,G .(1987).坂本百大・宮下治子・服部裕幸 (訳).『心の概念』.みすず書房. Cobb, P. (2002). Theories of knowledge and instructional design: a response to Colliver. Teaching and Learning in Medicine, vol.14i, no.1, pp.52-55. Cobb, P., Stephan, M., McClain, K., & Gravemeijer, K.. and Science Education (pp.267-306). Hillsdale, NJ: Erlbaum. Steffe, L. P., & Ulrich, C. (2014). Constructivist Teaching Experiment. In S. Lerman (Ed.), Encyclopedia of Mathematics Education (pp.102-109). Springer Netherlands. Thompson, P. W. (2008). Conceptual analysis of mathematical ideas: Some spadework at the foundation of mathematics education. In Figueras, O., Cortina,.

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参照

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