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ギャスタウンにおける歴史的遺産保全政策 バンクーバー市の都市・建築デザイン

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Academic year: 2021

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* 非会員 豊田工業高等専門学校 建築学科(National Institute of Technology, Toyota College) 1.はじめに バンクーバー市は、ブリティッシュ・コロンビア州(以 下、BC 州と言う)の南西部に位置する、人口631,486 人(2016 年の Census による)のカナダ国内第8位の都市である。面 積約 115 ㎢と比較的小さく、中心部から自然への距離が短 いコンパクトで住みやすい都市として知られている。 1971 年、BC 州はチャイナタウン(Chinatown)とギャスタ ウン(Gastown)を歴史地区に指定した。これにより、建築 物等の建替えはもちろん、外観の変更等に際しても開発許 可が求められるようになった。その結果、バンクーバー市 の中でも歴史を色濃く残す地域と変化していったのである。 建築評論家の竹山聖は、ギャスタウンについて「ほとん どが、19 世紀の名残を留めるレンガ造りの倉庫のリノベー ションであり、(中略)、街に一歩足を踏み入れた途端、歴 史を刻む時計がゆっくりと反転を始めるような、そんな暖 かさに溢れている」1)と論評している。 堀らは、バンクーバーの都市計画の特徴や容積移転制度 に関して基本的な受け地のエリアが指定されている一方で 市の施策に合わせて地区を特別に指定し、容積を移転可能 とする柔軟なシステムとして評価している2) 中井は、ギャスタウンの歴史遺産保全について、一部論 じているが、その政策や歴史、ガイドラインについて、詳 細には述べていない3) そこで本稿では、バンクーバー市歴史地区の中でも、ギ ャスタウンに着目する。ギャスタウンにおける都市・建築 デザインの特徴について整理するとともに歴史的遺産保全 政策について分析する。その結果を基に、政策を立案して いく上での基本的な考え方や特徴について考察する。 2.研究方法 主に、参考文献 3)~7)を基にギャスタウンの歴史と都 市・建築デザインの特徴について整理し、その背景を明ら かにする。 また、2019 年 12 月 19 日~28 日に現地を訪れ、それらを 確認、歴史的遺産保全政策の実情と有効性・課題等につい ても考察する。 3.ギャスタウンの概要 BC 州は、1858 年にイギリスの植民地となり、現在のギャ スタウン周辺を中心にグランビルとして町は徐々に発展・ 拡大していった。1886 年に市制が敷かれバンクーバー市へ と改名された。同年の大火災で建築物等は大部分が消失し たが、大陸横断鉄道定期便が開業し、それが復興を後押し した。その後急速に発展し、1950~60 年代までにほぼ現在 の市街地が完成した。1960 年代、ハイウェイの建設計画で 近くのチャイナタウンと共に取り壊すことが計画されたが、 ギャスタウンの歴史と特徴ある建築物が見直され、反対運 動が展開された。その後、歴史地区として保全されている。 図 1 にギャスタウン周辺地域の街路構成を示す。ギャス タウン(0.23 ㎢)はバンクーバー発祥の地であり、20 世紀 初頭までに建造された建築物が多く残されている。既存の 街路景観・建築物等はその歴史を物語るものである。具体 的には、ウォーター・ストリート(Water Street)沿いに は大きな倉庫が、これに対し、バンクーバー市の主要街路 であるコルドバ・ストリート(Cordova Street)にはやや間 口の狭い精緻な装飾の施された建築物が立地していた。

ギャスタウンにおける歴史的遺産保全政策

-バンクーバー市の都市・建築デザイン-Conservation Policy of Historical Heritage in Gastown

Urban and Architectural Design in Vancouver

-杉山可奈* 大森峰輝** KANA SUGIYAMA OMORI MINETERU 本稿ではバンクーバー市歴史地区の中でも、ギャスタウンに着目し、都市・建築デザインの特徴につ いて整理するとともに歴史的遺産保全政策について分析した。その結果は、以下のようにまとめられる。 1)ギャスタウンには、20 世紀初頭までに建設された建築物が多く残り、コーニス・窓・建築材料をはじ めとする様々な要素によって固有の街路景観が構成されている。 2)遺産管理計画やデザイン・ガイドラインの目的は歴史的建築物を保全し、その魅力を高めていくこと である。そのための法規制、基準が明確に示されている。 3)遺産管理計画は、ギャスタウンの活性化を目的とし、歴史的建造物を残すのみでなく新たな開発や様々 な補助事業を取り込むことにより活性化を試みている。

Keywords: Historical Heritage, Conservation Policy, Urban and Architectural Design, Gastown ,Design Guideline

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図 1 ギャスタウン周辺地域の街路構成 図 2 に現在のギャスタウンの様子を示す。建築物の間 口・高さはまちまちであり平屋建てから 13 階建てまで存在 している。低層で間口の狭いものもあれば高層で間口の広 い建築物もありそのほとんどにコーニスがある。レンガや 石畳の趣ある街路、雰囲気のある街灯、店先の看板からス トリート・ファニチャーに至るまで、古い街並みのイメー ジを色濃く残している。 図 3 にヨーロッパホテルの外観を示す。ギャスタウン内 でも一際目立つ、ヨーロッパホテルは、下記で説明する遺 産建築物カテゴリーA に分類されている。このホテルは、 カナダで最も初期の鉄筋コンクリート構造であり、カナダ 西部で最初の耐火ホテルであると言われている。2 人の建 築家によって、設計された。 建物と東側の別館は、手頃な価格の住宅を提供するため、 1983 年に修復、改築された。ロビーはエレガントな大理石、 真鍮、タイル、ガラスの作品が特徴である。 4.遺産レジスター 4.1 遺産レジスターの概要 1986 年 9 月、バンクーバー市議会はバンクーバー遺産目 録を作成した。その後、1994 年 12 月にバンクーバー遺産 レジスター(VHR :Vancouver Heritage Register)として 採用された。遺産レジスターは、建築物や構造、街路景観、 景観資源(公園や景観、樹木、記念碑、公共施設)建築物 または歴史的遺産の価値を持つ遺跡のリストである。バン クーバー市は、遺産レジスターに記載されている建築物や 敷地に影響を与える多くの規制、政策、ガイドラインを採 用している4) 4.2 遺産建築物のカテゴリー 図 4 にギャスタウンにおける主要建築物(カテゴリー「A」 の分布)を示す。建築物のカテゴリーは「A」、「B」、「C」に 分類されている。これらのカテゴリーは、歴史的、建築物、 文化、社会的価値等に基づくものである。 カテゴリー「A」は、歴史的・建築的に最も評価の高い 建築物を、カテゴリー「B」は、近隣において文化的要素を 有すると評価されたものを、カテゴリー「C」は、地域また は街並みの歴史的特徴に寄与する建築物を表している。 図 2 現在のギャスタウン風景 図 3 ヨーロッパホテルの外観

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図 4 ギャスタウンにおけるカテゴリー「A」の分布 5. デザイン・ガイドライン 5.1 デザイン・ガイドラインの目的 ギャスタウンに立地する多くの建築物は、VHR に登録 されている。デザイン・ガイドラインは、既存建築物の 改築・改修、新規の開発についての承認許可を得るため に活用されるものである。申請者を支援し、開発申請 の評価に際して市職員やギャスタウン歴史地区計画 委 員 会 (GHAPC:Gasown Historic Area Planning Committee)によって利用される。ギャスタウンにおいて、 歴史や文化を色濃く残す地域であり、この特質を保全し ていくことが、特に配慮されている。デザイン・ガイド ラインは、美しい遺産特性とギャスタウンの基本的な骨 格を保全することと新規の開発をこの地区の特性と調和 させることを意図するものである。基準は遺産建築物及 び新築する建築物にも適用される5) 5.2 デザイン・ガイドラインの項目と概要 表 1 に外観に関する主な項目と基本的な考え方につい て示す。オリジナルのコーニス(軒蛇腹)、窓、建築材料、 店頭(店先)の適切な配慮と保全に注意が向けられてい る。新築する建築物には、既存建築物やかつて存在した 建築物のレプリカではなく、初期のギャスタウンの建築 物の遺産特性を補完するような新たな建築的要素が奨励 されている。この地区で重要とされている建築物によく 見られるような高さ、窓割り、ファサードの形態や構成、 建築材料、色彩について配慮することが求められる。 それ以外にも、この地区の魅力をさらに高めるような サイン、オープンスペース、照明等についても検討すべ きであることが詳細かつわかり易く記されている。 5.3 デザイン・ガイドラインの事例 5.3.1 キャノピー 図 5 にキャノピーに関する挿絵を示す。ギャスタウン の独自性を連想させるキャノピーの使用を奨励されてい る。歴史的に、ギャスタウンのほとんどの商業ビルには、 日照や雨からの保護のためのキャノピーがあった。これ らは、地域の街並みと形成に重要な役割を果たしてきた。 図 5 キャノピー 5.3.2 敷地(区画)と店頭の幅 図 6 に店頭幅のイメージ図を示す。それぞれのブロッ クにおいて多くの建築物で構成される街路景観の規則性 を踏襲する。遺産建築物の間口は様々であり高さもまち まちである。同じ敷地の幅であっても低層のものがあっ たり、高層の建築物であったりする。街路景観で視覚的 に配慮すべきは区画割(店頭の幅)であり、新築に際し てもこれを反映すべきである。

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表 1 デザイン・ガイドラインの主な項目 要素 基本的な考え方 ガイドラインの概要 区画と店頭幅 各ブロックにおいて、多くの建築物で構 成される街路景観の規則性を踏襲する。 遺産建築物は様々な間口であり高さもまちまちである。街路景観で 視覚的に配慮すべきは区画割(店頭の幅)であり、新築に際しても これを反映すべきである。 ファサード 地上階の高さ、区画の幅、上階へのアク セスを含め、建築物の低層階のファサー ドの大きさ、外形、規則性を踏襲する。 コーニス、装飾帯や看板等で構成される。店頭(店舗)は高い天井 高、大きなディスプレイ、やや奥まった店舗入り口(床には装飾さ れたタイル、石等を使用)が特徴である。 窓 遺産建築物の特徴である伝統的な窓の重 要性を尊重し、新しい建築物の窓がそれ らの開き窓パターンに応じることであ る。 木で作られ、多くは二重や単(平行スライド)サッシである。ま た、ピポット、両開き、固定といった例もある。 材料 再建された建築物と新築の両方に伝統的に見られる建築材料を使用することによ り、地域の遺産の特徴を保持する。 ベージュから赤までの色のフルサイズの標準粘土レンガ、建築石 (花崗岩と砂岩)等が使用される。 コーニスとパラペットコーニスとパラペットを保全する。 歴史的建築物のオリジナルのコーニスを保全することを強く奨励す る。 同じ材料で修理を行い、コストや構造上の問題で既存のコーニ スの保存が困難な場合あ、代替材料を検討することが可能である。 色彩 遺産および既存の建築物の場合、適用さ れた元の色彩を文書化し、これらの文書 化された色に基づいた配色を作成する必 要がある。 色彩は、建築物が建設された期間の既知の歴史的な配色に基づいて いる必要がある。窓サッシと店頭の光沢仕上げを強く奨励する。新 しい建築物の場合、使用される色は、その地域に適した既知の歴史 的な配色に仕上げることが要求される。 照明 民間の建築物に取り付けられた夜間光源 の設計、場所、強度、色が、ギャスタウ ンの歴史的特徴に適切であることを保証 する。 ガスタウンの歩道を柔らかく均一な光で照らすことを奨励する。照 明器具が歩行者のまぶしさを避けるためにヒューマンスケールを考 慮して配置され、光源が暖色であり、色の表現及び演出が昼光に似 ていることが重要である。 騒音 住戸付きの建築物は音響対策が求められ る。 騒音を低減する建築材料や技術を用いる。駐車、積荷、娯楽等の商 業活動は騒音を発生させるので、配置計画やデザインによりそれを 軽減させる必要がある。 キャノピー ギャスタウンの独自性を連想させる天幕 と天蓋の使用を奨励する。 通常は、四角または三角形の形状である。最も一般的なタイプは、 引き込み式の布製日よけである。建築物に既存の物がある場合、金 属とガラス製の物が施されている場合もある。 サイン(看板) 歴史的な看板の再構築をサポートし、ギャスタウンの歴史的特徴に沿った様々 な看板タイプに対応させる。 投影は水平方向、建築物の表面に直接適用される文字は塗装または 浮き彫り、塗装および金メッキされた窓のサインであることが求め られる。 高さ ギャスタウン当初の大きさやそれぞれの建築物のまちまちの高さといったものを 補強する。 遺産建築物は平屋建てから13階建てであり、その多くは3階建て又 は4階建てである(典型的なものは概ね12.2mの高さである)。ブ ロック毎に様々な高さの建築物が存在しており、遺産建築物は地上 階の天井高が高い。

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ギャスタウンの建築物、特にウォーターストリート 沿いでは元々倉庫であったものが長い年月をかけて小 売り店舗にリノベーションされていった。同様に、デ ザイン・ガイドラインを基に元々の建築デザインでは なかった新たな店頭デザインになったものもある。 店頭の幅は、歴史的にみると 7 m の範囲で、2 つま たは、それ以上の店頭を 1 つに統合せず、小さな店舗 が連続しているように見えることを奨励している。 新しい建築物のファサードのデザインは、ギャスタウ ンの伝統的建造物の典型的な範囲内で、幅を垂直単位 に分割する必要があり、 店頭の幅は 7.6 m を超えては ならない。また、幅 15.2 m を超える新しい建築物は、 垂直要素と歴史的な街並みのきめ細かいテクスチャを 維持する窓のパターンを使用して、独自の雰囲気を確 立する必要がある(図 7)。 図 6 店頭幅 イメージ図 図 7 ファサード構成の垂直要素 5.3.3 窓 1960 年代頃までに造られた窓の修理や復旧、保持を 奨励することを目的としている。遺産建築物の特徴で ある伝統的な窓の重要性を尊重し、新しい建築物の窓 は、それらの開き窓パターンに対応させる。このエリ アでは鉄サッシが散見されるが、主な材料は木である。 ギャスタウンの新しい建築物の窓の設計では、隣接す る遺産の建築物の窓を考慮・模倣する必要がある。 5.3.4 照明 図 8 に照明計画に関する挿絵を示す。一般の建物物 に取り付けられた夜間光源の設計、場所、強度、およ び色が、ギャスタウンの歴史的特徴に適切であること を保証することを目的としている。また、地域の公共 街路照明への影響も考慮する必要がある。これを達成 するには、照明器具が歩行者のまぶしさを避けること を考慮して配置され、光源が暖色であり、色の表現及 び演出が昼光に似ていることが重要である。デザイン は、遺産の建築物に適した利用可能なレプリカスタイ ルから選択するか、歴史的なエリアと互換性のある現 代的なデザインから選択する必要がある。 図 8 照明 6. ギャスタウン遺産管理計画 6.1 遺産管理計画のビジョン 遺産管理のビジョンは、歴史的文脈の中で保存され ている建造物を保全しながら、幅広い用途に対応する ことである。地域全体の経済を活性化し、安全で住み やすく、魅力的で刺激的な場所を目指している。ギャ スタウンは、店舗や住宅が混在する活気に満ちた多様 なコミュニティであり続けることを目指している。 6.2 ギャスタウンの都市形態 図 9 に現在のギャスタウン・メープルツリースクエ ア周辺の様子を示す。遺産管理計画の中で美的な遺産 として、既存建築物の特徴、都市の形態、街路景観を 挙げている。 図 9 メープルツリースクエア周辺の様子

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表 2 ギャスタウン活性化の項目 土地利用/開発 建築条例 遺産管理計画 経済活性化 パブリック領域 公共交通機関 土地利用計画 レビュー 指定の移転(譲渡) 事業評価 落書きとゴミ除去 交通計画 土地利用データベース 既存建物をアップグレードするための要件 保全基準 マーケティングプログラム 街路と歩道の改良 ストリートカー 住宅計画 建築群の改良 ガイドライン 経済能力調査 街路照明計画 ギャスタウン立体駐車場 遺産管理 インセンティブ 駐車場プラン 住宅提案の迅速化 管理 経済活性化の推進 ギャスタウン活性化 既存建築物の特徴としては、様々な広さのファサードや 高さの異なる建築物、コーニスや窓について記述されてい る。都市形態と街路景観については、2~3 階建ての建築物 が多いメイプル・ツリースクエアと 2~13 階建ての建築物 がランダムに建ち並ぶ固有の景観を挙げている。 6.3 主な目的 ギャスタウンの遺産構造の保全を促進することであり、6 つの主要目標と関連するアクションを示している。 遺産管理計画以外にも、ギャスタウンの活性化を図るた め、様々な観点の政策が策定されている。その形態を表 2 に示す。6 つの構成要素の内その 1 つをギャスタウン遺産 管理計画が担っている。 6.4 主目標 以下に、遺産管理計画の主な目標をまとめる。 6.4.1 遺産資源の保全 現在の HA-2 ゾーン地区にある州指定および遺産レジス ターに登録された歴史的建造物と公共の領域を保全する。 6.4.2 効果的な規制及び保護メカニズムの採用 遺産保全を奨励するような、合理化した規制環境を提供 する。ゾーニングを改善して、長期的な保全とのバランス を考慮した規制制度と政策を採用する。 6.4.3 建築物保全のためのインセンティブ提供 所有者の所有物への投資を奨励および支援することによ り、ギャスタウンに適した効果的な保全インセンティブプ ログラムを作成し、個々の建築物の保全と修復を促進する。 6.4.4 効果的な行政による管理計画の開発 歴史的建造物の修復を奨励および支援し、それによって 地域の活性化を支援するプロセスを備えた効果的な管理お よび管理の枠組みを開発する。 6.4.5 明確な基準とガイドラインの採用 所有者、設計者、諮問委員会、意思決定者に明確な基準 とガイドラインを提供し、ギャスタウンの建築物の物理的 な変更を検討する際の指針とする。 6.4.6 経済活性化の推進 保全インセンティブプログラムを確立し、現在の規制や プロセスから阻害要因を取り除くことにより、歴史的な地 域の経済の活性化と長期的な経済の安定をサポートし、地 域の歴史的資源が市民の繁栄と生活の質に効果的に貢献で きるようにする。 7.まとめと考察 本稿では、ギャスタウンにおける歴史的遺産保全政策に ついて、その基本的な考え方や特徴について整理・考察し た。その結果は、以下のようにまとめられる。 1)ギャスタウンには、20 世紀初頭までに建設された建築 物が多く残り、コーニス・窓・建築材料をはじめとする建 築的要素等の様々な要素によって固有の街路景観が構成さ れている。 2)遺産管理計画やデザイン・ガイドラインの目的は歴史 的建築物を保全し、その魅力を高めていくことである。そ のための法規制、基準が明確に示されている。前途したよ うなファサードに関する規制はもちろん、建築材料や看板、 照明・交通計画に至るまで、細やかに記されている。 3)デザイン・ガイドラインは、開発申請の評価に際して 市職員やギャスタウン歴史地区計画委員会によって利用さ れている。その議論の過程や結果は公表される。歴史的遺 産保全政策の有効な仕組みであると考えられる。 参考文献 [1]竹山聖:時計がゆっくりと反転を始める街,pp65-66, SD(168), 1978.9 [2] 堀裕典他:バンクーバー市都心部における容積移転制 度を活用した開発手法とその運用,日本都市計画学会,都市 計画論文集,pp617-623,2017 [3] ]中井検裕他:都市の風景計画 -欧米の景観コントロ ール 手法と実際-,学芸出版社,pp162-174, 2000.2 [4]City of Vancouver:THE GASTOWN HERITAGE MANAGEMENT PLAN,2001.11

[5]City of Vancouver:Gastown HA-2 Design Guidelines, 2002.8

[6]City of Vancouver : A-2(Gastown) District Schedule(Historic Area), 1996.10

[7]Chuck Davis : VANOUVER THEN & NOW, Magic Light Publishing, 2001

図 1  ギャスタウン周辺地域の街路構成  図 2 に現在のギャスタウンの様子を示す。建築物の間 口・高さはまちまちであり平屋建てから 13 階建てまで存在 している。低層で間口の狭いものもあれば高層で間口の広 い建築物もありそのほとんどにコーニスがある。レンガや 石畳の趣ある街路、雰囲気のある街灯、店先の看板からス トリート・ファニチャーに至るまで、古い街並みのイメー ジを色濃く残している。  図 3 にヨーロッパホテルの外観を示す。ギャスタウン内 でも一際目立つ、ヨーロッパホテルは、下記で説明する遺 産
図 4  ギャスタウンにおけるカテゴリー「A」の分布  5. デザイン・ガイドライン  5.1 デザイン・ガイドラインの目的  ギャスタウンに立地する多くの建築物は、VHR に登録 されている。デザイン・ガイドラインは、既存建築物の 改築・改修、新規の開発についての承認許可を得るため に活用されるものである。申請者を支援し、開発申請   の評価に際して市職員やギャスタウン歴史地区計画 委 員 会 (GHAPC:Gasown  Historic  Area  Planning  Committee)によって利
表 1    デザイン・ガイドラインの主な項目 要素 基本的な考え方 ガイドラインの概要 区画と店頭幅 各ブロックにおいて、多くの建築物で構 成される街路景観の規則性を踏襲する。 遺産建築物は様々な間口であり高さもまちまちである。街路景観で視覚的に配慮すべきは区画割(店頭の幅)であり、新築に際しても これを反映すべきである。 ファサード 地上階の高さ、区画の幅、上階へのアクセスを含め、建築物の低層階のファサー ドの大きさ、外形、規則性を踏襲する。 コーニス、装飾帯や看板等で構成される。店頭(店舗)は高い天井
表 2  ギャスタウン活性化の項目  土地利用/開発 建築条例 遺産管理計画 経済活性化 パブリック領域 公共交通機関 土地利用計画 レビュー 指定の移転(譲渡) 事業評価 落書きとゴミ除去 交通計画 土地利用データベース 既存建物をアップグレードするための要件 保全基準 マーケティングプログラム 街路と歩道の改良 ストリートカー 住宅計画 建築群の改良 ガイドライン 経済能力調査 街路照明計画 ギャスタウン立体駐車場 遺産管理 インセンティブ 駐車場プラン 住宅提案の迅速化

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