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個人の安全保障とジェンダー -- バングラデシュの事例から (特集 人間の安全保障の現在)

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(1)

個人の安全保障とジェンダー -- バングラデシュの

事例から (特集 人間の安全保障の現在)

著者

村山 真弓

権利

Copyrights 日本貿易振興機構(ジェトロ)アジア

経済研究所 / Institute of Developing

Economies, Japan External Trade Organization

(IDE-JETRO) http://www.ide.go.jp

雑誌名

アジ研ワールド・トレンド

124

ページ

20-23

発行年

2006-01

出版者

日本貿易振興機構アジア経済研究所

URL

http://hdl.handle.net/2344/00005556

(2)

人 間 の 安 全 保 障 と い う 概 念 に は 様 々 な 側 面 が 包 括 さ れ て お り 、 そ の 理 解 も 人 に よ っ て 大 き く 異 な る 。 し か し 、 こ の 概 念 が 果 た し た 重 要 な 功 績 の 一 つ は 、 国 家 あ る い は 国 際 社 会 全 体 に 対 し 、 人 間 一 人 ひ と り を 取 り 巻 く 経 済 、 政 治 、 社 会 環 境 と い っ た 物 理 的 条 件 と と も に 、 個 々 人 の 認 識 レ ベ ル で の 安 全 心 理 と い っ た も の に ま で 、 考 察 の 幅 を 広 げ る 必 要 性 を 示 し た こ と で は な い だ ろ う か 。 一 方 、 暗 黙 裡 に 男 性 を 想 定 し て ﹁ 人 間 ﹂ を 捉 え 、 国 家 、 コ ミ ュ ニ テ ィ ー 、 家 族 と い っ た 社 会 制 度 の 中 に 、 非 均 質 的 な ﹁ 人 間 ﹂ が 存 在 す る こ と を 等 閑 視 し て き た 従 来 の 知 の あ り 方 に つ い て 、 批 判 的 再 考 を 主 張 し た の が フ ェ ミ ニ ズ ム の 視 点 で あ り 、 そ の 中 心 概 念 で あ る ジ ェ ン ダ ー で あ っ た 。 こ の 報 告 で は 、 バ ン グ ラ デ シ ュ の 女 性 の 事 例 を 通 じ て 、 人 間 の 安 全 保 障 と ジ ェ ン ダ ー と い う 二 つ の 視 点 が 交 差 す る 個 人 の 安 全 保 障 と い う 問 題 を 考 え て み た い 。

人 間 の 安 全 保 障 の 検 討 に 入 る 前 に 、 ま ず 人 間 開 発 の 側 面 か ら 、 バ ン グ ラ デ シ ュ の 女 性 の 状 況 を み て い く こ と に し よ う 。 開 発 の 実 験 場 と も 呼 ば れ る バ ン グ ラ デ シ ュ に お い て 、 女 性 は 、 社 会 の 中 で 最 も 弱 く 厳 し い 状 況 に 置 か れ て い る 社 会 集 団 の 一 つ と み な さ れ 、 政 府 、 N G O 、 ド ナ ー に よ る 様 々 な 開 発 の 対 象 と し て 位 置 づ け ら れ て き た 。 一 九 七 一 年 の 独 立 以 後 の 数 年 間 は 、 独 立 戦 争 で 保 護 者 を 失 っ た 被 災 者 と し て 、 あ る い は 、 人 口 抑 制 の 対 象 、 子 育 て と 家 計 管 理 の 担 い 手 と し て の 役 割 が 強 調 さ れ た 。 し か し 、 一 九 七 五 年 の 第 一 回 国 連 女 性 会 議 以 後 、 世 界 的 な 女 性 運 動 の 高 揚 が 、 開 発 援 助 の 言 説 に も 反 映 さ れ る よ う に な る と 、 援 助 を 通 じ て 、 開 発 に お け る 女 性 ︵ W I D ︶ の 概 念 が 、 バ ン グ ラ デ シ ュ の 開 発 の フ ィ ー ル ド に 流 入 し 始 め た ︵ 参 考 文 献 ① ︶。 そ の 結 果 、 健 康 、 教 育 と い っ た 社 会 指 標 で 見 る 限 り 、 男 女 格 差 は 大 き く 縮 小 し 、 中 に は 女 性 の パ フ ォ ー マ ン ス が 男 性 の そ れ を 上 回 る と い っ た 現 象 も 出 始 め て い る 。 例 え ば 、 女 性 人 口 一 ○ ○ に 対 す る 男 性 人 口 ︵ 性 比 ︶ は 、 一 九 七 四 年 の 一 ○ 七 ・ 七 か ら 二 ○ ○ 一 年 に は 一 ○ 六 ・ 六 ま で 減 少 し た ︵ 国 勢 調 査 デ ー タ ︶。 こ れ は 、 主 に 医 療 、 栄 養 面 で 女 性 に 対 す る ケ ア が 改 善 さ れ た こ と を 示 す も の で あ る 。 か つ て 、 一 般 的 傾 向 に 反 し て 男 性 よ り も 女 性 が 短 か っ た 平 均 余 命 は 、 一 九 九 一 年 に は 男 性 五 六 ・ 五 歳 、 女 性 五 五 ・ 七 歳 で あ っ た の が 、 一 九 九 ○ 年 代 末 に 逆 転 し 、 二 ○ ○ 三 年 に は 、 男 性 六 二 ・ 一 歳 、 女 性 六 三 ・ 七 歳 と 逆 の 格 差 が 生 じ て い る ︵﹃ 人 間 開 発 報 告 書 ﹄ 二 ○ ○ 五 年 版 デ ー タ ︶。 最 も 顕 著 な 改 善 を 示 し た の が 、 教 育 の 分 野 で あ る 。 初 等 教 育 に お け る 男 子 学 生 一 ○ ○ に 対 す る 女 子 学 生 の 比 率 は 、 一 九 九 一 年 の 八 三 か ら 、 二 ○ ○ ○ 年 に は 九 六 ま で 上 昇 し た 。 ま た 、 中 等 教 育 で は 、 二 ○ ○ ○ 年 現 在 、 全 学 生 中 女 子 学 生 の 割 合 は 五 二 % と な っ て い る 。 す な わ ち 女 子 学 生 の 数 が 男 子 を 上 回 っ た と い う こ と で あ る 。 過 去 に お い て は 、 女 子 学 生 一 ○ ○ に 対 し 、 男 子 学 生 が 一 八 ○ ︵ 一 九 八 ○ 年 ︶、 一 四 一 ︵ 一 九 九 ○ 年 ︶ と 相 当 な 男 性 優 位 が あ っ た こ と を ふ ま え る と 、 一 九 九 ○ 年 代 に お い て 、 き わ め て 大 き な 進 展 が あ っ た こ と が う か が え る 。 こ れ ら は 、 バ ン グ ラ デ シ ュ と 同 程 度 の 経 済 水 準 を 持 つ 他 の 開 発 途 上 国 と 比 較 し て も 、

個人の安全保障とジェンダー

│バングラデシュの事例から

特集/人間の安全保障の現在

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特集/人間の安全保障の現在

際 立 っ て 大 き な 成 果 で あ っ た と い っ て よ い だ ろ う 。﹃ 人 間 開 発 報 告 書 ﹄二 ○ ○ 五 年 版 は 、 バ ン グ ラ デ シ ュ に つ い て 、 中 国 と 比 較 し な が ら 、 教 育 、 平 均 余 命 、 所 得 の 三 分 野 で 均 衡 の 取 れ た 改 善 が 見 ら れ 、 経 済 的 進 展 を 上 回 っ て 社 会 的 な 進 展 が あ っ た こ と を 高 く 評 価 し て い る 。 ま た 、 同 報 告 書 は 、 イ ン ド と バ ン グ ラ デ シ ュ を 比 べ て 、 前 者 の 所 得 水 準 や 経 済 成 長 率 の 相 対 的 な 高 さ に も か か わ ら ず 、 乳 幼 児 死 亡 率 の 低 下 に お い て は 、 バ ン グ ラ デ シ ュ が イ ン ド を 抜 い た こ と に も 言 及 し て い る 。 乳 幼 児 死 亡 率 の 変 化 は 、 母 親 を 含 む 女 性 全 体 の 厚 生 水 準 と も 密 接 に 関 係 し て い る 。 先 ほ ど 述 べ た 教 育 に お け る ジ ェ ン ダ ー 格 差 の 改 善 に つ い て 、 参 考 文 献 ④ は イ ン ド と バ ン グ ラ デ シ ュ の 比 較 を 行 っ て い る 。 こ の 報 告 書 に よ れ ば 、 二 ○ ○ ○ 年 の 時 点 で 、 年 齢 別 、 性 別 の 就 学 率 に つ い て 両 国 を 比 べ る と 、 イ ン ド の 場 合 、 一 ○ 歳 か ら 一 八 歳 の 年 齢 層 に お い て 男 子 の 就 学 率 が 女 子 を 上 回 っ て い る の に 対 し 、 バ ン グ ラ デ シ ュ で は 、 ほ ぼ す べ て の 年 齢 層 に お い て 女 子 の ほ う が 男 子 よ り も 高 い 。 バ ン グ ラ デ シ ュ の 初 中 等 教 育 に お け る ジ ェ ン ダ ー 格 差 解 消 の 要 因 と し て は 、 ノ ン ・ フ ォ ー マ ル 教 育 サ ー ビ ス を 提 供 す る 多 数 の N G O の 存 在 と 、 一 九 九 四 年 に 開 始 し た 女 子 中 等 教 育 奨 学 金 プ ロ グ ラ ム を 含 む 政 府 の 対 策 が 奏 功 し た こ と が 指 摘 さ れ て い る 。 後 者 は 、 六 ∼ 一 ○ 年 生 の 女 子 学 生 に 対 し 、 授 業 料 ︵ 学 校 に 対 し て 政 府 が 直 接 支 払 ︶ と そ の 他 の 費 用 ︵ 女 子 学 生 各 人 に 対 し 、 近 場 の 商 業 銀 行 の 口 座 に 振 り 込 み ︶ を 現 金 で 移 転 す る も の で あ る 。

保 健 、 教 育 の 分 野 と 並 ん で 人 間 開 発 報 告 書 が 指 標 と し て い る の は 、 所 得 で あ る 。﹃ 人 間 開 発 報 告 書 ﹄ 二 ○ ○ 五 年 版 デ ー タ に よ れ ば 、 二 ○ ○ 三 年 の バ ン グ ラ デ シ ュ の 性 別 所 得 は 、 男 性 二 二 八 九 ド ル に 対 し 、 女 性 一 二 四 五 ド ル ︵ い ず れ も 購 買 力 平 価 換 算 ︶ と 、 女 性 は 、 男 性 の 五 四 % の 水 準 に 留 ま っ て い る 。 た だ し 、 同 じ 年 度 の 日 本 に つ い て み る な ら ば 四 六 % 、 イ ン ド で は 三 八 % で あ る か ら 、 必 ず し も バ ン グ ラ デ シ ュ の ジ ェ ン ダ ー 格 差 が 相 対 的 に 大 き い と い う こ と は で き な い 。 他 方 、 こ の デ ー タ に は 、 農 業 部 門 の 賃 金 格 差 が 含 ま れ て い な い 。 農 業 日 雇 い 労 働 者 の 賃 金 を 見 る と 、 女 性 の 平 均 賃 金 は 男 性 の 五 五 % と な っ て い た ︵ 一 九 九 九 / 二 ○ ○ ○ 年 労 働 力 調 査 ︶。 い ず れ に し て も 、 他 の 二 つ の 人 間 開 発 指 標 と 比 べ る と 、 所 得 に お け る ジ ェ ン ダ ー 格 差 は 、 今 な お 大 き い と い う こ と に は 間 違 い な い 。 経 済 部 門 に お け る ジ ェ ン ダ ー 格 差 の 背 景 に は 、 女 性 の 役 割 に 関 す る 社 会 的 価 値 観 や 言 説 が あ る 。 バ ン グ ラ デ シ ュ に お い て は 、 パ ル ダ と 呼 ば れ る 女 性 隔 離 の 規 範 が 、 男 女 の 活 動 空 間 を 家 の 内 と 外 に 分 離 し 、﹁ 望 ま し い ﹂ 性 別 分 業 の あ り 方 を 社 会 通 念 と し て 規 定 し て き た 。労 働 参 加 率 ︵ 一 五 歳 以 上 ︶は 、 男 性 八 四 ・ ○ % に 対 し て 、 女 性 は 二 三 ・ 九 % に と ど ま っ て お り ︵ 一 九 九 九 / 二 ○ ○ ○ 年 度 ︶、 近 隣 の イ ン ド ︵ 三 七 ・ 七 % 、 二 ○ ○ 一 年 ︶、 ス リ ラ ン カ ︵ 三 六 ・ 五 % 、 二 ○ ○ ○ 年 ︶ に 及 ば な い 。 バ ン グ ラ デ シ ュ よ り も 低 い の は 、 パ キ ス タ ン ︵ 一 六 ・ 三 % 、 一 九 九 九 / 二 ○ ○ ○ 年 度 ︶ で あ る 。 し か し な が ら 、 経 済 的 困 窮 や 、 教 育 機 会 を 含 む 女 性 を 対 象 と し た 開 発 プ ロ グ ラ ム の 拡 大 な ど に よ っ て 、 女 性 の 経 済 活 動 参 加 は 急 速 に 進 ん で い る 。 一 九 七 四 年 に 二 一 九 ○ 万 人 で あ っ た 労 働 力 総 人 口 ︵ 一 ○ 歳 以 上 ︶ は 、 一 九 九 九 / 二 ○ ○ ○ 年 度 に は 四 五 ○ ○ 万 人 ま で 増 加 し た が 、 男 女 別 の 内 訳 を み る と 、 男 性 が 二 一 ○ ○ 万 人 か ら 三 五 ○ ○ 万 人 へ と 六 七 % の 増 加 を 示 し た の に 対 し て 、 女 性 は 九 ○ 万 人 か ら 一 ○ ○ ○ 万 人 へ と 一 一 倍 以 上 の 増 加 幅 を 記 録 し た 。 こ う し た 女 性 の 経 済 活 動 へ の 参 加 拡 大 に 大 き な 役 割 を 果 た し た の が 、 農 村 に お け る マ イ ク ロ ・ フ ァ イ ナ ン ス と 都 市 に お け る 輸 出 向 け 縫 製 産 業 で あ る 。 貧 困 層 に 対 す る 無 担 保 の 小 規 模 融 資 の 先 鞭 を つ け た グ ラ ミ ン ・ バ ン ク は 、 今 や 世 界 的 な 知 名 度 を 獲 得 し た 。 従 来 の 金 融 機 関 の 発 想 を 転 換 し 、 貸 し 手 が 借 り 手 の も と に 出 か け て 融 資 、 返 済 業 務 を 行 い 、 さ ら に 借 り 手 の グ ル ー プ 化 を 通 じ た 連 帯 意 識 や 競 争 意 識 の 強 化 に よ っ て 融 資 の 返 済 を 確 保 す る 等 の ユ ニ ー ク な 方 式 は 、 貧 困 削 減 の 有 効 な 戦 略 と し て 、 政 府 を 含 む 開 発 関 係 機 関 に よ っ

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て 次 々 に 採 用 さ れ た 。 と り わ け 一 九 九 ○ 年 代 に 、 数 多 く の N G O が マ イ ク ロ ・ フ ァ イ ナ ン ス 事 業 に 参 入 し 、 今 や そ の 裨 益 者 は 延 べ 一 ○ ○ ○ 万 人 を 超 え て い る 。 重 要 な の は 、 借 り 手 の 九 割 が 女 性 と い う こ と で あ る 。 一 方 、 輸 出 向 け の 縫 製 産 業 は 、 一 九 八 二 年 、 韓 国 の 大 宇 と の 提 携 で 設 立 さ れ た デ シ ュ ・ ガ ー メ ン ツ を 皮 切 り に 、 急 成 長 を 遂 げ た 。 現 在 ダ ッ カ お よ び チ ッ タ ゴ ン の 二 大 都 市 を 中 心 に 、 企 業 数 は 三 五 ○ ○ 社 、 従 業 員 は 一 五 ○ 万 人 と い わ れ て い る 。 縫 製 輸 出 は 、 輸 出 全 体 の 七 五 % に 達 し 、 バ ン グ ラ デ シ ュ 経 済 の 屋 台 骨 に 成 長 し た 。 縫 製 工 場 で 働 く 労 働 者 の 七 割 以 上 が 女 性 で あ る 。 そ れ ま で の バ ン グ ラ デ シ ュ に お け る 工 業 化 の 経 験 が 、 資 本 、 市 場 、 経 営 能 力 の 制 約 な ど か ら 失 敗 を 重 ね て き た 中 で 、 縫 製 産 業 の 成 功 は 際 立 っ て い る 。 中 で も 、 安 く て 従 順 な 労 働 力 を 若 い 女 性 に 求 め る と い う 縫 製 産 業 の 性 格 は 、 他 の 先 発 諸 国 で は 経 験 済 み で あ っ た が 、 空 間 の 隔 離 を 伴 う 性 別 分 業 が 範 と さ れ て き た バ ン グ ラ デ シ ュ に お い て は 、 社 会 的 に も 重 要 な 意 味 を 持 っ た 。 マ イ ク ロ ・ フ ァ イ ナ ン ス お よ び 縫 製 産 業 が 及 ぼ し た 影 響 は 絶 大 で あ る 。 後 者 が 一 九 八 ○ 年 代 か ら 九 ○ 年 代 に か け て の 輸 出 の 牽 引 役 と な っ た こ と は 、 先 に 述 べ た が 、 貧 困 層 を 取 り 込 む こ と に よ っ て 、 両 者 は 貧 困 世 帯 の 経 済 的 底 上 げ に 大 き く 貢 献 し た 。 さ ら に 、 そ れ 以 上 に 注 目 を 集 め た の が 、 こ れ ら の 経 済 活 動 に 参 加 し た 女 性 へ の イ ン パ ク ト で あ る 。 多 く の 調 査 が 、 所 得 獲 得 活 動 へ の 参 加 を 通 じ た 世 帯 内 の 発 言 力 の 強 化 、 社 会 慣 習 や 教 育 ︵ 特 に 女 子 教 育 の 重 要 性 ︶、 保 健 衛 生 な ど に 関 す る 意 識 の 向 上 と い っ た 、 女 性 の エ ン パ ワ ー メ ン ト に プ ラ ス の 成 果 が あ っ た こ と を 指 摘 し て い る 。

以 上 、 一 九 九 ○ 年 代 か ら 現 在 に か け て 、 人 間 開 発 の 各 指 標 で 、 女 性 の 状 況 が 大 き く 好 転 し て き た こ と が 明 ら か に な っ た 。 こ の 結 果 、 女 性 個 人 の 安 全 保 障 は ど う 変 わ っ た と い え る だ ろ う か 。 人 間 の 安 全 保 障 を 構 成 す る 二 つ の 要 素 の う ち 、﹁ 欠 乏 か ら の 自 由 ﹂ は 、 解 消 に 向 か っ た と い っ て 間 違 い あ る ま い 。 他 方 、﹁ 恐 怖 か ら の 自 由 ﹂ は ど う か 。 こ こ に 、 女 性 に 対 す る 暴 力 が 一 九 九 ○ 年 代 後 半 以 後 増 加 し て い る こ と を 報 じ る 記 事 が あ る ︵﹃ デ イ リ ー ・ ス タ ー ﹄ 二 ○ ○ 五 年 一 月 一 二 日 ︶。 そ れ に よ れ ば 、 暴 力 の 犠 牲 者 と な っ た 女 性 の 数 は 、 一 九 九 六 年 の 六 九 三 人 か ら 、 二 ○ ○ 四 年 に は 五 九 八 六 人 ま で 大 幅 な 増 加 を 示 し た 。 そ の う ち 最 も 多 い の が 強 姦 で 、 年 間 件 数 は 、 同 じ く 二 六 二 件 か ら 一 ○ 七 四 件 ま で 四 倍 に 増 え た 。 ま た ダ ウ リ ︵ 新 婦 側 が 新 郎 に 支 払 う 持 参 金 ︶ を め ぐ る 暴 力 は 、 七 七 件 か ら 三 五 五 件 ま で 増 加 し て い る 。 こ れ ら の 数 字 は 、 女 性 人 権 団 体 が 新 聞 記 事 か ら 拾 い 上 げ た も の で あ り 、 秘 匿 性 の 高 い こ う し た 犯 罪 は 、 現 実 に は も っ と 多 い と 推 測 さ れ る 。 事 件 増 加 の 理 由 に は 、 女 性 問 題 に 対 す る 意 識 の 向 上 に よ っ て 、 か つ て 不 問 に 付 さ れ て い た 女 性 に 対 す る 暴 力 が 、 ﹁ 事 件 ﹂ と し て 公 に さ れ る よ う に な っ た と い う 事 情 も あ る だ ろ う 。 し か し な が ら 、 女 性 に 対 す る 暴 力 が 今 な お 、 あ る い は 過 去 に 増 し て 執 拗 に 発 生 し て い る こ と は 明 ら か な 事 実 で あ る 。 女 性 に 対 す る 暴 力 の 根 幹 に は 、 圧 倒 的 に 男 性 優 位 の ジ ェ ン ダ ー 関 係 が あ る 。 男 性 の 優 位 を 保 証 し て い る の は 、 一 つ に は 経 済 力 の 男 女 格 差 で あ る 。 ま た 、 社 会 に お け る 男 性 性 、 女 性 性 の あ り 方 、 と り わ け ﹁ 劣 っ た ﹂ 女 性 は 男 性 に 帰 属 す る も の と い っ た 社 会 通 念 が 、 女 性 へ の 暴 力 を ﹁ 文 化 ﹂、 ﹁ あ た り ま え の こ と ﹂ と い っ た 理 解 に 落 と し 込 ん で き た 。 こ う し た 暴 力 の 原 因 に 対 し て 、 女 性 の 経 済 活 動 参 加 や 、 教 育 、 保 健 衛 生 分 野 で 進 ん だ 人 的 資 本 の 整 備 、 す な わ ち 人 間 開 発 は 、 暴 力 の 歯 止 め と し て は 機 能 し な か っ

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特集/人間の安全保障の現在

た の だ ろ う か 。 マ イ ク ロ ・ フ ァ イ ナ ン ス が 家 庭 内 暴 力 の 増 減 に 及 ぼ し た 変 化 に つ い て 、 ナ イ ラ ・ カ ビ ー ル は 、 二 つ の 傾 向 を 指 摘 し て い る ︵ 参 考 文 献 ③ ︶。 一 つ は 、 女 性 の 経 済 的 な 貢 献 が 、 男 性 、 と り わ け 夫 の 妻 に 対 す る 対 応 を 改 善 さ せ 、 暴 力 が 減 っ た ケ ー ス 、 も う 一 つ は 、 女 性 が 経 済 活 動 へ の 参 加 を 通 じ て 、 夫 に 対 し て 発 言 す る よ う に な っ た り 、 ロ ー ン の 返 済 を め ぐ る 夫 婦 間 の 諍 い が 生 じ た り な ど 、 従 来 な か っ た 対 立 を 惹 起 し た ケ ー ス で あ る 。 こ う し た 傾 向 は 、 縫 製 産 業 労 働 者 の 世 帯 内 で も 同 様 に 見 ら れ る 。 筆 者 の 聞 き 取 り の 中 で も 、 収 入 を も た ら す こ と で 夫 や 家 族 と の 関 係 が 改 善 し た と 述 べ る 女 性 が 少 な か ら ず い る 一 方 で 、 金 を 要 求 す る 夫 の 態 度 や 、 収 入 の 使 途 に 関 す る 意 見 の 対 立 な ど が 、 夫 婦 関 係 に 波 風 を 立 て て い る と 述 べ る も の も い た 。 し か し な が ら 、 経 済 力 や 意 識 化 の 面 で 変 化 し つ つ あ る 女 性 に と っ て 、 よ り 深 刻 な 安 全 へ の 脅 威 は 、 家 庭 の 外 に 存 在 す る 。 都 市 に 住 む 縫 製 労 働 者 に 対 す る 強 姦 事 件 は 、 後 を た た な い 。 ま た 、 男 性 上 司 や 同 僚 か ら の 性 的 嫌 が ら せ の 可 能 性 が 潜 む 職 場 も 安 全 な 場 所 と は 限 ら な い 。 こ れ ら の リ ス ク に 最 も さ ら さ れ や す い の は 、 農 村 出 身 の 独 身 ︵ 未 婚 、 離 別 、 死 別 ︶ 女 性 で あ る 。 こ う し た 状 況 に 対 し て 、 女 性 た ち は 様 々 な 自 衛 手 段 を 講 じ て い る 。 同 僚 と の 同 居 と い っ た 女 性 同 士 の 助 け 合 い は そ の 一 つ で あ る 。 そ れ 以 上 に 多 い の が 、 収 入 す な わ ち 経 済 力 を 男 性 家 族 に 委 ね る 、 あ る い は 工 場 内 で 男 性 同 僚 、 上 司 と の 間 に 擬 似 的 な 兄 弟 姉 妹 関 係 を 結 ぶ と い っ た 、 既 存 の 家 父 長 制 の 枠 組 み に 組 み 込 ま れ た 、 男 性 が 女 性 に 提 供 す る 安 全 保 障 の 装 置 に 訴 え る ケ ー ス で あ る 。 女 性 が 対 象 と な る ケ ー ス に 限 ら ず 、 社 会 の 暴 力 化 は 、 バ ン グ ラ デ シ ュ 全 体 に 見 ら れ る 傾 向 で あ る ︵ 参 考 文 献 ② ︶。 そ れ に 対 し て 、 日 々 の 生 活 の 場 で あ る コ ミ ュ ニ テ ィ ー で の 取 り 組 み が 急 務 で あ る と 考 え ら れ る も の の 、 流 動 性 が 高 く 階 層 間 格 差 が 大 き い 都 市 住 民 の 特 性 は 、 自 発 的 な 共 同 的 活 動 や 意 識 の 形 成 を 困 難 な も の と し て い る 。 中 で も 、 長 時 間 労 働 に 縛 ら れ て い る 縫 製 労 働 者 に と っ て 、 居 住 地 域 で の 社 会 的 な 交 流 に 割 く 時 間 は き わ め て 少 な い 。 そ う し た 制 約 の 下 、 家 族 あ る い は 同 僚 と い っ た 身 近 な 人 間 関 係 の 中 で 、 既 存 の ジ ェ ン ダ ー 関 係 に 親 和 的 な 方 法 で 、 女 性 た ち は 自 ら の 安 全 を 守 ろ う と し て い る の で あ る 。

﹃ 人 間 開 発 報 告 書 ﹄一 九 九 四 年 版 は 、﹁ 人 間 開 発 ﹂ は 、﹁ 人 び と の 選 択 の 幅 を 拡 大 す る 過 程 ﹂ で あ り 、 他 方 ﹁ 人 間 の 安 全 保 障 ﹂ と は 、﹁ こ れ ら の 選 択 権 を 妨 害 さ れ ず に 自 由 に 行 使 で き 、 し か も 今 日 あ る 選 択 の 機 会 は 将 来 も 失 わ れ な い と い う 自 信 を 持 た せ る こ と で あ る ﹂ と 述 べ て い る 。 で は 、 い か に こ れ ら を 達 成 す る か と 考 え た と き 、 人 間 開 発 が 、 個 人 に 対 す る 資 源 や 機 会 の 提 供 に よ っ て 実 現 可 能 で あ る の に 対 し て 、 人 間 の 安 全 保 障 は 、 個 人 と 個 人 の 間 に 何 ら か の 働 き か け が 求 め ら れ る も の で は な い だ ろ う か 。 バ ン グ ラ デ シ ュ の 女 性 の 事 例 を 踏 ま え て 強 調 し た い の は 、 社 会 に お け る 男 女 の 関 係 を 否 定 す る こ と で は 、 決 し て な い 。 む し ろ 、 家 族 、 コ ミ ュ ニ テ ィ ー 、 職 場 に お い て 、 暴 力 を 否 定 す る 社 会 関 係 、 す な わ ち 人 間 の 安 全 保 障 が 確 保 さ れ る こ と に よ っ て こ そ 、 女 性 の み な ら ず 男 性 の 人 間 開 発 が 、 そ れ ぞ れ に と っ て 最 大 限 の 効 果 を 発 揮 し う る だ ろ う と い う こ と で あ る 。 ︵ む ら や ま ま ゆ み / ア ジ ア 経 済 研 究 所 地 域 研 究 セ ン タ ー ︶ ︽ 参 考 文 献 ︾ ① 村 山 真 弓 ﹁ バ ン グ ラ デ シ ュ / ﹃ 妻 の 天 国 は 夫 の 足 元 ﹄﹂ ︵﹃ ア ジ 研 ワ ー ル ド ト レ ン ド ﹄ 第 八 四 号 、 二 ○ ○ 二 年 九 月 ︶。 ② 村 山 真 弓 ﹁ 開 発 に お け る コ ミ ュ ニ テ ィ ー と 住 民 組 織 化 │ バ ン グ ラ デ シ ュ を 事 例 と し て ﹂ 佐 藤 寛 編 ﹃ 援 助 と 住 民 組 織 化 ﹄ ア ジ ア 経 済 研 究 所 、 二 ○ ○ 四 年 。 ③ K ab ee r, N aila , ‘M on ey C an ’t B u y M e L ov e’ ? R e-e va lu ati n g G en de r, C re dit a n d E m po w -er m en t i n R u ra l B an gla de sh , ID S D isc us -sio n P ap er 3 63 , 19 98 . ④ W orl d B an k, A tta in in g t he M ille n n iu m D e-ve lop m en t G oa ls i n B an gla de sh , T he W orl d B an k, 2 00 5.

参照

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