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沖永良部島における農業用水利用とESD展開に関する研究 ―田芋栽培をとおした水利用の現状と課題―

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(1)Title. 沖永良部島における農業用水利用とESD展開に関する研究 ―田芋栽培を とおした水利用の現状と課題―. Author(s). 野村, 卓. Citation. 釧路論集 : 北海道教育大学釧路校研究紀要, 第47号: 139-148. Issue Date. 2015-12. URL. http://s-ir.sap.hokkyodai.ac.jp/dspace/handle/123456789/7916. Rights. Hokkaido University of Education.

(2) 釧路論集 -北海道教育大学釧路校研究紀要-第47号(平成27年度) Kushiro Ronshu, - Journal of Hokkaido University of Education at Kushiro - No.47(2015):139-148. 沖永良部島における農業用水利用とESD展開に関する研究 ―田芋栽培をとおした水利用の現状と課題― 野 村 卓 北海道教育大学釧路校地域・環境教育専攻. Study on use of Agriculture Water and ESD Practices in Okinoerabu Island NOMURA Takashi Kushiro Campus, Hokkaido University of Education. 要旨 水が生活や生産様式を制限してきた地域(島嶼部)の水環境、水利用の変化に注目し、現状と変遷過程を農業分野にお ける水利用に注目する。今回は鹿児島県沖永良部島における田芋栽培に注目し、伝統的な湧水利用から現代の水管理方法 を明らかにした。これらを足掛かりに水稲栽培やサトウキビ栽培などの水管理を明らかにし、さらに農政の展開過程を含 めて島嶼部の持続可能な水資源利用の課題を明らかにするものである。. 1 はじめに 本研究は、水が生活や生産様式を制約してきた地域、と りわけ島嶼部の水環境や水利用の変化に着目し、その実態 と変化を明らかにする。具体的には、①水環境と水利用の 現状を明らかにし、問題点と課題を整理する。②水環境と 地域資源の関係から持続可能な水環境あるいは水利用の可 能性について検討を行う。③島嶼部における地域の水資源 管理の在り方と水をめぐる諸問題を軸としたESD展開の可 能性について検討する。これらを明らかにするために、元 木理寿(常磐大学) 、萩原豪(前・鹿児島大学、現・高崎 商科大学)との3名の共同研究として平成24年度〜平成26 年度までの3年間、検討を行ってきた成果の一部である。 特に、本研究では生産調整以降も残る農業の水資源利用の. 図1 沖永良部島(和泊町歴史民俗資料館展示写真). 変遷と実態について、水田利用の面影を残す“田芋”栽培 一方、北部には和泊町が位置し、平坦地を多く有してい. の実態について明らかにする。. る。両町共に、河川が少なく、水源に乏しい。図2には気 2 沖永良部島の気象と人口. 象庁が公開している沖永良部島の気象データを示す。特. 沖永良部島は、鹿児島県の南西諸島に位置する島であ. に、降水量に注目すると、平年値では毎月100 〜 200ミリ. り、直南には沖縄県がある。周囲は55.8km、面積は93.6平. 程度の降水量で推移する傾向になっている。近年では、5. 方kmで、和泊町と知名町の2町からなる。南部の知名町. 月、10月に500ミリ程度の降水量になり、これ以外の月で. は第四紀琉球層群(隆起珊瑚石灰岩)で、カルスト地形が. 降水量が平年値を下回る状況になり、雨期と乾期が明確に. 発達し、鍾乳洞も多く存在し、地下水(暗川)が流下して. なる傾向がある。. 湧水が湧き出ているところが多くある。. - 139 -.

(3) 野 村 卓 現在、農業産出額が減少傾向にあるものの、昭和45年以 降農業産出額が増加傾向になったのは生産調整や産地形成 により作目が転換されてきたことが大きい。表2に示した 平成24年の主要作物を見てみると、産出額の上位をじゃが いも(25億円)、花卉(18億円)、さとうきび(18億円) 、 肉用牛(10億円)で、4作目で沖永良部島の農業産出額の 70%を占める。これらのことから明らかなように、沖永良 部島の農業は畑作が中心であり、水田による農業産出額は 億単位には届いていない。 図2 沖永良部島の気象(平成23年気象庁データ) 出典)平成24年度沖永良部・与論島 農業農村整備の概要 鹿児島県大島支庁沖永良部事務所資料. また、気温は直南に沖縄本島が位置していることから、 鹿児島県の気象というよりは沖縄県の気象に近い。特に冬 の期間の気温が高く、年間を通じて最低気温15℃程度〜最 高気温30℃程度と冬・夏の気温差15℃程度と年間を通じて 温暖である。 このような気象条件の下で、和泊町および知名町の人 口、農業人口、耕作面積等について、表1に示す。沖永良 部島の人口は14,000人程度であり、この内農業就業人口が 5,000名程度になっており、1/3が農業者である。沖永良部 島の耕地面積は4,400haであり、99.9%は畑である。水田は. 図3 沖永良部島の農業産出額の推移. 知名町に3haほど存在するが、水稲作は自給用や教育用以. 出典)平成24年度沖永良部・与論島 農業農村整備の概要 鹿児島県大島支庁沖永良部事務所資料より抜粋. 外には行われていないのが実情である。水田の主な利用方 法は田芋生産である。沖永良部島における1戸当たりの耕 地面積は2.5haになっており、本土の1戸当たり耕地面積. 表2 沖永良部島の作目別農業産出額. よりも広くなっている。 表1 沖永良部島の面積・人口・戸数. 出典)平成24年度沖永良部・与論島 農業農村整備の概要 鹿児島県大島支庁沖永良部事務所資料より抜粋. 4 沖永良部島の農地 前節において沖永良部島の農業産出額および主要な作目 について整理をおこなったが、沖永良部島は伝統的に畑作. 出典)平成24年度沖永良部・与論島 農業農村整備の概要 鹿児島県大島支庁沖永良部事務所資料. 中心であったのかを明らかにしておく必要があろう。 そこで、沖永良部島の耕地面積の推移を見てみることに. 3 沖永良部島の農業. する。表3によると、昭和35年では和泊町、知名町両町で. 続いて、沖永良部島の農業について整理を行う。図3は. 3,615haの耕地面積を有しており、この内水田は647haで全. 鹿児島県農業農村整備の概要である。これによれば、昭. 体の18%を占めるに過ぎない。これが昭和40年代に入る. 和45年には和泊町、知名町を合わせて20億6,000万円の農. と、生産調整に伴う作目転換が推進され、水田が畑に転換. 業算出額であったものが増加し続け、平成7年には121億. されて行くことになる。昭和60年には和泊町、知名町併せ. 2,000万円まで増加した。正に産出額が6倍に増加したの. ても水田は23haしかなく、また畑地開発も進められ昭和35. である。しかし、これ以降産出額は減少傾向となり、平成. 年に比べて500ha程耕地面積が増加している。このため耕. 22年には106億7,000万円になり、平成7年に比べて88%と. 地面積における水田は0.6%を占めるに過ぎなくなる。水. 12%減少した。. 田転換はその後も継続され、和泊町においては平成13年に. - 140 -.

(4) 沖永良部島における農業用水利用とESD展開に関する研究 は水田が統計上なくなる。知名町においては平成8年に1. かにする必要がある。本論文の目的とは異なるので、これ. haまで減少したが、その後増加し、平成23年で3ha存在し. 以上詳細には立ち入らないことにする。. ている。3haの水田は本論文後半で指摘する田芋生産が主 な利用になっている。改めて、畑作は多い現状について高. 5 沖永良部島の農業用水. 齢者への聞き取りをおこなっているが、高齢者の回答でも. 沖永良部島は鹿児島県に属するとは言え、南西には沖縄. 水田はあったが、畑の方が多かったといい、そこで栽培さ. 本島が位置し、気象条件は沖縄県に類似することは前節で. れて作目としては自給用の作物を多様に栽培していたが、. 指摘した。また、沖永良部島はカルスト地形であり、河川. 換金作物としてはサトウキビ栽培が、その中心であったと. は存在するものの少なく、暗川(クラゴウ)とよばれる地. いう。. 下水脈が存在し、昭和以前はこれら暗川などの湧水を生 活用水から農業用水まで多様に利用していた。沖縄県に近 い気象条件であることから乾期と雨期があり、雨期には強. 表3 . 烈な台風などが来襲し、これまでに多くの被害を出してき た。農業用水、特に水田の稲作利用では、河川や暗川だけ では足りず、これまでに多くのため池が作られ、水稲や田 芋生産、生活用水の確保が行われてきた。平成24年時点に おける沖永良部島の農業用水施設(ため池)を図4に示す。. 出典)平成24年度 鹿児島県大島支庁沖永良部事務所資料 (町史、市町村統計、農業センサスより作成). 表4 沖永良部島の耕作放棄地(ha). 図4 沖永良部島の農業用水施設(ため池) 出典)平成24年度沖永良部・与論島 農業農村整備の概要 鹿児島県大島支庁沖永良部事務所資料より抜粋. 出典)平成24年度 鹿児島県大島支庁沖永良部事務所資料 (町史、市町村統計、農業センサスより作成) 耕作放棄地は平成21年3月調査. 沖永良部島においては、115箇所のため池が存在する。 和泊町は90箇所のため池が存在し、これらで貯留されてい. 一方、全国的に問題になっている耕作放棄地の現状を表. る水の量は1,291,714㎥である。和泊町で最大のため池は阿. 4に示した。平成20年度(平成21年3月調査)によると、. 賀礼とよばれるため池であり、105,000㎥の貯水量になっ. 沖永良部島の耕地面積4,480haのうち、耕作放棄地は22ha. ている。知名町は25箇所のため池が存在し、これらで貯留. と全耕地面積の0.5%にしか過ぎない。これらは高齢者への. されている水の量は358,254㎥である。知名町で最大のた. 聞き取り調査によると、沖永良部島出身者は沖縄県出身者. め池は山田ダムで、132,000㎥の貯水量になっている。知. 同様に、主要都市に島人会を開設し、町のみならず、集落. 名町は和泊町に比べてため池数や貯水量が少ない傾向にあ. や親類一族を基盤としたグループが形成され、若い世代の. る。これらは地形的な理由によるものである。沖永良部島. 就職等の支援を行い、彼らが島外に出ている間、親類を中. は中央部に大山と越山を有し、そこから流れる余多川や暗. 心に耕地管理を請負い、定年等で島に戻るとき、耕地返却. 川が集中している。和泊町、知名町共に、転換される前. が行われることにより、耕作放棄地が殆ど発生せずに管理. の水田もこの周辺に集中していた。和泊町北東部、知名町. されている状況になっていることが明らかになった。しか. 南西部は暗川も少なく、昔の水田作も雨期に集中的に管理. し、これら耕地管理請負体制を詳細に明らかにできている. し、乾期を乗り切るという特殊な栽培方法を有していた。. ものではなく、あくまで高齢者への聞き取りで、その体制. 特に知名町南西部では、田下駄のようなものを履き、首ま. が明らかになったに過ぎない。今後、耕地管理体制を明ら. で浸かるかのような水田で水稲を定植し、天水のみで栽培. - 141 -.

(5) 野 村 卓 するという方法が存在した。和泊町北東部では水田ではな く陸稲栽培が行われた記録がある。 これらのことから、沖永良部島における水田は中央部に 集中し、それでも全般的には生活用水も含めて、水の確保 に苦労していた歴史が垣間見える。 耕地整理に伴い、ため池整備が進められてきた沖永良部 島ではあるが、花卉、じゃがいも、さとうきびを中心とし た畑作振興において、畑灌漑は重要な施策とされてきた。. 写真2 かんがい排水事業工事の様子(平成25年). 図6 沖永良部島の地下ダムの仕組み. 写真1 島内に設置されている灌水設備. 出典)平成24年度沖永良部・与論島 農業農村整備の概要 鹿児島県大島支庁沖永良部事務所資料より抜粋. 写真1は、沖永良部島内に設置されている潅水設備であ る。 現在、沖永良部島においては、国営の灌漑排水事業と. 図6は地下ダムの仕組みである。これは沖永良部島が形. して地下ダムが整備されつつあり、受益面積は和泊町で. 成されている地質、地形を利用するものである。地下水が. 704ha、知名町で793haにおよび、総事業費は320億円、工. 流れる透水層は琉球石灰岩とよばれる層であり、この層が. 期は平成19 ~平成30年度とされ、有効貯水量は596,000㎥. 広がっている地帯の沿岸部に地下ダムとなる止水壁を設置. である。. する。写真2が、止水壁工事の様子になる。この止水壁を 構築することにより、地下水を貯留し、止水壁上流部に取 水用の集水井戸を設置する。ここにポンプを設置し、汲み 上げて畑地灌漑用水にする。図6に示すように、琉球石灰 岩の下には基盤岩が存在し、この層は不透水層となる。 これまで沖永良部島においてはため池造成によって畑地 灌漑の整備を進めてきた。これが国営かんがい排水事業に よって地下ダムが設置されることによって、沖永良部島の 水利用事情が変化することになる。伝統的に水利用に工夫 を重ねてきた沖永良部島において、渇水の心配なく、農業 用水や生活用水に利用していく経験が、持続可能な水資源. 図5 『国営かんがい排水事業』 出典)平成24年度沖永良部・与論島 農業農村整備の概要 鹿児島県大島支庁沖永良部事務所資料より抜粋. 利用に与える影響は無視できない。 ここでは地下ダムが必要ないという指摘をしたいのでは ない。技術革新に伴い、事業展開されることによって、水 利用に対する価値観が変化し、当然となる過程において失 われる地域特性や地域の価値観の喪失をどのように考え、 継承して行くのかが問われるということである。 これら水利用の基本に帰る機会として、次節以降では田 芋生産と田芋を使った伝統食について整理をおこなってい くことにする。. - 142 -.

(6) 沖永良部島における農業用水利用とESD展開に関する研究 6 沖永良部島の田芋栽培 沖永良部島の水田は表3に示しているとおり、統計的に は知名町に3ha存在する。この3haのすべてが田芋栽培 に利用されているわけではなく、一部自給的な水稲栽培や 教育利用の栽培が行われている。しかし、水田の大部分は 田芋栽培に利用されていると見てよいだろう。 この田芋栽培は、2種類の栽培型が存在する。自給的栽 培と商業的栽培である。まずは自給的栽培の現状を整理す ることにする。 (1)自給的田芋栽培 自給的田芋栽培の特徴は、河川や湧水地周辺に多く開設 され、水田1枚あたりの作付け面積は小さい。品種は沖縄. 写真5 自給的田芋栽培と水稲栽培の様子–3. (琉球)系と在来系が主になっており、沖縄系は根部食の みならず、芋茎食も兼ねることが多い。このため沖縄系の 根部の食味は落ちるとされており、根部食としては在来系 の評価が高い傾向になっている。自給的田芋栽培において は栽培体系にも特徴がある。根部を収穫すると、芋茎部分 を水田に植え戻し、田芋栽培が循環して行く。 ①K集落の自給的田芋栽培. 写真6 自給的田芋栽培と水稲栽培の様子–4 K集落の田芋栽培は写真4〜6を参照すると明らかだ が、画一的で均一的な栽培をしていない。食用に適する大 きさに芋茎が生長した段階で随時収穫し、食用にまわして 行く。このため大小の田芋が散見されるようになる。 ②S集落の自給的田芋栽培 写真7~9は知名町S集落の田芋栽培の様子である。こ. 写真3 自給的田芋栽培と水稲栽培の様子. ちらの田芋栽培の特徴は、水田が小さい規模のものから大 写真3は知名町K集落における教育利用としての水稲栽. きい規模のものまで多様にあることである。K集落よりも. 培の様子である。この水田は半分が水稲、半分が田芋栽培. 平坦地にあることから、一時畑転換されたものを復活させ. に利用されている。. たりと、土地所有者の事情により多様な規模の水田として 復活されているものと考えられる。小さく区分けされた水 田では水田毎に収穫の循環を形成しているものもある。次 節以降で伝統的な田芋栽培について述べることにするが、 K集落やS集落で行われている栽培方法のどれが一概に古 いタイプの栽培方法といえるか判然としないが、水稲栽培 一つとっても沖永良部島の北東部、中央部、南西部で栽培 方法(特に水管理)に違いがみられる。これら水田規模や 水管理の差異が近代化の過程を経て、多様な水田単位での 管理法へと展開していき、それが細々とながらも継承され ていると考えられる。 その意味では、後節において伝統的自給栽培の面影を追. 写真4 自給的田芋栽培と水稲栽培の様子–2. うことにする。. - 143 -.

(7) 野 村 卓. 写真10 S集落の田芋栽培における水管理の様子. 写真7 S集落の田芋栽培の様子–1. (2)商業的田芋栽培 本節では、商業的田芋栽培についてみていくことにす る。沖永良部島において商業的田芋生産を行っている生産 者は主に2戸である。 この2戸の水田面積が計2ha程度になり、知名町の水田 面積3haにおいて67%を占める生産者ということになる。 これによって、沖永良部島で自給的に栽培されている水田 の規模の小ささも容易に推察されるところだろう。また、 そこでの田芋の生産規模も小さいことが明らかになる。 写真11 ~ 13は商業的田芋栽培を行う生産者が常設して いる収穫後の調整および農産加工場である。. 写真8 S集落の田芋栽培の様子–2. 写真11は一般的にセメントを捏ねるための機械ではある が、田芋を収穫後洗浄するためのものである。. 写真9 S集落の田芋栽培の様子–3 また、写真10において、S集落の水田の水管理の状況を 示す。これは近くの湧水地(整備済)から用水路を通じて. 写真11 田芋洗浄機. 畑から転換させた水田に水を引き込む水口である。 水口右には用水を貯める箇所を設け、田芋を収穫すると 調整管理を行う場にもなる。. - 144 -.

(8) 沖永良部島における農業用水利用とESD展開に関する研究. 写真12 田芋選別等調整室. 写真15 田芋の様子–2. 写真13 田芋蒸かし器. 写真16 水田に水を供給する遊水池の様子. 田芋生産者の出荷方法は3つある。. 紙面の都合上、栽培方法や経営の実情については、今後. ①生もの流通:生芋等. の研究課題とするが、田芋栽培を行う生産者は沖永良部. ②一次加工流通:蒸かし芋等. 島の水田の70%近くを占めて栽培を行っているわけである. ③二次加工流通:芋餅や芋茎加工等. が、この水田を1期作で田芋を栽培しているわけではな. ①の生芋は1kgあたり500円程度で、主に沖縄方面に出. い。前節でも指摘したが、水田であるにもかかわらず、田. 荷される。②及び③が島内で消費される。この時、②の蒸. 芋は連作障害が発生する。このため水田を3区画にわけ、. かし芋は850gで450円程度、芋餅は250gパックで150円程. 2連作後は1作休耕させるのが基本になっている。. 度で販売するのが一般的である。消費規模的には2戸以上. その上で、収穫作業を分散させ、島内で安定的に蒸かし. の参入者が出てくると経営的に厳しいと考えられる。. 芋や芋餅を供給するために、1区画を、さらに細かく分け. これら選別調整場や農産加工室をもって、初めて経営が. て、植え付け時期等を変えて栽培管理を行っていく。写真. 成り立つ状態である。. 14、15を見ると、水田が細かく畝で区切られ、さらに上流 部から水が段々に流れ落ちるようになっていることがわか. 7 田芋栽培と湧水利用. る。生産者の考え方にもよるが、おおよそ5a ~ 7a程度に 細分化され、管理調整を行い、収穫されていく。 3年に1度の休耕時には、乾田化し、畑作としてソルゴー 等の緑肥作物を栽培し、地力の回復を図るなどの工夫をお こなっている。 田芋を栽培している間は水が切られることはなく、常時 かけ流している状態になる。それでも、11月~2月には代 かきを行い、随時田芋を植え付けていく。これが5~6月 になると収穫がはじまり、 11月まで続いていくことになる。 8 湧水を利用した伝統的田芋栽培の面影 本節では湧水を利用した伝統的田芋栽培について、検討. 写真14 田芋の様子–1. を加えることにする。. - 145 -.

(9) 野 村 卓 共同研究者の萩原、元木らによって沖永良部島の湧水地. 一方で、前節の商業的栽培において触れたが、田芋は水. の確認が行われ、湧水地マップづくりや湧水を学校教育に. 田でありながら、連作障害が発生するとみられ、原因や連. 活用した模擬授業などが実施されてきた。写真17も知名町. 作障害発生メカニズムは解明されていない。. の湧水の一つである。湧き出てきた水が流れる下で、平坦. これらは沖永良部島においても経験的に継承されてお. な地形において、写真18や写真19に示すような2〜3m四. り、本節の伝統的田芋栽培において、写真20に示すように、. 方に区切られた田芋田が形成されている。. 乾田化して連作回避が行われている様子が垣間みられた。. ただし、前節でも指摘したが、田芋を生育別に区切り、 栽培する手法は近代的手法かもしれないということであ り、知名町K集落のように、水稲栽培との輪作体系を土台 に、水田を利用する場合には、自給的であれ、80年代以降 の商業的栽培と区別するために他給的であれ、日々の消 費、販売量に併せて収穫・調整が行われていたのが本来の 姿のように思われるが、 これらは今後の検討課題としたい。. 写真20 田芋田の乾田化の様子 これらのことから、生産調整以前に自給的栽培を元に、 湧水を利用した伝統的栽培を沖永良部島においては垣間み ることができた。田芋の消費が若い世代を中心に失われて 行けば、これを支える田芋の栽培法も断絶の憂き目に合 う。高齢世代から若者世代への栽培方法を湧水利用と併せ 写真17 知名町湧水地. て継承していくことが重要になってくる。そのとき、田芋 を利用した伝統食とセットで継承を試みることが重要であ ると考えられる。そこで、次節では田芋を利用した調理法 について見ていくことにする。 9 田芋を利用した伝統食 沖永良部島においては、田芋は大枠として3つの加工に よって流通したり、冷凍保存されている。 ①生もの流通:生芋等 ②一次加工流通:蒸かし芋等 ③二次加工流通:芋餅や芋茎加工等 写真21は、②の蒸かした状態のものである。沖永良部島. 写真18 田芋田–1. では、これをそのまま食したり、黒糖、黒蜜などをかけて 食す。. 写真19 田芋田–2. - 146 -.

(10) 沖永良部島における農業用水利用とESD展開に関する研究 写真23は沖縄系田芋を利用した芋茎料理であり、きゅう りとの和え物である。麦味噌などを加えた沖永良部島など 奄美で独特の料理といって良いであろう。 一般的に、田芋は①〜③の処理が行われても、“足が速 い”という。いわゆる腐りやすいのである。戦後、冷蔵庫 などが普及する以前は、水田から消費する分だけ収穫し、 加工調理するという体系であったことが推察されるのであ る。また、田芋の多様な系統が保持されているということ は、上記の調理法以外にも多様な調理法が継承されてきた ことが想定される。これは沖永良部島において、水田以外 にも多様な芋が散見され、日常に深く根付いていたと考え られる。次節では、多様な芋文化を支えてきた芋をみてみ. 写真21 田芋の蒸かし芋. ることにする。 10 多様な田芋類 沖永良部島では、伝統的に芋茎食用芋が存在する。これ らは“トームジー”と呼ばれ、高齢者世帯では、住居横に 植えられており、随時収穫、調理される。写真24に芋茎食 用芋のトームジーを掲示する。また、食用以外にも観賞用 芋や、野生種としての自生芋(クズイモ)も多様に散見で きる。. 写真22 田芋の芋餅 写真22は田芋の芋餅である。搗いて、練られ、黒糖など が配合され、成型され販売されている。商業的栽培農家も ②と③の形態で流通にまわしていることが明らかになって いる。. 写真24 芋茎用芋:トームジー. 写真23 田芋の芋茎料理(きゅうりの和え物). 写真25 観賞用田芋. - 147 -.

(11) 野 村 卓 えてきたことは以下のことに整理できよう。 ①自給的、伝統的、商業的田芋栽培において、水田利用に も関わらず、連作障害が見受けられ、これによって乾田化 する水田が生み出され、水利用が制限され、過度の取水が できないことで出来上がった農法が暗黙のうちに継承され ている。 ②沖永良部島の田芋は沖縄系と在来系の2系統を主とし、 在来系は多様な系統保存がなされている。ただし、田芋栽 培を担う人の高齢化が進んでおり、高齢者の引退ととも に、在来種が失われる危険性がある。これは畑作の里芋 (在 来系)も同様である。 ③沖永良部島では、生産調整以降、水田が激減したもの. 写真26 野生種のクズイモ. の、現在に至るまで耕作放棄地は少ない。これは定年後の 11 生産調整以降の畑作芋. Uターンや親族間の農地管理形態が継承されており、新規. (商業的畑作さといも栽培). 就農を阻む要因ともなる。. 生産調整以降、水田から畑に転換が進み、田芋栽培は衰. ④田芋を利用した伝統食も高齢者を中心に継承されてお. 退した。しかし、 沖永良部島では、 これで芋栽培がなくなっ. り、若い世代への計画的継承機会の保証が求められる。. たということではない。畑に転換されて以降、じゃがいも. ⑤水田への復田化は統計では明確でないものの、増えてい. やさとうきびとの輪作体系の中で、さといも栽培に技術が. る傾向がある。学校と地域との連携による水稲栽培の事例. 転用され、定着している。現在は石川早生など都市部で流. (下平川小、大城小、上城小)もあり、自給的に水稲作を. 通するための品種が商業的に栽培されている。. 行っている人もいる。今後は水稲作の実態を明らかにし、 栽培体系・栽培法、使用品種に関する調査を進めることに したい。 参考文献 ・ 鹿児島県大島支庁沖永良部事務所「平成24年度沖永良 部・与論島農業農村整備の概要」 ・ 和泊町史編纂委員会「和泊町史」昭和59年 ・ 萩原豪・元木理寿・野村拓「沖永良部における湧水池 を用いたESD実践とその波及効果」日本環境学会第41 回大会発表要旨、2015 ・ 萩原豪・元木理寿・野村卓「沖永良部島の小学校にお ける湧水地をテーマとしたESDの実践研究」日本環境. 写真27 さといも栽培の様子–1. 学会第40回大会発表要旨、2014 ・ 萩原豪・元木理寿「沖永良部島における湧水地調査と 湧水地を活用したESDの実践」鹿児島大学稲盛アカデ ミー研究紀要第4号、2013 ・ 萩原豪・元木理寿「沖永良部島における湧水地調査プ ロジェクト」鹿児島大学稲盛アカデミー紀要第3号、 2012 ・ 元木理寿・萩原豪「鹿児島県沖永良部島における水環 境と生活水利用の現状」常磐大学コミュニティ振興学 部紀要第13号、2011 ・ 萩原豪・元木理寿「鹿児島県沖永良部島における水資 源とエネルギー問題を中心としたESD(持続可能な開. 写真28 さといも栽培の様子–2. 発のための教育)の現状と課題」鹿児島大学稲盛アカ デミー紀要第2号、2011. 12 おわりに 田芋栽培を通した水資源管理および水利用形態の課題と 持続可能な水利用の可能性について、今回の水利用から見. - 148 -.

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