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「南北間自由貿易協定とTRIPS協定」

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はじめに 今,世界でFTA(自由貿易協定)が活発化している。1999 年のシアトル,2003 年の カンクンでのWTO閣僚会議の失敗は,WTOからFTA への流れを決定的なものとし た。わが国は2002 年にシンガポールとのFTA1)を発効させ,その後,2006 年にマレー シアと,2007 年にはチリ,タイとのFTAを発効させている。また,フィリピン,ブ ルネイ,インドネシアとのFTA が署名済みであり,ASEAN全体とのFTA も交渉が 妥結している。米国は,ブッシュ政権以前に,イスラエル,NAFTA ,ヨルダンとの FTA を発効させていたが,その後,シンガポール,チリ,オーストラリア,モロッコ, バーレーンとのFTA を発効させ,中米,オマーン,ペルー,コロンビア,パナマ, 韓国とのFTA 交渉が妥結済みである。EUは周辺国や中近東諸国を中心に,22 カ 国・地域とのFTA を締結している。 ところで,日,米,EUといった主要先進国が締結するFTA に は,そのほとんど に知的財産条項が含まれている。1995 年に発効したWTOのTRIPS協定は,WTO加 盟国すべてに知的財産権保護を求める画期的なものであったが,模倣品・海賊版問題 に象徴されるように,先進国にとって,途上国の知的財産権保護は問題視せざるを得 ない状況にある。しかし,TRIPSの場では,現在のところ,実施問題や医薬品アク セス問題などが示しているように,途上国のTRIPS協定に対する不満が大きく,さ らなる議論を進めるのが困難な状況にある2)。主要先進国は,国ごとにより柔軟に, かつ効率的に交渉できるFTA に知的財産権問題の議論の場をシフトさせ,積極的に その成果をFTA に取り入れることになった。 日本,米国,EUが締結するFTA の知的財産条項はそれぞれに特徴を持つが,とり

南北間自由貿易協定と T R I P S 協定

North-South Free Trade Agreements and TRIPS

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わけ米国の締結するFTA は,TRIPS協定を大きく超える内容を詳細かつ具体的に 規定するものとなっており,その内容はTRIPSプラスと呼ばれている。こうした FTA の知的財産条項は,今後のグローバルな知的財産保護の多角的な取組にいかな る影響を与えるのだろうか。また,先進国,途上国の双方にとって,FTA の知的財 産条項をどのようにデザインしていくのが望ましいのか。あるいは,TRIPSプラス の知的財産条項は医薬品アクセス問題にどの程度悪影響を及ぼすのか。こうした問題 を考えるための準備として,本稿では,米国FTA を中心に,知的財産条項の論点や 問題点を整理し,今後の課題を明らかにしておきたい。 1.国際的な知的財産保護の枠組み (1)知的財産権に関する国際ルール 知的財産権保護の国際的枠組みとして,古く19 世紀末に,産業財産権については

「工業所有権保護に関するパリ条約」(Paris Convention for the Protection of Industrial Property)が,著作権については「文学的及び美術的著作物の保護に関するベルヌ条 約」(Berne Convention for the Protection of Literary and Artistic Works)が成立して いる。パリ条約は,内国民待遇の原則,優先権制度,各国の特許(商標)独立の原則 を三大原則とするものである。また,これら条約を始めとする多くの知的財産関連条 約を管掌する国連の専門機関として世界知的所有権機関(WIPO : World Intellectual Property Organization)が1970 年に設立され,そこで国際的な議論がなされてきた。

国際的な知的財産保護の枠組みを議論する時,南北間の対立は避けられない。技術 の生産・輸出国である先進国は,保護を強化し,そこからの収益を高めたいと考える 一方,先進国から技術を吸収し,発展に役立てたいと考える途上国は,できるだけ自 由に利用したい。1961 年の国連総会におけるコロンビアとブラジルの共同提案「発展 途上国への技術移転における特許の役割」(The Role of Patents in the Transfer of Technology to Developing Countries)に端を発し3),途上国側は,特許制度は先進国 を利するのみであり,先進国の技術独占が発展途上国への技術移転を遅らせるものと して,特許権の効力の制限などを求めた(70 年代∼)。1980 年からの第9回パリ条約 改正会議での主要なテーマの一つは特許発明の不実施に対する制裁措置の強化であ り,産業財産権の保護水準の維持・強化を主張する先進国と強制実施権の強化を強く 主張する発展途上国との間の対立はあまりに大きいものであった4)

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(2)ウルグアイ・ラウンド交渉

こうした背景のもと,米国は,知的財産権の問題をWIPOではなくガット(General Agreement on Tariffs and Trade; GATT)に持ち込み,国際ルールの構築を目指すこ とになった。先進国,途上国のグループ代表が交渉し,加盟国の多数決で運営される WIPOにおいては,さらなるルールづくりなどは望めないし,WIPO所管の条約では 協定違反に対して制裁措置がとれないなど,強制力に欠ける枠組みであるためである。 知的財産権問題を貿易問題としてガットに持ち込み,ウルグアイ・ラウンド交渉 (1986 年∼ 94 年)を通じてTRIPS協定成立にこぎ着けるのに大きな後押しをしたの が米国の産業界であった5)。製薬やコンピュータなど,13 の米国大手企業6)は知的財 産権委員会(ITC)を結成するとすぐに(1986 年),日欧の企業団体に働きかけ,欧 州のUNICE(欧州産業連盟),日本の経団連との国際的な企業間協力体制を構築, 1988 年にはこれら三者連合(日米欧民間三極会議)は包括的な「基本的枠組み」7)を発 表,TRIPS交渉を側面から強力に支援している。 一方,発展途上国側はガットには知的財産権のルールづくりの権限はそもそもない としてそれに反対し,TRIPS交渉は実質的な議論が行われない状況が長らく続いた (マンデート論争)。その後,1988,89 年の中間レビューを契機に途上国側も具体的な 提案を提出し,議論に加わってきた。韓国や香港といったアジアの新興工業国などが TRIPS交渉に積極的に参加するようになるなど,途上国側も一枚岩でなくなり,強 硬派のインドやブラジルは,いくつかの譲歩を引き出すことに成功したものの,最終 的には,先進国案が途上国案を吸収合併した形での協定案を受け入れざるを得ない状 況となった。1993 年 12 月に実質合意がなされることになり,この合意は他の合意とと もに1995 年1月に発効した。 ウルグアイ・ラウンド交渉において,途上国は知的財産権の国内での保護強化が少 なくとも短期的には先進国を利するのみであり,途上国に多大な負担を強いるものであ ること,そして知的財産権制度は各国の状況に応じて決定されるべきものであり,他 から強制されるべきものでないという認識を変えたわけではない。それでも,TRIPS 交渉が合意に至ったのは,いくつかの理由があろう。 第一に,米国の一方主義的な動きがある。米国は,ウルグアイ・ラウンドのTRIPS 交渉と並行して,2国間交渉を通じて諸外国に知的財産権保護を求める戦略をとって いた。すなわち,米国は知的財産権保護が不十分であることを非関税障壁として捉え, そうした不公正貿易慣行国に対しては制裁措置も辞さないという態度で2国間交渉を 進め,それら国々での知的財産権保護を求めた。その根拠規定は,①知的財産権の侵 害製品の輸入を禁止する1933 年関税法 337 条,②不公正貿易慣行国に対して制裁措置 を発動する1974 年通商法 301 条,③ 1988 年包括通商競争力法のいわゆるスーパー 301

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条,スペシャル301 条である。米国はこうした一方的措置を背景とした2国間交渉を 通じて,多くの国での医薬品の特許保護などを実現することに成功した8)。このよう な一方主義に対して,途上国はもとより,日欧も反対の姿勢を示していたが,こうし たガット協定上も問題を含む米国の一方主義を,知的財産権のルールがガットに持ち 込まれることで封じ込めることができるという期待があった9) 第二に,上にも書いた通り,外向きの経済政策により成功を収め,成長著しいアジ アNIESなどが出現するなど,途上国全体の利害が多様化し,直接投資誘致のために 必要なビジネス環境の整備の一環として知的財産制度整備の必要性が認識されてきた ことがある。途上国が一枚岩でなくなったことは途上国グループとしての交渉力を弱 めた。 第三に,TRIPS協定は,WTO設立協定(世界貿易機関を設立するマラケシュ協 定)に付属する17 の多角的貿易協定の一つであるが,シングル・アンダーテーキング (一括受諾)の原則の下で,WTO協定を受諾することは,すべての協定を受け入れる ことであった。途上国にとって,確かにTRIPS協定単独で見れば不利であるが,農 業や繊維といった他の分野も含めたパッケージとして受け入れるか否かの判断が必要 であり,18 の協定全体としては,受け入れるに値するものとの判断があったものと考 えられる。途上国がTRIPS協定受け入れの見返りの利益と考えた分野としては,実 効力のある紛争解決手続きのもとでの農産物,繊維・衣類分野での市場アクセスであ る。 (3)TRIPS 協定 1995 年1月1日より発効した「知的所有権の貿易関連の側面に関する協定」(TRIPS 協定: Agreement on Trade-Related Aspects of Intellectual Property Rights)は,全加 盟国での知的財産権の保護の最低基準を定め,権利行使手続きや効果的な紛争解決手 続きを規定するなど,既存の知的財産権関連条約と比較して画期的なものとなった。 TRIPS協定の成立により,多くの国において知的財産政策の変更が必要となり, 協定履行のための法改正が行われた。主要変更点には,コンピュータ・ソフトウエア やデータベースの著作権保護,周知商標に対する保護,医薬品やバイオテクノロジー 技術発明の保護,強制実施権の設定の制限,トレード・シークレットの保護,国境措 置や司法手続きなどのエンフォースメント関連などがある。 このように,TRIPS協定では先進国側の主張を多く取り入れ,知的財産権の世界 的な保護を目指すものとなった。その一方で,途上国側の事情を配慮して,各国にそ れぞれの国における知的財産権制度の設計に裁量余地を残した部分,解釈余地の広い 曖昧な規定などが含まれている。これらはしばしばTRIPS柔軟性と呼ばれ,各国は その状況に応じて自国の知的財産制度を,ある程度自由にデザインできることになっ

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ている。主要なTRIPS柔軟性として,①経過期間10),②強制実施権,③並行輸入の 許容,④特許権の例外(試験又は研究目的の使用など),⑤特許対象からの除外(医療 行為,動植物それ自体やその品種など),⑥データ保護の限定,⑦ライセンス契約によ る反競争的行為の競争政策による規制,などがある11) (4)TRIPS 協定から FTA へ TRIPS協定成立後,履行期限を前倒しにして,積極的に知的財産制度の整備を進 める国も多く見られたが,その一方で,協定実施が大きな負担を伴う一方,農業や繊 維といった分野で途上国が期待していたほどの利益が得られないなどの理由から,途 上国の不満が高まることになった。いわゆる実施問題である12)。さらに,アフリカ等 途上国を中心とした感染症(HIV/AIDS,マラリア,結核)の蔓延を背景に,医薬 品アクセス問題が大きくクローズ・アップされ,特許制度が医薬品の価格を高価なも のにしたり,安価な医薬品(ジェネリック薬)の入手を困難なものにしたりしているな どの非難がなされるようになった。 こうした背景のもと,知的財産権制度をめぐる南北間の議論は感情的ともいえるも のとなり,ビルト・イン・アジェンダ(TRIPS協定がTRIPS理事会の検討課題と して協定内に組み込まれた議題)である地理的表示などのいくつかの問題以外には, TRIPSの場で実質的検討ができる状態ではなくなった。 一方,先進国側の不満も増大した。TRIPS協定成立後,多くの国で実体法規定は 整備されてきたものの,模倣品や海賊版の問題は改善するどころか悪化していったた めである。途上国の技術力の向上等もあり,模倣品問題は高級ブランド品だけの問題 ではなく,あらゆる産業にかかわる問題となった。日米欧といった主要先進国政府は 連携して,途上国における知的財産権のエンフォースメント改善に向けた積極的な取 り組みを行ってきた13) そして,こうした取組と並行して,近年加速する自由貿易協定(FTA )の動き14) 中で,FTA のなかに知的財産権問題が取り込まれていくことになる。シアトル (1999 年),カンクン(2003 年)でのWTO閣僚会議の2度の失敗により,貿易自由化交 渉は,WTOでの多国間交渉から2国間での交渉,FTA へとウエイトを移すことを決 定的なものとした。知的財産権問題も同様に,TRIPSの場からFTA に,南北間の 知的財産権問題の交渉の場を移すことになったのである。 (5)FTA と TRIPS との関係

自由貿易協定(Free Trade Agreement :FTA )とは,2以上の国・地域が関税その 他の貿易障壁を撤廃することにより域内の貿易を自由化する自由貿易地域を形成する ことを目的とする協定である。自由貿易地域の特徴にプラスして域外に対する関税そ

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の他通商政策を共通とする経済統合は関税同盟(Customs Union : CU)と呼ばれる。 また,これらを総称して,地域貿易協定(Regional Trade Agreement : RTA)という。

また,日本が締結する自由貿易協定は,その内容が貿易自由化にとどまらず,知的

財産や投資のルールなど,幅広い内容を有するという意味で経済連携協定(EPA : Economic Partnership Agreement)と呼ばれている。また,EUの締結する自由貿易協 定は,その内容により様々な呼び方がなされている。以下では,これら地域貿易協定 をすべてFTA と呼んでいる。 ところで,「無差別主義」(最恵国待遇)はGATT/WTO体制における重要な基本原 則であるが,一定の条件の下での地域貿易協定が認められている(GATT第24 条)。そ の条件とは,(1)貿易障壁の水準が以前より高度又は制限的でないこと,(2)域内にお ける事実上のすべての貿易が自由化されることであり,この条件を満たす地域貿易協 定は,WTOの貿易自由化を補完するものとされている。 このように,WTOで認められた地域貿易協定である限り,地域貿易協定は無差別 原則の例外的な扱いを受ける15) では,地域貿易協定における知的財産条項の扱いと最恵国待遇との関係はどうか。 上の最恵国待遇に対する例外は物品貿易およびサービス貿易を対象とするものである。 知的財産権の保護に関しては,TRIPS協定第4条に,「知的所有権の保護に関し, 加盟国が他の国の国民に与える利益,特典,特権または免除は,他のすべての加盟国 の国民に対し即時かつ無条件に与えられる」と規定されており,地域貿易協定におけ る特則はない。すなわち,知的財産分野では,地域貿易協定において域内外で差別的 な取り扱いを含む知的財産条項を置くことはできず,したがって,地域貿易協定にお ける知的財産条項に基づく措置は域内,域外問わず,WTO加盟国すべての国民に即 時かつ無条件に均てんされることになる。 ただし,TRIPS協定における最恵国待遇の例外として,(1)一般的な司法共助及 び法執行に関する国際協定に基づくもの,(2)ベルヌ条約及びローマ条約で相互主義 的扱いが認められたもの,(3)実演家,レコード制作者及び放送事業者の権利のうち, TRIPS協定に規定されていないもの,(4)WTO協定発効(1995 年1月1日)より前 に発効した知的財産の保護に関する国際協定であり,TRIPS理事会に通報され,か つ,他の加盟国の国民に対し恣意的または不当な差別とならないもの,という4つが ある。

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2.主要国における FTA と知的財産条項 (1)米国 FTA 政策 米国はブッシュ政権発足以降,FTA 交渉を積極化させた。ブッシュ政権以前に締 結されていた自由貿易協定は,1994 年に発効した北米自由貿易協定(NAFTA),お よびイスラエル(1985 年発効),ヨルダン(2001 年発効)との間でそれぞれ締結され た2国間FTA のみであった。2002 年の超党派貿易促進権限法(Bipartisan Trade Promotion Authority Act)の 成 立 を 契 機 に , 交 渉 が 活 発 化 す る 。 貿 易 促 進 権 限 (TPA : Trade Promotion Authority)とは,期間を限定し,行政府に対し議会への事 前通告や交渉内容の限定などの条件を付す一方で,こうした条件を満たす限り,議会 側は行政府の結んだ外国政府との通商合意の個々の内容の修正を求めずに,迅速な審 議によって通商合意を一括して承認とするか不承認とするかのみを決することとする ものである16)。表1に示したように,米国は中南米,アジア・オセアニア,中東,ア フリカと,世界的規模でFTA を展開していることがわかる。 表1 米国の FTA ブッシュ政権以前に発効済みのもの(括弧内は発効年) ①イスラエル(1985 年) ②NAFTA(アメリカ,カナダ,メキシコ。1994 年) ③ヨルダン(2001 年) 最近締結したもの ④シンガポール:2003 年 5 月署名。2004 年 1 月発効。 ⑤チリ:2003 年 6 月署名。2004 年 1 月発効。 ⑥オーストラリア:2004 年 5 月署名。2005 年1月発効。 ⑦モロッコ: 2004 年 6 月署名。2006 年 1 月発効。 ⑧バーレーン:2004 年 9 月署名。2006 年8月発効。 交渉妥結済のもの ⑨中米(DR−CAFTA:エルサルバドル,コスタリカ,ドミニカ共和国,グアテ マラ,ホンジュラス,ニカラグア):2004 年 3 月に交渉妥結。同8月署名。エル サルバドル(2006 年 3 月),ホンジュラス,ニカラグア(2006 年4月),グアテマラ (2006 年7月),ドミニカ共和国(2007 年3月)との間で発効。 ⑩オマーン:2005 年 10 月交渉妥結。2006 年1月署名。 ⑪ペルー:2005 年 12 月交渉妥結。2006 年4月署名。 ⑫コロンビア:2006 年2月交渉妥結。2006 年 11 月署名。

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出所:外務省「米国の F T A への取組について」(2007 年 11 月現在) (http://www.mofa.go.jp/mofaj/area/usa/keizai/pdfs/fta.pdf) 米国ブッシュ政権は,このTPA法に基づくTPAの下でFTA 交渉を行ってきた17) 知的財産問題についても同様であり,同法では,TPAにおける交渉目的として,「米 国法でみられる保護水準と同様の保護水準」を反映した知的財産条項をFTA におい て確保することと規定している18)。米国FTA の知的財産条項は実際に,この通商交 渉目的を明確な形で反映させたものとなっている19)。また,この通商目的には,「新技 術」の保護,インターネット上での著作物の無許諾使用を防止する法的・技術的手段 の確保(“new and emerging technologies and new methods of transmitting and distrib-uting products embodying intellectual property”)が特に明記されているなど,米国の 国益に適う対外的な知的財産戦略が明確に打ち出されている。 (2)EU の FTA 政策 古くから経済統合を積極的に展開してきたEUは,欧州のFTA については,1958 年の欧州共同体を含め,現在,欧州や中近東を中心に22 カ国・地域20)とFTA を締結 している。また,交渉中のものとして,メルコスール,湾岸協力理事会(GCC),ア フリカ・カリブ・太平洋諸国・地域(ACP),韓国,ASEAN,インドなどがある。 EUのFTA における知的財産条項は米国のそれと比較して非常に対照的である。 すなわち,米国のFTA における知的財産条項では,詳細な実体規定を持ち,加盟国 の義務が具体的かつ詳細に規定されているのに対し,EUのFTA における知的財産 ⑬パナマ:2006 年 12 月交渉妥結。2007 年6月署名。 ⑭韓国:2007 年4月交渉妥結。2007 年6月署名。 交渉中のもの ⑮米州自由貿易地域(FTAA) キューバを除く34 カ国。2005 年末までの創設を目標としていたが,2005 年 11 月 の米州サミットでの議論を受け,事実上中断。 ⑯南部アフリカ関税同盟(SACU:南アフリカ,ボツワナ,ナミビア,レソト, スワジランド):2003 年 6 月交渉開始。 ⑰タイ:2004 年 6 月交渉開始。 ⑱アラブ首長国連邦(UAE):2005 年 3 月交渉開始。 ⑲マレーシア:2006 年 6 月に交渉開始。 交渉開始見込みのもの ⑳ ASEAN 諸国:米ASEAN経済連携構想(EAI)。 ○21中東諸国:米・中東自由貿易圏を10 年以内に創設する構想。

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条項では,ごくわずかな例外を除いては,一切実体規定を含まない21)。EUのFTA に おける知的財産条項は類似したものとなっている。例えばチリとのFTA22)において は , 最 初 に , 国際水準の知的財産権保護を適切かつ効果的に行わなければならない という目的を述べ(Article 168),知的財産権の範囲として,著作権,特許,意匠,地 理的表示,商標,集積回路の回路配置,非開示情報の保護を列挙する(Article 169)。 そして,知的財産権関連の国際条約への加盟や履行を義務づけている(Article 170)。 加盟条約については,3つのレベルに分類され,1)批准済みの諸条約の「適切かつ 効果的な」履行(TRIPS協定,パリ条約,ベルヌ条約,ローマ条約,UPOV条約), 2)特定期日までの加盟と履行(ニース協定,WIPO著作権条約,WIPO実演録音仏 条約,特許協力条約など),3)できるだけ早い機会での加盟(マドリッド協定議定書, マドリッド協定,標章の図形要素の国際分類を設定するウィーン協定)となっている。 一方,EU加盟候補国(アルメニア,アゼルバイジャン,グルジア,カザフスタン, キルギス,ロシア,ウクライナ,ウズベキスタン)に対しては別のアプローチとなっ ており,データ保護(data exclusivity)などを含めて,厳格なEUの基準の適用を求 めている23)。また,EUは従来のアプローチを変更して,より積極的なものになってき ているようである。それは,欧州委員会による第3国での厳しいエンフォースメント戦 略(Strategy for the Enforcement of Intellectual Property Rights in Third Countries,

2004),2006 年に発表された新通商政策(Global Europe)などにみられ24),ACP諸国 (アフリカ・カリブ・太平洋諸国)とのEPA締結に向けたカリブ諸国との間の協定案 (CARIFORUM : Caribbean Forum of the African, Caribbean and Pacific States)25)

は,詳細な知的財産条項を含んでいる。 (3)日本の FTA 政策 日本にとって最初のFTA は,2002 年に発効したシンガポールとのものである。そ の後,2006 年にマレーシアと,2007 年にはチリ,タイとのFTAを発効させている。 また,フィリピン,ブルネイ,インドネシアとのFTA が署名済みであり,ASEAN 全体とのFTA も交渉が妥結している。日本の方針は東アジア重視であり,また,メ キシコやチリとのFTA については,それら国々が米国やEUとすでにFTA を締結し ており,不利な状況におかれた日本企業の要請によるところが大きい。 知的財産政策の側面からは,「知的財産推進計画2007」(知的財産戦略本部)におい て,国際的保護推進のためのFTA の活用が謳われており,TRIPS協定等の規定以 上の知財の保護を目指すとしている26) 日本が締結したFTA の知的財産条項を見てみると,メキシコ以外27)のFTA にお いて,知的財産章が設けられている。国により内容は異なるが28),手続きの簡素化・ 円滑化,特許審査の迅速化,国境措置におけるエンフォースメントの強化などに係る

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条項を中心に構成されている。 3.TRIPS プラス条項 (1)TRIPS プラスの類型 FTA における知的財産条項の内容は多岐にわたる。出願手続きの簡素化や透明化 や当局間での協力関係の構築を構築するもの,TRIPS協定の内容を明確化・具体化 するもの,保護の内容・範囲・水準について具体的に規定し,知的財産権の保護水準 の強化を図るもの,知的財産関連条約への加盟を義務づけるものなどである。 これらのうち,TRIPS協定で要求される保護水準を越える保護水準を要求する FTA の知的財産条項はTRIPSプラス(TRIPS-Plus)と呼ばれる。そして,その内容 は大きく下の3つに類型化できるであろう29) ①TRIPS協定の求める水準よりも高い保護を義務づけるもの この類型には,特許権や著作権におけるTRIPS協定が求める保護期間を超え た保護期間の義務づけなどがあろう。 ②TRIPS協定がカバーしていない分野の保護 この類型には,TRIPS協定があえて取り扱わないことに決めたもの(消尽の 問題),技術の発展等により,保護の必要性が高まったもの(技術的保護手段な ど)のほか,WTOの紛争解決手続き以外の場での紛争解決を認める規定なども 含まれよう。 ③TRIPS協定の例外や解釈を限定するもの TRIPS協定の柔軟性を制限する規定であり,強制実施許諾の範囲の制限,UPOV への加盟の義務,TRIPS協定の経過期間の前倒しでの履行義務などがある。 以下では,2007 年に締結された米韓FTA(未発効)を含め,主要な米国FTAにお けるTRIPSプラス条項30)を分野ごとにピック・アップし,概観していこう。 (2)著作権 著作権分野でのTRIPSプラス条項の第一は,著作権保護期間の延長である。TRIPS 協定31)では,著作物については著作者の死後50 年,実演家及びレコード制作者につい

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ては実演または固定から50 年の保護期間を規定している。一方,ヨルダンとのFTA を除く米国FTA では,保護期間を20 年プラスした 70 年としている。また,TRIPS 協定成立後に発効した2つの著作権関連条約である,WIPO著作権条約(WCT)32) WIPO実演・レコード条約(WPPT)33)という2つの条約への加入を義務づけている。

また,ほとんどの米国FTA において,コピーガードやコピープロテクトといった技 術的保護手段(technological protection measures)の回避を防ぐための法的保護及び 救済について詳細な規定が設けられている34)。この問題はTRIPS協定ではカバーさ れていないが,インターネットや情報通信技術の発達により,デジタル著作物の高品 質な違法複製や違法送信の恐れが高まり,その一方で,そうした行為を技術的に防止 する手段も開発・利用されるようになったため,国際的な議論がなされてきている分 野である。WCTやWPPTにおいても,その保護が規定されているが,その内容に ついては各国の裁量にゆだねられている。一方,米国FTAでは,無断複製を技術 的に防ぐコピー・コントロールや暗号によって視聴行為を制限するアクセス・コント ロールについて,その回避を禁止する規定,救済に関する規定,許容される例外につ いての規定などが詳細に定められている。 その他のTRIPSプラスとして,権利管理情報の保護(削除や変更の禁止),一時的 複製の禁止の規定などが見られる。 (3)特 許 出 願 特許出願に関し,新規性喪失の例外規定,いわゆるグレースピリオド(発明の公表 から特許出願するまでに認められる猶予期間)についての規定を含むものがある。グ レースピリオドについては,日米欧といった先進国間においてもその制度の違いが大 きく,長年,その国際的な調和に向けて議論が続けられてきたものである。その期間 を見ると,日欧の6カ月に対して米国は1年であり,適用対象についても,欧州は非 常に狭いのに対し,米国は制限なしであるなどの違いがある。米国FTA においては, 期間を1年とし,米国法準拠の規律となっている(韓国,チリ,オーストラリア,中 米など)35) 特許の対象 TRIPS協定では,ものであるか方法であるかを問わず,すべての技術分野の発明 を特許の対象とした。したがって,すべての加盟国が物質特許(医薬品特許)を導入 しなければならなくなった。例外として,医療行為に関する発明,微生物以外の動植 物それ自体や動植物の品種を特許の対象から除外できるものとした。 米国FTA では,動植物の特許保護を明示的に義務づけるもの(モロッコ),植物の

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みを明示的に義務づけるもの(バーレーン)の他,動植物特許を不特許事由とする規 定のないものなどがある。一方,中米とのFTA では,植物特許導入のための「合理 的な努力」を義務づけるのみである。 これに関連して,植物新品種の保護について,TRIPS協定では,「特許若しくは効 果的な特別の制度又はこれらの組み合わせ」(TRIPS協定第27 条第3項(b))によ って保護することを規定している。こうしたTRIPS柔軟性に対して,米国FTAでは, 植物の新品種の保護に関する国際条約(UPOV : The International Convention for the Protection of New Varieties of Plants)の導入を義務づけている(中米,オーストラリ ア,シンガポール,韓国など)。 保護期間 特許期間の延長について,後述する販売承認審査による特許期間浸食を回復するた めの特許期間延長に加え,特許の付与プロセスにおいて生じた不合理な遅延を補償す るための特許期間延長の規定がある(シンガポール,韓国など)。 強制実施権 強制実施権ついては,古くから南北間の対立の大きい分野であり,WIPOの場にお いても議論が続けられてきた(パリ条約改正問題)が,TRIPS協定成立により,一 応の決着がついたとされた。TRIPS協定では,強制実施権設定の際の手続きを規定 し,設定事由が列挙された。また,その後のドーハ公衆衛生宣言では,強制実施権の 設定事由は各国にゆだねることとし,TRIPS協定の柔軟性を確認している。 米国FTA のTRIPSプラス条項では,強制実施権の設定事由を特定の状況に限定 し,列挙するものとなっている。例えば,シンガポールとの米国FTA における規定 では,(a)司法・行政上の手続きの結果,反競争的と決定された行為を是正する場合, (b)公的な非商業的利用の場合又は国家緊急時あるいはその他の極度の緊急事態の場 合となっている36)。さらに,強制実施権発動に際し,当該特許発明に関連する非開示 情報や技術的ノウハウの移転を要求されないという条件がついている。一方,チリ,モ ロッコ,中米,バーレーンとの米国FTA では,TRIPS基準が適用されることとされて いる37) エンフォースメント 先進国にとって,途上国でのエンフォースメント(権利行使)は重要な関心事である38) 米国FTA においても,知的財産のエンフォースメントに関し,救済措置に係る指針 の明確化,司法当局の権限強化,国境措置の強化や手続きの明確化,刑事上の手続き などが詳細に規定され,エンフォースメント強化を図るものとなっている。

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消 尽 消尽については,TRIPS交渉の激しい議論の結果,TRIPS協定第6条において, TRIPS協定に係る紛争解決において,消尽に関する問題を取り扱うために用いては ならないとした39)。すなわち,TRIPS協定は消尽の問題に関して中立であり,無関 係であるとしたのである。一方,米国FTA の一部には,並行輸入を制限する規定が おかれている。モロッコとオーストラリアのFTA においては,特許権者が契約その 他の手段により輸入制限を設けた場合に並行輸入を制限できる規定となっている。シ ンガポールとのFTAでは,対象を医薬品に限定し,特許権者とライセンシー間の契 約違反により流通している場合,それに対する救済手段を特許権者に与えることを義 務づけており,特定条件下で並行輸入を制限できることになっている。一方,チリ, ヨルダン,中米(CAFTA − DR)とのFTA は消尽に関係する規定はなく,これらの 国々では,並行輸入についてのTRIPS柔軟性は残されることになった。 この消尽の問題をはじめ,特許について特に議論や批判の多い米国FTA のTRIPS プラス条項は,医薬品アクセス問題に関わるものであり,特許期間延長制度,特許保 護と医薬品販売承認とのリンケージ,テストデータ保護,強制実施権などがある。こ れらについては後述したい。 (4)商 標 商標についてのTRIPSプラス条項として,第一に,商標の保護対象の拡大がある。 音の標章や匂い標章といった新しいタイプの商標の保護が義務づけられている(韓国 中米,チリ,シンガポール,ヨルダン)。また,周知商標の保護の強化も盛り込まれて いる(中米,チリ,シンガポール,モロッコ)。 (5)エンフォースメント エンフォースメントの一般的義務について,TRIPS協定では,第41 条5項で, 「知的所有権に関する執行と一般的な法の執行との間の資源配分に関して何ら義務を 生じさせるものではない」と規定している。人的・財政的資源の制約が大きい途上国 に配慮するための規定である。一方,多くの米国FTA(バーレーン,チリ,シンガ ポール,モロッコ,中米)においては,そうした資源制約により協定上の義務が免除 されるものではないと規定している。 民事上の手続きや救済方法については,損害賠償額の計算方法や実損額を超える損 害賠償(懲罰的損害賠償)などがある。 刑事上の手続きや救済方法については,TRIPS協定第61 条において,故意による 営業規模の商標権・著作権侵害に対して刑事制裁が課されなければならないとのみ規 定している一方,TRIPSプラスの規定では,金銭的な動機を伴わない故意侵害(エ

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ンド・ユーザーの侵害)も刑事手続きの対象となるとしている。 国境措置については,TRIPS協定では,商標権及び著作権を侵害する物品の輸入 に対する通関停止を義務づけているが,米国FTAでの規定は,輸出に対する国境措 置についても義務化するなど,国境措置の強化や手続きの明確化がなされている。 また,TRIPS協定では規定のないインターネット・サービス・プロバイダーにつ いての規定もある。米国のデジタル・ミレニアム著作権法に準拠する形で,サービ ス・プロバイダーの責任が規定されている。 4.医薬品アクセス問題との関連 米国のTRIPSプラス条項について,途上国や,特に,医薬品アクセス問題に関心 を寄せるNGO・市民団体からの批判の多いのが,医薬品に関わる知的財産分野であ る。医薬品の特許については,TRIPSプラスはもちろん,TRIPS協定自体に対す る批判でもある。 TRIPSにおける医薬品アクセス問題についてみると,2001 年のWTO閣僚会議に おいて「TRIPS協定と公衆衛生に関する宣言」が採択されている。この宣言では, TRIPS協定は加盟国が公衆衛生を保護するための措置を妨げないし,妨げるべきで はない旨を確認し,強制実施や並行輸入など,TRIPS協定が備える柔軟性(flexibility) を利用して各国が公衆衛生政策をとりうることを確認した。また,医薬品の生産能力 を持たない途上国においていかにして医薬品アクセス問題を解決すべきかについて検 討することを指示している(パラグラフ6)。これは,TRIPS協定第37 条(f)におい て,強制実施権は国内市場への供給のために許諾されるとしているためである。この 問題については,2003 年の一般理事会決定により,強制実施権によって生産された医 薬品を製造能力のない途上国に輸出することが可能となった。また,この合意を反映 するため,TRIPS協定改正に関する議定書が2005 年の一般理事会において採択され ている。 米国にとって,医薬品特許のグローバルな保護は重要な課題であるが,2001 年の ドーハにおけるWTO閣僚会議での「TRIPS協定と公衆衛生に関する宣言」やその 後の決定は,TRIPS協定の枠組みにおける医薬品特許の保護を弱体化させたといえ るだろう。その一方,米国はそのFTA において,米国内と同等の医薬品保護を目指 すものとなっている。 (1)医薬品研究開発と特許・データ保護 医薬品産業は他の産業と比較して特殊である。公益的な目的から,その価格や利潤

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率が政府により規制される。他方,その開発はハイリスク・ハイリターンを特徴とし, ニーズや技術進歩に応じた医薬品の研究開発の促進には私的インセンティブを通じた 競争が不可欠であり,そこでは特許による保護が重要な役割をになっている。 医薬品の開発には,膨大な研究開発費と期間がかかる。田中(2007)によれば,一 つの承認成分あたりに必要な研究開発費は,1991 年から 1995 年の期間において,224 億円であるという40)。また,開発期間についても,創薬から製造承認申請までの研究 開発期間は平均15 ∼ 17 年程度であり,内訳は創薬段階で2∼3年,前臨床で3∼5 年,臨床(治験)で3∼7年,製造承認申請で1∼2年という。 図1 医薬品開発と特許・薬事手続き 研究開発プロセス 特許手続き 薬事手続き 創   薬 ○出  願 前臨床試験 ○出願公開 臨 床 試 験 ○登  録 ○治験届け ○承認申請 承 認 審 査 ○製造販売承認 ○新薬販売 データ保護期間 特許期間延長 ○ジェネリック薬参入 20

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医薬品等を上市しようとした場合,新規化合物の発見後,有効性や安全性を確認す るための臨床試験,販売承認のための審査にかなりの時間が必要となる。こうした期 間が長引くほど,本来であれば享受できる特許権の存続期間が大きく浸食されてしま うことになる。医薬品の場合,承認を受けるまでは特許権を行使できない(販売でき ない)ので,行政規則による許認可のために製品の市場投入が遅れることで生じる特 許期間の浸食を救うため,主な先進国には特許期間延長の制度が設けられている41) 日本では,1987 年の特許法改正により5年間の特許期間の延長が認められるようにな った。米国も同様に5年の特許保護期間延長制度がある。 一方,こうした特許保護とは別に,データ保護(data exclusivity)制度がある。新規 に開発された医薬品を販売するためには,当該医薬品の安全性や有効性に関する種々 の試験データを提出し,規制当局の販売承認を受ける必要がある。もしこの試験デー タを第三者が利用できることになると,多大な労力とコストをかけて収集した試験 データがただ乗りされることになるし,また,特許期間が終了した物質や特許登録の ないものであれば,容易に模倣薬の出現を許すことにもなろう。こうした不利益を回 避するための保護策として,主要先進国においては,特許とは無関係に,申請テスト データの保護期間を定め,当該期間中は第三者による同一医薬品の申請を受理せず, その期間の販売の独占権を付与している。 このデータ保護制度について42),米国では連邦食品・医薬品・化粧品法(Federal Food, Drug and Cosmetic Act of 1997)により,新有効成分を含む医薬品については 5 年,新効能等で有効性の臨床試験が必要な医薬品は3年,orphan drug(希少疾病用 医薬品)については10 年間,当該申請テストデータに依拠した販売申請ができないこ ととなっている。EUについては,10 年の保護期間の国(英,独,仏など)と6年の保 護期間の国(スペイン,デンマーク,アイルランド,フィンランドなど)があったが, 共通の制度が定められ,8+2+1年が保護期間となっている43)。日本では,データ 保護制度に代わるものとして再審査期間があり,6年ないし10 年の保護がなされてい る44) 簡単に言えば,新規化合物の発見をはじめとして,特許でカバーできる範囲につい ては特許保護,それでカバーしえない部分についてはデータ保護により補完させるこ とによって,その期間の販売を独占させ,膨大なコストの回収を可能とし,医薬品開 発のインセンティブを与えている。 一方で,国民の公衆衛生にとって,医薬品の入手可能性はすべての国において重要 な課題である。特許失効後,ジェネリック医薬品45)メーカーが参入し,安価な医薬品 を供給する。米国,ドイツ,イギリスといった主要な先進国においても,高騰する医 療費削減のため,様々なジェネリック医薬品の利用促進策46)が実施されてきており, ジェネリック医薬品の市場占有率は50 %を超えている47)

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ジェネリック医薬品メーカーが先発品と同一の医薬品を販売申請を行う際,すでに その医薬品の有効性や安全性が先発品メーカーのテストデータにより確認されている ので,同様のテストデータを用意する必要はない48)。後発メーカーは,新薬の研究開 発のみならず,臨床試験にかかる莫大なコストを節約でき,安価なジェネリック薬を 供給できることになる。ただし,データ保護期間にあっては先発品の試験データに依 拠することができないので,データ保護期間に販売申請を行おうとする場合には,と きに数十億円かかるといわれる臨床試験を後発メーカーが自ら行う必要が出てくる。 このように,主要先進国においては,特許保護とデータ保護の組み合わせにより, 新薬開発の促進と安価な医薬品供給についていかにバランスをとるかという政策判断 がなされなければならない。一方,新薬開発能力を持たない発展途上国においては, 医薬品は特許の対象から除外されてきた。 (2)TRIPS 協定 TRIPS協定においては,医薬品を特許対象として保護することが義務づけられた。 ただし,TRIPS交渉においてこれに強く反対していた途上国に配慮して,途上国に おける医薬品特許の導入に長期の猶予期間が与えられることになった。開発途上国に ついてはWTO設立協定発効の日から10 年,後発開発途上国については 11 年+αとさ れ,ドーハ宣言により,2016 年 1 月まで経過期間が延長されている。 テストデータ保護についてはどうか。TRIPS協定では,トレード・シークレット (営業秘密)の保護を規定する第39 条(開示されていない情報の保護)第 3 項にその規 定が設けられている49)。TRIPS協定第39 条(3)は以下の通りである。 加盟国は,新規性のある化学物質を利用する医薬品又は農業用の化学品の販 売の承認の条件として,作成のために相当の努力を必要とする開示されてい ない試験データその他のデータの提出を要求する場合には,不公正な商業的 使用から当該データを保護する。更に,加盟国は,公衆の保護に必要な場合 又は不公正な商業的使用から当該データが保護されることを確保するための 措置がとられる場合を除くほか,開示されることから当該データを保護する。 本項は,加盟国において,非開示試験データを不正な商業利用から保護すべきこと を義務づけるものである。この項は先進国の医薬品業界が盛り込みを強く求めていた ものであり,ブラッセル閣僚会合用テキストでは,当該データは合理的期間内(一般 的には5年以上)において競合製品の承認のために依拠してはならないこと50)とされ ていたが,途上国側の反対により,その部分は削除された。そのため,「不公正な商業 的利用から保護すべき」という解釈余地の大きい規定となり,WTO加盟国に求めら

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れる最低限のデータ保護期間は特定されていない。この「不公正な商業的使用」 (un-fair commercial use)という表現の他,「新規性のある化学物質」(new chemical en-tities),「相当の努力」(considerable effort)など,この第39 条第3項はTRIPS協定 の中でも不明確で論争の多い言い回しを多く含むものとなっており,立場によりその 解釈は大きく異なるものとなっている51) (3)TRIPS プラス 医薬品特許の保護期間については,TRIPS協定において特段の規定はなく,した がって,他の製品と同様,「出願日から最低20 年」がミニマム・スタンダードである。 一方,多くの米国FTA で は,販売申請等による特許期間の浸食を補償するための特 許期間延長が定められている。 テストデータ保護については,すべての米国FTA で規定されており,米国の保護 水準に基づく内容となっている。例えば,中米(CAFTA−DR),チリ,シンガポー ル,オーストラリアとのFTAでは,5年間のテストデータ保護期間(農薬について は10 年)を設け,その期間内において規制当局は申請データを第三者(後発メーカー) に対し販売承認を与えるために依拠できないこととしている。さらに,シンガポール, バーレーン,オーストラリアなどとの米国FTA においては,このデータ保護は国境を 越えて適用され,当該FTA 締約国以外の国における販売承認があった場合,規制当 局はそのデータに依拠することはできない。 また,本来,特許保護とデータ保護は別個のものであるが,これを関連させること で保護を強化しようとする規定が見られる。すなわち,特許期間内において,特許権 者の合意がない限り,第三者(ジェネリックメーカー)により行われた販売承認申請 は認められないとするものである。この規定により,ジェネリック医薬品の販売申請 は特許失効をまって行わなければならず,特許失効後すぐにジェネリック医薬品を市 場に出すことができないことになる。 5.課 題 米国は,「米国内と同等の保護水準を確保する」という通商法に示された交渉目的 にそってFTA の知的財産交渉を進め,途上国との間のFTA において,知的財産条 項に詳細かつ具体的な実体規定を置くことに成功した。多国間交渉と異なり,2国間 での交渉では,米国市場へのアクセスという知財領域での譲歩の見返りは米国FTA 相手国にとっては魅力的なものとなる。この点で,米国は有利に交渉を進め,効率的 かつ効果的に米国流の知的財産保護を拡大できたといえよう。

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近年成立した米国FTA のTRIPSプラス条項を比較すれば,ほぼ同時期に交渉が 行われたFTA においても,保護の水準が少しずつ異なっていることがわかる。相手 国の産業構造やそれを反映した知的財産に対するスタンスの違いもあるが,知的財産 条項の内容は相手国の交渉力が大きく反映されたものとなっている。また,TRIPS プラスの規定は,医薬品の生産能力のない国にもデータ保護や特許期間延長の規定を 置くなど52),相手国の経済水準や産業構造を反映したものとはなっていない。これら の点から,米国は,交渉可能な国を選択し,それらの国に対して一律に米国法準拠の 規律を要求し,受け入れられるものをできる限り盛り込んできたものともいえるであ ろう。 米国は,米国基準の知的財産権保護体制を,FTA を通じて世界のデファクトスタ ンダードとすることを目指しているように見えるが,この先は不透明である。例えば, 米国が重視するFTAA は成立の見込みが立っていない。ブラジルなどとの大きな対立 点の一つが,この知的財産問題である。FTA を締結済みのチリでは,その知的財産 条項の実施が大幅に遅れており53),2008 年現在においても,米国スペシャル 301 条に よる優先監視国に指定がなされたままである。さらに,TPAは失効したので,今後, 米国のFTA 交渉も停滞することが予想されている。こうした状況において,米国の FTA 知財政策が今までどおりの成果を収められることができるかは不透明な状況に ある。 TRIPSプラスの規定については,並行輸入が許容される範囲,著作権期間やデジ タル著作物の保護のあり方など,米国内でも議論が大きく分かれている内容の規定が 多く含まれている。こうした内容を詳細かつ具体的にFTA の知財条項に取り込むこ とは,FTA 締約国双方における将来の知的財産政策変更の足かせとはならないであ ろうか。途上国側は,評価の難しい知的財産権政策の変更と引き換えに,米国市場へ のアクセスという実質的な利益を選択しているわけであるが,そのコストはどのよう に評価がなされたのであろうか。途上国において,TRIPSの柔軟性を弱めることが どのような悪影響を及ぼすのかは,今後も注意深く検討する必要があろう。特に,医 薬品アクセス問題との関連で非難されることの多いTRIPSプラス条項であるが,例 えばデータ保護が実際にどのような悪影響を及ぼすのかなどははっきりしない。ドー ハ宣言に言及する米国FTA が実際に,どのような形で運営されていくのか,注視し ていく必要があろう。一方,TRIPSの柔軟性は,それを柔軟にし過ぎると,その濫 用を招き,保護の実質的な効果を失わせることになる。 国際的規律向上という観点からはどうであろうか。米国流のTRIPSプラス条項が 広まっていくことが,今後の国際ルールの調和化や世界的な保護水準の向上にどのよ うな影響を及ぼすのかという問題である。一般に,2 国間での取極が広がっていくこと で,各国がそれぞれの国内措置を行う場合と比べて,保護水準が引き上げられ,調和

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化が進むと考えられる。特に,知的財産分野については,FTA の知財条項による措 置はWTOの全加盟国の国民に均てんされる。こうした流れは,世界的な保護水準を 漸進的に引き上げ,将来の多国間交渉をよりスムーズにする役割を果たす可能性があ る。 その一方,米国FTA における知財条項は今後の国際的な調和化を阻害する可能性 のある要素を含んでいることにも注意が必要である。例えば,消尽の問題は,TRIP S交渉において結論が出せず,TRIPS協定では扱わないとされたものである。米国 FTA にはこの規律を含むものがある。WIPOでは,各国ごとに異なる実体要件の国 際調和を目指す実体特許法条約(SPLT)について議論が重ねられてきたが,そこで は途上国と先進国との間の意見の相違のみならず,先進国間,特に日欧と米国での間 の相違点も多く残されている。グレースピリオドについては,日欧は例外的な場合の ための限定的な内容にすべきという主張に対して,米国は国際的な広範囲のグレース ピリオドの必要性について主張してきた。著作権分野でも,著作者人格権,フェアユ ース,デジタル著作物の保護のあり方など,欧米間で議論が対立している。国際的な 議論を重ねつつも,その結論が固まっていない内容を含むことは,将来の多国間交渉 を阻害しかねない。 1) 正式名称は「新たな時代における経済上の連携に関する日本国とシンガポール共和国との間 の協定」であり,わが国が近年締結してきたFTA は経済連携協定(EPA)と呼ばれる。貿 易自由化だけでなく,水際及び国内の規制の撤廃や各種経済制度の調和等,幅広い経済関係 の強化を目的としていることを協定の名称に反映させているためである。本稿では,これら EPAを含めてFTA と呼ぶ。 2) 例えば,2006 年 3 月には欧州委員会(EC)は,エンフォースメント,特に知的財産侵害物品 の国際的な流通に対処するための国境措置についての議論を行いたいとの提案(IP/C/W/468) を行ったが,途上国の反対により議論に入ることができなかった。 3) 特許庁編(1975)を参照。 4) 1981 年のナイロビ大会において,途上国グループ(G 77)は,「特許を申請した当該国におい てその特許を実施しなかった場合,あるいはその実施が不十分な場合には,特許出願あるい は付与の日から一定期間を経過した後に,知的財産権者の意図に関わりなく自動的に強制実 施許諾を当該国が設定でき,さらに5 年後には特許の取消すら強制できる」とする改正案を 提出している。経済企画庁総合計画局編(1987)p.60 を参照。また,パリ条約改正会議につ いては,後藤晴男(2002)を参照のこと。

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5) 例えば,Santoro(1995)などを参照のこと。

6) 13 の米国大手企業は,Bristol-Myers, DuPont, FMC Corporation, General Electric, General Motors, Hewlett-Packard, IBM, Johnson & Johnson, Merck, Monsanto, Pfizer, Rockwell International, Warner Communicationsである。

7) Basic Framework of GATT Provisions on Intellectual Property: Statement of Views of the European, Japanese and United States Business Communities.

8) 例えば,韓国,中国,メキシコ,ブラジル,アルゼンチン等では医薬品特許を,韓国,台湾, 中国,タイ,ブラジル等では著作物としてのコンピュータ・プログラムの保護を実現した。 9) TRIPS協定においても,その前文第7 段には,知的財産権の関係で国家間の紛争が生じた 場合には,多国間の紛争解決手続きを利用して解決を図るべきであり,一方的な制裁措置あ るいはそれを背景にした交渉を用いるべきでないことが強調されている。尾島(1999)p.71 を参照。 10) TRIPS協定の適用にあたっては,先進国においても法改正が必要であり,そのための経過 措置が認められた。先進国については1年,開発途上国と市場経済移行国については5 年 (物質特許については10 年),後発開発途上国については10 年の経過期間が与えられた。

11) Musungu and Oh(2005)はTRIPS柔軟性の途上国各国での利用状況を詳しく調査してい る。 12) WTO協定の実施に際し様々な困難に直面した途上国は,先進国の義務は前倒しにし,途上 国の義務は遅らせ,特別な配慮を与えるよう主張した。 13) WTO,APEC,OECD,WIPOなどの多国間協議の場において,日米欧は連携してこの 問題に取り組んでいる。加えて,日・EU共同イニシアティブ,日米共同イニシアティブな どをはじめ,模倣品・海賊版拡散防止条約の提唱など,多くの取組が行われている。 14) WTOに通報された地域貿易協定の数は,1970 年には6,1990 年には31 であったが,2008 年 3 月現在,199 となっている。 15) サービス貿易についてもGATS第 5 条により同様である。

16) 外務省ホームページに大統領貿易促進権限(Trade Promotion Authority)についての詳細な 説明がある。http://www.mofa.go.jp/mofaj/area/usa/keizai/eco_tusho/tpa.html を参照のこと。 17) 大統領のTPAについては滝井(2007),米国のFTA戦略全般については佐々木(2003)が詳

しい。

18) 2002 年通商法(Trade Act of 2002)の2102 条はTPAの通商交渉目的であり,その中の知的財 産の部分は以下の通りである。

(4) INTELLECTUAL PROPERTY.― The principal negotiating objectives of the United States regarding trade-related intellectual property are―

(A) to further promote adequate and effective protection of intellectual property rights, including through―

(22)

(i)(I) ensuring accelerated and full implementation of the Agreement on Trade-Related Aspects of Intellectual Property Rights referred to in section 101(d)(15) of the Uruguay Round Agreements Act (19 U.S.C. 3511(d)(15)), particularly with re-spect to meeting enforcement obligations under that agreement; and

(II)ensuring that the provisions of any multilateral or bilateral trade agreement governing intellectual property rights that is entered into by the United States re-flect a standard of protection similar to that found in United States law;

(ii)providing strong protection for new and emerging technologies and new meth-ods of transmitting and distributing products embodying intellectual property; (iii)preventing or eliminating discrimination with respect to matters affecting the availability, acquisition, scope, maintenance, use, and enforcement of intellectual property rights;

(iv)ensuring that standards of protection and enforcement keep pace with techno-logical developments, and in particular ensuring that rightholders have the legal and technological means to control the use of their works through the Internet and other global communication media, and to prevent the unauthorized use of their works; and

(v)providing strong enforcement of intellectual property rights, including through accessible, expeditious, and effective civil, administrative, and criminal enforce-ment mechanisms;

(B) to secure fair, equitable, and nondiscriminatory market access opportunities for United States persons that rely upon intellectual property protection; and

(C) to respect the Declaration on the TRIPS Agreement and Public Health, adopted by the World Trade Organization at the Fourth Ministerial Conference at Doha, Qatar on November 14, 2001. 19) 大町(2007)p.6 を参照。大町(2007)は「FTA知的財産条項は,米国法に倣った保護水準 を担保することを目指したものである」と指摘している。 20) EUの発効済みFTAは,欧州共同体(58),海外領土(71),スイス・リヒテンシュタイン (73),アイスランド(73),ノルウェー(73),アルジェリア(76),シリア(77),アンドラ(91), トルコ(96),フェロー諸島(97),パレスチナ(97),チュニジア(98),南ア(00),モロッコ (00),イスラエル(00),メキシコ(00),マケドニア(01),クロアチア(02),ヨルダン(02), チリ(03),レバノン(03),エジプト(04)である(括弧内は発効年)。 21) Pugatch(2007)は米国FTAの知的財産条項を“to-do-list”アプローチ,EUのそれを“gen-eralist” アプローチと呼んでいる。

(23)

http://ec.europa.eu/trade/issues/bilateral/countries/chile/euchlagr_en.htm 23) Santa-Cruz S.(2007)p.11 を参照。 24) 2006 年に発表されたEUの新通商政策(Global Europe)では,積極的なFTA 締結を謳い, また,相手国はそれまでの欧州や中近東(EU加盟候補国と旧植民地諸国)を中心とするも のから,より経済的利益を追求した相手国選定を行い,アジア諸国を重視する政策に転換す るとしている。こうした変化は,EUのFTA における知的財産問題の扱いも,大きく変化 させるものと考えられる。 25) CARIFORUM のメンバーは,アンチグア・バーブーダ,バハマ,バルバドス,ベリーズ,ド ミニカ,ドミニカ共和国,グレナダ,ガイアナ,ハイチ,ジャマイカ,セントビンセントお よびグレナディーン諸島,スリナム,トリニダード・トバゴである。 26) 知的財産戦略本部『知的財産推進計画 2007』では,第 2 章知的財産の保護 Ⅰ.知的財産の 保護を強化する 7.知的財産の国際的な保護及び協力を推進する (6)自由貿易協定 (FTA)/経済連携協定(EPA)等を活用する,および,Ⅱ.模倣品・海賊版対策を強化 する 7.外国市場対策を強化する (4)自由貿易協定(FTA )/経済連携協定(EPA) 等を活用する,においてFTA の活用を謳っている。 27) メキシコとのFTAには知的財産章がない。二国間協力の章において,知的財産分野につい ての協力の規定がある。 28) シンガポールとのFTAについては,シンガポール特許取得円滑化や協力が,マレーシアと のFTA については,手続きの簡素化・円滑化,特許審査の迅速化,エンフォースメント強 化(積戻し禁止の対象拡大)が,フィリピンとのFTA については,手続きの簡素化・透明化, 特許早期審査請求,エンフォースメント強化(税関差止対象権利の拡大など)が主要な条項 である。その概要については,経済産業省通商政策局編(2007)pp.444 − 447 にある。 29) TRIPSプラスの類型化については,鈴木(2005)などを参照。また,Yu(2007)は,TRIPS プラス条項を,TRIPs-plus,TRIPs-restrictive,TRIPs-extra の3つに区分することが重要で あるとしている。 30) 米国の締結したFTAのテキストは米国通商代表部(USTR)のウェブ・サイト(http://www. ustr.gov/)にある。 31) 正確には,TRIPS協定第9条が引用するベルヌ条約第7条である。

32) 著作権に関する世界知的所有権機関条約(World Intellectual Property Organization Copyright Treaty),2000 年発効,締約国は2008 年2月現在 64 カ国。

33) 実演及びレコードに関する世界知的所有権機関条約(World Intellectual Property Organiza-tion Performances and Phonograms Treaty),2002 年発効,締約国は 2008 年2月現在 62 カ 国。

34) 詳細については,大町真義(2007)pp.16 − 31 を参照。

(24)

よりも,米国法準拠の規律の普及・拡散を進める規定と理解できるとしている。大町(2007) p.61 を参照。 36) Drahos(2004)pp.49 − 50 によれば,米国特許法には強制実施権の条項はないものの,強制 実施権の制度は大気浄化法や原子力エネルギー法などにおいて規定されており,反トラスト 訴訟においても重要な救済手段となっている。こうした法を持たない米国FTA 相手国にと って,FTA の限定的な強制実施許諾条項は,強い権利を特許権者に与えることになるとし ている。

37) Fink and Reichenmiller(2006)p.292 を参照。

38) 例えば,日本とマレーシアEPAにおいても,エンフォースメント強化が知的財産条項での 主要項目の一つとなっている。 39) 尾島(1999,p.49)によれば,米国はTRIPS交渉において,国際消尽を禁止する規定が不可 能であれば,TRIPS協定には権利消尽に関する規定を一切置かないようにして,TRIPS協 定は権利消尽問題に関して中立的であるべきとした。これは,自由な法制度を許容すると, 国際消尽を制度として認める国に対して,将来の二国間交渉においてその廃止を求めること が将来的に困難になることが予想されたためである。 40) 1986 年から1990 年にかけての5年間では,118 億円であるといい,近年,急増している。 41) 桝田(2005)によれば,1988 年以降に新有効成分含有医薬品として承認された224 品目の延長 登録特許権の実質特許有効期間は,平均11.74 年,最長 19.31 年,最短5.33 年であり,全体 の約56 %が10 年以上 14 年未満の範囲にあったという。 42) 村川(2007)p.181 を参照。 43) EUでは8年のデータ保護期間と 2 年の販売保留があり,革新的な効能の追加がある場合に はさらに1年の保護がなされる。 44) 新有効成分などの場合は6年,orphan drug(希少疾病用医薬品)は10 年である。現在,保 護期間8年の試験データ保護制度の制定に向けて検討がなされている。 45) ジェネリック医薬品(generic drug)とは,特許等の独占販売期間終了後に販売される,先 発医薬品と同じ有効成分・適応症・含量・用法・用量で,先発医薬品と同等の製剤学的特性 を示す医薬品である。詳しくは,村川(2007)pp.316 − 322 を参照。 46) 参照価格制度,代替調剤,一般名処方などがある。また,米国には,ジェネリック医薬品メー カーの研究開発促進のためのハッチ・ワックスマン法がある。基本特許が切れていて,周辺 特許のみが有効な医薬品について,一定の条件を満たす場合には,ジェネリック市場を180 日間独占できるとするものである。 47) 日本では12 %程度と低い。 48) ただし,製剤技術の違いや製剤特許迂回などのため,全く同一の製剤になるとは限らないた め,安定性のデータや生物学的同等性試験のデータを提出することになっている。 49) 詳細は,尾島(1999)を参照のこと。

参照

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