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大内伸哉著 『労働の正義を考えよう─労働法判例からみえるもの』(PDF:576KB)

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Academic year: 2021

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日本労働研究雑誌 111 BOOKREVIEWS 本書は『法学教室』に連載された「Live ! Labor Law」に加筆,修正が加えられ,出版されたもので ある。本書の副題が「労働法判例からみえるもの」 となっているように,判例を素材にした講義録が展 開されているが,この数年多数公刊されてきた他の 労働法の教科書や判例解説とは一線を画したものと なっている。基本的な法知識や情報としての判例 を記述することよりも,25 のテーマごとに判例を めぐる理論問題の解説が書かれているからだ。著者 は,労働法の教科書やその類書をすでに多数公刊し ているため,今回は,学生や司法試験受験生向けの 基本書を作成することよりも,法理論や法学的議論 の組み立て方に目を向けさせることに重点を置いた のであろう。後述するように本書に対しては批判的 な評釈も公刊されており,評者もそれと同じ感想を 抱いた点もあるが,実務に過度に偏重し過ぎるあま り,理論に目を向ける機会が極端に減りつつある労 働法学において,一つのテーマを理論的にじっくり と考える素材を提供しようとした著者の意図は十分 理解できる。講義録形式で,平易な文体をとりなが ら,教科書では論じられることの少ない問題を掘り 下げて解説した点が本書の魅力となっているからで ある。とくに,「従属の代償─労働者性について 考えよう(第 6 話)」「契約か法規か─就業規則に ついて考えよう(第 7 話)」「自由か保護か─デロ ゲーションについて考えよう(第 13 話)」「組織強 制の是非─ユニオン・ショップについて考えよう (第 20 話)」「集団の優越─労働協約の効力につい て考えよう(第 21 話)」などで執筆されていること は,著者がこれまで論文等で論じてきたものである 大内 伸哉 著 根本  到 (大阪市立大学大学院法学研究科教授)

─労働法判例からみえるもの

● おおうち・しんや   神戸大学大学院法 学研究科教授。 ●有斐閣 2012 年 5 月刊 A5・469 頁・3570 円 (税込)

『労働の正義を考えよう』

が,労働法学会で展開されてきた理論状況をわかり やすく紹介し,最先端の理論問題を論じた箇所とも なっている。 本書に対しては,すでに『書斎の窓(2012 年 9 月。No.617)』に,辛辣な批判を述べた書評が掲載 されたことが話題になっているが,その書評におい て真っ先に批判の的となったのが書名である。自由 を重んじる余り労働者に厳しい意見を述べることも 少なくない著者に,「労働の正義」を語る資格が無 いという批判である。たしかに,正義という語に反 応し,新たな労働者保護理論を求めて本書を手にし た人にとっては,「看板に偽りあり」とさえ感じた 者もいるかもしれない。もっとも,本書の「はしが き」に記されているように,あえて正義の語を使っ た著者の意図は,法律の条文や判例を知ることより も,労働法の理念,正義を問うことが重要であり, 判例には正義の内容がダイレクトに問われていると いう思いによる。正義の語は,特定の価値観を示す 概念とは位置づけられていないのである。ロース クールなど実務教育をしなければならない場面が増 えたことの影響もあり,正義の観点の重要性を教え る機会は大学等では減っており,こうした問題意識 を共有する者は多いのではないか。ただし,「独善 的な正義は,法学的ではない」とまで言うのであれ ば,もう少し多様な見解が学会内に存在することを 意識して書いてくれたら良かったのに,と感じたの は評者だけではないだろう。

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112 No. 630/January 2013 上記のように,本書については,著者の見解は一 つの立場に過ぎないといった批判精神を持ちながら 読むことが肝要であり,むしろそうした意識を持つ 読者にとっては,労働法理論を自らの頭で主体的に 考える格好の素材を提供している。本書をこのよう な観点から読み進めたとき,著者が重視する自由・ 自律といった価値をどう考えるかが最大のポイント になるだろう。この点,労働現場は従前と比べはる かに多様化してきたため,自由・自律は新しい労働 法を展開する理念として重視される傾向にある。し かし,古くから言われてきたことであるが,実態に よっては,労働者を抑圧する企業側だけの自由にも 転化する。著者はもちろん,こうした点を十分押 さえたうえで議論を展開しようしたと見受けられる が,法理論を労働現場にあてはめたときに生じる利 点や問題点を想像させる箇所がもっとあってもよ かったのではないか。現代労働法の危機やチャンス の到来も,新しい労働法理論の出現も,その契機 は,理念や理論よりも前に,労働現場そのものの中 に存在するといっても過言ではないからである。

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