原 著 論 文 序 近年,小学校音楽科教育における音楽づくり が,一般的な学校現場でも注目されるようにな ってきた。その一方で,公立小学校の教員であ る筆者の周囲では,時数の確保や指導法の共有 などについての課題が多く,音楽づくりの学習 が十分行われるようになるには,まだ検討すべ きことが残されている。確かに,一部の先進校 では1980年代あるいはそれ以前から音楽づく りの優れた取り組みがなされてきた。しかし, 今日なお,その成果は一般の学校現場に波及し ているとは言い難い。 従来さかんに行われてきた歌唱や器楽の活動 では,何らかのかたちで児童が楽曲に出会うと ころから活動が始まることが多い。そこでは, まず楽譜に書かれていることをきちんと演奏に 反映させた段階で,初めて児童による表現の工 夫が可能になると考えられる。それに対して音 楽づくりの活動では,楽音ではない音を含め, 児童が音楽以前の音そのものに向き合うところ から活動が始まる。そこでは,活動の最初の瞬 間から,見つけた音に対してどのような感じ取 り方をするかということや,その音をどのよう に自分の作品に取り入れるかといったことにか かわって児童の自由度がとても高い。このこと から,音楽づくりの活動をカリキュラムに適切 に位置づけることができれば,児童の音楽的感 性を向上させることが期待できる。 学校教育全体を通して,思考力・判断力・表 現力の育成が重要視されている現在,音楽科に おける音楽づくりが果たす役割は,決して小さ くはないだろう。なぜなら,音楽づくりは音楽 的な感性をはぐくむことに加え,音の選択や構 成,演奏の仕方の工夫が必然的に求められるも のであり,それは,学習の過程で児童が思考・ 判断・表現する場が必ず存在するということを 意味するからである。 では,音楽づくりの活動が広く実践されてい ない,あるいは実践されていたとしても,先に 述べたような音楽づくりの価値を体現するまで には至っていないという実態の原因はどこにあ るのだろうか。また,そのような現状を打破す るために,どのような手立てが求められるのだ ろうか。本研究の最も大きな目的は,これらの 2点を明らかにすることである。 研究を進めるにあたって,まず,わが国の音 楽科教育における音楽づくりの活動の実状とそ れに至るまでの経緯をまとめる。今までの流れ を振り返ることにより,今後,わが国の音楽科 教育に音楽づくりがより適切に取り入れられる ためには,どのような工夫が求められるのかを 明らかにするためである。今日的な課題に対処 するための手立てについては,小学校音楽科の 教科用図書や『教育音楽』誌などの内容を手が かりとして考える。 ところで,学校教育の場の特質として,学習 者は通常,複数であり,相互にかかわり合いな がら学習を進める場合が多い。思考・判断・表 現の過程において,児童が他の児童と話し合っ たり,意見を交流させ合ったりして個々の考え を深める活動は,従来,各教科等の学習計画に しばしば取り入れられてきたものである。音楽 づくりの活動も例外ではなく,アイデアを交流 することや作品を発表すること,相互に助言し たり批評したりすることなどのさまざまな活動 において協同学習とのかかわりが強いと考えら れる。さらに,協同学習を適切に取り入れるこ とができれば,個人の音楽づくりの活動で,行
小学校音楽科における音楽づくりの実践的研究
――協同学習による音楽的コミュニケーションを通して――
矢 吹 雄 介
† †音楽教育専修 教科教育専攻 指導教員:杉江淑子き詰まってしまったり作品が単調になってしま ったりしたときに,友だちと協力してその状況 から抜け出すことも期待できるだろう。そこ で,本研究において実際の授業の進め方を立案 する際には,協同学習に注目し,その効果を検 証していくことにする。 1 音楽づくりの歴史的経緯と今日的課題 先に述べたように,多くの「効用」が期待さ れているにもかかわらず,音楽づくりはこれま であまり活発に行われてこなかった。音楽科の 教科調査官であった高須は,「これまでの小学 校・中学校では,どちらかというと音楽づくり・ 創作の学習活動は避けられがち」1) だったと指 摘している。 杉江の調査からも同様の傾向がうかがえる。 例として,音楽科における年間の総授業時数に 占める活動ごとの時数の割合について,小中学 校の教員を対象に質問紙でたずねた結果を抜粋 したものを表1に示す。これは抜粋であるの で,元の表からいくつかの項目を省いたもので あることを断っておく。 表1 年間の総授業時数に占める活動ごとの 時数の割合(%) ※杉江2) による 表1から明らかなように,音楽づくりの活動 にあてられてきた時数の割合は他の活動,特に 歌唱と比べると極端に小さい。音楽科の学習で は,従来,歌唱と器楽の活動にあてられる時間 のウエイトが大きかったといえる。音楽科の教 科書においても音楽づくりの活動を想定してい ると思われる箇所は,他の活動を想定している と思われる箇所より明らかに少ない。 次に,音楽づくりがあまりさかんに行われて こなかった理由として考えられることを2つ挙 げる。 1つは指導法が確立していないことである。 ただでさえ,音楽科はどう教えたらいいのかわ からないという声がよく聞かれる印象がある。 これまでの音楽科ではあまり音楽づくりがさか んでなかったので,音楽科の指導の経験が豊富 な教員であっても,音楽づくりの指導の経験が 豊富であるとは必ずしもいえないだろう。音楽 科の研修等でも,音楽づくりに関するものは近 年増えているようではあるが,相対的な数は少 ない。滋賀県では小学校の現職教員向けの,音 楽科にかかわる主要な研修の場として「夏季音 楽実技講習会」が開かれている。そこでは歌唱・ 器楽・指揮法・指導法全般を中心とした講座が 開かれており,好評を博している。しかし,過 去10年間の記録を見る限り,この「夏季音楽 実技講習会」では音楽づくりに特に焦点をあて た講座が開かれたことはない。 もう1つは,音楽づくりの活動のねらいや意 義が,教員に広く認められていないことであ る。音楽づくりに関連する活動として,これま で行われてきたものに「リズム伴奏付け」や「音 さがし」がある。それらの活動には,一定の価 値を認めることができるだろう。しかし,「リ ズム伴奏付け」や「音さがし」の活動によって 生み出された音は単独では音楽になり得ない。 「リズム伴奏付け」や「音さがし」で生み出さ れた音は既存の楽曲の「付属品」のようなもの であったり,物語の朗読が中心で,音は「おま け」のようなものであったりすることが多かっ た。それでは,児童の思考・判断の場が十分に 確保されているとは言いがたい。なぜなら,そ れらの活動には児童の工夫の余地が乏しく,活 動に必然性が感じられにくいからである。した がって,音楽づくりはあまり価値のない活動と してとらえられてしまい,現場の教員が意義を 感じにくかったのではないかと考えられる。先 述の杉江は教員に対して「音楽の授業を通して 身につけてほしい力」についても回答を求めて いる。これによると,小学校卒業時に「ぜひと も身につけてほしい」という回答の割合が、歌 唱や器楽にかかわる項目では高く、音楽づくり
かかわる項目では極めて低い。例えば「心地よ い発声で歌う力」は85.5%,「リコーダーの技 能面での基本的な力」は96.4%の教員が「ぜ ひとも身につけてほしい」としている。それに 対して「即興的に音楽を作って表現する力」は 28.9%,「簡単な旋律とリズムを組み合わせ、 曲の構成を工夫して音楽を作る力」に至っては 19.5%しか「ぜひとも身につけてほしい」とい う回答が得られていない3) 。 これらの音楽づくりの実態を踏まえて,この ような現状に至った経緯と今日的課題を整理し ていく。 我 が 国 に お け る 音 楽 づ く り の 歩 み に は, 1980年代の初めに導入された創造的音楽学習 が大きく影響していると考えられる。『音楽の 語るもの(SoundandSilence)』の著者John PaynterとPeter Astonは「自分の考えを表現 するようになるという過程そのものが,その子 どもの認識を深化させるのだ。この意味から, 学校での創造的音楽作りは,今以上に強調され るべきではないか?」4)と提案している。つま り,創造的音楽学習は児童自身の考えを表現す ることにより,認識を深化させるねらいをもっ ている。これは今日までの音楽づくりの活動の ねらいと共通しているといってよいだろう。 それでは,1980年代に導入された創造的音 楽学習が,今日まで広く普及しなかったのはな ぜだろうか。高須はその背景として,機能和声 にもとづいた音楽づくりの実践への傾倒を挙げ ている。機能和声法にとらわれているために, 音の機能を理解しないまま音を組み合わせた場 合「子どもは違和感を覚え」5),教師は「どの ように指導したらよいのかに苦しむのでは」6) ないかというのである。もう一つの問題とし て,坪能が「1989年の音楽づくり導入後すぐ に,音楽づくりは『物語・情景・イメージ』な どと結び付き,それらをあらわす『効果音』『擬 音』へと傾斜していった」7) と指摘しているよ うに,音楽づくりの活動が,既存の楽曲に「ま ほうをかける音」を付け足したり,リズム伴奏 を付けたりすることに終始してしまう場合が多 かったことが挙げられる。このような活動では 音楽の構成などについて児童が学ぶことは期待 しがたく,現場の教員にとって価値が感じられ なかったのであろう。 これらの課題に対して,高須は,機能和声的 な音楽に限らず,例えばミニマル・ミュージッ クのような「様々な音楽」8) に教員が親しみ, 授業で活用することの必要性を指摘している。 また,津田は「手掛かりとなるのが新学習指導 要領で新設された〔共通事項〕アの(イ)『音 楽の仕組み』である」9)としている。本研究で は,これらの主張を踏まえ,機能和声によらず 音楽の仕組みに着目した音楽づくりの取り組み を行い,その効果を検証することにした。 検証授業に先立って,現行の音楽科教科用図 書の内容を分析し,指導計画を立案する際の手 がかりを得た。それぞれの教科書に多く見られ る活動は以下のとおりであった。 ・「点つなぎ式」の旋律づくり リズム伴奏づ け(教育芸術社)10) ・音の限定,ロンド形式やモティーフのくり返 しなどによる音楽づくり(教育出版)11) ・リズムによる音楽づくり(東京書籍)12) 教科書は,どんな指導者や児童でも無理なく 取り組めるよう配慮されている。「点つなぎ式」 は,多くの児童に無理なく旋律をつくらせるこ とができる指導法であり,検証授業でも活用す ることにした。 また,教科書には,動物などの身近なテーマ を取り上げることによる意欲の喚起,視覚的な 支援,スモールステップによる系統性の確保な どの工夫が見られる。特に,意欲づけや視覚的 な支援の工夫については検証授業にも生かして いきたいと考えた。 教科書と併せて,教育雑誌などの音楽づくり にかかわる記事についても,内容を分析した。 そこでは,音楽づくりの今日的課題を受けて, 指導法の改善について複数の研究者から共通す る提案がなされている。一つは,先に述べたよ うに,さまざまな旋法や音階に目を向けること である。もう一つは「音楽の仕組み」を手がか りとすることである。 それらに加えて,坪能は『教育音楽』(2013 年1月号)において,児童の表現を「聴く耳」 13) が大事であることを述べている。このこと
は,音楽づくりの活動で児童が何らかの工夫を したときに,指導者がそれに気づき,評価した り,助言したり,他の児童に紹介したりするこ とができなくてはいけないという課題にかかわ る。「聴く耳」を養うためには,指導者自身が いろいろな音楽を知っていることが求められ る。例えば,「手拍子まわし」のような即興的 な表現もこれに含まれるものである。 『教育音楽』(2013年1月号)では,現職教 員が執筆した箇所において,より実践的な観点 から指導法の改善にかかわる提案がなされてい る。そこから抜粋して筆者がまとめたものを表 2に示す。 この提案においても,音楽づくりの実践を効 果的に進めるためには,使う音を限定するとよ い場合が多いことが指摘されている。限定され た音素材は,例えば「ミ」「ソ」「ラ」の3音で あったり,いわゆる5音音階であったりする。 同様に,津田は『初等教育資料』(2011年9月 号)において,機能和声法によらずに音素材を 限定することにかかわって「音楽的な約束事」 15)を設けることが必要であると述べている。 また,表2では音楽の仕組みに着目した実践 の仕方についても言及されている。音楽の仕組 みに着目することは,坪能らの主張と共通する。 ところで,表中には「友だちとつなげる」と いう表現があるが,音楽づくりの活動例には, 協同で行われるものが多くある。先に引用した 津田においても,音楽づくりの学習展開例とし て協同学習によるものが挙げられている。そこ で,本研究でも協同学習に注目して,研究を進 めることにした。 2 音楽づくりにおける協同学習 実際に音楽づくりの授業改善を考えるうえ で,重要なヒントになるものが協同学習であ る。その理由は以下の3点による。 1点めは,音探しや音楽づくりがもともと他 者とのかかわりを誘発しやすい活動であるとい うことである。筆者の経験では,気に入った音 表2 『教育音楽(小学版)』の記事による音楽づくりの課題と対応策(一部)14)
を個人で探す活動においても,児童は自然発生 的にペアやグループをつくり,一緒に演奏をし 始めることがある。 2点めは,ペアやグループで演奏すること が,音楽の仕組みの工夫につながりやすいとい うことである。複数の児童が演奏する際には, 意識的に,あるいは無意識のうちに,交互奏を したり,順番に演奏したり,「合いの手」を入 れたりすることがある。これは,児童が音楽の 仕組みを経験的に理解する契機となるのではな いだろうか。そのためには指導者の声かけの工 夫が求められるところである。 3点めは,児童が相互にアイデアを出し合う 中で,考えを広げたり,深めたりすることが期 待できるからである。 渡邉によると,一般に,協同学習は「学習へ の参加度を高める」「討議による思考の深化」 「多様性への受容」「わかる喜びを感じること ができる」16)などの効果をねらって計画され る。しかし,「考えない子が出る場合がある」「力 のある子や集団の圧力に屈服する子が出る場合 がある」「力のある子のさらなる思考を鈍らせ る場合がある」17) といった弊害も起こり得る。 同様に佐藤は「グループ学習は,少人数にすれ ば活発になるものではない(後略)」「『一見活 発』な様子には注意深い観察が必要である」 18)と指摘している。他教科等における協同学 習と同じく,話し合いや人間関係のスキルを日 常的に指導することが必要であろう。そのうえ で,満足感や達成感をともに味わえる協同学習 の可能性を重視したい。そのためには,児童が 「みんなと音遊びをしたい」「友だちと音楽を つくりたい」という意欲をもつことに加え,「こ んな工夫をしたい」という思いや意図をもてる ように,活動内容や発問・指示を工夫しなくて はならないだろう。 ところで,音楽づくりにおける協同学習を効 果的に進めるためには,話し合いと試しに演奏 してみることを別々のものとせず,随時,必要 に応じて音を出しながら話し合えるような学習 計画の立案が必要である。渡邉は,第1学年児 童の昼休みなどにおける自発的な音楽行動を観 察し,次のようにまとめている。 発話とそれに対する行動というパターンが 繰り返された。彼らは,発話を続けることに より,音楽を変化させ共有していくのではな く,行動により具体化して確かめ,それに対 してさらに発話し,また行動するという繰り 返しにより,音楽をグループ独自のものとし て共有していったといえよう。19) これによると,児童の自発的な音楽行動にお ける話し合いでは,話し合いの時間と,試しの 演奏の時間が明確に区別されていないといえ る。これを児童の自然な話し合いのスタイルで あると考えるならば,授業の場面において,話 し合いの時間に音を出すことを禁止するのでは なく「試しに」演奏をしながら話し合いを進め られるように配慮することが,児童の創意工夫 や自発的な学習を促すために有効だろう。つま り,話し合いの活動を行ってから演奏をすると いう学習計画ではなく,音を出しつつ,必要最 小限の言葉でコミュニケーションをとれる学習 計画を立てなくてはいけない。ここでは言葉だ けでなく,体を動かす活動などによるコミュニ ケーションも認めていきたい。渡邉が「1年生 児童の音楽行動は,しばしば,歌いながら踊 る,動きに言葉が伴われその言葉に抑揚がつく など,複合的で入り組んでいる」20)と述べて いるように,特に小さい学年において,体を動 かすことは時として言葉以上のコミュニケーシ ョン・ツールとなり得る。 また,杉江は大学生で構成されたポピュラー 音楽のバンドが楽曲の練習をする過程を長期観 察した中で「演奏中に問題箇所が発見されたと きには,メンバー同士でその原因を探るととも に修正のための解決方法(練習の方法)が工夫 され,提案され,試される。提案された解決方 法(練習方法)が試される場面では,常に耳を 働かせることにより問題が改善されているかど うかが評価される」21) ことを見出している。 これは大学生の例であるが,音楽行動における 話し合いのあり方という点では,小学生の場合 と本質的にあまり差異がないと考えられる。「演 奏中に問題箇所が発見されたとき」とあるよう に,音楽行動における話し合いは演奏を離れた 別のものとはならず,常に試されながら進めら
れていたのである。これは,先の小学校第1学 年の児童を観察した渡邉の主張と共通する部分 である。言い換えれば,小学生より遙かに多く の音楽用語を知っているはずの大学生であって も,話し合いは言葉だけでなく,演奏を交えて 行われていたのである。 ここで引用した2つの研究では,インフォー マルな場面の音楽活動における話し合いは,実 際に演奏してみることと切り離せないものであ ることが述べられている。本研究では,これら の主張を踏まえて,検証授業の学習計画を立案 する。 杉江は「自分たちの演奏についてのクラス全 体やグループでの生徒同士の話し合いは,常に 音・演奏を耳で確かめる活動を挟みながら行う ようにする」22)ということが,学校音楽教育 においても効果的であると主張している。津田 が「大切なことは,考えを試しながらつくるこ とである。例えば,グループ学習において,『手 拍子のリズムを繰り返すときに,二度目は足踏 みを入れて音を厚くしたらどうだろう』といっ た考えが出されたら,まずやって試してみるこ とである。試行錯誤を繰り返すことによって, 音楽づくりの発想が広がるのである」23)と主 張していたことは,インフォーマルな場面にお ける音楽活動の研究からの示唆と合致したこと になる。 学校音楽教育において「試しながらつくる」 ことを実現するためには,学習の明確な目標を 指導者と児童が共有していることが必要であ る。普段,指導者のみが主導権を握る授業をし ている学級集団の場合には,学習の目標が不明 瞭なまま自由度が高くなると,一気に統率がと れなくなるだろう。目標が意識されていれば, 児童にさまざまな表現を試すことを認めても, 学習活動から逸脱することを防げるのではない だろうか。 他の各教科等における協同学習と同様に,音 楽づくりにおける協同学習においても,グルー プの人間関係に配慮することや,学習目標の共 有化,話し合いの媒介となる教材を用意するこ となどの手立てや支援を行う必要がある。それ に加えて,試しに音を出しながらつくる自由度 の高い学習計画を立てることが重要になると考 えられる。 3 検証授業と考察 検証授業を立案・実施するにあたって,以下 の3つの観点を設定した。 【観点1】 機能和声にとらわれず,さまざまな音階・旋 法や無調的な音楽を取り入れて「音楽の約束 事」や「ルール」「制約」を設けることにより, 児童が過度に難しさを感じることなく音楽づく りの学習を進められるようにする。 【観点2】 児童が「音楽の仕組み」に着目し,音楽の構 成を工夫することによって,歌唱・器楽等の活 動との関連や音楽科の学力の積み上げを確かな ものにする。 【観点3】 音楽行動と話し合いの時間的な比率や進め方 などを,児童のようすに合わせて柔軟に計画す ることで,児童の心理的な緊張を和らげ,豊か な発想が得られるようにする。 検証はDVD映像をもとに筆者自身が作成す る授業記録,児童がワークシートに記したコメ ント,研究協力者(大学院生および検証授業実 施校の教職員)のコメント等により行うことに した。 検証授業①②は2013年11月に,滋賀県内の K小学校において行った。対象学年は第3学年 である。検証授業①は,示されたリズムに「ソ」 「ラ」「ド」「レ」のいずれかの音を当てはめて 8拍の旋律をつくる学習である。検証授業② は,授業①でつくった旋律をグループでつなぎ 合わせて,1つの作品にする学習である。 【観点1】にかかわって,使う音を「ソ」「ラ」 「ド」「レ」に限定して旋律をつくるようにし たことにより,ほぼ全員がとまどうことなくワ ークシートに旋律を書き込むことができた。使 用する音が少ないために,音楽に対する苦手意 識をもっている児童も,意欲的に活動に参加す ることができたと考えられる。 個々の児童がつくった旋律の最終音に注目す
ると,指導者の意図していた民謡のテトラコル ドに沿うかたちで「ラ」あるいは「レ」で終わ る旋律をつくった児童は全体の約65%であっ た。この割合は筆者の予想より低かった。旋律 づくりに先立って,本時と同じ「ソ」「ラ」「ド」 「レ」でつくられた,『み』という楽曲(中田 ヤスタカ作曲)を聴かせたり,指導者が「ラ」 で終わる例を聴かせたりした影響がもっと大き く表れるのではないかと考えていたからであ る。1つの可能性として,自分の旋律がどのよ うなものであるかわからないままに,ワークシ ートからの視覚的なイメージだけで旋律線を描 いていた児童がいたことが考えられる。また, ごく少数ではあったものの,多くの西洋音楽が 主音で終わるとの認識からか,最終音を意図的 に「ド」にしたとコメントしている児童がいた。 長音階・短音階以外の音階等を用いて旋律づ くりをするときには,その音階等でつくられた 楽曲を聴くだけでなく,その音階等でつくられ た旋律を演奏してみるなどの経験を十分に積み 上げさせ,特徴を体験的に理解できるようにし たい。 【観点2】にかかわっては,フレーズを色分 けして示すなどの配慮により,構成を視覚的に とらえ,その組み合わせ方を工夫することがで きたといってよいだろう。また,「小節」や「フ レーズ」などの音楽用語の代わりに,カードの 色の名前を使って意見を言うことができるた め,話し合いの活性化につながったと評価でき る。 ただし,ここでも単に見たままの印象によ り,フレーズを並べて満足してしまうグループ があったと考えられる。いざ作品を発表すると きになってあわてて練習を始めた児童がいた。 これは,そのときまでに自分たちがつくったの はどのような旋律かを理解できていなかったこ とを示しているのではないだろうか。 【観点3】については,協同学習を取り入れ たことにより,友だちと自分の旋律のちがいを 楽しんだり,まねをしたりする児童がいたこと など,協同学習そのものの利点は認められた。 しかし,試行錯誤しながら音楽の仕組みを理 解するという指導者の意図に関しては更なる検 証が必要である。授業を参観した研究協力者の コメントには「『くり返し』など曲全体の構成 に気づくのは,少し難しかったかもしれない」 との記述があった。作品をリコーダーで演奏す ること自体が難しかったため,「試行錯誤」で きる段階まで達していない児童が多くいたので はないだろうか。 検証授業①②では,音楽の仕組みに着目し て,旋律の組み合わせ方を自由に工夫させよう とした。しかし,拍の流れを共有しながらリコ ーダーで演奏する段階で,とまどいを感じる児 童が多かった。楽譜を見て,あるいは友だちの 演奏を聴いてすぐに演奏するという経験が十分 ではなく,練習時間をもう少し確保すべきだっ た。また,旋律に8分音符が含まれていたこと も演奏を困難にしていた。 そこで,児童がそれまでに学習してきたこと を想起させる活動を,授業の中でウォーミング アップとして設定しようと考えた。検証授業③ ④では,拍の流れに合わせて演奏することを意 識させるために,授業の前半で指導者の示す拍 に合わせてリズムを打つ活動を行うことを学習 計画に加えた。 検証授業③④は2013年12月に,検証授業① ②と同じく滋賀県内のK小学校において行っ た。対象は第5学年であった。検証授業③は紙 コップからさまざまな音色を探す学習であり, 検証授業④は紙コップを使ってペアで即興的に 演奏をする学習である。 【観点1】について,音素材を紙コップの音 に限定して示したことで,読譜やリコーダーの 演奏に苦手意識をもっている児童に対しても 「これならやれそうだ」と感じさせることがで きた。また,紙コップの演奏の仕方は視覚的に 理解しやすく,さらに,体を動かすことで感覚 的にも理解しやすい。多くの児童がさまざまな 音色を見つけ出すことができた。 【観点2】については,検証授業③④でも, やはり反復や問いと答えのような音楽の仕組み を意識させることは難しかった。そもそも,検 証授業③④は指導者が演奏全体の枠組みを提示 しており,児童の興味は,音楽の仕組みよりも コップの音色やペアとタイミングを合わせるこ とに向かっていた。今回のような全2時間の指 導計画の中で,音楽の仕組みにまで意識を向け
させようとすると,無理が生じてくるだろう。 音楽づくりの活動で音楽の仕組みに目を向けさ せるためには,鑑賞との関連や他の題材との関 連を含め,系統的に指導するようにしたい。 【観点3】にかかわって,相談する際には, 実際に音を出しながら話し合うことを促した。 ペアの児童と音を出しながら試行錯誤すること は,リラックスして活動することにつながり, その結果として多くの児童が意欲的に活動する ことができたと考えられる。音を出して試行錯 誤しながら相談するというスタイルの有効性が 検証されたといってよいだろう。 検証授業③④においては,多くの児童が主体 的に学習に参加していたと考える。児童のワー クシートの記述を見ると,演奏に困難さを感じ ているかどうかにかかわらず,関心・意欲・達 成感にかかる記述,音色の発見にかかる記述が 多く見られた。表3は検証授業③における児童 のコメントを分析したものである。この表から わかるように,活動の困難さにかかわる記述を していた児童が4割ほどいたにもかかわらず, ほぼ全員が肯定的な記述をしていた。 表3 検証授業③における児童のコメントの分析 おわりに 限定された音を使った音楽づくり 本研究は,これまで小学校音楽科における音 楽づくりの活動が十分に実践されてこなかった ことの原因と,その現状を打破するために必要 な手立てを明らかにすることを目的として進め てきた。最後に研究を通して筆者が重要である と感じたことについてまとめる。 1では,これまでの研究を踏まえて,音楽づ くりの意義や課題について述べた。思考力・判 断力・表現力の育成の重要性が指摘されている 今日,音楽づくりの活動がもたらす利点は大き いと考えられる。それにもかかわらず,なお学 校現場ではまだまだ音楽づくりがさかんではな い。 その要因を探るうえで,まず,音楽づくりで 扱う素材や手法に焦点を当てて考察した。指導 者自身が機能和声法にとらわれているがため に,さまざまな規則に縛られ,その結果として, 児童も音楽づくりに消極的になってしまってい るという課題について述べた。そこで,さまざ まな音階・旋法や無調的な音楽を取り入れ,機 能和声法によらない「音楽の約束事」や「ルー ル」「制約」を設けることにより,児童が過度 に難しさやとまどいを感じずに進めることので きる音楽づくりの学習計画を立案した。 3の検証授業にかかわる部分で述べたよう に,旋律をつくる音を限定することや楽器を限 定することは,特に児童の意欲を喚起するとい う観点から有効であったといえる。 図画工作科では,題材や技法,活動時間など にかかわる制約を与える方が児童が活動しやす く「何でもいいよ」ではかえってとまどうこと が,学校現場において経験的に知られている。 それに対して音楽づくりでは,未だ指導上の経 験知が得られるまでには至っていない。しか し,音楽づくりにおいても,同様に音素材や書 法を限定した方がかえって活動しやすくなる。 そのためには,まず指導者がさまざまな音楽に 親しみ,機能和声的な音楽に限らず,いろいろ な音素材や書法でつくられた音楽のよさを知る ことが求められる。 ここで新たに問題となるのは,機能和声的な 音楽づくりはどこで指導するのかということで ある。今日の我が国で日常的に聴かれる音楽 は,そのほとんどが機能和声的な書法によって つくられている。したがって,機能和声的な音 楽づくりの経験も児童が生活の中で音楽を楽し んでいくためには有効であると考えられる。そ こで,高学年で和音にかかわる学習をした際な どには,例えば和音の構成音をつないで旋律を つくる活動のような,機能和声的な音楽づくり
にも取り組むようにしたい。 音楽の仕組みに着目した音楽づくり 1では,児童を「音楽の仕組み」に着目させ, 音楽の構成を工夫させることによって,歌唱や 器楽の活動や鑑賞の活動とも関連付けながら音 楽科の確かな学力を積み上げていく可能性につ いて論じた。 この点については,3でも,協同学習の形態 を取り入れて,児童が反復や問いと答えのよう な音楽の構造に着目しながら作品をつくった り,演奏をしたりすることができるように配慮 した。 しかし,本研究における協同学習を取り入れ た検証授業は音楽の構成を体験的に学習する機 会とはなったものの,音楽の構成を工夫させる ことについては,ややハードルが高かった。 そもそも,音楽の構成を工夫するためには, 音楽の構成にどのようなものがあるかを児童が 理解している必要がある。また,作品の演奏に あたって技能面での障壁がある状態では,音楽 の構成にまで考えが及ばないのではないだろう か。作品全体の構成をとらえて,その組み立て 方を工夫するためには,児童にとって演奏技能 面での余裕が確保されている必要がある。 さらに,今回のような検証授業のみでは,音 楽の構成に十分注目させることが難しかったと 考えられる。音楽づくりを年間指導計画に適切 に位置づけ,歌唱や器楽,鑑賞の活動と相互に 関連付けながら進めることによって,音楽の仕 組みについて着実に学習していくことができる のではないだろうか。そのうえで音楽づくりに 取り組めば,作品の構成について意図をもち, 工夫しようとすることができるようになるだろ う。 また,音楽の仕組みに重点的に学習の焦点を 当てるのであれば,検証授業③や④において も,付箋やマグネットを使って自分たちの作品 を視覚的に捉えられるようにする工夫も考えら れた。目に見えず,時間の経過とともに消えて しまう作品の構成を工夫させるためには,全体 の流れを視覚化することは有効であろう。ただ し,検証授業③④は児童が意欲的に学習に参加 しており,音色やリズムにかかわる学習内容が 無理なく身に付けられた授業であったと評価で きるため,音楽の仕組みにかかわる学習内容の 定着のために時間をとるならば,それは,題材 の時数を増やすことによって確保されるべきだ と考えられる。 協同学習による音楽づくり 2では,児童の自発的な音楽行動の特徴か ら,協同学習を取り入れた音楽づくりの進め方 について,柔軟な指導計画を立てることの重要 性を述べた。児童の自発的な音楽行動において は,話し合いの時間と音を出す時間が明確には 区別されていないことが多い。そこで,音楽づ くりの活動における協同学習も,話し合いの時 間と,試しに音を出す時間とを厳密に区別せ ず,音を出しながら相談できるようにするとよ いと考えたのである。 この点については,検証授業でも成果が表れ たといえるだろう。児童の意欲的な姿が見られ たのは,この柔軟な学習計画によるところが大 きい。音を試しながら協同学習をしている姿は 一見無秩序に見えるかもしれない。しかし,音 楽づくりの活動では,ときに自由な発想を許し た結果,面白い作品ができることが少なくな い。指導者自身が活動のねらいを明確化できて いないがために,子どもの活動の自由度を上げ るのに躊躇してしまいがちな場合があるが,思 い切って,子どもが好きなように試すことがで きる場の確保が必要なのではないだろうか。 今後に向けて 以上のように,小学校音楽科教育において音 楽づくりが無理なく,効果的に行われるための 提案と検証を行ってきた。本研究を締め括るに あたって,最後に書き留めておきたいことは, 学校現場における実践の交流と記録の大切さで ある。 昨今,学校教育に求められるものは多様化し ており,音楽科は時数を確保することすら困難 な状況におかれてきた。その中で音楽づくりを これまで以上に実践していくためには,教員を
対象とした,音楽づくりの意義や課題,改善策 を学ぶ研修が不可欠である。 ただし,そのための時間の確保もまた,課題 となることは明白である。それならば,理論的 なことに先立って,音楽づくりの授業の実践を 互いに公開し,教員がその進め方を習得するこ とから始めてもよいのではないだろうか。音楽 づくりの指導法は,まだまだ広く知られていな い。教科用図書は,教員が授業しやすいように 配慮されているが,漠然とそれに沿って進めて いるばかりでは,やはり,「物語」「効果音」に 傾倒しがちである。 筆者は,音楽科の専科教員ではない。専門的 な知識や音楽的技能をもつ指導者に限らず,一 般的な学校で多くの教員が広く実践可能な音楽 づくりの授業のあり方を探るために,自身の視 点や実践を役立てたいと考えている。さまざま な音素材や活動についての検証を続け,それら の実践の記録と交流を通して研究を続けること を,今後の課題としたい。 1)坪能克裕,坪能由紀子,高須一,熊木眞見 子,中島寿,高倉弘光,駒久美子,味府美 香『音楽づくりの授業アイディア集 音楽 をつくる・音楽を聴く(音楽指導ブック)』 音楽之友社,2012,p.6. 2) 杉 江 淑 子「 教 科『 音 楽 』 の 授 業 内 容 と 学力に関する調査」(平成18年度日本学 術 振 興 会 科 学 研 究 費 補 助 金 基 盤 研 究B (18330190)「音楽科における教育内容 の縮減と学力低下の様相」〈研究代表 小 川容子〉教師調査班調査報告書)2007, p.16. 3)同上,p.10. 4)ジョン・ペインター,ピーター・アストン 共著『音楽の語るもの 原点からの創造的 音楽学習』山本文茂,坪能由紀子,橋都 みどり共訳,1982,p.3.(John Paynter and Peter Aston, “Sound and Silence” ―Classroom Projects in Creative Music, Cambridge University Press, 1970) 5)坪能,高須他前掲書,p.6. 6)同上,p.6. 7)同上,p.117. 8)同上,p.7. 9)津田正之「『音楽づくり』の授業の充実」『初 等教育資料』2011年9月号 (No. 877) , p.50. 10)教科用図書『小学生の音楽』(各学年)教 育芸術社,2010. 11)教科用図書『小学音楽 音楽のおくりも の』(各学年)教育出版,2010. 12)教科用図書『新しい音楽』(各学年)東京 書籍,2010. 13)坪能由紀子(インタビュー)「『音楽づく り』をどう考えればいいのかわからない先 生へ」『教育音楽(小学版)』2013年1月号, 音楽之友社,pp.30-33. 14)飯島千夏,倉科美子,原田弘明,吉野浩 一「わたしはこれで音楽づくりが苦手にな った」『教育音楽(小学版)』2013年1月号, pp.34-45の記述にもとづき筆者が作成。 15)津田前掲書,p.52. 16)渡邉厚美「音楽行動におけるグループと 音楽の共有 ――1年生児童のフィールド ワークに基づいて――」『音楽学習研究 第 3巻』2007,p.25. 17)同上,p.25. 18)佐藤正吉「子ども同士が協力し合うグル ープ学習」『児童心理 8月号臨時増刊』 2012,pp.117-118. 19)渡邉前掲書,p.26. 20)同上,p.23. 21)杉江淑子「ポピュラー音楽活動者のイン フォーマルな音楽学習―アマチュア・バン ドのケース・スタディ―」『関西楽理研究』 23,pp.69-87,2006,p.85. 22)同上,p.85. 23)津田前掲書,p.53.