著者
東北大学遺伝生態研究センター
発行年
2001-03
遺伝生態研究センター通信 NSNo.9
泉北人争
A@@ノ勧牲蜘悦七,,_鍋
JGE
′ ヽ ′■■\ 2001. 3.NSNo. 9「遺伝生態研究センター」から
「大学院生命科学研究科」へ
東北大学遺伝生態研究センター長 大瀧 保 1.はじめに: 例年にない大雪の21世紀の幕開け となりましたが,皆様方にはますま すご清祥のこととお慶び申し上げま す.さて,ご存じの通り,私達の遺 伝生態研究センター(遺生研)はこ の平成13年3月末日をもって廃止と なり, 4月からは東北大学大学院生 命科学研究科に移行することになり ました.遺生研は全国共同利用施設 として,またこの研究分野の中核的 拠点機関(COE)として,全国の卓越した研究者のご支援を賜りなが
目 次 「遺伝生態研究センター」から「大学院生命科学研究科」へ ら,遺伝生態研究を開拓し発展させ て参りましたが,今後は大学院学生 の教育により大きな比重を置きなが ら,研究を続けて行くことになりま した.したがいまして,この「遺生 研通信」もこの号をもって最終号と なり,この紙面をお借りして遺生研が生命科学研究科に移行することに
なりました経過や事由を簡単にご紹
介し,これまで献身的にご協力戴き ました皆様方のご理解を賜わり,ま た,一言御礼を述べさせて戴きたい と存じます. 東北大学遺伝生態研究センター長 大瀧 シンポジウム「植物と微生物における光形態形成の周辺」プログラム 細菌による環境汚染物質分解研究のこれまでとこれから 東北大学遺伝生態研究センター 植物の紫外線防御機構の解明を目指して一一一 -日.・-I-東北大学遺伝生態研究センター 雌雄異株植物の性決定機構とその進化一一一一 一日一・一一---=東北大学遺伝生態研究センター 無節藻の生物学と多核細胞研究会一一一・一 日一日一-東北大学遺伝生態研究センター 煤 - 10 13 15 二 純 明 尚 裕 博 聞 田 出 野 岡 永 日 菅 片2.遺生研の歴史的背景:
遺生研の前身であります農学研究
所は昭和14年に設立されましたので, 昭和63年に遺生研に改組になるまで, 実に49年間続いたことになります.そこでは生物系と経済系の研究分野
が共存し,東北地方の冷害に対処す る研究と同時に,より基礎的な植物 生態学や生理学,それに土壌微生物 学などの研究も活発に行われており ました. 20世紀の後半になって分子 遺伝学が飛躍的に発展し,また戦後 経済発展の後遺症である公害問題が 深刻化するようになると,これらの 問題をも視野に入れた新しい生態学 や環境に関する学問の台頭が望まれ るようになりました.同時に,あら ゆる学問分野の発展に伴って,全国 の研究所の再編成や合理化が行われ るようになりました.このような状 況の中で,東北大学の農学研究所も それまでの研究成果を基盤としなが ら全面的に改組することになり,こ こに経済分野を切り離し, 「遺伝生 態研究センター」となりました.遺生研には当初4研究部門と客員
部門の5研究分野が設置され,そこ では生態学と分子遺伝学とを合体さ せた新たな学際的研究である「遺伝 生態研究」を開拓し発展させました. すなわち, 「生態系における種々の 生物種の生活や遺伝的動態と環境要因との関係の解明」を分子遺伝学的
手法を導入しながら,モデル室内実 験と実証的な野外実験の両面から追 求しようとするものです.このよう な新しい学際的研究を発展させるに は,より広い分野の,より多くの外 部研究者との共同研究や討論活動が 不可欠でありますが,幸いなことに遺生研は設立と同時に「全国共同利
用施設」となり,全国の研究者との 一般共同研究,重点共同研究,ワー クショップや国際シンポジウムの開 催などが可能となり,その恩恵は計 り知れないものでした.その成果は IGEシリーズ, ISKシリーズ,ニュー スレター,センター通信,年報など として刊行され,全国の研究者に配 布されてきました. このような活動を通して「遺伝生態研究」は短期間に国内外に広く知
られるようになり,平成4年には「臨界生態遺伝」研究部門が新設さ
れ,さらに平成7年にはCOE機関 の指定を受け,多くのPD-Fellow, 外国人研究員,研究支援職員が配 置されるようになり,遺伝生態研究 はさらに発展いたしました.この道 生研は,しかしながら, 10年の存続 期限が付されておりましたので,辛 成10年再び改組することになりまし た.その結果,同じ「遺伝生態研究 センター」の名称で改組となり,そ こでは「遺伝子多様性研究部門」と「環境変動遺伝生態研究部門」とい
う2大部門となり,その中に新たに 増設された1研究分野を含め,総計6研究分野と客員分野の7研究分野
が含まれました.新通生研では, / 「複合環境下における生物種の遺伝生態学的解析」を目指し鋭意研究が
行われてきました.3.大学院生命科学研究科設立の背
.∃巳. ・ 最・ ヽ■′ ヽ■′遺伝生態研究センター通信 NSNo.9 ′ ヽ ′■ヽ さて,目を外に向けてみますと, 21世紀は「生命科学」の世紀といわ れ,世界各国で遺伝子操作やゲノム 解析を基盤とするバイオ産業や医療 科学などの研究がしのぎを削って行 われるようになりました.日本でも 莫大な予算が生命科学やバイオ関連 研究に導入され,大型プロジェクト 研究も実施されるようになりました. さらに生命科学は人間の生命とも直 結し,理学,農学そして医学などを 包括する幅広い学際的な学問です. これら学問分野に共通する分子遺伝 学の発展によって,人間生活はより 改善され発展しましたが,一方,遺
伝子操作などによる生命体改変の倫
理問題や遺伝子改変生物の安全性や 環境に及ぼす影響の問題などが浮上 してきました. この生命科学を正しい方向に発展 させ社会に資するように導くために は,先ず「生命科学」に対する高い問題意識と理解する能力をもつ学生
杏,社会人や研究者として世に送り 出す必要があります.さらに,我が 国が常にリーダーシップを維持して いくためには,単に先進国に「追い つく」ような教育・研究ではなく, 「先回り」をするような教育・研究 を行う必要があります.この意味で「遺伝生態研究」は最も重要な課題
を含み,その教育は緊急性を有する ものと思われます.東北大学でもこのような生命科学
の急激な発展に対処でき,世界をリー ド出来るような体制の強化と内容の 充実を図るため,そして将来の長期 展望に立って生命科学に対処できる 人材を育成するための計画が以前か ら出ておりました.それは東北大学 には個々に有能な研究者は存在する ものの,異なるキャンパスに散在し,必ずしも総結集して大きな力を発揮
できるような体制にはなっていなかっ たからです.東北大学に30年以上も 前から続いている幾っかの「大学院 合同講義」は,全学の大学院学生を 対象にした横断的な講義ですが,こ れらはその様な気運の現れでもあり, 発端でもありました. このような状況において,平成7 年以来,全国に先駆けて大学院生命 科学研究科の設置が検討されてきま したが,その時は諸般の事情で実現 しませんでした.平成11年になって,「東北大学の在り方に関する検討委
員会」が評議会の下に設置され,東北大学における教育・研究組織や内
容の見直しが行われ,大学院生命科 学研究科設置構想も検討されました. その結果,平成12年度の概算要求と して提出され,関係省庁の内定を受 け,それを受けて「大学院生命科学 設置準備委員会」が大学に設置され, 具体的な案について鋭意検討がなさ れました.そして国会の決定を待っ て, 4月から発足することになった わけです. 4.大学院生命科学研究科の目標と 遺生研の参画事由: 東北大学における生命科学研究科 構想では,これまで東北大学で行わ れてきた伝統的な研究の特色を活か し, 「高次生命システムの解析とその応用」を21世紀の生命科学の目標 ととらえ,それを達成するため3専 攻を設定しました.すなわち, 「分 子生命科学」, 「生命機能科学」,そ して「生態システム生命科学」の3 専攻です.遺生研からは1研究分野
が「分子生命科学専攻」に入ります
が,残りは「生態システム生命科学 専攻」に入ります.さらに新しく認 められた「ゲノム生殖システム研究 分野」も「生態システム生命科学専 攻」に入ります.このように,一部 シャッフルはあるものの,旧道生研 の研究分野は比較的まとまって生命 科学研究科に移行することになりま した.したがって,遺伝生態研究も 急に途切れることはなく,発展して いくものと期待されます. また,現在は至る所で遺伝子およ びゲノム解析が活発に行われており ますが,これからの生命科学はその 後に来る問題に焦点を当てる必要が あります.その一つは「これら遺伝 子やゲノムの機能的発現が環境変動 によってどのように変化し,生態系 にどのような影響を与えるか,そし て人類が遭遇しつつある未来環境に おける生物種の動向や動態を解析し 予測することによってこれら環境に おける生活圏の確保と拡大に資する」 ことであると思っています.これら の問題を解明するためには,ミクロ からマクロの世界までを視野に入れ た研究を伝統的に行ってきた東北大 学で行うのが最も効果的であり,ま た世界に誇り得る自然とバランスの とれた生態系を有する東北地方に位 置する東北大学から,その研究成果 を世界に発信していくべきであると 思っています. 遺生研では,これまで分子レベル から地球生態系まで,土壌環境から 宇宙環境まで,そしてバクテリアや カビなどの微生物からイネや麦など の高等植物までを視野に入れて研究 を行ってきました.今後はこの学問 研究の重要性を理解し,後世に伝え ていく人材の育成が重要となります. これまでも遺生研は東北大学の農学研究科に協力講座として参画し学生
の教育にあたってきましたが,今後 はより広い学問分野の,より多くの 学生や社会人を教育できることにな ります.この意味で,遺生研が生命 科学研究科に参画することは,生命 科学研究科に一つの特徴を与えるこ とになります.また,遺生研にとっ ても生命科学研究科に参画すること によって,これまで手薄だった動物 や人間を対象にした遺伝生態研究を より容易に行えるようになると期待 されます.このように, 21世紀の生 命科学としての遺伝生態研究をさら に発展させながら次世代を担う後継 者を育成するためには,遺生研が生 命科学研究科に中核的な立場で参画 することが最も適切であると判断し たわけです. 5.おわりに: しかしながら,遺生研が生命科学 研究科に参画する場合に,全く問題 が無いわけではありません.これま では遺生研は独立した一部局として, また全国共同利用施設やCOE機関 として,前にも述べましたようにい遺伝生態研究センター通倖 NSNo.9 ′ ヽ ′■ヽ ろいろな恩恵を受けてきました.そ して国内外の多くの研究者の協力の 下に遺伝生態研究を発展させてきま した.今後はこのような制度は失わ れるわけですが,遺伝生態研究を今 後も発展させ21世紀の生命科学とし て行くためには,これら国内外の優 れた研究者や学生の協力無くしては できません. これまで遺生研の共同研究に参加 してくださった研究者や大学院学生 は延べ300名以上に達し,またワー クショップやシンポジウムに参加し 発表して戴いた研究者や大学院学生 は延べ250名以上に達します.外国 人研究者や大学院学生も190名に達 し,その国籍は35カ国以上に及んで います.聴衆として参加戴いた人数 を計算すれば,この数はさらに増え ることでしょう.このように遺生研 の研究は多くの方々の支援と協力に よって支えられてきました. 今後遺生研が生命科学研究科に移 行した後も,このような皆様方の御 支援と御協力がなければ,私達の目
的や夢は達成されません.生命科学
研究科に移行した直後は遺生研にとっ ても不便なことや問題点も多々あり ますが,将来の生命科学を展望した ときには,今回の私達の選択した道 は正しかったと思っております.今 後は,種々のプロジェクト研究,シ ンポジウム,研究会,研究者や学生 の交流,インターネットなどを通し て,これまで以上の密接な連携をもっ て, 21世紀の生命科学としての私達 の目指す遺伝生態研究を発展させて 下さいますよう,心からお願い申し 上げます.このようなわけで遺生研 は発展的に廃止となりますが,これ まで長い間,献身的に御支援と御協力を戴いた学内外および全国の研究
者の皆様に心から御礼を申し上げま すと共に,今後とも変わらぬ御指導 と御早便樋をお願い申し上げます. 最後に, 13年間にわたり一度も休 刊することもなく続きましたこの 「遺生研センター通信」も,この号 をもって終結いたしますが,長い間 の御購読に対し御礼申し上げますと 同時に,前編集委員であった佐藤雅 志および東谷篤志,現編集委員であ る片岡博尚および石栗義雄の各先生 方に心から感謝いたします.次ページに生命科学研究科の構成と遺生研からの移行部分を示す表を挿入します.現遺生研
から移行する講座,分野を太線で囲ってあります.網掛けの部分は理学研究科など,遺生研以 外から参画する講座,分野を示します.生命帝王卜弓皇在坪究科移行園 研究科 生命科当主転坪究科 研究科専攻講座 劔劔劔分野 療疫学器 物穂学究…… 発車車庫…言 こ盤疫学塁妻! 劔分野 劔劔辞座 ィユR 藩!凍満座!…童…≡…圭≡ 劔萄險ケモィ ケ ィュb 冰 " 劔 メ 生命有機情報科学 兒「 r ロ } { ァr ≡至≡亨棒 剪 雄蛍 劔剪 -...;壁 劍スXノ)Tリ派 2 軒 )6 5h5 X8 ァr 紺 亊烏亊洩I 2 剪 ・--.植物 剏y重軽告…… 車軸軽章 節軽挙ii㌫ 革労桓…嵩 牽建雑学嵩…… 剪 :誠 ;ぎ雄発,_ 劔劔Zィ 咎9ゥ xホB (生態機能分子科学) 蓑や ==`:一点&.‥;三': 劔劔 偲艶物苧==聴 劔劔 醸軽挙㍗㌫ 劔 亘 細胞機能構築統御学 俚 } ホr Eツ { ァr 倦..明賢……; 剪8カb粐粐粤「
#*=** 剪
劔 弔
膏鞭車嘩顛軒 劔 剌 稚緊≡…… 斬摩≡≡≡蔓≡ 串や嘩… 剪 弔 耳凛製筆塵車種 劔凅クネ)Z ノ¥w&侭u b 劔 膏細萱種 劔 9Lケ-hト 遁 xヌ ノ 「 劔 貿ィワ 脳機能解析構築学 雄牛 劔 莞…鍵醸塵頚 劔 仆2 2 (險ハ u " 剞絡ユ㌍……… 革筆…享嵩 剪 :直撃議婁i蘭 劍怦ケ9 ク 9j ==蘭画酎≡ 劔- 劔 :∼::■ 諺 宙ンydX5h4 6 クエ ユツ 物緊号室≡≡…壬 劔 研究所 劔劔劔劔 (分子制御学) 部 ::''&. 劔冢YZ「 劔 劔!*
華弊革撃運軍郵甲 劔 豫))yjhナネ H*ク 3ク 劔遺伝情報動態 遺伝子機能生態 臨界環境遺伝生態 地圏共生遺伝生態 劔劔環境達伝生態機簡学 俚 隲B 5b 5 6 8 ロ ノkメ { ネァr 分子藷 奉賛…鳥 剪 剪 蔽妻≡圭圭… 剪 醸器量 蕪村嘩順弼準享粧… 劔冰倆B 兀8敲ハネ 8カツ 凵c轍軽… 応答 宇宙環境適応生態 革呼野…≒≡; 康博解析昌≡ 劔劍5 6リ8 i (6ィ5 ク8 劔劔 ケ i 怦ァr 主脚鉦帯 劔 H.3ー '^こ 劔 刄刀 =「 研究センター 劔劔劔劔 那 劔冢YZ「 劔劔剪 (植物構造機能進化) 遺伝生態遺伝子多 劔况ノ ク ャ" 劔劔劔 (_妻 康子重量 忠&闔i i B 遺伝子機 劔劔 xホB 《ゲノム構造機能》 劔劔《ゲノム生態学》 遺伝子適 劔劔 i B i B i B 5 X8 ツ点は蓮適度
環境変動遺 劔 i I}X、8ャ(コク 地圏環境遣 遺伝生態情報 潤.. 剪 I:.:: 他機関 機関名 かずさDNA研究所遺伝生態研究センター通信 NSNo.9
東北大学遺伝生態研究センター・シンポジウム
植物と微生物における光形態形成の周辺
′■ヽ ′■ヽシンポジウムの趣旨
この度は私ども遺生研のシンポジウムにお忙しい中,ご賛同いただきまして誠に有り難うご ざいます. ご存じの通り, 13年間続いた遺生研はこの3月で廃止となり,この4月からは理学研究科生 物学専攻や農学研究科(一部),その他幾っかの関連分野と一緒になって「大学院生命科学研 究科」となります.したがって,遺生研は4月からは全国共同利用施設および中核的研究拠点 (COE.)'の指定が取り消され,この種のシンポジウムもこれで最後となります. また,私(大瀧)もこの3月で遺生研と運命を共にして定年退職となります.山形大学で15 年,東北大学で13年勤めさせていただきました.今回のシンポジウムはその記念の意味もあっ て,遺生研では特別に私にシンポジウムの枠を与えて下さいました.そこで,かつて科学研究 費の班会議などで「光形態形成」を論じ,将来を夢見た先生方にもう一度お集まりいただき, その後の状況や展望を話し合い,まとめてみるのも有意義と考え本シンポジウムを企画致しま した. プ ロ グ ラ ム 平成13年2月21日㈱ 13:30-14:00 光によるネナシカズラ寄生根の誘導:山田 恭司(富山大・理) 14:00-14:30 好熱ランソウの光走性に関わるフイトクロムについて:真鍋 勝司(横浜市立大・理) 14:30-15:00 ヒゲカどの倭性胞子嚢柄分化:崖 寛三(忠南大・農科大) 15:10-15:40 植物と紫外線B :熊谷 忠(東北大・遺生研) 15:40-16:10 7イトクロム結合タンパク質:徳富 哲(大阪府立大・先端科学研) 16:10-16:40 青色光による分枝誘導:細胞形態形成と核の集合運動:片岡 博尚(東北大・遺生研)2月22日㈱ 9 :00-9 :30 シダ胞子発芽のフイトクロム系と紫外一青色光受容色素系による制御: 菅井 道三(富山大・名誉教授) 9 :30-10:00 胞子嚢柄生長のメカニズムと微少部位のPH変化の検出: 三原 等(京都大・院生命科学) 10:10-10:40 根毛形成における光の役割:井上 康則(東京理科大・理工) 10:40-ll:10 高等植物の青色光反応:研究の現状と展望:飯野 盛利(大阪市立大・理) ll:10-ll:40 屈性とオーキシン:山本興太朗(北大・地球環境科学研) 13:00-13:30 アカバンカビras遺伝子の菌糸先端成長における役割:村山 肇子(関東学院大・工) 13:30-14:00 クロロフィルの分解について:下 在俊(朝鮮大・理工) 14:00-14:30 シダとシロイヌナズナの葉緑体光定位運動とその光受容体: 和田 正三(東京都立大・理) ヽ一′ 主催:東北大学遺伝生態研究センター 連絡先:大瀧 保(東北大・遺生研) Tel and Fax : 022-217-5709
遺伝生態研究センタ-通信 NSNo.9
細菌による環境汚染物質分解研究のこれまでとこれから
東北大学遺伝生態研究センター 永田 裕二 ′ヽ ′■\ 私は,卒論研究(前々回中日が優 勝した年だから, 10年以上前ですね. やはり中日ファンの師匠を誘って日 本シリーズを見に所沢まで行ったの でよく覚えています)以来,細菌に よる環境汚染物質分解の研究に携わっ ている. 「バイオテクノロジー」と 「環境」に関わることをやってみた いという当時の指向性からこのテー マを選んだわけだが,一方で興味の 根本には「生命とは何か?」という ことがあり,それなら細菌で十分じゃ ないか,と考えていたこともある. もちろん,多細胞生物には分化・ 形態形成をはじめ,多細胞生物にし かない面白さはいくらでもあるし, 「人間」が知りたい,ということに なると,バイキンなんかを扱ってい ては始まらないという面もある.そ れでも,自分の興味としては,やは り「生命とは?」であり,それなら なるべくシンプルなものを,と考え たわけである.しかも,バイキンだっ て立派に環境応答して生きている上 に,人が作った変なものを食べてし まうヤツもいるという生物本来の 「多様性」の面白さもある.そんな こんなで「細菌による難分解性環境 汚染物質の分解」という研究テーマ は,これだ!と思わせるものがあっ た. と,いうわけで, γ-hcxachloro-cyclohexane (γ-HCH, γ-BHC) という世界中で広く使われていた (現在でも一部の地域で使われてい る)農薬を分解する細菌についての 研究を中心に進めてきた.この細菌 は, γ-HCHを約10年間も撒き続け た試験圃場から単離されたものであ り,地道な研究を続けた諸先輩方に 感謝すると同時に,実に面白い研究 材料に巡り会えたものだと思ってい る.研究の詳細は本稿の目的ではな いので省略するが,要するに,この 菌のγ -HCH分解経路のほぼ全容を 分子レベルで明らかにした.それに よって,γ-HCHに最初にアタック する酵素遺伝子(linA)は,比較的 最近この菌が獲得したと考えられる 構造を持っていることや,上流代謝 系の遺伝子群は,制御系を持たず, ゲノム上の互いに離れた位置に存在 する複数の遺伝子の組み合わせから なることなどが明らかになり,この 菌はγ-HCH分解代謝に関しては, まさに進化の途上であることがわかっ た. さて,そうなると次は,というこ とになるが,獲得した遺伝子(産物) が面白かったこともあり,蛋白質工学的な方向へも研究を進めた.酵素
を精製し,基質特異性やら反応機構/ を調べるようになった.学生の頃は 酵素学や蛋白質工学などは,そんな 重箱の隅をっっくような細かいこと, と思っていたが,やりだしたらこれ はこれで結構面白い. コンピューターモデリングの専門家との付き合いもでき,自分の取っ た酵素の結晶構造解析までイってし まった.こうした研究を通じて,新 たな反応特性を持った酵素の創製の 可能性を示したり,ユニークな脱塩 化水素酵素(JJ〃A)の起源が実は脱 水酵素なのではないかという示唆が 得られるなど,それなりの成果も得 ることができた.また一方で,以前 所属していた研究室が貞核細胞のオ ルガネラに関する研究をやっていた 影響もあり,環境汚染物質の分解を 行う細胞内の場についても興味を持っ た.そして,いわゆるゼノバイオティ クスを分解する酵素がグラム陰性細 菌のペリプラズム空間に未知の機構 で局在化していることを明らかにし た.更に,実際の環境浄化-の応用 を考えて,これらの遺伝子の植物へ の導入なども試みた. あれこれやっていると,それぞれ が結構面白い.しかし,原点に返っ て考えると, 「生命」 「環境」といっ たマクロな視点には,やはり惹かれ る.例えばこの菌を材料とした研究 についても,この菌がγ-HCH分解 という点で更に適応が進めばどうな るのか?linAの直接の起源は?また, その導入機構は?といったことも面 白そうである.そこが「遺生研」的 な発想にマッチするものと思われた. そこで, 「遺伝生態学的研究の展 開をします」と豪語して遺生研にやっ て来たものの,最初の会議での議題 は遺生研を潰すことだった.これは ご愛敬として,遺生研に来させて頂 いたことによって,実際の環境中で は細菌といえども他の生物と複雑に 絡み合って棲息していること,生命 体は個々のパーツが単に集まったも のではなく,それを統合するシステ ムであること,などを改めて認識す ることができた.こうした発想は, 今後の私自身の研究の上で大いに役 立っものであり, 「遺伝生態研究セ ンター」という名前が無くなるのは 残念ではあるが,その精神を生かし た研究を続けていきたいと考えてい る.また逆に, DNAだけでなく, 蛋白質のカタチや酵素の反応機構な どについても研究を拡げてきた私の
経験・発想も遺伝生態学的研究に生
かせていけたら,と思っている. Yuji Nagata, Ph.D.Institute of Genetic Ecology E-mail:[email protected]
植物の紫外線防御機構の解明を目指して
東北大学遺伝生態研究センター 日出間 純 私も遺生研に来て7年半が過ぎま 抵抗性の強いササニシキと,ササこ した.早いものです.私がここに来 シキと近縁であるにも関わらず,な た時,熊谷教授から「ここに紫外線 ぜか紫外線に弱い農林1号がある.遺伝生態研究センタ-通信 NSNo.9 ′■ヽ ′■ヽ どうして近縁なのにこんなに違うの か?不思議だろ」と言われました. とれが私のテーマです.当時紫外線 耐性の機構としては,細胞内への紫
外線透過を軽減す号紫外線吸収物質
や紫外線誘導活性酸素を消去する一 連の酵素群がターゲットとなり,研 究が進められていました.私も,何 から仕事を進めたらよいか迷ってい ましたが,そんな時ササニシキと農 林1号の写真を国際会議のポスター で見たブルックヘブン研究所のサザ ランドから,紫外線誘導DNA損傷 とその光修復能力に関して共同研究 をしないかという話がきました.そ れで,私も仕事のきっかけを見つけ るために,まずは調べてみるか,と 言う感じでこのテーマで研究を始め, 気づけば現在に至っているのが現状 です.最終号にあたる遺生研通信に 相応しいかわかりませんが,私のこ の7年間の研究を簡単にまとめ,報 告をしたいと思います. UVB radiation 1 :oT:?・l・yxT ●ー⊥● KeptinvariouScpD・B
duration of dark E≡≡≡三二コ ▼ 1トPhotolya80 hduction of CPD NliMsecond flash 8eCPD Ie* i.・.?.I
photolyaSeJCPD Photolysis ofcomplex formation all complexes
感受性品種"農林1号"は, CPD を修復する光修復能力が低下してい る(1) 上述した紫外線抵抗性の異なるイ ネ品種,ササニシキと農林1号を材 料に,紫外線UVBによるDNA損傷 (CPD)の生成の感受性とその修復 能力について比較解析したところ, UVBによるCPDの生成のされ易さ (感受性)には2品種問で差異がな いものの,感受性の農林1号におい ては,生成したCPDの光修復速度 が抵抗性品種ササニシキと比較して 明らかに遅く,この違いが紫外線抵 抗性差異の要因である可能性を兄い だしました. 感受性品種農林1号の光修復能力の 低下は,光修復酵素の構造的な変異 による(2) ``なぜ感受性品種農林1号は,光 修復能力が低下しているのか?''考 えられる要因としては, ① 細胞内での本酵素の発現系の 変異により発現量が低下している 可能性(Regulatory mutation) ② 酵素自身の構造上の変異によ りCPDに対する親和性,また は光感受性等が低下している可 能性(Structural mutation), などが考えられる. 図1. CPDの光修復酵素による修復 のしくみ 一般的に,これらの点を解析する′ 場合,本酵素遺伝子のクローニング, 酵素精製標品,抗体の調製が必須で ある.しかしながら,植物における 光修復酵素に関する情報は少なく, アラビドプシスにおいてのみ遺伝子 は単離されたが,酵素的な性質等に
関しては,未だ明らかにされていな い.そこで,イネからのクローニング を行うと同時に,上記の可能性につ いて, ``single photoflash法"を用 いた解析を試みました. まず, "Single photoflash法''に ついて簡単に説明したい(図1参照). DNAに紫外線が照射されると, DNA 上にはCPDが形成される(Induction of CPD). CPDが形成されると,
細胞内に存在する光修復酵素はCP
Dを認識して,光修復酵素-CPD複 合体を形成する(Formation of photolyase-CPD complex).その 際, CPDを修復するのに必要な強 度の光が存在すれば,複合体を形成 しているCPDは直ちに修復される. しかし,修復に必要な光が存在しな ければ複合体は形成されるものの, 修復はされずに複合体のままDNA 上に存在している. その際, CPDを修復するのに十 分な強さで,短時間の可視光パルス (修復,解離した酵素が,別のCPD と複合体を形成しても,そのCPD を修復することはできない長さの光: ミリ秒オーダー)を複合体に照射し, その照射前後のCPD量を測定する ことによっそ, DNA上で複合体を形成している光修復酵素の分子数を
見積もることができる. まず,それぞれの植物体に一定量 のCPD (80CPD/Mb)が形成され るようにUVBを照射し, UVB照射 後直ちに暗所に移して,種々の時間 (秒∼分オーダー)放置した(図1 参照).暗処理後直ちに,可視光パ ルスを照射して修復されたCPD量 を測定することで,酵素-CPD複 合体を形成LCPDを修復できるま での時間を比較した.ササニシキで は,暗処理後およそ1分で,可視光 パルスによって修復されるCPD量 は飽和に達するのに対して,農林1 号では同量のCPDを修復するのに1 5分以上の暗処理を必要とした. この結果は明らかに,農林1号の 光修復酵素はCPDに対する親和性 が低下していることを意味した.し かも,十分な時間をかけることで, 農林1号の光修復酵素は,ササニシ キのそれと同量のCPDを修復する ことができた.すなわち同量の複合 体がDNA上に形成されていたこと を意味しているため,農林1号の細 胞内には少なくともササニシキと等 量の光修復酵素が存在していること になる.したがって,農林1号の光 修復酵素は構造的に変異していて, その活性が低下している可能性が示 唆された. さらに,農林1号の光修復酵素が 構造上の変異を有している可能性に ついて確認するため,両品種の粗抽 出液を用いたin vitroの系により, 酵素-CPD複合体の温度に対する 安定性を調べた.方法として-は,両 品種より光修復酵素を含む粗抽出液 を調製し,暗所,室温で15分間一定 量のCPDを有するADNA (基質) と混合し,酵素-CPD複合体を形成 させた.その後直ちに,この複合体を含む反応液を種々の温度条件下
(0, 28, 45, 60℃)に種々の時間放 置し,処理後,可視光パルスで修復 されるCPD量を比較した. その結果, 45℃以上において農林 1号では,処理時間の経過に伴い,遺伝生態研究センター通信 NSNo.9 ′ 、 ′■ヽ 修復されるCPD量は低下した.一 方,ササニシキにおいては45℃では 修復されるCPD量の低下は認めら れず, 60℃においてその低下が認め られた.ここで, 」彦復されるCPD 量が低下する要因としては,温度の 上昇に伴って, (丑 複合体が解離した, ② 酵素自身が不活性化した, ③ 酵素が複合体に結合したまま 解離できなくなった, などの可能性が考えられる.しかし ながら, 2品種間で,複合体の温度 に対する感受性が異なっていること は,明らかに酵素自身の構造が異なっ ていることを意味している. 以上の結果から,農林1号の光修 復酵素は構造上に変異があり,光修 復が低下していることが``single photoflash法"の解析により強く示 唆された. 現在,抵抗性品種ササニシキから 光修復酵素遺伝子の単離に成功し, その全容を明らかにしっっある.今 後は,農林1号の光修復酵素遺伝子 の変異部位を明らかにすると同時に, 植物において未だ不明な点の多い本 酵素の実体を明らかにし,光修復酵
素の構造と活性に着目した植物の紫
外線耐性機構を明らかにしていきた いと考えている. 文 献1 ) Hidema J. et al. (1997) Plant Physiology. 113,39-44. 2) Hidema, J. et al. (2000) Plant call 12, 156911578.
Jun Hidema, Ph.D.
Institute of Genetic Ecology E-mail:j-hidema@ige,tohoku.ac.jp
雌雄異株植物の性決定機構とその進化
東北大学遺伝生態研究センター雌雄異株植物とは個体ごとに雌雄
が分かれている植物で,被子植物の 約4 %を占める.雌雄異株植物は様々 な科に分布していること,また雌雄 の花の発生初期段階では雌雄両方の 器官の発達が見られることから,雌 雄異株植物は両性花植物から進化し てきたと考えられている.それでは この雌雄異株植物はどのようにして 菅野 明 両性花植物から進化してきたのだろ うか?我々のグループではこの疑問 に答えるために,食用アスパラガス (Asparagus ojiPcinalis L.)を材料と して,性決定の分子メカニズムの解 明とその進化について研究を進めて いる.本稿ではその一端を紹介させ ていただきたい.1.食用アスパラガスとアスパラガ ス属植物 食用アスパラガスは10対20本の染 色体を持っているが,遺伝学的・細
胞学的解析から1対の性染色体(雌
ⅩⅩ型,雄ⅩY型)を持っことが知 られており,この性染色体上に載っ ている性決定遺伝子によって雌雄が 決定されていると考えられている. 食用アスパラガスでは遺伝学的な解 析が数多くなされ,すでに全体の遺 伝地図が作成されており, 1遺伝子 座によって性が決定されていること が明らかになっている.またアブロ バクテリウムを用いた形質転換が可 能なことから,雌雄異株植物の性決定機構を研究するには非常に良い材
料である. この食用アスパラガスが属するア スパラガス属植物は100種以上知ら れていて,その中には食用アスパラ ガスのような雌雄異株植物と,観賞 用アスパラガスのような両性花植物 とが混在している.当研究室ではこ れまで葉緑体DNAの制限酵素切断 片最多型(RFLP)やRAPD法を用 いてアスパラガス属植物の系統関係 1.0 0.5 遺伝距離(100x P) を解析することにより,アスパラガス属植物における雌雄異株植物は両
性花植物から単系統で進化したこと を明らかにした(図1).このこと からアスパラガス属植物の進化にお いて両性花から雌雄異株が生じたの は1回のイベントによるものと考え られる. 2.食用アスパラガスの花器官形態 形成遺伝子群の単離及び機能解析 食用アスパラガスの性決定機構を 明らかにするには性決定遺伝子の単 離は欠かせない.しかし,性決定遺 伝子が単離されても,その遺伝子が どのように雌雄の花を形作るかを明 らかにする必要がある.そのために 我々は花器官形態形成遺伝子の単離 と機能解析を進めている. 近年シロイヌナズナ等を用いた分 子遺伝学的な研究から双子葉植物に おける花器官形成の基本的なモデル (ABCモデル)が明らかになり,花 の4つの器官(がく,花弁,雄しべ, 雌しべ)の発生はクラスA, B, C 遺伝子群の発現により制御されてい ることが分かった.生殖器官である A. ojPinatis A. schoben'oides A. cochLncJtLnetlsis A. scandcns JL. /atcaLus A. spTengen' A. 〝laCOWanl'Z' A. aspangoues A.Jirgabs A. pLunlOSF.S 両性花植物 図1.葉緑体DNAのRFLP解析によるアスパラガス属植物の系統樹. 矢印の分岐で雌雄異株植物が生じたと考えられる.遺伝生態研究センター通信 NSNo.9 ′■ヽ ′■ヽ 雄しべと雌しべの形成に関与するの はクラスB, C遺伝子群であること から,食用アスパラガスからこれら 遺伝子群の単離を試み,これまでに 3つのクラスB遺伝子と2つのクラ スC遺伝子を単離した.食用アスパ ラガスの雌雄の花を観察すると,雌 花には退化した雄しべが,雄花には 発達が途中で停止した雌しべがある. クラスB, C遺伝子群は器官の位置
決定に関与する遺伝子群であると考
えられるので,食用アスパラガスで 単離されたこれらの遺伝子は性決定 には直接関与しておらず,これらの 遺伝子によって器官の発生が開始し た後,性決定遺伝子により雄しべあ るいは雌しべの発達が抑制されると 考えられる. 3.今後の展開 近年,複数の研究グループにより 食用アスパラガスの性決定遺伝子座 近傍のマーカーが単離された.我々 は現在大坂教育大学の鈴木剛博士と の共同研究により,食用アスパラガ スのBACライブラリーの構築を進めており, Map based cloningに
よる性決定遺伝子の単離を試みる. さらに将来,性決定機構の全容が 明らかになれば,次の研究目標は雌 雄異株植物がどのようにして両性花 植物から進化してきたのかを明らか にすることである.これには性決定 機構に関与する遺伝子群を両性花の アスパラガス属植物からも単離し, 雌雄異株と両性花とで比較解析する ことにより,突破口が兄いだせるも のと考えている.しかし比較解析だ けでは進化を証明したことにはなら ない.雌雄異株のアスパラガスがど のように自然界で繁栄するようになっ たのかを実験的に明らかにしてみた い.そのための実験法は現在思案中 である. Akira Kanno, Ph.D
Institute of Genetic Ecology
E-mail:[email protected]
無節藻の生物学と多核細胞研究会
東北大学遺伝生態研究センター 片岡 博尚 -無節藻とはフシナシミドロ(Vaucheria)をふざけて漢字で読んだものです. 無節操ではありません.講義やセミナーで使って笑わせるのですが,このギャグ′ は残念ながら一度しか使えません.フシナシミドロは光屈性などの光生物学だけ でなく,先端成長や多核細胞の研究に絶好のモデル生物です.無節藻に魅せられ て27年になりました. -1枚の閉じた膜系によって外界と区切られた微小な空間に生命活動に
必要なすべての装置がそろい, 1個 の核によってすべての機能が時間的・空間的に制御されているという意味 で,細胞は生命活動の最小単位とい えましょう(12).晴乳類や樹木でも, 細胞のレベルでみればその働きはだ いたい似たようなものだろうとの予 測はつきます.本当にそういえるの でしょうか? 私たちは, 1つの細胞(正しくは 非細胞構造というべきでしょうが)
のなかに多くの核を含む多核細胞
(Coenocyte)が生物の系統のあち こちに存在することを知っています. これらも含め,すべての生物の細胞 で本当に同じ仕組みが働いているの でしょうか?多核細胞の多くは大き くて扱いやすいため,細胞生物学で 古くから格好のモデル細胞として使 われてきました. 多核細胞はいくつかのグループに 分けることができます.黄色植物フ シナシミドロ(Vaucheria)や接合菌 類ヒゲカビ(phycomyces)のように 生活環のほとんどすべてを多核です ごすもの,真正粘菌モジホコリカビ (physarum polycepharum)のように生活環の限られた時期に多核体と
なるもの,また,輪藻シャジクモ (chara)の節間細胞のように特定 の器官だけが多核細胞というものも あります. 細胞生理学でよく使われるシャジ クモ節間細胞は直径0.5mm,長さ20 cmにも達する巨大な多核細胞ですが, 分化能力はなく,通常の核の1000倍 以上ものDNAを持った巨大な核が amitoticな分裂で数を増やしていま す.緑藻マリモC4egagropira linnaei) や紅藻カザシグサ(Grlfjthsia)はソー セージ状の多核細胞が樹状に連なっ ています.海産緑藻のハネモ庚fyOPSis) やイワヅタ(Caulerpa)も巨大な多 核細胞ですが,配偶子や接合子,そ してそこから発芽した2nの胞子体 は単核細胞です.このように多核細 胞にも多様性がありますが,共通す ることは核が分裂するとき細胞質分 裂を伴わないことです. しかし,これまで,どうして多核 の状態が維持されるのか,それらは細胞質分裂に関する遺伝子を失った
のか,あるいは,その制御系が変化 しているのだろうか,といった疑問 が問われたことはありません.多核 であることと,巨大であることにど のような因果関係と,生態的有利性 があるのか?核間距離,分裂時期は どのように制御されているのか?核 分裂は他の部位へどのように伝搬す るのか?それらの核は,あたかも並 列制御コンピューターのように細胞 機能を分掌しているのだろうか?細 胞内の位置に依存した核の機能分化 はあるのか?などといった疑問が沸々 と湧いてきます.こうした疑問に答 える術を私たちはまだもっていませ んが,最近,免疫蛍光抗体法などの 新しい技術を使って細胞骨格や核の 動態を観察することから,いくつか の注目すべき成果が生まれてきまし た. 今回は私たちが見っけた黄色植物 フシナシミドロの光細胞形態形成反 応(photocytomorphogenesis)に おける,多核細胞ならではの驚くべ き仕組みを紹介しましょう.フシナ シミドロの体は直径50-70FLmのまば らに分岐する枝でできています.各 枝の先端で典型的な先端成長をして遺伝生態研究センター通倖 NSNo.9 ′■ヽ ′■ヽ いますので,先端成長や光屈性のモ デル系と して重宝してきま し た(1 6) いま,細胞の一部を青色光(400-500nm)で照らす上, 4-5時間後 に照射域の中央に新たな成長点が形 成され,枝となって成長を開始しま す.黄色一赤色光は何の効果もあり ません.この光細胞形態形成反応は 実験的に誘導したものですが,同様 のことは自然の生育地でも起こって いると考えられます. フシナシミドロは浅い小川や岸辺 の湿った土の上にマット状に生育し ます.秋になれば落ち葉がその上に 落ちるでしょう.すると,陰になっ た部位は光合成ができません.光が 当たっている隙間から枝を伸ばす能 力はこの藻の生育域の拡大に大変有 効に働いてきたことでしょう.した がって,私たちはこの反応の研究は 光生物学や細胞生理学だけでなく,
遺伝生態学の重要な柱と考えてきま
した. 私たちは最近驚くべき発見をしま した.この青色光による分枝の誘導 には照射域への核の集合が必須条件 のようです(8 10).青色光照射開始 直後から細胞外層の葉緑体が照射域 に向かって集合を開始しますが,こ れは細胞内面が2-3層の葉緑体で 埋め尽くされる約1時間後にほぼ完 了します.一方,核の集合は30-40分以後から始まります.核だけで なく,内層に存在する葉緑体を含む 原形質全体が照射域へ押し寄せ, 3 時間後には液胞が分断されるほど多 量の原形質が蓄積します.やがて, 照射域中央の細胞壁がゆるみ,そこ から突出した突起が枝となって先端 成長を始めます. 驚くべき発見とは微小管が核を動 かしているという事実です.稼は細 胞内にほぼ均等に細胞の長さ1〟m あたり1個の密度で分布しています が,なんと,静止期の核は前端に中 心体(centrosome)を持っており, そこから, 60〟mにも達する太い微小管の束が前方に伸びていたので
す(10・fl).これは微小管束が核の分 布と運動を制御していることを示唆 します. 実際,微小管束が核を引っ張って動く様子を光学顕微鏡で観察するこ
とができます.微小管を壊すと核は 不均等に凝集し照射域へ動くことは なく,枝も誘導されません(10). 核の集合は枝を発生するために必 要な遺伝子の発現と十分量の酵素群 の生産のために必要であると考えら れます.核集合の光受容体はどこに あるのか,青色光がどのような遺伝 子の発現を誘導するのか,葉緑体の 集合と核の集合はどう連結している のか,また,核一微小管複合体の運 動機構と分子モーターの同定などが 今後の重要な研究課題となります. ここで,見慣れた多細胞植物の形 態形成と比べてみましょう.多細胞 生物では形態形成に先だって局所的 な細胞分裂が起こり細胞数が増えま す.もちろん,細胞分裂の前には核 分裂が起こります.フシナシミドロ でみられた,核をかき寄せて形を作 るという原理は大変変わっているこ とに気がつくでしょう. でも,よく考えてみると,植物が 形を作るために必要なことは,担些分裂ではなく,必要量の核を持定型
些墜邑星些旦主主であるのかもしれ
ません.必要数の核を集めるには多 細胞生物では核分裂をするしかあり ません.一方,多核細胞は隔壁がな いので核を近隣からかき寄せること で,これをいとも簡単に達成する事 ができます.核分裂を待っより,核 を集めるほうが簡単です.しかし, これは多核細胞にしかできない芸当 です.いったい,多核細胞内の個々 の核はどんな役割を果たしているのでしょう?多核細胞体制とは専制君
主制か,無政府体制か,封建制か, あるいは民主制なのでしょうか?多 核体を維持するために,他になにが 必要なのでしょう?このような興奮する疑問が私たちを細胞生態学とい
う新しい学問分野へ導いてくれます. アラビドプシスで見っかった現象 や仕組みが他の生物で常に共通であ る保証はないことを,私たちは常に 意識していないといけません.多細 胞生物での常識が単細胞や多核細胞 に当てはまる保証はありません. 多核細胞の存在理由は単核細胞や 多細胞をいくら研究しても解けませ んが,逆に,多核細胞の研究から, これまで,見過ごされてきた細胞分 裂の仕組みに関する重要な発見がな される可能性があります.私たちは 多核細胞研究会を数年前に立ち上げ ました. 多核細胞研究会に興味のあるかた, 積極的に参加しようと思われた方は 下記にご連絡ください.会費は無料 ですし,多核細胞研究会も多核体制 で活動するつもりです.世話人の所 属はともに4月からは改組され,そ れぞれ,以下の住所となります. 片岡 博尚(Kataoka. Hironao) 東北大学大学院生命科学研究科 分子生命科学専攻 電話022-217-5710 ; Fax 022-263-9845 ; e-mail:[email protected] あるいは, 本村 泰三(Motomura, Taizo) 北海道大学北方生物圏フィールド科学センター 電話0143-22-2846 ; Fax O143-22-4135 ; e-mail:[email protected],hokudai.ac.jp参考文献
1 ) Kataoka, H. 1975. Phototropism in Vaucheria geminata II. The mechanism of bending and branching. Plant Cell Physio1 16:439-448.
2 ) Kataoka, H. 1980. Handbook of Phycological Methods Ⅲ. Developmental & Cytological
Methods. (ed Gantt, E.), Cambridge Univ. Press. pp. 205-218.
3)片岡博尚. 1981b.植物生理学8.環境情報.古谷雅樹編.朝倉書店(共著). 4)片岡博尚. 1981.光運動反応.古谷雅樹編.共立出版(共著).
5)片岡博尚. 1983.実験生物学講座16植物生理学Ⅱ.勝見允行,増田芳雄編.丸善(共著). 6)片岡博尚. 1991.現代植物生理学4.環境応答.新免輝男編.朝倉書店(共著).
7 ) Mineyuki, Y., Kataoka, H,. Masuda, Y., Nagai, R. 1995. Dynamic changesinthe actin
cytoskeleton during the high-fluence rate response of the Mougeotia chloroplast.
遺伝生態研究センター通信 NSHo.9 ′■ヽ ′■ヽ 8)片岡博尚. 1999.光シグナルトランスダクション.蓮沼仰嗣ら編.シュプリンガー フェアラー ク東京(共著). 9)片岡博尚. 200工朝倉植物生理学講座5.環境応答.寺島一郎編. (印刷中)朝倉書店(共著).
10) Takahashi, F., Hishinuma, T., Kataoka, H. 2001. Blue light-induced branching in
vaucheria. Requirement of nuclear accumulation in the irradiated region. Plant Cell Physiol.'42(3):(in press)
ll) Ott, D. W. 1992. The Cytoskeleton of the Algae. Ed. By Menzel, D. M., pp.255-272. CRC Press.
12) Mohr, H., Schopfer, P. 1992. Pflanzenphysiologie 4 Auflage. (植物生理学 駒嶺穆監訳,
シュプリンガ-フェアラーク東京) (共訳)
Hironao Kataoka, DScリ
Institute of Genetic Ecology, Tohoku University e-mail:[email protected] 編集後記:冒頭のセンター長の記事にもありますように,遺 伝生態研究センターの廃止・大学院生命科学研究科への移行 に伴い,全国共同利用研究所としての業務の1つでもありま した遺伝生態研究センター通信は本号NS9をもって廃刊とな ります.旧シリーズ41号から編集委員となって2年間10号目 で最終号となりました.旧シリーズを10年間担当した佐藤雅 志編集委員に比べると遥かに短い期間でしたが,多くのご寄 稿と全国の読者からの暖かい励ましのおかげで欠号なく今日 まで続けて参ることができました,思わぬ方から「あの記事 はおもしろかったよ」という評をいただいたときは大きな喜 びとともに,この通信の果たしている役割の重さをずしりと 感じました.これまでの皆様の絶えざるご協力とご愛読本当 にありがとうございました. NS9号は通常の約2倍の内容を含む特別号とし,生命科学 研究科の構成表も綴じ込みました.現遺生研メンバーは2専 攻に分かれますが,当分は元の建物で暮らすことになります. 遺生研通信をこれまで13年間育ててくださった皆様,生命科 学研究科になっても,遺伝生態学のさらなる発展を目指して ともにがんばりましょう(HK, YI). 東北大学遺伝生態研究センター通信 NS No.9 (最終号)平成13年(2001) 3月発行 題字は阿部博之東北大学総長の筆です. 東北大学遺伝生態研究センター 〒980-8577仙台市青葉区片平2 J 目1-1 電 話: 022-217-5706 (共同利用掛) ファクス: 022-263-9845 http://www.ige.tohoku.ac.jp/