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イギリスにおける住宅金融と建築組合
一金融自由化のインパクトー
片 山 貞 雄
1 は じ め に イギリスにおける住宅金融の供給はこれまでもっぱら建築組合(building society)によって行われてきたといってよい。第2次大戦後の持家率の増加は 住宅資金の需要を増大させたが,主として建築組合による資金供給の増加によ って対応されてきた。その意味ではイギリスの住宅金融は建築組合の活動を検 討することによって論ずることができるであろう。この建築組合がまたいわゆ る貯蓄金融機関(thrift institution)として顕著な発展を遂げてきたことも重要 な事実である。 イギリスの住宅金融の特色として,アメリカやカナダと異なり住宅貯蓄と住 宅金融のリンクが稀薄であることと,抵当債権の流動化,いわゆるリファイナ ンス機構の存在しないことも挙げられるが,これらの点では以前のわが国の状 態に類似している。金融自由化の進展と共に,イギリスでも最近,銀行がいわ ゆるパーソナル・ファイナンスを強化するために住宅金融に乗り出し,建築組 合と競合関係に入っている。これが住宅金融(抵当債権)市場と建築組合にど のようなインパクトを与えるかは今後注意しなければならない1つの重要な問 題である。 本小稿では,まず簡単にイギリスにおける持家の増加と住宅金融の機関別融 1)本稿は「日米英独の住宅資金調達問題に関する理論的・実証的研究」 (昭和57年度 日本住宅総合センター研究助成・共同研究)の研究(分担)成果物の主要部分であ る。住宅問題は河野稔教授専攻の社会政策とも関連をもっているという意味で同教授 の退官を記念する拙文としたい。なお,本稿作成にあたり,種々の資料入手等に配慮210 河野稔教授退官記念論文集(第228,229号) 資の概況を述べ(2節),ついで住宅金融機関であると同時に貯蓄金融機関た る建築組合の近年の発展と金融自由化のインパクトを考察する(3節)。さら に,住宅貯蓄と住宅金融のリンクの問題を念頭に置いて建築組合の資金の源泉 と運用の特色を明らかにする(4節)とともに,抵当債権流動化,いわゆるリ ファイナンスの問題を考察し(5節),最後に以上の要約と若干の展望を与え たい(6節)。 2 イギリスにおける持家の増加と住宅金融の概況 イギリスでは,82年現在60%近くの人々が持家に住んでいる。しかもサッチ ャー政権は持家制度を促進しているので,この比率はさらに上昇するものと思 われる。しかし,1914年にはわずか10%程度の人々が持家に住んでいたにすぎ ず,第2次世界大戦終結直後の何年かも25%ほどにすぎなかった。しかしその 後持家の割合は着実に増加し,1970年には50%,75年には53%,80年には55% 1図 イギリスにおける持家と借家(民間住宅・公共住宅)の構成比の変化 借家(民間) 240/5 借家(公共) 28% 持 家 479/o 借家(民間) 130/6 借家(公共) 31 9・b 持 家 560/6 1966年 1981年 (出所)Building Societies Association(BSA),The Role of the Building Societies, 3rd ed., 1982, p. 13. をいただいた日本住宅総合セン.ター・松原玉台および面談の機会(1983年4月,ロン ドン)があり,貴重な示唆と資料をいただぎ,そめ後も高配をえているThe Building $ocieties Association¢)Adrian ’M. Coles(Under Secretary)磯に謝意を表したい。
イギリスにおける住宅金融と建築組合 211 に達している。この15年間に持家と借家(民間住宅と公共住宅)の構成比は1 図の通りに変化している。 このような持家の比率の増加は住宅資金に対する需要の増加をもたらした 2) が,その大部分は民間の組合組織の金融機関である建築組合の抵当貸付けによ ってまかなわれてきた(1表,2表参照)といってよい。しかし,81年に入り, 銀行,特にPソドソ手形交換所加盟銀行(London clearing banks)(以下,加 盟銀行と略記)が住宅金融へ本格的に進出してきた(1表,2表参照)。これは 1表 イギリスの機関別住宅(純)融資額(フロー) 単位:;£100万,O内は構成比% 1 lg7s ] 76 77 78 79 80 81 82 合 方体・金 * 綜
期軽行碗
建 地公保年 銀 そ 重 宝 2, 768 ( 74.2) 619 ( 16s6) !50 ( 4. 0) 60 ( 1.O) 133 ( 3.6) 3, 730 (IOO. O) 3, 618 ( 92.1) 67 ( 1. 7) 103 ( 2.6) 80 ( 20) 60 ( 1. 5) 3, 928 1 4, !00 ( 94,0) 4 ( O. 1) 119 ( 2.7) 1.?.1 ( 2,8) 18 ( O.4) 4, 362 (loo. o)[ (loo. o) Jr, l lor ( 94.1) 一43 (一〇. 8) 73 ( LE) 275 ( 5. 1) 17 ( e.3) 5, 437 (100.0) 5, 271 ( 81.5) 293 ( 4.5) 234 ( 3.6) 5・ 97 ( 9. 2) 74 ( L2) 6, 469 (100. 0) 5, 722 ( 78.5) 46! ( 6. 3) 264 ( 3.6) 593 ( 8. 2) 247 ( 3.4) 7, 287 (100,0) 6, 331 ( 66,9) 252 ( 2.7) 88 ( O. 9) 2, 447 ( 25.8) 348 ( 3. 7) 9, 466 (!00.0) 8, 147 ( 57. 9) or48 ( 3.9) 2 ( 一) 5, 041 ( 35. 8) 320r ( 2. 3) 14, 062 (100. 0) (出所)BSA, BSA Bul.ieti z, No.37(Jan.1984), p.7, Tab.4を若干変更 *信託貯蓄銀行(trustee saviRgs bank)を含む。 **地方公共団体以外の公共部門。 2)紙幅の制約はあるが,建築組合について簡単に述べておこう。建築組合は非営利の 共済組合(friendly society)であり,その歴史は200年以上も湖ることができるが, ほぼ今日のものに類似の機構を備えたのは1870年代に入ってからである。第2次大戦 を契機とする政府の持家奨励策に乗って建築組合は住宅金融機関としてのみならず貯 蓄金融機関として大きな発展を遂げた。もっともその規模は小さいものが多い。建築 組合は政府によって監督されるがその直接の担当官は共済組合登録長官(Chief Regi− strar of Friendly Societies)である。また組合自身も協議会として建築組合協会 (Building Societies Association;BSA)を設け,加盟組合(加盟率は約70%,資産 ベースでは99%以上)に対し,種々の指導や勧告を行っている。とくにBSAが長年 行ってきた勧告金利制度(抵当貸出金利と出資金金利)は一一Ptのカルテル協定として 批判されてきた。その批判の代表的な文献として,T. J. Gough&T. W. Taylor, The Building Society Price Cαrtel(Hobart Paper, No.83),!979がある。212 河野稔:教授退官記念論文集(第228,229号) 2表イギリスの機関別住宅融資残高†単位:£100万,O内は構成比% 1975 1 76 77 78 79 80 81 82 建築組合 地 方 公共団体 保険会社・ 年金基金 銀 行* その他** 合 計 18, 882 ( 75,5) 2, 872 ( 11.5) 1, 533 ( 6. 1) 1, 310 ( 5.3) 405 ( 1.6) 25, 002 (!00.0) 22, 500 ( 78.0) 2, 939 ( 10.2) 1, 572 ( 5.4) ユ, 380 ( 4.8) 465( 1. 6) 28, 856 (100.0) 26, 600 ( 80.3) 2, 943 ( 8.9) 1, 580 ( 4.8) 1, 520 ( 4.6) 483( 1. 4) 33, 126 (100. 0) 31, 715 ( 82.3) 2, 900 ( 7. 5) 1, 623 ( 4. 2) 1, 805 ( 4.7) 500 ( 1.7) 38. 533 (100. 0) 36, 986 ( 82.2) 3, 193 ( 7.1) 1, 854 ( 4. 1) 2, 403 ( 5. 3) 574 ( 1. 3) 45, OIO (100.0) 42, 708 ( 81.7) 3, 654 ( 7.0) 2,117 ( 4. 0) 2, 996 ( 5.7) 82.1 ( 1.6) 52, 296 (100.0) 49, 039 ( 79.4) 3, 906 ( 6.3) 2, 205 ( 3. 6) 5, 443 ( 8.8) 1,ユ69 ( 1. 9) 61, 761 (100.0) 57, 186 ( 75.2) 4, 454 ( 5.8) 2, 208 ( 2.9) 10, 728 ( 14.1) 1, 494 ( 2.0) 76, 069 (100.0) *,**;1表と同じ。 †各年末。 (出所) 1表に同じ。 イギリスにおける金融自由化の進行と関連しているが,この問題は3節以下で 論究したい。 3 建築組合の発展と金融自由化のインパクト 3) 近年における建築組合の発展の特色として次の2点が指摘されている。その 4) 第1は,建築組合への預金(厳密にいえぽ,その大部分は出資金)が加盟銀行 やその他の銀行への預金に比較して大きく増加したこと(2図参照)と,第2 は建築組合の合併がかなりのスピードで進行したことである(3図参照)。しか 3) 本節はJ.S. Fforde,“Competition, Innovation and Regulation in British Banking,” Bank of England guarterly Bulletin, Vo1.23, No.3(Sept.1983), pp.363−77よ り示唆を受けたところが大きい。本論文はイングランド銀行総裁顧問のFfordeを長 とする同銀行研究グループによるものである。 4)イギリスの伝統的な預金銀行のうち圧倒的地位を占めているのは,バークレイズ, ナショナル・ウェストミンスター,ミドラソド,ロイズのBig Fourあり,これに小 規模な2行を加えたものから加盟銀行(正確にはCommittee of London Clearing Bankersを形成)は構成されている。他にスコットランドや北アイルランドにも預金 銀行はあるがウェイトは小さい。
213 イギリスにおける住宅金融と建築組合 頃 自 雲 ON 鵠 。膏Q媚駆鰍﹂N隈糞 。硲窯ヨ喚余鴇釈慧如懸e如暴駅鯉菅 .8。っ.q南。つり。っd.扇二更︻︻.b心β着。5q箕帝三二£8回目甥bo酷℃gq9掃>oq呂.8哨ぢ巴ε8こ①響。迄・の.h︵溢記︶ ぐ転謙趨 ﹂ヤ 煮 G翠S即 碍煮鶏三鐙 ︵ 11111 llElI ㎝ 寸 ℃ ぐ=雪淵劃 ζ 畜 G翠S壷 ρ畜華ミ 一 1 1 1 一 ー ー 一 1 1 1 1 1 1 Oαっ 1 巽誓活ゆト9 ↑三S翠S噌 φ三﹁瓢=虻議
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ッっ @一 編母$脅 ︵題OH蝿週糾︶ 一望幹ゆト曾四身母頃ゆ①HI 厘隔靴媚照Q如騨瀦廻廊に駁 区N214 河野総教授退官記念論文集(第228,229号) し,このような合併が規模の経済をもたらしたかについてはそれを否定する見 の 解の方が有力に思える。むしろ小規模の建築組合の方が効率的であるという実 6) 証研究もあり,合併は組合の経営効率を高めるより大規模な組合にしたいとす の る理事者達.の欲求によるものと考えられる。だが,この問題は本題より逸れる し,また紙幅の制限もあるのでここで止めたい。 現在(1982年末),227の建築組合が存在するが一部を除き小規模のものが多 い。つまり,35億ポンド以上の資産をもつ組合は5つにすぎず,大部分は200 万ポンドから4,500万ポンド(95組合)で200万ポンド以下のものが53ある。こ の5大組合はそれぞれの支店網を通じて全国をカバーし,建築組合全資産の 55.7%(1982年末)に達している。また上位16組合が全組合資産の83.5%を占 めるが,組合数全体からいえば7%程度であるというように小規模の組合が多 いことは事実であ.る。しかし,1950年の組合数800はその後急速に進んだ合併 のために大幅に減少し,約%となった(3−d図)。 ところで,建築組合はこの25年間(1955−80年),顕著な発展を遂げた。そ の資産は実質額表示で5倍となり(3−c図),1980年末までに出資金と預金 は加盟銀行の預金を約20%上回わった。建築組合が60年代から70年代にかけて 顕著な発展を遂げた事実は3図からも明らかであろう。またこれらの年代から 5)その代表的な文献としてT.J. Gough&T. W. Taylor, op. ctt., esp., p.50f.が 挙げられる。先述のA.Coles氏(Under−Secretary, BSA)はこの問題について筆者 の質問に断定的には答えず,規模の経済を管理費率(管理費/資産)で捉え,それ は合併(規模の拡大)よりむしろインフレ率と密接に関連している,とする。(塑A. Coles, “Societies’ Management Expense Ratios Are Falling Rapidly,” The Bzailding Society Gazette, April 1984, pp.402−404.一方, BSAのM. Boleat(Deputy Secretary−General)は合併による合理化を認め,肯定的な立場に立っている。(]f. M. Boleat, ’‘The Banks and Building Societies in the 1980s,” (Text of Paper to Operational Research Society Serninar, 14 June 1983), p・ 15. 6)(]f.T.工Gough&T. W. Taylor, op. cit., pp.50−53. 7) lbid., ’p. 53. 8)Halifax, Abbey Nat!onal, Nationalwide, Leeds permanentおよびWoolwich Equitableである。
イギリスにおける住宅金融と建築組合 215
3図建築組合の発展
3−a図
組合貝数100h人
一(出資者) 一 30 一 20 一一 10 (} 3−b図 100 Jj fk 住宅金融の 一借 手 数 幽 組合の総資産 (19ア5年価格表示)3−c図
謬10億 一 20 一 106543210
0 3組合数
3一一d図 〈} 一 800 一一@6(}O 一 4{}O 一 2001955 60 65 70 75 80
(出所) J.S, Fforde,‘℃ompetition, Innovation and Regulation,”op. cit., P.369.216 河野稔教授退官記念論語集(第228,229号) 合併が大きく進行したことも同学の中で読みとることができるであろう。 の 建築組合のこのような発展をもたらした理由として次のものが挙げられる。 第2次大戦以前からとられてきた家賃の統制は戦後も継続されたので,民間の 賃貸住宅の建築は引き合わなかった。これに反し,持家の建築や購入のための 借入金は税制上優遇措置を受けたので,そのための資金需要は増大し,これが 建築組合に集中することになった。というのは,他に強力な競争機関がなかっ たからである。たとえば,保険会社にとっては住宅金融つまり抵当貸付けへ の本格的な参入は会社の性質上容易でなく,また抵当貸付利率もかれらにとっ ては魅力のあるものではなかったし,銀行,とくに加盟銀行は当時まだ住宅金 融に本格的に進出していなかったのである。 以上のような理由により,建築組合は住宅資金に対する需要の増加に応ずる のにきわめて有利な地位にあった。また組合がとった変動金利制による抵当貸 付けもきわめて効果的であった(変動金利制については第4節を参照)。さら に,建築組合は他の金融機関より狭い利鞘で経営することができた。というの は,抵当貸付専業という比較的簡単な事業活動を行っているため管理費が少な くてすむし,相互組合組織であるために配当を支払う必要はなく,また抵当貸 付けであるために保有資産の危険度が小さく,したがって銀行より低い現金準 ユの 備でよかったからである。 ところで,加盟銀行は長い間慣習的に預金金利や貸出金利について一種のカ ルテル協定を結んでいたが,これが種々の好ましくない影響をもたらすにいた り,1960年代の後半になってこのような協定を廃⊥ヒし,銀行の自由競争を促進 9) Cf. J. S. Fforde, op. cit., p. 369. 10) 必要現金準備は建築組合の資金の規模によって異なり,9段階に分れ,2.5%から, 1.31%までの幅がある。現実には組合は平均3%以上(A.CQIesによれば1983年末で は4%以上)の準備率をもっている((甥.BSA,‘「Building Societies Reserves,・・BSA Bulletin, No.24,0ct.1980, pp.14−20)。この計数は加盟銀行の準備率と大差はな いであろう。 11)当時の状況については,拙稿「イギリスの新しい金融措置に関する一考察」『金融 ジャーナル』1972年11月号,60−63ページを参照。
イギリスにおける住宅金融と建築組合 217 させる気運が高まった。1971年5月イングランド銀行によって公表された『競 ユ 争と信用調整』(ComPetition and Credit Control)は,このような流れの中で 生まれた注目すべき金融的措置であり,その後イギリスの銀行は着実に自由化 の道を歩むことになった。金融自由化が各種金融機関の垣根を低くし,相互に 競争を促進させる結果をもたらしたことはいうまでもない。しかし,銀行とく に加盟銀行が建築組合に正面から対抗して住宅金融市場へ本格的に進出した のは1980年末となってからである。たしかに加盟銀行は以前からそれへの進出 を企てていたが,銀行に課せられていた追加的特別預金制度(supplementary special deposit scheme)(コルセットともよばれる)のために建築組合との競 争上不利と判断していて,その廃止(1981年6月)を待っていたのである。 70年代に入り,加盟銀行は卸売銀行業務(wholesale banking)の分野におい 14) て外国,とくにアメリカの銀行や他の非加盟銀行と競争関係にあったし,また 金利競争の結果,建築組合や信託貯蓄銀行(trustee savings bank)へと預金が シフトし,このような状況は金利の低下した1977−78年にいっそう加速され た。加盟銀行はこれに対応するため小売銀行業務(retail banking)とくにパー ソナル・ファイナンスに乗りだすことになった。その1つの重要な分野が個人 住宅金融,つまり抵当貸付けであり,上述のようにかなりのスピードでシェァ ーを拡大した(とくに1表を参照)。したがって加盟銀行の住宅金融への進出 は一時的な現象とはいえないであろう。 12)その内容と意義については,拙稿,同,59−68ページを参照。 13) イングランド銀行によって実施された加盟銀行に対する比率規制の1つであり, 加盟銀行の預金等対象債務の増加率に対し一定の無利子預金をイングランド銀行に行 うことを強制する制度である。それは金融引締の手段としてしばしば使用され,わ が国の窓口規制に類似している。しかし,グリーン・ペーパー(Bank of England& Treasury, Monetary Control, Mar.1980)で廃止が勧告されていた。詳細は拙稿 「イギリスにおける最近のマネタリー・コントロールーサッチャー政権の経済政策を めぐって一」,『世界経済評論』1983年1月,80−86ページを参照。 14) これらはsecondary bankとも呼ばれ,外国の(在ロンドン)銀行,手形引受業者 (accepting house),コンソーシアム銀行,加盟銀行の子会社等から構成されている。
218 河野稔教授退官記念論文集(第228,229号) このような状況に直面して,建築組合は対抗的にいっそう有利な条件の金融 商品(たとえば,引出し可能な据置出資や割増利付出資,4節参照)を提供し た。いずれにせよ今後両者の競争がいっそう進展すると考えられ,.これがイギ リスの住宅金融市場だけでなく貯蓄資金市場に対しどのような影響を与えるか に十分注意しなければならない。 4 建築組合の資金の源泉と運用の特色 一一リンクの視点から一 まず建築組合の資金の源泉から検討しよう。 主要な資金源は,(1)公衆の出資金(預金を含む),(2)償還金,(3)資金運 ユの 用収入(受取利子と未収利子)一の3者から構成される。 公衆の出資金と預金から順次述べよう。組合は種々の出資金等から成る金融 商品を提供している・その大部分が出資金で 3表建築組合の主要な金融 あって預金その他の占めるシェアーはきわめ 商品とその構成比(%) て小さい。 16) 主な金融商品の内訳と構成比は3表の通り である。 出資金中最大の割合を占めているのは,(i) 普通出資(ordinary shares)である。普通出 資は通知預金に類似し,引出しには若干の予 告を必要とするが,一定二二(通常,£200) であれば,いつでも引き出すことができる。 1982年末 (i)普通出資 (ii)据置出資 艦) 害u増禾聾付出資 GV)通常積立出資 (V)預金その他 ro4. 2 23. 4 16.9
30
2.6 100. 1% (出所)BSA, Kebl Faets On Buzlding Societies, Savings, and Hons− ing, Oct, 1983. 15)指摘はMortgage Finance in the 1980s(Report of a Work圭ng Party under the Chairmanship of Mr. Ralph Stow), BSA, Dec.1979, P.5f.による。これは一般に 「ストー報告」と呼ばれ,本節と次節はこの報告書によるところが大きい。また本報 告は『住宅金融の国際比較一貯蓄と金融のリンク・債権流動化一』(住宅金融問題研 究会報告),住宅金融普及協会,昭和52年2月にも広く引用されている。 !6)建築組合の提供する金融商品の詳しい説明については,BSA, Building Societtes and Hoase−Purchase, 3rd ed.,1982, pp.4−6を見よ。また,『住宅金融の国際比較』, 前掲,38−39ページ,住宅金融普及協会編『欧米の住宅金融と政策』,住宅新報社, 昭和53年,175−76ページにも説明がある。イギリスにおけ’る住宅金融と建築組合 219 つぎに,(ii)据置出資(term shares)は一定期間(通常3∼5年)据置く(最 近,据置期間内に引ぎ出し可能なものも出現)ことによって,より高い利子が つく出資金であり,多くの建築組合は普通出資に比べ2%高い金利(1982年4 月現在)を提供している。㈲ 割増利付出資(higher interest accounts)は普通 出資より1%高の金利がつくが,引出しには一定期間の予告を必要とする(通 常1∼3ヵ月)のでわが国の定期預金(3ヵ月が最も短いが)に相当する。ま た期間内の引出しには罰則レートが課せられる(通常28日分の金利の回収)。 (iD 通常積立出資(regular savings shares)は毎月一定額を積み立てる方式で, 一般にsubscription sharesとも呼ばれている。普通出資より1,25%金利が高 い。毎月の最低必要積立額は通常!ポンドから5ポンドであるが,最高限度額 も設けられていて20ポンドから100ポンドの幅がある。この積立出資のシェア ーは小さい(3表参照)。(V)預金の金利は出資金の金利より低いので通常,個 人にとって魅力ある金融商品ではない。現在では税制上の理由で,特定の法人 が行うだけのものとなっている。その他,毎月一定金額を積み立て,金利や配 当は償還時に支払われる複利積立型(SAYE二save−as−you−earn)や生命保険 と提携したタイプ(investments linked to life assurance)もあるが,(V)のシェ ァーは小さい。 資金源の第2は償還金であるが,第3の資金源である利子収入を旧きに取り 上げよう。4表から明らかなように,利子収入は重要な資金源であり,1980, 81年には出資金等にほぼ等しいウェイトをもっている。 ここで建築組合の資金の運用面を簡単に見ておこう。運用面も資金の源泉と 同様にフローで把握すると5表のとおりである。フn一であるのでかなりの凹 凸はあるが,住宅融資,つまり抵当貸付けが大きな割合を占めていることは理 解できるであろう。 検討を後回しにした資金源の中の償還金は4表の資金の源泉項目には含まれ ていない。これは運用を示す5表の抵当貸付けが償還金を差し引いた純額表示 の形式になっているからである。 ストー報告(Stow RePOrt)は建築組合が住宅貸付けに使用できる資金を次
220 河野稔教授退官記念論:文集(第228,229号) 4表 建築組合の資金の源泉(フロー) 単位;£100万, O内は構成比%
隣、編劃一繍李よ雁府下り劉隻辞仁慈
計 3 7 9 1456789012
777
777888
1, 512 (65.1) 1,165 (45.2) 3, 191 (78.3) 2, 278 (60.5) 4, 722 (72.1) 3, 310 (66.4) 3, 515 (54.9) 3, 816 (46.8) 3. 60! (45.4) 6, 466 (58.3) 705 (30. 3) 880 (34. 1) 1, 014 (24.9) 1, 192 (31.6) 1, 425 (21. 8) 1, 616 (32.4) 2, 467 (38.6) 3, 602 (44. 1) 3, 635 (45. 9) 4, 044 (36.4) 一3(一〇. 1) 326( 12.6) 一335・ (一8. 2) 一3(一〇. 1) 一7(一〇. 1) 一4(一〇. 1) 一3( . . ) 一3( . . ) 一3 ( . . ) ( 一) 109 ( 4. 7) 209 ( 8. 1) 205 ( 5.0) 300 ( 8. 0) 409 ( 6. 2) 63( 1.3) 4!6 ( 6. 5) 740 ( 9. 1) 691 ( 8. 7) 587 ( 5. 3) 2, 323 (100.0) 2. 580 (100.0) 4, 075 (100.0) 3, 767 (100.0) 6, 549 (100.0) 4, 985 (100.0) 6, 394 (100.0) 8,155 (100.0) 7, 924 (100.0) 11, 097 (100. 0) (出所)BSA, BSA Bulletin, No.36(Oct.1983), p.8, Tab.7より作成。 5表 建築組合の資金の運用(フロー) 単位;£100万.()内は構成比%抵当鮒け腿躰壌その傾酬合
一=十 3 7 9 1456789012777777888
1, 999(86. 1) 1, 490 (57.7) 2, 768 (67.9) 3, 618 (96.0) 4, 100 (62. 6) 5, 115 (102.6) 5, 271 (82.4) 5, 722 (70. 2) 6, 331 (79.9) 8, 147 (73.4) 280( 12. 1) 1, 029 ( 39.9) 1, 269 ( 31.2) 一2( . . ) 2, 318 ( 35.4) 一273 (一5. 5) 955 ( 14.9) 2, 204 ( 27.0) !, 310 ( 16.5) 2, 752 ( 24.8)44
( 1.9) 61( 2. 4)38
( O. 9) 151 ( 4.0) 131 ( 2. 0) 143 ( 2.9) 168 ( 2.6) 229 ( 2. 8) 283 ( 3.6) 198 ( 1. 8) 2, 323 (100.0) 2, 580 (100. 0) 4, 075 (100.0) 3, 767 (100. 0) 6, 549 (100. 0) 4, 985 (100.0) 6, 394 (100. 0) 8, 155 (100.0) 7, 924 (100.0) 11, 097 (!00.0) (出所) 4表と同じ。この点4表の構成比とは異なるが, 源泉に償還が含まれていないことによる。 ところで,3種の償還の中借替えによる繰上げ償還(1)が大きな割合を占めて いる。これは持家を売って買い替えるためで,その場合,まず売却代金によっ て償還し,買替える住宅取得のために改めて融資を受ける。このようにして取 18) 得した住宅には中古が多く,建築組合の融資の約85%が中古住宅である。ただ し,借替えによる繰上償還の 7表建築組合の純資金源の構成比,% 部分は同じ借手に再融資され ②借替えによらない繰一1こげ償還 5 17) のような形式で示す(6表)。 同門より明らかなように, 出資金等の増分〔㈲十㈲〕が 全体の45%を占め最大の構成 比となっているが, 〔(1)+(2) 十(3)〕も38%に達しているこ とに注意されたい。資金運用 収入(4),つまり抵当貸付けに よる利子収入は17%である。 るので,建築組合の資金の源 泉からこの部分を差し引いた 方が合理的であろう。それに 応じて構成比も7表のように 変化することになる。 上述のように, 却者(1ast−time seller) イギリスにおける住宅金融と建築組合 221 6表 建築組合の総資金源の構成比.% (1)借替えによる繰上げ償還 26 (2)借替えよらない繰上げ償還 4
〈3)通常償還8
C4)資金運用収入(受取利子および未収利子) 17 15)家屋最終売却者からの出資金等の純増分 15 (6)公衆の出資金等め純増分 30合 計 1吻
(出所) Mortga8e F’inance in the /980s op. cit., p. 7. これは資金の 〈3) 通π常償還 11 (4)資金運用収入 23 ㈲ 家屋最終売却者からの出資金等の純増分 20 (6)公衆の出資金等の純増分 41 合 二﹁両† 100% (出所) 6表に同じ。 出資金等の増分は(5)と㈲から構成されるが,(5)の家屋最終売 には大邸宅を処分して小住宅やアパート(賃借りを含 む)に移った老夫婦や独居老人,遺産相続の住宅を処分した者,さらに賃貸住 宅やアパートを売却した家主が含まれる。彼らが取得した代金の中どれだけが 建築組合に出資金等として流入するかは他の金融資産の利回りとの関係で決ま 17) Mortgage Finance, oP. cit, pp. 6一一7, 70. 18) lbid., p. 6.る(9表参照)が,建築組合 への出資額の約50%が組合よ り融資を受けていない(モー ゲジなしの)自宅所有者によ るものであり,平均出資額も 他の形態の入居者より大きい。 だが融資を受けている(モー ゲジ付きの)自宅所有者の出 資額の比率は約27%であるに すぎない。いま賃貸住宅芝居 222 河野稔教授退官記念論文集(第228,229号) ユの るが,ほぼ3分の1であると推計され,純資金源の20%(総資金源の15%)と なっている。一方,(6)公衆の出資金等の純増分は41%(純資金源) (総資金源 では30%)に達し,項目中最大の構成比を占る(6,7表を参照)としても, 建築組合の純資金源の約6割(総資金源の7割)は他の源泉によるので,かり に公衆の出資金等の純増分(6)を全額建築組合よりの融資を受けるための貯蓄と 見なしても,建築組合の資金源全体から見れば住宅貯蓄と住宅金融のリンクは 大きいとはいえない。 さらに,この問題は視点を変えて次のように展開するといっそう明確になる であろう。 既述のように,現在建築組合は貯蓄金融機関として重要な地位にあり,家計 部門の貯蓄の大きな割合を吸収し,そのウェイトはこの10年間かなり増大して 個人部門の預貯金のほぼ半分を占めている(8表参照)。このような状況を考 えると建築組合は現在の,または潜在的な住宅金融融資希望者からの出資を主 体とする金融機関の規模をはるかに越えているということができるであろう。 また1978年末の資料ではあ 8表個人部門による各種金融機関への預貯金 残高の構成比(%)の推移(各年末) 1973 !977 1982
建築組合
国立貯蓄銀行* 銀 行** 信託貯蓄銀行 そ の 他 37.7 17.5 37. 7 5.8L2
47. 4 14. 5 31.8 5.9 0.4 47.6 15.4 36. 7 一*** O.3 合劃・・…%…吻
100 O% *わが国の郵便貯金に相当する。 **加盟銀行以外に引受商社,割引商社,外国銀行 などを含む。 ***1982年遅り銀行に含まれる。 (出所)BSA;BSA.Bulletin, No.37(Jan.1984), p.7,Tab.5より作成。 住の出資者の約半分が将来組合より融資を受ける可能性があると見なしても, 19) lbid.融資を受ける者の出資額の比 率は40%たらずである。 さらに,組合への出資者で ありかつ融資を受けていない 自宅所有者は若い層より中高 年層と一見なされるが,10表の 示すように年令45才以上の者 の出資額の比率はほぼ70%に 達している。 したがって以上を総合して いえば,イギリスの場合住宅 貯蓄と住宅金融のリンクは, 小さいといえるであろう。 イギリスにおける住宅金融と建築組合 223 9表 入居形態別建築組合出資者,1978年末
入居形態麗糖)竪井叢均鵠
家家宅宅宅
嚇嚇住下
山舞住
回議料
モモ公民無
18, 500 10, 100 4, 400 2, 700 1, leo 合 二「卜 シ 36, 800 50. 3 27. 4 12.0 7.3 2.9 100. 0 3, 780 1, 290 1, 160 2, 440 2, 670 (錨羅) 2, 0405 抵当債権流動化一抵
当債権流通市場一の問題
(出所)BSA, MOrtgage Fznance in the 1980s,砂. cit., p. 5{, Tab. B. 7. 10表 年令別建築組合出資額,1978年末1年
到輪馴逆比平縫鮮
16 一 19 20 一 24 25 一 34 35 一 44 45 一 54 55 一 6465以上
300 1, 600 4, 500 4, 700 5, 800 9, 100 10, 800 O.8 4.4 12. 3 12.7 15.8 24.8 29. 3 280 950 1, 070 1, 6!0 年・320 3, 800 3, 370 (心懸 合 計 100. 0 36, 800 前節からも推測できるよう 2, 040 に,建築組合による抵当債権 (出所)Ibid・・P・59・Tab・B・8・ (担保権・モーゲジ)は償還まで保有される,つまり組合のポートフォリオの 中に償還まで保有されて市場で転売されることはない。この意味でイギリスで は抵当債権の流通市場(secondary market)が存在せず,したがってリファイ ナンスの機構を欠いているということができよう。 この間題について,前述のストー報告は次のような分析と展望を与えてい 20) る。 イギリスの抵当債権市場の特色はそれが他の金融市場から隔離されていると いう点であり,主要な金融機関のうち建築組合だけがかなり自由にその金利体 20) Cf. ibid., pp. 89−94.224 河野稔教授退官記念論文集(第228,229号) 系を設定することができる。これは銀行の立場ときわめて異な:っている。銀行 はその貸付金利を市場金利に調整させなければ存立自体が危くなるほど競争的 である。つまり,銀行の貸付金利を市場金利より低位に抑えれば公衆は銀行か ら借りて市場に貸し出すし,市場金利より高ければだれも銀行か・ら借らないか らである。しかし,前節でも触れたように,建築組合は他の金融機関からの競 争をほとんど受けていなかったので,その利鞘をかなり自由に動かすことがで 21) きたのである。 ところが抵当債権の流通市場が存在するためには,その市場が他の金融市場 から隔離されているのではなく統合されていなければならない。つまり,個人 や機関投資家は抵当債権が安全であると同時にそれに対応する国債や社債など より高利回りでなければ投資しないであろう,と。 ストー報告の例示するように,抵当債権の流通市場が存在するアメリカやカ ナダではそのような条件が満たされている(4図および5図参照)が,一方70 4図 アメリカの長期金利 % 11 10 9 8 7 6
難\
閲
T“︿sx. 社債(Aaa) 長期国債 ら 1972 1973 1974 1975 1976 1977 1978 ユg79 (原:1土1所) Chase Econometrics (出所)MOrtga.ae Finance in the 1980s, op. cp. cit., p.91. 21)ストー報告(ibid。 p.90)では,建築組合は市場より3%低い金利で借り入れ,逆 に2%高い金利で貸し出すことができるとしているが,これは抵当債権市場が他の金 融市場から隔離されていることの比喩的な表現にすぎないと思われる。イギリスにおける住宅金融と建築組合 225 5図 カナダの長期金利 %12 10 8 6
社債ノ
抵当債権/
長期国t責 (5一ユ0年斗勿) 40C=rr−T=rr一一r−T一=
19T3 IC}T4 1975 1976 IE77
(原:出所) NHA Inszared Loans as an Investment, CMHC,1979. (出所)Mortgage Finance in the 1980s, op. cit., p,90。 年代のイギリスでは,この条件は満たされていない(6図の70年代を参照)。イ ギリスにおける抵当債権流通市場設立の可能性について同報告は次のように論 22) 述する。 その設立のためには次のような行政的手続きをとらねばならない。まず住宅 金融の貸付基準を統一し,より厳格にすることである。つぎに抵当保険(mort− gage insurance)を改善するか,それとも流通抵当債権を政府が保証するかで ある。しかし,このような行政措置を溝ずることは必ずしも簡単でない。たと えば,アメリカでは貸付基準の統一のために数年要したし,抵当債権が投資物 件として受け入れられるまでにはそれ以上の年数がかかったのである。 ここで重要な問題はイギリスで抵当債権の流通市場を設立する必要があるか どうかである。アメリカでは政府の規制によって発生した貸付資金の地域的不 22) lbid., pp. 91−92.226 河野稔教授退官記念論文集(第228,229号) 均衡のために流通市場が生れたし,カナダでは住宅金融機関の規模や能力の点 から抵当債権を機関投資家にシフトさせる流通市場があった方が好都合である ので流通市場が発展した。しかしイギリスではこのような理由からの必要性は これまで存在しなかった。 ところで,アメリカやカナダで流通している抵当債権は固定金利であるの で,投資家は他の金融資産の利回りと容易に比較できるが,イギリスでは抵当 貸付けの金利は変動金利であるので,投資家は利回りを前もって知ることはで きない。たしかにアメリカでも変動金利で抵当貸付を行っている金融機関が ある。たとえぽ,カリフォルニア州の若干の貯蓄貸付組合(savings and loan association)である。しかし,アメリカとイギリスの変動金利による抵当貸付 けの間には大きな差がある。つまり,イギリスでは建築組合は抵当貸付金利を 自分で選ぶことができる(BSAによる勧告金利はあるが,これに従う義務はな い)が,アメリカの変動金利は市場金利に従って動く公表指標(published index) に応じて変動できるにすぎない。したがってカリフォルニア州では投資家はこ のような抵当債権(証券)の利回りを予測することが可能である。ところがイ ギリスでは建築組合が抵当貸付金利を自由に決定するので市場金利との間に一 23)既述のように,加盟組合が勧告金利に従う義務はないが大部分の組合はそれを受け 入れてきた。しかし,中には若干高い抵当貸付金利や出資金金利をつける組合もあ り,勧告金利は最低金利となる傾向があるとの指摘もなされている((]f,C. C. Mc・ Guire, International Housing Polieies, D. C. Heath,1981, p.125)。さらに,勧告金 利に従わず出資金に対し,より高い金利をつけた組合はむしろ小規模の組合であった とする実証研究がある。See T. J. Gough&T. W. Taylor, op. cit., esp., pp.42− 47. 24) カリフォルニア州では,変動金利による抵当貸出金利はサンフランシスコ・フェデ ラル・ホーム・ローン銀行(Federal Home Loan Bank of San Francisco)によって決 定され公表される加重平均資金コスト指数(weighted average cost of funds index) の変化に基礎を置いている。この指標はホーム・ローン銀行の貯蓄預金(Sav圭ngs deposit),借入金,および貸付金利(それぞれ6ヵ月間)の加重平均である。抵当貸 付金利の引下げは強制的なものである。引上げは任意的であるが,通常は上の指数に 応じて引ぎ上げられる。アメリカでも変動金利抵当債権の市場性は大きくならないで あろうと予想されている。Motgage Finance, o?・cit・, PP・92−93.
イギリスにおける住宅金融と建築組合 227 定の関係はなく投資家は利回りを予測することができない。さらに,6図の示 すように,イギリスでは抵当債権の金利(BSA抵当貸付勧告金利)は2」6%コ ンソル公債の利回りや20年物社債金利より低利であったし,とくに市場金利の 上昇期にはギャップが大きく.なっている。 6図 イギリスの抵当貸付金利とコンソルおよび社債の利回り 20年物社債の利回り 90 18 16 14 12 10 6 6
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BSA王氏当貸付 勧告金利 2Zパーセン1・コンソルの利mo亀一負 ノ1ノ
ヨ ノ ノ Lマ’ 》 ’ v、 ノ L−N 、一、n
一 s .tx s 卿 ’ゾ「」ハ s 王臼73 74 7b τ6 1T 7s 79 呂け 81 82 83 (出所)BSA Bulletin, No.37(Jan.!984)およびCSO, FinanciαI Statistics, vari・ OUS iSSueSより作成。 以上がイギリスにおける抵当債権の流通市場設立の可能性に関するストー報 告の見解の主たる内容である。 ところで,6図からも明らかなようにスト ・一 eq告以後の状況はそれ以前に比 べて異なっている。それはむしろ構造的変化によるものといえ,80年には抵当 債権の金利が2%%コンソル公債や20年物社債の金利を上回わりさえしてい る。このような現象は一時的なものではなく,加盟銀行が住宅金融(抵当債権) 市場へ本格的に参入してきたことによるもので,ストー報告が指摘した抵当債 権市場が他の金融市場から隔離されているというイギリスの特色の崩壊を意味 するといえよう9このような事態に直面して,薙築組合は1982年後半の金利の228 河野稔教授退官記念論文集(第228,229号) 下落期に加盟銀行が対抗できないような低い住宅(抵当)貸付金利をつけて対 応したとする見擬がある。われわれはこれを否定する具体的な証拠を持ち合せ ないが,6図から判断するかぎり,むしろ加盟銀行が住宅金融市場へ参入する と共にBSAの勧告金利制度は弱体化し,勧告金利自体が市場金利に接近して 行ったという見解の方を支持できるように思える。その結果,従来住宅金融の 供給に関して低金利による資金供給が行われ(これは多分に建築組合自体の性 格によるものであり,その特色の若干はすでに述べた),発生していた住宅資 金の需要者の「順番待ち」は消失した。これは金融の自由化が金利水準を引き 上げた一例であるが,この点は日本における従来の人為的な低金利が金融の自 由化の進展と共に解消しつつあるのと現象的に類似しているといえよう。 このような住宅金融の金利水準の上昇は借手と投資家にとってどのような意 味をもつであろうか。BSAの勧告金利(抵当貸付金利と出資金金利両方に対 して行われる)制度は一種のカルテル協定であり,これを廃止すべきという勧 告はすでに60年代後半に行われ,また既述のように,その後強力な批判も現れ 28) た。だが,加盟銀行自身の金利協定は70年忌初めに廃止された(3節参照)に もかかわらず,勧告金利制度が長く持統されたのは建築組合の性格による以外 に,低利による住宅資金の供給が望ましいという福利厚生的ないし社会政策的 な側面が重視されたためであろう。たしかに金利水準の上昇は投資家にとって 金利収入の増加をもたらすのでプラスとなり,一方借手にとっては金利コス 25) J. S. Fforde, oP. cit., p. 371. 26) M. Boleat, Housing Finance; An international Study, BSA, Dec. 1982, p. 23. 27)NBPI., Re♪ort No.34, Bank Charges, May 1967, Para.19!, P.62.指摘はT. J. Gough&T. W. Taylor, op. cit., p.14による。 28)すでをこ指摘したように,T. J. GQugh&T. W. Taylor, ibidがその代表である。 29)建築組合自体,勧告金利制度をつぎのように弁明している。(iにの制度は通常のヵ ルチルと異なり価格引下げをもたらしている,(iiにの制度は借手にも投資家にも公平 に利益を配分している,と。Statement by R Stow(Chairman〔of the Counci1〕, BSA)in Buzlding Society Aガfais, No.93, March 1978, quoted in T. J. Goagh& T. W. Taylor, ibid., p. 17.
イギリスにおける住宅金融と建築組合 229 トを増加させるのでマイナスとなるが,資金の供給は増加するので借手の関心 が金利よりも資金の入手可能性にあれば必ずしもマイナスとはならないであろ う。この点について,イギリスでは住宅資金の借手はむしろ資金の入手可能性 に関心をもっているといわれてい親したがって抵当貸付金利の上昇は借手に とって必ずしも不利とはならず,結局結論は資金供給の価格(利子)弾力性に よって決まることになる。イギリスの場合,加盟銀行の本格的な参入が発生し ているので他の条件を不変とすれば住宅資金の供給の弾力性は大きいので,金 利の大幅な上昇なしに資金供給の増大の可能性が大きいといえるであろう。 6 む す び 以上,イギリスにおける住宅金融の問題を建築組合の活動を通じて検討して きた。というのは,従来住宅資金の主たる供給者の役割はもっぱら建築組合に よって演じられてきたからである。しかし,金融機関の自由競争の進展と共に 80年代に入り加盟銀行が住宅金融市場へと本格的に参入してきた。この結果, 抵当貸付金利が上昇したことは事実であるが加盟銀行の参入を考慮すれば資金 供給の利子弾力性は大きいと考えられ,また住宅資金の借手が金利よりも資金 の入手可能性を重視しているとすれば,自由化は借手にとってマイナスとはい えないであろう。しかし,このような金融の自由化がイギリスの住宅金融市場 や建築組合,さらに住宅資金の借手や投資家にどのような影響を与えるか今後 注意して行かねぽならない。 既述のように,イギリスでは住宅貯蓄と住宅金融のリγクは弱いし,またリ ファイナンスゐ機構,つまり抵当債権の流通市場も存在しない,しかし,いま やリファイナンス機構成立のために必要な1つの条件一抵当債権の利回りが それに対応する国債や社債の利回りを上回る一が満たされるほど市場は構造 的に変化してきた。これは加盟銀行の住宅金融市場への本格的な参入によるも のであり,加盟銀行間の金利協定が廃止された後長年続けられてきたBSAの 勧告金利制度も事実上崩壊し,金融機関間の金利競争もいっそう進展するであ 30) Cf. lbid., pp. 21 & 59.
230 河野稔教授退官記念論文集(第228,229号) ろう。しかし利回りのこのような変化だけではイギリスにおけるリファイナン ス機構成立のための十分条件が満たされたことにはならない。むしろその成立 がはたしてイギリスで必要とされるかが重要であって,利回りの問題や政府の 行政措置以外にアメリカやカナダのようにリファイナンス機構の必要性がなけ ればその機構確立のための前進は見られないであろう。ただし,加盟銀行の参 入はこれまでの状況を変化させるかもしれない。 しかし,いずれにせよイギリスで銀行がパーソナル・ファイナンス,特に住 宅金融の分野に本格的に進出してきたことは否定できない事実であり,建築組 31) 合との競争の進展がイギリスの住宅金融市場にいかなる影響を与えるかに今後 注目して行く必要があろう。これはまた好むと好まざるにかかわらず金融機関 の自由競争時代に入りつつあるわが国にとっても貴重な教訓を与えるものと思 われるe 31)BSAの幹部の1人は銀行との競争についてつぎの点を強調する。建築組合は今後商 工業への貸付けや国際貸付けも行う完全な銀行(full scale bank)を目指す意図をもつ ているのでなく,あくまで小売銀行業務に徹するのである,と。H. Walden(Chairman of the Council, BSA), “How Building Societies See Their Role in the Financial Services Revolution,” The Banfeer, March 1984, p・ 38,