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電波ばく露に対する人体のマルチフィジクス解析と応用

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(1)

招待論文

電波ばく露に対する人体のマルチフィジクス解析と応用

平田

晃正

a)

Multiphysics Simulation of Human Body Exposed to Radio Waves and

Its Application

Akiamsa HIRATA

†a)

あらまし メガヘルツ帯以上の周波数における電波の人体に与える支配的影響は,電力吸収に伴う温度上昇で ある.体内の温度上昇を非侵襲に測定することはできないため,詳細な人体モデルに対する大規模数値解析を行 うことにより,電波による吸収電力,温度上昇が評価されるようになっている.一方で,体表面付近の温度解析 技術は向上したものの,体内深部の温度を解析するのは容易ではない.本論文では,まず,筆者らが開発した電 磁界及び熱に対するマルチフィジクス解析手法を解説するとともに,体内深部温度を時間領域で高精度に追跡で きる手法を提案,暑熱ばく露による体内温度の測定値との比較から有効性を示す.また,開発した手法を用い, 電波の全身ばく露に対する吸収電力及びそれに伴う体温上昇を解析し,両者の関係について検討する.更に,現 在の電波防護ガイドラインで示された職業人に対する許容電力吸収に対する体内深部温度上昇は高々0.15C で あることを明らかにする.最後に,電波の局所ばく露に対し,吸収電力と体温上昇の関係付けを試みるとともに, 従来の評価指標である局所 10g 平均比吸収率の空間最大値の適用上限周波数は 6GHz 程度であることを示す. キーワード 比吸収率,温度上昇,マルチフィジクス解析,電波防護ガイドライン

1.

ま え が き

携帯電話,無線

LAN

など多角的な無線通信の普及

に伴い,電波の人体への影響に対する関心が高まって

いる.電波の健康影響に関し,マスメディアで取り上

げ始められたのは,世界保健機関(

WHO

)が本問題に

取り組み始めた

1990

年代中頃からである.

WHO

は,

電波防護に関する国際ガイドラインとして,

ICNIRP

International Commission on Non-Ionizing

Radi-ation Protection

:国際非電離放射線防護委員会)ガ

イドライン

[1], [2]

及び

IEEE

規格

[3], [4]

を推奨して

いる.これらのガイドラインあるいは規格では,過去

50

年以上に及ぶ様々な分野の研究成果に基づき,既に

わかっている健康への有害な影響を防止するための制

限値を設けている.健康への有害な影響とは,ばく露

を受けた人またはその子孫の健康に確認可能な損傷を

与えるものである

[1]

.一方,健康への有害な影響にな

名古屋工業大学大学院工学研究科,名古屋市

Graduate School of Engineering, Nagoya Institute of Tech-nology, Showa-ku, Nagoya-shi, 466–8555 Japan

a) E-mail: [email protected]

るかもしれないし,ならないかもしれないものは生物

学的影響とされる.いわゆる無線通信の周波数帯にお

いて支配的な作用は熱作用となる

[1], [4]

.国際ガイド

ラインでは,温度上昇を引き起こす熱源である体重あ

たりの吸収電力である比吸収率(

Specific Absorption

Rate: SAR

)が安全性の指標として用いられている.

電波の生体作用を議論する際には,体内の特定個所

あるいは組織に誘導される物理量を定量化する必要が

あるが,非侵襲に測定することは困難である.外部の

電磁界と人体内に誘導される物理量を定量的に関係づ

けることは,ドシメトリと呼ばれ,特に,数値ドシメ

トリの重要性が増している

[5]

.上述のように,吸収

電力に伴う温度上昇が支配的な生体効果となるため,

SAR

と温度上昇の相関を明らかにできれば,ガイド

ラインの科学的根拠の明確化に貢献できるはずである.

本論文では,まず,電波ばく露により人体内に吸収

される電力及びそれに伴う温度変化を調べるのに有用

なマルチフィジクス解析技術を解説する.特に,人体

の組織構成を考慮した詳細なモデルにおいて,温度上

昇に伴うヒトの温熱生理を考慮している点に特徴を有

する.また,既存手法の問題点を明らかにした上で更

(2)

なる高精度化手法を提案し,暑熱ばく露の測定結果

[6]

との比較により有効性を確認する.更に,電波の局所

的なばく露及び全身ばく露に対する吸収電力及び温度

上昇の解析例を示し,得られた知見を示すとともに,

今後の展望を述べる.

2.

解 析 手 法

2. 1

人体モデル

形状並びに組織構成を詳細に模擬した数値人体モデ

ルが開発され,ドシメトリに用いられるようになって

いる.一般に,人体モデルは磁気共鳴画像に基づき,

構成組織の同定が行われ,数ミリメートル程度の解像

度を有する多数のボクセルから構成されている.国内

においても平均体型の日本人男女の数値人体モデル

TARO

及び

HANAKO

が開発されている

[7]

.これら

のモデルでは,

51

種類の組織が同定され,ボクセルサ

イズは

2 mm

である.また,日本人男性モデルに基づ

き非線形に縮減することにより作成した

3

5

7

歳の

小児モデル

[8]

,日本人女性モデルをベースにした妊娠

女性モデル

[9]

も構築されている.海外では,英国に

おいて,それぞれ

NORMAN, NAOMI

と呼ばれる成

人男性,女性のモデル

[10], [11]

,国際共同研究で開発

された

Virtual Family

と名付けられたモデル群

[12]

などがある.図

1

に情報通信研究機構で開発された日

本人モデル群の概観を示す.

2. 2

電磁界解析手法

マイクロ波ばく露時の人体における

SAR

を解析

する手法として,

FDTD

(Finite-Difference

Time-Domain method)

が頻用されている

[13], [14]

.これ

図 1 日本人モデル群の概観.成人男性,女性,妊娠女性, 7歳,5 歳,3 歳小児を対象.

Fig. 1 Bird view of anatomicaslly based human mod-els of Japanese adult male, adult female, preg-nant woman, 7-year-old, 5-year-old, and 3-year-old children.

は,不均質かつ損失媒質を取り扱う際の高い数値的安

定性に加え,人体モデルは一辺が数

mm

の直方体から

構成される場合が多く,数値解析に際してモデルの再

構築が不要など,取り扱いが容易であることが挙げら

れる.ここで,

FDTD

法とは,マクスウェルの方程式

を差分化し,時間領域で解く方法である.この手法で

は,まず,時間領域でマクスウェルの方程式を中心差

分することにより定式化を行う.次に,解析領域全体

を多数のセルと呼ばれる微小直方体に分割し,電磁界

成分を時間及び空間的に配置する.セルごとに電気定

数を与えることにより,吸収電力の解析を行う.なお,

SAR

は正弦的に変化する電界に対して以下の式で表

される.

SAR =

σ

|E|

2

(1)

ここで,

|E| [V/m]

は正弦的に変化する電界の最大値,

ρ[kg/m

3

]

は組織の密度,

σ[S/m]

は導電率である.

数値人体モデルの各組織に割り当てる電気的特性に

ついては,様々な報告例があるが,

Gabriel

らの測定値

に基づくデータ

[15]

が頻用されている.なお,

Gabriel

らは,

10 Hz

20 GHz

における生体各部位の複素誘

電率についての,終端開放の同軸ケーブルとインピー

ダンスアナライザを用いた実測,複素誘電率を周波数

の関数として表したパラメトリックモデルの開発など

を行っている.

2. 3

熱解析手法

FDTD

法で得られた人体モデル内の

SAR

分布を熱

源とし,生体熱輸送方程式を

FDTD

法で解くことで,

温度上昇を計算する.生体内温度上昇の計算は,電磁

波による熱発生と組織内及び組織間の熱伝導による熱

移動,血流による熱冷却,皮膚表面から外気への熱伝

達を考慮すればよく,体内座標を表す位置ベクトルを

r

とすると,次式で表される

[16]

C(r)·ρ(r)

∂T (r, t)

∂t

=

∇·(K(r)·∇T )+A(r, t)+

ρ(r)·SAR(r)−B(r, t)·(T (r, t)−T

b,m

(t))

(2)

ここで,

T

は温度

[

C]

C

は組織の比熱

[J/(kg

·

C)]

ρ

は密度

[kg/m

3

]

K

は熱伝導率

[W/(m

·

C)]

A

代謝熱

[W/m

3

]

B

は血流定数

[W/(m

3

·

C)]

T

b,m

異なる部位における血液温度

[

C]

m(m = 1, . . . , 5)

m

は頭部及び胴

(m = 1)

,右手,左手,右足,左足)

である.なお,熱時定数は電気現象の時定数より長く,

マイクロ波帯では数分程度である.このため,一般に

(3)

は熱源として

SAR

の時間平均値を式

(2)

に代入すれ

ばよい.

また,境界条件はモデル体表,肺の内部に対して,

次式で与えられる.

−K(r)

∂T (r, t)

∂n

= H(r) · (T

S

(

r, t) − T

a

(t))

+ 40.6 × (SW (r, T

S

(

r, t)) + P I)/S

(3)

ここで,

H

は熱伝達率

[W/(m

·

C)]

T

S

は外気に接

する組織の温度

[

C]

T

a

は外気の温度

[

C]

SW

汗に関する係数

[g/min]

P I

は不感蒸散量

[g/min]

∂/∂n

は法線微分,

S

は人体の表面積

[m

2

]

である.ま

た,

40.6[J

·min/g/s]

は変換係数である.各種熱定数

は,文献

[17]

に示したものを用いた.

これまでの研究においては,筆者らの報告

[18]

を除

いて,詳細な人体モデルを用いて血液温度の時間変化

をモデル化したものはない.また,

[18]

では,血液は

全身を

1

分足らずで循環するため,血液温度の空間変

化を考慮しないと近似したことを一要因とし,実測値

と解析値には差異がみられた

[19]

.そこで,以下の式

(4)

及び

(5)

を導入,前述のように人体モデルを五つ

の部位に分けて異なる血液温度

T

b,m

を導入すること

を提案,高精度化を図る.式

(2)

における部位ごとの

血液温度

T

b,m

は,文献

[18]

の定式化を拡張し,

T

b,m

(t) = T

b,m0

+



Q

btot,m

(t) ± Q

b,n

(t)

C

b

· ρ

b

· V

b,m

dt (4)

により模擬した.ここで,

n(n = 1, . . . , 4)

は部位間の

隣接を表している.また,

T

b,m0

Q

btot,m

V

b,m

は,

部位

m

での血液初期温度

[

C]

,血液が獲得する熱量

[W]

,血液の体積

[m

3

]

である.また,

C

b

は血液の比

[J/(kg

·

C)]

ρ

b

は血液の密度

[kg/m

3

]

である.分

割した部位間で血液により交換される熱量は文献

[18]

より,

Q

b,n

(t) =



h

x

(T

b,1

(t) − T

b,2,...,4

(t))dV

(5)

で与えられ,

h

x

は熱交換係数

[W/

C]

である.以降,

T

b,1

を体内深部温度と定義することとする.

2. 4

温熱生理のモデル化

人体の温熱生理の中で,体温変化に関連するものと

して,発汗,血流あるいは呼吸の変化が挙げられるが,

特に影響の大きい発汗及び血流変化に関する定式化を

述べ,式

(2)

及び

(3)

に組み込む.

(3)

に示した汗に関する係数

SW

は,体内深部温

度及び皮膚の平均温度上昇によって表現される.幾つ

かの定式化があるが,文献

[20]

に基づき,

SW (r, t)

= χ(r)[{α

11

tanh(β

11

ΔT

S

− β

10

) + α

10

}ΔT

S

+

21

tanh(β

21

ΔT

H

− β

20

) + α

20

}ΔT

H

] (6)

で与えた.式

(6)

ΔT

S

ΔT

H

は,それぞれ皮膚

の平均温度上昇及び視床下部の基準温度である.

χ

は部位による発汗率の違いであり,

[20]

の表

2

の値

を用いた.

α

及び

β

は発汗に関するパラメータであ

り,筆者らの報告

[21]

で導出した値である

α

10

= 1.20

[g/(min

·

C)]

α

11

= 0.80[g/(min·

C)]

β

10

= 0.19

β

11

= 0.59[

C

−1

]

α

20

= 6.30[g/(min·

C)]

α

21

=

5.70[g/(min·

C)]

β

20

= 1.03

β

21

= 1.98[

C

−1

]

用いた.

従来の定式化

[20]

では,発汗は全て蒸発すると仮定

されて取り扱われており,湿度の影響を考慮していな

かった.そこで,皮膚表面の蒸発熱量

E

を次式

[22]

より考慮するものとする.

E = 2.2 × h

c

wf

pcl

(P

S

− ϕ

A

P

A

)

(7)

ここで,

h

c

は対流性熱伝達係数,

w

は皮膚の濡れ率,

f

pcl

は被服の透湿率,

P

S

P

A

はそれぞれ皮膚表面及

び外気の飽和水蒸気圧

[mmHg]

ϕ

A

は相対湿度であ

る.皮膚の濡れ率

w

は,皮膚全体が汗に均一に覆われ,

かつ全て蒸発すると仮定した場合の蒸発熱量(

w = 1

における

E

)に対し,実際に人体表面から蒸発される

熱量の比で定義されるものである.なお,発汗が皮膚

表面を完全に濡らすに至った場合,発汗は熱冷却には

作用しない.したがって,式

(7)

において

w = 1

の値

をとるときの蒸発熱量を熱冷却として働く発汗量の上

限とし,解析に組み込むこととした.

高齢者では,加齢に伴い脚部においてのみ

[6], [23]

(一部文献では背中

[23]

を含む)最大発汗率が減少す

ることが報告されている.そこで,高齢者における発

汗率のモデル化に際し,式

(6)

において,

i)

脚部の発

汗率の減少を考慮するために係数

γ

を導入する.ま

た,

ii)

加齢に伴い,熱感度が低下するとの報告に基

づき,発汗しきい値の変化を表現するため

ΔT

S,dec

ΔT

H,dec

を導入することを提案した

[19]

.これらを加

味した式は,以下で与えられる.

SW (r, t)

= γ(r)χ(r)[{α

11

tanh(β

11

ΔT

S

−β

10

) + α

10

}ΔT

S

(4)

+

21

tanh(β

21

ΔT

H

− β

20

) + α

20

}ΔT

H

] (8)

ここで,

ΔT

S

=

0

T

S

< T

S,0

+ ΔT

S,dec

T

S

− (T

S,0

+ ΔT

S,dec

),

T

S

> T

S,0

+ ΔT

S,dec

(9)

ΔT

H

=

0

T

H

< T

H,0

+ ΔT

H,dec

T

H

− (T

H,0

+ ΔT

H,dec

),

T

H

> T

H,0

+ ΔT

H,dec

(10)

である.なお,筆者らの先の報告において,

ΔT

S,dec

1.5

C

程度,脚部における発汗量の低減係数

γ

0.6

から

0.7

とした場合に良い一致が得られることを

示している

[19]

更に,体温変化に伴う皮膚血流定数

B

は,

B(r) =



B

0

(

r) + F

HB

(T

H

− T

H0

) + F

SB

· ΔT

S



× 2

(T (r)−T0(r))6

(11)

で表される

[20]

,式

(2)

に組み込む.

B

0

[W/(m

3

·

C)]

は熱負荷がない状態での血流定数,

F

HB

F

SB

はそ

れぞれ

17,500 W/(m

3

·

C

2

)

1100 W/(m

3

·

C

2

)

とい

う値を有する

[24]

.また,

T (r)

T

0

(

r)

は,皮膚の微

小組織における温度と基準温度である.更に,

ΔT

S

皮膚温度上昇の全身平均値である.なお,皮膚以外の

血流定数

B

の温度依存性は十分小さいものとし

[25]

一定として取り扱うこととした.

3.

解 析 結 果

3. 1

モデルの妥当性評価

人体に電波を照射した際の数値ドシメトリの有効

性については,例えば,文献

[26]

で確認されている.

一方,その際の体内温度上昇を測定し,かつ解析結

果と対照した例はない.なお,本解析手法を用いて,

2.45GHz

マイクロ波を家兎全身ばく露に適用した場

合には測定値と良い一致が得られることし示してい

[18]

が,小動物の熱調整系は十分発達しておらず,

種によって異なる

[27]

.そこで,本論文では,人体に

対する熱解析モデルの有効性を確認する.具体的に

は,文献

[19]

における成人及び高齢者の熱負荷実験を

計算機上で再現し,測定結果と数値解析結果を比較す

る.ばく露条件は,

1)

被験者が温度的中性条件である

図 2 若者及び高齢者が暑熱環境(室温 42C,湿度 40%) に居た場合の深部温度上昇の時間変化

Fig. 2 Time course of core temperature elevation in young and older adults exposed to ambient heat (temperature 42C, humidity 40%).

室温

28

C

の部屋におり,

2)

外気温を最初の

4

分間で

28

C

から

40

C

まで徐々に変化させ,その後

86

分間,

40

C

の温度負荷を加えるものである.

2

に若者及び高齢者の体内深部温度上昇の時間変

化を示す.図より,血液温度を全身に亘り一定とし,

かつ式

(7)

を考慮していない従来手法

[17]

と比べ,提

案手法を用いることにより,測定値とよい一致が得ら

れることがわかる.これは

2.2

で導入した式

(4)

によ

る血液温度の部位依存性及び

2.3

で示した式

(8)–(10)

の発汗の相違を考慮したことによるものである.なお,

高齢者における経過時間

60

分から

90

分の差異は,過

度の発汗に伴う熱調整反応の非線形性など,本論文の

定式化

(6)

では含んでいない要因によるものと考える.

一方,倫理的側面のため,高齢者の

90

分以上の測定

例がないことを付記する.

3. 2

電波の全身ばく露に対する吸収電力と体温

上昇

詳細な人体モデルに対して,電波防護ガイドライン

における許容電磁界強度

[1], [4]

を有する平面波を正

面から照射した際の全身平均

SAR (WBA-SAR)

び体内深部温度上昇の周波数特性を図

3

に示す.な

お,許容入射電磁界強度

[1]

[4]

は周波数に依存する

が,図

3

では許容値上限

[1]

で示された入射電力密度

を入射することとした.図

3

より,周波数に応じて全

身平均

SAR

が変化する.

65MHz

及び

2GHz

におい

てピークを有するが,いずれの場合もピーク値は許

容値である

0.08W/kg

を超えていない.一般に,自

由空間においては電界の偏波面と身長方向とが平行

(5)

図 3 日本人成人モデル正面から電波を照射した際の全身 平均 SAR 及び深部温度上昇の周波数特性 Fig. 3 Whole-body averaged SAR and core

tempera-ture elevation in Japanese male model irradi-ated by the plane wave from the front.

図 4 平面波ばく露による全身平均 SAR で規格化した深 部温度上昇の周波数特性

Fig. 4 Frequency dependency of core temperature el-evation normalized by whole-body averaged SAR.

で,身長

h

がおおよそ波長

λ

0.5

倍に相当する周

波数(

h/λ = 0.4 − 0.46

)の電波が最も吸収されやす

く,

SAR

も最大となる.一方,

2GHz

におけるピーク

は,許容電磁界強度が

2GHz

まで上昇し,それ以上の

周波数では一定となることによるものである

[1]

.ここ

で,図

3

に示す結果と

20

年以上前の回転だ円体モデ

ルを用いて得られた結果

[28]

の差異は,高々数十

%

あった.

4

に,職業環境及び一般環境に対する全身平均

SAR

の許容値である

0.4W/kg

0.08W/kg

に対する

体内深部温度上昇を解析した結果を示す.なお,ガイ

ドラインにおける安全性の指標である全身平均

SAR

は体内深部温度上昇を推定する良い指標であるかを考

察するため,全身平均

SAR

値で規格化している.図

より,規格化した体内深部温度上昇は,数

GHz

まで

ほぼ一定であり,全身平均

SAR

が良い指標であるこ

図 5 平面波ばく露による体内温度上昇分布:60 MHz にお ける (a) 胴体中央及び (b) 大腿部中央断面,5GHz における (c) 胴体中央及び (d) 大腿部中央断面(全 身平均 SAR0.4 W/kg).

Fig. 5 Temperature elevation distribution across the center of the (a) trunk and (b) tight at 60 MHz and (c) trunk and (d) tight at 5 GHz (whole-body averaged SAR of 0.4 W/kg).

とがわかる.一方,数

GHz

より高い周波数では,規

格化深部温度上昇が小さくなる傾向にある.これは電

波の浸透深さが高々数

cm

となり,皮膚表面付近での

体温上昇が大きくなり,結果として皮膚から外気への

熱伝達が大きくなるためと考える.図

5

に,

60MHz

及び

5GHz

における人体表面の体温分布を示す.図よ

り,

5GHz

では人体前面において温度上昇が高い一方,

60MHz

における温度上昇は比較的均一であることが

確認される.なお,図

4

において,規格化した深部温

度上昇は,全身平均

SAR

0.4W/kg

の方が小さい

が,これは熱調整反応のうち発汗の効果により,体内

温度上昇が低下したためである.制限値

0.4W/kg

対する最大の深部温度上昇は

0.13

C

であることがわ

かった.

詳細な結果は示さないが,

3

歳の子供モデルを対象

とした場合の全身平均

SAR

30%

程度高くなる一方,

深部温度上昇は

0.05

C

程度であり,成人モデルに比

べて小さい値となった.これは,子供モデルにおける

体重あたりの体表面積が成人に比べて大きく,冷却さ

れやすいためである

[29]

.また,高齢者における深部

温度上昇は

0.15

C

であり,これは

2.4

で述べたよう

に発汗効果が小さくなるためである.なお,成人に比

べて,小児の身長小さいため,共振周波数が高くなる

が,

SAR

で規格化した体内深部温度上昇の周波数特

性の傾向に差異は見られなかった.

(6)

3. 3

電波の局所ばく露に対する吸収電力と体温

上昇

電波防護ガイドラインに示された局所

SAR

と温度

上昇の関係が,ヒトを対象とした場合にどうなるかは

近年まで十分な議論はなされていなかった.

3.2

に示

した全身ばく露の場合と異なり,携帯電話などの出力

電力はヒトの代謝

(100W) [27]

と比べて十分小さいた

め,式

(2)

における血液温度上昇は十分小さいと仮定

でき,式

(4)

及び

(5)

を用いる必要はない.簡単化し

た定式化を用い,筆者は人体と携帯端末を模擬したア

ンテナの相対位置関係,周波数などを変化させ,数百

にも及ぶ場合に対して解析,得られた結果を統計的に

処理した

[30]

.その結果,

2.5GHz

までの周波数では,

有限質量(おおよそ

10 g

)に亘り平均化した値と最大

温度上昇にはよい相関関係があることを明らかにして

いる.

10g

という質量は,一辺がおおよそ

22 mm

立方体に相当し,人体における電力吸収分布及び生体

組織における熱拡散長の影響を考慮すれば適切な値で

あることが示された

[30]

IEEE

規格は,

2005

年まで

SAR

平均化質量を

1 g

としていたが,この結果に基づ

10 g

に変更

[4]

,国際ガイドライン間での調和がと

れたことは特筆に値する.なお,評価指標である

SAR

の平均化質量は調和がとれたものの,適用上限周波数

は異なっており,更なる検討が求められる.

本論文では,

0.5GHz

から

10GHz

までの周波数帯

において詳細な人体モデルに対して,

SAR

と温度上昇

を解析した.まず,

6GHz

において,垂直方向に配置

したダイポールアンテナによる

SAR

及び温度上昇を

解析した結果の一例を図

6

に示す.モデルには,日本

人成人男性モデル

TARO

を用いた.図

6

より,

SAR

分布と温度上昇分布は比例関係にないことがわかる.

これは,生体熱輸送方程式

(2)

によって決定づけられ

る熱拡散の影響である.

次に,

TARO

モデルにおいて様々な平均化手法を

用いて

10g

平均

SAR

を解析した結果を図

7

に示す.

なお,平均化手法として,

IEEE

規格

[4]

ICNIRP

イドライン

[1]

に基づき,

5

種類の平均化手法につい

て検討する.まず,複数の組織を許容する立方体形状

で平均化し,耳介を四肢と扱い,その

SAR

値を考慮

しない場合とする場合をそれぞれ平均化手法

(i)

(ii)

と定義する.立方体形状の定義については,

IEEE

[4]

で示された方法を用いる.また,任意形状で平

均化し,耳介の

SAR

値を考慮する場合を平均化手法

(iii)

,耳介の

SAR

値を考慮せず,複数組織を許容する

図 6 6GHzダイポールアンテナを側頭部に配置した場合 の (a) SAR 分布,(b) 温度上昇分布.アンテナ出 力電力は 1W で規格化している.実際の無線通信端 末の最大放射電力は数百 mW あるいはそれ以下. Fig. 6 (a) SAR and (b) temperature elevation

distri-bution in the human head model for a dipole antenna at 6 GHz. The output power of the antenna is normalized as 1 W. Output power of common wireless terminal is at most a few hundred mW.

図 7 様々な平均化手法で求めた局所 10g 平均 SAR の最 大値の周波数特性

Fig. 7 Frequency dependency of peak 10-g SAR com-puted by different averaging schemes.

場合と,単一組織のみで考慮する場合をそれぞれ平均

化手法

(iv)

(v)

と定義した.

7

より,いずれの平均化手法を用いた場合におい

ても,局所

SAR

は周波数に大きく依存することがわ

かる.これは電波の生体組織における浸透深さの周

(7)

図 8 ダイポールアンテナによる頭部内温度上昇最大値と SARの比の周波数特性.SAR 平均化手法には (i) を用いた.

Fig. 8 Ratio of maximum temperature elevation to peak SAR with the algorithm (i) for dipole antenna.

波数依存性及び平均化手法の定義によるものと考え

る.特に,

2GHz

周辺において局所

SAR

が極大をと

る傾向にあるのは,電波の浸透深さが筋肉組織におい

15mm

となり,この値は

SAR

平均化質量

10g

の立

方体を考えたときの一辺

22mm

と同程度になること

に起因すると考える.更に,

5GHz

以上の周波数では

SAR

の平均化に耳介を考慮する場合

(

平均化手法

(ii)

(iii))

,考慮しない場合

(

平均化手法

(i)

(iv)

(v))

比べて高い値となる傾向が確認できた.また,平均化

手法

(v)

では耳介を含まないため,

4GHz

以下の周波

数では皮膚ではなく筋肉において

SAR

が最大となっ

た.なお,頭部全体の

SAR

値に対する耳介における

SAR

値の割合は,周波数が高くなるにつれて耳介の

SAR

が占める割合が大きくなる.具体的に,その割

合は

1GHz

10%

2GHz

では

25%

と徐々に上昇し,

4GHz

以上の周波数では

50%

以上となる.

更に,複数の人体モデルを用いて,

IEEE

規格

[4]

に示された平均化手法に相当する手法

(i)

による局所

SAR

に対する頭部内最大温度上昇の比について解析し

た結果を図

8

に示す.ここで,

2.1

で述べた

TARO

HANAKO

NORMAN

に加えて

Virtual Family

デル群の中の成人男性モデル

Duke

11

歳子供モデル

Billie

を用いることとした.図

8

より,平均化手法

(i)

による局所

SAR

に対する頭部内最大温度上昇の比は,

モデル間の差異はあるものの,

4GHz

までの周波数で

0.15–0.32

C

·kg/W

の範囲にあり,

SAR

によりお

おむね温度上昇を推定可能であることを示唆する.ま

た,

TARO

NORMAN

Duke

モデルでは,

8GHz

以上の周波数では局所

SAR

に対する頭部内最大温度

上昇の比は上昇する傾向にあった.これは平均化手法

(i)

において,質量

10g

1

辺がおよそ

22mm

の立方

体に相当するのに対し,

6GHz

では電波の浸透深さが

筋肉組織において

5mm

とされているため,

SAR

の平

均化の際に

SAR

の小さな領域を多く含むためと考え

られる.以上の傾向は,

IEEE

規格

[4]

における局所

SAR

の適用限界が

3GHz

であるものの,過渡的領域

として

6GHz

まで利用可能であることとほぼ合致して

いることは特筆に値する.

4.

む す び

電波による体内温度上昇を非侵襲に測定できないた

め,詳細な人体モデルに対する大規模数値解析を行う

ことにより,吸収電力,温度上昇が評価されるように

なっている.一方で,体表面付近の温度解析精度は向

上したものの,体内深部の温度を推定するのは容易

ではない.本論文では,電磁界及び熱に対するマルチ

フィジクス解析手法を解説した.特に,暑熱ばく露に

よる体内温度の測定値との比較から,提案手法は体内

深部の温度変化を高精度に解析できることを示した.

また,電波の全身ばく露に対する吸収電力,体温上昇

を解析し,両者を関係付ける指標について議論すると

ともに,現在の電波防護ガイドラインで示された職業

人に対する許容値の電力吸収に対する体内深部温度上

昇は十分小さいことを示した.更に,局所ばく露に対

しては,吸収電力と体温上昇の関係付けを試みるとと

もに,従来の指標である局所

10g

平均

SAR

の空間最

大値の適用上限周波数は

6GHz

程度であることを示し

た.以上の知見は今後のガイドライン策定に有用な知

見になると考えられる.

一方,電波はがん治療におけるハイパーサーミア,

生体イメージングなど,多岐の医療目的に応用されて

いる.ハイパーサーミアでは,複数のアンテナにより

患部を加熱する一方,皮膚表面の温度上昇及び体温上

昇を抑えるために水冷するなど様々な工夫がなされて

いる

[31]

.また,磁気共鳴画像を取得する際に用いら

れる電波の周波数及び強度はシステムによって異なる

が,全身平均

SAR

は職業環境化の制限値

0.4W/kg

上回る場合もある

[32]

.今後の課題として,開発した

シミュレーション技術を用いた医療機器の安心・安全

設計が挙げられる.

謝辞 本論文を執筆するにあたり,図作成に協力頂

いた本学大学院生・野村知輝君,太田駿也君に深謝

する.

(8)

[1] International Commission on Non-Ionizing Radiation Protection, “Guidelines for limiting exposure to time-varying electric, magnetic, and electromagnetic fields (up to 300GHz),” Health Phys., vol.74, no.4, pp.494– 522, 1998.

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(9)

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平田 晃正 (正員)

1996年大阪大学・工科卒.2000 年同大 学院工学研究科博士後期課程了.博士 (工 学).1999 年より日本学術振興会特別研究 員,2001 年大阪大学大学院工学研究科助 手.2005 年名古屋工業大学大学院助教授 (現在,准教授).生体電磁気学,計算電磁 気学,アンテナ,フィルタ設計などの研究に従事.2004 年, 2007年電気通信普及財団テレコムシステム技術賞,2006 年 文部科学大臣表彰若手科学者賞,2011 年同科学技術賞(研究 部門),2014 年同科学技術賞(理解増進部門)など受賞.英国 物理学会フェロー,電気学会上級会員,IEEE Senior Mem-ber,Bioelectromagnetic Society 会員.国際非電離放射線防 護委員会科学専門家グループ委員,Physics in Medicine and Biology誌編集委員などを務める.

Fig. 1 Bird view of anatomicaslly based human mod- mod-els of Japanese adult male, adult female,  preg-nant woman, 7-year-old, 5-year-old, and  3-year-old children
Fig. 2 Time course of core temperature elevation in young and older adults exposed to ambient heat (temperature 42 ◦ C, humidity 40%).
Fig. 4 Frequency dependency of core temperature el- el-evation normalized by whole-body averaged SAR
Fig. 7 Frequency dependency of peak 10-g SAR com- com-puted by different averaging schemes.
+2

参照

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