• 検索結果がありません。

中国における遺言方式の改正に関する議論及び日本法からの示唆

N/A
N/A
Protected

Academic year: 2021

シェア "中国における遺言方式の改正に関する議論及び日本法からの示唆"

Copied!
24
0
0

読み込み中.... (全文を見る)

全文

(1)中国における遺言方式の改正に関する議論及び日本法からの示唆. 研究ノート. 中国における遺言方式の改正に関する 議論及び日本法からの示唆 趙 莉 目次 はじめに 一 中国「相続法」における遺言方式とその要件について (一)公証証書遺言について (二)自筆証書遺言について (三)代筆証書遺言について (四)録音遺言について (五)口頭遺言について 二 遺言方式に関する規定の見直しについての議論及び日本法からの示唆 (一)現行遺言方式の改正についての提案及び日本法からの示唆 (二)現行遺言方式に対する新設建議及び日本法からの示唆 三 結びに代えて. はじめに 「現代における遺言は、どこの国の立法例に見ても、すべて、相手方のない 要式的単独行為として構成されている」が 1)、遺言方式については、各国の事 129.

(2) 横浜法学第 22 巻第 1 号(2013 年 9 月). 情や慣習により、 異なる方式を定めていることには疑いがない。現行の中国「相 続法」は、1985 年 4 月に公布され、10 月 1 日施行された後、一度の改正も行 われていない。同年 9 月に『最高人民法院による「中華人民共和国相続法」貫 徹施行に関する若干の問題に対する意見』 (以下「相続法司法解釈」と略称する) が公布されたが、試行と銘打たれたまま今日に至る。30 年間を経て、国民の 財産の増加、社会の変化や民法の法整備に伴い、 「相続法」の改正も立法計画 に組み込まれてきた。 本稿では、中国「相続法」改正に際しての、遺言方式の改正に関する中国国 内の議論を中心に考察し、日本法における遺言方式の要件と比較しながら、日 本法からの示唆について論じると共に、私見を述べることにする。. 一 中国「相続法」における遺言方式とその要件について 中国「相続法」17 条 に 公証証書遺言、自筆証書遺言、代筆証書遺言、録音 遺言及び口頭遺言の五種が規定されているが、日本法に定めている遺言方式と 比較すると、普通方式と特別方式に分類されていないだけでなく、要件として も、極めて簡単と言える。. (一)公証証書遺言について 中国「相続法」17 条 1 項では、 「公証証書遺言は遺言者が公証機関に申請し て制作される」と簡単に規定されるのみであったが、2000 年 7 月 1 日に施行 された「公証証書遺言細則」と 2006 年 7 月 1 日に施行された「公証手続規則」 により詳細規定が加えられている。その要件と性質は次のとおりである。 1. 証人を必要としないこと 「公証証書遺言細則」6 条により、公証証書遺言を作成する際、公証人 2 名 で共同作成すると規定している。特殊な場合には、公証人 1 名と証人 1 名より 作成すると規定しているが、如何なる場合が「特殊な場合」であるかが不明で 130.

(3) 中国における遺言方式の改正に関する議論及び日本法からの示唆. あるため、公証実務上では、公証人 2 名の立会いが通常である。したがって、 中国の公証証書遺言の作成には、日本法と異なり、原則として公証人以外の証 人を必要としない。ただし、 「公証証書遺言細則」16 条により、高齢者、重傷 病患者、視・聴覚障害者が公証証書遺言を作成する際には、公証人と遺言者の 会話を録音または録画をしなければならないとしている。この録音や録画は、 日本法における公証人以外の証人の役割を果たすことになるとの見解があ 2). る 。よって、証人欠格等の理由で公証証書遺言が無効と判断された事例は見 当たらない。他方、録音または録画が必要な場合であるにもかかわらず、公証 機構が録音または録画が行われなかった場合には、公証証書遺言を取消された 事例はある。また、公証人資格のない助手が公証証書遺言を作成した場合や、 特殊な場合と見なされない状況にもかかわらず公証人 1 名により公証証書遺言 3). が作成された場合には、後に無効とされた事例もある 。 2 その他の証書遺言への転化 公証証書遺言の作成手続きについて、 「公証証書遺言細則」12 条は、日本民 法 969 条に定めているのと同様、公証人 2 名の立会いの下で、遺言者が遺言趣 旨を口授し、公証人が遺言者に単独で意思確認した上で筆記し、遺言者に読み 聞かせた後、遺言者が承認かつ署名する、と定めている。しかし、これは公証 証書遺言が作成された時における手続の一環にすぎない。遺言者が自筆証書遺 言を持参する場合には、改正、補足がなければ、遺言者は公証人の前で当該内 容を確認の上、署名し、日付を付記する。改正、補足があれば、書き直した後、 やはり公証人の前で当該内容を確認の上、署名し、日付を付記する。遺言者が 自筆証書遺言を持参しない場合または公証人の前で自筆しない場合には、公証 人が遺言者の真意に基づき、代筆した後、遺言者は公証人の前で当該内容を確 認の上、署名し、日付を付記する( 「公証証書遺言細則」14 条) 。そして後日、 遺言内容に基づく公証証書遺言が発行される。 上述の作成手順から見れば、中国の公証証書遺言には、自筆証書遺言に基づ 131.

(4) 横浜法学第 22 巻第 1 号(2013 年 9 月). く公証証書もあるし、公証人が代筆する場合には、代筆証書遺言に基づく公証 証書もある。これらは、遺言方式の一つなのか、それとも公証書の方式の一つ なのかで、意見が分れかる。つまり、公証証書遺言を作成する際に、手続上の 瑕疵があった場合に、公証証書遺言を取消されたり、裁判により無効と判断さ れた場合には、自筆証書遺言あるはい代筆証書遺言として有効性があると改め て主張する余地の有無が問題となる。私見として、遺言者自身が自筆証書遺言 を提供し、または公証人により作成された代筆証書遺言を公証するのであるか ら、仮に公証証書遺言として認められない場合でも、自筆証書遺言や代筆証書 遺言の要件を満たすならば、有効な遺言と認める余地はあると考える。ただし、 この場合、以下に述べる優先効力はないと思われる。なぜなら、上述のように、 自筆証書遺言は遺言者が提出するものであるし、仮に公証証書遺言の作成から 発行までの間に遺言者が死亡した場合、 「公証証書遺言細則」19 条により、当 該自筆証書遺言あるはい代筆証書遺言は受益者に返却すると規定している。こ の場合、公証証書遺言は発行されないため、当然存在もしないことになる。公 証機構から返却された自筆証書遺言あるはい代筆証書遺言を有効と主張するこ とは当然できるが、その効力を認めるべきか否かについては、裁判所の判断に ゆだねられる。しかし、公証は、遺言に対する公証ではなく、遺言行為に対す る公証であるから、転化する余地もないという見解もある 4)。法改正にあたっ ては、公証遺言証書の定義及び性質ならびに作成手順を明確にする必要がある と思われる。 3.公証証書遺言の優先効力 中国「相続法」20 条 3 項 に よ り、自筆証書遺言、代筆証書遺言、録音遺言 及び口頭遺言は、公証証書遺言を取消したり、変更したりすることができない としている。即ち、公証証書遺言に優先効力を与えている。公証証書遺言を撤 回する場合には、他の方式の遺言で撤回することはできず、同じく公証証書遺 言という方式で撤回するしかないから、遺言撤回自由に反しているとは言える。 132.

(5) 中国における遺言方式の改正に関する議論及び日本法からの示唆. 中国「相続法」が施行された 1985 年には、公証機構は現在のような中立機構 ではなく、国家機関であったため、 「相続法」では「公証機関」と称し、優先 5. 効力を与えたと思われる )。公証遺言証書の優先効力は遺言の自由に反し、廃 6. 止すべきと主張する研究者もいる )。 「相続法」を改正の際には、公証証書遺 言の優先効力を廃止するか、廃止はしなくても、公証遺言の作成手順を詳細に 規定し、かつ裁判で判断の道をひらくか、いずれかの方法を取るべきと思われ る。 4.公証人の署名代行の可否 日中いずれも、公証証書遺言は遺言者の自署が必要と規定しているが、署名 できない者は、日本では民法 969 条 4 項但書により、 「公証人がその事由を付 記して、署名に代えることができる」としているし、最高裁昭和 37 年 6 月 8 日の判例で公証人の署名代行を認めた判例もある。これに対して、中国では、 遺言者が署名できない場合には、捺印も可、印鑑もなければ、指紋押捺も可と 「公証証書遺言細則」18 条 2 項に定めているが、実印登録制度のない中国では、 署名がなく、捺印のみでは、後に争いの原因になりやすいため、実際には、指 紋押捺が通常である。証明力を増し、紛争を避けるため、自署ができない場合 には、公証人は遺言者の両手の全指紋を取らなければならないと「公証証書遺 言細則」18 条 3 項で定めている。日中両国の慣習上の差がこのあたりから窺 える。. (二)自筆証書遺言について 中国「相続法」17 条 2 項により、自筆証書遺言は、全文を自書し、署名の 上日付を明記すると規定している。当該方式の遺言について、日本法と異なり、 修正に関する規定がない。実際、修正箇所に署名のない修正された自筆証書遺 7. 言を無効とした事例や )、日付のない自筆証書遺言を遺言者の決意に基づく行 133.

(6) 横浜法学第 22 巻第 1 号(2013 年 9 月) 8. 為と見なせないという理由で無効とした事例もあった )。自筆証書遺言の欠点 としては、偽造が容易であることが挙げられるから、遺言者本人の自筆か否か、 あるいは遺言者の行為能力をめぐって争いが起きがちである。コンピュータの 普及により、遺言者の自筆文書が少なくなっているため、自筆か否かをめぐっ て、司法鑑定にかけようにも鑑定材料が足りない、または、鑑定材料が本当に 本人のものであるかの真実性が乏しい等の原因で、鑑定ができないという問題 が生じている。 他方で、日本法と異なり、遺言能力は、行為能力者でなければならないと中 国「相続法」22 条に定めており、中国法はイギリス法と同様に、未成年者は 遺言能力を有しないと規定している。高齢化社会に入った中国では、日本と同 様、裁判では判断能力が低下した高齢者の遺言能力が裁判で争われるケースも 増えている。生前に認知症等のような知的障害と診断されていれば、司法鑑定 に委ねることもできるのだが、診断を受けたことのない高齢者が、遺言で全財 産を家政婦に遺贈するといったケースが最近増えている。このため、遺留分制 度の設立が研究者の間で話題になっている 9)、しかし、夫婦共有財産制を採用 している中国では、配偶者に日本のような被相続人の財産の二分の一という遺 留分の割合を設定する必要があるか否かが疑問視されている。余談だが、日本 で平成二十年に施行された「中小企業における経営の承継の円滑化に関する法 律」に、 「遺留分に関する民法の特例」という章が置かれている。 「特例中小企 業者」に限定されているものの、中小企業経営者も増加中である中国にも重要 な示唆を与えてくれる規定であり、中国法が遺留分制度を中国に導入する際に、 慎重に検討を加えるべき項目ではないかと思われる 10)。もっとも、この問題 は本稿の論旨を外れるので、一言私見を述べるにとどめる。他方、成年後見制 度に関する立法も重要な課題だと思われる。さらに、近日、遺言者の署名のあ る印刷された遺言の効力に関する争いもあった。有効と認定された事例もある し、無効と認定された事例もある。これについては後述する。. 134.

(7) 中国における遺言方式の改正に関する議論及び日本法からの示唆. (三)代筆証書遺言について 代筆証書遺言は、中国「相続法」17 条 3 項により、代筆証書遺言は遺言の 方式の一つとして認められている。要件として、2 名の証人の立会いの下、そ のうちの一人が代筆し日付を明記し、代筆者、証人および遺言者が署名する と定められ、実質上、代筆者はその場で署名しなければならないと解されて いる. 11). 。指紋押捺があれば、認められたところなのだが、署名がなく遺言者. の捺印のみであったために、遺言が無効とされた事例がある. 12). 。無効判断の. 理由としては、証人不適格が最重要要因に挙げられるが、証人としては適格で あっても証人間の証明内容にズレがあったり、証人が遺言作成の口授から署名 までの全過程に同席していなかったといった理由でも、無効と認定されるケー スがある. 13). 。. 中国「相続法」18 条により、欠格証人範囲は、 「①無行為能力者、制限行為 能力者;②相続人、 受遺者;③相続人、 受遺者と利害関係がある者」としている。 「相続法司法解釈」36 条は、前 3 款の利害関係者を「相続人、受遺者の債権者、 債務者、共同経営するパートナー」としているが、以下、同条と「相続法司法 解釈」の問題点を論じることにする。 1.実体法上における問題 1)18 条 1 項に規定している欠格証人の範囲が狭い. 18 条 1 項により行為無能力者のみを欠格証人であると規定しているが、視 聴覚障碍者や非識字者の証明能力に関する規定がない。このため、視覚障害者 は代筆者や証人になれるのか、発声ができる聴覚障害者は、書面遺言の証人に はなれるものの、代筆者や口頭遺言、録音遺言の証人にはなれないのではない か、などといった指摘が研究者から出されている 14)。 イギリスの判例では、視覚障害者の証人資格を否認. 15). 、ドイツ連邦『証書法』. では、 「聞く、話すあるいは見る能力のない者」 、 「書けない者」は証人になれ ないと規定している(同法 26 条 2 項 4、5 款) 。ドイツ語で作成された遺言の 135.

(8) 横浜法学第 22 巻第 1 号(2013 年 9 月). 場合、ドイツ語を解さない者も証人にはなれない(同法 26 条 2 項 6 款) 。以上 の規定を鑑みれば、中国「相続法」18 条 1 項に規定する欠格者の範囲は狭い と言える。行為能力者であっても、証明任務を遂行できなければ、証人にはな れないと規定する必要があると考えられる。 2)18 条 2 項に規定してる受益者範囲には非受益者も含まれている. 18 条 2 項に規定している相続人は法定相続人を指すが、中国では、法定相 続人の第一順位は、妻、子および父母、第二順位は兄弟姉妹と祖父母、外祖父 母となる。父母が遺言相続人に指定された場合には、兄弟姉妹は、即ち、遺言 相続人の直系親族、つまり利害関係者になるため、証人になれない。もっとも これは正当であると思われる。ところが、遺言者が高齢の場合、親は生存して いないことが多く、妻子に遺産を相続させるのが通常である。この場合、第二 順位の相続人である兄弟姉妹は、実際には受益者でないにもかかわらず、証人 になれない。実務上、遺言者の兄弟姉妹が証人になった場合に、遺言が無効と された例が多いが、中には有効と判断された事例もある 16)。 各国の法律を比較してみると、イギリス遺言法 15 条では受益者及び配偶者 は証人になれないとしている. 17). 。ドイツ連邦『証書法』では、公証証書遺言. から合法的な利益を獲得する遺言にあるいは相続契約に指定している遺言相続 人または指定された遺言執行者が欠格証人であるとしている(同法 27 条、26 条 1 項 2 款) 。日本民法 974 条 2 号 で は、受益者 を「推定相続人、受遺者」と 明確に規定している。いずれも、法定相続人全員を指すわけではなく、遺言に よって利益を受けうる者に限定している。 3)‌18 条 1 項に規定する利害関係者の範囲が不明確であり、 「相続法司法解釈」の規 定は実際には利害関係のない人も含まれる. 18 条 1 項に規定している利害関係者について、 「相続法司法解釈」は「相続 人、受遺者の債権者、債務者、共同経営するパートナー」を利害関係者と「看 136.

(9) 中国における遺言方式の改正に関する議論及び日本法からの示唆. 做す」という法擬製構造を取っている。擬制とは、ある特定の事実が認められ る場合に本質的には性質の異なる他の法律効果と同一の法律効果を認めること である。当該制度は、ある法制度の目的を実現するため、反証を容れない一種 の法技術である 18)。そうすると、上述の人は実質的には利害関係者ではない。 「相続法司法解釈」は如何なる法制度の目的でここで擬製制度を利用したかが 理解できず、正当ではないと評価できるだろう。実務上では、こうした事例は 見当たらないが、友人が相続人と利害関係があると判断された事案がある 19)。 しかし、 「友人」の判断基準は明らかにされていない。 イギリス遺言法 16 条では、不動産遺産に抵当権を設定した場合の債権者及 び配偶者は遺言の証人になれるとしている 20)。日本民法 974 条は 「推定相続人、 受遺者及びその配偶者並びに直系血族」と明確にしている。フランスでは、受 遺者の四親等以内の血族は、証人になれないとフランス民法 975 条で規定して いる。さらに、フランス民法 980 条で、夫妻は同時に同一の遺言の証人になれ ないとしている。 2.手続法における問題点 1)証人適格性に関する証明要素を規定していない. 遺言の証人は、通常の訴訟における証人とは異なり、本来、被相続人により 選ばれるはずであるが、実務上では、往々にして相続人により選ばれるため、 法は、証人を選ばれる者及び証明プロセスを規定する必要がある。中国「相続 法」には、証明要素について如何なる規定もないが、実務上では、遺言者の口 述、署名、ならびに証人がその場で署名することを求めている。 2)欠格証人が立会った場合に関する規定がない. 2 名以上の適格証人がいるにもかかわらず、欠格証人も立会った場合に作成 された遺言が有効か否かについて、日本最高裁平成 13 年 3 月 27 日の判例は、 特段の事情がない限り有効との判断を示したが 21)、学説は無効の立場に立っ 137.

(10) 横浜法学第 22 巻第 1 号(2013 年 9 月). ている 22)。 「証人が 3 人以上で、適格証人が 2 名いたならば、遺言は有効であ る」と主張している中国の学者がいる 23)。私見では、欠格証人が立合った場 合の遺言の効力について、遺言の受益者や利害関係人が立合った場合には、遺 言を無効とすべきであるが、証明任務を遂行できない行為無能力者などが立 合った場合には、遺言を有効とすべきであると思われる。. (四)録音遺言について 中国法以外で録音遺言を認めている現行法として、2009 年 5 月に改正され た 「韓国民法典」1067 条がある 24)。中国では現行の 「相続法」17 条 4 項により、 証人 2 名の立会いの下、録音で遺言を作成することができるとしているが、現 実には、利用例はすくない。原因として、紙ではなく、電気製品によって遺志 を伝えるということが、年配者には受入れがたいのではないか、ということが 考えられる。. (五)口頭遺言について 中国「相続法」17 条 5 項により、 口頭遺言は危急時に限ると規定されている。 日本法の特別方式である一般危急時遺言に類似した規定といえる。日本法のよ うに、一般危急時と難船危急時に分けられてはいないが、難船危急時も当然含 まれていると考えてよかろう。危急状況が消滅し、遺言者が改めて書面または 録音方式で遺言を作成することができるなら、当該口頭遺言は無効となる。要 件としては、口述に際して証人 2 名を必要とするのみで、筆記や録音を必要と しないため、証人の証言以外、書面による証拠が残らない。当該方式は日本の 一般危急時遺言と比較しても、規定される要件は極めて簡単であるが、口頭遺 言を有効と判断された事例がほとんどないため、空条文となっている。. 138.

(11) 中国における遺言方式の改正に関する議論及び日本法からの示唆. 二 ‌遺言方式に関する規定の見直しについての議論及び日本法からの 示唆 遺言方式に関する規定の改正について、現行法に定める五種の方式を改正す るとともに新たな方式を加えるべきとの説と、現行法の五種類の方式を改正す るのみでよく、新たな方式の追加は不要との説に、意見が分かれている。まず、 現行遺言方式の改正についての提案及び日本法からの示唆について、以下に論 じる。. (一)現行遺言方式の改正についての提案及び日本法からの示唆 1.公証証書遺言について 「相続法」を改正する際、公証証書遺言の作成手順に関する詳細規定を定め るべきと主張する学者が多い。詳細につき、①現行「公証証書遺言細則」7 条の規定、即ち、公証証書遺言は、遺言者本人により申請しなければならな い 25)。同条により、申請者が非識字者の場合、公証人が代筆することができ るとの規定もある。配偶者が代筆した申請が、後に公証機構より取消された事 例もある 26)。②公証人の人数につき、現行「公証証書遺言細則」6 条の内容二 関して、即ち、原則としては公証人 2 名が必要なのであって、特殊な場合に限 り公証人 1 名と証人 1 名という特例が認められると提案する学者がいるが 27)、 2 名以上の公証人、もしくは公証人 1 名、証人 1 名、二者のいずれも可という 選択制と提案する学者もいる。後者は「遺言者に選択権を与えれば、遺言の自 由を最大限度保障できる」と言う理由を挙げる 28)。③公証証書遺言の手順に つき、 「公証証書遺言細則」14 条の内容を盛り込むべきとの意見がある。即ち、 遺言者が公証人の前で遺言を自書するか、もしくは遺言者が口授し、公証人が これを筆記した後、遺言者に読み聞かせ、正確であることを確認した後、公証 人と遺言者が署名の上、年月日も明記し、その後「公証証明書」を発行するの がよいとの提案である 29)。署名できない場合には指紋押捺し、公証人がその 139.

(12) 横浜法学第 22 巻第 1 号(2013 年 9 月). 事由を付記した上で、指紋を署名に代えることができると補足されている 30)。 ④公証証書遺言を作成する際、遺言者の遺言能力、遺言意思表示の真実性、遺 言形式に関する合法性及びその他公証規則の観点から、審査すべき事項を規定 すべきとの主張がある 31)。⑤そもそも公証遺言証書とは、遺言行為を公証す るものなのか、それとも遺言自体を公証するものなのかが問題となる。梁慧星 教授は、日本民法 969 条に倣った公証手順案であり、遺言行為を公証するもの と解釈する立場である 32)。他方、王利明教授は、遺言者が自筆あるいは公証 人の筆記により遺言書を作成し、それに署名し、日付を明記した後、公証人に より「公証証明書」を作成するというプロセスを提案していることから、遺言 証書についての公証と見なしていると理解できる 33)。 私見としては、中国では、公証遺言証書に対して、形式審査ではなく、実質 審査主義を取っているから、公証遺言証書は遺言方式の一つと位置づけられ、 遺言行為についての公証であるため、梁慧星教授の建議案に賛成するものであ る。ただし、公証遺言証書から、他種の遺言方式に転換することができると考 えられる。 2.自筆証書遺言について 自筆証書遺言に関する規定については、現行法を大幅に改正する建議がな いと言えるが、細部については修正意見がある。まず、日本民法 968 条 1 項 の要件と同様に、遺言者の署名以外に捺印が義務づけられるべき、との意見 がある 34)。また、署名を遺言の最後に指定するとの見解がある 35)。最高人民 法院の「相続法司法解釈」に規定している「遺書に財産に関する処分内容があ れば、反対証拠がないかぎり、自筆証書遺言と見なす」という例外方式として 認めるとの意見がある 36)。遺書の修正については、 「加除、改正があった場合 に、加除、改正の文字数を明記し、かつ署名しなければならない」という新規 定が提案されている 37)。ここで、特に指摘しておきたいのは、この修正案は 自筆証書遺言に限って提出されたものではなく、広く遺書に対して提出された 140.

(13) 中国における遺言方式の改正に関する議論及び日本法からの示唆. ものである、という点である。 私見を述べれば、捺印慣習のない中国で、署名に加えて捺印をも自筆証書遺 言の要件にすることは実情にそぐわない。署名する箇所についての厳格な規定 も、イギリス旧法に倣ったものであって、他国で既に廃止された遺言方式を今 さら導入する必要はないと思われる。したがって、日本民法 968 条 2 項自筆証 書遺言における加除及びその変更に関する規定を盛り込むのが妥当と考える。 3.代筆証書遺言について 本条の問題点は、代筆者が証人を兼任できるため、2 名以上必要とされる証 人のうちの 1 名が代筆者を兼ねた場合、代筆を証明する証人が 1 名しかいない 点である。証人を増やせばよいという修正案が持ち上がるであろうことは想像 に難くないが、代筆者と証人を分けるべきか否かについては、意見が分かれる。 現行法の規定は修正せず、証人人数を 2 名から 3 名以上に増やせばよいとの主 張がある一方で 38)、証人 2 名以上の規定は動かさず、代筆者と証人を分けれ ばよいとの主張もある 39)。代筆者、証人ともに遺言者の指定によるべきとの 主張もある 40)。また、代筆証書遺言の手順についてもっと詳細に規定すべき と主張する識者も多い。つまり、遺言者が口授し、代筆者が筆記し、これを遺 言者に読み聞かせ、説明し、遺言者の確認を経た上で、日付を明記し、遺言者、 代筆者及び証人がこれに署名、または署名できない場合には指紋押捺する、と いった規定が必要という立場である 41)。上述の者の署名は、 「遺言書の各頁に も必要」とすべし、との見解もある 42)。 4.録音遺言について 録音遺言については、中国の現行法は「録音方式による遺言は、2 名以上の 証人がその場でこれを証明しなければならない」と極めて簡単に定めているの みであるから、当該方式の遺言の制作手順や録音内容について、より詳細な 規定を求める主張も多い。その詳細とは、①制作者は遺言者でなければなら 141.

(14) 横浜法学第 22 巻第 1 号(2013 年 9 月). ない 43)。②遺言作成手順としては、作成終了後に録音されたテープを封筒に 封じ、遺言者、証人が封じられた封筒の封口に署名し、日付を明記しなければ ならない 44)。③録音内容には、遺言内容以外に、録音者の姓名、制作日時、場所、 証人の氏名及び証人になる意志表示、遺言者が当該遺言を作成する時の精神 状態を録音すること。④録音遺言の開封については、相続開始した後、 「証人、 相続人、受遺者及びその他の利害関係人が全員在席している場で開封する」と いった規定が提案されている 45)。これらに加え、録音遺言を認める以上、録 画も遺言方式として認めるべきとの主張も多い 46)。 5.口頭証書遺言について 口頭遺言の修正については、その場で、あるいは後日に書面にし、証人が署 名をしなければならない、また、危急状態を脱した後一定期間が経過すれば口 頭証書遺言は失効すべきである、というのが多くの研究者に共通する提案であ る。ただし、この一定期間については、10 日 47)、2 週間 48)、三が月 49)と見解 が分かれる。いずれにしても、このような改正が行われれば、口頭遺言の立法 問題点は一応の解決を見ることにはなるが、日本のような遺言検認制度のない 中国では、本人の署名のない口頭証書遺言が有効と認定されることは至難と思 われる。. (二)現行遺言方式に対する新設建議及び日本法からの示唆 現行法に定めている五種の遺言方式のうちの録音遺言に録画遺言を加え、録 音録画遺言と称するとの改正案のほか、日本民法 960 条「遺言は、この法律に 定める方式に従わなければ、これをすることができない」と同様な条文を明確 に定めるべきという、遺言方式法定主義を取る改正案がある 50) 。次に、日本 民法の立法例と同様に、遺言を危急遺言と普通遺言に分けるべきとする案があ るが、実質的に危急遺言方式に属するのは口頭遺言のみである 51)。また、録 画遺言以外でも、秘密証書遺言、印刷証書遺言、電子データ遺言の新設をめぐっ 142.

(15) 中国における遺言方式の改正に関する議論及び日本法からの示唆. ては、研究者の意見が激しく対立している。 1.秘密証書遺言を新設するか否かについて 多様な遺言方式を規定し、遺言者により多くの選択肢を与えることが好まし いという理由から、秘密証書遺言を提案する学者は、 「秘密証書遺言は遺言自 由という原則を踏まえ、遺言者の遺産処分についての意思がもっとも正確に現 れる方式であって、現実的なニーズもあり、遺言紛争の解決の決め手となりう るため、我が国の遺言方式の一つとして規定すべき」と主張する 52)。 「遺言者 の秘密保持の権利を保障するため、秘密証書遺言の効力を認めるべきだ」とし て、具体的な手続きについては、以下のように提案している。つまり、自筆証 書遺言と代筆証書遺言を対象とし、これらが作成された後、遺言者がその証書 を封入し、封じ目に署名し、かつ、証人 2 名の立会いの下で公証機構あるいは 保管を依頼する成人に提出し、当該秘密証書が自己の遺言書である旨と、その 作成者の氏名を申述する。秘密証書遺言を保管する者は、遺言者の上述の申述 及び証書の提出日を封紙に記載した後、証人と共にこれに署名する。また、秘 密証書遺言として、定める方式に欠けるものがあっても、その他の方式を具備 するときは、その他の方式による遺言としてその効力を有することとする 53)。 当該建議は、日本民法 971 条における無効な秘密証書遺言の転換に関する規定 も盛りこんだものといえる。しかし、秘密証書遺言を遺言方式として規定する ことに反対する学者からは、我が国の公証証書遺言は、秘密証書遺言のメリッ トを備えており、その機能を果たしているので、秘密証書遺言を遺言方式とし て別途規定する必要はない。また、公証人や証人に秘密保持義務と遺言保管義 務があるという見解が示されている 54)。これとは別に、秘密証書遺言の内容 は公開されないため、我が国の公証機構の公証内容の真実性、合法性を審査す べきという職務に合致してないとの指摘もある 55)。 私見を述べれば、秘密証書遺言を規定している日本でも、この方式は、 「現 実にはあまり利用されていない」上に 56)、 「廃止論もある」57)、という実態を 143.

(16) 横浜法学第 22 巻第 1 号(2013 年 9 月). 踏まえると、我が国に導入する必要はないと思われる 58)。 2.共同遺言を認めるか否かについて 現行中国「相続法」には共同遺言に関する定めがなく、遺言は「法に定める 方式によらなければならない」 、あるいは、 「よらなければ、することができな い」といった明確な条文もないため、共同遺言の効力に関して如何に認定する かが、実務上大きな争点となっている。 「公証証書遺言細則」15 条では、 「二 名以上の遺言者が共同遺言の公証を申請した場合、公証機構は別々に作成する ように指導しなければならない」 (1 項) 、 「申請者が共同遺言の公証を堅持す る場合には、遺言の変更、撤回及び発効の条件を、共同遺言に明確に記載しな ければならい」 (2 項)と定めている。公証実務の立場から、紛争が絶えない ため、共同遺言に関する上記の条文を削除すべきとの主張があるが 59)、逆に 共同遺言を支持する見解もある 60)。 夫婦共同遺言容認派の研究者は、その理由について、中国では夫婦が共同で 遺言する慣習があり、これを無視して夫婦共同遺言を無効とすれば、こうした 人々の、自己遺産の処分についての意思は尊重されず、かつ慣習にも反すると し、夫婦に限って共同遺言を認めるべきと主張しており、具体的運用について は、夫婦共同遺言は、 「夫婦の一方が生存している場合には、遺言の効力は生 じない」 、夫婦共同遺言の「撤回は契約解除の規定を適用し、夫婦一方の死亡 後は撤回することができない」との案を挙げている 61)。これに対して、日本 民法 975 条と同様に「遺言は、二人以上の者が同一の証書でこれをすることが できない」と明確に禁止すべきという否定説もある 62)。禁止を主張する理由 として、我が国では、両親とも死亡した後に、遺産を分割するのが普通である、 という点を挙げる。そして、両親の一方が死亡した後の財産の管理については、 夫婦共同遺言を認める方法ではなく、共有物管理に関する法を整備する方法で 解決すべきであると主張している 63)。 私見としては、台湾の学者の以下の指摘が妥当ではないかと思われる。つま 144.

(17) 中国における遺言方式の改正に関する議論及び日本法からの示唆. り「遺言は絶対的な自由を有し、その成立、消滅についての判断は単独でなさ れるべきである。共同遺言は、遺言の撤回を妨げるし、共同遺言者の意思が不 明である問題が生じやすい。よって、共同遺言を認めないのは当然である。夫 婦といえども独自の人格を有するのであり、例外解釈する必要もない」64)。実 際、夫婦共同遺言が一方の死亡後に撤回されるケースが多いのだが、 「一方の 死亡後には撤回することができない」 、 「夫婦の一方が生存している場合、遺言 の効力は生じない」と規定すれば、遺言撤回の自由、最終意思を尊重する、と いう遺言の原則にも反し、結局、紛争の種になりやすいと思われる。相続法で 夫婦共同遺言の禁止を明確に定めれば、当該方式の遺言をしないよう指導する ことにも、正当性が備わる。また、離婚率が年々上昇している中国では、両親 とも死亡した後に遺産を分割するという慣習も崩れつつあり、夫婦共同遺言を 認める社会基盤そのものがなくなりつつあると思われる。 3.その他の方式 上述のように、現行の五種の遺言方式以外に、印刷証書遺言、電子データ証 書遺言、録画遺言と秘密遺言の四種を新設すべきとの提案がある 65)。ここで、 印刷証書遺言、電子データ証書遺言につき、検討することにする。 ①印刷証書遺言. パソコンの普及により、プリンタで印刷された文書が通常的になった。これ に伴い、印刷された遺言が有効であるか否かの争いが実務上でも出現してきて いる。広東省のある事例は、弁護士が遺言者の口授をパソコンで記録し印刷し た文書に、遺言者が署名、指紋押捺し、利害関係のない証人 4 名がこれに立ち 会ったものの、署名はしなかった、というケースであったが、一審、二審とも 有効と判断された。浙江省の事例では、遺言内容の全文が印刷された文書に、 遺言者の署名のみがあり、日付は明記されていなかった。一審では無効と判断 されたものの、二審では、 「相続法」に印刷証書遺言は無効とする規定がない 145.

(18) 横浜法学第 22 巻第 1 号(2013 年 9 月). 以上、有効であると自判、その後の再審でも二審判決を支持した。しかし、瀋 陽市の事例では、パソコンを使って印刷された遺言書は、自筆証書遺言ではな いため無効と判断された 66)。 実務上、このように対立する判断が林立する中、識者からは、印刷遺言を一 つの遺言方式として定めるべきという改正案、自筆や代筆遺言書証の一種とみ なせばよいという改正案など、異なる見解が示されている。前者は、誰が入力 したかを問わず、印刷証書遺言は、自筆証書遺言とも代筆証書遺言とも異なる、 単独の遺言方式として規定すべき、という立場である。具体的には、プリンタ で印刷する遺言書は、証人二名以上が立会って作成されなければならない。遺 言者と証人が、遺言書の各頁に署名し、日付と頁数も明記するという方法が提 案された 67)。これに対して、遺言者が作成したという証拠があれば、自筆証 書遺言として認定し、代筆証書遺言の要件が満たされれば、代筆証書遺言とし て認定すればよい、との意見もある 68)。 私見としては、後者が妥当と考える。つまり、遺言者本人が 2 名以上の証人 の立会いの下で作成し、遺言者と証人が署名すれば、自筆証書遺言として認定 する。他方、3 名以上の証人の立会いの下、遺言者の口授が証人によって記録 され、印刷された遺言は、代筆証書遺言として認定する、という方法である。 ②電子データ証書遺言. 遺言者が作成した遺言を、電子メールで相続人や受遺者あるいは他人に送っ た場合、現行法では、当該遺言は無効と認定されるが、法改正に際しては、当 該方式による遺言が一定の要件を具備すれば、有効と認めるように改めるべき だとの意見がある。要件として、信頼性の高い電子署名を用いること、2 名以 上の証人が立会うこと。証人は、電子データ証書遺言を保存した電子システム と作成期日を記録し、公開鍵 69)を保存すること、などが挙げられている 70)。 しかし、2005 年 4 月 1 日に施行された中国「電子署名法」3 条 3 項 1 款では、 電子署名、データベース文書は婚姻、養子縁組、相続のような人身関係には適 146.

(19) 中国における遺言方式の改正に関する議論及び日本法からの示唆. 用しないと明確に規定しているため、電子データ証書遺言を遺言証書の一方式 として規定するには、 「電子署名法」の修正が必要となることから、大作業に なると思われる。そもそも、遺言方式に電子データ証書遺言を加える必要が果 たしてあるか否かが疑問である。電子データのような先進技術は、取引の効率 化などには有効だが、遺言証書のように真実性の確保が第一位である文書に、 書面証書という選択肢がありながら、ペーパーレスを考慮する必要はないだろ う。. (三)証人制度の見直しに関する提案 遺言の証人は、遺言者が選任する場合が多いものの、相続人より選任する場 合もある。 私見として、台湾民法のように、証人は遺言者により選任される と規定することを建議する。これを前提に、以下、筆者の修正案を述べること にする。 1.欠格証人範囲を改正すること まず、現行相続法 18 条 1 款の「行為無能力者、制限能力者」は、 「読むこと が必要である時の視覚障害者及び聞く話すが必要である時の聴覚障害者並びに 非識字者」と明確に規定しする必要があると考える。 そして、同条 2 款に規定している「相続人」の範囲を広げる必要があると考 える。法改正で第三順位相続人まで広げた場合、とくに中国農村部では、証人 になる資格のある人が少くなくなる。また、相続人であっても、必ずしも遺言 の利益者になるとは限らない。よって、 「相続人」を「遺言により相続させる 相続人」と改めればよい。日本法のような「推定相続人」という用語を使用し ないが、それは、こうした概念語は一般市民にとって分りにくいと考えるから である。 最後に、同条 3 款に定めている利害関係者は、 「遺言で指定された相続人、 受遺者の配偶者及び直系血族」と明確に規定すべきと考える。このように規定 147.

(20) 横浜法学第 22 巻第 1 号(2013 年 9 月). すれば、例えば遺言で親を相続人として指定する場合、法定相続人である遺言 者の兄弟姉妹は受遺者の直系血族となり、利害関係があるため、証人になれな いが、配偶者や子を指定する場合には、法定相続人である遺言者の兄弟姉妹は 証人になれることになる。 2.見証手続に関する規定を新設すること 18 条に 2 項新設し、第 2 項で受益者や利害関係人が証人として立ち会って 作成された遺言は無効であると規定し、第 3 項では「証人は遺言者により指定 され、遺言者の口述、確認および署名を証明しなければならない。証人はその 場で署名する」 、と規定することを提案する 71)。. 三 結びに代えて 遺言は、遺産を分配し、紛争を事前に予防し、遺言者の終意を実現する重要 な法律文書として、その方式や構成要件についての規制が必要であるが、遺言 検認制度や遺言執行制度など関連制度の設立も今後重要な課題であると思われ る。そこで、日本で蓄積されてきた学説や実務経験も、今後、中国「相続法」 の改正の重要な参考になると思われる。 本稿は、江蘇大学優勢学科建設工程基金項目(PAPD)の助成を受けて作成した。 1)中川善之助、泉久雄『相続法』 (有斐閣、平成 12 年版)486 頁。 2)其琨、有為「公証証書遺言細則に関するいくつの問題」中国司法 2006 年 6 号 61 頁。 3)陳丹「公証証書遺言者若干問題に関する研究」中国公証 2011 年 4 号 45 頁。 4)陳協心「公証証書遺言を印刷方式で作成に関する法律問題」中国公証 2011 年 9 号 49 頁。 5)‌2006 年 3 月 1 日より施行された中国「公証法」6 条により、 公証機構は法により設立され、 営利目的とせず、法に従い公証職能を独立に行使し、民事責任を負う証明機構であると 規定しているから、その後、 「公証機関」と名称せず、 「公証機構」にしたわけである。 6)‌例え、 陳苇『外国相続法の比較と中国民法典相続編の制定に関する研究』 (北京大学出版社、 148.

(21) 中国における遺言方式の改正に関する議論及び日本法からの示唆. 2011 年版)347-359 頁、楊成良「公証証書遺言優先効に対する質疑」西安電子科技大学学 報 2002 年 6 号 47 - 49 頁。 7)‌新快報(2013 年 05 月 23 日)に「24 億元を子に?不思議な遺言を無効とした」という 報道により、自筆証書遺言に遺産分配のところに修正もあるし、遺産である貯金の金額 は 24 万元なのに、遺言に四人の子一人に 60000 万元と書いてある。 ( http://epaper.xkb. com.cn/view.php?id=863085、2013 年 5 月 25 日訪問) 8)‌李琴玉「自筆証書遺言に日付を明記しなかったため無効とした」中国法院ネット 2013-0515( http://www.chinacourt.org/article/detail/2013/05/id/958453.shtml、2013 年 5 月 20 日 訪問) 9)‌代表として、夏吟蘭「遺留分制度に関する論理価値分析」現代法学 2012 年 5 号 41-45 頁、 許莉「我が「相続法」に遺留分制度の新設について」法学 2012 年 8 号 21-25 頁等。 10)‌拙稿「日本の遺留分制度の改正及び示唆」政治と法律 2013 年 3 号 140 頁以下。中国現 行「相続法」では、労働能力なく、収入のない相続人に必要分制度を規定しているが、 日本のような遺留分制度が置かれていない。筆者は、遺留分制度を相続人の間に相続 させる場合には導入せず、必要分制度で調整するが、相続人以外の他人に遺産を遺贈 する場合に限って遺留分制度を導入すると主張した。 11)‌雲南省昆明中級人民法院(2007)昆民二終字第 178 号民事判決書を参照される。北京大 学法意データベス。第一審法院は、当該代筆遺言を有効としたが、第二審法院(終審) は無効とした。 12)‌ 「楊桂英 vs 邢元寿相続事案」 人民法院事案と評注 (民事一巻) (中国法制出版社,2006 年版) 、 38 頁。 13)‌湖南省常徳市中級人民法院(2011)常民一終字第 9 号民事判決書。北大法宝データベス。 本事案における遺言無効の理由の一つは、証人が遺言を作成全過程を見なかったこと。 14)劉茂春編『中国民法学 · 財産相続』 (中国人民公安出版社,1990 年版)355 頁。 15)Andrew·Iwobi『Essential Succession(2) 』 (武漢大学出版社,2006 年版)34 頁。 16)‌山東省青島市中級人民法院(2011)青民五終字第 233 号民事判決書。北大法宝データベス。 本件遺言の指定相続人は、遺言者の再婚の妻であり、遺言の証人は、遺言者の四人の姉 妹であった。一審、二審とも有効とした。 17)‌陳碰有「イギリス遺言相続制度に関する研究」 『アモイ大学法律評論』 (アモイ大学厦门 大学出版社,2001 年版)280 頁。 18)卢鹏「法律擬制について法律拟制」比較法研究 2005 年 1 号 142 頁。 19)‌湖南省常徳市中級人民法院(2011)常民一終字第 9 号民事判決書。北大法宝データベス。 149.

(22) 横浜法学第 22 巻第 1 号(2013 年 9 月). 本事案における遺言無効の理由の一つは、証人の一人は相続人の友人であること。 20)陳苇編・前掲書 310 頁。 21)判時 1745 号 92 頁。 22)本橋美智子『要約遺言判例 100』 (学陽書房,2010 年版)78 頁。 23)劉茂春編・前掲書 353 頁。 24) 『韓最新民法典』崔吉子訳(北京大学出版社,2010 年版)268 頁。 25)‌梁慧星編 『理由つけ中国民法典草案建議稿・不法行為法、 相続法』 (法律出版社,2004 年版) 376 頁、 王利明編『中国民法典学者建議稿及び立法理由』 (法律出版社,2005 年版)556 頁。 26)‌周元卿「公証証書遺言を取消され、公証機構が賠償責任を負わせた」中国法院ネット 2013-02-20 http://www.chinacourt.org/article/detail/2013/02/id/896091.shtml( 2013 年 5 月 20 日訪問) 27)‌梁慧星編・前掲書 376 頁、楊立新、楊震「 「中華人民共和国相続法」改正草案建議稿」河 南財経政法大学学報 2012 年 5 号 17 頁。 28)魏小軍『遺言有効要件研究』 (中国法制出版社,2010 年) 、215 頁。 29)梁慧星編・前掲書 376 頁。 30)楊立新、楊震・前掲論文 17 頁。 31)梁慧星編・前掲書 376-377 頁。 32)梁慧星編・前掲書 377 頁。 33)梁慧星編・前掲書 377 頁。 34)張玉敏『中国相続法立法建議稿及び立法理由』 (人民出版社,2006 年版)114 頁。 35)楊立新、楊震・前掲論文 17 頁。 36)梁慧星編・前掲書 377 頁、王利明編・前掲書 558 頁。 37)王利明編・前掲書 558 頁。 38)張玉敏・前掲書 113 頁。 39)張玉敏・前掲書 114 頁。 40)張玉敏・前掲書 113 頁。 41)王利明編・前掲書 559 頁、張玉敏・前掲書 114 頁、楊立新、楊震・前掲論文 17 頁。 42)楊立新、楊震・前掲論文 17 頁。 43)梁慧星編・前掲書 377 頁、王利明編・前掲書 556 頁、張玉敏・前掲書 114 頁。 44)梁慧星編・前掲書 377 頁、張玉敏・前掲書 114 頁、楊立新、楊震・前掲論文 17 頁。 150.

(23) 中国における遺言方式の改正に関する議論及び日本法からの示唆. 45)梁慧星編・前掲書 377 頁。 46)梁慧星編・前掲書 377 頁、王利明編・前掲書 559 頁、楊立新、楊震・前掲論文 17 頁。 47)張玉敏・前掲書 118 頁。 48)梁慧星編・前掲書 378 頁、王利明編・前掲書 560 頁。 49)楊立新、楊震・前掲論文 18 頁。 50)‌それを明確にしたのは王利明教授の建議稿 596 条である。楊立新教授と張玉敏教授とも 「法に定めている方式に従って遺言をする」としている。 51)張玉敏の建議稿は、このように分類している。張玉敏・前掲書 12 頁を参照されたい。 52)楊立新「 「相続法」改正に関する十つの問題に対する意見」法律適用 2012 年 8 号 28 頁。 53)張玉敏・前掲書 114-115 頁。 54)王利明編・前掲書 531、556 頁。 55)張平華、劉耀東著『相続法原理』 (中国法制出版社,2009 年)311-312 頁。 56)二宮周平『家族法(第 2 版) 』 (新政社,2005 年版)386 頁。 57)二宮周平・前掲書 386 頁。 58)拙稿「中国遺言方式要件に関する認定及び改正について」北方法学 2012 年 5 号 94 頁。 59)‌張宇紅、寇玉芳「 「公証証書遺言細則」を改正に関するいくつの建議」中国公証 2010 年 2 号 50 頁。 60)其琨、有為・前掲論文 63 頁。 61)楊立新、楊震・前掲論文 19 頁。 62)王利明建議稿 597 条である。王利明編・前掲書 553 頁。 63)王利明編・前掲書 555 頁。 64)陳琪炎、黄宗楽、郭振恭『民法相続新論』 (台湾三民書局)307 頁。 65)楊立新、楊震・前掲論文 17 頁。 66)梁分、劉文革「印刷遺言効力に関する研究」人民司法(応用)2010 年 11 号 67 頁。 67)楊立新、楊震・前掲論文 17 頁。 68)張萱、陶海栄「印刷遺言の法律性質と効力」法学 2007 年 9 号 141 頁。 69)‌公開鍵とは、公開鍵暗号方式で使用される一対の鍵の組のうち、一般に公開される ほうの鍵。公開鍵で暗号化されたデータは秘密鍵でしか復号できないため、公開鍵 は他人に知られてもセキュリティレベルが低下しない。 (http//:www.e-words.jp/w/ E585ACE9968BE98DB5.html、2013 年 5 月 12 日訪問) 151.

(24) 横浜法学第 22 巻第 1 号(2013 年 9 月). 70)‌電子データ証書遺言を提案したのは、楊立新、楊震の建議稿だけである。楊立新、楊震・ 前掲論文 17 頁。 71)‌拙稿「中国遺言証人制度の見直しについて」海峡法学 2013 年 1 号 78-83 頁。. 152.

(25)

参照

関連したドキュメント

本章では,現在の中国における障害のある人び

今日のお話の本題, 「マウスの遺伝子を操作する」です。まず,外から遺伝子を入れると

式目おいて「清十即ついぜん」は伝統的な流れの中にあり、その ㈲

1 月13日の試料に見られた,高い ΣDP の濃度及び低い f anti 値に対 し LRAT が関与しているのかどうかは不明である。北米と中国で生 産される DP の

本論文での分析は、叙述関係の Subject であれば、 Predicate に対して分配される ことが可能というものである。そして o

(自分で感じられ得る[もの])という用例は注目に値する(脚注 24 ).接頭辞の sam は「正しい」と

   遠くに住んでいる、家に入られることに抵抗感があるなどの 療養中の子どもへの直接支援の難しさを、 IT という手段を使えば

断するだけではなく︑遺言者の真意を探求すべきものであ