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【サイエンス<冬季>セミナー】 カルボニル・オレフィン化反応(1) [PDF :917KB]

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Academic year: 2021

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1. はじめに

 1953 年に Wittig はリンイリド 1 とカルボニル化合物の反応によりオレフィンが生成することを報 告した1) 。Wittig 反応2)として知られるこの反応によれば,カルボニル基の C=O 結合の位置に常に C=C 結合が形成され,他のアルケンの位置異性体は生成しない。Wittig 反応の発見以来,カルボニル 化合物の炭素−酸素二重結合を,その位置で炭素−炭素二重結合に変換するこの反応(カルボニル・ オレフィン化反応)については,有機合成における主要な炭素骨格構築法の一つとして多くの研究が 行われてきた。その結果,Wittig 反応と同様に有機リン化合物を利用する Horner–Wadworth–Emmons

反応3) ,有機硫黄化合物を利用する二つの Julia 反応(Julia–Lythgoe 反応と Julia–Kocienski 反応:コラ

ム参照)4) ,有機ケイ素化合物を利用する Peterson 反応5)など,様々な反応がこの目的のために開発 された(Scheme 1)。これらの反応はそれぞれ特徴的な反応性や選択性を示し,合成の標的化合物の 構造に応じて広く有機合成に利用されている。  一方,既に多くの研究が行われているにもかかわらず,カルボニル・オレフィン化には,様々な未 解決の課題が残されている。本稿ではこれら課題の幾つかについて,我々の研究の成果と共に紹介する。

2.四置換オレフィン

 Wittig 反応や Horner–Wadsworth–Emmons 反応に残された大きな課題の一つは,多置換オレフィン合 成への応用が困難なことである。1972 年に Barton はアジンを経由する四置換オレフィンの多段階合 R3 PR3 R4 R2 R1 R4 R3 R1 R2 O R3 SiR3 R4 R3 SO2Ar R4 (Na/Hg) R3 POR2 R4 Wittig reaction Horner-Wadsworth-Emmons reaction Julia reaction Peterson reaction 1 Scheme 1

サイエンス〈冬季〉セミナー

サイエンス〈冬季〉セミナー

カルボニル・オレフィン化反応(1)

東京農工大学 大学院 工学研究院 教授 

武田 猛

(2)

成法を報告しているが(Scheme 2)6) ,この論文の中で「オレフィンを生成する反応は立体障害の影 響を大きく受ける。Wittig 反応は二置換オレフィンの合成には広く使われているが,三置換オレフィ ンの場合には収率が低く,四置換オレフィンの場合には一般に極めて低い(しばしば報告されていな い)」と記述している。  また Julia–Lythgoe 反応によるケトンの三置換オレフィンへの変換も通常の反応条件では困難であ り,第二段階である還元を SmI2で行う改良法により達成されている(Scheme 3)7) 。さらに困難 であるケトンの四置換オレフィンへの変換に Julia 反応を利用した例は知られていないようである。 Peterson 反応による四置換オレフィンの合成については立体障害が小さいアルキリデン基が置換した 環状化合物の合成例などが報告されているが,三置換オレフィンの合成に比べると収率が大幅に低下 する(Scheme 4)8)  嵩高い置換基を持つ四置換オレフィンを合成する最も有力な手段は,おそらく低原子価チタン化合 物によるケトンの還元二量化反応(McMurry カップリング)9)だろう。tert-ブチル基が四つ置換した エチレンの合成は報告されていないが,イソプロピル基などが置換したオレフィンの合成が行われて いる(Scheme 510),6 11))。しかし,一方のケトンを過剰量使用しても非対称オレフィンの選択的な 合成が難しい(Scheme 7)12)など,McMurry カップリングには制約が多く,ケトンを多置換オレフィ ンに変換する新しいカルボニル・オレフィン化反応が求められている。 O H2N NH2 N N H2S HN S HN N S N P(OEt)3 Pb(OAc)4 2 74% 100% 99% 75% Scheme 2 Hex SO2Ph / BuLi Ph O 1) 2) PhCOCl Ph OCOPh Hex SO2Ph 81% SmI2 Ph Hex 72% E:Z = ca. 2:1 O O SiMe3 / LDA Ph R O O O Ph R R = H 89% R = Me 50% Scheme 3 Scheme 4 O 2

TiCl3(DME)1.5-Zn/Cu

87% O 2 13% TiCl3-LiAlH4 Scheme 5 Scheme 6 O O + TiCl3 / Li +

(3)

3.カルボン酸誘導体のオレフィン化

 カルボニル・オレフィン化によるカルボン酸誘導体のヘテロ原子置換オレフィンへの直接的な変換 についても多くの研究が行われているが,この変換にもまた様々な制約が残されている。アルデヒド やケトンのオレフィン化とは異なり,Wittig 反応をエステルなどカルボン酸誘導体のカルボニル・オ レフィン化に適用することは,アシル化が優先するため一般には困難と考えられている。しかし実際 には,下の例に示すように,アシル化(Scheme 8)13)とオレフィン化(Scheme 9)14)のいずれが優 先するかは基質の構造に依存しており,ある場合には合成的に十分な収率でヘテロ原子置換オレフィ ンが得られる。Scheme 9 に示した反応では環構造の形成に有利な立体配座とともに,共役系の生成 がオレフィン化を優先させているものと考えられる。  さらに幾つかの反応例を下に示したが(Scheme 1015),1116),1217),1318)),カルボニル・オレフィ ン化が選択的に進行するのはギ酸エステルや電子求引性のペルフルオロアルキル基やアシル基が置換 したカルボン酸誘導体などに限られる。これらの反応は Non-classical Wittig 反応19)と呼ばれ,最後の 例に示すように複素環の合成にはしばしば利用されている。  McMurry カップリングは通常アルデヒドやケトンの還元的二量化に用いられるが,エステルやアミ ドを用いた反応も知られている。分子間反応によるエノールエーテルなどのヘテロ原子置換オレフィ ンの合成例は限られているものの(Scheme 1420),1521)),カルボン酸誘導体の分子内 McMurry カッ プリングはベンゾフラン(Scheme 16)22)やインドール(Scheme 17)23)などの合成に有用であり, アルカロイドなど天然有機化合物の全合成にもしばしば用いられている。 O O OAc AcO OAc O PPh 3 O O O OAc AcO OAc O 65% N S PhOCH2CONH O CO2Bn CO2Me Ph3P 67% N S PhOCH2CONH CO2Bn MeO2C E:Z = 1:1 Ph3P OEt O O PPh3 84% O O CF3 Ph PPh3 O CF3 Ph 65% PPh3 S O NHOBn S NHOBn 86% O O O O O PPh3 OMe OMe O O 60% Scheme 10 Scheme 12 Scheme 8 Scheme 11 Scheme 13 Scheme 9

(4)

 カルボン酸誘導体をヘテロ原子置換オレフィンに変換する方法としては gem- 二臭化物と TiCl4−

Zn − TMEDA から生成する有機金属種を用いる反応(Scheme 18)24)や,gem- 二亜鉛化合物を用い

る反応(Scheme 19)25)なども知られている26)  このように,カルボン酸誘導体のカルボニル・オレフィン化には様々な試薬が用いられているが, この変換に使用される最も一般的な試薬となりうるのはチタン−カルベン錯体であろう。1978 年に Tebbe 試薬 2 から生成するチタン−メチリデン錯体 3 がカルボニル化合物をメチリデン化することが 見出されて以来27) ,Pine,Grubbs,Petasis をはじめ多くの研究者によりチタン−カルベン錯体を利用 するカルボニル・オレフィン化が研究されてきた28) 。メチリデン錯体 3 は最も汎用されるカルボン 酸誘導体のメチリデン化試薬であり,Scheme 20 に示した反応29)をはじめ,多くの反応例が知られ ている。ビス (トリメチルシリルメチル) チタノセン 4 から生成する 5(Scheme 21)30)のようなアル キリデン錯体も様々なヘテロ原子置換オレフィンの合成に役立つ。しかし,このようなジアルキルチ + O OEt t-BuS O OEt SBu-t TiCl3-LiAlH4, Et3N 60% Scheme 14 O NEt2 + MeO NEt2 Ph Ph MeO Ph Ph O Sm-SmI2 75% NH O O NH TiCl3-C8K 86% MeO MeO OMe OMe OMe OMe MeO MeO H O O Ph O O Ph TiCl3-C8K 89% Scheme 15 Scheme 17 Scheme 16 Ph OMe O Ph MeO Br Br / Zn / TiCl4 TMEDA 61% E:Z = 10:90 OPr-i O OPr-i β-TiCl3 / TMEDA 90% CH2(ZnI)2 Scheme 18 Scheme 19

(5)

 私たちはこれらのカルボニル・オレフィン化に用いられている従来法の問題点を解決するため,チ オアセタールの二価チタノセンによる脱硫的チタン化により生成する様々なチタン−カルベン錯体を 利用する新しいカルボニル・オレフィン化反応について研究を行っている。次回はこれらの反応につ いて紹介する。

引用文献

1) G. Wittig, G. Geissler, Liebigs Ann. 1953, 580, 44. 2) A. Maercker, Org. React. 1965, 14, 270.

3) W. S. Wadsworth, Jr., Org. React. 1977, 25, 73.

4) P. R. Blakemore, J. Chem. Soc., Perkin Trans. 1 2002, 2565. 5) D. J. Ager, Org. React. 1990, 38, 1.

6) D. H. R. Barton, B. Willis, J. Chem. Soc., Perkin Trans. 1 1972, 305. 7) I. Marko, F. Murphy, S. Dolan, Tetrahedron Lett. 1996, 37, 2089. 8) G. L. Larson, R. M. Betancourt de Perez, J. Org. Chem. 1985, 50, 5257.

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18) C. N. Hsiao, T. Kolasa, Tetrahedron Lett. 1992, 33, 2629. 19) P. J. Murphy, S. E. Lee, J. Chem. Soc., Perkin Trans. 1 1999, 3049.

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22) A. Fürsner, D. N. Jumbam, Tetrahedron 1992, 48, 5991.

23) A. Fürsner, D. N. Jumbam, G. Seidel, Chem. Ber. 1994, 127, 1125. 24) T. Okazoe, K. Takai, K. Oshima, K. Utimoto, J. Org. Chem. 1985, 52, 4410. 25) S. Matsubara, K. Ukai, T. Mizuno, K. Utimoto, Chem. Lett. 1999, 825.

26) S. Matsubara, K. Oshima, in Modern Carbonyl Olefination, ed. by T. Takeda, Wiley-VCH, Weinheim, 2004, p. 200.

27) F. N. Tebbe, G. W. Parshall, G. S. Reddy, J. Am. Chem. Soc. 1978, 100, 3611.

28) S. H.Pine, Org. React. 1993, 43, 1; N. A. Petasis, in Transition Metals for Organic Synthesis, eds. by M. Beller, C. Bolm, Wiley-VCH, Weinheim, 1999, p. 361; T. Takeda, A.Tsubouchi, in Modern Carbonyl Olefination, ed. by T.

Takeda, Wiley-VCH, Weinheim, 2004, p. 151.

29) S. H. Pine, R. Zahler, D. A. Evans, R. H. Grubbs, J. Am. Chem. Soc. 1980, 102, 3270. 30) N. A. Petasis, I. Akiritopoulou, Synlett 1992, 665.

O O Cp2Ti SiMe3 SiMe3 Cp2Ti SiMe3 O SiMe3 67% E:Z = 2.5:1 4 5 OEt O O OEt TiCp2 CH2 2 81% 3 TiCp2 Cl AlMe2 Scheme 21 Scheme 20

(6)

二つの “Julia” 反応

 名前も使用する試薬も類似しているが,二つの Julia 反応の経路は全く異なっている。1973 年に Marc Julia と Jean-Marc Paris はα- リチオスルホン1を利用するカルボニル・オレフィン化反応を報告した1)

後に Lythgoe,Kocienski らにより詳細な研究が行われたこの ”Julia” 反応は Julia–Lythgoe 反応とも呼 ばれ,一つのフラスコの中で全ての変換が行われるものの,本質的に1のカルボニル化合物への付加による

β- アセトキシスルホン2の生成と,その還元的脱離の二段階からなっている。一方,Sylvestre Julia らに より 1991 年に報告され2),その後 Kocienski らにより多くの研究が行われたもう一つの ”Julia” 反応は

Julia–Kocienski 反応といい,スルホンのα- アニオンの付加に引き続く付加体3の Smiles 転位と二酸化 硫黄,アリロキシ基の脱離によりオレフィンを与える。

1) M. Julia, J.-M. Paris, Tetrahedron Lett. 1973, 4833.

2) J. B. Baudin, G. Hareau, S. A. Julia, O. Ruel, Tetrahedron Lett. 1991, 32, 1175. R3 R4 O PhO2S O R3 R4 R1 R2 R4 R2 R3 R1 PhSO2 R1 R2

AcCl PhO2S Na(Hg) OAc R3 R4 R1 R2 1 2 ArO2S O R3 R4 R1 R2 Smiles rearrangement - SO2, ArO -Ar = S N N N N N N R , , -O 2S OAr R3 R4 R1 R2 3 Julia-Lythgoe reaction Julia-Kocienski reaction R3 R4 O ArSO2 R1 R2 1 R4 R2 R3 R1 執筆者紹介

武田 猛

 (Takeshi Takeda) 東京農工大学 大学院 工学研究院 教授 [ご経歴] 1977 年 東京工業大学大学院理工学研究科博士課程修了 , 1977 年 東京大学理学部助手 , 1980 年 カリフォルニ ア大学ロサンゼルス校博士研究員,1981 年 東京農工大学工学部助教授,1994 年 東京農工大学工学部教授 , 1996 年より 現職。 1987 年 有機合成化学協会奨励賞,2004 年 日本化学会学術賞受賞。

参照

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