前橋市における現代日本語方言の変容
~2008 年前橋市立前橋高等学校調査速報~
佐 藤 髙 司
キーワード 方言の変容 言語変化 新方言 要旨 本稿では、2008 年に前橋市立前橋高等学校で行った言葉に関する調査結果の一部を報告 する。また、その調査結果に過去に行った調査結果を加え、前橋市における現代日本語方 言の変容の実態を見る。 本稿で扱ったチガカッタ、ミタク、新しいベーでは、1980 年から 2008 年までの 28 年間 において、使用が伸びている傾向が確認できた。前橋という地方都市の若い世代において、 連綿と新方言が息づき成長していることが確認できた。また、3 例の使用の伸びの傾向は一 様でもないことが確認できた。 新しい形容詞「チガイ」の連用形に過去を表すタが付いたチガカッタは、28 年間で使用 が伸びていることが確認できた。また、その使用の程度は話し相手に対する親密度により 異なり、親しい相手であるほど使われる言葉であることが確認できた。さらに、1992 年に は男女で使用率に大きな差が認められたが、2008 年には男女による差があまり認められな くなっていることも分かった。 形容動詞「みたいだ」の語幹「みたい」を形容詞化した新方言ミタクも、28 年間で使用 が伸びていることが読み取れた。また、1992 年の調査結果を通学高校生と出身高校生とで 見比べた場合、通学高校生の使用が出身高校生を大きく上回ることから、ミタクが前橋周 辺から広まってきたと読み取ることができた。さらには、1992 年から 2008 年までの使用 率の経緯を男女別、相手別に見ると、女子の使用率優位から男女の使用率に差が見られな くなる傾向、改まった相手にも使う傾向が見られるようになった。このことから、ミタク が親しい相手であるほど使われやすい傾向にはあるものの、仲間内での言葉から普段に使 える言葉あるいは改まった相手に対しても使用できる言葉へとその文体を移してきている と考えた。 群馬県内で若年層から使用されるようになった新しいベーは、一段活用動詞「見る」に 接続する例では、ミルベーという終助詞化したベーやミンベー、ミルンベーという新方言 ンベーという新しいベーが現在もなお勢力を伸ばしていることが読み取れた。また、「行く +べー=イクンベー」の様相から、ル語尾動詞ではない普通動詞でも同様の傾向が現在も 進行中であることが確認できた。1 はじめに 本稿では、2008 年に前橋市立前橋高等学校で行った言葉に関する調査結果の一部を報告 する。また、その調査結果に過去に行った調査結果を加え、28 年間の前橋市における現代 日本語方言の変容の実態を見る。 筆者は、群馬県を中心とする北関東の西部において高校生の言葉に関する調査を1980 年 と1992 年に行っている。今回の調査は、初回の調査から数えて 28 年後にあたり、群馬県 における若年層の経年言語調査の一部にあたる。 同一地域で同一世代の言語使用状況を経年で観察することにより、日本語の言語変化の 様相を確実に捉えることができ、その使用状況の変化から言語変化の要因を探ることが可 能になると考えられる。本稿では、高校生の言語使用実態を捉えることにより、言語の変 容を言語内的要因から観察しようとする。高校生は言語使用に関する柔軟さと自由な発想 を持つため、その実態には既成観念に左右されない言語使用の本来の姿が反映されるから である。また、本稿では、北関東の方言使用の実態を捉えることで、社会的要因からの言 語変容を観察しようとする。北関東の方言は共通語の基盤となっている関東方言の一つで あり、共通語に影響を受けやすい方言である反面、共通語に影響を与えやすい方言でもあ るからである。 2 調査の概要 2-1 2008 年前橋調査 2008 年に前橋市立前橋高校で行った調査の概要は以下の通りである。本稿ではこの調査 を「2008 年前橋調査」と呼ぶ。 調査年月 2008 年 9 月 調査高校 前橋市立前橋高等学校 調査学年 高等学校1~2 年生(1 年生 78 名 2 年生 75 名 未記入 1 名) 及びその保護者102 名 調査人数 生徒154 名(男子 25 名 女子 128 名 未記入 1 名) 調査方法 アンケート用紙による質問紙法 2-2 北関東西部における過去の調査(1980 年調査・1992 年調査) 群馬県を中心とする北関東の西部において、新方言に関する調査を過去に2回行ってい る。両調査とも、調査方法はアンケート用紙による質問紙法である。本稿では1980 年に行 った調査を「1980 年調査」、1992 年に行った調査を「1992 年調査」と呼ぶ。 この2 回の調査結果は基本的には出身中学校の地域ごとに集計したため、「前橋出身高校 生」のデータとして使用する。また、1992 年調査については、高校ごとのデータ処理が可 能なため、前橋市内中学校出身の高校生のデータを「前橋出身高校生」とし、前橋市内の 高校に通う高校生のデータは「前橋通学高校生」として使用する。 1980 年調査と 1992 年調査「前橋出身高校生」「前橋通学高校生」の概要、及び 2008 年
前橋調査の概要は【表1】の通りである。 【表1】 調査名 1980 年調査 1992 年調査 2008 年前橋調査 調査年月 1980 年 10~11 月 1991 年 11 月~1992 年 3 月 2008 年 9 月 調査高校 群馬県及び栃木 県足利市の県立 高校18 校 群馬県及び栃木 県足利市の県立 高校18 校 群馬県立 前橋女子高校 群馬県立 前橋南高校 前橋市立 前橋高校 調査人数 男子610 名 男子600 名 男子7 名 女子53 名 計60 名 男子25 名 女子128 名 未記入1 名 計154 名 本稿で使用 するデータ 性別・人数 男子26 名 男子20 名 男子7 名 女子53 名 男子25 名 女子128 名 未記入1 名 本稿で使用 するデータ 集計方法 (出身・通 学の別) 前橋出身高校生 前橋通学高校生 *1992 年調査の前橋通学高校生の男子 7 名と 1992 年調査の前橋出身高校生の男子 20 名に は重なりの可能性がある。 3 速報(1)チガカッタ チガカッタは、新しい形容詞「チガイ」の連用形に過去を表すタが付いた語形である。 新しい形容詞「チガイ」は、動詞「違う」の意味内容が形容詞の範疇に近いことからその 語幹を形容詞のように活用させること から生じた新方言である。チガカッタ、 チガクナッタという連用形から始まり チゲー(チガイ)という終止形の発生に 至る新形容詞の発生及び普及は、品詞・ 活用体系を整えようとする言語変化、並 びに明晰化に向かう言語変化とみるこ とができる。 【図1】 チガカッタの使用率 2008年前橋市高校生 68.2 26.6 9.1 11.0 61.0 73.4 40.9 14.3 18.8 16.2 15.6 38.3 0.0 20.0 40.0 60.0 80.0 100.0 対親友 対同級生 対親 対NHK % 使う 聞く 使わない 【図1】は、2008 年前橋調査におけ る前橋通学高校生のチガカッタの使用 率を表したグラフである。チガカッタを 「使う」と答えた生徒の割合は、「話し 相手が親友の場合」を表す「対親友」が 全体の7 割を超え、話し相手が同級生、
同級生の親、NHKのアナウンサーと親密度が低くなる(グラフ右に向かう)にしたがっ て使用する割合が下がってくる。一方、「使わない」と答えた割合は、「使う」と答えた割 合の反対の傾向である。チガカッタが親 しい相手にはかなり高い確率で使用さ れ、話し相手が親しいほど使われる言葉 であることが分かる。 【図2】 チガカッタの男女別使用率 2008-1992前橋市高校生 32.0 76.0 80.0 64.0 42.9 57.1 71.4 57.1 84.4 83.6 59.4 39.1 17.0 45.3 45.3 20.8 0.0 20.0 40.0 60.0 80.0 100.0 対親友 対同級生 対親 対NHK % 2008使う・聞く(男) 1992使う・聞く(男) 2008使う・聞く(女) 1992使う・聞く(女) 【図2】は、【図1】の使用率を男女 別に計算し直し、「使う」と「聞く」の 値を合わせ、さらに1992 年調査の前橋 通学高校生の結果を加えたものである。 16 年間で男女ともに使用が伸びている ことが読み取れる。特に、女子の使用率 の伸びは著しい。また、1992 年には男 女で使用率に大きな差が認められたが、 2008 年には男女による差異があまり認 められなくなっていることも分かる。 【図3】は、【図2】の対親友の使用 率「使う」・「聞く」を「前橋通学高校生」 とし、1981 年調査と 1992 年調査の「前 橋出身高校生」を加えたものである。 1992 年にあっては、前橋市内の中学校 出身の高校生の方が前橋市に通学する 高校生よりチガカッタの使用率が高い。 しかし、その差は10 パーセント未満で あり、前橋出身と前橋通学とに確かな差 があるとは認められない。1992 年当時、 前橋市周辺の若年層におけるチガカッ タの使用率はほぼ 50%程度と考えてよ いであろう。いずれにしても前橋市内の若年層において、28 年間で次第にチガカッタの使 用が伸びていると読み取ることができる。 【図3】 チガカッタの使用率 1981~2008 前橋出身・通学高校生 55.3 11.5 83.0 46.7 0.0 20.0 40.0 60.0 80.0 100.0 1981年 1992年 2008年 % 前橋出身高校生「使う・聞く」 前橋通学高校生「使う・聞く」 4 速報(2)ミタク ミタクは、形容動詞「みたいだ」の語幹「みたい」を形容詞化した新方言である。1981 年調査と1992 年調査の比較からは、群馬県内では東部地域から使用が始まり、西部・中部 地域に既存のミチョーニ・ミトーニを凌ぐ勢いで広まっていると考えられた。この動きは 品詞・活用体系を整えようとする言語変化、言葉を単純化しようとする変化であると捉え
られる。 【図4】 【図4】は2008 年前橋調査における 高校生のミタクの使用率を表したグラ フである。ミタクを「使う」と答えた生 徒の割合は、「対親友」でほぼ 4 割程度 であり、「使わない」と答えた生徒の割 合と同程度である。話し相手との親密度 が低くなる(グラフ右に向かう)にした がって、徐々に使用する割合が下がり、 「使わない」と答えた割合は上がるとい う傾向が読み取れる。ミタクが親しい相 手であるほど使われやすい傾向にある 言葉であることが分かる。 ミタクの使用率 2008年前橋市高校生 20.8 36.4 39.6 27.3 15.6 11.7 16.2 14.9 66.2 43.5 46.1 56.5 0.0 20.0 40.0 60.0 80.0 100.0 対親友 対同級生 対親 対NHK % 使う 聞く 使わない 【図5】は、【図4】の使用率を男女 別に計算し直し、「使う」と「聞く」の 値を合わせ、さらに1992 年調査の前橋 通学高校生の結果を加えたものである。 【図5】からは【図2】のチガカッタと は異なり、次の二つの傾向が読み取れる。 まず、話し相手別に見た場合、「対親友」 「対同級生」では、16 年間で男女とも に使用率が下がっているのに対し、「対 同級生の親」「対 NHK アナウンサー」 では使用率が上がっているという傾向 である。次に、男女別に見た場合、1992 年調査では女子の使用率が男子を上回 っていたのに対し、2008 年調査では男 女の使用率にほとんど差が見られないという傾向である。この二つの傾向から、ミタクが 仲間内での言葉から普段に使える言葉あるいは改まった相手に対しても使用できる言葉へ とその文体を移してきていると考えることができる。 【図5】 ミタクの男女別使用率 2008-1992前橋市高校生 24.0 52.0 48.0 44.0 0.0 71.4 57.1 28.6 56.3 53.9 42.2 34.4 7.5 79.2 81.1 22.6 0.0 20.0 40.0 60.0 80.0 100.0 対親友 対同級生 対親 対NHK % 2008使う・聞く(男) 1992使う・聞く(男) 2008使う・聞く(女) 1992使う・聞く(女) 【図6】は、【図5】の対親友の使用率「使う」・「聞く」を「前橋通学高校生」とし、1981 年調査と 1992 年調査の「前橋出身高校生」を加えたものである。まず、28 年間で全体と してミタクの使用が伸びていることが読み取れる。次に、【図3】のチガカッタとは異なり、 同じ1992 年の調査結果であっても、通学高校生と出身高校生徒でかなり使用率に開きがあ ることがわかる。これは1992 年当時、ミタクが前橋周辺から広まってきたことを表してい ると読み取ることができよう。なお、1992 年から 2008 年にかけて通学高校生の使用率は
低下しているが、その傾向については、 前述【図5】の解釈に関連して考えれ ば、ミタクの使用文体が上がったため 仲間内を意識する言葉ではなくなっ たためであろう。これについてはさら に今後の動向を見極めて判断する必 要がある。 【図6】 本稿ではミタクにのみ注目して報 告したが、佐藤1997a、佐藤 2008 等 で報告した群馬県における「~のよう に」のミタク、ミトーニ、ミチョーニ の併存関係のその後については、ミト ーニ、ミチョーニの勢力の中心がある 北毛、吾妻、西毛地域の今後の若年層調査後の報告に譲ることとする。ちなみに、前橋市 内の若年層では、1992 年調査の段階でミトーニ、ミチョーニの勢力がすでに弱く、今回の 調査ではさらにその使用傾向が弱まっていることを示す結果であった。 ミタクの使用率 1981~2008 前橋出身・通学高校生 25.0 7.7 55.6 78.3 0.0 20.0 40.0 60.0 80.0 100.0 1981年 1992年 2008年 % 前橋出身高校生「使う・聞く」 前橋通学高校生「使う・聞く」 5 速報(3)新しいベー 意志・勧誘を表す助動詞のいわゆる関東ベーは、群馬県内では動詞の未然形接続から終 止形接続へという接続の単純化を経て終助詞化したべーや独自にンベーという形式の新し いべーが若年層から使用されるようになった。ンベーは、ル語尾動詞のルの撥音化という 発音の簡略化及び撥音を多用する群馬方言の音声的特徴を受け継ぐ変化から生じたと考え られる。本稿では、一段活用動詞 「見る」を例にベー(勧誘)の接 続の変化をみてみる。 【図7】 「見よう」の使用率 2008年前橋市高校生 21.4 46.1 13.0 36.4 76.0 84.4 51.3 61.0 0.0 20.0 40.0 60.0 80.0 100.0 ミベー ミルベー ミンベー ミルンベー % 使う 使わない 【図7】は 2008 年前橋調査に おける高校生の「見よう」の使用 率(対親友)を表したグラフであ る。「見る」の未然形にべーが接続 する群馬県における一般的な形式 ミベーは、2008 年の前橋市の若年 層ではほんのわずかな使用でしか ない。それに対し、べーの終助詞 化を意味し動詞の終止形に直接接 続するミルベーは、5 割近い使用 率を示している。また、接続の単
純化及び終助詞化によって生じたミルべーの語尾ルが撥音化して生じたと考えられるミン ベーも 4 割近い使用率を示している。さらには、撥音を多用する群馬方言の音声的特徴の 影響を受け、ミンベーからンベーのみが独立し新たな終助詞となり再び「見る」の終止形 に接続し生じたと考えられるミルンベーも 2 割の使用率を示した。新しいベーである終助 詞べーやンベーが現在もなお使用され勢力を伸ばしていることが読み取れる。 【図8】は、「見よう」の対親友の 使用率を1981 年調査、1992 年調査、 2008 年前橋調査の順に並べて示した。 各語形とも、左側2 本(点がちりばめ てある)の棒グラフは1981 年調査と 1992 年調査の前橋出身高校生(男子) で、右側2 本は 1992 年調査と 2008 年調査の前橋通学高校生(男女)であ る。 【図8】 「見よう」の使用率 1981-2008年前橋市高校生 42.3 23.126.3 3.3 5.0 11.7 13.0 46.1 21.4 23.1 34.6 18.4 42.1 21.1 20.0 36.4 0.0 20.0 40.0 60.0 80.0 100.0 ミベー ミルベー ミンベー ミルンベー % 1981前橋出身 1992前橋出身 1992前橋通学 2008前橋通学 1992 年の調査結果は、通学高校生 と出身高校生でかなり使用率に開き があるが、出身高校生が男子で、通学 高校生の8 割以上が女子であることが 効いているためと考えられる。2008 年調査においても通学高校生の8 割以 上が女子であることを考慮に入れれ ば、ミルベー、ミンベー、ミルンベー という新方言ンベーや終助詞化した ベーという新しいベーが現在もなお 勢力を伸ばしていいることが読み取 れる。 【図9】 【図9】は、「行く+べー=イクン ベー」の様相である。4 本の棒グラフ の見方は【図8】と同じで、【図8】 のミルンベーと見比べてみると、同様 の傾向を示していることが分かる。 「見る+ベー(勧誘)」での一連の変 化と同様のことがル語尾動詞ではな い普通動詞にも起こっていると言えよう。新しいベーの動向が、「見る」というル語尾一段 動詞のみに見られる特別な傾向ではないということが確認できたことになる。 「行くンベー」の使用率 1981-2008年前橋市高校生 28.6 15.4 29.0 15.0 0.0 20.0 40.0 60.0 80.0 100.0 行くンベー % 1981前橋出身 1992前橋出身 1992前橋通学 2008前橋通学
7 まとめ 本稿で扱ったチガカッタ、ミタク、新しいベーでは、1980 年から 2008 年までの 28 年間 において、前橋の若年層で使用が伸びている傾向が確認できた。前橋という地方都市の若 い世代において、連綿と新方言が息づき成長していることが確認できた。また、3 例の使用 の伸びの傾向は一様でもないことが確認できた。以下に 3 例の変容の実態を簡単にまとめ る。 新しい形容詞「チガイ」の連用形に過去を表すタが付いたチガカッタは、28 年間で使用 が伸びていることが確認できた。また、その使用の程度は話し相手に対する親密度により 異なり、親しい相手であるほど使われる言葉であることが確認できた。さらに、1992 年に は男女で使用率に大きな差が認められたが、2008 年には男女による差があまり認められな くなっていることも分かった。 形容動詞「みたいだ」の語幹「みたい」を形容詞化した新方言ミタクも、28 年間で使用 が伸びていることが読み取れた。また、1992 年の調査結果を通学高校生と出身高校生とで 見比べた場合、通学高校生の使用が出身高校生を大きく上回ることから、ミタクが前橋周 辺から広まってきたと読み取ることができた。さらには、1992 年から 2008 年までの使用 率の経緯を男女別、相手別に見ると、女子の使用率優位から男女の使用率に差が見られな くなる傾向、改まった相手にも使う傾向が見られるようになった。このことから、ミタク が親しい相手であるほど使われやすい傾向にはあるものの、仲間内での言葉から普段に使 える言葉あるいは改まった相手に対しても使用できる言葉へとその文体を移してきている のではないかと考えられた。 群馬県内で若年層から使用されるようになった新しいベーは、一段活用動詞「見る」に 接続する例では、ミルベーという終助詞化したベーやミンベー、ミルンベーという新方言 ンベーという新しいベーが現在もなお勢力を伸ばしていることが読み取れた。また、「行く +べー=イクンベー」の様相から、ル語尾動詞ではない普通動詞でも同様の傾向が現在も 進行中であることが確認できた。 8 おわりに 本稿では、2008 年前橋調査をもとに速報という形で、群馬県前橋市における若年層の新 方言の使用状況の推移を4語形に絞って報告した。わずかな調査結果の考察ながら、同一 地域で同一世代の言語使用状況を経年で観察することにより、日本語の言語変化の様相を 確実に捉えたりその使用状況の変化から言語変化の要因を探ったりすることの有意性を証 明する一歩にはなったと考える。 今後、調査対象地域を群馬県内に広げ、1980 年調査、1992 年調査と同規模の調査にする ことで、北関東西部における初回調査後30 年前後の経年調査としていきたい。また、2008 年前橋調査も含めて、丁寧かつ迅速な報告を心がけたい。
謝辞 2008 年前橋調査にご協力いただいた前橋市立前橋高等学校の生徒の皆さん及び保護者の 皆様に心より感謝申し上げます。また、調査に際し、お忙しい中、特別なお取りはからい、 ご協力をいただいた山口知彦校長先生、奈良知彦教頭先生、ご担当いただいた国語及び担 任の先生に心よりお礼申し上げます。 過去のデータの変換処理にあたり、小柏伸夫氏にご尽力いただいた。また、調査や考察 に関わって長谷川拓也さん、狩野安津沙さん(共愛学園前橋国際大学国際社会学部地域児 童教育専攻3 年生)にお手伝いいただいた。ここにお礼申し上げます。 参考文献 井上史雄 1997「現代方言のキーワード」『方言の現在』(明治書院) 佐藤髙司 1982「関東北部における「新方言」」『語学と文学』21 号(群馬大学) 佐藤髙司 1993a『《新方言》の動向―北関東西部における高校生のことばの研究―』(私家 版) 佐藤髙司 1993b「新方言の使用における男女差―群馬(及び栃木の一部)の高校2年生の アンケート調査から―」『計量国語学』19 巻 1 号(計量国語学会) 佐藤髙司 1994「北関東西部における新方言の伝播の特徴」『語学と文学』30号(群馬大学) 佐藤髙司1996a「東京の新表現が地方に普及するときの社会的要因―前橋・高崎での新方言 使用の比較から―」『上越教育大学国語研究』第10号(上越教育大学) 佐藤髙司1996b「東京‐新潟間における新形容詞「違い」の普及の様相 ―口語レベルから の日本語の変化過程モデル―」『語学と文学』32号(群馬大学) 佐藤髙司1997a「「~のように」にみる新方言の接触 ―東京・新潟間及び群馬県北部・西 部におけるミタク・ミチョーニ・ミトーニ―」『語学と文学』33号(群馬大学) 佐藤髙司 1997b『関東及び新潟地域における新表現の社会言語学的研究』(文部省科学研究 費研究成果報告書) 佐藤髙司 2008「若者の方言にみる言語変化-群馬県の新方言を例に-」『共愛学園前橋国際 大学論集』第 8 号(共愛学園前橋国際大学)