1.はじめに
今 回12 回目の開催を迎えたアジアスポーツマネジメント学会(Asian Association for Sport Management Conference:以下 AASM と略す)は、ベトナム南部に位置する経済の中心地、ホーチ ミンで開催された。 AASM は 2002 年に韓国・ソウルでの第 1 回大会をはじめとして、モンゴルや中国、マレーシア や台湾などアジア各地で開催されており、2016 年は 9 月 16、17 日にベトナム・ホーチミンで第 12 回大会が開催された。
■国際会議レポート
アジアスポーツマネジメント学会 2016 年度大会
The Asian Association for Sport Management Conference 2016
城殿ひろみ・藤井翼・三倉茜・目良夕貴・矢野直香(順天堂大学大学院)
表 1 過去の大会開催地
年度 Host City 年度 Host City 第1 回 2002 韓国・ソウル 第7 回 2011 モンゴル・ウランバートル 第2 回 2004 中国・北京 第8 回 2012 中国・長春 第3 回 2006 日本・東京 第9 回 2013 マレーシア・クアラルンプール 第4 回 2008 タイ・バンコク 第10 回 2014 台湾・高雄 第5 回 2009 台湾・台北 第11 回 2015 マレーシア・ランカウイ 第6 回 2010 マレーシア・クアラルンプール 第12 回 2016 ベトナム・ホーチミン
会場となったホーチミン市スポーツ大学(Ho Chi Minh City University of Sport)は、タンソンニ
ャット国際空港から車で40 分ほどの場所に位置している。今回はホテルを各自で手配したため、 市の中心部に宿泊して主催者が手配したシャトルバスで会場に向かった。宿泊場所から会場までは 少し距離があったが、移動はスムーズに行うことができたため特に支障は感じなかった。会場とな ったホーチミン市スポーツ大学は広大なキャンパスを持ち、2016 年に 40 周年を迎えたこともあり 記念式典に向けてパフォーマンスの練習をする学生が多く見られた。 ベトナムで最も人気のあるスポーツは、他国と違わずサッカーである。2000 年にプロサッカー リーグであるV リーグが設立されて以来、その実力は成長著しい。J リーグもアジア戦略の一つと してベトナムサッカーとの交流を盛んに行なっている。加えて、セパタクローや伝統的スポーツで あるダーカウもベトナムにおける有名なスポーツとして挙げられる。
本大会では “The Innovation and Knowledge Management of Sport Organizations” というテーマが掲
げられた。表2 に示したように、口頭発表やポスター発表以外にも、このテーマに対して様々な視
も参加し、それぞれの立場で経験したことやこれからの展望を熱く語り合った。 日本からはAASM 理事として順天堂大学・小笠原悦子氏のほか、大阪体育大学から 2 名、東海 大学から1 名、東海学園大学から 1 名、帝京大学から 1 名、順天堂大学から 9 名(順不同)が参加 した。
2.基調講演
本大会において、基調講演は2 回行われた。1 日目に行われた第 1 回目の講演は、昨年までコロラド大学で教授を務めていたDavid STOTLAR 氏を招き、“Innovation and Information Management in Sport” についてであった。David 氏は、既存のマーケットにフォーカスするのではなく潜在的な需 要を掘り起こし、ブルーオーシャンを開拓していくことがマーケティングにおいて重要である、と ナイキやアップル社の例を示しながら語った。またスポーツマネジメント研究の重要性について、 現場に生かされ世界を変えるまでに時間がかかるものの、市場やトレーニング現場と密接に関わり 合いながら研究が行われるべきであると説いた。
2 日 目 は ド イ ツ よ り Christoph BREUER 氏 を 招 き、“Innovation through Experiments? How Sport Management Research Can Contribute to Innovations in the Sport Industry” についての講演であった。 Christoph 氏はコーチやアスリート、マネージャーなどスポーツに関わる人々をモチベートし、研 究の結果を浸透させていくことが大事であると説いた。スポーツマネジメントの研究分野は多様化 を見せており、研究から得られた知識がまた新たな世界を開き、ますます広がっていくだろうと、 スポーツマネジメント研究の将来に期待を寄せた。
3.パネルセッション
2 日間を通して、3 つのセッションが開かれた。学会初日に行われたセッションでは、“The Development of Sport Organizations through the Positive Inter-Organizational Behaviors” という題目で進表2 大会日程 9 月 16 日(金) 07:30~ Registration 08:30~ Opening Ceremony 9:15~ Keynote-1
Innovation and Information Management in Sport 10:30~ Panel Session-1
The Development of Sport Organizations through the Positive Inter-organizational Behaviours 12:00~ Lunch 14:00~ Parallel Session-1 16:00~ Parallel Session-2 18:00~ Welcome Dinner 9 月 17 日(土) 8:30~ Keynote-2
Innovation through Experiments?
How Sport Management Research Can Contribute to Innovation in the Sport Industry
09:30~ Panel Session-2
The New Concepts Applying to The Sport Organizations Research and Development 10:45~ Panel Session-3
The Applying New Technology to Sport Organizations Knowledge Management 12:15~ Lunch
14:00~ Poster Presentation
15:45~ KSSM Promotion for 13th AASM Conference in Korea 2017
16:00~ Closing Ceremony 18:30~ Gala Dinner
められた。パネリストは日本、フィリピン、ベトナムから迎え、日本からは、順天堂大学・小笠原 氏が登壇した。 小笠原氏は、2 つのテーマについて話した。1 点目は、世界で活躍する女性コーチの育成のため、 毎年夏に行われている女性コーチアカデミーの紹介であった。トップコーチを目指す女性のために、 科学的研究に基づいたコーチ教育・トレーニングを提供するだけでなく、ワークライフバランス、 ダイバーシティマネジメント等、女性コーチに欠かせない視点が盛り込まれており、スポーツ指導 者に向けた従来の様々な講習とは大きく異なることが説明された。2 点目は、Sport England で 2014 年から行われた “This Girl Can” というキャンペーンの紹介であった。女性を対象としたこのキャ ンペーンが、どのように多くの女性の共感を呼び、SNS を通じて短期間に世界中に拡がっていっ たのか、データに基づいた説明がなされた。
2 日 目 に は、2 つ の セ ッ シ ョ ン が 続 け て 行 わ れ た。“The New Concepts Applying to The Sport Organizations Research and Development” では台湾、タイ、韓国からパネリストを迎え各パネリス トから講演が行われた。最後のパネルセッションとなった “The Applying New Technology to Sport Organizations Knowledge Management” では、シンガポール、マレーシア、タイよりパネリストを迎え、 各国が取り入れている新しいテクノロジーについての紹介がなされた。 各パネルセッションとも講演後にフロアも含めたディスカッションが行われ、意見交換が活発に 行われた。
4.一般研究発表
一般研究発表は口頭発表とポスター発表で構成されていた。採択数は口頭発表44 題、ポスター 発表43 題の計 87 題であったが、何らかの事情により口頭、ポスターとも発表が少なかった。前回 大会では、口頭発表が55 題、ポスター発表が 25 題の計 80 題であったため、今大会では口頭発表 数が11 題の減少、ポスター発表数が 18 題の増加となった。 表3 は日本からの発表タイトルと発表者を表している。口頭発表が 7 題、ポスター発表が 2 題の 合計9 題であった。前回大会と比べて 2 件の減少が見られた。 表4 は、2016 年度大会の国別発表件数をまとめたものである。国別発表件数の上位 3 か国は韓国、 台湾、ベトナムであった。特に韓国、台湾の発表件数が多く、この2 か国で全体の約半数を占めて いたことが特徴的である。今後は他の国からの発表件数の増加も期待したい。 表5 は、 棟 田(2016) に 倣 い、 発 表 演 題 を 研 究 分 野 別 に ま と め た も の で あ る。 今 大 会 は Management/Leadership 分野が最も多く、27 題であった。続いて多かったのが Marketing 分野で 20 題、 Organizational Theory/Culture 分野で 12 題であった。前回大会と比べて Organizational Theory/Culture 分野の発表が増加した一方、Governance 分野の発表が減少した。5.まとめ
第12 回となる本大会は、ホーチミン市体育学校の 40 周年記念祝典に合わせて開催された。敷地 内では祝典行事に向けて学生が催し物の練習や準備に励む光景が見られ、活気に満ちた大学である 印象を受けた。一方、アジアスポーツマネジメント学会については4 月にホームページ上で開催が 発表されてから、日程の変更や会場(ホスト国)の変更など、開催が危ぶまれる情報が飛び交った。 また、会場周辺に宿泊施設がないことや、敷地内の各セッション会場が離れていること等、快適とは言い難い環境ではあったが、ベトナムの学会員の方々の熱意と努力によって成功裡に終了した。 台湾、日本、韓国、タイ、マレーシア、フィリピン、香港、ベトナムから100 人を超える参加者 が集ったスポーツマネジメント分野において、アジア諸国は欧米諸国と比較すると後進ではあるが、 口頭発表では従来のエリートアスリートやコーチング、スポーツクラブ、スポンサーシップなどに 加え、オンラインスポーツコミュニティ、モバイルアプリケーションなどの先進的なキーワードも みられた。また、ポスター発表の多くは学生や若年者のアスリートをターゲットとした研究が多く 見られ、各国それぞれのスポーツマネジメントの動向がみられた。
本大会は “The Innovation and Knowledge Management of Sport Organizations” というテーマで開催 された。アジア圏の民族、宗教などの多様性を考慮した地域性、特異性を踏まえたグローバルな視 点からの新たな研究活動が促されることが、今後のAASM の発展につながるのではないだろうか。 なお、次回AASM2017 年度第 13 回大会は韓国の龍平で開催される予定である。 表 3 日本からの発表タイトルと発表者 表タイトル 発表者 口頭発表
Current Status of Female Coaches in Japanese University 順天堂大学大学院 三倉茜 Coaching Behavior Assessment: Coach DISC of American and Japanese Women Coaches 順天堂大学大学院北川純也 Why do Athletes Begin Doping? Interpretation of The Articles Based on The Bette's Theory 順天堂大学大学院目良夕貴 Collective Efficacy in University Sports: Comparing in Sports Club and Sports Circle 順天堂大学大学院藤井翼 The Impact of Place Attachment Felt by Sports Spectators on Team Loyalty- A Case Study of
Independent Baseball Leagues in The US
大阪体育大学 稲次悠希 Consideration of Establishing Department of Athletics at Universities in Japan 帝京大学伊藤克 Constrains Impacting Potential Rugby World Cup 2019 Fan Tourists ワイカト大学 JTB Corp
倉田知己 ポスター発表
Study on the Development of Women's Soccer in Japan and Issues to Be Addressed: Survey on Female Player's Attitudes Towards the Sport
東海大学 恩田哲也 Examining Effects of Characteristics of Community-Based Sport Club Members on Sense of
Community 東海学園大学 井澤悠樹 表 4 国別発表件数 国名 件数 % 韓国 30 34.5% 台湾 20 23.0% ベトナム 12 13.8% 日本 9 10.3% タイ 6 7.0% マレーシア 6 7.0% フィリピン 2 2.2% 香港 2 2.2% 合計 87 100%
表 5 分野別研究発表件数 カテゴリー 2015 年 % 2016 年 % communication 4 5.0% 7 8.0% Economics/finance 5 6.3% 2 2.3% Governance 5 6.3% 0 0.0% Legalaspects 1 1.3% 1 1.1% Management/leadership 16 20.0% 27 31.0% Marketing 21 26.3% 20 23.0% OrganizationalTheory/Culture 6 7.5% 12 13.8% Research/Statisticalmethodology 1 1.3% 4 4.6% SportTourism 0 0.0% 2 2.3% Teaching 14 17.5% 6 6.9% Others 7 8.8% 6 6.9% 合計 80 100.0% 87 100.0%