地球温暖化防止対策あるいは石油などの化石エネルギー資 源依存からの脱却のため,太陽光発電や風力発電といった自 然エネルギーの導入が世界的に進展している。これら自然エネ ルギーの出力は,設置点の地形や環境,日照などに依存する ため,一定ではなく不安定である。将来,これら大規模太陽光 発電システムが大量に電力系統に連系された場合,系統に電 圧変動や周波数変動など,悪影響を及ぼすことが懸念されて おり,それらの諸課題についての対策技術が求められている。 日立製作所は,大規模太陽光発電システム向けの大容量 パワーコンディショナーを開発する際に,従来にない機能とし て,電圧変動抑制機能,瞬時電圧低下時の運転継続機能 を設けた。また,高調波電流の流出量をより低減する高調波 抑制機能を設けた(図1参照)。これらにより,将来を見据え た電力系統の安定化に寄与する大規模太陽光発電システム を提案していく。 1.はじめに 近年,太陽光発電や風力発電といった自然エネルギーの 導入が世界的に進展している。特に欧州では,ドイツやスペ インを中心に数メガワットから数十メガワット級の大規模太陽光 発電設備の建設が急速に進んでいる。これはフィードイン・タリ フ(Feed-in Tariff:電力会社が,再生可能エネルギーを通常 の電力単価よりも高価な固定価格で長期間にわたり買い取る ことを保証する制度)によるところが大きい。主要国における 太陽光発電設備の導入量を図2に示す。 日本では,2008年に「低炭素社会づくり行動計画」を閣議 決定し,2020年までに太陽光発電による発電量を2005年の 10倍に,2030年には40倍にするとの目標を決定した。その結 果,2005年の累積設置量が142万kWであることから,太陽 電池の年間平均発電効率を12%と仮定すると,年間発電量 は約15億kWhにすぎないものが,2020年では,150億kWh,
大規模太陽光発電システムの開発
Large-scale Photovoltaic Power Generation System三村 英之
Hideyuki Mimura相原 孝志
Takashi Aihara永山 祐一
Yuichi Nagayama宮田 博昭
Hiroaki Miyata内山 倫行
Noriyuki Uchiyama図1 独立行政法人新エネルギー・産業技術総合開発機構「大規模電力供給用太陽光発電系統安定化等実証研究/北杜サイト」 山梨県北杜市に約2 MW級の太陽光発電システムを建設中のメガソーラー発電設備の外観を示す。 56 Vol.91 No.03 310-311 2009.03 電力・エネルギー分野の最新開発技術
57 2030年では600億kWhとなる。また総需要(長期エネルギー需 給見通しの努力継続ケースを基に試算)は,2020年で1兆 575億kWh,2030年では1兆1,258億kWhであり,太陽光発電 の総電力需要量に占める割合は,2020年度で約1.4%, 2030年度で約5.3%となる。なお,現状は0.2%程度である。 国内の太陽光発電の導入実績を図3に示す。その8割が 住宅向けとなっている。上記の目標を達成するには,2020年 で,新築住宅の7割が,2030年においては,新築住宅の8割 が太陽光発電設備を備えている必要があり,この目標を達成 するためには,住宅用だけでは限界があり,大規模太陽光発 電設備(以下,メガソーラーと記す。)の導入が必要である。 大規模太陽光発電の取り組みの一つとして,日立製作所 は,独立行政法人新エネルギー・産業技術総合開発機構 (NEDO)の「大規模電力供給用太陽光発電系統安定化等 実証研究」において,株式会社NTTファシリティーズからの再 委託により,太陽電池で発電された直流電力を交流に変換し て電力系統に連系するPCS(Power Conditioning System:パ
ワーコンディショナー)とシステム全体の運転状態を監視する 監視計測システムの開発を行っている。 ここでは,系統への影響を極力及ぼさない大容量PCSの 開発を中心に述べる。 2.自然エネルギー大量導入に伴う系統連系の課題 太陽光や風力といった自然エネルギーは,日照や風速など の影響を受けて出力変動を生じるため,連系している電力系 統に対し,以下の課題が出てくる。 (1)出力変動による系統の電圧変動 太陽光発電では,雲の流れなどによって日照量が変化す ることにより,発電電力が変動して連系点で電圧変動が発生 する。メガソーラーの場合には電力系統に大量の太陽光発電 が集中して連系されるため,系統の安定運用に及ぼす電圧 変動の影響が懸念される。 (2)出力変動による周波数変動 (1)と同様に,発電電力が大きく変動すると,需要側と供 給側のバランスが崩れ,周波数が変動する。 (3)系統擾(じょう)乱時の一斉脱落による電圧・周波数変動 インバータ電源は通常20%程度の交流電圧低下で停止す る。瞬時電圧低下(以下,瞬低と記す。)などの系統擾乱が 発生した場合,広範囲のメガソーラーが一斉に解列(太陽光 発電の運転を停止すること)し,系統の需給バランスが崩れ て,電圧・周波数変動が起こる。場合によっては,系統の安 定性に影響を与えることもある。将来,メガソーラーが普及す ることを考慮すると,不要解列しないように耐量を上げる必要 がある。 (4)インバータ電源の増大による高調波の増大 メガソーラーの導入に際し,連系する系統の系統容量に対 するインバータを使用した太陽光の出力容量の比率が大きく なることから,高調波に関して系統に与える影響も大きくなり, 流出高調波電流をよりいっそう抑制する必要がある。 3.大規模太陽光発電用PCSの開発 PCSは,太陽光パネルで発電された直流電力を交流電力 に変換して,電力系統に連系するインバータ装置である。メガ ソーラー向けの大容量PCSでは,系統安定化の課題に対応 する機能を持たせたものとした。 具体的には,電圧変動抑制,瞬低時運転継続機能,高 調波抑制機能を持った400 kW PCSの開発を行った。この PCSは,交流出力の高圧化(420 V),トランスレスによる高効 率化で,部分負荷を含めた高効率化を図っている。また,汎 用性が高い主回路スイッチング素子や開閉器類を使用して, それらの容量を最大限利用するように容量選定することで, 製造コストの低減化を図っている。 feature article スペイン イタリア 米国 (年度)
出典 : IEA Photovoltaic Programme
韓国 日本 ドイツ オーストラリア ( MW ) 5,000 4,000 3,000 2,000 1,000 0 1998 1999 2000 2001 2002 655 MW 831 MW 1,912 MW 3,862 MW 2003 2004 2005 2006 2007 図2 主要国における太陽光発電設備の累積設置容量 主要国における太陽光発電設備の累積導入量を示す。近年ではドイツとスペ インが急速に伸びている。 (年度) ( MW ) 0 50 5 7 12 16 32 42 75 122 123 184 223 272 290 287 210 100 150 200 250 300 350 1992 1993 1994 1995 1996 1997 1998 1999 2000 2001 2002 2003 2004 2005 2006 2007 図3 日本における単年度の太陽光発電設備設置容量 日本では住宅用を中心に発展してきた。
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電力・エネルギー分野の最新開発技術
3.1 大容量PCS
特徴としては,UPS(Uninterruptible Power Supply:無停電 電源装置)技術をベースとした高信頼性化,大容量化,高効 率化,汎用品利用による経済性の追求および大規模系統連 系に特化した機能の実現である。大容量PCSの外形図およ びその構成を図4に示す。
入力となる太陽電池の面積が大きくなるため,入力を2回 線に分割し,おのおのでMPPT制御(Maximum Power Point Tracking:太陽電池の出力電力が最大になる最適動作点を 追従する制御)を行うことで,システムの発電効率を上げている。 3.2 電圧変動抑制機能 太陽光発電システムの出力変動による電圧変動を抑制す るためには,蓄電池などで脈動電力を吸収・放出するか,あ るいは発電出力を制限する方法などが考えられるが,前者で は設備コストが高くなり,後者ではエネルギーを有効利用でき なくなる。そこで,今回,発電による有効電力とともに電力系 統の状態に応じて,無効電力を適切な量に自動的に調整し て連系インバータから出力することで,太陽電池の出力変動 に起因する電圧変動を抑制する機能を開発した。この機能 の効果をPCSのミニモデルを用いて確認した結果を図5に示 す。PCSから定格出力相当の出力変動を発生させ,無効電 力の初期値をゼロとして変動抑制制御を開始した。その結果, 無効電力の出力は系統条件に応じた適切な値に自動的に 調整され,連系点の電圧変動が0.2%程度に抑制された。 3.3 瞬低時運転継続機能 従来のPCSは,瞬時電圧低下(瞬低)発生時に連系イン バータが過電流となることから,PCSをいったん停止する必要 があった。将来,太陽光発電が多数連系されるようになると, 系統事故などによる瞬低が発生した場合には,広範囲でPCS が電力系統から一斉脱落することになり,発電電力が一斉に 喪失して,最悪の場合は大規模停電につながる恐れがある。 電力系統への影響を低減するためには,瞬低時において も運転を継続し,可能な限りの発電電力を出力することが必 要である。そこで,高速で波形ひずみなどに強い電圧位相検 出や高速の電流制御によって,連系インバータの過電流を防 止するとともに,系統へ出力可能な電力とバランスがとれるよ うに発電電力を制御する瞬低時運転継続機能を開発した。 ミニモデルを使った実験で,交流正相電圧が定格の約 35%程度まで低下しても運転継続できる見通しを得た(図6参 照)。これは瞬低の約9割をカバーするものとなる。 3.4 高調波発生の抑制 電力系統にPCSを大量連系する場合,高調波電流によっ て,系統電圧ひずみやPCS周辺に接続された機器の異常過 熱などの心配がある。パルス幅変調(PWM:Pulse Width Modulation)方式のインバータの場合,インバータから流出す る低次の高調波電流は比較的小さいが,系統電圧ひずみに 起因して高調波電流が流入する可能性がある。そこで系統 電圧ひずみの影響を考慮した制御系を連系インバータに適用 し,高調波電流を低減している。新ガイドラインの80%以下を 実現した。 時間(s) 連系点電圧 ( pu ) 無効電力 ( pu ) 有効電力 ( pu ) 約1.6 % 約0.2 % 制御開始 0 0 1.2 1.2 0 1,000 500 0 0.98 1.00 注:略語説明 pu(Per Unit) 図5 電圧変動抑制機能の効果 66 kV特別高圧系統に連系した太陽光発電用PCSの電圧変動抑制機能のミ ニモデル試験結果を示す。この機能により,制御開始前に1.6%程度あった電 圧変動が0.2%程度に抑制されている。 BASE 50 mm 1,900 mm 1,200 mm 1,000 mm (直流) (交流) 冷却風 主回路ケーブル引込 正面図 主回路ケーブル引込 右側面図 電流 電圧 太陽光パネルの特性 チョッパ 連系インバータ チョッパ 太陽光パネル 系統 0 電力 出力電力 が最大と なる運転 ポイント 直流電力 直流電力 交流電力 PCS 電流, 電力 日 射 量 出力電力が最大となるように 太陽光パネルの端子間電圧を 調整しながら直流電圧を昇圧 直流電力を交流電力に 変換して系統連系
注:略語説明 PCS(Power Conditioning System)
図4 大容量PCSの外形図と構成
大容量PCSは,太陽光パネルの端子間電圧を調整して出力電力を最大化す るチョッパと,直流電力を交流電力に変換する連系インバータから構成される。
59 4.おわりに ここでは,NEDO「大規模電力供給用太陽光発電系統安 定化等実証研究」を通して,メガソーラー向けの系統安定化 技術を伴った大容量PCSの開発について述べた。 この実証研究は,山梨県北杜市に約2 MW級の太陽光発 電設備を設置し,系統連系時に電力系統側に悪影響を及ぼ さないシステムの実現をめざし,メガソーラーの普及拡大を推 し進めるものである。また,系統安定化に寄与する大容量 PCSの開発,先進的太陽電池モジュールの特性評価,経済 性・環境性を考慮した最適設計などの研究も行われている。 研究スケジュールとしては,2006年度から2010年度までの5年 間の計画であり,2009年度から大容量PCSを含めた全体シス テムのフィールド試験が予定されている(図7参照)。 今後,日本においても電力会社や自治体を中心にメガソー ラーが導入されていくものと考えられる。日立製作所は,これ まで蓄えてきた配電系統制御技術やマイクログリッド技術を生 かして,系統への影響を考慮した大規模太陽光発電に取り 組んでいく所存である。 1)宮田,外:新エネルギー分野を開拓するパワーエレクトロニクス製品,日立 評論,90,12,1000∼1005(2008.12) 2)内山,外:平成20年電気学会B部門大会,No.147(2008.9) 3)瞬時電圧低下対策専門委員会:瞬時電圧低下対策,電気協同研究,第 46巻,第3号(1990.7) 4)NEDO,大規模電力供給用太陽光発電系統安定化等実証研究, http://www.nedo.go.jp/activities/portal/p06005.html 執筆者紹介 三村 英之 1990年日立製作所入社,電力グループ 電機ソリューショ ン本部 電源システム部 所属 現在,分散型電源システムのソリューションの企画に従事 feature article 内山 倫行 1990年日立製作所入社,電力グループ エネルギー・環境 システム研究所 電力流通プロジェクト 所属 現在,分散型電源の運用制御技術の研究に従事 電気学会会員 宮田 博昭 1994年日立製作所入社,情報・通信グループ 情報制御 システム事業部 パワーエレクトロニクス設計部 所属 現在,大容量UPS,系統連系インバータの開発設計に 従事 電気学会会員 永山 祐一 1991年日立製作所入社,電力グループ 日立事業所 電機 プラントシステム部 新エネルギーシステムエンジニアリング グループ 所属 現在,新エネルギー関係のシステム設計に従事 相原 孝志 1992年日立製作所入社,情報・通信グループ 情報制御 システム事業部 電力システム本部 電力流通エンジニア リング部 所属 現在,電力系統に関する解析・コンサルティング業務およ び制御システム開発に従事 電気学会会員 参考文献など 超高圧系統2線地絡事故発生 系統復帰確認 注 : U相 V相 W相 注 : U相 V相 W相 事故除去 瞬時電圧低下中も過電流とならずに運転継続 時間(s) 0.4 0.3 0.2 0.1 0 PCS 各相電流 ( pu ) PCS 各正相電圧 ( pu ) PCS 各相電圧 ( pu ) −1.0 0 0.2 0.4 0.6 0.8 1.0 1.2 0 1.0 −1.0 0 1.0 1.09 pu 1.39 pu 0.43 pu 図6 瞬時電圧低下時運転継続機能 超高圧系統の系統事故による瞬時電圧低下時におけるPCS運転継続のミニ モデル試験結果を示す。瞬時電圧低下中も可能な分だけ発電電力の出力を 行っている。 PCS 400 kW PCS 400 kW 2009年度 第3四半期 2008年度・2009年度 2007年度 1期工事 : 0.6 MW 高圧6.6 kV : 2007年度 高圧連系 特別高圧6.6 kV : 2009年度 特別高圧連系 3期工事 : 約0.1 MW 2期工事 : 約1.2 MW 切 換 2009年度 PCS 400 kW PCS PVモジュール :約0.1 MW PVモジュール : 約0.4 MW PVモジュール : 約0.4 MW PVモジュール : 約0.4 MW トランス 210 V/6.6 kV PCS PVモジュール:0.6 MW トランス 210 V/6.6 kV 監視計測 システム 開発品 トランス 6.6 kV/66 kV トランス 420 V/ 6.6 kV ﹁ 約 2 M W 級 太 陽 光 発 電 シ ス テ ム フ ィ ー ル ド 運 転 開 始 ﹂ 注:略語説明 PV(Photovoltaic:太陽電池) 図7 北杜サイトのプロジェクト全体構成 2009年度から約2 MW級太陽光発電システムのフィールド運転が開始される。