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オオムギ黒節病の発生と防除

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Academic year: 2021

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II 発 生 状 況 本病は早播き(生育初期の気温が高く,軟弱徒長にな りやすい)に加え,1 ∼ 3 月の節間伸長期の低温遭遇に より多発しやすいとされている(吉田ら,1979)。森ら (2001)は,本病の病徴発現には,氷点下(− 5℃)の 温度に遭遇することが必要であり,オオムギの生育ステ ージが関与し,幼穂形成始期以降に感受性が高まること を報告している。2010 年は記録的な暖冬であったが, 春先の気温は低く推移した。これは,前述の発病を促す 気象条件と合致しており,多発要因の一つになったと考 えられる。 2010 年に種子の保菌状況を調査したところ,本病菌 の保菌率は 28 ∼ 100%であった。また,健全茎と発病 茎に分けて種子をそれぞれ採取し保菌状況を調べたとこ ろ,発病の有無にかかわらず高率に保菌していることが 明らかになった。 III 種子消毒法の検討 これまで,オオムギ黒節病を対象とした種子消毒の試 験は少ない。そこで,化学農薬,特定農薬(食酢)およ び乾熱処理の防除効果について試験を行った。試験に は,本病発生圃場から採取した保菌率約 100%の自然感 染種子(品種:サチホゴールデン)を用い,供試種子か らの本病菌の検出にはムギ類黒節病菌選択培地(森ら, 1999)を用いた。また,同様に処理した種子を育苗培土 に播種し,出芽率を調査した。 1 化学農薬による防除効果 化学的な種子消毒方法として,ムギ類に適用がある 3 剤,ムギ類に適用はないが細菌病に防除効果を示す 7 剤 の計 10 剤を供試し,種子消毒剤としての有効性を検討 した。その結果,ムギ類に適用のある薬剤では,チウラ ム・チオファネートメチル水和剤(ホーマイ水和剤)に 防除効果が認められた。ムギ類に適用のない薬剤では, オキシテトラサイクリン・ストレプトマイシン水和剤の 防除効果が認められた。いずれも出芽率は 90%以上で あり,出芽への影響は認められなかった。また,オキシ テトラサイクリン第 4 級アンモニウム塩水和剤は高い防 除効果が認められたが,供試種子での出芽が著しく抑制 された(表― 1)。これらの結果から,チウラム・チオフ は じ め に 栃木県はオオムギの有数の産地で,平成 23 年産作物 統計によると,二条オオムギは作付面積 9,870 ha,生産 量 33,800 t と全国一を誇っている。2010 年 5 月,県内 のオオムギ圃場(品種:サチホゴールデン)において, 稈節が黒褐変し,葉身や葉鞘に黒褐色の条斑を生じる株 が多発した。病斑部から常法により病原菌を分離し,同 定を行った結果,本病は Pseudomonas syringae pv.

japon-ica によるオオムギ黒節病であることが判明した。 本病はオオムギおよびコムギに発生する種子伝染性病 害であるが,汚染種子を播種しても必ずしも発病すると は限らず,発病には年次間差が大きい。また,本病に対 する登録農薬はなく,厚播きや早播きを避ける等耕種的 な防除対策が行われているのが現状である。本県では以 前から発生が認められていたが,これまで大きな問題と なることはなかった。2010 年は,暖冬多雨でオオムギ の生育が進むとともに,3 月下旬∼ 4 月にかけて低温と なり,本病の発生に好適な条件が重なったためと考えら れた。 また,本病は種子伝染性病害であることから,黒節病 に汚染されていない健全な種子の利用が最も有効な防除 法と考えられる。そこで,本病発生圃場から採取した種 子を用いて,種子消毒による防除効果を検討したので, その概要を報告する。 I 病   徴 オオムギ黒節病は,葉,葉鞘,節,稈および穂に発生 する。葉では,はじめ水浸状の条斑を生じ,葉脈に沿っ て広がり,濃褐色の条斑となる。葉鞘では葉脈に沿って 黒褐色の長い条斑が現れ,のちに葉鞘全体が淡褐色とな る。稈では節の部分が濃褐変し,その上下に黒い条線が のび,節の上位部分が枯死する(口絵)。穂では穂焼け 症状となる。 オオムギ黒節病の発生と防除 35 ―― 35 ――

Occurrence of Barley Bacterial Black Node(Pseudomonas syringaepv. japonica)and its Control. By Miyako YAMASHIRO

(キーワード:Pseudomonas syringae pv. japonica,オオムギ,黒 節病,種子消毒,食酢,乾熱)

オオムギ黒節病の発生と防除

やま

しろ

みやこ 栃木県農業試験場

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いは冷水温湯浸漬による種子消毒法が一般的である。本 法は,ムギ類の黒穂病類に対して 1890 年ごろから実施 されるようになった。しかし,黒節病に対しては,防除 効果は低く,温湯浸漬時間を長くすると出芽率は極端に 低下する(山城,未発表)。一方,乾熱処理は,オオム ギ裸黒穂病(村田ら,1981),コムギ赤かび病(仲川・ 山口,1987)でも有効であることが示唆されている。さ らに,エンドウつる枯細菌病(増田,2008),ウリ科野 菜果実汚斑細菌病(原・窪田,2010)等,細菌病による 病害に対しても防除効果が報告されている。 そこで,本病に対する乾熱処理の有効性を検討した。 ァネートメチル水和剤(ホーマイ水和剤),オキシテト ラサイクリン・ストレプトマイシン水和剤による防除効 果は認められたが,種子消毒剤としては十分とは言え ず,現時点では農薬による防除は期待できない。 2 食酢浸漬処理による防除効果 現状では,オオムギ黒節病に対する登録農薬はないこ とから,化学農薬を使用しない種子消毒法が求められ る。そこで,特定農薬である食酢を用いた防除方法を検 討した。食酢による種子消毒技術は,イネの催芽時食酢 処理(関原・向畠,2008)で褐条病,もみ枯細菌病およ び苗立枯細菌病に対して高い防除効果が得られている。 試験には穀物醸造酢(ミツカングループ製,酸度 4.2%)を用い,食酢の希釈倍率が原液( 1 ),2,4,6, 8,10 および 20 倍となるよう調整し,10 分間浸漬処理 した。食酢は希釈倍率が低いほど防除効果が高まり,希 釈濃度 4 倍から防除効果が高くなった。希釈倍率 1 倍, すなわち原液浸漬の防除効果が最も高かったが,出芽率 が低かった(表― 2)。そこで,出芽率低下を防ぐため, 4 倍以下の希釈濃度で浸漬時間を 10,20,30 分とし, 食酢浸漬処理後に 10 分間流水で洗浄した。その結果, 出芽率は向上したが,流水洗浄しない場合に比べ,防除 効果が大幅に低下した(表― 3)。 3 乾熱処理による防除効果 物理的な種子消毒の方法には,温湯処理と乾熱処理が ある。ムギ類では,斑葉病,なまぐさ黒穂病,裸黒穂病, 条斑病等の種子伝染性病害を対象として,温湯浸漬ある 植 物 防 疫  第 66 巻 第 1 号 (2012 年) 36 ―― 36 ―― 表 −1 オオムギ黒節病自然感染種子に対する各種薬剤の防除効果 供試薬剤 希釈倍数(倍) 浸漬時間 検出率 a) (%) 防除価 b) 出芽率 (%) チウラム・チオファネートメチル水和剤(ホーマイコート) チウラム・チオファネートメチル水和剤(ホーマイ水和剤) 〃 チウラム・ベノミル水和剤 〃 オキソリニック酸水和剤 〃 カスガマイシン液剤 オキソリニック酸・カスガマイシン水和剤 オキシテトラサイクリン・ストレプトマイシン水和剤 オキシテトラサイクリン第 4 級アンモニウム塩水和剤 銅・フルジオキシニル・ベフラゾエート水和剤 タラロマイセス フラバス水和剤 〃 無処理 粉衣(種子重量の 3%) 200 粉衣(種子重量の 1%) 20 200 10 200 200 200 1,000 200 200 10 湿粉衣(種子重量の 4%) ― 24 時間 ― 10 分 24 時間 10 分 24 時間 24 時間 24 時間 24 時間 24 時間 24 時間 10 分 ― 100 65 93 92 100 89 100 100 100 48 0 100 100 100 100 0 35 7 8 0 11 0 0 0 52 100 0 0 0 96 99 90 91 48 97 76 91 75 94 0 55 76 54 96 a)ムギ類黒節病菌選択培地で特徴的なコロニーを形成した種子の割合. b)防除価= 100 −(処理区の検出率/無処理区の検出率)× 100. 表 −2 オオムギ黒節病自然感染種子に対する食酢浸漬処理a) 防除効果 希釈倍率(倍) 検出率(%)b) 1 2 4 6 8 10 20 無処理 24 26 37 85 83 87 94 100 a)処理時間は 10 分とした. b)ムギ類黒節病菌選択培地で特徴的なコロニーを形成した種 子の割合. c)防除価= 100 −(処理区の検出率/無処理区の検出率)× 100. 防除価c) 出芽率(%) 76 74 63 15 17 13 6 58 94 93 96 95 97 95 96

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乾熱処理は,乾熱滅菌器(アドバンテック東洋製,SP ― 650)を用いて行った。なお,すべての処理において, 乾熱処理の前に 40℃ 24 時間の予備乾熱処理を行った。 その結果,80℃および 85℃では処理時間が長くなると 防除価は高くなった。しかし,80℃ 7 日以上,85℃ 6 日 以上の処理では,出芽率が若干低下した(表― 4)。前述 の温湯処理では,種子の出芽率の低下が著しかったが, 乾熱処理では出芽率の低下が抑えられ,乾熱処理が種子 消毒に有効な手段であることが明らかとなった。なお, 種子の乾熱処理にあたっては,乾熱滅菌器のメーカーや 機種によって庫内の温度分布や温度制御能力が違うため 効果が異なることが推測されるので,事前に各機器に合 わせた処理時間を確認する必要がある。さらに,古い種 子や種子の保存状態によっては出芽率が低下する恐れが あるので,必ず当年産の種子を使用するなどが留意点と してあげられる。 4 乾熱処理と食酢浸漬処理の組合せによる防除効果 食酢浸漬処理および乾熱処理について,種子の出芽率 が安定しており,かつ防除価が高い処理の組合せによる 防除効果を検討した。40℃ 24 時間の予備乾熱処理後, 80℃ 5 日間および 6 日間の乾熱処理を行い,直ちに食酢 浸漬処理を行った。食酢は穀物醸造酢(ミツカングルー プ製,酸度 4.2%)原液を用い,浸漬時間 10 分,20 分 および 30 分とし,いずれも食酢浸漬処理後 10 分間流水 洗浄した。処理は室温で行った。その結果,いずれの組 合せ処理も防除価 77 ∼ 98 と高く,出芽率は 80%以上 であった(表― 5)。乾熱処理と食酢浸漬処理を組合せる オオムギ黒節病の発生と防除 37 ―― 37 ―― 表 −3 オオムギ黒節病自然感染種子に対する食酢浸漬処理(処 理後流水洗浄a))の防除効果 希釈倍率 (倍) 浸漬時間 (分) 検出率b) (%) 防除価 c) 出芽率 (%) 1 10 20 30 97 85 63 3 15 37 95 94 98 2 10 20 30 86 94 73 14 6 27 91 89 58 a)食酢浸漬処理後に 10 分間流水洗浄した. b)ムギ類黒節病菌選択培地で特徴的なコロニーを形成した種 子の割合. c)防除価= 100 −(処理区の検出率/無処理区の検出率)× 100. 4 10 20 30 99 93 85 1 7 15 97 92 84 無処理 100 96 表 −4 オオムギ黒節病自然感染種子に対する乾熱処理の防除効果 処理温度a) (℃) 処理時間 (日) 検出率b) (%) 防除価 c) 出芽率 (%) 85 5 6 7 8 43 31 31 14 57 69 69 86 93 75 82 67 80 5 6 7 8 81 74 54 52 19 26 46 48 92 90 79 84 a)事前に 40℃ 1 日間の予備乾熱処理した. b)ムギ類黒節病菌選択培地で特徴的なコロニーを形成した種 子の割合. c)防除価= 100 −(処理区の検出率/無処理区の検出率)× 100. 75 5 6 7 8 98 97 96 84 2 3 4 16 97 99 94 95 70 5 6 7 8 100 98 100 89 0 2 0 11 97 97 99 97 無処理 100 96 表 −5 オオムギ黒節病自然感染種子に対する乾熱処理と食酢浸 漬処理a)の組合せによる防除効果 処理温度b) (℃) 処理時間 (日) 食酢処理 時間c)(分) 検出率d) (%) 防除価 e) 出芽率 (%) 80 5 10 20 30 23 7 15 77 93 85 93 90 82 6 10 20 30 15 8 2 85 92 98 90 86 90 a)食酢浸漬処理後に 10 分間流水洗浄した. b)事前に 40℃ 1 日間の予備乾熱処理した. c)食酢は原液を用いた. d)ムギ類黒節病菌選択培地で特徴的なコロニーを形成した種 子の割合. e)防除価= 100 −(処理区の検出率/無処理区の検出率)× 100. 乾熱処理なし 10 20 30 92 85 63 8 15 37 95 94 98 無処理 100 96

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につながると考えられる。 乾熱処理と食酢浸漬処理を組合せた種子消毒方法は, 他の種子伝染性病害に対する防除効果も期待できる。ま た,農薬登録の有無に縛られないことから,現状で最も 有効な種子消毒法と考える。今後,圃場レベルで使用で きるデータを蓄積することにより,より実用的なものに する必要がある。 引 用 文 献 1)原 一晃・窪田昌春(2010): 植物防疫 64 : 368 ∼ 373. 2)増田吉彦(2008): 植物防疫 62 : 294 ∼ 298. 3)森 充隆ら(1999): 日植病報 65(講演要旨): 362 ∼ 363. 4) ら(2001): 同上 67(講演要旨): 207 ∼ 208. 5)村田明夫ら(1981): 同上 47(講演要旨): 386. 6)仲川晃生・山口武夫(1987): 同上 53(講演要旨): 106. 7)関原順子・向畠博行(2008): 北陸病虫研報 57 : 1 ∼ 9. 8)菅 正道・松崎正文(1980): 日植病報 46(講演要旨): 66. 9)吉田桂輔ら(1979): 同上 45(講演要旨): 559. ことにより,出芽率低下を防ぎながら,それぞれの単独 処理より高い防除効果を発揮することが明らかになった。 お わ り に オオムギ黒節病の発生は,気象条件により左右される ことや,過去の大発生事例も少なく,これまで問題視さ れることは少なかった。しかし,近年の温暖化などの影 響により,発病しやすい条件が整いやすくなり,その問 題が顕在化してきたと考えられる。現時点での防除対策 は,適期播種,厚播きを行わない,麦稈の水田すきこみ (菅・松崎,1980)等,耕種的防除手段が主体となって いるが,それらだけでは根本的な解決にはならない。本 病は種子伝染性病害であることから,第 1 次伝染源であ る種子伝染を断つことが最も重要である。あわせて耕種 的な防除手段を組合せることで,現地圃場での発生防止 植 物 防 疫  第 66 巻 第 1 号 (2012 年) 38 ―― 38 ――

参照

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