児童養護施設からの家庭復帰に係る研究(2) -A
児童養護施設における経年調査と児童虐待-著者
林 知然
著者別名
HAYASHI Tomonori
雑誌名
東洋大学大学院紀要
巻
57
ページ
113-132
発行年
2021-03-15
URL
http://id.nii.ac.jp/1060/00012612/
Creative Commons : 表示 - 非営利 - 改変禁止 http://creativecommons.org/licenses/by-nc-nd/3.0/deed.ja― 113 ―
【要旨】
A児童養護施設の対象者211名のデーターをクロス集計にて再分析した。 その結果、①2015-2019年度に入所した子どもの89.3%が虐待を経験している。②親が精 神疾患を有していると、4つの児童虐待のうち、心理的虐待の割合が高く、ネグレクトとの 割合もやや高い。③4つの児童虐待のうち、3つの児童虐待と比較をして相対的にダメージ が少ないと推測されるのが心理的虐待であり、その結果家庭復帰の割合が高まっている。④ 家庭から直接入所に至った児童と、社会的養護環境下からの措置変更による入所では、後者 の方が家庭復帰率は25.3%低い。⑤退所時に養育者状況が単数ではなく複数であるほうが、 家庭復帰率が6.5%高い。⑥家庭復帰時に生活保護受給が無いほうが家庭復帰率は5.2%高く、 親が就労しているほうが家庭復帰率は9.1%高い。ただし、生活保護を受給していない、就 労をしている、ことが家庭復帰を後押ししているとは言えない。 親が精神疾患を有している家族内で、さらなる子育て世代包括支援センターの支援が望ま れる。社会的養護環境下において乳児院と児童養護施設の垣根を超えた福祉施設のさらなる 整備の必要性を指摘する。 【キーワード】児童養護施設、社会的養護、家庭復帰、児童虐待1.調査対象・方法・目的
本稿は、「児童養護施設からの家庭復帰に係る研究―A児童養護施設における経年調査か ら―(以下、2020年の筆者論文)」の続編である。 2020年の筆者論文では、主に①2015-2018年の入所児童被虐待率は86.9%。②家庭復帰を 果たすためのソーシャルケースワークの重点的なタイミングは3年若しくは5年未満。③家 庭復帰に至った児童の入所時年齢が5歳未満の場合は38%の家庭復帰率であり、7歳未満は児童養護施設からの家庭復帰に係る研究(2)
―A児童養護施設における経年調査と児童虐待―
社会福祉学研究科社会福祉学専攻博士前期課程2年
林 知然
― 114 ― 55%である。④2005年以降で親が精神疾患を有する入所児童は半数以上である。また、親が 精神疾患を有すると家庭復帰において20%強の劣位性が認められ、且つ入所時期が低年齢化 し、在籍期間が増加することを論じた。 本稿における調査目的は、2020年の筆者論文で取り扱うことが出来なかったテーマであ る。先ずは児童虐待に着目する。①児童相談所や児童養護施設職員における児童虐待への関 心の移り変わりを確認する。②児童虐待有(4つの児童虐待)・児童虐待無と親精神疾患有 無との関係性を確認する。③児童虐待有(4つの児童虐待)と退所時生活場所の関係性を確 認する。④入所時・退所時の生活環境や養育者の状況と家庭復帰の関係性を明らかにするこ とを目的とする。 研究動機であるが、社会的養護環境下で生活をしている子どもは、全国に43430人1居る。 その人数は少子化が促進される中でも減少することがない。そうした子どもたちが可能な限 り早く家庭的で継続的な養育環境に置かれるべきであるとする考え方は新しい社会的養育ビ ジョンでも明確に打ち出されているが、その最も有効な方法は家庭復帰であることは言うま でもない。にもかかわらず、児童養護施設入所児童数は24912人という現状である。何かし らの理由で親子分離がなされ、施設入所に至ったが本来子どもの権利条約や児童福祉法にも 明記されているように、その親と共に生活をすることが望ましい。しかしながら、その実態 は情報として提出されにくいため、有効な支援方法がその実態から検討されないで埋もれて いる。このような問題意識に立って本研究に取り組んだ。 本研究は、2020年の筆者論文から引き続き東京都内に所在するA児童養護施設を対象とし ている。A児童養護施設が所持している1990年度から2019年度までの30年分のデーターによ る入所児童と既に退所をした児童211名に加えて、その児童の親も含めて対象とし、経年調 査の再分析・考察を行った。対象としたデーターの変数は入所年度、入所年代、入所時年 齢、退所年度、退所年代、退所時年齢、在籍年数、入所時直前生活場所、退所時生活場所、 入所時きょうだい有無、退所時きょうだい有無、入所時きょうだい生活場所、退所時きょう だい生活場所、入所理由(主訴)、児童票記載による虐待有無、事実としての虐待有無2、虐 待種類、入所時養育者状況、退所時養育者状況、入所時親生活保護受給有無、退所時親生活 保護受給有無、入所時親就労有無、退所時親就労有無、親精神疾患有無の24項目である。こ のデーターをクロス集計し、再分析を行った。 A児童養護施設は、東京都23区内に位置しており、都児童相談所10箇所及び2020年度から 開設した区児童相談所3から、偏重なく児童が措置されている。また、在籍児童については、 中学生以上や幼児中心などの限定的な偏向はない。養護児童グループホーム4と、東京都独 自の事業である専門機能強化型児童養護施設5の認可を受けている。地域に根差して、全て の生活ユニットを家庭的養護6として運営を行うと共に、一方では治療的、専門的なケアに 取り組む児童養護施設である。なお、特定の児童を対象としたグループホームを運営してい
― 115 ― るが、入所背景が特化しているために本調査対象からは除外した。
2.倫理的配慮
調査はA児童養護施設独自の変数を採用しており、施設内での検討も行い、倫理的問題は ないと判断して実施し、既に公表されている。個人情報保護の観点においても、個人が特定 されることはない。3.先行研究
児童養護施設に入所をしている児童の調査に代表されるものとして、1977年より厚生労働 省子ども家庭局が5年毎に実施している「児童養護施設入所児童等調査(2020)、以下『国 調査7』」が挙げられる。この調査は、概ね同調査項目を各年次で実施する縦断的調査である。 2017年の調査では、児童の入所時の年齢、児童の在所期間、児童の入所経路、養護問題発生 理由、児童の被虐待経験の有無、虐待の種類、入所時の親の状況など、23項目に渡るが項目 間の因果関係は明らかにしていない。また、東京都社会福祉協議会児童部会が1997年より実 施している「児童養護施設の状況(2020)、以下『都施設調査8』」は、毎年調査を実施して おり、児童養護施設月別在籍児童数及び入退所状況、年齢別・性別の状況、入所期間、入所 理由、虐待の有無、虐待の種類、親の状況など29項目に渡ってデーターを集計している。国 調査同様に縦断的調査であり、項目間の因果関係は明らかにしていない。この2点の調査は、 調査時点で在籍している全児童を対象としているが、本調査は、その年次に入所した児童を 対象とした。 我が国の深刻な社会病理となっている児童虐待の背景には、ひとり親家庭、経済的困難、 就労の不安定、孤立などが東京都の調査9から指摘されている。また、周燕飛(2019)は児 童虐待の発生要因を分析する中で、病理説(健康不良、うつ傾向などの健康問題、親自身が 児童虐待の被害者)、経済環境説(貧困、経済状況の厳しい家庭)、社会環境説(ひとり親、 子どもが低出生体重児、周囲からの育児支援を十分に得られない状態)のいずれも児童虐待 の発生率が高いと明らかにした。 斎藤学(2001)は、高い精神障害罹患率(実父の33%、実母の49%に精神障害)が児童虐 待の加害者になりやすいと明らかにした。松宮透髙(2008)は、親のメンタルヘルス問題は 児童虐待と関連があると結論付け、児童養護施設と精神保健福祉機関の連携が不可欠である ことを指摘し、親のメンタルヘルス問題の過剰な問題視などは避けて、積極的に関わる姿勢 が求められるとした。しかしながら、両論文は4つに分類されている児童虐待と精神疾患と の関係性は明らかにしていない。 また、松宮透髙・井上信次(2014)は、親のメンタルヘルス問題の有無と入所期間との間 に有意差は認められないともし、十分な支援を欠いたままに他の要因により家庭復帰をして― 116 ― いる事例が少なくない可能性を示唆している。他方で2020年の筆者論文では、親が精神疾患 を有しているケースのほうが関係機関の介入が早まり、早期に親子分離・入所に至ってい る。また、家庭復帰率も減少し、家庭復帰に至る年齢も上昇傾向にあると示唆した。
4.調査項目
4―1.入所年代及び退所年代 1990年度から、5年毎に区切り、Ⅰ~Ⅵ期の6段階に区分した(表1)。 4―2.入所理由 児童養護施設に入所する際には、児童相談所から発行される措置通知書に主訴が記載され る。施設入所に至るには複合的な理由があり、主訴にも一つだけの理由だけでなく、複数の 理由が併記されることも散見される。本稿では、入所時に児童福祉司と確認をした内容。ま たは、当時の記録や当時を知る職員からの聴き取りを経て、主たる理由を選別し、分類をし た(表2)。 表1 入所年代及び退所年代 Ⅰ期 Ⅱ期 Ⅲ期 Ⅳ期 Ⅴ期 Ⅵ期 1990-1994 1995-1999 2000-2004 2005-2009 2010-2014 2015-2019 表2 入所理由の分類 離婚 親の疾病(精神疾患を除く) 親の就労 親の家出 親の出産 親の拘留 親の精神疾患 家庭環境から起因する児童の非社会的行動 家庭環境から起因する児童の反社会的行動 上記に該当しない家族環境から起因する措置 被虐待 措置変更(乳児院) 措置変更(児童養護施設) 措置変更(児童自立支援施設) 措置変更(養育家庭) 不明― 117 ― 4-3.入所時直前生活場所 A児童養護施設に入所する前の直前生活場所は、表3のように分類をした。ただし、児童 福祉施設などへの一時保護委託を含む一時保護としての生活場所については除いて分類を行 った。 4-4.退所時生活場所 A児童養護施設を退所した先は、表4のように分類をした。 4―5.児童虐待の操作的定義 我が国における児童虐待は、児童虐待の防止等に関する法律(以下、児童虐待防止法)に 定義されており、身体的虐待、性的虐待、ネグレクト、心理的虐待12に分類されている。Ⅰ 期とⅡ期については、児童虐待防止法が施行される前であったが、遡って4つの児童虐待の 定義に照らして、カウントを行った。また、1つのケースに虐待が重複することも観察され たために、各々にカウントをした。そのため実際に該当するケース数と数値は異なる。4つ の児童虐待と虐待無を加えて分類をした(表5)。 表3 入所時直前生活場所の分類 家庭 親族宅 乳児院 母子生活支援施設 児童自立支援施設 (A児童養護施設ではない)児童養護施設 養育家庭 その他生活場所 表4 退所時生活場所の分類 家庭引き取り 高校など卒業就労・一人暮らしなど 社会的養護1 矯正施設 親類宅 障がい者関連施設2 1 A児童養護施設ではない、他の児童養護施設、母子生活支援施設、児童自立支援施設、養育家庭、自立 援助ホームが該当した。 2 障害児入所施設、障害者グループホーム、宿泊型自立訓練施設(通勤寮)が該当した。 10 11
― 118 ―
5.調査結果
調査対象とした1990~2019年度の30年間分で、入所人数は211人であり、退所人数は171人 であった(表6)。 入所理由(主訴)×入所年代の集計(表7)について、全期間を通じて最も高い主訴は、 被虐待(36.0%)である。Ⅰ期0.0%から上昇を続け、Ⅵ期には60.7%に達した。 また措置変更による入所を観察すると、児童養護施設、児童自立支援施設、里親からの措 置変更による入所は、まばら且つ低い割合であった。他方で乳児院からの措置変更について は、ほぼ右肩上がりに増加し、2015年度以降の入所は4ケースに1ケースの割合である。こ れは、我が国も批准をしている子どもの権利条約、2009年に国連総会で採択された児童の代 替的養護に関する指針、2016年の改正児童福祉法、2017年に示された、新しい社会的養育ビ ジョンが涵養されていないことが窺える(2017年度3ケース、2018年度4ケースの措置変更 による入所)。 他の主訴については、出現がまばら且つ低い割合、相対的に減少傾向であることが観察さ れる。 表8は、全期間中の入所人数(A)内の、主訴が被虐待のケース(B)と、B+児童票に 被虐待が記載されているケース(C)、B+C+事実としての虐待有無(D)を比べた。Cは、 主訴が被虐待ではないが、これまでに児童相談所が被虐待を把握しているケースが該当する。 Dは、児童相談所が児童虐待を把握していなかったケースが該当する。またA児童養護施設 としても、今振り返れば児童虐待に該当すると判断できるが当時は関心が希薄であったと言 える。臨床現場では虐待有無に応じて、よりセンシティブなケアを計画立てるため、Dの把 握が重要である。 表5 児童虐待の分類 身体的虐待 性的虐待 ネグレクト 心理的虐待 虐待無 表6 入所年代×入退所人数(人) Ⅰ期 Ⅱ期 Ⅲ期 Ⅳ期3 Ⅴ期 Ⅵ期 計 入所数 29 51 39 30 34 28 211 退所数 16 32 28 32 34 29 171 3 Ⅳ期以降に入所した児童 92 名の内 40 人は入所中であるため、Ⅳ-Ⅵ期は現時点での数値である。 13― 119 ― 前年代を通じて、(B÷A)は上昇を続けている。(C÷A)と(D÷A)に関しても、一時 的な下降は見られるが、相対的には上昇を続けている。 Ⅰ期は、主訴、児童票への被虐待の記載はないが、事実として29人のうち10人が虐待を受 けていた。Ⅰ期からⅥ期の(C÷A)と(D÷A)の差を観察すると、一時的に差が開く時 期(Ⅲ期)は見られるが、相対的には差が縮まった。なお、Ⅲ期にあたる2000年11月から児 童虐待防止法が施行されている。 事実としての被虐待率である(D÷A)は、Ⅵ期には89.3%に至った。参考として、国調 査の最新データーでは65.6%、都施設調査は75.4%である。違いが生じる要因として、本調 査は2015-2019年度を対象とし、国調査は2017年度、都施設調査は2016年度を対象としてい ること。また、東京都は全国よりも被虐待の割合が高い傾向が、都施設調査など既存の調査 報告からも観察できる。 表7 入所理由(主訴)×入所年代 N=211 %(人) 主訴\入所年代 Ⅰ期 Ⅱ期 Ⅲ期 Ⅳ期 Ⅴ期 Ⅵ期 計 離婚 10.3(3) 27.5(14) 5.1(2) 0.0 0.0 0.0 9.0(19) 親疾病 10.3(3) 9.8(5) 2.6(1) 0.0 5.9(2) 0.0 5.2(11) 親就労 24.1(7) 7.8(4) 5.1(2) 0.0 0.0 0.0 6.2(13) 親家出 0.0 2.0(1) 2.6(1) 0.0 2.9(1) 0.0 1.4(3) 親出産 6.9(2) 0.0 0.0 0.0 0.0 0.0 0.9(2) 親拘留 0.0 3.9(2) 2.6(1) 13.3(4) 0.0 0.0 3.3(7) 親精神疾患 0.0 2.0(1) 20.5(8) 6.7(2) 0.0 0.0 5.2(11) 子非社会的 3.4(1) 2.0(1) 2.6(1) 3.3(1) 0.0 0.0 1.9(4) 子反社会的 10.3(3) 0.0 2.6(1) 0.0 5.9(2) 0.0 2.8(6) 他家族環境 17.2(5) 9.8(5) 10.3(4) 10.0(3) 5.8(2) 3.6(1) 9.5(20) 被虐待 0.0 25.5(13) 30.8(12) 50.0(15) 55.9(19) 60.7(17) 36.0(76) 変更(乳児) 0.0 7.8(4) 10.3(4) 10.0(3) 17.6(6) 25.0(7) 11.4(24) 変更(施設) 0.0 0.0 5.1(2) 0.0 0.0 7.1(2) 1.9(4) 変更(自立) 0.0 2.0(1) 0.0 0.0 5.9(2) 0.0 1.4(3) 変更(里親) 0.0 0.0 0.0 6.7(2) 0.0 3.6(1) 1.4(3) 不明 17.2(5) 0.0 0.0 0.0 0.0 0.0 2.4(5) 総計 100(29) 100(51) 100(39) 100(30) 100(34) 100(28) 100(211)
― 120 ― 表9は、表8の事実としての虐待有無と入所年代をクロス集計した。虐待無は相対的に減 少していることが分かる。4つの児童虐待のうち、身体的虐待とネグレクトの割合が高いこ とが確認できるが、規則性は確認出来ない。性的虐待と心理的虐待の出現はまばらであり、 同様に規則性は確認出来ない。 表10は、表8の事実としての虐待有無と親精神疾患有無のクロス集計である。身体的虐待 では、無が有を24.6%上回った。ネグレクトでは無と有は同等の割合であった。心理的虐待 では、有が無を33.4%上回った。性的虐待については、無が有を71.4%上回った(ただし、 表8 虐待有無×入所年代 N=211 (人) 虐待有無\入所年代 Ⅰ期 Ⅱ期 Ⅲ期 Ⅳ期 Ⅴ期 Ⅵ期 国調査 *2017 年度 都施設調査 *2016 年度 入所人数(A) 29 51 39 30 34 28 主訴が被虐待のケース数(B) 0 13 12 15 19 17 B+児童票に被虐待が記載 されているケース数(C) 0 15 13 19 20 24 B+C+事実としての虐 待有無(D) 10 24 25 22 23 25 (%) B÷A 0.0 25.5 30.8 50.0 55.9 60.7 45.2 54.0 C÷A 0.0 29.4 33.4 63.4 58.8 85.7 D÷A 34.5 47.0 64.1 73.4 67.6 89.3 65.6 75.4 (C÷A)と(D÷A)の差 34.5 17.6 30.7 10.0 8.8 3.6 表9 事実としての虐待有(4つの児童虐待)無×入所年代 N=224 %(人) 虐待\入所年代 Ⅰ期 Ⅱ期 Ⅲ期 Ⅳ期 Ⅴ期 Ⅵ期 身体 10.3(3) 31.6(18) 23.8(10) 25.0(8) 31.4(11) 34.5(10) 性 0.0 5.3(3) 2.4(1) 0.0 2.9(1) 6.9(2) ネグレクト 17.2(5) 12.3(7) 26.2(11) 34.4(11) 31.4(11) 31.0(9) 心理 6.9(2) 3.5(2) 14.3(6) 15.6(5) 2.9(1) 17.2(5) 無 65.5(19) 47.4(27) 33.3(14) 25.0(8) 31.4(11) 10.3(3) 計 100.0(29) 100.0(57) 100.0(42) 100.0(32) 100.0(35) 100.0(29)
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― 121 ― 該当するケース数は7である)。 図1は、表10の事実としての虐待有無と親精神疾患有無内の項目で虐待有を抽出し、グラ フ化したものである。 2020年の筆者論文において、虐待有無によって家庭復帰の差異は大きく生じないことを示 した(今回調査データー更新によって、家庭復帰率は63.2%に変更。虐待有家庭復帰率61.4 %、虐待無家庭復帰率65.7%に変更)。また、親精神疾患有無によって20%超の家庭復帰の 差異が生じていることを示した(今回調査データー更新によって、親精神疾患有家庭復帰率 50.9%、親精神疾患無家庭復帰率70.2%に変更)。 表11は、表8の事実としての虐待有無と退所時生活場所をクロス集計した。性的虐待以外 の3つの児童虐待については、全て家庭が自立を上回る割合であった。ただし、その割合の 差(家庭-自立)は、身体的虐待53.7%、ネグレクト22.5%、心理的虐待62.5%であり、最 大40.0%の差異が生じている。虐待無では、家庭が自立を50.0%上回った。その他の退所時 表10 事実としての虐待有(4つの児童虐待)無×親精神疾患有無 N=224 %(人) 虐待\親精神疾患有無 有 無 不明 計 身体 37.7(23) 62.3(38) 0.0 100.0(61) 性 14.3(1) 85.7(6) 0.0 100.0(7) ネグレクト 49.1(26) 49.1(26) 1.9(1) 100.0(53) 心理 66.7(14) 33.3(7) 0.0 100.0(21) 無 25.6(21) 73.2(60) 1.2(1) 100.0(82) *本調査において、全期間の親精神疾患有は37.1%、無は 61.9%、不明は 1.0%。Ⅳ期-Ⅵ期(2005 -2019 年)では、有は 49.5%、無は 50.5%である。 図1 虐待有(4つの児童虐待)無×親精神疾患有無 62.3% 85.7% 49.1% 33.3% 37.7% 14.3% 49.1% 66.7% 0.0% 20.0% 40.0% 60.0% 80.0% 100.0% 身体 性 ネグレクト 心理 無 有
― 122 ― 生活場所については、目立った特徴が見られなかった。図2は、表11の事実としての虐待有 無×退所時生活場所内の項目で、虐待有と退所時生活場所内の「家庭」と「自立」を抽出 し、グラフ化したものである。 表12は、入所時直前生活場所と退所時生活場所内の「家庭」をクロス集計し、家庭復帰に 着目をした。入所時直前場所が家庭では67.7%であり、乳児院と母子生活支援施設、児童自 立支援施設は50.0%であった。家庭から入所に至ったケースと社会的養護環境下からの措置 変更による入所を比較すると、家庭から入所に至ったケースのほうが家庭復帰において25.3 %の高い割合が確認された。 表11 事実としての虐待有(4つの児童虐待)無×退所時生活場所 n=171 %(人) 虐待\退所場所 家庭 自立 社会的養護 矯正施設 親類宅 障がい者施設 身体 66.7(36) 13.0(7) 16.7(9) 0.0 1.9(1) 1.9(1) 性 40.0(2) 40.0(2) 20.0(1) 0.0 0.0 0.0 ネグレクト 47.5(19) 25.0(10) 22.5(9) 0.0 0.0 5.0(2) 心理 75.0(12) 12.5(2) 6.3(1) 0.0 0.0 6.3(1) 無 65.7(46) 15.7(11) 11.4(8) 2.9(2) 0.0 4.3(3) *本調査において全期間の家庭復帰率は、63.2%。 図2 虐待有(4つの児童虐待)×退所時生活場所「家庭」「自立」 n=108 66.7% 40.0% 47.5% 75.0% 13.0% 40.0% 25.0% 12.5% 0.0% 20.0% 40.0% 60.0% 80.0% 100.0% 身体 性 ネグレクト 心理 家庭 自立
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-― 123 -― 表13は、入所時養育者状況と退所時養育者状況(退所時生活場所の「家庭」抽出・家庭復 帰)をクロス集計した。両者を比較すると、いずれの養育者状況であっても、±5.0に収ま っており、明確な数値の差異は観察されなかった。ただし、家庭復帰時に養育者が複数名で あるほうが、家庭復帰率は6.5%高い割合であった。 表12 入所時直前生活場所×退所時生活場所 n=171 %(人) 入所場所\退所場所 家庭 自立 社会的養護 矯正施設 親類宅 障がい者施設 家庭 67.7(90) 14.3(19) 13.5(18) 1.5(2) 0.8(1) 2.3(3) 親族宅 100.0(2) 0.0 0.0 0.0 0.0 0.0 乳児院 50.0(9) 22.2(4) 22.2(4) 0.0 0.0 5.6(1) 母子生活支援施設 50.0(2) 25.0(1) 25.0(1) 0.0 0.0 0.0 児童自立支援施設 50.0(3) 16.7(1) 16.7(1) 0.0 0.0 16.7(1) 他児童養護施設 0.0 66.7(2) 0.0 0.0 0.0 33.3(1) 養育家庭 0.0 50.0(1) 0.0 0.0 0.0 50.0(1) 社会的養護(再掲) 42.4(14) 27.3(9) 18.2(6) 0.0 0.0 12.1(4) その他 66.7(2) 33.3(1) 0.0 0.0 0.0 0.0 *社会養護(再掲)には、乳児院、母子生活支援施設、児童自立支援施設、他児童養護施設、養育家庭が 該当する。 表13 入所時養育者状況×退所時養育者状況(家庭復帰) %(人) 養育者\入退所時 入所時 n=204 退所時(家庭復帰)n=108 両親 19.1(39) 14.8(16) 母 42.2(86) 41.7(45) 母+義父 11.8(24) 15.7(17) 母+親族 1.5(3) 1.9(2) 父 14.2(29) 9.3(10) 父+義母 5.9(12) 8.3(9) 父+親族 2.9(6) 3.7(4) 養育者一人(再掲) 57.5(115) 51.0(55) 養育者複数(再掲) 42.5(84) 49.0(48) *その他親族を除いて補正 その他親族 2.5(5) 4.6(5) *入所時養育者状況において、死去・不明7人は除き補正。
― 124 ― 表14は、入所時親生活保護受給有無と退所時親生活保護受給有無(退所時生活場所の「家 庭」抽出・家庭復帰)」をクロス集計した。両者を比較すると退所時に生活保護受給率が5.2 %低い。 表15は、入所時親就労有無と退所時親就労有無(退所時生活場所の「家庭」抽出・家庭復 帰)をクロス集計した。両者を比較すると退所時に就労を行っている割合が9.9%高い。 ここで調査結果を簡潔にまとめると以下のとおりになる。①2015-2019年度に入所した子 どもの89.3%が虐待を経験している。児童福祉関係者などにおける入所児童の被虐待の認知 率は、現在と比較すると一時的な下降は見られたが、年々高まっている。②親精神疾患有 は、4つの児童虐待のうち、心理的虐待の割合が高く、ネグレクトとの割合もやや高い。③ 4つの児童虐待のうち、心理的虐待は家庭復帰の割合が高い。④家庭から直接入所に至った 児童(一時保護所または、一時保護委託環境は除く)と、社会的養護環境下からの措置変更 による入所では、後者の方が家庭復帰率は25.3%低い。⑤退所時に養育者状況が一人ではな く複数であるほうが、家庭復帰率が6.5%高い。⑥家庭復帰時に生活保護受給が無いほうが 家庭復帰率は5.2%高く、親が就労しているほうが家庭復帰率は9.1%高い。
6.考察
本調査結果から、家庭復帰や児童虐待、親精神疾患有無、養育者状況、生活保護受給状 況、就労状況に関する、いくつかの視座を得ることができた。本稿による視座と2020年の筆 表14 入所時親生活保護受給有無×退所時親生活保護受給有無(家庭復帰) %(人) 生保\入退所時 入所時 n=200 退所時 n=97 無 68.0(136) 73.2(71) 有 32.0(64) 26.8(26) *入所時親死去・不明11 名、退所時親生活保護受給有無不明 11 名は除き補正。 表15 入所時親就労有無×退所時親就労有無(家庭復帰) %(人) 就労\入退所時 入所時 n=199 退所時 n=98 無 36.7(73) 27.6(27) 有 63.3(126) 73.2(71) *入所時親就労死去・不明12 人、退所時親就労有無不明 10 人は除き補正。口
― 125 ― 者論文の視座を合わせて総合的に考察をする。 6-1.児童虐待について 表7で示したように全期間を通じて最も高い入所理由(主訴)は、被虐待(36.0%)であ り、2015-2019においては、60.7%であることが確認できる。また、表8で示したように主 訴のみならず、児童票に被虐待が記載されているケースや事実としての虐待も含んだ虐待を 受けた入所率は89.3%に及んでいることがわかる。A児童養護施設のみならず、国調査及び 都施設調査においても年々被虐待の割合は増加している。また、表8内の児童相談所が被虐 待を把握しているケースと事実としての虐待有無である(C÷A)と(D÷A)の差が相対 的に縮まっているのは、現在児童相談所において入所時の段階で虐待有無について、正確な 調査がなされていると言える。これは、児童福祉関係者などを中心に児童虐待への関心が高 まり、意識とケースワーク技術が向上したと推測する。 児童虐待の影響については、多くの研究者が言及しているが、例えば奥山眞紀子(1998) は、「虐待を受けて育った子どもたちの多くは、小さいころから『お前が悪い』とか『おま えには価値がない』といったメッセージを受けている。身体的虐待を受けた子どもたちは自 分が悪いから殴られていると思っているし、心理的虐待はまさに子どもの自己評価を下げる 操作にほかならない。(略)」と指摘をしている。また、杉山登志郎(2007)は、児童虐待を 受けることで発達障害と類似した症状が出現すると述べている。また、児童虐待の発生要因 の一つである「子ども側のリスク要因」として考えられるのは、「乳児期の子ども、未熟児、 障害児、何らかの育てにくさを持っている子どもなど」と指摘がされている14。児童虐待が 起因であろうとも、障がいが起因であろうとも、児童虐待と子どもが所持する障がいなどの 特性には関連性が存在するのである。 益々、児童虐待や障がいに特化したケアワーク、ソーシャルケースワークが必要とされ る。特に都内において、専門機能強化型児童養護施設や連携型専門ケア機能モデル事業15の 効果も限定的であることを鑑みると児童心理治療施設の設置を検討し、社会的養護環境下に ある子どもたちのニーズに応じた生活環境の選択を可能とするべきであろう。 6-2.児童虐待と親精神疾患との関係 2020年の筆者論文において、2015-2018年の入所児童被虐待率は86.9%と明らかにした。 本稿では、データー更新(2015-2019年)によって、被虐待率は89.3%と更新された。親精 神疾患に関して、2015-2018年の親精神疾患有は52.1%と明らかにした。本稿では、データ ー更新(2015-2019年)によって、親精神疾患有は49.5%と更新された。 そこで、児童虐待と親精神疾患有無のクロス集計によって傾向を観察した(表10)。その 結果、斎藤(2001)や松宮(2008)が指摘した先行研究同様に、児童虐待と親精神疾患有と
― 126 ― の関連性は高いことが確認された。 さらに、4つに分類した児童虐待と親精神疾患有無のクロス集計によって傾向を観察した (表10と図1)。すると親精神疾患有は、4つの児童虐待のうち、心理的虐待の割合が高く (本調査の標準より29.6%高い割合)、ネグレクトともやや割合が高いことがわかった(同標 準より12.0%高い割合)。心理的虐待については、養育者間においてDVが発生し、子どもが 目撃をするという所謂面前DVによる影響と、DVの影響によって親がうつ病等の精神疾患を 発症するという二者の相互関係によって関連性が高まると推測する。ネグレクトについては、 親が精神疾患を有していると料理や掃除などが疎かになることで関連性が高まることが推測 できる。 どんな家庭でも大なり小なり親子間などのトラブルは発生するものである。ましてや親が 精神疾患を有していたら、頻度や重大性は増大する。それでも、親子分離に至らない程度で、 なんとか家庭での生活が継続して営まれるには、地域における支援が必要不可欠である。現 在設置が進められている子育て世代包括支援センターによる妊産婦・乳幼児等への継続的・ 包括的で切れ目のない支援が、有効に展開されていくことが望まれる。 6-3.児童虐待と家庭復帰との関係 2020年の筆者論文において、親が精神疾患を有していると子どもはより低年齢で入所に至 り、家庭復帰率も低下し、在籍期間も長期化することを指摘した。 そこで、分類した児童虐待によって、家庭復帰などの退所時生活場所に影響を及ぼすかど うかを観察した(表11と図2)。その結果、4つの児童虐待のうち、心理的虐待は家庭復帰 の割合がやや高いことがわかった(本調査の標準より11.8%高い割合)。この結果は、他の 3つの児童虐待を上回る数値である。 児童虐待防止法において、児童虐待は4つに分類されている。しかしながら、実際の児童 虐待は明確にカテゴリー別に分類することはできない。身体的虐待、性的虐待、ネグレクト の3つの児童虐待は、身体的なダメージのみならず、心理的虐待も内包することは自明であ る。すなわち虐待を受けたダメージが、3つの児童虐待と比較をして相対的に少ないのが心 理的虐待であり、その結果家庭復帰の可能性が高くなっていると推測できる。 6-4.家庭からの入所児童と社会的養護環境下からの入所児童の家庭復帰による差異 表12で示したように、家庭から社会的養護環境下(一時保護所または、一時保護委託環境 は除く)を経由せずに、入所に至った児童は67.7%の家庭復帰率であった。これは、本調査 における家庭復帰率63.2%と比較すると4.5%の高い割合が観察された。一方、社会的養護環 境下である他施設からの措置変更による入所は、42.4%の家庭復帰率であり、本調査の標準 よりも20.8%の低い割合が確認された。これは、家庭環境が未整備であるために家庭復帰に
― 127 ― 至らずに、措置変更によりA児童養護施設入所に至る。さらに入所後も家庭復帰に至らずに 就労自立などに至った傾向が推測できる。すなわち社会的養護環境下内で長期間生活を余儀 なくされる子どもが一定数居ることを物語っている。 例えば、2017年データーの都施設調査(2020)では1年間で2959人の入所児童が居たが、 そのうち初めて入所をした子どもは1734人である。残りの1225人は、社会的養護環境下での 生活が2回以上である。割合にすると、初めては58.6%、2回は22.8%、3回は12.1%、4 回以上は6.5%である。さらには、措置変更のうち乳児院からの措置変更が51.4%を占めてい ることもわかる。 身体的な発達と共に、こころの発達が著しい幼児期であるにも関わらず、乳児院から児童 養護施設と言った措置変更というシステムによって養育者・養育環境が大きく変わってしま うという矛盾を抱えている。養子縁組制度や里親制度の活用による有効性は自明である。し かしながらドラスティックな政策変更が望めないのであれば、乳児院と児童養護施設の垣根 を超えた子どもの発達を支える福祉施設整備16は待ったなしの状況である。 6-5.家庭復帰時の養育者人数との関係 表13で示したように、退所時の家族成員の違いによって明確な家庭復帰における差異は観 察されなかった。ただし、退所時に養育者状況が一人ではなく複数であるほうが家庭復帰率 として、6.5%の高い割合が確認された。東京都福祉保健局(2005)によると虐待が行われ た家庭状況の調査では、ひとり親家庭の割合が35.6%であり、東京都全体のひとり親家庭が 全世帯中7.3%であることを踏まえると高い数値を示している。 本調査においても、入所時に養育者が一人の割合は57.5%であり、2015-2019年に入所を した89.3%の子どもたちが虐待を受けている。都内における児童虐待が発生した家庭が凝縮 した結果であると言える。 つまりは、養育者がひとりではないほうが、家庭復帰時には児童相談所や児童養護施設な どの関係機関は、結果的に一つのプラス要因として捉えている可能性が考えられる。 6-6.家庭復帰時の親生活保護受給状況と親就労状況 表14では家庭復帰時に、その子どもの親の生活保護受給有無が家庭復帰に関係しているか を観察し、家庭復帰時に生活保護受給が無いほうが5.2%の高い割合が確認された。なお 2017年データーの都施設調査(2020)では、実親の経済状況を父親と母親にそれぞれ尋ねた 設問において、実父は12.4%が生活保護受給、実母は33.4%が生活保護を受給している。 表15では家庭復帰時に、その子どもの親の就労有無(非正規雇用含む)が家庭復帰に関係 しているかを観察し、家庭復帰時に親が就労をしているほうが9.1%の高い割合が確認された。 2017年データーの都施設調査(2020)では、実親の就労状況を父親と母親にそれぞれ尋ねた
― 128 ― 設問において、実父は69.8%が就労をしており、実母は35.7%が就労をしている。生活保護 受給有無と就労有無は連動しているようにも捉えることが可能である。 家庭復帰を検討するさいに、生活保護を受給していることが支障になることは筆者の経験 上、考えにくい。むしろ経済状況が不安定であった場合には、その不安を解消するために、 生活保護受給開始などによって家庭復帰が促進される要因となる。また、親が就労可能とい うことは、精神面などにおいて一定程度安定していることや、親が社会生活を営む意欲や能 力があることなどを示しており、その結果、連動して生活保護受給無の割合が高まっている と推測する。
7.今後にむけて
これまで、児童養護施設に入所する子どもの主たる想いである家庭復帰を主眼において 2020年の筆者論文から継続して本稿でも論じてきた。本研究結果は、一箇所の児童養護施設 の分析であり、現在も40人が入所中であるために、現時点では正確なデーターが得られない 変数があることを本調査の限界としておさえておく必要がある。そして、この二つの論文は、 現時点で公開されており、入手できる範囲のデーターによる考察でしかない。 はたして、家庭復帰を判断するのは誰なのだろうか。多くの福祉サービスが措置制度から 契約制度に移行している中で、児童養護施設をはじめとする児童福祉施設には、当事者の意 向が反映されにくい構造である措置制度が残存している。しかしながら、重大な社会病理と なっている児童虐待(死)を防ぐためには、措置制度は必要な制度である。そのように考え ると家庭復帰の判断は児童相談所であろう。けれども、一度立ち止まって考察したい。 子どもの権利条約を確認すると、第9条1項には、虐待などによって分離が子どもの最善 の利益と決定する場合には父母からの分離が必要であると示している。また、同条2項に 「(略)すべての利害関係者は、当該手続に参加し、かつ自己の見解を周知させる機会が与え られる」としている。このように親から分離される場合には、子どもが手続に参加し、自身 の意見を伝え、それが周知されるとされている。それならば、親との再統合(家庭復帰)手 続においても同様の機会が与えられて然るべきであろう。第12条1項には、「(略)その子ど もに影響を与えるすべての事柄について自由に自己の見解を表明する権利を保障する」とし、 2項には「(略)自己に影響を与えるいかなる司法的および行政的手続においても、直接に または代理人もしくは適当な団体を通じて聴聞される機会を与えられる」とし、所謂この意 見表明権も家庭復帰時の子ども手続参加を後押しする。 このように当事者視点に回帰し、子どもの手続き参加、意見表明権の行使について、わた したちおとなは厳粛に受け止める必要がある。子ども自身が「自分の人生は自分で決める」 と主張ができる環境整備が必要不可欠である。そして、この二つの論文によって明らかにな った調査結果は、当事者視点から論ずる折にも、一定の示唆を与えることが可能であろう。― 129 ― 獲得した示唆を用いて、社会的養護環境下で生活をする子どもとその親、子どもを支援す る関係者にとって、僅かであっても助力になるような研究を深める。
参考引用文献
1)新たな社会的養育の在り方に関する検討会(2017)「新しい社会的養育ビジョン」 2)栄留里美(2014)「児童養護施設入所児童に対する権利代弁機能の検討」『鹿児島国際大 学大学院学術論集』6、鹿児島国際大学大学院、9-19 3)林知然(2020)「児童養護施設からの家庭復帰に係る研究――A児童養護施設における 経年調査から――」『東洋大学大学院紀要』56、東洋大学大学院、115-133 4)喜多明人・森田明美・広沢明・荒牧重人(2009)『逐条解説 子どもの権利条約』日本 評論社 5)厚生労働省(2017)「子育て世代包括支援センター業務ガイドライン」 6)厚生労働省(2007)「子ども虐待対応の手引き」<https://www.mhlw.go.jp/bunya/ kodomo/dv12/02.html>(アクセス日:2020/7/10) 7)厚生労働省人口動態・保健社会統計室「平成30年度福祉行政報告例」e-Stat<https:// www.e-stat.go.jp/stat-search/files?page=1&layout=datalist&toukei=00450046&tstat= 000001034573&cycle=8&tclass1=000001136626&tclass2=000001136634&stat_ infid=000031907917>(アクセス日:2020/7/23) 8)厚生労働省子ども家庭局・厚生労働省社会援護局障害保健福祉部(2020)「児童養護施 設入所児童等調査結果(平成30年2月1日現在)」 9)厚生労働省雇用均等・児童家庭局(2012)「児童養護施設運営指針」 10)厚生労働省社会・援護局第3回生活保護制度に関する国と地方の実務者協議(2017) 「参考資料1」 11)松宮透髙(2008)「被虐待児童事例にみる親のメンタルヘルス問題とその支援課題―児 童養護施設入所児童の調査を通して―」『川崎医療福祉学会誌』18・1、川崎医療福祉 学会、97-108 12)松宮透髙、井上信次(2014)「児童福祉施設入所児童への家庭復帰支援と親のメンタル ヘルス問題」『厚生の指標』61・15、厚生労働統計協会、22-27 13)奥山眞紀子(1998)「被虐待児の自立における問題と支援の方向性」『世界の児童と母 性』45、18-21 14)斎藤学(2001)「全国養護施設に入所してきた被虐待児とその親に関する研究」『子ども の虐待とネグレクト』3・2、日本子どもの虐待防止研究会、332-360 15)社会福祉法人小鳩会ホームページ<http://www.kobatokai.or.jp/>(アクセス日: 2020/11/2)― 130 ― 16)社会福祉法人東京都社会福祉協議会児童部会調査研究部(2020)「平成29年度児童養護 施設入退所児童の状況」『紀要-平成28年度・29年度版-』20・21、東京都社会福祉協 議会、137-153 17)杉山登志郎(2007)『子ども虐待という第四の発達障害』学習研究社 18)周燕飛(2019)「母親による児童虐待の発生要因に関する実証分析」『医療と社会』29・ 1、医療科学研究所、119-134 19)東京都福祉保健局(1985)「東京都養護児童グループホーム事業実施要綱」 20)東京都福祉保健局(2005)「児童虐待Ⅱ――輝かせよう子どもの未来、育てよう地域の ネットワーク――」 21)東京都福祉保健局(2017)「東京都専門機能強化型児童養護施設制度実施要綱」 22)東京都福祉保健局(2020)「2020東京の福祉保健」 23)東京都福祉保健局東京都児童福祉審議会第4回専門部会(2019)「資料3-6 連携型 専門ケア機能モデル事業の概要」 24)東洋大学福祉社会開発研究センター(2018)『つながり、支え合う福祉社会の仕組みづ くり』中央法規出版会社 1 厚生労働省人口動態・保健社会統計室「平成30年度福祉行政報告例」による。乳児院2686 人+児童養護施設24912人+児童心理治療施設1366人+児童自立支援施設1018人+母子生 活支援施設6344人(子どものみ)+里親家庭5556人+小規模住居型児童養育事業1548人= 43430人。 2 入所理由(主訴)、児童票記載による虐待有無とは異なり、入所後に児童や親などの証言、 また当時の記録や当時を知る職員からの聴き取りを経て把握を行った。 3 2016年6月児童福祉法改正によって、東京都特別区でも児童相談所の設置が可能となっ た。2020年4月から世田谷区・江戸川区、同年7月から荒川区が事業を開始した。 4 養護児童グループホームは、国よりも先だって東京都が運営を開始した施設分園型グルー プホーム。その後、小規模グループケア地域型ホームも事業が開始され、両者をまとめ て、都型グループホームなどと呼称される。地域小規模型児童養護施設を含め、3つのグ ループホームを合わせて、東京都では養護児童グループホームと名付けており、2019年12 月現在で156箇所。地域小規模児童養護施設は長期にわたり、家庭復帰が見込めない子ど もなどを対象に、本体施設の支援のもとで地域社会の一員として、家庭的な環境において 社会的自立を促進する事業である。定員は原則6名であり、都内では国型グループホーム などと呼称される。2017年10月1日時点で、全国で391箇所。 5 専門機能強化型児童養護施設は、「被虐待児童など、治療的・専門的ケアが必要な児童へ の適切な支援を行い、もって児童の社会的自立の促進を図ることを目的とする」とされ、
― 131 ― 非常勤精神科医師(児童精神科医など)・治療指導担当職員(心理士など)配置やケアワ ーカーの増員などの体制が整備される。2019年12月時点で43箇所。 6 家庭的養護は施設養護に内包され、原則6人の生活ユニットでのケア(小規模グループケ ア)のことを指す。家庭養護である里親養育とは異なる。 7 2018年2月1日現在。 8 2016年3月1日現在。 9 東京都福祉保健局「児童虐待の実態Ⅱ——輝かせよう子どもの未来、育てよう地域のネッ トワーク――」による。 10 A児童養護施設ではない、他の児童養護施設、母子生活支援施設、児童自立支援施設、 養育家庭、自立援助ホームが該当した。 11 障害児入所施設、障害者グループホーム、宿泊型自立訓練施設(通勤寮)が該当した。 12 2004年10月、児童虐待防止法の一部が改正され、所謂面前DVが心理的虐待に含まれた。 そのため、以降に入所したケースについては本改正に基づいてカウントを行った。 13 Ⅳ期以降に入所した児童92名の内40人は入所中であるため、Ⅳ-Ⅵ期は現時点での数値 である。 14 厚生労働省「子ども虐待対応の手引き」による。 15 2015年4月より事業を開始した(受入は10月から)東京都の事業。虐待に起因する愛着 障害や発達の偏りにより様々な問題行動を起こすなど、重篤な症状を持つ児童の早期改善 を図るため、都立石神井学園において、生活支援・医療・教育を一体的に提供する事業。 16 例えば、滋賀県大津市で運営されている子鳩会では、乳児院から高齢児までの一貫養育 として、「乳児院と児童養護施設を同一建物内に併設しています。乳児院から児童養護施 設へ自然な形で生活の場を移せるように日常的に相互が自由に往来し、交流を深めていま す。また、措置変更による分離不安の解消を実践しています。」とホームページで紹介を している。
― 132 ―
Abstract:
Data regarding 211 subjects were from Children’s Nursing Home ‘A’ in Tokyo and was reanalyzed, and cross-tabulated.
As results, (1) 89.3% of the children who were admitted to Children's Nursing Home A from 2015 to 2019 had been abused. (2) In the case which the parents have psychological disorder, it's high percentage that the parents abuse their children psychological from 4 abuses. Also, neglect is somewhat high percentage. (3) Comparing 4 abuse, it guesses psychological abuse to be relatively less damage. As a result, the percentage of returned to their family homes is increasing. (4) Between the children who were admitted directory from own home and the children who had been in a social care environment, it makes a difference. The latter is 25.3% lower to return to their family homes than the former. (5) When the leaving, the children who have multiple caregiver are 6.5% higher to return to their family homes than the children who have singular caregiver.(6)When the children return to their family home’s the families which don't get welfare is 6.5% higher to return to their family homes than the families which get welfare. Also, the families which parents work is 9.1% higher to return to their family homes than the family which parents don't work. But, these aren't said to return to their family homes.
It is hoped that ”Comprehensive Support Center for Families with Children” support families which parents have psychological disorder. I point out necessity of arranging the structure of welfare facilities which Children's Nursing Home and baby’s Home, because of children whose measure would be changed in a social care environment.
Keywords:
Children’s Nursing Home, Social care, Returned to their family homes, Child abuse