その交付行為について
著者
寺 洋平
著者別名
TERA, Youhei
雑誌名
白山法学
号
13
ページ
67-90
発行年
2017-03-17
URL
http://id.nii.ac.jp/1060/00008538/
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都市計画法施行規則60条に定める適合証明書および
その交付行為について
寺 洋 平
1 .本稿の対象と目的 建築物の建築およびそのための土地の開発をめぐっては、これまで、各 地で多数の紛争が発生してきた。行政訴訟の分野では、1980年代以降に、 大規模な建築物の建築に反対する周辺住民が、宅地の造成の段階における 開発許可、建築物の建築の段階における建築確認等を争う抗告訴訟(従来 は取消訴訟)を提起する事例が増加している。そのような開発許可および 建築確認に対する訴訟のなかで、たびたび問題とされ、それにもかかわら ず、いまだその主要な論点に関し、裁判例の見解が分かれているのが、都 市計画法施行規則60条に定める適合証明書(60条証明書)およびその交付 行為である。この小論は、適合証明書およびその交付行為に関する論点と 各論点に関する議論を整理し、若干の検討を加えようとするものである。 適合証明書の制度は、開発許可制度と建築確認制度とを接続するための 制度である。以下では、まず、開発許可、建築確認および適合証明の各制 度について概観し、各制度の内容と関係を明らかにしたうえで( 2 )、適 合証明書およびその交付行為に関する論点・議論の整理と検討を行うこと にしたい( 3 )。 2 .開発許可制度、建築確認制度および適合証明書制度の概要1) ( 1 ) 開発許可制度 (a) 都市計画区域(都計法 4 条 2 項、 5 条)または準都市計画区域2)( 4 条 2 項、 5 条の 2 )内において開発行為をしようとする者は、あらかじめ、 都道府県知事(地方自治法252条の19第 1 項の指定都市または同法252条の22第1 項の中核市の区域内にあっては、当該指定都市または中核市の長)の許可を 受けなければならない(都計法29条 1 項)。この都道府県知事の許可が、開 発許可と呼ばれている3)(30条 1 項参照)。判例は、開発許可の意義と法的効 果について、「同法[都市計画法――執筆者]29条に基づく許可(以下、 この許可を「開発許可」という。)は、あらかじめ申請に係る開発行為が 同法33条所定の要件に適合しているかどうかを公権的に判断する行為で あって、これを受けなければ適法に開発行為を行うことができないという 法的効果を有するものである」と解している(最判平成 5 年 9 月10日民集47 巻 7 号4955頁)。 開発許可の権限を含め、都市計画法 3 章 1 節の規定(29条~52条)によ る都道府県知事の権限は、指定都市または中核市の区域内にあっては、当 該指定都市または中核市の長が行うこととされているほか、平成26年法律 42号による特例市制度の廃止後における施行時特例市(同法附則 2 条参照) の区域内にあっては、引き続き当該施行時特例市が行うこととされている (同法附則45条・46条)。それ以外に、条例による事務処理の特例制度(地方 自治法252条の17の 2 )により都道府県知事の権限に属する事務の一部を処 理することとされた市町村の区域内においては、当該市町村の長が当該事 務を管理しおよび執行することになる(なお、地方自治法252条の17の 2 第 1 項の規定に基づき都市計画法 3 章 1 節の規定により都道府県知事の権限に属 する事務の全部を処理することとされた市町村は、事務処理市町村と呼ばれる。 都計法33条 6 項参照)。また、居住調整地域に関する都市計画を定めた市町 村の長は、都道府県知事との協議により(町村の長にあっては都道府県知事 の同意を得て)、当該市町村の区域内において、都道府県知事に代わって都 市計画法 3 章 1 節の規定に基づく事務を処理することができる(都市再生 特別措置法93条)(以下、都道府県知事と、都市計画法 3 章 1 節の規定による都 道府県知事の権限を付与された指定都市・中核市・施行時特例市・市町村の長 とを合わせて、「都道府県知事等」という)。 開発許可の対象は、開発行為である。「開発行為」とは、「主として建築
― 69 ― 物の建築又は特定工作物の建設の用に供する目的で行なう土地の区画形質 の変更」をいう(都計法 4 条12項)。この定義中の「建築物」および「建 築」の語は、建築基準法に定める「建築物」および「建築」の語と同義で ある(都計法 4 条10項参照。「建築物」および「建築」については、後述する)。 「特定工作物」には、第一種特定工作物と第二種特定工作物とがあり、前 者は、「コンクリートプラントその他周辺の地域の環境の悪化をもたらす おそれがある工作物で政令で定めるもの」をいい( 3 条11項、都計令 1 条 1 項)、後者は、「ゴルフコースその他大規模な工作物で政令で定めるも の」をいう( 3 条11項、都計令 1 条 2 項)。 ただし、都市計画法29条 1 項 1 号から11号までに掲げられた開発行為に ついては、開発許可を要しないこととされている(都計法29条 1 項ただし 書)。とりわけ同項 1 号は、開発許可の対象を大きく限定しており、それ により、①市街化区域内において行う開発行為で、その規模が1,000平方 メートル未満であるもの4)、②区域区分が定められていない都市計画区域 (非線引(き)都市計画区域などと呼ばれる)または準都市計画区域内におい て行う開発行為で、その規模が3,000平方メートル未満であるものについ ては、開発許可は不要とされている5)(都計令19条 1 項本文)。なお、市街化 調整区域内において行う開発行為については、このような規模による適用 除外は認められていない。 (b) 開発許可を受けようとする者は、①開発区域(開発区域を工区に分 けたときは、開発区域および工区)の位置、区域および規模、②開発区域内 において予定される建築物または特定工作物(以下「予定建築物等」とい う)の用途、③開発行為に関する設計、④工事施行者、⑤その他国土交通 省令で定める事項を記載した開発行為許可申請書を、所定の添付図書とと もに、都道府県知事等に提出しなければならない(都計法30条、都計則15 条~17条)。 都道府県知事等は、開発許可の申請があった場合において、当該申請に 係る開発行為が都市計画法33条 1 項に定める基準(同条 4 項および 5 項の
条例が定められているときは、当該条例で定める制限を含む)に適合してお り、かつ、その申請の手続が同法および同法に基づく命令の規定に違反し ていないと認めるときは、開発許可をしなければならない(33条 1 項)。 市街化調整区域に係る開発行為(主として第二種特定工作物の建設の用に供 する目的で行う開発行為を除く)については、当該申請に係る開発行為およ びその申請の手続が都市計画法33条に定める要件に該当するほか、当該申 請に係る開発行為が同法34条各号のいずれかに該当すると認める場合でな ければ、都道府県知事等は開発許可をしてはならない(34条)。都市計画 法33条 1 項に定める開発許可の基準(同項 1 号~14号。技術基準と呼ばれ る)は、一定の水準の市街地を形成するために定められた基準であり、開 発許可の対象となるすべての開発行為に適用される。34条に定める基準 (同条 1 号~14号。立地基準と呼ばれる)は、開発行為の立地の適正性を確 保するために、市街化調整区域内において例外的に許容される開発行為を 定めた基準であり、開発許可の対象となる開発行為のうち、市街化調整区 域内における開発行為にのみ適用される。 都道府県知事等は、開発許可の申請があったときは、遅滞なく、許可ま たは不許可の処分をしなければならない(35条 1 項)。許可または不許可 の処分は、文書をもって申請者に通知される(同条 2 項)。 都道府県知事等は、用途地域の定められていない土地の区域における開 発行為について開発許可をする場合において必要があると認めるときは、 当該開発区域内の土地について、建築物の建ぺい率、建築物の高さ、壁面 の位置その他建築物の敷地、構造および設備に関する制限を定めることが できる(41条 1 項)。建築物の敷地、構造および設備に関する制限が定め られた土地の区域内においては、都道府県知事等が当該区域およびその周 辺の地域における環境の保全上支障がないと認め、または公益上やむを得 ないと認めて許可したときを除き、建築物は、これらの制限に違反して建 築してはならない(同条 2 項)。 (c) 開発許可を受けた者は、当該開発区域(開発区域を工区に分けたと
― 71 ― きは、工区)の全部について当該開発行為に関する工事を完了したとき は、その旨を都道府県知事等に届け出なければならない(36条 1 項)。都 道府県知事等は、工事完了の届出があったときは、遅滞なく、当該工事が 開発許可の内容に適合しているかどうかについて検査し、その検査の結果 当該工事が当該開発許可の内容に適合していると認めたときは、検査済証 を当該開発許可を受けた者に交付しなければならず、また、検査済証を交 付したときは、遅滞なく、当該工事が完了した旨を公告しなければならな い(同条 2 項・ 3 項前段)。検査の結果当該工事が当該開発許可の内容に適 合していないと認めたときは、都道府県知事等は、検査済証を交付せず、 工事完了公告も行わないので、工事完了公告に伴う各種の法的効果も生じ ないこととなる。 開発許可を受けた開発区域内の土地においては、工事完了公告があるま での間は、当該開発行為に関する工事用の仮設建築物または特定工作物を 建築し、または建設するとき、その他都道府県知事等が支障がないと認め たとき等を除き、建築物を建築し、または特定工作物を建設してはならな い(37条)。 何人も、開発許可を受けた開発区域内においては、工事完了公告があっ た後は、当該開発許可に係る予定建築物等以外の建築物または特定工作物 を新築し、または新設してはならず、また、建築物を改築し、またはその 用途を変更して当該開発許可に係る予定の建築物以外の建築物としてはな らない(42条 1 項本文)。ただし、都道府県知事等が当該開発区域における 利便の増進上もしくは開発区域およびその周辺の地域における環境の保全 上支障がないと認めて許可したとき、または建築物および第一種特定工作 物で建築基準法88条 2 項の政令で指定する工作物(建基令138条 3 項)に該 当するものにあっては、当該開発区域内の土地について用途地域等(用途 地域、特別用途地区、特定用途制限地域、特定用途誘導地区、流通業務地区ま たは港湾法39条 1 項の分区。33条 1 項 1 号イ参照)が定められているときは、 その限りでない(42条 1 項ただし書)。工事完了公告後の建築等の制限は、
基本的には、市街化整調区域内における建築物の建築等および特定工作物 の新設を規制するものである。 何人も、市街化調整区域のうち開発許可を受けた開発区域以外の区域内 においては、都道府県知事等の許可を受けなければ、都市計画法29条 1 項 2 号もしくは 3 号に規定する建築物以外の建築物を新築し、または第一種 特定工作物を新設してはならず、また、建築物を改築し、またはその用途 を変更して同項 2 号もしくは 3 号に規定する建築物以外の建築物としては ならない(43条 1 項本文)。市街化調整区域内においては、開発行為を伴わ ず開発許可を要しない建築物の新築等および第一種特定工作物の新設も、 制限される。都道府県知事等による建築許可を受ける必要のない都市計画 法29条 1 項 2 号または 3 号に規定する建築物とは、農業、林業もしくは漁 業の用に供する政令で定める建築物またはこれらの業務を営む者の居住の 用に供する建築物( 2 号、都計令20条)、駅舎その他の鉄道の施設、図書 館、公民館、変電所その他これらに類する公益上必要な建築物のうち開発 区域およびその周辺の地域における適正かつ合理的な土地利用および環境 の保全を図るうえで支障がないものとして政令で定める建築物( 3 号、都 計令21条)を指す。そのほかに、都市計画事業の施行として行う建築物の 新築、改築もしくは用途の変更または第一種特定工作物の新設等について も、建築許可は不要とされている(43条 1 項ただし書)。 ( 2 ) 建築確認制度および適合証明書制度 (a) 建築主は、建築基準法 6 条 1 項各号に掲げられた建築物の建築等 をしようとする場合においては、当該工事に着手する前に、その計画が建 築基準関係規定に適合するものであることについて、確認の申請書を提出 して建築主事または指定確認検査機関(以下「建築主事等」という)の確認 を受け、確認済証の交付を受けなければならない(建基法 6 条 1 項前段、 6 条の 2 第 1 項)。検査済証の交付を受けた後でなければ、建築物の建築等 の工事は、することができない( 6 条 8 項)。判例は、建築確認の目的・
― 73 ― 意義・法的効果について、「建築確認は、建築基準法 6 条 1 項の建築物の 建築等の工事が着手される前に、当該建築物の計画が建築関係規定に適合 していることを公権的に判断する行為であつて、それを受けなければ右工 事をすることができないという法的効果が付与されており、建築関係規定 に違反する建築物の出現を未然に防止することを目的としたものというこ とができる。」と解している(最判昭和59年10月26日民集38巻10号1169頁)。 「建築物」とは、「土地に定着する工作物のうち、屋根及び柱若しくは壁 を有するもの(これに類する構造のものを含む。)、これに附属する門若し くは塀、観覧のための工作物又は地下若しくは高架の工作物内に設ける事 務所、店舗、興行場、倉庫その他これらに類する施設(……。)」をいい、 「建築設備」を含むものとされている(建基法 2 条 1 号)。一定の特性を有 する建築物は、「特殊建築物」に区分される。「特殊建築物」とは、「学校 (専修学校及び各種学校を含む。……。)、体育館、病院、劇場、観覧場、 集会場、展示場、百貨店、市場、ダンスホール、遊技場、公衆浴場、旅 館、共同住宅、寄宿舎、下宿、工場、倉庫、自動車車庫、危険物の貯蔵 場、と畜場、火葬場、汚物処理場その他これらに類する用途に供する建築 物」をいう(同条 2 号)。また、「建築」とは、「建築物を新築し、増築し、 改築し、又は移転すること」をいう(同条13号)。 建築基準法 6 条 1 項には、建築確認を受けることが必要な建築物とし て、①一定の用途に供する特殊建築物で、その用途に供する部分の床面積 の合計が100平方メートルを超えるもの( 1 号)、②木造の建築物で 3 以上 の階数を有し、または延べ面積が500平方メートル、高さが13メートルも しくは軒の高さが 9 メートルを超えるもの( 2 号)、③木造以外の建築物 で 2 以上の階数を有し、または延べ面積が200平方メートルを超えるもの ( 3 号)、④都市計画区域もしくは準都市計画区域(いずれも都道府県知事が 都道府県都市計画審議会の意見を聴いて指定する区域を除く)もしくは景観法 74条 1 項の準景観地区(市町村長が指定する区域を除く)内または都道府県 知事が関係市町村の意見を聴いてその区域の全部もしくは一部について指
定する区域内における建築物( 4 号)が掲げられている。都市計画区域ま たは準都市計画区域内において建築物の建築等をしようとする場合には、 建築基準法 6 条 1 項 1 号から 3 号までに掲げる建築物に該当しなくても、 同項 4 号に掲げる建築物(いわゆる 4 号建築物)として、建築確認を受け ることが必要となる。 (b) 建築主事は、確認の申請書を受理した場合においては、建築基準 法 6 条 1 項 1 号から 3 号までに係るものにあってはその受理した日から35 日以内、同項 4 号に係るものにあってはその受理した日から 7 日以内に、 申請に係る建築物の計画が建築基準関係規定に適合するかどうかを審査 し、審査の結果に基づいて建築基準関係規定に適合することを確認したと きは、当該申請者に確認済証を交付しなければならない6)(建基法 6 条 4 項)。また、建築主事等は、申請に係る建築物の計画が建築基準関係規定 に適合しないことを認めたとき、または建築基準関係規定に適合するかど うかを決定することができない正当な理由があるときは、その旨およびそ の理由を記載した通知書を(建築主事の場合は、上記の期間内に)当該申請 者に交付しなければならない( 6 条の 7 項、 6 条の 2 第 4 項)。 建築主事は、申請に係る建築物の計画が特定構造計算基準( 6 条の 3 第 1 項。建築基準法20条 1 項 2 号イの政令で定める基準に従った構造計算で同号 イに規定する方法によるものによって確かめられる安全性を有することに係る 部分に限る)に適合するかどうかを審査する場合その他建築基準法施行規 則で定める場合(建基則 2 条 2 項 1 号~ 5 号)において、上記の期間内に当 該申請者に確認済証を交付することができない合理的な理由があるとき は、35日の範囲内において、上記の期間を延長することができる(建基法 6 条 6 項前段)。 なお、建築主事等は、申請に係る建築物の計画が構造計算適合性判定 ( 6 条の 3 第 1 項)を要するものであるときは、建築主から適合判定通知書 またはその写しの提出を受けた場合に限り、確認をすることができる( 6 条 5 項、 6 条の 2 第 3 項、 6 条の 3 第 7 項)。
― 75 ― (c) 特定の工作物には、 6 条、 6 条の 2 を含む建築基準法中の建築物 に関する一定の規定が準用される(建基法88条、いわゆる準用工作物)。準 用工作物には、①煙突、広告塔、高架水槽、擁壁その他これらに類する工 作物で政令で指定するもの(88条12項前段、建基令138条 1 項)。②昇降機、 ウォーターシュート、飛行塔その他これらに類する工作物で政令で指定す るもの(88条 1 項前段、建基令138条 2 項)、③製造施設、貯蔵施設、遊戯施 設等の工作物で政令で指定するもの(88条 2 項、建基令138条 3 項)の 3 類 型がある。 (d) 建築主事等による建築確認の審査の基準となるのが、「建築基準 関係規定」である。建築基準関係規定とは、「この法律[建築基準法―― 執筆者]並びにこれに基づく命令及び条例の規定(以下「建築基準法令の 規定」という。)その他建築物の敷地、構造又は建築設備に関する法律並 びにこれに基づく命令及び条例の規定で政令で定めるもの」をいう(建基 法 6 条 1 項前段かっこ書)。建築基準法施行令 9 条は、それを受けて、建築 基準法令の規定を除く建築基準関係規定について、「次に掲げる法律の規 定並びにこれらの規定に基づく命令及び条例の規定で建築物の敷地、構造 又は建築設備に係るものとする」と定め、16の法律の具体的な規定を列記 している(同条 1 号~16号)。そのなかに、都市計画法の規定として、29条 1 項および 2 項、35条の 2 第 1 項、41条 2 項(同法35条の 2 第 4 項において 準用する場合を含む)、42条、43条 1 項ならびに53条 1 項および同条 2 項に おいて準用する52条の 2 第 2 項の各規定が挙げられている(建基令 9 条12 号)。 (e) 建築主が建築確認の申請をする際には、確認申請書に所定の図書 および書類を添えたもの等を提出することとされている(建基則 1 条の 3 、 3 条)。建築基準関係規定のうち都市計画法の規定が適用される建築物に ついては、当該各規定に適合することを証する書面が、確認申請書の添付 図書として定められている(建基則 1 条の 3 第 1 項表 2 (77)項~(82) 項)。都市計画法第29条第 1 項の規定が適用される建築物の場合、「都市計
画法第29条第 1 項……の規定に適合していることを証する書面」を添付 し、当該書面には、「都市計画法第29条第 1 項……の規定に適合している こと」を明示することとされている(同表(77)項)。建築確認の申請に係 る工作物が都市計画法上の指定工作物(同法 4 条11項)である場合におい ても、同様に、その計画が「法第29条第 1 項……の規定に適合しているこ とを証する書面」を申請書に添付しなければならない(建基則 3 条 5 項)。 上記の書面が確認申請書の添付書類とされていることに対応して、都市 計画法施行規則には、当該書面の交付に関する規定が置かれている。すな わち、確認済証の交付を受けようとする者は、その計画が都市計画法29条 1 項もしくは 2 項、35条の 2 第 1 項、41条 2 項、42条、43条 1 項または53 条 1 項の規定に適合していることを証する書面の交付を都道府県知事等に 求めることができることとされている(都計則60条)。都道府県知事等がこ の規定に基づいて交付するのが、適合証明書、60条証明書等と呼ばれる証 明書である。以下、この証明書およびその交付行為をめぐる問題について 論じることとする。 3 .適合証明書とその交付行為をめぐる問題7) ( 1 ) 都市計画法施行規則60条の規定に基づき都道府県知事等により交付 される書面の名称は、法令上、とくに定められていない。学説上は、「適 合証明書」という呼称が使われることが多い。開発許可に関する国土交通 省の通知(「開発許可制度運用指針」平成26年 8 月 1 日国都計67号国土交通省 都市局長通知)等のなかでは、「60条証明書」という呼称が使われている。 裁判例では、「適合証明書」のほかに、「規則60条による証明書」、「規則60 条書面」という呼び方もみられ、一定しておらず、また、特定の呼称を用 いていない裁判例も少なくない。以下では、都市計画法施行規則60条に基 づき交付される書面の総称として、「適合証明書」という呼称を用いる。 適合証明制度は、都市計画法施行規則の公布・施行(昭和44年 8 月25日) 後間もなく、昭和44年建設省令53号による改正により創設されたものであ
― 77 ― る。当時の建設省の通知(「都市計画法による開発許可制度の施行について」 昭和44年12月 4 日計宅開発117号・都計発156号建設省計画局長・都市局長通知) によれば、適合証明制度は、都市計画法29条等の規定への適合性が建築確 認の要件とされたことに伴って設けられた制度であり、その実施に当たっ ては、開発許可担当部局と建築確認担当部局との間の「緊密な連絡体制」 を確立し、「適確な事務処理」を図ることが求められている。 裁判例においては、適合証明制度の趣旨は、建築主事等に建築確認のた めの判断資料を提供し、その審査に資することにあると解されることが多 い。しかし、それにだけにとどまらず、この制度は、都市計画法に定める 開発行為の規制からの回避を防止して、その規制の実効性を担保するとと もに、それを通じて、建築基準法 1 条所定の目的の実現を図ることを趣旨 とするものと解される。また、適合証明書の交付申請をすることができる とすることによって、建築確認の申請をしようとする者の便宜を図る趣旨 であると解する裁判例もある(横浜地判平成11年10月27日訟月46巻 9 号3686 頁)。 ( 2 ) 前述のように、建築主が建築確認の申請をする際には、確認申請書 に適合証明書を添付することとされている。行政手続法施行前において は、実務上、適合証明書の添付は「建築確認申請の受理要件」であると解 されていた(「建築確認対象法令について」昭和61年 3 月28日住指発80号建設 省住宅局建築指導課長通知の注①)。しかし、現在では、確認申請書に適合 証明書が添付されていない場合、当該申請は、法令に定められた形式上の 要件に適合しない申請ということになり、建築主事等は、行政手続法 7 条 の規定に従って、速やかに、申請者に対し相当の期間を定めて補正を求め るか、または建築確認を拒否すべきこととなる8)。 ( 3 ) 都市計画法29条 1 項は、「都市計画区域又は準都市計画区域内にお いて開発行為をしようとする者は、あらかじめ、国土交通省令で定めると ころにより、都道府県知事(……。……。)の許可を受けなければならな い。ただし、次に掲げる開発行為については、この限りでない。」と規定
する。その規定内容に照らし、一般に、都市計画法施行規則60条にいう 「法第29条第 1 項……の規定に適合していることを証する書面」には、① 建築計画が開発行為に該当しないことを証する書面、②建築計画が開発行 為に該当するが、29条 1 項ただし書に該当するため開発許可を受ける必要 がないことを証する書面、③建築計画が開発行為に該当し、開発許可を受 けていることを証する書面の 3 種類が含まれるものと解されている。①の 書面を含めることについては否定的な見解もある9)が、適合証明制度の趣旨 から、広く①の書面も含めて解するのが妥当であろう。なお、開発行為に ついて不許可処分がされた場合には、29条 1 項の規定に適合していること にならないので、適合証明書は交付されない。 学説上、①の書面については「開発行為非該当証明書」、②の書面につ いては「開発行為許可不要証明書」、③の書面については「(狭義の)適合 証明書」という呼称が使われている例10)があるほか、①と②の書面または② の書面については「開発許可不要証明書」という呼称も使われている11)。裁 判例においては、①の書面について、「非該当証明書」、「開発行為非該当 確認」、「開発許可不要証明書」、「開発許可等不要証明書」という呼称がみ られる。以下では、①の書面を「開発行為非該当証明書」、②を「開発許 可不要証明書」、③を「開発許可証明書」と呼ぶこととする。これまでの 紛争事例においては、もっぱら、①の開発行為非該当証明書と②の開発許 可不要証明書の交付行為(交付または不交付)が問題となってきた。 ( 4 ) 適合証明書は、法令上、その様式も定められておらず、いかなる書 面が適合証明書に当たるかは、柔軟に解されているようである。開発許可 証明書については、開発行為許可通知書(都計法35条 2 項)を添付すれば よいとされている場合が多いようである12)。 裁判例とみると、建築確認の申請書に29条 1 項適合性に関する適合証明 書が添付されていない場合でも、その申請を受け付けて、建築主事等と開 発許可担当部局との間で、照会と回答による内部的な処理が行われること も少なくないようである。従来、そのような内部的な処理が、法令等の規
― 79 ― 定に基づくことなく事実上行われることも珍しくなかったようである13)が、 かかる対応が違法と評価された例はみあたらない14)。裁判例には、傍論では あるが、「許可権者の判断が、建築主事にとつて顕著でない場合には、建 築主事は、明らかに開発行為に該当しないとみられる場合を除き、確認の 前に許可権者に右判断を求める義務を負うものであり、これを怠つた場合 にはその点において違法が生ずると解すべきである。」と説示するものが ある(仙台地判昭和59年 3 月15日行集35巻 3 号247頁)。なお、そのような内 部的な処理がされた場合には、形式上、適合証明書の交付・添付がないま ま、建築確認の審査が行われることになる。 ( 5 ) 適合証明書の交付行為(交付または不交付)の違法性が争われた訴 訟において、主要な論点となってきたのが、適合証明書の交付行為の処分 性の有無、都市計画法29条 1 項適合性に関する建築主事等の審査権の性 格・内容、建築確認を争う抗告訴訟における都道府県知事等の都市計画法 29条 1 項適合性判断に関する裁判所の審査権の範囲・内容であり、これら の論点は相互に関連している。そして、裁判例においては、これらの論点 に関し、開発許可証明書と開発行為非該当証明書・開発許可不要証明書と が区別して取り扱われてきた。まず、適合証明書の交付行為の処分性の有 無という論点を取り上げる。 開発許可証明書の交付・不交付は、開発許可の有無に従って判断され る。開発許可は、抗告訴訟の対象となる処分であるから、開発許可証明書 は単に事実証明を行うものにすぎず、その交付行為に処分性を認めること はできないと解されている(東京高判平成12年 4 月13日訟月47巻 9 号2771頁 (前出の平成11年横浜地判の控訴審判決)、大阪地判平成21年 9 月 9 日判自 331号75頁)。これと異なる見解の裁判例はなく、また、学説上も、とくに 議論はされていない15)。開発行為の許可または不許可に不服のある相手方ま たは第三者は、当該許可または不許可を争うべきであり、開発許可証明書 が交付・不交付となった段階で、その判断の前提となる開発行為の許可ま たは不許可の適否を争うことはできないものと解される。
開発行為非該当証明書と開発許可不要証明書の場合は、先行する処分が なく、その交付行為により、はじめて開発行為該当性または29条 1 項ただ し書該当性に関する都道府県知事等の判断が示されることになる。開発行 為非該当証明書および開発許可不要証明書の交付行為をめぐる紛争は、建 築物の建築に反対する近隣住民がその取消しを求める事例が大半を占める が、裁判例はほほ一致して、その処分性を否定している(大分地判昭和59 年 9 月12日訟月31巻 4 号855頁、京都地判昭和62年 3 月23日判時1232号77頁(つ ぎの昭和62年京都地決の本案判決)、京都地決昭和62年 3 月23日判タ644号 105頁、浦和地判平成 4 年10月26日判自111号84頁、前出の平成11年横浜地 判、前出の平成12年東京高判、横浜地判平成17年 2 月23日判自265号83 頁、前出の平成21年大阪地判)。 国土交通省の「開発許可制度運用指針」(Ⅱ―( 1 )―①)においても、行政 手続法との関係で、「60条証明書の交付」は「行政手続法に規定する申請 に対する処分に該当するものではない」と説明されている。 開発行為非該当証明書および開発許可不要証明書の交付行為の処分性を 否定する裁判例の根拠は、判決ごとに異なる点もあるが、おおよそ、つぎ のとおりである。第一に、適合証明書は、法律の規定により定まっている 開発行為の要件に該当する事実の存否を確認し、証明するものであり、単 なる事実証明の性格をもつものにすぎない。それは、反証を許さない性質 のものではなく、記載された証明事項を公権力をもって確定する効力を有 するものではない。第二に、その根拠規定も、法律ではなく、省令に置か れている。第三に、適合証明書は建築主事の判断の資料にすぎず、開発行 為該当性および29条 1 項ただし書該当性について公定力を有する判断を行 う権限は、建築主事に付与されている。第四に、適合証明書の交付行為の 誤りは、建築確認に対する抗告訴訟を提起して主張することができるか ら、適合証明書の交付行為に処分性を認める利益や必要はない。そのほか に、適合証明書は建築確認の要件ではないこと、開発許可証明書の交付行 為に処分性が認められないのであるから、それ以外の適合証明書の交付行
― 81 ― 為にも処分性は認められないこと、を理由として挙げるものもある。 これに対し、適合証明書の交付行為の処分性を認めた判決として、岡山 地判平成18年 4 月19日判タ1230号108頁がある。この判決は、建築主であ る原告が、開発許可権者である市長に対し適合証明書(ただし、都市計画 法29条 1 項適合性ではなく43条 1 項ただし書適合性に関する証明書)の交付を 申請したところ、交付をしない旨の通知を受けたため、当該不交付の通知 の取消しと適合証明書の交付を求めたという事案である。同判決は、「Y 市においては、規則60条書面の交付を受けていない段階で建築確認申請を しても、受理されることはなく、規則60条書面の交付は建築確認申請の受 理要件とされていることが認められる。そうであるとすると、Y 市におい ては、規則60条書面の不交付の通知を受けた場合は、相当程度の確実さを もって建築主事の確認を受け、確認済証の交付を受けることができなくな るという結果をもたらすものということができる。その結果、建築主は、 建築基準法 6 条 1 項各号規定の建築物を建築することを断念せざるを得な いことになる。このような、規則60条書面が建築主事の建築確認に及ぼす 効果、建築確認の意義を考慮すると、規則60条書面の不交付の通知は、行 政事件訴訟法 3 条 2 項にいう『行政庁の処分その他公権力の行使に当たる 行為』に当たると解するのが相当である。」として、不交付の通知の処分 性を認めたうえで、市長による不交付の通知を違法であるとして取り消す とともに、市長に対し適合証明書の交付を命じた(適合証明書の交付も処 分に当たることが前提とされている)。しかし、この判決には、つぎのよう な疑問がある。第一に、適合証明書の添付を建築確認申請の受理要件とす る実務上の取扱いが、行政手続法 7 条および建築基準法の関係規定に照ら し、果たして適法であるといえるのかが問題とされなければならないであ ろう。第二に、この判決は、適合証明書の不交付の通知が建築確認申請に 与える手続的な影響とその結果を法的効果と捉えているようであるが、そ の論理に従うと、広く申請書の添付書類を交付する行為に処分性が認めら れるということにならないだろうか。判決は、適合証明書の交付を建築確
認申請の受理要件とする取扱いも考慮して、不交付の通知に法的効果を認 めたものと解されるが、添付書類が申請の受理要件とはされていない場合 においても、同様の手続的な影響は生じるのではないか。 学説上は、従来、国民の権利救済の観点から、開発行為非該当証明書お よび開発行為不要証明書の交付行為に処分性を認める必要性が指摘される こともあった16)。しかし、これらの適合証明書の交付行為に処分性が認めら れなくても、相手方または第三者の権利救済の方法はありうるだろう。適 合証明書が不交付となった場合の相手方については、適合証明書を添付し ないまま建築確認の申請をし、拒否処分がなされた段階で、抗告訴訟(取 消訴訟、義務付け訴訟)によりそれを争うことが考えられる。さらに、そ のような申請をするまでもなく、地位の確認あるいは端的に適合証明書の 交付を求める当事者訴訟を提起して争う余地もありうる17)。また、近隣住民 等の第三者については、裁判例において既に指摘されていたように、適合 証明書の交付行為の違法性を直接争うことができなくても、その後の建築 確認を争う訴訟のなかで、建築確認の違法事由として、適合証明書の交付 行為の違法性を主張することができれば、その救済を図ることができるも のと考えられる(しかし、それが認められるかどうかは、後述のように、裁判 所の審査の範囲・内容をどのように解するかによることになる)。 ( 6 ) 都市計画法29条 1 項は、開発行為の許可・不許可の権限を都道府県 知事等に付与しており、都道府県知事等は、その権限を行使する際には、 ①開発許可の申請に係る行為が同法 4 条12項の開発行為に該当するかどう か(開発行為該当性)、②29条 1 項各号の除外事由に該当するかどうか(29 条ただし書該当性)、③33条および34条の定める開発許可の要件に適合する かどうか(許可要件適合性)を実質的に審査する。都市計画法施行規則60 条は、都道府県知事等がそのような開発許可権限を有することを踏まえて 設けられた規定である。しかし、その一方で、建築主事等も、建築確認の 申請があった場合には、その建築計画が建築基準関係規定である都市計画 法29条 1 項の規定に適合するものであるかどうかを審査することとされて
― 83 ― いる。そこで、都市計画法29条 1 項適合性に関する都道府県知事等の判断 権と建築主事等の審査権とを調整するために、建築主事等の審査権をどの ように解すべきかという問題が論じられてきた。 都道府県知事等が開発許可をしている場合、開発許可は抗告訴訟の対象 である処分に当たり、確定力および公定力を有することから、建築主事等 はその効力を承認すべきものと解されている(前出の平成12年東京高判、東 京地判平成19年12月20日判例集未登載)。 その場合、建築確認における建築主事等の審査の対象は、開発許可の有 無であり、建築主事等は、開発許可の存在と内容を建築確認申請に添付さ れた開発許可証明書によって形式的、外形的に確認すればよいということ になる。建築主事等が、29条 1 項適合性を独自に判断することはできな い。開発許可がされている場合について、それと異なる解釈を示す裁判例 はなく、また学説上にも、とくに異論はみられない18)。 これに対し、建築確認の申請書に開発行為非該当証明書または開発許可 不要証明書が添付されている場合における建築主事等の審査権の性格・内 容については、見解が対立している。裁判例は、大きく、形式的・外形的 な審査にとどまると解する立場(いわゆる消極説)と実質的な審査をなし うると解する立場(いわゆる積極説)とに分かれている。 前者の立場は、建築主事等の審査は、建築確認の申請書に添付された適 合証明書によって、開発許可権者である都道府県知事等が29条 1 項に適合 すると判断しているか否かを審査する形式的・外形的な審査にとどまり、 都道府県知事等の判断の適否に立ち入ることはできないと解する(仙台高 決昭和58年 8 月15日判タ511号181頁、前出の昭和59年仙台地判、水戸地判平成 3 年10月29日行集42巻10号1695頁、東京高判平成 4 年 9 月24日行集43巻 8 = 9 号 1172頁(平成 3 年水戸地判の控訴審判決)、前出の平成11年横浜地判、前出 の平成17年横浜地判、東京地判平成23年 9 月21日判例集未登載)。その主 な論拠として、①建築主事等が建築確認の審査において独自に判断するこ とを認めると、開発行為等の規制を特定の開発許可権者の専権に委ねてい
る都市計画法 3 章の都市計画制限の制度の趣旨を没却することになるこ と、②開発許可の権限が都道府県知事等にあることからすると、その前提 となる開発許可の要否に関する判断の権限も同じく開発許可権者に属する ものと解さざるを得ないこと、③都市計画法は、開発行為の規制に関する 建築主事等の権限について何らの規定も設けていないこと、④都市計画法 上の開発許可の権限が建築主事にあり、その証明行為を都道府県知事が行 うものとは解されないこと、⑤建築主事が開発許可の要否を独自に検討し て開発許可権者と異なる判断をすることができるとすると、両者の判断に 齟齬が生じるおそれがあり、きわめて不合理であること、⑥建築主事およ び指定確認検査機関・確認検査員に求められる能力は、建築物が建築基準 関係規定に適合するかどうかを判定する能力であり、一定の開発区域内の 土地を全体として都市計画的観点から審査する能力ではないこと、が挙げ られる。 他方、後者の立場は、建築主事等の審査は、建築計画が29条 1 項に適合 するものであるかどうか、すなわち、開発許可が必要な場合に同許可がさ れているかどうか、または開発許可が必要とされない場合(開発行為に該 当しない場合、29条 1 項各号の除外事由に該当する場合)であるかどうかを実 質的に審査するものであると解する(いずれも前出の昭和62年京都地判、平 成 4 年浦和地判、平成12年東京高判、平成19年東京地判、平成21年大阪地判)。 その主な論拠としては、①建築基準法 6 条 1 項では、適合証明書の存在で はなく、法律への適合性自体が審査の内容とされていること、②都道府県 知事等の判断は、適合証明書の交付行為によって示されるが、それには確 定力および公定力が生じないこと、③建築主事等が開発許可権者の判断を 尊重するとしても、それに拘束される法律上の根拠はないこと、④都市計 画区域に含まれるか、開発行為に当たるか、開発許可がされているか、な ど、都市計画法29条 1 項の規定の適合性は、建築主事等の技術的判断が可 能な事項であること、が挙げられている。この立場によれば、適合証明制 度は建築主事等による都市計画法上の規制についての法令適合性の審査の
― 85 ― 便宜を図るための制度であり、適合証明書は建築確認のための判断資料と して作成・交付されるものであると解されることになる。 行政実務は、前者の立場をとる。すなわち、都市計画法29条等適合性の 審査については、「建築主事は、施行規則第 1 条第 7 項に規定する書面が 添付されているかどうか、又は、当該書面の添付が不要とされている場合 にあつては、都市計画法等担当部局の判断が真に存在するかどうかを審査 するにとどまり、当該書面等に示された都市計画法等担当部局の判断の適 法不適法まで審査するものではない。」とする取扱いの方針が示されてい る(「建築確認対象法令について」(昭和61年 3 月28日建設省住指発80号建設省 住宅局建築指導課長通知)注②)。学説も、一致して前者の立場をとる。か りに後者の立場をとった場合に、実際に建築主事等が適切に実質的な審査 をすることができるかとうかは、かなり疑わしい。都市計画法令および建 築基準法令の関係規定、開発許可権者と建築主事等の専門能力の違い等に 照らし、前者の立場が妥当であろう。 ( 7 ) 建築確認を争う抗告訴訟において、開発行為該当性および都市計画 法29条 1 項ただし書該当性に関する開発許可権者の判断の内容上の過誤 を、建築確認の違法事由として主張することができるか。これは、裁判所 の側についていえば、当該抗告訴訟における裁判所の審査の範囲ないし内 容の問題ということになる。 裁判例は、従来、開発行為該当性等に関する開発許可権者の判断につい て形式的・外形的な審査しかすることができないとする立場(昭和58年仙 台高決、昭和59年仙台地判、平成 3 年水戸地判、平成 4 年東京高判)と、裁判 所も開発行為該当性等に関するか発権者の判断の過誤を実質的に審査する ことができるとする立場(昭和62年京都地判、大阪高判昭和63年 9 月30日判 時1304号82頁(昭和62年京都の控訴審判決)、平成12年東京高判)とに分かれ ており、この 2 つの立場は、基本的には、前述の建築主事等の審査権に関 する消極説と積極説の立場に対応している。このうち、前者の立場による と、近隣住民等の第三者は、建築確認に対する抗告訴訟においても、開発
行為該当性等に関する開発許可権者の判断の内容上の過誤を争うことがで きなくなってしまう。 これらの裁判例に対しては、学説上、建築主事等の審査権の性格・内容 と裁判所の審査権の性格・内容とが同一である必要はないのであり、両者 を区別して、建築確認に対する抗告訴訟において開発行為該当性等に関す る開発許可権者の判断の過誤を争うことを認めるべきであるとする有力な 批判がなされてきた19)。この批判に対応する裁判例として、前出の平成17年 横浜地判がある。同判決は、開発行為該当性等に関する開発許可権者の判 断に関する建築主事の審査を形式的・外形的な審査にとどまるとしなが ら、「行政事件訴訟法の解釈上……、当該建築確認処分の取消訴訟におい て開発行為該当性の点に関する知事等の判断の誤りを当該建築確認処分の 違法事由として主張することを制限すべき根拠を見いだすことはできな い」として、開発許可権者の判断について実質的な審査を行い、その判断 に誤りがあったことを理由に、建築確認を違法であるとして取り消した。 同判決は、学説上、有力な論者によって評価され、支持されている20)。しか し、その後の裁判例のなかに、同判決の立場を継ぐものはみられない。 2 件の判決が、建築主事の実質的な審査権を認め、裁判所も実質的な審査を しており(平成19年東京地判、平成21年大阪地判)、 1 件の判決が、建築主 事の審査権は形式的・外形的な審査権であるとして、裁判所も形式的・外 形的な審査をするにとどまっている(平成23年東京地判)。 4 .おわりに 適合証明書およびその交付行為をめぐる問題は、主として、開発許可制 度と建築確認制度とを接続する現行法令の規定の不備に起因するものと考 えられる。従来、その不備は、もっぱら実務における解釈と運用に委ねら れてきたが、立法的な対応が必要であることは、以前から指摘されてきた ところである21)。実務の実態を踏まえ、国民の権利救済にも配慮した適切な 法整備が望まれる。
― 87 ― 註 1 )以下の論述に当たっては、開発許可制度研究会編『最新 開発許可制度の解説〔第 3 次改訂版〕』(2015年)、荒秀=小高剛編『都市計画法規概説』(1998年)、安本典 夫『都市法概説〔第 2 版〕』(2013年)、生田長人『都市法入門講義』(2010年)、逐 条解説建築基準法編集委員会編著『逐条解説建築基準法』(2012年)を参照させて いただいた。 2 )都道府県は、「市又は人口、就業者数その他の事項が政令で定める要件に該当す る町村の中心の市街地を含み、かつ、自然的及び社会的条件並びに人口、土地利 用、交通量その他国土交通省令で定める事項に関する現況及び推移を勘案して、一 体の都市として総合的に整備し、開発し、及び保全する必要がある区域」および 「首都圏整備法(……)による都市開発区域、近畿圏整備法(……)による都市開 発区域、中部圏開発整備法(……)による都市開発区域その他新たに住居都市、工 業都市その他の都市として開発し、及び保全する必要がある区域」を都市計画区域 として指定するものとされている(都計法 5 条 1 項前段・ 2 項、都計則 1 条)。ま た、都道府県は、都市計画区域外の区域のうち、「相当数の建築物その他の工作物 (……。)の建築若しくは建設又はこれらの敷地の造成が現に行われ、又は行われる と見込まれる区域を含み、かつ、自然的及び社会的条件並びに農業振興地域の整備 に関する法律(……)その他の法令による土地利用の規制の状況その他国土交通省 令で定める事項に関する現況及び推移を勘案して、そのまま土地利用を整序し、又 は環境を保全するための措置を講ずることなく放置すれば、将来における一体の都 市としての整備、開発及び保全に支障が生じるおそれがあると認められる一定の区 域」を準都市計画区域として指定することができる( 5 条の 2 第 1 項、都計則 3 条 の 2 )。平成26年 3 月31日時点において、都市計画区域の区域数は1,076で、その合 計面積は10,188,428ha(国土の約27%)であり、準都市計画区域の区域数は44で、 その合計面積は70,038.6ha(同約0.2%)である。また、都市計画区域のうち区域 区分が定められているのは271区域で、その合計面積は5,251,317ha(都市計画区 域の約51.5%)である。公益財団法人都市計画協会『平成26年(2014年)都市計画 なお、紙幅の都合により十分に論じることのできなかった点、取り上げ ることのできなかった論点については、他日、別稿において改めて論じる こととしたい。
年報』(2016年) 1 ~ 2 頁。332~335頁など参照。 3 )都市計画区域および準都市計画区域外の区域内において、それにより一定の市街 地を形成すると見込まれる規模として政令で定める規模( 1 ヘクタール。都計令22 条の 2 )以上の開発行為をしようとする者も、あらかじめ、都道府県知事等の許可 を受けなければならない(都計法29条 2 項)。都市計画法上、「開発許可」とは、同 法29条 1 項の許可と29条 2 項の許可の両方を指すが、本稿では、29条 1 項の許可の みを対象とし、29条 2 項の許可は取り扱わない。 4 )都の区域(特別区の存する区域に限る)、市町村でその区域の全部または一部が 首都圏整備法に規定する既成市街地(同法 2 条 3 項)等の区域内にあるものの区域 については、500平方メートル未満とされている(都計令19条 2 項)。 5 )ただし、都道府県、指定都市、中核市、施行時特例市および事務処理市町村は、 一定の場合に、条例で、区域を限り、市街化区域については300平方メートル以上 1,000平方メートル未満、区域区分が定められていない都市計画区域および準都市 計画区域については300平方メートル以上3,000平方メートル未満の範囲内で、開発 許可を要しない開発行為の規模を別に定めることができる(都計令19条 1 項ただし 書)。 6 )指定確認検査機関については、検査済証の交付期限に関する規定が設けられてお らず、建築主と指定確認検査機関との間の契約に委ねられている。逐条解説建築基 準法編集委員会編著・前掲書68頁参照。 7 )適合証明書およびその交付行為に関する著書・論文として、荒=小高編・前掲書 61頁[安本典夫執筆]、金子正史「開発許可制度管見( 1 )・( 2 )・( 3 ・完)」自研 77巻 1 号(2001年) 3 頁、77巻 3 号27頁、77巻 7 号29頁、同『まちづくり行政訴 訟』(2008年) 1 頁(「開発許可取消訴訟における訴えの利益」初出2001年)、211頁 (「建築確認取消訴訟と60条証明書」初出2006年)、友岡史仁「建築確認制度におけ る審査手続の問題」中央学院大学法学論叢16巻 1 号(2003年)137頁、安本・前掲 書125頁などがあり、また、関係判決の評釈として、荒秀『建築基準法論(Ⅱ)』 (1987年)41頁(初出1986年)、同・判評353号(1988年)167頁、同・昭和62年度主 要民事判例解説(1988年)334頁、平岡久・判自66号(1990年)41頁、阿部泰隆・ 判自105号(1993年)130頁、渡邉和義・平成 3 年行政関係判例解説(1993年)263 頁、稲葉馨・自研69巻 6 号(1993年)130頁などがある。以下での論述において は、これらの文献を参照させていただいた。 8 )同旨、金子・前掲書217頁。
― 89 ― 9 )学説として、荒=小高編・前掲書63頁[安本](②の書面についても否定的に解 している)、安本・前掲書126頁注63。裁判例のなかにも、①の書面を適合証明書に 含めて解することに否定的なものがある。 10)金子・前掲論文( 1 ) 5 ~ 6 頁、同・前掲書27頁注36、218頁。 11)荒=小高編・前掲書63頁[安本]、安本・前掲書126頁。 12)金子・前掲論文( 1 ) 6 頁、同・前掲書18頁、252頁注11、安本・前掲書125頁な ど参照。また、開発行為許可通知書以外の例について、金子・前掲論文( 1 ) 9 頁 注10、( 2 )43~44頁など参照。 13)荒・前掲書52~53頁、渡邉・前掲評釈270~271頁参照。 14)学説上も、違法とは考えられていない。荒・前掲書50頁、金子・前掲書27頁注 28。ただし、荒・前掲評釈(判評)176頁、金子・前掲論文( 2 )45頁注37では、 そのような実務上の処理を認めることにつき、限定的な立場がとられている。 15)ただし、荒・前掲書52頁、同・前掲評釈(主要民事判例解説)335頁は、適合証 明書の添付が建築確認申請の受理要件と解されていたことから、その手続法的効果 という点で検討の余地があることを指摘していた。 16)荒・前掲書52頁、金子・前掲書249頁。また、渡邉・前掲評釈270~271頁、阿 部・前掲評釈132頁、金子・前掲論文( 3 ・完)40~41頁参照。 17)中川丈久ほか編著『公法系訴訟実務の基礎〔第 2 版〕』(2011年)430~431頁参 照。 18)たとえば、広岡隆『判例・建築基準法』(1990年)34~35頁にも、本文と同様の 見解が述べられている。 19)安本典夫「都市計画行政の過程における争訟のあり方」立命館法学228号(1993 年)145~148頁、153頁注26、荒=小高編・前掲書64頁[安本]。また、金子・前掲 論文( 3 ・完)33~35頁、友岡・前掲論文147~148頁。 20)金子・前掲書234~238頁、246~247頁、安本・前掲書126頁注64。 21)平岡・前掲評釈43頁、阿部・前掲評釈132頁、金子・前掲論文( 3 ・完)40~41 頁、同・前掲書248~249頁。 [付 記] 本号には、当初、前号(白山法学12号)に掲載した「日本国憲法下における大都市 制度( 1 )」の続編である「日本国憲法下における大都市制度( 2 ・完)」の掲載を予 定していたが、紙幅の制約により、それを一括して掲載することができなくなったた