• 検索結果がありません。

E・M・フォースターの小説の中の手紙 利用統計を見る

N/A
N/A
Protected

Academic year: 2021

シェア "E・M・フォースターの小説の中の手紙 利用統計を見る"

Copied!
22
0
0

読み込み中.... (全文を見る)

全文

(1)

E・M・フォースターの小説の中の手紙

著者

石和田 昌利

雑誌名

白山英米文学 : 東洋大学文学部紀要 英米文学科篇

37

ページ

1-21

発行年

2012

URL

http://id.nii.ac.jp/1060/00004150/

Creative Commons : 表示 - 非営利 - 改変禁止 http://creativecommons.org/licenses/by-nc-nd/3.0/deed.ja

(2)

E ・ M ・ フ ォ ー ス タ ー の 小 説 の 中 の 手 紙 一

E・

M・

E ・ M ・ フ ォ ー ス タ ー は 作 品 の 中 に 手 紙 を 用 い る こ と に よ っ て 作 品 に ど の よ う な 効 果 を 与 え て い る の で あ ろ う か 。 小 説 の 中 に 手 紙 が 用 い ら れ る こ と は 、 珍 し い こ と で は な く 、 常 套 的 な こ と で あ る 。 デ ィ ヴ ィ ッ ド ・ ロ ッ ジ は 、 小 説 の 技 巧 を 論 じ た 著 書 の 書 簡 体 小 説 を 扱 っ た 言 及 に お い て 、 手 紙 は 、 新 し い 事 態 が 生 じ る 過 程 を リ ア ル ・ タ イ ム で 辿 る こ と が で き 、 手 紙 の 書 き 手 は 特 定 の 手 紙 の 読 み 手 に の み 情 報 を 送 る 機 能 を 持 つ こ と を 指 摘 1 し て い る が 、 小 説 の 語 り 手 が 、 作 品 を 外 部 か ら 語 る 全 知 の 語 り 手 で あ ろ う と 、 作 品 の 登 場 人 物 の 一 名 あ る い は 数 名 で あ ろ う と 、 小 説 の 中 に 用 い ら れ た 手 紙 は 、 葉 書 も 含 め 、 手 紙 の 書 き 手 の 登 場 人 物 の 意 見 や 感 情 を 明 ら か に し 、 手 紙 の 書 き 手 の 登 場 人 物 が 知 っ て い た 事 実 や 秘 密 を 手 紙 の 読 み 手 と な る 登 場 人 物 や 読 者 に 知 ら せ る ば か り で は な く 、 手 紙 に は 事 実 や 秘 密 の す べ て を 書 か な い で お い た り 、 手 紙 に は 虚 偽 の 内 容 を 書 く こ と に よ っ て 、 手 紙 の 読 み 手 と な る 登 場 人 物 と 読 者 へ の 情 報 の 操 作 や 撹 乱 を 可 能 に す る 機 能 が あ る 。 イ ギ リ ス 小 説 を 考 え て み る と 、 サ ミ ュ エ ル ・ リ チ ャ ー ド ソ ン の ﹃ パ ミ ラ ﹄︵ 一 七 四 〇 年 ︶ に 代 表 さ れ る 十 八 世 紀 の 書 簡 体 小 説 は 作 品 全 体 が 手 紙 で あ る 。 小 説 全 体 を 手 紙 の み あ る い は 手 紙 を 主 体 と し て 小 説 を 描 写 す る こ と は 、作 品 を 冗 長 に し 、 描 写 を 無 理 の あ る も の に す る の で 、 書 簡 体 小 説 は 、 一 時 の 流 行 で 終 わ り 、 現 在 も 小 説 の 技 巧 の 主 流 に は な ら な い が 、 手 紙

(3)

二 は 、 シ ャ ー ロ ッ ト ・ ブ ロ ン テ の ﹃ ジ ェ イ ン ・ エ ア ﹄︵ 一 八 四 七 年 ︶、 エ ミ リ ー ・ ブ ロ ン テ の ﹃ 嵐 が 丘 ﹄︵ 一 八 四 七 年 ︶、 ト マ ス ・ ハ ー デ ィ の ﹃ ダ ー ヴ ァ ビ ル 家 の テ ス ﹄︵ 一 八 九 一 年 ︶ な ど の 代 表 的 な 十 九 世 紀 の イ ギ リ ス 小 説 に お い て も 巧 み 用 い ら れ 、 プ ロ ッ ト を 展 開 す る と い う 機 能 を 果 た し て い る 。 手 紙 は 作 品 の 小 道 具 と し て も ハ ー デ ィ の ﹃ ダ ー ヴ ァ ビ ル 家 の テ ス ﹄ に お い て 用 い ら れ て い る 。 そ れ は 、 テ ス ・ ダ ー ビ ィ フ ィ ー ル ド が 、 エ ン ジ ェ ル ・ ク レ ア と 結 婚 す る 前 に 、 ア レ ッ ク ・ ダ ー ヴ ァ ビ ル と の 関 係 を 告 白 す る 手 紙 を 書 き な が ら も 、 テ ス の 手 紙 が エ ン ジ ェ ル に 届 か な い と い う 出 来 事 で あ る 。 手 紙 の 内 容 が 受 け 取 り 手 に よ っ て 読 ま れ な か っ た と い う こ と が プ ロ ッ ト を 展 開 さ せ て い く 。 こ の 出 来 事 は ウ ィ リ ア ム ・ シ ェ イ ク ス ピ ア の﹃ ロ ミ オ と ジ ュ リ エ ッ ト ﹄︵ 一 五 九 五 年 ︶ の 届 か な か っ た 手 紙 の 出 来 事 を 応 用 し た も の で あ る こ と は 周 知 の こ と で あ ろ う 。 そ し て 、 こ れ は 、 イ ギ リ ス 文 学 に お い て は 、 手 紙 が 、 小 説 ば か り で は な く 、 演 劇 に お い て も 用 い ら れ て き た こ と を 示 し 、 ジ ョ ン ・ キ ー ツ の 書 簡 体 詩 の よ う な 詩 に お け る 使 用 さ え も 想 起 さ せ る と 言 え よ う 。 伝 達 手 段 の 発 達 は 文 学 作 品 に 新 た な 伝 達 手 段 を 提 供 し て く れ る 。 情 報 を 受 信 す る 手 段 と し て の テ レ ビ 、 ラ ジ オ 、 映 画 、 新 聞 、 イ ン タ ー ネ ッ ト 、 情 報 を 受 信 と 送 信 す る 手 段 と し て の 電 話 、 電 報 、 フ ァ ッ ク ス 、 電 子 メ ー ル が 、 一 般 的 に 普 及 し て い く の に 伴 い 、文 学 作 品 に も 用 い ら れ て い く の は 当 然 で あ る 。 ヘ レ ン ・ フ ィ ー ル デ ィ ン グ の ﹃ ブ リ ジ ッ ト ・ ジ ョ ー ン ズ の 日 記 ﹄︵ 一 九 九 七 年 ︶ で は 電 子 メ ー ル が 頻 繁 に 用 い ら れ て い る 。 手 紙 や 葉 書 は 、 文 学 作 品 に お い て 同 じ 機 能 を 時 と し て は 果 た す こ と の で き る 電 話 、 電 報 、 フ ァ ッ ク ス 、 電 子 メ ー ル に 文 学 作 品 の 中 で の 地 位 を 脅 か さ れ て い る も の の 、 文 字 の 筆 跡 、 手 書 き 文 書 の 残 存 、 消 印 に よ る 投 函 日 の 公 的 証 明 な ど の 点 か ら 今 も 地 位 を か ろ う じ て 守 っ て い る と 言 え よ う 。 小 論 は 、﹃ 天 使 も 踏 む を 恐 れ る と こ ろ ﹄︵ 一 九 〇 五 年 ︶、 ﹃ 最 も 長 い 旅 ﹄︵ 一 九 〇 七 年 ︶、 ﹃ 眺 め の い い 部 屋 ﹄︵ 一 九 〇 八 年 ︶、 ﹃ ハ ワ ー ズ ・ エ ン ド ﹄︵ 一 九 一 〇 年 ︶、﹃ イ ン ド へ の 道 ﹄︵ 一 九 二 四 年 ︶、 ﹃ モ ー リ ス ﹄︵ 一 九 一 四 年 執 筆 ・ 一 九 七 一 年 出 版 ︶ と い

(4)

E ・ M ・ フ ォ ー ス タ ー の 小 説 の 中 の 手 紙 三 う フ ォ ー ス タ ー の 六 作 の 長 編 小 説 を 中 心 に 、 手 紙 が 用 い ら れ て い る フ ォ ー ス タ ー の 短 編 小 説 に も 触 れ な が ら 、 手 紙 が 作 品 に 与 え る 効 果 を 考 察 し て み た い 。 手 紙 は 事 務 的 に は 用 件 を 連 絡 す る 文 書 で あ る が 、 事 務 的 な 用 途 以 上 の 意 味 を 持 つ 手 紙 に 注 目 し た い 。 従 っ て 、短 編 小 説 の ﹁ 永 遠 の 瞬 間 ﹂︵ 一 九 〇 五 年 ︶ や ﹁ 紫 色 の 封 筒 ﹂︵ 一 九 〇 五 年 ︶ の 手 紙 の よ う に 、 登 場 人 物 に 衝 撃 を 与 え る 手 紙 で あ っ て も 、 用 件 を 連 絡 す る 文 書 と し て の 手 紙 に は 注 目 し な い 。 電 話 と 電 報 は こ れ ら の 作 品 の い く つ か に お い て 登 場 す る が 、 フ ァ ッ ク ス と 電 子 メ ー ル は ま だ 存 在 し て い な く 、 パ ソ コ ン や 携 帯 電 話 が 考 え ら れ な い 時 代 が 作 品 の 舞 台 に な っ て い る 。 し か し 、 交 通 手 段 も 、 こ れ ら の 作 品 で 、 馬 車 か ら 自 動 車 に 移 り 変 わ り 、 鉄 道 が 発 達 し て い く よ う に 、 伝 達 手 段 も 手 紙 や 電 報 か ら 電 話 に 移 り 変 わ っ て い く 。小 論 は 、 フ ォ ー ス タ ー の こ れ ら の 作 品 に お け る 手 紙 の す べ て を 扱 う の で は な く 、 各 作 品 の 代 表 的 な 手 紙 を 中 心 に 、 葉 書 、 電 報 、 電 話 に 焦 点 を 絞 っ て 出 版 年 順 に 扱 い 、 最 後 に フ ォ ー ス タ ー が 人 類 の 未 来 を 描 い た 短 編 小 説 ﹁ 機 械 は 止 ま る ﹂︵ 一 九 〇 九 年 ︶ に お い て 描 い た 未 来 世 界 に お け る 伝 達 手 段 に も 触 れ 、 フ ォ ー ス タ ー の 小 説 の 中 の 手 紙 を 論 じ た い 。             1 ﹃ 天 使 も 踏 む を 恐 れ る と こ ろ ﹄ に お け る 手 紙 は ど う だ ろ う か 。 こ の 作 品 は 、 イ ギ リ ス 人 の 来 訪 者 が 、 旅 行 で 訪 れ た 場 所 の 異 文 化 に 出 会 い 、 対 立 す る 価 値 観 と の 衝 突 を 経 験 す る と い う 形 式 を 取 る 作 品 で あ る 。 フ ォ ー ス タ ー は﹃ 眺 め の い い 部 屋 ﹄ や ﹃ イ ン ド へ の 道 ﹄ と い う 長 編 小 説 や ﹁ ア ル ベ ル ゴ ・ エ ン ペ ド ク レ ﹂︵ 一 九 〇 三 年 ︶、 ﹁ パ ニ ッ ク の 話 ﹂︵ 一 九 〇 四 年 ︶、 ﹁ コ ロ ノ ス か ら の 道 ﹂︵ 一 九 〇 四 年 ︶、 ﹁ 永 遠 の 瞬 間 ﹂、 ﹁ セ イ レ ー ン の 話 ﹂︵ 一 九 〇 四 年 執 筆 ・ 一 九 二 〇 年 出 版 ︶ と い う 短 編 小 説 で も こ の 形 式 を 用 い て い る 。 ま た 、 フ ォ ー ス タ ー が ﹃ ハ ワ ー ズ ・ エ ン ド ﹄ の ド イ ツ や ﹃ モ ー リ ス ﹄ の ギ リ シ ア の よ う に 小 説 の 中 で わ ず か に 触 れ る 場 所 を 含 め る と 、 作 品 の 中 で イ ギ リ ス と 対 置 さ れ る 場 所 は 更 に 増 え る 。 イ タ リ ア と イ ギ リ ス 、

(5)

四 ド イ ツ と イ ギ リ ス 、 イ ン ド と イ ギ リ ス 、 ギ リ シ ア と イ ギ リ ス な ど の 距 離 の 離 れ た 作 品 の 舞 台 も 手 紙 、 葉 書 、 電 話 、 電 報 で の や り 取 り の 必 要 性 を 生 み 出 し て い る と 言 え る が 、 フ ォ ー ス タ ー が 海 外 か ら イ ギ リ ス へ の 国 際 郵 便 を 作 品 の 中 で 用 い て い る 作 品 は 、 意 外 に 少 な く 、﹃ 天 使 も 踏 む を 恐 れ る と こ ろ ﹄、﹃ ハ ワ ー ズ ・ エ ン ド ﹄、 ﹁ ア ル ベ ル ゴ ・ エ ン ペ ド ク レ ﹂、 ﹁ 永 遠 の 瞬 間 ﹂ ぐ ら い で あ る 。﹃ イ ン ド へ の 道 ﹄ に 描 か れ て い る イ ン ド は イ ギ リ ス の 植 民 地 で あ っ た の で 、 イ ギ リ ス か ら 植 民 地 の イ ン ド へ の 手 紙 は 国 際 郵 便 と 呼 ぶ わ け に は い か な い 。 フ ォ ー ス タ ー は 、 イ タ リ ア の モ ン テ リ ア ー ノ と イ ギ リ ス の ソ ー ス ト ン と い う 場 所 が 作 品 の 舞 台 と し て 対 置 さ れ て い る ﹃ 天 使 も 踏 む を 恐 れ る と こ ろ ﹄ で は 、 手 紙 の 書 式 で 書 か れ た 文 面 を そ の ま ま 再 現 せ ず 、 他 の 長 編 小 説 と は 異 な る 方 法 で 手 紙 を 用 い て い る 。 リ リ ア ・ ヘ リ ト ン は 何 か の 用 件 を 連 絡 す る た め に 手 紙 を イ ギ リ ス に 送 っ て い る わ け で は な い 。 イ タ リ ア を 旅 行 す る リ リ ア が イ ギ リ ス に 手 紙 を 送 っ て く る こ の 作 品 の 第 一 章 に 注 目 し て み よ う 。 第 一 に 、﹁ ﹃ こ の よ う な 場 所 で は ﹄ と リ リ ア は 手 紙 に 書 い て い た 。﹃ 誰 も が 、 事 物 の 中 心 に い て 、 往 来 の 頻 繁 な 道 か ら 離 れ て い る よ う に 本 当 に 感 じ ま す 。 毎 朝 ゴ シ ッ ク 様 式 の 窓 か ら 外 を 見 る と 、 中 世 が 過 ぎ 去 っ て し ま っ た こ と が 信 じ ら れ な い よ う に 思 え ま す 2 ﹄﹂ と い う よ う に 、 全 知 の 語 り 手 に よ っ て 内 容 を 再 現 す る 方 法 で あ る 。 こ の 方 法 に よ っ て も 、 作 品 の 視 点 を 変 え る こ と が で き 、 全 知 の 語 り 手 に よ っ て 語 ら れ て い る 空 間 に 手 紙 の 書 き 手 の 視 点 か ら の 異 な る 空 間 を 挿 入 す る こ と が で き る 。 第 二 に 、﹁ 意 味 は と て も は っ き り し て い ま す 。 リ リ ア は 結 婚 す る こ と を 約 束 し た の で す 。 ほ ら 、 泣 か な い の 。 泣 か な い で 私 を 喜 ば せ て よ 。 話 は 一 切 し な い 。 我 慢 で き な い わ 。 リ リ ア は ホ テ ル で 知 り 合 い に な っ た 男 と 結 婚 す る つ も り よ 。 手 紙 を 手 に と っ て 、 自 分 で 読 み な さ い 3 ﹂ と い う よ う に 、 登 場 人 物 が 手 紙 の 重 要 な 部 分 を 読 み 上 げ た り 要 約 し た り し て 他 の 登 場 人 物 に 説 明 す る と い う 方 法 で あ る 。 こ の 手 紙 は 、 モ ン テ リ ア ー ノ で 十 二 歳 年 下 の ジ ー ノ ・ カ レ ラ と い う 容 姿 端 麗 な 若 い 男 と 出 会 い 、 恋 を し た 三 三 歳 の 未 亡 人 リ リ ア か ら 実 母 の シ オ ボ ー ル ド 夫 人 へ の 結 婚 の 決 意 の 手

(6)

E ・ M ・ フ ォ ー ス タ ー の 小 説 の 中 の 手 紙 五 紙 が 、 シ オ ボ ー ル ド 夫 人 に よ っ て リ リ ア の 姑 の ヘ リ ト ン 夫 人 に 転 送 さ れ 、 ヘ リ ト ン 夫 人 に よ っ て 娘 の ハ リ エ ッ ト ・ ヘ リ ト ン に 説 明 さ れ た も の で あ る 。 こ の 手 紙 は 、 手 紙 の 読 み 手 と な る 登 場 人 物 と 読 者 に 対 し て 知 ら れ て い な か っ た 秘 密 を 暴 露 し 、 プ ロ ッ ト を 展 開 す る と い う 機 能 を 果 た し て い る 。 す な わ ち 、 こ の 手 紙 は 作 品 の 中 の 虚 構 の 世 界 に 問 題 を 引 き 起 こ す 手 紙 で あ る 。 し か し 、 フ ォ ー ス タ ー 、 は リ リ ア に す べ て の 事 実 を 手 紙 に 書 か せ な い こ と に よ っ て 、 手 紙 の 読 み 手 と な る 登 場 人 物 と 読 者 を 騙 し 、 ジ ー ノ と リ リ ア の 秘 密 の 結 婚 を 暴 露 す る 伏 線 を 作 品 に 埋 め 込 ん で も い る 。 幼 い 子 供 を 姑 に 預 け て 傷 心 を 癒 す イ タ リ ア 旅 行 に 行 っ た リ リ ア の イ タ リ ア 人 と の 突 然 の 国 際 結 婚 と イ タ リ ア で の 永 住 の 知 ら せ が 、 ヘ リ ト ン 家 に 騒 ぎ を 引 き 起 こ し 、 ジ ー ノ と リ リ ア の 結 婚 を 思 い 留 ま ら せ る 説 得 役 の 派 遣 を 引 き 起 こ す こ と は 読 者 に 予 想 さ れ る プ ロ ッ ト の 展 開 で あ る と 言 え よ う 。 し か し 、 ジ ー ノ と リ リ ア が す で に 結 婚 し て い る と い う 秘 密 は 、 フ ィ リ ッ プ ・ ヘ リ ト ン が 、 ジ ー ノ と リ リ ア の 結 婚 を 阻 止 す る た め に 、 モ ン テ リ ア ー ノ へ 行 き 、 ジ ー ノ か ら 打 ち 明 け ら れ る ま で は 、 手 紙 の 読 み 手 と な る 登 場 人 物 と 読 者 に は 知 ら さ れ な い の で あ る 。 フ ォ ー ス タ ー は こ の 作 品 で は 手 紙 を こ の よ う に 用 い て い る 。 フ ォ ー ス タ ー は こ の 作 品 で 電 報 と 絵 葉 書 と い う 伝 達 手 段 も 用 い て い る 。 電 報 は パ ソ コ ン や 携 帯 電 話 が な か っ た 時 代 に 最 も 早 く 連 絡 を 取 る 手 段 で あ っ た の で 、﹁ モ ン テ リ ア ー ノ に い る 理 由 を 電 報 せ よ 。 奇 妙 な 噂 が あ る 4 ﹂ と い う 電 報 が こ の 作 品 で は ヘ リ ト ン 夫 人 か ら リ リ ア の イ タ リ ア 旅 行 に 同 行 す る キ ャ ロ ラ イ ン ・ ア ボ ッ ト に 送 ら れ る 。 電 報 は フ ォ ー ス タ ー の 作 品 に お い て は 急 用 の 連 絡 の 時 に は 必 ず 用 い ら れ て い る 。 電 報 は リ リ ア の 突 然 の 結 婚 の 決 意 の 真 偽 を 確 か め よ う と す る ヘ リ ト ン 夫 人 の 切 迫 し た 状 況 を 窺 わ せ る 作 品 の 小 道 具 で あ る 。 こ の 電 報 は 事 務 的 に 用 件 を 連 絡 す る 文 書 で あ る 。 電 報 を 作 品 に 用 い た こ と は 状 況 の 切 迫 を 読 者 に も 感 じ さ せ る 効 果 が あ っ た と 言 え よ う 。 一 方 、﹁ モ ン テ リ ア ー ノ と い う 素 晴 し い 都 市 の 眺 め 、 ア ー マ の 小 さ な 弟 よ り 5 ﹂ と 添 え 書 き さ れ て リ リ ア の 娘 の ア ー マ ・ ヘ リ ト ン に 送 ら れ て く る モ ン テ リ ア ー ノ の 風 景 の 絵

(7)

六 葉 書 は 、 ジ ー ノ と リ リ ア の 息 子 の 引 き 取 り を 引 き 起 こ す 方 向 に プ ロ ッ ト を 展 開 さ せ る 点 に つ い て は 作 品 の 有 効 な 小 道 具 で あ る が 、 新 生 児 の ジ ー ノ と リ リ ア の 息 子 が 絵 葉 書 を 書 け る は ず は な く 、 ジ ー ノ に よ っ て 書 か れ た 絵 葉 書 で あ る こ と が 予 想 は さ れ る が 、 誰 が 何 の た め に 送 っ て き た 絵 葉 書 な の か は こ の 作 品 の 最 後 ま で 曖 昧 な ま ま で あ る 。 絵 葉 書 は 、 こ の 作 品 に お い て 、 モ ン テ リ ア ー ノ と い う 土 地 を 読 者 の 視 覚 に 訴 え る 点 に お い て は 斬 新 で あ る が 、 作 品 に 未 解 決 な 謎 を 作 っ て し ま っ た 点 が 惜 し ま れ る 。             2 ﹃ 最 も 長 い 旅 ﹄ に お け る 手 紙 は ど う だ ろ う か 。 こ の 作 品 は 、 イ ギ リ ス 人 の 来 訪 者 が 、旅 行 で 訪 れ た 場 所 の 異 文 化 に 出 会 い 、 対 立 す る 価 値 観 と の 衝 突 を 経 験 す る と い う 形 式 を 取 ら な い 。 こ の 作 品 の 舞 台 は 、 イ ギ リ ス に の み 限 定 さ れ 、 対 照 的 な 特 性 を 持 つ 二 つ の 場 所 が 対 置 さ れ る の で は な く 、 ケ ン ブ リ ッ ジ 、 ソ ー ス ト ン 、 ウ ィ ル ト シ ャ ー と い う 三 つ の 場 所 が 作 品 の 舞 台 に な る 。 従 っ て 、 作 品 が 、 イ ギ リ ス 人 の 来 訪 者 が 、 旅 行 で 訪 れ た 場 所 の 異 文 化 に 出 会 い 、 対 立 す る 価 値 観 と の 衝 突 を 経 験 す る と い う 形 式 で あ る た め に 生 じ る 手 紙 の 必 要 性 は な く な る 。 し か し 、﹃ 天 使 も 踏 む を 恐 れ る と こ ろ ﹄ と ﹃ 最 も 長 い 旅 ﹄ の 手 紙 は 共 通 し て 結 婚 に つ い て の 手 紙 が 中 心 に な る 。 リ ッ キ ー ・ エ リ オ ッ ト と ア グ ネ ス ・ ペ ン ブ ル ッ ク の 結 婚 を め ぐ っ て 七 通 の 手 紙 が 交 わ さ れ る こ の 作 品 の 第 九 章 に 注 目 し て み よ う 。 こ の 章 は 、 全 知 の 語 り 手 に よ っ て 語 ら れ る 説 明 は な く 、 手 紙 の 書 式 で 書 か れ た 文 面 を そ の ま ま 再 現 し た 七 通 の 手 紙 が 並 べ ら れ て い る 。 七 通 の 手 紙 の 内 訳 は 、 リ ッ キ ー と ア グ ネ ス の 結 婚 に 反 対 す る ス テ ュ ア ー ト ・ ア ン セ ル か ら リ ッ キ ー へ の 第 一 の 手 紙 、 ア ン セ ル の 手 紙 に 反 論 す る リ ッ キ ー か ら ア ン セ ル へ の 第 二 の 手 紙 、 リ ッ キ ー と ア グ ネ ス の 結 婚 に 再 度 反 対 す る ア ン セ ル か ら リ ッ キ ー へ の 第 三 の 手 紙 、 ア ン セ ル の 手 紙 に 再 度 反 論 す る リ ッ キ ー か ら ア ン セ ル へ の 第 四 の 手 紙 、 リ ッ キ ー と の 恋 愛 の 経 過 を 報 告 す る ア グ ネ ス か ら ル ー イ ン 夫 人 へ の

(8)

E ・ M ・ フ ォ ー ス タ ー の 小 説 の 中 の 手 紙 七 第 五 の 手 紙 、 リ ッ キ ー と ア グ ネ ス の 結 婚 を 延 期 さ せ る こ と を 考 え て い る ア グ ネ ス の 兄 の ハ ー バ ー ト ・ ペ ン ブ ル ッ ク か ら シ ル ト 氏 へ の 第 六 の 手 紙 、 リ ッ キ ー と ア グ ネ ス が 結 婚 す る 前 に キ ャ ド ヴ ァ ー へ 遊 び に 来 る よ う に 誘 う リ ッ キ ー の 伯 母 の エ ミ リ ー ・ フ ェ イ リ ン グ か ら ア グ ネ ス へ の 第 七 の 手 紙 で あ る 。 小 説 の 中 で 連 続 し て 手 紙 の 書 式 で 書 か れ た 文 面 を そ の ま ま 再 現 し た 手 紙 が 用 い ら れ る 場 合 、 同 じ 手 紙 の 書 き 手 か ら 同 じ 手 紙 の 読 み 手 に 対 し て の 一 つ の 用 件 に 対 す る 催 促 や 一 つ の 話 題 に 対 し て の 往 復 書 簡 が 一 般 的 で あ る 。 フ ォ ー ス タ ー は 、 前 者 を ﹃ モ ー リ ス ﹄ や ﹁ ア ル ベ ル ゴ ・ エ ン ペ ド ク レ ﹂ に お い て 用 い 、 後 者 を ﹃ 眺 め の い い 部 屋 ﹄ や ﹃ モ ー リ ス ﹄ で 用 い て い る が 、﹃ 最 も 長 い 旅 ﹄ に お い て は 、 こ の よ う な 形 式 を 意 図 的 に 崩 し 、 リ ッ キ ー と ア グ ネ ス の 結 婚 に つ い て の リ ッ キ ー と ア ン セ ル の 往 復 書 簡 を 反 復 し た 後 、 ア グ ネ ス 、 ハ ー バ ー ト 、 エ ミ リ ー と い う リ ッ キ ー の 結 婚 相 手 、 リ ッ キ ー の 結 婚 相 手 の 兄 、 リ ッ キ ー の 伯 母 と い う リ ッ キ ー に 深 く 関 係 す る 登 場 人 物 の 視 点 か ら の リ ッ キ ー と ア グ ネ ス の 結 婚 に つ い て の 意 見 を 並 べ 、 一 つ の 出 来 事 に 対 す る 複 数 の 登 場 人 物 の 意 見 を ス ピ ー デ ィ に 展 開 す る こ と に 成 功 し て い る 。 手 紙 の 文 面 は い ず れ も 明 解 な 意 見 や 報 告 で あ る 。 し か し 、 こ れ ら の 手 紙 は 事 務 的 に 用 件 を 連 絡 す る 文 書 で な い 。 第 一 の 手 紙 の 内 容 を 見 て み よ う 。 僕 は 、 話 す と 、 腹 を 立 て る し 、 時 々 気 の 利 い た こ と を 言 お う と も す る 。 こ れ が 僕 に 注 意 を 払 わ せ る の に 失 敗 す る 二 つ の 理 由 だ 。 こ れ は 深 慮 の 末 の 手 紙 だ 。 君 が 読 ん で 婚 約 を 破 棄 し て く れ た な ら ば 、 こ の 手 紙 の 役 目 は 果 た さ れ た こ と に な る 。 君 は 絶 対 に 結 婚 な ど す べ き で は な い 人 間 な の だ 。 君 は 肉 体 的 に 結 婚 に は 不 向 き な の だ 。 僕 た ち は そ の こ と を 以 前 に 話 し 合 っ た じ ゃ な い か 。 更 に 、 君 は 精 神 的 に も 結 婚 に は 不 向 き な の だ 。 君 は 、 多 く の 人 々 を 好 き に な る こ と を 望 み 、 必 要 と す る 。 そ の よ う な 種 類 の 男 は 結 婚 す べ き で は な い の だ 6 。 ア ン セ ル は 失 礼 な ほ ど 単 刀 直 入 に リ ッ キ ー と ア グ ネ ス の 結

(9)

八 婚 に 反 対 し て い る 。 顔 を 合 わ せ て 話 し た 場 合 、 喧 嘩 は 避 け ら れ な い 内 容 で あ る 。 一 方 、﹁ で も 、 僕 は 恋 を し て い る 。 君 は 細 か い こ と は 忘 れ ち ゃ っ て い る ん だ ね 7 ﹂ と い う 第 二 の 手 紙 に お け る リ ッ キ ー の ア ン セ ル へ の 反 論 も 明 解 な も の で あ る 。 そ れ に 対 し て 、﹁ ミ ス ・ ペ ン ブ ル ッ ク は 真 剣 で は な い 8 ﹂ と ﹁ ミ ス ・ ペ ン ブ ル ッ ク は 誠 実 で は な い 9 ﹂ と い う 第 三 の 手 紙 に お け る リ ッ キ ー と ア グ ネ ス の 結 婚 に 再 度 反 対 す る ア ン セ ル の 二 つ の 反 対 理 由 も 明 解 で あ る 。 ア ン セ ル の 衒 学 的 で 文 学 的 な 教 養 は 読 者 に は 邪 魔 な く ら い で あ る 。 し か し 、 結 婚 と 友 情 は 別 と 考 え る リ ッ キ ー は ﹁ 君 は ﹃ 僕 の 妻 に な る 女 性 を 憎 む ﹄ と 手 紙 に 書 い て 寄 こ し た 。 そ こ で 、 僕 の 君 へ の 返 事 は ﹃ 憎 ん で く れ 。 僕 は 二 人 を 同 時 に 愛 せ な い の か ﹄ と 手 紙 に 書 い て 返 し た 10 ﹂ と 返 信 す る リ ッ キ ー か ら ア ン セ ル へ の 再 度 の 反 論 に お い て も リ ッ キ ー の 結 婚 の 決 意 は ま っ た く 揺 ら い で い な い 。 ど の よ う な 反 対 が あ っ て も ア グ ネ ス と 結 婚 す る と い う リ ッ キ ー の 決 意 が こ の 反 復 さ れ る 往 復 書 簡 に よ っ て 明 確 に さ れ て い る 。 リ ッ キ ー と 同 じ 住 所 で 書 か れ た ア グ ネ ス と ハ ー バ ー ト の 手 紙 は 、 リ ッ キ ー と ア グ ネ ス の 結 婚 を す で に 決 定 し て い る こ と と 捉 え 、 リ ッ キ ー と ア グ ネ ス の 結 婚 に つ い て の 賛 否 を 述 べ て い な い が 、 リ ッ キ ー が 、 ア グ ネ ス や ハ ー バ ー ト と 同 じ ソ ー ス ト ン の 住 人 に な り 、 ソ ー ス ト ン の 価 値 観 に 帰 属 し て い る こ と を 感 じ さ せ る 。 ア グ ネ ス の 第 五 の 手 紙 は リ ッ キ ー と の 恋 愛 の 経 過 の 報 告 に 過 ぎ ず 、 ハ ー バ ー ト の 第 六 の 手 紙 は リ ッ キ ー と ア グ ネ ス の 結 婚 生 活 の 経 済 的 な 心 配 に 過 ぎ な い 。 む し ろ 、 読 者 の 興 味 を 掻 き 立 て る 手 紙 は キ ャ ド ヴ ァ ー か ら 送 ら れ て き た エ ミ リ ー か ら ア グ ネ ス へ の 第 七 の 手 紙 で あ る 。 第 七 の 手 紙 の 内 容 を 見 て み よ う 。 あ な た が 私 の 甥 と 結 婚 な さ る こ と を お 聞 き 致 し ま し た 。 甥 が ど ん な 様 子 か 見 当 も つ き ま せ ん 。 こ の 眼 で 確 か め ら れ る よ う に こ ち ら に 連 れ て き て い た だ き ま せ ん か 。 九 月 な ん て か な り い い 月 じ ゃ な い か し ら 。 あ な た た ち は 、ス ト ー ン ・ ヘ ン ジ に 行 か な く て は な ら な い か も し れ ま せ ん が 、 そ れ 以 外 に 面 倒 な こ と は な い で し ょ う 。 是 非 ご 都 合 を つ け て い ら

(10)

E ・ M ・ フ ォ ー ス タ ー の 小 説 の 中 の 手 紙 九 し て く だ さ い 。ル ー イ ン 夫 人 の 家 で 一 度 お 会 い 致 し ま し た 。 あ な た の こ と を と て も は っ き り 覚 え て い ま す 11 。 こ の よ う に 、 エ ミ リ ー は 、 リ ッ キ ー と ア グ ネ ス の 結 婚 に つ い て の 賛 否 を 述 べ ず 、 表 面 的 に は リ ッ キ ー と ア グ ネ ス を キ ャ ド ヴ ァ ー に 招 待 し て い る だ け で あ る 。 フ ォ ー ス タ ー は 第 七 紙 に こ の 作 品 の プ ロ ッ ト を 展 開 す る 機 能 を 与 え て い る が 、 読 者 は 、 や が て 、 こ の 手 紙 が 、 事 務 的 に 用 件 を 連 絡 す る 文 書 で は な く 、 策 略 の 手 段 で あ る こ と に 気 づ く こ と に な る 。 策 略 の 手 段 と し て の 手 紙 は ﹃ 眺 め の い い 部 屋 ﹄ や ﹃ モ ー リ ス ﹄ で も 用 い ら れ る 。 リ ッ キ ー と ア グ ネ ス の キ ャ ド ヴ ァ ー へ の 来 訪 は リ ッ キ ー と ア グ ネ ス の 人 生 を 異 な っ た 方 向 に 展 開 さ せ る こ と に な る 。 こ の よ う に 、 手 紙 の み を 並 列 し た ﹃ 最 も 長 い 旅 ﹄ の こ の 章 は 、 全 知 の 語 り 手 に よ っ て 語 ら れ て い る 空 間 に 手 紙 の 書 き 手 の 視 点 か ら の 異 な る 空 間 を 挿 入 し て は い な い が 、 多 様 な 視 点 か ら 一 つ の 出 来 事 を 語 り 、 一 つ の 出 来 事 に 対 す る 複 数 の 登 場 人 物 の 意 見 を ス ピ ー デ ィ に 読 者 に 紹 介 し 、 全 知 の 語 り 手 に よ っ て 語 ら れ る 描 写 や 登 場 人 物 の 言 葉 以 上 の 効 果 を あ げ て い る 。             3 ﹃ 眺 め の い い 部 屋 ﹄ に お け る 手 紙 は ど う だ ろ う か 。 こ の 作 品 も 、﹃ 天 使 も 踏 む を 恐 れ る と こ ろ ﹄ と 同 様 に 、 イ ギ リ ス 人 の 来 訪 者 が 、 旅 行 で 訪 れ た 場 所 で あ る イ タ リ ア の 異 文 化 に 出 会 い 、 対 立 す る 価 値 観 と の 衝 突 を 経 験 す る と い う 形 式 を 取 る 作 品 で あ る 。 し か し 、﹃ 眺 め の い い 部 屋 ﹄ に お い て は イ タ リ ア と イ ギ リ ス の 間 で の 手 紙 の や り 取 り は 第 二 〇 章 に お け る フ レ デ ィ ・ ハ ニ ー チ ャ ー チ が ジ ョ ー ジ ・ エ マ ソ ン と 結 婚 し た 姉 の ル ー シ ー ・ ハ ニ ー チ ャ ー チ へ 送 っ た 手 紙 の み で あ る 。 ル ー シ ー は 、 ジ ョ ー ジ と 出 会 っ た 思 い 出 の ホ テ ル で あ る フ ィ レ ン ツ ェ の ペ ン シ ョ ン ・ ベ ル ト リ ー ニ に ジ ョ ー ジ と と も に 再 び 宿 泊 し 、 フ レ デ ィ が ジ ョ ー ジ と ル ー シ ー の 結 婚 を 帰 属 す る 社 会

(11)

一 〇 の 価 値 観 か ら ﹁ 駆 け 落 ち 12 ﹂ と 呼 ん で い る こ と を ジ ョ ー ジ に 紹 介 す る だ け で あ る 。 も ち ろ ん 、 手 紙 の 書 式 で 書 か れ た 文 面 は そ の ま ま 再 現 さ れ て は い な い 。 こ の 手 紙 も 、 事 務 的 に 用 件 を 連 絡 す る 文 書 で は な く 、 一 つ の 出 来 事 に 対 す る 異 な る 視 点 か ら の 意 見 に な っ て い る 。 こ の 手 紙 は ﹃ 最 も 長 い 旅 ﹄ の 手 紙 の 使 用 法 を 再 び 用 い た も の で あ る 。 し か し 、﹃ 眺 め の い い 部 屋 ﹄ に は 第 二 〇 章 の 手 紙 以 上 に 読 者 の 眼 を 惹 く 手 紙 が あ る 。 そ れ は ル ー シ ー と シ ャ ー ロ ッ ト ・ バ ー ト レ ッ ト の 往 復 書 簡 で あ る 。 ル ー シ ー と シ ャ ー ロ ッ ト の 手 紙 が 手 紙 の 書 式 で 書 か れ た 文 面 で そ の ま ま 再 現 さ れ て い る こ の 作 品 の 第 十 一 章 に 注 目 し て み よ う 。 ル ー シ ー の 従 姉 の シ ャ ー ロ ッ ト は 、 ル ー シ ー の イ タ リ ア 旅 行 の 同 行 者 で あ り 、 ル ー シ ー と 秘 密 を 共 有 し て い る 女 で あ る 。 ジ ョ ー ジ と ル ー シ ー の 秘 密 と は 馬 車 で 出 か け た フ ィ エ ー ゾ レ 丘 陵 で の ジ ョ ー ジ と ル ー シ ー の キ ス で あ る 。 ル ー シ ー と シ ャ ー ロ ッ ト の 往 復 書 簡 は 露 見 を 心 配 す る 秘 密 に つ い て の 内 密 な 連 絡 の 手 紙 な の で あ る 。 シ ャ ー ロ ッ ト は 、 ジ ョ ー ジ と の キ ス を 誰 に も 話 さ な い よ う に ル ー シ ー に 約 束 さ せ て お き な が ら 、 ル ー シ ー に 次 の よ う な こ と を 書 い た 手 紙 を 送 る 。 ミ ス ・ ラ ヴ ィ ッ シ ュ は 、 サ マ ー ・ ス ト リ ー ト の 近 く で 自 転 車 の タ イ ヤ が パ ン ク し 、 美 し い 教 会 の 庭 で ひ ど く し ょ ん ぼ り し て 腰 掛 け て い る 間 に 、 タ イ ヤ の 修 理 を し て も ら っ て い る 時 、 驚 い た こ と に 、 向 か い の 家 の ド ア が 開 き 、 エ マ ソ ン 家 の 息 子 さ ん が 出 て く る の を 眼 に し た そ う で す 。 息 子 さ ん は 父 親 が そ の 家 を ち ょ う ど 借 り た と こ ろ だ と 仰 っ た そ う で す 。 息 子 さ ん は あ な た が 近 所 に 住 ん で い る こ と を 知 ら な い と 仰 っ た そ う で す よ 。 息 子 さ ん は ミ ス ・ ラ ヴ ィ ッ シ ュ に お 茶 一 杯 出 し て く れ な か っ た そ う で す 。親 愛 な る ル ー シ ー 、 私 は と て も 心 配 し て お り ま す 。 そ し て 、 私 は ジ ョ ー ジ の 過 去 の 行 い の す べ て を あ な た の お 母 様 、 フ レ デ ィ 、 そ し て 、 ヴ ァ イ ス 氏 に 残 ら ず 打 ち 明 け る よ う に ご 忠 告 致 し ま す 。 そ う す れ ば 、 ジ ョ ー ジ の 出 入 り を 禁 止 す る こ と と か が さ れ る で し ょ う か ら 。 あ れ は 大 き な 不 幸 で し た 。 そ し て 、恐 ら く 、

(12)

E ・ M ・ フ ォ ー ス タ ー の 小 説 の 中 の 手 紙 一 一 あ な た は あ な た の お 母 様 、 フ レ デ ィ 、 そ し て 、 ヴ ァ イ ス 氏 に す で に お 話 に な ら れ て い る で し ょ う 13 。 シ ャ ー ロ ッ ト は 、 ル ー シ ー の 家 の 近 所 に 引 っ 越 し て き た こ と を 知 ら れ た ジ ョ ー ジ が シ ャ ー ロ ッ ト の 友 達 の エ レ ノ ア ・ ラ ヴ ィ ッ シ ュ に 無 愛 想 だ っ た こ と に 不 安 を 抱 き 、 フ ィ エ ー ゾ レ 丘 陵 で の ジ ョ ー ジ と ル ー シ ー の キ ス を ル ー シ ー の 母 親 、 弟 、 結 婚 相 手 に 打 ち 明 け る よ う に 忠 告 す る 手 紙 を ル ー シ ー に 送 っ た の で あ る 。 こ の 作 品 の 全 知 の 語 り 手 は 、﹁ ル ー シ ー は ひ ど く 腹 を た て た 14 ﹂ と 語 っ て か ら 、 ル ー シ ー は シ ャ ー ロ ッ ト に 送 っ た 手 紙 に 次 の よ う に 書 い た こ と を 読 者 に 紹 介 す る 。 ご 忠 告 あ り が と う ご ざ い ま す 。 エ マ ソ ン さ ん が 山 で 我 を 忘 れ た 時 、 あ な た は 私 に 母 に 話 さ な い よ う に 約 束 さ せ ま し た 。 あ な た は 母 が あ な た を 私 に い つ も 付 き 添 っ て い な か っ た こ と で 責 め る と 仰 っ た か ら で す 。 私 は 約 束 を 守 っ て き ま し た 。 だ か ら 、 私 は 今 に な っ て 母 に 話 す こ と な ど 絶 対 に で き ま せ ん 15 。 シ ャ ー ロ ッ ト の 手 紙 は ジ ョ ー ジ の サ マ ー ・ ス ト リ ー ト へ の 転 居 と い う ル ー シ ー と 読 者 に 対 し て 知 ら れ て い な か っ た 秘 密 を 暴 露 し て い る 。 ま た 、 ル ー シ ー と シ ャ ー ロ ッ ト の 往 復 書 簡 は 一 つ の 出 来 事 に 対 す る 異 な る 視 点 か ら の 意 見 で も あ る 。 し か し 、 ル ー シ ー の 立 場 か ら 考 え れ ば 、 前 言 を 覆 す シ ャ ー ロ ッ ト の 忠 告 に ル ー シ ー が 立 腹 し て こ の よ う な 返 信 の 手 紙 を 送 る の は 当 然 で あ ろ う 。 ル ー シ ー は 、 更 に 、 手 紙 の 封 筒 に 親 展 と 書 か れ 、 子 供 扱 い さ れ た こ と に も 立 腹 し 、 ル ー シ ー の 立 腹 ば か り 目 立 つ 返 信 の 手 紙 に な っ て い る 。 ル ー シ ー ば か り で は な く 読 者 が 、 す べ て の 事 実 が シ ャ ー ロ ッ ト の 手 紙 に は 書 か れ て い な か っ た こ と に 気 づ く の は 、 セ シ ル ・ ヴ ァ イ ス が ラ ヴ ィ ッ シ ュ の 小 説 を 朗 読 し 、 ジ ョ ー ジ と ル ー シ ー が ラ ヴ ィ ッ シ ュ の 小 説 の 主 人 公 に な っ て い る こ と に 気 づ い た 時 で あ る 。 シ ャ ー ロ ッ ト は ラ ヴ ィ ッ シ ュ に フ ィ エ ー ゾ レ 丘 陵 で の ジ ョ ー ジ と ル ー シ ー の キ ス を 話 し て し ま い 、 ラ ヴ ィ ッ シ ュ は フ ィ エ ー ゾ レ

(13)

一 二 丘 陵 で の ジ ョ ー ジ と ル ー シ ー の キ ス を 題 材 に 小 説 を 書 い た の で あ る 。 シ ャ ー ロ ッ ト の 手 紙 は 、 手 紙 の 読 み 手 と な る 登 場 人 物 と 読 者 に 対 し て 知 ら れ て い な か っ た 秘 密 を 暴 露 し 、 プ ロ ッ ト を 展 開 す る と い う 機 能 を 果 た し て い る 。 し か し 、 フ ォ ー ス タ ー は ル ー シ ー の 立 腹 に よ っ て 読 者 を 完 全 に 欺 い て い る 。 フ ォ ー ス タ ー は 、 ル ー シ ー の 立 腹 を 伝 え る 全 知 の 語 り 手 を 利 用 し 、 シ ャ ー ロ ッ ト の 企 み を 手 伝 わ せ て い る と 言 っ て 良 い で あ ろ う 。 フ ォ ー ス タ ー は 、﹃ 天 使 も 踏 む を 恐 れ る と こ ろ ﹄ の リ リ ア の 手 紙 の よ う に 、 シ ャ ー ロ ッ ト に す べ て の 事 実 を 手 紙 に 書 か せ な い こ と に よ っ て 、 手 紙 の 読 み 手 と な る 登 場 人 物 と 読 者 を 騙 し 、 ジ ョ ー ジ と ル ー シ ー の 結 婚 と い う 結 末 に プ ロ ッ ト を 向 か わ せ る 伏 線 を 作 品 に 埋 め 込 ん で い る 。 シ ャ ー ロ ッ ト か ら ル ー シ ー へ の 手 紙 は 、 露 見 を 心 配 す る 秘 密 に つ い て の 内 密 な 連 絡 で あ る ば か り で は な く 、 自 分 の 過 失 を 隠 す 策 略 の 手 段 で も あ る と 言 え よ う 。 フ ォ ー ス タ ー は 、﹃ 眺 め の い い 部 屋 ﹄ に お い て は 、﹃ 天 使 も 踏 む を 恐 れ る と こ ろ ﹄ と ﹃ 最 も 長 い 旅 ﹄ で 用 い た 手 紙 の 使 用 方 を 再 び 用 い て い る だ け で は な く 、 露 見 を 心 配 す る 秘 密 に つ い て の 内 密 な 連 絡 の 手 紙 と い う 使 用 方 も 用 い 始 め て い る 。             4 ﹃ ハ ワ ー ズ ・ エ ン ド ﹄ に お け る 手 紙 は ど う だ ろ う か 。 こ の 作 品 は ロ ン ド ン 郊 外 の ハ ワ ー ズ ・ エ ン ド に 滞 在 し て い る 妹 の ヘ レ ン ・ シ ュ レ ー ゲ ル か ら ロ ン ド ン 市 内 の ウ ィ ッ カ ム ・ プ レ イ ス に 残 っ て い る 姉 の マ ー ガ レ ッ ト ・ シ ュ レ ー ゲ ル に 送 る 三 通 の 手 紙 か ら 始 ま る 。 同 じ 手 紙 の 書 き 手 か ら 同 じ 手 紙 の 読 み 手 に 対 し て の 三 通 の 手 紙 が 手 紙 の 書 式 で 書 か れ た 文 面 で そ の ま ま 再 現 さ れ て い る こ の 作 品 の 第 一 章 に 注 目 し て み よ う 。 こ の 作 品 は ヘ レ ン か ら マ ー ガ レ ッ ト へ の 三 通 の 手 紙 で 始 ま る 。 ノ ー マ ン ・ ペ イ ジ が こ の 作 品 の 書 き 出 し を フ ォ ー ス タ ー の 他 の 作 品 の 書 き 出 し よ り も ド ラ マ テ ィ ッ ク で あ る と 指 摘 16 し て い る ば か り で は な く 、 マ イ ク ・ エ ド ワ ー ズ は リ チ ャ ー ド ソ ン の 書 簡 体 小 説 さ え も 想 起 さ せ る ヘ レ ン か ら マ ー ガ レ ッ ト へ の 三

(14)

E ・ M ・ フ ォ ー ス タ ー の 小 説 の 中 の 手 紙 一 三 通 の 手 紙 が プ ラ イ ベ ー ト な ト ー ン を 確 立 し て い る 点 に 注 目 17 し て い る 。 ヘ レ ン の 手 紙 は 、﹁ 別 の 船 ﹂︵ 一 九 五 八 年 執 筆 ・ 一 九 七 二 年 出 版 ︶ の ラ イ オ ネ ル ・ マ ー チ の 手 紙 の よ う に 、 単 な る 近 況 報 告 で は な い 。 ヘ レ ン の 手 紙 は マ ー ガ レ ッ ト と い う 特 定 の 手 紙 の 読 み 手 の み に 向 け ら れ た 空 間 を 作 り 出 し て い る 。 次 の よ う に 、 ヘ レ ン は 一 通 目 の 手 紙 で マ ー ガ レ ッ ト と 読 者 に ハ ワ ー ズ ・ エ ン ド を 紹 介 す る 。 こ こ は 私 た ち の 予 想 と は 違 っ て い る わ 。 こ こ は 、 古 く 、 小 さ く 、 赤 い 煉 瓦 造 り で 、 と て も 素 敵 な の 。 私 た ち は す で に ぎ ゅ う ぎ ゅ な の に 、 年 が 若 い ほ う の 息 子 の ポ ー ル が 明 日 到 着 し た ら 、 お 姉 様 は ど う な る と 思 う 。 玄 関 を 入 っ て 、 右 に 行 く と 、 食 堂 が あ り 、 左 に 行 く と 、 応 接 間 が あ り ま す 。 玄 関 自 体 が 実 際 に 一 つ の 部 屋 に な っ て い ま す 。 玄 関 の も う 一 つ の ド ア を 開 け る と 、 二 階 に 上 が る ト ン ネ ル み た い な 階 段 が あ り ま す 。 寝 室 が 三 つ 三 階 に 並 ん で い ま す 。 こ れ が 本 当 に こ の 家 の す べ て と 言 う わ け で は な い け れ ど も 、 気 が つ い た の は こ れ だ け よ 。 正 面 の 庭 か ら 見 上 げ る と 、 窓 が 九 つ 見 え る の 18 。 ハ ワ ー ズ ・ エ ン ド と い う 空 間 が 手 紙 の 書 き 手 で あ る ヘ レ ン の 視 点 か ら 手 紙 の 読 み 手 で あ る マ ー ガ レ ッ ト の 心 の 中 へ 入 り 込 ん で く る 。 マ ー ガ レ ッ ト と 読 者 は ヘ レ ン の 視 点 か ら ハ ワ ー ズ ・ エ ン ド を 体 験 す る の で あ る 。 し か し 、 一 通 目 の 手 紙 が 果 た し て い る 機 能 は こ れ だ け で は な い 。 ヘ レ ン は 、 ハ ワ ー ズ ・ エ ン ド と い う 家 の 詳 細 な 外 観 や 間 取 り だ け で は な く 、 ウ ィ ル コ ッ ク ス 家 の 人 々 の 様 子 も マ ー ガ レ ッ ト と 読 者 に 紹 介 す る 。 次 の よ う に 、ヘ レ ン が 手 紙 に 書 く ウ ィ ル コ ッ ク ス 家 の 人 々 は 、 ハ ワ ー ズ ・ エ ン ド を 持 参 の 財 産 と し て ヘ ン リ ー ・ ウ ィ ル コ ッ ク ス と 結 婚 し た ル ー ス ・ ウ ィ ル コ ッ ク ス を 除 き 、 く し ゃ み が 止 ま ら な い 。 し ば ら く し て 、 私 は 、 ク ロ ッ ケ ー の ボ ー ル の 音 を 聞 き 、 再 び 外 を 見 る と 、 チ ャ ー ル ズ ・ ウ ィ ル コ ッ ク ス が 練 習 し て

(15)

一 四 い ま し た 。 ウ ィ ル コ ッ ク ス 家 は ス ポ ー ツ に は 何 で も 熱 心 な ん で す 。 ま も な く 、 チ ャ ー ル ズ は 、 く し ゃ み を 始 め 、 練 習 を や め な け れ ば な り ま せ ん で し た 。 そ れ か ら 、 私 は ま た こ つ こ つ と い う 音 を 聞 き ま す 。 ウ ィ ル コ ッ ク ス さ ん が 練 習 し て い ま す 。 そ れ か ら 、 は く し ょ ん 、 は く し ょ ん で 、 ウ ィ ル コ ッ ク ス さ ん も 練 習 を や め な け れ ば な り ま せ ん 。そ れ か ら 、 イ ー ヴ ィ ー が 、 出 て き て 、 青 李 の 木 に 取 り 付 け た 機 械 で 何 か の 美 容 体 操 を し ま す 。 ウ ィ ル コ ッ ク ス 家 は 何 で も 利 用 し ま す 。 そ れ か ら 、 イ ー ヴ ィ ー も 、 は く し ょ ん と 言 い 、 家 の 中 に 入 り ま す 。 そ し て 、 最 後 に 、 ウ ィ ル コ ッ ク ス 夫 人 が 、 そ ろ り そ ろ り と 再 び 現 わ れ 、 今 で も 干 し 草 の 匂 い を 嗅 い だ り 、 花 を 眺 め た り し て い ま す 19 。 ヘ レ ン は ル ー ス を 除 い た ウ ィ ル コ ッ ク ス の 人 々 の く し ゃ み が 止 ま ら な い 理 由 を 何 も 説 明 し な い 。 読 者 は 通 常 ユ ー モ ラ ス な 場 面 と し て 読 み 飛 ば し て し ま う で あ ろ う 。 し か し 、 フ ォ ー ス タ ー の す べ て の 作 品 を 貫 く 主 題 が 人 間 に 影 響 を 与 え る ﹁ 土 地 の 霊 ﹂ や 対 立 す る 価 値 観 の 衝 突 と 考 え る な ら ば 、 人 間 が 場 所 を 変 え る の で は な く て 、 場 所 が 人 間 を 変 え 、 人 間 が 場 所 を 選 ぶ の で は な く て 、 場 所 が 人 間 を 選 ぶ ﹁ 土 地 の 霊 ﹂ が 活 動 し て い る 行 動 と し て 捉 え る こ と が で き る 。 す な わ ち 、 ル ー ス を 除 い た ウ ィ ル コ ッ ク ス の 人 々 の 止 ま ら な い く し ゃ み は ﹁ 土 地 の 霊 ﹂ に 嫌 わ れ た 人 間 が ハ ワ ー ズ ・ エ ン ド か ら 出 て い く よ う に 促 さ れ て い る 暗 示 と し て 解 釈 す る こ と が で き る 。 フ ォ ー ス タ ー は 手 紙 に 主 題 の 暗 示 と い う 機 能 を 与 え て い る の で あ る 。 精 神 文 化 の 価 値 を 認 め ら れ ず 、 物 質 文 化 の 価 値 し か 認 め ら れ な い ウ ィ ル コ ッ ク ス 家 の 人 々 は 誰 も ハ ワ ー ズ ・ エ ン ド を 相 続 で き ず 、 精 神 文 化 と 物 質 文 化 の 両 方 の 価 値 を 認 め ら れ る マ ー ガ レ ッ ト が ル ー ス の 遺 言 通 り に ハ ワ ー ズ ・ エ ン ド を 相 続 す る 結 末 ま で 作 品 を 読 み 終 え た 読 者 は 手 紙 に 与 え ら れ て い た 暗 示 と い う 機 能 に 気 づ く で あ ろ う 。 ハ ワ ー ズ ・ エ ン ド は 、 ふ さ わ し く な い 居 住 者 を 追 い 払 い 、 ふ さ わ し い 居 住 者 を 捜 し 求 め て い る 空 間 と し て 描 か れ て い る の で あ る 。 フ ォ ー ス タ ー は 二 通 目 の 手 紙 に お い て も 主 題 を 暗 示 し て い

(16)

E ・ M ・ フ ォ ー ス タ ー の 小 説 の 中 の 手 紙 一 五 る 。 ヘ レ ン は 、二 通 目 の 手 紙 で﹁ 私 は ウ ィ ル コ ッ ク ス 家 の 人 々 は み ん な 好 き 20 ﹂ と 書 き な が ら も 、﹁ ウ ィ ル コ ッ ク ス さ ん は 婦 人 参 政 権 に つ い て ひ ど く 不 快 な こ と を と て も 見 事 に 言 っ て い る わ 。 そ し て 、 私 が 男 女 平 等 を 信 じ て い る と 言 う と 、 ウ ィ ル コ ッ ク ス さ ん は 、 た だ 腕 を 組 み 、 私 が 受 け た こ と も な い ほ ど の 非 難 を 私 に し た わ 21 ﹂ と も 書 い て い る 。 物 質 文 化 の 価 値 し か 認 め な い 差 別 主 義 者 の ヘ ン リ ー と 精 神 文 化 の 価 値 し か 認 め な い 平 等 主 義 者 の ヘ レ ン の 衝 突 は す で に 始 ま っ て い た の で あ る 。 ヘ ン リ ー と ヘ レ ン は ﹃ ハ ワ ー ズ ・ エ ン ド ﹄ を 通 し て 衝 突 を 繰 り 返 し て い く 。 一 通 目 の 手 紙 が 人 間 に 影 響 を 与 え る ﹁ 土 地 の 霊 ﹂と い う フ ォ ー ス タ ー の 主 題 を 暗 示 し て い る と す れ ば 、 二 通 目 の 手 紙 は 対 立 す る 価 値 観 の 衝 突 と い う フ ォ ー ス タ ー の 主 題 を 暗 示 し て い る の で あ る 。 フ ォ ー ス タ ー は こ の 手 紙 に も 暗 示 と い う 機 能 を 与 え て い る 。 ヘ レ ン が ﹁ お 姉 様 は 何 と 仰 る か わ か ら な い け れ ど 、 私 は 水 曜 日 に こ こ に 来 た ば か り の 年 が 若 い ほ う の 息 子 の ポ ー ル と 愛 し 合 っ て い ま す 22 ﹂ と だ け 書 い た 三 通 目 の 手 紙 は 、 マ ー ガ レ ッ ト と 読 者 に 衝 撃 を 与 え 、 プ ロ ッ ト を 展 開 さ せ る 機 能 を 果 た し て い る 。 こ の 作 品 の 第 二 章 は 三 通 目 の 手 紙 を め ぐ る ウ ィ ッ カ ム ・ プ レ イ ス の シ ュ レ ー ゲ ル 家 の 対 応 で あ る 。 し か し 、 ポ ー ル と ヘ レ ン の 恋 愛 は 対 立 す る 価 値 観 の 結 合 の 努 力 も 暗 示 し て も い て 、 フ ォ ー ス タ ー は こ の 手 紙 に も 暗 示 と い う 機 能 を 与 え て い る 。 こ の よ う に 、 フ ォ ー ス タ ー は 、 こ の 作 品 に お い て は 、 手 紙 の 暗 示 と い う 機 能 を 強 調 し 、 プ ロ ッ ト の 展 開 を 予 告 さ え し て い る の で あ る 。 第 一 章 の へ レ ン か ら マ ー ガ レ ッ ト へ の 三 通 の 手 紙 は 、 単 に 事 務 的 に 用 件 を 連 絡 す る 文 書 で は な く 、 暗 示 や 予 告 と い う 機 能 を 果 た し て い る 手 紙 で あ る 。 そ れ で は 、 こ の 作 品 の 他 の 手 紙 は ど う で あ ろ う か 。 例 え ば 、 第 二 八 章 に お け る 仕 事 を 紹 介 で き な い と い う マ ー ガ レ ッ ト か ら レ ナ ー ド ・ バ ス ト へ の 手 紙 や 第 三 四 章 に お け る 叔 母 ジ ュ リ ー ・ マ ン ト の 病 気 を 心 配 す る ミ ュ ン ヘ ン の ヘ レ ン か ら マ ー ガ レ ッ ト へ の 国 際 郵 便 が あ る 。 し か し 、 い ず れ の 手 紙 も 事 務 的 に 用 件 を 連 絡 す る 文 書 に 過 ぎ な い 。

(17)

一 六 ま た 、 こ の 作 品 に も ﹃ 天 使 も 踏 む を 恐 れ る と こ ろ ﹄ や ﹃ 最 も 長 い 旅 ﹄に 用 い ら れ て い る 電 報 が 用 い ら れ て い る 。 し か し 、 第 二 章 お い て 、 ジ ュ リ ー が ポ ー ル と ヘ レ ン の 恋 愛 が 結 婚 に 至 る の か を 確 か め る た め に ハ ワ ー ズ ・ エ ン ド に 出 発 し て し ま っ て か ら 、 ポ ー ル と ヘ レ ン の 恋 愛 が 終 わ っ た と い う 電 報 が 届 く 間 に 合 わ な か っ た 電 報 と い う 出 来 事 は 、 電 報 が 作 品 の 小 道 具 と し て 用 い ら れ な が ら も 、 シ ェ イ ク ス ピ ア の ﹃ ロ ミ オ と ジ ュ リ エ ッ ト ﹄ の 届 か な か っ た 手 紙 の パ ロ デ ィ に も な っ て お り 、 電 報 と い う 伝 達 手 段 の 限 界 さ え 仄 め か す も の に な っ て い る 。             5 ﹃ イ ン ド へ の 道 ﹄ に お け る 手 紙 は ど う だ ろ う か 。 こ の 作 品 の 手 紙 は 、 主 に 事 務 的 に 用 件 を 連 絡 す る 文 書 で あ り 、 手 紙 が 手 紙 の 書 式 で 書 か れ た 文 面 で そ の ま ま 再 現 さ れ る 方 法 は 用 い ら れ て い な い 。 例 え ば 、 第 二 章 の 食 事 中 の ア ジ ズ を 病 院 の 仕 事 に 呼 び 出 す カ レ ン ダ ー か ら ア ジ ズ へ の 手 紙 、 第 六 章 の テ ィ ー ・ パ ー テ ィ に 招 待 す る シ リ ル ・ フ ィ ー ル デ ィ ン グ か ら ア ジ ズ へ の 手 紙 、 第 二 八 章 の ム ア 夫 人 の 死 を 伝 え る メ ラ ン ピ ー 卿 夫 人 か ら の 手 紙 、 第 三 四 章 の フ ィ ー ル デ ィ ン グ の 結 婚 と マ ウ の 来 訪 を 伝 え る フ ィ ー ル デ ィ ン グ か ら ア ジ ズ へ の 二 通 の イ ギ リ ス か ら 植 民 地 の イ ン ド へ の 手 紙 が あ る 。 ま た 、 電 報 も 同 様 に 事 務 的 で あ る 。 第 二 一 章 の ア ジ ズ の 弁 護 を 依 頼 す る ア ム リ ト ラ オ へ の 電 報 と ア ジ ズ の 弁 護 を 受 諾 す る す る ア ム リ ト ラ オ か ら の 電 報 や 第 二 八 章 の ム ア 夫 人 の 死 を 伝 え る メ ラ ン ピ ー 卿 夫 人 か ら の 電 報 が あ る 。 い ず れ も 事 務 的 に 用 件 を 連 絡 す る 文 書 で あ る 。 唯 一 例 外 的 に ア デ ラ ・ ク ェ ス テ ッ ド が 第 二 九 章 で ア ジ ズ に 書 く 謝 罪 の 手 紙 が あ る が 、 ア デ ラ は こ の 謝 罪 の 手 紙 が 満 足 の い く よ う に 書 け ず 、 ア デ ラ の 謝 罪 の 手 紙 の 文 面 や 内 容 は 示 さ れ て い な い 。 リ ッ キ ー が ﹃ 最 も 長 い 旅 ﹄ の 第 十 九 章 に お い て ア ン セ ル に 送 る 手 紙 が 満 足 の い く よ う に 書 け な か っ た よ う に 、 登 場 人 物 が 満 足 の い く よ う に 書 け な か っ た 手 紙 は 登 場 人 物 の 苦 悩 を 表 現 し て い る こ と は 明 ら か で あ る 。 ア デ ラ は フ ィ ー ル デ ィ ン グ か ら ア ジ ズ や イ ン ド 人 全 体 へ の 愛 情 の 欠

(18)

E ・ M ・ フ ォ ー ス タ ー の 小 説 の 中 の 手 紙 一 七 如 を 指 摘 さ れ 、 ア デ ラ の 謝 罪 は 象 徴 的 な 行 為 と な っ て い る 点 だ け が 注 意 を 惹 く 。 ま た 、 電 話 が ﹃ イ ン ド へ の 道 ﹄ に 描 か れ て い る 虚 構 の 世 界 に は 存 在 し て い る 。 こ の よ う に 、 フ ォ ー ス タ ー は 、 こ の 作 品 に お い て は 、 電 報 や 電 話 と い う 新 し い 伝 達 手 段 を 作 品 に 用 い 、 手 紙 に は あ ま り 大 き な 役 割 を 演 じ さ せ て い な い 。             6 ﹃ モ ー リ ス ﹄ に お け る 手 紙 は ど う だ ろ う か 。 こ の 作 品 に お い て 注 目 す る 手 紙 は ア ル ゼ ン チ ン に 渡 航 す る 前 に モ ー リ ス ・ ホ ー ル と 再 び 同 性 愛 の 肉 体 関 係 を 持 つ こ と を 望 む ア レ ッ ク ・ ス カ ダ ー か ら の 二 通 の 手 紙 で あ る 。 嘆 願 書 か ら 脅 迫 状 に 変 貌 し て い く ア レ ッ ク の 手 紙 が 手 紙 の 書 式 で 書 か れ た 文 面 で そ の ま ま 再 現 さ れ て い る こ の 作 品 の 第 四 〇 章 と 第 四 二 章 に 注 目 し て み よ う 。 第 四 〇 章 に お け る ア レ ッ ク か ら モ ー リ ス へ の 嘆 願 書 は 次 の よ う な 文 面 で あ る 。 親 愛 な る モ ー リ ス 様 、 私 は 二 晩 ボ ー ト ・ ハ ウ ス で 待 っ て い ま し た 。 梯 子 は 運 び 去 ら れ 、 森 は 横 に な る に は 湿 っ て い る の で 、 私 は ボ ー ト ・ ハ ウ ス と 言 い ま し た 。 だ か ら 、 ど う か 、 明 日 の 夜 か そ の 次 の 夜 に ﹁ ボ ー ト ・ ハ ウ ス ﹂ に 来 て く だ さ い 。 他 の 紳 士 の 方 々 に は 散 歩 を し た い と い う ふ り を し て く だ さ い 。 簡 単 に な ん と か な る で し ょ う 。 そ れ か ら 、 ボ ー ト ・ ハ ウ ス に 降 り て 来 て く だ さ い 。 親 愛 な る モ ー リ ス 様 、 無 理 な こ と お 願 い す る の で な け れ ば 、 祖 国 イ ギ リ ス を 出 発 す る 前 に 、 私 に も う 一 度 あ な た 様 と 分 か ち あ わ せ て も ら い た い の で す 。 私 は 、 鍵 を 持 っ て い て 、 あ な た 様 を 中 に 入 れ て 差 し 上 げ ま す 。 私 は 八 月 二 九 日 に ノ ル マ ニ ア 号 で サ ウ サ ン プ ト ン か ら 出 発 し ま す 23 。 ア レ ッ ク は 、 ア ル ゼ ン チ ン に 渡 航 す る 前 に 、 モ ー リ ス が 宿 泊 し て い る ク ラ イ ヴ ・ ダ ラ ム の 邸 宅 ペ ン ジ の モ ー リ ス の 部 屋 で 一 度 同 性 愛 の 肉 体 関 係 を 持 っ た モ ー リ ス に ク ラ イ ヴ の 邸 宅

(19)

一 八 ペ ン ジ の 敷 地 の 中 に あ る ボ ー ト ・ ハ ウ ス で も う 一 度 肉 体 関 係 を 求 め て き た の で あ る 。 こ の 手 紙 は ﹁ 戻 っ て く だ さ い 。 今 夜 ボ ー ト ・ ハ ウ ス で 待 っ て い ま す 。 ペ ン ジ に て 、 ア レ ッ ク 24 ﹂ と い う 電 報 に 続 い て モ ー リ ス に 届 い た も の で あ り 、 こ の 作 品 に お い て も 急 用 の 連 絡 に は 電 報 が 用 い ら れ て い る 。 従 っ て 、 こ の 嘆 願 書 は 電 報 の 内 容 の 説 明 と 確 認 で あ る 。 同 性 愛 が 犯 罪 で あ っ た 当 事 の イ ギ リ ス に お い て は 、 証 券 会 社 の 経 営 者 で あ る 中 産 階 級 の モ ー リ ス と 上 流 階 級 の 邸 宅 の 使 用 人 で あ る 労 働 者 階 級 の ア レ ッ ク の 法 律 と 階 級 を 超 越 し た 同 性 愛 は 、 露 見 し た な ら ば 、 法 律 的 に も 社 会 的 に も 処 罰 さ れ る こ と が 免 れ な い 関 係 で あ る 。 フ ォ ー ス タ ー は こ の 作 品 に お い て 露 見 を 心 配 す る 秘 密 に つ い て の 内 密 な 連 絡 の 手 紙 を 再 び 用 い て い る 。 こ の 手 紙 の 使 用 法 は ﹃ 眺 め の い い 部 屋 ﹄ で 用 い た も の で あ る が 、 こ の 手 紙 が 誰 か に 読 ま れ て も 言 い 訳 の で き る よ う な 婉 曲 的 な 言 葉 遣 い で 書 か れ て い る こ と は 注 目 す べ き 点 で あ ろ う 。 ま た 、 ア レ ッ ク が 乗 船 す る 船 や 船 が 出 港 す る 港 や 日 時 が す で に 決 定 し て い る と い う 事 実 は ア レ ッ ク が 差 し 迫 っ た 状 況 に あ る こ と を 読 者 に も 感 じ さ せ る 。 そ の よ う な ア レ ッ ク の 状 況 や ア レ ッ ク を 避 け 続 け る モ ー リ ス の 行 動 が ア レ ッ ク か ら モ ー リ ス へ の 手 紙 を 次 の よ う な 脅 迫 状 に 変 貌 さ せ て い く の で あ る 。 あ な た 様 は 、﹁ ア レ ッ ク 、 君 は い い 奴 だ ﹂ と 仰 い ま し た が 、 手 紙 を く だ さ い ま せ ん 。 私 は あ な た 様 と ダ ラ ム 様 の こ と に つ い て 知 っ て お り ま す 。﹁ 私 を モ ー リ ス と 呼 ん で く れ ﹂ と 言 っ て か ら 、 私 を こ ん な に 不 当 に 扱 う の は ど う し て で す か 。 ホ ー ル 様 、 私 は 火 曜 日 に ロ ン ド ン に 参 り ま す 。 家 に 来 て も ら い た く な い な ら ば 、 ロ ン ド ン で の 場 所 を 言 っ て く だ さ い 。 私 に 会 っ た ほ う が い い で す よ 。 会 っ て く れ な い と た だ じ ゃ 済 み ま せ ん か ら ね 25 。 ア レ ッ ク か ら 電 報 を も ら っ た 時 に す で に 憤 慨 と 恐 怖 を 感 じ て い た モ ー リ ス は 、﹁ 火 曜 日 の 午 後 五 時 に 大 英 博 物 館 の 入 り 口 で 会 お う 26 ﹂ と い う 返 信 の 手 紙 を ア レ ッ ク に 送 り 、 ア レ ッ ク の 恐 喝 に 屈 す る こ と に な る 。フ ォ ー ス タ ー は 、﹃ イ ン ド へ の 道 ﹄

(20)

E ・ M ・ フ ォ ー ス タ ー の 小 説 の 中 の 手 紙 一 九 よ り 執 筆 年 の 古 い ﹃ モ ー リ ス ﹄ に お い て も 、 登 場 人 物 に 電 話 を 頻 繁 に 使 用 さ せ て い る 。 モ ー リ ス が 証 券 会 社 を 経 営 し て い る と い う 設 定 な の で 、 仕 事 の た め に 電 話 の 頻 繁 な 使 用 は 当 然 か も し れ な い が 、 モ ー リ ス は 催 眠 術 を 用 い た 治 療 法 で モ ー リ ス の 同 性 愛 を 治 そ う と す る 精 神 病 の 専 門 医 ラ ス カ ー ・ ジ ョ ー ン ズ へ の 予 約 も 電 話 で 行 っ て い る 。 し か し 、 モ ー リ ス は ア レ ッ ク と 電 話 で 法 律 的 に も 社 会 的 に も 処 罰 さ れ る こ と が 免 れ な い 同 性 愛 の 話 を す る わ け に は い か な い 。 従 っ て 、ア レ ッ ク は 、 露 見 を 心 配 す る 秘 密 に つ い て の 内 密 な 連 絡 の 手 紙 を モ ー リ ス に 送 り 続 け 、 状 況 の 切 迫 に よ っ て 電 報 を モ ー リ ス に 送 り 続 け る の で あ る 。ア レ ッ ク は モ ー リ ス を 恐 喝 す る つ も り な ど な く 、 ア レ ッ ク か ら モ ー リ ス へ の 二 通 目 の 手 紙 は モ ー リ ス と 同 性 愛 の 肉 体 関 係 を も う 一 度 持 つ た め の ア レ ッ ク の 策 略 の 手 段 で あ る が 、 フ ォ ー ス タ ー は こ の 作 品 に お い て 策 略 の 手 段 と し て 手 紙 に 目 的 を 達 成 す る た め の 嘆 願 と 脅 迫 と い う 内 容 を 与 え て い る 。こ れ ら の ア レ ッ ク の 手 紙 は 、﹃ 天 使 も 踏 む を 恐 れ る と こ ろ ﹄ の 第 四 章 で ジ ー ノ と 結 婚 し た リ リ ア が キ ン グ ク ロ フ ト 氏 に 送 ろ う と し て 届 か な か っ た モ ン テ リ ア ー ノ か ら の 救 出 を 求 め る 手 紙 や ﹃ 最 も 長 い 旅 ﹄ の 第 二 二 章 で ソ ー ス ト ン ・ ス ク ー ル で い じ め を 受 け て い た ヴ ァ ー デ ン が 同 情 を 求 め て 多 く の 人 々 に 送 っ た 手 紙 と 同 様 に 、 現 在 の 状 況 か ら 救 い 出 し て も ら う こ と を 求 め る 悲 鳴 で も あ る 。             7 フ ォ ー ス タ ー が 未 来 世 界 を 空 想 し た サ イ エ ン ス ・ フ ィ ク シ ョ ン の 短 編 小 説 ﹁ 機 械 が 止 ま る ﹂ に お い て は 、 人 類 は 、 地 球 の 反 対 側 に 居 住 し て い る 人 間 と さ え も テ レ ビ 電 話 で 通 話 を し 、 孤 絶 の ス イ ッ チ を 押 さ な い 限 り 、 不 特 定 多 数 の 人 間 か ら の 通 話 を 拒 否 で き な い 世 界 に 生 き て い る 。 ロ ッ ジ が 注 目 し て い る テ レ ビ 電 話 27 は こ の 作 品 の 虚 構 の 世 界 で は 一 般 的 に 普 及 し て い る 。 飛 行 船 、 地 下 鉄 、 エ レ ベ ー タ ー 、 エ ア コ ン 、 多 少 は 予 想 の 外 れ た も の も あ る が 、 フ ォ ー ス タ ー は 未 来 を 予 知 し て い た よ う で あ る 。 し か し 、 こ の 作 品 に お い て 、 息 子 の ク ー ノ

(21)

二 〇 ー が 地 球 の 反 対 側 に 住 ん で い る 母 親 の ヴ ァ シ ュ テ ィ に 望 む こ と は 、意 外 に も 、直 接 会 っ て 話 を す る こ と で あ る 。 手 紙 は 、﹁ 気 送 郵 便 28 ﹂ と い う 詳 細 不 明 な も の と し て 残 っ て い る が 、 も は や 補 助 的 な 伝 達 手 段 で し か な い よ う で あ る 。 人 間 が 一 人 ず つ 自 分 の 部 屋 に 隔 離 さ れ て 生 活 し て い る フ ォ ー ス タ ー の 未 来 社 会 に お い て は 、 個 人 情 報 の 漏 洩 は あ り そ う も な く 、 露 見 を 心 配 す る 秘 密 に つ い て の 内 密 な 連 絡 に 気 を 遣 う 必 要 も な く な っ て い る 。 そ の よ う な 世 界 な ら ば 、 事 務 的 に 用 件 を 連 絡 す る 文 書 と し て の 手 紙 と い う 伝 達 手 段 は 必 要 が な く な っ て い る か も し れ な い 。 し か し 、 小 論 が 取 り 上 げ た 手 紙 は 事 務 的 に 用 件 を 連 絡 す る 文 書 と し て の 手 紙 で は な い 。 登 場 人 物 は 、 フ ォ ー ス タ ー の こ の 作 品 以 外 の 作 品 で は 、 目 的 を 達 成 す る た め に 、 手 紙 の 中 に 、 時 に は 知 っ て い る こ と を す べ て 書 か ず 、 時 に は 秘 密 を 暴 露 し 、 時 に は 意 見 を 主 張 し 、 時 に は 嘆 願 や 恐 喝 と い う 策 略 の 手 段 に 手 紙 を 用 い る の で あ る 。 そ の よ う な 手 紙 が 描 き 出 す も の は 文 字 の 後 に 隠 さ れ た 登 場 人 物 の 心 理 や 作 者 の 意 図 で あ る 。 手 紙 の 書 き 手 は 、 手 紙 の 文 面 の 中 で は 実 現 で き な い こ と は な く 、 手 紙 の 中 に 別 世 界 さ え 作 り 出 せ る 全 知 の 語 り 手 で あ る 。 フ ォ ー ス タ ー は 、 用 件 を 連 絡 す る 文 書 と し て で は な い 手 紙 を 小 説 の 中 に 用 い 、 語 り 手 の 視 点 を 移 動 し 、 メ タ ・ フ ィ ク シ ョ ン さ え 可 能 に す る 重 層 的 な ナ レ ー シ ョ ン に よ る 世 界 を 作 品 の 中 に 作 り 出 し て い る 。 こ の よ う な 手 紙 の 使 用 法 は も ち ろ ん フ ォ ー ス タ ー 独 自 の も の で は な い が 、 フ ォ ー ス タ ー も 作 品 の 内 容 を 豊 か に す る た め に 手 紙 に こ の よ う な 工 夫 を し て い る の で あ る 。 ︵ 1︶ D av id L od ge , T he A rt o f F icti on (H arm on dsw ort h: P en gu in B oo ks, 19 92 ), p .23 . ︵ 2︶ E. M . F ors ter , W he re An ge ls Fe ar to T rea d, A bin ge r E dit io n 1 (L on do n: E dw ard A rn old , 1 97 5), p.7 . ︵ 3︶ Ib id., p.1 0. ︵ 4︶ Ib id., p.1 1. ︵ 5︶ Ib id., p.6 3.

(22)

E ・ M ・ フ ォ ー ス タ ー の 小 説 の 中 の 手 紙 二 一 ︵ 6︶ E. M . F ors ter , T he L on ge st Jo urn ey , A bin ge r E dit ion 2 (L on do n: Ed w ard A rn old , 1 98 4), p.8 1. ︵ 7︶ Ib id., p.8 2. ︵ 8︶ Ib id. ︵ 9︶ Ib id. ︵ 10︶ Ib id., p.8 3. ︵ 11︶ Ib id., p.8 4. ︵ 12︶ E . M . F ors ter , A R oo m w ith a V iew , A bin ge r E dit ion 3 (L on do n: Ed w ard A rn old , 1 97 7), p.2 07 . ︵ 13︶ Ib id., p.1 19 . ︵ 14︶ Ib id., p.1 20 . ︵ 15︶ Ib id. ︵ 16︶ N or m an P ag e, E . M . F or ste r, M od ern N ov eli sts (L on do n: M ac m illa n, 1 98 7), p.8 0. ︵ 17︶ M ike E dw ard s, E . M . F ors ter : T he N ov els (B asi ng sto ke : P alg rav e, 20 02 ), p p.1 8-1 9. ︵ 18︶ E . M . F ors ter, H ow ard s E nd , A bin ge r E dit ion 4 (L on do n: Ed w ard A rn old , 1 97 3), p.1 . ︵ 19︶ Ib id., p.2 . ︵ 20︶ Ib id., p.3 . ︵ 21︶ Ib id. ︵ 22︶ Ib id. ︵ 23︶ E . M . F or ste r, M au ric e, A bin ge r E dit io n 5 (L on do n: A nd re D eu tsc h, 1 99 9), pp .17 9-1 80 . ︵ 24︶ Ib id., p.1 79 . ︵ 25︶ Ib id., p.1 87 . ︵ 26︶ Ib id., p.1 88 . ︵ 27︶ L od ge , p .17 0. ︵ 28︶ E . M . F ors ter , “ Th e M ac hin e S to ps ” i n T he M ac hin e S top s a nd O th er Sto rie s, A bin ge r E dit io n 7 (L on do n: A nd re D eu tsc h, 19 97 ), p.8 8.

参照

関連したドキュメント

[r]

特許権は,権利発生要件として行政庁(特許庁)の審査が必要不可欠であ

今回のわが国の臓器移植法制定の国会論議をふるかぎり,只,脳死体から

これに対し,わが国における会社法規部の歴史は,社内弁護士抜きの歴史

2保険約款の制定・改廃は,主務大臣の認可をえて定められるもので

成人刑事手続で要請されるものを少年手続にも適用し,認めていこうとす

ずして保険契約を解約する権利を有する。 ただし,

かかる人々こそ妊娠を中絶して健康を回復すべきである。第2に,この条項