原 著 〔東女医大誌 第62巻 第3号頁198∼205平成4年3月〕
脊髄加齢変化の組織学的・定量的検討
東京女子医科大学 脳神経センター イケ ザワ 池 沢 神経内科学教室(主任 丸山勝一教授) ミチ コ道 子
(受付 平成3年11月9日) Morphometric Analysis of Histologic Changes to tlle Spinal Cord with Age Michiko IKEZAWA Department of Neurology(Director:Prof. Shoichi MARUYAMA), Neurological Institute, Tokyo Women’s Medical College Amorphometrical study was conducted on 308 spinal cord specimens covering a wide range of age to observe age−related histological changes. The cross−sectional area of the spinal cord measured at various levels sh6wed marked increases up to 5 years(at the white matter in particular and more prominently at the anterior and lateral columns during the first year of life>. It reached a maximum around 10 years and declined after 70 years. At the thoracic lgvel(ST), where the cross・sectional area was smaUest, axons of the lateral and posterior columns increased in number and surface area during the same period. The spinal cord cross section, and the number and surface area of axons, showed positive correlations with body height, heart weight, and aortic diameter. The axonal density was negatively correlated with age at the ST posterior column in the first 5 years. In the posterior column at ST, the number and area of axons has a negative correlation with the ages over 5 and 10years. No correlation was found between age・related spinal cord changes and arteriosclerotic changes of other organs. The axonal density decreased at the ST lateral column in diabetes mell童tus’and cerebral infarction. In bra量n tumor, the area of axons increased at the ST Iateral column;and in malignant tumor, the area of the posterior column increased at the ST and LL(the lumbar leve1, where the cross−sectional area was largest)and the axonal density was reduced at the posterior column。 These findings should be considered in pathological evaluat孟ons of the spinal cord. 緒 言 脊髄は,同じく中枢神経系に属する脳に比し, 成長や老化に関する詳細な検討に乏しい1).脳は, 生後,神経細胞の増殖と増大,軸索突起の形成お よび髄鞘の形成発達が急速に進むことにより2), その重量は著しく増加する.逆に老年期における 脳は主として神経細胞の減少によりその萎縮を招 く.脳の成長および老化の過程と脊髄のそれとの 対応関係については,必ずしも明らかにされてい ない..一方,脊髄の成長および老化は,脊髄を構 成する各部位で一様であるか否か,すなわち頚髄, 胸髄および腰髄などの異なる脊髄レベル,・灰白質 と白質,感覚系線維路と運動系線維路などのそれ ぞれにおいて成長および老化の変化はどのように 表現されるのか,更に白質内を走行する個々の有 髄線維の成長および老化に伴う変化は如何なるも のかなどの問題が指摘される.これらを明らかに することは,個々の剖検例における脊髄病変を組 織学的に評価する際の基礎的事項となるぽかりで なく,臨床上脊髄の画像診断においても大切な考 慮事項となる.そこで本研究では,多数の剖検例 から得た脊髄について,組織学的計測を行いその結果を統計的に処理することにより,脊髄の成長 および老化の様相を明らかにすることを目標とし た.また,年齢以外の因子,例えば栄養状態や疾 病の種類や程度など,上記の変化との相関を解析 し,脊髄の成長および老化に影響を及ぼす因子を 明らかにすることを試みた. 対象および方法 昭和55∼60年までの剖検例から(表1)全長に 渡って採取した脊髄58例,第1胸髄以下のみの脊 髄250例,計308例を用いた.これらの脊髄を約30 mm間隔ごとに横断し,20%ホルマリンに4日間 固定後パラフィンに包埋した.これらから厚さ7 μmの横断切片を作製し,Masson一野口法, LFB, Bodianの各染色を施した。まず一定の脊髄レベ ルを決定するために,Masson一野口恥染色標本を 用いて,光学顕微鏡(千代田MT−B)に装着した 描画装置PD−8(千代田)で,各脊髄横断面の輪郭 を描写し,それらの面積を画像解析プログラム Cosmozone ISA(Nikon)を用いて計測した.次 に胸髄横断面のうち最小値を呈する胸髄横断レベ ル(ST)と腰髄および頚髄横断面において最大値 を呈する脊髄横断レベル(LしおよびしC)を選定 した.これらについて上記と同様の方法を用い, 全横断面,白質および灰白質の面積とそれらの比 率,白質の亜区分面積すなわち前角の内側縁の延 長線を境界と定義した前索と側索および後索の面 積を計測した(図1).さらにBodian染色標本を 用い,STの後索薄束と側索背内側部のそれぞれ において,自動画像解析機LA−500(PIAS社製) を用い軸索の密度および横断面積を計測した.計 測にあたっては,400倍に拡大した顕微鏡像をデジ タル画像に取り込み,これらをモニター画像を見 ながらできるだけ正確にデジタイザーで画像補正 を施し,個々の軸索の同定が可能と判断された断 面積1.25μm2以上の軸索のみを残し,他の成分を 消去した.また,これらの軸索密度と先に測定し た白質亜区分面積より軸索総数を算出した. また年齢,身長,体重,体表面積,栄養度,各 臓器重量:(心,大脳,脊髄),各大動脈径(上行, 下行,胸部,腹部),心筋線維横断面積,糖尿病, 脳出血,脳梗塞,脳腫瘍,悪性腫瘍等の疾患の有 無,4群に重度分類した血圧,血中脂質濃度,病 理所見より4群に分類した冠硬化度,腎硬化の病 理所見の有無等(表2)の事項と,上記のごとく 計測した脊髄の面積,軸索に関する結果について, 単相関分析を行い,相関係数の検定を有意水準 5%で行った.上記の単相関分析に際し,あらか じめ脊髄障害が明らかと思われた運動ニューロン 疾患,Leigh症候群, Fabry病,脊髄損傷の症例は, 除外した. o
目前索
㎜後索
園側索
図1 頚髄横断面積測定区域図 表1 症例 症例数 308(例) 年齢 一〇.3∼94(59.4±21.6)卓(歳) 表2 単相関マトリックスにおける諸事項 症例内訳 性別 男性 女性 195(例) 113 疾患 悪挫腫瘍 脳梗塞 糖尿病 脳出1血 脳腫瘍 その他 187 90 39 32 32 8 ()*内は平均値±標準偏差 年齢 死後時間 体格に関する事項 身長,体重,体表面積,栄養度 臓器に関する事項 心重量,大動脈径(上行,下行,胸部,腹部大動脈) 心筋線維横断面積,大脳重量,脊髄重量 動脈硬化に関する事項 冠硬化度,腎硬化,高血圧重症度,高脂血症重症度 疾患 糖尿病,脳出血,脳梗塞,脳腫瘍,悪性腫瘍 一199一結 果 1.脊髄横断面積 1)単相関マトリヅクス 各事項(表2)と脊髄横断面上間の単相関分析 の結果より,胸髄最小横断面積(S−ST),および腰 髄最:大横断面積(S−LL)は,それぞれ,体型因子 としての身長,体表面積,体重,大脳重量,心重 量および大動脈径と有意に正の相関を示した(相 関係数:S−STと各事項について;身長0.606,体 表面積0.540,体重0.444,大脳重量0.488,心重量 0.372,上行大動脈径0.256,下行大動脈径0.279, 胸部大動脈径0.274,腹部大動脈径0.243,S−Lしと 各事項について;身長0.611,体表面積0.570,体 重0.503,大脳重量0.471,心重量0、416,上行大動 脈径0.384,下行大動脈径0.384,胸部大動脈径 0.367,腹部大動脈径0.338;p〈0.05)(表3)。各 脊髄横断面積は,動脈硬化や各疾患では有意な相 関がほとんど得られなかったが,脳梗塞および悪 性腫瘍では正の相関を示した(p<0.05)(表3). 2)全横断面積 胸髄最:小島断面積(S−ST)および腰髄最:大横断 面積(S−LL)の両者は,類似の年齢変化を示し, 各々10歳まで有意に年齢と正の相関を示し(相関 係数:S−STO。8248, S−LLO,8257;p<0。05),70 歳以降年齢と負の相関を示した(相関係数:S− ST−0.2089;p<0.05, S−LL山0.1733;p〈 0.1).図はS−STの変化を示す(図2).これらの (mm2)50 胸 髄 全 横 断 面 積 40・ 30 20・ ロ りり り げサご
・∵爾茸山、
lo』』’ 争黶h 日0 図2 0 30 70 110 年齢(歳) 胸髄最小横断面積(S・ST)の加齢性変化 変動の仕方は,大脳重量の加齢性変動と酷似して いた. 3)白質および灰白質の横断面積と灰白質横断 面積対白質横断面積比 STにおける灰白質,白質の横断面積ともに, S−STおよびS−Lしの場合と同様の加齢性変化を 呈した.一方,灰白質横断面積/白質横断面積比は, 生後5歳まで有意に年齢と負の相関を示し(相関 係数:一〇.5447;p<0,05),以後年齢と相関を示 さなかった(図3). LC, Lしにおける灰白質および白質の横断面 積,およびそれらの比の加齢推移は,STの場合と 同様であった. 4)前・側・後索の横断面積変化 LC, STおよびLしのいずれのレベルにおいて も,前索,側索および後索それぞれの面積の加齢 表3 脊髄横断面積・軸索パラメーターと諸事項との相関 年 死 身 体 体 心 大 大 動 糖 脳 脳 悪鉾 窩重謀蟹盗尿梗腫膣
齢 間 長 重 覆 量 径 量 化 病 塞 瘍 瘍 脊髄横断面積 全面積 ○ × ○ ○ ○ ○ ○ ○ 、x × ○ × ○ 白質 ○ × ○ ○ ○ ○ ○ ○ × × ○ × ○ 後索 ○ × ○ ○ ○ ○ ○ O x × × × ○ 前索O x O O O O O O × × × × x
側索 0 × ○ ○ ○ ○ ○ ○ × × ○ × ○ 軸索パラメーター 密度 ● × ● ● ● ● ● × × ● ● × ● 総数 X X O O O O × ○ × × × × X 横断面積 × × ○ ○ ○ ○ × × × × × ○ × ○:正の相関,●:負の相関,×相関なし炭 白 質 横 断 面 導 く 白 質 横 断 面 琶 L50 1.00・
l l ・i
O・50“P1’「1 ’・∵計1’π
.・・.…∴・・※・縄輔鞠:.’・ 0.00 0 30 70 110 年齢(歳) 図3 胸髄最小横断面を呈する胸髄レベル(ST)にお ける(灰白質横断面積)/(白質横断面積)比の加齢性 変化 率 索 横 断 面 奮 ∠ 前 索 横 断 面 積 十 側 索 横 断 面 蓮 2.00 1.50・・ 1.00・ 0・50’ h・!二6∵’∵i警織輔雛駆・ 0.00 0 30 7G 110 年齢(歳) 図4 STにおける(後索横断面積/〈前索横断面積+ 側索横断面積〉)比の加齢性変化 性変化は類似し,これらは脊髄全横断面積の加齢 性変化と基本的には変わらなかった.また,前索 および側索横断面積の合計に対する後索横断面積 の比率は,STおよびLしの各々において,成長期 1歳まで減少し1歳から20歳にかけて増加し70歳 以後再び減少する傾向を示した.図4はSTにお ける変動を示す. 2.脊髄髄鞘 本研究において,方法の困難さから脊髄の髄鞘 についての計測は対象外としたが,定性的には以 下のような所見が得られた.すなわち,LFB染色 標本では,1歳未満の白質の染色性は弱く,特に 胎生期では中心灰白質と判別が困難であった.1 歳以上では,白質のいずれの部分においても,成 人の白質のLFBに対する染色性とほぼ同様の染 色態度を示した.一方,60歳以降,頚髄および上 部胸髄の後索薄束の淡明化がしぼしぼ認められ, これに比較し,これらの脊髄レベルでの後索襖状 束および腰髄後索の髄鞘は保存されていた.また, 60歳以降,いずれの脊髄レベルでも,前索および 側索の淡明化が目立つ例が増加した. 3。横断面積が最小であるレベルの胸髄横断面 (ST)での後索および側索における軸索の横断面 積,密度および総数 1)単相関マトリックス 表3に示す単相関マトリックス上,軸索に関す るパラメータ(軸索密度,軸索総数,軸索横断面 積)の中で,STでの側索および後索における軸索 密度のみが年齢と有意な負の相関を示した.また, このうち後索における軸索密度と年齢との相関係 数は0.524であり,側索における相関係数0.400よ りやや高かった.これらの軸索密度と相関を認め た年齢以外の事項では,身長,体表面積,体重, 心重量,大動脈径,疾患のうち糖尿病,脳梗塞, 悪性腫瘍が挙げられる(p〈0.05).このうち前5 者は,いずれの部位の軸索密度とも負の相関を示 した.また,糖尿病,脳梗塞は側索の軸索密度と, 悪性腫瘍は後索の軸索密度とのみそれぞれ負の相 関を示した.更に,後索および側索における軸索 総数,平均軸索横断面積および最大軸索横断面積 と,身長,体表面積,体重,心重量とは,正の相 関を示し(p〈0.05),脳重量は後索の軸索総数と のみ正の相関を示した(p<0.05).しかし,いず れの疾患も,後索または側索の軸索総数とは相関 を示さなかった.脳腫瘍は,側索の平均軸索横断 面積および最大軸索横断面積と正の相関を示した (p〈0.05). 2)後索および側索における軸索分布様式の加 齢性変化 図5は,STでの後索および側索において基本 的に認められる軸索分布の様式を6型に分類した ものである.すなわち,軸索径の細いもの細,太 いもの太,それらの混在するもの混と,軸索密度 の高いもの密,低いもの疎との組み合わせにより 分類した細密,細疎,太密,太疎,混密,混疎の 一201一舞欝践≒
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し むワ 「ご二 ・激サ・ III三密 W丁丁 V混密 VI混疎 40μm 図5 STの後索および側索における軸索分布様式 表4 胸髄後索における各軸索分布様式の年齢層別出 現頻度 1 ラ密 H ラ造 皿太密 IV セ疎 V混密 VI e疎 0∼1歳未満 1∼5歳未満 5∼20歳未満 20∼40歳未満 40∼60歳未満 60∼80歳未満 80歳以上 6型である.表4は,ST後索における今回計測し 得た各年齢層でのこれら軸索分布様式の出現頻度 を概観したものである.1歳未満では細密様式が 主体で77.8%を占めたが,5歳未満で太密へと移 行し,まず軸索径の増大が生じることが示された. 5歳以上となると軸索密度の減少を示す細疎,太 疎および混疎が加わり,種々のパターンがみられ た.ST側索においても同様の傾向がみられた. 3)軸索横断面積 図6は,0∼5歳,5∼20歳,20∼40歳,40∼60 歳,60∼80歳,80歳以上の各年代ごとのSTの後索 および側索の軸索横断面積についての分布ヒスト グラムを示したものである.後索の軸索横断面積 については,0∼5歳では4μm2未満の軸索が多 く,5歳以上の年代では,ヒストグラムのピーク が右方へ移動して4∼6μm2となった.60歳以上に おけるヒストグラムでは,大径の軸索が減少し, また2∼4μm2の軸索の割合も増加し,ヒストグラ 1: 20 後 索巨L賢・
02468101214iiL且』豊・
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) 20 02468101214L[[L讐
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024681012,416「82022 鴛 20 頻 度 露鷲 ) 20 20∼40歳 0246810121416182022 40∼60歳 繋 ⑳ 02468101214「6182022 60∼80歳 鴛 20 02468璽0121416162022[馬上 IL且』_L
ぱ ロリ る む ロ ロ ヒるぽ リユリ 軸索横断面積〔μm2} 軸索横断面積{μm2) 図6 STにおける軸索横断面積 ムのピークが再び左方へ移動した.側索の軸索横 断面積についてもほぼ同様の分布変動を示した. また,STの後索における平均軸索横断面積は,10歳まで年齢と正の相関を呈し(相関係数:
0.6785;p<0.05),以後は年齢と負の相関を示し た(相関係数:一〇.3016;p〈0.05)(図7).ST の側索における平均軸索横断面積の変化は,後索 におけるそれと類似したが,20歳まで年齢と正の(μm2)10.0 平 均 8.0・ 1。 軸 索6.0.. ・ 横 ・。 ・。 断 o 面4・0一 積 2.0・ 0.0
、∵‘
シ%嘗臨、
峯 .。iむ. 0 30 70 110 年齢(歳) 図7 STの後索における平均軸索横断面積の加齢性 変化 (/μm2)0.090 軸 : 蓬・.・6・.・ 0.030、 0.000 図8∵過二.評藩1∴
o o ・o’ 0 30 70 110 年齢(歳) STの後索における軸索密度の加齢性変化 ×了060.50 軸 索0.40・ 総 数0.30・ 0.20 … 0.10・ 0.00…∵ゴ.・11∴・p
,。・・…・.・∵含…『押置・㌔ ジ・ 0 30 70 110 年齢(歳) 図9 STの後索における軸索総数の加齢性変化 相関を示し(相関係数:0.8101;p<0.05),以後 は減少傾向を示した. 4)軸索密度 STの後索における軸索密度は,・5歳まで年齢 と負の相関を示し(相関係数:一〇.8166;p< 0.05),以後年齢と相関を示さなかった(図8). 側索においても同様の傾向が得られた. 5)軸索総数 STの後索および側索のそれぞれにおける軸索 総数は,5歳まで年齢と正の相関を示し(相関係 数:後索0.8751,側索0.7445;p<0.05),5歳以 後は後索でのみ年齢と負の相関を示した(相関係 数:一〇.2942;p〈0.05)(図9). 考 案 本研究では,脊髄横断面と脊髄内軸索の加齢に 伴う形態学的変化を定量的に検討した.以下,今 回得られた結果から,脊髄の成長と老化および 種々の疾患が脊髄に及ぼす影響について考察す る, 1.脊髄の成長 脊髄の量的な成長は10歳前後で完成し,大脳の 成長とほぼ並行すると判断された.生後しばらく 灰白・白質面積はともに増加するが,とくに5歳 までは白質面積の急速な増加が顕著である.この うち1歳までは運動系線維が走行する前・側索の 増加が主体で,以後は感覚系線維が主として存在 すると考えられる後索の増加が優位となってい た.1歳までの間に髄鞘の染色性が急速に増し, この間の白質の増加には髄鞘量の増加が大きく寄 与していることが示唆されるが,5歳までは軸索 数の増加が10歳までは軸索横断面積の増加が認め られ,これらの増加も白質面積の増加の一部に寄 与していると判断される.軸索分布様式は1歳か ら5歳の間に細密から山鼠に移行したが,この時 期に定量的には軸索横断面積の増加,軸索密度の 減少を認めた.定性的に軸索密度の変化が目立た なかった理由として,軸索横断面積の増加に伴い 軸索間の距離が減少したためと考えられた. 一方,成長に伴う脊髄の髄鞘の変化を定量的に 観察した報告はないが,ヒト末梢神経では14歳ま で髄鞘の厚さが増加すること鋤,ヒト末梢神経最 大伝導速度は5歳まで増加すること5),マウス脊 髄後根神経の髄鞘層数が生後90日まで増加するこ と6),大脳半球の髄鞘形成が生後数ヵ月間に急速 に進むこと7泣2),ヒトの脳脂質含量は!8歳頃が最: 高となること2)など,成長に伴う末梢神経および 脳における髄鞘の増加に関しては多くの報告があ る.パラフづン切片を用いた今回の方法で脊髄の 髄鞘量の計測は困難なため,これを明らかにする ためには,別に検討が必要である. また,脊髄の加齢性変化は,身長,体重,体表 一203一面積,心重量および大動脈径との間に相関が認め られたが,身長と体重のノモグラムにおける線分 角度から求めた栄養度とは相関が認められなかっ た.したがって,脊髄の成長は,体型を示す諸事 項,とりわけ相関係数の高さから,身長および循 環器系の発達との関連が大きいが,この関連性は, 栄養状態に基づくものではないと判断された. 2.脊髄の老化 脊髄横断面積は70歳頃より後索でより著明に減 少を示し,軸索総数は後索でのみ5歳以後減少を 示し,平均軸索横断面積は後索で10歳以後,側索 で20歳以後減少を示し,60歳以上でしぼしぼ頚髄 および上部胸髄の後索薄束の脱髄が認められたこ とから,脊髄の老化は後索で顕著であると判断さ れる.髄鞘の加齢による変化について,組織定量 的研究はみられないが,本研究における結果と同 様に,Bailey13)は,脊髄において最も早期に脱髄を 呈するのはGo11束であると報告している. 一方,60歳以上に紀いて,大門軸索の出現率の 減少と小径軸索の出現率の増加が観察され,この 理由として(加齢性に軸索総数の減少を認めるこ とから)大言軸索の脱落が推定された.藤沢らは 『ラットの頚髄∼仙髄の後索において,軸索萎縮を 生じた線維が若年より出現し加齢とともに増加す る』と報告しており14)15),大罪軸索出現率の減少, 小径軸索出現率の増加という結果には,軸索萎縮 が関与している可能性も考えられる. 脊髄横断面積と軸索変化からみた脊髄の老化と 冠硬化,腎硬化,高血圧,高脂血症といった動脈 硬化性変化との間には,一定の相関が認められな かった.萬年らは,全身の主要動脈の動脈硬化に 比較し脊髄動脈の硬化性変化は軽度で,脊髄の血 管性病変は老年者剖検例の約10%程度にしかみら れなかったとし16),また亀山は高血圧と後索,後根 の病変との間には有意な関係が認められな:かった ことを報告している17>.以上より脊髄の加齢性変 化には,動脈硬化性病変に伴う虚血による影響は 少ないと考えられた. 3.各疾患と脊髄の定量的変化 1)糖尿病 糖尿病性ニューロパチーでは,末梢神経の有髄 線維密度および数の減少が報告されているが,脊 髄の変化についての報告は少ない.今回,糖尿病 を有する場合,側索の軸索密度が減少することが 示された.その理由のひとつとして,糖尿病にし ぼしば脳梗塞が合併するため,二次的に糖尿病と 後述する脳梗塞の側索変化とが相関するように なった可能性が考慮されなけれぽならない. 2)脳梗塞 脳梗塞患者では胸髄側索における軸索密度の減 少がみられた.しかし軸索数の減少がみられない ことより,その理由は胸髄側索における間質の増 加が反映されているためと考えられる.また,側 索でのみ脊髄横断面積や軸索密度の変化を認めた 理由として,脳梗塞により運動ニューロンの細胞 体あるいは軸索近位部に障害が生じることで,側 索を下行するこれらの軸索遠位部に変化が及んで いるためと考えられた. 3)脳腫瘍 脳腫蕩を有する場合も,側索に変化が生じてい たが,脳梗塞の場合のように密度の低下はなく, 軸索の腫大が示唆された.その理由は不明である が,腫瘍の存在する場合は,慢性的頭蓋内圧二進 状態や腫瘍の直接浸潤,圧迫の影響が錐体路を走 行する軸索に加わり,軸索輸送の障害を惹起する 可能性が考えられ,脳梗塞と脳腫瘍とでは,病変 の性質の違いから運動ニューロンの下行性軸索に 及ぼす影響は異なる可能性がある. 4)悪性腫瘍 癌性ニューロパチーの病変として,脊髄後根, 後索の変性が生じることが古くから報告されてい る18).癌に伴うsubacute sensory neuropathyに おいて,腓腹神経における高度の高径有髄線維の 脱落と共に,後根神経節神経細胞,後根,後索の 著明な変性,脱落が報告されている19).今回検討し た例は,必ずしも臨床的にニューロパチーを合併 している症例ではなく,後索における軸索総数の 減少は認められていない.しかし,後索横断面積 の増加と霊域における軸索密度の低下とが認めら れ,臨床的にニューμパチーを合併しない多くの 例においても,組織学的には後索病変が存在する 可能性が考えられた.
結 語 1.脊髄の成長は,10歳前後で量的に最大に達す るが,5歳までは急速な白質優位の発育を示し, 特に1歳までは運動ニューロンの発育が顕著なこ とが推定される.脊髄白質の成長の少なくとも一 部は,軸索数と軸索横断面積の増加によるもので ある. 2.脊髄の成長は,体型を示す諸事項,特に,身 長と循環器系の発達に相関する. 3.脊髄の老化は,後索優位に認められ,70歳以 後に脊髄横断面積の減少が認められているが,5 歳頃より軸索総数の減少,10歳頃より軸索横断面 積の減少が認められる. 4.これらの脊髄の変化は,他臓器の動脈硬化性 変化と相関を示さない. 5.糖尿病,脳梗塞,脳腫瘍における脊髄の変化 は,側索に優位であるが,少なくとも,前二者と 後者とでは,異なる病態によると考えられる.ま た,悪性腫瘍では,後索の変化が認められ,臨床 的に明らかな癌性ニューロパチーが認められなく とも,組織学的に後索病変が高率に存在する可能 性がある. 稿を終えるに当り,ご指導,ご校閲を賜りました丸 山勝一教授に謹んで謝意を捧げるとともに,脊髄組織 標本を提供して頂き,多大なご指導,ご校閲を頂きま した病院病理学教室河上牧夫教授に深く感謝いたし ます.また直接ご教示頂きました山本健詞助手に心よ り感謝し,御礼申し上げます. 文 献 1)葛原茂樹:脊髄.Clin Neurosci 5:643−645,1987 2)小林 登,多田哲也,藪内百治:神経系の個体発 生.発達生化学,新小児医学大系13A,小児神経学 1,pp67−79,中山書店,東京(1981) 3)Schrδder JM, Bohl J, Brodda K:Changes of the ratio between myelin thickness and axon diameter in the human developing sural nerve. Acta Neuropathol 43:169−178,1978 4)Schrδder JM, BoM J, von Bardeleben U: Changes of the ratio between myelin thickness and axon diameter in human developing sural, femoral, ulnar, facia1, and trochlear nerves. Acta Neuropatho176:471−483,1988 5)Hakamada S, Kumagai T, Watanabe K et al: The conduction velocity of slower and the fastest fibers in infancy and childhood. J Neu− rol Neurosurg Psychiatry 45:851−853,1982 6)伏見滋子,東 靖人,調 輝男ほか:マウス末梢 神経発達における組織学的,形態学的研究.川崎 医会誌 14二530−538,1988 7)小林 登,多田哲也,藪内百治:胎児期・乳幼児 期の栄養と神経系の発達.新小児医学大系13A,小 児神経学1,pp95−108,中山書店,東京(1981) 8)Schade JP, van Groenigen WB:Structural organization of the hulnan cerebral cortex. Acta Anat 47:74−111,1961 9)Dekaban A:Neurology of Early Childhood. Williams&Wilkins, Baltimore(1970) 10)Conde C, Martinez M, Ba服abriga A:Some chem圭cal aspects of huπ}an brain deve】opment. 1.Neutral glycosphingolipids, sulfatides and sph三ngomyelin。 Pediatr Res 8:89,1974 11)Yusuf HKM, Dickerson JWT:The effect of growth and deveiopment on the phospholipids of the human brain. J Neurochem 28:783,1977 12)Svennerholm L, Vanier MT, Jungbjer B; Changes in fatty acid composition of human brain myelin lipids during maturation. J Neuro・ chem 30:1383,1978 13)Bailey AA:Changes with age in the spina正 cord. AMA Arch Neurol Psychiatry 70: 299−309, 1953 14)藤沢浩四郎:ニューロンの病理学.神経病理学 5:131−147, 1984 15)Fujisawa K, Shiraki H:Study of axonal dystrophy.1, Pathology of the neuropil of the graci丑e and the cuneate nuciei in aging and old rats:Astereological study. Neuropathol Appl Neurobio14:1−20,1978 16)豊倉康夫,萬年 徹:4)脊髄血管障害の病理.臨 床神経 7:424−431,1967 17)亀山正邦:老年者脊髄後索及び後根の病変に就 て.浴風園調査研究紀要 54:7−10,1971 18)BraiR R, Henson AR:Neurological syn− dromes associated with carcinoma。 Lancet 7054:971−974, 1958 19)山田淳夫,竹内博明,三木 均ほか:癌に伴う subacute sensory neuropathy−1剖検例の報告 と本邦報告例の検討一.臨床神経 30:86⑪一863, 1990 一205一