Title
(-)-Epigallocatechin gallate suppresses the growth of human
hepatocellular carcinoma cells by inhibiting activation of the
vascular endothelial growth factor-vascular endothelial growth
factor receptor axis( 内容の要旨(Summary) )
Author(s)
白上, 洋平
Report No.(Doctoral
Degree)
博士(医学) 甲第874号
Issue Date
2012-03-25
Type
博士論文
Version
none
URL
http://hdl.handle.net/20.500.12099/43041
※この資料の著作権は、各資料の著者・学協会・出版社等に帰属します。氏名(本籍) 学 位 の 種 類 学位授与番号 学位授与日付 学位授与要件 学位論文題目 審 査 委 員 白 上 洋 平(兵庫県) 博 士(医学) 甲第 874 号 平成 24 年 3 月 25 日 学位規則第4条第1項該当
(-)-Epigallocatechin gallate suppresses the growth of human hepatocellular carcinoma cells by inhibiting activation of the vascular endothelial growth factor-vascular endothelial growth factor receptor axis
(主査)教授 小 澤 修 (副査)教授 原 明 教授 伊 藤 善 規 論 文 内 容 の 要 旨 【背景と目的】 緑茶には,様々な悪性腫瘍に対する予防効果があることが,多くの疫学研究によって報告されている。緑 茶カテキンの発癌予防・抗腫瘍効果に関する代表的な機序としては,抗酸化作用,抗炎症作用,発癌刺激に 対する防御作用,アポトーシスの誘導作用等が挙げられるが,最近の研究で,緑茶カテキンの一つである (-)-Epigallocatechin gallate(EGCG)が,受容体型チロシンキナーゼ(RTK)ファミリーに属する epidermal growth factor receptor(EGFR),human epidermal growth factor receptor 2(HER2),HER3 の活性 や,炎症部位で誘導される COX-2 の発現を阻害することで,大腸癌細胞の増殖を抑制することが明らかにな ってきている。また,同じく RTK ファミリーに属する vascular endothelial growth factor receptor(VEGFR) は,肝細胞癌をはじめとする悪性腫瘍の血管新生おいて中心的役割を果たしており,EGFR や HER2 とともに, 抗癌剤の標的分子として注目されている。特に VEGF のモノクローナル抗体であるベバシズマブは,既に臨 床的に広く使用されており,大腸癌患者の予後改善に寄与している。今回我々は,EGCG が VEGF-VEGFR 系を 標的とすることで肝細胞癌に対し増殖抑制効果を発揮するか,細胞株および癌細胞移植ヌードマウスモデル を用いて検討した。 【対象と方法】 まずヒト肝癌細胞株 6 種(HLF,PLC/PRF/5,HepG2,HuH7,HLE,Hep3B)と,ヒト正常肝細胞株(Hc)に おける VEGFR2 とリン酸化型(活性化型)VEGFR2(p-VEGFR2)の蛋白発現量をウェスタンブロット法にて解 析した。次に,VEGFR2 および p-VEGFR2 蛋白を高発現する HuH7 細胞と,対照となる Hc 細胞を EGCG で処理し, 両者の細胞生存率を MTT assay を用いて比較した。また HuH7 細胞を様々な条件(時間・濃度)の EGCG にて 処理し,同剤が VEGFR2 と p-VEGFR2 の発現量を時間および濃度依存性に制御するか検討した。さらに EGCG が HuH7 細胞から産生される VEGF を抑制するか,EGCG で処理した HuH7 細胞の培養上清中の VEGF を ELISA 法にて測定し検討した。最後にヌードマウスの皮下に HuH7 細胞を移植し,EGCG 飲水投与(0.1%および 0.01%) が腫瘍片の増殖を抑制するか検討するとともに,摘出した腫瘍中の VEGF-VEGFR 系に関わる蛋白や遺伝子発 現について解析した。
【結果】
Hc 細胞と比較し,6 種類の肝癌細胞株全てにおいて VEGFR2 および p-VEGFR2 蛋白が過剰に発現しているこ とが確認された。また EGCG は Hc 細胞(IC50 = 84 g/ml)に対し,HuH7 細胞(IC50 = 25 g/ml)の細胞生
存率を有意に抑制することが認められた。HuH7 細胞における VEGFR2 と p-VEGFR2 蛋白発現量は,EGCG 処理 により時間および濃度依存的に有意に低下した。ELISA 法による VEGF の測定では,EGCG の濃度依存的に HuH7 細胞培養上清中の VEGF 量が減少した。ヌードマウス皮下の腫瘍片の増殖は,0.1%および 0.01%EGCG 投与 群ともに有意に抑制された。また対照群と比較し EGCG 投与群の腫瘍片において,VEGFR2 と p-VEGFR2 蛋白発 現の低下とその下流のシグナルである ERK および Akt 蛋白のリン酸化抑制,および抗アポトーシス作用を示 す Bcl-xL 蛋白の発現抑制が認められた。また EGCG 投与群の腫瘍片における VEGF mRNA の発現も,EGCG 非投 与群のそれと比較し有意に抑制されていた。
【考察】
緑茶カテキンは,発癌予防効果を含めた様々な生理活性作用を有することが広く知られている。我々は本 研究において,VEGF-VEGFR 系がヒト肝癌細胞株において活性化していることを明らかにするとともに,緑茶 カテキン EGCG が,VEGF-VEGFR 系とその下流に位置する ERK,Akt の活性を阻害し,アポトーシス効果を誘導 することで,ヒト肝癌細胞株 HuH7 細胞の増殖を有意に抑制することを,in vitroおよびin vivoにおいて 証明した。特に EGCG は,受容体(VEGFR2)の活性化(リン酸化)のみならず,リガンドである VEGF の腫瘍 細 胞 か ら の 産 生 ・ 分 泌 も 抑 制 し た こ と よ り , 同 剤 は 肝 癌 組 織 ・ 細 胞 に お い て 亢 進 し て い る autocrine/paracrine 機構を含めた VEGF-VEGFR 系を包括的に阻害する可能性が示唆された。さらに今回の研 究結果で注目すべき点は,in vivoにおいて低濃度(0.01%)の EGCG が,高濃度(0.1%)の投与と同程度 に腫瘍増殖を抑制したことである。今回用いた高濃度の EGCG 量は,ヒトが日常生活において摂取しうる緑 茶の量(1 日に 6 杯程度)に相当するため,さらに低い濃度での効果が示された今回の研究結果は,癌予防 の観点からも非常に重要と考えられた。 【結論】 緑茶カテキン EGCG が VEGF-VEGFR 系を標的とし,肝癌細胞の増殖を抑制したという今回の研究結果は,日 常生活において恒常的に摂取可能な緑茶を用いた肝発癌化学予防研究の新たな展開と考えられる。特に,血 管新生に関わる VEGF-VEGFR 系を阻害することは,肝細胞癌のみならずその他の腫瘍の発癌予防や増殖抑制 に繋がる可能性があるため,今回の我々の報告は,緑茶カテキンによる発癌予防の更なる可能性を示した大 変興味深い研究結果と考えられる。臨床的予備試験において,緑茶抽出物の補充投与が内視鏡的切除後の大 腸腺腫再発を有意に抑制することが報告されていることより,肝細胞癌についても緑茶関連物質の予防的投 与による発癌もしくは再発抑制に関する臨床試験を検討しうる段階である。緑茶カテキンの新規腫瘍細胞増 殖抑制効果を明らかにした我々の研究成果は,積極的な介入による予防医学も含めた包括的な肝細胞癌治療 戦略を構築していく上で,非常に意義深い研究結果であると考えられた。 論 文 審 査 の 結 果 の 要 旨 申請者 白上洋平は,緑茶カテキンが血管内皮細胞増殖因子およびその受容体を標的とし,肝細 胞癌の増殖を抑制することを明らかとした。本研究の成果は,肝細胞癌の治療のみならずその発癌 予防につながる新たな知見をもたらし,消化器病学の進歩に少なからず寄与するものと認める。 [主論文公表誌]
Yohei Shirakami, Masahito Shimizu, Seiji Adachi, Hiroyasu Sakai, Takayuki Nakagawa, Yoichi Yasuda, Hisashi Tsurumi, Yukihiko Hara and Hisataka Moriwaki: (-)-Epigallocatechin gallate suppresses the growth of human hepatocellular carcinoma cells by inhibiting activation of the vascular endothelial growth factor-vascular endothelial growth factor receptor axis.